[第1実施形態]
次に、添付図面を参照して本発明に係る振動式搬送装置の実施形態について詳細に説明する。最初に、第1実施形態の全体構成について図1乃至図5を参照して説明する。図1は第1実施形態の全体構成を示す右側面図、図2は第1実施形態の全体構成を示す斜視図、図3は第1実施形態の搬送ブロックを除く装置構造を示す縦断面図、図4は第1実施形態の全体構成を示す正面図(a)及び背面図(b)、図5は第1実施形態の搬送ブロックを除く装置構造を示す平面図である。
本実施形態の振動式搬送装置10は、基準質量体11と、この基準質量体11の上方に配置される上側質量体12Aと、基準質量体11の下方に配置される下側質量体12Bとを有する。基準質量体11は、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ搬送方向Dに向いた板面を備えた板状の防振ばね13aと13bによって下方から支持されている。これらの防振ばね13a,13bの下端は、設置面上に配置された基台2に固定される。ここで、搬送方向Dの前後位置とは、搬送方向Dに沿って相互に離間した2つの位置、すなわち、前方の位置が搬送の向きF側(搬送方向Dの一方側)の位置、後方の位置が搬送の向きFとは反対側(搬送方向Dの他方側)の位置である。なお、本明細書において、搬送方向Dとは、振動式搬送装置10における搬送路12tにおいて電子部品などの搬送物が搬送されていく方向であり、搬送の向きFとは、搬送方向Dのうちの上記搬送物が進行する向きである。
また、基準質量体11と上側質量体12Aは、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ搬送方向Dに向いた板面を備えた板ばね状の構造を含む上側振動ばね14aと14bにより弾性接続されている。すなわち、上側質量体12Aは、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ上側振動ばね14a,14bにより下方から支持されている。さらに、基準質量体11と下側質量体12Bは、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ搬送方向Dに向いた板面を備えた板ばね状の構造を含む下側振動ばね15aと15bにより弾性接続されている。すなわち、下側質量体12Bは、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ下側振動ばね15a,15bによって上方から吊り下げられている。
上記防振ばね13a,13b、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bは、いずれも全体として板状に構成される板ばね構造を有し、その板面が正対する方向のばね定数は低く、長さ方向(上下両側に接続される物体間を結ぶ方向)のばね定数は高い。また、本実施形態では、上記防振ばね13a,13b、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bの板ばね構造は、それぞれの延在(長さ)方向が垂直方向に一致する垂直姿勢となるように取り付けられている。したがって、図示例では、各ばねの垂直方向や幅方向の支持剛性が高いのに対して、搬送方向Dの剛性は低くなっている。これによって、基準質量体11、上側質量体12A及び下側質量体12Bの相互間の支持構造が安定し、相互の位置関係が保持されやすくなるとともに、搬送物に対して搬送の向きFの搬送力を与えるための振動を容易に生じさせつつ、上記搬送力に寄与しない、或いは、上記搬送を妨げる態様の不要振動の発生を抑制する。ここで、防振ばね13a,13bは他のばねよりも幅を大きくすることで幅方向の支持剛性を高めるとともに、他のばねよりも長さを大きくすることで搬送方向Dの弾性変形を容易にしている。ただし、上記各ばねの弾性特性は材質や板厚によっても調整できる。なお、本明細書において、幅方向とは、上記搬送方向Dと垂直方向のいずれとも直交する方向である。
本実施形態において、上側振動ばね14a,14bは、搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ基準振動体11に結合(接続固定)された圧電駆動体16a,16bのうちの基準質量体11の上方へ伸びる部分である上側圧電駆動部16au,16buと、この上側圧電駆動部16au,16buの上端に接続された、搬送方向Dに向いた板面を備えた板状の上側増幅ばね17a,17bとの直列接続構造を有する。なお、本実施形態において、上側振動ばね14a,14bには、上側増幅ばね17a,17bと上側質量体12Aとを連結するための、後述する上側連結部12AaS、12AbSが含まれる。同様に、下側振動ばね15a,15bは、基準振動体11にそれぞれ結合(接続固定)された圧電駆動体16a,16bのうちの基準質量体11の下方へ伸びる部分である下側圧電駆動部16ad,16bdと、この下側圧電駆動部16ad,16bdの下端に接続された、搬送方向Dに向いた板面を備えた板状の下側増幅ばね18a,18bとの直列接続構造を有する。この下側振動ばね15a,15bにも、下側増幅ばね18a、18bと下側質量体12Bとを連結するための、後述する下側連結部12BaS、12BbSが含まれる。
圧電駆動体16a,16bは、基準質量体11の搬送方向Dの前方と後方にある前方取付位置11aと後方取付位置11bにそれぞれ取り付けられる。基準質量体11は、搬送方向Dの前方取付位置11aと後方取付位置11bの間に配置される中間部11abと、前方取付位置11aよりも搬送方向Dの前方に配置される前方部11aaと、後方取付位置11bよりも搬送方向Dの後方に配置される後方部11bbとを有する。基準質量体11は、圧電駆動体16a,16bに対する取付部分である前方取付位置11a及び後方取付位置11bにおいては、圧電駆動体16a,16bの動作を妨げないように垂直方向に薄く構成され、上記箇所以外においては、中間部11ab、前方部11aa及び後方部11bbが前方取付位置11a及び後方取付位置11bから上下両側に張り出すように厚く構成される。これらの中間部11ab、前方部11aa及び後方部11bbは、上側質量体12A及び下側質量体12Bと干渉しない範囲で、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bと同じ高さ領域まで達する程度に厚肉化された構造を有している。基準質量体11の前方取付位置11aには、圧電駆動体16aにおいて上下方向の中間部位に設けられた後述する側部接続構造16tが固定され、基準質量体11の後方取付位置11bには、圧電駆動体16bの上下方向の中間部位に設けられた後述する側部接続構造16tが固定される。また、前方部11aaの前端と後方部11bbの後端には、後述するボルト19a,19bにより防振ばね13a,13bの上端部が接続固定されている。なお、このように防振ばね13a,13bが下側振動ばね15a,15bよりも搬送方向Dの前後位置の外側に配置されることで、搬送方向Dに沿った方向に見たときの主要振動系全体の安定性が向上する。特に、本実施形態の基準質量体11では、圧電駆動体16a,16bに接続される前方取付位置11a及び後方取付位置11bよりも搬送方向Dの前後位置の外側に配置される前方部11aaと後方部11bbが上下方向に張り出すように構成されて比較的大きな質量を備えることにより、基準質量体11の搬送方向Dに沿ったピッチング運動に抗する慣性を大きくすることができるため、搬送物の搬送姿勢の不安定化や設置面への上下振動の伝搬を抑制することができる。また、装置の組み立て工程において、上記主要振動系を組み立てた後に防振ばね13a,13bを搬送方向Dの前後外側から組み付けることができるため、組み立て作業が容易になるという利点もある。なお、前方部11aa及び後方部11bbは後述する圧電駆動体16a,16bの覆い(カバー)部材としても機能する。
本実施形態の圧電駆動体16a,16bは、図6(a)〜(c)に示すように、シム板と呼ばれる金属製の弾性基板16sと、この弾性基板16sの表裏両面に貼着(積層)された圧電体(圧電層)16pとを有する。弾性基板16sは、その延在方向の両端(上下両端)にそれぞれ延長形成された薄肉部分を備え、これらの薄肉部分が上述の上側増幅ばね17a,17bと下側増幅ばね18a,18bを構成している。また、上側増幅ばね17a,17bの上端及び下側増幅ばね18a,18bの下端には、上部接続構造16u及び下部接続構造16dが形成されている。これらの上部接続構造16u及び下部接続構造16dは図示例では連結用の貫通孔となっているが、ねじ穴、ボス、切り欠きなどであってもよく、特に限定されない。また、弾性基板16sは、その延在方向の中間部位の幅方向の両側に基準質量体11に対する側部接続構造16t、16tを有する。この側部接続構造16tは図示例では幅方向に突出する孔付の突出部となっているが、ねじ穴、ボス、切り欠きなどであってもよく、特に限定されない。このとき、圧電体16pは、弾性基板16s上において、左右の側部接続構造16tの間の幅方向の中間位置に配置される。このようにすると、基準質量体11に対する結合位置が圧電体16pを回避した幅方向両側に設けられるため、圧電駆動体16a,16bの撓み変形動作に影響を与えにくくなるとともに、左右両側で確実に基準質量体11に結合させることにより、圧電駆動体16a,16bを基準質量体11に対して強固に固定でき、この基準質量体11を基準として上下両側の上側質量体12A及び下側質量体12Bに加振力を確実に与えることが可能になる。
上記圧電駆動体16a,16bは、圧電体16pの表裏に電圧を印加すると、電圧に応じて圧電体16pが変形し、これによって弾性基板16sは長さ方向に撓むように構成される。そして、所定周波数の交番電圧を印加することにより、圧電駆動体16a,16bは、交互に逆方向に撓み変形することで振動し、その振動は上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bを介して基準質量体11と上側質量体12A及び下側質量体12Bとの間に搬送方向Dにほぼ沿った振動を生じさせる。ここで、搬送方向Dの前後位置の圧電駆動体16a,16bは共に同位相で撓み変形し、それぞれの上側圧電駆動部16au,16buと下側圧電駆動部16ad,16bdも同位相で変形するので、基準質量体11に対して上側質量体12Aと下側質量体12Bも同位相で振動する。このとき、基準振動体11は、上側質量体12A及び下側質量体12Bの振動による反力を打ち消すように、これらとは逆位相で振動する。なお、図示例の圧電駆動体16a,16bは、弾性基板16sの両面に圧電体16pが配置されたバイモルフ構造を有するが、弾性基板16sの片面のみに圧電体が配置されてなるユニモルフ構造であってもよく、その他、公知の種々の圧電駆動体を用いることができる。また、圧電駆動体16a,16bは、上記中間部位(具体的には、幅方向両側の側部接続構造16t間を結ぶ水平線)を対称軸として長さ方向(上下)に対称な構造を有し、また、幅方向中央部の上下方向に沿った軸線を対称軸として幅方向(左右)にも対称に構成される。これにより、上側質量体12Aと下側質量体12Bの双方に対して均等な同位相の加振力を確実に与えることができるとともに、よじれなどが少なく幅方向に見て安定した振動態様を実現できる。
圧電駆動体16a,16bの弾性基板16sは、圧電体16pが積層されている範囲に構成された上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdにおいて厚く構成され、当該上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdから上下にさらに延在する上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bにおいて薄く構成される。この理由は以下の通りである。上記圧電体16pは通常セラミックスで構成されるために脆く、割れやすいために、圧電駆動体16a,16bの上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdでは、素子の破損を回避するために弾性基板16sを厚くして弾性変形を抑制し、圧電体16pのたわみ変形量を制限する必要がある。一方、上記上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bでは、上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdで発生した振動の振幅を増幅し、搬送物の搬送力を十分に得るために、弾性基板16sを薄くして弾性変形量を増大させ、上側質量体12A及び下側質量体12B(特に、搬送路12tを備えた上側質量体12A)の搬送方向の振動の振幅を拡大する必要がある。したがって、弾性基板16sの上述の厚みの変化は、圧電体16pの保護(損傷防止)と、上側質量体12A及び下側質量体12Bの振動の振幅の確保とを両立できるという作用効果をもたらす。
ここで、上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdと、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bとの境界領域においては、弾性基板16sの断面形状は、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bの延在方向に徐々に厚みが変化するように、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bの側に向けてテーパ状に構成されることが好ましい。これによって、弾性基板16sの上記境界領域の局所(特に、より薄く構成された上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bの側の部分)に応力が集中して耐久性が低下したり、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bの長さ方向全体の弾性特性を有効に利用できなかったりすることを回避できる。特に、図示例のように、上記境界領域の断面の輪郭形状が上記延在方向に沿って凹曲線状に構成され、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bの断面の表面又は裏面の輪郭線上に滑らかに収束するように構成されることが、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bを滑らかに撓み変形させる上で望ましい。
本実施形態の場合、一対のボルト19aが前方部11aaの幅方向の両側部分を貫通して上記圧電駆動体16aの幅方向両側に設けられた一対の側部接続構造16t,16tをそれぞれ挿通した状態で中間部11abに締結される。これにより、当該側部接続構造16tが前方部11aaと中間部11abの間に挟圧された状態で、圧電駆動体16aが基準質量体11に固定される。図示例では、ボルト19aが座金19cと前方部11aaの間に防振ばね13aの上端部を保持固定すると同時に、前方部11aa、圧電駆動体16a及び中間部11abを保持固定している。同様に、一対のボルト19bが後方部11bbの幅方向両側部分を貫通して上記圧電駆動体16bの幅方向両側に設けられた一対の側部接続構造16t,16tをそれぞれ挿通した状態で中間部11abに締結される。これにより、当該側部接続構造16tが後方部11bbと中間部11abの間に挟圧された状態で、圧電駆動体16bが基準質量体11に固定される。図示例では、ボルト19bが座金19dと後方部11bbの間に防振ばね13bの上端部を保持固定すると同時に、後方部11bb、圧電駆動体16b及び中間部11abを保持固定している。
図1に示すように、防振ばね13a,13bの下端部は、基台2の上側支持台2Aに接続固定される。基台2は上側支持台2Aと下側支持台2Bを含み、上側支持台2Aは下側支持台2B上に設置される。上側支持台2Aと下側支持台2Bとの間には、水平姿勢で設置された板ばねからなる水平防振ばね13ah及び13bhが接続されている。上側支持台2Aは、水平防振ばね13ah及び13bhによって下側支持台2Bの上方に弾性支持されている。搬送方向Dの前方側に配置された水平防振ばね13ahは、搬送方向Dの前方側において上側支持台2Aの前方取付部2Aaに取り付け固定され、搬送方向Dの後方側において下側支持台2Bの前方取付部2Baに取り付け固定されている。また、搬送方向Dの後方側に配置された水平防振ばね13bhは、搬送方向Dの前方側において下側支持台2Bの後方取付部2Bbに取り付け固定され、搬送方向Dの後方側において上側支持台2Aの後方取付部2Abに取り付け固定されている。なお、図示例では、下側支持台2Bの左右側部に設置面(他の装置の基台や工場の床面など)に固定するための固定穴(図2には片側の固定穴のみが示されている。)が設けられ、これらの固定穴を用いた設置面への固定を可能にするために、上側支持台2A及び下側質量体12Bは、搬送方向Dの中央部の左右の両側部が凹状に構成された平面形状を備えている。
本実施形態では、上側質量体12Aは、上記の上側増幅ばね17a,17bの上端部が接続される接続ブロック12Adと、この接続ブロック12Ad上に接続固定され、上面に搬送路12tが形成された搬送ブロック12Auとを有している。搬送ブロック12Auは、一般的には接続ブロック12Adよりも搬送方向Dに沿った長さが大きく、図示のように、接続ブロック12Adの搬送方向Dの前端及び後端からそれぞれ前方及び後方へ張り出すように設置される。搬送路12tは図示例では搬送方向Dに沿った直線状に構成される。搬送路12tは、搬送物を既定の姿勢で収容可能で、搬送方向Dに沿った搬送時に上記搬送物の規定の姿勢を維持可能に構成された溝構造を少なくとも備える。
搬送方向Dの前方において、上記上側増幅ばね17a及び下側増幅ばね18aは、搬送方向Dの前方側から上記上側質量体12A及び下側質量体12Bに対して連結固定される。ここで、上側増幅ばね17aと上側質量体12Aの間の上側連結部12AaSと、下側増幅ばね18aと下側質量体12Bの間の下側連結部12BaSは、搬送方向Dに沿った連結構造が実質的に同じになるように構成されている。以下においては、図5を参照して上側連結部12AaSについて説明し、下側連結部12BaSについては説明を省略する。
図5に示すように、上側連結部12AaSでは、上側質量体12Aの搬送方向Dの前端部12aにおいて、搬送方向Dの前方に開口する凹状に構成された前端凹部12aaが幅方向中央に形成されている。また、前端部12aの前端凹部12aaの幅方向両側にある一対の端面は、幅方向に沿ってそれぞれ平坦に構成された前端面12asとなっている。上側増幅ばね17aの上端部は、ボルトと座金等を用いて連結板12AaCの幅方向中央部に対して搬送方向Dの前方側から密着した状態で固定されている。連結板12AaCは、上側増幅ばね17aよりも幅方向両側に延長された板形状を有する弾性体(金属板)で構成され、前端凹部12aaをまたいで、その幅方向の両端部が上記一対の前端面12asに対して搬送方向Dの前方側から密着した状態でボルトと座金等により上側質量体12Aに固定されている。このように、上側増幅ばね17aは連結板12AaCの幅方向中央部に固定され、連結板12AaCの幅方向両側部が上側質量体12Aに固定されているため、上側増幅ばね17aは連結板12AaCを介して上側質量体12Aに対して弾性的に接続されていることになる。ここで、連結板12AaCは、搬送方向Dと垂直方向のいずれにも直交する、連結板12AaCの幅方向に沿った軸線Txaを中心として回動する方向に弾性変形可能に構成されたねじりばねとして機能し得る上側ばね要素を構成する。
一方、搬送方向Dの後方においても、上記上側増幅ばね17b及び下側増幅ばね18bは、搬送方向Dの前方側から上記上側質量体12A及び下側質量体12Bに連結固定される。ここで、上側増幅ばね17bと上側質量体12Aの間の上側連結部12AbSと、下側増幅ばね18bと下側質量体12Bの間の下側連結部12BbSは、搬送方向Dに沿った連結構造が実質的に同じになるように構成されている。このため、以下においては、図5を参照して上側連結部12AbSについて説明し、下側連結部12BbSについては説明を省略する。
図5に示すように、上側連結部12AbSでは、上側質量体12Aの搬送方向Dの後端部12bにおいて、搬送方向Dの後方へ開口する凹状に構成された後端凹部12bbが幅方向中央に形成されている。また、後端部12bの後端凹部12bbの幅方向両側にある一対の端面は、幅方向に沿ってそれぞれ平坦に構成された後端面12bsとなっている。上側増幅ばね17bの上端部は、上記後端凹部12bb内においてボルトと座金等を用いて連結板12AbCの幅方向中央部に対し搬送方向Dの前方側から密着した状態で固定されている。ただし、図示例では、一例として、上側増幅ばね17bの上端部と連結板12AbCとの間にスペーサ12Abspが介挿されている。連結板12AbCは、上側増幅ばね17bよりも幅方向両側に延長された板形状を有する弾性体(金属板)で構成され、後端凹部12bbをまたいで、その幅方向の両端部が搬送方向Dの後方側から上記一対の後端面12bsに密着した状態でボルトと座金等により上側質量体12Aに固定されている。このように、上側増幅ばね17bは連結板12AbCの幅方向中央部に固定され、連結板12AbCの幅方向両側部が上側質量体12Aに固定されているため、上側増幅ばね17bは連結板12AbCを介して上側質量体12Aに対して弾性的に接続されていることになる。ここで、連結板12AbCは、搬送方向Dと垂直方向のいずれにも直交する、連結板12AbCの幅方向に沿った軸線Txbを中心としてねじれ方向に弾性変形可能に構成されたねじりばねとして機能し得る上側ばね要素を構成する。
上述の搬送方向Dの前後位置に設けられた上側連結部12AaSと12AbSのいずれにおいても、上側増幅ばね17a,17bの上端部は搬送方向Dの前方側に配置され、連結板12AaC,12AbCは搬送方向Dの後方側に配置された状態で相互に直接若しくはスペーサ12Abspを介して固定される。したがって、搬送方向Dの上側増幅ばね17a,17bと上側質量体12Aとの間には、上側増幅ばね17a,17bの搬送方向Dの後方側に配置された上記ねじりばねを構成する上側ばね要素が介在している。また、搬送方向Dの前方側の上側連結部AaSにおける上側増幅ばね17aと上記上側ばね要素との間の搬送方向Dの距離に比べて、搬送方向Dの後方側の上側連結部AbSでは、上側増幅ばね17bと上記上側ばね要素との間の搬送方向Dの距離は、上記スペーサ12Abspの厚み分だけ大きくなっている。
次に、上述の構成に基づいて、圧電駆動体16a,16bによる基準質量体11と上側質量体12A及び下側質量体12Bの動作態様について説明する。図6(b)に示すように、本実施形態では、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bが基準質量体11に対しては固定位置11pにおいて接続されている。一方、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bの上側質量体12A及び下側質量体12Bに対する実質的な固定位置12Ap,12Bpは、搬送方向Dの後方側へずれている。これは、上述の構成において、上側質量体12A及び下側質量体12Bとの間に介在する連結板12AaC,12AbC及び12BaC,12BbCが上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bよりも搬送方向Dの後方に配置されていることによる。すなわち、連結板12AaC,12AbC及び12BaC,12BbCによって構成されるねじりばねに相当する上側ばね要素及び下側ばね要素が上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bよりも搬送方向Dの後方側に配置され、これらの上側ばね要素及び下側ばね要素を介して上側質量体12A及び下側質量体12Bに連結されることにより、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bは、上記固定位置11pから上下方向に離反するに従って搬送方向Dの後方側に向かう向きに傾斜するように設置されている場合と同様に、上側質量体12A及び下側質量体12Bを搬送方向Dに対して傾斜した振動方向BVs、BVt(図1参照)に振動させる。すなわち、上側質量体12Aは、搬送方向Dの前方側には斜め上方へ、搬送方向Dの後方側には斜め下方へ向かう方向BVsに振動し、下側質量体12Bは、搬送方向Dの前方側には斜め下方へ、搬送方向Dの後方側には斜め上方へ向かう方向BVtに振動する。
したがって、本実施形態の場合には、上側振動ばね14a,14bの振動角θは、垂直面に対する上記固定位置11pと上記固定位置12Ap,12Bpを結ぶ線の角度差(傾斜角)になり、これは、上記上側質量体12Aの水平面に対する振動角と一致する。同様に、下側振動ばね15a,15bの振動角も下側質量体12Bの水平面に対する振動角と一致する。なお、図6(c)に示す拡大部分断面図では、連結板12AaC、12AbCの幅方向の軸線Txa,Txb(図示しないが、連結板12BaC,12BbCの幅方向の軸線も同様。)が上記固定位置12Ap(12Bp)に一致するように図示してあるが、上記上側ばね要素(下側ばね要素)の特性に応じて上記実質的な固定位置12Ap(12Bp)の位置が軸線Txa,Txb(図示しない軸線)からずれることもあり得る。しかし、上記上側ばね要素及び下側ばね要素が上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bに対して搬送方向Dの後方側に配置されている限り、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bには上述の振動角θが存在し、上述の向きに傾斜した方向の振動が上側質量体12A及び下側質量体12Bに生ずることには変わりがない。
また、図6(d)に示すように、第1実施形態の異なる例として、スペーサ12Absp(12Bbsp)を異なる厚みのスペーサ12Absp′,12Bbsp′に変更することによって、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bと連結板12AaC,12AbC及び12BaC,12BbCとの間の搬送方向Dに沿った距離を増減することができるので、上記振動角θをθ′に変えることができる。図7は第2実施形態の主要構造の平面図である。この例では、スペーサ12Abspよりも厚いスペーサ12Absp′を搬送方向Dの後方側の上側連結部12AbS′に用いることにより、搬送方向Dの後方側の振動角θ′を上記第1実施形態の振動角θよりも大きく構成している。なお、この例では、図7に示す上側連結部12AbS′と、これと同様に構成された図示しない下側連結部とを除き、他の構成は第1実施形態の上述の構成と同様である。
本実施形態では、圧電駆動体16a,16bと上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bによって構成される上側振動ばね14a,14bの本体及び下側振動ばね15a,15bの本体が搬送方向Dと直交する垂直面に沿った延在方向を有する垂直姿勢で設置されている。このため、上下の圧電駆動体16a,16b並びに上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bを傾斜させずに振動系を構成できることから、圧電駆動体16a,16bを高周波数で稼働させて主要振動系を高速に加振しても、上下方向の踊りなどの不要な振動モードが生成されにくく、搬送物の搬送姿勢も安定させることができる。したがって、装置の高周波化が容易になり、高速搬送やスムーズな搬送態様を実現することが可能になる。
また、上記のように上側増幅ばね17a,17bの上部接続端及び下側増幅ばね18a,18bの下部接続端よりも搬送方向Dの後方側に配置された上側連結部12AaS,12AbS及び下側連結部12BaS,12BaSを介して、上側質量体12A及び下側質量体12Bを連結することにより、上記の上側振動ばね14a,14bの本体及び下側振動ばね15a,15bの本体を垂直姿勢としたままでも、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bに振動角θ,θ′を実質的に設けることができ、かつ、上記スペーサ12Absp,12Absp′の有無や厚みの変更などにより、上記振動角θ,θ′を容易に調整することができる。このため、搬送ブロック12Auに形成された搬送路12t上において、搬送方向Dの前方側に向かう搬送の向きFに搬送物を搬送していく搬送力を生じさせることができるとともに、搬送方向Dの前後位置における上記振動角θ,θ′に対応する図1に示す振動方向BVsの調整により搬送力の大きさや搬送方向Dに沿った搬送力の分布を調整することも可能になるため、搬送物の搬送速度や搬送態様の制御が可能になる。
[第2実施形態]
図8(a)は、上記第1実施形態の圧電駆動体16a,16bと上側連結部12AaS,12AbS及び下側連結部12BaS,12BbSを示す断面図、図8(b)は、第2実施形態の圧電駆動体16a″,16b″と上側連結部12AaS″,12AbS″及び下側連結部12BaS″,12BbS″を示す断面図である。第2実施形態においても、圧電駆動体16a″,16b″の弾性基板16s″は、第1実施形態と同様に、圧電体16pが形成された範囲(上述の上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bd)で厚く、上側増幅ばね17a″,17b″を構成する上方部分及び下側増幅ばね18a″,18b″を構成する下方部分で薄く構成されている。しかし、この第2実施形態では、上記上側増幅ばね17a″,17b″及び上記下側増幅ばね18a″,18b″の厚み範囲が上記上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdの弾性基板16s″の厚み範囲に対してδtsだけ搬送方向Dの後方側にずれている(偏っている)点で異なる。図示例では、上記上側増幅ばね17a″,17b″及び上記下側増幅ばね18a″,18b″の搬送方向Dの後方側の表面は、上記上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdの搬送方向Dの後方側の表面がそのまま平坦に垂直面に沿って延長されるように形成されている。一方で、上記上側増幅ばね17a″,17b″及び上記下側増幅ばね18a″,18b″の搬送方向Dの前方側の表面は、上記上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdの搬送方向Dの前方側の表面よりも搬送方向Dの後方側へ向けて大きく後退している。
この実施形態においても、上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdと、上側増幅ばね17a″,17b″及び下側増幅ばね18a″,18b″との境界領域において、弾性基板16s"の断面形状は、上側増幅ばね17a″,17b″及び下側増幅ばね18a″,18b″の延在方向に徐々に厚みが変化するように、上側増幅ばね17a″,17b″及び下側増幅ばね18a″,18b″の側に向けてテーパ状に構成されている。特に、図示例のように、上記境界領域の断面の搬送方向Dの前方側の輪郭形状が上記延在方向に沿って凹曲線状に構成され、上側増幅ばね17a",17b"及び下側増幅ばね18a",18b"の断面の搬送方向Dの前方側の面の輪郭線上に滑らかに収束するように構成される。
この場合には、上記固定位置12Ap″,12Bp″が上記の厚み範囲のずれδtsの分だけ搬送方向Dの後方側へずれる(偏る)ため、上記振動角θ″を第1実施形態に比べて大きく設定することができる。また、この圧電駆動体16a″,16b″では、第1実施形態で説明した上記上側連結部12AaS,12AbSを設けず、上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bを直接に上側質量体12A及び下側質量体12Bに連結した場合でも、上記厚み範囲のずれδtsによって或る程度の振動角θを得ることができる。
[全ての実施形態に関する事項]
なお、一般的に、上記上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bの振動角θ、θ′、θ″の絶対値(特に、搬送路12tが設けられている上側質量体12Aの振動方向BVsの角度)は、1〜10度、好ましくは2〜8度、望ましくは3〜6度の範囲内の水平方向に対する角度値とすることが好ましい。また、搬送方向Dの前方側の上側振動ばね14a及び下側振動ばね15aと、搬送方向Dの後方側の上側振動ばね14b及び下側振動ばね15bとを相互に同じ振動角を有する構成としてもよいが、搬送ブロック12Auの形状や構造等を始めとする全体の振動系の構成に応じて搬送路12t上の全長に亘る振動の態様及び振動の分布態様の最適化を図る上で、搬送方向Dの前後の上側振動ばね14a及び下側振動ばね15aと、上側振動ばね14b及び下側振動ばね15bとを相互に異なる振動角となるように設定してもよい。例えば、本装置に対して搬送方向Dの前方や後方に接続される他の装置との関係に応じて、搬送ブロック12Auの搬送方向Dの前方側への張り出し量が搬送方向Dの後方側への張り出し量に比べて大きいと、上側質量体12Aの重量バランスに起因して、搬送路12tの搬送方向Dに沿って実質的な振動角が変化し、搬送力がばらつくことがある。このときには、搬送方向Dの前後位置で上記振動角を異ならしめて設定することにより、搬送路12t上において搬送方向Dに沿った搬送速度の調整を行うことができる。ただし、搬送速度は搬送方向Dに沿って均一になるように調整されるとは限らず、敢えて搬送方向Dに沿って搬送速度を変えることもある。例えば、搬送路12tの途中に、搬送物の一部を搬送姿勢や物の良否等に基づいて搬送路12tから排除していくといった搬送物の選別手段を設ける場合には、搬送路12tの上流側から下流側に向かうに従って搬送速度を徐々に低下させていくことにより、結果的に搬送密度を搬送方向に均一化できるように構成することもある。これらのような様々な状況に応じて、搬送方向Dの前方位置にある上側振動ばね14a及び下側振動ばね15aの振動角と、搬送方向Dの後方位置にある上側振動ばね14b及び下側振動ばね15bの振動角とを別々に調整してもよい。
一方、上側振動ばね14a,14bの振動角と下側振動ばね15a,15bの振動角は上述のように相互に上下に逆向きとなるように設定される。この場合においても、上側振動ばね14a,14bの振動角と下側振動ばね15a,15bの振動角が相互に同じ絶対値を有するように構成してもよく、異なる絶対値を有するように構成してもよい。例えば、上側質量体12Aと下側質量体12Bへの重力の影響や質量の差などに応じて、搬送路12t上の搬送物の搬送状態の安定化や振動の漏出量の最小化などを図るために、上側振動ばね14a,14bの振動角と下側振動ばね15a,15bの振動角を別々に調整することが望ましい。
次に、図9を参照して、上記各実施形態に共通に用いることのできる基台2の構造について詳細に説明する。この基台2は、上述のように、相互に別体の上側支持台2Aと下側支持台2Bにより構成され、上側支持台2Aと下側支持台2Bの間には水平防振ばね13ah、13bhが介在し、上下方向の振動を吸収しやすい防振構造を構成している。水平防振ばね13ah,13bhは、搬送方向Dに沿って延在する水平姿勢に設置された板状の板ばねである。ここで、水平防振ばね13ah,13bhは、搬送方向Dの振動を吸収しやすい上記防振ばね13a,13bが上下方向の振動は吸収しにくく構成されている点を補うものである。搬送方向Dの前方位置に設置された水平防振ばね13ahは、上記上側支持台2Aの前方取付部2Aaに対して、幅方向に配置された一対のボルト21Aa及び座金22Aaの組により固定されている。また、上記下側支持台2Bの前方取付部2Baは幅方向に伸びる帯状に突出して平坦な上端面を有し、この後方取付部2Baに対して、水平防振ばね13ahがボルト21Baにより上方から密接した状態で固定されている。一方、搬送方向Dの後方位置に設置された水平防振ばね13bhは、上記上側支持台2Aの後方取付部2Abに対して、幅方向に配置された一対のボルト21Ab及び座金22Aaの組により固定されている。また、上記下側支持台2Bの後方取付部2Bbは幅方向に伸びる帯状に突出して平坦な上端面を有し、この後方取付部2Bbに対して、水平防振ばね13bhがボルト21Bbにより上方から密接した状態で固定されている。
また、上側支持台2Aには、少なくとも下方に開口したボルト収容部2Aaq,2Abqが設けられている。ボルト収容部2Aaqは、上記ボルト21Baを抵触しないように収容し、ボルト収容部2Abqは、上記ボルト21Bbを抵触しないように収容している。同様に、下側支持台2Bには、少なくとも上方に開口したボルト収容部2Baq,2Bbqが設けられている。ボルト収容部2Baqは、上記ボルト21Aaを抵触しないように収容し、ボルト収容部21Bbqは、上記ボルト21Abを抵触しないように収容している。図示例では、上記ボルト収容部21Aaq,21Abq,21Baq,21Bbqはそれぞれ上側支持台2A又は下側支持台2Bにおいて貫通孔として形成されている。ただし、各ボルト収容部は、対応する各ボルトに抵触しないように非接触の状態で収容可能な構造であればよく、例えば、上記の貫通孔に限らず、開口の反対側が蓋などで閉鎖されていてもよい。
上記のように構成された基台2においては、上記各ボルト収容部を設けることにより、上側支持台2Aと下側支持台2Bの間隔を狭めても、一方の支持台に締結されたボルト頭部といった水平防振ばねを固定するための固定構造が他方の支持台と抵触しない(接触しない)ため、基台2の高さを低減することができる。また、上側支持台2Aと下側支持台2Bの上下間隔を小さくできるため、水平防振ばね13ah,13bhの撓みによる上側支持台2Aの傾動を抑制することができる。さらに、本実施形態では、水平防振ばね13ah及び13bhが上側支持台2Aと下側支持台2Bを搬送方向Dに向けて接続されている。これにより、主要振動系が幅方向に揺動しにくくなるため、搬送物の搬送姿勢を安定させることができる。特に、水平防振ばね13ahと13bhでは、搬送方向Dに見た取り付けの向きが相互に逆向きとなっている。すなわち、水平防振ばね13ahにおいては、下側支持台2Bに対する固定位置に対して上側支持台2Aに対する固定位置が搬送方向Dの前方にあるのに対して、水平防振ばね13bhにおいては、下側支持台2Bに対する固定位置に対して上側支持台2Aに対する固定位置が搬送方向Dの後方にある。このことにより、上記主要振動系を防振ばね13a,13bを介して支持する上側支持台2Aが下側支持台2B上で上下に振動する際に、弾性変形時の円弧状の軌跡の湾曲の向きが搬送方向Dの前後となり相互に異なることから生ずる水平防振ばね13ahと13bhの相互干渉によって、上下動の振幅が大きくなるに従って急激に弾性変形しにくくなる弾性変形特性が得られる。したがって、加振手段自体の加振力に起因する微小な上下動は吸収するが、主要振動系の不安定性を招くことはなく、主要振動系に大きな上下動やピッチング動作が生じることを防止できる。
なお、防振構造としては、搬送方向Dの振動のみを吸収できればよい場合には、防振ばね13a,13bを直接設置面に設置したり水平防振ばね13ah,13bhを有しない基台に接続したりして、主要振動系を弾性支持する防振構造を、搬送方向Dの前後位置の一対の防振ばね13a,13bのみを有する構造としても構わない。特に、500Hz以下の駆動周波数であれば、微小な上下振動が問題となることはほとんどないため、主要振動系の搬送方向Dの振動のみを吸収すれば防振の目的を達成できる。なお、上述の一対の防振ばね13a,13bと一対の水平防振ばね13ah,13bhを備えた複合防振構造では、搬送方向Dの振動と上下振動とを吸収するという基本機能に関しては、主要振動系と設置面との間に上記防振ばねと水平防振ばねが直列に接続されていればよい。例えば、上側支持台2Aを搬送方向Dの前後に分割して、上記防振ばね13a及び水平防振ばね13ahを有する防振構造部と、上記防振ばね13b及び水平防振ばね13bhを有する防振構造部とが、搬送方向Dの前後位置において相互に分離された状態で配置される構造としてもよい。また、水平防振ばね13ah,13bhの上側支持台2Aに対する固定領域の平面形状は上記二つの座金22Aa,22Abによりそれぞれ二箇所の円形状とされ、水平防振ばね13ah,13bhの下側支持台2Bに対する固定領域の平面形状は上記前方取付部2Baと後方取付部2Bbの上端面形状によりそれぞれ帯状とされている。しかし、これらの固定領域の平面形状は、水平防振ばね13ah、13bhに要求される弾性変形特性に応じて適宜に調整することができる。
[第3実施形態]
図10は、本発明に係る振動式搬送装置の第3実施形態の概略構造を示す側面図である。この第3実施形態の装置20では、搬送方向Dの前後の防振ばね13a,13bがそれぞれ搬送の向きFに対して搬送方向Dの前後の対応する圧電駆動体16a,16bよりも前方に配置されている点で上記各実施形態と異なり、その他の構造については、上記各実施形態と同様の構造を有する。より具体的には、防振ばね13a,13bの基準質量体11に対する取付位置は、搬送方向Dの前後のそれぞれ対応する圧電駆動体16a,16bの基準質量体11に対する取付位置よりもそれぞれ搬送方向Dの前方にあり、各防振ばね13a,13bはほぼ垂直下方へ伸びて基台2(実際には前述の上側支持台2A)に取り付けられている。また、基準質量体11の前方部11aaと後方部11bbは幅方向(図10の紙面と直交する方向)の両側に設けられ、先の実施形態と同様に圧電駆動体16a,16bの幅方向両側の側部接続構造に取り付けられている。なお、中間部11abは前述の実施形態と同様に構成される。また、基準質量体11の前方部11aaと後方部11bbにおいては、圧電駆動体16a,16bに対して、いずれも同じ形状・寸法の筒状のスペーサ19c、19dを介して防振ばね13a,13bが搬送方向Dの前方から取り付けられている。これにより、前方部11aaに接続された圧電駆動体16aと防振ばね13aの搬送方向Dの位置関係(前後関係)と、後方部11bbに接続された圧電駆動体16bと防振ばね13bの搬送方向Dの位置関係(前後関係)とが搬送方向Dに見て同一になるように構成されている。なお、前方部11aa及び後方部11bbに対する防振ばね13a,13b及び圧電駆動体16a,16aの取付構造はいずれも先の実施形態と同様にそれぞれ一対のボルト19a,19bにより固定された構造となっている。
振動式搬送装置が低い駆動周波数(共振周波数)に設計されている場合には、搬送の向きFに向けては斜め上方に向かい、逆向きに向けては斜め下方に向かう振動方向を有する本来の振動モード以外の他の振動モードによる搬送への影響はそれほど問題にならない。しかし、装置構造を高い搬送周波数(共振周波数)となるように設計し、搬送物を高速で搬送させるようにすると、上記の他の振動モードにより、搬送路上で搬送物が上下左右にとび跳ねやすくなり、搬送物が搬送路から飛び出したり、搬送物の搬送姿勢が搬送途中で変化したりする。また、搬送速度が搬送路に沿って大きく変化し、搬送方向Dに沿った搬送路上の搬送速度の均一性が失われ、その結果、搬送物の搬送効率(実際に搬送物が搬送路の出口に供給される速度は、搬送路に沿った最も搬送速度が低い部分により律速される。)が低下する場合もある。本実施形態では、上述のように、圧電駆動体16a,16bと防振ばね13a,13bの基準質量体11に対する接続位置の搬送方向Dに見た順番が搬送方向Dの前後において相互に同一となるように構成されることにより、基準質量体11から見たときに上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bから受ける反力と、防振ばね13a,13bから受ける支持(拘束)力との間の搬送方向Dに沿った位置関係が搬送方向Dの前後で同一となるため、主要振動系全体の上下方向や幅方向の安定性が増加し、主要振動系によじれなどが生じにくくなり、上記他の振動モードの発生が抑制されるものと考えられる。実際に、本実施形態では、搬送物の上下左右方向のとび跳ねが少なくなり、また、搬送方向Dに沿った搬送速度も均一化された。
[全ての実施形態に関する事項]
図11は、本明細書に記載される各実施形態に係る基準質量体11、上側質量体12A及び下側質量体12Bと、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bからなる主要振動系の構成を模式的に示す概略構成図である。なお、実際には、この主要振動系が上述のように防振ばね13a,13b、水平防振ばね13ah,13bh及び基台2等によって支持されることにより、各実施形態の全体の振動系が構成される。この主要振動系の振動動作は、基準質量体11の質量M11、上側質量体12Aの質量M12A及び下側質量体12Bの質量体M12Bと、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bのばね定数と、搬送方向Dの前方側の上側振動角θauと下側振動角θad及び搬送方向Dの後方側の上側振動角θbuと下側振動角θbdによって定まる。なお、図11では、上記第1実施形態とは異なり、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bを、上記の各振動角とそれぞれ一致する傾斜角を有する傾斜ばねとして模式的に示してある。各実施形態では、当該傾斜ばねに限らず、種々の構造を有する上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bが振動角を備えるように構成されている。なお、本明細書において、上側振動ばね14a,14bの振動角とは、上側振動ばね14a,14bの上側質量体12Aに対する接続点における加振方向の水平面に対する角度を言い、下側振動ばね15a,15bの振動角とは、下側振動ばね15a,15bの下側質量体12Bに対する接続点における加振方向の水平面に対する角度を言う。ここで、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bが搬送方向Dに正対する平板状の板ばねである場合には、当該板ばねの水平面に対する加振方向の角度である振動角は、当該板ばねの搬送方向Dと直交する垂直面に対する傾斜角と一致する。また、本明細書において、上側振動ばね及び下側振動ばねのばね構造が上記板ばねとは異なるものである場合においても、当該上側振動ばね及び下側振動ばねは、これらにより得られる振動角と同じ値をもつ垂直面に対する傾斜角を備えた上記板ばねと等価であると考えることができるので、上記振動角と同じ意味で傾斜角の語を用いる。
本実施形態において、上側振動角θau、θbuは、いずれも搬送方向Dの前方側へ向けては斜め上方に向かい、搬送方向Dの後方側へ向けては斜め下方に向かう振動方向BVsを生じさせるように構成される。また、下側振動角θad,θbdは、いずれも搬送方向Dの前方側へ向けては斜め下方に向かい、搬送方向Dの後方側へ向けては斜め上方に向かう振動方向BVtを生じさせるように構成される。ここで、各実施形態では、同相加振手段を構成する圧電駆動体16a,16bにより、基準質量体11と上側質量体12Aとの間に印加される加振力Fau,Fbuと、基準質量体11と下側質量体12Bとの間に印加される加振力Fad,Fbdとが搬送方向Dに同期して与えられる。この場合に、図示のように搬送方向Dの前後位置においてそれぞれ与えられる加振力Fau,Fadと加振力Fbu,Fbdが強制振動系の外部強制力とされる必要はなく、前後位置のいずれか一方の加振力のみが外部強制力として与えられるように構成してもよく、或いは、両加振力がいずれも外部強制力ではなく、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bとは別に設けられた加振手段により主要振動系に外部強制力が与えられるように構成しても構わない。
このように構成されていると、基準質量体11に対して上側質量体12Aと下側質量体12Bは同期して搬送方向Dに振動するため、基準質量体11に対する上側質量体12Aが及ぼす回転モーメントと、下側質量体12Bが及ぼす回転モーメントとが相互に減殺し合うことから、主要振動系全体が搬送方向Dの前後に揺動するといった態様のピッチング運動を抑制することができる。また、各実施形態では、いずれも上側質量体12Aの振動方向BVsと下側質量体12Bの振動方向BVtとが相互に上下方向の逆向きに傾斜しているため、主要振動系全体の上下振動を抑制することができる。このように、各実施形態では、上記ピッチング運動や上下振動が抑制されるため、搬送物の搬送姿勢の安定化や設置面への振動の漏洩を低減することができる。特に、高周波化を進めると上記のピッチング運動や上下振動による搬送物や外部への影響は増大するものと考えられることから、近年の搬送振動の高周波化や搬送速度の増大などに対応する場合に極めて有効と思われる。
なお、図11では、振動角θau,θbu,θad,θbdに対応する傾斜角となるように上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bを傾斜姿勢で図示しているため、基準質量体11Aの質量M11の重心、上側質量体12Aの質量M12Aの重心及び下側質量体12Bの質量M12Bの重心が一直線上に並んでいない。しかし、上記第1実施形態〜第3実施形態では、いずれも上側振動ばね14a,14bの本体及び下側振動ばね15a,15bの本体を構成する、圧電駆動体16a,16b並びに上側増幅ばね17a,17b及び下側増幅ばね18a,18bが垂直姿勢で設置されるため、上記の質量M11、M12A及びM12Bの3つの重心を実質的に一つの直線上に配列させることが容易になる。特に、当該3つの重心位置が垂直方向に配列するように構成することも可能である。このことは、本実施形態の同相加振手段を構成する圧電駆動体16a,16bによって主要振動系を高周波数で駆動する場合に、不要振動モードが生じたり、搬送目的にかなった振動態様が妨げられたりする虞を低減し、安定した搬送物の搬送態様を実現しつつ主要振動系の高周波化を容易に実現する上で有効である。
[第4実施形態]
図12は、第4実施形態の主要振動系の構成を示す概略構成図である。この第4実施形態では、上記のように設定された振動角θau,θbu,θad,θbdを設けるために、基準質量体11に対する固定位置11pから上方にある上側振動ばね24a,24b(圧電駆動体26a,26bの上側圧電駆動部26au,26bu及び上側増幅ばね17a,17b)と、固定位置11pから下方にある下側振動ばね25a,25b(圧電駆動体26a,26bの下側圧電駆動部26ad,26bd及び下側増幅ばね18a,18b)の全体を相互に上下方向の逆向きに傾斜するように構成し、それぞれの傾斜角が上記振動角θau,θbu,θad,θbdと一致する傾斜姿勢となるように構成している。これによって、上側振動ばね14a,14bと下側振動ばね15a,15bがいずれも傾斜姿勢とされるため、第1実施形態のような上側連結部12AaS,12AbS及び下側連結部12BaS,12BbSを設けずに、振動角を得ることができる。
なお、以上説明した第1〜第4実施形態では、圧電駆動体16a,16b,26a,26bと、上側増幅ばね17a,17bや下側増幅ばね18a,18bとが一体に構成されたものについて説明しているが、それぞれの実施形態において、圧電駆動体16a,16b,26a,26bと、上側増幅ばね17a,17bや下側増幅ばね18a,18bとを別々の構成部品として形成し、ボルトや座金等によって相互に連結した構造としても構わない。
[第5実施形態]
図13は、第5実施形態の主要振動系の構成を示す概略構成図である。この第5実施形態では、上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bを圧電駆動体36a,36bとは別体に構成し、圧電駆動体36a,36bと上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bをそれぞれ搬送方向Dと直交する垂直面に沿った垂直姿勢とするとともに、圧電駆動体36a,36bの上下端部と、上側増幅ばね37a,37bの下端部及び下側増幅ばね38a,38bの上端部とを搬送方向Dに厚みを有するスペーサ39au,39bu,39ad,39bdを介してボルトや座金等を用いて連結している。このようにした場合でも、上側圧電駆動部36au,36buと上側増幅ばね37a,37bにより構成される上側振動ばね34a,34bの基準質量体11に対する固定位置11pと上側質量体12Aに対する固定位置12Apとを結ぶ線(図示二点鎖線)が傾斜し、下側圧電駆動部36ad,36bdと下側振動ばね35a,35bにより構成される下側振動ばね35a,35bの基準質量体11に対する固定位置11pと下側質量体12Bに対する固定位置12Bpとを結ぶ線(図示二点鎖線)が傾斜する。このため、先の実施形態と同様に上側振動ばね34a,34b及び下側振動ばね35a,35bの上記振動角θau,θbu,θad,θbdを設定することができる。この場合には、スペーサ39au,39bu,39ad,39bdの搬送方向Dの厚みを変更することで、上記振動角θau,θbu,θad,θbdを容易に調整することができる。ここで、上側増幅ばね37a,37bの下端及び下側増幅ばね38a,38bの上端は、上側圧電駆動部36auの上側接続構造及び下側圧電駆動部36ad,36bdの下側接続構造に対して、搬送方向Dの後方側に重ねた状態で接続固定される。このようにすると、スペーサを介在させるか否かに拘わらず、或る程度の振動角を得ることができる。
なお、以上説明した各実施形態においては、上側圧電駆動部16au,16bu,26au,26bu,36au,36buと下側圧電駆動部16ad,16bd,26ad,26bd,36ad,36bdが一体に構成された圧電駆動体16a,16b,26a,26b,36a,36bを用いている。しかし、圧電駆動体の構造としては、上側圧電駆動部と下側圧電駆動部とが別々の圧電駆動体により構成され、これらの別々の圧電駆動体が基準質量体11に対してそれぞれ結合した構造であってもよい。また、弾性基板上の圧電体は上側圧電駆動部において形成された部分と下側圧電駆動部において形成された部分とが一体に構成されているが、圧電体が上側圧電駆動部と下側圧電駆動部で別々に形成され、相互に分離された構造であってもよい。
[各実施形態の作用効果]
以上説明した各実施形態の主要振動系では、搬送方向Dに見ると、基準質量体11の振動の位相は、上側質量体12A及び下側質量体12Bの振動の位相とは逆位相(位相差が180度)になる。したがって、基台2を基準として考えると、基準質量体11の振動による搬送方向Dの反力と、上側質量体12Aと下側質量体12Bの振動による合成された反力とは相互に打ち消し合う関係(相殺或いは減殺する関係)となる。その結果、防振ばね13a,13bを介して基台2側へ伝達される搬送方向Dの振動が低減される。
一方、基準質量体11を基準として考えると、上側質量体12Aから受ける反力と下側質量体12Bから受ける反力はいずれも搬送方向Dに見たときには同じ向きとなるが、相互に同位相で振動する上側質量体12Aの回転モーメントと下側質量体12Bの回転モーメントは逆向きとなるため、相互に打ち消し合う関係(相殺或いは減殺する関係)となる。したがって、基準質量体11が受ける回転方向の反力は低減され、ピッチング動作が生じにくくなるとともに、防振ばね13a,13bを介して基台2側へ伝達される上下方向の振動も低減される。また、これにより、搬送路12tの長さ方向に沿った搬送物の搬送速度や搬送姿勢などの搬送状態も安定化される。
本発明では、図11に示す主要振動系において、基準質量体11に対して上側質量体12Aと下側質量体12Bが同位相で振動するように加振力を与える同相加振手段である圧電駆動体16a,16bを設けることにより、上側質量体12Aと下側質量体12Bが実質的に一つの質量体として動作する、換言すれば、同相加振手段によって一つの質量体として動作するように拘束される。このため、防振ばね13a,13bを介して基台2に対して弾性接続された一方の質量体である基準質量体11と、この基準質量体11に対して4つの振動ばね14a,14b,15a,15bを介して弾性接続された他方の質量体(上側質量体12Aと下側質量体12B)を有する、実質的に2自由度若しくは2質点の強制(減衰)振動系が構成される。この振動系では、高低2つの共振振動数ω1とω2を有するとともに、この2つの共振振動数ω1とω2の間の振動数帯域で2つの質量体が相互に逆位相で振動する。
これらの2つの質量体11と質量体12A及び12Bとを有する振動系の逆位相モードでは、2つの質量体間の搬送方向Dの反力が搬送方向Dに見て相互に打ち消し合う関係にあるが、実施形態では、上述のように、一方の質量体である基準質量体11に対して他方の質量体が上側質量体12Aと下側質量体12Bに二分割されて相互に反対側に弾性接続されているために、基準質量体11が受ける回転モーメントも相互に打ち消し合う関係にある。ここで、基準質量体11の質量M11の重心位置を基準とすると、上側質量体12Aの回転モーメントは、その質量と重心間距離の積、すなわちM12A×R12Aとなり、下側質量体12Bの回転モーメントは、同様にM12B×R12Bとなる。ただし、上側質量体12Aと下側質量体12Bの回転モーメントは相互に逆向きである。このような振動系の構成は、従来装置とは基本的に異なる振動態様を形成し、設置面による固定力に依存しない搬送態様を実現する。従来装置では、搬送路上の搬送物の搬送状態を確保するには、設置面への強固な固定や基台の重量化が必要であったのに対して、本発明では、極端に言えば、防振ばね13a,13bの下端を柔らかい布団のような設置面上に固定せずに載置しただけの場合、或いは、軽量化された基台2を固定せずに設置した場合でも、振動態様の変化(悪化)はほとんどなく、搬送路12t上の搬送態様もほとんど変わらない。なお、図から明らかなように、主要振動系のみで考えれば、搬送方向Dの反力を相殺する上では、実質的にM11=M12A+M12Bとすることが好ましく、上記二つの回転モーメントを相殺する上では、実質的にM12A×R12A=M12B×R12Bとすることが好ましく、ピッチング動作を低減する上では、実質的にM12A=M12BかつR12A=R12Bとすることが望ましい。
以上の構成及び作用効果は、基本的に本発明の概念を示す図11に示す構成に基づくものであるが、本実施形態では、上記同相加振手段(圧電駆動体)が上側加振部(上側圧電駆動部)と下側加振部(下側圧電駆動部)をそれぞれ有して、直接かつ別々に加振力を与えることにより、装置構造を簡易化することができるとともに、例えば、搬送物や搬送路のバリエーション等に対応するための加振側の周波数や振幅等の調整を容易に行うことも可能になる。特に、本実施形態においては、上側振動ばね14a,14bに組み込まれた上側圧電駆動部16au,16buと、下側振動ばね15a,15bに組み込まれた下側圧電駆動部16ad,16bdを設け、圧電駆動方式によって加振しているため、振動系とは別途の加振機構を設ける必要がないから、装置構造をさらに簡易に構成できる。
本実施形態では、上側振動ばね14a,14bと下側振動ばね15a,15bとが直接に接続されるとともに、その接続点が基準質量体11に接続固定されている。したがって、上側質量体12A及び下側質量体12Bから受ける反力の基準質量体11に対する作用点は相互に一致するため、上下の反力の作用点の位置ずれに起因する不要振動や不要モーメントは発生しない。また、上側振動ばね14a,14bと下側振動ばね15a,15bとが直接に接続されているので、上側振動ばねと下側振動ばねの間の振動エネルギーの交換が容易になることから、より安定な振動系が構成できると考えられる。さらに、本実施形態では、上記の構成により、振動式搬送装置10の高さを低減することができるという効果を有する。なお、図11の振動モデルは本発明及び本実施形態を何ら限定するものではないが、M12A=M12B、R12A=R12B、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bの長さ及びばね定数は全て同一であり、防振ばね13aと13bの長さ及びばね定数も同一としている。
本実施形態では、基準質量体11に対して長さ方向の中間部位が結合された一体の圧電駆動体16a,16bを用いることにより、上側質量体12Aと下側質量体12Bの双方に対して確実にかつ安定して加振力を与えることができる。特に、圧電駆動体16a,16bは、上下一体の撓み変形により両質量体12Aと12Bに対して確実に同位相の加振力を与えることができる。また、上側振動ばね14a,14b及び下側振動ばね15a,15bにおいて基準質量体11の側に上側圧電駆動部16au,16bu及び下側圧電駆動部16ad,16bdが配置されるため、上側質量体12Aの側に配置される上側増幅ばね17a,17b又は下側質量体12Bの側に配置される下側増幅ばね18a,18bにより、上側質量体12A又は下側質量体12Bに搬送路12tを設ける場合に必要とされる充分な振幅を生じさせることができる。
本実施形態では、上述の作用効果に加えて、上側振動ばね14a,14bの実質的な傾斜角である振動角θua,θubが搬送方向Dの前方側に斜め上方に向く振動方向BVsをもたらすように設定され、下側振動ばね15a,15bの実質的な傾斜角である振動角θda,θdbが搬送方向Dの前方側に斜め下方に向く振動方向BVtをもたらすように設定されていることにより、搬送路12t上で上記振動角θau,θbuに基づく搬送力を得ることができると同時に、基準質量体11に対して同位相で上側質量体12A及び下側質量体12Bが振動する主要振動系の上下振動を低減することができる。したがって、振動系の高周波化や高速搬送などを図った場合でも、搬送物の搬送姿勢の安定化や搬送速度の均一化を確保することができ、設置面への振動の漏出を抑制することができる。
また、上述のように上下振動の発生が少ない主要振動系でも、高周波化を図った場合には上下振動が充分に抑制できない場合がある。しかし、本実施形態では、基台2の上側支持台2Aと下側支持台2Bの間に水平姿勢で設置された板ばねよりなる水平防振ばね13ah,13bhを介在させたことにより、上下振動を効率的に吸収し、高周波化による上下振動の増大を抑制することができるため、搬送姿勢の安定化や振動エネルギーの漏出を回避することが可能になる。特に、水平防振ばね13ahと13bhを上側支持台2Aと下側支持台2Bの間で搬送方向Dに向けて接続したことにより、上側支持台2A上に支持されている振動系を幅方向に安定させることができる。また、搬送方向Dの前後位置で水平防振ばね13ahと13bhの搬送方向Dに見た取付の向きを逆向きとしたことにより、両ばねの相互干渉によって上側支持台2A上に支持されている振動系の安定性を高めることができる。
本願発明者らは、実際に上記第1実施形態の装置を試作し、稼働実験を行った。ここで、一例としては、基準質量体11の質量M11は710g、上側質量体12Aの質量M12Aは244.5g(12Auが190g、12Adが55.5g)、下側質量体12Bの質量M12Bは124.8g、上側支持台2Aの質量は59.5g、圧電駆動体16a,16bの長さは50mmで上下左右に対称な形状とし、振動角θau=θad=3.91度、θbu=θbd=5.3度、設置面から接続ブロック12Adの上面までの高さを72.1mm、基準質量体11、接続ブロック12Ad及び下側質量体12Bの全幅(最大幅)を35mmとした。そして、圧電駆動体16a,16bを900〜1200Hzの交番電圧で駆動して、搬送物を搬送させた結果、高振動数でも微細な電子部品等を安定した姿勢で高速に搬送できることが確認できた。この実施形態では、実質的に搬送方向Dに撓み振動する上側振動ばね14a,14bの本体及び下側振動ばね15a,15bの本体がいずれも垂直姿勢で設置されるとともに、上側振動ばね14a,14bの本体及び下側振動ばね15a,15bの本体において、上側圧電駆動部16au,16buと上側増幅ばね17a,17b、下側圧電駆動部16ad,16bdと下側増幅ばね18a,18bとがそれぞれ一体に構成されて高さの低減と振動の安定化が図られることにより、上述のような極めて高い周波数域までの高周波化と搬送速度の高速化を図ることが可能になると同時に、安定した振動態様と搬送物の安定した搬送態様を実現することが可能になっているものと考えられる。
また、図13に示す第5実施形態の装置を試作し、稼働実験を行った。なお、主要振動系以外の構造は第1実施形態と同様とした。ここで、一例としては、基準質量体11の質量M11は1110g、上側質量体12Aの質量M12Aは530g(12Auが371g、12Adが159g)、下側質量体12Bの質量M12Bは666g、上側支持台2Aの質量は284g、圧電駆動体36a,36bの圧電体が積層された本体部分の長さは22mmで上下左右に対称な形状とし、上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bの固定部分を除く長さはいずれも13mmとした。振動角はθau=θad=θbu=θbd=5.4度で、搬送方向の前後位置で相互に同じ値とし、設置面から接続ブロック12Adの上面までの高さを116.5mm、基準質量体11、接続ブロック12Ad及び下側質量体12Bの全幅(最大幅)を38mmとした。そして、圧電駆動体36a,36bを600〜700Hzの交番電圧で駆動して、搬送物を搬送させた結果、高振動数でも微細な電子部品等を安定した姿勢で高速に搬送できることが確認できた。この実施形態では、上側振動ばね34a,34b及び下側振動ばね35a,35bにおいて、上側圧電駆動部36au,36buと上側増幅ばね37a,37b、及び、下側圧電駆動部36ad,36bdと下側増幅ばね38a,38bとがそれぞれ別体で構成されているものの、上側圧電駆動部36au,36buと上側増幅ばね37a,37b、及び、下側圧電駆動部36ad,36bdと下側増幅ばね38a,38bのそれぞれは、いずれも個々に見ると垂直姿勢で設置されているため、上述のような高周波化と搬送速度の高速化を図ることが可能になると同時に、安定した振動態様と搬送物の安定した搬送態様を実現することが可能になっているものと考えられる。
本発明において、基準質量体11の質量M11は上側質量体12Aと下側質量体12Bの質量の和M12A+M12Bとほぼ同等(例えば、両者の質量の差が両者の中間値の10%以下)か、或いは、その質量の和M12A+M12Bよりも大きいことが安定した振動態様を得る上で好ましい。ただし、主要振動系が基準質量体11を介して弾性支持されていること、すなわち、基準振動体11が防振ばね13a,13b,13ah,13bhに接続されている構造、並びに、搬送路が上側質量体12A(下側質量体12Bでもよい。)に設けられることを考慮すると、主要振動系の安定性や搬送路の振幅を大きくするためには、基準質量体11の質量M11は基本的には大きいほど好ましく、特に、上記和M12A+M12Bの2倍以上であることが望ましい。また、上側質量体12Aの質量M12Aと下側質量体12Bの質量M12Bはほぼ同等であることが好ましいが、搬送路12tで必要とされる振幅、下方にある防振構造の影響などを考慮すると、上記の数値を見ればわかるように、両者の質量比が2倍程度であれば大きな問題はない。上記第1の実施形態の試作例では、搬送路12tを上側質量体12Aに設けるとともに、M12AをM12Bよりも大きくし、M12Bの約2倍としている。
[第6実施形態]
次に、図14乃至図20を参照して、本発明に係る振動式搬送装置の第6実施形態について説明する。この第6実施形態の装置30は、上記第5実施形態をより具体化した装置全体に適用した例を示すものである。ここで、第6実施形態の第5実施形態に対応する各構成部分には第5実施形態と同一符号を付し、実質的に第5実施形態と同様の構成については説明を省略する。本実施形態では、先の各実施形態と基本的に同様の基準質量体11、上側質量体12A及び下側質量体12Bを有し、第3実施形態と同様に取り付けられた防振ばね13a,13bを有する。本実施形態では、第3実施形態と同様に、搬送方向の前後において基準質量体11に対する防振ばね13a,13bの取付位置が基準質量体11に対する上下振動ばねや圧電駆動体の結合位置に対して同じ側(図示例では搬送方向の前方側)に配置されることで、第3実施形態において説明した作用効果が特に顕著に得られることが確認されている。また、本実施形態では、第5実施形態と同様の上側振動ばね34a,34b及び下側振動ばね35a,35bを備えている。ただし、基台2は先の実施形態とは異なり、水平防振ばね13ah、13bhを介した上側支持台2Aと下側支持台2Bの2体構造を備えず、一体に構成されている。また、図14の手前側に示すように、回収側搬送ユニット40が付加された構造を備えている。この回収側搬送ユニット40は、回収側接続ブロック42Ad上に設置される図示しない回収側搬送ブロックに形成された回収路42tに沿って、図15に示す搬送ブロック12Auに形成された搬送路12tの搬送の向きFとは逆向きの回収の向きBに搬送物を搬送することができるように構成される。
図14は、上記回収側搬送ユニット40を含むが、搬送ブロック12Auを取り除いた装置構造を示し、図15は、搬送ブロック12Auを含むが、上記回収側搬送ユニット40を取り除いた装置構造を示している。回収側搬送ユニット40は、基台2の側面に取付固定された基台ブロック42と、この基台ブロック42に下端が搬送方向Dの前後にそれぞれ取り付けられた板状の防振ばね43a,43bとを有する。防振ばね43a,43bの上端は、上下方向に延長された形状の接続部材44a,44bの上下方向の中間位置にある外側面部にそれぞれ取り付けられている。接続部材44a,44bの上端にある外側面部には板状の増幅ばね47a,47bの下端が接続され、この増幅ばね47a,47bの上端は搬送方向Dの前後においてそれぞれ上記接続ブロック42Adに接続されている。
また、上記接続部材44a,44bの搬送方向Dの前後内側には慣性質量体41が配置されている。この慣性質量体41の前端及び後端と、上記接続部材44a,44bの下端の内側面との間には、板状の圧電駆動体46a,46bが接続されている。これらの圧電駆動体46a,46bは、それぞれ、弾性基板上に積層された圧電体を有し、図示しない駆動回路から供給される交番電圧に応じて相互に搬送方向Dに見て同位相となるように撓み変形し、その結果、上記接続部材44a,44b及び上記増幅ばね47a,47bを介して上記回収側接続ブロック42Adを搬送方向Dに加振する。ここで、回収側搬送ブロック12Auに形成された搬送路12tにおいて搬送物が整列されたり選別されたりする過程で、既定の姿勢に整列されなかったものや不良品などといった何らかの理由でそのまま搬送されていくべきではない搬送物は、搬送路12tの形状や気流吹付手段や機械的動作機構などの公知の排除手段によって搬送路12t上から排除され、側方に配置された上記回収路42tに回収される。そして、回収された搬送物は、上記圧電駆動体46a,46bによって生ずる振動に基づき、図示しない回収側搬送ブロックに形成された回収路42t上を上記搬送の向きFとは逆向きの回収の向きBに搬送され、搬送路12tの上流側に戻されるか、或いは、廃棄される。なお、図16及び図17に示す側板39及び49は、それぞれ主振動系及び回収側搬送ユニットを幅方向両側から覆うカバーである。
図15に示すように、本実施形態は、図13に示すものと同じ主要振動系を有するとともに、搬送方向Dの前後で基準質量体11を支持する、搬送方向Dに向いた板面を備える板状の防振ばね13a,13bを備えている。ここで、防振ばね13a,13bは、基準質量体11の前方部と後方部において、ボルト19a,19b及びスペーサ19c,19dによりそれぞれ基準質量体11に対して取り付けられている。このとき、防振ばね13aは圧電駆動体16aに対して搬送方向Dの前方位置においてスペーサ19cを介して基準質量体11の前方部に接続され、防振ばね13bも圧電駆動体16bに対して搬送方向Dの前方位置においてスペーサ19dを介して基準質量体11の後方部に接続されている。スペーサ19cと19dは搬送方向Dに見て同じ厚みを有し、これにより、圧電駆動体16aと防振ばね13aの上端部の間隔と、圧電駆動体16bと防振ばね13bの上端部の間隔は等しくなっている。
本実施形態において、基準質量体11、上側質量体12A及び下側質量体12Bの重心位置11g、12Ag、12Bgは、静止状態において、搬送方向Dの同じ位置にあることが好ましい。すなわち、上記重心位置11g、12Ag及び12Bgは同一の垂直線上に全て配置されることが好ましい。しかしながら、実際には、搬送路12tを備えた上側質量体12Aは、振動式搬送装置30の設置場所の条件や、搬送物の搬送経路の前後の状況に応じて、種々の形状、構造とすることが要求される。特に、上側質量体12Aの搬送方向Dの前後のオーバーハング(張り出し長さ)は、前後の装置構成に応じて設定される。図15に示す装置30では、上側質量体12Aの搬送ブロック12Auは搬送方向Dの後方よりも前方に大きく張り出し、その重心位置12Agは、基準質量体11の重心位置11gよりも搬送方向Dの前方に配置される。そして、上側質量体12Aの重心位置12Agの基準質量体11の重心位置11gからの搬送方向Dの位置ずれに対応して、基準質量体11が上側質量体12Aと下側質量体12Bから受ける反力に起因する上下方向の振動を低減するために、下側質量体12Bの重心位置12Bgを、上記重心位置12Agと同様に、基準質量体11の重心位置11gよりも搬送方向Dの前方に配置している。この結果、主要振動系の全体の重心位置は、基準質量体11の重心位置11gよりもやや搬送方向Dの前方に配置される。このとき、防振ばね13aと13bの取付位置は、主要振動系の全体の重心位置(図示せず)に対して搬送方向Dに見て均等な距離にあることが好ましい。図示例では、防振ばね13aの取付位置と防振ばね13bの取付位置の中間点と、主要振動系の重心位置とが搬送方向Dに見て同じ位置に配置されるように構成されている。
図20は、本実施形態の上側振動ばね34aを構成する圧電駆動体16aの上側圧電駆動部16Au及び上側増幅ばね37aの拡大左側面図である。圧電駆動体36aは、第1実施形態と同様に、弾性基板36sと、この弾性基板36sに積層された圧電体36pとを有し、弾性基板36sに設けられた側部接続構造により幅方向両側で基準質量体11の前方部に固定される。また、圧電体36pは、幅方向に見て側部接続構造の間に配置されるとともに、側部接続構造の高さより上下に張り出し、上側圧電駆動部36auと下側圧電駆動部36ad(図示せず)にわたって一体に形成されている。弾性基板36sは、圧電体36pが形成されている領域からさらに上下にそれぞれ延出した、上部接続構造36su及び下部接続構造36sd(図示せず)が設けられる。なお、下側圧電駆動部36adは上側圧電駆動部36auに対して幅方向両側の側部接続構造を結ぶ幅方向の水平線36oに対して上下に対称に構成され、また、圧電駆動体36bは圧電駆動体36aと同一に構成されているので、それぞれについては、以下の説明に関し省略する。
本実施形態の上側圧電駆動部36auは、スペーサ39sを介して上側増幅ばね37aにボルト39t等により接続固定される。このとき、上側圧電駆動部36auの上側接続構造36suに対して、上側増幅ばね37aの下端はスペーサ39sを介して搬送方向Dの後方から重ねて固定される。これにより、圧電駆動体36aの厚み方向の中心線36xと、上側増幅ばね37aの厚み方向の中心線37xとは、搬送方向Dに見てずれた位置に配置されるように構成される。この中心線36xと37xのずれにより、図13と同様に、上側質量体12A(接続ブロック12Ad)に対する上側振動ばね34aの振動角θが設定される。本実施形態では、スペーサ39sの有無や厚みを変えることによって上記振動角θを調整することができる。
図20の右側の図に示すように、全体に均一な厚みt0を有する弾性基板36s′を用いる場合には、圧電駆動体36の中心線36xと上側増幅ばね37aの中心線37xとの間隔は0.5(t0+t1)+tsとなる。ここで、t1は上側増幅ばね37aの厚み、tsはスペーサ39sの厚みである。このとき、実質的な振動角θ′は、水平線36oと上側増幅ばね37aの上側質量体12Aに対する接続点とを結ぶ線分の垂線に対する搬送方向Dに見た傾斜角となる。しかし、本実施形態のように、圧電駆動体36aの駆動周波数が高周波数化すると、弾性基板36sの厚みt0が大きくなるため、振動角θ′が大きくなりすぎ、その結果、上側質量体12Aの振動の上下方向成分が増大して、搬送路12t上の搬送物が上下方向に踊り、搬送物の搬送姿勢や搬送速度のばらつき、搬送速度の全般的な低下を招く虞がある。また、一般に、振動周波数が高くなると、低い振動周波数の場合よりも振動角θを小さくした方が振動系の安定性及び搬送物の搬送姿勢の安定性が高くなり、搬送効率が向上するので、結果として、搬送速度も増加する。そこで、本実施形態では、弾性基板36sの上側接続構造36suの厚み範囲を搬送方向Dの前方へずらし、振動角θを小さく設定することができるようにしている。図示例では、上側接続構造36suの搬送方向Dの後方側にある表面が圧電体36pが積層されている部分よりも(t0−t2)だけ搬送方向Dの前方側に配置されるように段差状に構成して、上側接続構造36suの厚みt2を上記厚みt0より小さくしている。これにより、中心線36xと37xの搬送方向Dのずれ量は(t2−0.5t0+0.5t1+ts)となり、上記間隔0.5(t0+t1)+tsよりも(t0−t2)だけ小さくなる。この場合においても、圧電駆動体36aの圧電体36pが積層された部分と上側接続構造36suとの境界部分の断面形状(図示例では搬送方向Dの後方側(図示左側)の表面)は、上側接続構造36suに向けて徐々に厚みが変化(減少)して平坦な表面に収束するように凹曲線状の輪郭を有することが好ましい。
本実施形態では、第5実施形態と同様に、上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bは、上側圧電駆動部36au,36buの上側接続構造及び下側圧電駆動部36ad,36bdの下側接続構造に対して搬送方向Dの後方側に重ねた状態で接続固定される。このようにすると、スペーサを介在させるか否かに拘わらず、或る程度の振動角を得ることができる。また、上側圧電駆動部36au,36buの上側接続構造及び下側圧電駆動部36ad,36bdの下側接続構造を圧電体36pが積層された部分より薄く構成することにより、当該上側接続構造の下部及び下側接続構造の上部(圧電体36pが積層された部分の側においてボルトや座金等により固定されていない部分)を上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bとともに圧電体36pにより生ずる撓み変形の増幅作用を果たす部分として機能するように構成できるため、上側増幅ばね37a,37b及び下側増幅ばね38a,38bの長さを短く構成し、結果として装置全体の高さを低減することが可能になる。
本実施形態の装置30を試作し、実際に駆動することにより、搬送ブロック12Auの振動状態の測定と、搬送物の搬送状態の観測を行った。試作装置は、図15に示す上側質量体12Aの質量が620g、重心位置12Agの高さが110mm、基準質量体11の質量が1230g、重心位置11gの高さが67mm、下側質量体12Bの質量が720g、重心位置12Bgの高さが27.5mmであり、また、基準質量体11の重心位置11gに対して、上側質量体12Aの重心位置12Agは搬送の向きFの側に9.8mmずれた位置にあり、下側質量体12Bの重心位置12Bgは搬送の向きFの側に1.5mmずれた位置にあった。上側振動ばね34a,34b及び下側振動ばね35a,35bはいずれも3.24度を基準とし、搬送路12tに沿って均一な搬送速度が得られるように調整した。この試作装置を共振周波数のやや上の343.4Hzで稼働させ、搬送路12tを備えた搬送ブロック12Auの搬送方向Dの振幅(実際には搬送路12tの出口端12toの振幅)をレーザ変位計により測定して0.105mmとなるように設定し、長さが0.6mm、高さ及び幅が0.3mmの直方体状の電子部品を搬送物として搬送した。このとき、搬送ブロック12Auの図示P1〜P4の各部の上下方向の振幅と、図示P5〜P7の各部の幅方向の振幅をレーザ変位計により測定した。その結果、本試作装置では、搬送速度3.8m/分、上下方向の振幅の平均値は0.0085mm、幅方向の振幅の平均値は0.0083mmとなり、搬送路12tの全長にわたり均一な搬送速度が得られるとともに、搬送物のとび跳ねや姿勢変化も少なかった。また、搬送物がスムーズに搬送されていく範囲で駆動電圧を上げると、最大で搬送速度は10m/分まで上昇し、このときの搬送方向の振幅は0.26mm、上下方向の振幅の平均値は0.02mm、幅方向の振幅の平均値は0.012mmであり、問題は生じなかった。特に、搬送速度を高めても搬送物の姿勢は安定し、上記各部P1〜P7の振幅のばらつきも少なく、搬送路12tに沿った搬送速度の均一性も十分であった。
なお、本発明の振動式搬送装置は、上述の図示例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記第2実施形態〜第6実施形態ではそれぞれ特徴的な構成(連結部におけるスペーサの有無、連結部の有無、振動ばね全体の傾斜の有無、振動ばねの段差連結構造の有無、圧電駆動部と増幅ばねの一体構造と別体構造、圧電駆動体と防振ばねの位置関係など)で第1実施形態を置換した構成を有するが、各実施形態間でそれぞれの特徴点を相互に任意に置換して採用することにより、容易に他の実施形態を実現することができる。