図1は、本発明の一実施例に係る自動変速機25を備えた動力伝達装置20の概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を左右の駆動輪(図示省略)に伝達するものであり、トランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容されるトルクコンバータ23、オイルポンプ24、自動変速機25、差動機構(デファレンシャルギヤ)29等を備える。
トルクコンバータ23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸26に接続された出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c等を含むものである。オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介してトルクコンバータ23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、オイルパン(図示省略)に貯留されている作動油(ATF)を吸引して図示しない油圧制御装置へと圧送する。
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、入力軸26や出力軸27に加えて、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30と、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1とを含む。自動変速機25の出力軸27は、中空に形成されており、ギヤ機構28および差動機構29を介して図示しない駆動輪に連結される。
第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリア34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリア34は、入力軸26に一体回転可能に接続されている。また、第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリア34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリア39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、出力軸27に接続されており、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリア39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持される。
クラッチC1は、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチ(係合要素)である。クラッチC2は、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリア39とを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC3は、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC4は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリア34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。ブレーキB1は、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキ(係合要素)である。ブレーキB2は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリア39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリア39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、図示しない油圧制御装置による作動油の給排を受けて動作する。図2に、自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。
図3は、自動変速機25を示す部分断面図である。同図に示すように、自動変速機25のクラッチC1,C3およびC4は、何れも多板摩擦式油圧クラッチとして構成されている。また、ブレーキB1は、一端がトランスミッションケース22に固定されると共に他端が図示しない油圧アクチュエータにより押圧されるブレーキバンド10を含むバンドブレーキとして構成されている。そして、自動変速機25は、クラッチC3(第1クラッチ)のクラッチドラムおよびブレーキB1のブレーキドラムとして兼用される有底円筒状のドラム部材11を含み、ドラム部材11の内部にクラッチC1、C3およびC4、並びに第1遊星歯車機構30が配置される。すなわち、ドラム部材11の内部には、クラッチC4(第2クラッチ)、第1遊星歯車機構30、クラッチC1(第3クラッチ)が図示しないエンジン側(図中右側)からこの順番で自動変速機25(ドラム部材11)の軸方向に並べて配置され、クラッチC3は、クラッチC4の外周側に配置される。なお、実施例のブレーキバンド10は、図示するように、いわゆる二重巻き構造を有するものである。
ドラム部材11は、インナードラム12と、インナードラム12の外周に固定されるアウタードラム(円筒部)15とを含む。インナードラム12は、金属材を切削加工することにより形成されており、自動変速機25の軸方向に延在する概ね円筒状の内筒部121と、内筒部121の一端(図中右端)から径方向外側に延出された環状の側壁部122とを有する。インナードラム12の内筒部121は、トランスミッションケース22と一体化されたオイルポンプ24のポンプカバーから延出されて入力軸26の外周側で当該入力軸26と平行に延在する中空のボス部24aにスリーブ13を介して回転自在に嵌合される。また、ボス部24aの遊端部は、ドラム部材11の長手方向略中央部付近に位置し、当該ボス部24aの遊端部とインナードラム12の内筒部121の遊端部(図中左端部)との間には1個のラジアルベアリング(第1のベアリング)91が配置される。これにより、ドラム部材11は、ラジアルベアリング91によりボス部24a(トランスミッションケース22)に対して回転自在に支持される。更に、インナードラム12の側壁部122からは、内筒部121とアウタードラム15との間に位置するように、短尺円筒状の固定部123が軸方向内側(図中左側)に延出されている。
ドラム部材11のアウタードラム15は、例えば円形の板材を回転させながら外周にスプライン形成用の歯型を有する金型にローラで押圧するフローフォーミングにより、内周側にスプライン151を有すると共に外周側にブレーキバンド10により締め付けられる円柱面状の係合面152を有するように形成されたものである。係合面152は、ブレーキバンド10の最大幅よりも長い軸長を有し、当該係合面152には、フローフォーミング加工後に平滑加工が施される。また、アウタードラム15の基端部は、径方向内側に延出されており、インナードラム12の側壁部122の外周に溶接により固定される。そして、アウタードラム15は、図示するように、その開口端部付近でスプライン151に嵌合される連結部材16を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに一体回転可能に連結される。
クラッチC1は、連結部材100を介して第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aに連結されるクラッチドラム101と、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と一体化されたクラッチハブ102と、クラッチドラム101の内周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の環状のクラッチプレート(相手板)103と、クラッチハブ102の外周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の環状のクラッチプレート(摩擦板)104と、クラッチプレート103,104を押圧可能なクラッチピストン105とを含む。クラッチピストン105は、連結部材100に形成された筒状部100aに摺動自在に嵌合され、当該連結部材100と共に係合側油室106を画成する。また、連結部材100の筒状部100aには、クラッチピストン105よりもエンジン側(図中右側)に位置するようにキャンセルプレート107が固定される。キャンセルプレート107は、クラッチピストン105と共に係合側油室106内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室108を画成し、クラッチピストン105とキャンセルプレート107との間には、リターンスプリング109が配置される。
クラッチC3は、上述のドラム部材11をクラッチドラムとして利用すると共に、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と一体化されたクラッチハブ102をクラッチC3と兼用するものである。そして、クラッチC3は、ドラム部材11のアウタードラム15の内周面に形成されたスプライン151に嵌合される複数の環状のクラッチプレート(相手板)303と、クラッチハブ102のスプラインに嵌合される複数の環状のクラッチプレート(摩擦板)304と、クラッチプレート303,304を押圧可能なクラッチピストン305とを含む。クラッチピストン305は、インナードラム12の側壁部122に形成された固定部123の外周に摺動自在に嵌合されると共に、アウタードラム15の内周面に形成されたスプライン151と係合し、インナードラム12およびアウタードラム15と共に係合側油室306を画成する。
また、ドラム部材11の側壁部122に形成された固定部123には、クラッチピストン305よりもクラッチC1側(図中左側)に位置するようにキャンセルプレート307が固定される。キャンセルプレート307は、クラッチピストン305と共に係合側油室306内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室308を画成し、クラッチピストン305とキャンセルプレート307との間には、リターンスプリング309が配置される。実施例の自動変速機25では、固定部123の遊端部の内周側から、図示しない円筒状の調心部が軸方向内側に延出されており、キャンセルプレート307の内周部は、当該調心部の外周に嵌合される。そして、キャンセルプレート307は、自動変速機25(ドラム部材11)の軸方向に延びるリベット14を介して固定部123に締結される。更に、キャンセルプレート307の外周とクラッチピストン305との間には、シール部材が配置される。
クラッチC4は、図3に示すように、径方向からみて少なくとも一部がクラッチC3と重なるように当該クラッチC3の内側に配置される。クラッチC4は、クラッチC3のキャンセルプレート307と共にリベット14を介してドラム部材11の固定部123に締結されるクラッチドラム401と、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリア34と一体化されたクラッチハブ402と、クラッチドラム401の内周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の環状のクラッチプレート(相手板)403と、クラッチハブ402の外周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の環状のクラッチプレート(摩擦板)404と、クラッチプレート403,404を押圧可能なクラッチピストン405とを含む。
クラッチピストン405は、インナードラム12の内筒部121の外周にシール部材を介して摺動自在に嵌合されると共に、クラッチドラム401の内周面に形成されたスプラインと係合し、インナードラム12の内筒部121および側壁部122と共に係合側油室406を画成する。更に、インナードラム12の内筒部121には、クラッチピストン405よりもクラッチC1側(図中左側)に位置するようにキャンセルプレート407が固定される。キャンセルプレート407は、クラッチピストン405と共に係合側油室406内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室408を画成し、クラッチピストン405とキャンセルプレート407との間には、リターンスプリング409が配置される。そして、クラッチC4の係合側油室406は、入力軸26やボス部24a、スリーブ13、インナードラム12の内筒部121等に形成された油路を介して図示しない油圧制御装置と接続される。また、クラッチC4のキャンセル油室408は、入力軸26やボス部24a、スリーブ13、インナードラム12の内筒部121等に形成された油路を介して油圧制御装置(ドレン油路)と接続される。
一方、図3に示すように、クラッチC3の係合側油室306やキャンセル油室308は、クラッチC4の外周側で係合側油室406やキャンセル油室408と径方向からみて重なっており、係合側油室306やキャンセル油室308に対してインナードラム12の内筒部121から作動油を直接給排することは困難である。このため、実施例の自動変速機25では、クラッチC3の係合側油室306やキャンセル油室308に作動油を給排可能とすべく、インナードラム12の側壁部122に径方向かつ放射状に延びる複数の第1油路124と、当該複数の第1油路124と軸方向からみて重ならないように交互に径方向かつ放射状に延びる複数の第2油路125とが形成されている。
各第1油路124は、入力軸26やボス部24a、スリーブ13、インナードラム12の内筒部121等に形成された油路を介して図示しない油圧制御装置と接続されると共に、インナードラム12の固定部123よりも外周側に位置するように側壁部122に形成された軸方向油路126を介して係合側油室306と連通する。また、各第2油路125は、入力軸26やボス部24a、スリーブ13、インナードラム12の内筒部121等に形成された油路を介して油圧制御装置(ドレン油路)と接続されると共に、インナードラム12の固定部123に形成された図示しない軸方向油路を介してキャンセル油室308と連通する。このように、第1油路124と第2油路125とをインナードラム12の側壁部122の内部の概ね同一平面上に形成することで、ドラム部材11ひいてはクラッチC3,C4の軸長の増加を抑制することができる。また、第1油路124と第2油路125とを軸方向からみて交互に形成することにより、環状の係合側油室306やキャンセル油室308に対して概ね均等に作動油を供給することが可能となる。なお、第1および第2油路124,125は、側壁部122の外周側から径方向内側に向けて孔部を穿設した後に、側壁部122の外周側に位置する当該孔部の開口部をプラグにより閉鎖することで容易に形成することができる。
また、ドラム部材11の内部には、上述のように、第1遊星歯車機構30がクラッチC1とクラッチC4との間に位置するように配置され、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、上述のボス部24aの内周側に配置されてトランスミッションケース22のスリーブ部を構成するスリーブ部材(ステータシャフト)240の遊端部(図3における左端部)に固定される。スリーブ部材240は、ボス部24aの内部にスプライン嵌合されて当該ボス部24aと一体化される。また、図4に示すように、スリーブ部材240の遊端部は、ボス部24aの遊端部よりも第2遊星歯車機構35側(図中左側)に突出しており、当該遊端部の外周面には、スプライン240sが形成されている。第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、スリーブ部材240のスプライン240sに嵌合されることでスリーブ部材240と一体化され、それによりトランスミッションケース22に対して回転不能に固定されることになる。更に、図4に示すように、スリーブ部材240の遊端面近傍には、スプライン240sを有さない欠歯部241が形成されており、欠歯部241には、外周側から斜めに面取り加工が施されている。そして、図4に示すように、スプライン240sのエンジン側(図中右側)の端面は、ボス部24aの端面と当接し、それによりスリーブ部材240の軸方向における移動(エンジン側への移動)が規制される。
図3および図4に示すように、スリーブ部材240は、ボス部24aの内周面と入力軸26の外周面との間に配置され、スリーブ部材240の内周側には、入力軸26を回転自在に支持するラジアルベアリング(第2のベアリング)92がドラム部材11の径方向からみて外周側のラジアルベアリング91と重なるように配置される。図4に示すように、ラジアルベアリング92は、入力軸26の外周面に形成された凹部26a内に配置される複数のコロ921と、スリーブ部材240の内周面と複数のコロ921との間に配置されるレース部材(アウターレース)922とを有するものである。また、図3に示すように、入力軸26に形成された鍔状部と第1遊星歯車機構30のサンギヤ31の端面(図中左側の端面)との間には、レース部材932を介してスラストベアリング(第3のベアリング)93が配置される。そして、サンギヤ31の歯部は、ラジアルベアリング91および92の外周側に配置されることになる。
また、スリーブ部材240の内周面には、ラジアルベアリング92のレース部材922の一側(図中右側)すなわちスリーブ部材240の内部に入り込む方向への移動を規制する段部242が形成されている。 更に、スリーブ部材240の遊端部、すなわちスプライン240sを有さない欠歯部241には、図5に示すように、当該欠歯部241を周方向に間隔をおいた複数箇所でカシメることにより複数(実施例では、90°間隔で4個)の抜止部245が形成される。図4から図6に示すように、各抜止部245は、欠歯部241からスリーブ部材240の軸心に向けて突出し、レース部材922の他側(図中左側)すなわちスリーブ部材240から抜け出す方向への移動を規制するように当該レース部材922の端面922aと当接可能なものである。すなわち、レース部材922の端面922aと抜止部245との間には、自動変速機25の作動停止時に、図6に示すように少なくとも軸方向の隙間Gが形成される。
上述のように、自動変速機25では、ブレーキB1のドラム部材11がスリーブ部材240の外周側すなわちボス部24aの外周側に配置されるラジアルベアリング91により回転自在に支持され、スリーブ部材240の内周側に配置されるラジアルベアリング92により回転部材としての入力軸26が回転自在に支持される。このように、ドラム部材11が1体のラジアルベアリング91により回転自在に支持される場合、当該ドラム部材11が振れた(傾いた)状態で回転することがある。そして、振れながら回転するドラム部材11がブレーキバンド10により締め付けられると、ドラム部材11からラジアルベアリング91に荷重が加えられ、更にラジアルベアリング91からボス部24aやスリーブ部材240を介して内周側のラジアルベアリング92に荷重が加えられ、当該ラジアルベアリング92のレース部材922に軸方向の力が印加されるおそれがある。このため、自動変速機25では、レース部材922の軸方向における両側への移動をスリーブ部材240により規制することができるように、当該スリーブ部材240に段部242や複数の抜止部245が形成される。これにより、ブレーキB1のドラム部材11の傾きに起因してレース部材922が軸方向に移動することによるラジアルベアリング92の性能低下を抑制すると共に、当該レース部材922が軸方向(図3中右側)に移動して例えばスラストベアリング93のレース部材932といった周辺の他の部材に当たることによる悪影響を抑制することが可能となる。
以上説明したように、実施例の自動変速機25は、クラッチC1〜C3,ブレーキB2、およびブレーキバンド10とドラム部材11とを有するバンドブレーキであるブレーキB1の径脱により複数の変速段を形成可能なものである。また、自動変速機25のトランスミッションケース22には、当該トランスミッションケース22の内部で自動変速機25の軸方向に延びる中空のスリーブ部材240が一体化されている。スリーブ部材240の外周側には、ドラム部材11を回転自在に支持するラジアルベアリング91が配置され、スリーブ部材240の内周側には、回転部材としての入力軸26を回転自在に支持するラジアルベアリング92が配置される。そして、ラジアルベアリング92は、入力軸26の外周面に形成された凹部26a内に配置される複数のコロ921と、スリーブ部材240の内周面と複数のコロ921との間に配置されるレース部材922とを有し、当該レース部材922の軸方向における両側への移動は、スリーブ部材240により規制される。
これにより、ブレーキB1のドラム部材11の傾きに起因してレース部材922が軸方向に移動することによるラジアルベアリング92の性能低下を抑制すると共に、当該レース部材922が軸方向に移動して例えばスラストベアリング93のレース部材932といった周辺の他の部材に当たることによる悪影響を抑制することが可能となる。ここで、ラジアルベアリング91および92がドラム部材11の径方向からみて重なるように配置される自動変速機25では、両者が重なり合っていない変速機に比べて外周側のラジアルベアリング91から内周側のラジアルベアリング92に加えられる荷重が大きくなる。従って、ラジアルベアリング91および92が径方向からみて重なるように配置される自動変速機25において、ラジアルベアリング92のレース部材922の軸方向における両側への移動をスリーブ部材240により規制することは極めて有用である。
また、上記実施例のスリーブ部材240は、レース部材922の一側すなわちスリーブ部材240の内部に入り込む方向への移動を規制するように内周面に形成された段部242と、レース部材922の他側すなわちスリーブ部材240から抜け出す方向への移動を規制するようにスリーブ部材240の欠歯部241(遊端部)から軸心に向けて突出する複数の抜止部245とを有する。これにより、ブレーキB1のドラム部材11の傾きに起因してレース部材922が軸方向における両側に移動するのをスリーブ部材240によって確実に抑制することが可能となる。
更に、上記実施例では、レース部材922と各抜止部245との間に、少なくとも軸方向の隙間Gが形成される。これにより、レース部材922は、基本的に各抜止部245と当接しないことになるので、各抜止部245によりレース部材922に歪みや変形が生じるのを抑制し、ラジアルベアリング92の性能を良好に維持することが可能となる。そして、ブレーキB1のドラム部材11の傾きに起因してレース部材922に軸方向に移動した際には、各抜止部245によりレース部材922の軸方向移動を良好に抑制することができる。
また、上記実施例において、各抜止部245は、スリーブ部材240の遊端面近傍の欠歯部(遊端部)241を周方向に間隔をおいた複数箇所でカシメることにより形成される。これにより、カシメにより抜止部245を容易に形成しつつ、スリーブ部材240の欠歯部241の全周に抜止部を形成する場合に比べてスリーブ部材240の遊端部の変形を良好に抑制することが可能となる。そして、欠歯部241には、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31が嵌合されるスプライン240sが無く、斜めに面取り加工が施される。これにより、スリーブ部材240の遊端面近傍の欠歯部241に容易に抜止部を形成することが可能となる。
更に、上記実施例では、スリーブ部材240の遊端部に第1遊星歯車機構30のサンギヤ31が一体回転可能に嵌合され、サンギヤ31と回転部材としての入力軸26との間には、ラジアルベアリング92と軸方向に並ぶようにスラストベアリング93が配置される。このように構成される自動変速機25において、ラジアルベアリング92のレース部材922の軸方向における両側への移動をスリーブ部材240により規制すれば、当該レース部材922が軸方向に移動してスラストベアリング93のレース部材932に当たることによる悪影響を良好に抑制することが可能となる。また、自動変速機25では、サンギヤ31の歯部がラジアルベアリング91および92の外周側に配置され、第1遊星歯車機構30のピニオンギヤ33a,33b、プラネタリキャリア34、リングギヤ32といった主要な要素もラジアルベアリング91および92の外周側に配置されることでドラム部材11内の部材間の隙間が特に径方向において狭まる。これに対して、上述のようにレース部材922の軸方向における両側への移動をスリーブ部材240により規制すれば、当該レース部材922の軸方向における移動を規制するためのスペースがドラム部材11の径方向において増加するのを抑制することができる。従って、ブレーキB1のドラム部材11の内部に第1遊星歯車機構30が配置される自動変速機25において、レース部材922の軸方向における両側への移動をスリーブ部材240により規制することは極めて有用である。
なお、上述のドラム部材11は、アウタードラム15のみがフローフォーミングにより形成されるものであるが、側壁部122に油路を形成する必要がないような場合には、ドラム部材11の全体をフローフォーミングにより形成してもよいことはいうまでもない。また、クラッチドラム401やキャンセルプレート307は、リベット14の代わりに、ボルトおよびナットを介してドラム部材11に締結されてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、ブレーキバンド10およびブレーキドラムとしてのドラム部材11を有するバンドブレーキであるブレーキB1やクラッチC1〜C3、ブレーキB2と、トランスミッションケース22とを含む自動変速機25が「変速装置」に相当し、トランスミッションケース22と一体化されると共に当該トランスミッションケース22の内部で自動変速機25の軸方向に延びるスリーブ部材240が「スリーブ部」に相当し、スリーブ部材240の外周側に配置されてドラム部材11を回転自在に支持するラジアルベアリング91が「第1のベアリング」に相当し、スリーブ部材240の内部に配置される入力軸26が「回転部材」に相当し、入力軸26の凹部26a内に配置される複数のコロ921およびスリーブ部材240の内周面と複数のコロ921との間に配置されるレース部材922を有すると共に入力軸26を回転自在に支持するラジアルベアリング92が「第2のベアリング」に相当し、スリーブ部材240の内周面にレース部材922の一側への移動を規制するように形成された段部242が「段部」に相当し、レース部材922の他側への移動を規制するようにスリーブ部材240の遊端部の欠歯部241から軸心に向けて突出する抜止部245が「抜止部」に相当し、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31と入力軸26との間にラジアルベアリング92と軸方向に並ぶように配置されるスラストベアリング93が「第3のベアリング」に相当する。
ただし、実施例等の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例等が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例等はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。