以下に、本願発明を具体化した実施形態を、作業車両としてのトラクタに搭載されるディーゼルエンジンに適用した場合の図面に基づいて説明する。
(1).エンジン及びその周辺の構造
まず、図3及び図4を参照しながら、エンジン及びその周辺の構造を説明する。図4に示すように、エンジン70は4気筒型のディーゼルエンジンであり、上面にシリンダヘッド72が締結されたシリンダブロック75を備えている。シリンダヘッド72の一側面には吸気マニホールド73が接続されており、他側面には排気マニホールド71が接続されている。シリンダブロック75の側面のうち吸気マニホールド73の下方には、エンジン70の各気筒に燃料を供給するコモンレールシステム117が設けられている。吸気マニホールド73の吸気上流側に接続された吸気管76には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81とエアクリーナ(図示省略)とが接続されている。
図3に示すように、エンジン70における4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続されている。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続されている。また、コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して4気筒分の各インジェクタ115がそれぞれ接続されている。
上記の構成において、燃料タンク118の燃料は燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、エンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、エンジン70の騒音振動を低減できる。
なお、図3に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して、燃料タンク118に回収されることになる。
排気マニホールド71の排気下流側に接続された排気管77には、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82と、排気ガス浄化装置の一例であるディーゼルパティキュレートフィルタ50(以下、DPFという)とが接続されている。各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、排気管77、排気絞り装置82及びDPF50を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
DPF50は、排気ガス中の粒子状物質(以下、PMという)等を捕集するためのものである。実施形態のDPF50は、耐熱金属材料製のケーシング51内にある略筒型のフィルタケース52に、例えば白金等のディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54とを直列に並べて収容してなるものである。実施形態では、フィルタケース52内のうち排気上流側にディーゼル酸化触媒53が配置され、排気下流側にスートフィルタ54が配置されている。スートフィルタ54は、多孔質な(ろ過可能な)隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造になっている。
ケーシング51の一側部には、排気管76のうち排気絞り装置82より排気下流側に連通する排気導入口55が設けられている。ケーシング51の一端部は第1底板56にて塞がれ、フィルタケース52のうち第1底板56に臨む一端部は第2底板57にて塞がれている。ケーシング51とフィルタケース52との間の環状隙間、並びに両底板56,57間の隙間には、ガラスウールのような断熱材58がディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54の周囲を囲うように充填されている。ケーシング51の他側部は2枚の蓋板59,60にて塞がれていて、これら両蓋板59,60を略筒型の排気排出口61が貫通している。また、両蓋板59,60の間は、フィルタケース52内に複数の連通管62を介して連通する共鳴室63になっている。
ケーシング51の一側部に形成された排気導入口55には排気ガス導入管65が挿入されている。排気ガス導入管65の先端は、ケーシング51を横断して排気導入口55と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管65の外周面には、フィルタケース52に向けて開口する複数の連通穴66が形成されている。排気ガス導入管65のうち排気導入口55と反対側の側面に突出する部分は、これに着脱可能に螺着された蓋体67にて塞がれている。
DPF50には、検出手段の一例として、スートフィルタ54の詰まり状態を検出する差圧センサ68が設けられている。実施形態の差圧センサ68は、DPF50内におけるスートフィルタ54を挟んだ上流側及び下流側間の圧力差を検出するものである。差圧センサ68にて検出された圧力差に基づいて排気絞り装置82を作動させることにより、スートフィルタ54の再生制御が実行される。この場合、排気ガス導入管65の蓋体67に、差圧センサ68を構成する上流側排気圧センサ68aが装着され、スートフィルタ54と共鳴室63との間に、下流側排気圧センサ68bが装着されている。
なお、スートフィルタ54の詰まり状態を検出するのは、差圧センサ68に限らず、DPF50内におけるスートフィルタ54上流側の圧力を検出する排気圧センサであってもよい。排気圧センサを採用した場合は、スートフィルタ54にスート(すす)が堆積していないとき(新品時)のスートフィルタ54上流側の圧力(基準圧力)と、排気圧センサにて検出された現在の圧力とを比較することによって、スートフィルタ54の詰まり状態を判断することになる。
上記の構成において、エンジン70からの排気ガスは、排気導入口55を介して排気ガス導入管65に入って、排気ガス導入管65に形成された各連通穴66からフィルタケース52内に噴出し、フィルタケース52内の広い領域に分散したのち、ディーゼル酸化触媒53からスートフィルタ54の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは、この段階でスートフィルタ54における各セル間の多孔質な仕切り壁を通り抜けできずに捕集される。その後、ディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過した排気ガスが排気排出口61から放出される。
排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生可能温度(例えば約300℃)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用にて、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO2(二酸化窒素)に酸化する。そして、NO2がNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復する(スートフィルタ54が再生する)ことになる。
排気絞り装置82は前述の通り、エンジン70の排気圧を高めるためのものである。すなわち、スートがスートフィルタ54に堆積したときは、排気絞り装置82の作動制御にてエンジン70の排気圧を高くすることにより、エンジン70からの排気ガス温度を高温にして、スートフィルタ54に堆積したスートが燃焼する。その結果、スートが消失してスートフィルタ54が再生することになる。
このため、負荷が小さく排気ガスの温度が低くなり易い作業(スートが堆積し易い作業)を継続して行っても、排気絞り装置82による排気圧の強制上昇にてスートフィルタ54を再生でき、DPF50の排気ガス浄化能力を適正に維持できる。また、スートフィルタ54に堆積したスートを燃やすためのバーナー等も不要になる。また、エンジン70始動時も、排気絞り装置82の作動制御にてエンジン70の排気圧を高くするで、エンジン70からの排気ガスの温度を高温にして、エンジン70の暖機を促進できる。
(2).コモンレールの燃料噴射制御
次に、図1〜図8を参照しながら、コモンレール120の燃料噴射制御について説明する。図3に示す如く、エンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。詳細は図示しないが、ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるEEPROM、フラッシュメモリ、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるRAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、エンジン70又はその近傍に配置されている。
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12と、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13と、エンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14と、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の燃料噴射回数)を検出及び設定する噴射設定器15と、スロットルレバー又はアクセルペダル等のアクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16と、吸気マニホールド73の吸気温度を検出する吸気温度センサ18と、エンジン70の冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ19と、差圧センサ68(上流側排気圧センサ68a及び下流側排気圧センサ68b)とが接続されている。これらセンサ類12〜19、68がエンジン70の駆動状態を検出する検出手段を構成している。
ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。また、ECU11の出力側には、エンジン70が搭載される作業車両のキャビン内に配置される表示パネル40も接続されている。
ECU11に設けられた記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、エンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示す出力特性データとしての出力特性マップM1(図5参照)が予め記憶されている。この種の出力特性マップM1は実験等にて求められる。なお、出力特性データとしては、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。図5に示す出力特性マップM1では、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。出力特性マップM1において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx1が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。この場合、エンジン70の型式が同じであれば、ECU11に記憶される出力特性マップM1はいずれも同一(共通)のものになる。
ECU11は基本的に、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度Nとスロットル位置センサ16にて検出されるスロットル位置とからトルクTを求め、トルクTと出力特性マップM1とを用いて目標燃料噴射量Rを演算し、当該演算結果に基づきコモンレールシステム117を作動させるという燃料噴射制御を実行するように構成されている。ここで、燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
実施形態では、出力特性マップM1を補正するデータ提供手段を備えており、ECU11は、データ提供手段による出力特性マップM1の補正結果と、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値とに基づき制限トルク値を演算し、制限トルク値に応じてコモンレールシステム117を作動させることが可能になっている。図1〜図8に示す実施形態のデータ提供手段としては作業機ECU21が採用されている。
実施形態のECU11には、データ提供手段としての作業機ECU21がCAN通信バス23を介して電気的に接続されている(図2及び図3参照)。作業機ECU21は、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)の駆動を制御する機能を有している。作業機ECU21は、ECU11と同様に、CPU、EEPROM、フラッシュメモリ、RAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、作業機の任意の箇所に配置できる。もちろん、ECU11と共に、エンジン70又は作業車両の本体側に配置することも可能である。CAN通信バス23は、CAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)プロトコルによるデータ通信のための通信ラインである。この点からも明らかなように、ECU11と作業機ECU21とには、CAN通信環境が適用されている。CAN通信プロトコルによるデータ通信はLAN通信環境を発展させたものであり、CAN通信プロトコルは、共通のリターン(サブルーチンや割込ルーチンに移ったプログラムをメインルーチンに戻す命令)を有する差動の2ワイヤバスラインを用いて、分散リアルタイム制御及び多重化を保つシリアル通信プロトコルである。
作業機ECU21の記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、後述する複数の制御モードに対応したモード特性データとしての修正特性マップM2〜M4(図6参照)が予め記憶されている。修正特性マップM2〜M4は、ECU11の出力特性マップM1と同様に、エンジン70の回転速度NとトルクTとの関係を示すものである。図6に示す修正特性マップM2でも、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。修正特性マップM2〜M4において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx2〜Tmx4が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。なお、モード特性データとしては、出力特性データと同様に、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。
修正特性マップM2〜M4(図6では実線で示す)においては、出力特性マップM1(図6では破線で示す)と比較して、所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように設定されている。すなわち、同一回転速度Nでの最大トルクは出力特性マップM1から求めた場合より修正特性マップM2〜M4から求めた方が小さくなるように(Tmx1≦Tmx2〜Tmx4)、修正特性マップM2〜M4と出力特性マップM1との関係が設定されている(出力特性マップM1側の最大トルク線Tmx1の内側(下側)に修正特性マップM2〜M4側の最大トルク線Tmx2〜Tmx4が位置するように設定されている)。
修正特性マップM2〜M4は上述の通り、上向き凸の線で囲まれた領域であり、排気ガス温度が再生可能温度(例えば約300℃)の場合におけるエンジン回転速度NとトルクTとの関係を表した境界ラインBL(基準値BLといってもよい)にて上下に分断される。境界ラインBLを挟んで上側の領域は、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去できる(酸化触媒53による酸化作用が働く)連続再生モード領域であり、下側の領域は、PMが酸化除去されずにスートフィルタ54に堆積する強制再生モード領域である。
修正特性マップM2〜M4は、エンジン70の型式が同じであっても、エンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に各別に設定できる。かかる修正特性マップM2〜M4の設定の一例としては、例えば負荷変動が大きい作業に対してエンストを抑制するため、広範囲の回転速度域にわたって高トルクを得るようにした出力特性や、負荷変動が小さい作業に対して作業能率を高めるため、負荷変動による回転変動を小さくするようにした出力特性、クラッチの接続作業に対して接続の衝撃を緩和するため、接続前に回転速度を低下させるようにした出力特性等が考えられる。
作業機ECU21には、燃料消費量を抑制しつつエンジン70を駆動させる低燃費モードと、騒音を抑制しつつエンジン70を駆動させる静音モードと、エンジン70出力が基準値以上で且つDPF50が詰まり状態の場合においてDPF50での浄化と堆積とを平衡させる(DPF50内のPMの酸化量を捕集量と同等にする)連続再生モードと、エンジン70出力が基準値未満で且つDPF50が詰まり状態の場合においてDPF50の詰まりを除去する(DPF50内のPMの酸化量を捕集量より多くする)強制再生モードとが予め設定されている。低燃費モードと静音モードとは、燃料噴射に関する制御モードであり、オペレータによって任意に選択可能に構成されている。連続再生モードと強制再生モードとは、DPF50再生に関する制御モードであり、DPF50内でのPMの酸化除去に際して、DPF50の詰まり状態やエンジン70の運転状態等によって、自動選択される。
低燃費モードは、エンジン70の各気筒において、所定の時期に高い燃焼圧力を生じさせるように構成された制御パターンをいい、低燃費モードに対応した低燃費用修正特性マップM2を用いて、エンジン70の燃料消費量を低減するものである。この場合、吸気絞り装置81の開度を全開にして各気筒への吸気量を最大とし、排気絞り82の開度を最大にして排気ガスを円滑に排出させる。そして、オペレータが要求するエンジン回転速度N並びにトルクTに応じた燃料噴射量を、最適な時期にインジェクタ115から気筒に供給することによって、各気筒において高い燃焼圧力を得るものである。このように、各気筒における最適な時期に高い燃焼圧力を確保して回転動力を得ることによって、エンジン70の燃料消費量が低減されることになる。一方、燃焼圧力の上昇に伴って燃焼音は大きくなるため、エンジン70の発する騒音は大きくなる。
静音モードは、エンジン70の各気筒において、低燃費モード時より低く且つ長時間の燃焼圧力を生じさせるように構成された制御パターンをいい、静音モードに対応した静音用修正特性マップM3を用いて、エンジン70の騒音を低減するものである。この場合、吸気絞り装置81の開度を全開にして各気筒への吸気量を最大とし、排気絞り82の開度を最大にして排気ガスを円滑に排出させる。そして、オペレータが要求するエンジン回転速度N並びにトルクTに応じた燃料噴射量を、複数回に分割して最適な時期に各インジェクタ115から気筒に供給することによって、各気筒において比較的低く且つ長時間の燃焼圧力を得るものである。このように、各気筒内に比較的に低く且つ長時間の燃焼圧力を確保して燃焼圧力の変化を穏やかにすることによって、燃焼音が抑制され、エンジン70の発する騒音が低減されることになる。一方、各気筒内に生ずる燃焼圧力は低燃費モード時より低いため、エンジン70の燃料消費量は増加する。
実施形態では、表示パネル40(図3及び図7参照)に設けられた選択手段としてのモード選択スイッチ41を操作することによって、低燃費モードと静音モードとのうちいずれかを任意に選択できる。モード操作スイッチ41の選択操作によって、作業機ECU21から読み出す修正特性マップM2又はM3が選び出される。このため、オペレータの要望に応じた運転が可能となり、作業状況等に応じて経済性並びに静粛性の向上を図れることになる。また、表示パネル4には、報知手段の一例として、低燃費モードの選択に伴って点灯する低燃費モードランプ42と、静音モードの選択に伴って点灯する静音モードランプ43とが設けられている。これらのランプ42,43の作用により、オペレータは、選択された燃料噴射関連の制御モードを即座に把握できることになる。
また、DPF50に設けられた差圧センサ68の検出結果からDPF50が詰まり状態である(堆積限界量以上のPMが堆積している)場合は、連続再生モード又は強制再生モードが自動的に選択される。連続再生モードは、DPF50におけるPMの酸化量が捕集量と同等となるように構成された制御パターンをいい、エンジン70出力が基準値BL(図6の二点鎖線参照)以上で且つDPF50内のPM堆積量が堆積限界量以上になったときに、再生モードに対応した再生用修正特性マップM4を用いて、DPF50を再生させるようにエンジン70を駆動させるものである。
この場合、吸気絞り装置81の開度を全開にして各気筒への吸気量を最大とし、排気絞り装置82の開度を最大にして排気ガスを円滑に排出させる。そして、オペレータが要求するエンジン回転速度N並びにトルクTに応じた燃料噴射量を、一回又は複数回に分割して最適な時期に各インジェクタ115から気筒にすることによって、DPF50内でのPM捕集量とPM酸化量とを平衡させる。各気筒での燃焼行程は、PM生成にさほど影響しない初期燃焼と、PM生成に大きな影響を与える後期燃焼とに分けられる。例えば燃料噴射時期を調整して初期燃焼と後期燃焼との割合を調整することによって、DPF50内でのPM捕集量とPM酸化量とを平衡させることが可能になる。このように、連続再生モードでは、DPF50内でのPM捕集量とPM酸化量とを平衡させることで、強制再生を実行せずともエンジン70を駆動させることになる。
強制再生モードは、DPF50におけるPMの酸化量が捕集量より多くなるように構成された制御パターンをいい、エンジン70出力が基準値BL(図6の二点鎖線参照)より低く且つDPF50内のPM堆積量が堆積限界量以上になったときに、再生モードに対応した再生用修正特性マップM4を用いて、DPF50を再生させるようにエンジン70を駆動させるものである。
この場合、吸気絞り装置81の開度を所定開度まで閉弁して各気筒への吸気量を制限し、排気絞り装置82の開度を所定開度まで閉弁して排気ガスの排出を抑制する。そして、オペレータが要求するエンジン回転速度N並びにトルクTに応じた燃料噴射量を、複数回に分割して最適な時期に各インジェクタ115から気筒に供給することによって、DPF50内でのPM捕集量よりPM酸化量を多くする。吸気量及び排気量を制限すると共に燃料噴射時期等を調整することによって、排気ガス温度を上昇させ、DPF50内でのPM酸化量をPM捕集量より多くすることが可能になる。このように、強制再生モードでは、DPF50内でのPM酸化量をPM捕集量より多くして、DPF50内のPMを酸化除去して、DPF50(スートフィルタ54)のPM捕集能力が回復することになる。また、表示パネル4には、報知手段の一例として、連続再生モードの実行に伴って点灯する連続再生モードランプ44と、強制再生モードの実行に伴って点灯する強制再生モードランプ45とが設けられている。これらのランプ44,45の作用により、オペレータは再生モードの実行中であることと、どちらの再生モードを実行中かとを即座に把握できることになる。
実施形態において、作業機ECU21が接続されたECU11は、選択手段としてのモード選択スイッチ41の選択操作によって、作業機ECU21から読み出す修正特性マップM2又はM3を決定し、修正特性マップM2又はM3と、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させるように構成されている(図1及び図2参照)。
図1及び図2に示すように、実施形態のエンジン装置は、ECU11に出力特性マップM1を書き込んだ状態で、エンジン製造メーカから出荷される。エンジン購入メーカは、エンジン70を作業車両に搭載するに際して、ECU11に、CAN通信バス23を介して修正特性マップM2〜M4を格納した作業機ECU21(データ提供手段)を接続することになる。
(3).燃料噴射制御の態様
以下に、図8のフローチャートを参照して、燃料噴射制御の一例を説明する。作業機ECU21が接続されたECU11は、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1と、修正特性マップM2〜M4とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させる。
この場合、図8のフローチャートに示すように、ECU11は、作業機ECU21の接続の有無を判別する(S1)。作業機ECU21が接続されていなければ(S1:NO)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(S2)、次いで、ECU11が、自身の有する出力特性マップM1を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて目標燃料噴射量Rを演算し、目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレールシステム117を作動させる(S3)。
ステップS1において、作業機ECU21が接続されていれば(S1:YES)、次いで、ECU11は、差圧センサ68からの検出結果に基づいてDPF50内のPM堆積量を推定し(S4)、PM堆積量が堆積限界量より少ない場合は(S5:YES)、モード選択スイッチ41にて低燃費モード又は静音モードのどちらを選択したかを判別する(S6)。
ステップS6において静音モードを選択している場合は、作業機ECU21から静音用修正特性マップM3を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S7)。次いで、静音モードランプ43を点灯させて静音モード実行を報知する(S8)。そして、次いで、ECU11が、静音用修正特性マップM3を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S9)。すなわち静音モードを実行する。
ステップS6において低燃費モードを選択している場合は、作業機ECU21から低燃費用修正特性マップM2を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S10)。次いで、低燃費モードランプ42を点灯させて低燃費モード実行を報知する(S11)。そして、次いで、ECU11が、低燃費用修正特性マップM3を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S12)。すなわち低燃費モードを実行する。
ステップS5に戻り、PM堆積量が堆積限界量以上であれば(S5:NO)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値から、現状のエンジン出力値(トルクT)を算出する(S13)。エンジン出力値が基準値BL以上であれば(S14:YES)、作業機ECU21から再生用修正特性マップM4を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S15)。次いで、連続再生モードランプ44を点灯させて連続再生モード実行を報知する(S16)。そして、次いで、ECU11が、再生用修正特性マップM4を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S17)。すなわち連続再生モードを実行する。
ステップS14において、エンジン出力値が基準値BLより小さいならば(S14:NO)、作業機ECU21から再生用修正特性マップM4を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S18)、次いで、強制再生モードランプ45を点灯させて強制再生モード実行を報知する(S19)。そして、次いで、ECU11が、再生用修正特性マップM4を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S20)。すなわち強制再生モードを実行するのである。
上記の記載並びに図1〜図8から明らかなように、エンジン70と、前記エンジン70からの排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置50と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段14,16,68と、前記検出手段14,16,68の検出情報及び前記エンジン70固有の出力特性データM1に基づき前記エンジン70の駆動を制御するECU11とを備えているエンジン装置であって、前記ECU11は、前記エンジン70及び前記排気ガス浄化装置50の制御に関する複数の制御モードのうちいずれかを、自動又は手動操作に基づいて選択可能に構成されており、前記ECU11には、前記各制御モードに対応したモード特性データM2〜M4を有するデータ提供手段21が接続されており、前記ECU11は、前記選択された制御モードに応じて前記データ提供手段21から読み出すモード特性データM2〜M4を決定し、前記検出手段14,16,68の検出情報と前記出力特性データM1と前記決定されたモード特性データM2〜M4とに基づいて前記エンジン70を駆動させるから、同じ型式のエンジン70において前記ECU11の前記出力特性データM1を共通にできると共に、前記各制御モードに適合した前記モード特性データM2〜M4を、前記データ提供手段21を用いて前記ECU11に簡単に後付けできる。換言すると、前記データ提供手段21によって、前記エンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機毎に、最適な燃料噴射制御を選択することが可能になる。従って、前記ECU11の汎用性向上というメリットと、前記ECU11の各制御モードに対する適合性確保というメリットとを両立できるという効果を奏する。また、複数の制御モードを実行可能だから、オペレータの要求に見合った運転が可能で使い勝手がよいという利点もある。
上記の記載並びに図1〜図8から明らかなように、前記複数の制御モードとして、燃料消費量を抑制しつつ前記エンジン70を駆動させる低燃費モードと、騒音を抑制しつつ前記エンジン70を駆動させる静音モードと、エンジン70出力が基準値BL以上で且つ前記排気ガス浄化装置50が詰まり状態の場合において前記排気ガス浄化装置50での浄化と詰まりとを平衡させる連続再生モードと、エンジン70出力が基準BL未満で且つ前記排気ガス浄化装置50が詰まり状態の場合において前記排気ガス浄化装置50の詰まりを除去する強制再生モードとが設定されているから、前記低燃費モードや前記静音モードの選択にて、オペレータの要求に見合った運転が可能になり、燃費低下や静粛性向上を図れる。また、前記連続再生モードや前記強制再生モードの選択にて、前記エンジン70出力に応じた排気ガス浄化装置50の再生が可能になり、前記排気ガス浄化装置50の浄化能力を維持しつつ、燃料の無駄遣いを抑制できる。
上記の記載並びに図1〜図8から明らかなように、前記ECU11は、前記各制御モードを実行する際に、その旨を報知する報知手段42〜45を作動させるから、例えば制御モードを自動切換したりする際に、エンジン音や出力特性が変化することをオペレータに予め知らせることができ、オペレータの注意を喚起できる。突然のエンジン音・出力特性の変化を、オペレータが異常と誤認するおそれを抑制できる。
ところで、図8に示すステップS1の判断、すなわち、作業機ECU21の接続の有無の判断は、作業車両に作業機を装着しているか否かの判断と共通するものである。作業機を装着していない作業車両は、農作業等の各種作業を実行せずに、路上走行といった通常の走行を実行する状態と想定されるから、作業特性に適合するような修正特性マップM2を敢えて使う必要はなく、元々備えている出力特性マップM1を用いて燃料噴射制御をすれば足りる。そこで、図8のステップS1〜S3に示すように、ECU11は、作業車両に作業機を装着しない場合に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1とに基づいてコモンレールシステム117を作動させるのである。従って、細かい設定操作等をしなくても、作業機の装着の有無(作業車両の使用状況)に応じた効率のよい燃料噴射制御を簡単に実行できることになる。
(4).燃料噴射制御の別例
以下に、図9のフローチャートを参照して、燃料噴射制御の別例を説明する。図9のフローチャートでは、出力特性マップM1を用いた通常モード、低燃費モード及び静音モードの実行中(S31〜S40)に、DPF50内のPM堆積量推定及び堆積限界量との比較を割り込み処理にて実行している。ステップS31〜S40の流れは、基本的に先の実施形態に準ずるものであるから、その詳細な説明を省略する。
かかる割り込み処理において、ECU11は、差圧センサ68からの検出結果に基づいてDPF50内のPM堆積量を推定し(S41)、PM堆積量が堆積限界量より少ない場合は(S42:YES)、再生モードに移行する必要がないのでリターンする。PM堆積量が堆積限界量以上であれば(S42:NO)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値から、現状のエンジン出力値(トルクT)を算出する(S43)。エンジン出力値が基準値BL以上であれば(S44:YES)、作業機ECU21から再生用修正特性マップM4を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S45)。次いで、連続再生モードランプ44を点灯させて連続再生モード実行を報知する(S46)。そして、次いで、ECU11が、再生用修正特性マップM4を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S47)。すなわち連続再生モードを実行する。
ステップS44において、エンジン出力値が基準値BLより小さいならば(S44:NO)、作業機ECU21から再生用修正特性マップM4を読み込むと共に、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定のタイミング(適宜時間毎)にて読み込む(S48)。次いで、強制再生モードランプ45を点灯させて強制再生モード実行を報知する(S49)。そして、次いで、ECU11が、再生用修正特性マップM4を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算し、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づきコモンレールシステム117を作動させる(S50)。すなわち強制再生モードを実行するのである。
上記の記載並びに図9から明らかなように、前記低燃費モード又は前記静音モードの実行中に、前記排気ガス浄化装置50が詰まり状態になった場合は、エンジン70出力が基準値BL以上であれば前記連続再生モードに、エンジン70出力が基準値BL未満であれば前記強制再生モードに移行するように構成されているから、前記低燃費モードや前記静音モードの実行中であっても、前記排気ガス浄化装置50が詰まれば、自動的に前記連続又は前記強制再生モードに移行できることになる。このため、スムーズに前記排気ガス浄化装置50を再生できるのである。
(5).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに搭載されるエンジンのエンジン装置に限らず、コンバインや田植機等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両に搭載されるエンジン装置としても適用可能である。燃料噴射装置はコモンレール式のものに限らず、電子ガバナ式のものでもよい。通信バスはCAN通信バスに限らず、LAN通信バスといった他の通信バスでもよい。データ提供手段は、ECU11と別体のものであれば、フラッシュメモリやハードディスク等の外部記憶手段であってもよい。報知手段は各モードランプに限らず、聴覚に訴える方式のもの(例えばブザー)でも、他の視覚に訴える方式のものでもよい。
また、上述した制御モード(低燃費モードや静音モード等)はあくまで一例であり、他にも作業機特性に適合させたトルク特性、例えば図10(a)に示すようなフラットトルクモードや、図10(b)に示すような低速最大トルクモード等、種々の制御モードを採用できることは言うまでもない。実施形態では示していないが、選択手段として、再生モード実行用の操作スイッチを設けることももちろん可能である。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。