本発明は、気象観測装置としては、機体の移動を垂直上昇・下降の移動に特化させるとともに横方向(水平方向)の移動をも可能とした飛行体を開発すれば良いことに着目してなされたものである。本発明は、揚力を得るためのロータを備える飛行体として構成される気象観測装置において、通常の飛行体では何らかの構成によって相殺される、ロータの回転の反力としてのトルクを活かし、そのトルクにより機体を回転させながら自律的に航行する構成を実現するものである。
本発明の気象観測装置は、揚力を得るためのロータの回転制御により、機体の垂直上昇・下降の移動を行う。また、本発明の気象観測装置は、ロータの回転による揚力を受けて飛行しつつロータの反力トルクにより回転する機体の周囲の気流を可動翼の動作によって変化させ、機体を傾かせることで、ロータによる揚力の水平成分を生じさせて横方向に移動する。このため、本発明の気象観測装置は、可動翼を機体の回転に同期させて周期的に動作させることで、機体の横方向への進行方向に応じて、機体を傾かせる気流の流れを断続的に生じさせる。
このような構成により、本発明の気象観測装置は、自律安定な機体構造を実現するものであり、この機体構造は、原理と機械的制御機構が簡単であることから、故障が少なくなりメンテナンスも容易となる。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態の気象観測装置1の構成について、図1及び図2を用いて説明する。本実施形態の気象観測装置1は、地上から3000m程度の上空という比較的低空の気象観測に用いられる。
図1に示すように、気象観測装置1は、機体2の一端側に設けられる1つのプロペラ3を有する1重プロペラ式の自律型の飛行体として構成される。気象観測装置1は、機体2と、プロペラ3と、モータ4と、尾翼5と、地磁気センサ6と、マイクロコンピュータ7と、温度センサ8とを備える。
機体2は、略二等辺三角形状の板状の部材により構成される。機体2は、プロペラ3及びモータ4を保持する。
プロペラ3は、回転することで揚力を生じさせるロータとして機能する。本実施形態では、プロペラ3は、揚力を得るための2枚のブレード3aと、これらのブレード3aを支持するハブ3bとを有する。2枚のブレード3aは、プロペラ3の回転軸線の位置を中心に互いに対称な位置に設けられる。
プロペラ3は、機体2に対して、略二等辺三角形状の外形における底辺側(図1における上側)に配置される。プロペラ3は、回転軸線の方向が機体2の板面に略平行で機体2の略二等辺三角形状の外形における底辺に略直交する方向となるように、かつ、回転軸線が機体2の略二等辺三角形状の外形における底辺の略中心に位置するように設けられる。プロペラ3は、モータ4によって回転させられる。
モータ4は、プロペラ3を回転させる駆動源として機能する。モータ4は、駆動軸4aを有し、この駆動軸4aをプロペラ3のハブ3bに連結させることで、プロペラ3に回転駆動力を伝達する。モータ4は、例えば、比較的小型なブラシレスモータである。モータ4は、バッテリ10から電力の供給を受けて駆動する。バッテリ10は、機体2の所定の位置に保持される。
図1に示すように、モータ4は、機体2が有する支持柱11に支持された状態で設けられる。支持柱11は、機体2において、プロペラ3の回転軸線の方向に沿って設けられる直線状の突条部分である。支持柱11は、例えば、機体2に棒状の部材が取り付けられることで構成される。モータ4は、支持柱11に対して、プロペラ3が位置する側の端部に、所定の支持部材等を介して固定される。
このように、モータ4は、機体2に設けられる支持柱11に支持された状態で、機体2に保持される。また、モータ4に連結されるプロペラ3は、機体2に固定されるモータ4を介して、機体2に保持される。
図2に示すように、モータ4は、マイクロコンピュータ7により、モータアンプ12を介して制御される。モータアンプ12は、マイクロコンピュータ7からの信号を受けるとともに、バッテリ10の電圧を感知し、モータ4に供給される電圧を調節する。このため、バッテリ10は、モータアンプ12に接続され、モータアンプ12を介してモータ4に電力を供給する。
以上のように、機体2と、この機体2に保持されるプロペラ3及びモータ4とを備える気象観測装置1は、モータ4により駆動するプロペラ3の回転によって生じる揚力により上昇して飛行する。このため、気象観測装置1は、機体2に対してプロペラ3が配置される側、つまり機体2の略二等辺三角形状の外形における底辺側が上側となる姿勢で飛行する。
以下の説明では、気象観測装置1において、機体2に対してプロペラ3が配置される側(図1における上側)を、上側とし、その反対側(同図における下側)を下側とする。また、気象観測装置1において、板状に構成される機体2に関し、支持柱11が設けられる側(図1に示されている側)を表側とし、その反対側を裏側とする。
気象観測装置1においては、上述したようにプロペラ3及びモータ4を保持する機体2は、プロペラ3の回転にともなってプロペラ3とは反対方向に回転しながら飛行する。すなわち、機体2は、プロペラ3が回転することによる反力を受けてプロペラ3の回転方向と反対方向に回転するとともに、プロペラ3が回転することにより得られる揚力によって飛行する。
具体的には、図1に示すように、プロペラ3が機体2に対して揚力を与えるために所定の方向(矢印A1参照)に回転すると、プロペラ3の回転の反作用として、プロペラ3の回転軸線回りのトルクが生じる。このプロペラ3の回転の反作用としてのトルクは、機体2をプロペラ3の回転軸線回りに、プロペラ3とは反対方向(矢印A2参照)に回転させる力として作用する。
そして、気象観測装置1は、プロペラ3の回転により揚力を得るとともに、プロペラ3の回転の反作用としてのトルクによって機体2をプロペラ3とは反対方向に回転させながら飛行する。このように飛行する気象観測装置1は、上記のとおりプロペラ3側が上側となる姿勢で飛行する。機体2は、プロペラ3の回転数(回転速度)に対して例えば数10分の1から100分の1程度の回転数で回転する。
機体2は、プロペラ3と反対方向に回転しながら、プロペラ3の回転による反力に対抗する空気抵抗を受けることで、気象観測装置1の姿勢を保持する抵抗体として機能する。本実施形態では、板状の機体2は、回転するプロペラ3の反力により、主に両側の板面により空気抵抗を受けながら回転し、気象観測装置1を上記のとおりプロペラ3側が上側となる姿勢に保持する。
このように、気象観測装置1は、プロペラ3の回転によって揚力を得ることで、プロペラ3の回転の反作用によって機体2を回転させながら、自律的に安定性をもって、垂直上昇・下降の移動、及び停止状態での飛行(ホバリング)を行う。プロペラ3の回転によって飛行している状態の気象観測装置1においては、機体2及びモータ4を含む、プロペラ3よりも下側の部分が、プロペラ3の部分から自重によって吊り下がった状態となり、姿勢が安定する。
気象観測装置1は、飛行状態において、機体2がプロペラ3の回転の反力によって回転することにより受ける空気抵抗や機体2自身の重さ等により、機体2の板面が略鉛直方向に沿うような姿勢で自律安定性を得る。このため、機体2は、プロペラ3の大きさやプロペラ3の回転により生じるモーメント等との関係において、プロペラ3の反力トルクにより回転することで受ける空気抵抗等が加味され、上記のような気象観測装置1の飛行中の安定した姿勢が得られるような形状、大きさ、重さ等を有するものとして構成される。
詳細には、機体2において、プロペラ3の回転による反力に対して、抵抗力を生じさせる空気抵抗を受ける面積や重量等が十分に確保されない場合、機体2はプロペラ3の揚力を得て浮上することができなくなる。逆に、機体2の大きさや重さがプロペラ3に比べて大きすぎる場合も、機体2が受ける空気抵抗や機体2の重さ等により、機体2がプロペラ3の揚力によって浮上できなくなる。そこで、機体2が、プロペラ3の揚力を得て浮上し、安定した姿勢で飛行できるように、プロペラ3との関係におけるバランスが考慮され、機体2の形状、大きさ、重さ等が設定される。
また、プロペラ3の回転による反力に対する抵抗力が小さいほど、機体2の回転速度は速くなり、逆に抵抗力が大きいほど、機体2の回転速度は遅くなる。そして、詳細は後述するが、気象観測装置1は、尾翼5の動作について機体2の回転に同期した制御を行う。そこで、プロペラ3の反力による機体2の回転に同期する制御において、機体2の回転速度が制御的に対応可能な速度となるように、機体2の回転速度が考慮され、機体2の形状等が設定される。
気象観測装置1において、互いに反対方向に回転する機体2とプロペラ3との関係で、自律的で安定した姿勢での飛行を行う観点からは、機体2は、本実施形態のように略二等辺三角形状あるいは略正三角形状であることが好ましい。そして、気象観測装置1は、機体2の頂角側(略正三角形状の場合一つの角側)を下側とし、底辺側を上側として、底辺側に設けられるプロペラ3の回転により得られる揚力によって飛行する。
ただし、機体2の構成については、プロペラ3との関係において、気象観測装置1が姿勢を安定させた状態で飛行を行うことができるものであれば、特に限定されるものではない。また、プロペラ3を構成するブレード3aの数や形状等についても、機体2との関係において、気象観測装置1が姿勢を安定させた状態で飛行を行うことができるものであれば、特に限定されるものではない。つまり、機体2とプロペラ3とは、プロペラ3により得られる揚力によって気象観測装置1が姿勢を安定させた状態で飛行を行うことができるように、お互いの間のバランスが考慮されて構成される。
尾翼5は、プロペラ3の回転により揚力を得ることで飛行する気象観測装置1を、横方向(水平方向)に移動させるための構成である。気象観測装置1は、プロペラ3の回転による揚力を受けて飛行しつつ、尾翼5の動作によって、プロペラ3の反力トルクにより回転する機体2の周囲の気流を変化させ、機体2を傾かせることで、プロペラ3による揚力の水平成分を生じさせて横方向に移動する。
尾翼5は、機体2に対して移動可能に設けられる。図1に示すように、本実施形態の気象観測装置1においては、尾翼5は、二等辺三角形状の板状の部材により構成され、略二等辺三角形状の機体2における下端側となる頂角側に設けられる。
詳細には、尾翼5は、機体2と略同じ板厚を有し、機体2とともに全体として一体的な略二等辺三角形状の外形を構成する(図1参照)。言い換えると、機体2が有する略二等辺三角形状の外形における頂点を形成する部分が、二等辺三角形状の尾翼5により構成される。つまり、本実施形態の気象観測装置1では、略二等辺三角形状の外形を有する機体2が、その外形における頂角部分となる下端部分を構成する部分として、尾翼5を有する構成となっている。したがって、尾翼5は、機体2に対して、二等辺三角形状の外形における底辺側を、機体2の下端辺に対向させた状態で、機体2の下側に配置される。
図1に示すように、尾翼5は、上記のとおり機体2の下側に配置された状態で、連結部13により、機体2に対して移動可能に連結される。連結部13は、互いに対向する機体2の下端辺部と尾翼5の上端辺部とを連結する。
連結部13は、尾翼5が機体2に対して機体2の表側及び裏側の両側に所定の角度範囲で傾動するように、尾翼5を機体2に連結させる。したがって、機体2と尾翼5とにより構成される一体的な二等辺三角形状の板状体は、尾翼5が連結部13によって表側または裏側に傾動することにより、二等辺三角形状の頂点側の一部が表側または裏側に折れ曲がる態様となる。
このように、連結部13は、尾翼5を表裏の両側に折れ曲がる態様となるように機体2に対して傾動可能に連結支持する。連結部13は、例えば、尾翼5を機体2に対して傾動するように所定の角度範囲で回動可能に支持するヒンジ部分として構成される。
尾翼5は、気象観測装置1が垂直上昇・下降の移動、及びホバリングを行っている状態では、機体2に対して真っすぐな状態(傾動していない状態)であり、気象観測装置1が横方向(水平方向)に移動している状態では、機体2の回転に対応して周期的に傾動する。
図2に示すように、尾翼5の動作、つまり尾翼5の機体2に対する傾動動作は、マイクロコンピュータ7により制御される。具体的には、尾翼5の動作は、マイクロコンピュータ7からの信号を受けるサーボモータ14により制御される。
サーボモータ14は、制御部を内蔵し、その制御部により、マイクロコンピュータ7から受ける信号(例えばパルス信号)に基づいて、サーボモータ14の出力軸となる回転軸14aを所定の角度範囲内で任意の角度に回転させる。図1に示すように、サーボモータ14は、リンク機構15を介して、尾翼5に連結される。そして、リンク機構15により、サーボモータ14の回転軸14aの回転が、尾翼5を連結部13により機体2に対して傾動させる動きに変換され、尾翼5に伝達される。
リンク機構15の一端は、サーボモータ14の回転軸14aに連結され、リンク機構15の他端は、尾翼5の所定の位置に設けられる連結部5aに連結される。尾翼5の動作は、サーボモータ14の回転軸14aの回転に応じて、任意の傾動角度となるように制御される。なお、リンク機構15の構成としては、サーボモータ14の回転軸14aの回転を、尾翼5の連結部13による機体2に対する傾動動作として伝達できるものであれば、適宜の構成を採用することができる。
地磁気センサ6は、機体2に設けられ、機体2が向いている方位を検出する方位検出手段として機能する。本実施形態では、地磁気センサ6は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。地磁気センサ6は、地磁気を検知することで、プロペラ3の反力によって回転する機体2が現在向いている方位(方位角)を検出する。
具体的には、本実施形態では、地磁気センサ6は、機体2の表側の面の向きを基準として、プロペラ3の揚力により回転しながら飛行している状態の機体2が向いている方位を検出する。つまり、地磁気センサ6は、飛行中で回転している機体2の表側の面が、現在どの方位を向いているかを検出する。
言い換えると、地磁気センサ6は、機体2において、飛行中で回転している機体2の表側の面が、現在どの方位を向いているかを検出することができるように設けられる。ただし、地磁気センサ6による方位の検出に際して基準となる機体2の向きは、機体2の表側の面の向きに限定されず、機体2の形状等によって適宜設定される。
図2に示すように、地磁気センサ6による検出信号は、マイクロコンピュータ7に入力される。そして、マイクロコンピュータ7により、地磁気センサ6からのセンサ出力に基づいて、機体2が向いている方位が計算される。以下の説明では、地磁気センサ6により検出される機体2が向いている方位を単に「機体2の方位」ともいう。
マイクロコンピュータ7は、気象観測装置1の各部を制御するコントローラとして機能する。マイクロコンピュータ7は、CPU、フラッシュメモリ、ROM等を有し、あらかじめ書き込まれているプログラムに従って所定の演算処理を実行することにより、気象観測装置1の各部を制御する。つまり、マイクロコンピュータ7は、あらかじめ入力されている所定のプログラムに従って、プロペラ3及び尾翼5の動作を制御することで、気象観測装置1の自律的な航行を制御する。
マイクロコンピュータ7は、機体2に設けられる。本実施形態では、マイクロコンピュータ7は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。
温度センサ8は、機体2に設けられ、観測対象となる所定の気象要素の一つである気温を計測するための計測器として機能する。本実施形態では、温度センサ8は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。
温度センサ8により検出される温度が、気象観測装置1が存在する位置(特定地点・高度)における気温として検出される。温度センサ8により検出された温度についての情報は、気象観測装置1が存在した位置と対応付けられて、各地点・高度における気象観測情報としてマイクロコンピュータ7内に記録される。
このように、本実施形態の気象観測装置1は、観測対象となる所定の気象要素として、温度センサ8により検出される温度を採用する。気象観測装置1においては、気象観測用の計測器は、観測対象となる気象要素に応じて適宜一または複数備えられる。気象観測装置1による観測対象となる気象要素としては、温度のほか、例えば、湿度、気圧、CO2、NOx等の特定ガスの濃度、風向、風速等が挙げられる。
したがって、気象観測装置1においては、温度センサ8に代えて、あるいは温度センサ8に加えて、観測対象となる気象要素に応じて、各気象要素を計測することができるセンサ等の各種機器が搭載される。これにより、気象観測装置1の飛行経路における各地点と高度における気象要素が観測される。
以上のような構成を備える気象観測装置1の飛行動作について、図3〜5を用いて説明する。まず、気象観測装置1の飛行動作のうち、気象観測装置1の垂直上昇・下降の移動、及びホバリング(以下総称して「垂直飛行動作」という。)について説明する。上述したように、飛行中の気象観測装置1は、プロペラ3の回転により揚力を得ながら、プロペラ3の回転の反力によって機体2をプロペラ3とは反対方向に回転させた状態となる。
気象観測装置1の垂直飛行動作は、揚力を得るためのプロペラ3の回転制御により行われる。したがって、気象観測装置1が垂直飛行動作を行っている状態では、プロペラ3を駆動するモータ4の出力が制御されることにより、気象観測装置1の垂直上昇の移動、垂直下降の移動、及びホバリングのうちのいずれかが行われ、気象観測装置1の高度の調整が行われる。
図3(a)に示すように、垂直飛行動作中の気象観測装置1においては、尾翼5が機体2に対して真っすぐな状態(傾動していない状態)となる。垂直飛行動作中の気象観測装置1は、機体2が回転することにより受ける空気抵抗や機体2自身の重さ等により、機体2及び尾翼5の板面が略鉛直方向に沿うような姿勢となる。
次に、気象観測装置1の横方向(水平方向)の移動(以下「水平飛行動作」という。)について説明する。気象観測装置1の水平飛行動作は、プロペラ3の回転による揚力を受けて飛行しつつ、プロペラ3の反力トルクにより回転する機体2の周囲の気流を、尾翼5の動作によって変化させ、機体2を傾かせることで、プロペラ3による揚力の水平成分を生じさせて横方向に移動することにより行われる。
したがって、水平飛行動作中の気象観測装置1においては、尾翼5の機体2に対する傾動動作が行われる。すなわち、図3(a)に示すように、尾翼5が機体2に対して真っすぐな状態から、同図(b)に示すように、尾翼5が機体2に対して傾動させられる(矢印B1参照)。図3においては、尾翼5は、機体2に対して表側に向けて傾動している。
図3(b)に示すように、尾翼5が傾動することにより、機体2が受ける気流が変化し、同図(c)に示すように、気象観測装置1が傾倒した状態となる。ここで、気象観測装置1は、プロペラ3の回転軸線が傾くように、尾翼5の機体2に対する傾動方向に対応する方向に傾倒する。つまり、図3(b)に示すように、尾翼5が機体2に対して表側に向けて傾動した場合、同図(c)に示すように、気象観測装置1は、表側(図3において左側)に前傾するように傾く。
図3(c)に示すように、気象観測装置1が表側に傾くことにより、プロペラ3による揚力の表側向き(図3において左向き)の水平成分が生じ、気象観測装置1が表側向きに進むこととなる。つまり、図3(a)、(b)に示すように、気象観測装置1において、プロペラ3の回転により生じる揚力が垂直上向きのベクトルV0により表わされる垂直飛行動作中の状態から、尾翼5の傾動動作が行われることにより、同図(c)に示すように、気象観測装置1が傾倒し、傾いた側に進行する。
気象観測装置1が傾倒することより、図3(c)に示すように、プロペラ3の回転軸線が傾きにともなってベクトルV0の向きも傾き、垂直上向きのベクトルV1と、水平方向のベクトルV2とが生じる。これにより、気象観測装置1は、横方向(水平方向)に進む推力(ベクトルV2参照)を得る。
このように、尾翼5は、プロペラ3の回転による反力によって機体2が回転することにより抵抗を受ける気流の流れを変化させることで、機体2を、プロペラ3の回転軸線が傾く所定の傾倒方向に傾かせる可動翼として機能する。ここで、機体2についての所定の傾倒方向は、水平飛行動作を行う気象観測装置1が進む向きに対応する。したがって、機体2についての所定の傾倒方向は、尾翼5が機体2に対して傾動する向き(表側・裏側の向き)に対応する。
そして、水平飛行動作中の気象観測装置1においては、上述したような尾翼5の傾動動作が、機体2の回転に対応して周期的に行われる。つまり、尾翼5の傾動が、プロペラ3の反力による機体2の回転と同じ周期の振動動作として行われることで、機体2が常に一定方向に傾倒した状態が得られ、気象観測装置1の水平方向への移動が可能となる。ここで、機体2が傾倒する一定方向が、機体2についての所定の傾倒方向であり、水平飛行動作を行う気象観測装置1が進む向きに対応する。
具体的に、気象観測装置1が、水平方向について所定の移動方向に進む場合について説明する。図4(a)及び図5(a)に示すように、気象観測装置1の水平飛行動作においては、プロペラ3の反力によって回転する機体2の方位が所定の移動方向を向いたタイミング、言い換えると機体2の表側が所定の移動方向を向いたタイミングで、尾翼5が、所定の移動方向側、つまり表側に傾動する。
そして、図4(b)及び図5(b)に示すように、プロペラ3の反力によって機体2が回転する過程で、機体2が180°回転し、機体2の方位が所定の移動方向と反対方向を向いたタイミング、言い換えると機体2の裏側が所定の移動方向側を向いたタイミングで、尾翼5が、所定の移動方向側、つまり裏側に傾動する。同様にして、図4(c)及び図5(c)に示すように、機体2がさらに180°回転し、機体2の方位が所定の移動方向を向いたタイミングで、尾翼5が、所定の移動方向側に傾動する。
このように、気象観測装置1の水平飛行動作においては、プロペラ3の反力によって回転する機体2の回転動作に同期して、機体2が180°回転するごとに、尾翼5の所定の移動方向への傾動動作が周期的な振動動作として行われる。つまり、尾翼5は、機体2に対して表側及び裏側の反対方向に傾動する動作を、機体2の回転に同期して正弦波状に振動する動作として、傾動方向が常に所定の移動方向の向きとなるように行うことで、気象観測装置1が所定の移動方向に傾倒した状態が維持され、気象観測装置1がその傾倒する方向に進んで行く。
以上のように、気象観測装置1は、尾翼5を機体2の回転に同期させて周期的に動作させることで、機体2の水平方向への進行方向(所定の移動方向)に応じて、機体2を傾かせる気流の流れを断続的に生じさせる。これにより、気象観測装置1は、水平飛行動作において所定の移動方向に移動する。そして、機体2の回転に同期する尾翼5の周期的な動作が停止することで、気象観測装置1の水平飛行動作も停止する。このようにして、気象観測装置1の水平方向の位置が制御される。
このようなプロペラ3の反力による機体2の回転に同期する尾翼5の周期的な動作は、地磁気センサ6からの検出信号に基づき、マイクロコンピュータ7による制御の下で行われる。マイクロコンピュータ7は、地磁気センサ6により、機体2の表側の面が現在どの方向を向いているかを検知する。マイクロコンピュータ7においては、あらかじめ入力されているプログラム等により気象観測装置1の水平方向についての移動方向が、所定の指示方位として指定される。
そこで、マイクロコンピュータ7は、機体2の方位が指示方位を向くタイミング、及び機体2の方位が指示方位と反対の方位を向くタイミングで、尾翼5が指示方位に向けて傾動するように、サーボモータ14に対して制御信号を送ることで、尾翼5の動作を制御する。つまり、マイクロコンピュータ7は、地磁気センサ6により検出される機体2の方位に応じて、プロペラ3の反力による機体2の回転に同期して、機体2が180°回転するごとに、尾翼5が所定の指示方位に向けて傾動するように、尾翼5の動作を制御する。
例えば、マイクロコンピュータ7において指定される所定の指示方位が「南」である場合、マイクロコンピュータ7は、機体2の方位が「南」となるタイミングと、機体2の方位が「北」となるタイミングとの両方のタイミングで、尾翼5を「南」に向けて傾動させる。これにより、気象観測装置1は、「南」に向けて傾倒した状態を維持しながら、「南」に向けて移動する。
このように、マイクロコンピュータ7は、地磁気センサ6により検出された機体2の方位(機体2が向いている方位)に基づき、プロペラ3の反力によって回転する機体2が、機体2の進む方向として指示された所定の指示方位を向くタイミングと同期させて、機体2が傾倒方向を指示方位に対応させて傾くように尾翼5を周期的に動作させることで、機体2の移動を制御する。なお、気象観測装置1の水平飛行動作においては、機体2が傾倒することで、プロペラ3の揚力についての垂直方向の成分が減ることから(図3(c)参照)、気象観測装置1の高度を維持する場合、モータ4の回転数を増加させる制御が適宜行われる。
また、本実施形態の気象観測装置1は、GPS(Global Positioning System)により、航行制御を行うことで、指定地点上空、または指定地点間を自律的に航行する。このため、図1及び図2に示すように、気象観測装置1は、GPS衛星20からの信号(GPS信号)を受信するGPSセンサ16を備える。本実施形態では、GPSセンサ16は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。
GPSセンサ16は、GPS受信機としての機能と、GPSアンテナとしての機能とを有し、複数のGPS衛星20との通信を行う。GPSセンサ16により受信されたGPS衛星20からのGPS信号は、マイクロコンピュータ7に入力され、気象観測装置1の現在位置として検知される。
マイクロコンピュータ7は、GPSセンサ16が受信したGPS信号に基づき、気象観測装置1の機体2が現在存在する位置(気象観測装置1の現在位置)の経度、緯度、高度からなる空間座標と時刻とを検知する。このため、マイクロコンピュータ7は、GPSセンサ16が受信したGPS信号に基づいて、空間座標と時刻とを検知する機能部を有する。
GPSセンサ16により取得される気象観測装置1の現在位置の空間座標と時刻は、マイクロコンピュータ7により所定のプログラムに従って行われる気象観測装置1の自律的な航行の制御に用いられる。
例えば、マイクロコンピュータ7は、地磁気センサ6及びGPSセンサ16のそれぞれから随時送られてくる信号に基づき、所定のプログラムに従って行われる航行の経路を目標として、プロペラ3及び尾翼5に対する制御量を更新するフィードバック制御を行う。これにより、マイクロコンピュータ7は、気象観測装置1の水平方向の位置(緯度、経度)、気象観測装置1の垂直方向の位置(高度)、気象観測装置1の移動方向(進行方向)、気象観測装置1の移動速度等の制御を行う。
このように、マイクロコンピュータ7は、GPSセンサ16により受信したGPS信号に基づき、機体2の現在位置を検知し、検知した機体2の現在位置を用いて、機体2の移動を制御する。
以上のように、気象観測装置1が、GPS通信機能を備え、そのGPS通信機能を用いて航行制御を行うことにより、気象観測装置1の自律的な航行において、気象条件等による影響を低減することができ、正確な航行を行うことができる。例えば、気象条件として、風が強い場合、気象観測装置1が風に流されて所定の航行経路からのずれが大きくなるが、GPS機能により検知した機体2の現在位置を気象観測装置1の航行制御に用いることで、気象観測装置1の航行経路を補正しながらの航行が可能となり、正確な航行を行うことができる。
また、本実施形態の気象観測装置1は、マイクロコンピュータ7による自律的な航行制御に加え、無線操縦(遠隔操作)を行うための構成を備える。このため、図1及び図2に示すように、気象観測装置1は、モータ4及び尾翼5の少なくともいずれかを遠隔操作するための無線信号を受信する受信機としてのRC受信機17を備える。RC受信機17は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。
図2に示すように、RC受信機17は、気象観測装置1を操縦する操縦者によって操作される無線操縦機30からの無線信号を受信する。RC受信機17が無線操縦機30から受信する無線信号には、プロペラ3を駆動するモータ4の動作、及び尾翼5の動作の少なくともいずれかを制御するための制御信号が含まれる。RC受信機17により受信された無線操縦機30からの無線信号は、マイクロコンピュータ7に入力され、モータ4または尾翼5の動作の制御に用いられる。
具体的には、マイクロコンピュータ7は、RC受信機17により受信された無線信号に基づいてモータ4の動作を制御する場合、無線操縦機30の操作により指示された制御量に対応して、モータアンプ12を介してモータ4の制御量を決め、モータ4の回転数(回転速度)等を制御する。また、マイクロコンピュータ7は、RC受信機17により受信された無線信号に基づいて尾翼5の動作を制御する場合、無線操縦機30の操作により指示された制御量に対応して、サーボモータ14の制御量を決め、尾翼5の傾動角度等を制御する。
このような無線操縦による制御を行うため、マイクロコンピュータ7は、RC受信機17が受信した無線信号に基づいて、モータ4または尾翼5の動作の制御を行うための機能部を有する。このように、マイクロコンピュータ7は、RC受信機17により受信した無線信号に基づき、モータ4及び尾翼5の少なくともいずれかの動作を制御する。RC受信機17が用いられる無線操縦機30による無線操縦は、例えば、気象観測装置1の離着陸の際の機体制御の補助として用いられる。
以上のように、気象観測装置1が、無線操縦を行うための構成を備えることにより、気象観測装置1の操縦者が視認可能な範囲において、気象観測装置1の遠隔操作を行うことができる。これにより、気象観測装置1の航行制御において、安全性を確保することができる。
このように、自律航行可能な気象観測装置1によれば、無線操縦では制御できない高度や距離を航行させ、自動で気象観測データを取得することが可能であるが、無線操縦を可能とすることにより、操縦者が視認可能な範囲で、操縦者の任意による航行制御を行うことが可能となる。安全性確保の観点からは、RC受信機17が用いられる無線操縦機30による無線操縦による制御を、自律的な航行制御に対して優先的に行わせ、瞬時に手動飛行に切替え可能な構成を採用することが好ましい。なお、RC受信機17は、本実施形態ではマイクロコンピュータ7により実現されるコントローラと共通のハードウエアにより構成されてもよい。
また、本実施形態の気象観測装置1においては、垂直飛行動作中または水平飛行動作中に、機体2の高度を維持するための制御(以下「高度維持制御」という。)が行われる。このため、気象観測装置1は、機体2の高度を検出する高度検出手段を備える。高度維持制御は、マイクロコンピュータ7により、高度検出手段により検出された機体2の高度に基づいて行われる。
本実施形態の気象観測装置1は、高度維持制御において、上述したようにGPSセンサ16により検出される機体2の現在位置の高度を利用する。つまり、本実施形態では、GPSセンサ16が、機体2の高度を検出する高度検出手段として機能する。
高度維持制御において、マイクロコンピュータ7は、あらかじめ入力された機体2の高度についての目標値と、GPSセンサ16により検出された検出値との比較によるフィードバック制御を行うことで、機体2の高度を目標値に保持するように、モータ4の動作を制御する。
したがって、高度維持制御に際しては、マイクロコンピュータ7に、機体2の高度についての目標値があらかじめ入力される。高度維持制御に用いられる機体2の高度についての目標値は、例えば、気象観測装置1の自律航行のためのプログラムの一部として入力される。
そして、マイクロコンピュータ7は、あらかじめ入力された機体2の高度の目標値と、GPSセンサ16により検出される機体2の現在の高度の検出値との比較を行い、その比較結果に基づいて、目標値と検出値とが一致するように、モータアンプ12を介してモータ4の制御量を調整する。マイクロコンピュータ7は、このようにGPSセンサ16が受信したGPS信号に基づく高度維持制御を行うための機能部を有する。
以上のように、気象観測装置1において、高度維持制御が行われることにより、気象観測装置1の自律的な航行において、気象条件等による影響を低減することができ、機体2の高度の面でより正確な航行を行うことができる。
なお、本実施形態では、機体2の高度を検出する高度検出手段として、GPSセンサ16が用いられているが、高度維持制御を行うための高度検出手段としては、GPSセンサ16とは別途設けられる高度計が用いられてもよい。この場合、マイクロコンピュータ7は、高度計により得られた機体2の高度情報に基づき、上述したような機体2の高度についてのフィードバック制御を行う。
また、本実施形態の気象観測装置1においては、GPS機能を利用することにより、風向及び風速の少なくともいずれかの観測が行われる。風向・風速の観測は、気象観測装置1が水平飛行動作を意図的に行わない場合、風を受けて受動的に移動する性質を利用して行われる。
具体的には、風向・風速の観測は、マイクロコンピュータ7により、GPSセンサ16により受信されたGPS信号に基づいて行われる。マイクロコンピュータ7は、GPSセンサ16により受信したGPS信号に基づき、所定の計測開始時点T1での機体2の現在位置P1と、計測開始時点T1から所定時間ΔT経過後の計測時点T2での機体2の現在位置P2とから、風向及び風速の少なくともいずれかを計測する。
すなわち、水平飛行動作が行われない条件の下では、気象観測装置1の移動は、風による受動的なものとなる。そこで、機体2の現在位置P1と機体2の現在位置P2との位置関係から、所定時間ΔTの間に、気象観測装置1が移動した方向を検知することができ、その気象観測装置が移動した方向は、風向に対応する。したがって、所定時間ΔTの間に気象観測装置1が移動した方向に基づいて、風向が計測される。
また、機体2の現在位置P1と機体2の現在位置P2との間の距離から、気象観測装置1の移動速度を検知することができる。そして、所定時間ΔTの間に気象観測装置1が移動した距離に基づいて、風速が計測される。
このような風向・風速の計測を行うための機能部が、マイクロコンピュータ7に設けられる。風向・風速の計測に際し、マイクロコンピュータ7においては、例えば、計測開始時点T1から計測時点T2までの間の時間(所定時間ΔT)に対応する単位計測時間の値や、単位計測時間の間の気象観測装置1の移動方向を風向に換算するための演算式や、単位計測時間の間の気象観測装置1の移動距離を風速に換算するための演算式等が、一連のプログラムやデータテーブル等としてあらかじめ入力される。
以上のように、気象観測装置1において、GPS信号に基づく風向・風速の観測が行われることにより、風向・風速が、気象観測装置1の観測対象となる場合、風向・風速を計測するための計測器を設けることなく、気象要素としての風向・風速の観測を行うことができる。これにより、気象観測装置1の構造をより簡単なものとすることが可能となる。
なお、風速・風向の計測は、次のような方法によっても行うことができる。上述したように、水平飛行動作が行われない条件の下では、気象観測装置1の移動は、風による受動的なものとなる。そこで、気象観測装置1が、風に流されることなく所定の位置に留まるように、プロペラ3及び尾翼5の動作を制御する。
このような気象観測装置1の定点保持制御は、マイクロコンピュータ7により、GPSセンサ16により受信されるGPS信号に基づいて行われる。そして、気象観測装置1を所定の位置に留めるためにプロペラ3及び尾翼5の動作制御において入力した制御量から、風向・風速を逆算することで、風向・風速を計測する。
このような風向・風速の計測を行うに際しては、マイクロコンピュータ7において、所定の単位計測時間の値や、プロペラ3を駆動するモータ4に入力した制御量と風向・風速との関係や、尾翼5を動作させるサーボモータ14に入力した制御量と風向・風速との関係等が、一連のプログラムやデータテーブル等としてあらかじめ入力される。このような手法により風向・風速の計測が行われることによっても、上記のとおり気象観測装置1の構造をより簡単なものとすることが可能となる。
また、本実施形態の気象観測装置1は、所定の航行を終えて着陸する際に、機体2が地表に落下する勢いを緩衝するため、地上から所定の高さ位置に達するとホバリングを行う制御(以下「着陸制御」という。)を行う。気象観測装置1は、着陸制御を行うため、図1及び図2に示すように、機体2の地表に対する距離を検出する高さ位置検出手段として機能する超音波センサ18を有する。超音波センサ18は、機体2の表側の面における所定の位置に固定された状態で保持される。
超音波センサ18は、センサヘッドから超音波を発振し、地表で反射する超音波をセンサヘッドにより受信し、この超音波の発信から受信までの時間を計測することで、地表に対する距離、つまり機体2の高さ位置を検出する。このため、超音波センサ18は、機体2において、センサヘッドが下側を向くように設けられる。
マイクロコンピュータ7は、気象観測装置1の着陸に際して行われる下降移動の過程で、超音波センサ18により検出される地表に対する距離に基づき、着陸制御を行う。具体的には、マイクロコンピュータ7は、着陸制御において、機体2の地表に対する距離があらかじめ設定された所定の距離に達すると、気象観測装置1がホバリング状態となるように、プロペラ3を駆動するモータ4の動作を制御する。
そして、マイクロコンピュータ7は、気象観測装置1の着陸に際して気象観測装置1を一旦ホバリング状態とした後、気象観測装置1が緩やかに下降するように、モータ4の動作を制御する。このような着陸制御において設定される機体2の地表に対する所定の距離は、例えば、5〜10m程度の距離に設定される。
このような着陸制御を行うための機能部が、マイクロコンピュータ7に設けられる。着陸制御に際し、マイクロコンピュータ7においては、上述したように気象観測装置1が一旦ホバリング状態とされる機体2の地表からの距離(機体2の高さ位置)が一連のプログラムやデータテーブル等としてあらかじめ入力される。
このように、マイクロコンピュータ7は、超音波センサ18により検出された地表に対する距離が、あらかじめ入力された所定の距離に達すると、機体2がホバリングするように、モータ4の動作を制御する。
以上のような着陸制御が気象観測装置1において行われることにより、気象観測装置1を地表に対して緩やかに着陸させることができ、気象観測装置1の着陸による故障や破損等を防止することができる。これにより、気象観測装置1の寿命を向上させることができ、コストの削減をより効果的に行うことができる。なお、気象観測装置1による着陸制御に用いられる高さ位置検出手段としては、本実施形態のような超音波センサのほか、光電センサや近接センサ等、適宜周知のセンサ類等を用いることができる。
以上のような構成を備える本実施形態の気象観測装置1による、気象観測における一連の航行制御の一例について、図6を用いて説明する。図6に示すように、本例に係る気象観測装置1の航行制御においては、まず、気象観測装置1の電源の投入が行われ、これにより、マイクロコンピュータ7についての初期化が行われ、GPSセンサ16によって、GPS衛星20からのGPS信号の受信が開始される。
次に、モータ4によるプロペラ3の駆動が開始され、あらかじめ設定された所定の上昇率(上昇速度)で、気象観測装置1の垂直上昇移動が行われる((A)→(B))。この気象観測装置1の上昇の過程においては、GPSセンサ16によって受信されるGPS信号に基づいて、気象観測装置1の空間座標が検出されながら、温度センサ8による各高度地点での気温が測定・記録される。
次に、所定の指示方位に向けて、気象観測装置1が水平飛行動作を行う((B)→(C)→(D))。つまり、プロペラ3の回転の反力による機体2の回転に同期した尾翼5の周期的な振動動作が行われ、気象観測装置1が、所定の指示方位に向けて水平移動する。このような気象観測装置1の水平移動の過程においても、GPSセンサ16によって受信されるGPS信号に基づいて、気象観測装置1の空間座標が検出されながら、温度センサ8による各高度地点での気温が測定・記録される。また、気象観測装置1の水平移動の過程においては、上述したようなGPS機能による航行制御や高度維持制御等が適宜行われる。
そして、気象観測装置1が、水平移動によって、あらかじめ設定された所定の帰還地点に達すると((B)→(C)→(D))、気象観測装置1は、観測開始地点まで戻り((D)→(C)→(B))、あらかじめ設定された所定の下降率(下降速度)で垂直下降移動する((B)→(A))。この気象観測装置1の下降の過程においては、上述したような着陸制御が行われ、機体2の地表40に対する距離が、あらかじめ設定された距離に達すると、気象観測装置1は、一旦ホバリング状態とされ、その後、緩やかに地表40に着陸する。
このような気象観測装置1についての一連の航行制御が、GPS信号が用いられ、マイクロコンピュータ7においてあらかじめ入力されるプログラム等に基づいて、自律的な航行として行われる。ただし、気象観測装置1の操縦者が視認可能な範囲においては、RC受信機17が用いられ、無線操縦機30による無線操縦が適宜行われる。
なお、気象観測装置1の航行制御においては、気象観測の観測開始地点と、観測を終えた気象観測装置1を回収する回収地点とを異なる地点に設定することもできる。この場合、例えば、図6に示すように、気象観測装置1が、水平移動によって、あらかじめ設定された所定の帰還地点に達すると((B)→(C)→(D))、気象観測装置1は、その地点で下降を開始し、地表40に着陸する((D)→(E))。
地表40に着陸した気象観測装置1は、停止状態となる。そして、気象観測装置1のマイクロコンピュータ7がコンピュータ等に接続され、マイクロコンピュータ7のメモリに記憶された観測データの読み出しが行われる。以上のようにして、観測データが回収され、気象観測装置1による気象観測が行われる。
以上説明した本実施形態の気象観測装置1は、本発明の実施の一形態であり、様々な変形例が考えられる。例えば、本実施形態の気象観測装置1は、プロペラ3を駆動させる駆動源として、モータ4を採用しているが、プロペラ3を駆動させる駆動源は、エンジン(内燃機関)であってもよい。この場合、バッテリ10を省略することができる。
また、本実施形態の気象観測装置1は、横方向に移動するための構成である可動翼として、尾翼5を備えるが、可動翼はこれに限定されない。例えば、機体2を横方向に移動させるための可動翼は、二等辺三角形状の機体2における頂角側以外の角側(底角側)に設けられてもよい。つまり、機体2を横方向に移動させるための可動翼としては、機体2の構成に応じて、機体2がプロペラ3の反力によって回転することにより抵抗を受ける気流の流れを変化させることで、機体2を、プロペラ3の回転軸線が傾く所定の傾倒方向に傾かせることができる構造であればよい。
また、本実施形態の気象観測装置1は、機体2の方位を検出する手段として、地磁気センサ6を採用しているが、機体2の方位を検出する手段としては、ジャイロセンサや加速度センサ等の各種のセンサを用いることができる。また、複数のGPSセンサを互いに異なる位置に配置して備えることによっても、機体2の方位を検出する手段としての機能を得ることができる。
また、気象観測装置1において機体2に設けられる地磁気センサ6やマイクロコンピュータ7等の各種機器の配置は、特に限定されず、機体2において他の機器との関係において適宜設定される。例えば、機体2に設けられる各種機器は、プロペラ3の反力による機体2の回転が考慮され、支持柱11を中心に左右均等な重量となるように配置される。
以上のような本実施形態の気象観測装置1によれば、揚力を得るためのプロペラ3の回転の反作用としてのトルクを打ち消すことなく機体2の位置制御を行うことができるとともに、簡単な構造、小型・軽量な構成を容易に実現することができ、故障が少なくメンテナンスも容易であり、低コストで作製することができる。
本実施形態の気象観測装置1は、電子技術によってプロペラ3の反力トルクによって機体2を回転させながら飛行するという独自の機体構造を採用するものである。特に、本実施形態の気象観測装置1は、既存の回転翼機等の飛行体とは、機体の重心と圧力中心との関係で本質的に異なる。既存の回転翼機等の飛行体は、プロペラの反力を打ち消して操縦性を確保していたが、本実施形態の気象観測装置1によれば、GPS機能や各種センサ等によりプロペラの反力で自転したままでも電子的に機体制御を行うことで、機体構造を大幅に簡略化することが可能となる。
そして、本実施形態の気象観測装置1は、計測器や各種センサ等の物理的な大きさと積載重量の制限しか受けず、自律安定性を有する飛行を行うことができ、環境情報としての気象要素を自動で計測することができる。このため、本実施形態の気象観測装置1は、例えば、市街地等の比較的人口が多い場所で計測が行われるヒートアイランド現象の観測に好適に用いられ、近年問題視されているヒートアイランド現象の解明に貢献することができる。また、本実施形態の気象観測装置1により取得される観測データは、特定地点の気象短期予想にも貢献する。
さらに、本実施形態の気象観測装置1によれば、次のような利点が得られる。離着陸に必要な広さは畳半畳程度で良いため、ビルの屋上などからも観測が可能である。また、単純な機構で上昇・下降を行うので、安価で堅牢な装置となる。また、従来技術に比べ軽量で小型なため、落下した際の他への影響も小さく抑えることができる。また、繋留索を必要とせず、航空機への障害も最低限に抑えられ、夜間の大気観測が可能となる。また、回収・再利用による低コスト化が可能となる。また、機械的構造及び制御構造が簡単であるため、低コストで、信頼性が高く、メンテナンスが容易である。また、自律航行なので、視認の必要がなく、リモートコントロール不可能な高度まで観測が可能である。また、航空法の制限が緩和される。また、例えばヘリウムガスの入手が困難な環境等のように、バルーンやラジオゾンデ等が使用できない環境下においても、気象の観測を行うことができる。