JP5808529B2 - 有用物質生産方法 - Google Patents
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通常、大腸菌を用いてタンパク質を発現した場合、目的タンパク質を抽出するために、超音波、高圧ホモジナイザー、フレンチプレス等の物理的破砕法が用いられている。しかし、これらの物理的破砕法はタンパク質を取り出す際、大腸菌の細胞内に存在する目的のタンパク質以外の物質も大量に混入するため、純度が低下するという問題がある。
この問題を解決する有用物質の生産方法として、有用物質を分泌生産する方法が知られている。有用物質の分泌生産は、目的の有用物質を高純度で獲得する目的でも、高い生産性を達成する目的でも有効である。
分泌生産を行う際、高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが生産性の向上につながる。しかし、高い生産性を持続でき、生産時間を長くさせるために必要な因子については知られていない。
すなわち、本発明は、下記工程(a)を行い、さらに工程(b)を行う有用物質の細胞外分泌生産方法であって、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量が培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lである有用物質生産方法である。
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
界面活性剤を用いる有用物質の分泌生産過程で本発明の培養方法を用いることで、有用物質の収率が向上し、さらに高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが可能になり、結果的に有用物質の生産性を向上させることが出来る。
培養液に加える窒素原子を含む物質としては、タンパク質及びタンパク質の分解物、アミノ酸、尿素、アンモニア並びに硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。
培養液に加える窒素原子を含む物質としては、有用物質の生産性向上の観点からタンパク質及びタンパク質の分解物、アミノ酸及び尿素が好ましい。
アミノ酸型両性界面活性剤(B1−1−1)は、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する両性界面活性剤であり、下記一般式(1)で示される化合物等が挙げられる。
[R−NH−(CH2)n−COO]mM (1)
一般式(1)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。nは1又は2の整数である。mは1又は2の整数である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(アミン及びアルカノールアミン等由来のカチオンを含む)及び第4級アンモニウム等の1価又は2価のカチオンである。
また、(B1−1−1)は、アルキルアミノプロピオン酸型両性界面活性剤(コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム及びラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等);アルキルアミノ酢酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノ酢酸ナトリウム等)及びN−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等が挙げられる。
R−N+(CH3)2−CH2COO- (2)
一般式(2)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
水性希釈液における、界面活性剤(B)の合計濃度は、対象となる細菌、生理活性物質の種類及び分泌方法の種類によって適宜選択されるが、有用物質の分泌性及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1〜99重量%が好ましく、好ましくは1〜50重量%である。
有用物質の細胞外分泌生産方法
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を細胞外(培養液中)に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
(i)遺伝子組み換え
(i−1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージ又はプラスミドに組み込む。
(i−2)得られた組み換えファージ又はプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパク質遺伝子の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(i−3)その組み換えファージDNA又はプラスミドから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズム間隙に目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
(ii−1)有用物質生産用細菌を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は寒天培地上で通常15〜43℃で3〜72時間行う。
(ii−2)培養に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに寒天培地で培養した組み換え細菌を本培養する。ケルダール窒素は本培養に用いる培養液中に含まれる。本培養に用いる培養液に含まれるケルダール窒素量は、上述のとおりである。通常15〜43℃で12〜72時間行う。本工程で界面活性剤(B)を添加する。培養の始めから界面活性剤(B)を使用する場合は、(B)と培養液を混合し均一化したものを、培養液として用いる。培養を開始した後(B)を使用する場合は、培養開始直後から培養開始後72時間後に界面活性剤(B)を加えて培養を継続する。(ii−2)において、細菌の濃度は1〜1013細胞/mlが好ましく、さらに好ましくは102〜1011細胞/mlである。
(ii−2)において、界面活性剤(B)の使用量(重量%)は、対象となる細菌及び生産される有用物質の種類の種類等によって適宜選択されるが、培養液の重量を基準として、分泌効率及び生産される有用物質の変性のさせにくさの観点から、0.0001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.005〜10、次にさらに好ましくは0.01〜5である。
(iii−1)培養液中に分泌されたタンパク質は、遠心分離、中空糸分離、ろ過等で細菌及び細菌残さと分離される。
(iii−2)タンパク質を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜おこなうにことよって分離精製される。
本願発明の細菌は、界面活性剤(B)による細菌の死滅又は生育阻害が抑制されるので、この様な連続生産における細菌の生存率が高まる。したがって、有用物質を連続的に生産することができ、生産量を飛躍的に向上することができる。
C末端にHisタグを有するMalEを発現するpUC19プラスミドで形質転換した大腸菌(α)を常法により作製した。
次に、大腸菌(α)をLB培養液(バクトトリプトン10g/L、イーストエキストラクト5g/L、NaCl10g/L、アンピシリン100mg/L)1mlに白金耳で植菌して37℃で一夜振とう培養を行った後、遠心機を用いて集菌し、集菌体の大腸菌(α)を得た。
製造例1で得た集菌体の大腸菌(α)を、100mg/L アンピシリン、0.1mM IPTG及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(和光純薬(株)製)0.1mlを含有するTB培養液(Difco社)1mlに植菌し、培養を開始した。37℃2時間振とう培養を行った後、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業(株)製、商品名「レボン2000」)を0.3重量%になるように加え、37℃で16時間振とう培養を続けた。その後、培養液の遠心分離(5,000G、10分)を行い、上清をSDS−PAGEにより解析して、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質のバンドを定量した。定量した結果は、比較例1の定量値を1.00とし、実施例1−1〜1−5、2及び3の結果は、比較例1の定量値を基準とする相対値で示した。培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量は前述の方法により定量を行った。結果を表1にまとめた。
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液にラクトアルブミンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にすること以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液にポリペプトンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にする以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
比較例1において、集菌体の大腸菌(α)を再懸濁する前のTB培養液に尿素を加えて、培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量を表1に記載の量にする以外は比較例1と同様にして培養し、比較例1と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びMalEタンパク質の比較例1の定量値を基準とする相対値の結果を表1にまとめた。
比較例1において、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを添加後、経時的に0.1mlずつSDS−PAGE用のサンプリングを行い、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質を定量する以外は比較例1と同様に実施した。ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量は、培養液を遠心分離(5,000G、10分)して上清を除去後沈殿した菌体をTris−HCl緩衝液に再懸濁して、超音波破砕(200W、10分)を行いSDS−PAGEにより解析しすることにより行った。MalEタンパク質を定量した結果は、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量値を基準とする相対値で示した。結果を表2にまとめた。
実施例1−2において、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン添加後、経時的に0.1mlづつSDS−PAGE用のサンプリングを行い、大腸菌の細胞外に分泌されたMalEタンパク質を定量する以外は実施例1−2と同様に実施した。MalEタンパク質を定量した結果は、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインを加える前に大腸菌内部に発現していたMalEタンパク質の定量値を基準とする相対値で示した。また、MalEタンパク質の発現量の経時的な発現増加が、単に大腸菌の増殖によるのではない事は、菌液の濁度を分光光度計で測定することにより確認した。結果を表2にまとめた。
pET−26bベクターを含有した大腸菌BL21(DE3)(Novagen社)(β)を常法により作成した。
次に、大腸菌(β)をLB培養液(バクトトリプトン10g/L、イーストエキストラクト5g/L、NaCl10g/L、アンピシリン100mg/L)1mlに白金耳で植菌して37℃で一夜振とう培養を行った後、遠心機を用いて集菌し、集菌体の大腸菌(β)を得た。
製造例2で得た集菌体の大腸菌(β)を、100mg/L アンピシリン、0.1mM IPTG及びプロテアーゼ阻害剤ミックス(和光純薬(株)製))0.1mlを含有するTB培養液(Difco社)1mlに再懸濁し、37℃2時間振とう培養を行った後、界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業(株)製、商品名「レボン2000」)を0.3重量%になるように加え、37℃で16時間振とう培養を続けた。その後、培養液の遠心分離(5,000G、10分)を行い、上清を抗His−tag抗体により解析して、大腸菌の細胞外に分泌されたペプチド量を定量した。定量した結果は、比較例3の定量値を1.00とし、実施例5の結果は、比較例3の定量値を基準とする相対値で示した。培養開始時に培養液中に含まれるケダール窒素量は前述の方法により定量を行った。結果を表3にまとめた。
比較例3において、集菌体の大腸菌(β)を再懸濁する前のTB培養液にポリペプトンを加えて、培養開始時に培養液中に含まれる合計ケダール窒素量を表3に記載の量にする以外は比較例3と同様にして培養し、比較例3と同様の方法を用いて評価をおこなった。ケダール窒素量及びペプチド量の比較例3の定量値を基準とする相対値の結果を表3にまとめた。
また、表2の結果から、比較例2では界面活性剤を添加してから4時間経過後以降は分泌された有用物質の量がほとんど変化していないことがわかる。一方、実施例4では4時間経過後以降も分泌された有用物質が増加し続けていることがわかる。
また、本発明の界面活性剤は、細菌のペリプラズム画分の抽出試薬としても使用できる。
Claims (1)
- 下記工程(a)を行い、さらに工程(b)を行う有用物質の細胞外分泌生産方法であって、培養開始時における培養液中のケルダール窒素量が培養液の体積を基準として4.5〜50g/Lであって、前記有用物質がペプチド又はタンパク質である有用物質生産方法。
工程(a):有用物質を生産する細菌を培養する培養液と界面活性剤(B)を同時に存在させて有用物質を細胞外に分泌させる工程であって、前記界面活性剤(B)が両性界面活性剤(B1)であって、前記細菌が、大腸菌である工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
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