以下、添付図面を参照しながら本発明に係る建具の好適な実施の形態について詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である建具を示したものである。ここで例示する建具は、開口枠10とドア20とを備え、ドア20の戸尻側下端部と開口枠10との間に介在させた下方ヒンジ装置30及びドア20の戸尻側上端部と開口枠10との間に介在させた上方ヒンジ装置40により、開口枠10に対してドア20を鉛直方向に沿った回転軸心Cを中心として室外側に開くように開閉可能に支持させたものである。また、この建具は、ドア20の戸先側に電気錠50を内蔵しており、電気錠50の駆動により開口枠10に対して施解錠を行うことが可能である。尚、図には明示していないが、本実施の形態1で適用する電気錠50は、従前のものと同様、配線ケーブル51を通じて供給される電源によって駆動し、ドア20の戸先面からデッドボルトを出没させるように構成されたものである。
開口枠10は、水平方向に沿って延在する上枠11及び下枠12と、鉛直方向に沿って延在する左右一対の縦枠13,14とを四周枠組みすることによって構成した矩形の枠状を成すものである。図2に示すように、ドア20の戸尻側に位置する縦枠14には、室内側に位置する縁部にカバーヒレ部15が設けてある。カバーヒレ部15は、縦枠14の縁部からもう一方の縦枠13に向けて突出した薄板状部分であり、ドア20が開いた際に戸尻面を覆うように機能するものである。
ドア20は、図には明示していないが、上框、下框及び左右一対の縦框を四周框組みすることによって構成した框の表裏両面をそれぞれ面材21によって覆うことにより構成したもので、図1に示すように、開口枠10を閉塞することのできる大きさに構成してある。
これらの開口枠10とドア20との間に適用する下方ヒンジ装置30及び上方ヒンジ装置40は、いわゆるピボットヒンジタイプのものである。本実施の形態1で例示する下方ヒンジ装置30及び上方ヒンジ装置40は、図3及び図4に示すように、それぞれが互いに上下に対向する一対のヒンジブラケット(ヒンジ要素)31,32,41,42を備え、一方のヒンジブラケット31,41に設けた支軸33,43を他方のヒンジブラケット32,42に回転可能に支持させることによって一対のヒンジブラケット31,32,41,42が互いに回転可能に接続されたものである。
下方ヒンジ装置30は、図3に示すように、支軸(以下、「下方支軸33」という)を有した下側のヒンジブラケット(以下、「下方下部ヒンジブラケット31」という)を下枠12の上面に設ける一方、下方挿通孔32aを有した上側のヒンジブラケット(以下、「下方上部ヒンジブラケット32」という)をドア20の下面に設けて構成してある。この下方ヒンジ装置30は、下方支軸33の下端部外周部にカラー部材34を装着した状態で下方支軸33の上端部を下方上部ヒンジブラケット32の下方挿通孔32aに嵌合させることにより、下方下部ヒンジブラケット31及び下方上部ヒンジブラケット32が下方支軸33の軸心を中心として互いに回転可能となるように構成してある。
下方支軸33は、下方下部ヒンジブラケット31の上面から鉛直方向に沿って上方に突出している。カラー部材34は、下枠12の上面とドア20の下面との間に隙間を確保するためのものであり、下端が下方下部ヒンジブラケット31の上面に当接し、かつ上端が下方上部ヒンジブラケット32の下面に当接している。
上方ヒンジ装置40は、図4に示すように、支軸(以下、「上方支軸43」という)を有した下側のヒンジブラケット(以下、「上方下部ヒンジブラケット41」という)をドア20の上面に設ける一方、上方挿通孔42aを有した上側のヒンジブラケット(以下、「上方上部ヒンジブラケット42」という)を上枠11の下面に設けることによって構成したものである。この上方ヒンジ装置40は、上方支軸43の外周部に係合部材44を装着し、係合部材44を介して上方支軸43を上方上部ヒンジブラケット42の上方挿通孔42aに嵌合させることにより、上方上部ヒンジブラケット42及び上方下部ヒンジブラケット41が上方支軸43の軸心を中心として互いに回転可能となるように構成してある。
上方支軸43は、上方下部ヒンジブラケット41の上面から鉛直方向に沿って上方に突出した円柱状部材であり、その軸心を下方挿通孔32aの軸心に合致させた位置に配設してある。上方支軸43の長さは、カラー部材34を介して下方支軸33の上端部を下方上部ヒンジブラケット32の下方挿通孔32aに挿通させた場合、上方支軸43の上端面の位置が、図6に示すように、上枠11の下面から距離xだけ離隔した位置となるように設定してある。
係合部材44は、両端が開口し、かつ上方支軸43とほぼ同じ長さを有した円筒状部材であり、上方支軸43の全長に渡る部位に摺動可能に嵌合している。係合部材44には、両端部の外周にそれぞれ係合部44aが設けてある。係合部44aは、係合部材44の両端外周面から外方に向けて突出したフランジ状部分であり、それぞれ係合部材44の全周に設けてある。
図2、図5、図7−1、図7−2、図8に示すように、上方ヒンジ装置40の上方上部ヒンジブラケット42は、第1ブラケット部421と第2ブラケット部422とを備えて構成してある。
第1ブラケット部421は、矩形の板状を成す基板部421aと、基板部421aの4つの辺からそれぞれ同一方向に向けて略直角に屈曲した4つの周壁部421bと、互いに平行となる2つの周壁部421bから相互に離反するように略直角に屈曲して延在したネジ締結部421c及び一対の爪部421dとを一体に成形したものである。周壁部421bの高さは、図6に示すように、個々の端面を上枠11の下面に当接させた場合に、基板部421aにおいて上枠11の下面に対向する面が上述の距離xよりも大きくなるように設定してある。
第1ブラケット部421には、図2、図5、図7−1、図7−2、図8に示すように、基板部421aのほぼ中央となる部位からネジ締結部421cを設けた周壁部(以下、区別する場合に「開放周壁部421b」という)に渡る部位に挿通溝孔421eが設けてある。挿通溝孔421eは、一端部が基板部421aのほぼ中央となる部位で閉塞する一方、開放周壁部421bにおいて第1ブラケット部421の周囲に開口する溝状の切欠であり、係止孔部421e1と挿入孔部421e2とを有している。
係止孔部421e1は、基板部421aのほぼ中央となる部位から開放周壁部421bに至る直前の部位までに形成した部分である。本実施の形態1の係止孔部421e1は、屈曲した形状を成しているが、全長が同じ幅に形成してある。挿入孔部421e2は、開放周壁部421bから係止孔部421e1に連続するように形成した部分であり、係止孔部421e1よりも大きな幅に形成してある。図8に示すように、係止孔部421e1の幅d1は、上方支軸43に嵌合させた係合部材44の円筒部分を挿通可能とする一方、係合部材44の係合部44aを挿通不可とする寸法である。係止孔部421e1の閉塞端部は、係合部材44の円筒部分に嵌合する大きさの半円形状に形成してある。挿入孔部421e2の幅d2は、係合部材44の係合部44aを挿通可能とする幅である。この第1ブラケット部421は、図2、図5、図7−1、図7−2、図8に示すように、挿通溝孔421eの挿入孔部421e2をドア20の戸先側に対向する縦枠13に向け、かつ一対の爪部421dをそれぞれ上枠11の係合孔(図示せず)に挿入した後、ネジ締結部421cのネジ挿通孔421fを介して上枠11の下面にネジBを締結することにより、開口枠10の上枠11に取り付けられる。上枠11に取り付けられた第1ブラケット部421は、係止孔部421e1の閉塞端部に形成した半円部分の中心が、下枠12に設けた下方支軸33の軸心に合致している。
第2ブラケット部422は、矩形の板状を成す挟持板部422aと、挟持板部422aの1つの辺から略直角に屈曲した立壁部422bと、立壁部422bから略直角に屈曲して延在したカバー部422cとを一体に成形したものである。挟持板部422a及びカバー部422cは、立壁部422bに対して互いに反対の方向に向けて延在しており、挟持板部422aによって第1ブラケット部421の基板部421aを覆った場合に、カバー部422cによって第1ブラケット部421のネジ締結部421cを覆うことが可能である。
第2ブラケット部422には、挟持板部422aに係合溝孔422d及びフック部422eが設けてある。係合溝孔422dは、挟持板部422aの周囲に開口する切欠であり、第1ブラケット部421に形成した挿通溝孔421eの係止孔部421e1と同じ幅に形成してある。この係合溝孔422dの閉塞端部は、第2ブラケット部422の挟持板部422aによって第1ブラケット部421の基板部421aを覆い、かつカバー部422cによって第1ブラケット部421のネジ締結部421cを覆った場合に、第1ブラケット部421に形成した係止孔部421e1の半円部分との間に係合部材44の円筒部分に嵌合する円形の孔を形成するように半円形状に形成してある。フック部422eは、挟持板部422aから立壁部422bと同じ方向に突出した後、突出端部が略直角に屈曲したもので、挟持板部422aを切り起こして形成してある。このフック部422eは、挟持板部422aによって第1ブラケット部421の基板部421aを覆い、かつカバー部422cによって第1ブラケット部421のネジ締結部421cを覆った場合に、第1ブラケット部421の基板部421aに形成した挿通溝孔421eを通過し、屈曲した突出端部が基板部421aに対向できる位置に設けてある。
これら第1ブラケット部421及び第2ブラケット部422を備えた上方上部ヒンジブラケット42に対して係合部材44を装着した上方支軸43を回転可能に支持させるには、まず、上枠11に第1ブラケット部421のみを取り付けた状態で、図7−1に示すように、挿通溝孔421eの挿入孔部421e2から係合部材44の円筒部分を挿通させる。この状態から、図7−2に示すように、第2ブラケット部422の挟持板部422aによって第1ブラケット部421の基板部421aを覆うとともに、カバー部422cによって第1ブラケット部421のネジ締結部421cを覆った状態でカバー部422cのネジ挿通孔422fを介して上枠11の下面にネジBを締結すれば、第1ブラケット部421の基板部421aに形成した挿通溝孔421eと第2ブラケット部422の挟持板部422aに形成した係合溝孔422dとの間に構成される上方挿通孔42aにより係合部材44を回転可能に支持することが可能となる。
上記のようにして上方支軸43を上方上部ヒンジブラケット42の上方挿通孔42aに支持させた状態においては、図1に示すように、上方ヒンジ装置40及び下方ヒンジ装置30によってドア20の上端面から下端面に渡る位置に回転軸心Cを設定した状態で開口枠10に対してドア20が室外側に向けて開くように回転可能に支持されることになる。
ここで、第1ブラケット部421の係止孔部421e1に係合部材44を介して上方支軸43を挿通させた状態を維持し、さらに第2ブラケット部422を第1ブラケット部421に重ね合わせた状態を維持しながら上枠11にネジBを締結する作業は必ずしも容易ではない。しかしながら、上述した上方ヒンジ装置40によれば、第2ブラケット部422にフック部422eを設けるようにしているため、図7−1及び図7−2に示すように、フック部422eを第1ブラケット部421の基板部421aに係合させれば、第2ブラケット部422から手を離した場合にも第2ブラケット部422が第1ブラケット部421に係合された状態を維持する。従って、第2ブラケット部422を支持しながらネジBを締結する必要が無くなり、第2ブラケット部422を取り付ける作業を容易化することができるようになる。
しかも、図4、図9−1、図9−2に示すように、上方支軸43に対して係合部44aを有した係合部材44が軸方向に移動可能であるため、第1ブラケット部421の挿入孔部421e2から係止孔部421e1に係合部材44を挿通させる際に係合部44aが邪魔になることもない。すなわち、上方支軸43に対して係合部材44を上方に移動させれば、係合部材44の係合部44aと第1ブラケット部421の基板部421aとの間に大きな隙間を確保することができるため、挿入孔部421e2への挿入作業を容易化することができる。さらには、第1ブラケット部421の係止孔部421e1に挿通させた後においては、係合部材44を上方支軸43に対して下方に移動させれば、基板部421aからの突出高さを抑えることができるため、上方ヒンジ装置40の上下方向に沿った寸法が増大する事態を招来することもない。
またさらに、係合部材44の係合部44aが第1ブラケット部421の基板部421aに対向した状態にあるため、図9−1に示すように、施工精度のばらつきにより、上枠11に設けた上方上部ヒンジブラケット42とドア20の上面に設けた上方下部ヒンジブラケット41との相互間隔が大きく構成された場合、あるいは図9−2に示すように、地震等の災害時に開口枠10が外力によって変形し、上方上部ヒンジブラケット42と上方下部ヒンジブラケット41との相互間隔がさらに大きく拡大した場合にも、基板部421aが係合部44aに当接することにより上方支軸43に対して係合部材44が適宜上方に移動することになり、上方上部ヒンジブラケット42の上方挿通孔42aから逸脱することがなく、開口枠10からドア20が脱落する事態を防止することができる。
ところで、ピボットヒンジタイプの下方ヒンジ装置30及び上方ヒンジ装置40により、ドア20の上端面から下端面に渡る位置に設定された回転軸心Cを中心として開口枠10にドア20を回転可能に支持させた建具にあっては、ドア20の開閉状態によってドア20の戸尻と開口枠10の縦枠14との間の隙間が大きく変化することはなく、開口枠10に対してドア20を支持させた後では電気錠50に対する配線ケーブル51を開口枠10からドア20に敷設することが困難となる。
このため、上述の建具においては、図5及び図6に示すように、上枠11の下面において上方上部ヒンジブラケット42よりも戸先側となる位置に係止ブラケット60を設けるようにしている。係止ブラケット60は、図10に示すように、矩形の板状を成す取付プレート部61と、取付プレート部61の一側縁から略直角に屈曲した屈曲プレート部62と、屈曲プレート部62の突出端縁から取付プレート部61に対向するように略直角に屈曲した係止プレート部63とを一体に成形したものである。係止プレート部63には、先端部に収容部63aが形成してある。収容部63aは、上方支軸43に装着した係合部材44の円筒部分に嵌合することのできる略半円形状の切欠である。収容部63aの両側となる部位には、それぞれスリット63bが形成してある。この係止ブラケット60は、図5及び図6に示すように、取付プレート部61を介して上枠11にネジBを締結することにより、係止プレート部63が上枠11の下面から離隔した位置においてほぼ水平に延在するように取り付けられる。
係止ブラケット60を取り付ける位置は、図5に示すように、上方上部ヒンジブラケット42の第1ブラケット部421に形成した挿通溝孔421eの開口延長上に対して室外側であり、下方ヒンジ装置30の下方支軸33を下方上部ヒンジブラケット32の下方挿通孔32aに挿通させた状態で、図11−1から図11−2に示すように、ドア20を傾斜状態から引き起こした場合に、上方支軸43に装着した係合部材44の係合部44aが係止プレート部63よりも上方となる位置である。係止ブラケット60の向きは、室内側に向けて収容部63aが開口するように配置してある。
上記のように上枠11に係止ブラケット60を取り付けた建具によれば、下方ヒンジ装置30の下方支軸33を下方上部ヒンジブラケット32の下方挿通孔32aに挿通させた状態で、図11−1から図11−2に示すように、ドア20を傾斜状態から引き起こした後、上方支軸43を収容部63aに嵌合させると、ドア20と戸尻側に位置する縦枠14との間の上方部にスペースを確保した状態で開口枠10にドア20を一時的に支持させることができる。従って、ドア20と開口枠10との間のスペースを利用することにより、ドア20に内蔵した電気錠50に対する配線ケーブル51の敷設作業を一人でも容易に、かつ確実に実施することが可能となる。
開口枠10の縦枠14から導出した配線ケーブル51は、図2及び図12に示すように、縦枠14とカバーヒレ部15とによって構成される三角柱状の内角部に沿って敷設した後、ドア20の戸尻面から内部の電気錠50に敷設することが好ましい。すなわち、カバーヒレ部15を設けた開口枠10にあっては、ドア20を開いた際にドア20の戸尻面を覆い隠することができるものの、縦枠14とカバーヒレ部15との間の内角部がデッドスペースとなる。従って、この内角部に配線ケーブル51を敷設すれば、建具のスペースを有効利用することができる。さらに、縦枠14とカバーヒレ部15との間にカバー部材16を配置すれば、配線ケーブル51が外部に露出する部分を少なくすることができ、建具の外観品質を損なう恐れがない。
尚、上述した実施の形態1では、上方支軸43に係合部材44を配設しているため、施工状態のばらつきや開口枠10の変形時にもドア20が開口枠10から脱落する事態を防止することができるが、係合部材44は必ずしも必要ではない。
また、上方ヒンジ装置40の上方上部ヒンジブラケット42を第1ブラケット部421及び第2ブラケット部422から成るものを例示しているが、必ずしもこれに限定されず、例えば単にプレート状を成すものを適用しても良い。
さらに、上述した実施の形態1では、ドア20が室外側に開くように構成した建具を例示しているが、本発明はこれに限定されず、例えば室内において部屋を仕切る壁の出入り口に設けられる建具としてももちろん適用可能である。
(実施の形態2)
上述したように、実施の形態1では、上方ヒンジ装置とは別個の係止ブラケットを上枠に設けることによって係止手段を構成している。しかしながら、本発明は必ずしも上方ヒンジ装置と係止手段とを別個に設ける必要はなく、以下に示す実施の形態2の建具のように、上方ヒンジ装置に係止手段の機能を兼用させることも可能である。
図13−1〜図13−3、図14−1、図14−2は、上方ヒンジ装置に係止手段の機能を兼用させた建具を示したものである。ここで例示する建具は、実施の形態1と同様、開口枠10と、電気錠50を内蔵したドア20とを備え、下方ヒンジ装置30及び上方ヒンジ装置40により、開口枠10に対してドア20を鉛直方向に沿った回転軸心Cを中心として室外側に開くように開閉可能に支持させたもので(図1参照)、実施の形態1とは上方上部ヒンジブラケット142の詳細構成が異なっている。
以下、実施の形態2の建具について、実施の形態1との相違点を中心に説明を行う。尚、実施の形態2において実施の形態1と同様の構成に関しては、同一の符号を付してそれぞれの詳細説明を省略する。
上方ヒンジ装置40は、図15及び図16に示すように、上方支軸43を有した上方下部ヒンジブラケット41をドア20の上面に設ける一方、上方挿通孔142aを有した上方上部ヒンジブラケット142を上枠11の下面に設けることによって構成したものである。この上方ヒンジ装置40では、係合部材44を介して上方支軸43を上方上部ヒンジブラケット142の上方挿通孔142aに嵌合させることにより、上方上部ヒンジブラケット142及び上方下部ヒンジブラケット41が上方支軸43の軸心を中心として互いに回転可能となるように構成してある。
上方支軸43は、上方下部ヒンジブラケット41の上面から鉛直方向に沿って上方に突出した円柱状部材であり、その軸心を下方挿通孔32a(図3参照)の軸心に合致させた位置に配設してある。上方支軸43の長さは、下方ヒンジ装置30の下方上部ヒンジブラケット32と下方下部ヒンジブラケット31とが互いに係合状態にある場合、上方支軸43の上端面の位置が、図16に示すように、上枠11の下面から距離xだけ離隔した位置となるように設定してある。
図13−1〜図13−3、図14−1、図14−2に示すように、上方ヒンジ装置40の上方上部ヒンジブラケット142は、第1ブラケット部1421と第2ブラケット部1422とを備えて構成してある。
第1ブラケット部1421は、矩形の板状を成す基板部1421aと、基板部1421aの4つの辺からそれぞれ同一方向に向けて略直角に屈曲した4つの周壁部1421bと、周壁部1421bの一つから外方に向けて略直角に屈曲して延在したネジ締結部1421cとを一体に成形したものである。周壁部1421bの高さは、図16に示すように、個々の端面を上枠11の下面に当接させた場合に、基板部1421aにおいて上枠11の下面に対向する面が上述の距離xよりも大きくなるように設定してある。
図13−1〜図13−3、図14−1、図14−2に示すように、第1ブラケット部1421には、挿通溝孔1421e及び鈎部挿入孔1421gが設けてある。
挿通溝孔1421eは、基板部1421aのほぼ中央となる部位からネジ締結部1421cを設けた周壁部(以下、区別する場合に「開放周壁部1421b」という)に渡る部位に形成した溝状の開口である。この挿通溝孔1421eは、一端部が基板部1421aにおいて閉塞する一方、開放周壁部1421bにおいて第1ブラケット部1421の周囲に開口したもので、図14−1及び図14−2に示すように、係止孔部1421e1と挿入孔部1421e2とを有している。
係止孔部1421e1は、基板部1421aのほぼ中央となる部位から開放周壁部1421bに至る直前の部位までに形成した部分である。本実施の形態2の係止孔部1421e1は、屈曲した形状を成しているが、全長が同じ幅に形成してある。挿入孔部1421e2は、開放周壁部1421bから係止孔部1421e1に連続するように形成した部分であり、係止孔部1421e1よりも大きな幅に形成してある。図14−2に示すように、係止孔部1421e1の幅d3は、上方支軸43に嵌合させた係合部材44の円筒部分を挿通可能とする一方、係合部材44の係合部44aを挿通不可とする寸法である。係止孔部1421e1の閉塞端部は、係合部材44の円筒部分に嵌合する大きさの半円形状に形成してある。挿入孔部1421e2の幅d4は、係合部材44の係合部44aを挿通可能とする幅に形成してある。
鈎部挿入孔1421gは、開放周壁部1421bに対向する周壁部1421bと基板部1421aとの接合部に形成した開口である。この鈎部挿入孔1421gは、挿通溝孔1421eに比べて小さい幅を有したもので、基板部1421aの一方の隅部に偏った位置に形成してある。
この第1ブラケット部1421は、図15及び図16に示すように、挿通溝孔1421eの挿入孔部1421e2をドア20の戸先側に対向する縦枠13に向けた状態でネジ締結部1421cのネジ挿通孔1421fを介して上枠11の下面にネジを締結することにより、開口枠10の上枠11に取り付けられる。上枠11に取り付けられた第1ブラケット部1421は、係止孔部1421e1の閉塞端部に形成した半円部分の中心が、下枠12に設けた下方支軸33(図3参照)の軸心に合致している。
さらに、第1ブラケット部1421には、図13−1〜図13−3、図14−1、図14−2に示すように、係止当接部1421hが設けてある。係止当接部1421hは、ネジ締結部1421cの延在端部から略直角に屈曲し、開放周壁部1421bに対向してほぼ平行に延在する平板状部分である。この係止当接部1421hは、ネジ締結部1421cよりも小さい幅を有したもので、図15に示すように、開放周壁部1421bをドア20の戸先側に対向する縦枠13に向けて配置した場合にネジ締結部1421cにおいて室外側に位置する部位にオフセットするように設けてある。図16に示すように、係止当接部1421hの突出寸法は、第1ブラケット部1421を上枠11の下面に取り付けた場合の突出量が上述の距離xよりも大きくなるように設定してある。
一方、第2ブラケット部1422は、図13−1〜図13−3、図14−1、図14−2に示すように、カバー部1422a、立壁部1422b、挿入挟持板部1422c、係止鈎部1422dを一体に成形したものである。カバー部1422aは、第1ブラケット部1421のネジ締結部1421cと同じ幅で、ほぼ1/2程度の長さの矩形板状を成すものである。このカバー部1422aには、第1ブラケット部1421のネジ締結部1421cに形成したネジ挿通孔1421fと同じピッチでネジ挿通孔1422eが形成してある。
立壁部1422bは、カバー部1422aの長辺となる縁部のほぼ中央部から略直角に屈曲した部分である。立壁部1422bの幅は、第1ブラケット部1421に形成した挿入孔部1421e2よりも小さく、係止孔部1421e1よりも大きな寸法となるように形成してある。
挿入挟持板部1422cは、立壁部1422bの屈曲端部からカバー部1422aとは反対側に向けて略直角に屈曲し、カバー部1422aに対してほぼ平行となる平面に沿って延在する平板状部分である。この挿入挟持板部1422cは、その全長が第1ブラケット部1421の挿入孔部1421e2に挿入可能となる一様な幅に形成してある。但し、図14−2からも明らかなように、平面に対して直交する方向から挿入挟持板部1422cを見た場合には、中央部を境に基端部分と先端部とが互いにオフセットして延在している。挿入挟持板部1422cがオフセットする方向は、第1ブラケット部1421に形成した挿通溝孔1421eの屈曲方向と逆向きである。図15に示すように、挿入挟持板部1422cは、開放周壁部1421bの挿通溝孔1421eから挿入して第1ブラケット部1421の基板部1421aに重ね合わせた場合、中央のオフセット部分が挿通溝孔1421eの挿入孔部1421e2との間に上方上部ヒンジブラケット142の上方挿通孔142aを構成することになる。
係止鈎部1422dは、挿入挟持板部1422cの先端縁から突出した後、突出端部から略直角に屈曲した部分であり、第1ブラケット部1421の鈎部挿入孔1421gに挿通可能となる幅に形成してある。
上記の構成を有する第2ブラケット部1422では、カバー部1422aに対して挿入挟持板部1422cが十分長く形成されており、図13−3に示すように、その重心位置Gが立壁部1422bよりも挿入挟持板部1422c側に位置する部位に設定されている。従って、挿入挟持板部1422cを介して第2ブラケット部1422を載置面上に置いた場合には、カバー部1422aが載置面から離隔することになるが、安定した状態で載置させておくことが可能である。
これら第1ブラケット部1421及び第2ブラケット部1422を備えた上方上部ヒンジブラケット142に対して係合部材44を装着した上方支軸43を回転可能に支持させるには、まず、上枠11に第1ブラケット部1421のみを取り付けた状態で、図14−2に示すように、挿通溝孔1421eの挿入孔部1421e2から係合部材44の円筒部分を挿通させる。
この状態から、第2ブラケット部1422の挿入挟持板部1422cを挿通溝孔1421eに挿入し、係止鈎部1422dを第1ブラケット部1421の鈎部挿入孔1421gに挿入させる。さらに、カバー部1422aによって第1ブラケット部1421のネジ締結部1421cを覆い、この状態からカバー部1422aのネジ挿通孔1422e及び第1ブラケット部1421のネジ挿通孔1421fを介して上枠11の下面にネジを締結すれば、第1ブラケット部1421の基板部1421aに形成した挿通溝孔1421eと第2ブラケット部1422の挿入挟持板部1422cとの間に構成される上方挿通孔142aによって係合部材44を回転可能に支持することが可能となる。
上記のようにして上方支軸43を上方上部ヒンジブラケット142の上方挿通孔142aに支持させた状態においては、上方ヒンジ装置40及び下方ヒンジ装置30によってドア20の上端面から下端面に渡る位置に回転軸心Cを設定した状態で開口枠10に対してドア20が室外側に向けて開くように回転可能に支持されることになる(図1参照)。
ここで、第1ブラケット部1421の係止孔部1421e1に係合部材44を介して上方支軸43を挿通させた状態を維持し、さらに第2ブラケット部1422を第1ブラケット部1421に重ね合わせた状態を維持しながら上枠11にネジを締結する作業は必ずしも容易とはいえない。
しかしながら、上述した上方ヒンジ装置40によれば、第2ブラケット部1422の挿入挟持板部1422cを第1ブラケット部1421の挿通溝孔1421eから挿入して基板部1421aの上面に載置させる構成であり、しかも、第2ブラケット部1422は、その重心位置Gが立壁部1422bよりも挿入挟持板部1422c側に位置する部位に設定されたものである。さらには、挿入挟持板部1422cの先端に設けた係止鈎部1422dを第1ブラケット部1421の鈎部挿入孔1421gに挿入させることにより、挿入挟持板部1422cが第1ブラケット部1421から脱落する方向の移動が規制された状態となる。従って、振動が加えられたとしても、第2ブラケット部1422が第1ブラケット部1421から脱落することはなく、第2ブラケット部1422を支持しながらネジを締結する必要もなくなるため、第2ブラケット部1422を取り付ける作業を容易化することができるようになる。
加えて、上方上部ヒンジブラケット142の第1ブラケット部1421に形成した係止当接部1421hは、第1ブラケット部1421を上枠11に取り付けた場合、図15に示すように、上枠11の見込み方向に沿って延在し、かつ上枠11の室外側に位置する縁部から下方に突出した薄板状の当接ヒレ部11aとの間に直角状のコーナ部を構成することになる。従って、下方ヒンジ装置30の下方支軸33を下方上部ヒンジブラケット32の下方挿通孔32aに挿通させた状態で、ドア20を傾斜状態から引き起こす場合、その途中においてコーナ部に上方支軸43を配置させれば、ドア20と戸尻側に位置する縦枠14との間の上方部にスペースを確保した状態で開口枠10にドア20を一時的に支持させることが可能となる。従って、このドア20と開口枠10との間のスペースを利用することにより、ドア20に内蔵した電気錠50に対する配線ケーブル51(図1参照)の敷設作業を一人でも容易に、かつ確実に実施することが可能となる。
尚、上述した実施の形態2では、上方支軸43に係合部材44を配設しているため、施工状態のばらつきや開口枠10の変形時にもドア20が開口枠10から脱落する事態を防止することができるが、係合部材44は必ずしも必要ではない。
また、上方ヒンジ装置40の上方上部ヒンジブラケット142を第1ブラケット部1421及び第2ブラケット部1422から成るものを例示しているが、必ずしもこれに限定されず、例えば単にプレート状を成すものを適用しても良い。
さらに、上述した実施の形態2では、上枠11の縁部から下方に向けて突出した当接ヒレ部11aに上方支軸43を当接させるようにしているが、必ずしも上枠11に当接ヒレ部11aを設ける必要はなく、例えば、ヒンジブラケットに設ける係止当接部をL字状に形成することにより、上方支軸43に対して周方向に沿った互いに異なる2位置に同時に当接させることも可能である。
なお、上述した実施の形態2では、ドア20が室外側に開くように構成した建具を例示しているが、本発明はこれに限定されず、例えば室内において部屋を仕切る壁の出入り口に設けられる建具としてももちろん適用可能である。