以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、大腿骨にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位側の部分である大腿骨遠位部に対して近位側の部分である大腿骨近位部を固定して治療するための大腿骨骨折治療装置に関して広く適用することができるものである。
図1は、本発明の一実施の形態に係る大腿骨骨折治療装置1について一部切欠き断面の状態で示す正面図である。また、図2は、骨折が発生した大腿骨100に対して大腿骨骨折治療装置1が適用された状態について大腿骨100の一部断面とともに示す図である。尚、図3乃至図10では、大腿骨骨折治療装置1における構成要素を図示しているが、図面において図示する各構成要素については、図面ごとに適宜拡大して図示している。
図2に示すように、大腿骨骨折治療装置1は、大腿骨100にて骨折が発生した際に大腿骨100における骨折位置100aから遠位側の部分である大腿骨遠位部101に対して近位側の部分である大腿骨近位部102を固定して治療するための装置として設けられている。本実施形態では、大腿骨100における骨頭を含む部分としての大腿骨近位部102と大腿骨遠位部101との間で骨折が発生した場合を例示している。尚、大腿骨100において、相対的に体幹に近い側を「近位」といい、相対的に体幹から遠い側を「遠位」という。
図1及び図2に示すように、大腿骨骨折治療装置1は、髄内釘11、ラグスクリュー12、スリーブ13、近位部圧迫機構14、スリーブ固定機構15、回旋防止スクリュー16、等を備えて構成されている。尚、髄内釘11、ラグスクリュー12、スリーブ13、近位部圧迫機構14、スリーブ固定機構15、回旋防止スクリュー16は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属材料により形成されている。
図1及び図2にて一部切欠き断面の状態で示す髄内釘11は、大腿骨遠位部101の髄腔101a内に挿入される棒状に形成されている。この髄内釘11は、例えば、髄腔101a内に挿入される先端側である一端側の部分が細く形成され、先端側と反対側でラグスクリュー12が貫通状態で配置される他端側の部分が一端側の部分よりも太く形成されている。
また髄内釘11には、スリーブ貫通孔11a、スリーブ固定機構設置孔11b、回旋防止スクリュー貫通孔11c、等が設けられている。スリーブ貫通孔11aは、髄内釘11における上記の他端側の部分に設けられており、髄内釘11が大腿骨100の髄腔101a内に配置された状態で遠位側から近位側に向かって且つ人体における上方に向かって斜めに延びるように貫通形成された孔として設けられている。そして、このスリーブ貫通孔11aには、スリーブ13及びラグスクリュー12が貫通状態で配置される。
スリーブ固定機構設置孔11bは、髄内釘11における他端側の部分に設けられており、髄内釘11が髄腔101a内に配置された状態で人体における上下方向に沿って延びるように貫通形成された孔として設けられている。そして、このスリーブ固定機構設置孔11bには、スリーブ固定機構15が設置されるとともに、このスリーブ固定機構15における後述のセットスクリュー20の本体部20aの外周の本体雄ネジ部分20dが螺合する雌ネジ部分が設けられている。
回旋防止スクリュー貫通孔11cは、髄内釘11における上記の一端側の部分に設けられており、髄内釘11の長手方向に対して直交する方向に沿って貫通形成された孔として設けられている。そして、この回旋防止スクリュー貫通孔11cには、回旋防止スクリュー16が貫通状態で配置される。
図3は、ラグスクリュー12を示す正面図(図3(a))とその一方の端部側から見た図(図3(b))である。尚、図3(a)は、ラグスクリュー12の中心線を一点鎖線Pで図示するとともに、一部切欠き断面を含む図として図示している。また、図3(b)は、図3(a)のラグスクリュー12についてA線矢視方向から見た図を示している。
図1乃至図3に示すように、ラグスクリュー12は、筒状のスリーブ13をその筒孔13a(図4参照)に沿って貫通する軸状の部材として設けられている。そして、ラグスクリュー12は、先端側に雄ネジ部分として形成されたスクリュー部12aが設けられ、スクリュー部12aと反対側の端部に近位部圧迫機構14が取り付けられる圧迫機構取付端部12bが設けられている。このラグスクリュー12は、先端側のスクリュー部12aにおいて大腿骨近位部102に対して螺合して係合することで固定される本実施形態の近位部係合部材を構成している。
また、ラグスクリュー12の圧迫機構取付端部12bの内側には、近位部圧迫機構14における後述の軸状部材17が挿入される挿入孔12cが形成されている。そして、挿入孔12cにおける奥側には、軸状部材17の雄ネジ部分17d(図7参照)が螺合して固定される雌ネジ部分12dが設けられている。尚、ラグスクリュー12は、1つの部材によって一体形成されていてもよく、また、複数の部材が固定されることで一体化されて構成されていてもよい。また、本実施形態のラグスクリュー12は、スクリュー部12aの最大直径がスリーブ13の筒孔13aの内周の直径よりも大きく設定され、スクリュー部12aとは反対側の端部からスリーブ13の筒孔13aに挿入されるように構成されている。そして、このラグスクリュー12は、スリーブ13に対して貫通するように挿入されて組み立てられた状態で、大腿骨遠位部101に配置された髄内釘11のスリーブ貫通孔11aに対してスリーブ13とともに挿入される。尚、本実施形態の例に限らず、ラグスクリュー12とスリーブ13とが個別にスリーブ貫通孔11aに挿入される形態のラグスクリュー及びスリーブを実施してもよい。
図4は、スリーブ13を示す断面図である。図1、図2及び図4に示すように、スリーブ13は、円筒状の部材として形成されており、髄内釘11に対して、髄内釘11におけるスリーブ貫通孔11aを貫通した状態で配置される。そして、この状態で、スリーブ13は、スリーブ固定機構設置孔11bに設置されるスリーブ固定機構15によって髄内釘11に固定される。また、円筒状のスリーブ13における内側の円形断面の貫通孔として設けられた筒孔13aは、ラグスクリュー12がスライド移動自在に挿通可能に構成されている。筒孔13aに挿通されたラグスクリュー12は、筒孔13aを貫通した状態で大腿骨近位部102に螺合することになる。また、筒孔13aにおける一方の端部側の内周には、近位部圧迫機構14における後述のキャップ部材18のスリーブ螺合部18b(図7参照)に螺合する雌ネジ部分13bが設けられている。
図5は、スリーブ固定機構15を示す正面図(図5(a))及び側面図(図5(b))である。図1、図2及び図5に示すスリーブ固定機構15は、スリーブ押さえ部材19とセットスクリュー20とを備えて構成されている。また、図6は、セットスクリュー20について一部切欠き断面の状態で示す正面図である。図2に示すように、スリーブ固定機構15は、髄内釘11に対してスリーブ13を固定するための機構として設けられている。
図5に示すように、スリーブ押さえ部材19は、円環状に形成された環状頭部19aと、環状頭部19aにおける一方の端面から平行に突出する一対の脚部(19b、19b)とを備えて構成されている。尚、一対の脚部(19b、19b)は、環状頭部19aの周方向において、環状頭部19aの直径方向で対向する位置において、環状頭部19aから平行にそれぞれ片持ち状に突出するように設けられている。この一対の脚部(19b、19b)の先端部は、それぞれスリーブ13に当接する部分として設けられている(図2参照)。そして、スリーブ押さえ部材19がセットスクリュー20によって付勢されることで、一対の脚部(19b、19b)がスリーブ13を押さえて固定することになる。また、環状頭部19aの内周側には、セットスクリュー20の先端部20bの外周の先端雄ネジ部分20eに螺合可能な雌ネジ部分が設けられている。
セットスクリュー20は、外周にネジが形成されるとともに短い円筒状の部分が段状に直列に一体形成された部材として設けられている。そして、このセットスクリュー20には、本体部20a、先端部20b、縮径部20cが備えられている。本体部20aは、最も外周の直径が大きい部分として設けられている。そして、先端部20bは、本体部20aとは反対側の先端側で本体部20aよりも外周の直径が小さい部分として設けられている。縮径部20cは、本体部20aと先端部20bとの間に配置された部分として設けられ、先端部20bよりも外周の直径が小さく縮径した部分として設けられている。
また、セットスクリュー20の本体部20aには、その外周に、本体雄ネジ部分20dが設けられている。この本体雄ネジ部分20dは、髄内釘11のスリーブ固定機構設置孔11bの内周の雌ネジ部分に螺合するように構成されている(図2、図5及び図6を参照)。また、本体部20aの内側には、六角孔20fが設けられている。スリーブ固定機構設置孔11bの雌ネジ部分へ本体雄ネジ部分20dを螺合させる操作が行われる場合には、工具として用いられる図示しない手術器具の端部が六角孔20fに挿入され、この手術器具の回転操作が行われることになる。また、セットスクリュー20の先端部20bには、その外周に、先端雄ネジ部分20eが設けられている。この先端雄ネジ部分20eは、スリーブ押さえ部材19の環状頭部19aの内側の雌ネジ部分に螺合可能に構成されている。
セットスクリュー20のスリーブ押さえ部材19への取り付けの際には、先端雄ネジ部分20eを環状頭部19aの雌ネジ部分に螺合させる操作が行われる。そして、先端雄ネジ部分20eと環状頭部19aの雌ネジ部分との螺合が外れ、先端部20bが環状頭部19aを貫通して通過してしまう状態になるまで、環状頭部19aに対するセットスクリュー20の回転操作が行われる。先端部20bが環状頭部19aを通過した状態となると、セットスクリュー20は、その縮径部20cが環状頭部19aの内側に遊嵌状態で配置された状態となる。
上記の状態では、セットスクリュー20は、先端部20bの縮径部20c側の縁部において、環状頭部19aにおける一対の脚部(19b、19b)が突出する側の端面に対して当接可能となり、スリーブ押さえ部材19に係止されることになる。また、この状態では、セットスクリュー20は、本体部20aの縮径部20c側の縁部において、環状頭部19aにおける一対の脚部(19b、19b)が突出する側と反対側の端面に対して当接可能となる。そして、本体雄ネジ部分20dのスリーブ固定機構設置孔11bの雌ネジ部分に対する前述の螺合操作が行われることで、セットスクリュー20の本体部20aによって環状頭部19aが付勢され、一対の脚部(19b、19b)がスリーブ13を髄内釘11に対して押さえて固定することになる。
尚、スリーブ固定機構15がスリーブ固定機構設置孔11bに設置された状態では、スリーブ押さえ部材19の一対の脚部(19b、19b)は、スリーブ貫通孔11a内においてスリーブ13に当接するように配置される。そして、スリーブ押さえ部材19がセットスクリュー20の本体部20aによって付勢されることで、スリーブ13は、一対の脚部(19b、19b)とスリーブ貫通孔11aの内周面との間で固定されることになる。
図7は、近位部圧迫機構14を示す正面図(図7(a))及びその一方の端部側から見た図(図7(b))である。尚、図7(b)は、図7(a)の近位部圧迫機構14についてB線矢視方向から見た図を示している。また、図8は、近位部圧迫機構14について一部切欠き断面の状態で示す正面図である。図1、図2、図7及び図8に示す近位部圧迫機構14は、ラグスクリュー12に固定されるとともにスリーブ13に当接して大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に対して圧迫して引き寄せるように付勢する機構として設けられている。そして、近位部圧迫機構14は、軸状部材17とキャップ部材18とを備えて構成されている。
図9は、軸状部材17について一部切欠き断面の状態で示す正面図(図9(a))及びその一方の端部側から見た図(図9(b))である。尚、図9(b)は、図9(a)の軸状部材17についてC線矢視方向から見た図を示している。図2、図7乃至図9に示す軸状部材17は、ラグスクリュー12に対して固定されるとともに軸状に形成された部材として設けられている。
軸状部材17には、頭部17aと、頭部17aから円柱状に突出して延びる軸部17bとが設けられている。そして、頭部17aの外周には、雄ネジ部分17cが設けられており、頭部17aの内側には、六角孔17eが設けられている。また、軸部17bの外周には、雄ネジ部分17dが設けられている。
また、軸状部材17は、後述のように、軸部17bが先端側からキャップ部材18を貫通して頭部17aにおいてキャップ部材18に遊嵌状態で保持される。そして、この状態で、軸状部材17は、軸部17bがラグスクリュー12の挿入孔12cに挿入されるとともに、雄ネジ部分17dにて挿入孔12cの内側の雌ネジ部分12dに対して螺合し、これにより、ラグスクリュー12に対して固定される。このように、軸状部材17は、雄ネジ部分17dが設けられていることで、ラグスクリュー12に螺合するスクリュー部材として設けられている。尚、軸状部材17を雄ネジ部分17dにてラグスクリュー12の雌ネジ部分12dへ螺合させる操作が行われる際には、工具として用いられる図示しない手術器具の端部が六角孔17eに挿入されて、この手術器具の回転操作が行われる。これにより、軸状部材17のラグスクリュー12への螺合操作が行われる。
図10は、キャップ部材18について一部切欠き断面の状態で示す正面図(図10(a))及びその一方の端部側から見た図(図10(b))である。尚、図10(b)は、図10(a)についてD線矢視方向から見た図を示している。図2、図7、図8及び図10に示すキャップ部材18は、軸状部材17とは別部材として設けられ、軸状部材17に係合するとともにスリーブ13に対して固定される部材として設けられている。
また、キャップ部材18は、短い筒状の部分が段状に直列に一体形成された部材として設けられている。そして、キャップ部材18には、径方向寸法が最も大きい部分として設けられたスリーブ当接部18aが一方の端部側に設けられ、スリーブ当接部18aよりも径方向寸法が小さい部分として設けられたスリーブ螺合部18bが他方の端部側に設けられている。尚、スリーブ当接部18aの外周は、工具として用いられる図示しない手術器具による回転操作が可能なように六角形状に形成されている。
スリーブ螺合部18bは、スリーブ13の筒孔13a内に挿入可能に構成されており、更に、スリーブ螺合部18bの外周には、筒孔13aの内周の雌ネジ部分13bに螺合する雄ネジ部分が設けられている。キャップ部材18は、このスリーブ螺合部18bが設けられていることで、スリーブ13の内周に対して螺合することで固定されるように構成されている。また、スリーブ当接部18aは、スリーブ螺合部18bがスリーブ13の雌ネジ部分13bに奥まで螺合することで、スリーブ螺合部18b側の端部の縁部分にて、スリーブ13におけるスリーブ螺合部18bが挿入された側の端部の端面に当接するように構成されている。これにより、キャップ部材18は、スリーブ13に対してスリーブ螺合部18bにて十分に螺合すると、スリーブ当接部18aにてスリーブ13に当接して停止することになる。
また、キャップ部材18には、中央部分を貫通する中央貫通孔18cが設けられている。そして、この中央貫通孔18cにおけるスリーブ当接部18aの内側には、軸状部材17の頭部17aの外周の雄ネジ部分17cに螺合可能な雌ネジ部分18dが設けられている。また、中央貫通孔18におけるスリーブ螺合部18bの内側で広がる空間領域は、軸状部材17の頭部17aが遊嵌状態で配置される遊嵌領域18eとして構成されている。
尚、軸状部材17及びキャップ部材18が図8に示す状態となるように組み立てられる際には、軸状部材17の軸部17bの先端側がキャップ部材18の中央貫通孔18cを貫通するように挿通される。軸部17bの先端側がキャップ部材18を貫通すると、その後、先端側と反対側の端部である頭部17aをキャップ部材18の内周の雌ネジ部分18dに螺合させる操作が行われる。そして、頭部17aの外周の雄ネジ部分17cとキャップ部材18の内周の雌ネジ部分18dとの螺合が外れ、頭部18aが遊嵌領域18e内に配置された状態となる。このように、軸状部材17は、先端側がキャップ部材18を貫通した後、先端側と反対側の端部の頭部17aが、キャップ部材18の内周への螺合動作を経てキャップ部材18に対してその内側で遊嵌状態で保持されるように構成されている。
また、キャップ部材18の内壁において、遊嵌領域18eにおける一方の端部側に対応して配置されてスリーブ螺合部18bの端部における中央貫通孔18cの開口に連続する部分には、遊嵌領域18eから上記開口にかけて縮径して窄まるように形成された第1係合部18fが設けられている。キャップ部材18がスリーブ螺合部18bでスリーブ13に螺合してスリーブ当接部18aでスリーブ13に当接した状態において、軸状部材17が雄ネジ部分17dにてラグスクリュー12の雌ネジ部分12dに螺合されると、軸状部材17の頭部17aが第1係合部18fに当接して係合することになる。これにより、近位部圧迫機構14は、軸状部材17にてラグスクリュー12に固定されるとともにキャップ部材18にてスリーブ13に当接して大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に対して圧迫して引き寄せるように付勢する付勢力を発揮可能なように構成されている。
また、キャップ部材18の内壁において、遊嵌領域18eにおける他方の端部側に対応して配置されて雌ネジ部分18dに連続する部分には、遊嵌領域18eから雌ネジ部分18dにかけて縮径して窄まるように形成された第2係合部18gが設けられている。尚、この第2係合部18gは、雌ネジ部分18dの端部としても構成されている。大腿骨骨折治療装置1を設置する手術が完了した後に、術後の荷重負荷によって骨折部分に変形等が発生した場合、ラグスクリュー12及び軸状部材17に対してスリーブ13内でスライド移動させる方向の力が発生し得ることになる。この力が発生した場合、軸状部材17の頭部17aが第2係合部18gに当接して係合することになる。これにより、ラグスクリュー12及び軸状部材17のスリーブ13内でのスライド移動が防止されることになる。
尚、近位部圧迫機構14においては、スクリュー部材としての軸状部材17の雄ネジ部分17dのネジのピッチと、キャップ部材18の外周に設けられてスリーブ13に固定されるスリーブ螺合部18bの雄ネジ部分のネジのピッチとが、同一となるように構成されている。このため、近位部圧迫機構14をラグスクリュー12及びスリーブ13に対して取り付ける際には、軸状部材17の雄ネジ部分17d及びラグスクリュー12の雌ネジ部分12dの螺合動作と、スリーブ螺合部18bの雄ネジ部分及びスリーブ13の雌ネジ部分13bの螺合動作とを、同期させて行うことができる。
上記のように、軸状部材17及びキャップ部材18を同期して回転させることで、軸状部材17のラグスクリュー12への螺合とキャップ部材18のスリーブ13への螺合とを同時に行わせる場合、例えば、軸状部材17とキャップ部材18とを同時に回転可能な工具として用いられる手術器具を用いてもよい。この手術器具としては、例えば、キャップ部材18のスリーブ当接部18aの外周の六角形状の部分に嵌まり込むソケット部と、軸状部材17の頭部17cの六角孔17eに嵌まり込むレンチ部と、が同心に配置された二重ドライバ構造の手術器具を用いることができる。また、上記のソケット部とレンチ部とは、同時に回転させる操作と、ソケット部に対してレンチ部を独立して回転させる操作とが可能に構成されていてもよい。この場合、ソケット部とレンチ部とを同時回転させることで、軸状部材17のラグスクリュー12への螺合とキャップ部材18のスリーブ13への螺合とを同時に行うことができる。そして、キャップ部材18へのスリーブ13への固定が完了した状態で、レンチ部を単独で回転させることで、軸状部材17のラグスクリュー12への更なる螺合を行い、大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に対して圧迫して引き寄せる付勢力を発生させることができる。
図1及び図2に示す回旋防止スクリュー16は、髄内釘11に設けられた回旋防止スクリュー貫通孔11cに挿通されて貫通するように構成されている。そして、この回旋防止スクリュー16には、大腿骨遠位部101に螺合する雄ネジ部分が設けられている。この回旋防止スクリュー16が、髄内釘11の回旋防止スクリュー貫通孔11cに貫通した状態で大腿骨遠位部101に螺合することで、髄内釘11の大腿骨遠位部101に対する回旋方向の変位が規制されて防止されることになる。また、回旋防止スクリュー16は、髄内釘11を貫通した状態で大腿骨遠位部101に螺合することで、髄内釘11が髄腔101a内で奥側に向かって沈み込む変位も規制し、髄内釘11の髄腔101a内での沈み込み防止も図られるように構成されている。
上述した大腿骨骨折治療装置1が、大腿骨100にて骨折が発生した際に、図2に示すように、骨折位置100aの遠位側の大腿骨遠位部101に対して近位側の大腿骨近位部102を固定して治療するために用いられることになる。大腿骨骨折治療装置1が設置されて大腿骨近位部102が大腿骨遠位部101に固定される手術が行われる場合、術者によって、髄内釘11が大腿骨遠位部101の髄腔101a内に挿入され、その後、筒孔13aをラグスクリュー12が貫通した状態のスリーブ13がラグスクリュー12とともに髄内釘11のスリーブ貫通孔11aに挿通される。尚、大腿骨100においては、予めスリーブ13及びラグスクリュー12が挿通される孔の加工が行われる。
上記のように、ラグスクリュー12がスリーブ13を貫通した状態に組み立てられたラグスクリュー12及びスリーブ13が、大腿骨遠位部101にて髄内釘11に貫通配置される。そして、このとき、ラグスクリュー12は、スクリュー部12aが大腿骨近位部102に対して十分に螺合して固定された状態となるように、大腿骨100に対して設置される。
上記のように、髄内釘11のスリーブ貫通孔11aにスリーブ13が配置され、ラグスクリュー12が大腿骨近位部102に固定されるとともにスリーブ13の筒孔13aに配置された状態で、近位部圧迫機構14がラグスクリュー12及びスリーブ13に対して取り付けられる。近位部圧迫機構14の取り付けにおいては、前述のように軸状部材17とキャップ部材18とが組み立てられた状態(図8に示す状態)の近位部圧迫機構14が用いられる。
近位部圧迫機構14の取り付けの際には、軸状部材17の軸部17bがラグスクリュー12の挿入孔12cに挿入され、軸状部材17の雄ネジ部分17dをラグスクリュー12の雌ネジ部分12dに螺合させるように、軸状部材17の回転操作が行われる。そして、キャップ部材18のスリーブ螺合部18bがスリーブ13の筒孔13aに挿入され、スリーブ螺合部18bの雄ネジ部分をスリーブ13の雌ネジ部分13bに螺合させるように、キャップ部材18の回転操作が行われる。このとき、例えば、前述した二重ドライバ構造の手術器具が用いられる。この二重ドライバ構造の手術器具が用いられることで、軸状部材17のラグスクリュー12への螺合とキャップ部材18のスリーブ13への螺合とが同時に行われることになる。
キャップ部材18のスリーブ螺合部18bがスリーブ13の雌ネジ部分13bに奥まで螺合すると、スリーブ当接部18aのスリーブ螺合部18b側の端部の縁部分が、スリーブ13の端部の端面に当接する。これにより、キャップ部材18が、スリーブ13に当接して停止することになる。一方、このとき、軸状部材17は、その頭部17aがキャップ部材18における遊嵌領域18eにて遊嵌状態で保持されている。このため、軸状部材17が単独で回転操作可能な状態となっている。
上記の状態において、軸状部材17が更に回転操作されることで、軸状部材17の雄ネジ部分17dとラグスクリュー12の雌ネジ部分12dとが更に深く螺合することになる。そして、軸状部材17は、スリーブ13に当接したキャップ部材18の第1係合部18fに頭部17aが係合した状態で、上記の螺合動作によって、ラグスクリュー12を引き寄せるように付勢することになる。これにより、大腿骨近位部102が大腿骨遠位部101に対して圧迫されて引き寄せられるように付勢される。そして、大腿骨遠位部101に対する大腿骨近位部102の圧迫力が適切な水準に達したときに、上記の螺合操作が終了される。
また、上述した近位部圧迫機構14の取り付け操作に加え、スリーブ固定機構15の取り付け操作と回旋防止スクリュー16の取り付け操作とが行われる。スリーブ固定機構15の取り付けにおいては、前述のようにスリーブ押さえ部材19の環状頭部19aにセットスクリュー20が遊嵌状態で取り付けられた状態(図5に示す状態)のスリーブ固定機構15が用いられる。
スリーブ固定機構15の取り付けの際には、スリーブ押さえ部材19及びセットスクリュー20が髄内釘11のスリーブ固定機構設置孔11bに挿入されて設置される。このとき、スリーブ押さえ部材19における一対の脚部(19b、19b)がスリーブ13をスリーブ貫通孔11a内で押さえた状態となるように、スリーブ押さえ部材19が配置される。また、セットスクリュー20の本体雄ネジ部分20dをスリーブ固定機構設置孔11bの内周の雌ネジ部分に螺合させるように、セットスクリュー20の回転操作が行われる。これにより、セットスクリュー20の本体部20aによってスリーブ押さえ部材19の環状頭部19aが付勢され、一対の脚部(19b、19b)がスリーブ13を髄内釘11に対して押さえて固定することになる。
回旋防止スクリュー16の取り付けの際には、大腿骨遠位部101において予め加工された孔に対して回旋防止スクリュー16が回転操作されながら挿入される。これにより、回旋防止スクリュー16は、その雌ネジ部分にて大腿骨遠位部101に螺合しながら、髄腔101a内に配置された髄内釘11の回旋防止スクリュー貫通孔11cに挿通される。そして、回旋防止スクリュー貫通孔11cを回旋防止スクリュー16が貫通するとともに大腿骨遠位部101に螺合して貫通した状態で、回旋防止スクリュー16の取り付けが終了することになる。
上記によって、図2に示す状態となり、大腿骨骨折治療装置1の大腿骨100への設置が完了し、大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に固定する作業が終了することになる。そして、大腿骨近位部102は、大腿骨遠位部101に対して圧迫された状態で固定されることになる。尚、大腿骨骨折治療装置1を設置する手術が完了した後に、術後の荷重負荷によって骨折部分に変形等が発生した場合は、前述のように、軸状部材17の頭部17aが第2係合部18gに当接して係合することになる。これにより、ラグスクリュー12及び軸状部材17のスリーブ13内でのスライド移動が防止されることになる。
以上説明した大腿骨骨折治療装置1によると、大腿骨遠位部101の髄腔101a内に髄内釘11が挿入され、髄内釘11に固定されるスリーブ13の筒孔13aを貫通した近位部係合部材であるラグスクリュー12が大腿骨近位部102に固定される。そして、ラグスクリュー12に固定されるとともにスリーブ13に当接する近位部圧迫機構14によって、大腿骨近位部102が大腿骨遠位部101に対して圧迫されて引き寄せられるように付勢される。これにより、大腿骨100の骨折部分の骨癒合を促進して骨折治療を行うことができる。また、近位部圧迫機構14は、別部材としての軸状部材17及びキャップ部材18が設けられ、軸状部材17がラグスクリュー12に固定され、キャップ部材18が軸状部材17に係合するとともにスリーブ13に固定される。このため、ラグスクリュー12を介して大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に圧迫して引き寄せるように付勢できるとともにスリーブ13に対しても固定された近位部圧迫機構14を実現することができる。よって、術後の荷重負荷によって骨折部分に変形等が発生した場合であっても、骨折部分を固定するとともに大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に対して圧迫して引き寄せるように付勢する機構であるラグスクリュー12及び近位部圧迫機構14が、スリーブ13に対してスライド移動してしまうことがなく、大腿骨100の外側にずれて突出してしまうことが防止される。
従って、本実施形態によると、骨折部分を固定するとともに大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に対して圧迫して引き寄せるように付勢する機構が大腿骨100の外側にずれて突出してしまうことを防止することができる、大腿骨骨折治療装置1を提供することができる。
また、大腿骨骨折治療装置1によると、軸状部材17は、スクリュー部材として構成され、ラグスクリュー12に螺合して固定されることで、大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に圧迫して引き寄せるように付勢することができる。よって、軸状部材17にネジ部分を形成した簡素でコンパクトな構成によって、大腿骨近位部102を大腿骨遠位部101に圧迫する構造を構築することができる。
また、大腿骨骨折治療装置1によると、キャップ部材18は、スリーブ13に対して螺合することで固定されるよう構成される。このため、ネジ部分を形成した簡素な構成によって、スリーブ13に固定されるキャップ部材18を構築することができる。また、筒状のスリーブ13の内周に対して螺合して固定されるため、キャップ部材18をスリーブ13に対して同軸上でスペース効率良く固定してコンパクトに配置することができる。
また、大腿骨骨折治療装置1によると、ラグスクリュー12に螺合する軸状部材17のネジのピッチと、キャップ部材18の外周でスリーブ13の内周に螺合するネジのピッチとが、同一であるため、軸状部材17及びキャップ部材18を同期して回転させることができる。これにより、軸状部材17のラグスクリュー12への螺合とキャップ部材18のスリーブ13への螺合とを同時に行わせることができる。
また、大腿骨骨折治療装置1によると、軸状部材17は、先端側がキャップ部18を貫通し、その反対側の端部である頭部17aにおいて、キャップ部材18への螺合動作を経て遊嵌状態でキャップ部材18に対して保持される。このため、軸状部材17及びキャップ部材18を互いに相対回転可能な状態で個別に回転操作可能に構成できるとともに、軸状部材17及びキャップ部材18を同軸上でコンパクトに配置した状態で軸状部材17とキャップ部材18とを係合させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)大腿骨骨折治療装置は、図2にて例示した大腿骨の骨折の形態に限らず、種々の形態の大腿骨の骨折に対して適用することができる。また、近位部係合部材として、上述の実施形態では、ラグスクリューの形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、大腿骨近位部に係合して固定されるものであればよい。例えば、螺旋状の溝が形成された先端部分が形成され、この螺旋状の溝で大腿骨近位部に係合して固定される形態であってもよい。
(2)上述の実施形態では、スリーブが髄内釘を貫通する形態を例にとって説明したが、この通りでなくもよい。髄内釘がスリーブを貫通するように構成される形態であってもよい。また、スリーブを髄内釘に固定する形態として、上述の実施形態では、スリーブ固定機構が用いられる形態を説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、スリーブの外周に髄内釘に対して螺合するネジ部分が形成され、螺合によってスリーブが髄内釘に固定される形態であってもよい。また、スリーブ固定機構の形態についても、上述の実施形態で例示した形態に限らず、種々変更して実施してもよい。
(3)上述の実施形態では、近位部係合部材に螺合するスクリュー部材として設けられた軸状部材を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、軸状部材として、近位部係合部材に挿入された後に所定角度回転操作されることで突起部分で近位部係合部材に嵌まり込むように構成されるものであってもよい。また、上述の実施形態では、キャップ部材がスリーブの内周に対して螺合して固定される形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、螺合以外の形態によってキャップ部材がスリーブに固定されてもよい。
(4)上述の実施形態では、スクリュー部材としての軸状部材のネジのピッチと、キャップ部材の外周に設けられてスリーブに固定されるネジのピッチとが同一である形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、上記の各ピッチが異なっていてもよい。
(5)上述の実施形態では、近位部圧迫機構が近位部係合部材及びスリーブに取り付けられる際に、軸状部材がキャップ部材に遊嵌状態で保持されるように組み立てられる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。軸状部材及びキャップ部材の取り付け作業が、個別に行われる形態であってもよい。