JP5846080B2 - 耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材 - Google Patents
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また、平均粒径が5μm以下のフェライトと、マルテンサイトあるいは焼戻マルテンサイトを主体の組織とし、フェライトの平均面積率が20〜40%であることを特徴とする高強度PC鋼棒について、Ac3温度以上まで急速加熱を行い、減面率20%以上の加工を短時間で行い、Ar3以下Ar1以上の温度から焼入れして製造する方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
また、特許文献2や3に記載の製造方法では、低温圧延をするため圧延機の剛性を高くする必要があり、設備コスト的に高くなる課題があった。
このようなことから、従来製造されている中〜高炭素鋼材よりも、さらなる低コストで耐遅れ破壊特性に優れた中〜高炭素鋼材を得ることが望まれている。
特に、本発明では、中〜高炭素鋼材において、中心部と表層近傍領域それぞれにおける旧オーステナイト粒径を制御することにより、耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材を提供することを課題とする。
本発明は、得られた上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[2]さらに、質量%で、Ti:0.100%以下、B:0.0010〜0.0100%の一方または双方を含有し、TiとNの含有量が、Ti≧3.5Nを満足することを特徴とする上記[1]に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。
[3]さらに、質量%で、Mo:0.05〜1.00%、Cr:0.05〜1.50%、Ni:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。
[4]さらに、質量%で、Nb:0.010〜0.100%、V:0.05〜0.40%の一方又は双方を含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。
特に、本発明の耐水素脆化特性に優れた高強度鋼材によれば、プレストレストコンクリート柱や杭の高寿命化が図れ、自動車用懸架ばねの高強度化に伴う軽量化による燃費向上に寄与することができるため、産業上の貢献が極めて顕著である。
本発明者らは、引張強度が1400MPa以上の中〜高炭素鋼材の耐遅れ破壊特性に及ぼす各種因子について鋭意検討し、以下の知見を得た。即ち、
(i)鋼材表面に取扱疵や跳ね石などによるチッピングがあると著しく耐遅れ破壊特性が低下する。
(ii)旧オーステナイト粒を微細にすると耐水素脆化特性が向上する。
(iii)更に、表層の旧オーステナイト粒を長手方向に対して伸長化すると耐水素脆化特性が著しく改善する。
(iv)鋼の熱間圧延において、仕上げ圧延前の温度Tfが850℃≦Tf≦1000℃で表層を短時間急冷し、表層のみ650℃以上850℃以下にした状態で圧延することにより、圧延反力が高くならないまま表層組織が伸長したオーステナイト粒になり、更に中心部は再結晶により微細なオーステナイト粒を得ることができる。
本実施形態に係る耐水素脆化特性に優れた高強度鋼材は、質量%で、C:0.30〜0.80%、Si:0.05〜2.50%、Mn:0.10〜2.00%、Al:0.005%〜0.10%を含有し、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.0100%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、マルテンサイト組織分率が面積率で95%以上であり、直径をd(mm)とした場合、中心部からd/4(mm)の領域(以下、単に「中心部」ともいう)の旧オーステナイト粒径が20μm以下であり、表層〜1mm以内の領域の旧オーステナイト粒径が40μm以下でかつ長手方向と幅方向のアスペクト比が1.5以上であり、引張強度が1400MPa以上である。
まず、本実施形態に係る高強度鋼材における上記組成を限定して理由について詳細に説明する。
Cは高強度を得るために必要な元素であるため0.35%以上添加することが必要である。なお、より好ましくは、C量を0.40%以上とする。
一方、0.80%超のCを添加すると靭性が低下するため、C量を0.80%以下とする。また、Cを過剰に添加すると所望の強度を得るための焼戻し温度が上昇し、セメンタイト(θ)の生成量が増加し、高強度と高靭性の両立ができなくなることがあるので、上限を0.60%以下とすることが好ましい。
Siは鋼の強化やばねのへたり特性の向上に有効な元素である。0.05%未満であると強度向上に対する効果が少ないため、下限を0.05%以上とする。なお、好ましくは、1.00%以上である。
一方、2.50%を超えると、延性が低下し、遅れ破壊特性が低下する。また、懸架ばねの場合は冷間でのコイリング性を著しく低下させるため、上限を2.50%とした。なお、好ましくは、2.00%以下である。
Mnは焼入れ性の向上に有効な元素である。この効果を得るには、Mnを0.10%以上添加することが必要であるが、2.00%を超えて添加すると鋳造時の中心偏析を助長し、靭性が低下し、遅れ破壊特性が低下する。したがって、Mn量は0.10〜2.00%の範囲にする必要がある。なお、好ましくは、下限を0.50%、上限を1.50%とする。
<S:0.015%以下>
P及びSは不純物であり、特にPは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、靭性を低下させる元素である。P及びSの上限は、0.015%以下に制限する必要がある。また、P及びSは極力低減することが好ましく、好適な上限は0.010%以下である。
具体的には、質量%で、Ti:0.100%以下、B:0.0010〜0.0100%の一方または双方を含有し、N:0.0100%以下に制限し、TiとNの含有量が、Ti≧3.5Nを満足するよう制御することが好ましい。
Tiは鋼中のNと結合し、TiNを析出させてNを固定する元素であり、固溶N量の低減に寄与する。このように、Ti添加により固溶N量の低減を図ることにより、BNの生成が防止され、Bの焼入れ性向上効果が得られる。
鋼中のNを固定するには、Tiを3.5N以上添加することが好ましい。しかし、0.100%超のTiを添加しても効果が飽和するため、Ti量の上限は0.100%以下にすれば良い。また、TiN及びTi(CN)の粗大化による靭性の低下を抑制するには、Ti量の上限を0.040%以下とすることが好ましい。
Bは微量の添加で鋼の焼入れ性の向上に寄与する有効な元素であり、旧オーステナイト粒界に偏析して結晶粒界を強化し、靭性を向上する効果も有する。特に、Bは、本発明の範囲のC量、Si量を含有する鋼に添加した場合、更に靭性が向上する効果があるため0.0010%以上添加することが好ましい。一方、Bを0.0100%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.0100%以下とすることが好ましい。B量のより好適な範囲は0.0010〜0.0030%である。なお、Bの添加の効果を得るためには、固溶N量を低減させてBNの生成を防止することが好ましい。したがって、N量の制限と、Tiの添加は極めて有効である。
Nは不純物であり、0.0100%以下に制限することが好ましい。また、Nの含有量が少ないほどTiの添加量を少なくすることができ、生成するTiNの量も少なくなる。したがって、Nはできるだけ低減することが好ましく、好適な上限は0.0060%以下である。
Moは、焼入れ性向上の効果を得るために、0.05%以上添加することが好ましいが、1.00%超を添加すると合金添加コストが大きくなり経済性を損なうことがある。したがって、Moの含有量は0.05〜1.00%の範囲とすることが好ましく、より好適な範囲は0.10〜0.50%である。
Crは、焼入れ性向上の効果を得るために、0.05%以上添加することが好ましいが、1.50%超を添加すると靭性を損なうことがある。したがって、Crの含有量は0.05〜1.50%の範囲とすることが好ましく、より好適な範囲は0.10〜0.80%である。
Niは、焼入れ性向上の効果を得るために、0.05%以上添加することが好ましいが、1.00%超を添加すると合金添加コストが大きくなり経済性を損なうことがある。したがって、Niの含有量は0.05〜1.00%と範囲することが好ましく、より好適な範囲は0.10〜0.50%である。
Cuは、焼入れ性向上の効果を得るために、0.05%以上添加することが好ましいが、1.00%超を添加すると熱間延性が低下し、連続鋳造や熱間圧延時の割れ、キズなどの発生を助長し、鋼の製造性を損なうことがある。したがって、Cuの含有量は、0.05〜1.00%の範囲にすることが好ましく、好適な範囲は0.10〜0.50%である。
Alは、脱酸元素である。また、Alは、Nと化合してAlNとして析出する元素である。AlNは、高温度域でのオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果がある。しかしながら、鋼線材の延性の低下を抑制するAl含有量が0.005%未満では、上記効果を得ることができない。一方、Al含有量が0.10%超では、多量の硬質で変形能を有さないアルミナ系非金属介在物が形成されて、鋼線材の延性が低下する。したがって、Al含有量を0.005%〜0.10%とすることが好ましい。より好ましいAl含有量は、0.005%〜0.050%である。
Nbは、旧オーステナイト粒の微細化による靭性の向上の効果を得るために、0.010%以上添加することが好ましいが、0.100%を超えて添加してもその効果は飽和する。したがって、Nbの含有量は、0.010〜0.100%の範囲とすることが好ましく、より好適な範囲は0.015〜0.040%である。
Vは、旧オーステナイト粒の微細化による靭性の向上の効果を得るために、0.05%以上添加することが好ましいが、0.40%を超えて添加してもその効果は飽和する。したがって、Vの含有量は、0.05〜0.40%の範囲とすることが好ましく、より好適な範囲は0.10〜0.35%である。
本実施形態に係る高強度鋼材の組織は、マルテンサイト組織分率が95%以上であり、直径をd(mm)とした場合、中心部からd/4(mm)の領域の旧オーステナイト粒径が20μm以下であり、表層〜1mm以内の領域の旧オーステナイト粒径が40μm以下でかつ長手方向と幅方向のアスペクト比が1.5以上である。
マルテンサイトは、強度を得るために必須の組織である。本発明の場合には、面積率で95%以上のマルテンサイト組織とすることで優れた特性が得られる。すなわち、マルテンサイトの面積率が95%未満では、強度の上昇に寄与しない残留オーステナイト相等の未変態相や、炭化物等の析出物の量が多くなりすぎて、1400MPa以上の高強度化の達成は困難となる。
中心部の旧オーステナイト粒径が20μm以下であると延性が向上するとともに、優れた耐遅れ破壊特性を得ることができる。しかしながら、中心部の旧オーステナイト粒径が20μm超になると粒界面積が減少し、PやSなどの粒界偏析元素の濃度が高くなり、耐遅れ破壊特性が低下する。
また、表層から深さ1mm以内の領域の旧オーステナイト粒を40μm以下とし、かつアスペクト比が1.5以上である伸長粒とすると耐遅れ破壊特性が著しく改善する。しかしながら、この伸長粒の形成領域が表層から深さ1mmを超えると圧延時の圧延反力が大きくなり圧延形状の制御が難しくなりコスト的に不利となる。したがって、旧オーステナイト粒径は、中心部が20μm以下で、さらに表層から深さ1mm以下の領域においてはアスペクト比1.5以上かつ40μm以下と限定した。
まず図2に示す形状の遅れ破壊試験用の試験片1を用意し、水素を侵入(チャージ)させた。水素チャージは、電解水素チャージ法を用いて行い、チャージ電流を変化させることによって、水素レベル(侵入水素量)を変化させた。続いて、水素チャージした遅れ破壊試験片1の表面に、拡散性水素の逃散を防止するため、Cdめっきを施し、試験片1内部の水素濃度を均質化するため、室温で3時間放置した。
そして、図4に示すように、定荷重遅れ破壊試験を100時間以上行って破断しなかった試験片1の拡散性水素量の最大値を限界拡散性水素量とした。なお、試験片1の拡散性水素量は、図1に示すような、昇温法による水素分析の水素放出速度曲線より求めた。具体的には、遅れ破壊試験片1を100℃/hの昇温速度で昇温加熱し、室温から400℃までに放出された水素量の積算値を、ガスクロマトグラフにより測定することにより求めた。
なお、旧オーステナイト粒のアスペクト比を1.5以上にするには、20%以上の減面率とすることが好ましい。
仕上げ圧延後、直ちに水冷等で焼入れし、その後延性を確保するために350℃〜700℃で焼き戻しを行うことで、上記成分組成および鋼組織を有し、且つ引張強度が1400MPa以上を得ることが可能となる。引張強度が1400MPa未満では、高強度化による軽量化やコストメリットを得ることが困難となる。ばね成形が著しく困難となる。
上記製造方法は、本発明の一態様にすぎず、特に限定しない。つまり、仕上げ圧延前の温度もしくは加工処理前の再加熱温度を850℃以上にすることが重要であり、他の条件等については、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜決定してよい。
引張試験は、JIS Z 2241の試験方法に準拠して行い、遅れ破壊試験は、上述したように、図3に示す遅れ破壊試験機を用いて、試験片に引張強度の90%の引張荷重を負荷する定荷重遅れ破壊試験により行った。耐遅れ破壊特性の評価については、鋼材の限界拡散性水素量を測定し、1.00mass ppm以上を良好として評価した。
一方、製造No.17はC量、No.19はSiが本発明の範囲未満であるため、焼入れ性が低く強度が1400MPa未満である。製造No.18、20、21、22、23はそれぞれC量、Si量、Mn量、P量、S量が本発明の範囲を超えているので耐遅れ破壊特性が低い。製造No.24は仕上げ圧延前温度が低く、中心部が再結晶していないため、中心部旧オーステナイト粒径が大きく、耐遅れ破壊特性が低い例である。製造No.25は仕上げ圧延入り側の表層温度が高く、再結晶しているため、旧オーステナイト粒伸長化しておらず、アスペクト比が低いため、遅れ破壊特性が低い。製造No.26は仕上げ圧延の圧下率(減面率)が低いため、旧オーステナイト粒が旧オーステナイト粒伸長化しておらず、アスペクト比が低いため、遅れ破壊特性が低い。製造No.27は強度が不足している。これは焼入れ性が不十分であったと考えられ、焼入れ中に全てがマルテンサイトに変態せずにマルテンサイト分率が低くなり、フェライトやベイナイトが一部生成し、その結果、強度が低くなったと考えられる。
2 支点
3 バランスウェイト
4 治具
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.30〜0.80%、
Si:0.05〜2.50%、
Mn:0.10〜2.00%、
Al:0.005%〜0.10%
を含有し、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下、
N:0.0100%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
マルテンサイト組織分率が面積率で95%以上であり、
直径をd(mm)とした場合、中心部からd/4(mm)の領域の旧オーステナイト粒径が20μm以下であり、
表層〜1mm以内の領域の旧オーステナイト粒径が40μm以下でかつ長手方向と幅方向のアスペクト比が1.5以上であり、
引張強度が1400MPa以上であることを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。 - さらに、質量%で、
Ti:0.100%以下、
B:0.0010〜0.0100%
の一方又は双方を含有し、
TiとNの含有量が、
Ti≧3.5N
を満足することを特徴とする請求項1に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。 - さらに、質量%で、
Mo:0.05〜1.00%、
Cr:0.05〜1.50%、
Ni:0.05〜1.00%、
Cu:0.05〜1.00%、
のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。 - さらに、質量%で、
Nb:0.010〜0.100%、
V:0.05〜0.40%
の一方又は双方を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼材。
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