発明の詳細な説明
本発明がより容易に理解され得るために、特定の用語を最初に定義する。追加の定義は、詳細な記載を通じて示されている。
I.定義
用語「ErbB3」、「HER3」、「ErbB3受容体」、および「HER3受容体」とは、本明細書で互換可能に使用されるとき、米国特許第5,480,968号、およびPlowmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:4905−4909(1990)に記載されているヒトErbB3タンパク質を呼び;また、Kaniら、Biochemistry 44:15842−857(2005),ChoおよびLeahy,Science 297:1330−1333(2002))を参照されたい。完全長の、成熟ヒトErbB3タンパク質配列(リーダー配列を含まない)は、配列番号73に示される。この配列は、図4と、米国特許第5,480,968号の配列番号4から、成熟タンパク質から切断される19アミノ酸リーダー配列を引いた配列とに相当する。
用語「EGF様リガンド」とは、本明細書で使用するとき、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)のリガンドをいい、それには、上皮細胞増殖因子(EGF)および密接に関連したタンパク質、例えば形質転換増殖因子−α(TGFα)、ベータセルリン(BTC)、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子(HB−EGF)、ビレグリン(BIR)およびアンフィレグリン(AR)が含まれ、それらは、細胞表面のEGFRに結合して、受容体の内在性タンパク質−チロシンキナーゼ活性を刺激する。典型的には、EGF様リガンドは、EGFRとErbB3タンパク質との複合体の形成を誘導し(例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195を参照されたい)、複合体のチロシン残基のリン酸化をもたらす。
本明細書に開示されている好ましい抗体およびその抗原結合部分は、EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化を阻害し、特定の実施形態では1以上の下記の追加の特性を示す:(i)ErbB3を介した、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリンのうちの1以上に媒介されるシグナル伝達の阻害;(ii)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(iii)細胞表面のErbB3のレベルを減少させる能力;(iv)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(v)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(vi)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(vii)ErbB3の外部ドメインのドメインIに位置したエピトープ、例えば、成熟ErbB3のアミノ酸配列(配列番号73)の残基1〜183を含むまたは該部分にわたる、より好ましくは配列番号73の残基92〜129または93〜104を含むまたは該部分にわたる、より好ましくは配列番号73の残基92、93、101、102、104および129または残基93、101、102、および104を含むまたは該部分にわたるエピトープとの特異的結合。そのような一抗体、Ab#6は、MM−121として第1相臨床試験が現在実施されている。
用語「阻害」とは、本明細書で用いるとき、活性の完全なブロックを含む生物活性のいずれかの統計学的に有意な減少をいう。例えば、「阻害」は、生物活性における約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の減少をいうことができる。
したがって、句「EGF様リガンドを介したErbB3のリン酸化の阻害」とは、本明細書で使用するとき、非処理(対照)細胞におけるリン酸化と比較して、EGF様リガンドによって誘導されたErbB3のリン酸化を統計的に有意に減少させる、抗体または抗原結合部分の能力をいう。ErbB3を発現している細胞は、自然に存在している細胞または細胞系統であってもよく、あるいは、宿主細胞へのErbB3をコードする核酸を導入することによって組換え的に生成されてもよい。一実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または約100%までEGF様リガンドによって媒介されるErbB3のリン酸化を阻害し、それは、例えば、Kimら(1998)Biochem J.,334:189−195、並びに以下の実施例に記載されるウェスタンブロッティング、続く、抗ホスホチロシン抗体を用いた探査によって測定される。
句「ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンに媒介されるシグナル伝達の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下(対照)でのシグナル伝達と比較して、ErbB3を通したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリン)によって媒介されたシグナル伝達を統計的に有意に減少させる、抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。また、ErbB3リガンドは、本明細書では「ヘレグリン様リガンド」とも称される。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下において、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3を発現細胞における、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンおよびビレグリンのうちの1以上によって媒介されるシグナルが統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3リガンド媒介のシグナルは、ErbB3基質、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルまたは活性を評価することによって測定することができる。一実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3基質のレベルもしくは活性、および/またはErbB3と関係する細胞カスケードに存在するタンパク質のレベルもしくは活性を、そのような抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)でのレベルまたは活性と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させる。このようなErbB3リガンド媒介のシグナル伝達は、ErbB3の基質(例えば、SHCもしくはPI3K)、またはErbB3と関係する細胞カスケードのタンパク質(例えば、AKT経路−AKTは、タンパク質キナーゼBまたはPKBとも称される一組のセリン/スレオニンキナーゼをいう)を、このようなタンパク質のためのキナーゼアッセイを用いて測定する当技術分野で認識されている技術を用いて測定することができる(例えば、Horstら.上掲,Sudoら(2000)Methods Enzymol,322:388−92;およびMorganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767を参照されたい)。
特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3へのErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上)の結合を阻害することによって、ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。いくつかのリガンド(例えば、ビレグリン、人工キメラリガンド:Barbacciら,J Biol Chem 1995 270(16)9585−9)は、EGF様リガンド(すなわち、EGFR/ErbB1に結合する)として、並びにErbB3様リガンド(すなわち、ErbB3に結合する)として両方に機能する。
句「ErbB3とのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下での結合(対照)と比較して、ErbB3とのErbB3リガンド(例えば、1以上のヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下で、対照(抗体なし)と比較して、ErbB3に結合するErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の量が統計的に有意に減少されることを意味する。ErbB3を結合するErbB3リガンドの量は、本開示の抗体またはその抗原結合部分の存在下で、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)での量と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少させることができる。ErbB3リガンドの結合の減少は、抗体またはその抗原結合部分の存在下または非存在下(対照)で、ErbB3を発現している細胞への標識されたErbB3リガンド(例えば、放射線標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合レベルを測定する当分野で認識される技術を用いて測定することができる。
句「ErbB3を発現している細胞の増殖の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下での増殖と比較して、ErbB3を発現している細胞の増殖を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。一実施形態では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の増殖は、細胞が本開示の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)で測定された増殖と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少され得る。細胞増殖は、(例えば、CellTiter−Glo(登録商標)アッセイまたはチミジン取り込みを用いて)細胞***の速度、細胞***を行っている細胞集団内の細胞の分画、および/または最終分化もしくは細胞死による細胞集団からの細胞損失の率を測定する当分野で認識されている技術を用いて評価することができる。
句「細胞表面のErbB3レベルを減少させる能力」とは、本明細書で使用するとき、非処理(対照)細胞と比較して、抗体に晒された細胞の表面に見いだされるErbB3の量を統計的に有意に低下させる抗体またはその抗原結合部分の能力を指す。例えば、細胞表面のErbB3のレベルの減少は、ErbB3の内在化の増加(またはErbB3のエンドサイトーシスの増加)に起因する場合がある。一実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)での細胞表面発現または内在化と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3の細胞表面発現を減少させ、および/または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%までErbB3受容体の内在化を増加させる。抗体またはその抗原結合部分の非存在下および存在下で細胞表面のErbB3のレベルおよび/またはErbB3受容体の内在化は、当分野で認識されている技術、例えば、Horstら、上掲、および本明細書の実施例に記載される技術を用いて容易に測定することができる。
句「ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下でのVEGF分泌と比較して、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。一実施形態では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌は、細胞が本開示の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)で測定されたVEGF分泌と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。VEGF分泌は、本明細書に記載される技術などの当分野で認識されている技術を用いて評価することができる。
句「ErbB3を発現している細胞の移動の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下での細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。一実施形態では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本開示の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)で測定された細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの当分野で認識されている技術を用いて評価することができる
句「ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害」とは、本明細書で使用するとき、抗体の非存在下での細胞の移動と比較して、ErbB3を発現している細胞の移動を統計的に有意に減少させる抗体またはその抗原結合部分の能力をいう。一実施形態では、ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の移動は、細胞が本開示の抗体またはその抗原結合部分と接触されると、抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)で測定される細胞移動と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または100%まで減少されてもよい。細胞移動は、本明細書に記載される技術などの当分野で認識されている技術を用いて評価することができる。
用語「抗体」または「免疫グロブリン」は、本明細書で互換可能に使用するとき、全抗体、その任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)またはその一本鎖を含む。典型的な「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、3つのドメインであるCH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLから構成されている。VHおよびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在した、相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRから構成され、それらは、下記:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で、アミノ末端からカルボキシ末端に整列されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)、および古典的な補体系の第1成分(C1q)などの宿主組織または因子との免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本開示の典型的な抗体には、抗体#1、3、6および14、並びにその抗原結合部分が含まれる。
抗体の「抗原結合部分」(または、単に「抗体部分」)なる用語は、本明細書で使用するとき、抗原(例えば、ErbB3)に特異的に結合する能力を保持している抗体の1以上の断片をいう。抗体の抗原結合機能は、全長の抗体の断片によって行われ得ることが示された。抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1のドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHおよびCH1のドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHのドメインからなるFv断片、(v)VHおよびVLのドメインを含むdAb;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989)Nature 341,544−546);(vii)VHまたはVLのドメインからなるdAb;および(viii)単離された相補性決定領域(CDR)、または(ix)場合により合成リンカーによって接続されてもよい2以上の単離されたCDRの組み合わせが挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、一価の分子を形成させるためにVLおよびVH領域が対となる単一のタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242,423−426;並びに、Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85,5879−5883、を参照されたい)としてそれらを作製することができる合成リンカーによって接続され得る。また、このような一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」なる用語に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に知られている従来技術を用いて得られ、断片は、インタクトな抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって生成することができる。
用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書で使用するとき、実質的に均質な抗体の集団から得られるまたは調製される抗体をいう。すなわち、この集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る自然に存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であって、単一の抗原部位に対して作られる。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対して作られる様々な抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、典型的に抗原の単一の決定基に対して作られる。モノクローナル抗体は、任意の当分野で認識されている技術、および本明細書に記載されている技術、例えば、Kohlerら(1975)Nature,256:495に記載されるハイブリドーマ法、例えば、(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859を参照されたい)によって記載されるトランスジェニック動物、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)を用いて、または、例えば、Clacksonら、Nature,352:624−628(1991)、並びに、Marksら、J.Mol.Biol,222:581−597(1991)に記載される技術を用いるファージ抗体ライブラリーを用いて調製することができる。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体が含まれ、自然に存在するかまたは組換え的に生成されてもよい。
用語「組換え抗体」とは、組換え手法によって調製、発現、作製または単離された抗体をいい、例えば、(a)免疫グロブリン遺伝子(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)に対してトランスジェニックであるかもしくは導入染色体である動物(例えば、マウス)、またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するために形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマから単離された抗体、(c)ファージディスプレイを用いた組換え、コンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒト抗体配列を含む)から単離された抗体、(d)他のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列(例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子)のスプライシグを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製または単離された抗体が挙げられる。このような組換え抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列から得られる可変領域および定常領域を含んでもよい。しかしながら、特定の実施形態では、このような組換えヒト抗体は、インビトロの変異誘発に供することができ、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列のVHおよびVL配列に由来し、およびそれらと関連するが、インビボでのヒト抗体の生殖細胞系列レパートリーには、自然に存在しない場合がある。
用語「キメラ免疫グロブリン」または「キメラ抗体」とは、可変領域が第1の種由来であり、定常領域が第2の種由来である免疫グロブリンまたは抗体をいう。キメラ免疫グロブリンまたはキメラ抗体は、例えば、遺伝子操作によって、異種に属する免疫グロブリン遺伝子のセグメントから構築することができる。
用語「ヒト抗体」とは、本明細書で使用するとき、フレームワーク領域とCDR領域との両方が、例えば、Kabatら(Kabatら(1991)Sequences of proteins of Immunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242を参照されたい)によって記載されるヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である可変領域を有する抗体を含むことが意図される。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列由来である。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含んでいてもよい。しかしながら、用語「ヒト抗体」とは、本明細書で使用するとき、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトのフレームワーク配列に移入された抗体を含むことは意図されない。
ヒト抗体は、アミノ酸残基、例えば、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていない、活性を高めるアミノ酸残基で置換された少なくとも1以上のアミノ酸を有することができる。典型的には、ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列の部分ではないアミノ酸残基で置換された最大20箇所を有することができる。特定の実施形態では、これらの置換は、下記に詳述されるように、CDR領域内にある。
用語「ヒト化免疫グロブリン」または「ヒト化抗体」とは、少なくとも1つのヒト化免疫グロブリンまたは抗体鎖(すなわち、少なくとも1つのヒト化軽鎖または重鎖)を含む免疫グロブリンまたは抗体をいう。用語「ヒト化免疫グロブリン鎖」または「ヒト化抗体鎖」(すなわち、「ヒト化免疫グロブリン軽鎖」または「ヒト化免疫グロブリン重鎖」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体に由来する可変フレームワーク領域、および実質的には非ヒト免疫グロブリンまたは抗体に]由来する複数の相補性決定領域(CDR)(例えば、少なくとも1つのCDR、好ましくは2つのCDR、より好ましくは3つのCDR)を含み、さらに、定常領域(例えば、軽鎖の場合には少なくとも1つの定常領域またはその部分、好ましくは重鎖の場合には3つの定常領域)を含む可変領域を有する免疫グロブリンまたは抗体鎖(すなわち、それぞれ軽鎖または重鎖)をいう。用語「ヒト化可変領域」(例えば、「ヒト化軽鎖可変領域」または「ヒト化重鎖可変領域」)とは、実質的にヒト免疫グロブリンまたは抗体に由来する可変フレームワーク領域、および実質的に非ヒト免疫グロブリンまたは抗体に由来する複数の相補性決定領域(CDR)を含む可変領域をいう。
「二重特異性」または「二機能性」の抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の連結を含む種々の方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,(1990)Clin.Exp.Immunol.79,315−321;Kostelnyら(1992)J.Immunol.148,1547−1553を参照されたい。特定の実施形態では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とIGF1−R(すなわち、インスリン様増殖因子1−受容体)との両方に対する結合部位を含む。別の実施形態では、本発明に係る二重特異性抗体は、ErbB3とC−METとの両方に対する結合部位を含む。他の実施形態では、二重特異性抗体は、ErbB3に対する結合部位、およびErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFR、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、または任意のFGF受容体に対する結合部位を含む。
本明細書で使用するとき、「異種抗体」は、このような抗体を生成するトランスジェニック非ヒト生物または植物に関して定義される。
「単離された抗体」とは、本明細書で使用するとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体(例えば、ErbB3に特異的に結合する単離された抗体は、ErbB3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)をいうことが意図される。さらに、単離された抗体は、典型的には、他の細胞の材料および/またはタンパク質を実質的に含まない。本発明の一実施形態では、異なるErbB3結合特異性を有する「単離された」抗体の組み合わせは、明確な組成物に組み合わせられる。
本明細書で使用するとき、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)をいう。一実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、またはIgE抗体アイソタイプから選択されるアイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。一部の実施形態では、抗体は、IgG1アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。他の実施形態では、抗体は、IgG2アイソタイプの抗体またはその抗原結合部分である。
本明細書で使用するとき、「アイソタイプスイッチ」とは、抗体のクラス、またはアイソタイプが、1つのIgクラスから他のIgクラスのうちの1つに変化する現象をいう。
本明細書で使用するとき、「非スイッチアイソタイプ」とは、アイソタイプスイッチが起こらない場合に生成される重鎖のアイソタイプクラスをいう;非スイッチアイソタイプをコードするCH遺伝子は、典型的には、機能的に再配列されたVDJ遺伝子からすぐ下流にある第1のCH遺伝子である。アイソタイプスイッチは、古典的または非古典的なアイソタイプスイッチとして分類されている。古典的なアイソタイプスイッチは、抗体をコードする遺伝子の少なくとも1つのスイッチ配列領域を含む組換え事象によって発生する。非古典的なアイソタイプスイッチは、例えば、ヒトσμとヒトΣμ(δ−関連欠失)との間の相同組換えによって発生する場合がある。とりわけ、トランスジーン間および/または染色体間の組換えなどの代替の非古典的なスイッチ機序が発生し、アイソタイプスイッチを生じさせる場合がある。
本明細書で使用するとき、用語「スイッチ配列」とは、スイッチ組換えに関与するそれらのDNA配列をいう。「スイッチドナー」配列、典型的にはμスイッチ領域は、スイッチ組換え中に欠失されるコンストラクト領域の5'(すなわち、上流)である。「スイッチアクセプター」領域は、欠失されるコンストラクト領域と置換定常領域(例えば、γ、εなど)との間にある。組換えがいつも起こる特定の部位は存在しないため、最終の遺伝子配列は、典型的には、コンストラクトから予測され得ない。
「抗原」は、抗体またはその抗原結合部分が結合する実体(例えば、タンパク性実体またはペプチド)である。本明細書で開示される種々の実施形態では、抗原は、ErbB3またはErbB3様分子である。本発明に係る特定の実施形態では、抗原はヒトErbB3である。
用語「エピトープ」または「抗原決定基」とは、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位をいう。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両者から形成され得る。隣接アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露に対して保持され、そこでは三次折り畳みによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理に対して消失する。エピトープは、典型的には、独自の空間構造の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間構造を測定する方法には、当技術分野における技術、および本明細書に記載される技術、例えば、X線結晶学および2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,G.E.Morris,Ed.(1996)を参照されたい。
また、そのアミノ酸配列が本明細書に開示される抗体、すなわち、ErbB3との結合に競合する抗体と同じエピトープまたは重複しているエピトープに結合する抗体、または本明細書に記載される抗体によって結合されるエピトープ、すなわち、ErbB3の外部ドメイン上、好ましくはErbB3の外部ドメインのドメインI上に位置したエピトープと重複するエピトープに結合する抗体が本発明に包含される。同じエピトープを認識する抗体は、例えば標的抗原との別の抗体の結合をブロックする1つの抗体の能力を示すことによる免疫アッセイ、すなわち、競合結合アッセイなどの日常的な技術を用いて同定することができる。競合結合は、試験用の免疫グロブリンがErbB3などの共通の抗原との参照抗体の特異的結合を阻害するアッセイにおいて測定される。多数のタイプの競合結合アッセイが知られている。例えば、固相直接または間接放射免疫アッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素免疫アッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら(1983)Methods in Enzymology 9:242を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら(1986)J.Immunol.137:3614を参照されたい);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow and Lane,(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい);I−125標識を用いた固相直接標識RIA(Morelら(1988)Mol.Immunol.25(1):7を参照されたい);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら(1990)Virology 176:546);および直接標識RIA(Moldenhauerら(1990)Scand J.Immunol.32:77)が挙げられる。典型的には、このようなアッセイは、これらの非標識試験免疫グロブリンおよび標識参照免疫グロブリンのいずれかを持つ固体表面または細胞に結合された精製された抗原(例えば、ErbB3)の使用を伴う。競合阻害は、試験免疫グロブリンの存在下で、固体表面または細胞に結合された標識量を測定することによって測定される。通常、試験免疫グロブリンは、過剰に存在している。通常、競合抗体が過剰に存在する場合、少なくとも50〜55%、55〜60%、60〜65%、65〜70%70〜75%以上まで、参照抗体による共通抗原との特異的結合を阻害する。
用語「パラトープ」とは、抗体が特異的に結合する抗原上のエピトープを認識して接触することに直接的に関与するようにみえる抗体の部分、またはアミノ酸残基をいう。パラトープは、典型的には、重鎖および軽鎖の相補性決定領域(CDR)内のすべてのアミノ酸残基ではなくその一部を含む。パラトープは、VHとVLのCDRのすべて、またはCDRの一部のみ(例えば、特定のCDRは、抗原を結合することに関与しないこともある)においてアミノ酸残基を含むことがある。特定の抗原のためのパラトープは、例えば、表面に露出され(例えば結晶モデリングによって測定されたとき)、およびおそらく抗原結合に関与すると思われる抗体内、特にCDR内のアミノ酸残基の系統的変異導入法(たとえばアラニン置換)によって規定されることができる。次いで、変異体の抗原との結合を評価することで、変異アミノ酸の位置が抗原結合に関与し、かつ抗体のパラトープの一部を形成しているかどうかを決定することができる。抗体パラトープを決定する方法を、実施例20でさらに詳細に記述する。
好ましい実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号63もしくは76(CDR1)、64(CDR2)および65(CDR3)にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖パラトープを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の好ましい実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号69もしくは78(CDR1)、70(CDR2)および71もしくは80(CDR3)に示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖パラトープを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号63、64および65にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖パラトープと、ならびに配列番号69、70および71にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖パラトープとを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号76、64および65にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖パラトープと、配列番号78、70および80にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖パラトープとを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
相補性決定領域(CDR)に関し本明細書で用いるとき、用語「コンセンサス配列」とは、CDRのコンポジット配列または総称化配列をいう。これはCDR内のアミノ酸残基が、抗原結合を損なわずに改変を受け入れられることに関する情報に基づいて規定された。したがって、CDRの「コンセンサス配列」では、特定のアミノ酸位置は、その位置での複数の可能なアミノ酸残基のうちの1つによって占有される。例えば、CDR内で、抗原結合が特定の位置でチロシンまたはフェニルアラニンのいずれかの存在に影響を受けないことがわかった場合、該コンセンサス配列内のその特定の位置は、チロシンまたはフェニルアラニンのいずれか(T/F)であり得る。CDRのコンセンサス配列は、例えば、抗体CDR内のアミノ酸残基についての系統的変異導入法(例えば、アラニン置換)によって、続いてその変異アミノ酸位置が抗原結合に影響を及ぼすかどうかを決定するために、その変異体の抗原との結合を評価することによって規定され得る。抗体CDRコンセンサス配列を決定する方法を、実施例20でさらに詳細に記述する。
好ましい実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号60または75(CDR1)、61(CDR2)および62(CDR3)それぞれ示されるコンセンサス重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域を含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の好ましい実施形態では、抗ErbB3抗体は、配列番号66または77(CDR1)、67(CDR2)および68または79(CDR3)それぞれ示されるコンセンサス軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域を含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の実施形態では、配列番号60、61および62にそれぞれ示されるコンセンサス重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号66、67および68にそれぞれ示されるコンセンサス軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域とを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
別の実施形態では、配列番号75、61および62にそれぞれ示されるコンセンサス重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号77、67および79にそれぞれ示されるコンセンサス軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域とを含み、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
本明細書で使用するとき、用語「特異的結合」、「特異的に結合する」、「選択的結合」、および「選択的に結合する」とは、抗体またはその抗原結合部分が特定の抗原またはエピトープへの感知できる親和性を示し、かつ通常、他の抗原およびエピトープとは有意な交差反応を示さないことを意味する。「感知できる」または好ましい結合には、少なくとも106、107、108、109M−1、または1010M−1の親和性を有する結合が含まれる。107M−1を超える親和性、好ましくは108M−1を超える親和性がより好ましい。また、本明細書に記載されている値の中間の値も本発明の範囲内にあることが意図され、好ましい結合親和性は、親和性の範囲、例えば、106〜1010M−1、好ましくは107〜1010M−1、より好ましくは108〜1010M−1として指示され得る。「有意な交差反応を示さない」抗体は、望ましくない実体(例えば、望ましくないタンパク性実体)に感知できるほどに結合されないものである。例えば、一実施形態では、ErbB3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分は、そのErbB3分子に感知できるほどに結合するが、他のErbB分子および非ErbBタンパク質またはペプチドとは有意に反応しない。特異的または選択的結合は、このような結合を決定するための任意の当分野で認識されている手段にしたがって、例えば、スキャッチャード分析および/または競合結合アッセイにしたがって測定することができる。
用語「KD」とは、本明細書で使用するとき、好ましくは、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIACORE 3000装置(GE Healthcare)で分析物として組換えErbB3、およびリガンドとして抗体を用いることで測定するように)または細胞結合アッセイを用いて測定するとき、特定の抗体−抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に対する抗体の親和性をいうことが意図される。これら両アッセイを以下の実施例3に詳述する。一実施形態では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、50nMまたはそれよりも良好な(すなわちそれよりも小さい)(例えば、40nMまたは30nMまたは20nMまたは10nMまたはそれよりも小さい)親和性(KD)で、抗原(例えば、ErbB3)に結合する。特定の実施形態では、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分は、8nMまたはそれよりも良好な(例えば、7nM、6nM、5nM、4nM、2nM、1.5nM、1.4nM、1.3nM、1nMまたはそれ未満)親和性(KD)で、ErbB3に結合する。他の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、約10−7M未満、例えば、約10−8M、10−9Mもしくは10−10M未満またはそれよりもさらに低い親和性(KD)で、抗原(例えば、ErbB3)に結合し、かつ所定の抗原または密接に関連した抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)との結合に対する親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で所定の抗原に結合する。
用語「Koff」とは、本明細書で使用するとき、抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関するoff速度定数をいうことが意図される。
用語「EC50」とは、本明細書で使用するとき、インビトロアッセイまたはインビボアッセイのいずれかにおいて、最大応答の50%、すなわち、最大応答とベースラインとの間の中間である、応答を誘導する抗体またはその抗原結合部分の濃度をいう。
本明細書で使用するとき、「グリコシル化パターン」は、タンパク質、より具体的には免疫グロブリンタンパク質に共有結合で結合される炭水化物単位のパターンとして定義される。
用語「自然に存在する」とは、本明細書で使用するとき、被験体に適用される場合、被験体が自然に見出され得る事実を指す。例えば、有機体(ウイルスを含む)に存在し、自然の供給源から単離することができ、実験室にいる者によって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は自然に存在する。
用語「再配列された」とは、本明細書で使用するとき、重鎖または軽鎖の免疫グロブリン遺伝子座の立体配置をいい、ここで、Vセグメントは、それぞれ完全なVHまたはVLドメインを本質的にコードする立体配座におけるD−JまたはJセグメントに直接隣接して位置される。再配列された免疫グロブリン遺伝子座は、生殖細胞系列DNAと比較することによって同定することができる;再配列された遺伝子座は、少なくとも1つの組み換えられた7量体/9量体の相同エレメントを有する。
用語「再配列されていない」または「生殖細胞系列の立体配置」とは、Vセグメントと関連して本明細書で使用するとき、VセグメントがDまたはJセグメントと直接隣接するようには組み換えられていない立体配置をいう。
用語「核酸分子」とは、本明細書で使用するとき、DNA分子およびRNA分子を含むことが意図される。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
用語「単離された核酸分子」とは、ErbB3に結合する抗体または抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関連して本明細書で使用するとき、抗体または抗体部分をコードするヌクレオチド配列が、ErbB3以外の抗原に結合する抗体をコードする他のヌクレオチド配列を含まない核酸分子をいうことが意図され、その場合、他の配列は、ヒトゲノムDNAの核酸の側面に自然に位置してもよい。
用語「改変すること」または「改変」とは、本明細書で使用するとき、抗体またはその抗原結合部分において1以上のアミノ酸を変化させることをいうことが意図される。この変化は、1以上の位置でアミノ酸を付加、置換または欠失させることによって生じさせることができる。この変化は、PCR変異誘発などの知られている技術を用いて生じさせることができる。例えば、一部の実施形態では、本開示の方法を用いて同定された抗体またはその抗原結合部分は改変され、それによって、ErbB3に対する抗体またはその抗原結合部分の結合親和性を改変することができる。
また、本発明は、本発明の抗体またはその断片の配列における「保存的アミノ酸置換」、すなわち、抗原すなわちErbB3に対する、ヌクレオチド配列によってコードされるかまたはアミノ酸配列を含む抗体の結合を無効にしない、該ヌクレオチドおよび該アミノ酸の配列改変を含む。保存的アミノ酸置換には、同じクラスのアミノ酸による、あるクラスのアミノ酸の置換が含まれ、この場合、クラスは、例えば、標準的なDayhoff頻度交換マトリックスまたはBLOSUMマトリックスによって測定すると、自然に見いだされる相同タンパク質における共通の物理化学的なアミノ酸配列特性および高い置換頻度によって規定される。アミノ酸側鎖の6個の一般的なクラスが分類され、クラスI(Cys);クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly);クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu);クラスIV(His、Arg、Lys);クラスV(Ile、Leu、Val、Met);クラスVI(Phe、Tyr、Trp)を含む。例えば、Asn、Gln、またはGluなどの別のクラスIII残基によるAspの置換は、保存置換である。このようにして、抗ErbB3抗体における予測された非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じクラスから得られる別のアミノ酸残基により置換される。抗原結合を除去しないアミノ酸保存置換を同定する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Brummellら、Biochem.32:1180−1187(1993);Kobayashiら.Protein Eng.12(10):879−884(1999);並びに、Burksら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:412−417(1997)を参照されたい)。
用語「非保存的アミノ酸置換」とは、別のクラスから得られるアミノ酸を用いた1つのクラスのアミノ酸の置換をいう:例えば、Asp、Asn、Glu、またはGlnなどのクラスIII残基を用いて、クラスII残基であるAlaの置換が挙げられる。
あるいは、別の実施形態では、変異(保存または非保存)は、飽和変異誘発によるなどの抗ErbB3抗体をコードする配列の全部または一部に沿って、無作為に導入することができ、得られた改変抗ErbB3抗体は、結合活性についてスクリーニングされ得る。
「コンセンサス配列」は、関連する配列のファミリーにおける最も頻繁に発生するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列である(例えば、Winnaker,From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim,Germany 1987)を参照されたい。タンパク質のファミリーでは、コンセンサス配列の各位置は、ファミリーのその位置で最も頻繁に発生するアミノ酸によって占有される。2つのアミノ酸は等しく頻繁に発生する場合、いずれかがコンセンサス配列に含まれ得る。免疫グロブリンの「コンセンサスフレームワーク」とは、コンセンサス免疫グロブリン配列のフレームワーク領域をいう。
同様に、CDRに対するコンセンサス配列は、そのCDRアミノ酸配列が本明細書で開示されるErbB3抗体のCDRアミノ酸配列の最適アラインメントによって誘導されることができる。
核酸に関して、用語「実質的な相同性」とは、2つの核酸、またはその指定された配列が、最適に整列および比較された場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失を含み、ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常、ヌクレオチドの少なくとも約90%〜95%、およびより好ましくは少なくとも約98%〜99.5%で同一であることを示す。あるいは、実質的な相同性は、鎖の相補体に対して、セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする場合に存在する。
2つの配列間の同一性パーセントは、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数(すなわち、相同性%=同一の位置の数/位置の全体の数×100)であり、ギャップの数、および各ギャップの長さを考慮して、2つの配列の最適アラインメントに対して導入される必要がある。配列の比較、および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、下記の非制限的な実施例に記載されるように、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdna CMPマトリックス、および40、50、60、70、または80のギャップ重量、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量を用いて、GCGソフトウェアのGAPプログラムを使用して測定することができる。また、2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、PAM120重量残基表、12のギャップ長ペナルティおよび4のギャップペナルティを用いて、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれた、E.MeyersおよびW.Miller(CABIOS,4:11−17(1989))のアルゴリズムを用いて決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、並びに16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重量、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量を用いて、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれた、NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.(48):444−453(1970))アルゴリズムを用いて決定できる。
さらに、本開示の核酸およびタンパク質の配列は、例えば、関連した配列を同定するために、公的なデータベースに対する検索を実施するための、「クエリー配列」として用いることができる。このような検索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実行可能である。BLASTヌクレオチド検索は、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行可能である。BLASTタンパク質検索は、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行可能である。比較を目的としたギャップアライメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402に記載されているように利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。
核酸は、全細胞、細胞溶解物、または部分的に精製されたかもしくは実質的に純粋な形態で存在してもよい。核酸は、標準的な技術、例えば、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知である他の技術によって、他の細胞成分または他の混入物、例えば他の細胞の核酸またはタンパク質から切り離して精製された場合、「単離されている」または「実質的に純粋の状態にある」。F.Ausubelら、編集,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照されたい。
本開示の核酸組成物は、多くの場合、cDNA、ゲノムまたはそれらの混合物のいずれから天然の配列(改変された制限部位などを除く)にあるが、遺伝子配列を与えるために標準的な技術に従って変異させることができる。コード配列については、これらの変異は、目的どおりにアミノ酸配列に影響を与えることができる。特に、天然のV、D、J、定常、スイッチ、および本明細書に記載される他のこのような配列に実質的に相同であるかまたはそれらに由来するDNA配列が意図される(この場合、「由来する」は、配列が別の配列と同一であるかまたは改変されることを示す)。
用語「操作可能に連結されている」とは、別の核酸配列と機能的な関連性があるように配置されている核酸配列をいう。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現される場合、このDNAは該ポリペプチドのDNAに操作可能に連結されている;プロモーターまたはエンハンサーが、コード配列の転写に影響を与える場合、それらは該コード配列に操作可能に連結されている;またはリボソーム結合部位が、翻訳を促進するように位置されている場合、それはコード配列に操作可能に連結されている。一般的に、「操作可能に連結されている」とは、連結されるDNA配列が隣接し、分泌リーダーの場合には、隣接し、読み取られる状態にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、都合のよい制限部位での連結によって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーは、従来の実施に従って用いられる。核酸は、別の核酸配列と機能的な関連性があるように置かれている場合に「操作可能に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コード配列に操作可能に連結されている。転写制御配列に関して、操作可能に連結されているとは、連結されているDNA配列が隣接し、2つのタンパク質の翻訳領域を連結することが必要なところでは、隣接し、読み取りフレームにあることを意味する。スイッチ配列に関して、操作可能に連結されているとは、配列がスイッチ組換えをもたらすことができることを示す。
用語「ベクター」とは、本明細書で使用するとき、それが連結されている別の核酸の輸送を可能にする核酸分子をいうことが意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、付加的なDNAセグメントが連結されてもよい環状二本鎖DNAループをいう。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントはウイルスゲノムに連結され得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞中での自律複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよく、それにより宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、特定のベクターは、それらが操作可能に連結されている遺伝子の発現を指向することが可能である。このようなベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術における有用性のある発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。用語「プラスミド」および「ベクター」は、互換可能に用いられてもよい。しかしながら、本発明は、同等の機能を供給するウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などのこのような他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
用語「組換え宿主細胞」(または、単に「宿主細胞」)とは、本明細書で使用するとき、組換え発現ベクターが導入される細胞をいうことが意図される。そのような用語が特定の従属する細胞にだけでなくそのような細胞の子孫をいうことが意図されることを理解すべきである。特定の改変は、変異または環境の影響のいずれかにより、続く世代において発生する場合があるため、このような子孫は、実際に、親細胞と同一でなくてもよいが、なおも、本明細書で使用する用語「宿主細胞」の範囲内に含まれる。
用語「処置する」、「処置すること」、および「処置」とは、本明細書で使用するとき、本明細書に記載される治療的処置または予防措置をいう。「処置」の方法は、疾患もしくは障害または再発性の疾患もしくは障害の1以上の症状を予防、治癒、遅延、重症度の減少、または改善するために、あるいは、このような処置がない場合に期待されるものを超えて被験体の生存を延長するために、被験体に、例えば、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患または障害を患っている被験体、またはこのような疾患または障害を患い易い被験体への本明細書に開示される抗体または抗原結合部分の投与に使用する。
用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」、または「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した障害」には、本明細書で使用するとき、ErbB3のレベル上昇および/またはErbB3が関与した細胞カスケードの活性化が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。ErbB3は、ErbB3のレベル上昇が見られる場合に、EGFRおよびErbB2などの他のErbBタンパク質と異種二量化するものと理解されている。したがって、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」にも、EGFR/ErbB3および/またはErbB2/ErbB3異種二量体のレベル上昇が見られる疾患状態および/または疾患状態と関連した症状が含まれる。一般に、用語「ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患」とは、ErbB3の関与を必要とする任意の障害、症状の開始、進行または持続をいう。例示的なErbB3媒介の障害には、限定されないが、例えば、癌が含まれる。
用語「癌」および「癌性」とは、典型的には、無秩序な細胞増殖によって特徴付けられる、哺乳動物における生理的状態をいうかまたはそれを説明するものである。癌の例には、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられる。このような癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵臓癌、グリア芽腫および神経線維腫症などのグリア細胞腫瘍、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、メラノーマ、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌(kidney cancer)、腎臓癌(renal cancer)、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝性の癌腫、および種々のタイプの頭頸部癌が挙げられる。特定の実施形態では、本明細書に開示される方法を用いて処置または診断される癌は、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌腫、胃腸/結腸癌、肺癌、および前立腺癌から選択される。
用語「KRAS変異」とは、本明細書で用いるとき、v−Ki−ras2 Kirstenラット肉腫ウイルスの癌遺伝子のヒト相同体における特定の癌に見出される変異をいう。ヒトKRAS遺伝子mRNA配列の非限定例としては、Genbank受入番号NM_004985およびNM_033360が挙げられる。KRAS変異は、膵臓腫瘍の73%、直腸結腸腫瘍の35%、卵巣腫瘍の16%および肺腫瘍の17%に見つかると報告されている。
用語「PI3K変異」とは、本明細書で用いるとき、特定の癌においてホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ遺伝子に見出され、典型的には癌細胞においてPI3Kの活性化を引き起こす変異をいう。PI3K変異は、直腸結腸腫瘍の12%、頭頚部腫瘍の15%および乳腺腫瘍の26%に見つかると報告されている。
用語「有効量」とは、本明細書で使用するとき、被験体に投与された場合、本明細書に記載されるように、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患の処置、予後または診断を達成させるのに十分である、ErbB3に結合する抗体またはその抗原結合部分の量をいう。治療有効量は、当業者によって容易に決定され得る、処置される被験体および疾患状態、被験体の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与様式などに依存して変化する。投与のための投与量は、例えば、本発明に係る抗体またはその抗原結合部分の約1ng〜約10,000mg、約5ng〜約9,500mg、約10ng〜約9,000mg、約20ng〜約8,500mg、約30ng〜約7,500mg、約40ng〜約7,000mg、約50ng〜約6,500mg、約100ng〜約6,000mg、約200ng〜約5,500mg、約300ng〜約5,000mg、約400ng〜約4,500mg、約500ng〜約4,000mg、約1μg〜約3,500mg、約5μg〜約3,000mg、約10μg〜約2,600mg、約20μg〜約2,575mg、約30μg〜約2,550mg、約40μg〜約2,500mg、約50μg〜約2,475mg、約100μg〜約2,450mg、約200μg〜約2,425mg、約300μg〜約2,000、約400μg〜約1,175mg、約500μg〜約1,150mg、約0.5mg〜約1,125mg、約1mg〜約1,100mg、約1.25mg〜約1,075mg、約1.5mg〜約1,050mg、約2.0mg〜約1,025mg、約2.5mg〜約1,000mg、約3.0mg〜約975mg、約3.5mg〜約950mg、約4.0mg〜約925mg、約4.5mg〜約900mg、約5mg〜約875mg、約10mg〜約850mg、約20mg〜約825mg、約30mg〜約800mg、約40mg〜約775mg、約50mg〜約750mg、約100mg〜約725mg、約200mg〜約700mg、約300mg〜約675mg、約400mg〜約650mg、約500mg、または約525mg〜約625mgの範囲であり得る。投与計画は、最適な治療応答を与えるように調整されてもよい。また、有効量は、抗体またはその抗原結合部の任意の毒性または有害な影響(すなわち、副作用)が最小化され、および/または有益な影響が上回るものである。さらなる好ましい投与計画を、以下の医薬組成物に関連する節でさらに後述する。
用語「患者」とは、予防的処置または治療上の処置のいずれかを受けているヒトおよび他の哺乳動物被験体が含まれる。
本明細書で使用するとき、用語「被験体」または「患者」には、いずれかのヒトまたはヒト以外の動物が含まれる。例えば、本明細書に開示される方法および組成物は、癌を患っている被験体を処置するために用いることができる。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。用語「非ヒト動物」には、全ての脊椎動物が含まれ、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシなどが挙げられる。
用語「試料」とは、患者または被験体からの組織、体液、または細胞をいう。通常、組織または細胞は、患者から取り出されるが、インビボでの診断も意図される。固形腫瘍の場合には、組織試料は、外科的に取り出された腫瘍から採取することができ、従来技術によって試験のために調製することができる。リンパ腫および白血病の場合には、リンパ球、白血病細胞、またはリンパ組織が得られ、適切に調製することができる。また、尿、涙、血清、脳脊髄液、糞便、痰、細胞抽出物などを含む他の患者試料も特定の腫瘍に有用であり得る。
用語「抗癌剤」および「抗腫瘍剤」とは、癌性増殖などの悪性腫瘍を処置するために用いられる薬物をいう。薬物治療は、単独で、または外科的処置もしくは放射線治療などの他の処置と併用して用いられてもよい。いくつかのクラスの薬物は、関与する器官の性質に依存して、癌処置に用いることができる。例えば、乳癌は、通常、エストロゲンによって刺激され、性ホルモンを不活性化する薬物で処置されてもよい。同様に、前立腺癌は、男性ホルモンであるアンドロゲンを不活性化する薬物で処置されてもよい。本発明の特定の方法で用いられる抗癌剤には、とりわけ、下記の薬物が含まれる。
1以上の抗癌剤は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合部の投与と同時またはその前またはその後に投与されてもよい。
本発明の種々の態様が、下記の小節においてさらに詳細に記載されている。
II.抗体を生成する方法
(i)モノクローナル抗体
本開示のモノクローナル抗体は、種々の知られている技術、例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495に記載される標準的な体細胞のハイブリダイゼーション技術、Bリンパ球のウイルス性または発癌性形質転換またはヒト抗体遺伝子のライブラリーを用いたファージディスプレイ技術を用いて生成することができる。特定の実施形態では、抗体は、完全なヒトモノクローナル抗体である。
したがって、一実施形態では、ハイブリドーマ法は、ErbB3に結合する抗体を生成するために用いられる。この方法では、免疫付与のために用いられる抗原に特異的に結合する抗体を生成するかまたはそれを生成することができるリンパ球を誘発するために、適切な抗原を用いて、マウスまたは他の適した宿主動物を免疫することができる。あるいは、リンパ球は、インビトロで免疫されてもよい。次に、リンパ球は、ハイブリドーマ細胞を形成させるために、ポリエチレングリコールなどの適した融合剤を用いて、ミエローマ細胞と融合することができる(Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))。ハイブリドーマ細胞が増殖している培地は、抗原に対して作られたモノクローナル抗体の生成について評価される。所望の特異性、親和性、および/または活性のある抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、限界希釈法によってクローンをサブクローニングし得、標準的な方法によって増殖させてもよい(Goding,1986、上掲)。この目的に適した培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培地が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖させてもよい。サブクローンから分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−SEPHAROSE、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地、腹水、または血清から分離することができる。
別の実施形態では、ErbB3に結合する抗体および抗体部分は、例えば、McCaffertyら、Nature,348:552−554(1990).Clacksonら、Nature,352:624−628(1991),Marksら、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)、並びにHoetら(2005)Nature Biotechnology 23,344−348;Ladnerらに関する米国特許第5,223,409号;同第5,403,484号;および同第5,571,698;Dowerらに関する米国特許第5,427,908号および同第5,580,717号;McCaffertyらに関する米国特許第5,969,108号および同第6,172,197号;並びに、Griffithsらに関する米国特許第5,885,793号;同第6,521,404号;同第6,544,731号;同第6,555,313号;同第6,582,915号および同第6,593,081号に記載される技術を用いて作製した抗体ファージライブラリーから単離することができる。さらに、チェインシャッフリング(chain shuffling)(Marksら、Bio/Technology,10:779−783(1992))、並びに非常に巨大なファージライブラリー(Waterhousら、Nuc.Acids.Res.,21:2265−2266(1993))を構築するための戦略としての組み合わせ感染およびインビボでの組換えによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生成も用いてもよい。
特定の実施形態では、ErbB3に結合する抗体またはその抗原結合部は、Hoetら、上掲、によって記載されるファージディスプレイ技術を用いて生成される。この技術は、ヒトドナーから単離された免疫グロブリン配列の独特の組み合わせを有し、重鎖CDRにおける合成多様性を有するヒトFabライブラリーの生成を含む。次に、このライブラリーは、ErbB3に結合するFabについてスクリーニングされる。
さらに別の実施形態では、ErbB3に対して作られたヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりもむしろヒト免疫系の部分を担持するトランスジェニックまたはトランス染色体マウスを用いて生成することができる(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859;Lonberg,N.ら(1994),上掲;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101に概説される;Lonberg,N.およびHuszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol 13:65−93、並びに、Harding,F.およびLonberg,N.(1995)Ann.NY.Acad Sci.764:536−546を参照されたい。さらに、全てがLonbergおよびKayに関する米国特許第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,789,650号;同第5,877,397号;同第5,661,016号;同第5,814,318号;同第5,874,299号;および同第5,770,429号;Suraniらに関する米国特許第5,545,807号;全てがLonbergおよびKayに関するPCT国際公開第92/03918号、同第93/12227号、同第94/25585号、同第97/13852号、同第98/24884号および同第99/45962号;並びに、Kormanらに関するPCT国際公開第01/14424号を参照されたい)。
別の実施形態では、本明細書に開示されるヒト抗体は、トランス遺伝子およびトランス染色体にヒト免疫グロブリン配列を担持するマウス、例えば、ヒト重鎖トランス遺伝子およびヒト軽鎖トランス染色体を担持するマウスを用いて産生させることができる(例えば、Ishidaらに関するPCT国際公開第02/43478号を参照されたい)。
なおさらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランスジェニック動物系は、当技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片を産生させるために用いることができる。例えば、XENOMOUSE(Abgenix,Inc.)と呼ばれるトランスジェニック系を用いることができる;このようなマウスは、例えば、Kucherlapatiらに関する米国特許第5,939,598号;同第6,075,181号;同第6,114,598号;同第6,150,584号、および同第6,162,963号に記載されている。
さらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する代替のトランス染色体の動物系は、当技術分野において利用可能であり、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片を産生させるために用いることができる。例えば、ヒト重鎖トランス染色体とヒト軽鎖トランス染色体の両方を担持するマウスは、Tomizukaら(2000)Proc.Natl.Acad Sci.USA 97:722−727に記載されるように用いることができる。さらに、ヒト重鎖および軽鎖トランス染色体を担持するウシは、当技術分野(Kuroiwaら(2002)Nature Biotechnology 20:889−894)において記載されており、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片を産生させるために用いることができる。
なお別の実施形態では、本明細書に開示される抗体は、このような抗体を生成するトランスジェニック植物および/または培養された植物細胞(例えば、タバコ、トウモロコシおよびアオウキクサ)を用いて調製することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分を発現するトランスジェニックタバコの葉は、例えば、誘導プロモーターを用いることによって、このような抗体を生成するために用いることができる(例えば、Cramerら、Curr.Top.Microbol.Immunol.240:95 118(1999)を参照されたい)。また、トランスジェニックトウモロコシを用いて、このような抗体およびその抗原結合部分を発現させることができる(例えば、Hoodら、Adv.Exp.Med Biol.464:127 147(1999)を参照されたい)。また、抗体は、例えば、タバコの種子およびジャガイモ塊茎を用いて、1本鎖抗体(例えば、scFv)などの抗体部分を含むトランスジェニック植物種子から大量に生成することができる(例えば、Conradら、Plant Mol.Biol.38:101 109(1998)を参照されたい)。また、植物における抗体または抗原結合部分を生成する方法は、例えば、Fischerら、Biotechnol.Appl.Biochem.30:99 108(1999)Maら、Trends Biotechnol.13:522 7(1995);Maら、Plant Physiol.109:341 6(1995);Whitelamら、Biochem.Soc.Trans.22:940 944(1994)、並びに米国特許第6,040,498号および同第6,815,184号に見出すことができる。
本明細書に開示された技術を含むいずれかの技術を用いて調製されたErbB3に結合する抗体またはその部分の結合特異性は、免疫沈降によるか、または放射免疫アッセイ(RIA)または酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)などインビトロの結合アッセイによって測定することができる。また、抗体またはその部分の結合親和性は、Munsonら、Anal.Biochem.,107:220(1980)のScatchard分析によって決定することができる。
特定の実施形態では、上記で検討された方法のいずれかを用いることによって生成されたErbB3抗体またはその部分は、本明細書に記載される技術などの当分野で認識されている技術を用いて、所望の結合特異性および/または親和性を達成するためにさらに変更または最適化されてもよい。
一実施形態では、ErbB3抗体に由来する部分的な抗体配列は、構造的および機能的に関連した抗体を生成するために用いられてもよい。例えば、抗体は、6個の重鎖および軽鎖の相補性決定領域(CDR)に位置されるアミノ酸残基を主に介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDRを除く配列よりも各抗体間でより多様である。CDR配列は、大部分の抗体−抗原相互作用に関与するため、異なる特性を有する異なる抗体からフレームワーク配列に移入された特定の自然に存在する抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、特定の自然に存在している抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現することができる(例えば、Riechmann,L.ら、1998,Nature 332:323−327;Jones,P.ら、1986,Nature 321:522−525;および、Queen,C.ら、1989,Proc.Natl.Acad See.U.S.A.86:10029−10033を参照されたい)。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列の抗体遺伝子配列を含む公的なDNAデータベースから得ることができる。
このようにして、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片の1以上の構造的特徴、例えばCDRは、本発明の他の抗体またはそれらの断片の少なくとも1つの機能的特徴、例えば、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害すること;ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン媒介のシグナル伝達の1以上を阻害すること;増殖またはErbB3を発現している細胞を阻害すること;および/または細胞表面のErbB3レベルを減少させることを保持している、構造的に関連した抗ErbB3抗体を作製するために用いることができる。
特定の実施形態では、配列番号7〜12、配列番号13〜18、配列番号19〜24、配列番号39〜44、および配列番号45〜50から選択される1以上のCDR領域は、知られているヒトのフレームワーク領域およびCDRを用いて組換え的に組み合わせて、追加的な、組換え操作された本発明の抗ErbB3抗体またはその断片を作製する。重鎖および軽鎖の可変フレームワーク領域は、同一であるかまたは異なった抗体配列に由来し得る。
抗体の重鎖および軽鎖のCDR3ドメインが、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たすことは、当技術分野において周知である(例えば、Hallら、J.Imunol,149:1605−1612(1992);Polymenisら、J.Immunol,152:5318−5329(1994);Jahnら、Immunobiol,193:400−419(1995);Klimkaら、Brit.J.Cancer,83:252−260(2000);Beiboerら、J.Mol Biol,296:833−849(2000);Raderら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:8910−8915(1998);Barbasら、J.Am.Chem.Soc,116:2161−2162(1994);Ditzelら、J.Immunol,157:739−749(1996)を参照されたい)。したがって、特定の実施形態では、本明細書に記載される特定の抗体の重鎖および/または軽鎖のCDR3(例えば、配列番号9、15、21、41、47および/または配列番号12、18、24、44、50)を含む抗体が生成される。抗体は、さらに、本明細書に具体的に開示される抗体の重鎖および/または軽鎖のCDR1および/またはCDR2(例えば、配列番号7〜8および/または配列番号10〜11;配列番号13〜14および/または配列番号16〜17;配列番号20〜21および/または配列番号22〜23;配列番号39〜40および/または配列番号42〜43;あるいは配列番号45〜46および/または配列番号48〜49)を含むことができる。
上述の操作された抗体のCDR1、2、および/または3の領域は、本明細書に開示されたものと正確なアミノ酸配列(例えば、配列番号7〜12、13〜18、19〜24、39〜44、および45〜50に記載される、それぞれAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、またはAb#19のCDR)を含むことができる。しかしながら、当業者は、効果的にErbB3に結合する抗体の能力をなおも保持しながら、正確なCDR配列からのいくつかの逸脱は可能であり得ることを認識する(例えば、保存的アミノ酸置換)。したがって、別の実施形態では、操作された抗体は、例えば、Ab#6、Ab#3またはAb#14のうちの1以上のCDRと90%、95%、98%、99%または99.5%同一である1以上のCDRから構成されてもよい。
別の実施形態では、CDRの1以上の残基は、より好都合な結合オン速度を達成するために、結合を改変するように変更されてもよい。この戦略を用いて、例えば1010M−1以上の極めて高い結合親和性を有する抗体が達成され得る。当技術分野において周知である親和性成熟技術、および本明細書に記載されている技術を用いて、CDR領域を変更することができ、その後、結合における所望の変化について、得られた結合分子をスクリーニングする。したがって、CDRが変更されるため、結合親和性並びに免疫原性の変化は、モニターされ、スコア化でき、その結果、最良の組み合わせ結合に最適化された抗体および低免疫原性が達成される。
実施例20でさらに詳細に記述するように、ErbB3との結合に関与するアミノ酸残基を同定するために、変異誘発(例えば、アラニン走査変異誘発)がAb#6の重鎖および軽鎖のCDRで行われ、それによって抗体のパラトープが規定された。
抗ErbB3抗体のためのパラトープCDR配列は、この変異誘発分析に基づいて、図37Aおよび37Bに示す。図37Aに示すように、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片は、配列番号63、64および65にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖パラトープと、配列番号69、70および71にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖パラトープとを含み得るが、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
図37Bに示すように、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片は、配列番号76、64および65にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖パラトープと、配列番号78、70および80にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖パラトープとを含み得るが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
さらに別の実施形態では、本発明は、配列番号63または76(CDR1)、64(CDR2)および65(CDR3)にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖パラトープを含む抗ErbB3抗体を提供するが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
さらに別の実施形態では、本発明は、配列番号69または78(CDR1)、70(CDR2)および71または80(CDR3)にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖パラトープを含む抗ErbB3抗体を提供するが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
本発明の抗ErbB3抗体またはその断片のコンセンサスCDR配列も、この変異誘発分析に基づいて、図37Aおよび37Bに示す。図37Aに示すように、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片は、配列番号60、61および62にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号66、67および68にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域とを含み得るが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
図37Bに示すように、本発明の抗ErbB3抗体またはその断片は、配列番号75、61および62にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号77、67および79にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域とを含み得るが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
さらに別の実施形態では、本発明は、配列番号60または75(CDR1)、61(CDR2)および62(CDR3)にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む重鎖可変領域を含む抗ErbB3抗体を提供するが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
さらに別の実施形態では、本発明は、配列番号66または77(CDR1)、67(CDR2)および68または79(CDR3)にそれぞれ示されるCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む軽鎖可変領域を含む抗ErbB3抗体を提供するが、ただし、該抗体は以下の抗体ではない:(i)本明細書に開示されるAb#6;(ii)配列番号1および2にそれぞれ示されるVHおよびVLの配列を含む抗体;または(iii)配列番号7、8および9にそれぞれ示されるVHCDR1、CDR2およびCDR3の配列と、配列番号10、11および12にそれぞれ示されるVLCDR1、CDR2およびCDR3の配列とを含む抗体。
CDR内の改変に加えて、またはそれに代えて、これらの改変が抗体の結合親和性を排除しない限り、改変も、抗体の重鎖および/または軽鎖の可変領域の1以上のフレームワーク領域、FR1、FR2、FR3およびFR4内で行われ得る。
別の実施形態では、抗体は、例えば、癌の処置における抗体の有効性を高めるように、エフェクター機能に関して、さらに改変される。たとえば、システイン残基は、Fc領域に導入されてもよく、それにより、この領域における鎖間のジスルフィド結合形成を可能にする。このようにして産生されたホモ二量化抗体は、内在化能力を改善し、および/または補体媒介の細胞死滅および抗体に依存した細胞の細胞傷害性(ADCC)を増加させる場合がある。Caronら、J.Exp Med.176:1191−1195(1992)、並びにShopes、B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照されたい。また、抗腫瘍活性が高まったホモ二量化抗体は、Wolffら、Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されるヘテロ二機能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、二重のFc領域を有し、それにより、補体溶解およびADCC能力を高めた可能性がある抗体が操作され得る。Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
本明細書で開示されるCDR、フレームワーク領域、Fc領域、または他の抗体領域における1以上の変異誘発は、これらに限定されないが部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発を含む標準組換えDNA技術を用いて達成され得る。抗原結合(例えば、ErbB3との結合)での変異の影響および他の機能特性をスクリーニングも、標準方法を用いて達成され得る。例えば、変異したCDRを含有する抗体(例えば、scFvバージョン)は、哺乳動物細胞、酵母細胞またはバクテリア細胞などの細胞表面に発現することができ(ファージディスプレイ系を用いることで)、および抗原とこれらの細胞との結合は、標準方法、例えば、細胞に結合した抗原を、例えば、標識した二次抗体を用いて検出するフローサイトメトリーを用いて測定されることができる。さらに、または代わりに、抗体は可溶型で発現することもでき、および抗体と抗原との結合は、ELISAまたはBIACORE分析などの標準結合アッセイを用いて評価されることができる。このような目的の前述の技術および関連技術の詳細な説明は、多数のよく知られている教科書およびラボマニュアルに見出され得る。例えば、Handbook of Therapeutic Antibodies Vols.1−3, Stefan Dubel,編集, Wiley−VCH 2007;Making and Using Antibodies:A Practical Handbook, Gary C. Howard, CRC 2006;Antibody Engineering:Methods and Protocols, Benny K. C. Lo, Humana Press 2003;Therapeutic Antibodies:Methods and Protocols, Antony S. Dimitrov,編集, Humana Press 2009;Antibody Phage Display:Methods and Protocols,第2版. Robert Aitken,編集, Humana Press 2009;Flow Cytometry Protocols,第2版. Teresa S. Hawley and Robert G. Hawley,編集, Humana Press 2004;Flow Cytometry: Principles and Applications, Marion G. Macey,編集, Humana Press 2007が挙げられる。”Selecting and Screening Recombinant Antibody Libraries,”H.R. Hoogenboom, Nature Biotechnol. 23:1105−1116;2005も参照されたい。
また、下記に記載される二重特異性抗体および免疫結合体も本発明に包含される。
(ii)二重特異性抗体
本開示の二重特異性抗体は、ErbB3に対する少なくとも1つの結合特異性、および癌遺伝子の生成物などの別の抗原に対する少なくとも1つの結合特異性を含む。二重特異性抗体は、全長の抗体または抗体断片(例えば、F(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
二重特異性抗体を作製する方法は、当技術分野において周知である(例えば、国際公開第05117973号および同第06091209号を参照されたい)。例えば、全長の二重特異性抗体の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づくことができ、この場合、2つの鎖は、異なる特異性を有する(例えば、Millsteinら、Nature,305:537−539(1983)を参照されたい)。二重特異性抗体を生じさせるためのさらなる詳細は、例えば、Sureshら、Methods in Enzymology,121:210(1986)、および二重特異性抗体を作製するための化学的連結法を記載するBrennanら、Science,229:81(1985)に見いだすことができる。また、組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作製および単離するための種々の技術が記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて生成されている(例えば、Kostelnyら、J.Immunol,148(5):1547−1553(1992)を参照されたい)。また、一本鎖Fv(scFv)二量体の使用による二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略が報告されている(例えば、Gruberら、J.Immunol,152:5368(1994)を参照されたい)。
特定の実施形態では、二重特異性抗体は、ErbB3に結合する第1抗体またはその結合部分、およびErbB2、ERbB3、ErbB4、EGFR、IGF1−R、C−MET、ルイスY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原、PDGFR−α、PDGFR−β、C−KIT、またはFGF受容体のいずれかに結合する第2抗体またはその結合部分を含む。
(iii)免疫結合体
本開示の免疫結合体は、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合部分を別の治療薬に結合させることによって形成することができる。適切な剤には、例えば、細胞傷害性剤(例えば、化学療法剤)、毒素(例えば、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはそれらの断片)、および/または放射性同位体(すなわち、放射性結合体)が挙げられる。このような免疫結合体の生成に有用な化学療法剤は、上記されている。用いることができる酵素的に活性な毒素およびそれらの断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性な断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンシンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、ニガウリ(Momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア オフィシナリス(Sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテシン(tricothecene)が含まれる。種々の放射性核種が、放射性結合された抗ErbB3郊外の生成に利用可能である。例としては、212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが挙げられる。
本発明の免疫結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、2−イミノチオレン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性なエステル類(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス−(p−アジドベンゾイル)−ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート類(トリレン−2,6−ジイソシアネートなど)、およびビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などの種々の二機能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら、Science 238:1098(1987)に記載されるように調製することができる。 炭素14−標識された1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレン トリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体に放射性ヌクレオチドを結合させるための典型的なキレート剤である(例えば、国際公開第94/11026号を参照されたい)。
(iv)ErbB3外部ドメインペプチドに対して産生される抗体
Ab#6(例えば、癌細胞増殖を阻害し、かつ細胞上のErbB3をダウンレギュレートする抗体)の種々の所望の特性を有するモノクローナル抗体および単一特異性ポリクローナル抗体、またはAb#6とErbB3との結合を競合することを当業者が認識する場合、それらの抗体は、免疫原としてペプチド(例えば合成ペプチド)、またはその結合体(例えばKLH結合体)を用いる従来の免疫法を用いて、容易に得ることができる。本実施形態で免疫原として用いるペプチドは、配列番号73の残基1〜183からのいずれか10以上の隣接するアミノ酸残基を含むペプチドである。好ましくは、該10以上の隣接するアミノ酸残基は、ErbB3の外部ドメインのドメインIに由来し、好ましくは、該アミノ酸残基は、配列番号73の残基92〜104内またはその範囲に少なくとも部分的に収まる。
III.抗体をスクリーニングするための方法
ErbB3に結合する抗体または抗原結合部分を生成後、このような抗体、またはその部分は、当技術分野において周知である種々のアッセイを用いて、種々の特性、例えば本明細書に記載される特性についてスクリーニングすることができる。
一実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、EGF様リガンド媒介のErbB3のリン酸化を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、抗体またはその抗原結合部分の存在下および非存在下で、EGF様リガンドを用いて、ErbB3を発現している細胞を処理することによって行うことができる。次に細胞を溶解し、粗製溶解物を遠心分離して、不溶性物質を除去することができる。ErbB3リン酸化は、例えば、ウェスタンブロッティング、その後の抗ホスホチロシン抗体を用いた探査により測定可能であり、Kimら、上掲、並びに下記の実施例に記載されている。
他の実施形態では、抗体および抗原結合部分は、さらに、下記の特性:(1)ErbB3を介したErbB3リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達の阻害;(2)ErbB3を発現している細胞の増殖阻害;(3)細胞表面上のErbB3のレベルを減少させる能力(例えば、ErbB3の内在化を誘導することによる);(4)ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌の阻害;(5)ErbB3を発現している細胞の移動の阻害;(6)ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖の阻害;および/または(7)ErbB3の外部ドメインのドメインIに位置したエピトープとの結合、のうちの1以上についてスクリーニングされ、各々は、当分野で認識されている技術、および本明細書において検討された技術を用いて容易に測定することができる。
ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達の1以上の阻害は、日常的なアッセイ、例えば、Horstら、上掲、に記載されるアッセイを用いて容易に測定することができる。例えば、ErbB3を介したヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、抗体またはその抗原結合部分の能力は、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上によって刺激後、例えば、Horstら、上掲,Sudoら、(2000)Methods Enzymol,322:388−92;並びに、Morganら(1990)Eur.J.Biochem.,191:761−767に記載される、例えば、SHCおよびPI3Kなどの既知のErbB3の基質についてのキナーゼアッセイによって測定することができる。したがって、ErbB3を発現している細胞は、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上を用いて刺激され、候補抗体またはその抗原結合部分とともにインキュベートすることができる。その後にこのような細胞から調製された細胞溶解物は、ErbB3の基質(またはErbB3に関与する細胞経路にあるタンパク質)に対する抗体、例えば、抗JNK−1抗体を用いて免疫沈降され、当分野で認識されている技術を用いて、キナーゼ活性(例えば、JNKキナーゼ活性またはPI3−キナーゼ活性)についてアッセイすることができる。抗体またはその抗原結合部分が存在する場合のErbB3基質またはErbB3に関与する経路にあるタンパク質のレベルまたは活性(例えば、キナーゼ活性)の減少または完全な消失は、抗体またはその抗原結合部分の非存在下でのレベルまたは活性と比較して、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上が媒介するシグナル伝達を阻害する抗体または抗原結合部分を示す。
特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上のErbB3との結合を減少させることによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)媒介のシグナル伝達を阻害する。
ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上のErbB3との結合を阻害するそれらの抗体またはその抗原結合部分について選択するために、ErbB3を発現する細胞(例えば、MALME−3M細胞、下記の実施例において記載される)は、抗ErbB3抗体またはその抗原結合部分の非存在下(対照)または存在下で、標識されたErbB3−リガンド(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)と接触させることができる。抗体またはその抗原結合部分がErbB3とのヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンの結合を阻害すれば、抗体またはその抗原結合部分の非存在下での量と比較して、回収された標識量(例えば、放射線同位元素標識されたヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)における統計的に有意な減少が観察される。
抗体またはその抗原結合部分は、任意のメカニズムによって、ErbB3−リガンド(例えば、ヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリン)の結合を阻害することができる。例えば、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3リガンドと同じErbB3の部位または重複している部位に結合することによって、ErbB3とのErbB3リガンド(例えばヘレグリン、エピレグリン、エピゲンまたはビレグリンのうちの1以上)の結合を阻害してもよい。あるいは、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3の構造を変更させるかまたは歪めることによって、ErbB3リガンドの結合を阻害してもよく、その結果、ErbB3リガンドに結合できなくなる。
細胞表面のErbB3のレベルを減少させる抗体およびその抗原結合部分は、腫瘍細胞のErbB3をダウンレギュレートするそれらの能力によって同定することができる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、Erbb3の内在化を誘導する(またはエンドサイトーシスを増加する)ことによって、ErbB3の細胞表面の発現を減少させる。これを試験するために、ErbB3は、ビオチニル化することができ、細胞表面のErbB3分子の数は、例えば、Watermanら、J.Biol.Chem.(1998),273:13819−27に記載されるように、抗体またはその抗原結合部分の存在下または非存在下で、培養中の細胞の単層上のビオチン量を測定し、その後、ErbB3を免疫沈降し、ストレプトアビジンを用いて探査することによって、容易に測定することができる。抗体または抗原結合部分の存在下で、ビオチニル化されたErbB3の経時的な検出における減少は、細胞表面のErbB3レベルを減少する抗体を示す。
また、本開示の抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞、例えば、腫瘍細胞の増殖を阻害するそれらの能力について、当分野で認識されている技術、例えば、下記の実施例に記載されるCellTiter−Glo(登録商標)Assayを用いて試験することができる(さらに、例えば、Macallanら、Proc.Natl.Acad Sci.(1998)20;95(2):708−13;Perezら(1995)Cancer Research 55,392−398を参照されたい)。
別の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のVEGF分泌を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、R&D Systems、Minneapolis,MN,#DY293Bから入手可能なVEGF ELISAキットなどの周知なアッセイを用いることによってなされ得る。同様に、この抗体または部分は、本明細書に記載される、トランスウェルアッセイ(trans−well assay)(Millipore Corp.,Billerica,MA,#ECM552)を用いて、ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。
別の実施形態では、抗体またはその抗原結合部分は、ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害する能力についてスクリーニングされる。これは、本明細書に記載されるように、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(例えば、Hermanら(2007)Journal of Biomolecular Screening Electronic publicationを参照されたい)を用いることによって行うことができる。
また、本明細書に具体的に開示される1以上の抗体と同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体またはその抗原結合部分は、当技術分野において知られている標準的な技術、および本明細書に記載される技術を用いることによって同定することができる。例えば、興味のある抗体によって結合されるErbB3の同じであるかまたは重複しているエピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、交差ブロッキングアッセイ、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed HarlowおよびDavid Lane(1988)に記載されるアッセイを行うことができる。
IV.医薬組成物
別の態様では、本発明は、薬学的に許容される担体とともに製剤化される、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合部分の1つまたは組み合わせを含む組成物、例えば、医薬組成物を提供する。一実施形態では、組成物は、ErbB3の異なるエピトープに結合する、複数(例えば、2以上)の単離された抗体の組み合わせを含む。
本明細書で使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよび全ての生理学的に適合する溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮の投与(例えば、注射または注入による)に適している。投与経路に依存して、活性剤、すなわち、抗体、抗体断片、二重特異性分子および多重特異性分子は、酸の作用および活性剤を不活性化し得る他の天然の状態から活性剤を保護するために物質で被覆されてもよい。
「薬学的に許容される塩」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、いずれの望ましくない毒性学的影響も与えない塩をいう(例えば、Berge,S.M.ら(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照されたい)。このような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの無毒な無機酸から得られるもの、並びに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの無毒な有機酸から誘導さるものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属から得られるもの、並びにN,N'−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの無毒な有機アミンから得られるものが含まれる。
本発明の医薬組成物は、他の剤を含むことができる。例えば、組成物は、少なくとも1以上の追加の治療薬、例えば、下記に記載される抗癌剤を含むことができる。医薬組成物は、放射線治療および/または外科的処置と併用して投与することができる。代わりに、本発明の組成物は、下記の抗癌剤などの少なくとも1以上のさらなる治療薬と別々に同時投与されることができる。
本開示の組成物は、当技術分野において知られている種々の方法によって投与されることができる。当業者に認識されるように、投与の経路および/または方法は、所望の結果に依存して変更される。活性剤は、急速な放出に対して活性剤を保護する担体とともに調製可能であり、例えば、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化された送達系など放出制御製剤が挙げられる。生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができ、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル類、およびポリ乳酸を用いることができる。このような製剤の調製のための多くの方法は、特許されているか、または、一般に、当業者に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R. Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
特定の投与経路による本発明の抗体またはその断片を投与するためには、該抗体の失活を防ぐ物質を用いてそれを被覆するか、またはそれと同時に投与することが必要な場合がある。例えば、該抗体またはその断片は、適切な担体、例えばリポソーム、または希釈剤に入れて被験体に投与されてもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が挙げられる。リポソームには、水中油中水型CGFエマルジョン、並びに従来のリポソームが含まれる(Strejanら(1984)J.Neuroimmunol.7:27)。
薬学的に許容される担体には、無菌水性溶液または分散液、および無菌の注射用溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末または凍結乾燥物が含まれる。このような媒体および薬学的に活性抗体の使用は、当技術分野において知られている。任意の従来の媒体または薬物が活性剤と不適合でない限り、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性化合物も組成物に取り入れることができる。
治療用組成物は、典型的には、無菌でなければならず、製造および保存の条件下で安定でなければならない。組成物は、高い薬物濃度に適した溶液、ミクロエマルジョン、リポソーム、または他の規則正しい構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、並びにこれらの適した混合物を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール類、または塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含めることによりもたらすことができる。
無菌の注射用溶液は、必要量の活性剤を適した溶媒に、必要に応じて上記で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに組み込んだ後、滅菌微細ろ過により、調製することができる。一般に、分散液は、塩基性の分散媒体と、上記で列挙されたものから必要とされる他の成分とを含む無菌のビヒクルに活性剤を組み込むことによって調製される。無菌の注射用溶液の調製用無菌粉末の場合、好適な調製法は、減圧乾燥および凍結乾燥(freeze−drying)(凍結乾燥(lyophilization))であり、その結果、有効成分および任意の付加的な所望の成分の粉末が、予め滅菌ろ過されたその溶液から生じる。
投与計画は、最適な所望の応答(例えば治療反応)が得られるように調節される。例えば、一個のボーラスを投与してもよく、いくつかに分割された用量を経時的に投与してもよく、または用量は治療状況の緊急性によって示されるように、比例的に減少もしく増加させてもよい。例えば、本明細書に開示されるヒト抗体は、皮下注射により週に1回または2回、あるいは皮下注射により月に1回または2回投与されてもよい。
適切な投与量範囲および投与計画の非限定例は、2〜50mg/kg(被験体の体重)を週1回、週2回、もしくは3日ごとに1回、もしくは2週間に1回、および1〜100mg/kgを週1回、週2回、もしくは3日ごとに1回、もしくは2週間に1回投与することを含む。種々の実施形態では、抗体は、3.2mg/kg、6mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg,35mg/kgまたは40mg/kgの投与量を週1回、または週2回、または3日ごとに1回、または2週間に1回のタイミングで投与される。さらなる投与量範囲は、1〜1000mg/kg、1〜500mg/kg、1〜400mg/kg、1〜300mg/kgおよび1〜200mg/kgを含む。適切な投与計画は、3日ごとに1回、5日ごとに1回、7日ごとに1回(すなわち、週1回)、10日ごとに1回、14日ごとに1回(すなわち、2週間に1回)、21日ごとに1回(すなわち、3週間に1回)、28日ごとに1回(すなわち、4週間ごとに1回)および月1回を含む。
実施例に示すように、本明細書に開示される抗体をさらなる治療薬と併用して使用すると、抗腫瘍活性に対して相加効果をもたらすことができる。したがって、併用療法の場合、抗体もしくは第2の治療薬、または両方の最適以下の投与量を用いて、これらの剤の相加効果による所望の治療成績を達成することができる。例えば、別の治療薬と組み合わせで用いられるとき、種々の実施形態では、本発明の抗体またはその断片は、該抗体が単独で投与されるときに用いられる投与量の90%、または80%、または70%、または60%、または50%の投与量で投与されてもよい。
投与の容易さおよび投与量の均一性のために、非経口組成物を投与単位形態に製剤化することが特に有利である。単位形態とは、本明細書で使用するとき、処置される被験体にとって単一の投与量として調整された物理的に別個の単位をいう;各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性剤を含む。本発明の投与単位形態の仕様は、(a)活性剤の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、並びに(b)このような活性剤を、個体の感受性の処置のために配合する当技術分野における固有の限定によって決定され、それらに直接的に依存する。
薬学的に許容される抗酸化剤の例には:(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど;および(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。
治療用組成物に関して、本開示の製剤には、経口、鼻腔、局所(口腔内および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経口の投与に適したものが含まれる。製剤は、都合良くは、単位剤形で提供されてもよく、薬学の分野において知られている任意の方法によって調製されてもよい。単一の剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、処置される被験体、および特定の投与方法に応じて変更することになる。単一剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生む組成物の量である。一般に、100パーセントのうち、この量は、約0.001パーセント〜約90パーセントの有効成分、好ましくは約0.005パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは約0.01パーセント〜約30パーセントの範囲である
また、膣投与に適した本開示の製剤には、当技術分野において適していることが知られているこのような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレーの製剤もまた含まれる。本発明の組成物の局所または経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤が挙げられる。活性剤は、薬学的に許容される担体、および必要とされ得るいずれかの保存剤、緩衝剤、または噴霧薬と無菌条件下で混合されてよい。
句「非経口投与」および「非経口的に投与される」とは、本明細書で使用するとき、通常、注射による経腸的および局所投与以外の投与用法を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内の注射および注入が挙げられる。
本発明の医薬組成物に用いられてもよい、適した水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、多価アルコール類(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル類が含まれる。適した流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
また、これらの組成物には、保存剤、湿潤剤、乳濁剤および分散剤などのアジュバントを含んでもよい。当技術分野において周知であるアジュバントの具体例としては、例えば無機アジュバント(アルミニウム塩、例えば、リン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムなど)、有機アジュバント(例えば、スクアレン)、油性アジュバント、ビロソーム(virosome)(例えば、インフルエンザウイルスに由来する膜結合型赤血球凝集素およびノイラミニダーゼを含むビロソーム)が挙げられる。
微生物の存在の予防は、上掲の滅菌手順によって、並びに例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの種々の抗菌剤および抗真菌剤の含有の両者によって確保され得る。また、糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望まれる場合がある。さらに、注射用医薬形態の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅らせる作用物質の含有によってもたらすことができる。
本開示の抗体が医薬品としてヒトおよび動物に投与される場合、それらは、単独で、または、例えば0.001〜90%(より好ましくは、0.005〜70%、例えば0.01〜30%)の有効成分を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物としても与えることができる。
選択した投与経路に関係なく、適した水和型で用いられてもよい本開示の抗体、および/または本開示の医薬組成物は、当業者に知られている従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化される。
本開示の医薬組成物中の有効成分の実際の投与量レベルは、患者に毒性ではなく、特定の患者、組成物、および投与方法にとって所望の治療反応を達成するために有効な量の有効成分を得るように変更されてもよい。選択される投与量レベルは、本明細書に示される抗体またはその断片と同時投与される化合物の場合、用いられる特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時期、用いられる特定の剤の排出速度、処置期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または物質、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康および以前の病歴などを含む様々な薬物動態学的因子、および医療の分野において周知である因子に依存する。当技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効な量を容易に決定および処方することができる。例えば、該医師または獣医師は、医薬組成物に用いられる本発明の抗体またはその断片の用量を、所望の治療効果を得るために必要な量より低いレベルで開始し、所望の効果が得られるまで投与量を次第に増加させることができる。一般に、本発明の組成物の適した1日あたりの用量は、治療効果を生むために有効な最も少ない用量をもたらす量である。このような有効量は、一般に、上述の諸因子に依存する。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与される。必要に応じて、治療用組成物の有効な1日量は、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の別々に投与されるサブ用量として、終日にわたって適切な間隔で、任意に単位剤形で投与されてもよい。
本開示の抗体を単独で投与することも可能であるが、該抗体を医薬製剤(組成物)として投与されることが好ましい。
治療用組成物は、当技術分野において知られている医療用デバイスを用いて投与されることができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号、または第4,596,556号に開示されたデバイスなどの無針皮下注射デバイスを用いて投与されることができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御された速度で薬物を分注するインプラント可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号;皮膚を通じて薬物を投与する治療用デバイスを開示する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬物を送達する薬物注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;連続的な薬物送達のための可変流量式のインプラント可能な注入装置を開示する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバー・コンパートメントを有する浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,439,196号;および浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,475,196号が挙げられる。多くの他のこのようなインプラント、送達システム、及びモジュールは当業者に知られている。
特定の実施形態では、本明細書に開示される組成物は、インビボで適切な分布を確保するように製剤化され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高親水性化合物を排除する。本発明の組成物中の治療用化合物がBBBを通過することを確実にするために(必要に応じて)、例えばリポソームにそれらを製剤化することができる。リポソームの製造方法については、例えば、米国特許第4,522,811号;同第5,374,548号;および同第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特定の細胞又は器官に選択的に輸送されて、標的とした薬物の送達を高める1以上の成分を含んでいてもよい(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照されたい)。典型的な標的成分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらによる米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawaら(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloemanら(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owaisら(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);サーファクタントプロテインA受容体(Briscoeら(1995)Am.J.Physiol.1233:134)、その様々な種が本発明の製剤、並びに本発明の分子の成分を含んでもよい;p120(Schreierら(1994)J.Biol.Chem.269:9090)が挙げられる;さらに、K.Keinanen;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123;J.J.Killion;I.J.Fidler(1994)Immunomethods 4:273も参照されたい。
V.抗体を用いる方法
また、本発明は、様々なエクスビボおよびインビボでの診断用途および治療用途において、ErbB3に結合する抗体およびその抗原結合部分を用いる方法を提供する。例えば、本明細書に開示される抗体は、種々の癌を含む、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために用いることができる。
一実施形態では、本発明は、疾患を処置するために有効な量で、本発明の抗体またはその抗原結合部分を被験体に投与することによって、ErbB3に依存したシグナル伝達と関連した疾患を処置するための方法を提供する。適した疾患には、例えば、限定されないが、メラノーマ、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、消化管癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、および前立腺癌が含まれる。
好ましい実施形態では、患者から得られる腫瘍試料は検査され、処置は、2009年8月17日に提出された、国際出願PCT/US09/054051、表題「Systems And Products For Predicting Response Of Tumor Cells To A Therapeutic Agent And Treating A Patient According To The Predicted Response」に従って行われる。該出願は、参照によって本明細書に援用される。例えば、患者は悪性腫瘍の治療を受けることになり、腫瘍の試料は採取され、試料中のリン酸−ErbB3(pErbB3)のレベルは測定され、その後に少なくとも1種の抗悪性腫瘍治療薬が該患者に投与される。しかし、該試料で測定されたpErbB3レベルが、無血清培地での20〜24時間の培養の後にACHN細胞の培養物で測定されたpErbB3のレベルの50%より低くない場合、続いて該患者に投与される少なくとも1種の抗悪性腫瘍治療薬は、本発明の抗ErbB3抗体、たとえばAb#6を含み、および該試料で測定されたpErbB3のレベルがACHN細胞の培養物で測定されたpErbB3のレベルの50%より低い場合、続いて該患者に投与される少なくとも1種の抗悪性腫瘍治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない。
一実施形態では、癌はKRAS変異を含む。実施例17に示すように、本明細書に開示される抗体(例えば、Ab#6)抗体は、単一剤(単剤療法)としてまたは別の治療薬との併用のいずれかで用いられるとき、KRAS変異を含む腫瘍細胞の増殖を阻害することができる。別の実施形態では、癌はPI3K変異を含む。実施例19に示すように、本明細書に開示される抗体(例えば、Ab#6)抗体は、単一剤(単剤療法)としてまたは別の治療薬との併用のいずれかで用いられるとき、PI3K変異を含む腫瘍細胞の増殖を阻害することができる。
抗体は、ErbB3が媒介したシグナル伝達と関連した疾患を処置するために、単独で、または抗体と組み合わせてもしくはそれと相乗的に作用する別の治療薬とともに投与されてもよい。このような治療薬には、例えば、下記に記載される抗癌剤(例えば、細胞毒素、化学療法剤、小分子および放射線照射)が含まれる。実施例16、17および19に示すように、本明細書に開示される抗体(例えばAb#6)は、別の治療薬と併用で用いられるとき、単剤療法で用いられるときと比較すると、腫瘍増殖の阻害が増大することを示す。併用療法のための好ましい治療薬には、エルロチニブ(Tarceva(登録商標))、パクリタキセル(Taxol(登録商標))およびシスプラチン(CDDP)が挙げられる。
特定の態様では、本明細書に開示される抗体は、患者に投与される。
別の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される抗体または抗原結合部分を(例えば、エクスビボまたはインビボで)被験体に由来する細胞と接触させ、細胞上のErbB3との結合レベルを測定することによって、被験体におけるErbB3アップレギュレーションと関連した疾患(例えば、癌)を診断する方法を提供する。ErbB3との結合の異常に高いレベルは、被験体がErbB3アップレギュレーションと関連した疾患を有することを示す。
また、本発明の抗体およびその抗原結合部分を含むキットは、本発明の範囲内である。このキットは、キットの内容物の意図された使用を指示するラベルを含んでもよく、かつ該ラベルは、ErbB3アップレギュレーションおよび/またはErbB3依存性のシグナル伝達と関連した疾患の処置または診断、たとえば腫瘍の処置においてキットの使用説明書を任意に含む。ラベルなる用語には、キット上にもしくはキットとともに供給されるいずれかの文書、マーケッティング資料または記録資料が含まれるか、あるいはこれらは別の方法でキットに添付される。
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それをさらなる限定として解釈すべきでない。
本出願の全体にわたって引用されている配列表、図面、並びに全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明確に援用される。
材料および方法
実施例の全体を通して、下記の材料および方法は、特に記述がない限り用いられる。
一般に、本発明の種々の態様の実施は、他に指示がなければ、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば、抗体技術)、並びにポリペプチド調製における標準的な技術を用いる。例えば、Sambrook、Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology),510,Paul,S.,Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169),McCafferty,Ed.,IrI Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual,Harlowら、C.S.H.L.Press,Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubelら、John Wiley & Sons(1992)を参照されたい。HCV生物学のアッセイのためのインビトロおよびインビボのモデル系は、例えば、Cell culture models and animal models of viral hepatitis.Part II:hepatitis C,Lab.Anim.(NY).;34(2):39−47(2005)およびThe chimpanzee model of hepatitis C virus infections,ILAR J.;42(2):117−26(2001)に記載されている。
ヘレグリン
これらの実施例および図面で用いるように、HRGとは、ヘレグリン1β1、HRG1−B、HRG−β1、ニューレグリン1、NRG1、ニューレグリン1β1、NRG1−b1、HRG ECD、などとさまざまに知られているヘレグリンのアイソフォームをいう。HRGは、例えばR&D Systems #377−HB−050/CFから市販されている。
細胞系統
下記に記載される実験で用いた全ての細胞系統は、表示したように、American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,VA)、National Cancer Institute(NCI,www.cancer.gov)から、例えばDivision of Cancer Treatment and Diagnostics(DCTD)から、または刊行物の引用で表示したように、研究者から入手した。
・MCF7−ATCC cat.No.HTB−22
・T47D−ATCC cat.No.HTB−133
・Colo357−Kolbら(2006)Int.J.Cancer,120:514−523。Morganら(1980)Int.J.Cancer,25:591−598も参照されたい。
・Dul45−ATCC cat.No.HTB−81
・OVCAR8−NCI
・H1975−ATCC cat.No.CRL−5908
・A549−ATCC cat.No.CCL−185
・MALM−3M−NCI
・AdrR−NCI
・ACHN−ATCC cat.No.CRL−1611
腫瘍細胞の粉砕
腫瘍の粉砕のために凍結粉砕機(Covaris Inc)を用いる。
特別のバッグ(腫瘍を添加する前に予備秤量しておく)に腫瘍を保存し、それらを取り扱う間、液体窒素中に配置する。小さな腫瘍については、最初に200μLの溶解バッファーを、腫瘍を含むバッグに加えて、液体窒素中で凍結させ、次に、バッグからの腫瘍の回収を改善するために粉砕する。粉砕した腫瘍を2mLのEPPENDORF試験管に移し、さらなる処理の準備が整うまで液体窒素中に配置しておく。
腫瘍細胞の溶解
プロテアーゼおよびホスファターゼの阻害剤を補充した溶解バッファー中で腫瘍を溶解させる。約62.5mg/mLの最終濃度の腫瘍アリコートに溶解バッファーを加える。腫瘍試料を、30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で約30分間インキュベートする。溶解物は、試料のさらなる均質化のために、QIAGEN QIQSHREDDERカラム中で約10分間回転させる。澄明になった溶解物を、さらに処理するために新しい試験管に分注する。
BCAアッセイ
BCAアッセイ(Pierce)は、全ての腫瘍試料について、製造業者のプロトコールに従って行う。各腫瘍試料の総タンパク質濃度(mg/mLで)を後でELISA結果の標準化において用いる。
ELISAアッセイ
全体およびホスホ−ErbB3 ELISAのための全てのELISA試薬は、DUOSETキットとしてR&D Systemsから購入する。96ウェルのNUNC MAXISORBプレートを、50μLの抗体を用いて被覆して、室温で一晩インキュベートする。翌朝、プレートをTween界面活性剤(PBST)(0.05% Tween−20)を加えた、カルシウムまたはマグネシウムを含まないDulbeccoリン酸緩衝食塩水(PBS)を用いて、BIOTEKプレートウォッシャーで1000μL/ウェルを用いて3回洗浄する。続いて、PBS中2%BSAを用いて、約1時間、室温でプレートをブロックする。PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BIOTEKプレートウォッシャーで1000μL/ウェルを用いてプレートを3回洗浄する。50%溶解バッファーおよび1%BSAで希釈した50μLの細胞溶解物および標準物は、さらなる処理のために2連で用いる。プレートシェーカー上で2時間、4℃で試料をインキュベートし、前述のように洗浄する。2%BSA、PBSTで希釈した約50μLの検出抗体を加え、約1時間、室温でインキュベートする。リン(phosphor)−ErbB3に対しては、検出抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に直接結合させて、2時間、室温でインキュベートする。プレートを前述のように洗浄する。約50μLのストレプトアビジン−HRPを加え、30分間、室温でインキュベートする(pErbB3を除く)。プレートを前述のように洗浄する。約50μLのSUPERSIGNAL ELISA Pico(Thermo Scientific)基質を加えて、プレートをFUSIONプレートリーダーで読む。EXCELを用いてデータを分析する。2連の試料を平均し、エラーバーを用いて、2つの複製物間での標準偏差を表す。
実施例1: ファージディスプレイを用いた抗体の生成
本明細書でAb#6、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19と呼ぶヒト抗ErbB3抗体を得るために、ヒトドナーから採取した免疫グロブリン配列の独自の組み合わせを含むヒトFab−ファージライブラリー(Hoetら、上掲)をErbB3結合物について最初にスクリーニングする。
精製したErbB3、細胞表面ErbB3を発現しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系統を用いて、ライブラリー(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて取得した)に由来する73個の独自のFab配列を同定する。次に、これらの73のクローンを、ファージを含まないFabのみを再編成する。ハイスループット法を用いて、これらのFabを小規模で発現させ、ELISA法と、ハイスループット表面プラズモン共鳴(SPR)技術であるFLEXCHIP法とを用いて結合に対する検査をする。ファージを含まない73個のFabを、チップ表面にスポットし、ErbB3−his融合標的タンパク質またはErbB3−Fcタンパク質(R&D Systems)に対する結合反応速度およびエピトープブロックを測定する。Fabについての平衡結合定数およびオン/オフ速度を、得られたデータから算出する。
次に、MALME−3M細胞との種々のFabの結合を、約500nMのFab、および1:750に希釈したヤギ抗ヒトAlexa647二次抗体を用いて調べる。図1Aおよび1Bに示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、MALME−3M細胞の感知できる染色を示したいくつかの候補Fabを示す。
実施例2:抗ErbB3 Fabの最適化
ErbB3リガンドであるヘレグリンのErbB3との結合をブロックするFabの同定に続いて、FabのVHおよびVLの配列を下記のようにコドン最適化する。
VHおよびVLの領域をIgG1またはIgG2アイソタイプとして発現するための発現構築物を用いて再編成する。構築物は、適切な重鎖および軽鎖の配列の置換のために設計されたカセットを有するSELEXIS骨格を含む。SELEXISベクターは、CMVプロモーターおよびマッチングポリAシグナルを含む。
Ab#6のコドン最適化VHおよびVLの核酸配列(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて取得した)を、図22に示すように、それぞれ配列番号25および26に記載し、Ab#3の核酸配列を、それぞれ配列番号27および28に記載する。
実施例3:ErbB3に対する結合親和性
抗ErbB3抗体の解離定数を、2つの独立した技術、すなわち、表面プラズモン共鳴アッセイと、MALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイとを用いて測定する。
表面プラズモン共鳴アッセイ
表面プラズモン共鳴アッセイ(例えばFLEXCHIPアッセイ)を、Wassafら(2006)Analytical Biochem.,351:241−253に記載されるように、分析物として組換えErbB3と、リガンドと主題の抗体とを用いて、BIACORE3000装置などで実質的に行う。KD値は、式KD=Kd/Kaに基づいて算出する。
上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定したAb#6およびAb#3のKD値は、それぞれ、図2Aおよび2Bに示す。Ab#6は、約4nMのKD値を示し、およびAb#3は、約8nMのKD値を示した。さらに、Ab#6がErbB3との結合をHRGと競合することを表面プラズモン共鳴が示した。
細胞結合アッセイ
Ab#6およびAb#3のKD値を決定するための細胞結合アッセイを、下記のように行う。
MALME−3M細胞を、室温で5分間、2mLのトリプシン−EDTA+2mLのRMPI+5mMのEDTAを用いて解離させる。完全RPMI(10mL)をトリプシン処理した細胞に直ちに加えて、穏やかに再懸濁し、次いでBeckman卓上型遠心分離機で1100rpm、5分間遠心沈殿させる。細胞を2×106細胞/mLの濃度で、BD染色バッファー(PBS+2%FBS+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)中で再懸濁させ、50uL(1×105細胞)アリコートを96ウェル滴定プレートに播種する。
BD染色バッファーに含まれる200nM抗ErbB3抗体(Ab#6またはAb#3)の150μL溶液を、EPPENDORF試験管で調製し、次いで75μLのBD染色バッファーに連続的に2倍希釈する。希釈抗体の濃度は、200nM〜0.4nMにわたった。次に、異なるタンパク質希釈物の50μLのアリコートを50μLの細胞懸濁液に直接加えて、最終濃度100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nMおよび0.2nMの抗体を得る。
96ウェルプレートに分注した細胞を、プラットフォームシェーカー上で30分間、室温でタンパク質希釈物とともにインキュベートし、300μLのBD染色バッファーを用いて3回洗浄する。次に、細胞を、低温室のプラットフォームシェーカー上で、45分間、BD染色バッファーで1:750希釈したAlexa647標識ヤギ抗ヒトIgGの100μlとともにインキュベートする。最終的に、細胞を2回洗浄し、ペレット状にして、250μLのBD染色バッファー+0.5μg/mLのヨウ化プロピジウム中で再懸濁させる。10,000個の細胞の分析を、FL4チャネルを用いるFACSCALIBURフローサイトメーターで行う。抗ErbB3抗体のMFI値および対応する濃度をそれぞれy軸およびx軸にプロットする。分子のKD値を、非線形回帰曲線についての単一部位結合モデルを用いるGraphPad PRISMソフトウェアを使用して決定する。
KD値は、式Y=Bmax*X/KD+X(Bmax=飽和の蛍光。X=抗体濃度。Y=結合程度)に基づいて算出する。図2Cおよび2Dに示すデータから算出されるように、Ab#6およびAb#3は、MALME−3M細胞を用いた細胞結合アッセイでは、得られた(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて)KD値は、それぞれ約4nMおよび1.3nMであった。
KinExA(登録商標)アッセイ
Ab#6の結合反応速度を調査するさらなる実験では、キネティック排除アッセイ(KinExA(登録商標))を用いて、Ab#6の会合速度および解離速度を決定する。1.43×105M−1s−2の会合速度および1.10×10−4s−1の解離速度を、KinExA(登録商標)(Sapidyne Instruments,Boise,ID)装置を用いて測定し、測定した解離定数(Kd)は769pMであった。
実施例4:ErbB3についての結合特異性/エピトープ結合
ErbB3に対するAb#6のIgG2アイソタイプの結合特異性を、下記のようのELISAを用いてアッセイする。Ab#6によって結合されるエピトープの同定も分析する。
96ウェルのNUNC MAXISORBプレートを、5μg/mLの個々のタンパク質を50μL/ウェルで用いて、一晩、室温でのインキュベーションによって被覆する。これらのタンパク質は、組換えヒトEGFR外部ドメイン、BSA、組換えヒトErbB3外部トメインおよびTGF−αである。翌朝、プレートをBIOTEKプレートウォッシャーで1000μL/ウェルのPBST(0.05% Tween−20)を用いて3回洗浄する。ウェルを、PBS中の2%BSAを用いて1時間、室温でブロックして、前述のように再度洗浄する。約50μLのAb#6を2%BSA、PBST中にいくつかの希釈(1μMおよび連続的な2倍希釈)で加える。全ての試料を2連で行い、かつプレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートする。プレートを前述のように再度洗浄する。50μLのヒトIgG−Fc検出抗体(HRP結合型、Bethyl Laboratories,Inc;2%BSA中PBSTで、1:75000で希釈)を加えて、プレートを1時間、室温でインキュベートする。プレートを前述のように再度洗浄する。50μLのSUPERSIGNAL ELISA Pico基質を加えて、プレートをFUSIONプレートリーダー(Packard/Perkin Elmer)上で読む。EXCELプログラムを用いてデータを分析する。2連の試料を平均し、エラーバーで2つの複製物間での標準偏差を表す。
図3に示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、Ab#6はELISAでは組換えErbB3に結合したが、EGFR、BSAまたはTGF−αにはいずれの感知できる結合を示さなかったことを示す。
成熟ErbB3(配列番号73)のアミノ酸残基1〜183に対応するErbB3外部ドメイン断片をコードするDNA断片は、Nhe制限部位とBsiWI制限部位の間で酵母提示ベクターであるpYD2(Hisタグの前で操作された終止コドンを有するpYD1(Invitrogen)の改変バージョン)にクローン化する。酵母菌株EBY100(Invitrogen)にプラスミドを形質転換し、このプラスミドを含むクローンをTrp−選択培地で選択する。グルコースを含む培地で一晩、30℃でクローンを増殖させ、ガラクトースを含む培地に移すことによってErbB3切断変異体の発現を2日間、18℃で誘導させる。ErbB3切断変異体を示す酵母を、50nMのAb#6を用い、その後、Alexa色素−647で標識したヤギ抗ヒト抗体を用いて染色する。二次抗体の酵母との非特異的な結合がないことを示すために、別の試料をヤギ抗ヒト抗体のみで染色する。分析は、FACSCALIBURセルソーター(BD Biosciences)上のフローサイトメトリーによって行う。
図39に示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)が示すように、Ab#6は、ErbB3外部ドメイン、すなわち、成熟ErbB3(配列番号73)のアミノ酸残基1〜183に結合した。
実施例5:腫瘍細胞上の全ErbB3のダウンレギュレーション
腫瘍細胞におけるインビトロおよびインビボの両方でのErbB3発現をダウンレギュレートするAb#6の能力を下記のように試験する。
MALME−3M細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したRPMI−1640培地中で24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖させる。次に培地を、1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pMの濃度の抗体を含む場合と含まない場合とで、FBSを含まない同じ培地に切り替える。FBSまたは抗体を含まない培地を対照として用いる。細胞を24時間、37℃、5%二酸化炭素で増殖させて、冷PBSで洗浄し、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム、10uM bpV(phen)、50uMフェニルアルシン、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma、P2714)を加えた哺乳動物タンパク質抽出(MPER)溶解バッファー(Pierce、78505)を用いて収集する。PBST(0.1%tween−20)中4%ウシ血清アルブミンで細胞溶解物を2倍に希釈し、次に、マウス抗ヒトErbB3捕捉用抗体およびビオチニル化マウス抗ヒトErbB3二次検出抗体を用いてELISAによって分析する。SUPERSIGNAL ELISA Pico化学発光基質(Pierce、37070)と反応する西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンによってシグナルを生成する。ルミノメーターを用いてELISAを定量化する。
図4に示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、ELISAで測定すると、Ab#6が、インビトロでMALME−3M細胞において全ErbB3レベルを約46.9%減少させたことを示している。
さらなる実験では、Ab#6のIgG1およびIgG2のアイソタイプを用いるMALME−3M細胞上のErbB3受容体のダウンレギュレーションを、FACS分析を用いて調べる。MALME−3M細胞を15cmディッシュからトリプシン処理して、RPMI+10%FBSを用いて1回洗浄する。細胞ペレットを1×106細胞/mLの密度で再懸濁させる。2×105細胞の2つのアリコートを12ウェル組織培養プレート中の個々のウェルに加えて、それぞれを800uL RPMI+10%FBSの最終量で再懸濁させる。1つのウェルに対しては、Ab#6IgG1またはAb#6IgG2のアイソタイプを最終濃度100nM(処理試料)に加え、他のウェルに対しては、等量のPBS(非処理試料)を加える。
翌日、処理細胞および非処理細胞をトリプシン処理し、洗浄して、BD染色バッファー中の100nMのAb#6とともに30分間、氷上で、インキュベートする。1mLのBD染色バッファーを用いて細胞を2回洗浄し、100uLの1:500希釈したAlexa647標識ヤギ抗ヒトAlexa647とともに45分間、氷上で、インキュベートする。次に、細胞を洗浄して、300uLのBD染色バッファー+0.5ug/mLヨウ化プロピジウムに再懸濁させる。10,000個の細胞の分析は、FL4チャネルを用いてFACSCALIBURフローサイトメーターで行う。
図5Aおよび5Bに示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、Ab#6のIgG1およびIgG2のアイソタイプの両方が、MALME−3M細胞上のErbB3をそれぞれ約62%及び約66%ダウンレギュレートしたことを示している。
このErbB3のダウンレギュレーションが、MALME−3M細胞表面のErbB3受容体の内在化に起因するかどうかを決定するために、細胞表面蛍光消光アッセイを行う。MALME−3M細胞を、RPMI+10%FBS中の6ウェルプレート(0.2×106/ウェル)で一晩平板培養する。翌日、古い培地を取り除いて、蛍光色素Alexa488に結合した100nMのAb#6を含むRPMI+2%FBS中の細胞を60分間、氷上でプレインキュベートする。次に、細胞を37℃のインキュベーターに戻して、0.5時間、2時間または24時間インキュベートする。各時点の終わりに、細胞をトリプシン処理して、PBS+2%BSA+0.1%アジ化ナトリウム(FACS染色バッファー)を用いて洗浄し、次いで全ての試料の準備が整うまで氷上で保管する。0時の時点では、60分間のプレインキュベーション後に細胞をトリプシン処理して、氷上で保管する。全ての時点で細胞を収集した後、各時点の試料をそれぞれ2つの試験管に分ける。1組の試験管を25ug/mLの抗Alexa488抗体とともに氷上で60分間インキュベートして、細胞表面のいずれの蛍光源(すなわち、Alexa488が結合したAb#6)を消光させる。もう1組の試験管を非消光のままにして、このインキュベーションの間、氷上で保管する。消光時間が終わると、細胞をFACS染色バッファーで2回洗浄し、次いで300uLの最終量のFACS染色バッファーに再懸濁させる。各試料について10,000現象を収集してFACSCALIBURフローサイトメーターで分析する。このプロトコールでは、Ab#6(蛍光で測定した)が細胞表面に残存する割合(各時点で蛍光が消光した細胞と非消光した細胞間の差異によって示される)および内部移行される量(蛍光が消光した細胞のレベルによって示される)の指標が得られる。
図6に示すように、Ab#6の存在下でのErbB3のダウンレギュレーションを0時間(図6A)、0.5時間(図6B)、2時間(図6C)および24時間(図6D)で測定した。図6A〜6Dに示すように、細胞表面のErbB3受容体が、約30分後に約50%ダウンレギュレートし、約24時間で、約93%ダウンレギュレートした。
また、メラノーマ細胞中インビボでErbB3ダウンレギュレーションを引き起こすAb#6の能力を下記のとおり調べる。
T細胞欠損nu/nuマウス(NIH由来の3〜4週齢の雌マウス;非近交系;アルビノバックグラウンド)をCharles River Labs(Wilmington,MA)から購入した。移植のためのMALME−3M細胞を培養液(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%、CO2)中で約80%の培養密度まで増殖させて収集した。移植するまで細胞を氷上で保持した。マウスに右脇腹から100μLのMALME−3M細胞(PBS中3.5×106細胞)を皮下注射を介して移植して、初期の腫瘍増殖についてモニターしなから、回復させた。
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、マウスを静脈注射によってマウスIgG2a(Sigma、M7769−5mg)で前処置して、マウスFc受容体で検査した抗体の欠乏をin vivoでブロックした。各IgG1およびIgG2の型を別々にAb#1、Ab#6、Ab#11、およびAb#13を15μgまたは100μgのいずれかでマウスに1日おきに腹腔内に投与して、1週間につき3回、腫瘍を測定し、測定結果をMicrosoft EXCELスプレッドシートに記録した。
最終の腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出して、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存した(生化学分析用)。最終の腫瘍測定結果を分析し、例えば、Burtrumら(2003)Cancer Res.,63:8912−8921に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにした。また、腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」した方法でデータを分析した。データの「標準化」については、測定の各時点で、各群の各腫瘍をカリパー測定によって測定した初期の腫瘍サイズによって分けた。
図7に示すように、PBSを対照として使用し、この異種移植モデルで検査した種々の抗体は、IgG2アイソタイプにAb#11を含み、Ab#1、Ab#6およびAb#13のそれぞれをIgG1およびIgG2のアイソタイプの両方に含んでいた。これらのうち、Ab#6だけが、全ErbB3の有意なダウンレギュレーションを引き起こした、Ab#6のIgG1またはIgG2のアイソタイプバージョンのいずれかで処置した腫瘍において注射から24時間後すぐに見られた効果であった。
さらなる実験では、インビボでのAdrR異種移植片においてErbB3をダウンレギュレートするAb#6の能力を調べた。
要約すると、凍結粉砕機(Covaris Inc)で試料を粉砕した。特別のバッグ(腫瘍を添加する前に予備秤量した)に腫瘍を保存し、それらを取り扱う間、液体窒素中に配置しておいた。小さな腫瘍については、200μLの溶解バッファーを最初に、腫瘍を含むバッグに加えて、液体窒素中で凍結させ、次に、バッグからの腫瘍の回収を改善するために粉砕させた。粉砕させた腫瘍を2mLのEPPENDORF試験管に移し、溶解させるまで液体窒素中に配置しておいた。プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を補充した溶解バッファー中で腫瘍を溶解させた。62.5mg/mLの最終濃度で腫瘍アリコートに溶解バッファーを加えた。腫瘍試料を30秒間ボルテックスしてホモジナイズし、氷上で30分間置いた。溶解物を、試料のさらなる均質化のために、QIAGEN QIASHREDDERカラム中で約10分間回転させた。澄明になった溶解物を新しい試験管に分注した。
BCAアッセイを、上掲の材料および方法の節に本質的に記載したように行う。
ErbB3の全レベルをELISAによって測定した。ELISA試薬は、DUOSETキットとしてR&D Systemsから購入した。96ウェルのNUNC MAXISORBプレートを、50μLの関連する捕捉用抗体を用いて被覆させ、室温で一晩インキュベートした。翌朝、PBST(0.05% Tween−20)を用いて、BIOTEKプレートウォッシャーで1000μL/ウェルを用いてプレートを3回洗浄し、その後、PBS中の2%BSAを用いて、室温で1時間ブロックした。次に、プレートを前述のように再度洗浄した。溶解物(50μL)と標準物を50%溶解バッファーおよび1%BSAで希釈した。全ての試料は2連で行った。プレートをプレートシェーカー上で2時間、4℃でインキュベートし、次に、前述のように再度洗浄した。2%BSA、PBSTで希釈した50マイクロリットルの検出抗体を加えて、プレートを1時間、室温でインキュベートした。プレートを前述のように再度洗浄した。50マイクロリットルのストレプトアビジン−HRPを加えて、プレートを30分間、室温でインキュベートした。プレートを前述のように再度洗浄した。50マイクロリットルのSUPERSIGNAL ELISA Pico基質を加えて、読み出しをFusionプレートリーダーで行った。Microsoft EXCELを用いてデータを分析した。2連の試料を平均して、エラーバーで、2つの複製物間の標準偏差を表す。
この実験の結果を図8に示す。図8に示すように、Ab#6は、インビボでのAdrR異種移植片でErbB3をダウンレギュレートした。
実施例6:腫瘍細胞増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、癌細胞)の細胞増殖を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べる。
MALME3M、ACHNおよびNCI/AdrR細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、抗生物質、2mMのL−グルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖させる。次に、1uM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pM濃度でAb#6の存在下または非存在下で、培地を、抗生物質、2mMのL−グルタミンを含むがFBSを含まないRPMI−1640に切り替える。細胞を96時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖させ、次に、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega、G7573)を用いて収集して、ルミノメーター上で分析する。血清および抗体を含まない培地を対照として用いる。
図9、10および11に示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、Ab#6が、ErbB3を発現するMALME−3M細胞(図9)、AdrR卵巣癌細胞(図10)、およびACHN細胞(図11)の増殖を阻害したことを示している。具体的には、CellTiter−Glo(登録商標)アッセイを用いて測定すると、Ab#6は、MALME−3M細胞の増殖を約19.6%阻害し、およびAdrR卵巣癌細胞の増殖を約30.5%阻害した。また、図11に示すように、Ab#6は、ACHN細胞の増殖を約25.4%阻害した。
実施例7:腫瘍細胞におけるErbB3リン酸化の阻害
インビボにおけるErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べる。
図8に関して、上掲の実施例5に記載したように試料を実質的に粉砕する。BCAアッセイを、上掲の材料および方法の節に記載したように行い、および図8に関して、ELISAアッセイを、上掲の実施例5に記載したように実質的に行う。
この実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図12に示す。図12に示すように、リン酸化ErbB3(pErbB3)の量をng/mg総タンパク質で測定すると、Ab#6は、インビボでのAdrR卵巣異種移植片においてErbB3リン酸化を有意に阻害した。
BTCまたはHRGが誘導するErbB3リン酸化のAb#6による阻害を下記のとおりインビトロで調べる。
50mMのBTC、10mMのHRGまたは333nMのTGF−αで刺激する前に、卵巣AdrR細胞をAb#6とともに30分間プレインキュベートする。プレインキュベーションの後、培地を取り除き、50nMのBTCまたは333nMのTGF−αを用いて、細胞を5分、37℃、5%CO2において刺激する。HRG対照(5分間、5nM)、10%血清および0%血清対照も用いる。細胞を1×冷PBSで洗浄して、30μLの***解バッファー(M−PERバッファー(Pierce)+バナジウム酸ナトリウム(NaVO4、Sigma)、2−グリセロリン酸エステル、フェニルアルシンオキシド、BpVおよびプロテアーゼ阻害剤)中で、氷上で30分間インキュベートすることによって溶解させる。溶解物を−80℃で一晩保管する。
図13A〜13Cに示すように、上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、Ab#6がベータセルリンおよびヘレグリンの両方が媒介するErbB3のリン酸化を有意に阻害したことを示している。
さらなる実験では、卵巣腫瘍細胞系統OVCAR5およびOVCAR8においてErbB3リン酸化を阻害するAb#6の能力を下記のとおりに調べた。
OVCAR5およびOVCAR8の細胞系統は、National Cancer Institute,Division of Cancer Treatment and Diagnostics(「DCTD」)から得る。ELISAは、上掲の材料および方法の節に記載したように実質的に行う。
この実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図14Aおよび14Bに示す。図14Aおよび14Bに示すように、Ab#6は、OVCAR5およびOVCAR8の卵巣癌細胞系統の両方においてErbB3リン酸化を阻害した。
上記で検討したように、Ab#6は、ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化を阻害する。ベータセルリン媒介のErbB3のリン酸化がErbB1またはErbB3を介して起こるのかを調べるために、下記の実験を行った。
AdrR細胞またはMALME−3M細胞(1×105)を、50μLのBD染色バッファー中の25μMの抗ErbB3 Ab#6または25μMのセツキシマブ(抗ErbB1)とともに、30分間、氷上でプレインキュベートする。30分後、50μLの400nMビオチニル化BTCを細胞に加えて、さらに30分間、氷上でインキュベートした。これにより、12.5μM抗体および200nMのBTCの最終濃度がもたらされる。次に、細胞を500μLのBD染色バッファーを用いて2回洗浄し、BD染色バッファー中の、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μLとともに45分間、インキュベートした。最終的に、細胞を2回洗浄し、300μLのBD染色バッファーに再懸濁させて、FACSCALIBURフローサイトメーターで分析した。陽性対照として、1×105のAdrRまたはMALME−3M細胞を、200nMのBTCとともに、30分間、氷上でインキュベートして、2回洗浄し、次いで1:200に希釈したストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートする。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞を、1:200に希釈したストレプトアビジン−PEの100μLのみとともに45分間インキュベートする。
この実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図15A〜15Cに示す。図15Aに示すように、BTCは、ErbB1陰性MALME−3M細胞とのいかなる感知できる結合も示さない。しかしながら、図15Bおよび15Cに示すように、BTCは、ErbB1陽性AdrR細胞との結合を示す。
また、図15Bおよび15Cに示すように、ErbB1との結合は、EGFRに特異的に結合する抗EGFR抗体であり、かつEGF様リガンドがEGFRに結合することを示すための対照として含めたセツキシマブ(Erbitux(登録商標))によってブロックされた。これは、例えば、Adamsら(2005),Nature Biotechnology 23,1147−1157に記載されている。
実施例8:腫瘍細胞におけるヘレグリン媒介のシグナル伝達の阻害
ヘレグリン媒介の腫瘍細胞のシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べる。
MALME−3M細胞およびOVCAR8細胞を96ウェル組織培養プレートに別々に播種(35,000細胞/ウェル)し、抗生物質、2mM L−グルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI−1640培地中で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で増殖させる。抗生物質および2mM L−グルタミンを含むRPMI−1640培地で24時間、37℃、および5%二酸化炭素で、細胞を血清不足状態にする。細胞を1μM、250nM、63nM、16nM、4.0nM、1.0nM、240pM、61pMおよび15pMの濃度の抗ErbB3抗体(Ab#6のIgG2アイソタイプ)を含む場合と、含まない場合とで30分間前処理し、次に、5nMのHRGで、10分間、37℃、および5%二酸化炭素において刺激する。対照は、抗体を含まないHRGと非処理細胞(HRGを含まない、およびAbを含まない)である。細胞を冷PBSで洗浄し、次に、150mM NaCl、5mMピロリン酸ナトリウム(Sigma、221368−100G)、10uM bpV(phen)(Calbiochem、203695)、50μMオキソフェニルアルシン(Calbiochem、521000)、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma、S6508−10G)、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma、P2714)を含む哺乳動物タンパク質抽出(M−PER)溶解バッファー(Pierce、78505)を用いて収集する。細胞溶解物をPBST(0.2%tween−20)中の4%ウシ血清アルブミンで2倍に希釈し、次に、ErbB3またはAKT(ErbB3の下流エフェクター)のいずれかのリン酸化についてELISAによって分析する。
AKTリン酸化について検査するために、溶解物を、AKTに特異的な捕捉用抗体と、リン酸化AKT(pAKT)のリン酸化セリン473に特異的なビオチニル化検出抗体とを用いてELISAプレート上を移動させる。シグナルは、SUPERSIGNAL ELISA Pico化学発光基質(Pierce、37070)と反応した西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンより生じる。ErbB3リン酸化を評価するために、溶解物を、ErbB3に特異的な捕捉用抗体と、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗ホスホチロシン検出抗体とを用いてELISAプレート上を移動させる。次に、これを同じ化学発光基質と反応させる。ELISA上の発光シグナルをルミノメーターを用いて測定する。
図16A〜Dに示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)が示すように、ErbB3(図16A)およびAKT(図16B)のリン酸化の減少によって測定すると、Ab#6は、MALME−3M細胞およびOVCAR8細胞においてヘレグリン媒介のシグナル伝達の強力な阻害剤である。特に、Ab#6によるAKTおよびErbB3それぞれのリン酸化の本質的に完全な阻害が観察される。
実施例9:卵巣、前立腺、および膵臓の腫瘍増殖の阻害
インビボでのAb#6の有効性を評価するために、ヒト癌のいくつかの異種移植モデルをヌードマウスで構築し、腫瘍増殖の阻害をAb#6の複数の投与量で評価する。例えば、T細胞欠損nu/nuマウス(NIH由来の3〜4週齢の雌マウス;非近交系;アルビノバックグラウンド)は、異種移植研究のために、Charles River Labs(Wilmington,MA)から購入する。移植のためのAdrR細胞を、培養液中(RPMI培地、10%FBS、L−グルタミンおよび抗生物質、37℃、5%CO2)で約85%の培養密度まで増殖させて、収集する。移植するまで細胞を氷上で保持する。マウスに、右脇腹から100μLのAdrR細胞(PBS中6×106細胞)を皮下注射を介して移植し、初期の腫瘍増殖についてモニターしながら回復させる。
デジタルカリパーによって腫瘍(長さ×幅)を測定し、静脈注射によってIgG2a(Sigma、M7769−5MG)をマウスに投与する。マウスに、Ab#6の30μgまたは300μgのいずれかを3日ごとに腹腔内に投与し、次いで1週間につき3回、腫瘍を測定し、Microsoft Excelスプレッドシートに記録する。
最終的な腫瘍測定(L×W)を行い、CO2窒息によってマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、液体窒素中で瞬時に凍結し、−80℃で保存する(生化学分析用)。最終的な腫瘍測定結果を分析し、Burtrumら、上掲、に記載されるように、腫瘍面積と腫瘍体積によってグラフにする。また、データを腫瘍体積と腫瘍面積の両方について「標準化」および「非標準化」された手法によって分析する。データの「標準化」については、測定の各時点で、各群の各腫瘍をカリパー測定によって測定した初期の腫瘍サイズによって分ける。
ヒト腫瘍細胞系統であるAdrR(卵巣)、Du145(前立腺)およびOvCAR8(卵巣)に由来する3種の異なるモデルからのデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図17A〜Cに示し、Colo357(脾臓)異種移植研究データを図17Dに示す。これらの図のそれぞれでは、右パネルは、Ab#6の特定の投与量で達成した血清レベルを示し、左パネルは異なる処置による腫瘍体積の変化を示す。これらの試験からのデータは、3日ごとに(Q3d)300ug用量のAb#6が腫瘍増殖の有意な阻害をもたらすことを示す(研究期間中の複数の時点に対してp<0.05)。加えて、Du145前立腺癌モデル、並びに腎癌(ACHN)および膵癌(COLO357)の異種移植モデルにおいて、用量が600ug Q3dまで増加すると、Ab#6の阻害効果は、さらに上昇する。しかしながら、1500ug Q3dまで用量をさらに増加させると、有効性の増加をもたらさなかった(OvCAR8−図17C;COLO357−図17D)。これは、600ugが、腫瘍増殖阻害に関して飽和していることを示唆する。これらの研究から動物由来の血清の薬物動態(PK)解析は、Ab#6の血清滞留において用量依存的な増加を示す。同様に、これらの異なる研究からのAb#6の腫瘍内レベルの生化学的分析は、全腫瘍溶解物の0〜約6pg Ab#6/ugの用量依存的な範囲を示した。
実施例10:腫瘍細胞上のErbB3とのErbB3リガンドの結合の阻害
さらなる実験では、ErbB3リガンドのErbB3との結合を阻害するが、EGF様リガンドのEGFRとの結合は阻害しないAb#6およびAb#6の特異性を下記のとおり調べる。
一実施形態では、ErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)のErbB3との結合を阻害するAb#6およびAb#3のFabバージョン(Ab/Fab#3)の特異性を調べ、ヘレグリンのErbB3との結合を阻害するAb#6およびAb/Fab#3の能力を調べる。
MALME3M細胞(1×105)を、50μLのBD染色バッファー中の10μMの抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6またはAb/Fab#3)とともに30分間、氷上でインキュベートする。30分後、50μLの40nMビオチニル化ヘレグリンEGFを該細胞に加えて、さらに10分間、氷上でインキュベートする。これにより、5μM抗体および20nMのヘレグリンEGFの最終濃度がもたらされる。次に、細胞を500μLのBD染色バッファーで2回洗浄して、BD染色バッファー中の、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μLとともに45分間、インキュベートする。最終的に、細胞を2回洗浄し、300μLのBD染色バッファーに再懸濁させて、FACSCALIBURフローサイトメーターで分析する。陽性対照として、1×105のMALME3M細胞を、20nMのヘレグリンEGFとともに、10分間、氷上でインキュベートして、2回洗浄し、1:200に希釈したストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートする。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、1×105のMALME3M細胞を、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE100μLのみとともに45分間インキュベートする。
この実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図18Aおよび18Bに示す。図18Aおよび18Bに示すように、Ab#6およびAb/Fab#3の両方は、ヘレグリンのErbB3との結合を阻害することができる。
同様に、別のErbB3リガンドであるエピレグリンのErbB3との結合を阻害するAb#6の能力を下記のとおり調べる。
AdrR細胞(1×105)を、50μLのBD染色バッファー中の、25μMの抗ErbB3抗体であるAb#6、または25μMの抗ErbB1抗体セツキシマブとともに、または抗体を加えずに(対照として)30分間、氷上でインキュベートする。30分後、50μLの2μMビオチニル化ヘレグリンEpiを該細胞に加えて、さらに30分間、氷上でインキュベートする。これにより、12.5μMの抗体および1μMEpiの最終濃度がもたらされる。次に、細胞を500μLのBD染色バッファーで2回洗浄し、BD染色バッファー中の、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン、蛍光タンパク質の1種)(Invitrogen)の100μLとともに45分間、インキュベートする。最終的に、細胞を2回洗浄し、300μLのBD染色バッファーに再懸濁させて、FACSCALIBURフローサイトメーターで分析する。陽性対照として、1×105のAdrR細胞を1μMのEpiとともに30分間、氷上でインキュベートして、2回洗浄し、1:200に希釈したストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートする。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、細胞を、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE 100μLのみとともに45分間インキュベートする。
この実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図19Aおよび19Bに示す。図19Aに示すように、エピレグリンは、ErbB3陽性AdrR細胞に結合する。さらに、図19Bに示すように、この結合は、セツキシマブおよびAb#6の両方によって阻害され、エピレグリンがEGFRおよびErbB3の両方に結合し得ることを示唆する。
Ab#6が、EGF様リガンド(例えば、HB−EGF)の腫瘍細胞との結合を阻害することができるかを調べるために、さらなる実験を行う。
AdrR細胞(1×105)を、50μLのBD染色バッファー中の25μMのAb#6または25μMのセツキシマブ(対照として)とともに30分間、氷上でプレインキュベートする。30分後、50μLの400nMビオチニル化HB−EGFを細胞に加えて、さらに30分間、氷上でインキュベートする。これにより、12.5μMの抗体および200nMのHB−EGFの最終濃度がもたらされる。次に、細胞を500μLのBD染色バッファーで2回洗浄し、BD染色バッファー中の、1:200に希釈したストレプトアビジン−PE(PE=フィコエリトリン)(Invitrogen)の100μLとともに45分間、インキュベートする。最終的に、細胞を2回洗浄し、300μLのBD染色バッファーに再懸濁させ、FACSCALIBURフローサイトメーターで分析する。陽性対照として、1×105のAdrR細胞を200nMのHB−EGFとともに、30分間、氷上でインキュベートし、2回洗浄して、1:200に希釈したストレプトアビジン−PEとともに45分間、インキュベートする。ストレプトアビジン−PE結合体からのバックグラウンド染色を評価するために、1:200に希釈したストレプトアビジン−PEの100μLのみとともに細胞を45分間インキュベートする。
図20に記載するデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)で示すように、HB−EGFは、AdrR細胞、AdrR細胞上のErbB1およびErbB4のいずれかまたは両方と思われる、と結合する。Ab#6はこの結合を阻害せず、Ab#6が、ErbB3リガンド(例えば、ヘレグリンおよびエピレグリン)のErbB3との結合の阻害に特異的であることを証明している。
実施例11:腫瘍細胞におけるVEGF分泌の阻害
ErbB3を発現する細胞(例えば、癌細胞)のVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を、上述の材料および方法の節の「ELISAアッセイ」下に記述したように、VEGF分泌アッセイ(VEGF ELISA、R&D Systems DY293B)を用いて調べる。最初に、非処理およびHRG処理したMCF−7、T47D細胞およびCOLO−357細胞におけるVEGF分泌を阻害するAb#6の能力を分析する。図24Aに示すように、これらの研究は、COLO−357が培地中に最大量のVEGFを分泌することを明らかにした。また、これらの細胞は、極めて高レベルのHRGを示すので、培地にHRGを加えることでの、VEGF分泌を誘導することはほとんどない。対照的に、HRGは、MCF−7およびT47D細胞において倍以上のVEGF分泌を誘導することができる。Ab#6は、3つの全ての細胞系統において高レベルで強力な阻害効果を示し、最大はCOLO−357においてである(図24A、FU=蛍光単位)。
また、Ab#6は、3種の異なる異種移植片においてVEGF分泌を阻害することによって、インビボで同様の効果を示し、最大はCOLO−357異種移植片においてである(図24B)。VEGFの阻害は、ErbB3のリン酸化の阻害と相関している(図24C)。骨髄腫細胞分泌因子、例えばVEGFおよびbFGFが、血管新生を誘導することは立証されている(例えば、Leungら(1989)Science 246(4935):1306−9;Yenら(2000)Oncogene 19(31):3460−9を参照されたい)。VEGF分泌の阻害も、腫瘍が誘導する血管新生、すなわち腫瘍増殖のファシリテーターの阻害と相関する。
実施例12:細胞移動の阻害
ErbB3を発現している細胞(例えば、MCF−7細胞)の移動を阻害するAb#6の能力をトランスウェルアッセイ(Millipore Corp.,Billerica,MA,#ECM552)を用いて調べる。最初に、MCF−7細胞を一晩、血清不足状態にし、次に、Ab#6(最終濃度8uM)の存在下および非存在下で、15分間、室温でインキュベートする。その後、細胞が移動できるI型コラーゲンを被覆したメンブレンによって下段チャンバーと分離されている上段チャンバーに細胞を移す。Ab#6の存在下および非存在下で、10%FBSを化学誘引物質として作用するように下段チャンバーの培地に加える。該チャンバーを37℃で16時間インキュベートし、次に、該メンブレンを通過して下段に移動する細胞を、解離バッファーを用いて取り除き、細胞結合蛍光色素とともにインキュベートする。蛍光プレートリーダーを用いて蛍光を定量化する。平均蛍光±SEM(n=2)を図25に示す。
図25のデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)で示すように、非処理の対照(レーン1)と比較すると、10%FBSは、細胞移動(レーン3)を刺激し、8uMのAb#6は、FBS誘導性細胞移動(レーン4)を阻害する。
実施例13:スフェロイド増殖の阻害
ErbB3を発現している細胞のスフェロイド増殖を阻害するAb#6の能力を、発達している腫瘍増殖の状態を近似するアッセイ(Hermanら(2007)J.Biomol Screen.2008 Jan;13(1):1−8,Epub 2007 Nov 26)を用いて調べる。AdrR(卵巣癌細胞系統)およびDU145(前立腺癌細胞系統)のスフェロイドを、ドロップ法(Herrmannら、上掲)を用いて、96ウェルプレートの1ウェルあたり1個のスフェロイドの頻度で開始する。サブコンフルエントな細胞をトリプシン処理し、カウントしてから、濾過培地に再懸濁させる。細胞濃度を100,000細胞/mLに調整して、20uL(2000細胞を含む)を1滴下、96ウェルプレートのフタの裏側の各リングに加える。次に、これらの懸垂液滴を有するフタを元の96ウェルプレートの上に戻す。該96ウェルプレートの各ウェルには水分を維持するための100uLのPBSが含まれている。最初のプレーティングから4日後、スフェロイドを含んでいる懸垂液滴を、新しい96ウェルプレートに再播種する。この再プレーティングは、該懸垂液滴を含むフタを、1%アガロース/RPMIを被覆した新しい96ウェルプレートに移すことが含まれる。新しい96ウェルプレートは1ウェルあたり150uLの培地が含まれている。次に、該プレートおよびフタを一緒に500rpmで1分間遠心して、液滴を含むスフェロイドをフタからウェルに移す。次に、プレートを加湿したCO2インキュベーター内で37℃でさらにインキュベートする。スフェロイドを倒立位相差顕微鏡で撮影する。スフェロイドの大きさを測定するために、1マイクロメートルのスケールも同じ拡大率で撮影する。スフェロイドの直径は、Metamorph Analysisソフトウェアr(MDS Analytical Technologies)を用いて測定する。
このようにして得た個々のスフェロイドを、次に、Ab#6(最終濃度8uM)、ヘレグリン−β1 EGFドメイン(R&D Systems、396−HB、最終濃度3.4nM)のいずれか、または両方の組み合わせで処理する。スフェロイドの直径は、1日目と13日目に光学顕微鏡(10×対物レンズ)を用いて測定する。
図26Aおよび26Bに示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、Ab#6がAdrR細胞におけるスフェロイド増殖を阻害すること、および3.4nMのHRGがスフェロイド増殖を刺激するが、Ab#6がHRG効果を阻害する(図26B)ことを示している。図26Cに示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、DU145由来のスフェロイドが13日間の実験の間、大きさが増加しなかったが、しかしながら、増殖はHRGによって有意に刺激されることを示している。これらの細胞において、8uMのAb#6はHRG誘導性スフェロイド増殖を阻害する。
さらなる実験では、別のヒト卵巣細胞系統であるOVCAR8細胞のスフェロイド増殖を阻害するAb#6の能力を調べる。多細胞腫瘍スフェロイドを前述のように作製する。Ab#6のスフェロイド増殖への効果を検査するために、スフェロイド形成の1日目と4日目に最終濃度25μg/mLになるまで、抗体を加える。上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、Ab#6がOVCAR8スフェロイド面積において30〜40%の減少を引き起こしたことを示した。
実施例14:シグナル伝達の阻害
異なるリガンドによって誘導されるシグナル伝達を阻害するAb#6の能力を調べる。例えば、ErbB3受容体を発現しているAdrR細胞とのHRGおよびBTCの結合とのAb#6の効果を調べる。図27AおよびBに示すFACS分析結果が示すように、Ab#6は、AdrR細胞との結合に対してHRGと競合するが、BTCとは競合しない。したがって、Ab#6は、HRG誘導性シグナル伝達を活性化しない(以下の実験で示すように)ので、ErbB3とのHRG結合がAb#6によってブロックされることで、HRGによって誘導されるシグナル伝達が阻害されることになる。
ErbB3リン酸化の誘導について種々のリガンドを検査する。少なくとも3つのリガンド、HRG、BTC、およびHGFは、AdrR細胞においてErbB3誘導性リン酸化を刺激することができるが、EGFはできない。図28に示すように、Ab#6は、AdrR細胞においてHGF誘導性ErbB3リン酸化を阻害する。さらに、当技術分野において知られているように(例えば、Walleniusら(2000)Am J Pathol.156(3):821−9を参照されたい)、向上したHGFシグナル伝達が種々の上皮および非上皮腫瘍で報告されている。
ErbB3/c−MET相互作用およびこの相互作用の調節におけるAb#6の役割
EGFRにおいて活性化変異を担持する非小細胞肺癌は、c−METおよびHER3を補充すること、したがってPI3K−AKT細胞生存経路を活性化することによってチロシンキナーゼインヒビターに対する耐性を生ずることが知られている(Engelmannら(2007)Science 316:1039−1043;Gou(2007)PNAS:105(2):692−697)。活性化EGFR変異を担持する細胞系統におけるEGFRとc−METとの間の関連性は、同時免疫沈降によって十分に確立している(Engelmannら、2007;Gou,2007)。Guoらは最近、同時免疫沈降を用いて、c−METおよびErbB3も、増幅したc−METに依存することが知られている胃の細胞系統MKN45において複合体で存在することを示した。
また、このc−MET−ErbB3相互作用は、野生型EGFRを担持しているAdrR細胞に起こり、増幅したc−METに依存しない。図28に示すように、HGF(肝細胞増殖因子)は、用量依存的様式でAdrR細胞においてErbB3リン酸化を誘導する。
さらに、Ab#6は、HGF誘導性ErbB3のリン酸化を阻害する。
また、HRGおよびBTCのErbB1およびErbB3の両方のリン酸化への効果を調べ、HRGおよびBTCが、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化を誘導することがわかる。HRGは、ErbB3のリン酸化のより強力な誘導因子であるが、BTCは、ErbB1のリン酸化の強力な誘導因子であることがわかる(図29A)。このリン酸化は、ErbB1とErbB3との間の複合体によって促進される可能性がある。ErbB3とのHRG結合は、ErbB1とErbB3との間で複合体形成を誘導し、両方の受容体の活性化をもたらす。ErbB1とのBTC結合がErbB1とErbB3との間の複合体形成を刺激し、ErbB1およびErbB3の両方のリン酸化をもたらす場合には、同じ現象がBTCについても出現する可能性がある。
HRG、BTC、EGF、およびHGFが刺激するErbB3リン酸化の阻害
リガンド(HRG、BTC、EGF、およびHGF)誘導性ErbB3のリン酸化を阻害するAb#6の能力を、下記の方法によって調べる:
1.10%FBSを含むRPMI培地に30,000細胞/ウェル/100μLの密度で96ウェルプレートにAdrR細胞を播種し、一晩増殖させる;
2.翌日、培地を、FBSを含まない培地に変えることによって細胞を血清不足状態にし、一晩増殖させる;
3.異なる濃度のAb#6(0.01nM〜100nM)、またはバッファー(前処理なし、「0」)を用いて2時間、細胞を前処理する;
4.次に、前処理細胞および前処理なし細胞を10nM HRGもしくはHGFで10分間、または10nM BTCもしくはEGFで5分間刺激し、かつ前処理なし細胞の個々のウェルを非刺激状態のままにする(「対照」);
5.培地を除去することによって反応を停止させ、細胞を氷冷PBSで1回洗浄する;
6.その後、1×プロテアーゼ阻害剤および1×ホスファターゼ阻害剤を含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解させ;次いで
7.Human Phospho−ErbB3 ELISAキット(R&D Systems,DYC1769)を用いて、製造業者の説明書に従って、細胞溶解物中でErbB3リン酸化を測定する。
上述の方法またはそれを多少変更した方法によって得た結果を図38A〜Dに記載する。
ErbB2−ErbB3タンパク質複合体形成の抗体阻害
AdrR細胞は、バッファー(対照)、または250nM Ab#6とともに60分間、室温でプレインキュベートし、次に10nM HRGもしくは10nM BTCまたは対照バッファーを用いて10分間処理する。0.2mM PMSF、50mTU/mLアプロチニン、および100uMロイペプチンを含む、25mM Tris、pH+7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1.0% Triton X−100、1.0% CHAPS、10%v/vグリセロールに細胞を溶解し、次いで粗溶解物を短時間で遠心して、不溶性物質を除去する。上清は、新しいEPPENDORF試験管に移して、抗ErbB3抗体(Santa Cruz sc−285)を1:500希釈で加える。上清を穏やかに振とうしながら、4℃で一晩インキュベートする。60uLのImmobilized Protein A/Gアガロースビーズ(Pierce,Rockford,IL,#20421)を、最初に1×PBSで洗浄する。細胞溶解物−抗体の混合物をPBS洗浄したビーズに加えて、穏やかに振とうしながら4℃で2時間インキュベートする。次に、免疫沈降物を氷冷した溶解バッファーを用いて3回洗浄し、30uLの2×SDS試料バッファーに再懸濁させ、95℃で7分間熱変性させ、4〜12%のBis−Trisゲル上を移動させる。SDS−PAGEを行い、10%MeOHを含むTri−Glycineバッファー中でPVDFメンブレンに電気的に移す。10mLのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,Lincoln,NE,#927−40000)中でメンブレンを1時間ブロッキングし、次に、10mLのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,#927−40000)中の1:1000での抗ErbB2抗体(Cell Signaling Technology,Danvers,MA,#29D8)とともにインキュベートする。10mLのブロッキングバッファー(Li−Cor Biosciences,#927−40000)中の1:5000(2μL)でのヤギ抗ウサギIRDye800を用いてシグナルを検出する。
上述の方法またはそれを多少変更した方法によって、Ab#6が、HRGによって刺激されたErbB2/3複合体形成を完全に阻害することが示された(図29B)。
実施例15:Ab#6の阻害プロファイルは、セツキシマブ、ラパチニブおよびペルツズマブとは異なる。
この実施例では、阻害剤用量反応の研究を、Ab#6、セツキシマブ、ラパチニブまたはペルツズマブのいずれかの存在下で、HRGまたはBTCのいずれかで刺激されたAdrR細胞を用いて行う。血清不足のAdrR細胞を、Ab#6、2mM〜7.6pMのラパチニブもしくはセツキシマブ、または100nM〜1.5pMのペルツズマブを4倍段階希釈したものとともに、30分間プレインキュベートし、次に25nMのHRGまたはBTCで10分間刺激する。ErbB3のリン酸化をELISA(R&D Systems, DYC1769−5、製造業者プロトコールによる)で測定し、次いでIC50値をPrism(GraphPad Software Inc.)を使用して決定する。
上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得たデータは、以下のことを示した:
Ab#6は、HRG誘導性ErbB3リン酸化およびBTC誘導性ErbB3リン酸化を阻害し、IC50値はそれぞれ、2.4nMと5.9nMであった(95%信頼区間は、それぞれ1.5〜3.8nMと2.5〜13.6nMであった)。
ラパチニブ(ErbB1およびErbB2の可逆的チロシンキナーゼ阻害剤)は、HRG誘導性BTC誘導性ErbB3リン酸化を阻害し、IC50値はそれぞれ150nMと360nM(95%信頼区間は、それぞれ46〜504nMと119〜1069nM)であった。
セツキシマブ(抗ErbB1抗体)は、BTC誘導性ErbB3リン酸化を、1.8nMのIC50値(95%信頼区間は0.9〜3.8nMであった)で阻害した。しかしセツキシマブがHRG誘導性ErbB3誘導性ErbB3リン酸化を阻害せず、HRGシグナル伝達はErbB1/ErbB3のヘテロ二量体ではなく、ErbB2/ErbB3によって主に媒介されることを初期の観察で確認する。
ペルツズマブ(ErbBリガンド複合体へのErbB2の補充を立体的に妨げるモノクローナル抗体)は、HRG誘導性ErbB3リン酸化を3.6nMのIC50値(95%信頼区間は1.0〜13.5nMであった)で阻害したが、BTC誘導性ErbB3リン酸化は阻害しなかった。
このように、Ab#6は、HRGおよびBTCの両刺激に対して低いナノモルIC50値で、ErbB3リン酸化を強力に阻害することができる検査した唯一の阻害剤であった。
実施例16:Ab#6と他の治療薬との併用療法
この実施例では、異種移植腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を阻害するAb#6の有効性を、他の治療薬、すなわち、エルロチニブまたはタキソールと併用して評価する。
第1の実験では、ACHN(腎腫瘍細胞系統)異種移植腫瘍を有するマウスを、ヌードマウス(Charles River Laboratories)の側腹部に皮下で腫瘍を確立することによって準備する。腫瘍を有するマウスに、300μgの最適下限用量のAb#6またはビヒクルのいずれかを3日ごとに腹腔内(IP)に投与する。エルロチニブ(25mg/kg)を、単独でまたはAb#6処置との併用のいずれかで1日1回経口投与する。腫瘍サイズ(長さ×幅)を週に2回測定して、測定結果を用いて、腫瘍体積(p/6(L×W2)を算出する。図30に示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、Ab#6またはエルロチニブは単独でも腫瘍増殖を阻害するが、併用療法(Ab#6+エルロチニブ)による阻害はいずれかの単一剤よりも大きく、相加効果をもたらすことを示している。
第2の実験では、DU145(前立腺腫瘍細胞系統)異種移植腫瘍を有するマウスを、ヌードマウス(Charles River Laboratories)の側腹部に皮下で腫瘍を確立することによって準備する。腫瘍を有するマウスに、Ab#6(300μg)またはビヒクルを3日ごとに腹膜内に(IP)投与する。タキソール(20mg/kg)を、単独でまたはAb#6処置との併用のいずれかで週1回IP投与する。再び、腫瘍サイズを週に2回測定して、測定結果を用いて、腫瘍体積を算出する。図31に示すデータ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、Ab#6またはタキソールは単独でも腫瘍増殖を阻害するが、併用療法(Ab#6+タキソール)による阻害はいずれかの単一剤よりも大きく、相加効果をもたらすことを示している。
実施例17:KRAS変異体腫瘍細胞の増殖の阻害
この実施例では、KRAS変異を含む腫瘍細胞の増殖を阻害するAb#6の能力を、単独で、または、他の剤と併用して調べる。
A549は、ヒトKRAS遺伝子のコドン12での変異である、G12S KRAS変異を含む肺癌細胞系統であり、該変異ではコドンがグリシン(G)をコードするコドンからセリン(S)をコードするコドンに変えられている。この細胞系統は、単独のエルロチニブまたはタキソールによる処置に対して非感受性である。インビトロでのA549細胞増殖を阻害するAb#6単独の能力を検査するために、該細胞を多細胞腫瘍スフェロイド(2000細胞/スフェロイド/96ウェルプレートのウェル)として増殖させ、次に0、0.001、0.01、0.1または1μMのAb#6を用いて7日間処置する。スフェロイドの面積を、1日目および7日目に4×拡大率の下で、METAMORPHソフトウェアを使用して測定し、次いでスフェロイド面積のパーセント変化を算出する(最初の面積−最終面積/最初の面積×100)。結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を、図32Aのグラフ(グラフのX軸上の「−4」は「0」用量に相当する)、および図32Bの写真に示す。図32Aのデータは、Ab#6単独処理でもインビトロでのKRAS変異体A549腫瘍細胞の増殖を阻害するのに十分であり、Ab#6濃度が10倍増加したことを示すスフェロイド面積でのパーセント減少に関して線形用量反応の結果であることを示している。代表的なスフェロイドの写真を図32Bに示す。非処理スフェロイドは、7日間に約5%増殖したのに対して1μMのAb#6で処理したスフェロイドの大きさは35%減少した。
インビボでのKRAS変異A549細胞の増殖を単独で阻害するAb#6の能力を検査するために、A549皮下異種移植腫瘍を有するヌードマウスを600μgのAb#6を3日ごとに処置し、続いて腫瘍体積を測定する。結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図32Cに示す。該グラフは、Ab#6処置だけにより腫瘍増殖を有意に阻害し、22日目に投与を中止した後も増殖阻害は保持されていることを示す。このように、Ab#6は単独でもインビボでKRAS変異体腫瘍細胞の増殖を阻害することができた。
インビボでKRAS変異A549細胞の増殖を阻害するエルロチニブまたはタキソールのいずれかと併用でのAb#6の能力を検査するために、A549皮下異種移植腫瘍を有するヌードマウスを以下のいずれかで処置する:(i)300μgのAb#6単独を3日ごとに;(ii)25mg/kgのタキソール単独を毎日;(iii)20mg/kgのタキソール単独を7日ごとに;(iv)Ab#6とエルロチニブとの併用(同じ投与量で);または(v)Ab#6とタキソールとの併用(同じ投与量で)。エルロチニブ実験およびタキソール実験の結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、図33Aと33Bに示す。両実験からの結果は、KRAS変異体A549異種移植片が、エルロチニブまたはタキソールのいずれか単独での処置に対して非感受性であることと、KRAS変異体異種移植片の増殖がAb#6単独処置によって阻害されることと、Ab#6処置とエルロチニブまたはタキソールのいずれかの処置とを組み合わせることで、Ab#6単剤療法で観察される腫瘍増殖阻害をさらに上回る増殖阻害をもたらすこととを示している。
実施例18:Ab#6のErbB3との結合のエピトープマッピング
この実施例では、アラニン置換を用いて、Ab#6と結合するErbB3内のエピトープをマッピングする。
Ab#6はErbB3と結合するHRGを阻害するので、アラニン置換の分析はErbB3の細胞外ドメイン(外部ドメイン)内、特にErbB3の外部ドメインのドメインI内での予測されるHRG結合部位に焦点を合わせることから始める。どの残基を変異させるかの選択を支援するために、HRGと複合体を形成したErbB3の結晶構造が入手不可能であったために、TGFαと複合体を形成したEGFRの結晶構造(Garretら(2002)Cell 110:763−773)をモデルとして用いた。ErbB3とEGFRは構造において相同であり、したがって、たとえ相互作用する残基が同一でなくとも、構造要素(特定のループまたは螺旋面)は同じはずである。したがって、Garretら、上掲、に記載されるように、リガンド結合に関与することが特定されているEGFRの残基は特定され、およびErbB3とEGFRの配列アライメントからは対応するErbB3残基が明らかになる。リガンド結合部位に加えて、ErbB3外部ドメインのドメインIの他の面を、ガイドとしてErbB3の結晶構造を用いて変異させる(ChoおよびLeahy(2002)Science 297:1330−1333)。
したがって、以下のErbB3の点変異を作製する:L14A、N15A、L17A、S18A、V19A、T20A、N25A、K32A、L33A、V47A、L48A、M72A、Y92A、Y92P、D93A、M101A、L102A、Y104A、Y104P、N105A、T106A、Y129A、Y129P、K132A、Q59A、T77A、Q90A、Q114A、Ql19A、R145A、R151A、V156A、H168A、K172AおよびL186A。標準一文字アミノ酸略記を用いるこの表記法では、例えば、L14Aは、成熟ErbB3(配列番号73)のアミノ酸14位でのロイシン(L)が、アラニン(A)に特異的に変異されることを示し、他の置換変異も同じ様式で示す。変異誘発は当技術分野で知られている標準方法を使用して達成され、ErbB3外部ドメインのドメインIと関連して、ErbB3変異体を当技術分野で知られている標準方法を用いることによって酵母菌の表面に発現させる。全ての変異体は、野生型ErbB3ドメインIのそれらと同じレベルで酵母の表面に十分に発現した。ErbB3ドメインI変異体の酵母上の発現によって、最初に組換えタンパク質を精製せずにFACSを用いることによるAb#6の変異体との結合の検査が可能になる。
単一変異を含むErbB3外部ドメインのドメインI断片とのAb#6の結合を、標準FACS分析によって決定する。ErbB3上のエピトープに結合し、Ab#6によって結合した該エピトープと重複しない(ErbB3との結合の競合の欠如によって明らかなように)第2の抗ErbB3抗体(SGP1;LabVision)を対照として用いて、これらの変異体がErbB3構造をただおおむね不安定にしているのではないことを裏付ける。このように、両抗体の結合に影響を及ぼすErbB3の変異をさらなる特徴付けから除外する。FACS分析の場合、酵母細胞表面でErbB3ドメインIの異なる変異体バージョンを発現する酵母細胞にAb#6(二次抗体としてヤギ抗ヒトAb−Alexa488が続く)とSGP1−Alexa647とで同時に標識する。データ(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)は、上述のアラニン点変異の4つが、ErbB3外部ドメインのドメインIとのAb#6の結合を阻害するが、対照の抗ErbB3抗体(SGP1)の結合を阻害しないことを示している。これらの4つの点変異は以下の通りである:D93A、M101A、L102AおよびY104A。
Ab#6エピトープが成熟ErbB3(配列番号73)の残基93、101、102および104を含むことをさらに確認するために、これらの4つの変異(D93A、M101A、L102AおよびY104A)を、この状況においてそれらの影響を調べるために、CHO K1細胞への安定なトランスフェクションの後に完全長の成熟ErbB3と関連して発現させる。野生型完全長ErbB3を発現するCHO K1細胞は、陽性対照として役立つ。高発現クローンを各変異体のために選択して、標準FACS分析のために、Ab#6またはSGP1(ErbB3の適切な折り畳みを確認するために)のいずれかで標識する。SGP1をAlexa647色素で直接標識し、Ab#6をAlexa488色素で直接標識する。
結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図34A〜34Eに示す。これらの図は、SGP1もしくはAb#6の、野生型ErbB3、D93A変異体、M101A変異体、L102A変異体またはY104A変異体との結合をそれぞれ示す。これらの結果が示すのは、対照抗ErbB3抗体(SGP1)が4つの全ての変異体に結合することができるが、Ab#6は変異体のうちの3つ(D93A、L102AおよびY104A)との結合を本質的に示さず、4番目の変異体(M101A)とのごくわずかな結合のみを示すことである。このように、完全長ErbB3 CHO細胞の発現実験は、ErbB3上のAb#6エピトープが、配列番号73に示す成熟、ヒトErbB3配列の残基93、101、102および104を含むことを示す。これらの4つの残基は、ErbB3内の5ストランド平行βシートのストランド3上に位置する。類似した様式でさらに行った実験では、エピトープが配列番号73に示した成熟、ヒトErbB3配列の残基92、99および129をさらに含むことを示すデータをもたらした。このように、Ab#6によって結合されたエピトープは、配列番号73に示した成熟ヒトErbB3配列の残基92〜104および129(折り畳まれたタンパク質では92〜104に隣接する)にわたる配列を含むとみなされ得る。
実施例19:PI3K変異体腫瘍細胞の増殖の阻害
この実施例では、PI3K変異を含む腫瘍細胞の増殖を阻害するAb#6の能力を単独でまたは別の剤との併用のいずれかで調べる。
SKOV3(SKOV−3)は、PI3Kの発現をアップレギュレートする変異を含む卵巣癌細胞系統である。PI3K変異体SKOV3細胞のインビボでの増殖を単独で阻害するAb#6の能力を検査するために、SKOV3皮下異種移植腫瘍(150〜200mm3の腫瘍体積)を有するヌードマウスに、3日ごとに600μgのAb#6で処置し、続いて腫瘍体積を測定する。結果(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)を図35Aのグラフに示し、Ab#6の単独処置が腫瘍増殖の部分的阻害をもたらすことを示す。この実験では、腫瘍増殖において約30日の「誘導期」が、ビヒクル処置したマウスでも観察された。これは、この腫瘍がインビボでゆっくりと増殖することを示す。それにもかかわらず、ビヒクル処置したマウスと比較すると、Ab#6処置したマウスでは、30日後に腫瘍体積が減少し、Ab#6の単独処置がPI3K変異腫瘍細胞をインビボで阻害することができることを示す。
シスプラチンとの併用で、PI3K変異体SKOV3細胞の増殖をインビボで阻害するAb#6の能力を検査するために、SKOV3皮下異種移植腫瘍を有するヌードマウスを以下のいずれかで処置する:(i)3日ごとに300μgのAb#6を単独で(Ab#6の最適下限用量);(ii)1.5mg/kgのシスプラチン(CDDP)を単独で;または(iii)Ab#6とシスプラチンとを併用で(同じ投与量で)。上述のAb#6単剤療法の実験で観察された30日の「誘導期」を考慮して、併用実験においてAb#6による投与を30日の誘導期が経過するまで開始しない。併用療法の実験(上述の方法またはそれを多少変更した方法を用いて得た)に関する結果を図35Bに示す。結果は、Ab#6およびシスプラチン両方とも単独でSKOV3異種移植腫瘍の増殖を阻害することができること、併用処置はいずれかの剤の単独でよりもさらに大きい腫瘍増殖の阻害をもたらすこととを示し、それによってシスプラチンなどの第2の治療薬と併用すると、Ab#6処置の有効性が向上することを示している。
実施例20:Ab#6のパラトープマッピング
この実施例では、Ab#6のパラトープマッピングを、抗体の単鎖(scFv)バージョンを用いて行う。このscFvバージョン(配列番号72)では、VH領域(配列番号1)およびVL領域(配列番号2)を(G4S)3リンカー(配列番号72のアミノ酸123〜137;また、このリンカー配列は配列番号74に示す)と連結しても、このscFvはErbB3に特異的に結合する能力を依然として保持する。この型を用いて、CDRループにおけるアラニン(場合によってはフェニルアラニン)置換変異のErB3結合への影響を調べる。
Ab#6のCDRループにおいてどの残基が露出する表面であるかを予測するために、Ab#6の結晶構造がまだ経験的に決定されていないので、2つの極めて相同な抗体の検証構造を調べた。その結晶構造がAb#6と最も相同であると思われる入手可能な抗体は、VH鎖の場合は1mhp(抗α1インテグリン、Karpusasら、J.Mol.Biol.327:1031(2003))およびVL鎖の場合は1mco(Guddatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4271(1993))である。変異のために選択して、ボールド体と下線で強調した残基を有するAb#6のCDRループを以下の表1に示す。1mhp抗体のVHCDRの配列および1mco抗体のVLCDR配列も表1に示し、各CDRの配列番号の後にAb#6と比較したアミノ酸ミスマッチの数を括弧内に示し、および表面残基をイタリック体、ボールド体、および下線で強調した。
Ab#6で生成した変異を以下の表2にまとめる。変異のためのアミノ酸残基のナンバリングは、scFv型内のVHおよびVLの残基のリニアナンバリングに相当し、Kabatナンバリングに相当するのではない。表記法Thr28Alaは、scFvのアミノ酸28位でのスレオニン(Thr)がアラニン(Ala)に特異的に変異されることを示し、置換変異の残りも同じ様式で示す。
表2に示すように、全ての変異はアラニンに対するが、ただしチロシン残基もフェニルアラニンに変異される。これはPheとTyrが構造的に極めて似ている(例えば、両方とも芳香族である)ので、したがって、このような変異は、抗原結合に関して混乱を起こさせるのが少ないと予想される。本来のCDR内で作られる変異に加えて、CDRの外側の重鎖残基28と30も、CDR領域内に落ちると、変異される(表2の変異M1とM2)。変異の全てを標準組換えDNA技術を用いて作製し、ErbB3との変異体の結合を当技術分野で知られている標準スクリーニング手法を使用して検査する。
図36に示すように、いくつかの変異がscFvのプロテインA(その結合はCDRを含まない)との結合を変化させるより以上にscFvのErbB3ドメインとの結合を選択的に影響を及ぼすことを確認した。それらの同一性および影響(図36に示した3つのグループ化に基づく)を以下の表3に示す。「結合に影響を及ぼさない」とは、ErbB3との結合が実質的に影響を受けないこと、または対応する減少がscFvタンパク質の不安定化に起因するプロテインAとの結合に対応する減少があることのいずれかを示す。大部分の結合残基は、H1、H2およびH3のループに位置し、一部はL1およびL3のループに位置する。多くの他の抗体抗原複合体に見られるように、L2 CDRは、直接結合に寄与しない。
表3に示す結果に基づいて、各重鎖および軽鎖のCDRのコンセンサス配列を導き出す。これらのコンセンサス配列を、図37Aと37Bにおいて、野生型CDR配列の下に示す。コンセンサス配列は、アラニンに変異されかつ実質的に結合に影響を及ぼさないことがわかっているアミノ酸残基が、それらの位置でいずれのアミノ酸(Xaa)でも許容されるように総称化されている点で野生型CDR配列とは異なる。さらに、その中の芳香族フェニルアラニンへの変異は結合に影響を及ぼさなかったが、アラニンへの変異が結合に影響を及ぼした芳香族チロシン残基を含むそれらのアミノ酸位置の場合、芳香族アミノ酸チロシン、ヒスチジン、トリプトファンおよびフェニルアラニンのいずれかは、図37Aに示すコンセンサス配列中のその位置で可能にされるが、図37Bに示すコンセンサス配列中ではそれらのアミノ酸位置は、チロシンまたはフェニルアラニンのいずれかになることが可能にされる。
さらにまた、表3に示す結果に基づいて、重鎖および軽鎖のCDRのそれぞれのパラトープ配列を導き出す。これらのパラトープ配列を図37Aおよび37Bにおいて野生型配列およびコンセンサスCDR配列の下に示す。パラトープ配列は、アラニンに変異されるとき、ErbB3との結合が実質的に減少を示したCDR内のアミノ酸残基の位置に対応し、それによって抗原結合においてこれらの位置における実質的な役割を示唆する。さらに、その中の芳香族フェニルアラニンへの変異は結合に影響を及ぼさなかったが、脂肪族アラニンへの変異が結合に影響を及ぼした芳香族チロシン残基を含むそれらのアミノ酸位置の場合、図37Aの芳香族アミノ酸チロシン、ヒスチジン、トリプトファンおよびフェニルアラニンのいずれか(または代わりに図37Bのチロシンおよびフェニルアラニン)は、パラトープでのそのような各位置で可能にされる。抗原結合に直接関与するようにみえないCDR内の他のアミノ酸位置は、パラトープ内でいずれのアミノ酸残基(Xaa)になるように可能にされる。
Ab#6の野生型重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列も、それぞれ配列番号7、8および9に示し、並びにAb#6の野生型軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列は、それぞれ配列番号10、11および12に示す。AB#6のコンセンサス重鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列も、それぞれ配列番号60と75(CDR1)、61(CDR2)および62(CDR3)に示し、並びにAb#6のコンセンサス軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3の配列も、それぞれ配列番号66と77(CDR1)、67(CDR2)および68と79(CDR3)に示す。Ab#6の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3のパラトープ配列も、それぞれ配列番号63と76(CDR1)、64(CDR2)および65(CDR3)に示し、並びにAb#6のCDR1、CDR2およびCDR3のパラトープ配列も、それぞれ配列番号69と77(CDR1)、70(CDR2)および71と80(CDR3)に示す。
均等物
当業者は、ほんの日常的な実験を用いて、本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識し、または確認して、実行することができる。
このような均等物は、下記の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。従属クレームに開示されている実施形態の任意の組み合わせは、本発明の範囲内にあることが意図される。
参照による援用
本明細書に言及されている、ありとあらゆる米国および外国の特許および係属している特許出願の開示並びに全ての刊行物は、全体として参照により本明細書に援用される。