JP2007177326A - 低降伏比を有する高張力薄肉鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.045〜0.18%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.6〜2.0%を含み、P、S、Al、Nを適正量含み、さらにMo、Wを、(Mo+W/2)が0.08〜0.70%を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成の鋼素材に、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる熱間圧延と、圧延後直ちに10℃/s以上の冷却速度で中心部が750〜650℃の範囲の温度となる温度まで冷却する一次冷却と、ついで2〜10s間の空冷と、ついで10℃/s以上の冷却速度で冷却し、中心部が500〜650℃の範囲の温度で冷却を停止する二次冷却とからなる冷却処理とを施す。これにより、TS:590MPa以上、YR:80%以下を同時に満足し、溶接性、靭性にも優れた高張力薄肉鋼板となる。
【選択図】図5
Description
また、建築構造物の高層化や大スパン化などに伴い、従来より高い強度を有する、例えば、590MPa級高張力鋼材の建築構造物への適用が増加している。
このような問題に対して、二相域熱処理や焼戻し熱処理の省略、すなわち、非調質化が考えられる。例えば、特許文献1には、粗圧延の後に加速冷却を行って、オーステナイト(γ)を過冷却したうえで、フェライト(α)変態を促進するための仕上圧延を行い、さらに仕上圧延後に加速冷却を行うことで軟質相であるαの微細化と軟質相と硬質相の比率を適切に制御して高靭性と低降伏比化を両立させる、低降伏比高張力鋼材の製造方法が開示されている。特許文献1に記載された技術によれば、高価な合金元素の添加や生産性の低い複雑な熱処理を必要とすることなく、低降伏比高張力鋼材が製造できるとしている。
特許文献8、特許文献9、特許文献10に記載された技術は、鋼片にAr3変態点以上で圧延を完了する熱間圧延を施した後、冷却を開始する前に、所定の温度になるまで空冷してフェライトを生成させ、二相域から冷却して、低降伏比化を図る方法である。しかし、このような方法では、僅かな冷却開始温度の違いによっても、フェライト生成率が異なってくるため、材質ばらつきが大きくなる。そのため、実際にこの方法で鋼板を製造する場合には、厳密な冷却開始温度の管理が必要となり、安定生産が困難になるという問題があった。
また、特許文献13に記載された技術では、低C化したため、高強度化を図るために高価な合金元素を多量添加する必要があり、製造コストの高騰を招くという問題がある。またさらに、特許文献13に記載された技術では、冷却停止温度を300℃以下と低温化しているため、冷却停止時の温度が鋼板内で大きくばらつき、鋼板に歪が発生したり、鋼板内に残留応力が発生する場合がある。このため、特許文献13に記載された技術で製造された鋼板では、鋼板をガス切断する時に、いわゆる条切りキャンバーと呼ばれる歪が発生するため、製造条件の厳密な管理を必要とするという問題がある。
mass%で、0.08%C−0.25%Si−1.25%Mn−0.018%P−0.002%Sを基本成分として、Cu、Ni、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Bのうちの1種または2種以上を添加して、炭素当量Ceq(=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14)を0.39%と一定にしたスラブに、熱間圧延を施して20mm厚の鋼板とし、熱間圧延直後に板厚中心部の温度が700℃(一次冷却停止温度)となるまで加速冷却し、ついで4s間空冷した後、再度、板厚中心部の温度が580℃(二次冷却停止温度)になるまで加速冷却し、その後空冷した。得られた鋼板について、JIS Z 2201の規定に準拠して、JIS5号試験片を採取して引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、降伏強さYS)を求めた。得られた結果を図1に示す。図1から、引張強さTS:590MPa以上でかつ降伏比YR:80%以下を確保するためには、Mo+W/2を0.08%以上とする必要があることがわかる。
mass%で、0.06%C−0.25%Si−1.35%Mn−0.012%P−0.003%S−0.24%Mo−0.025%Al−0.0025%Nを含む鋼素材を熱間圧延し板厚25mmの鋼板とした。このときの熱間圧延の圧延終了温度は表面で900℃であった。熱間圧延終了直後に、平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が800〜550℃の範囲内の温度(一次冷却停止温度)まで加速冷却し、その後3s間空冷したのち、再度平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が520℃(二次冷却停止温度)となるまで加速冷却し、その後空冷した。
mass%で、0.06%C−0.25%Si−1.35%Mn−0.012%P−0.003%S−0.24%Mo−0.025%Al−0.0025%Nを含む鋼素材に熱間圧延を施して板厚25mmの鋼板とした。このときの熱間圧延終了温度は表面で900℃であった。熱間圧延終了直後に、平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が650℃(一次冷却停止温度)となるまで加速冷却し、空冷時間を0〜20sに変化して空冷した後、再度、平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が550℃(二次冷却停止温度)となるまで加速冷却し、その後空冷した。
mass%で、0.06%C−0.25%Si−1.35%Mn−0.012%P−0.003%S−0.24%Mo−0.025%Al−0.0025%Nを含む鋼素材に、熱間圧延を施して板厚25mmの鋼板とした。このときの熱間圧延終了温度は表面で900℃であった。熱間圧延終了直後に、平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が720℃(一次冷却停止温度)になるまで加速冷却し、5s間空冷したのち、再度、平均冷却速度が30℃/sの冷却速度で、板厚中心部の温度が700〜300℃(二次冷却停止温度)になるまで冷却し、その後空冷した。
また、mass%で、0.01〜0.11%C−0.25%Si−1.35%Mn−0.014%P−0.002%S−0.13%Moを基本成分として、Cu、Ni、Cr、V、Nb、Ti、Bのうちの1種または2種以上を添加して、炭素当量Ceqを0.39%と一定にしたスラブに、熱間圧延を施して20mm厚の鋼板とし、熱間圧延直後に板厚中心部の温度が680℃(一次冷却停止温度)となるまで加速冷却し、ついで5s間空冷した後、再度、板厚中心部の温度が620℃(二次冷却停止温度)になるまで加速冷却し、その後空冷した。得られた鋼板について、JIS Z 2201の規定に準拠して、全厚位置からJIS5号全厚試験片および板厚1/2t位置からJIS4号試験片をそれぞれ採取して引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、降伏強さYS)を求めた。得られた結果を図6に示す。
本発明は、上記したような知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.70 ……(1)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ次(2)式
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%))
で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有し、板厚方向中央部の組織が、フェライトを主相とし、20体積%以下の硬質相を含む複合組織であることを特徴とする低降伏比を有する高張力薄肉鋼板。
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.20 ……(1a)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ次(2)式
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%))
で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有し、板厚方向中央部の組織が、フェライトを主相とし、20体積%以下の硬質相を含む複合組織であることを特徴とする低降伏比を有し、かつ板厚方向の材質変動の小さい高張力薄肉鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0002〜0.0050%、REM:0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高張力薄肉鋼板。
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.70 ……(1)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ次(2)式
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%))
で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼素材とし、前記熱間圧延を、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる熱間圧延とし、前記冷却処理を、平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で板厚中心部が750〜650℃の範囲の温度となる一次冷却停止温度まで加速冷却する一次冷却と、ついで2〜10s間の空冷と、ついで平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、板厚中心部が500〜650℃の範囲の温度となる二次冷却停止温度で加速冷却を停止する二次冷却とからなる処理とすることを特徴とする低降伏比を有する高張力薄肉鋼板の製造方法。
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.20 ……(1a)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ次(2)式
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%))
で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼素材とし、
前記熱間圧延を、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる熱間圧延とし、
前記冷却処理を、平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で板厚中心部が750〜650℃の範囲の温度となる一次冷却停止温度まで加速冷却する一次冷却と、ついで2〜10s間の空冷と、ついで平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、板厚中心部が500〜650℃の範囲の温度となる二次冷却停止温度で加速冷却を停止する二次冷却とからなる処理とすることを特徴とする低降伏比を有し、かつ板厚方向の材質変動の小さい高張力薄肉鋼板の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記鋼素材が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0002〜0.0050%、REM:0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高張力薄肉鋼板の製造方法。
まず、本発明の高張力薄肉鋼板における組成限定理由について説明する。なお、以下、とくにことわらない限り、%はmass%を意味する。
Cは、鋼の強度を向上させる元素であり、本発明では引張強さTS:590MPa以上を確保するために、0.045%以上の含有を必要とする。しかし、0.18%を超えてCを過剰に含有すると低温割れ感受性を増大させる。このため、本発明ではCは0.045〜0.18%の範囲に限定した。なお、0.08%を超えて含有すると、全厚位置と板厚1/2t位置での強度差、ΔYS、ΔTSが40MPa以上となる。このため、板厚方向の材質変動が小さいことが要求される使途には、Cは0.045〜0.08%の範囲に限定することが好ましい。
Siは、脱酸剤として作用し、製鋼上0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超えて含有すると母材靭性が低下する。このため、Siは0.05〜0.50%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.40%である。
Mn:0.6〜2.0%
Mnは、鋼の焼入れ性を向上を介して、強度を向上させる元素である。このような効果を確保するためには、0.6%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、溶接性を著しく低下させる。このため、本発明では、Mnは0.6〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.80〜1.60%である。
Pは、不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、鋼の靭性を低下させるため、できるだけ低減することが望ましい。特に、0.020%を超える含有は、著しく靭性を低下させる。このため、本発明ではPは0.020%以下に限定した。
S:0.005%以下
Sは、不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、鋼の靭性や板厚方向引張試験における絞りを低下させるため、できるだけ低減することが望ましい。特に、0.005%を超えて含有すると、上記した特性の低下傾向が著しくなる。そのため、Sは0.005%以下に限定した。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、溶鋼の脱酸プロセスにおいて、脱酸剤としてもっとも汎用的に使用される元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える含有は、粗大な酸化物を形成して、鋼板母材の延性を著しく低下させる。このため、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.020〜0.080%である。
Nは、固溶Nとして存在すると、歪時効後の母材靭性や溶接熱影響部靭性を低下させる。このため、Nは0.0060%以下に限定した。
上記した成分に加えてさらに、本発明では、Moおよび/またはWを含有する。
MoおよびWは、強度を確保しつつ、低降伏比化を図るために、重要な元素であり、本発明では、MoまたはW、あるいはMoおよびWを、次(1)式
0.08≦(Mo+W/2)≦0.70 ……(1)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有する。(Mo+W/2)が0.08%未満では、引張強さTSが590MPa以上、かつ降伏比YRが80%以下を確保することができない。一方、(Mo+W/2)が0.70%を超えるようにMoおよび/またはWを含有すると、溶接性が低下するとともに、製造コスト(材料コスト)が高騰する。そのため、Moおよび/またはWは、(Mo+W/2)が0.08〜0.70%の範囲となるように、すなわち(1)式を満足するように、含有するよう規定した。なお、板厚方向の材質変動を小さくすることが要求される使途には、次(1a)式
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.20 ……(1a)
(ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
を満足するように規定することが好ましい。というのは、(Mo+W/2)が0.20を超えて大きくなると、全厚位置と板厚1/2t位置との強度差ΔYS、ΔTSが40MPaを超えて大きくなり、板厚方向の材質変動が著しくなる。
Pcm は、溶接時の割れ感受性を示す溶接割れ感受性指標であり、次(2)式
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%))
で定義される。なお、(2)式を用いてPcm値を計算する場合、含有されない元素は零として計算するものとする。
Cu、Ni、Cr、V、Nb、Ti、Bはいずれも、鋼板の強度を向上させる元素であり、必要に応じて、選択して1種又は2種以上を含有できる。
Cu:0.03〜1%
Cuは、靭性を低下させずに強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.03%以上の含有を必要とする。一方、1%を超える含有は、熱間圧延時に表面疵を多発させる。このため、Cuは0.03〜1%に限定することが好ましい。
Niは、靭性を低下させずに強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.03%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。このため、Niは0.03〜2%の範囲に限定することが好ましい。
Crは、合金コストを著しく上昇させることなく、強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、1%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Crは0.05〜1%の範囲に限定することが好ましい。
Vは、析出強化により鋼板の強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Vは0.01〜0.1%の範囲に限定することが好ましい。
Nb:0.005〜0.1%
Nbは、析出強化により鋼板の強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、溶接性を低下させる。このめ、Nbは0.005〜0.1%の範囲に限定することが好ましい。
Tiは、析出強化により鋼板の強度を向上させるとともに、固溶Nを固定し、溶接熱影響部靭性を改善するために有効な元素であり、このためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.05%を超えて過剰に含有すると、溶接熱影響部靭性が低下する。このため、Tiは0.005〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。
Bは、極微量の含有で焼入れ性を向上させ、それにより鋼板の強度を向上させる有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.0002%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超えて含有すると、溶接性が低下する。このため、Bは0.0002〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
Ca:0.0002〜0.0050%
Caは、Sを固定することにより、MnSの生成を抑制して、板厚方向の絞り特性を改善したり、また、溶接熱影響部靭性を改善する効果も有する。このような効果を得るためには、0.0002%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超える過剰の含有は、母材靭性を低下させる。したがって、Caは0.0002〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
REMは、Sを固定することにより、MnSの生成を抑制して、板厚方向の絞り特性を改善したり、また、溶接熱影響部靭性を改善する効果も有する。このような効果を得るためには、0.0002%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超える過剰の含有は、母材靭性を低下させる。したがって、REMは0.0002〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
本発明の高張力薄肉鋼板は、上記した組成を有し、さらに、板厚方向中央部の組織が、フェライトを主相とし、20体積%以下の硬質相を含む複合組織を有する。なお、板厚方向中央部とは、表層部分を除く範囲、すなわち板厚の1/4〜1/2の領域をいうものとする。
上記した組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製炉で溶製し、連続鋳造法や、造塊−分塊法等の常用の方法で、スラブ(鋼素材)とする。ついで、鋼素材に、熱間圧延と、該熱間圧延後直ちに加速冷却する冷却処理とを施し、薄肉鋼板とする。
熱間圧延は、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる圧延とする。
熱間圧延の圧延終了温度は、表面で800〜950℃の範囲の温度とする。圧延終了温度が800℃未満では、所望の強度が確保できず、一方、950℃を超える温度では、鋼板の母材靭性が低下する。このため、熱間圧延の圧延終了温度は、表面で800〜950℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは800〜900℃である。
また、一次冷却停止温度は、板厚中心部が750〜650℃の範囲となる温度とする。一次冷却停止温度が750℃を超えて高い場合には、所望の引張強さが確保できなくなる。一方、一次冷却停止温度が650℃未満では、降伏比が80%を超え、所望の低降伏比が確保できなくなる。このため、一次冷却停止温度は、750〜650℃の範囲内の温度に限定した。
表1に示した組成を有する鋼素材に、表2に示す条件で熱間圧延、および冷却処理(二次冷却停止後空冷)を施し、表2に示す板厚の薄肉鋼板とした。
得られた薄肉鋼板について、組織観察、引張試験、シャルピー衝撃試験、硬さ試験、y形溶接割れ試験を実施し、組織、引張特性、靭性、硬さ、および溶接割れ性を調査した。試験方法は次の通りとした。
得られた薄肉鋼板から組織観察用試験片を採取し、L方向断面を研磨、ナイタールで腐食し、板厚1/4t位置について、走査型電子顕微鏡で断面組織を5視野以上観察し、撮像して、画像解析により組織分率を求めた。
(2)引張試験
得られた薄肉鋼板から、JIS Z 2201の規定に準拠して、JIS 5号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張り強さTS、降伏比YR)を求めた。
得られた薄肉鋼板の板厚1/4t位置から、JIS Z 2242の規定に準拠して、Vノッチ試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、0℃における吸収エネルギーvE0(J)および破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
(4)硬さ試験
得られた薄肉鋼板から、硬さ試験片を採取し、板厚断面について板厚方向にビッカース硬さ計(荷重:98N)を用いて、断面硬さ分布を求め、表面下1mm位置の硬さを求めた。
得られた薄肉鋼板から、JIS Z 3158に準拠して採取したy形溶接割れ試験片を用いて、25℃において、溶接割れ試験を実施し、割れの有無を調査した。
得られた結果を表3に示す。
表4に示した組成を有する鋼素材に、表5に示す条件で熱間圧延、および冷却処理(二次冷却停止後空冷)を施し、表5に示す板厚の薄肉鋼板とした。
得られた薄肉鋼板について、組織観察、引張試験、シャルピー衝撃試験、y形溶接割れ試験を実施し、組織、引張特性、靭性、および溶接割れ性を調査した。試験方法は実施例1と同様に、次の通りとした。
得られた薄肉鋼板から組織観察用試験片を採取し、L方向断面を研磨、ナイタールで腐食し、板厚1/4t位置について、走査型電子顕微鏡で断面組織を5視野以上観察し、撮像して、画像解析により組織分率を求めた。
(2)引張試験
得られた薄肉鋼板の全厚位置からJIS 5号試験片(全厚)を、板厚1/2t位置からJIS 4号試験片を、それぞれ、JIS Z 2201の規定に準拠して採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張り強さTS、降伏比YR)を求めた。
得られた薄肉鋼板の板厚1/4t位置、板厚1/2t位置からそれぞれ、JIS Z 2242の規定に準拠して、Vノッチ試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、0℃における吸収エネルギーvE0(J)および破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
(4)y形溶接割れ試験
得られた薄肉鋼板から、JIS Z 3158に準拠して採取したy形溶接割れ試験片を用いて、25℃において、溶接割れ試験を実施し、割れの有無を調査した。
Claims (8)
- mass%で、
C:0.045〜0.18%、 Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.0060%以下
を含み、さらにMoおよび/またはWを下記(1)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(2)式で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有し、板厚方向中央部の組織が、フェライトを主相とし、20体積%以下の硬質相を含む複合組織であることを特徴とする低降伏比を有する高張力薄肉鋼板。
記
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.70 ……(1)
ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%) - mass%で、
C:0.045〜0.08%、 Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.0060%以下
を含み、さらにMoおよび/またはWを下記(1a)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(2)式で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有し、板厚方向中央部の組織が、フェライトを主相とし、20体積%以下の硬質相を含む複合組織であることを特徴とする低降伏比を有し、かつ板厚方向の材質変動の小さい高張力薄肉鋼板。
記
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.20 ……(1a)
ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%) - 前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:0.03〜1%、Ni:0.03〜2%、Cr:0.05〜1%、V:0.01〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.05%、B:0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高張力薄肉鋼板。
- 前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0002〜0.0050%、REM :0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高張力薄肉鋼板。
- 鋼素材に、熱間圧延と、該熱間圧延後直ちに加速冷却する冷却処理とを施し、鋼板とするに当り、前記鋼素材を、mass%で、
C:0.045〜0.18%、 Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.0060%以下
を含み、さらにMoおよび/またはWを下記(1)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(2)式で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼素材とし、
前記熱間圧延を、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる熱間圧延とし、
前記冷却処理を、平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で板厚中心部が750〜650℃の範囲の温度となる一次冷却停止温度まで加速冷却する一次冷却と、ついで2〜10s間の空冷と、ついで平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、板厚中心部が500〜650℃の範囲の温度となる二次冷却停止温度で加速冷却を停止する二次冷却とからなる処理とすることを特徴とする低降伏比を有する高張力薄肉鋼板の製造方法。
記
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.70 ……(1)
ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%) - 鋼素材に、熱間圧延と、該熱間圧延後直ちに加速冷却する冷却処理とを施し、鋼板とするに当り、前記鋼素材を、mass%で、
C:0.045〜0.08%、 Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.6〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.1%以下、
N:0.0060%以下
を含み、さらにMoおよび/またはWを下記(1a)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(2)式で示される溶接割れ感受性指標Pcmが0.22%以下である組成を有する鋼素材とし、
前記熱間圧延を、圧延終了温度が表面で800〜950℃の範囲の温度となる熱間圧延とし、
前記冷却処理を、平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で板厚中心部が750〜650℃の範囲の温度となる一次冷却停止温度まで加速冷却する一次冷却と、ついで2〜10s間の空冷と、ついで平均冷却速度で10℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、板厚中心部が500〜650℃の範囲の温度となる二次冷却停止温度で加速冷却を停止する二次冷却とからなる処理とすることを特徴とする低降伏比を有し、かつ板厚方向の材質変動の小さい高張力薄肉鋼板の製造方法。
記
0.08≦ Mo+W/2 ≦0.20 ……(1a)
ここで、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B……(2)
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(mass%) - 前記鋼素材が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:0.03〜1%、Ni:0.03〜2%、Cr:0.05〜1%、V:0.01〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.05%、B:0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項5または6に記載の高張力薄肉鋼板の製造方法。
- 前記鋼素材が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0002〜0.0050%、REM:0.0002〜0.0050%のうちの1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の高張力薄肉鋼板の製造方法。
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