以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1において使用される研磨装置を模式的に示す側面図である。図1を参照して、本実施の形態において使用される研磨装置は、たとえば50mmの直径を有するIII族窒化物材料よりなる基板10を研磨するためのものである。この研磨装置は、基板保持部1と、回転機構部2と、研磨具3と、研磨液供給部4と、軟質材料5と、軟質材料保持部6とを備えている。基板保持部1、研磨液供給部4、および軟質材料保持部6は、回転機構部2の上部に配置されている。
基板保持部1は、複数枚の基板10(図1では2枚の基板のみが示されている)を保持することが可能であり、加圧ヘッド1aとシャフト1bとを含んでいる。加圧ヘッド1aは、回転機構部2に対して基板10から荷重を加えることによって基板10の位置を固定することが可能である。シャフト1bは、環状の加圧ヘッド1aの上面の中心に接続されており、加圧ヘッド1aを回転させることが可能である。
回転機構部2は、固定盤2aとシャフト2bとを含んでいる。固定盤2aは、基板10の研磨に用いる研磨具3を載置するためのベースとして用いられる、回転可能な部材である。固定盤2aは、たとえばステンレスなどの金属よりなっている。シャフト2bは、固定盤2aの底面の中心に接続されており、固定盤2aを回転させることが可能である。
固定盤2aの上面には研磨具3が貼り付けられていてもよい。研磨具3はたとえばスズ合金などの金属材料よりなる定盤である。あるいは研磨具3は、たとえばポリウレタンなどの樹脂よりなる研磨パッドであってもよい。研磨具3には、上述した金属材料(定盤)からなっているか、樹脂(研磨パッド)からなっているかに関わらず、1μm以下の平均粒径を有する砥粒としてのダイヤモンドを含んでいてもよい。あるいは研磨具3の表面上にはダイヤモンド以外の砥粒としての材料を含んでいてもよい。なおここで砥粒の平均粒径とは、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法を用いて測定した場合における、小粒径側から大粒径側に向けて当該砥粒の体積を積算した累積体積が50%となる箇所における断面の直径の値を意味する。上述した測定方法とは具体的には、砥粒に照射したレーザ光の散乱光の散乱強度分布を解析することにより、粒子径を測定する方法である。
たとえば研磨具3が樹脂製の研磨パッドからなる場合には、図1に示すように研磨具3を固定盤2aの上面に接触するように貼り付けてもよい。しかしたとえば研磨具3が金属材料よりなる定盤である場合には、固定盤2aの上面から一定の深さ(図1の上下方向)に溝状領域を形成し、当該溝状領域の内部に研磨具3を嵌めるように配置してもよい。
また固定盤2aに形成した溝状領域に嵌めこむように配置する定盤としての研磨具3は、上述した金属材料からなるものに限られず他の種類の高硬度な材料、たとえばガラスやプラスチック材料からなるものであってもよい。
定盤もしくは研磨パッドが研磨具3として機能することにより、軟質材料5および基板10は当該研磨具3に含まれる砥粒によって研磨されうる。このように、硬度の高い金属材料やガラス材料などからなる定盤や、圧縮率が小さい硬質な樹脂材料からなる研磨パッドを研磨具3として基板10を研磨すれば、エッジロールオフが生じにくくなる。このため、基板10の平坦性を向上することができる。
さらに、研磨液供給部4は、その先端部から定盤や研磨パッドからなる研磨具3の上面へ研磨液を供給することが可能である。この研磨液供給部4から供給される研磨液はたとえばダイヤモンドの砥粒を含んでいることが好ましい。このようにすれば、当該研磨液により基板10の表面が研磨される。すなわち当該研磨液は上述した研磨具3と同様に、基板10を研磨する役割を有する。
軟質材料保持部6は、軟質材料5を保持することが可能であり、研磨具3(定盤や研磨パッド)に対して軟質材料5を押し付けるように軟質材料5から荷重を加えることによって、軟質材料5の位置を固定することが可能である。
基板10は、たとえばAlxGa1-xN(0≦x≦1)などのIII族窒化物材料よりなっており、特にGaNよりなっていることが好ましい。
続いて、本実施の形態における基板の研磨方法について説明する。
始めに、軟質材料5を準備する。軟質材料5としては、50≦Hv≦2800の範囲のビッカース硬度Hvを有しており、好ましくは100≦Hv≦1300の範囲のビッカース硬度Hvを有しているものを準備する。軟質材料が50以上、好ましくは100以上のビッカース硬度Hvを有することにより、基板と刃との間のクッション材として機能を軟質材料が発揮する。軟質材料が2800以下、好ましくは1300以下のビッカース硬度Hvを有することにより、軟質材料による基板の損傷を抑制することができる。ダイヤモンドのビッカース硬度Hvは2800を超えており、GaNからなる基板10のビッカース硬度Hvが1300である。このため上述したように、Hvが2800以下、より好ましくはHvが1300以下の軟質材料5を用いれば、より確実に基板10の損傷を抑制することができる。また、軟質材料5から研磨具3へ押し付ける圧力(つまり研磨具3から軟質材料5へ加わる荷重)や、研磨具3に接触する軟質材料5の表面積を過大にしなくても、十分な量の軟質材料5の削りカスが生じるようになる。
続いて、基板10を基板保持部1に取り付け、基板10の表面12(研磨面)が研磨具3の上面と対向するように基板10を配置する。そして、加圧ヘッド1aを下降させて基板10の位置を固定する。
基板10と同様に、軟質材料5を軟質材料保持部6に取り付け、軟質材料5の表面13が研磨具3の上面と対向するように軟質材料5を配置する。そして、軟質材料保持部6を下降させて軟質材料5の位置を固定する。軟質材料5を固定し、かつ軟質材料5を削るためには、軟質材料5から研磨具3へ0.2kPa以上、より好ましくは0.5kPa以上の圧力Pを加えることが好ましい。なお上記の圧力Pには軟質材料5の自重による圧力も含まれる。つまり軟質材料5の材質によっては、軟質材料5の自重による圧力のみで(改めて軟質材料5から研磨具3への圧力を加えなくても)よい場合もある。一方、軟質材料5の削りカスが過大に生じるのを防ぐためには、軟質材料5から研磨具3に対して50kPa以下、より好ましくは20kPa以下の圧力Pを加えることが好ましい。圧力Pが上記範囲となるように、軟質材料保持部6の位置や軟質材料5の密度が適切に選択される。軟質材料5から研磨具3へ圧力を加えることにより、軟質材料5が研磨具3に押し付けられて研磨具3の砥粒によって軟質材料5が削られ易くなり、軟質材料5の削りカスが生じ易くなる。
基板10および軟質材料5を固定した後で、研磨液供給部4から研磨液を研磨具3に供給しながら、固定盤2a、加圧ヘッド1a、および軟質材料保持部6を回転させる。これにより、軟質材料5とともに基板10の表面12が研磨される。軟質材料5は研磨具3の表面上に供給された砥粒によって削られ、軟質材料5の削りカスが生じる(つまり、軟質材料5がバルクから複数の粒子に変化する)。そして、この削りカスが研磨具3の砥粒に付着し、基板と砥粒との間のクッション材として機能する。
なお、基板10の研磨の際には、加圧ヘッド1aおよび軟質材料保持部6と、固定盤2aとを互いに逆方向に回転させてもよいし、同一方向に回転させてもよい。さらには、加圧ヘッド1aおよび軟質材料保持部6と固定盤2aとのうち一方を固定して他方を回転させてもよい。
また、基板10の研磨の際には、研磨液供給部4を通じて、研磨具3の上面に研磨液を供給してもよい。この研磨液は、研磨開始時には供給されず、研磨の途中から供給開始されてもよい。
研磨液には、基板10を研磨するための砥粒が含まれる。この砥粒としては、たとえばダイヤモンドなどのいわゆる硬質砥粒が用いられる。しかし当該研磨液には、上記硬質砥粒に加えて、硬質砥粒よりも硬度の低いいわゆる軟質砥粒を含んでいてもよい。ここではダイヤモンドなどの硬度の高い材質からなる砥粒を硬質砥粒、ダイヤモンドよりも比較的硬度の低い材質からなる砥粒を軟質砥粒と呼ぶことにする。
つまり、たとえば上述した軟質材料5と同じく50≦Hv≦2800の範囲のビッカース硬度Hvを有する軟質砥粒を含んでいてもよい。なお、当該軟質砥粒のビッカース硬度Hvは100≦Hv≦1300であることがより好ましい。これは上述した軟質材料5と同様に、ダイヤモンドのビッカース硬度Hvが2800を超えており、GaNからなる基板のビッカース硬度Hvが1300であることに基づく。具体的には、軟質砥粒として、SiO2、CeO2、TiO2、MgO、MnO2、Fe2O3、Fe3O4、NiO、ZnO、CoO2、Co3O4、CuO、Cu2O、GeO2、CaO、Ga2O3、Al2O3および上述したすべての材質の水和物またはIn2O3(および上記の水和物)などよりなる砥粒を含んでいてもよい。また研磨液は、上記軟質砥粒に加えて、または上記軟質砥粒の代わりに、たとえばIII族窒化物結晶よりも硬度の高い砥粒を含んでいてもよい。具体的には、ダイヤモンド、SiC、Si3N4、BN、Cr2O3、またはZrO2などよりなる砥粒を含んでいてもよい。
つまり、上述した50≦Hv≦2800の範囲のビッカース硬度Hvを有する軟質材料は、図1の軟質材料5が削られることにより、基板10と研磨具3との間に削りカスとして供給されてもよいし、研磨液供給部4から供給される研磨液の内部に当該軟質材料が含まれる態様としてもよい。
なお、研磨具3の表面上に存在する砥粒についても、上記研磨液の内部に含まれる砥粒についても、これが具体的にダイヤモンドからなる砥粒であるか否かに関わらず、当該砥粒の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。これにより、基板10の平坦性を向上することができる。さらに研磨液は、化学的作用によって基板10の研磨を促進させるような化学成分を含んでいてもよい。
ここで、砥粒の平均粒径の測定方法としては、たとえば上述したように、粒子に照射したレーザ光の散乱光の散乱強度分布を解析することにより、粒子径を測定する方法を用いることが好ましい。
以上の工程により、基板の研磨が完了する。なお、上述の研磨方法の実施後に、基板10の表面12をドライエッチングしてもよい。上述の研磨方法を機械研磨にて行なった場合、表面12には加工変質層が形成されている場合がある。表面12をドライエッチングすることにより、この加工変質層を除去することができる。
本実施の形態における基板の研磨方法は、III族窒化物材料よりなる基板10の研磨方法であって、以下の工程を備えている。50≦Hv≦2800の範囲のビッカース硬度Hvを有する軟質材料5を準備する。研磨具3を用いて軟質材料5とともに基板10を研磨する。
本実施の形態における基板の研磨方法によれば、研磨具3上の砥粒によって軟質材料5が削られ、軟質材料5の削りカスが生じる。そして、この削りカスが砥粒に付着し、基板10と砥粒との間のクッション材として機能する。軟質材料5が50以上のビッカース硬度Hvを有することにより、基板10と砥粒との間のクッション材として機能を軟質材料5が発揮する。軟質材料5が2800以下のビッカース硬度Hvを有することにより、軟質材料5による基板10の損傷を抑制することができる。その結果、研磨具3上の砥粒による基板10の表面荒れが抑制され、基板10の平坦性を向上することができる。
本実施の形態における基板の研磨方法によれば、特に従来の機械研磨と比較して、砥粒による基板の表面荒れが抑制され、基板の平坦性を向上することができる。また、SiO2などの低硬度の砥粒を用いる必要が無いので、迅速な研磨を行なうことができる。また、従来のCMPと比較して、研磨液の成分を微調整する必要がなく、迅速な研磨を行なうことができる。さらに、細かい砥粒を含む研磨液を用いる場合と比較して、砥粒が凝集して基板表面に部分的に深い傷を生じさせることが抑制され、基板の平坦性を向上することができる。
(実施の形態2)
図2および図3は、本発明の実施の形態2において使用される研磨装置を模式的に示す図である。図2は側面図であり、図3は回転機構部のガイドリング内部の底面図である。図2および図3を参照して、本実施の形態における研磨方法は、軟質材料を用いて基板の位置を固定する点において実施の形態1の研磨方法と異なっている。
基板保持部1の下部には複数のガイドリング14(図2には2つのガイドリングのみが示されている)が設けられている。ガイドリング14の各々は中空の円筒形状を有しており、円周形状の下面を有している。ガイドリング14の各々の下面には複数のスリット7が形成されている。研磨時にはガイドリング14が回転することによって、ガイドリング14内部へ流れ込む研磨液がスリット7によって妨げられ、ガイドリング14内部へ供給される研磨液の量が制御される。
ガイドリング14の各々の内部には、円盤状の軟質材料5と基板10とが配置されている。軟質材料5は円筒形状を有しており、軟質材料5の円形状の表面13には溝15が形成されている。溝15の内部には、プレートに貼り付けられた基板10が配置されている。これにより、軟質材料5が基板10の治具となり、研磨時において基板10の位置が軟質材料5を用いて固定される。
なお、上記以外の研磨装置の構成および研磨方法は、実施の形態1における研磨装置および研磨方法と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
本実施の形態における基板の研磨方法によれば、実施の形態1における基板の研磨方法と同様の効果を得ることができる。加えて、研磨時に基板10を固定するための冶具が不要になる。
(実施の形態3)
本実施の形態においては、実施の形態1または2に記載の方法で研磨された基板について説明する。
図4および図5は、本発明の実施の形態3における研磨後の基板を模式的に示す図である。図4は平面図であり、図5は図4のV−V線に沿う断面図である。図4および図5を参照して、実施の形態1または2に記載の方法で研磨された基板10の表面12は、算術平均粗さRaおよび最大高さRyの両方において優れている。基板10の表面12の算術平均粗さRaの値は、表面12上に形成されるエピタキシャル層の結晶性に影響を与え、基板10の表面12の最大高さRyの値は、表面12上に形成されるデバイスの歩留りに影響を与える。
具体的には、基板10の表面12は、86μm四方の面における算術平均粗さRaが0.1nm≦Ra≦3.0nmであり、かつ基板10の外周部を除いた全面(基板10の内部)における最大スクラッチ深さDが2nm≦D≦90nmである(最大高さRyの値はスクラッチ深さDの値に依存する)。ここで基板10の外周部とは、円盤状をなす基板の表面のうち、外縁部端面から中心に向かう径方向に関して、当該直径の10%以内の長さ分の領域を指す。また、基板10端部のロールオフ量が小さい。具体的には、表面12に平行な方向のロールオフ量dxが10μm≦dx≦500μmであり、好ましくは10μm≦dx≦50μmである。表面12に垂直な方向のロールオフ量dzが5nm≦dz≦2500nmであり、好ましくは5nm≦dz≦200nmである。
ここで、算術平均粗さRa、スクラッチ深さDおよびロールオフ量dx、dzは以下の方法で算出される。
始めに、二光束干渉光学系を使用して、基板10の表面12のエッジ部(外縁部から500μm程度)に光を照射し、得られる光の干渉像をCCD(Charge Coupled Device)カメラで撮影することによって、表面12の形状を測定する。次に、表面12の傾きを補正した後で、得られた表面12の形状に基づいて、表面12の算術平均粗さRaおよびスクラッチ深さDを測定する。スクラッチ深さDとは、基板10の外周部を除いた表面12全面において最も深いスクラッチ111の深さである。次に、測定された算術平均粗さRaに基づいて、算術平均粗さRaがRa≦5nmである領域を基板表面と特定し、Ra>5nmである領域を基板表面から除外する(本発明の基板の場合、表面12の全領域に亘ってRa≦5nmであるため、測定された全領域が基板表面と特定される)。次に、得られた表面12の形状に基づいて、基板表面と特定された領域におけるロールオフ量dx、dzを測定する。
なお、実施の形態1または2に記載の方法において機械研磨を採用した場合、研磨直後の基板10の表面12は、算術平均粗さRaが0.1nm≦Ra≦1.5nmであり、かつスクラッチ111の深さDが1nm≦D≦30nmとなる。しかし、機械研磨を施した場合、基板10の表面12には加工変質層が形成される。このため、機械研磨後にはドライエッチングによりこの加工変質層を除去する必要がある。通常、スクラッチ部分は他の部分に比べてエッチングされやすい性質を有しているので、ドライエッチングによってスクラッチ深さは増加することが多い。その結果、ドライエッチング後の基板10の表面12は、上述のように算術平均粗さRaが0.1nm≦Ra≦3.0nmとなり、かつスクラッチ深さDが2nm≦D≦90nmとなる。
一方、従来の機械研磨では本実施の形態のような算術平均粗さRaの範囲およびスクラッチ深さDの範囲の両方を得ることはできない。従来の機械研磨においてダイヤモンドなどの高硬度(ビッカース硬度Hv>2800)の砥粒を用いた場合、砥粒による基板の表面荒れが生じ、算術平均粗さRaの値が悪化する。また、従来の機械研磨において細かい砥粒を含む研磨液を用いて平坦性を向上(算術平均粗さRaの値を低減)しようとした場合、砥粒が凝集して基板表面に部分的に深い傷を生じさせ、スクラッチ深さDの値が悪化する。
また、従来のCMPでは本実施の形態のようなロールオフ量dx、dzの範囲を得ることはできない。従来のCMPでは圧縮率の大きい(軟質の)研磨パッドを用いて基板を研磨する。圧縮率の大きい研磨パッドを用いた場合、研磨時に基板表面のみならず基板側面にもパッドが接触し、基板側面まで研磨される。その結果、大きなエッジロールオフ部分112が生じ、ロールオフ量dx、dzの値が悪化する。
さらに、上述ように算術平均粗さRaに基づいて基板表面を特定してロールオフ量を算出することにより、研磨後に端部に面取りを施した基板であっても、本実施の形態の基板か否かを判別することができる。すなわち、基板の端部を面取りした場合、面取り部の算術平均粗さRaは10nm以上となり、5nm以下となることはない。従って、面取り部が基板表面から除外され、面取り部を除いた領域でロールオフ量を算出可能となる。また、面取りを施した場合には、面取り部と基板表面との間が連続した滑らかな曲面とはならない。
本実施例において、研磨の条件を様々に変化させて、GaN基板のサンプルを準備した。そして形成したGaN基板の算術平均粗さRa、スクラッチ深さDおよびロールオフ量dx、dzを、実施の形態3に記載の方法を用いて算出した。
まずサンプルの形成方法としては、図1に示す研磨装置を用いて基板10を異なる条件で研磨する。具体的には、以下の表1および表2の「条件系」の欄に示すように、定盤(金属材料)または研磨パッド(樹脂材料)からなる研磨具3(図1参照)の材質として、サンプルごとに、金属(スズ合金、銅)からなるもの、発泡が小さいポリウレタン(硬質研磨パッド)からなるもの、スウェード加工された樹脂(軟質研磨パッド。表中では「スウェード」)からなるものの3種類に変更したものを用意する。表1中の「研磨具3の材質」の欄において、上段には定盤であるか研磨パッドであるかを記しており、下段には各研磨具3の具体的な材質を記している。
また、上述した研磨具3としてポリウレタンまたはスウェードを用いた場合における材料の圧縮率を、サンプルごとに変化させている。なお、表1および表2に示すように、本実施例1で準備したサンプルはすべて、図1に示す固定盤2aに研磨具3をセット(定盤を固定盤2aに形成された溝内に嵌挿させるか、研磨パッドを貼り付ける)したものを用いて研磨したものである。
表1、表2に示すように、研磨液供給部4から供給される研磨液に、ダイヤモンドからなる砥粒を含んでいる。この砥粒の粒径は、サンプルごとに0.5μm、0.25μm、0.125μmと変化させている。なお、これらの粒径はすべて平均値である。また、軟質材料5のHv、および軟質材料5への圧力Pは表1、表2に示すようにサンプルごとに変化させている。なおサンプル11、サンプル12、サンプル13、サンプル18については、軟質材料5を用いていない。
以上のようにサンプルごとに条件(条件系)を変化させて研磨したGaN基板のサンプルの表面に対してドライエッチングを行ない加工変質層を除去した上で、各基板の、算術平均粗さRa、スクラッチ深さDおよびロールオフ量dx、dzを算出した。具体的には、二光束干渉光学系として非接触三次元段差測定計「マイクロマップ」(菱化システム製)を使用して、GaN基板表面から得られる光の干渉像をCCDカメラで撮影した。撮影の際には、二光束対物レンズの倍率を50倍とした。そして、撮影された画像に基づいてGaN基板表面の形状を測定した。測定されたGaN基板表面の形状を図6に示す。図6(a)は研磨具3としての金属製の定盤を用いて研磨したGaN基板表面であり、図6(b)は研磨具3としてのポリウレタン製の研磨パッドを用いて研磨したGaN基板表面である。
続いて、補正後のGaN基板表面の形状に基づいて、GaN基板表面の算術平均粗さRaおよびスクラッチ深さDを測定した。そして、測定された算術平均粗さRaに基づいて、基板表面を特定した。本実施例1では、測定された全領域が基板表面と特定された。次に、基板表面と特定された領域において、ロールオフ量dx、dzを測定した。
さらに、研磨を行なったGaN基板のエッジ部(表面の外周部)にチッピングが発生しているか否かの観察を併せて行なった。表1、表2において「○」は当該箇所にチッピングが発生していないことを、「×」は当該箇所にチッピングが発生していることを示す。より具体的には「×」は各条件のサンプル中、チッピングが発生したサンプルが10%以上の割合で発生したサンプルを示す。「○」は当該チッピングの発生した割合が上記10%に満たないサンプルを示す。また、「チッピング」とは、欠けなどの外観不良が形成された領域の寸法が本来あるべき外縁から0.3mm以上であるものを示す。また表1、表2に示す各サンプルの枚数はすべて異なるため、上記各表中の各データは各サンプルにおける測定値の平均値を示す。
表1、表2の「結果系(基板)」の欄に、各サンプルの各項目の測定値の平均値を示している。表1は、「条件系」の各項目において上述した本発明に係る好ましい条件を用いて研磨を行なった基板(サンプル)における結果を示している。これに対して表2は、「条件系」の各項目の少なくとも1つ以上の項目に対して本発明に係る好ましい条件以外の条件を用いて研磨を行なった基板(サンプル)における結果を示している。
表1については、サンプル01から09のいずれのサンプルにおいても、Hvが50≦Hv≦2800の範囲にある軟質材料5を用いて研磨している。この場合、形成された各基板の算術平均粗さRaは0.1nm≦Ra≦3.0nm、スクラッチ深さDは2nm≦D≦90nmである。また、形成された各基板の水平方向ロールオフ量(基板10に平行な方向を示す)dxは10μm≦dx≦500μmであり、垂直方向ロールオフ量dzは5nm≦dz≦2500nmである。また、エッジ部のチッピングに関してはいずれのサンプルも「○」となった。
以上のデータより、表1に示す「条件系」の各項目において上述した本発明に係る好ましい条件を用いて研磨を行なった基板(サンプル)は、その表面が平坦で良好な品質を有するものであることがわかる。
また、これらの各基板上に形成した、後述する実施例2(図8参照)に示すデバイス(発光素子)の歩留り(デバイス総合歩留り)は、表1においてはすべて70%以上であるのに対して、表2においてはすべて70%未満となった。このことは表1、表2の「結果系(デバイス)」の欄に示される。したがって、表1に示す平坦で良好な表面を有する基板を用いて形成する発光素子の歩留りが高くなるといえる。なお、ここで各サンプルに形成されたデバイスの歩留りの判断基準は以下のとおりである。たとえば光出力強度が20mW以上であれば当該デバイスは良品であると判断し、光出力強度が20mW未満であれば当該デバイスは不良品であると判断した。
上述したデバイス総合歩留りは、表1、表2に示す「デバイス歩留り(基板内部)(%)」と「デバイス歩留り(基板外周部)(%)」との総合歩留りである。具体的には、基板外周部のデバイス歩留りとは、上述したように、円盤状をなす基板の表面のうち、外縁部端面から中心に向かう径方向に関して、当該直径の10%以内の長さ分の領域である基板外周部に形成したデバイスの歩留りを示す。これに対して基板内部のデバイス歩留りとは、上記基板外周部以外の(中心側の)領域に形成したデバイスの歩留りを示す。たとえば基板の直径が50mmであれば、中心側の直径40mmの領域は「基板内部」、外縁部端面から5mm以内の領域は「基板外周部」としている。
なお、サンプル08のように研磨具3(研磨パッド)としてポリウレタンを用いたとしても、デバイス総合歩留りに大きく影響していない。しかしたとえばdxやdzの値が他のサンプルよりも大きくなっており、その結果基板外周部におけるデバイス歩留りが他のサンプルよりも低くなっている。このことから、研磨具3(金属製の定盤)としてはスズ合金を用いることがより好ましい。サンプル08におけるdxやdzのデータを除いた表1における他のサンプルのデータより、dxは10μm≦dx≦50μmであり、dzは5nm≦dz≦200nmであることがより好ましい。
また、軟質材料のHvが50であるサンプル02、同Hvが2800であるサンプル07は、デバイス総合歩留りが70%以上80%未満となっている。これに対して、上述したサンプル08およびサンプル02、サンプル07を除く各サンプルについては、いずれも形成したデバイスの総合歩留りが80%以上となっている。このことから、Hvの値は100≦Hv≦1300であることがより好ましいといえる。またサンプル02とサンプル07はスクラッチ深さDが大きくなっている。このためこれらを除外して、スクラッチ深さDが5nm≦D≦70nmである表面を有することがさらに好ましいといえる。
サンプル09は他のサンプルに比べて研磨液中のダイヤの砥粒の径を小さくしている。このようにすれば、他のサンプルに比べて算術平均粗さRaおよびスクラッチ深さDの値が小さくなっている。このようにRaの値が小さくなると、当該粗さとなるように表面を加工するのに長時間を要する。つまり加工の生産性が悪化することになる。具体的には、たとえばサンプル01を用いてGaN基板の表面を研磨した場合の平均研磨レートは1.5μm/hであったのに対し、サンプル09を用いてGaN基板の表面を研磨した場合の平均研磨レートは0.2μm/hとなった。このため、上述したように0.1nm≦Raであることが好ましいが、0.5nm≦Raであることがより好ましい。ただし、加工の生産性を考慮しなければ、Raが小さい、つまり表面がより平坦であることがより好ましい。したがって、上述したようにRa≦3.0nmであることが好ましいが、Ra≦2.0nmであることがより好ましい。このことから、研磨液中のダイヤの砥粒の径を小さくすれば、より平坦で高品質な基板表面が得られるといえる。
次に、比較データである表2に関して説明する。まずサンプル11、12、13、18については、軟質材料5を用いずに研磨している。これらのうちサンプル11は、スクラッチ深さDが180nmとなっており、好ましい範囲であるD≦90nmの2倍となっている。このように深いスクラッチが表面上に形成された基板を用いてデバイス(発光素子)を形成する場合、成膜を行なう前に基板に対して熱処理(サーマルアニール)を行なっても当該スクラッチを除去することが困難である。すなわち当該スクラッチが残った状態でデバイスを形成することになる。このことからデバイス総合歩留りが低下しているものと考えられる。
次にサンプル12は、研磨液中のダイヤの砥粒径を小さく(0.25μmに)している。この場合、算術平均深さRaはサンプル11よりも小さくなるが、スクラッチ深さDはサンプル11に比べて著しい変化が見られない。サンプル13は、サンプル12よりもさらに研磨液中のダイヤの砥粒径を小さく(0.125μmに)している。この場合、算術平均深さRaはサンプル12よりもさらに小さくなるが、スクラッチ深さDはサンプル11、12よりも大きくなっている。これは軟質材料5を用いずに研磨液中のダイヤの砥粒径を小さくすれば、砥粒が研磨具3の表面上で凝集するためである。また研磨具3にポリウレタンからなる研磨パッドを用いたサンプル18についても、サンプル13と同様にスクラッチ深さDが大きくなっている。その結果、デバイス総合歩留りが低くなっている。
サンプル14、15は、表1に示す各サンプルに対して、軟質材料5としてHvが好ましい範囲外のものを用いて研磨を行なったものである。この場合も特にスクラッチ深さDが大きくなっている。たとえばサンプル14のように軟質材料5のHvが小さすぎると、削られた軟質材料5がクッションとして十分に機能しない。またサンプル15のように軟質材料5のHvが大きすぎると、削られた軟質材料5が基板10の表面を傷つける可能性がある。このためスクラッチ深さDの値が好ましい範囲外となっていると考えられる。
サンプル16とサンプル19は、研磨具3の材質としてスズ合金の代わりにスウェード加工された樹脂(軟質研磨パッド)を用いている。この場合、特にサンプル16においてロールオフ量dxおよびdzが非常に大きくなっている。このため特に基板外周部におけるデバイス歩留りが非常に低くなっている。このためスウェードタイプの研磨具3を用いることは好ましくない。
スウェード加工された樹脂を用いて研磨液のダイヤの砥粒径を0.125μmと小さくしたサンプル19についても、スクラッチ深さDは小さくなるが、サンプル16と同様にロールオフ量dx、dzが大きい。このためサンプル16と同様に特に基板外周部におけるデバイス歩留りが非常に低くなっている。
研磨具3の材質としてスズ合金の代わりに、スズ合金よりも硬質である銅を用いたサンプル17は、基板のエッジ部にチッピングが発生した。このため、特に基板外周部におけるデバイス歩留りが非常に低くなっている。これは銅がスズ合金よりも硬質であるため、研磨された基板のロールオフが通常よりも非常に小さくなる(たとえばdx<10μm、dz<5nmとなる)。このため基板のエッジ部が直角に近い状態となるため、エッジチッピングが発生しやすくなるためである。
以上より、本発明に係る好ましい条件を用いて研磨を行なった基板(サンプル)は、その表面を平坦で高品質とすることができる。このため、当該基板に形成するデバイス(発光素子)の歩留りを向上することができるといえる。
上述した表1、表2の「結果系(デバイス)」の欄に示されるデバイス(発光素子)を、実施例1に示す各条件で研磨したGaN基板を用いて形成した。以下に詳細を説明する。
発光素子(発光ダイオード)を形成するために、まず図7に示す積層構造を形成した。具体的にはまずたとえば図1に示す(実施例1における各サンプルに相当する)基板10を準備した。これらの基板10は、表面を上記図1に示す研磨装置を用いて研磨している。その後、ドライエッチングを行ない基板10の表面に存在する加工変質層を除去した。
次にこれらの基板に対して熱洗浄(サーマルクリーニング)を行なった。具体的には、上記有機金属気相成長炉の内部に基板10を設置したまま、当該炉内の圧力を101kPaとなるように制御する。この状態で当該炉内の温度を1050℃にして10分間保持することにより、基板10の表面上に形成されたスクラッチを除去するなどのクリーニングを行なう。
熱処理が終わったところで、エピタキシャル成長により図7に示す積層構造を形成した。まず図7に示すn型AlGaN膜97を堆積した。具体的には、上記炉内にTMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、NH3、SiH4のガスを供給し、炉内を1050℃に加熱することにより、基板10上にn型AlGaN膜97を成長した。n型AlGaN膜97の膜厚は50nmである。n型AlGaN膜97を形成すれば、基板10の表面に存在する微視的なラフネスを除去し、当該表面をより平坦にすることができる。
次に、当該炉内の温度を1100℃に昇温し、図7に示すようにn型AlGaN膜97上にn型GaN膜95を2000nm堆積した。ここではTMGa、NH3、SiH4のガスを炉内に供給することによりn型GaN膜95を形成した。当該膜の形成速度は毎時4μmであった。当該n型GaN膜95は、発光素子を形成した際にクラッド層またはバッファ層として機能する領域である。n型GaN膜95の形成途中に炉内へのTMGaおよびSiH4の供給を停止し、炉内温度を800℃に低下した。そして再びTMGaおよびTMInを供給することにより、厚みが50nmのIn0.05Ga0.95N緩衝層(InGaN層93)を形成した。
次に図7に示す複数の薄膜層が積層された量子井戸構造91を形成した。量子井戸構造91はInGaN膜(InGaN井戸層)とGaN膜(GaN障壁層)とが交互に積層された構成からなる。ここでは量子井戸構造91を形成するために、まず炉内にTMGa、TMIn、NH3のガスを供給し、炉内の温度を800℃とすることにより、厚みが3nmで組成がIn0.14Ga0.86NであるInGaN井戸層を形成した。次に炉内にTMGa、NH3、SiH4のガスを供給し、炉内の温度を1100℃とすることにより、厚みが15nmのGaN障壁層を形成した。上記のInGaN井戸層とGaN障壁層とを交互に3層ずつ形成することにより、量子井戸構造91を形成した。
次に、図7に示すp型AlGaN膜89を形成した。具体的には、上記炉内にTMGa、TMAl、NH3、Cp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)のガスを供給し、炉内を1000℃に加熱することにより、p型AlGaN膜89を形成した。当該p型AlGaN膜89は、Mg(マグネシウム)がドーピングされている。そしてp型AlGaN膜89は、クラッド層または電子ブロック層として機能することができる。
最後にp型GaN膜87を形成した。これは具体的には当該炉内にTMGa、NH3、Cp2Mgのガスを供給することにより、p型GaN膜87を50nm形成した。このときの成膜温度は1000℃とした。当該p型GaN膜87はMgがドーピングされており、コンタクト層として機能する。
以上の手順により図7に示す積層構造が形成される。これに対してRIE(反応性イオンエッチング)により図8に示すように基板10の表面に沿った方向(図8の左右方向)に関する一部(外周側)の領域を除去する。具体的には、積層構造の深さ方向(図8の上下方向)に関するn型GaN膜95の一部、およびInGaN層93、量子井戸構造91、p型AlGaN膜89、p型GaN膜87を除去する。このようにして図8の断面図に示すメサ構造を形成する。当該メサ構造の深さは500nmとなるようにした。この後、p型GaN膜87の上にNiAu(金ニッケル)からなるp型透明電極70、Au(金)からなるp型パッド電極60、および基板10の裏面(図8の下側)にTiAl(チタンアルミニウム)からなるn型電極80を形成した。各電極を形成するに当たり、フォトリソグラフィ技術(感光剤の塗布、露光、現像)や超音波洗浄などを行なった。p型パッド電極60のサイズは400μm×400μmである。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。