JP5649838B2 - 肌焼鋼およびその製造方法 - Google Patents
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しかしながら、高温で処理されるため、オーステナイト粒(γ粒)の粗大化が起こりやすいという問題がある。その結果、焼入れ後に熱歪が生じ、部品寸法が変化するため、仕上げ加工や研磨等の余分な工程が必要となり、生産性が著しく阻害され、コスト上昇を招く。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:2.0%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.05%以上0.30%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、N:0.0060%以下およびO:0.0020%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、Tiを含む析出物で直径:5nm以上30nm以下のものが30個/μm2以上存在し、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の5nm以上の全Ti析出物に対する個数比率が50%以上であることを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼。
まず、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
Cは、機械部品として必要な強度を確保する上で重要な元素であり、0.05%以上含有させる。C量が0.05%未満では硬さが不足し、部品としての強度が低下する。一方、C量が多過ぎると、過度に硬くなり鍛造性や被削性が低下するので、0.40%以下に抑制する必要がある。このため、C含有量は0.05%以上0.40%以下の範囲とした。なお、好ましいC量は0.15〜0.35%の範囲である。
Siは、強度向上に有用なだけでなく、焼き戻し軟化抵抗を向上させ、浸炭部の表層硬さを確保するのに有効な元素である。これらの効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、Si含有量があまりに多くなると素材の変形抵抗が増し、鍛造性が劣化することに加え、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。それ故、Si含有量は1.0%以下に限定する。好ましくは0.75%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
Mnは、焼入れ性と強度を向上させるために含有させる。しかしながら、Mn含有量の増加に伴って偏析が顕著となり、材質が不均一となって、冷間加工性が低下するだけでなく、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。そのため、Mn含有量は1.0%以下に限定する。好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.85%以下である。
Pは、鋼中に不可避的に混入し、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるので、極力低減することが望ましい。このため、P含有量は0.03%以下に抑制するものとした。なお、P含有量の好ましい上限は0.02%、より好ましい上限は0.015%である。
Sは、本発明のようなTi添加鋼ではTi硫化物あるいは炭硫化物を生成する作用がある。また、Mnと硫化物を形成し、部品の疲労強度、靭性を低下させる作用がある。一方でTiやMnの硫化物は、被削性を向上させる作用も有するので、その含有量は許容範囲内で適宜調整することが望ましい。本発明では、疲労強度および靭性の観点から、S含有量は0.03%以下に抑制するものとした。なお、S含有量の好ましい上限は0.020%、より好ましい上限は0.017%である。
Crは、強度および靭性の向上に有効な元素である。また、焼入れ性を向上させる効果も有する。上記の効果を発揮させるためには、Cr含有量は0.8%以上とすることが好ましい。しかしながら、Cr含有量があまりに多くなると、素材が過度に硬くなり、被削性および加工性が劣化するので、Cr含有量は2.0%以下とする。なお、Cr含有量の好ましい上限は1.5%である。
Alは、脱酸剤として有効に作用し、鋼材の品質を向上させる効果がある。しかしながら、Al含有量があまりに多くなると、粗大なAl2O3非金属介在物がクラスター状に生成することに加え、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。このため、Al含有量は0.1%以下に抑制するものとした。なお、Alの好ましい上限は0.05%であり、より好ましい上限は0.04%である。
Tiは、Ti炭窒化物およびTi炭硫化物あるいはMoと共にTi-Mo炭化物を形成し、浸炭時のγ粒の粗大化を抑制する作用を有する。しかしながら、Ti含有量が0.05%未満では、十分な数量の析出物が得られないため、γ粒の粗大化を抑制できず、一方0.30%を超えると、粗大なTiNが生成し、被削性や面疲労強度を低下させるだけでなく、冷間加工性を低下させる。従って、Ti含有量は0.05%以上0.30%以下の範囲に限定する。なお、好ましいTi含有量の上限は0.25%である。
Moは、本発明において重要な役割を持つ元素である。Moは、浸炭焼入れ時の焼入れ性を向上させる効果に加え、靭性の向上に有効であり、さらに浸炭時のSiやAl,Cr,Mnといった元素の粒界酸化に伴う浸炭異常層の生成を抑制する上でも有効である。このような効果は、Moを0.05%以上含有させることにより発現する。しかしながら、Mo含有量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、素材が過度に硬くなり、被削性や冷間鍛造性、靭性が低下するので、Mo含有量は1.0%以下とする。より好ましくは0.10%以上0.50%以下の範囲である。
Nは、極力低減することが好ましい不純物元素である。N含有量があまりに多くなると粗大なTiNが生成して被削性や面疲労強度を低下させる。また、TiNは、炭窒化物の析出サイトとなりやすく、微細な析出物を減少させる弊害もある。また、素材の硬さ、変形抵抗を増大させて、冷間加工性を低下させる不利もある。このような理由からN含有量は0.0060%以下に抑制する。より好ましくは0.0040%以下である。
Oは、鋼中に不可避的に含まれる不純物元素であり、過剰に含まれると、粗大な酸化物系介在物が生成して、種々の疲労特性や靭性を低下させるので、極力低減することが望ましい。このようなことからO含有量は0.0020%以下に抑制する。好ましくは0.0015%以下、より好ましくは0.0010%以下である。
Ni:3.0%以下
Niは鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。また、Niは、靭性の向上にも有効に作用する。従って、Niは0.1%以上、好ましくは0.3%以上含有させることが望ましい。しかしながら、Ni含有量が3.0%を超えると、コスト上昇を招くので、Niは3.0%以下で含有させることが好ましい。好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下である。
Bは、鋼材の焼入れ性を高める作用があり、しかも結晶粒界に偏析することで粒界を強化し、靭性を大幅に高める作用がある。このような作用は、0.0010%超添加することで有効に発揮される。しかしながら、これらの効果は、含有量が0.0030%を超えると飽和するばかりでなく、B含有量があまりに多くなるとB窒化物が生成し易くなり、冷間加工性および熱間加工性が劣化する。好ましいB含有量は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
Caは、硫化物の展伸を抑制して衝撃特性を向上させる効果がある。この効果は、Ca含有量が0.0005%以上で発現する。しかしながら、Ca含有量が0.010%を超えると、粗大な酸化物が生成し強度が低下する。なお、Ca含有量の好適下限は0.0008%であり、またCa含有量の好ましい上限は0.0030%、さらに好ましい上限は0.0020%である。
PbおよびBiはいずれも、鋼材の被削性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させる。しかしながら、含有量があまりに多くなると強度が低下するので、いずれも0.1%以下とすることが好ましい。なお、含有量の好ましい下限はいずれも0.02%、より好ましい下限は0.03%であり、一方より好ましい上限はいずれも0.07%、さらに好ましい上限は0.06%である。
Nb,V,ZrおよびWはいずれも、炭素および窒素と親和力が強い元素であり、微細な析出物を生成することで、γ粒の粗大化を抑制する効果があり、この効果の面からいずれも0.5%以下の範囲で含有させることができる。より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
すなわち、本発明の肌焼鋼では、Tiを含有させることによって炭化物等の析出物が生成するが、これら析出物の形態および個数を規定することが重要である。
これらを規定した理由は次のとおりである。
Tiを含む析出物は、微細なものほど結晶粒の粗大化を抑制するピニング効果が強い。しかしながら、鋼の凝固時に溶鋼中のNがTiと結合することにより、不可避的に生成するTiN析出物は粗大であり、結晶粒の成長を抑制する効果はない。このような析出物のうち、粗大な析出物は鋼材の加工性を低下させるので、できるだけ微細に生成させることが好ましい。そこで、Tiを含む析出物で直径が30nm以下のものの個数を、単位面積μm2当たり30個以上と規定した。
直径が30nm以下の微細なTi析出物は、結晶粒の粗大化抑制に効果がある。しかし、50nm超のTi析出物の全Ti析出物に対する存在比率(個数比率)が大きくなると、疲労特性に悪影響を及ぼす。疲労特性を確保するためには、50nm以下のTi析出物の全Ti析出物に対する存在比率(個数比率)50%以上とする必要がある。
なお、本発明では、後述するレプリカ法でTi析出物の個数比率の測定を行うが、直径:5nm未満のTi析出物についてはこの方法での確認は困難である。よって、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率を50%以上とすればよい。
また、かようなTi含有析出物を、上記したように微細に分散させるためには、製造工程中、連続鋳造、鋼片圧延時の加熱(均熱処理)、棒鋼圧延時の加熱工程が重要で、これらの工程における処理条件を以下に説明する条件とする必要がある。
本発明に係る肌焼鋼は、上述した成分組成になる溶鋼を、連続鋳造により鋳片となし、該鋳片を均熱処理した後に鋼片に熱間圧延し(以下、鋼片圧延と呼ぶ)、さらに得られた鋼片を加熱して熱間圧延して棒鋼とすること(以下、棒鋼圧延と呼ぶ)で製造される。ここで、連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度を5℃/分以上とし、また、均熱処理温度を1200℃以上とし、さらに棒鋼圧延時の加熱温度:900〜1050℃とするのがとりわけ好適である。
また、本発明では、上記した棒鋼圧延を施した後に、さらに、球状化熱処理を施すことができる。この時の処理温度は、740℃以上が好ましい。
連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度:5℃/分以上
連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度が遅い場合には、冷却中に析出するTi析出物が大きくなり、鋳片の均熱処理時に析出物を十分に固溶させることができない。その結果、最終的に粗大なTi析出物が残り、直径:5〜50nmのTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率が50%未満となってしまう。そのため、冷却速度を5℃/分以上とし、Ti析出物を微細化する必要がある。より好ましくは、8℃/分以上とする。
本発明では、鋼片圧延に際し、鋳片を均熱処理し析出物を十分に固溶させ、熱間加工時およびその後の冷却過程で微細に分散析出させる。その際、加熱温度が1200℃未満では、析出物を十分に固溶させることができない。このため、熱間加工後に粗大な析出物が生成し、浸炭時にγ粒の粗大化を抑制することができない。そのため、鋳片加熱温度は1200℃以上に規定した。例えば、鋳造後の鋼片圧延前の均熱条件を1200〜1300℃の温度域で30分以上程度とすることで、析出物が固溶し、熱間圧延後に微細に析出しやすくなるためγ粒粗大化抑制に有効である。
なお、均熱処理は鋼片圧延直前の加熱処理時に行っても良いし、均熱処理を鋼片圧延直前の加熱に先立って別途行っても良い。別途均熱処理を行う場合、鋼片圧延直前の加熱温度は1200℃以上に限定するものではない。
熱間加工前の加熱時に析出物を十分に固溶させ、熱間加工時およびその後の冷却過程で析出物を微細分散させる。その際、一旦、鋳片加熱で析出物を固溶させた後、鋼片圧延を実施し、その後の棒鋼圧延時の加熱において、加熱温度が1050℃を超えると、冷却過程で微細な析出物が得られず、一方900℃未満ではフェライトや粗大な炭化物が残留し、圧延後に均一な組織が得られない。
なお、棒鋼圧延時に、圧延後の冷却過程で、直径:5〜50nmの微細なTi析出物を確保する観点から、圧延後600〜850℃の温度範囲の冷却速度を2℃/s以下とすることが好ましい。
この時の試験条件は、すべり率:40%、負荷応力:4000MPaおよび回転数:2000rpmとした。また、B10寿命(累計破損確率が10%での剥離発生までの総負荷回数)を、得られた結果がワイブル分布に従うものとして、ワイブル確率紙上にプロットして求めた。求めたB10寿命を、鋼記号S(JIS SCM420H相当鋼)の寿命を1とした場合の指数で、各鋼の特性の良否を評価した。
これらの試験結果を、棒鋼圧延後の粒径:30nm以下のTi含有析出物の個数(数密度(個/μm2 ))および直径:5〜50nmのTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率(度数分布(% ))について調査した結果と共に、表2に示す。
また、直径:5〜50nmのTi析出物の個数分布は抽出レプリカ法により試料を作製し、10万倍の倍率で、各鋼についてそれぞれ20視野観察し、EDXにてTi析出物と検出されたものについて、画像処理により個数分布を求めた。この際、直径が5nm未満の析出物は正確に計測するのが困難であるため、5〜50nm径の析出物を計測した。
これに対し、No.10〜23の比較例は、結晶粒度特性、冷間鍛造性、シャルピー衝撃値および転動疲労寿命のうち、いずれかの特性に劣っており、発明の目的が達成されていない。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:2.0%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.05%以上0.30%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、N:0.0060%以下およびO:0.0020%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、Tiを含む析出物で直径:5nm以上30nm以下のものが30個/μm2以上存在し、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の5nm以上の全Ti析出物に対する個数比率が50%以上であることを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼。
- 質量%でさらに、Ni:3.0%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の肌焼鋼。
- 質量%でさらに、B:0.0010%超0.0030%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の肌焼鋼。
- 質量%でさらに、Ca:0.010%以下を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の肌焼鋼。
- 質量%でさらに、Pb:0.1%以下およびBi:0.1%以下のうちから選んだ一種または二種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の肌焼鋼。
- 質量%でさらに、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下およびW:0.5%以下のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の肌焼鋼。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の肌焼鋼を製造するに当たり、請求項1乃至6のいずれかに記載の成分組成になる溶鋼を、連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度を5℃/分以上として鋳片とし、該鋳片を1200℃以上の温度に加熱後、鋼片圧延し、次いで900〜1050℃に加熱後、棒鋼圧延を施すことを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼の製造方法。
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