特許文献1、2に記載されたインクジェット記録装置では、2つの搬送ベルトで記録媒体を搬送することで未乾燥インクによる汚染やオフセットを抑制しつつ、装置の小型化も実現可能である。しかしながら、それぞれの搬送ベルトの線速に速度差が生じた場合、搬送ベルト間で記録媒体の受け渡しが行われる際に記録媒体の搬送速度が変化し、記録媒体の上流側において色ずれが発生するおそれがあった。
具体的には、2つの搬送ベルトを並べて配置した場合、下流側の搬送ベルトの線速が速ければ記録媒体を引っ張る力が発生し、下流側の搬送ベルトの線速が遅ければ記録媒体の搬送を妨げる力が発生する。このとき、記録媒体が上流側の搬送ベルトに強固に保持されていれば問題はないが、記録媒体の搬送により上流側の搬送ベルトで保持される部分が相対的に少なくなっていくため、記録媒体の保持力は徐々に低下していく。その結果、上流側の搬送ベルトに対し記録媒体のずれが生じ、印字領域で色ずれが発生する。
また、特許文献3の構成は、下流側の搬送ベルトを上り勾配とすることにより、記録媒体の下面に空気が入り込んで記録媒体の先端が浮き上がった場合でも記録媒体の挙動を安定させることにより、記録媒体の斜行やジャム、画像ディフェクト等を防止することを目的とするものである。そのため、上述したような、搬送ベルト間で記録媒体の受け渡しが行われる際に記録媒体の搬送速度変化を抑制するという課題及び解決手段は全く記載されておらず、そのような示唆もなかった。また、特許文献3の構成では下流側の搬送ベルトにも記録ヘッド(印字部)が対向配置されている。即ち、特許文献3は上流側と下流側の記録部における印字動作中の記録媒体の搬送状態を安定化することを目的としており、下流側の搬送ベルトに受け渡された記録媒体の搬送速度の変化を抑制して上流側の記録部における色ずれの発生を防止することを目的とするものではなかった。
本発明は、上記問題点に鑑み、未乾燥インクによる搬送手段の汚染やオフセットの発生を防止するとともに、記録媒体の搬送速度の変化による色ずれも防止可能である小型でコンパクトなインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、記録媒体を吸着保持して搬送する無端状の第1搬送ベルトと、該第1搬送ベルトを回転駆動する第1駆動ローラーと、該第1駆動ローラーと共に前記第1搬送ベルトを回転可能に支持する第1従動ローラーと、を有する第1ベルト搬送部と、該第1ベルト搬送部に対向して配置され、前記第1搬送ベルトにより搬送される記録媒体へインクを吐出するラインヘッド型の記録ヘッドを有する記録部と、記録媒体の搬送方向に対し前記第1ベルト搬送部の下流側に隣接して配設され、記録媒体を吸着保持して搬送する無端状の第2搬送ベルトと、該第2搬送ベルトを回転駆動する第2駆動ローラーと、該第2駆動ローラーと共に前記第2搬送ベルトを回転可能に支持する第2従動ローラーと、を有する第2ベルト搬送部と、を備え、前記第1搬送ベルトの搬送面と、前記第2搬送ベルトの搬送面とのなす角度が鈍角であるインクジェット記録装置である。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1搬送ベルトの搬送面を記録媒体の搬送方向に延長した面が、前記第2搬送ベルトの搬送面と交差することを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1駆動ローラーと前記第2駆動ローラーとは、同一の駆動入力ギアに連結されることを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1搬送ベルトの搬送面と、前記第2搬送ベルトの搬送面とのなす角度が140°以上170°以下であることを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1搬送ベルトによる記録媒体の搬送速度をS1、前記第2搬送ベルトによる記録媒体の搬送速度をS2とするとき、S1≧S2を満たすことを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1搬送ベルトに対する記録媒体の単位面積当たりの吸着力をF1、前記第2搬送ベルトに対する記録媒体の単位面積当たりの吸着力をF2とするとき、F1≧F2を満たすことを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第1搬送ベルトの幅方向寸法は、前記記録部の最大印字幅よりも広いことを特徴としている。
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記第2搬送ベルトの搬送面に吸着保持される記録媒体上のインクを乾燥する乾燥装置を備えたことを特徴としている。
本発明の第1の構成によれば、記録部に対向配置される第1ベルト搬送部の下流側に第2ベルト搬送部を配置することにより、第2ベルト搬送部による搬送中にインクの乾燥時間を確保することができ、第2ベルト搬送部の下流側の搬送路や搬送ローラー対等への未乾燥インクの付着を防止することができる。このとき、第1搬送ベルトの搬送面と第2搬送ベルトの搬送面とのなす角度を鈍角とすることにより、第1ベルト搬送部から第2ベルト搬送部に受け渡される記録媒体の搬送速度の変動を吸収して記録部における色ずれを効果的に防止することができる。
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のインクジェット記録装置において、第1搬送ベルトの搬送面を記録媒体の搬送方向に延長した面が、第2搬送ベルトの搬送面と交差するように配置することで、記録媒体の先端が第2搬送ベルトの搬送面に確実に吸着保持されるため、第1搬送ベルトから第2搬送ベルトへの記録媒体の受け渡しを円滑に行うことができる。また、第1搬送ベルトの搬送面よりも下方に空間が形成されるため、搬送速度の変動を吸収する撓みを記録媒体に容易に形成することができる。
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成のインクジェット記録装置において、第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとを、同一の駆動入力ギアに連結することにより、第1搬送ベルトの搬送速度と第2搬送ベルトの搬送速度とを容易に略等速とすることができ、さらに略等速状態を容易に維持することができる。また、第1駆動ローラーと第2駆動ローラーの直径比、或いは第1駆動ローラーと第2駆動ローラーに固定されるギアのギア比を調整することにより、第1搬送ベルト及び第2搬送ベルトの搬送速度を所望の速度に設定することができ、設定速度の維持も容易となる。さらに、一つのモーターを用いて第1駆動ローラー及び第2駆動ローラーを駆動できるため、コスト面においても有利となる。
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、第1搬送ベルトの搬送面と、第2搬送ベルトの搬送面とのなす角度を140°以上170°以下とすることにより、第1搬送ベルトから第2搬送ベルトへの記録媒体の受け渡し時に記録媒体に伝わる衝撃を小さくしつつ、第1搬送ベルトと第2搬送ベルトの境界部分において記録媒体に十分な撓みを形成することができる。
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、第1搬送ベルトによる記録媒体の搬送速度S1と、第2搬送ベルトによる記録媒体の搬送速度S2とがS1≧S2を満たすことにより、第1搬送ベルトから第2搬送ベルトへの記録媒体の受け渡し時に、記録媒体に第2ベルト搬送部による引っ張り力が作用せず、第1ベルト搬送部における記録媒体のずれをより確実に防止することができる。また、記録媒体の屈曲部分に初期撓みを確実に形成することができる。
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1乃至第5のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、第1搬送ベルトに対する記録媒体の単位面積当たりの吸着力F1と、第2搬送ベルトに対する記録媒体の単位面積当たりの吸着力F2とがF1≧F2を満たすことにより、記録媒体の撓みによって吸収できない大きな搬送速度差が生じた場合であっても、記録媒体のずれは吸着力の弱い第2ベルト搬送部で発生する。従って、第1ベルト搬送部における記録媒体のずれをより確実に防止することができる。
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、第1搬送ベルトの幅方向寸法を、記録部の最大印字幅よりも広くすることにより、第1搬送ベルト及び第2搬送ベルトの搬送面に吸着される記録媒体をフラットな状態に維持することができ、記録部において安定した印字が可能となる。
また、本発明の第8の構成によれば、上記第1乃至第7のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、第2搬送ベルトの搬送面に吸着保持される記録媒体上のインクを乾燥する乾燥装置を備えることにより、記録媒体上のインクをより短時間で乾燥することができ、第1搬送ベルト及び第2搬送ベルトの搬送速度を必要以上に低下させることなく第2ベルト搬送部の下流側の搬送路や搬送ローラー対等への未乾燥インクの付着を確実に防止することができる。
以下、図面を参照しながら本発明に係るインクジェット記録装置について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置の一例であるインクジェット式プリンター100の内部構成を示す側面断面図である。
図1に示すように、プリンター100は、プリンター本体2の内部下方に用紙収容部である給紙カセット3が配置されている。給紙カセット3の内部には、記録媒体の一例である印刷前のカットペーパーなどの用紙Pが所定枚数(例えば500枚程度)積載して収容されている。給紙カセット3の用紙搬送方向下流側、すなわち図1における給紙カセット3の右側の上方には給紙装置4が配置されている。この給紙装置4により、用紙Pは図1において給紙カセット3の右上方に向け、1枚ずつ分離されて送り出される。給紙カセット3は本体2の正面側から水平に引き出して用紙Pを補充することが可能である。
本体2の右側面外部には手差し給紙トレイ5が備えられている。手差し給紙トレイ5には給紙カセット3内の用紙Pとは異なるサイズの用紙や、厚紙、OHPシート、封筒、ハガキ、送り状のように屈曲した搬送経路を通過するのが困難な記録媒体、1枚ずつ手で送り込みたい記録媒体などが載置される。手差し給紙トレイ5の用紙搬送方向下流側、すなわち図1における手差し給紙トレイ5の左側には給紙装置6が配置されている。この給紙装置6により、手差し給紙トレイ5上の用紙は図1において左方に向け、1枚ずつ分離されて送り出される。
また、プリンター100はその内部に第1用紙搬送路7を備えている。第1用紙搬送路7は、給紙カセット3に関して言えばその給紙方向である右上方に位置し、手差し給紙トレイ5に関して言えばその左方に位置する。給紙カセット3から送り出された用紙Pは第1用紙搬送路7により本体2の側面に沿って垂直上方に、手差し給紙トレイ5から送り出された用紙は略水平左方に向けて搬送される。
用紙搬送方向に対し第1用紙搬送路7の下流端にはレジストローラー対8が備えられている。さらにレジストローラー対8の下流側直近には第1ベルト搬送部20及び記録部30が配置されている。給紙カセット3(または手差し給紙トレイ5)から送り出された用紙Pは第1用紙搬送路7を通ってレジストローラー対8に到達する。レジストローラー対8は用紙Pの斜め送りを矯正しつつ記録部30が実行するインク吐出動作とのタイミングを計り、第1ベルト搬送部20に向かって用紙Pを送り出す。なお、第1用紙搬送路7には用紙Pを搬送するための搬送ローラー対が適所に設けられている。
用紙搬送方向に対し第1ベルト搬送部20の下流側(図1の左側)には第2ベルト搬送部40が配置されている。記録部30にてインク画像が記録された用紙Pは第2ベルト搬送部40へと送られ、第2ベルト搬送部40を通過する間に用紙P表面に吐出されたインクが乾燥される。なお、第1ベルト搬送部20、記録部30、第2ベルト搬送部40の詳細な構成については後述する。
用紙搬送方向に対し第2ベルト搬送部40の下流側であってプリンター本体2の左側面近傍にはデカーラー部9が備えられている。第2ベルト搬送部40にてインクが乾燥された用紙Pはデカーラー部9へと送られ、用紙幅方向に並んだ複数のローラーを用いてカールが矯正される。
用紙搬送方向に対しデカーラー部9の下流側(図1の上方)には第2用紙搬送路10が備えられている。デカーラー部9を通過した用紙Pは両面記録を行わない場合、第2用紙搬送路10からプリンター100の左側面外部に設けられた用紙排出トレイ11に排出される。
プリンター本体2の上部であって記録部30及び第2ベルト搬送部40の上方には両面記録を行うための反転搬送路12が備えられている。両面記録を行う場合には第一面への記録が終了して第2ベルト搬送部40及びデカーラー部9を通過した用紙Pが第2用紙搬送路10を通って反転搬送路12へと送られる。反転搬送路12へ送られた用紙Pは、続いて第二面の記録のために搬送方向が切り替えられ、プリンター本体2の上部を通過して右側に向かって送られ、第1用紙搬送路7、及びレジストローラー対8を経て第二面を上向きにした状態で再度第1ベルト搬送部20へと送られる。なお、第2用紙搬送路10、反転搬送路12には、第1用紙搬送路7と同様に、用紙Pを搬送するための搬送ローラー対が適所に設けられている。
図2は、図1における第1ベルト搬送部20、記録部30、第2ベルト搬送部40付近の部分拡大図である。第1ベルト搬送部20、記録部30、第2ベルト搬送部40の詳細な構成について、図1に加えて図2を用いて説明する。
第1ベルト搬送部20は、第1駆動ローラー22と、第1従動ローラー23とに巻き掛けられた無端状の第1搬送ベルト21を備えている。第1搬送ベルト21は第1駆動ローラー22により図2において反時計回り方向に回転する。レジストローラー対8(図1参照)によって送り出された用紙Pは第1搬送ベルト21の搬送面21a(図2において上面)に保持され、図2の矢印X方向(右方から左方)へと搬送される。
ここで、用紙搬送方向Xの下流側に第1駆動ローラー22を配置したことにより、第1搬送ベルト21の搬送面21aは第1駆動ローラー22に引っ張られるようになるため、搬送面21aのテンションを高めることができ、安定した用紙Pの搬送が可能となる。なお、第1駆動ローラー22及び第1従動ローラー23に加えて、第1搬送ベルト21に内接する1つ以上のテンションローラーを必要に応じて設けても良い。
第1搬送ベルト21の内側であって第1搬送ベルト21の搬送面21aの裏側に対向する箇所には第1用紙吸引部25が備えられている。第1用紙吸引部25は、上面に多数の空気吸引用の孔25aが設けられ、内部にはファン25bを備えており、上面から下方に向かって空気を吸引することができる。また、第1搬送ベルト21にも多数の空気吸引用の孔(図示せず)が設けられている。これにより、第1ベルト搬送部20は第1搬送ベルト21と第1用紙吸引部25とを用いて用紙Pを第1搬送ベルト21の搬送面21aに吸着保持しながら搬送する。
第1ベルト搬送部20の上方には記録部30が配置されている。記録部30は、第1搬送ベルト21の搬送面21aに対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、搬送面21aに吸着保持されて搬送される用紙Pに画像の記録を行うライン型のインクジェットヘッドである記録ヘッドY、M、C及びKを備えている。
記録ヘッドY〜Kは、各々用紙搬送方向と直角をなす用紙幅方向(図2の紙面と垂直な方向)に向かって延び、それら4台が第1搬送ベルト21の回動方向に沿って回動方向上流側から下流側に向けて並列配置されている。これらの記録ヘッドY〜Kには、それぞれ異なる4色(イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック)のインクが図示しないインクタンクから充填されている。
外部コンピューター等から受信した画像データの情報に対応して、第1搬送ベルト21に吸着された用紙Pに向かって各記録ヘッドY〜Kからそれぞれのインクを順次吐出することにより、用紙Pにはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが重ね合わされたフルカラー画像が記録される。なお、プリンター100ではモノクロ画像を記録することも可能である。
また、これらの記録ヘッドY〜Kは、搬送される用紙Pの最大幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト21に吸着して搬送される用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっており、記録ヘッドが用紙Pの幅方向に往復動作するシリアル型インクジェットヘッドに比べて高速印字が可能となっている。なお、記録ヘッドY〜Kのインクの吐出方式としては、例えば、図示しないピエゾ素子を用いてインクを押し出すピエゾ方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
用紙搬送方向に対し第1ベルト搬送部20の下流側には、第2ベルト搬送部40が隣接して配置されている。第2ベルト搬送部40は、第2駆動ローラー42と、第2従動ローラー43とに巻き掛けられた無端状の第2搬送ベルト41を備えている。第2搬送ベルト41は第2駆動ローラー42により図2において反時計回り方向に回転する。記録部30によって画像が記録され、第1ベルト搬送部20によって矢印X方向へ搬送された用紙Pは第2搬送ベルト41に受け渡され、図2の矢印Z方向(右下方から左上方)へと搬送される。
第1ベルト搬送部20と同様に、用紙搬送方向Zの下流側に第2駆動ローラー42を配置したことにより、第2搬送ベルト41の搬送面41a(図2において上面)は第2駆動ローラー42に引っ張られるようになるため、搬送面41aのテンションを高めることができ、安定した用紙Pの搬送が可能となる。なお、第2駆動ローラー42及び第2従動ローラー43に加えて、第2搬送ベルト41に内接する1つ以上のテンションローラーを必要に応じて設けても良い。
第2搬送ベルト41の内側であって第2搬送ベルト41の搬送面41aの裏側に対向する箇所には第2用紙吸引部45が備えられている。第2用紙吸引部45は、上面に多数の空気吸引用の孔45aが設けられ、内部にはファン45bを備えており、上面から下方に向かって空気を吸引することができる。また、第2搬送ベルト41にも多数の空気吸引用の孔(図示せず)が設けられている。これにより、第2ベルト搬送部40は第2搬送ベルト41と第2用紙吸引部45とを用いて用紙Pを第2搬送ベルト41の搬送面41aに吸着保持しながら搬送する。
本発明のプリンター100では、用紙搬送方向に対し記録部30に対向配置される第1ベルト搬送部20の下流側に、第2ベルト搬送部40を配置することにより、記録部30において印字を行った後の用紙Pが継続してベルト搬送される。そのため、第2ベルト搬送部40による用紙Pの搬送中にインクの乾燥時間を確保することができ、第2用紙搬送路10、反転搬送路12、及びそれらに設けられた搬送ローラー対への未乾燥インクの付着を防止することができる。
また、ベルト搬送部を第1ベルト搬送部20と第2ベルト搬送部40とに分割することにより、大径の搬送ベルトを用いる構成に比べてコストが低減できる。さらに、記録部30で用紙Pのジャムが発生した場合、第1ベルト搬送部20のみを退避させることでジャム処理が可能となる。その結果、ベルト退避領域を小さくすることができ、プリンター100の小型化、省スペース化を図ることができる。
なお、幅の狭い無端状ベルトを用紙幅方向に複数並べて第1搬送ベルト21を構成した場合、各ベルト間で用紙Pが凹む波打ち現象が発生する。そこで、第1搬送ベルト21の幅方向寸法を、記録部30の最大印字幅よりも広くしておくことにより、搬送面21aに吸着される用紙Pをフラットな状態に維持することができ、記録部30において安定した印字が可能となる。
また、第2ベルト搬送部40は、第1搬送ベルト21の搬送面21aと第2搬送ベルト41の搬送面41aとのなす角度θが鈍角となるように配置されている。第1ベルト搬送部20と第2ベルト搬送部40とをこのように配置することにより、第1ベルト搬送部20から第2ベルト搬送部40に受け渡される用紙Pの搬送速度の変動を効果的に吸収することができる。
図3は、図2における第1ベルト搬送部20と第2ベルト搬送部40の境界付近の部分拡大図である。図3を用いて、第1ベルト搬送部20から第2ベルト搬送部40に受け渡される用紙Pの搬送速度の変動を吸収する仕組みについて説明する。第1搬送ベルト21による用紙Pの搬送速度をS1、第2搬送ベルト41による用紙Pの搬送速度をS2とすると、通常、S1とS2は等しくなるように設定されており、速度差は0である。このとき、第1搬送ベルト21と第2搬送ベルト41に橋渡し状に保持された用紙Pは、第1搬送ベルト21と第2搬送ベルト41の境界部分で屈曲され、用紙Pにループ状の撓みが発生する。
いま、何らかの原因によりS2がS1よりも所定量速くなったとすると、用紙Pの先端が第2搬送ベルト41に吸着されたとき、用紙Pが矢印Z方向に引っ張られる。この引っ張り力により用紙Pの撓み量が減少するが(図3の破線L1)、用紙Pには予め所定量の初期撓みが発生している。そのため、この初期撓みが解消するまでは、用紙Pの第1搬送ベルト21に吸着された部分にテンションが加わらない。
一方、S2がS1よりも所定量遅くなったとすると、用紙Pの先端が第2搬送ベルト41に吸着されたとき、用紙Pには図の右方向に応力が作用する。この応力により用紙Pの撓み量が初期撓みよりも増加するが(図2の一点鎖線L2)、第1ベルト搬送部20と第2ベルト搬送部40の境界部分はさらに撓みを追加形成できる構成である。そのため、撓み量が許容量以下であれば用紙Pの第1搬送ベルト21に吸着された部分に応力が伝達されない。
従って、S1とS2との速度差が所定量以内であれば、用紙Pの後端が第1ベルト搬送部20を抜け切るまでは撓みが完全に解消せず、且つ撓みが追加形成されても許容量以下となるようにしておくことにより、第1搬送ベルト21に吸着された用紙Pのずれを防止することができ、色ずれの発生を抑制できる。
また、上記実施形態では、第2搬送ベルト41が巻き掛けられる第2従動ローラー43を第1搬送ベルト21が巻き掛けられる第1駆動ローラー22よりも下方に配置することにより、第1搬送ベルト21の搬送面21aを用紙搬送方向に延長した面Q(図2参照)が第2搬送ベルト41の搬送面41aと交差するようにしている。
この構成により、用紙Pの先端が搬送面41aに確実に吸着保持されるため、第1搬送ベルト21から第2搬送ベルト41への用紙Pの受け渡しを円滑に行うことができる。また、面Qよりも下方に空間R(図2参照)が形成されるため、用紙Pに容易に撓みを形成することができる。
第1搬送ベルト21の搬送面21aと第2搬送ベルト41の搬送面41aとのなす角度θは140°以上170°以下であることが好ましい。角度θが140°よりも小さくなると、第2搬送ベルト41の搬送面41aに対する用紙Pの進入角度が大きくなり、搬送面21aから搬送面41aへの受け渡し時に用紙Pに伝わる衝撃が大きくなる。また、角度θが170°よりも大きくなると、第1搬送ベルト21と第2搬送ベルト41の境界部分における用紙Pの屈曲度合いが小さすぎて用紙Pに十分な撓みを形成できなくなり、第1搬送ベルト21と第2搬送ベルト41の搬送速度差の影響が伝わり易くなる。
また、第1搬送ベルト21の搬送速度S1と第2搬送ベルト41の搬送速度S2の関係がS1≧S2を満たすようにすることが好ましい。S1、S2をこのように設定することで、第1搬送ベルト21から第2搬送ベルト41への用紙Pの受け渡し時に、用紙Pに第2ベルト搬送部40による引っ張り力が作用せず、第1ベルト搬送部20における用紙Pのずれをより確実に防止することができる。また、用紙Pの屈曲部分に初期撓みを確実に形成することができる。
さらに、第1ベルト搬送部20における用紙Pの単位面積当たりの吸着力をF1、第1ベルト搬送部20における用紙Pの単位面積当たりの吸着力をF2とすると、F1とF2の関係がF1≧F2を満たすようにすることが好ましい。F1、F2をこのように設定することで、用紙Pの撓みによって吸収できない大きな搬送速度差が生じた場合であっても用紙Pのずれは吸着力の弱い第2ベルト搬送部40で発生する。従って、第1ベルト搬送部20における用紙Pのずれをより確実に防止することができる。
図4は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の一例であるインクジェット式プリンター100の、第1ベルト搬送部20、記録部30、第2ベルト搬送部40付近の部分拡大図である。本実施形態においては、第1ベルト搬送部20を構成する第1駆動ローラー22の回転軸に固定されたギア(不図示)と、第2ベルト搬送部40を構成する第2駆動ローラー42の回転軸に固定されたギア(不図示)の両方に連結される駆動入力ギア47と、駆動入力ギア47を回転駆動するモーター49とを備えている。他の部分の構成は第1実施形態の図2と同様であるため説明を省略する。
本実施形態によれば、第1駆動ローラー22と第2駆動ローラー42とが共通の駆動入力ギア47に連結されるため、第1搬送ベルト21の搬送速度S1と第2搬送ベルト41の搬送速度S2とを容易に略等速とすることができ、さらに略等速状態を容易に維持することができる。
また、第1駆動ローラー22と第2駆動ローラー42の直径比、或いは第1駆動ローラー22と第2駆動ローラー42の回転軸に固定されたギアのギア比を調整することにより、搬送速度S1、S2を所望の速度に設定することができ、設定速度の維持も容易となる。例えば、第1実施形態と同様にS1≧S2を満たすように搬送速度S1、S2を設定する場合、第2駆動ローラー42の直径を第1駆動ローラー22の直径以上とするか、第2駆動ローラー42の回転軸に固定されたギアの直径を第1駆動ローラー22の回転軸に固定されたギアの直径以上とすれば良い。
また、一つのモーター49を用いて第1駆動ローラー22及び第2駆動ローラー42を駆動するため、第1駆動ローラー22及び第2駆動ローラー42を別々のモーターで駆動する構成に比べてコスト面においても有利となる。
図5は、本発明の第3実施形態に係るインクジェット記録装置の一例であるインクジェット式プリンター100の、第1ベルト搬送部20、記録部30、第2ベルト搬送部40付近の部分拡大図である。本実施形態においては、第2搬送ベルト41の搬送面41aに対向する位置に、搬送面41a上に吸着保持された用紙Pに空気流を吹き付ける乾燥装置50を備えている。他の部分の構成は第1実施形態の図2と同様であるため説明を省略する。
本実施形態によれば、第2ベルト搬送部40による用紙Pの搬送中に、用紙P上のインクが乾燥装置50によって強制的に乾燥される。従って、用紙P上のインクをより短時間で乾燥することができ、搬送速度S1、S2を必要以上に低下させることなくデカーラー部9や搬送ローラー対へのインクの付着を確実に防止することができる。
その他、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、第1搬送ベルト21及び第2搬送ベルト41に用紙Pを吸着保持する手段として、第1搬送ベルト21及び第2搬送ベルト41に空気吸引用の孔を開け、内部にファン25b、45bを備えた第1用紙吸引部25及び第2用紙吸着部45を用いて用紙Pを吸着保持する減圧吸着方式を用いている。この減圧吸着方式に代えて、第1搬送ベルト21及び第2搬送ベルト41を帯電させる帯電装置を備え、第1搬送ベルト21及び第2搬送ベルト41の搬送面21a、41aと用紙Pとの間に電位差を発生させて第1搬送ベルト21及び第2搬送ベルト41に用紙Pを静電的に吸着保持する静電吸着方式を用いることもできる。
また、上記実施形態においては、給紙カセット3或いは手差し給紙トレイ5から横方向に用紙Pを搬送するインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、装置下部の給紙カセット3或いは手差し給紙トレイ5から装置上面の用紙排出トレイに向けて用紙Pを搬送する縦搬送タイプのインクジェット記録装置にも全く同様に適用可能である。
また、上記実施形態では、フルカラー画像を得るためにイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを用いたインクジェット記録装置について説明を行ったが、別の色相の着色インクを備えたインクジェット記録装置や、色数が異なるインクジェット記録装置にも利用することができる。