JP5704934B2 - 高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法 - Google Patents
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本発明に係る高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法は、C:0.30〜0.60質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.10〜0.60質量%、V:0.20〜0.80質量%、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、N:0.0100質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、熱間鍛造するものである。したがって、本発明に係る高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法で製造された高強度非調質熱間鍛造鋼は、前記成分の鋼で構成される。このような成分の鋼は、常法で溶製、鋳造することで得られる。
Cは、Fe炭化物(セメンタイト:Fe3C)を形成することで熱間鍛造鋼にパーライトを形成させて、熱間鍛造鋼の引張強度を向上させる。また、Cは、Vと炭化物や炭窒化物(VC,V(C,N)、以下、適宜まとめてV炭化物等という)を形成してフェライト中に析出する。V炭化物等の微細な析出物はフェライトおよびパーライトを析出強化する作用を有し、熱間鍛造鋼の硬さ(降伏強度)を向上させる。これらの効果が十分に得られるために、C含有量は0.30質量%以上とし、好ましくは0.40質量%以上である。一方、C含有量が多くなると、熱間鍛造後の冷却時にフェライト変態やパーライト変態が抑制されてベイナイトが形成されるようになり、降伏強度が低下し、降伏比が低下する。したがって、C含有量は0.60質量%以下とし、好ましくは0.50質量%以下である。
Siは、鋼に不可避的に含まれるが、固溶強化によりフェライトおよびパーライトの降伏強度を向上させ、また脱酸効果を有して熱間鍛造鋼の内部品質を向上させるため、さらに添加されてもよい。一方、Si含有量が0.50質量%を超えると、ベイナイトが形成されるようになる。したがって、Si含有量は0.50質量%以下とする。
Mnは、固溶強化によりフェライトおよびパーライトの降伏強度を向上させ、例えば一般的な中炭素鋼の一種であるS45Cには0.60〜0.90質量%添加されている。一方で、Mnはフェライト変態を抑制する作用を有する。本発明に係る製造方法においては、Mn含有量を少なくして、フェライト変態およびパーライト変態を促進して変態速度を速くすることにより、フェライト中に析出するV炭化物等を微細化し、Mn添加による固溶強化以上の析出強化を得る。変態速度を十分に高速化するために、Mn含有量は0.60質量%以下とし、好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.40質量%未満である。ただし、Mn含有量が0.10質量%未満になると、熱間鍛造後の冷却において、700℃まで冷却される前にフェライト変態が開始され、高温域下で粗大V炭化物が析出して、強度を低下させる。したがって、Mn含有量は0.10質量%以上とする。
Vは、フェライトおよびパーライト中のラメラフェライトに微細なV炭化物、V炭窒化物として析出することでフェライトおよびパーライトを強化し、降伏強度向上に寄与する。析出物を十分な量とするために、V含有量は0.20質量%以上とし、好ましくは0.25質量%以上、さらに好ましくは0.40質量%以上である。一方、V含有量が多くなると、熱間鍛造後の冷却時に、フェライト変態やパーライト変態が抑制されてベイナイトが形成されるようになる。あるいは、さらにフェライト変態点、パーライト変態点が上昇するのでフェライト中のV炭化物の相界面析出が起こり難くなり、逆に降伏強度の低下を招く。したがって、V含有量は0.80質量%以下とする。
Sは、鋼に不可避的に含まれ、Mnと反応してMnS介在物を形成して被削性を向上させる効果を有するが、一方で、延性および靭性を低下させる。したがって、S含有量は0.05質量%以下とする。
Pは、鋼に不可避的に含まれるが、鋼を脆化させるので可能な限り低減されることが好ましく、P含有量は0.05質量%以下とする。
N(窒素)は鋼の溶融工程で不可避的に混入する元素である。Nは、Vと結合してV炭窒化物を形成し、V炭化物と共に析出強化に寄与する。一方、N含有量が0.0100質量%を超えると、熱間鍛造における加熱時に鋼に溶解しないNが生じ、粗大なV窒化物(VN)を形成する。このV窒化物の近傍領域でVが欠乏するために、V炭化物、V炭窒化物の析出量が不足し、析出強化が低下する。したがって、N含有量は0.0100質量%以下とする。
熱間鍛造前の加熱は、鋼(オーステナイト)に、Mn等の添加元素やV炭化物を完全に固溶するための処理である。特に本発明における鋼はV含有量が多く、V炭化物が完全固溶する温度(VC完全固溶温度)Tvcが高いため、この温度Tvcを鋼のC,Vの各含有量(質量%)[C],[V]から算出して、それに応じて加熱温度Tpeekを設定する。VC完全固溶温度Tvc(℃)は、『日本鉄鋼協会,鉄鋼便覧第3版,第I巻基礎,1981年,p.412』の図7・43に表されたC,Vの溶解度積とVC完全固溶温度Tvcとの相関より導出した下式(1)を、Tvcについて式変形した下式(2)を用いて算出することができる。さらに、加熱時間(保持時間)によらず確実にすべてのV炭化物を固溶させるために、VC完全固溶温度Tvcに50℃を加算して加熱温度Tpeekの下限とする。加熱温度Tpeekの上限は特に規定されないが、鋼の溶融温度未満とするため、また設備の能力等から、1300℃程度とすることが好ましい。このような加熱温度Tpeekにおける保持時間は特に規定されないが、10時間以下保持してもよい。
熱間鍛造において温度が低下すると組織が微細化するが、850℃未満まで低下するとV炭化物やV炭窒化物がオーステナイト中に析出する。V炭化物等がオーステナイト中に析出すると、その後のフェライト変態時にフェライト中に微細に相界面析出するV炭化物等が減少するため、降伏強度を確保できなくなる。したがって、熱間鍛造は加熱温度Tpeek以下850℃以上で行い、すなわち熱間鍛造終了温度は850℃以上とする。また、本発明に係る鋼はV含有量が多いため、熱間鍛造における歪量を10%以上とすることが、フェライト変態が促進されるために好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、歪量を95%を超えて大きくすると熱間変形抵抗が過剰になるため、95%以下が好ましく、90%以下がさらに好ましい。
熱間鍛造後に緩やかに冷却すると、フェライト変態が開始する温度が高くなる。フェライト形成と並行してV炭化物やV炭窒化物がフェライト中に析出するが、700℃を超える高温ではV炭化物等が粗大になって析出強化に寄与せず、また、冷却が進行して温度が低下したときの相界面析出および微細に析出するV炭化物等が減少し、あるいは相界面析出自体が起こらなくなって、局所的に析出強化の不十分なフェライトが形成される。その結果、熱間鍛造鋼の降伏強度を十分に向上させることができない。したがって、熱間鍛造終了温度から少なくとも(高くても)700℃に到達するまでは、フェライト変態が開始しないように、急速冷却速度(1次急冷速度)2.0℃/s以上で冷却し、好ましくは3.0℃/s以上、さらに好ましくは5.0℃/s以上で冷却する。また、好ましくは680℃以下に到達するまで、さらに好ましくは660℃以下に到達するまでは、冷却速度が2.0℃/s以上であるようにする。
フェライト変態の開始後は、当該変態温度域を保持してフェライト変態およびパーライト変態を促進させて、V炭化物等を析出させることが好ましい。したがって、急速冷却停止後は、当該停止時の温度を保持する(冷却速度0℃/s)、または2.0℃/s未満で緩速冷却する(以下、適宜まとめて緩冷却という)。冷却速度(緩冷速度)は、好ましくは1.5℃/s未満である。さらに、緩冷却中にフェライト変態およびパーライト変態を完了させるために、当該緩冷却の時間は20sec以上とし、好ましくは40sec以上である。ただし、500℃未満になるとフェライト変態およびパーライト変態を生じなくなるため、緩冷却の間は500℃以上を保持し、好ましくは520℃以上、さらに好ましくは550℃以上を保持する。一方、フェライト変態およびパーライト変態の完了後に、継続して緩やかに冷却または温度を保持すると、析出物が粗大化して析出強化の効果が失われるため、緩冷却の時間は100sec以下とし、好ましくは80sec以下である。なお、本発明で規定する緩冷却の時間は、緩冷速度への減速および後続の急速冷却への加速のための冷却速度の推移期間を含めて、冷却速度0℃/s以上2.0℃/s未満である期間を指す。
前記した通り、フェライト変態およびパーライト変態の完了後に緩やかに冷却すると、析出物が粗大化するため、緩冷却後は急速冷却速度(2次急冷速度)2.0℃/s以上にて、析出や変態等の変化を生じなくなる400℃以下まで冷却する。急速冷却速度は、好ましくは3.0℃/s以上、さらに好ましくは5.0℃/s以上である。400℃以下に冷却された後の冷却速度は規定されないので、急速冷却を継続してもよいし、2.0℃/s未満に減速して冷却を完了してもよい。なお、2次急冷速度から減速して冷却を停止する際、400℃に到達するまでは冷却速度が2.0℃/s以上であるようにする。
真空溶製された表1に示す化学成分組成の鋼を1250℃で30分間加熱した後、φ50mmの丸棒材に熱間鍛造して空冷した。この丸棒材を1250℃で30分間加熱した後、900℃以上の温度域でφ25mmの丸棒材に熱間鍛造して空冷した。この丸棒材のD/4部を中心に、φ8mm×長さ12mmの円筒形の供試材を切り出した。
熱間鍛造後の供試材について、組織を観察した。供試材の円筒形の軸に沿って切断し、軸方向の中心かつ円周方向のD/8部を観察できるように切断面を調整し、3%ナイタールで腐食させた切断面を光学顕微鏡で観察して構成組織を判別した。顕微鏡像において、白い領域がフェライト(F)であり、黒い部分(セメンタイト)に白い部分(ラメラフェライト)が分散して混在している暗いコントラストの領域がパーライト(P)である。さらに、顕微鏡像の暗いコントラストの領域のうち、白い部分が針状に混在している領域がベイナイト(B)である。組織解析は400倍で10枚組織写真を撮影し、各写真に対してランダムに100点を選択して各点の組織を判別し、確認できた組織の種類のすべてを表1に示す。フェライトおよびパーライトのみからなる組織を良品とする。
表1に示すように、供試材No.1,2,5,8は、化学成分が本発明の範囲であるので、V炭化物等の析出強化により降伏強度が向上して、ビッカース硬さHVが理論強化量に基づく硬さHtよりも高くなった。特に供試材No.1は、Mn含有量が少ないために、他の成分および熱間鍛造後の冷却条件が同じである供試材No.2と比較してフェライト変態速度が速くなり、V炭化物等がいっそう微細化されて析出強化が向上した。これに対して、供試材No.10,12は、Mn含有量が過剰であるためにフェライト変態速度が遅く、緩冷却を終了するまでにフェライト変態およびパーライト変態が完了せず、その後の急速冷却によりベイナイトが形成された。このようなベイナイトが形成された供試材は、降伏強度が低下し、ビッカース硬さHVが理論強化量に基づく硬さHtよりも大幅に劣化した(供試材No.3,4,6,10,12)。一方、供試材No.14は、V含有量が不足しているためにV炭化物等の析出強化が小さく、降伏強度が十分に得られず、ビッカース硬さHVが理論強化量に基づく硬さHtよりも高いものの不十分だった。
供試材No.1,2,5,8は、熱間鍛造後の冷却条件が本発明の範囲であるので、組織がフェライトおよびパーライトとなり、かつ微細なV炭化物等が十分に析出したことにより、降伏強度が向上してビッカース硬さHVが理論強化量に基づく硬さHtよりも高くなった。これに対して、供試材No.3は、700℃を超える高温で急速冷却を停止したために、この温度域での緩冷却(温度保持)によりフェライト変態が開始して、フェライト中にV炭化物等が粗大に析出した結果、V含有量が本発明の範囲であっても微細V炭化物等の析出強化が不十分で、降伏強度が向上せず、さらに前記高温での温度保持後に急速冷却を再開した結果、ベイナイト変態が生じたためにベイナイトが形成されて、ビッカース硬さHVが劣化した。反対に、供試材No.4は、ベイナイト変態が生じる550℃未満まで急速冷却したために、ベイナイトが形成された。
Claims (1)
- C:0.30〜0.60質量%、Si:0.50質量%以下、Mn:0.10〜0.60質量%、V:0.20〜0.80質量%、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、N:0.0100質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、
前記鋼におけるC,Vの各含有量(質量%)をそれぞれ[C]、[V]で表したときに、式:Tvc=−9500/(log([C]×[V])−6.72)−273で算出されるV炭化物の完全固溶温度Tvc(℃)に対して50℃以上高い加熱温度に加熱し、
前記加熱温度以下850℃以上で熱間鍛造し、
前記熱間鍛造の終了温度から660℃以下590℃以上における温度まで5.0℃/s以上の急速冷却速度で冷却し、
前記急速冷却速度での冷却の終了後に20〜100sec経過するまで、冷却速度が0℃/s以上2.0℃/s未満となるように、かつ温度を550℃以上に保持または冷却し、
前記温度を保持または冷却の終了後に、400℃以下の温度まで2.0℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度非調質熱間鍛造鋼の製造方法。
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