しかしながら、特許文献2、3のような従来技術には、以下の問題があった。前述した第1解決策では、塗工装置に、塗工材の循環配管や流路切替弁、さらには流路切替弁の制御システムが必要となるため、塗工装置全体が大がかりな装置となり、構造が複雑になってしまう。また、第2解決策では、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できるよう、流体制御弁の弁開度を精度良く制御することは難しい上、流体制御弁の制御システムを塗工装置に設備すると、第1解決策と同様、塗工装置全体の構造が複雑化してしまう。すなわち、例示した2つの解決策では、塗工材の流路の開路後、塗工材の流量が安定した状態に立ち上がるまでの時間を短縮化するのに、上述したような流体制御弁、循環配管、流路切替弁、流路切替弁の制御システム等を備えた塗工装置を設備するとなると、多額なコストがかかってしまう。
また、先に例示した原反箔の場合、塗工材の流路の開路後、塗工面に吐出される塗工材が所定流量で安定した状態になるまでにかかる時間が、例えば、余分に十秒間も要してしまうと、金属箔は、搬送速度0.5(m/sec.)で駆動中のコンベアにより、全長4000(m)のうち、その5(m)分等が無駄に搬送され続けることになる。電極は製品となった電池の性能に大きく影響を及ぼすため、十秒間、塗工材が不安定な流量で5(m)に亘って金属箔の塗工面に塗工された部分は、品質管理上、電極として使用できず廃棄される。近年、ハイブリッド自動車、電気自動車をはじめ、携帯電話等の電子機器類の市場が急速な勢いで成長し、電池の生産量が著しく増加していることから、製造した電極のうち、廃棄される部分に既に費やしたロス分の製造コストも、累積すると高額に膨れ上がってしまっている。今後も電池の需要は伸び続ける傾向にあり、このような製造コストのロス分は、電極の製造コストの低減化に支障をきたす要因の一つとなっていた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、塗工材が基材の塗工面に塗工された塗工製品を、低コストで、かつ歩留まりをより高くして製造することができる塗工材塗工方法、及び塗工材塗工装置を提供することを目的とする。
上記の問題点を解決するために、本発明の塗工材塗工方法、及び塗工材塗工装置は、次の構成を有している。
(1)ダイと相対的に基材を搬送させながら、ダイのスリットから吐出した塗工材を、基材の塗工面に塗工する塗工材塗工方法において、塗工面と対向する位置に配置されるダイの先端面と、塗工面との距離であるダイギャップで、塗工開始時を、第1ダイギャップH1とし、塗工材を所望の厚みでコンスタントに塗工している状態にあるときを、第2ダイギャップH2(H2<H1)とすると、塗工材をスリットから吐出開始と同時に、ダイを基材と相対的に等速度で移動させることにより、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくすること、塗工材がダイのスリットから吐出し始めた基準時から、塗工材が塗工面に所望の厚みでコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイと基材とを相対移動させるときの速度Vが、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たすことを特徴とする。
(2)(1)に記載する塗工材塗工方法において、ダイと基材との相対的な搬送方向に沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とする。
(3)(2)に記載する塗工材塗工方法において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とする。
(4)(2)または(3)に記載する塗工材塗工方法において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する塗工材塗工方法において、基材は、ロール状に捲回された原反から平面状に搬送される金属箔であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液であることを特徴とする。
(6)ダイと相対的に基材を搬送させながら、ダイのスリットから吐出した塗工材を、基材の塗工面に塗工する塗工材塗工装置において、ダイと基材とを相対移動させて、塗工面と対向する位置に配置されるダイの先端面と、塗工面との距離であるダイギャップを変化させるダイギャップ可変手段と、塗工開始時のダイギャップを、第1ダイギャップH1に、塗工材が所望の厚みでコンスタントに塗工している状態にあるときのダイギャップを、第2ダイギャップH2(H2<H1)に、それぞれ設定可能であり、塗工材をスリットから吐出開始と同時に、ダイギャップ可変手段を等速度で作動させることにより、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に変化させるダイギャップ制御手段と、を備えること、塗工材がダイのスリットから吐出し始めた基準時から、塗工材が塗工面に所望の厚みでコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイギャップ制御手段が、ダイギャップ可変手段を、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たす速度Vで作動させることを特徴とする。
(7)(6)に記載する塗工材塗工装置において、ダイと基材との相対的な搬送方向に沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とする。
(8)(7)に記載する塗工材塗工装置において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とする。
(9)(7)または(8)に記載する塗工材塗工装置において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とする。
(10)(6)乃至(9)のいずれか1つに記載する塗工材塗工装置において、基材は、ロール状に捲回された原反から平面状に搬送される金属箔であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液であることを特徴とする。
上記構成を有する本発明の塗工材塗工方法、及び塗工材塗工装置の作用・効果について説明する。
(1)ダイと相対的に基材を搬送させながら、ダイのスリットから吐出した塗工材を、基材の塗工面に塗工する塗工材塗工方法において、塗工面と対向する位置に配置されるダイの先端面と、塗工面との距離であるダイギャップで、塗工開始時を、第1ダイギャップH1とし、塗工材を所望の厚みでコンスタントに塗工している状態にあるときを、第2ダイギャップH2(H2<H1)とすると、塗工材をスリットから吐出開始と同時に、ダイを基材と相対的に等速度で移動させることにより、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくすることを特徴とするので、例えば、第2ダイギャップH2が数十(μm)程度という非常に近接した距離で、基材と相対的な搬送方向に沿うスリット幅が数百(μm)のダイにより、塗工材を金属箔の塗工面に塗工する場合等において、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまで、塗工面に塗工される塗工材の流量が、大きく変動し難くなる。すなわち、塗工開始後、安定塗工状態になるまでに要する立ち上がり時間を、塗工中、ダイギャップを一定に維持した特許文献1等の従来技術に比べ、例えば、十数秒間程、短縮することができる。
また、塗工中、基材はダイと相対的に搬送されているため、上述した立ち上がり時間が短縮できると、短縮された時間に相当する時間内に搬送される基材の一部には、不安定な流量で塗工材が無駄に塗工面に塗工されず、安定塗工状態で塗工材された塗工製品の一部として、この塗工製品の一部が有効に使用できる。その結果、従来、不安定な流量で塗工材が塗工された部分は、品質管理上、製品として使用できず廃棄されていたが、本発明の塗工材塗工方法では、製造された塗工製品のうち、廃棄される部分が削減でき、有効に使用できる部分がより多く確保することができる。よって、廃棄される部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、塗工製品の歩留まりが向上し、ひいては、塗工製品の製造コストの低減に貢献することができる。
また、本発明の塗工材塗工方法は、特許文献2,3等の従来技術に比べ、大がかりで複雑な設備を不要とするため、高額な設備コストを掛けずに、上述した立ち上がり時間を短縮することができる。
さらに、塗工材がダイのスリットから吐出し始めた基準時から、塗工材が塗工面に所望の厚みでコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイと基材とを相対移動させるときの速度Vが、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
すなわち、ダイと基材との相対速度Vが、式(4)の下限である(H1−H2)/Tbを下回ると、ダイギャップの部分で塗工材の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し難く、ダイギャップにおいて、塗工材が、直線的な流れから基材の塗工面に沿う向きに、比較的スムーズに向きを変えて流れ、短い時間で塗工面に塗工され易くなる。その一方で、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。これに対し、ダイと基材との相対速度Vが、式(4)の上限である(H1−H2)/Taを上回ると、ダイギャップの部分で塗工材の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し易く、塗工材が、ダイギャップの部分で一時的に滞留し、ダイギャップにおいて、直線的な流れから基材の塗工面に沿う向きに流れの向きを変えて塗工面に沿って流れ難くなる。その結果、前述した安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。よって、式(4)の関係を満たすと、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでに掛かる時間が、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
従って、本発明の塗工材塗工方法によれば、基材の塗工面に塗工材を塗工する工程において、塗工材が基材に塗工された塗工製品を、低コストで、かつ歩留まりをより高くして製造することができる、という優れた効果を奏する。
(2)(1)に記載する塗工材塗工方法において、ダイと基材との相対的な搬送方向に沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間がより短くなり、特に、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、H1=Dを満たす関係にあるときには、塗工開始後、上述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短くすることができる。
すなわち、ポンプにより塗工材の供給源からダイに一定の供給圧で圧送された塗工材の吐出圧は、ダイのスリット内で比較的高くなっており、スリットから吐出した塗工材は、スリット内の吐出圧より低い吐出圧で、ダイの先端面から基材の塗工面に向けた直線的な流れで吐出し、塗工面に沿う向きに塗工材の流れの向きを変えて塗工面に塗工される。このとき、例えば、スリット幅Dが400(μm)、第1ダイギャップH1が400(μm)より小さい場合等、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積が急激に減少してしまい、塗工材の圧力上昇が局部的に生じる。すなわち、吐出後に局部的に圧力上昇したときの塗工材の圧力と、スリット内で吐出前の塗工材の圧力との間に差圧が生じ、圧力が小さい側の塗工材がスリットから流れ(吐出)難くなり、基材の塗工面に沿って塗工される塗工材の流量が抑制されてしまう。そのため、塗工材が、ダイギャップの部分で一時的に滞留して塗工面に流れ難くい状態になることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工材が吐出開始された後、塗工材が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より長くかかる。
その一方、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積が急激に減少して変化せず、塗工材の局部的な圧力上昇が発生し難くなる。すなわち、吐出後の塗工材の圧力と、スリット内で吐出前の塗工材の圧力との差圧は小さく、スリットから塗工材が比較的流れ(吐出)易くなり、流量抑制を小さくして、塗工材が基材の塗工面に沿って塗工される。そのため、スリットから吐出した塗工材は、ダイギャップの部分で一時的にほとんど滞留せず、基材の塗工面に沿って比較的スムーズに流れて塗工面に塗工される。よって、塗工材が塗工面に流れ易い状態で塗工されることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工材が吐出開始された後、塗工材が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より短くできる。
但し、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対してむやみに大きいと、塗工材が塗工面に向けて必要以上の流量で過剰に吐出することもあり、塗工材の吐出開始後、塗工材が前述した安定塗工状態になるまでの時間が、かえって長くなってしまう虞もあり、好ましくない。また、塗工材の吐出開始と同時に、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくするときに、第1ダイギャップH1と第2ダイギャップH2との距離差が大きく拡がってしまう。ダイは基材と相対的に等速度で移動するため、上述した距離差が大きく拡がると、塗工材の吐出開始後、ダイギャップが第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2になるまでの時間が長くかかってしまう。
よって、式(1)の関係を満たすと、スリットから吐出した塗工材が、ダイと相対的に搬送している基材の塗工面に沿いこの塗工面に塗工された状態になるまでの間に、塗工材の流路断面積が急激に減少せず、塗工材の局部的な圧力上昇が発生し難くなるため、安定塗工状態になるまでの時間をより短くすることができる。第1ダイギャップH1がスリット幅Dに対し大きくなり過ぎず、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、互いに近似する関係にある場合には、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積の変化がより小さく抑えることができることから、塗工材の流量変動が小さく、安定塗工状態になるまでの時間が最も短くなる。併せて、式(1)を満たす条件の中でも、特にH1=Dの場合には、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2までの移動時間がより短くなり、塗工材の吐出開始後、安定塗工状態になるまでの時間を短く抑制することができる。
(3)(2)に記載する塗工材塗工方法において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とするので、第1ダイギャップH1とスリット幅DとがH1=Dを満たす関係にあるときと同様に、塗工開始後、前述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短い時間にすることができる、あるいはそのような最も短い時間により近付けることができる。すなわち、前述したように、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとは、H1=Dを満たす関係にあるのが最も良いが、その許容誤差を考慮し、第1ダイギャップH1に対し、スリット幅Dの+10%までの許容幅をも設けて、好ましくは、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対し、±10%の許容幅を持った「0.9×D≦H1≦1.1×D」の範囲とすることで、塗工開始後、上記安定塗工状態になるまでの時間が、最も短い時間に、あるいはその最も短い時間と近似した時間にすることができる。
(4)(2)または(3)に記載する塗工材塗工方法において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とするので、例えば、ダイと相対的に基材を搬送させる搬送速度が0.5(m/sec.)、第2ダイギャップH2が50(μm)、基材の塗工面にコンスタントに塗工する塗工材の所望の厚みが30(μm)等の条件で、基材を搬送させながらその塗工面に塗工材を連続して塗工する場合に、式(3)を満たすことにより、塗工材をその供給源からダイに圧送するポンプの吐出圧をむやみに高くしなくても、吐出圧が低いまま、厚み30(μm)でコンスタントに塗工するのに足りる塗工材の必要流量を安定して確保することができる。
特に、塗工材の粘性が高いとその流動性は低く、第2ダイギャップH2に対しスリット幅Dが小さいと、ダイのスリットから塗工面に向けて吐出する塗工材が、粘性が低い塗工材に比べ、吐出し難くなり、所望の厚みでコンスタントに塗工するのに足りる塗工材の必要流量が確保できない虞もある。本発明の塗工材塗工方法では、塗工材の粘性に関わらず、粘性が高い塗工材でも、式(3)を満たすことにより、上述した必要流量の塗工材を、塗工する基材の塗工面に安定して供給することができる。よって、比較的高速の搬送速度で基材を搬送させながらその塗工面に塗工材を連続して塗工する場合でも、塗工材が基材の塗工面に安定して供給できることから、生産性を高くして、塗工材を基材の塗工面に塗工することができる。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する塗工材塗工方法において、基材は、ロール状に捲回された原反から平面状に搬送される金属箔であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液であることを特徴とするので、製造された電池の電極のうち、製品として使用できない廃棄部分が削減できることから、この廃棄部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
特に二次電池の金属箔は、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料であり、とりわけ銅等を含む材料コストは比較的高価である。近年、産業界では、ハイブリッド自動車、電気自動車をはじめ、携帯電話等の電子機器類の市場が急速な勢いで成長し、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等、二次電池の生産量が著しく増加し続けており、今後もその需要は伸び続ける傾向にある。そのため、廃棄部分が少しでも多く存在すると、既に費やした無駄な製造コスト(ロス分の製造コスト)が増えてしまい、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コスト全体は高額に膨れ上がるが、本発明の塗工材塗工方法では、廃棄部分が削減できる分、その削減できる部分が、製品の電極の一部として使用することができる。そのため、ロス分の製造コストが減り、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コストも抑制することができる。
(6)ダイと相対的に基材を搬送させながら、ダイのスリットから吐出した塗工材を、基材の塗工面に塗工する塗工材塗工装置において、ダイと基材とを相対移動させて、塗工面と対向する位置に配置されるダイの先端面と、塗工面との距離であるダイギャップを変化させるダイギャップ可変手段と、塗工開始時のダイギャップを、第1ダイギャップH1に、塗工材が所望の厚みでコンスタントに塗工している状態にあるときのダイギャップを、第2ダイギャップH2(H2<H1)に、それぞれ設定可能であり、塗工材をスリットから吐出開始と同時に、ダイギャップ可変手段を等速度で作動させることにより、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に変化させるダイギャップ制御手段と、を備えることを特徴とするので、例えば、第2ダイギャップH2が数十(μm)程度という非常に近接した距離で、基材と相対的な搬送方向に沿うスリット幅が数百(μm)のダイにより、塗工材を金属箔の塗工面に塗工する場合等において、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまで、塗工面に塗工される塗工材の流量が、大きく変動し難くなる。すなわち、塗工開始後、安定塗工状態になるまでに要する立ち上がり時間を、塗工中、ダイギャップを一定に維持した特許文献1等の従来技術に比べ、例えば、十数秒間程、短縮することができる。
また、塗工中、基材はダイと相対的に搬送されているため、上述した立ち上がり時間が短縮できると、短縮された時間に相当する時間内に搬送される基材の一部には、不安定な流量で塗工材が無駄に塗工面に塗工されず、安定塗工状態で塗工材された塗工製品の一部として、この塗工製品の一部が有効に使用できる。その結果、従来、不安定な流量で塗工材が塗工された部分は、品質管理上、製品として使用できず廃棄されていたが、本発明の塗工材塗工装置では、製造された塗工製品のうち、廃棄される部分が削減でき、有効に使用できる部分がより多く確保することができる。よって、廃棄される部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、塗工製品の歩留まりが向上し、ひいては、塗工製品の製造コストの低減に貢献することができる。
また、本発明の塗工材塗工装置は、特許文献2,3等の従来技術に比べ、大がかりで複雑な設備とならないため、高額な設備コストを掛けずに、上述した立ち上がり時間を短縮することができる。また、本発明の塗工材塗工装置では、例えば、ダイギャップ可変手段とダイギャップ制御手段とを備えた塗工装置を新設するときの設備コストが安価であり、既存の塗工装置に、ダイギャップ可変手段とダイギャップ制御手段とを付加した場合等でも、新たに掛かる設備コストが安価である。
また、特許文献2,3等の従来技術では、弁の詰まり、配管上での洩れ等のトラブルが発生する虞があり、装置のメンテナンスが頻繁に必要となるが、本発明の塗工材塗工装置は、構造が簡単で、ダイギャップ可変手段やダイギャップ制御手段で動作不良等の故障を引き起こす蓋然性も低く、装置のメンテナンスの頻度を少なくすることもできる。そのため、本発明の塗工材塗工装置に掛かるランニングコストを安価に抑制することができる。
さらに、塗工材がダイのスリットから吐出し始めた基準時から、塗工材が塗工面に所望の厚みでコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイギャップ制御手段が、ダイギャップ可変手段を、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たす速度Vで作動させることを特徴とするので、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
すなわち、ダイと基材との相対速度Vが、式(4)の下限である(H1−H2)/Tbを下回ると、ダイギャップの部分で塗工材の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し難く、ダイギャップにおいて、塗工材が、直線的な流れから基材の塗工面に沿う向きに、比較的スムーズに向きを変えて流れ、短い時間で塗工面に塗工され易くなる。その一方で、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。これに対し、ダイと基材との相対速度Vが、式(4)の上限である(H1−H2)/Taを上回ると、ダイギャップの部分で塗工材の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し易く、塗工材が、ダイギャップの部分で一時的に滞留し、ダイギャップにおいて、直線的な流れから基材の塗工面に沿う向きに流れの向きを変えて塗工面に沿って流れ難くなる。その結果、前述した安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。よって、式(4)の関係を満たすと、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでに掛かる時間が、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
従って、本発明の塗工材塗工装置では、塗工材が基材に塗工された塗工製品を、低コストで、かつ歩留まりをより高くして製造することができる、という優れた効果を奏する。
(7)(6)に記載する塗工材塗工装置において、ダイと基材との相対的な搬送方向に沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間がより短くなり、特に、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、H1=Dを満たす関係にあるときには、塗工開始後、上述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短くすることができる。
すなわち、ポンプにより塗工材の供給源からダイに一定の供給圧で圧送された塗工材の吐出圧は、ダイのスリット内で比較的高くなっており、スリットから吐出した塗工材は、スリット内の吐出圧より低い吐出圧で、ダイの先端面から基材の塗工面に向けた直線的な流れで吐出し、塗工面に沿う向きに塗工材の流れの向きを変えて塗工面に塗工される。このとき、例えば、スリット幅Dが400(μm)、第1ダイギャップH1が400(μm)より小さい場合等、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積が急激に減少してしまい、塗工材の圧力上昇が局部的に生じる。すなわち、吐出後に局部的に圧力上昇したときの塗工材の圧力と、スリット内で吐出前の塗工材の圧力との間に差圧が生じ、圧力が小さい側の塗工材がスリットから吐出し難くなり、基材の塗工面に沿って塗工される塗工材の流量が抑制されてしまう。そのため、塗工材が、ダイギャップの部分で一時的に滞留して塗工面に流れ難くい状態になることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工材が吐出開始された後、塗工材が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より長くかかる。
その一方、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積が急激に減少して変化せず、塗工材の局部的な圧力上昇が発生し難くなる。すなわち、吐出後の塗工材の圧力と、スリット内で吐出前の塗工材の圧力との差圧は小さく、スリットから塗工材が比較的流れ(吐出)易くなり、流量抑制を小さくして、塗工材が基材の塗工面に沿って塗工される。そのため、スリットから吐出した塗工材は、ダイギャップの部分で一時的にほとんど滞留せず、基材の塗工面に沿って比較的スムーズに流れて塗工面に塗工される。その結果、塗工材が塗工面に流れ易い状態で塗工されることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工材が吐出開始された後、塗工材が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より短くできる。
但し、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対してむやみに大きいと、塗工材が塗工面に向けて必要以上の流量で過剰に吐出することもあり、塗工材の吐出開始後、塗工材が前述した安定塗工状態になるまでの時間が、かえって長くなってしまう虞もあり、好ましくない。また、塗工材の吐出開始と同時に、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくするときに、第1ダイギャップH1と第2ダイギャップH2との距離差が大きく拡がってしまう。ダイは基材と相対的に等速度で移動するため、上述した距離差が大きく拡がると、塗工材の吐出開始後、ダイギャップが第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2になるまでの時間が長くかかってしまう。
よって、式(1)の関係を満たすと、スリットから吐出した塗工材が、ダイと相対的に搬送している基材の塗工面に沿いこの塗工面に塗工された状態になるまでの間に、塗工材の流路断面積が急激に減少せず、塗工材の局部的な圧力上昇が発生し難くなるため、安定塗工状態になるまでの時間をより短くすることができる。第1ダイギャップH1がスリット幅Dに対し大きくなり過ぎず、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、互いに近似する関係にある場合には、塗工材の流れが塗工面に沿った向きに変わるときに、塗工材の流路断面積の変化がより小さく抑えることができることから、塗工材の流量変動が小さく、安定塗工状態になるまでの時間が最も短くなる。併せて、式(1)を満たす条件の中でも、特にH1=Dの場合には、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2までの移動時間がより短くなり、塗工材の吐出開始後、安定塗工状態になるまでの時間を短く抑制することができる。
(8)(7)に記載する塗工材塗工装置において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とするので、第1ダイギャップH1とスリット幅DとがH1=Dを満たす関係にあるときと同様に、塗工開始後、前述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短い時間にすることができる、あるいはそのような最も短い時間により近付けることができる。すなわち、前述したように、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとは、H1=Dを満たす関係にあるのが最も良いが、その許容誤差を考慮し、第1ダイギャップH1に対し、スリット幅Dの+10%までの許容幅をも設けて、好ましくは、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対し、±10%の許容幅を持った「0.9×D≦H1≦1.1×D」の範囲とすることで、塗工開始後、上記安定塗工状態になるまでの時間が、最も短い時間に、あるいはその最も短い時間と近似した時間にすることができる。
(9)(7)または(8)に記載する塗工材塗工装置において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とするので、例えば、ダイと相対的に基材を搬送させる搬送速度が0.5(m/sec.)、第2ダイギャップH2が50(μm)、基材の塗工面にコンスタントに塗工する塗工材の所望の厚みが30(μm)等の条件で、基材を搬送させながらその塗工面に塗工材を連続して塗工する場合に、式(3)を満たすことにより、塗工材をその供給源からダイに圧送するポンプの吐出圧をむやみに高くしなくても、吐出圧が低いまま、厚み30(μm)でコンスタントに塗工するのに足りる塗工材の必要流量を安定して確保することができる。
特に、塗工材の粘性が高いとその流動性は低く、第2ダイギャップH2に対しスリット幅Dが小さいと、ダイのスリットから塗工面に向けて吐出する塗工材が、粘性が低い塗工材に比べ、吐出し難くなり、所望の厚みでコンスタントに塗工するのに足りる塗工材の必要流量が確保できない虞もある。本発明の塗工材塗工装置では、塗工材の粘性に関わらず、粘性が高い塗工材でも、式(3)を満たすことにより、上述した必要流量の塗工材を、塗工する基材の塗工面に安定して供給することができる。よって、比較的高速の搬送速度で基材を搬送させながらその塗工面に塗工材を連続して塗工する場合でも、塗工材が基材の塗工面に安定して供給できることから、生産性を高くして、塗工材を基材の塗工面に塗工することができる。
(10)(6)乃至(9)のいずれか1つに記載する塗工材塗工装置において、基材は、ロール状に捲回された原反から平面状に搬送される金属箔であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液であることを特徴とするので、製造された電池の電極のうち、製品として使用できない廃棄部分が削減できることから、この廃棄部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
特に二次電池の金属箔は、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料であり、とりわけ銅等を含む材料コストは比較的高価である。廃棄部分が少しでも多く存在すると、既に費やした無駄な製造コスト(ロス分の製造コスト)が増えてしまい、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コスト全体は高額に膨れ上がるが、本発明の塗工材塗工装置では、廃棄部分が削減できる分、その削減できる部分が、製品の電極の一部として使用することができる。そのため、ロス分の製造コストが減り、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コストも抑制することができる。
以下、本発明を具体化した形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、本発明の基材がロール状に捲回された原反から平面状に搬送される金属箔であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液である場合について、説明する。この電池は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池であり、ハイブリッド自動車、電気自動車等の電源として搭載される。
図1は、本実施形態に係る塗工材塗工装置を説明する図である。図2は、図1中、要部を拡大して示した説明図であり、先の金属箔の終端部と次の原反箔の金属箔の始端部とを繋ぐときのダイの位置を示す説明図である。
はじめに、金属箔について簡単に説明する。二次電池の電極には、例えば、正極にアルミニウム箔、負極に銅箔等のように、金属箔が用いられる。金属箔31は、図1に示すように、本実施形態では、全長4000(m)、奥行き(図1中、紙面垂直方向の寸法)180(mm)、厚み20(μm)に形成された長尺状の箔であり、長手方向をロール状に捲回し、原反箔30(原反)として、直径40(cm)程度の大きさに収められている。原反箔30は、搬送装置20のボビン21に取り付けられ、金属箔31は、図示しない搬送コンベア及びローラにより、例えば、0.5(m/sec.)等の搬送速度で、ロール状に捲回された原反箔30から平面状に搬送方向Fに搬送される。
金属箔31の一面である塗工面31aには、正極の場合、例えば、正極活物質を含むペースト状の塗工液40がアルミニウム箔に塗工され、負極の場合、負極活物質を含むペースト状の塗工液40が銅箔等に塗工される。具体的には、塗工液40は、1つの原反箔30につき、全長4000(m)、奥行き180(mm)の金属箔31に対し、長手方向の一端側端部の塗工開始端からその反対側端部の塗工終了端までの全域に、所望の厚みt(本実施形態では、厚み30μm)でコンスタントに塗工される。塗工液40は、比較的粘度の低い液体状である。なお、本実施形態では、塗工液40を塗工面31aに塗工し乾燥させて形成された電極は、2条分であるため、後工程で、奥行き90(mm)の位置で2分割に裁断される。
次に、塗工材塗工装置1について説明する。塗工材塗工装置1は、ダイ2と相対的に金属箔31(基材)を搬送させながら、ダイ2のスリット3から吐出した塗工液40(塗工材)を、金属箔31の塗工面31aに塗工する装置である。この塗工材塗工装置1は、図1に示すように、ダイ2、ダイギャップ可変手段6、制御部7(ダイギャップ制御手段)、及びバックアップロール8等を備えている。
ダイギャップ可変手段6は、図1及び図2に示すように、金属箔31と相対的にダイ2を移動させて、金属箔31の塗工面31aと対向する位置に配置されるダイ2の先端面2aと、バックアップロール8に接した状態の金属箔31の塗工面31aとの距離であるダイギャップHを変化させる。具体的には、ダイギャップ可変手段6は、サーボモータと、このサーボモータとダイ2とを接続する図示しないボールネジ等を有している。このダイギャップ可変手段6は、サーボモータの回転を、図示しないボールネジ等を介してダイ2を上下方向(図1中、上下方向)の直線運動に変換し、ダイ2の先端面2aを、水平方向(図1中、左右方向)に配置された金属箔31の塗工面31aに、近接または離間することにより、ダイギャップHを変化させる。ダイギャップ可変手段6は、ダイ2の先端面2aを、金属箔31の塗工面31aから少なくとも距離H0(0<H0)離間する位置まで移動可能に構成されている。
ダイギャップ可変手段6のサーボモータは、図示しないCNC(Computerized Numerically Controlled)を有する制御部7と電気的に接続され、回転速度、回転量等を数値制御によって回転駆動し、ダイギャップの大きさをミクロンオーダーで位置制御可能に回転停止できるようになっている。制御部7は、塗工開始時のダイギャップを、第1ダイギャップH1(H1<H0)に、塗工液40が、所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工している状態にあるときのダイギャップHを、第2ダイギャップH2(H2<H1)に、それぞれ設定可能に構成されている。本実施形態では、第2ダイギャップH2は50(μm)で設定される。また、制御部7は、塗工液40をスリット3から吐出開始と同時に、ダイギャップ可変手段6を等速度で作動させることにより、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に変化させる。
ダイ2は、図1に示すように、搬送方向Fに沿う方向に対し上端部が下端部より短い形状に形成され、上端部の一部を奥行き方向(図1中、紙面垂直方向)に開口したスリット3と、ダイ2内部でスリット3と連通したポケット4と、このポケット4と連通した連通管路5と、を有している。ダイ2と金属箔31との相対的な搬送方向Fに沿うスリット3の幅はD(0<D)であり、本実施形態では、第1ダイギャップH1とスリット3の幅Dとが、H1=D=400(μm)である。すなわち、第1ダイギャップH1とスリット3の幅Dとが、H1≧D…式(1)の関係を満たすと同時に、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)の関係を満たしている。また、第2ダイギャップH2が50(μm)、スリット3の幅Dが400(μm)であることから、第2ダイギャップH2とスリット3の幅Dとが、H2<D…式(3)の関係を満たしている。
また、スリット3の奥行きは、金属箔31の塗工面31aの奥行き180(mm)に対応する大きさであり、塗工液40が、奥行き方向に対し、その両端間を一列状にスリット3から吐出できるようになっている。スリット3の幅中央の位置を通る仮想線上には、図1に示すように、円柱形状のバックアップロール8の軸心Oが位置し、金属箔31が、バックアップロール8の外周に接触した状態で、ダイ2の先端面2aとの間を、搬送方向Fに搬送されるようになっている。
ダイ2とタンク11との間には、バルブ12、モノポンプである圧送ポンプ13、フィルタ14等が設けられ、タンク11と圧送ポンプ13とが、バルブ12を介して配管15Aで接続され、圧送ポンプ13とフィルタ14とが配管15Bで接続されている。フィルタ14は、ダイ2のポケット4に連通する連通管路5と配管15Cで接続されている。タンク11内に貯留する塗工液40をダイ2のスリット3から吐出させるときには、バルブ12を開路し、圧送ポンプ13を作動させる。これにより、タンク11内の塗工液40が、フィルタ14を通じてダイ2に向けて圧送され、配管15C、ダイ2の連通管路5を通じてポケット4に供給されてスリット3から吐出する。スリット3から吐出する塗工液40の吐出圧、及び吐出流量は、圧送ポンプ13により一定に制御された吐出圧、及び吐出流量であり、吐出圧及び吐出流量ともそれぞれ一定に管理されている。一方、ダイ2のスリット3から塗工液40の吐出を停止するときには、圧送ポンプ13の作動を停止させ、バルブ12を閉路する。
次に、本実施形態に係る塗工材塗工方法を用いた塗工工程について、図2乃至図7を用いて説明する。図3は、図2に続き、塗工開始するときのダイの位置を示す説明図である。図4は、図3に続き、塗工材が金属箔の塗工面に塗工された直後の様子を示す説明図である。図5は、図4中、X部の拡大図である。図6は、図4に続き、塗工材が安定塗工状態で塗工面に塗工されている様子を示す説明図である。図7は、塗工工程を示すフローチャート図である。
塗工工程を、図7に基づいて説明する。はじめに、ダイ2の先端面2aが、図2に示すように、金属箔31の厚み20(μm)に、金属箔31の塗工面31aからの距離H0を加えた距離分、バックアップロール8の外周から離間した位置に配置される。そして、新たに1つの原反箔30に塗工液40を塗工する場合、金属箔31が、図示しない送出コンベア及びローラにより、ロール状に捲回された原反箔30から平面状に搬送方向Fに搬送され、バックアップロール8と接触した状態で、金属箔31の始端部31Aが、バックアップロール8とダイ2の先端面2aとの間を通過した位置に配置される。
また、先の原反箔30の塗工が完了した後、引き続き、次の新しい原反箔30に取り替えて、複数の原反箔30を連続塗工する場合には、次の新しい原反箔30における金属箔31が、図示しない送出コンベア及びローラにより、ロール状に捲回された原反箔30から平面状に搬送方向Fに搬送され、バックアップロール8と接触した状態で、この金属箔31の始端部31Aが、バックアップロール8とダイ2の先端面2aとの間を通過した位置に配置される。そして、ダイ2の先端面2aが、図2に示すように、距離H0で金属箔31の塗工面31aと離間した状態で、先の原反箔30における金属箔31Tの終端部31Bと、次の新しい原反箔30における金属箔31の始端部31Aとを、テープ等の接続部材32で接続する。
次に、ステップS11では、ダイ2の先端面2aと金属箔31の塗工面31aとのダイギャップHを第1ダイギャップH1に設定する。具体的には、図1及び図3に示すように、制御部7によりダイギャップ可変手段6を駆動し、金属箔31に向けてダイ2を上昇させ、ダイギャップHが、距離H0から第1ダイギャップH1に設定されたら、ダイ2の上昇を停止する。ダイ2の先端面2aと金属箔31の塗工面31aとが第1ダイギャップH1で離間した位置が、塗工液40をダイ2のスリット3から吐出開始する位置となる。
次に、ステップS12では、本実施形態に係る塗工材塗工方法により、塗工液40の吐出を開始する。本実施形態に係る塗工材塗工方法では、金属箔31の塗工面31aと対向する位置に配置されるダイ2の先端面2aと、塗工面31aとの距離であるダイギャップHで、塗工開始時を、第1ダイギャップH1とし、塗工材30を所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工している状態にあるときを、第2ダイギャップH2(H2<H1)とする。本実施形態に係る塗工材塗工方法は、塗工液40をダイ2のスリット3から吐出開始と同時に、制御部7がダイギャップ可変手段6を駆動させ、ダイ2を金属箔31に向けて等速度で移動させることにより、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくする。
また、本実施形態に係る塗工材塗工方法では、上述したダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくするときのダイ2の上昇速度は、以下の要領で求める。はじめに、塗工液40がダイ2のスリット3から吐出し始めた基準時T=0から、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義する。第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとする。また、塗工開始時のダイギャップの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイ2と金属箔31とを相対移動させるときの速度V、すなわちダイギャップ可変手段6によるダイ2の上昇速度Vは、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)を満たすこととする。
具体的に説明する。上記式(4)の関係に有意性があることを確認するために、第1の確認実験と第2の確認実験を行った。第1の確認実験では、塗工開始後、安定塗工状態になるまでの立ち上がり時間と、ダイギャップの大きさとの関係について調べた。第2の確認実験では、塗工開始後、安定塗工状態になるまでの立ち上がり時間と、ダイギャップの変化速度との関係について調べた。
はじめに、第1の確認実験の条件について説明する。第1の確認実験では、3種の確認調査を行った。3種の確認調査で共通する条件を〔共通条件〕に、それぞれ異なる条件を〔条件1−1〕、〔条件1−2〕、〔条件1−3〕に挙げる。
〔共通条件〕
・金属箔31の搬送速度0.5(m/sec.)
・圧送ポンプ13による塗工液40の吐出圧及び吐出流量は3種の確認調査とも同じ
・塗工液40は常温で3種の確認調査とも同じ温度
・塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工される状態にできる塗工液40の流量として、狙い流量が380(g/min.)
・塗工安定化時間Tは、塗工液40の流量が最初に380(g/min.)に達した時点を判断基準時(安定塗工状態になるまでの立ち上がり時間)とする。
〔条件1−1〕
・第1ダイギャップH1とスリット3の幅Dとの関係が「H1=D=400(μm)」の場合
(H1≧D…式(1)、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)を満たす場合)
〔条件1−2〕
・第1ダイギャップH1が400(μm)を十分に超える大きさの場合
〔条件1−3〕
・第1ダイギャップH1と第2ダイギャップH2との関係が「H1=H2=50(μm)」の場合
次に、第1の確認実験の結果を図8に示す。図8に示すグラフから容易に判断できるように、〔条件1−1〕では、塗工安定化時間Tは、T11=6(sec.)であった。〔条件1−2〕では、第1塗工安定化時間Taは、T12=6(sec.)であった。〔条件1−3〕では、第2塗工安定化時間Tbは、T13=12(sec.)であった。
次に、第2の確認実験の条件について説明する。第2の確認実験では、3種の確認調査を行った。3種の確認調査で共通する条件を〔共通条件〕に、それぞれ異なる条件を〔条件2−1〕、〔条件2−2〕、〔条件2−3〕に挙げる。なお、〔条件2−1〕、〔条件2−2〕、〔条件2−3〕において、「ダイギャップ変化速度V」とは、ダイギャップHを第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に変更するときに、ダイ2と金属箔31とを相対移動させるときの速度Vであり、換言すれば、ダイギャップ可変手段6によりダイ2を上昇させる速度Vを意味する。
〔共通条件〕
・金属箔31の搬送速度0.5(m/sec.)
・圧送ポンプ13による塗工液40の吐出圧及び吐出流量は3種の確認調査とも同じ
・塗工液40は常温で3種の確認調査とも同じ温度
・塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工される状態にできる塗工液40の流量として、狙い流量が380(g/min.)
・塗工安定化時間Tは、塗工液40の流量が最初に380(g/min.)に達した時点を判断基準時(安定塗工状態になるまでの立ち上がり時間)とする。
〔条件2−1〕
・ダイギャップ変化速度V=(H1−H2)/Ta(式(4)の上限)
〔条件2−2〕
・ダイギャップ変化速度V=(H1−H2)/Tb(式(4)の下限)
〔条件2−3〕
・ダイギャップ変化速度V=(H1−H2)/0.5×Ta(式(4)の上限を超える)
次に、第2の確認実験の結果を図9に示す。図9に示すグラフから容易に判断できるように、〔条件2−1〕では、塗工安定化時間Tは、T21=7(sec.)であった。〔条件2−2〕では、塗工安定化時間Tは、T22=7(sec.)であった。〔条件2−3〕では、塗工安定化時間Tは、T23=10(sec.)であった。
第1の確認実験及び第2の確認実験の結果の可否について考察する。はじめに、第1の確認実験及び第2の確認実験の結果に対する判定基準は、本実施形態では、塗工安定化時間Tが10(sec.)未満であれば、有意性があると判断している。その根拠には、塗工中、ダイギャップを一定に維持した特許文献1等の従来技術では、塗工開始後、安定塗工状態になるまでに要する立ち上がり時間が、一例として、20秒程度もかかっていたため、例えば、十数秒間程、短縮できるとコストメリットも大きくなるため、目安として塗工安定化時間Tを10(sec.)未満に設定している。
第1の確認実験では、〔条件1−3〕で塗工安定化時間Tが10(sec.)を超えているため、判定として「不適」である。〔条件1−1〕と〔条件1−2〕は、塗工安定化時間Tが10(sec.)未満であるため、判定として「適」である。しかしながら、〔条件1−2〕では、第2ダイギャップH2までの距離差が大きく拡がり、ダイ2が金属箔31に向けて等速度で移動するため、塗工液40の吐出開始と同時に、ダイギャップを第2ダイギャップH2まで小さくするときに、第2ダイギャップH2になるまでの時間が長くかかってしまい好ましくない。従って、第1の確認実験では、〔条件1−1〕の確認調査より、第1ダイギャップH1とスリット3の幅Dとが「H1=D=400(μm)」の関係にあると、有意性があることが確認できた。
第2の確認実験では、〔条件2−3〕で塗工安定化時間Tが10(sec.)であるため、判定として「不適」である。〔条件2−1〕と〔条件2−2〕は、塗工安定化時間Tが10(sec.)未満であるため、判定として「適」である。従って、第2の確認実験では、〔条件2−1〕及び〔条件2−2〕の確認調査より、第1ダイギャップH1と、第2ダイギャップH2と、第1塗工安定化時間Taと、第2塗工安定化時間Tbと、ダイ2と金属箔31とを相対移動させるときの速度Vとが、式(4)を満たす関係にあると、有意性があることが確認できた。
再び、塗工工程の説明に戻り、図7に示すフローチャート図に基づいて説明する。前述したように、ステップS12では、本実施形態に係る塗工材塗工方法により、図3に示すように、ダイ2の先端面2aと金属箔31の塗工面31aとが第1ダイギャップH1で離間した状態で、塗工液40の吐出を開始する。
具体的には、バルブ12を開路し、圧送ポンプ13を作動させる。これにより、タンク11内の塗工液40が、フィルタ14を通じてダイ2に向けて圧送され、配管15C、ダイ2の連通管路5を通じてポケット4に給されてスリット3から吐出する。
ステップS13では、スリット3から塗工液40を吐出させるのと同時に、制御部7がダイギャップ可変手段6を駆動させ、式(4)を満たす等速度Vでダイ2を、搬送コンベア等により搬送方向Fに搬送されている金属箔31に向けて移動させることにより、ダイギャップを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくする。ダイ2の先端面2aが上昇している間、ダイギャップH(H2<H<H1)が次第に小さくなりつつ、金属箔31が、バックアップロール8の外周に接触した状態で金属箔31が搬送方向Fに搬送されている。そのため、スリット3から吐出した塗工液40が、図4に示すように、金属箔31の塗工面31aに沿って塗工されるようになるが、塗工開始端から第2ダイギャップH2で塗工されるまでの間は、塗工液40が不安定な流量で塗工面31aに塗工された不安定塗工部41となる。
ステップS14では、第2ダイギャップH2に設定されたらダイ2の上昇を停止する。その一方で、金属箔31の搬送をそのまま継続して、第2ダイギャップH2で、塗工液40をスリット3からコンスタントに吐出して金属箔31の塗工面31aに塗工を続ける。すると、図6に示すように、塗工液40が安定した流量で塗工面31aに塗工された安定塗工部42が得られる。そして、塗工液40は、1つの原反箔30の塗工面31aにおいて、長手方向に対し、始端部31Aの塗工開始端からその反対にある終端部31Bの塗工終了端までの全域に、塗工開始端と塗工終了端との間で当該塗工液40の吐出が途切れないよう、塗工装置1を連続運転させて塗工される。
ステップS15では、金属箔31の終端部31Bの塗工終了端がダイ2のスリット3に達したら、圧送ポンプ13の作動を止めて塗工液40の吐出を停止する。
ステップS16では、次の原反箔30で塗工を継続するか否かを確認する。すなわち、1つの原反箔30に塗工液40の塗工を完了して、塗工工程を終了する場合には、「NO」に進む。先の原反箔30の塗工が完了した後、引き続き、次の新しい原反箔30に取り替えて、複数の原反箔30を連続塗工する場合には、「YES」に進み、ステップS17に進む。
ステップS17では、ダイギャップ可変手段6によりダイ2を下降させる。具体的には、図2に示すように、ダイ2の先端面2aを、金属箔31の厚み20(μm)に、金属箔31の塗工面31aからの距離H0を加えた距離分、バックアップロール8の外周から離間した位置に配置する。
次いで、ステップS18では、図示しない搬送コンベア及びローラによる搬送を行いながら、先の原反箔30の金属箔31Tの終端部31Bと、次の新しい原反箔30の金属箔31の始端部31Aとを接続部材32で接続する。この後、ステップS11に進み、先の原反箔30の金属箔31Tと同じようにして塗工を繰り返す。
前述した構成を有する本実施形態に係る塗工材塗工方法、及び塗工材塗工装置の作用・効果について説明する。
(1)本実施形態に係る塗工材塗工方法では、ダイ2と相対的に金属箔31を搬送させながら、ダイ2のスリット3から吐出した塗工液40を、金属箔31の塗工面31aに塗工する塗工材塗工方法において、塗工面31aと対向する位置に配置されるダイ2の先端面2aと、塗工面31aとの距離であるダイギャップHで、塗工開始時を、第1ダイギャップH1とし、塗工液40を所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工している状態にあるときを、第2ダイギャップH2(H2<H1)とすると、塗工液40をスリット3から吐出開始と同時に、ダイ2を金属箔31と相対的に等速度Vで移動させることにより、ダイギャップHを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくすることを特徴とするので、第2ダイギャップH2が50(μm)程度という非常に近接した距離で、金属箔31と相対的な搬送方向Fに沿うスリット幅Dが400(μm)のダイ2により、塗工液40を金属箔31の塗工面31aに塗工する場合において、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまで、塗工面31aに塗工される塗工液40の流量が、大きく変動し難くなる。すなわち、塗工開始後、安定塗工状態になるまでに要する立ち上がり時間を、塗工中、ダイギャップを一定に維持した特許文献1等の従来技術に比べ、例えば、十数秒間程、短縮することができる。
また、塗工中、金属箔31はダイ2と相対的に搬送されているため、上述した立ち上がり時間が短縮できると、図6に示すように、不安定塗工部41の長さLを短くすることができ、短縮された時間に相当する時間内に搬送される金属箔31の一部には、不安定な流量で塗工液40が無駄に塗工面31aに塗工されず、安定塗工状態で塗工液40された電極の一部として、この電極の一部が有効に使用できる。その結果、従来、不安定な流量で塗工材が塗工された部分は、品質管理上、製品(電極)として使用できず廃棄されていたが、本実施形態に係る塗工材塗工方法では、製造された電極のうち、廃棄される部分が削減でき、有効に使用できる部分がより多く確保することができる。よって、廃棄される部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
また、本実施形態に係る塗工材塗工方法は、特許文献2,3等の従来技術に比べ、大がかりで複雑な設備を不要とするため、高額な設備コストを掛けずに、上述した立ち上がり時間を短縮することができる。
従って、本実施形態に係る塗工材塗工方法によれば、金属箔31の塗工面31aに塗工液40を塗工する工程において、塗工液40が金属箔31に塗工された電池の電極を、低コストで、かつ歩留まりをより高くして製造することができる、という優れた効果を奏する。
(2)(1)に記載する塗工材塗工方法において、ダイ2と金属箔31との相対的な搬送方向Fに沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間がより短くなり、特に、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、H1=Dを満たす関係にあるときには、塗工開始後、上述した安定塗工状態になるまでの時間を最も短くすることができる。
すなわち、圧送ポンプ13により塗工液40のタンク11からダイ2に一定の供給圧で圧送された塗工液40の吐出圧は、ダイ2のスリット3内で比較的高くなっており、スリット3から吐出した塗工液40は、スリット3内の吐出圧より低い吐出圧で、ダイ2の先端面2aから金属箔31の塗工面31aに向けた直線的な流れで吐出し、塗工面31aに沿う向きに塗工液40の流れの向きを変えて塗工面31aに塗工される。
このとき、スリット幅D=400(μm)、第1ダイギャップH1が400(μm)より小さい場合、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積が、例えば、位置P−P断面における流路断面積から、位置Q−Q断面における流路断面積に変化するように、急激に減少してしまい、塗工液40の圧力上昇が局部的に生じる(図5参照)。すなわち、吐出後に局部的に圧力上昇したときの塗工液40の圧力と、スリット3内で吐出前の塗工液40の圧力との間に差圧が生じ、圧力が小さい側の塗工液40がスリット3から流れ(吐出)難くなり、金属箔31の塗工面31aに沿って塗工される塗工液40の流量が抑制されてしまう。そのため、塗工液40が、ダイギャップHの部分で一時的に滞留して塗工面31aに流れ難くい状態になることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工液40が吐出開始された後、塗工液40が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より長くかかる。
その一方、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積が急激に減少して変化せず、塗工液40の局部的な圧力上昇が発生し難くなる。すなわち、吐出後の塗工液40の圧力と、スリット3内で吐出前の塗工液40の圧力との差圧は小さく、スリット3から塗工液40が比較的流れ(吐出)易くなり、流量抑制を小さくして、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに沿って塗工される。そのため、スリット3から吐出した塗工液40は、ダイギャップHの部分で一時的にほとんど滞留せず、金属箔31の塗工面31aに沿って比較的スムーズに流れて塗工面31aに塗工される。よって、塗工液40が塗工面31aに流れ易い状態で塗工されることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工液40が吐出開始された後、塗工液40が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より短くできる。
但し、前述した第1の確認実験の〔条件1−2〕の場合のように、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対してむやみに大きいと、塗工液40が塗工面31aに向けて必要以上の流量で過剰に吐出することもあり、塗工液40の吐出開始後、塗工液40が前述した安定塗工状態になるまでの時間が、かえって長くなってしまう虞もあり、好ましくない。また、塗工液40の吐出開始と同時に、ダイギャップHを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくするときに、第1ダイギャップH1と第2ダイギャップH2との距離差が大きく拡がってしまう。ダイ2は金属箔31と相対的に等速度で移動するため、上述した距離差が大きく拡がると、塗工液40の吐出開始後、ダイギャップHが第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2になるまでの時間が長くかかってしまう。
よって、式(1)の関係を満たすと、スリット3から吐出した塗工液40が、ダイ2と相対的に搬送している金属箔31の塗工面31aに沿いこの塗工面31aに塗工された状態になるまでの間に、塗工液40の流路断面積が急激に減少せず、塗工液40の局部的な圧力上昇が発生し難くなるため、安定塗工状態になるまでの時間をより短くすることができる。第1ダイギャップH1がスリット幅Dに対し大きくなり過ぎず、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、互いに近似する関係にある場合には、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積の変化がより小さく抑えることができることから、塗工液40の流量変動が小さく、安定塗工状態になるまでの時間が最も短くなる。併せて、式(1)を満たす条件の中でも、前述した第1の確認実験の〔条件1−1〕のように、特にH1=Dの場合には、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2までの移動時間がより短くなり、塗工液40の吐出開始後、安定塗工状態になるまでの時間を短く抑制することができる。
(3)(2)に記載する塗工材塗工方法において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とするので、第1ダイギャップH1とスリット幅DとがH1=Dを満たす関係にあるときと同様に、塗工開始後、前述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短い時間にすることができる、あるいはそのような最も短い時間により近付けることができる。すなわち、前述したように、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとは、H1=Dを満たす関係にあるのが最も良いが、その許容誤差を考慮し、第1ダイギャップH1に対し、スリット幅Dの+10%までの許容幅をも設けて、好ましくは、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対し、±10%の許容幅を持った「0.9×D≦H1≦1.1×D」の範囲とすることで、塗工開始後、上記安定塗工状態になるまでの時間が、最も短い時間に、あるいはその最も短い時間と近似した時間にすることができる。
(4)(2)または(3)に記載する塗工材塗工方法において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とするので、ダイ2と相対的に金属箔31を搬送させる搬送速度が0.5(m/sec.)、第2ダイギャップH2が50(μm)、金属箔31の塗工面31aにコンスタントに塗工する塗工液40の所望の厚みt=30(μm)等の条件で、金属箔31を搬送させながらその塗工面31aに金属箔31を連続して塗工する場合に、式(3)を満たすことにより、塗工液40をそのタンク11からダイ2に圧送する圧送ポンプ13の吐出圧をむやみに高くしなくても、吐出圧が低いまま、厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工するのに足りる塗工液40の必要流量を安定して確保することができる。
特に、塗工液40の粘性が高いとその流動性は低く、第2ダイギャップH2に対しスリット幅Dが小さいと、ダイ2のスリット3から塗工面31aに向けて吐出する塗工液40が、粘性が低い塗工液40に比べ、吐出し難くなり、所望の厚みtでコンスタントに塗工するのに足りる塗工液40の必要流量が確保できない虞もある。
本実施形態に係る塗工材塗工方法では、塗工液40の粘性に関わらず、粘性が高い塗工液40でも、式(3)を満たすことにより、上述した必要流量の塗工液40を、塗工する金属箔31の塗工面31aに安定して供給することができる。よって、比較的高速の搬送速度で金属箔31を搬送させながらその塗工面31aに塗工液40を連続して塗工する場合でも、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに安定して供給できることから、生産性を高くして、塗工液40を金属箔31の塗工面31aに塗工することができる。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する塗工材塗工方法において、塗工液40がダイ2のスリット3から吐出し始めた基準時T0から、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップHの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイ2と金属箔31とを相対移動させるときの速度Vが、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が、図9に示す第2の確認実験の〔条件2−1〕及び〔条件2−2〕の場合のように、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
すなわち、ダイ2と金属箔31との相対速度Vが、式(4)の下限である(H1−H2)/Tbを下回ると、ダイギャップHの部分で塗工液40の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し難く、ダイギャップHにおいて、塗工液40が、直線的な流れから金属箔31の塗工面31aに沿う向きに、比較的スムーズに向きを変えて流れ、短い時間で塗工面31aに塗工され易くなる。その一方で、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。
これに対し、ダイ2と金属箔31との相対速度Vが、式(4)の上限である(H1−H2)/Taを上回ると、ダイギャップHの部分で塗工液40の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し易く、塗工液40が、ダイギャップHの部分で一時的に滞留し、ダイギャップHにおいて、直線的な流れから金属箔31の塗工面31aに沿う向きに流れの向きを変えて塗工面31aに沿って流れ難くなる。その結果、前述した安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。よって、式(4)の関係を満たすと、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでに掛かる時間が、図9に示すように、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する塗工材塗工方法において、基材は、ロール状に捲回された原反箔30から平面状に搬送される金属箔31であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液40であることを特徴とするので、製造された電池の電極のうち、製品として使用できない廃棄部分が削減できることから、この廃棄部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
特に二次電池の金属箔は、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料であり、とりわけ銅等を含む材料コストは比較的高価である。近年、産業界では、ハイブリッド自動車、電気自動車をはじめ、携帯電話等の電子機器類の市場が急速な勢いで成長し、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等、二次電池の生産量が著しく増加し続けており、今後もその需要は伸び続ける傾向にある。そのため、廃棄部分が少しでも多く存在すると、既に費やした無駄な製造コスト(ロス分の製造コスト)が増えてしまい、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コスト全体は高額に膨れ上がるが、本実施形態に係る塗工材塗工方法では、廃棄部分が削減できる分、その削減できる部分が、製品の電極の一部として使用することができる。そのため、ロス分の製造コストが減り、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コストも抑制することができる。
(7)本実施形態に係る塗工材塗工装置1では、ダイ2と相対的に金属箔31を搬送させながら、ダイ2のスリット3から吐出した塗工液40を、金属箔31の塗工面31aに塗工する塗工材塗工装置1において、ダイ2と金属箔31とを相対移動させて、塗工面31aと対向する位置に配置されるダイ2の先端面2aと、塗工面31aとの距離であるダイギャップHを変化させるダイギャップ可変手段6と、塗工開始時のダイギャップHを、第1ダイギャップH1に、塗工液40が所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工している状態にあるときのダイギャップHを、第2ダイギャップH2(H2<H1)に、それぞれ設定可能であり、塗工液40をスリット3から吐出開始と同時に、ダイギャップ可変手段6を等速度Vで作動させることにより、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に変化させるダイギャップ制御手段7と、を備えることを特徴とするので、第2ダイギャップH2が50(μm)程度という非常に近接した距離で、金属箔31と相対的な搬送方向Fに沿うスリット幅が400(μm)のダイ2により、塗工液40を金属箔31の塗工面31aに塗工する場合において、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまで、塗工面31aに塗工される塗工液40の流量が、大きく変動し難くなる。すなわち、塗工開始後、安定塗工状態になるまでに要する立ち上がり時間を、塗工中、ダイギャップを一定に維持した特許文献1等の従来技術に比べ、例えば、十数秒間程、短縮することができる。
また、塗工中、金属箔31はダイ2と相対的に搬送されているため、上述した立ち上がり時間が短縮できると、図6に示すように、不安定塗工部41の長さLを短くすることができ、短縮された時間に相当する時間内に搬送される金属箔31の一部には、不安定な流量で塗工液40が無駄に塗工面31aに塗工されず、安定塗工状態で塗工液40された電極の一部として、この電極の一部が有効に使用できる。その結果、従来、不安定な流量で塗工材が塗工された部分は、品質管理上、製品(電極)として使用できず廃棄されていたが、本実施形態に係る塗工材塗工装置1では、製造された電極のうち、廃棄される部分が削減でき、有効に使用できる部分がより多く確保することができる。よって、廃棄される部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
また、本実施形態に係る塗工材塗工装置1は、特許文献2,3等の従来技術に比べ、大がかりで複雑な設備とならないため、高額な設備コストを掛けずに、上述した立ち上がり時間を短縮することができる。また、この塗工材塗工装置1では、例えば、ダイギャップ可変手段6と制御部7とを備えた塗工装置を新設するときの設備コストが安価であり、既存の塗工装置に、ダイギャップ可変手段6と制御部7とを付加した場合等でも、新たに掛かる設備コストが安価である。
また、特許文献2,3等の従来技術では、弁の詰まり、配管上での洩れ等のトラブルが発生する虞があり、装置のメンテナンスが頻繁に必要となるが、本実施形態に係る塗工材塗工装置1は、構造が簡単で、ダイギャップ可変手段6や制御部7で動作不良等の故障を引き起こす蓋然性も低く、装置のメンテナンスの頻度を少なくすることもできる。そのため、塗工材塗工装置1に掛かるランニングコストを安価に抑制することができる。
従って、本実施形態に係る塗工材塗工装置1では、塗工液40が金属箔31に塗工された電池の電極を、低コストで、かつ歩留まりをより高くして製造することができる、という優れた効果を奏する。
(8)(7)に記載する塗工材塗工装置1において、ダイ2と金属箔31との相対的な搬送方向Fに沿うスリットの幅をDとすると、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、0.9×D≦H1…式(1)、式(1)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚み30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間がより短くなり、特に、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、H1=Dを満たす関係にあるときには、塗工開始後、上述した安定塗工状態になるまでの時間を最も短くすることができる。
すなわち、圧送ポンプ13により塗工液40のタンク11からダイ2に一定の供給圧で圧送された塗工液40の吐出圧は、ダイ2のスリット3内で比較的高くなっており、スリット3から吐出した塗工液40は、スリット3内の吐出圧より低い吐出圧で、ダイ2の先端面2aから金属箔31の塗工面31aに向けた直線的な流れで吐出し、塗工面31aに沿う向きに塗工液40の流れの向きを変えて塗工面31aに塗工される。
このとき、スリット幅D=400(μm)、第1ダイギャップH1が400(μm)より小さい場合、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積が、例えば、位置P−P断面における流路断面積から、位置Q−Q断面における流路断面積に変化するように、急激に減少してしまい、塗工液40の圧力上昇が局部的に生じる(図5参照)。すなわち、吐出後に局部的に圧力上昇したときの塗工液40の圧力と、スリット3内で吐出前の塗工液40の圧力との間に差圧が生じ、圧力が小さい側の塗工液40がスリット3から流れ(吐出)難くなり、金属箔31の塗工面31aに沿って塗工される塗工液40の流量が抑制されてしまう。そのため、塗工液40が、ダイギャップHの部分で一時的に滞留して塗工面31aに流れ難くい状態になることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が小さいと、塗工液40が吐出開始された後、塗工液40が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より長くかかる。
その一方、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積が急激に減少して変化せず、塗工液40の局部的な圧力上昇が発生し難くなる。すなわち、吐出後の塗工液40の圧力と、スリット3内で吐出前の塗工液40の圧力との差圧は小さく、スリット3から塗工液40が比較的流れ(吐出)易くなり、流量抑制を小さくして、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに沿って塗工される。そのため、スリット3から吐出した塗工液40は、ダイギャップHの部分で一時的にほとんど滞留せず、金属箔31の塗工面31aに沿って比較的スムーズに流れて塗工面31aに塗工される。よって、塗工液40が塗工面31aに流れ易い状態で塗工されることから、スリット幅Dに対し、第1ダイギャップH1が大きいと、塗工液40が吐出開始された後、塗工液40が前述した安定塗工状態で流れるようになるまでの時間が、より短くできる。
但し、前述した第1の確認実験の〔条件1−2〕の場合のように、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対してむやみに大きいと、塗工液40が塗工面31aに向けて必要以上の流量で過剰に吐出することもあり、塗工液40の吐出開始後、塗工液40が前述した安定塗工状態になるまでの時間が、かえって長くなってしまう虞もあり、好ましくない。また、塗工液40の吐出開始と同時に、ダイギャップHを、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2に小さくするときに、第1ダイギャップH1と第2ダイギャップH2との距離差が大きく拡がってしまう。ダイ2は金属箔31と相対的に等速度Vで移動するため、上述した距離差が大きく拡がると、塗工液40の吐出開始後、ダイギャップHが第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2になるまでの時間が長くかかってしまう。
よって、式(1)の関係を満たすと、スリット3から吐出した塗工液40が、ダイ2と相対的に搬送している金属箔31の塗工面31aに沿いこの塗工面31aに塗工された状態になるまでの間に、塗工液40の流路断面積が急激に減少せず、塗工液40の局部的な圧力上昇が発生し難くなるため、安定塗工状態になるまでの時間をより短くすることができる。第1ダイギャップH1がスリット幅Dに対し大きくなり過ぎず、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとが、互いに近似する関係にある場合には、塗工液40の流れが塗工面31aに沿った向きに変わるときに、塗工液40の流路断面積の変化がより小さく抑えることができることから、塗工液40の流量変動が小さく、安定塗工状態になるまでの時間が最も短くなる。併せて、式(1)を満たす条件の中でも、前述した第1の確認実験の〔条件1−1〕のように、特にH1=Dの場合には、第1ダイギャップH1から第2ダイギャップH2までの移動時間がより短くなり、塗工液40の吐出開始後、安定塗工状態になるまでの時間を短く抑制することができる。
(9)(8)に記載する塗工材塗工装置1において、0.9×D≦H1≦1.1×D…式(2)、式(2)を満たすことを特徴とするので、第1ダイギャップH1とスリット幅DとがH1=Dを満たす関係にあるときと同様に、塗工開始後、前述した安定塗工状態になるまでの時間を、最も短い時間にすることができる、あるいはそのような最も短い時間により近付けることができる。すなわち、前述したように、第1ダイギャップH1とスリット幅Dとは、H1=Dを満たす関係にあるのが最も良いが、その許容誤差を考慮し、第1ダイギャップH1に対し、スリット幅Dの+10%までの許容幅をも設けて、好ましくは、第1ダイギャップH1が、スリット幅Dに対し、±10%の許容幅を持った「0.9×D≦H1≦1.1×D」の範囲とすることで、塗工開始後、上記安定塗工状態になるまでの時間が、最も短い時間に、あるいはその最も短い時間と近似した時間にすることができる。
(10)(8)または(9)に記載する塗工材塗工装置1において、第2ダイギャップH2とスリット幅Dとが、H2<D…式(3)、式(3)を満たすことを特徴とするので、ダイ2と相対的に金属箔31を搬送させる搬送速度が0.5(m/sec.)、第2ダイギャップH2が50(μm)、金属箔31の塗工面31aにコンスタントに塗工する塗工液40の所望の厚みt=30(μm)等の条件で、金属箔31を搬送させながらその塗工面31aに金属箔31を連続して塗工する場合に、式(3)を満たすことにより、塗工液40をそのタンク11からダイ2に圧送する圧送ポンプ13の吐出圧をむやみに高くしなくても、吐出圧が低いまま、厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工するのに足りる塗工液40の必要流量を安定して確保することができる。
特に、塗工液40の粘性が高いとその流動性は低く、第2ダイギャップH2に対しスリット幅Dが小さいと、ダイ2のスリット3から塗工面31aに向けて吐出する塗工液40が、粘性が低い塗工液40に比べ、吐出し難くなり、所望の厚みtでコンスタントに塗工するのに足りる塗工液40の必要流量が確保できない虞もある。
本実施形態に係る塗工材塗工装置1では、塗工液40の粘性に関わらず、粘性が高い塗工液40でも、式(3)を満たすことにより、上述した必要流量の塗工液40を、塗工する金属箔31の塗工面31aに安定して供給することができる。よって、比較的高速の搬送速度で金属箔31を搬送させながらその塗工面31aに塗工液40を連続して塗工する場合でも、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに安定して供給できることから、生産性を高くして、塗工液40を金属箔31の塗工面31aに塗工することができる。
(11)(7)乃至(10)のいずれか1つに記載する塗工材塗工装置1において、塗工液40がダイ2のスリット3から吐出し始めた基準時T0から、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに塗工されている状態にあると判断されるまでの時間を塗工安定化時間Tと定義し、第1ダイギャップH1がスリット幅Dを超える大きな距離であると仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第1塗工安定化時間Taとし、塗工開始時のダイギャップHの大きさが第2ダイギャップH2と仮定した場合の塗工安定化時間Tを、第2塗工安定化時間Tbとしたときに、ダイ2と金属箔31とを相対移動させるときの速度Vが、(H1−H2)/Tb≦V≦(H1−H2)/Ta…式(4)、式(4)を満たすことを特徴とするので、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が、図9に示す第2の確認実験の〔条件2−1〕及び〔条件2−2〕の場合のように、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
すなわち、ダイ2と金属箔31との相対速度Vが、式(4)の下限である(H1−H2)/Tbを下回ると、ダイギャップHの部分で塗工液40の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し難く、ダイギャップHにおいて、塗工液40が、直線的な流れから金属箔31の塗工面31aに沿う向きに、比較的スムーズに向きを変えて流れ、短い時間で塗工面31aに塗工され易くなる。その一方で、塗工開始後、塗工液40が金属箔31の塗工面31aに所望の厚みt=30(μm)でコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。
これに対し、ダイ2と金属箔31との相対速度Vが、式(4)の上限である(H1−H2)/Taを上回ると、ダイギャップHの部分で塗工液40の流路が時間の経過と共に急激に小さく変化し易く、塗工液40が、ダイギャップHの部分で一時的に滞留し、ダイギャップHにおいて、直線的な流れから金属箔31の塗工面31aに沿う向きに流れの向きを変えて塗工面31aに沿って流れ難くなる。その結果、前述した安定塗工状態になるまでの時間が長くかかってしまう。よって、式(4)の関係を満たすと、塗工開始後、塗工材が基材の塗工面に所望の厚みでコンスタントに安定して塗工できる安定塗工状態になるまでに掛かる時間が、図9に示すように、例えば、数秒程度となり、最も短くすることができる。
(12)(7)乃至(11)のいずれか1つに記載する塗工材塗工装置1において、基材は、ロール状に捲回された原反箔30から平面状に搬送される金属箔31であり、塗工材は、電池の電極を構成するための活物質を含むペースト状の塗工液40であることを特徴とするので、製造された電池の電極のうち、製品として使用できない廃棄部分が削減できることから、この廃棄部分に既に費やしたロス分の製造コストを低減することができると共に、電極の歩留まりが向上し、ひいては、電池の製造コストの低減に貢献することができる。
特に二次電池の金属箔は、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料であり、とりわけ銅等を含む材料コストは比較的高価である。近年、産業界では、ハイブリッド自動車、電気自動車をはじめ、携帯電話等の電子機器類の市場が急速な勢いで成長し、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等、二次電池の生産量が著しく増加し続けており、今後もその需要は伸び続ける傾向にある。そのため、廃棄部分が少しでも多く存在すると、既に費やした無駄な製造コスト(ロス分の製造コスト)が増えてしまい、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コスト全体は高額に膨れ上がるが、本実施形態に係る塗工材塗工装置1では、廃棄部分が削減できる分、その削減できる部分が、製品の電極の一部として使用することができる。そのため、ロス分の製造コストが減り、二次電池の生産量に比例して累積するロス分の製造コストも抑制することができる。
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、実施形態では、金属箔31の塗工面31aは金属箔の一面の場合について説明したが、金属箔の塗工面は金属箔の両面でも良い。この場合には、本発明に係る塗工材塗工装置を、金属箔の両面側にそれぞれ設置する。もしくは、本発明に係る塗工材塗工装置により金属箔の一面側を塗工した後、その反対側の面に、本発明に係る塗工材塗工装置のダイが配置されるよう、本発明に係る塗工材塗工装置の位置、または金属箔の表裏の向きを変更する。