1.セルロースエステルフィルム
本発明のセルロースエステルフィルムは、少なくともセルロースエステルと、特定の糖類とを含有する。
セルロースエステルについて
本発明のセルロースエステルフィルムに含まれるセルロースエステルは、セルロースを、炭素原子数2〜22の脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸でエステル化した化合物であり、好ましくはセルロースを炭素原子数7以下の脂肪族カルボン酸でエステル化した化合物である。
セルロースエステルに含まれる脂肪族アシル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、環を形成してもよい。通常、脂肪族アシル基の炭素原子数が多すぎると、レターデーションが発現しにくい。そのため、脂肪族アシル基の炭素原子数は、2〜7であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜4であることがさらに好ましい。脂肪族アシル基は、一種類だけでも、二種類以上であってもよい。
セルロースエステルの例には、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが含まれ、好ましくはセルロースアセテートである。
セルロースエステルのアシル基の総置換度は、高いレターデーションを発現させるためには、1.50〜2.50であることが好ましく、2.0〜2.45であることがさらに好ましい。このうち、アセチル基の置換度は、1.50〜2.50であることが好ましく、2.0〜2.45であることがさらに好ましい。炭素原子数3以上のアシル基の置換度は、1.0以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。
なかでも、低コストであり、かつレターデーションを発現させやすいことから、アセチル基の置換度が1.50〜2.50、好ましくは2.0〜2.45であるセルロースアセテートが好ましい。
セルロースエステルのアシル基置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
セルロースエステルの数平均分子量は、機械的強度が高いフィルムを得るためには、3.0×104〜7.0×104の範囲であることが好ましく、4.5×104〜6.0×104の範囲であることがより好ましい。
セルロースエステルの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用する。
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1.0×106〜5.0×102までの13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に選択することが好ましい。
セルロースエステルは、公知の方法で合成することができる。具体的には、セルロースと、少なくとも酢酸またはその無水物を含む炭素数3以上の有機酸またはその無水物と、を触媒の存在下でエステル化反応させてセルロースのトリエステル体を合成する。次いで、セルロースのトリエステル体を加水分解して、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルを合成する。得られたセルロースエステルをろ過、沈殿、水洗、脱水および乾燥させて、セルロースエステルを得ることができる(特開平10−45804号に記載の方法を参照)。
原料となるセルロースの例には、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)およびケナフなどが含まれる。原料となるセルロースは、一種類だけであってもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。
市販品としては、ダイセル化学工業(株)製のL20、L30、L40、L50、イーストマンケミカル社製のCA398−3、CA398−6、CA398−10、CA398−30、CA394−60S等が挙げられる。
糖類について
本発明のセルロースエステルフィルムに含まれる糖類は、構成糖に含まれるヒドロキシル基の一部が、芳香族基を含有する置換基と芳香族基を含有しない置換基とでそれぞれ置換され、かつ2以上のヒドロキシル基が置換されないで残っている化合物である。
そのような糖類は、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
一般式(1)
式(1)のGは、単糖または多糖の残基を示す。Gを構成する単糖または多糖は、ピラノース構造およびフラノース構造の少なくとも一方を好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上4個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下有する。
Gを構成する単糖の例には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロースおよびアラビノースなどが含まれ、好ましくはグルコースである。
Gを構成する二糖の例には、ラクトース、スクロース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、ゲンチオビオースなどが含まれる。Gを構成する三糖の例には、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース、ケストース、ゲンチオトリオース、キシロトリオースなどが含まれる。Gを構成する四糖以上の例には、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、ゲンチオテトラオース、ガラクトシルスクロースなどが含まれる。なかでも、ピラノース構造とフラノース構造の両方を有する糖が好ましく、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどがより好ましく、スクロースがさらに好ましい。
式(1)の−(L1−R1)は、芳香族基を含有する置換基を示す。
−(L1−R1)におけるL1は、単結合、アルキレン基、カルボニル基、アルキレンカルボニル基を示し、好ましくはカルボニル基またはアルキレンカルボニル基を示す。複数のL1は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
アルキレン基の炭素原子数は、1〜5であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。アルキレン基の例には、メチレン基、エチレン基などが含まれる。アルキレンカルボニル基におけるアルキレン部分の炭素原子数は、1〜5であることが好ましく、1または2であることが好ましい。アルキレンカルボニル基の例には、メチレンカルボニル基、エチレンカルボニル基などが含まれる。
−(L1−R1)におけるR1は、芳香族基を示す。芳香族基の環炭素原子数は、6〜24であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。芳香族基の例には、フェニル基、ナフチル基などが含まれる。芳香族基は、炭素原子数1〜5のアルキル基などの置換基をさらに有していてもよい。複数のR1は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
−(L1−R1)の具体例には、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、ベンゾイル基、フェニルアセチル基などが含まれる。
式(1)の−(L2−R2)は、芳香族基を含有しない置換基を示す。
−(L2−R2)におけるL2は、単結合またはカルボニル基を示し、好ましくはカルボニル基を示す。複数のL2は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
−(L2−R2)におけるR2は、脂肪族からなる基(脂肪族基)を示す。脂肪族基は、飽和または不飽和の脂肪族基であり、好ましくは飽和の脂肪族基である。飽和の脂肪族基は、アルキル基またはシクロアルキル基である。複数のR2は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
アルキル基の炭素原子数は、1〜22であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基などが含まれる。
シクロアルキル基の環炭素原子数は、3〜22であることが好ましく、5〜12であることがより好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基などが含まれる。アルキル基やシクロアルキル基は、ヒドロキシル基などの置換基をさらに有してもよい。
−(L2−R2)の具体例には、t−ブチル基、アセチル基、プロピオニル基などが含まれる。
pは、(未置換の)ヒドロキシル基の数を示す。pは、2以上の整数を示し、好ましくは3以上の整数を示す。pが2以上である糖類は、セルロースエステルとの相溶性が高いからである。
qは、前述の芳香族基を含有する置換基(−(L1−R1))の数を示し;rは、前述の芳香族基を含有しない置換基(−(L2−R2))の数を示す。qとrは、それぞれ独立して1以上の整数を示す。p+q+rは、前述のGが、無置換の糖類であるときに含まれるヒドロキシル基の総数を示す。例えば、Gがスクロースから誘導される基である場合、p+q+rは8であり、Gがグルコースから誘導される基である場合、p+q+rは5である。
セルロースエステルフィルムのリターデーション発現性とブリードアウト耐性を高めるためには、芳香族基を含む置換基の数(q)が、芳香族基を含まない置換基(r)よりも多いことが好ましい。
式(1)で示される化合物は、公知の方法で得ることができる。例えば、式(1)におけるL1が、カルボニル基またはアルキレンカルボニル基であり、かつL2がカルボニル基である化合物は、糖とモノカルボン酸とをエステル化反応させて得ることができる。
糖と反応させるモノカルボン酸は、特に制限されず、公知の脂肪族モノカルボン酸または脂環族モノカルボン酸と、芳香族モノカルボン酸との混合物でありうる。
脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;
ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸が含まれる。
脂環族モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
芳香族モノカルボン酸は、一以上のベンゼン環を有するモノカルボン酸であって、ベンゼン環はアルキル基またはアルコキシ基などの置換基をさらに有していてもよい。芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸などが挙げられ、特に安息香酸が好ましい。
式(1)で示される化合物の合成過程において、構成糖に含まれるヒドロキシル基の2以上を未置換のまま残すためには、例えばエステル化反応に用いるモノカルボン酸の添加量を調整すればよい。
式(1)で示される化合物の具体例には、以下のものが含まれる。
前述の通り、セルロースジアセテートなどの低アシル基置換度のセルロースエステルは、遊離酢酸を含むため、セルローストリアセテートなどの高アシル基置換度のセルロースエステルと比べて経時的に物性がバラツキやすい。このような、物性のバラツキが大きい低アシル基置換度のセルロースエステルは可塑剤と相溶しにくいため、得られるフィルムは内部ヘイズが高く、フィルム表面に可塑剤が析出(ブリードアウト)しやすい。
これに対して、本発明に用いられる糖類は、未置換のヒドロキシル基を2以上含むため、物性のバラツキが大きい低アシル基置換度のセルロースエステルとも相溶しやすい。
また、本発明に用いられる糖類は、ヒドロキシル基の一部が「芳香族基を含有する置換基」で置換されているため、リターデーションの発現性が高い。また、一方の糖類に含まれる「芳香族基を含有する置換基」と、他方の糖類に含まれる「芳香族基を含有する置換基」とが相互作用しやすいため、糖類がブリードアウトしにくい。
さらに、本発明に用いられる糖類は、ヒドロキシル基の一部が「芳香族を含有しない置換基」でも置換されているため、「芳香族基を含有する置換基」を含んでいるにも係わらず、セルロースエステルとの相溶性を高めることができる。
糖類の含有量は、セルロースエステルに対して0.5〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。糖類の含有量が0.5質量%未満であると、セルロースエステルの加水分解を十分に抑制できないことがあり、30質量%超であるとブリードアウトすることがある。
可塑剤
可塑剤の例には、ポリエステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤を含む)、グリコレート系可塑剤、エステル系可塑剤(脂肪酸エステル系可塑剤を含む)、およびアクリル系可塑剤などが含まれる。これらは単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステル系可塑剤
ポリエステル系可塑剤は、下記一般式(2)で表されるポリエステル化合物であることが好ましい。
一般式(2)
式(2)中、Aは、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基を表す。Gは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基、または炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。Bは、水素原子またはカルボン酸から誘導される1価の基を表す。nは、1以上の整数を表す。
Aの、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれ、特にコハク酸、アジピン酸が好ましい。Aにおける炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれ、特にフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
Gの、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、および1,12-オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。特に、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコールが好ましい。
Gの、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
Gは、炭素数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基であることが好ましい。ポリエステル化合物の、セルロースエステルとの相溶性を高めるためである。
Bの、カルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、およびアセトキシ安息香酸などの芳香族カルボン酸から誘導される1価の基や;酢酸、プロピオン酸、および酪酸などの脂肪族カルボン酸などから誘導される1価の基が含まれる。特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸または安息香酸から誘導される1価の基が好ましい。
ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は300〜1800であることが好ましく、300〜600であることがより好ましい。数平均分子量が300未満であるポリエステル系可塑剤は、揮発しやすいだけでなく、鹸化処理時にフィルムから鹸化液に流出しやすい。数平均分子量が1800超であるポリエステル系可塑剤は、低アシル基置換度のセルロースエステルとの相溶性が低く、得られるフィルムの内部ヘイズが高くなりやすい。
ポリエステル系可塑剤の含有量は、セルロースエステルに対して0.5〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。0.5質量%未満であると、可塑剤としての機能が十分には得られないことがあり、20質量%超であると、ブリードアウトしたり、鹸化液に流出したりすることがある。
多価アルコールエステル系可塑剤
多価アルコールエステル系可塑剤は、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル化合物(アルコールエステル)であり、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステル系化合物は、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
2価のアルコールエステル系可塑剤の例には、以下のものが含まれる。
3価以上のアルコールエステル系可塑剤の例には、以下のものが含まれる。
多価アルコールエステル系可塑剤の分子量は、特に制限されないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。揮発し難くするためには、分子量が大きいほうが好ましく;透湿性、セルロースエステルとの相溶性を高めるためには、分子量が小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸または3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、特に制限はないが、300〜1000であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースエステルとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤であってもよい。フタル酸エステル系可塑剤の例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
グリコレート系可塑剤の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれる。
エステル系可塑剤には、脂肪酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤やリン酸エステル系可塑剤などが含まれる。
脂肪酸エステル系可塑剤の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、およびセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル系可塑剤の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、およびクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル系可塑剤の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、およびトリブチルホスフェート等が含まれる。
これらの可塑剤の含有量の合計は、セルロースエステルに対して0.5〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
紫外線吸収剤
本発明のセルロースエステルフィルムは、フィルムの耐久性を向上させるために、紫外線吸収剤をさらに含んでもよい。紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物であり、好ましくは波長370nmでの透過率が10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である化合物である。
紫外線吸収剤の光線透過率は、紫外線吸収剤を溶媒(例えばジクロロメタン、トルエンなど)に溶解した溶液を、常法により、分光光度計により測定することができる。分光光度計は、例えば、島津製作所社製の分光光度計UVIDFC−610、日立製作所社製の330型自記分光光度計、U−3210型自記分光光度計、U−3410型自記分光光度計、U−4000型自記分光光度計等を用いることができる。
紫外線吸収剤は、特に限定されないが、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物および無機粉体などであってよい。透明性が高く、活性線硬化樹脂層の劣化を抑制するためには、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、さらに不要な着色を少なくするためには、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤がより好ましい。
紫外線吸収剤の具体例には、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖および側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などのチヌビン類などが含まれる。
紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤の種類にもよるが、セルロースエステルフィルム全体に対して0.5〜10質量%であることが好ましく、0.6〜4質量%であることがより好ましい。
酸化防止剤
本発明のセルロースエステルフィルムは、例えば高湿高温下で生じやすいセルロースエステルフィルムの劣化を防止するために、酸化防止剤をさらに含んでもよい。酸化防止剤は、セルロースエステルフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等による分解を遅延または防止する機能を有する。
酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系化合物であることが好ましく、その具体例には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が含まれる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。
酸化防止剤の含有量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%であることが好ましく、10〜1000ppmであることがより好ましい。
微粒子
本発明のセルロースエステルフィルムは、滑り性を向上させるために、微粒子をさらに含んでもよい。微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウムなどが含まれる。有機微粒子の例には、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。フィルムのヘイズの増大を少なくするためには、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次平均粒子径は、20nm以下であることが好ましく、5〜16nmであることがより好ましく、5〜12nmであることがさらに好ましい。
微粒子の1次平均粒子径は、透過型電子顕微鏡にて倍率50万〜200万倍で粒子を観察し、粒子100個の粒子径の平均値として求めることができる。
微粒子の含有量は、セルロースエステルに対して0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜1.0質量%であることがより好ましい。微粒子の含有量が5.0質量%超であると、凝集物を少なくすることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムの厚みは、特に限定はされないが、10〜200μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、20〜60μmであることがさらに好ましい。フィルムの厚みが小さすぎると、所望のレターデーションが得られにくい。一方、フィルムの厚みが大きすぎると、湿度などの影響によってレターデーションが変動しやすい。
本発明のセルロースエステルフィルムが偏光板保護フィルムとして用いられる場合には、セルロースエステルフィルムの、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmにて測定されるレターデーションRoは0nm以上であることが好ましく、0〜30nmであることがより好ましい。Rthは70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムが位相差フィルム(例えばVA方式の液晶セルに用いられる位相差フィルム)として用いられる場合には、セルロースエステルフィルムの、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmにて測定されるレターデーションRoは、30〜150nmであることが好ましく、35〜65nmであることがより好ましい。23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにて測定されるレターデーションRthは、70〜300nmであることが好ましく、90〜180nmであることがより好ましい。セルロースエステルフィルムのレターデーションR0およびRthは、通常、延伸条件により調整することができる。
レターデーションR0およびRthは、それぞれ以下の式で表される。
式(I) R0=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(nx:フィルム面内の遅相軸方向の屈折率、ny:フィルム面内において、遅相軸に対して直交する方向の屈折率、nz:厚み方向におけるフィルムの屈折率、d:フィルムの厚み(nm))
レターデーションR0およびRthは、例えば以下の方法によって求めることができる。
1)フィルムの平均屈折率を屈折計により測定する。
2)王子計測機器社製KOBRA−21ADHにより、フィルム法線方向からの波長590nmの光を入射させたときの面内方向のレターデーションR0を測定する。
3)王子計測機器社製KOBRA−21ADHにより、フィルム法線方向に対してθの角度(入射角(θ))から波長590nmの光を入射させたときのレターデーション値R(θ)を測定する。θは0°よりも大きく、好ましくは30°〜50°である。
4)測定されたR0およびR(θ)と、前述の平均屈折率と膜厚とから、王子計測機器社製KOBRA−21ADHにより、nx、nyおよびnzを算出し、Rthを算出する。レターデーションの測定は、23℃55%RH条件下で行うことができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、フィルム面内に遅相軸または進相軸を有する。遅相軸の製膜方向とのなす角θ1(配向角)は、−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。配向角θ1が上記範囲を満たしていると、光漏れを抑制できるため、表示画像の輝度を高めることができる。セルロースエステルフィルムの配向角θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて測定することができる。
セルロースエステルフィルムの、JIS Z 0208に準拠して測定される40℃、90%RHにおける透湿度は、300〜1800g/m2・24hであることが好ましく、400〜1500g/m2・24hであることがより好ましい。セルロースエステルフィルムの透湿度を低下させるためには、例えばセルロースエステルフィルムに含まれるセルロースエステルの総アシル基置換度を高くしたり、炭素数3以上のアシル基置換度の割合を多くしたり、可塑剤などの添加剤を多く含有させたりすればよい。
本発明のセルロースエステルフィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムの、JIS K−7136に準拠して測定される内部ヘイズは、0.11%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムの内部ヘイズは、JIS K−7136に準拠した方法;具体的には、以下の方法で測定することができる。
ヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色(株)製)を準備する。光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とする。
1)ブランクヘイズの測定
洗浄したスライドガラスの上に、グリセリンを一滴(0.05ml)滴下する。このとき、液滴に気泡が入らないように注意する。
次いで、滴下したグリセリンの上に、カバーガラスを載せる。カバーガラスは押さえなくてもグリセリンは広がる。
これにより得られるブランク測定用のサンプル(カバーガラス/グリセリン/スライドガラス)を、ヘイズメーターにセットして、ヘイズ1(ブランクヘイズ)を測定する。
2)セルロースエステルフィルムを含むサンプルのヘイズの測定
前記1)と同様にして、洗浄したスライドガラスの上にグリセリンを滴下する。
一方で、測定するセルロースエステルフィルムを、23℃55%RH下で5時間以上調湿する。次いで、滴下したグリセリンの上に、調湿したセルロースエステルフィルムを、気泡が入らないように載せる。
さらに、セルロースエステルフィルム上に0.05mlのグリセリンを滴下した後、カバーガラスをさらに載せる。
これにより得られる測定用のサンプル(カバーガラス/グリセリン/試料フィルム/グリセリン/スライドガラス)を、前述のヘイズメーターにセットして、ヘイズ2を測定する。
3)前記1)で得られたヘイズ1と、前記2)で得られたヘイズ2を、下記式に当てはめて、セルロースエステルフィルムのヘイズを算出する。
セルロースエステルフィルムの内部ヘイズ(%)=ヘイズ2(%)−ヘイズ1(%)
内部ヘイズの測定は、いずれも23℃55%RHの条件下にて行う。また、内部ヘイズの測定に用いるガラスは、MICRO SLIDE GLASS S9213 MATSUNAMIとする。グリセリンは、関東化学製 鹿特級(純度>99.0%)、屈折率1.47とする。
本発明のセルロースエステルフィルムの破断伸度は、10〜80%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムに含まれる特定の糖類は、物性がバラツキやすい低アシル基置換度のセルロースエステルとも良好に相溶する。そのため、本発明のセルロースエステルフィルムは、内部ヘイズが低く、かつ糖類などの可塑剤のブリードアウトが抑制される。
2.セルロースエステルフィルムの製造方法
セルロースエステルフィルムは、溶液流延法または溶融流延法で製造することができ、薄膜で平面性の高いフィルムが得られるなどの観点から、溶液流延法で製造されることが好ましい。
セルロースエステルフィルムを溶液流延法により製造する工程は、1)少なくとも前述のセルロースエステルと、必要に応じて添加剤とを溶剤に溶解させてドープを調製する工程、2)ドープを無端の金属支持体上に流延する工程、3)流延したドープを乾燥してウェブとする工程、4)ウェブを金属支持体から剥離する工程、5)ウェブを延伸してフィルムを得る工程、6)フィルムをさらに乾燥する工程、7)得られたフィルムを巻取る工程、を含む。
1)ドープを調製する工程について
前述のセルロースエステルと、必要に応じて添加剤とを溶剤に溶解させてドープを調製する。ドープに含まれるセルロースエステルの濃度は、乾燥負荷を低減するためには高いことが好ましいが、セルロースエステルの濃度が高すぎると濾過しにくく、濾過精度が低下しやすくなる。このため、ドープに含まれるセルロースエステルの濃度は10〜35質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。
ドープに含まれる溶剤は、1種類でも2種以上を組み合わせたものでもよい。生産効率を高める観点では、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を組み合わせて用いることが好ましい。良溶剤とは、セルロースエステルを単独で溶解する溶剤をいい、貧溶剤とは、セルロースエステルを膨潤させるか、または単独では溶解しないものをいう。そのため、良溶剤および貧溶剤は、セルロースエステルの平均アシル基置換度(アセチル基置換度)によって異なる。
良溶剤と貧溶剤を組み合わせて用いる場合、セルロースエステルの溶解性を高めるためには、良溶剤が貧溶剤よりも多いことが好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%であることが好ましい。
良溶剤の例には、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、およびアセト酢酸メチルなどが含まれ、好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルなどである。貧溶剤の例には、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、およびシクロヘキサノン等が含まれる。ドープ中には、水分が0.01〜2質量%含まれていることが好ましい。
セルロースエステルを溶剤に溶解させる方法は、一般的な方法であってよく、例えば加熱および加圧下で溶解させる方法、セルロースエステルに貧溶剤を加えて膨潤させた後、良溶剤をさらに加えて溶解させる方法などでありうる。なかでも、常圧における沸点以上に加熱できることから、加熱および加圧下で溶解させる方法が好ましい。具体的には、常圧下で溶剤の沸点以上であり、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を抑制できる。
加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱して溶剤の蒸気圧を上昇させる方法などによって行うことができる。加熱は、外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易であるため好ましい。
加熱温度は、セルロースエステルの溶解性を高める観点では、高いほうが好ましいが、高過ぎると、圧力を高める必要があり、生産性が低下する。このため、加熱温度は、45〜120℃であることが好ましく、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃であることがさらに好ましい。圧力は、設定された加熱温度において、溶剤が沸騰しないような範囲に調整される。
紫外線防止剤や微粒子などの添加剤は、ドープにバッチ添加してもよいし、別途調製した添加剤溶解液をインライン添加してもよい。添加剤溶液は、添加剤を、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の溶媒あるいはこれらの混合溶媒に溶解させたものである。
特に微粒子は、ろ過材への負荷を減らすために、一部または全部をインライン添加することが好ましい。添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、添加剤溶解液に少量のセルロースエステルを溶解させておくことが好ましい。添加剤溶解液に添加されるセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して好ましくは1〜10質量部であり、より好ましくは3〜5質量部である。
インライン添加は、例えばスタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等を用いて行うことができる。
得られるドープには、例えば原料であるセルロースエステルに含まれる不純物などの不溶物が含まれることがある。このような不溶物は、得られるフィルムにおいて輝点異物となりうる。このような不溶物等を除去するために、得られたドープを濾過することが好ましい。
ドープの濾過は、濾紙等の濾過材によって行われる。濾過材の絶対濾過精度は、ドープに含まれる不溶物等を高度に除去するためには小さいことが好ましいが、小さすぎると目詰まりが生じやすい。このため、濾過材の絶対濾過精度は、0.008mm以下であることが好ましく、0.001〜0.008mmであることがより好ましく、0.003〜0.006mmであることがさらに好ましい。
濾過材の種類は、通常の濾過材であってよく、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、ステンレススチール等の金属製の濾過材などでありうる。なかでも、繊維の脱落等が少ない観点から、金属製の濾過材が好ましい。
ドープの濾過は、濾過前後の差圧を少なくするために、ドープの調製と同様に、加熱および加圧下で行うことが好ましい。加熱温度も、ドープの調製と同様に、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度とすることが好ましく、具体的には45〜120℃であることが好ましく、45〜70℃であることがより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。濾圧は、低いことが好ましく、具体的には1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
ドープの濾過は、得られるフィルムにおける輝点異物の数が一定以下となるように行うことが好ましい。具体的には、径が0.01mm以上である輝点異物の数が、200個/cm2以下、好ましくは100個/cm2以下、より好ましくは50個/m2以下、さらに好ましくは0〜10個/cm2以下となるようにする。径が0.01mm以下である輝点異物も少ないことが好ましい。
フィルムの輝点異物の数は、以下の手順で測定することができる。
i)2枚の偏光板をクロスニコル状態に配置し、それらの間に得られたフィルムを配置する。
ii)一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察したときに、光が漏れてみえる点(異物)の数をカウントする。
2)ドープを流延する工程について
ドープが流延される金属支持体は、表面が鏡面仕上げされたものが好ましい。金属支持体の好ましい例は、ステンレススチールベルトや、鋳物で表面がメッキ仕上げされたドラムなどである。
ドープが流延される金属支持体の表面温度は、ウェブの乾燥速度を高めるためには高いことが好ましいが、高すぎるとウェブが発泡したり、ウェブの平滑性が低下したりすることがある。そのため、金属支持体の表面温度は、−50℃以上溶剤の沸点未満に設定されることが好ましい。ウェブの温度は、0〜55℃であることが好ましく、25〜50℃であることがより好ましい。
金属支持体の表面温度の制御方法は、特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法などであってよい。熱を効率的に伝達でき、金属支持体の温度が一定になるまでの時間を短くできる観点などから、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法が好ましい。
3)流延したドープを乾燥する工程について
流延したドープを、残留溶媒が一定以下となるように乾燥させる。金属支持体からウェブを剥離するときのウェブの残留溶媒量は、得られるフィルムの平面性を高めるためには10〜150質量%であることが好ましく、20〜40質量%(低残存溶媒量)または60〜130質量%(高残存溶媒量)であることがより好ましく、20〜30質量%(低残存溶媒量)または70〜120質量%(高残存溶媒量)であることがさらに好ましい。
ウェブの残留溶媒量は、下記式で定義される。下記式において、Mは、製造中のウェブまたは製造後のフィルムから任意の時点で採取した試料の質量を示す。Nは、前記試料を115℃で1時間加熱した後の、試料の質量を示す。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
4)ウェブを剥離する工程について
ウェブの剥離は、一般的な方法で行われるが、剥離ロールにより剥離することが好ましい。剥離ロールによる剥離は、ウェブが、金属支持体の下面に至り、ほぼ一巡したところで行うことが好ましい。ウェブの剥離張力は、300N/m以下とすることが好ましい。
ウェブの剥離は、前記3)の工程でウェブを乾燥した後、剥離する方法だけでなく、前記2)の工程の後に、乾燥させることなくキャスト膜を冷却して、残留溶媒を多く含む状態のままゲル化させた後に、剥離してもよい。
剥離されたウェブをさらに乾燥してもよい。剥離されたウェブの乾燥は、一般的に、ウェブを搬送させながら行うことができる。具体的には、剥離されたウェブを、上下に配置した多数のロールにより搬送しながら乾燥させるロール乾燥方式や、テンター方式などがある。
ウェブの乾燥方法は、特に制限されないが、一般的に、熱風、赤外線、加熱ロールおよびマイクロ波等で乾燥する方法であってよく、簡便である点から、熱風で乾燥する方法が好ましい。ウェブの乾燥温度は、40℃から200℃にかけて、段階的に高くすることが好ましい。
5)ウェブを延伸する工程について
ウェブの延伸により、所望のレターデーション値RoおよびRthを有するセルロースエステルフィルムを得る。セルロースエステルフィルムのレターデーション値RoおよびRthは、ウェブに掛かる張力の大きさを、少なくともウェブの搬送方向(ドープの流延方向)に対して垂直方向(幅方向)に調整することによって制御することができる。
ウェブの延伸は、少なくとも幅方向に延伸すればよく、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。また、ウェブの延伸は、幅方向またはドープの流延方向に対して斜め方向の延伸であってもよい。二軸延伸には、ウェブの搬送方向(縦方向)と幅方向(横方向)の両方に延伸することが含まれる。延伸は、逐次延伸であっても同時延伸であってもよい。
ウェブの延伸倍率は、互いに直交する方向に二軸延伸する場合には、最終的には幅方向(横方向)に1.1〜2.5倍とし、搬送方向(縦方向)に0.8〜1.5倍とすることが好ましく;幅方向(横方向)に1.2〜2.0倍とし、搬送方向(縦方向)に0.9〜1.0倍とすることがより好ましい。
ウェブの延伸温度は、120℃〜200℃であることが好ましく、140℃〜180℃であることがより好ましい。延伸されるウェブの残留溶媒は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。
ウェブの延伸方法は、特に制限されず、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法(ロール延伸法)、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を縦方向に向かって広げて縦方向に延伸したり、横方向に広げて横方向に延伸したり、縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法など(テンター延伸法)などが挙げられる。これらの延伸方法は、組み合わされてもよい。
テンター延伸法は、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動することが好ましい。クリップ部分の移動が滑らかであるため、延伸を行い易く、ウェブの破断を生じる危険性を低減できるからである。
ウェブの幅保持や横方向の延伸は、テンター法により行うことが好ましい。テンター法は、ピンテンター法でもクリップテンター法でもよい。
延伸により得られたセルロースエステルフィルムの幅は、搬送を容易にする観点などから、4m以下であることが好ましく、1〜4mであることがより好ましく、1.4〜4mであることがさらに好ましく、1.6〜3mであることが特に好ましい。延伸により得られたセルロースエステルフィルムは、必要に応じてさらに乾燥された後、巻き取られる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置の機能フィルムとして用いられる。特に本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、視野角拡大用の光学補償フィルム等でありうる。
3.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、その一方の面に配置された本発明のセルロースエステルフィルムとを含み、必要に応じて偏光子の他方の面に配置された偏光板保護フィルムをさらに含んでもよい。
偏光子は、一定方向の偏波面の光のみを通過させる素子である。偏光子の代表的な例は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムであり、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものと、がある。
偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色して得られるフィルムであってもよいし、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の厚さは、5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。
ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール水溶液を製膜したものであってもよい。ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光性能および耐久性能に優れ、色斑が少ないなどことから、エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましい。エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムの例には、特開2003−248123号、特開2003−342322号等に記載されたエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のフィルムが含まれる。
二色性色素の例には、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素およびアントラキノン系色素などが含まれる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、偏光子の一方の面に直接配置されてもよいし、他のフィルムまたは層を介して配置されてもよい。
本発明のセルロースエステルフィルム以外の偏光板保護フィルムは、特に制限されず、通常のセルロースエステルフィルム等であってよい。セルロースエステルフィルムの市販品の例には、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)が好ましく用いられる。
偏光板は、通常、偏光子と、本発明のセルロースエステルフィルムまたは偏光板保護フィルムとを貼り合わせて製造することができる。貼り合わせに用いられる接着剤は、例えば完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液などが好ましく用いられる。
4.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、それを挟持する一対の偏光板とを有する。そして、一対の偏光板のうち少なくとも一方が前述のセルロースエステルフィルムを有する偏光板であり、好ましくは一対の偏光板の両方が前述のセルロースエステルフィルムを有する偏光板である。
図1は、本発明に係る液晶表示装置の一実施形態の基本構成を示す模式図である。図1に示されるように、液晶表示装置10は、液晶セル20と、それを挟持する第一の偏光板40および第二の偏光板60と、バックライト80と、を有する。
液晶セル20の表示方式は、特に制限されず、TN(Twisted Nematic)方式、STN(Super Twisted Nematic)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、VA(Vertical Alignment)方式(MVA;Multi−domain Vertical AlignmentやPVA;Patterned Vertical Alignmentも含む)、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式等がある。コントラストを高めるためには、VA(MVA、PVA)方式が好ましい。
VA方式の液晶セルは、通常、対向する一対の透明基板と、一対の透明基板の間に挟持され、液晶分子を含む液晶層と、を有する。
一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板には、ポジ型液晶に電圧を印加するための画素電極と、それに対応する対向電極とが配置される。
液晶層は、液晶分子、好ましくは正の誘電異方性を有するネマチック液晶材料であるポジ型液晶分子を含む。このポジ型液晶分子は、透明基板の液晶層側の面に設けられた配向膜の配向規制力により、電圧無印加時(画素電極と対向電極との間に電界が生じていない時)には、液晶分子の長軸が、透明基板の表面に対して略垂直となるように配向している。
このように構成された液晶セルでは、画素電極に画像信号(電圧)を印加することで、画素電極と対向電極との間に、基板面に対して水平方向の電界を生じさせる。これにより、透明基板の表面に対して垂直に初期配向している液晶分子を、その長軸が基板面に対して水平方向となるように配向させる。このように、液晶層を駆動し、各副画素の透過率および反射率を変化させて画像表示を行う。
第一の偏光板40は、視認側に配置されており、第一の偏光子42と、それを挟持する偏光板保護フィルム44(F1)および46(F2)とを有する。第二の偏光板60は、バックライト80側に配置されており、第二の偏光子62と、それを挟持する偏光板保護フィルム64(F3)および偏光板保護フィルム66(F4)とを有する。偏光板保護フィルム46(F2)と64(F3)の一方は、必要に応じて省略される場合がある。
本発明のセルロースエステルフィルムが偏光板保護フィルムである場合、偏光板保護フィルム44(F1)、46(F2)、64(F3)および66(F4)のうちいずれか一以上を本発明のセルロースエステルフィルムとしうる。本発明のセルロースエステルフィルムが位相差フィルムである場合、偏光板保護フィルム44(F1)、46(F2)、64(F3)および66(F4)のうち、液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム46(F2)と64(F3)の少なくとも一方を、本発明のセルロースエステルフィルムとしうる。
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
1.材料の準備
1)セルロースエステル
セルロース100質量部に、硫酸16質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部をそれぞれ添加した。得られた溶液を攪拌しながら、室温から60℃まで60分間かけて昇温した後、60℃で15分間保持しながら酢化反応させた。次いで、得られた溶液に、酢酸マグネシウムを含む酢酸と水の混合溶液を添加して硫酸を中和させた後、反応系内に水蒸気を導入して60℃で120分間保持して鹸化熟成処理を行った。得られたセルロースアセテートを、酢酸臭がなくなるまで多量の水で洗浄した後、更に乾燥させて、アセチル基置換度2.43のセルロースアセテート1を得た。
酸の添加量を調整して、表1で示されるアセチル基置換度およびプロピオニル基置換度とした以外は前述と同様にしてセルロースアセテート2〜5を得た。
2)糖類
撹拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.8モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込んだ。これらの材料を、窒素ガスをバブリングさせながら撹拌して昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させて、無水安息香酸、無水酢酸、生成した安息香酸および酢酸の大部分を留去した。得られた溶液に、トルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。その後、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去して、スクロースの水酸基の一部が、ベンゾイル基とアセチル基とで置換された糖類A−1を得た。
構成糖の種類、酸(置換基)の種類またはそれらの置換度を変更した以外は、前述と同様にして、糖類A−2〜A−31、糖類B−1〜B−31および糖類D−1〜D−39を得た。
2.セルロースエステルフィルムの作製
(実施例1−1)
以下の成分を、ディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散させて、微粒子分散液を得た。
〔微粒子分散液〕
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
溶解タンクにメチレンクロライドを入れて十分攪拌させながら、前記微粒子分散液をゆっくりと添加した後、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるように、アトライターにて分散させた。得られた溶液を、日本精線(株)製のファインメットNFでろ過して、微粒子添加液を調製した。
〔微粒子添加液〕
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液 5質量部
ドープ液の調製
下記組成のドープ液を調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを投入した。これらの溶剤に、セルロースエステル1(アセチル基置換度2.43のセルロースジアセテート)をさらに攪拌しながら投入した。得られた溶液を、加熱下で攪拌しながら溶解させて、糖類A−1と、微粒子添加液とをさらに添加し、攪拌して完全に溶解させた。得られた溶液を、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を用いてろ過し、ドープ液を得た。
〔ドープ液の組成〕
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル1(アセチル基置換度2.43、セルロースジアセテート) 100質量部
糖類A−1 10質量部
微粒子添加液 1質量部
次いで、34℃に調整した上記ドープ液を、無端ベルト流延装置のステンレスベルト支持体上に、幅1500mmとなるように均一に流延させた。ステンレスベルト支持体の温度は30℃とした。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)された塗膜中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させた後、剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から塗膜を剥離した。剥離して得られるウェブを、180℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に35%延伸した。延伸開始時のウェブの残留溶媒量は15%であった。次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。延伸して得られるフィルムを、搬送張力100N/mで搬送させながら、乾燥温度130℃で乾燥させた。これにより、膜厚40μmのセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例1−2〜1−22)
表2に示されるように、糖類の種類を変更した以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例1−23〜1−30)
表3に示されるように、セルロースエステルの種類と糖類の種類を変更し、かつ延伸温度160℃、延伸倍率を30%とした以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例2−1〜2−22)
表4に示されるように、糖類の種類を変更した以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例2−23〜2−30)
表5に示されるように、セルロースエステルの種類と糖類の種類を変更し、かつ延伸温度160℃、延伸倍率を30%とした以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例3−1〜3−29)
表6または7に示されるように、糖類の種類またはセルロースエステルの種類を変更した以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例3−30)
表7に示されるように、セルロースエステルの種類と糖類の種類を変更し、かつ延伸温度170℃、延伸倍率を40%とした以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(実施例3−31〜3−38)
表7に示されるように、セルロースエステルの種類と糖類の種類を変更し、かつ延伸温度160℃、延伸倍率を30%とした以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(比較例1−1)
表8に示されるように、糖類の種類を変更した以外は実施例1−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(比較例2−1)
表8に示されるように、糖類の種類を変更した以外は実施例2−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(比較例3−1〜3−11)
表8に示されるように、糖類の種類を変更した以外は実施例3−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(比較例3−12)
表8に示されるように、セルロースエステルの種類および糖類の種類を変更し、かつ延伸温度を160℃、延伸倍率を30%とした以外は実施例3−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
(比較例3−13)
表8に示されるように、セルロースエステルの種類および糖類の種類を変更し、かつ延伸温度を170℃、延伸倍率を40%とした以外は実施例3−1と同様にしてセルロースエステルフィルムを得た。
得られたセルロースエステルフィルムの内部ヘイズ、ブリードアウト耐性およびレターデーションRoおよびRthを、以下の方法で評価した。
内部ヘイズの測定
得られたセルロースエステルフィルムの内部ヘイズを、JIS K7136に準拠した前述の方法により測定した。ヘイズメーターは、日本電色工業(株)製NDH 2000を用いた。内部ヘイズの評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:0.03%以下
○:0.03%超0.07%以下
△:0.07%超0.11%以下
×:0.11%超
ブリードアウト耐性の測定
得られたセルロースエステルフィルムを、60℃、90%RH下で300時間保存させた後、フィルム表面における添加剤の析出(ブリードアウト)の有無を、目視観察した。ブリードアウト耐性の評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:フィルム表面にブリードアウトが認められない
○:フィルム表面の一部に、ブリードアウトがかすかに認められる
△:フィルム表面の全体に、ブリードアウトがかすかに認められる
×:フィルム表面の全体に、ブリードアウトがはっきりと認められる
レターデーションRoおよびRthの測定
1)得られたフィルムを、23℃、55%RHの環境下で24時間放置して調湿した。得られたフィルムの平均屈折率を、アッベ屈折率計(4T)を用いて測定した。また、フィルムの厚さを、市販のマイクロメーターを用いて測定した。
2)自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、フィルム法線方向からの波長590nmの光を入射させて、下記式(I)で表される面内方向のレターデーションRoを測定した。また、フィルム法線方向に対してθの角度(入射角(θ))から波長590nmの光を入射させたときのリターデーション値R(θ)を測定した。θは30°〜50°とした。
3)測定されたRoおよびR(θ)と、前述の平均屈折率と膜厚とから、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)によりnx、nyおよびnzを算出し、下記式(II)で表されるRthを算出した。リターデーションの測定は、23℃、55%RH条件下で行った。
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(nxは、フィルム面内方向で屈折率が最大となる方向xにおける屈折率を示し;
nyは、フィルム面内方向で前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を示し;
nzは、フィルム厚み方向zにおける屈折率を示し;
d(nm)は、フィルム厚みを示す)
実施例1−1〜1−22の評価結果を表2に;実施例1−23〜1−30の評価結果を表3に;実施例2−1〜2−22の評価結果を表4に;実施例2−23〜2−30の評価結果を表5に;実施例3−1〜3−27の評価結果を表6に;実施例3−28〜3−38の評価結果を表7に;比較例1−1、2−1および3−1〜3−13の評価結果を表8にそれぞれ示す。
ヒドロキシル基を2以上有する糖類を含む実施例1−1〜1−15、2−1〜2−15および3−1〜3−3のフィルムは、ヒドロキシル基を有しない糖類を含む比較例1−1、2−1および3−1のフィルムまたはヒドロキシル基を1つだけ有する糖類を含む比較例3−2のフィルムよりも内部ヘイズが低く、かつブリードアウト耐性も高いことがわかる。
また、ヒドロキシル基を2以上有していても、「芳香族基を含有しない置換基」のみを有する糖類を含む比較例3−8のフィルムは、少なくともブリードアウトが生じやすく、「芳香族基を含有する置換基」のみを有する糖類を含む比較例3−9のフィルムは、少なくとも内部ヘイズが高いことがわかる。
また、実施例1−1〜1−5の対比などから、「芳香族基を含有する置換基」を、「芳香族基を含有しない置換基」よりも多く有する糖類を含むフィルムは、ブリードアウト耐性が高いことがわかる。これは、糖類に含まれる「芳香族基を含む置換基」同士が相互作用しやすいためと考えられる。
さらに、実施例3−2および3−28〜3−31との対比から、セルロースエステルとしてセルロースジアセテート(DAC)を含む実施例3−2および3−28のフィルムは、セルローストリアセテート(TAC)を含む実施例3−31のフィルムや、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を含む実施例3−30のフィルムよりも、内部ヘイズが低く、ブリードアウト耐性が高いことがわかる。糖類が、TACやCAPよりも、DACと相溶しやすいためであると考えられる。