図1は自動変速機20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図であり、図2は変速機構26の構成の概略を示す構成図であり、図3は変速機構26の作動表を示す説明図である。
実施例の自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、クランク角センサ15からのクランク角などのエンジン12の運転状態に関するデータを入力してエンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16と、エンジン12のクランクシャフト14(図2参照)に接続されると共に左右の車輪19a,19bの車軸18a,18bに接続されてエンジン12からの動力を変速して車軸18a,18bに伝達する自動変速機20と、自動変速機20を制御すると共に自動車10が走行している路面の勾配を推定する実施例の路面勾配推定装置としても動作する変速機用電子制御ユニット(以下、ATECUという)29と、車両全体をコントロールするメイン用電子制御ユニット(以下、メインECUという)50と、を備える。なお、メインECU50は、シフトレバー51の操作位置を検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジションSPやアクセルペダル53の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル55の踏み込みを検出するブレーキスイッチ56からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ58からの車速Vなどが入力されている。実施例では、シフトレバー51のシフトポジションとして、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション)、後進走行用のリバースポジション(Rポジション)、中立のニュートラルポジション(Nポジション)、前進走行用の通常のドライブポジション(Dポジション)、アクセルオフ時にエンジンブレーキを作用させるローポジション(Lポジション)やセカンドポジション(2ポジション)などが用意されている。また、メインECU50は、エンジンECU16やATECU29と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU16やATECU29と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
自動変速機20は、図2に示すように、エンジン12からの動力を車軸18a,18bに伝達するトランスアクスル装置として構成されており、エンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側のポンプインペラ24aと出力側のタービンランナ24bとからなるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ24と、トルクコンバータ24のタービンランナ24bに接続された入力軸21と車軸18a,18bにギヤ機構27とデファレンシャルギヤ28とを介して接続された出力軸22とを有し入力軸21に入力された動力を変速して出力軸22に出力する有段の変速機構26と、変速機構26を駆動制御する油圧回路40(図1参照)と、を備える。
変速機構26は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構30とラビニヨ式の遊星歯車機構35と3つのクラッチC1,C2,C3と2つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1と、を備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構30は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31は自動変速機20のケースに固定されており、リングギヤ32は入力軸21に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構35は、外歯歯車の2つのサンギヤ36a,36bと、内歯歯車のリングギヤ37と、サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを備え、サンギヤ36aはクラッチC1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構30のキャリア34に接続され、サンギヤ36bはクラッチC3を介してキャリア34に接続されると共にブレーキB1を介して自動変速機20のケースに接続され、リングギヤ37は出力軸22に接続され、キャリア39はクラッチC2を介して入力軸21に接続されている。また、キャリア39は、ワンウェイクラッチF1を介して自動変速機20のケースに接続されてその回転が一方向に規制されると共にワンウェイクラッチF1に対して並列的に設けられたブレーキB2を介して自動変速機20のケースに接続されている。
変速機構26は、図3の作動表に示すように、クラッチC1〜C3の係合および解放ブレーキB1,B2の係合および解放により前進1速段〜6速段と後進段とニュートラルとを切り替えることができるようになっている。後進段は、クラッチC3とブレーキB2とを係合すると共にクラッチC1,C2とブレーキB1とを解放することにより形成することができる。また、前進1速段は、クラッチC1を係合すると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2とを解放することにより形成することができる。この前進1速段は、エンジンブレーキ時には、ブレーキB2が係合される。前進2速段は、クラッチC1とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC2,C3とブレーキB2とを解放することにより形成することができる。前進3速段は、クラッチC1,C3を係合すると共にクラッチC2とブレーキB1,B2とを解放することにより形成することができる。前進4速段は、クラッチC1,C2を係合すると共にクラッチC3とブレーキB1,B2とを解放することにより形成することができる。前進5速段は、クラッチC2,C3を係合すると共にクラッチC1とブレーキB1,B2とを解放することにより形成することができる。前進6速段は、クラッチC2とブレーキB1とを係合すると共にクラッチC1,C3とブレーキB2とを解放することにより形成することができる。また、ニュートラルは、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2をすべて解放することにより形成することができる。なお、前進1速段〜6速段と後進段のそれぞれにおける変速機構26の各回転要素の回転速度の関係を示す速度線図を図4に示す。
ATECU29は、詳細には図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや処理データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートなどを備える。このATECU29には、変速機構26の入力軸21に取り付けられた入力軸回転速度センサ42からの入力軸回転速度Ninなどが入力ポートを介して入力されており、油圧回路40の図示しない各ソレノイドへの駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。また、ATECU29は、前述したように、メインECU50やエンジンECU16と通信しており、互いに制御信号やデータをやり取りしている。
こうして構成された自動変速機20の変速制御は、スロットル開度と車速Vとに基づいて変速段を決定するための変速マップとして、通常用マップと登坂路走行時にアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を通常用マップに比して高車速側にシフトさせた登坂路用マップとを用意しておき、走行中の路面の勾配(路面勾配)θに基づいて通常用マップか登坂路用マップかのいずれかを選択し、選択した変速マップとスロットル開度と車速Vとに基づいて変速段を決定し、変速機構26が決定した変速段となるように必要なクラッチ(ブレーキ)を係合したり解放したりすることにより行なう。クラッチの係合や解放は、解放側のクラッチに対する油圧指令Prelや係合側のクラッチに対する油圧指令Pappを設定し、設定した油圧指令Prel,Pappに基づいて油圧回路40の対応するソレノイドを駆動制御することにより行なう。
次に、こうして構成された自動車10の動作、特に、路面勾配θを推定する際の動作について説明する。図5は、ATECU29のCPUにより実行される路面勾配推定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
路面勾配推定処理ルーチンが実行されると、ATECU29のCPUは、まず、エンジントルクTeやエンジン回転速度Ne,車速V,入力軸回転速度センサ42からの入力軸回転速度Nin,変速機構26の変速状態などの処理に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジントルクTeは、エンジン12の図示しないスロットル開度に基づいて導出されたものをエンジンECU16からメインECU50を経由して通信により入力するものとした。また、エンジン回転速度Neは、クランク角センサ15により検出されたクランクシャフト14の回転角に基づいて演算されたものをエンジンECU16からメインECU50を経由して通信により入力するものとした。さらに、車速Vは、車速センサ58により検出されたものをメインECU50から通信により入力するものとした。また、変速機構26の変速状態は、変速段の変更(変速)が指示されていないときには現変速段およびそのギヤ比γcを、変速が指示されているときには変速前の変速段およびそのギヤ比γbeと変速後の変速段およびそのギヤ比γafをそれぞれ変速機構26の状態として記憶したものを入力するものとした。
こうして処理に必要なデータを入力すると、エンジントルクTeにエンジン回転速度Neを乗じたものを入力軸回転速度Ninで除して入力軸21に作用するトルクである入力トルクTinを演算し(ステップS110)、変速中であるか否かを判定する(ステップS120)。変速中でないと判定されると、図6の非変速時出力トルク演算処理を実行する(ステップS130)。非変速時出力トルク演算処理は、図6に示すように、現変速段のギヤ比γcを出力トルク演算用のギヤ比γに設定し(ステップS300)、入力トルクTinと設定したギヤ比γとに基づいて次式(1)により出力軸22に出力されるトルクである出力トルクToutを演算することにより行なう(ステップS310)。ここで、式(1)中の「Loss」はギヤ損失を示し、「Gd」はデファレンシャルギヤ28のギヤ比を示し、「r」は車輪19a,19bのタイヤ半径を示し、「R」は走行抵抗を示し、「M」は車重を示す。
Tout=Tin×γ−Loss (1)
出力トルクToutを演算すると、演算した出力トルクToutに基づいて基準加速度αbaseを設定する(ステップS140)。ここで、基準加速度αは、例えば、平坦路を出力トルクToutで走行しているときに得られる加速度であり、出力トルクToutや車重、走行抵抗、デファレンシャルギヤ比、タイヤ径などに基づいて演算することができる。そして、入力した今回の車速Vと前回の車速との偏差をこのルーチンの実行時間間隔ΔTで除して実際の加速度である実加速度αを演算し(ステップS150)、設定した基準加速度αbaseと実加速度αとの偏差に基づいて路面勾配θを推定して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。
ステップS120で変速中と判定されると、変速パターンを判定する(ステップS170)。ここで、変速パターンとしては、実施例では、エンジン12がパワーオン状態でアップシフト変速するPowerOnUpやコースト状態でダウンシフト変速するCoastDown、エンジン12がパワーオフ状態でアップシフト変速するPowerOffUp、運転者のシフト操作(Lポジションや2ポジションなど)によりダウンシフト変速するManualDown、エンジン12がパワーオン状態でダウンシフト変速するPowerOnDownなどがある。いま、二つのクラッチ(ブレーキ)のうち一方を解放し他方を係合するつかみ替えにより変速段を変更する場合を考える。この場合、変速パターンがPowerOnUpとCoastDownとPowerOffUpとManualDownのいずれかのときにおける変速段の変更は、トルクの伝達を解放側のクラッチから係合側のクラッチへスリップ係合の状態で受け渡し(トルク相)、その後、係合側のクラッチの係合力を徐々に大きくして入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度に変更する(イナーシャ相)ことにより行なわれる。また、変速パターンがPowerOnDownのときにおける変速段の変更は、解放側のクラッチをスリップ係合させた状態でエンジン12からの出力トルクによって入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度に変更し、入力軸21の回転速度と変速後の変速段に応じた回転速度との偏差が所定値未満で回転同期したと判断されるときに係合側のクラッチを係合させることにより行なわれる。
ステップS170の変速パターンの判定結果がPowerOnDown以外のパターン、即ちPowerOnUpかCoastDownかPowerOffUpかManualDownかのいずれかのパターンであるときには(ステップS180)、図7の第1パターン変速時出力トルク演算処理を実行することにより出力トルクToutを演算し(ステップS190)、演算した出力トルクToutに基づいて路面勾配θを推定して(ステップS140〜S160)、本ルーチンを終了する。一方、変速パターンの判定結果がPowerOnDownのパターンであるときには(ステップS180)、図8の第2パターン変速時出力トルク演算処理を実行することにより出力トルクToutを演算し(ステップS200)、演算した出力トルクToutに基づいて路面勾配θを推定して(ステップS140〜S160)、本ルーチンを終了する。以下、図7の第1パターン変速時出力トルク演算処理と図8の第2パターン変速時出力トルク演算処理の詳細について順に説明する。
図7の第1パターン変速時出力トルク演算処理では、まず、イナーシャ相の開始を判定する(ステップS400)。イナーシャ相の開始は、入力軸回転速度Ninの変化を検知することにより判定することができる。イナーシャ相が開始されていないと判定、即ち、トルク伝達を解放側のクラッチから係合側のクラッチへ受け渡している最中(トルク相)と判定されると、解放側のクラッチのトルク容量Trelと係合側のクラッチのトルク容量Tappとを設定し(ステップS410)、変速前の入力トルクに対する解放側のクラッチに作用するトルクの比であるトルク比Krel(即ち、変速機の入力軸から解放側のクラッチまでのギヤ比)と変速後の入力トルクに対する係合側のクラッチに作用するトルクの比であるトルク比Kapp(即ち、変速機の入力軸から係合側のクラッチまでのギヤ比)を設定する(ステップS420)。ここで、トルク容量Trelについては解放側のクラッチに対して設定されている油圧指令Prelに基づいて推定し、トルク容量Tappについては係合側のクラッチに対して設定されている油圧指令Pappに基づいて推定するものとした。また、トルク比Krel,Kappについては、変速前後の変速段毎に予め求めて記憶しておき、変速前後の変速段が与えられたときに、記憶した関係から対応するトルク比Krel,Kappをそれぞれ導出することにより設定するものとした。そして、設定したトルク容量Trel,Tappとトルク比Krel,Kappとに基づいて次式(2)により出力トルクToutを演算して(ステップS430)、第1パターン変速時出力トルク演算処理を終了する。式(2)中の「γbe」は変速前の変速段におけるギヤ比を示し、「γaf」は変速後の変速段におけるギヤ比を示す。ここで、式(2)において、右辺第1項は解放側のクラッチが伝達するトルクを意味し、右辺第2項は係合側のクラッチが伝達するトルクを意味する。即ち、出力トルクToutは、解放側のクラッチが伝達するトルクと係合側のクラッチが伝達するトルクとの和により計算することができる。
Tout=(γbe/Krel)・Trel+(γaf/Kapp)・Tapp (2)
ステップS400でイナーシャ相が開始されたと判定されると、出力トルク演算用のギヤ比γに変速後の変速段におけるギア比γafを設定し(ステップS440)、前述した式(1)を用いて出力トルクToutを演算して(ステップS450)、第1パターン変速時出力トルク演算処理を終了する。イナーシャ相が開始されると、解放側のクラッチから係合側のクラッチへトルク伝達が受け渡されており、変速後の変速段におけるギヤ比をもって係合側のクラッチによりトルク伝達がなされていると考えることができるから、入力トルクTinと変速後のギヤ比γafとに基づいて出力トルクToutを演算することができる。
次に、図8の第2パターン変速時出力トルク演算処理について説明する。第2パターン変速時出力トルク演算処理では、まず、入力軸回転速度Ninを角速度ωinに変換して微分することにより入力軸21の回転角加速度dωin/dtを計算し(ステップS500)、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に同期しているか否かを判定する(ステップS510)。この判定は、例えば、入力軸回転速度Ninと車速Vに変速後の変速段におけるギヤ比を乗じて得られる回転速度との偏差が所定値未満か否かを判定することにより行なうことができる。入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に未だ同期していないと判定されると(ステップS510)、解放側のクラッチのトルク容量Trelと係合側のクラッチのトルク容量Tappとを設定し(ステップS520)、解放側のクラッチのトルク比Krelと係合側のクラッチのトルク比Kappを設定する(ステップS530)。そして、設定したトルク容量Trel,Tappとトルク比Krel,Kappと計算した入力軸21の回転角加速度dωin/dtとに基づいて次式(3)により出力トルクToutを演算して(ステップS540)、第2パターン変速時出力トルク演算処理を終了する。ここで、式(3)の右辺第1項は前述した式(2)の右辺であり、式(3)の右辺第2項は慣性項である。式(3)中の「Iin」は入力軸21よりも前段側の慣性系の慣性モーメントを示し、「A」は変速前後の変速段毎に予め定められた係数である。変速パターンがPowerOnDownの場合には、前述したように、係合側のクラッチが係合されるまでは解放側のクラッチをスリップ係合させた状態で入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度に変更している状態であり、慣性系の回転速度の変化に伴って生じる慣性力が出力軸22側に伝達される。したがって、こうした慣性力を出力トルクToutに反映させることにより、出力トルクToutをより正確に演算することができる。
Tout=(γbe/Krel)・Trel+(γaf/Kapp)・Tapp+A・(Iin・dωin/dt) (3)
ステップS510で係合側のクラッチが係合していると判定されると、第1パターン変速時出力トルク演算処理のステップS410〜S430と同様に、解放側のクラッチのトルク容量Trelと係合側のクラッチのトルク容量Tappとを設定し(ステップS550)、解放側のクラッチのトルク比Krelと係合側のクラッチのトルク比Kappとを設定し(ステップS560)、設定したトルク容量Trel,Tappとトルク比Krel,Kappとに基づいて前述した式(2)により出力トルクToutを演算して(ステップS570)、第2パターン変速時出力トルク演算処理を終了する。変速パターンがPowerOnDownの場合には、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に同期したときに解放側のクラッチから係合側のクラッチへトルク伝達が受け渡されるから、前述した式(2)を用いることにより、出力トルクToutを正確に演算することができる。
図9は、実施例におけるアップシフト変速時の入力軸回転速度Ninと油圧指令Papp,Prelと入力トルクTinと出力トルクToutの時間変化の様子を示す。実施例では、図9に示すように、時刻t0に変速が開始されると、解放側のクラッチに対する油圧が一段低下した状態で待機するよう油圧指令Prelを設定すると共に係合側のクラッチに対してファストフィルと低圧待機とが実行されるよう油圧指令Pappを設定する。これにより、解放側のクラッチはスリップ係合し、係合側のクラッチはストロークエンド圧付近で保持される。続いて、係合側のクラッチに対して待機状態から所定時間経過後の時刻t1に解放側のクラッチに対する油圧が徐々に低下するように油圧指令Prelを設定するスイープドレン処理を実行すると共に係合側のクラッチに対する油圧が徐々に上昇するように油圧指令Pappを設定するスイープアプライ処理を実行することにより、トルク伝達を解放側のクラッチから係合側のクラッチへ受け渡すトルク相を実行する。この間、解放側のクラッチが伝達するトルクと係合側のクラッチが伝達するトルクとの和により出力トルクToutが演算されるから、演算される出力トルクToutはトルク相におけるトルクの引き込みに追従して低下し、出力トルクToutと実際の出力トルクとは略一致する。そして、時刻t2に入力軸回転速度Ninが低下し始めてイナーシャ相が開始されると、係合側のクラッチに対する油圧を緩やかに上昇させるよう油圧指令Pappを設定し、係合側のクラッチのスリップ係合によって入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度に変更するイナーシャ相を実行する。この間、トルク伝達は係合側のクラッチのみで行なわれることから、入力トルクTinと変速後の変速段におけるギヤ比γafとに基づいて出力トルクToutを演算することにより、出力トルクToutの演算値と実際値とを略一致させることができる。このように、変速中であっても演算される出力トルクToutを実際の出力トルクと略一致させることができるから、路面勾配θを正確に推定することができる。なお、イナーシャ相では、出力トルクの変動を抑制するためにエンジン12のトルクを一時的に低下させるリダクション処理を実行しており、この間、入力トルクTinも低下し、この入力トルクTinに基づいて出力トルクToutが演算される。
図10は、実施例における第2パターン変速時の入力軸回転速度Ninと油圧指令Papp,Prelと入力トルクTinと出力トルクToutの時間変化の様子を示す説明図である。図10に示すように、係合側のクラッチに対してファストフィルと低圧待機とが実行されるよう油圧指令Pappを設定して係合側のクラッチはストロークエンド圧付近で保持し、解放側のクラッチに対する油圧を低下させて解放側のクラッチをスリップ係合させる。時刻t1に解放側のクラッチのスリップ係合により入力軸21の回転速度の上昇が開始されると、解放側のクラッチに対する油圧指令Prelを低圧で待機させ、入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度まで上昇させる。ここで、変速パターンがPowerOnDownの場合には、エンジン12がパワーオンの状態でダウンシフト変速を行なうため、解放側のクラッチをスリップ係合させた状態でエンジン12からのトルクによって入力軸21の回転速度を変速後の変速段に応じた回転速度まで上昇させる。したがって、出力トルクToutは解放側のクラッチが伝達するトルクと係合側のクラッチが伝達するトルクと慣性系から伝達されるトルクとの和により演算することができる。入力軸21の回転速度が変速後の変速段に応じた回転速度に略一致すると、係合側のクラッチに対する油圧指令Pappを徐々に上昇させるスイープアプライ処理を実行することにより、トルク伝達を解放側のクラッチから係合側のクラッチへ受け渡す。この間、入力軸21の回転速度は変化しないから、解放側のクラッチが伝達するトルクと係合側のクラッチが伝達するトルクとの和により出力トルクToutが演算することができる。
以上説明した実施例の路面勾配推定装置によれば、自動変速機20の出力軸22に出力される出力トルクToutを演算し、演算した出力トルクToutに基づいて得られる基準加速度αbaseと実加速度αとに基づいて路面勾配θを推定するものにおいて、二つのクラッチ(ブレーキ)のうち一方を解放し他方を係合するつかみ替えにより変速段を変更する場合に、解放側のクラッチが伝達する伝達トルクと係合側のクラッチが伝達する伝達トルクとの和(式(2))により出力トルクToutを演算するから、出力トルクToutの演算値と実際値との乖離を少なくすることができ、変速段を変更している最中であっても路面勾配θの推定をより正確に行なうことができる。しかも、変速パターンがPowerOnDownの場合には、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度まで変化している最中に解放側のクラッチが伝達する伝達トルクと係合側のクラッチが伝達する伝達トルクと和の演算式に対して慣性項を付加した式(3)により出力トルクToutを演算するから、変速パターンに拘わらず出力トルクToutをより正確に演算することができる。
実施例では、変速パターンがPowerOnDown以外のパターン(PowerOnUpかCoastDownかPowerOffUpかManualDownかのいずれかのパターン)の場合、イナーシャ相の最中には、変速後の変速段におけるギヤ比γafを出力トルク演算用のギヤ比γとして入力トルクTinとギヤ比γとに基づいて前述した式(1)により出力トルクToutを演算するものとしたが、式(1)に代えて式(2)に慣性項を付加した式(3)を用いて出力トルクToutを演算するものとしてもよい。
実施例では、変速パターンがPowerOnDown以外のパターン(PowerOnUpかCoastDownかPowerOffUpかManualDownかのいずれかのパターン)の場合、イナーシャ相が開始されるまでは(トルク相)、慣性項を含まない前述した式(2)を用いて出力トルクToutを演算するものとしたが、慣性項を含む式(3)を用いて出力トルクToutを演算するものとしてもよい。この場合、トルク相では入力軸21の回転速度に変化は生じないから、慣性項は値0となり、実質的には式(2)と同一となる。同様に、変速パターンがPowerOnDownの場合、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に同期されるまでは慣性項を含む式(3)により出力トルクToutを演算し、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に同期された後は慣性項を含まない式(2)により出力トルクToutを演算するものとしたが、入力軸21の回転速度が変速後の回転速度に同期された後であっても慣性項を含む式(3)により出力トルクToutを演算するものとしてもよい。
実施例では、本発明の路面勾配推定装置を前進1速〜6速の6段変速の変速機構26を備えるものに適用するものとしたが、これに限定されるものではなく、4段変速や5段変速,8段変速など、如何なる段数の変速機に適用するものとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例のエンジン12が本発明の「原動機」に相当し、自動変速機20が「変速機」に相当する。ここで、「原動機」としては、内燃機関としてのエンジン12に限定されるものではなく、走行用の動力を出力可能な電動機としたり、内燃機関と電動機とを組み合わせたハイブリッドシステムとしても構わない。また、「変速機」としては、トルクコンバータを備えるものに限定されるものではなく、トルクコンバータレスで発進クラッチを備えるものとしても構わない。この場合、変速機の入力軸はタービンシャフトではなく発進クラッチの出力軸とするものとしてもよい。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。