[第1実施形態]
本発明の第1施形態を図1〜図4を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態のイオン生成装置1は、コロナ放電によって正及び負の空気イオンを生成するための構成として、放電電極2と、この放電電極2に印加する正及び負の高電圧を発生する高電圧発生回路3とを備える。
さらにイオン生成装置1は、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態を検知するための構成として、放電電極2に対向して配置された検出用電極4と、該検出用電極4及び接地部5の間に接続されたインピーダンス回路6と、このインピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpが入力されるイオンバランス検知出力発生回路7とを備える。
高電圧発生回路3は、パルス状の正の高電圧及び負の高電圧を、出力端子3aから一定の周期で交互に出力する回路である。なお、高電圧発生回路3から出力される高電圧の周波数は、本実施形態では、例えば260Hzの周波数である。
かかる高電圧発生回路3としては、例えば特開2009−4177号公報等にて本願出願人が提案した回路が採用される。ただし、高電圧発生回路3は、他の公知の回路構成のものであってもよい。また、高電圧発生回路3は、正弦波状の交流高電圧を出力する回路であってもよい。
放電電極2は、先鋭な先端部を有するように針状の導体により構成されている。この放電電極2は、本実施形態では、所定の抵抗値(一定の抵抗値)を有する抵抗素子8と、高圧ケーブル9とを介して高電圧発生回路3の出力端子3aに接続されている。従って、放電電極2は、高電圧発生回路3の出力端子3aに抵抗結合の形態で接続されている。
検出用電極4は、導体により構成されており、放電電極2に近接して対向するように配置されている。より具体的には、本実施形態では、検出用電極4は、図2(a),(b)に示すように、例えば環状に形成されている。そして、検出用電極4は、放電電極2の先端部の周囲を囲むようにして(換言すれば、放電電極2の軸心方向と直交する方向で、放電電極2の外周面と間隔を存するようにして)、該放電電極2と同軸心に配置されている。
ただし、検出用電極4は、例えば図2(a)に二点鎖線で示すように、放電電極2の軸心方向で該放電電極2の先端から若干の間隔を存するように該放電電極2の前方側に配置されていてもよい。また、検出用電極4の形状は、環状に限らず線状、あるいは、板状等であってもよい。
補足すると、本実施形態のイオン生成装置1は、図示しない除電対象物の除電を行なうための除電装置として利用されるものである。このため、本実施形態のイオン生成装置1では、除電対象物の除電を行なう場合には、放電電極2の近辺でコロナ放電により生成される正及び負の空気イオンを、該放電電極2の前方に配置される除電対象物に向って移送するために、図示しない送風ファン等のエア供給機構(送風手段)によって、図2(a)に破線矢印で示す如く、放電電極2の前方側に向ってエア供給(送風)が行なわれるようになっている。
そして、検出用電極4は、放電電極2側から除電対象物への空気イオンの移送が極力妨げられないようにするために、上記の如く放電電極2の軸心方向と直交する方向で、放電電極2と間隔を存するように配置されている。
また、本実施形態では、検出用電極4は、放電電極2との間でコロナ放電を発生させる対向電極としての機能を兼ねるものである。そして、検出用電極4と、放電電極2の先端部との間の間隔(あるいは検出用電極4の半径)は、放電電極2と検出用電極4との間のコロナ放電が適切に発生し得るように設定されている。
補足すると、検出用電極4の配置に関する本願発明者の実験、検討によれば、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態を適切に検知し得るようにする上では、検出用電極4と放電電極2の先端の間の、該放電電極2の軸心方向での距離が、−10〜300mmの範囲内の距離(好適には、−10〜50mmの範囲内の距離)となり、且つ、検出用電極4と放電電極2の先端の間の、該放電電極2の軸心方向と直交する方向での距離が、40mm以下の距離(好適には、10〜20mmの範囲内の距離)となるように、放電電極2に対する検出用電極4の配置位置を設定しておくことが望ましい。このことは、後述する第2実施形態のイオン生成装置21についても同様である。
なお、放電電極2の軸心方向での上記距離は、詳しくは、放電電極2の先端から該放電電極2の基端側に近づく距離を負の距離(−10mm等)、放電電極2の先端から該放電電極2の基端側と反対側に離れる距離を正の距離(10mm等)としている。例えば図2(a)に実線で示す検出用電極4と放電電極2の先端との間の、該放電電極2の軸心方向の距離が負の距離であり、図2(a)に二点差線で示す検出用電極4と放電電極2の先端との間の、該放電電極2の軸心方向の距離が正の距離である。
インピーダンス回路6は、インピーダンスを有する回路素子により構成された回路である。このインピーダンス回路6は、本実施形態では、図3に示すように、容量素子としてのコンデンサ10と、抵抗素子11とを、検出用電極4と接地部5との間に並列に接続して構成された並列回路である。
そして、インピーダンス回路6は、検出用電極4と接地部5との間でインピーダンス回路6を介して流れる電流に応じた電圧信号Vpとして、コンデンサ10の電圧(=抵抗素子11の発生電圧)を出力する。
ここで、放電電極2と検出用電極4との間の空間は、電気的には、図3において参照符号Aを付して示す如き等価回路で表現される。この等価回路Aは、放電電極2と検出用電極4との間の静電容量に相当する容量素子Caに、放電電極2と検出用電極4との間のコロナ放電によって空間を流れるイオン電流の抵抗に相当する抵抗素子Rdisを、スイッチSWdisを介して並列接続した回路である。
この場合、上記スイッチSWdisは、コロナ放電の発生状態でONとなり、コロナ放電が発生していない状態ではOFFとなるスイッチである。従って、等価回路Aは、コロナ放電の発生状態では、容量素子Caと抵抗素子Rdisとの並列回路により構成され、コロナ放電が発生していない状態では、容量素子Caにより構成される回路である。
そして、前記インピーダンス回路6のコンデンサ10の容量値は、放電電極2と検出用電極4との間の静電容量(=等価回路Aの容量素子Caの容量値)よりも大きい容量となるように設定されている。一例として、放電電極2と検出用電極4との間の静電容量の実測値が0.1pF〜数pF程度となる場合、コンデンサ10の容量値は、1〜1000nFの範囲内の値に設定することが好ましい。
なお、インピーダンス回路6の抵抗素子11の抵抗値は、例えば5MΩ程度に設定される。また、抵抗素子11の静電容量値は、0.1μF程度である。
補足すると、本実施形態におけるインピーダンス回路6は、上記の如くコンデンサ10と抵抗素子11との並列回路であるから、その全体のインピーダンスは、容量素子と抵抗素子との並列回路のインピーダンスとなる。
ただし、インピーダンス回路6は、2つ以上の容量素子や、2つ以上の抵抗素子を含む回路であってもよい。インピーダンス回路6を、容量素子と抵抗素子とを含めて構成する場合には、その全体のインピーダンスが、容量素子と抵抗素子との並列回路と等価なインピーダンス、すなわち、全体のインピーダンスが、1/((1/R)+j・ω・C))という形(ただし、R:抵抗値、C:容量値、j:虚数単位、ω:角周波数)で表されるインピーダンスとなるように、インピーダンス回路6を構成すればよい。
イオンバランス検知出力発生回路7は、本発明におけるイオンバランス検知手段に相当するものである。このイオンバランス検知出力発生回路7は、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分の電圧レベル(該直流成分の大きさ及び極性)を検知し、その検知した電圧レベルが、あらかじめ設定された所定範囲から逸脱しているか否かを示す出力を生成する回路である。
具体的には、イオンバランス検知出力発生回路7は、本実施形態では、図3に示す如く、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpが入力されるローパスフィルタ12と、このローパスフィルタ12の出力を、上記所定範囲の上限値及び下限値と比較する比較部13とを備える。
ローパスフィルタ12は、例えば、入力側にバッファを備えるアナログフィルタにより構成され、入力される電圧信号Vpから所定周波数以下の低域周波数成分の信号を抽出し、その抽出した信号Vibpを、該電圧信号Vpの直流成分の信号として出力する。以降、Vibpを電圧信号Vpの直流成分Vibpという。
また、比較部13は、例えば、コンパレータ等により構成され、ローパスフィルタ12から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルをあらかじめ設定された所定範囲の上限値(>0)及び下限値(<0)と比較する。
この所定範囲は、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態(イオンバランスの状態)が適切な状態である場合におけるVibpの電圧レベルの許容範囲としてあらかじめ実験的に設定された範囲である。なお、上記適切な状態は、コロナ放電による正の空気イオンの生成量と負の空気イオンの生成量とが互いにほぼ同じとなるような状態である。
そして、比較部13は、直流成分Vibpの電圧レベルが、上記所定範囲を逸脱しているか否かを示す高低2値レベルの検知信号IBDを出力する。例えば、比較部13は、直流成分Vibpの電圧レベルが、上記所定範囲の上限値を超えている場合、又は、上記所定範囲の下限値を下回っている場合に、ハイレベル(高レベル)の検知信号IBDを出力する。また、比較部13は、直流成分Vibpの電圧レベルが、上記所定範囲内に収まっている場合には、ローレベル(低レベル)の検知信号IBDを出力する。
なお、本実施形態では、イオンバランス検知出力発生回路7の出力(比較部13の検知信号IBD)は、例えば、イオン生成装置1のイオンバランスの状態を作業者等に報知するための表示器、ランプ、ブザー等の報知器(図示省略)の動作制御に使用される。例えば、検知信号IBDが、直流成分Vibpの電圧レベルが所定範囲から逸脱していることを示す信号になった場合には、前記報知器によって、イオンバランスの状態が不適切な状態であることを示す報知(視覚的あるいは聴覚的な報知)が行なわれる。
補足すると、前記イオンバランス検知出力発生回路7のローパスフィルタ12は、FFT等のデジタル処理、あるいはソフトウェア処理によって、電圧信号Vpにローパス特性のフィルタリング処理を施すものであってもよい。
また、電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルをA/D変換器を介して検知し、その検知した電圧レベルが所定範囲から逸脱しているか否かを、CPU等を有する演算処理ユニットのソフトウェア処理により判定するようにしてもよい。
次に、本実施形態のイオン生成装置1のイオンバランスの状態を検知する場合の作動を説明する。
イオン生成装置1のイオンバランスの状態を検知する場合には、放電電極2及び検出用電極4の周辺に帯電物体が存在しないようにされる。そして、この状態で高電圧発生回路3を起動することで、該高電圧発生回路3の出力端子3aから放電電極2に、正及び負の高電圧が一定周期で交互に印加される。なお、この場合、エア供給機構による送風は停止される。
このとき、放電電極2に正又は負の高電圧が印加されている期間において、放電電極2と対向電極としての検出用電極4との間で該放電電極2の先端部に集中するように発生する電界によって、放電電極2の先端部からコロナ放電が発生する。そして、このコロナ放電によって空気がイオン化することで、空気イオンが生成される。
この場合、放電電極2に正の高電圧が印加された状態でのコロナ放電によって、正の空気イオンが生成され、放電電極2に負の高電圧が印加された状態でのコロナ放電によって、負の空気イオンが生成される。
このように生成された正及び負の空気イオンのそれぞれは、その多くが放電電極2と検出用電極4との間の電界によって、検出用電極4に流入する。これに応じて、検出用電極4と接地部5との間には、インピーダンス回路6を介してイオン電流が流れる。
また、放電電極2と検出用電極4との間の空間の静電容量に起因して、放電電極2と検出用電極4との間には変位電流が発生する。そして、検出用電極4には、この変位電流に応じた電圧が誘起され、この誘起電圧によって、検出用電極4と接地部5との間で変位電流に相当する電流(変位電流と同じ電流値の電流)がインピーダンス回路6を介して流れる。
従って、検出用電極4と接地部5との間には、上記変位電流に相当する電流とイオン電流との合成電流がインピーダンス回路6を介して流れる。そして、この合成電流に応じた電圧信号Vpがインピーダンス回路6から出力される。
なお、検出用電極4に流入する正の空気イオンの量、ひいては、それに応じたイオン電流は、コロナ放電による正の空気イオンの生成量が多いほど、大きくなる。同様に、検出用電極4に流入する正の空気イオンの量、ひいては、それに応じたイオン電流は、コロナ放電による正の空気イオンの生成量が多いほど、大きくなる。
ここで、前記インピーダンス回路6は、前記の如くコンデンサ10と抵抗素子11との並列回路により構成されている。
さらに、コンデンサ10の容量値は、放電電極2と検出用電極4との間の静電容量に比して十分に大きい容量値とされている。従って、インピーダンス回路6のコンデンサ10のインピーダンスが、放電電極2と検出用電極4との間の静電容量によるインピーダンスに較べて十分に小さなものとされている。
このため、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpは、前記変位電流に対する依存性が十分に抑制されたものとなり、前記イオン電流に対する依存性が相対的に高いものとなる。すなわち、電圧信号Vpは、変位電流に比して、イオン電流に対する相関性の高い信号となる。
そして、コロナ放電により生成される正及び負の空気イオンの量が互いにバランスしている場合(正及び負の空気イオンのそれぞれの生成量が互いにほぼ同じである場合)には、検出用電極4に流入する正の空気イオンに応じてインピーダンス回路6に流れるイオン電流と、検出用電極4に流入する正の空気イオンに応じてインピーダンス回路6に流れるイオン電流とがほぼ同程度の大きさとなる。そして、この場合には、インピーダンス回路6のコンデンサ10の電圧、すなわち、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの電圧レベル(電圧値)の平均値は、0V近辺に維持される。
一方、放電電極2に印加される正の高電圧又は負の高電圧のドリフト、あるいは、放電電極2の汚れ等、種々様々な要因によって、コロナ放電により生成される正及び負の空気イオンの生成量がアンバランスとなり、一方の極性の空気イオンの生成量が他方の極性の空気イオンの生成量に比して多くなる場合がある。
このような場合には、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの電圧レベルの平均値は、当該一方の極性側に偏ったものとなる。例えば、正の空気イオンの生成量が、負の空気イオンの生成量に比して多い場合には、電圧信号Vpの電圧レベルの平均値は、正極性側に偏る。
そのため、イオンバランス検知出力発生回路7のローパスフィルタ12の出力信号の電圧レベル、すなわち、電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルは、正極性及び負極性のうち、生成量が相対的に過剰な方の空気イオンの極性と同じ極性側に偏るものとなる。そして、その直流成分Vibpの電圧レベルの大きさは、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのアンバランスの度合いが大きいほど(バランスがとれている状態から乖離しているほど)、大きくなる。
このように、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpからローパスフィルタ12によって得られる直流成分Vibpの電圧レベルは、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのバランス状態(イオンバランスの状態)に依存して変化するものとなる。
そして、イオンバランス検知出力発生回路7では、この直流成分Vibpがローパスフィルタ12から比較部13に入力される。このとき、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのバランス状態が適切な状態である場合には、比較部13から出力される検知信号IBDは、当該適切な状態を示す信号(低レベルの信号)となる。
また、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのうちの一方が他方に比して過剰となっているアンバランス状態では、比較部13から出力される検知信号IBDは、当該アンバランス状態を示す信号(高レベルの信号)となる。
従って、この検知信号IBDによって、正及び負の空気イオンの生成量のアンバランス状態の発生を検知できる。本実施形態では、当該アンバランス状態が発生した場合には、前記した如く、その旨の報知が、図示しない報知器によって行なわれる。
本実施形態のイオン生成装置1は、以上の如き作動によって、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態を適切に検知することができる。
また、本実施形態では、インピーダンス回路6が、コンデンサ10(容量素子)と、抵抗素子11との並列回路となっているため、インピーダンス回路6のコンデンサ10の充電電荷が過剰に長い時間、保持され続けることがないように、該充電電荷を抵抗素子11を介して放電させることができる。このため、正及び負の空気イオンの生成量のアンバランス以外の外乱要因によって、インピーダンス回路6のコンデンサ10の充電電圧が正及び負の一方の極性側の充電電圧が過剰にバイアスされてしまうようなことを防止できる。
具体的には、例えば前記ローパスフィルタ12の入力側のバッファが、汎用のオペアンプを用いて構成したような場合には、ローパスフィルタ12の電源側からインピーダンス回路6に直流のバイアス電流が流れる場合がある。
この場合、本実施形態では、コンデンサ10の充電電荷が抵抗素子11を介して所定の時定数で放電できるので、上記バイアス電流によるコンデンサ10の充電電荷が過剰に蓄積されることがない。このため、上記バイアス電流によるコンデンサ10の充電電圧を十分に小さな大きさに留めるようにすることができる。
また、例えば、イオン生成装置1の運転開始前に、コンデンサ12に正又は負の電荷が残留していても、イオン生成装置1の運転中における正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのバランスがとれている限り、コンデンサ12の残留電荷は、抵抗素子11を介して放電する。
さらに、例えば、イオン生成装置1の運転の途中でのなんらかの原因によって、検出用電極4への正及び負の空気イオンの流入が遮断されても、その直前におけるコンデンサ10の充電電荷は、抵抗素子11を介して放電する。
このように、正及び負の空気イオンの生成量のアンバランス以外の外乱要因によって、インピーダンス回路6のコンデンサ10の充電電圧が正及び負の一方の極性側の充電電圧が過剰にバイアスされてしまうようなことを防止できる。
このため、ローパスフィルタ12の出力信号の電圧レベル(電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベル)に基づいて、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態を検知することを高い信頼性で行なうことができる。
次に、本実施形態のイオン生成装置1の作動に関する検証試験について、図4(a),(b)を参照して説明する。
本願発明者は、本実施形態のイオン生成装置1において、放電電極2に印加する正及び負の高電圧のうちの正の高電圧の最大値(ピーク値)を一定に維持したまま、負の高電圧の最大値を複数種類の値に変化させる検証試験(以下、検証試験1という)と、負の高電圧の最大値を一定に維持したまま、正の高電圧の最大値を複数種類の値に変化させる検証試験(以下、検証試験2という)とを実施した。
そして、検証試験1、2のそれぞれにおいて、前記ローパスフィルタ12から出力(電圧信号Vpの直流成分Vibp)の電圧レベルを測定した。併せて、放電電極2の前方にチャージ・プレート・モニター(図示省略)を設置し、このチャージ・プレート・モニタの金属製の帯電板の定常時の電位を、イオンバランスを示す指標値として測定した。該帯電板の電位は、正側に大きいほど、負の空気イオンに比して正の空気イオンの生成量が多いことを示し、負側に大きいほど、正の空気イオンに比して負の空気イオンの生成量が多いことを示す。
なお、チャージ・プレート・モニタの設置位置は、放電電極2とチャージ・プレート・モニタの帯電板との間の距離が100mmとなる位置である。また、検証試験1,2は、エア供給機構による送風を停止した状態で行なった。
図4(a)は検証試験1の測定データを示している。同図中の実線のグラフは、放電電極2に印加した負の高電圧の最大値(ピーク値)と、帯電板の電位(イオンバランス)の測定値との関係を示すグラフ、破線のグラフは、放電電極2に印加した負の高電圧の最大値と、前記直流成分Vibpの電圧レベルの測定値との関係を示すグラフである。なお、検証試験1では、放電電極2に印加した正の高電圧の最大値(ピーク値)は、9kVである。
また、図4(b)は検証試験2の測定データを示している。同図中の実線のグラフは、放電電極2に印加した正の高電圧の最大値(ピーク値)と、帯電板の電位(イオンバランス)の測定値との関係を示すグラフ、破線のグラフは、放電電極2に印加した正の高電圧の最大値と、前記直流成分Vibpの電圧レベルの測定値との関係を示すグラフである。なお、検証試験2では、放電電極2に印加した負の高電圧の最大値(ピーク値)は、−9kVである。
図4(a)に示されるように、放電電極2に印加する正の高電圧の最大値を一定として、負の高電圧の最大値(大きさ)を変化させることで、イオンバランスが変化する。そして、これに伴い、前記直流成分Vibpの電圧レベルが変化する。
同様に、図4(b)に示されるように、放電電極2に印加する負の高電圧の最大値を一定として、正の高電圧の最大値(大きさ)を変化させることで、イオンバランスが変化する。そして、これに伴い、前記直流成分Vibpの電圧レベルが変化する。
これらのことから、イオンバランスと、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルとは、高い相関性を有することが判る。従って、本実施形態のイオン生成装置1によれば、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルに基づいて、前記した如く、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのバランス状態を検知することができることとなる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図5及び図6を参照して説明する。なお、本実施形態は、前記第1実施形態と一部の構成だけが相違するものである。従って、本実施形態の説明では、第1実施形態と相違する点を中心に説明し、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態のイオン生成装置21では、放電電極2は、絶縁体から成る容量性部材22と、高圧ケーブル9とを介して高電圧発生回路3の出力端子3aに接続されている。容量性部材22は、所定の容量値を有するコンデンサとして機能する部材である。従って、本実施形態では、放電電極2は、高電圧発生回路3の出力端子3aに容量結合の形態で接続されている。
なお、放電電極2と高電圧発生回路3の出力端子3aとの間に、容量性部材22と直列に抵抗素子が介装されていてもよい。
本実施形態のイオン生成装置21は、以上説明した事項以外の構成は前記第1実施形態と同じである。ただし、イオンバランス検知出力発生回路7で、直流成分Vibpの電圧レベルと比較する所定範囲の上限値及び下限値は、本実施形態のイオン生成装置21の特性に適合するようにあらかじめ設定される。
かかる本実施形態のイオン生成装置21においても、第1実施形態と同様に、コロナ放電により生成される正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態に応じて、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibp(ローパスフィルタ12の出力信号)の電圧レベルが変化する。
そして、正及び負の空気イオンのうちの一方の生成量が他方の生成量に比して過剰になると(正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態が不適切な状態になると)、直流成分Vibpの電圧レベルが所定範囲を逸脱し、そのことを示す検知信号IBDが比較部13から出力される。
従って、第1実施形態と同様に、検知信号IBDによって、正及び負の空気イオンの生成量のアンバランス状態の発生を検知できる。
また、本実施形態でのインピーダンス回路6は、第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同様に、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態の検知を高い信頼性で行なうことができる。
次に、本実施形態のイオン生成装置21の作動に関する検証試験について、図6を参照して説明する。
本願発明者は、本実施形態のイオン生成装置21において、イオンバランスと、前記ローパスフィルタ12の出力として得られる電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルとの関係を測定した。
ここで、本実施形態のイオン生成装置21では、放電電極2は、高電圧発生回路3に対して容量結合型の形態で接続されているので、高電圧発生回路3から出力する正及び負の高電圧のうちの一方の高電圧の最大値を一定に維持した状態で、他方の高電圧を変化させても、正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態は変化し難い。換言すれば、コロナ放電による正及び負の空気イオンの生成量は、互いにバランスがとれている状態に維持され易い。
そこで、イオン生成装置21に関する検証試験(以下、検証試験3という)では、イオンバランスを意図的に変化させるために、エア供給機構による送風量を変化させるようにした。
さらに詳細には、正の空気イオンと負の空気イオンとは、それぞれの移動度が互いに異なる。このことに起因して、生成された負の空気イオンは、正の空気イオンよりも、コロナ放電の発生時に放電電極2と検出用電極4との間に発生する電界によって、検出用電極4に流入しやすい。これに対して、生成された正の空気イオンは、負の空気イオンよりも、送風によって運搬されやすい。
従って、コロナ放電による正及び負の空気イオンの生成量がバランスしていても、エア供給機構の送風量が大きいほど、検出用電極4に流入する正の空気イオンの量が、負の空気イオンの量に比して相対的に少なくなる。従って、送風量を変化させることで、検出用電極4に流入する正及び負の空気イオンの量のバランス状態を変化させることができる。
この場合、検出用電極4に流入する正の空気イオンの量が、負の空気イオンの量に比して相対的に少なくなった状態は、擬似的に、正の空気イオンの生成量が、負の空気イオンの生成量に比して少なくなったアンバランス状態、あるいは、負の空気イオンの生成量が、正の空気イオンの生成量に比して多くなったアンバランス状態に相当する。
そこで、イオン生成装置21に関する検証試験では、イオンバランスを変化させるために、エア供給機構による送風量を複数種類の送風量に変化させるようにした。そして、各送風量において、第1実施形態における検証試験の場合と同様に、前記ローパスフィルタ12から出力(電圧信号Vpの直流成分Vibp)の電圧レベルを測定すると共に、放電電極2の前方に配置したチャージ・プレート・モニタの帯電板の定常時の電位を、イオンバランスを示す指標値として測定した。
図6は検証試験3の測定データを示している。同図中の実線のグラフは、チャージ・プレート・モニタの帯電板の電位(イオンバランス)の測定値と、前記直流成分Vibpの電圧レベルの測定値との関係を示すグラフである。
なお、この場合、帯電板の電位は、送風によって該帯電板に到達した正及び負の空気イオンの総量に応じたものとなる。従って、帯電板の電位が高いほど、検出用電極4に流入する正の空気イオンが、負の空気イオンに比して相対的に多くなる。このことは、擬似的には、帯電板の電位が高いほど、検出用電極4の近辺における正の空気イオンの生成量が負の空気イオンの生成量に比して過小な状態となることを意味する。
図6に示されるように、帯電体の電位が変化するに伴い(検出用電極4の近辺でのイオンバランスが変化するに伴い)、前記直流成分Vibpの電圧レベルが変化する。このことから、本実施形態のイオン生成装置21においても、イオンバランスと、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルとは、高い相関性を有することが判る。
従って、本実施形態のイオン生成装置21によっても、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルに基づいて、正の空気イオンの生成量と、負の空気イオンの生成量とのバランス状態を検知することができることとなる。
[変形態様について]
次に、本発明の実施形態の変形態様をいくつか説明する。
前記各実施形態では、放電電極2が単一である場合のイオン生成装置1,21を例にとって説明したが、本発明を適用するイオン生成装置は、複数の放電電極2を備えるものであってもよい。
その場合、各放電電極2毎に、検出用電極4、インピーダンス回路6及びイオンバランス検知出力発生回路7の組を備えるようにしてもよいが、イオン生成装置に備える全ての放電電極2を、例えばN個(N:2以上の整数)ずつのグループに分類しておき、各グループのN個の放電電極2に対して、単一のインピーダンス回路6及びイオンバランス検知出力発生回路7を共用してもよい。
例えば、図7に示すように、1つのグループに属するN個(図示例では5個)の放電電極2のそれぞれに対向して配置された検出用電極4を、単一のインピーダンス回路6に並列に接続し、このインピーダンス回路6の出力(電圧信号Vp)を、前記各実施形態と同様のイオンバランス検知出力発生回路7に入力するようにしてもよい。なお、この場合、上記N個の放電電極2には、同じ高電圧が高電圧発生回路3から同時に印加される。
このようにしても、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルは、上記N個の放電電極2の近辺でコロナ放電により生成される正及び負の空気イオンの生成量のバランス状態に応じて変化するものとなる。従って、該直流成分Vibpの電圧レベルに基づいてイオンバランスの状態を検知できる。
なお、図7に示す例では、N個の放電電極2のそれぞれ毎に、検出用電極4を備えるようにしているが、それらの検出用電極4を一体に構成して、N個の放電電極2に対して共通の検出用電極4を備えるようにしてもよい。この場合には、当該共通の検出用電極4は、例えば、各放電電極2にそれぞれ臨む複数の貫通穴を穿設した板状の導体部材、あるいは、N個の放電電極2の側方に配置した棒状の導体部材により構成することができる。
また、前記各実施形態では、イオンバランス検知出力発生回路7に、比較部13を備えるようにしたが、ローパスフィルタ12から出力される直流成分Vibpの電圧レベルの大きさ及び極性を、イオンバランスの状態を示す指標値として、適宜の表示器により表示するようにしてもよい。この場合、直流成分Vibpの電圧レベルは、例えば数値で表示するようにしてもよいが、棒グラフ等のグラフ状に表示してもよい。
また、前記各実施形態では、検出用電極4と接地部5との間に、コンデンサ10及び抵抗素子11の並列回路により構成されたインピーダンス回路6だけを介装するようにしたが、検出用電極4と接地部5との間で、該インピーダンス回路6と直列に他のインピーダンス回路を接続してもよい。
例えば、図8(a),(b)に示すように、インピーダンス回路6と直列に抵抗素子31又はコンデンサ32を接続してもよい。あるいは、例えば、図8(c)に示すように、インピーダンス回路6と同様に、コンデンサ34及び抵抗素子35を並列に接続した構成のインピーダンス回路33を、インピーダンス回路6と直列に接続してもよい。
さらに、インピーダンス回路6は、例えば図8(d),(e)に示すように、1つ以上の容量素子だけで構成されていてもよい。図8(d)に例示するインピーダンス回路6は、単一のコンデンサ36のみにより構成された回路、図8(e)に例示するインピーダンス回路6は、2つのコンデンサ37,37を直列に接続した回路である。
このように、容量素子だけ構成されるインピーダンス回路6は、その全体のインピーダンスが、容量素子のインピーダンスと等価なインピーダンス、すなわち、1/(j・ω・C)という形で表されるインピーダンスを有する回路である。
ただし、インピーダンス回路6のコンデンサ(容量素子)に、前記第1実施形態にて説明した如き外乱要因によって、充電電荷が蓄積する恐れがある場合、あるいは、その蓄積を極力防止することが要求される場合には、前記実施形態と同様に、コンデンサに並列に抵抗素子を接続しておくことが好ましい。
また、前記各実施形態のイオン生成装置1,21では、正及び負の空気イオンの生成量のアンバランス状態が検知された場合に、その検知に応じて、高電圧発生回路3から放電電極2に印加する正又は負の高電圧の大きさ、あるいは、印加タイミング等、イオンバランスを調整し得るパラメータを操作することで、アンバランス状態が解消されるようにしてもよい。
また、前記各実施形態で説明したイオン生成装置1,21では、帯電物(帯電した除電対象物)の除電時においては、ローパスフィルタ12の出力信号(インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibp)の電圧レベルを、該帯電物の帯電状態(又は除電状態)を示す指標値として利用することもできる。
具体的には、本願発明者の実験によれば、イオン生成装置1又は21の放電電極2の前方に帯電物を配置した場合、帯電物の表面電位Vobj(帯電電位)と、直流成分Vibpの電圧レベルの測定値との間の関係として、図9のグラフで例示するような相関関係が得られた。
なお、図9のグラフに関する帯電物は、直流電圧を印加することで、複数種類の電位に帯電させた金属板である。また、この場合における放電電極2の先端と帯電物との間の距離と、エア供給機構による送風量とは、それぞれ既定の一定値に設定されている。
図9のグラフで示される如く、帯電物の表面電位Vobjの増減(極性の反転を含む)に伴い、直流成分Vibpの電圧レベルも単調に増減(極性の反転を含む)する。
なお、帯電物の表面電位Vobjが一定である場合、放電電極2と帯電物との間の距離が短いほど、直流成分Vibpの電圧レベルの大きさが大きくなることも実験的に確認された。
ここで、放電電極2の前方に帯電物が存在する場合、コロナ放電により生成される正及び負の空気イオンのうち、この帯電物の帯電極性と同じ極性の空気イオンは、帯電物によって反発され、検出用電極4に流入しやすくなる。このため、帯電物の表面電位Vobj(帯電電位)と、直流成分Vibpの電圧レベルの測定値との間に、図9のグラフで例示するような相関関係が成立するものと考えられる。
従って、帯電物の除電時においては、インピーダンス回路6から出力される電圧信号Vpの直流成分Vibpの電圧レベルに基づいて、帯電物の表面電位を検出するようにすることもできる。ひいては、例えば、直流成分Vibpの電圧レベルに基づいて、帯電物の除電が完了したこと(帯電物の表面電位がゼロもしくはほぼゼロになったこと)を検知するようにすることもできる。