図1は、本発明が好適に適用された車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」という)の構成を説明するための骨子図である。図1に示すように、動力伝達装置10はエンジン12から駆動輪40までの動力伝達経路に一部を構成しており、エンジン12側から、トルクコンバータ14と自動変速機16とを一軸心上において順番にすなわち直列に備えている。このように構成された動力伝達装置10は、例えば後輪駆動すなわちFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の車両8の前方に縦置きされ、駆動輪40を駆動するために好適に用いられるものである。動力伝達装置10において、走行用駆動力源であるエンジン12の動力は、エンジン12のクランク軸18から、トルクコンバータ14、自動変速機16、差動歯車装置39、および1対の駆動車軸等を順次介して1対の駆動輪40へ伝達される。なお、自動変速機16及びトルクコンバータ14等は中心線すなわち前記一軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
前記エンジン12は、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、前記トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸18に連結された入力部材であるポンプ翼車22と、上記自動変速機16の入力軸20に連結された出力部材であるタービン翼車24と、一方向クラッチ28によって上記自動変速機16のハウジング37に対する一方向の回転が阻止されているステータ翼車26とを備えており、上記ポンプ翼車22とタービン翼車24との間で流体を介して動力伝達を行う。すなわち、トルクコンバータ14は、ポンプ翼車22に入力されたエンジン12の動力を駆動輪40に向けて伝達する流体伝動装置である。また、トルクコンバータ14は、上記ポンプ翼車22及びタービン翼車24の間に、油圧制御によってそのポンプ翼車22とタービン翼車24との間を機械的に直結するロックアップクラッチ30を備えている。そのロックアップクラッチ30は、例えば湿式の摩擦クラッチで構成されている。図1から判るように、ポンプ翼車22はエンジン12のクランク軸18と一体回転するので、本実施例では、エンジントルクTeとトルクコンバータ14への入力トルクTintcとは同じである。また、エンジントルクTeはトルクセンサ等を用いて直接的に検出することも可能ではあるが、スロットル開度θthとエンジン回転速度NeとをパラメータとしてそれらパラメータとエンジントルクTeとの関係を予め実験的に求めておき、その予め実験的に求められた関係からスロットル開度θthとエンジン回転速度Neとに基づいてエンジントルクTeを求めることが可能である。
前記自動変速機16は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置32と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置34及び第3遊星歯車装置36とを備えている遊星歯車式の変速機である。その自動変速機16において、上記第1遊星歯車装置32のサンギヤS1は、第3クラッチC3を介して上記入力軸20に選択的に連結されると共に、一方向クラッチF2及び第3ブレーキB3を介して非回転部材であるハウジング37に選択的に連結され、上記入力軸20と反対方向の回転が阻止されるようになっている。上記第1遊星歯車装置32のキャリアCA1は、第1ブレーキB1を介して上記ハウジング37に選択的に連結されると共に、その第1ブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。上記第1遊星歯車装置32のリングギヤR1は、上記第2遊星歯車装置34のリングギヤR2と一体的に連結されており、第2ブレーキB2を介して上記ハウジング37に選択的に連結されるようになっている。上記第2遊星歯車装置34のサンギヤS2は、上記第3遊星歯車装置36のサンギヤS3と一体的に連結されており、第4クラッチC4を介して上記入力軸20に選択的に連結されると共に、一方向クラッチF0及び第1クラッチC1を介して上記入力軸20に選択的に連結され、その入力軸20と反対方向の回転が阻止されるようになっている。上記第2遊星歯車装置34のキャリアCA2は、上記第3遊星歯車装置36のリングギヤR3と一体的に連結されており、第2クラッチC2を介して上記入力軸20に選択的に連結されると共に、第4ブレーキB4を介して上記ハウジング37に選択的に連結されるようになっており、更に第4ブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。そして、上記第3遊星歯車装置36のキャリアCA3は、出力軸38に一体的に連結されている。
図2は、前記自動変速機16の各変速段を成立させるためのクラッチ及びブレーキの係合作動を説明する係合表である。図2において、「○」は係合を、空欄は解放を、「△」はエンジンブレーキ時の係合を、「●」は動力伝達に関与しない係合をそれぞれ表している。前記自動変速機16に備えられた第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び第4ブレーキB4は、何れも湿式多板型のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、図3に示す油圧制御回路82に備えられたソレノイド弁SOL1、SOL2、SOL3、SOL4、及びSOL5や、リニアソレノイド弁SL1及びSL2等の励磁・非励磁により、図2に示すように係合・解放が切り換えられることで、図3に示すシフトレバー78の操作位置(ポジション)及び車両の走行状態等に応じて「1st」乃至「6th」の6つの前進変速段及び1つの後退変速段「Rev」を成立させる。第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比γ(=入力軸20の回転速度Nin/出力軸38の回転速度Nout)は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0である。なお、図1から判るように、本実施例では、前記入力軸20はタービン翼車24と一体的に回転するので、入力軸20の回転速度Ninはタービン翼車24の回転速度Nt(以下、タービン回転速度Ntという)と同一である。
図3は、前記エンジン12及び自動変速機16等を制御するために車両8に設けられた制御系統を例示した図であると共に、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。この図3に示すように、運転者により踏込操作されるアクセルペダル42の操作量(踏込量)であるアクセル開度Accがアクセル開度センサ44により検出されるようになっている。前記エンジン12の吸気配管には、スロットルアクチュエータ46により制御されることでそのエンジン12のアイドル回転速度Neidlを制御すると共に、アクセル開度Accに応じた開き角すなわちスロットル開度θthとされる電子スロットル弁48が設けられている。また、前記エンジン12の回転速度Ne(以下、エンジン回転速度Neという)を検出するためのエンジン回転速度センサ50、上記電子スロットル弁48の全閉状態(アイドル状態)及びそのスロットル開度θthを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ56、前記出力軸38の回転速度Noutに対応する車速Vを検出するための車速センサ58、前記エンジン12の冷却水温Twを検出するための冷却水温センサ60、常用ブレーキであるフットブレーキ61の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ62、シフトレバー78のレバーポジション(操作位置)Pshを検出するためのレバーポジションセンサ64、タービン回転速度Ntを検出するためのタービン回転速度センサ66、動力伝達装置10の作動油すなわち油圧制御回路82内の作動油の温度である作動油温Toilを検出するための作動油温センサ68等が設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度Ne、スロットル開度θth、車速V、エンジン冷却水温Tw、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPsh、タービン回転速度Nt、作動油温Toil等を表す信号が電子制御装置80に供給されるようになっている。
上記電子制御装置80は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、動力伝達装置10を制御するための制御装置として機能し、具体的には前記エンジン12の出力制御及び前記自動変速機16の変速制御等の基本的な制御や、車両停車時におけるニュートラル制御等を実行する。例えば、電子制御装置80は、前記エンジン12の出力制御では、上記スロットルアクチュエータ46により電子スロットル弁48を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁84を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置86を制御する。電子スロットル弁48の制御では、予め定められた関係から実際のアクセル開度Accに基づいて上記スロットルアクチュエータ48を駆動し、そのアクセル開度Accが大きいほどスロットル開度θthを増加させる。言い換えれば、アクセル開度Accとスロットル開度θthとの上記予め定められた関係は、スロットル開度θthに基づいて定まるエンジントルクTeが、アクセル開度Accに応じて運転者が要求するドライバ要求エンジントルクTe*に一致するように実験的に設定されており、上記電子スロットル弁48の制御では、電子制御装置80は、そのドライバ要求エンジントルクTe*が得られるようにスロットル開度θthを調節する。但し、後述のエンジントルクダウン制御では、スロットル開度θthはアクセル開度Accに拘らず制御される。
また、電子制御装置80は、前記エンジン12の始動時には、スタータ(電動モータ)88によりそのエンジン12のクランク軸18をクランキングする。前記油圧制御回路82は、変速用のソレノイド弁SOL1乃至SOL5、リニアソレノイド弁SL1及びSL2の他に、前記ロックアップクラッチ30の係合力すなわち押圧力を発生させるロックアップ油圧PLUを制御するリニアソレノイド弁SLUや、ライン油圧を制御するリニアソレノイド弁SLTを備えており、その油圧制御回路82内の作動油は、前記ロックアップクラッチ30を含むトルクコンバータ14へも供給されると共に、前記自動変速機16等の各部の潤滑にも使用される。
図3を用いて、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部について説明する。図3に示すように、電子制御装置80は、ロックアップクラッチ動作指示部としてのロックアップクラッチ動作指示手段100と、スリップ発生判断部としてのスリップ発生判断手段102と、トルクダウン制御部としてのトルクダウン制御手段104と、スリップ収束判断部としてのスリップ収束判断手段106と、ドライバ要求エンジントルク判断部としてのドライバ要求エンジントルク判断手段108とを備えている。
ロックアップクラッチ動作指示手段100は、例えばアクセル開度Acc及び車速Vを変数としてロックアップオン領域とロックアップオフ領域とに領域分けされた予め実験的に設定された関係であるロックアップマップから、実際のアクセル開度Acc及び車速Vで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ30の係合作動又は解放作動をさせるためにロックアップ油圧PLUを制御する。ロックアップクラッチ30の係合力(押圧力)はロックアップ油圧PLUが高いほど大きくなる。図4は、前記ロックアップマップの一例を示した図である。そのロックアップマップは、エンジン12からの振動が乗員に伝わるのを抑えつつ車両8の燃費を向上できるように予め実験的に求められたものであり、図4において領域LUonが上記ロックアップオン領域であり、領域LUoffが上記ロックアップオフ領域である。図4に示すように、ロックアップオン領域LUonはロックアップオフ領域LUoffに対して低アクセル開度側であって且つ高車速側に設けられている。
例えば、ロックアップクラッチ動作指示手段100は、ロックアップ油圧PLUを制御するために、上記ロックアップマップから、アクセル開度Acc及び車速Vで示される実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属しているか或いはロックアップオフ領域LUoffに属しているかを逐次判断する。そして、ロックアップクラッチ動作指示手段100は、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属している場合には、ロックアップクラッチ30を完全係合させる完全係合指示を油圧制御回路82に対し出力する。油圧制御回路82が上記完全係合指示を受けると、油圧制御回路82内のリニアソレノイド弁SLUはロックアップ油圧PLUを、ロックアップクラッチ30を完全係合させる(完全に係合させる)ための予め設定された完全係合油圧PLUonにまで上昇させ、上記車両状態がロックアップオン領域LUonに属している間はロックアップ油圧PLUを上記完全係合油圧PLUonに維持する。これにより、ロックアップクラッチ30は上記完全係合指示に従って動作して、その完全係合油圧PLUonとされたロックアップ油圧PLUに対応した係合力(押圧力)でポンプ翼車22とタービン翼車24とを直結する。一方で、ロックアップクラッチ動作指示手段100は、実際の車両状態がロックアップオフ領域LUoffに属している場合には、ロックアップクラッチ30を解放させる解放指示を油圧制御回路82に対し出力する。油圧制御回路82が上記解放指示を受けると、油圧制御回路82内のリニアソレノイド弁SLUはロックアップ油圧PLUを、ロックアップクラッチ30を解放させるための予め設定された解放油圧PLUoffたとえば零もしくは零以下の油圧にまで低下させ、上記車両状態がロックアップオフ領域LUoffに属している間はロックアップクラッチ30の解放状態を維持する。これにより、ロックアップクラッチ30は上記解放指示に従って動作して、ポンプ翼車22とタービン翼車24との直結を解除する。このようなことから、ロックアップオン領域LUonはロックアップクラッチ30が前記完全係合指示に従って動作する領域、言い換えれば、ロックアップクラッチ30が完全係合されるべき領域であると言え、ロックアップオフ領域LUoffはロックアップクラッチ30が前記解放指示に従って動作する領域、言い換えれば、ロックアップクラッチ30が解放されるべき領域であると言える。なお、ロックアップクラッチ30の完全係合とは、トルクコンバータ14の入出力部材間の回転速度差(=クラッチスリップ量ΔNsp)を零にするロックアップクラッチ30の係合、すなわち、その入出力部材間を完全に直結するロックアップクラッチ30の係合である。
スリップ発生判断手段102は、ロックアップクラッチ動作指示手段100によって実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属していると判断された場合において、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したか否かを判断する。スリップ発生判断手段102は、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとを逐次検出しており、そのエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの間の回転速度差であるクラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)に基づいて、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したか否かを判断する。例えば、スリップ発生判断手段102は、上記クラッチスリップ量ΔNspが予め定められたスリップ発生判定値αよりも大きいか否かを逐次判断しており、そのクラッチスリップ量ΔNspがスリップ発生判定値αよりも大きくなった場合には、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したと判断する。上記スリップ発生判定値αは、例えば、ロックアップクラッチ30の耐久性を損なうような上記スリップの発生を確実に検出し且つ回転速度センサ50,66の信号ノイズや誤差を排除できるように実験的に予め求められ設定されている。なお、前記ロックアップ油圧PLUが前記完全係合油圧PLUonとされていれば基本的にロックアップクラッチ30にスリップが生じることはないが、ロックアップ油圧PLUはロックアップクラッチ30が完全係合されるようにフィードバック制御されるわけではないので、ロックアップクラッチ30の摩擦材が経年劣化することによってその摩擦材の摩擦係数が低下して滑り易くなり、それに起因して、ロックアップ油圧PLUが前記完全係合油圧PLUonに維持されていてもロックアップクラッチ30にスリップが生じる場合がある。
トルクダウン制御手段104は、完全係合させる指示(完全係合指示)に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、エンジントルクTeを低下させるエンジントルクダウン制御を実施する。前記実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属すればロックアップクラッチ30は上記完全係合指示に従って動作するので、上記完全係合させる指示に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合とは、例えば、ロックアップクラッチ30が完全に係合した状態からそのロックアップクラッチ30の係合状態を変化させる指示をしていない状態でそのロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合であり、具体的には、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したとスリップ発生判断手段102によって判断された場合である。上記ロックアップクラッチ30が完全に係合した状態からそのロックアップクラッチ30の係合状態を変化させる指示をしていない状態とは、具体的には、ロックアップクラッチ動作指示手段100から油圧制御回路82に対する指示が前記完全係合指示から前記解放指示などの他の指示には切り替えられずにその完全係合指示が継続されている状態であり、詳細に言えば、前記ロックアップ油圧PLUが前記完全係合油圧PLUonのまま継続されている状態である。スロットル開度θthは基本的にアクセル開度Accと一対一の関係で対応して制御されているが、上記エンジントルクダウン制御では、トルクダウン制御手段104はアクセル開度Accに拘らずスロットル開度θthを減少させることでエンジントルクTeを上記スリップ発生時よりも低下させる。
上記したように、トルクダウン制御手段104は、上記エンジントルクダウン制御では、エンジントルクTeを低下させるが、具体的には、少なくともロックアップクラッチ30が完全係合するまでエンジントルクTeを低下させる。言い換えれば、少なくともロックアップクラッチ30が完全係合するトルクまでエンジントルクTeを低下させる。例えば、トルクダウン制御手段104は、クラッチスリップ量ΔNspを逐次算出しつつ、ロックアップクラッチ30にスリップが発生した時からエンジントルクTeを予め実験的に定められた所定の時間変化率で低下させてゆき、増加していたクラッチスリップ量ΔNspが減少に転じた時点でエンジントルクTeを一定値となるように維持する。なお、トルクダウン制御手段104は、前記エンジントルクダウン制御において、例えば、クラッチスリップ量ΔNspを逐次算出することなく、エンジントルクTeを、ロックアップクラッチ30にスリップが発生した時のトルクに対して予め実験的に定められた所定トルク幅だけ低下させてもよい。
スリップ収束判断手段106は、前記エンジントルクダウン制御の開始後において、ロックアップクラッチ30のスリップが収まったか否かを判断する。スリップ収束判断手段106は、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとを逐次検出しており、前記クラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)に基づいて、ロックアップクラッチ30のスリップが収まったか否かを判断する。例えば、スリップ収束判断手段106は、上記クラッチスリップ量ΔNspが予め定められたスリップ収束判定値βよりも小さくなったか否かを逐次判断しており、そのクラッチスリップ量ΔNspがスリップ収束判定値βよりも小さくなった場合には、ロックアップクラッチ30のスリップが収まったと判断する。すなわちそのスリップが収束したと判断する。上記スリップ収束判定値βは、例えば、上記スリップが収束したことを確実に検出し且つ回転速度センサ50,66の信号ノイズや誤差を排除できるように実験的に予め求められ設定されている。そのスリップ収束判定値βは、前記スリップ発生判定値αと同一値であっても良いし、異なる値であっても良い。
ドライバ要求エンジントルク判断手段108は、前記エンジントルクダウン制御の開始後において、前記ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になったか否かを逐次判断する。そのドライバ要求エンジントルクTe*はアクセル開度Accに基づいて定まるものであり、アクセル開度Accが大きいほど大きくなる。また、ドライバ要求エンジントルク判断手段108がドライバ要求エンジントルクTe*と比較する上記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTeは、トルクセンサ等を用いて直接的に検出されても差し支えないが、本実施例では、予め実験的に求められた関係を用いてスロットル開度θthとエンジン回転速度Neとに基づいて推定される。
トルクダウン制御手段104は、スリップ収束判断手段106によってロックアップクラッチ30のスリップが収まったと判断され、且つ、ドライバ要求エンジントルク判断手段108によって前記ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になったと判断された場合には、それまで継続実施していた上記エンジントルクダウン制御を終了する。言い換えれば、トルクダウン制御手段104は、ロックアップクラッチ30のスリップが収まり且つドライバ要求エンジントルクTe*が上記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になるまで、上記エンジントルクダウン制御を継続するということである。そして、上記エンジントルクダウン制御の終了時とは、ロックアップクラッチ30のスリップが収まり且つドライバ要求エンジントルクTe*が上記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になった時である。上記エンジントルクダウン制御の終了後においては、電子スロットル弁48の制御は、アクセル開度Accに対応してスロットル開度θthが調節される基本的なスロットル制御に戻る。
また、トルクダウン制御手段104は、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonから外れた場合には、それまで前記エンジントルクダウン制御を継続実施していれば、そのエンジントルクダウン制御を終了する。その実際の車両状態がロックアップオン領域LUonから外れたか否かはロックアップクラッチ動作指示手段100の判断に基づく。
図5は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち、前記エンジントルクダウン制御を実行する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図5に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。
図5において、先ず、ロックアップクラッチ動作指示手段100に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、実際の車両状態がロックアップオン領域LUon(図4参照)に属しているか否かが判断される。その実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属すれば、ロックアップクラッチ30は前記完全係合指示に従って動作する。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属している場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、SA6に移る。
スリップ発生判断手段102に対応するSA2においては、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したか否か、具体的には、クラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)が前記スリップ発生判定値αよりも大きいか否かが判断される。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、ロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、SA6に移る。
トルクダウン制御手段104に対応するSA3においては、前記エンジントルクダウン制御が実施される。既にそのエンジントルクダウン制御が実施されていれば、そのエンジントルクダウン制御の実施が継続される。SA3の次はSA4に移る。
スリップ収束判断手段106に対応するSA4においては、ロックアップクラッチ30のスリップが収まったか否か、言い換えれば、そのスリップが解消したか否かが判断される。具体的には、前記クラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)が前記スリップ収束判定値βよりも小さくなった場合に、ロックアップクラッチ30のスリップが収まったと判断される。このSA4の判断が肯定された場合、すなわち、ロックアップクラッチ30のスリップが収まった場合には、SA5に移る。一方、このSA4の判断が否定された場合には、SA3に移る。
ドライバ要求エンジントルク判断手段108に対応するSA5においては、前記ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になったか否かが判断される。そのドライバ要求エンジントルクTe*はアクセル開度Accに対応しており、そのエンジントルクTeはスロットル開度θthに対応している。このSA5の判断が肯定された場合、すなわち、ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になった場合には、SA6に移る。一方、このSA5の判断が否定された場合には、SA3に移る。
トルクダウン制御手段104に対応するSA6においては、SA3にて開始された前記エンジントルクダウン制御が終了させられる。要するに、そのエンジントルクダウン制御は、SA4及びSA5の判断が肯定されるまで継続的に実施される。
図6は、図5のSA1の判断が肯定されているときに前記エンジントルクダウン制御が実施された例を説明するためのタイムチャートである。図6の最下段に記載されたエンジン12に対するトルク要求量のタイムチャートには、ドライバ要求エンジントルクTe*が一点鎖線L01で示されており、前記エンジントルクダウン制御でエンジン12に対し要求される制御中要求エンジントルクTedn*が実線L02で示されており、最終的にエンジン12に対して要求される最終要求エンジントルクTef*が破線L03で示されている。この最終要求エンジントルクTef*はスロットル開度θthに対応しているので、スロットル開度θthの変化が大きいときにはエンジントルクTeは最終要求エンジントルクTef*の変化に遅れて変化するが、スロットル開度θthの変化が小さい或いは変化がないときにはエンジントルクTeは最終要求エンジントルクTef*に一致する。また、tA1時点以前とtA5時点以降とにおいては最終要求エンジントルクTef*はドライバ要求エンジントルクTe*と同一値であって一点鎖線L01と破線L03とは互いに重複して同一の軌跡となっており、tA1〜tA5時点の間では最終要求エンジントルクTef*は制御中要求エンジントルクTedn*と同一値であって実線L02と破線L03とは互いに重複して同一の軌跡となっているが、各線L01,L02,L03の表示を見易くするため、図6ではそれら重複した線を僅かにずらして表示している。
図6において、tA1時点以前にて、既に、実際の車両状態はロックアップオン領域LUonに属しているので、図5のSA1の判断は肯定されている。そして、tA1時点以前から、アクセルペダル42の踏込みに対応してトルクコンバータ14への入力トルクTintc(=エンジントルクTe)が次第に上昇している。その入力トルクTintcの上昇に起因して、tA1時点にて、クラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)が前記スリップ発生判定値αよりも大きくなって図5のSA2の判断が肯定されている。そのため、tA1時点から、図5のSA3で前記エンジントルクダウン制御が開始され、そのエンジントルクダウン制御の実施によってスロットル開度θthがアクセル開度Accに連動せずに減少させられ、制御中要求エンジントルクTedn*と共に最終要求エンジントルクTef*が所定の時間変化率で低下させられている。従って、tA1時点で、トルクコンバータ14への入力トルクTintcの上昇が終了している。
tA2時点では、それまで拡大していたクラッチスリップ量ΔNspが減少に転じており、tA1時点から減少させられていたスロットル開度θthがtA2時点から一定になっている。すなわち、制御中要求エンジントルクTedn*と共に最終要求エンジントルクTef*がtA2時点から一定になっている。ここで、仮に前記エンジントルクダウン制御が実施されなかったとすれば、tA2時点以降もクラッチスリップ量ΔNspは拡大し続け、例えば破線L04のようにエンジン回転速度Neは推移すると考えられる。
tA3時点では、ロックアップクラッチ30のスリップが収束しており、それにより、図5のSA4の判断が肯定されている。ここで、ロックアップクラッチ30のスリップが収束した時点すなわちtA3時点で、仮に前記エンジントルクダウン制御を終了したとすれば、スロットル開度θthがアクセル開度Accに対応した開度にまで引き上げられるので、トルクコンバータ14への入力トルクTintcが破線L05のように増大し、それに起因して、ロックアップクラッチ30に再びスリップが発生することになる。従って、本実施例ではtA3時点以降も前記エンジントルクダウン制御の実施を継続している。
tA4時点では、運転者によるアクセルペダル42の操作によって、アクセル開度Accが減少し始めており、それと同時に、アクセル開度Accに対応するドライバ要求エンジントルクTe*が減少し始めている。そして、tA4時点以降、そのドライバ要求エンジントルクTe*の減少は継続している。
tA5時点では、ドライバ要求エンジントルクTe*が最終要求エンジントルクTef*(=制御中要求エンジントルクTedn*)以下、すなわち、ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になったので、図5のSA5の判断が肯定されている。従って、tA1時点から開始された前記エンジントルクダウン制御はtA5時点にて終了し、tA5時点以降においては、スロットル開度θthはアクセル開度Accに対応して制御され、最終要求エンジントルクTef*はドライバ要求エンジントルクTe*に一致して減少し、それにより、トルクコンバータ14への入力トルクTintcもtA5時点から減少し始めている。従って、前記エンジントルクダウン制御の終了によってトルクコンバータ14への入力トルクTintcは上昇することがなく、そのエンジントルクダウン制御の終了に起因したロックアップクラッチ30のスリップ再発が防止されている。
本実施例によれば、トルクダウン制御手段104は、完全係合させる指示(完全係合指示)に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合、すなわち、完全に係合した状態から係合状態を変化させる指示をしていない状態でロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、エンジントルクTeを低下させる前記エンジントルクダウン制御を実施する。そして、トルクダウン制御手段104は、ドライバ要求エンジントルクTe*が前記エンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になるまで、そのエンジントルクダウン制御を継続する。従って、前記エンジントルクダウン制御が実施されることにより、ロックアップクラッチ30が完全に係合した状態(完全係合状態)からそのロックアップクラッチの係合状態を変化させる指示をしていない状態において、ロックアップクラッチ30のスリップを抑制することが可能である。そして、そのエンジントルクダウン制御は、ドライバ要求エンジントルクTe*がそのエンジントルクダウン制御中のエンジントルクTe以下になるまで継続されるので、そのエンジントルクダウン制御の終了時にロックアップクラッチ30にスリップが再び生じることが回避される。すなわち、前記完全に係合した状態から係合状態を変化させる指示をしていない状態で、ロックアップクラッチ30にスリップが繰り返し生じることがないようにすることが可能である。その結果として、ロックアップクラッチ30の耐久性低下を抑制できる。ここで、ロックアップクラッチ30にスリップが再び生じることのないように、例えば、ロックアップクラッチ30を完全係合させるための予め設定された前記完全係合油圧PLUonを、そのスリップが発生する度に徐々に引き上げることも考えられるが、その完全係合油圧PLUonを引き上げるにもロックアップクラッチ30の特性から限度があるので、前記エンジントルクダウン制御は完全係合油圧PLUonを引き上げることができない場合に特に大きな効果がある。
また、本実施例によれば、ロックアップクラッチ30の耐久性低下を促進するスリップの発生が前記エンジントルクダウン制御により適切に抑制されるので、そのエンジントルクダウン制御が実行されることが無い場合と比較して、エンジン12の最大出力トルクに対して必要とされるロックアップクラッチ30の最大トルク容量の余裕を小さくすることが可能であり、そのため、ロックアップクラッチ30の小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。その結果として、小型で安価なトルクコンバータ14を車両8に採用することが可能である。
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例(実施例2)の説明では、実施例1と異なる点を主に説明する。図7は、本実施例の電子制御装置180に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図7に示すように、電子制御装置180は、実施例1と同じロックアップクラッチ動作指示手段100とスリップ発生判断手段102とトルクダウン制御手段104とスリップ収束判断手段106とドライバ要求エンジントルク判断手段108とに加え、更に、スリップ時入力トルク学習部としてのスリップ時入力トルク学習手段182と、入力トルク制限部としての入力トルク制限手段184とを備えている。
スリップ時入力トルク学習手段182は、完全係合させる指示(完全係合指示)に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、そのスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcを入力トルク学習値T1intcとして記憶する。そのスリップが発生した時とは、具体的に言えば、前記クラッチスリップ量ΔNspが前記スリップ発生判定値αよりも大きくなった時である。また、上記完全係合させる指示に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合とは、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したとスリップ発生判断手段102によって判断された場合である。従って、上記入力トルク学習値T1intcは、上記スリップが収束し再び上記スリップが発生したとスリップ発生判断手段102によって判断される毎に更新され、例えばその更新が行われる毎に小さくなる。なお、上記入力トルクTintcはエンジントルクTeと同一であり、そのエンジントルクTeはスロットル開度θthに基づいて定まるので、スリップ時入力トルク学習手段182は、上記スリップが発生した時のスロットル開度θthを、入力トルク学習値T1intcに対応するスロットル開度学習値θ1thとして記憶してもよい。
入力トルク制限手段184は、トルクダウン制御手段104が前記スリップに起因して継続的に実施した(実施していた)前記エンジントルクダウン制御の終了後から、トルクコンバータ14への入力トルクTintcを前記入力トルク学習値T1intc以下に制限する入力トルク制限制御を実施する。その入力トルクTintcとエンジントルクTeとは同一値であるので、具体的にその入力トルク制限制御では、入力トルク制限手段184は、ドライバ要求エンジントルクTe*が上記入力トルク学習値T1intcよりも大きいか否かを逐次判断しており、ドライバ要求エンジントルクTe*が入力トルク学習値T1intcよりも大きい場合には、上記入力トルクTintcを入力トルク学習値T1intcと一致させるように又は入力トルク学習値T1intc以下にするように、スロットル開度θthをアクセル開度Accに拘らず制御する。トルクダウン制御手段104が前記スリップに起因して継続的に実施した前記エンジントルクダウン制御の終了後とは、詳細に言えば、スリップ時入力トルク学習手段182が入力トルクTintcを入力トルク学習値T1intcとして記憶する原因となった前記スリップに起因して開始され継続的に実施されていた前記エンジントルクダウン制御の終了後ということである。従って、入力トルク制限手段184は、ロックアップクラッチ30にスリップが発生したとスリップ発生判断手段102によって判断された場合に、スリップ時入力トルク学習手段182が記憶し或いは更新した前記入力トルク学習値T1intc以下に前記入力トルクTintcを制限することを直ちに行うのではなく、上記スリップが発生したとスリップ発生判断手段102によって判断された時から実施されている前記エンジントルクダウン制御が終了した後に、その記憶し或いは更新した前記入力トルク学習値T1intc以下に前記入力トルクTintcを制限することを開始する。また、入力トルク制限手段184は、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属している場合に前記入力トルク制限制御を実施し、その一方で、ロックアップオン領域LUonに属していない場合たとえばロックアップオフ領域LUoffに属している場合には前記入力トルク制限制御を実施しないのが好ましい。すなわち、入力トルク制限手段184は、ロックアップクラッチ30を完全係合させる指示に従ってロックアップクラッチ30が動作した場合に前記入力トルク制限制御を実施するのが好ましい。なお、スリップ時入力トルク学習手段182が、前記スリップが発生した時のスロットル開度θthをスロットル開度学習値θ1thとして記憶するのであれば、前記入力トルク制限制御において、入力トルク制限手段184はスロットル開度θthをスロットル開度学習値θ1th以下に制限するとしても差し支えない。
図8は、電子制御装置180の制御作動の要部、すなわち、前記エンジントルクダウン制御と前記入力トルク制限制御とを実行する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図9は、図8のSB4にて実行されるサブルーチンを表したフローチャートである。この図8および図9に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。図8のSB1、SB2はそれぞれ図5のSA1、SA2と同じ内容のステップであり、図9のSC1〜SC4はそれぞれ図5のSA3〜SA6と同じ内容のステップである。以下では、図5に対して異なるステップについて説明する。
図8において、SB1の判断が肯定された場合、すなわち、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属している場合には、SB2に移る。一方、SB1の判断が否定された場合には、図8のフローチャートは終了する。また、SB2の判断が肯定された場合、すなわち、ロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、SB3に移る。一方、SB2の判断が否定された場合には、SB5に移る。
スリップ時入力トルク学習手段182に対応するSB3においては、SB2にて検出されるロックアップクラッチ30のスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcが、前記入力トルク学習値T1intcとして記憶される。入力トルク学習値T1intcが既に設定されていれば、その入力トルク学習値T1intcは更新される。要するに、上記スリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcが学習される。SB3の次はSB4に移る。
SB4においては、前記エンジントルクダウン制御が開始され終了させられる。具体的には、図9のフローチャートがSC1から実行される。その図9のSC4にて前記エンジントルクダウン制御が終了させられると、図8のフローチャートに戻り、SB4からSB5に移る。
図8のSB5においては、ドライバ要求エンジントルクTe*が前記SB3にて記憶され或いは更新された入力トルク学習値T1intcよりも大きいか否かが判断される。このSB5の判断が肯定された場合、すなわち、ドライバ要求エンジントルクTe*が上記入力トルク学習値T1intcよりも大きい場合には、SB6に移る。一方、このSB5の判断が否定された場合には、図8のフローチャートは終了する。
SB6においては、トルクコンバータ14への入力トルクTintcを入力トルク学習値T1intcと一致させるように又は入力トルク学習値T1intc以下にするように、スロットル開度θthがアクセル開度Accに拘らず制御される。要するに、上記入力トルクTintcすなわちエンジントルクTeの上限が入力トルク学習値T1intcでガードされる。なお、SB5及びSB6は入力トルク制限手段184に対応する。
図10は、図8のSB2の判断が肯定され入力トルク学習値T1intcが記憶される制御を説明するためのタイムチャートである。図10では、実施例1のタイムチャートである図6と同様に、tB1時点以前にて、既に、実際の車両状態はロックアップオン領域LUonに属しており、tB1時点以前から、アクセルペダル42の踏込みに対応してトルクコンバータ14への入力トルクTintc(=エンジントルクTe)が次第に上昇している。図10のtB1時点は図6のtA1時点に相当し、tB1時点にて、クラッチスリップ量ΔNsp(=Ne−Nt)が前記スリップ発生判定値αよりも大きくなって図8のSB2の判断が肯定されており、tB1時点から、図9のSC1で前記エンジントルクダウン制御が開始されている。
また、tB1時点では、図8のSB2の判断が肯定されているので、図8のSB3にて、ロックアップクラッチ30のスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcすなわちtB1時点における入力トルクTintcが、前記入力トルク学習値T1intcとして記憶される。なお、図10に記載されたTαは、tB1時点における入力トルクTintcを表している。
tB2時点は図6のtA2時点に相当し、tB2時点まで拡大していたクラッチスリップ量ΔNspがtB2時点にて減少に転じており、前記エンジントルクダウン制御の実施によってtB1時点から減少させられていたスロットル開度θthがtB2時点から一定になっている。図10に示す破線L04は図6の破線L04と同じことを示している。
tB3時点は図6のtA3時点に相当し、tB3時点にて、ロックアップクラッチ30のスリップが収束しており、それにより、図9のSC2の判断が肯定されている。更に、実施例1の図6のタイムチャートではtA3時点よりも後のtA4時点にてアクセル開度Accが運転者によるアクセルペダル42の操作によって減少し始めているが、本実施例の図10のタイムチャートではtB3時点にて、アクセル開度Accが運転者によるアクセルペダル42の操作によって減少し始めている。そして、tB3時点以降、そのアクセル開度Accの減少は継続している。
tB4時点は図6のtA5時点に相当し、tB1時点から開始された前記エンジントルクダウン制御はtB4時点にて終了し、tB4時点以降においては、スロットル開度θthはアクセル開度Accに対応して制御されている。そして、図8および図9に示す制御作動では、実際の車両状態がロックアップオン領域LUonに属している場合には前記入力トルク制限制御が実施されるので、tB4時点以降において、その入力トルク制限制御の実施により、トルクコンバータ14への入力トルクTintcが前記入力トルク学習値T1intc以下すなわちtB1時点における入力トルクTintc(=Tα)以下に逐次制限される。
前述の実施例1の効果に加え、更に、本実施例によれば、スリップ時入力トルク学習手段182は、完全係合させる指示(完全係合指示)に従って動作したロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合、すなわち、完全に係合した状態から係合状態を変化させる指示をしていない状態でロックアップクラッチ30にスリップが発生した場合には、そのスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcを入力トルク学習値T1intcとして記憶する。そして、入力トルク制限手段184は、トルクダウン制御手段104が前記スリップに起因して継続的に実施した前記エンジントルクダウン制御の終了後から、トルクコンバータ14への入力トルクTintcを前記入力トルク学習値T1intc以下に制限する前記入力トルク制限制御を実施する。従って、完全に係合した状態から係合状態を変化させる指示をしていない状態でロックアップクラッチ30にスリップが発生することを、トルクコンバータ14への入力トルクTintcの制限によって回避し易くなるので、その入力トルクTintcの制限を行わない場合と比較して、そのロックアップクラッチ30のスリップを回避できる可能性を高くすることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の実施例1において、図5のフローチャートにSA4が設けられているが、そのSA4は必須のステップではない。SA5の判断が肯定されるときには通常、ロックアップクラッチ30のスリップは収束しているからである。前述の実施例2においても同様であり、図9のフローチャートにおいてSC2は必須のステップではない。
また、前述の実施例1,2において、図4のロックアップマップにはロックアップオン領域LUonとロックアップオフ領域LUoffとが設けられているが、更に、そのロックアップオン領域LUonとロックアップオフ領域LUoffとの境界の一部分たとえばアクセル開度Accの低開度寄りに、ロックアップクラッチ30を積極的にスリップさせるフレックス領域が設けられていても差し支えない。そのようにフレックス領域が設けられている場合において、図5のSA1の判断および図8のSB1の判断は、実際の車両状態がそのフレックス領域に属している場合には否定される。
また、前述の実施例2において、図8のSB3では、ロックアップクラッチ30のスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcが、前記入力トルク学習値T1intcとして記憶されるが、そのスリップが発生した時のトルクコンバータ14への入力トルクTintcよりも所定量だけ小さい値が、入力トルク学習値T1intcとして記憶されても差し支えない。このようにしたとすれば、上記スリップが発生した時の入力トルクTintcが入力トルク学習値T1intcとして記憶される場合と比較して、前記入力トルク制限制御の実施によってより確実にロックアップクラッチ30のスリップを防止できる。
また、前述の実施例1,2において、トルクコンバータ14が流体伝動装置として用いられているが、そのトルクコンバータ14のトルク増幅作用は必ずしも必要ではなく、例えば、そのトルクコンバータ14がトルク増幅作用のないフルードカップリングに置き換わっていても差し支えない。
また、前述の実施例1,2において、自動変速機16は有段の自動変速機であるが、無段階に変速比を変更できるCVTであっても差し支えない。また、自動変速機16を備えない動力伝達装置10も考え得る。
また、前述の実施例1,2において、図1に示す走行用駆動力源はエンジン12であるが、その走行用駆動力源はエンジン12及び電動機であってもよい。
また前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。