以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
インクジェットプリンタ101は、図1に示すように、図1上方から下方に向かって用紙Pを搬送する搬送ユニット20と、搬送ユニット20によって搬送された用紙Pに、ブラック、マゼンタ、シアン、イエローのインク滴をそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド1と、インクジェットヘッド1にインクを供給する4つのインク供給ユニット10と、インクジェットヘッド1のメンテナンスを行うメンテナンスユニット31と、インクジェットプリンタ101全体を制御する制御装置16とを有している。なお、本実施形態において、副走査方向とは搬送ユニット20で用紙Pを搬送するときの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
搬送ユニット20は、2つのベルトローラ6、7と、両ローラ6、7間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト8とを有している。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、図示しない搬送モータから駆動力が与えられることで回転する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、ベルトローラ7の回転により搬送ベルト8が走行するのに伴って回転する。搬送ベルト8の外周面に載置された用紙Pは、図1下方へと搬送される。
4つのインクジェットヘッド1は、それぞれ主走査方向に沿って延在し、副走査方向には互いに平行に配置されている。すなわち、インクジェットプリンタ101は、主走査方向にインク滴が吐出される複数の吐出口108が配列されたライン式のカラーインクジェットプリンタである。各インクジェットヘッド1の下面は、複数の吐出口108が配列された吐出面2aとなっている(図2〜図4参照)。
搬送ベルト8の上側ループの外周面と吐出面2aとが対向しつつ平行となっている。搬送ベルト8によって搬送されてきた用紙Pが4つのインクジェットヘッド1の下方を通過する際に、各インクジェットヘッド1から用紙Pの上面に向けて各色のインク滴が順に吐出され、用紙P上に所望のカラー画像が形成される。
インク供給ユニット10は、インクジェットヘッド1の下面の図1左方端部近傍に接続されており、接続されたインクジェットヘッド1にインクを供給する。
メンテナンスユニット31は、4つのワイパ部材32を有している。4つのワイパ部材32は、後述のメンテナンス動作に係るワイプ動作において、インクジェットヘッド1の吐出面2aをワイプする弾性部材であり、図示しないアクチュエータによって、主走査方向に沿って往復移動可能となっている(図1矢印参照)。
次に、図2を参照しつつ、インクジェットヘッド1について詳細に説明する。図2に示すように、インクジェットヘッド1は、リザーバユニット71と、ヘッド本体2とを有している。
リザーバユニット71は、ヘッド本体2の上面に固定されており、ヘッド本体2にインクを供給する流路形成部材である。また、リザーバユニット71は、その内部に、インク流入流路72、10個のインク流出流路75及び排気流路73が形成されている。なお、図2においては、1つのインク流出流路75のみが表れている。
インク流入流路72は、リザーバユニット71の下面に開口する流入口72aを介して、インク供給ユニット10からのインクが流入する流路である。インク流入流路72は、流入したインクを一時的に貯溜するインクリザーバとしての機能を有する。インク流入流路72の内壁面にはリザーバユニット71の外壁面まで貫通する穴72bが形成されている。可撓性を有する樹脂フィルム76が、インク流入流路72の内壁面側から穴72bを封止している。つまり、樹脂フィルム76により、リザーバユニット71の外壁面側から封止されている。樹脂フィルム76は、インク流入流路72におけるインク圧の変動に伴って変位するため、インク圧の変動を抑制するダンパーとして機能する。樹脂フィルム76を用いることによって、ダンパーを安価な構成で実現することができる。なお、通常印刷時においては、樹脂フィルム76はインク流入流路72内に向かって僅かに凸となった状態となっている。リザーバユニット71の外壁面には、穴72bを覆うように板形状の規制部材77が固定されており、樹脂フィルム76がリザーバユニット71の外側に向かって過剰に凸となるのを規制している。これにより、インク流入流路72のインク圧が異常に高くなったとき、樹脂フィルム76が過剰に変位して破損するのが防止される。規制部材77には、大気連通孔77aが形成されており、規制部材77と樹脂フィルム76との間が常に大気圧となっている。これにより、樹脂フィルム76が変位し易くなっている。
インク流出流路75は、フィルタ75aを介してインク流入流路72と連通していると共に、ヘッド本体2の流路ユニット9の上面に形成されたインク供給口105bに連通している(図3参照)。フィルタ75aは、インク流入流路72におけるインクの流れる方向(図2左右方向)に沿って延在している。通常印刷時においては、インク供給ユニット10からのインクは、インク流入流路72に流入し、インク流出流路75を通過して、インク供給口105bから流路ユニット9に供給される。
排気流路73は、インク流入流路72におけるフィルタ75aの上流側においてインク流入流路72と連通していると共に、リザーバユニット71の下面に形成された流出口73aを介してインク供給ユニット10に接続されている。
排気流路73の下方側内壁面にはリザーバユニット71の外壁面まで貫通する穴73bが形成されている。また、可撓性を有する樹脂フィルム78により、リザーバユニット71の下方の外壁面側から封止されている。つまり、樹脂フィルム78が、排気流路73の内壁面の一部となっている。樹脂フィルム78は、排気流路73のインク圧の変動に伴って変位するため、インク圧の変動を抑制するダンパーとして機能する。樹脂フィルム78を用いることによって、ダンパーを安価な構成で実現することができる。なお、通常印刷時においては、樹脂フィルム78は排気流路73内に向かって僅かに凸となった状態となっている。リザーバユニット71の下方の外壁面には、穴73bを覆うように板形状の規制部材79が固定されており、樹脂フィルム78がリザーバユニット71の外側に向かって過剰に凸となるのを規制している。これにより、排気流路73のインク圧が異常に高くなったとき、樹脂フィルム78が過剰に変位して破損するのが防止される。規制部材79には、大気連通孔79aが形成されており、規制部材79と樹脂フィルム78との間が常に大気圧となっている。これにより、樹脂フィルム78が変位し易くなっている。後述のインク循環時においては、インク供給ユニット10からのインクが、流入口72aを介してインク流入流路72に流入し、インク流入流路72から排気流路73を通過して、流出口73aを介してインク供給ユニット10に還流する(図10参照)。
さらに、図3〜図5を参照しつつ、ヘッド本体2について説明する。なお、図4では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及び吐出口108を実線で描いている。
ヘッド本体2は、図3に示すように、流路ユニット9と、流路ユニット9の上面に固定された4つのアクチュエータユニット21とを有している。流路ユニット9は、図4に示すように、圧力室110等を含むインク流路が内部に形成されている。アクチュエータユニット21は、各圧力室110に対応した複数のユニモルフ型のアクチュエータを含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。
流路ユニット9は、図5に示すように、ステンレス鋼からなる金属製のプレート122〜130を互いに位置合わせしつつ積層することによって、流路ユニット9内に、マニホールド流路105から圧力室110を経て吐出口108に至る流路が形成された積層体である。図3に示すように、流路ユニット9の上面には、リザーバユニット71のインク流出流路75(図2参照)に連通する計10個のインク供給口105bが開口している。図4に示すように、流路ユニット9の内部には、インク供給口105bに連通するマニホールド流路105、及び、マニホールド流路105に含まれる複数の副マニホールド流路105aが形成されている。さらに、図5に示すように、流路ユニット9の内部には、各副マニホールド流路105aから分岐しつつ、圧力室110を介して吐出面2aに開口する吐出口108に至る複数の個別インク流路132が形成されている。吐出面2aには複数の吐出口108がマトリクス状に配置されている。
流路ユニット9におけるインクの流れについて説明する。図3〜図5に示すように、通常印刷時においては、リザーバユニット71のインク流出流路75からインク供給口105bに供給されたインクは、マニホールド流路105の副マニホールド流路105aに分配される。副マニホールド流路105a内のインクは、アパーチャ112を経由して各個別インク流路132に流れ込み、圧力室110を介して吐出口108に至る。
次に、アクチュエータユニット21について説明する。図6に示すように、アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる3枚の圧電シート141〜143から構成されているピエゾ式アクチュエータである。最上層の圧電シート141はその厚み方向に分極されている。また、圧電シート141の上面には、複数の個別電極135が形成されている。圧電シート141とその下側の圧電シート142との間にはシート全面に形成された共通電極134が介在している。複数の個別電極135と共通電極134とが圧電シート141を挟持している。
個別電極135は、圧力室110と対向している。個別電極135の先端には個別電極135と電気的に接続された個別ランド136が設けられている。個別電極135を共通電極134と異なる電位にして圧電シート141に分極方向の電界が印加されると、圧電シート141における電界印加部分が圧電効果により歪む駆動活性部として働く。これに対応して、個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、個別のアクチュエータとして働く。つまり、アクチュエータユニット21は、圧力室110の数に対応した複数のアクチュエータが作り込まれた圧電素子である。
共通電極134は、すべての圧力室110に対応する領域において等しくグランド電位が付与されている。一方、個別電極135には駆動信号が供給される。
ここで、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。例えば、分極方向と電界の印加方向とが同じであれば、駆動活性部は分極方向に直交する方向(平面方向)に縮む。ここで、アクチュエータユニット21は、圧力室110から離れた上側1枚の圧電シート141を駆動活性部が含まれる層とし、且つ圧力室110に近い下側2枚の圧電シート142、143を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプのアクチュエータである。圧電シート141〜143は圧力室110を画定するプレート122の上面に固定されているため、電界印加部分(駆動活性部)が平面方向に縮んでその下方の圧電シート142、143との間で平面方向への歪みに差が生じると、圧電シート141〜143全体が圧力室110側へ凸になるように変形(ユニモルフ変形)する。これにより圧力室110内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、ノズル108からインク滴が吐出される。
なお、本実施形態においては、予め個別電極135に所定の電位を付与しておき、吐出要求があるごとに一旦個別電極135をグランド電位にした後、所定のタイミングで再び個別電極135に所定の電位を付与するような駆動信号が供給される(図9参照)。この場合、個別電極135がグランド電位となるタイミングで圧電シート141〜143が元の状態に戻り、圧力室110の容積は初期状態(予め電圧が印加された状態)と比較して増加し、副マニホールド流路105aから個別インク流路132へとインクが吸い込まれる。その後、再び個別電極135に所定の電位が付与されたタイミングで圧電シート141〜143において活性領域と対向する部分が圧力室110側に凸となるように変形し、圧力室110の容積低下によりインクの圧力が上昇し、ノズル108からインク滴が吐出される。
インク供給ユニット10について詳細に説明する。図2に示すように、インク供給ユニット10は、サブタンク80と、サブタンク80に接続されたインク補給管81と、インク補給管81に設けられた補給ポンプ91及び補給バルブ92と、インク供給管82及びインク帰還管83と、インク供給管82に設けられたパージポンプ86と、インク帰還管83に設けられた循環バルブ87と、サブタンク80に接続された大気連通バルブ88とを有している。
サブタンク80は、インクジェットヘッド1に供給されるインクを貯溜するものであり、サブタンク80のインク量が少なくなった時、補給バルブ92が開弁され且つ補給ポンプ91が駆動されることで、インクタンク90に貯溜されたインクがインク補給管81を介して補給される。大気連通バルブ88は、サブタンク80内と大気とを連通(以下、開と称する)又は遮断(以下、閉と称する)する。通常印刷時においては、大気連通バルブ88が開となっており、サブタンク80内と大気とを連通している。これにより、サブタンク80内の気圧が、貯溜しているインクの量にかかわらず常に大気圧となり、安定したインク供給を可能にする。
インク供給管82の一端はサブタンク80に接続されており、他端はジョイント82aを介してリザーバユニット71の流入口72aに接続されている。これにより、サブタンク80のインクがインク供給管82を介してリザーバユニット71のインク流入流路72に供給される。パージポンプ86は、駆動することによって、サブタンク80のインクを、インク供給管82を介してインク流入流路72に強制的に供給する供給手段として機能する。また、パージポンプ86は、インク供給管82においてジョイント82aからサブタンク80に向かってインクが流れるのを防止する逆止弁として機能する。なお、パージポンプ86が停止している場合であっても、サブタンク80のインクは、インク供給管82を流れてリザーバユニット71に供給可能となっている。パージポンプ86は、容積型ポンプである三相ダイヤフラムポンプであり、図7に示すように、3つのダイヤフラムが互いに異なる位相で駆動し、インクを排出することによって、インク送出時の圧力変動を抑制する構成となっている。
図2に示すように、インク帰還管83の一端はサブタンク80に接続されており、他端はジョイント83aを介してリザーバユニット71の流出口73aに接続されている。循環バルブ87は、インク帰還管83における流路抵抗値を所定の最小値(以下、開と称する)と所定の最大値(以下、閉と称する)との間で調整可能な調整手段である。なお、本実施形態においては、循環バルブ87は、完全解放である開と、完全遮断(インクの通過が禁止される)である閉との切り替えを行う開閉弁であるが、流路抵抗値を任意の値で調整可能な流路制御弁であってもよい。
次に、図8を参照しつつ、制御装置16について説明する。制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。制御装置16を構成する各機能部は、これらハードウェアとEEPROM内のソフトウェアとが協働して構築されている。制御装置16は、インクジェットプリンタ101全体を制御するものであり、搬送制御部41と、画像データ記憶部42と、ヘッド制御部43と、不吐出時間検出部46と、循環・パージ制御部44と、メンテナンス制御部45とを有している。
搬送制御部41は、用紙Pが搬送方向に沿って所定の速度で搬送されるように搬送ユニット20の搬送モータを制御する。画像データ記憶部42は、用紙Pに印刷すべき画像に関する画像データを記憶する。
ヘッド制御部43は、通常印刷時において、画像データに基づいて、生成した吐出駆動信号をアクチュエータユニット21に供給する。図9(a)に示すように、吐出駆動信号は、1印刷周期において電位V1から所定時間グランド電位V0となるパルスを含む信号である。このパルス幅は、圧力波が副マニホールド流路105aの出口から吐出口108に至る距離AL(Acoustic Length)長を伝播する時間と等しい。なお、図9(a)の波形は、小滴のインク滴を吐出するときの波形であり、1つのパルスを有している。中滴のインク滴を吐出するときの波形は、2つのパルスを連続して並べて構成し、大滴のインク滴を吐出するときの波形は、3つのパルスを連続して並べて構成する。
また、ヘッド制御部43は、後述のメンテナンス動作において、全ての個別インク流路132内のインクを、吐出口108からインクを漏れ出させることなく振動させる(インク振動)インク振動信号をアクチュエータユニット21に供給する。なお、図9(b)に示すように、メニスカス振動信号は、電位V1から所定時間グランド電位V0となるパルスが所定の周期で繰り返される信号である。このパルス幅は、圧力波がAL長を伝播する時間の1/3以下であることが好ましい。
不吐出時間検出部46は、過去の吐出履歴から各インクジェットヘッド1について、最後に吐出口108からインク滴が吐出されてから現在に至るまでの経過時間を検出する。具体的には、ヘッド制御部43から出力される吐出駆動信号あるいは画像データ記憶部42のデータに基づいて経過時間を検出する。
循環・パージ制御部44は、後述のメンテナンス動作において、各インク供給ユニット10のパージポンプ86、循環バルブ87及び大気連通バルブ88の動作を制御するものである。具体的な動作内容については後述する。なお、循環・パージ制御部44は、インク補給のために補給ポンプ91と補給バルブ92も制御しているが、図8では省略している。
メンテナンス制御部45は、後述のメンテナンス動作において、メンテナンスユニット31の動作を制御するものである。
図10〜図12を参照しつつ、メンテナンス動作について説明する。メンテナンス動作は、インクジェットヘッド1のメンテナンスを行う動作であり、インクジェットプリンタ101が起動されたとき、印刷を行わない待機時間が一定時間を超えたとき、及び、ユーザから指示があったときなどに開始される。待機時及び通常印刷時には、パージポンプ86が停止しており、循環バルブ87が閉になっており、大気連通バルブ88が開となっており、また、補給ポンプ91は停止しており、補給バルブ92が閉となっている(図2参照)。
図10及び図11に示すように、メンテナンス動作が開始されると、循環・パージ制御部44は、循環バルブ87を開にし、その後、大気連通バルブ88を閉にすると同時にパージポンプ86の駆動を開始する(循環期間の開始)。これにより、サブタンク80のインクが、インク供給管82を介してインク流入流路72に強制的に供給される。このとき、循環バルブ87が開になっているため、インク流入流路72から排気流路73及びインク帰還管83を通過してサブタンク80に至る経路における流路抵抗が、インク流入流路72からインク流出流路75及びマニホールド流路105を経由して各吐出口108に至る経路の流路抵抗より小さくなる。このため、インク流入流路72に供給されたインクが、インク流出流路75に流れ込むことなく、排気流路73及びインク帰還管83を順に通過してサブタンク80に帰還するインク循環が行われる。インク循環が行われることによって、循環経路のうちパージポンプ86からサブタンク80に至るまでの流路内のインクの圧力が高くなり、インク循環によるインク流れにより、インク流入流路72内に滞留している気泡及び異物、特にフィルタ75a上に滞留している気泡及び異物が、インクと共に排気流路73及びインク帰還管83を順に通過してサブタンク80にトラップされる。
インク循環において、気泡及び異物を効率よくサブタンク80まで移動させるには、パージポンプ86における単位時間当りのインク流量を、吐出口108に形成されたインクのメニスカスが壊れて(メニスカスブレーク)吐出口108からインクが漏れ出る流量(メニスカスブレーク流量)以下の範囲で高くする必要がある(図12参照)。なお、メニスカスブレーク流量は、インクジェットヘッド1に係る流路構造、インクジェットプリンタ101内におけるインクジェットヘッド1とサブタンク80との高さ関係、インクの粘度などから算出した値、又は、実測により得られた値である。なお、パージポンプ86における単位時間当りのインク流量は、メニスカスブレーク流量未満、且つ、後に吐出口108からインクがパージされるときに、排気流路73のインク流れを急に塞ぐことで、排気流路73内およびインク流入流路72内のインク圧力が急上昇し、個別インク流路132内に滞留している気泡や異物がインクと共に吐出口108から排出可能な流量(回復可能流量)以上となっている。なお、回復可能流量は、実測により得られた値であり、予め記憶されている。別の観点から、循環バルブ87を閉じた状態で、パージポンプ86の駆動をインク流量が回復可能流量となるように開始した場合に、個別インク流路132内に滞留している気泡や異物がインクと共に全ての吐出口108から排出可能な流量を回復可能流量ということもできる。つまり、回復可能流量未満でパージポンプ86を駆動した場合は、気泡や増粘したインクが少ない個別インク流路132に係る吐出口108のみからインクが排出され続け、排出期間を長くしても、全ての吐出口108からエアや異物と共にインクが排出されない可能性がある。
図10に示すように、インク循環を行っているときは、通常印刷時と比較してインク流入流路72及び排気流路73内のインク圧が高くなるため、インク流入流路72の樹脂フィルム76が規制部材77に密着し、排気流路73の樹脂フィルム78が規制部材79に密着する。
また、大気連通バルブ88が閉になっている期間においては、サブタンク80内が負圧になる。サブタンク80内が負圧になることによって、インク流入流路72のインクが排気流路73を介してサブタンク80内に吸引され、大気連通バルブ88が開になっている場合と比較して、インク流出流路75にインクが流れ込み難くなる。これにより、メニスカスブレークが起こり難くなる。そのため、大気連通バルブ88が開になっている場合よりも、インク流入流路72内の圧力が、メニスカスブレークが起こる圧力(メニスカスブレーク圧力)に近接するように、単位時間当りのインク流量を高くすることができる。つまり、循環中のインク流入流路72の流路内圧力が同じとすると、大気連通バルブ88が閉になっている場合は、大気連通バルブ88が開になっている場合よりもインク流量が多くなり、大気連通バルブ88が閉になっている場合は、パージ期間におけるインク流入流路72の流路内圧力を大気連通バルブ88が開になっている場合よりも大きくすることができるので、個別インク流路内に滞留しているエアや異物をインクと共に吐出口108から効率よく排出することができる。この単位時間当りのインク流量は、インク循環中において、大気連通バルブ88が開になっているときに吐出口108からインクが漏れ出さない最大の量を超え、且つ、大気連通バルブ88が閉になっているときに吐出口108からインクが漏れ出さない最大の量以下である。なお、図11において、インク流入流路72に係る流路内圧力変化を示す実線波形は、インク循環において大気連通バルブ88を閉として、上述のようにインク供給量を高くした場合(本実施形態)の流路内圧力変化を示しており、破線波形は、インク循環において大気連通バルブ88が開になっている場合(インク供給量は高くされていない)の流路内圧力変化を示している。
パージポンプ86における単位時間当りのインク流量が回復可能流量以上で安定した後に、循環・パージ制御部44は、循環バルブ87を閉にすると同時に大気連通バルブ88を開にする。これにより、インク循環が停止し(循環期間の終了)、インク流入流路72に供給されたインクが、排気流路73に流れ込むことなく、インク流出流路75に流れ込み、マニホールド流路105及び各個別インク流路132を順に通過し、吐出口108から排出される(パージ期間の開始)。排出されたインクは、図示しない廃液トレイに受け止められる。
このように、パージポンプ86における単位時間当りのインク流量が回復可能流量以上でインク循環が行われている状態で、循環バルブ87を閉とすることでパージ動作が開始(インパクトパージ)されるため、パージ開始直後から、インク流入流路72におけるインク圧が高い状態となり、吐出口108内の増粘したインク、滞留している気泡及び異物を、吐出口108から効率よく排出することができる。この点、図12に示すように、このようなインパクトパージを行わない場合、つまり、インク循環をさせることなく、循環バルブ87を閉じた状態でパージポンプ86の駆動を開始し、吐出口108からインクを排出させる従来例(インパクトパージ無)の場合には、各個別インク流路132内のインク圧力が、全ての吐出口108からインクが排出される圧力を超えるまでの到達時間が長くなり、この到達時間に達するまでは、吐出口108からインクが無駄に排出される。つまり、気泡や増粘したインクが少ない個別インク流路132に係る吐出口108からのみインクが排出されるので、インクが無駄に排出されることになる。また、循環バルブ87を閉にすると同時に大気連通バルブ88が開にされるため、サブタンク80内が強制的に大気圧となり、インクが排出されるに伴ってサブタンク80内の圧力が低下するのを抑制することができる。インクが排出される際にサブタンク80内が大気を遮断されている場合は、サブタンク80内へのインク流入がなされないので、インク排出に伴ってインク内が急激に負圧となり、パージポンプ86の作動が阻害されることも考えられるが、インクが排出される際にサブタンク80を大気と連通させておけば、パージポンプ86の作動阻害のおそれを解消できる。
また、図11に示すように、ヘッド制御部43が、パージ動作が開始されると同時に、アクチュエータユニット21に対して、小滴に係る吐出駆動信号の連続供給を開始する(吐出駆動期間の開始)。これにより、全ての個別インク流路132内のインクに、吐出口108からインク滴を吐出させることができる程度の圧力が連続的に付与される。このため、個別インク流路132内のインクに圧力振動が付与され、個別インク流路132の壁面に固着している気泡や異物が、壁面から剥がされて浮遊する。壁面から剥がされた気泡や異物は、パージ動作に係るインクの流れに乗って、インクと共に吐出口108から排出される。ヘッド制御部43は、吐出駆動信号の連続供給を開始してから所定時間が経過した後に、アクチュエータユニット21に対する吐出駆動信号の連続供給を停止する(吐出駆動期間の終了)。ヘッド制御部43は、吐出駆動期間が終了した時から、所定のパージ量のインクが吐出口108から排出されるまでの期間、アクチュエータユニット21に対する駆動信号(吐出駆動信号及びインク振動信号を含む)の供給を停止する(駆動停止期間)。
一方、循環・パージ制御部44は、パージ動作が開始されてから所定のパージ量のインクが吐出口108から排出されると、再び、循環バルブ87を開にすると同時に大気連通バルブ88を閉にすることによってパージ動作を停止させる(パージ期間の終了)。パージポンプ86によるインク供給は引き続き継続されているので、これと同時に、再びインク循環が開始される。なお、パージ量は、パージポンプ86における単位時間当りのインク流量及びパージ期間の長さによって決定される。所定のパージ量を排出するための単位時間当りのインク流量及びパージ期間の長さについては実験的に求められ、予め記憶されている。循環・パージ制御部44は、温度センサ35によって検出された温度が高くなるに伴って、又は、不吐出時間検出部46によって検出された経過時間が長くなるに伴って、循環期間を長くすると共にパージ量を大きくする。
また、ヘッド制御部43は、パージ期間が終了すると同時に、インク振動信号の供給を開始する(インク振動期間の開始)。これにより、パージ動作が停止された直後において、個別インク流路132内のインクの流れが素早く整えられ、吐出口108からインクが無駄に漏れ出るのが抑制される。
その後、循環・パージ制御部44は、パージポンプ86を停止すると同時に大気連通バルブ88を開にする。これにより、インク循環が停止する。また、これと同時に、ヘッド制御部43が、インク振動信号をアクチュエータユニット21に供給するのを停止する(インク振動期間の終了)。その後、循環・パージ制御部44は、循環バルブ87を閉にする。
上述したように、インク循環、及び、パージ動作を順に実行することによって、インク流入流路72に滞留している気泡及び異物を、下流側の流路(マニホールド流路105、及び、個別インク流路132など)に流し込むことなくインクジェットヘッド1外に排出することができる。
次に、ワイプ動作が開始されると、メンテナンス制御部45が、図示しない移動機構によって4つのインクジェットヘッド1を上方に移動させた後、4つのワイパ部材32の先端を対向する吐出面2aに接触させつつ、各ワイパ部材32を吐出面2aに沿って主走査方向に移動させる。これにより、パージ動作によって吐出面2aに付着した余分なインクが除去されると共に、吐出口108に形成されるメニスカスが整えられる。各吐出面2aがワイプされた後、メンテナンス制御部45は、4つのワイパ部材32及び各インクジェットヘッド1を通常の位置に戻し、循環・パージ制御部44が循環バルブ87を開く。以上で、ワイプ動作が完了する。
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ101によると、インク循環を行うことによって循環経路のうちパージポンプ86からサブタンク80に至るまでの流路内の圧力が高くなる。この状態で、循環バルブ87を閉にすることによって、瞬時に流路内の圧力を高くしつつ吐出口108からインクを排出することができる。これにより、パージ開始時から全ての吐出口108に高い圧力が付与されてインクが排出されるため、吐出口108内の増粘したインク、気泡及び異物を効率よく排出することができると共に、インクが無駄に排出されるのを抑制することができる。さらに、パージ期間中において、全ての個別インク流路132内のインクに圧力振動が付与されるため、個別インク流路132の壁面に固着している気泡や異物が壁面から剥がれて排出されやすくなり、各吐出口108における排出特性の均一化を図ることができる。このため、インクが無駄に排出されるのをさらに抑制しつつ、吐出口108内の増粘したインクと共に気泡及び異物を効率よく排出することができる。
また、循環・パージ制御部44が循環バルブ87を閉にしてインク循環を停止させると同時に、ヘッド制御部43がアクチュエータユニット21に対する吐出駆動信号の連続供給を開始するため、パージ動作が開始されると共に個別インク流路132内のインクに圧力振動の付与が開始される。このため、吐出口108からインクが排出される当初から、個別インク流路132の壁面に固着している気泡や異物が壁面から剥がれて排出されやすくなる。結果として、インクが排出されにくい吐出口108の発生が抑制され、各吐出口108における排出特性の均一化を図ることができる。これにより、排出当初から全ての吐出口108から均一に安定して液体が排出されやすくなり、インクが無駄に排出されるのをさらに抑制することができる。
さらに、パージ期間において、吐出駆動期間が終了した後に駆動停止期間が設けられているため、駆動停止期間においては、ヘッド制御部43がアクチュエータユニット21に吐出駆動信号を供給することがなく、個別インク流路132内に新たに圧力振動が発生することがない。このため、圧力振動が、個別インク流路132内のインクを吐出口108から排出させない方向に作用するのを抑制することができる。これにより、吐出駆動期間において個別インク流路132の壁面から剥がれた気泡や異物を、駆動停止期間において、吐出口108から効率よく排出させることができる。
さらに、ヘッド制御部43が、吐出駆動期間において、吐出口108から小滴のインク滴を吐出させるための吐出駆動駆動信号をアクチュエータユニット21に供給するため、パージ期間において、吐出口108からのインクの排出が促進され、各吐出口108における排出特性の均一化をさらに図ることができる。
さらに、ヘッド制御部43は、パージ期間が終了すると同時に、アクチュエータユニット21に対するインク振動信号の供給を開始するため、パージ動作が停止された直後において、個別インク流路132内のインクの流れが素早く整えられ、吐出口108からインクが無駄に漏れ出るのが抑制される。
加えて、アクチュエータユニット21が、吐出口108からインク滴を吐出するための吐出エネルギー、及び、個別インク流路132内のインクを振動させる振動エネルギーを発生させるピエゾ式アクチュエータであるため、振動エネルギーを発生させるための他の機構を別途設ける必要がなく、インクジェットヘッド1の低コスト化を図ることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。上述の実施形態では、ヘッド制御部43が、パージ期間が開始されてから所定時間が経過するまでの吐出駆動期間においてのみ、アクチュエータユニット21に吐出駆動信号を供給する構成であるが、吐出駆動期間は、パージ期間が開始された後に開始されてもよいし、パージ期間と同時に終了してもよいし、さらには、吐出駆動期間が、パージ期間と一致していてもよい。
また、上述の実施形態においては、ヘッド制御部43が、吐出駆動期間において、アクチュエータユニット21に吐出駆動信号を供給する構成であるが、当該期間において、アクチュエータユニット21にインク振動信号を供給してもよいし、吐出駆動信号及びインク振動信号の両方を供給してもよい。
さらには、上述の実施形態においては、ヘッド制御部43が、吐出駆動期間において、アクチュエータユニット21に小滴のインク滴を吐出させる吐出駆動信号を連続的に供給する構成であるが、中滴又は大滴のインク滴を吐出させる吐出駆動信号を連続的に供給する構成であってもよいし、いずれかの吐出駆動信号を1回のみ供給する構成であってもよい。
さらに、上述の実施形態においては、ヘッド制御部43が、パージ期間前の循環期間において、アクチュエータユニット21に駆動信号を供給しない構成であるが、パージ期間前の循環期間において、アクチュエータユニット21にインク振動信号を供給する構成であってもよい。これにより、循環期間において、個別インク流路132内のインクを振動させることができるため、個別インク流路132の壁面に固着した気泡や異物を剥がすことができる。
加えて、上述の実施形態においては、ヘッド制御部43が、パージ期間が終了すると同時に、アクチュエータユニット21にインク振動信号を供給する構成であるが、パージ期間が終了した後にインク振動信号を供給してもよいし、インク振動信号を供給しない構成であってもよい。
また、上述の実施形態においては、アクチュエータユニット21が、吐出口108からインク滴を吐出させるための吐出エネルギーを発生させるアクチュエータと、個別インク流路132内の液体に圧力振動を付与するアクチュエータとを兼ねている構成であるが、アクチュエータユニット21以外のアクチュエータを別途設け、当該アクチュエータにより圧力振動を付与する構成であってもよい。
さらに、上述の実施形態においては、アクチュエータユニット21が、ピエゾ式アクチュエータである構成であるが、サーマル式アクチュエータなど、他の方式のアクチュエータであってもよい。
本発明は、インク以外の液体を吐出する記録装置にも適用可能である。さらに、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。