図1は、本発明による制御装置によって制御される自動変速機25を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図である。同図に示す自動車10は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する原動機としてのエンジン(内燃機関)12や、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)16、エンジン12に接続されると共にエンジン12からの動力を左右の駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20等を含む。動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、流体伝動装置(トルクコンバータ)23、自動変速機25、油圧制御装置50、これらを制御する本発明による制御装置としての変速用電子制御ユニット(以下、「変速ECU」という)21等を有する。
エンジンECU14は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、エンジンECU14には、アクセルペダル91の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、車速センサ97からの車速V、外気温度を検出する外気温センサ100からの外気温Ta、クランクシャフトの回転位置を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサといった各種センサ等からの信号、ブレーキECU16や変速ECU21からの信号等が入力され、エンジンECU14は、これらの信号に基づいて何れも図示しない電子制御式のスロットルバルブや燃料噴射弁および点火プラグ等を制御する。
ブレーキECU16も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、ブレーキECU16には、ブレーキペダル93が踏み込まれた際にマスタシリンダ圧センサ94により検出されるマスタシリンダ圧Pmcや車速センサ97からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14や変速ECU21からの信号等が入力され、ブレーキECU16は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。
変速ECU21も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を備える。図1に示すように、変速ECU21には、アクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、シフトレバー95の操作位置を検出するシフトポジションセンサ96からのシフトポジションSP、車速センサ97からの車速V、自動変速機25の入力回転速度(タービンランナ23bまたは自動変速機25の入力軸26の回転速度)Ninを検出する回転速度センサ98、油圧制御装置50(例えば、図示しないバブルボディ内)の作動油の油温Toilを検出する油温センサ99といった各種センサ等からの信号、エンジンECU14やブレーキECU16からの信号等が入力され、変速ECU21は、これらの信号に基づいて流体伝動装置23や自動変速機25、すなわち油圧制御装置50を制御する。なお、シフトレバー95により設定可能なシフトポジションSPには、パーキングポジション(Pポジション)、リバースポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、前進走行用のドライブポジション(Dポジション)やスポーツポジション(Sポジション)等が含まれる。
動力伝達装置20の流体伝動装置23は、図2に示すように、エンジン12のクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23aと、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続された出力側のタービンランナ23bと、ロックアップクラッチ23cとを含むものである。オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ23aに接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されている。エンジン12からの動力により外歯ギヤを回転させれば、オイルポンプ24によりオイルパン(図示省略)に貯留されている作動油(ATF)が吸引されて油圧制御装置50へと圧送される。
自動変速機25は、6段変速式の変速機として構成されており、図2に示すように、シングルピニオン式遊星歯車機構30と、ラビニヨ式遊星歯車機構35と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための3つのクラッチC1,C2およびC3、2つのブレーキB1およびB2並びにワンウェイクラッチF1とを含む。シングルピニオン式遊星歯車機構30は、トランスミッションケース22に固定された外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置されると共に入力軸(入力部材)26に接続された内歯歯車であるリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリヤ34とを有する。
ラビニヨ式遊星歯車機構35は、外歯歯車である2つのサンギヤ36a,36bと、自動変速機25の出力軸(出力部材)27に固定された内歯歯車であるリングギヤ37と、サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、互いに連結された複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転かつ公転自在に保持すると共にワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22に支持されたキャリヤ39とを有する。また、自動変速機25の出力軸27は、ギヤ機構28および差動機構29を介して駆動輪DWに接続される。
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、それぞれ作動油が供給される係合側油室1eおよび当該係合側油室1e内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室1c(図6参照)等により構成される油圧サーボを有し、シングルピニオン式遊星歯車機構30のキャリヤ34とラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、それぞれ作動油が供給される係合側油室2eおよび当該係合側油室2e内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室2c(図6参照)等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26とラビニヨ式遊星歯車機構35のキャリヤ39とを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、それぞれ作動油が供給される係合側油室3eおよび当該係合側油室3e内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室3c(図6参照)等により構成される油圧サーボを有し、シングルピニオン式遊星歯車機構30のキャリヤ34とラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
ブレーキB1は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、ラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36bをトランスミッションケース22に固定すると共にサンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。ブレーキB2は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、ラビニヨ式遊星歯車機構35のキャリヤ39をトランスミッションケース22に固定すると共にキャリヤ39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。
これらのクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2は、油圧制御装置50による作動油の給排を受けて動作する。図3に、自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図4に、自動変速機25を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する速度線図を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2を図3の作動表に示す状態とすることで、図4に示すように前進1〜6速の変速段と後進1段の変速段とを提供する。
図5は、油圧制御装置50を示す系統図である。油圧制御装置50は、エンジン12からの動力により駆動されてオイルパンから作動油を吸引して吐出する上述のオイルポンプ24に接続されるものであり、流体伝動装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成すると共に、各種軸受などの潤滑部分に作動油を供給する。油圧制御装置50は、図示しないバルブボディに加えて、図5に示すように、オイルポンプ24からの作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ51や、シフトレバー95の操作位置に応じてプライマリレギュレータバルブ51からのライン圧PLの供給先を切り替えるマニュアルバルブ52、アプライコントロールバルブ53、それぞれマニュアルバルブ52(プライマリレギュレータバルブ51)から供給される元圧としてのライン圧PLを調圧して対応するクラッチ等への油圧を生成する調圧バルブとしての第1リニアソレノイドバルブSL1、第2リニアソレノイドバルブSL2、第3リニアソレノイドバルブSL3および第4リニアソレノイドバルブSL4等を含む
プライマリレギュレータバルブ51は、リニアソレノイドバルブSLTからの油圧を信号圧として用いてライン圧を生成する。リニアソレノイドバルブSLTは、オイルポンプ24側(例えばライン圧PLを調圧して一定の油圧を出力するモジュレータバルブ)からの作動油を調圧してアクセル開度Accあるいは図示しないスロットルバルブの開度に応じた油圧を出力するように変速ECU21により制御される。
マニュアルバルブ52は、シフトレバー95と連動して軸方向に摺動可能なスプールや、ライン圧PLが供給される入力ポート、第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の入力ポートと油路を介して連通するドライブレンジ出力ポート、リバースレンジ出力ポート等を有する(何れも図示省略)。運転者によりDポジションやSポジションといった前進走行シフトポジションが選択されている場合には、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートがドライブレンジ出力ポートのみと連通され、これにより、第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4にドライブレンジ圧としてのライン圧PLが供給される。また、運転者によりRレンジが選択された場合には、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートがリバースレンジ出力ポートのみと連通される。更に、運転者によりPポジションやNポジションが選択された場合には、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートとドライブレンジ出力ポートおよびリバースレンジ出力ポートとの連通が遮断される。
アプライコントロールバルブ53は、第3リニアソレノイドバルブSL3からの油圧をクラッチC3に供給する第1状態と、プライマリレギュレータバルブ51からのライン圧PLをクラッチC3に供給すると共にマニュアルバルブ52のリバースレンジ出力ポートからのライン圧PL(リバースレンジ圧)をブレーキB2に供給する第2状態と、マニュアルバルブ52のリバースレンジ出力ポートからのライン圧PL(リバースレンジ圧)をクラッチC3とブレーキB2とに供給する第3状態と、第3リニアソレノイドバルブSL3からの油圧をブレーキB2に供給する第4状態とを選択的に形成可能なスプールバルブである。
第1リニアソレノイドバルブSL1は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC1への油圧Psl1を生成する常閉型リニアソレノイドバルブである。第2リニアソレノイドバルブSL2は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC2への油圧Psl2を生成する常閉型リニアソレノイドバルブである。第3リニアソレノイドバルブSL3は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC3あるいはブレーキB2への油圧Psl3を生成する常閉型リニアソレノイドバルブである。第4リニアソレノイドバルブSL4は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してブレーキB1への油圧Psl4を生成する常閉型リニアソレノイドバルブである。すなわち、自動変速機25の摩擦係合要素であるクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2への油圧は、それぞれに対応する第1、第2、第3または第4リニアソレノイドバルブSL1,SL2,SL3またはSL4により直接制御(設定)される。
また、自動変速機25を構成する摩擦係合要素のうち、クラッチC1〜C3のキャンセル油室1c,2cおよび3cには、図6に示すように、作動油供給路70を介して作動油が供給される。作動油供給路70は、入力軸26の内部、クラッチドラムといったクラッチC1〜C3の構成部材に形成され、作動油供給路70には、作動油供給源としての油圧制御装置50からの作動油が流入する。実施例において、油圧制御装置50は、ライン圧PLの生成に伴ってプライマリレギュレータバルブ51からドレンされる作動油を調圧してセカンダリ圧を生成する図示しないセカンダリレギュレータバルブを有しており、作動油供給路70には、セカンダリ圧の生成に伴ってセカンダリレギュレータバルブからドレンされる作動油と、当該セカンダリレギュレータバルブから流体伝動装置23の流体伝動室(トーラス)に供給された後に当該流体伝動室から排出される作動油が選択的に供給される。
また、作動油供給路70の中途には、油圧制御装置50(流体伝動装置23)からの作動油を冷却するオイルクーラ(冷却手段)71が配置されており、クラッチC1〜C3のキャンセル油室1c,2cおよび3cには、当該オイルクーラ71により冷却された作動油が供給される。そして、実施例の作動油供給路70からは、図6に示すように、クラッチC1のキャンセル油室1cよりも上流側(油圧制御装置50側)でクラッチC3のキャンセル油室3cに作動油を供給するための油路73や、クラッチC2のキャンセル油室2cに作動油を供給するための油路72が分岐されている。従って、キャンセル油室1c〜3cの中では、クラッチC1のキャンセル油室1cが作動油供給源としての油圧制御装置50やオイルクーラ71から最も遠くなる。更に、作動油供給路70からは、油路72,73に加えて、自動変速機25の図示しない軸受等に作動油を潤滑媒体として供給するための図示しない油路が分岐されている。なお、コストダウン化等の観点から、実施例では、油温Toilに応じてオイルクーラをバイパス可能とするためのバイパス油路やサーモスタット等が作動油供給路70から省略されている。
上述の第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4(それぞれに印加される電流)は、変速ECU21により制御される。すなわち、変速ECU21は、予め定められた図示しない変速線図から取得されるアクセル開度Acc(あるいはスロットルバルブの開度)および車速Vに対応した目標変速段Gtagが形成されるように、変速段の変更に伴って係合されるクラッチまたはブレーキ(係合要素)に対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つへの油圧指令値(係合圧指令値)と、当該変速段の変更に伴って解放されるクラッチまたはブレーキ(解放要素)に対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つへの油圧指令値(解放圧指令値)を設定する。更に、変速ECU21は、変速段の変更中や変速完了後に、係合されているクラッチやブレーキ(係合要素)に対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つまたは2つへの油圧指令値(保持圧指令値)を設定する。このため、変速ECU21には、CPUやROM,RAMといったハードウエアと、ROMにインストールされた制御プログラムといったソフトウェアとの協働により、上述の油圧指令値、すなわち係合圧指令値、解放圧指令値、および保持圧指令値を設定する図示しない変速制御モジュールが機能ブロックとして構築される。
ここで、外気温Taや油温Toilが非常に低い冷間状態での自動車10の走行に際して、特に冷間状態でイグニッションスイッチ(スタートスイッチ)がオンされて自動車10の走行が開始される際には、作動油の粘性が高まることにより、クラッチC1〜C3のキャンセル油室1c〜3cに作動油が充分に供給されなくなるおそれがある。そして、キャンセル油室等に充分に作動油が供給されていない状態でクラッチが解放された場合、当該クラッチの構成部材(例えばクラッチドラム)が高速回転するのに伴って係合側油室の内部で発生する遠心油圧をキャンセルし得なくなり、遠心油圧がピストンに作用することで当該ピストンが摩擦材等を押圧し、当該クラッチの引きずりが発生してしまうおそれがある。
ただし、図3および図4からわかるように、クラッチC1〜C3のうち、クラッチC2およびC3は、車速Vが比較的高まる高速段の形成に際して係合されるものである。従って、冷間状態での自動車10の走行に際し、キャンセル油室2c,3cに充分に作動油が供給されていない状態でクラッチC2,C3が解放されたとしても、当該クラッチC2,C3の構成部材が高速回転する可能性は極めて低い。これに対して、自動車10の発進に際して係合される発進クラッチであるクラッチC1は、第1速から第4速の形成に際して係合される一方で、高速段である第5速および第6速の形成に際して解放され、第5速や第6速が形成された際には、クラッチC1の何れかの構成部材(例えばクラッチドラム)が所定回転数以上で回転することになる。従って、冷間状態での自動車10の走行に際し、第5速や第6速の形成に伴ってクラッチC1が解放され、キャンセル油室1cに充分に作動油が供給されていない状態でクラッチC1の構成部材(例えばクラッチドラム)が上記所定回転数以上で回転すると、クラッチC1の引きずりが発生してしまうおそれがある。このため、実施例の自動変速機25では、冷間状態で自動車10の走行が開始される場合(冷間状態で自動車10が走行する際)、クラッチC1が解放される第5速および第6速の形成が禁止される。
次に、自動車10の冷間状態での走行に際して自動変速機25の変速を制限する手順、すなわち自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止する手順について説明する。図7は、自動車10のイグニッションスイッチがオンされると、変速ECU21により実行される変速制限ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図7の変速制限ルーチンの開始に際して、変速ECU21(図示しないCPU)は、シフトポジションセンサ96からのシフトポジションSP、外気温Ta、油温センサ99からの油温Toilといった必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。なお、実施例において、外気温Taは、外気温センサ100により検出されたものがエンジンECU14から通信により入力される。ステップS100の入力処理の後、変速ECU21は、本ルーチンの開始前に値0に設定されるフラグFが値0であるか否かを判定する(ステップS110)。
フラグFが値0であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力した外気温Taが予め定められた第1外気温Ta1(例えば−20℃程度)未満であるか否かを判定する(ステップS120)。ステップS120にて外気温Taが第1外気温Ta1以上であると判断した場合、変速ECU21は、外気温Taが自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止するほどに低くないとみなし、本ルーチンを終了させる。また、ステップS120にて外気温Taが第1外気温Ta1未満であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力した油温Toilが予め定められた第1油温To1(例えば70℃程度)未満であるか否かを判定する(ステップS130)。ステップS130にて油温Toilが第1油温To1以上であると判断した場合、変速ECU21は、油温Toilが自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止するほどに低くないとみなし、本ルーチンを終了させる。
これに対して、ステップS130にて油温Toilが第1油温To1未満であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力したシフトポジションSPがDポジションやSポジションといった前進走行ポジションであるか否かを判定する(ステップS140)。ステップS140にてシフトポジションSPがDポジション等の前進走行ポジションであると判断した場合、自動車10の前進走行が開始されて自動変速機25の変速が実行される可能性があるとみなし、変速ECU21は、図示しないタイマをオンすると共にフラグFを値1に設定した上で(ステップS150)、自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止すべく5−6速形成禁止フラグFhgを値1に設定する(ステップS160)。こうして、ステップS160にて5−6速形成禁止フラグFhgが値1に設定されると、当該5−6速形成禁止フラグFhgが値0に設定されるまで、自動変速機25の第5速および第6速の形成が禁止され、変速ECU21は、第5速および第6速以外の第1速から第4速のみが形成されるように油圧制御装置50を制御する。そして、ステップS150およびS160の処理を実行した場合、変速ECU21は、それ以後、所定時間おきに本ルーチンを実行する。
また、ステップS140にてシフトポジションSPが前進走行ポジション以外のPポジション、RポジションまたはNポジションであると判断した場合、変速ECU21は、自動車10の前進走行が開始されないとみなし、ステップS150およびS160の処理を実行することなく、それ以後、所定時間おきに本ルーチンを実行する。なお、運転者によりRポジションが選択された場合、クラッチC3が係合されることになるが、実施例の自動変速機25においてRポジションの選択時にクラッチC3の構成部材が当該クラッチC3の引きずりを発生させるほどに高速回転する可能性が低いことから、Rポジションは、ステップS140の判定対象から除外されている。
上述のように、ステップS110,S120およびS130のすべてにおいて肯定判断がなされると、ステップS150にてフラグFが値1に設定されることから、その後にステップS100以降の処理が所定時間おきに実行される際には、ステップS110にて否定判断がなされることになる。そして、ステップS110にてフラグFが値1であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力した外気温Taが上述の第1外気温Ta1よりも高い値として予め定められた第2外気温Ta2(例えば−15℃程度)未満であるか否かを判定する(ステップS170)。ステップS170にて外気温Taが第2外気温Ta2以上であると判断した場合、変速ECU21は、外気温Taが自動変速機25の第5速および第6速の形成を許容し得る程度まで上昇したとみなして上述の5−6速形成禁止フラグFhgを値0に設定し(ステップS220)、上記タイマをオフすると共にフラグFを値0に設定して(ステップS230)、本ルーチンを終了させる。
また、ステップS170にて外気温Taが第2外気温Ta2未満であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力した油温Toilが上述の第1油温To1よりも高い値として予め定められた第2油温To2(例えば75℃程度)未満であるか否かを判定する(ステップS180)。ステップS180にて油温Toilが第2油温To2以上であると判断した場合、変速ECU21は、油温Toilが自動変速機25の第5速および第6速の形成を許容し得る程度まで上昇したとみなして上述の5−6速形成禁止フラグFhgを値0に設定し(ステップS220)、上記タイマをオフすると共にフラグFを値0に設定して(ステップS230)、本ルーチンを終了させる。
更に、ステップS180にて油温Toilが第2油温To2未満であると判断した場合、変速ECU21は、ステップS100にて入力したシフトポジションSPがDポジションやSポジションといった前進走行ポジションであるか否かを判定する(ステップS190)。ステップS190にてシフトポジションSPが前進走行ポジション以外のPポジション、RポジションまたはNポジションであると判断した場合、変速ECU21は、自動車10の前進走行が終了したとみなして上述の5−6速形成禁止フラグFhgを値0に設定し(ステップS220)、上記タイマをオフすると共にフラグFを値0に設定して(ステップS230)、本ルーチンを終了させる。
これに対して、ステップS190にてシフトポジションSPが前進走行ポジションであると判断した場合、変速ECU21は、予め作成された判定時間設定マップからステップS100にて入力した外気温Taおよび油温Toilに対応した値を導出し、導出した値を閾値としての判定時間trefに設定した上で(ステップS200)、上記タイマによる計時時間tが判定時間tref以上であるか否かを判定する(ステップS210)。ステップS210にて計時時間tが判定時間tref未満であると判断した場合、変速ECU21は、再度ステップS100以降の処理を実行する。そして、変速ECU21は、ステップS210にて計時時間tが判定時間tref以上であると判断すると、5−6速形成禁止フラグFhgを値0に設定し(ステップS220)、上記タイマをオフすると共にフラグFを値0に設定して(ステップS230)、本ルーチンを終了させる。
図8に、ステップS200にて用いられる判定時間設定マップを例示する。同図に示すように、実施例の判定時間設定マップは、上記第2油温To2を上限として、作動油の油温Toilが高いほど判定時間trefを長くすると共に、上記第2外気温Ta2を上限として、外気温Taが低いほど判定時間trefを長くするように、実験・解析を経て予め作成され、変速ECU21のROMに格納されている。これにより、実施例の自動変速機25では、ステップS170,S180およびS190の何れかにおいて第5速および第6速の形成を許容し得ると判断されるまで、作動油の油温Toilが高いほど、また外気温Taが低いほど、当該第5速および第6速の形成禁止時間が長く設定されることになる。すなわち、ステップS200にて設定される判定時間trefは、第5速および第6速の形成禁止時間に相当する。
すなわち、実施例の自動変速機25において、第5速および第6速の形成に際して解放されるクラッチC1のキャンセル油室1cは、作動油供給路70を介して作動油供給源としての油圧制御装置50に接続されるが、当該作動油供給路70からは、上述のように、キャンセル油室1cよりも上流側(油圧制御装置50側)で、クラッチC3のキャンセル油室3cに作動油を供給するための油路73や、クラッチC2のキャンセル油室2cに作動油を供給するための油路72が分岐されている。従って、冷間状態で自動車10の走行が開始された後、油温Toilがある程度高まって作動油の粘性が低下すると、クラッチC1のキャンセル油室1cよりも上流側で作動油供給路70から分岐された油路72,73すなわちクラッチC2,C2のキャンセル油室2c、3cや他の軸受等に作動油が流入し易くなる結果、却ってクラッチC1のキャンセル油室1cに充分な量の作動油が供給されなくなってしまうことがある。
また、実施例の自動変速機25において、作動油供給路70は、クラッチC1のキャンセル油室1cよりも上流側で作動油を冷却するオイルクーラ71を中途に含んでいる。従って、油温Toilがある程度高まっても、オイルクーラ71により冷却されることで作動油が当該オイルクーラ71で滞留しがちになって下流側に流れにくくなり、その結果、クラッチC1のキャンセル油室1cの油量が更に不足してしまうことがある。そして、作動油供給路70にオイルクーラ71をバイパスするバイパス回路が設けられていない場合、特にこのような傾向が強まる。
これらを踏まえて、実施例の自動変速機25では、作動油の油温Toilが高いほど上記判定時間trefが長く設定され、それによりクラッチC1が解放される第5速および第6速の形成禁止時間が長くなる。これにより、油温Toilの高まりにより却ってキャンセル油室1cに作動油が充分に供給されない状態でクラッチC1が解放されてしまうのを抑制することができる。この結果、冷間状態で自動車10が走行する際にキャンセル油室1cを有するクラッチC1の引きずりが発生するのを良好に抑制して自動変速機25の耐久性を向上させることが可能となる。
以上説明したように、自動変速機25(動力伝達装置20)の制御装置である変速ECU21は、外気温Taおよび油温Toilに基づいて自動車10の走行が冷間状態で行われると判断した場合(ステップS120〜S140)、自動変速機25の複数の変速段のうち、クラッチC1が解放される第5速および第6速の形成を禁止する(ステップS160)。そして、変速ECU21は、作動油の油温Toilが高いほど判定時間trefを長く設定することにより(ステップS200)、クラッチC1が解放される第5速および第6速の形成禁止時間を長くする。これにより、自動車10の冷間状態での走行に際して、油温Toilの高まりにより却ってキャンセル油室1cに作動油が充分に供給されない状態でクラッチC1が解放されてしまうのを抑制することができるので、キャンセル油室1cを有するクラッチC1の引きずりが発生するのを良好に抑制して自動変速機25の耐久性を向上させることが可能となる。
すなわち、上記実施例において、クラッチC1のキャンセル油室1cは、作動油供給路70を介して作動油供給源としての油圧制御装置50に接続されており、作動油供給路70からは、キャンセル油室1cよりも上流側でクラッチC3のキャンセル油室3cに作動油を供給するための油路73や、クラッチC2のキャンセル油室2cに作動油を供給するための油路72が分岐されている。このため、自動変速機25では、冷間状態で自動車10の走行が開始された後(冷間状態で自動車10が走行する際)に油温Toilがある程度高まって作動油の粘性が低下すると、クラッチC1のキャンセル油室1cよりも上流側で作動油供給路70から分岐された油路72,73が作動油が流入し易くなり、油温Toilが高まったにも拘わらず、却ってクラッチC1のキャンセル油室1cに充分な量の作動油が供給されなくなってしまうことがある。従って、このような構成を有する自動変速機25において、油温Toilが高いほどクラッチC1が解放される第5速および第6速の形成禁止時間を長くすれば、冷間状態で自動車10が走行する際にキャンセル油室1cを有するクラッチC1の引きずりが発生するのを極めて良好に抑制することが可能となる。
また、上記実施例では、作動油供給路70の中途に、クラッチC1のキャンセル油室1cよりも上流側で作動油を冷却するオイルクーラ71が配置されていることから、油温Toilがある程度高まっても、オイルクーラ71により冷却されることで作動油が当該オイルクーラ71で滞留しがちになって下流側に流れにくくなり、その結果、クラッチC1のキャンセル油室1cの油量が更に不足してしまうことがある。従って、このようなオイルクーラ71を含む構成において、油温Toilが高いほどクラッチC1が解放される第5速および第6速の形成禁止時間を長くすれば、冷間状態で自動車10が走行する際にキャンセル油室1cを有するクラッチC1の引きずりが発生するのを極めて良好に抑制することが可能となる。
更に、上記自動変速機25では、高速段側の第5速および第6速が形成された際に、解放されるクラッチC1の構成要素(クラッチドラム)が所定回転数以上で回転する。従って、このような自動変速機25において、油温Toilが高いほど第5速および第6速の形成禁止時間を長くすれば、解放されたクラッチC1の構成部材の回転に伴って係合側油室1e内で発生する遠心油圧をキャンセルし得なくなることにより当該クラッチC1の引きずりが発生してしまうのを極めて良好に抑制することが可能となる。ただし、上述のようにして形成が禁止される変速段は、キャンセル油室に作動油が充分に供給されていない状態で解放されたクラッチの構成部材が当該クラッチの引きずりを発生させるおそれがある回転数で回転する変速段であれば、必ずしも高速段側の変速段に限られない。
更に、上記実施例では、外気温Taが第1外気温Ta1以上であると共に油温Toilが第1油温Toil以下である冷間状態で自動車10の走行が行われると判断されると、自動変速機25の第5速および第6速の形成が禁止され、外気温Taが第1外気温Ta1よりも高い第2外気温Ta2以上になるか、あるいは油温Toilが第1油温Toilよりも高い第2油温Toil以上になると、第5速および第6速の形成が許容される。そして、上記実施例では、外気温Taが第2外気温Ta2未満であると共に油温Toilが第2油温Toil未満であり、かつ前進走行ポジションが選択されている場合、作動油の油温Toilが高いほど判定時間trefが長く設定される。そして、このような構成において、油温Toilが高いほどクラッチC1が解放される第5速および第6速の形成禁止時間を長くすれば、外気温Taや油温Toilが必要十分に高まって第5速および第6速の形成が許容されるまで、油温Toilが高いほど当該第5速および第6速の形成禁止時間を長くし、クラッチC1の引きずりが発生してしまうのを極めて良好に抑制することが可能となる。
なお、自動車10の走行(走行開始)に際して、自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止すべき冷間状態である否かは、外気温Taおよび油温Toilの何れか一方に基づいて定められてもよい。また、自動車10の典型的な走行態様等によっては、第5速や第6速の形成に伴ってクラッチC1が解放されても当該クラッチC1の構成部材(例えばクラッチドラム)が上記所定回転数以上で回転しない場合が多くなることもある。従って、自動車10の冷間状態での走行に際して、クラッチC1が解放される変速段のすべてを禁止しなくてもよく、自動車10の冷間状態での走行に際して例えば自動変速機25の第6速の形成のみを禁止してもよい。更に、外気温センサ100としては、エンジン12の吸気温度を検出するセンサを利用してもよく、この場合には、吸気温度と外気温度の乖離がなくなるように、ステップS120〜S140のすべてで肯定判断がなされると共に、更に車速Vが所定車速以上である場合に、自動変速機25の第5速および第6速の形成を禁止すべき冷間状態にあると判断するとよい。また、上記実施例では、外気温Taとして外気温センサ100により検出されたものを用いているが、これに限られるものではない、すなわち、外気温Taは、例えば図示しない冷却水温センサにより検出されるエンジン12の冷却水温から推定されてもよく、上記ステップS100では、このように推定された外気温Taを入力(取得)してもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、自動車10に搭載されると共に、それぞれ作動油が供給される係合側油室1eおよび遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室1cを有するクラッチC1を含む複数のクラッチC1〜C3およびブレーキB1,B2を選択的に係合させて複数の変速段を形成可能な自動変速機25の変速ECU21が「制御装置」に相当し、図7のステップS100における入力処理を実行する変速ECUが「外気温取得手段」および「油温取得手段」に相当し、図7のステップS120〜S140の処理を実行する変速ECU21が「冷間走行判定手段」に相当し、図7のステップS150〜S230の処理を実行する変速ECU21が「変速制限手段」に相当する。
ただし、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。