本発明に係る有機発光素子は、
陽極、陰極、及び前記陽極と前記陰極との間に配置される有機化合物からなる発光層を有し、発光層が出す光は反射面において反射し光取り出し面から外部へ取り出される有機発光素子において、
前記発光層は、フォトルミネッセンスの最大発光波長が430nm以上480nm以下である有機化合物を有しており、
前記有機化合物は、Huang−Rhys因子のPFが、波数1300 cm−1以上1680cm−1以下の領域にて、0.02以下である有機化合物であり、且つ
前記発光層から前記反射面までの光学距離Lは、
L=(2N−1)λ/4+Φ
(Lは光学距離、λは発光の最大発光波長(nm)、Nは正の整数、Φは位相シフト)なる関係を満たすことを特徴とする有機発光素子である。
以下、本発明に係る有機発光素子についてさらに詳細に説明する。
高効率で高輝度な発光を実現できる有機発光素子を提供するにあたり、本発明者等は、有機化合物をより最適に設計することが必要であると考えた。
一般的に有機発光素子の発光効率を高めるためには、材料の特性の向上、素子構成の最適化が上げられる。
そのためには
1.発光材料の量子収率が高いこと
2.発光材料の半値幅が狭いこと
3.発光材料の発光を効率よく取り出せること
のいずれかを達成させることが求められると考える。
また、フルカラー有機ELディスプレーとして材料に求められる物性は、青、緑、赤に必要とされる色度に対応した発光材料が必要である。フルカラー有機ELディスプレーとは画像をフルカラーで表示することが出来る画像表示装置のことである。画像表示装置は複数の画素を有している。画素はそれぞれフルカラー発光できるように互いに色が異なる複数の副画素を有している。副画素のひとつひとつが有機発光素子であり、例えば画素は赤緑青のそれぞれ異なる色を発光する副画素から構成されている。
この際、青の場合は発光ピークが430nm以上480nm以下、緑は490nm以上540nm以下、赤は590nm以上640nm以下に最大発光波長の値を有する。
1を達成させるためには、
分子の発光にかかわる骨格の対称性を高くする事が重要である。ただし、高対称性分子特有の禁制遷移条件では全く発光しなくなる場合もある。また、同じ方向に共役を伸ばすことによって分子のモーメントが大きくなって振動子強度が向上する。
発光にかかわる骨格に回転構造を有さないことで、回転による振動による量子収率の低下を抑制することが出来る。
よって、量子収率の高い有機化合物を作るためには、発光に係わる電子分布の存在する骨格に、できるだけ回転構造を持たない構造を持たせることが重要である。
2を達成させるためには、
有機化合物の分子構造を新規に創出することで実現すること、あるいは素子構成に工夫を施すことで実現することの2種類の方法を挙げることが出来る。
フルカラー有機ELディスプレーの画素に用いる際は、高い色純度の発光スペクトルを有する発光素子が必要となる。
高い色純度を実現するためには、溶液中での発光スペクトルにおいて、最大発光波長の半値幅が狭いこと、振動のピークがある際は振動ピークの高さが低いことのいずれもが達成できる、有機化合物を創出することが求められると考える。
半値幅の狭い、色純度の高い発光を実現するためには、最大発光波長の半値幅が狭い有機化合物を創出することが求められる。
有機化合物の発光はその構造上、炭素−炭素の振動が発光スペクトルに反映する。そのため、図1に示すように、半値幅の短波長領域aに対して半値幅の長波長領域bの方が値が大きくなる。これが主に半値幅を広げる原因となることに本発明者等は気付いた。半値幅の長波長領域bがこのように広がることは、有機化合物であればある意味仕方が無いことである。そしてこれが色純度の低下を引き起こす原因となると本発明者等は考える。
目的とする波長以外の波長は、全て色純度を低下することにつながるといえる。
そしてまた色純度の低下はどの色度領域においても起きるということができる。
また本発明者等は次のことにも気付いた。
青の発光領域とその付近である420nm以上500nm以下の部分は、視感度という観点からは重要な波長領域である。図2は視感度曲線を示すグラフである。図2に示すように、長波に行くにしたがって視感度が急激に大きくなっている。このため、青の有機発光素子において長波長領域の成分が大きいと、青の有機発光素子が発光する光の中に、所望しないが目立つ色度の光が、含まれてしまうことになる。その結果最大発光波長が440nm以上480nm以下であっても、色度に影響を及ぼすことがいえる。
つまり、青の発光領域は、そもそも視感度が悪いのに加えて、半値幅の長波長領域bによって色度が低下してしまう。
この例として図3に示す発光スペクトル1から3を示す。
図中スペクトル1は短波成分の発光面積が大きい発光スペクトルである。
スペクトル2は半値幅の狭い発光スペクトルである。
そしてスペクトル3は長波成分の発光面積が大きい発光スペクトルである。
また、表1は各発光スペクトルに対応する色度のX,Y値である。
これより、短波領域に発光を多く有する発光スペクトル1と、半値幅の狭い発光スペクトル2の発光の色度は、あまり変わらない。これは、400nm以上420nm以下の波長領域の視感度が非常に低く、この領域の発光はほとんど目で認識されないためである。
一方、発光スペクトル2(2)と発光スペクトル3を比較すると、どちらも最大発光波長は約460nmであるが、長波長領域に発光を有する発光スペクトル3のY値はかなり大きくなっている。これは、重なっている450nm以上460nm以下の視感度に対して発光スペクトル3のみ発光を有する490nm以上500nm以下の視感度は2乃至3倍になるため、このように大きな色度変化をもたらす。
このように、青の発光領域においては、420nm以下の短波領域の光は、青の可視光として認識されない。したがって色度は変わっていないが、無駄な発光部分を持つということが出来る。
一方、490nmの長波長領域の光は、色純度の低下を引き起こしてしまう。そのため色純度の高い青発光の有機発光素子を提供するまでには至らない。
これより、高い色純度の青発光の有機発光素子を達成するためには、材料の発光スペクトルの半値幅を狭める必要がある。
一方、素子の構成を工夫することで半値幅の狭い、色純度の高い発光を得ることができる。その例として、光共振器構造を利用する方法が挙げられる。これは、発光層と、該発光層の両面側もしくは片面側に、例えば反射面となる層を配置する事で、微小光共振器が構成される。ここで共振された光は発光可能に構成され、共振波長に合わせた波長で強め合って発光することができる。反射面となる層は例えば有機発光素子を構成する電極のうちの一方の電極であってもよい。
有機発光素子は発光層から出る光を外部に取り出す光取り出し面を有している。
また光取り出し面とは別の面、より具体的には光取り出し面に対向する位置に反射面を有している。
例えば、基板上に半透明反射面となる層を作成し、その上に透明導電層を作成する。透明導電層上に少なくとも一層以上のホール注入層、有機薄膜からなる発光層、少なくとも一層以上の電子注入層が順に設けられており、その上に電極が形成される。前記半透明反射面となる層は発光層からの発光の一部を透明基体側に透過し、電子注入層の上に配置された電極は発光の別の一部を反射する。この際前記半透明反射層と発光層背面の電極(電子注入層の上に配置された電極)とで光共振器が形成されているということが出来る。なおこの場合基板に近い側の電極が陽極であり、基板に遠くて電子輸送層の上の電極が陰極である。また光は発光層から光取り出し面側に配置されている半透明反射面と基板を介して更に外部に出る。
このとき
L=(2N−1)λ/4+Φ
(Lは光学距離、λは発光の最大発光波長(nm)、Nは正の整数、Φは位相シフト)
の関係を満たすように各層を設計する事が必要となる。具体的には各層の膜厚を適宜このましく決める。
なお膜厚はnmレベルで精度よく作れれば好ましいが、誤差を考慮して、上式の関係を満たす膜厚の±10nm以内、より好ましくは±5nm以内とすることで共振器構造を十分好ましく作り出すことが可能である。
共振器構造の光学距離Lは反射面となる層と透明導電層の界面から電子注入層と半透過層の界面までにある層の光学距離の総和である。よって屈折率nと膜厚dの積ndの総和(n1d1+n2d2+n3d3+・・・・)である。
また、反射界面での位相シフトΦは、式1のように表すことができる。この式は反射界面を形成する2つの材料のうち、光が入射する側にある材料を媒質I、他方の材料を媒質IIとし、nを各材料の屈折率、kを各材料の消衰係数とした際に、それぞれの光学定数を(n1,k1)(n2,k2)としている。なお、これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
式1
Φ=tan−1(2n1k1/(n1 2−n1 2−k1 2)) (ただし0≦Φ<2πである)
例えば、有機発光素子における反射層と透明電極界面に形成される反射界面の場合、光入射側にある透明電極層が媒質I、反射層が媒質IIに相当する。電子注入層と半透過層の界面の場合、電子注入層が媒質I、半透過層が媒質IIに相当する。位相シフトΦは、これら界面での位相シフトの和に相当する。
また、有機化合物の屈折率nは1.3から2.1程度であるが、多層膜であるため構成によって異なるが、概ね1.6から1.7程度である。
Nの値が1,2,3,4,5・・・の整数倍のときに共振させることが出来る。なかでもNの値が小さい場合の方が共振効果は大きく、Nの値が大きくなると共振の効果は小さくなるため、本実施例のようにN=1の場合が最も共振効果が大きく、望ましくはN=1乃至4である。
このように素子の構成からも高い色純度の発光を得る事ができる。
ただし、このように素子の構成を共振器構造となるように工夫することは、材料の有する発光から、色度の悪い部分を取り出さないことによって、色純度を高めるという解決手法である。そのため、この工夫だけだと共振器構造より取り出される発光の量子収率は、材料自身の持つ量子収率よりも当然低い。
即ち本発明者等は有機発光素子に光共振器構造を単に導入するだけでは不十分で、また材料即ち発光層が有する有機化合物の、所望の最大発光波長だけに単に注目するだけでも不十分であると気付いた。そして視感度を意識して有機化合物の創出することが必要であり、また創出された有機化合物は光共振器構造を有した有機発光素子においてこそ所望の発光色の量子収率の向上が達成できると考えた。
次に上記1乃至3で示した、発光材料の発光を効率よく取り出せること、について考察を述べる。
3.を達成させるためには、
有機発光素子として材料のフォトルミネッセンスに近い発光を利用することが大切である。
これを得るためには、先の2に記した、材料の要件と素子構成の要件の両方を満たすことが必要である。図4は有機化合物の溶液中の発光(フォトルミネッセンス)スペクトルと、光共振器構造を利用した場合のこの有機化合物の発光(エレクトロルミネッセンス)スペクトルとを示すグラフである。なお両スペクトルが重なり合っていない領域に斜線が引かれている。
図4に示すように、共振器構造を利用した素子を利用すると、ターゲットとする最大発光波長周辺の波長以外は発光が弱められてしまう。例えば30nmより半値幅の広い発光を有する材料は、最大発光波長から30nmを超えた領域の発光は弱められてしまい、素子外への光取り出しの量子効率が低下してしまう。
このように効率を犠牲にせずに色純度の高い発光を持つ有機発光素子を作り出すことは、材料、素子構成両方の要件を満たすことが大切であると本発明者等は考える。
半値幅が狭い材料とは、発光スペクトルの波形に関して、振動ピークが明確である(明確に分かれている)材料である。図5に発光面積(同じ量子収率)は同じであるが発光スペクトルの波形が互いに異なる発光スペクトルA、B、Cを示す。これより、Cのような振動ピークのない、いわゆる振動構造の不明確な発光の場合は、一般的に半値幅の広いブロードな発光波形を有している。これに対して、振動ピークが明確に見られるA、Bの様な発光の場合は、最大発光波長となる第一の振動ピークの強度が大きく、半値幅も狭い。AとBはCと異なり振動構造が明確な有機化合物が発光する光の発光スペクトルであるといえる。
AとBとを比べると、Bの様な発光を持つ場合は、第一の振動ピークの強度と第ニの振動ピークとの大きさ(縦軸の発光強度)があまり変わらない。たとえ振動構造を有している発光スペクトルでも、この場合あまり発光強度は大きくならない。これは、分子の振動モードが多く存在するため、第二以降の振動ピークが大きくなり、第一の振動ピークは相対的に小さくなるからである。また、その弱められる発光部分は高さの割合に対して、面積で差をもたらすため、高さの約2乗で差が生まれるからである。
これより換算すると、第一と第ニの振動ピークの高さ比が0.7の場合(用いたい光の振動ピークの方が高いのが前提である)、面積比に換算すると約2:1となる。高さ比が、これ以上の値であると、発光素子にて弱められる部分の面積が更に大きくなるために、取り出しの効率が低下してしまうと本発明者等は予測する。
振動構造が明確なだけでなく第一と第ニの振動ピークの高さ比が0.7以下であるAの様な発光スペクトルであることが好ましい。第一と第ニの振動ピークの高さ比の下限は0以上である。第一と第ニの振動ピークの高さ比が0.7より値が大きいと、共振器構造を用いた際に弱められる発光部分の割合は大きくなり、量子効率の低下をまねく。
また第一の振動ピークの強度が大きい場合、図6のように第一の振動ピークが第二の振動ピークと分割している場合がある。
図6は第一の振動ピークの半値幅と第二の振動ピークの半値幅の大小関係を示す図である。
半値幅とは、波形のうち、ピーク値の半分におけるピーク波形の横幅のことを指すのが一般である。
図6のような波形の場合、即ち第一の振動ピークと第二の振動ピークとが十分離れて観察される。この場合、通常の半値幅と言われる定義であると、第一の振動ピークの半値幅と第二の振動ピークの半値幅の2箇所存在するため不明確となる。そこで、本発明において、この波形では、半値幅とは図示する第一の振動ピークの半値幅のことである。
図6にしめす波形は、第一の振動ピークと第二の振動ピークとの間に谷を有しており、第二の振動ピークの発光強度が第一の振動ピークの発光強度の半分より大きい波形である。
なお便宜上図6においては、第二の振動ピークの半値幅と表現して第二の振動ピークの波形の、図中縦軸である発光強度が0.5における横幅を示した。
こうした発光スペクトル形状になることが、本発明で設計される、狭い半値幅を持つ発光材料の性質であり、その際第1の振動ピークの半値幅は30nm以下が好ましい。
これらの条件を満たすために、本発明では第二の振動ピークが第一の振動ピークに対して遥かに小さく、第一の振動ピークの半値幅が狭く、量子収率の高い材料を設計することが重要である。
次に発光層の発光中心について説明する。
これまでに発光層は有機化合物を有すると述べた。この有機化合物がエネルギーを得て発光する。
発光層がこの有機化合物のみから構成されていても良いが、いわゆるホスト材料とゲスト材料から発光層が構成され、この発光する有機化合物がゲスト材料である場合が好ましい形態であるため、ここで説明する。
ホスト材料とは発光層の主たる成分である。主たる成分とは発光層全重量の殆どを占める成分ということが出来る。ゲスト材料とはそのホスト材料のなかに含まれている微量の成分を指す。他にも発光層はいわゆるアシストドーパントを有していても良い。
発光層の発光中心は大まかに三種類の例があげられる。
図7はホスト材料とゲスト材料のぞれぞれのHOMOとLUMOと発光中心を示した図である。
図7には符号4乃至6で示した3種類の例が図示されている。
本図の紙面上が真空準位に近い。
各例ごとに、実線の矩形でホスト材料のHOMOとLUMOが示されている。
点線はゲスト材料のHOMOとLUMOを示している。
斜線は発光中心である。発光層は厚み方向において発光の強度が偏在している。発光強度が特に強い領域を発光中心とよぶ。
なお本図において矩形の左右方向が発光層の膜厚方向である。また矩形の右側が陰極側で左側が陽極側である。
4の場合は、ホスト材料のLUMOよりゲスト材料のLUMOの方が低い(真空準位から遠い、つまり深い)。発光層に電圧を印加した際には、電子輸送層のLUMOから注入された電子がゲスト材料にトラップされる。これは、電子トラップ型の発光層である、したがって発光中心は電子輸送層寄りになる。
5の場合は、ホスト材料のLUMOよりゲスト材料のLUMOの方が低い値、ホスト材料のHOMOよりゲスト材料のHOMOの方が高い値となる。発光層に電圧を印加した際には、電子輸送層のLUMOから注入された電子がゲスト材料によってトラップされ、更にホール輸送層のHOMOから注入されたホールがゲスト材料によってトラップされる。これは両方の電荷トラップ型の発光層となり、発光中心は発光層の厚み方向において中心に集中する。
6の場合は、ホスト材料のHOMOよりゲスト材料のHOMOの方が高い値となる。発光層に電圧を印加した際には、ホール輸送層のHOMOから注入されたホールがゲストによってトラップされる。これはホールトラップ型の発光層となり、発光中心はホール輸送層寄りになる。
そもそも発光は、発光層全体でおこっているが、4乃至6に示すようにホスト材料とゲスト材料のそれぞれのHOMOとLUMOの関係によって発光中心となる場所が異なる。光共振器構造を利用する場合には、発光層から反射面までの光学距離Lを設計する場合に発光層の発光中心を考慮することが大切である。その際にホスト材料と、ゲスト材料がどのような構造であるかが分かれば発光中心をおおよそ特定することが出来る。
またより簡便には発光層の陰極側の界面や発光層の陽極側の界面や発光層の中心を光学距離Lを求める際の起点としてもよい。
本発明に係る有機発光素子が有する好ましい有機化合物は骨格内に5員環構造を持つ芳香環有機化合物であることが好ましい。即ち好ましい有機化合物とは、芳香環からなる骨格を有する有機化合物で、その骨格内に5員環を有する化合物である。
その場合電子吸引性が強く作用し、HOMOもLUMOもその電子準位が低くなる(深くなる。言い変えれば真空準位から遠ざかる)。そのために、有機化合物を発光材料として用いる際には、電子トラップ型の発光材料となるので好ましい。
発光材料として用いられる際は、このような電子、もしくはホールをトラップする発光材料の方が、電荷を効率よく閉じ込めることができるために、輸送層への電荷の漏れを抑制することができる。これは発光効率の向上、素子の寿命を向上する事ができる。
次に好ましい有機化合物を設計する際の工夫を示す。
好ましい有機化合物を提供する際に、量子化学計算を利用する。たとえば新規な有機化合物を設計するのに役立つ。
有機化合物(材料)の発光特性には、該材料の電子状態が関与すると考える。発光時の色は、分子が電子的な励起状態から電子的な基底状態へ遷移する際のスペクトルとして発現する。
量子化学計算は計算化学的アプローチの一つであり、量子力学に基づき分子物性の予測を行う。計算手法としては大きく分けて分子軌道(Molecular Orbital:MO)法と密度汎関数(Density Functional Theory:DFT)法がある。
原理の詳細については、「新しい量子化学」ザボ、オストランド著、東京大学出版会 1991年,「原子分子の密度汎関数法」パール、ヤング著、シュプリンガーフェアラーク 1996年に記載されている。
材料の発光色および色純度(発光スペクトル)の発現機構を理解し、所望の材料を設計するためには、材料の電子基底状態および励起状態における分子構造や、分子振動の仕組みを理解することが大切である。
たとえば有機発光素子に用いられる蛍光発光材料では励起一重項(S1)から基底一重項(S0)への脱励起の際の発光を利用するため、これらの電子状態における分子の構造と振動構造を調べる必要がある。
発光スペクトルは振動プログレッションとよばれるパターンを示し、これは電子励起状態から電子基底状態への遷移に伴って分子構造が変化することに起因する。N個の原子からなる分子は一般に3N−6個の基準振動モードを持つが(直線分子の場合は3N−5個)、分子構造の変化はこれらの基準振動モードに対応する基準振動座標の成分に分解できる。基準振動座標のずれが小さい場合は、そのずれに伴う分子構造のエネルギー変化を、調和振動子として近似することが出来る。この近似のもとで、ある基準振動モード(i)に起因する発光スペクトルの振動プログレッションは以下の図8で説明される。
3N−6個の基準振動モードをすべて含めて定式化した発光スペクトルの強度Iは以下の式2で表される比例関係を持つ。例えば、Yi Jing.Yan,Shaul Mukamel,J.Chem.Phys 85,5908(1986)を参照することができる。
ここで、ν00は0−0遷移の波数であり、νemは発光の波数である。また、g(t)は不均一広がりを時間領域で表したものであり、以下の式3で表される。
式2でΔνinは不均一広がりに起因するスペクトルの半値幅であり、分子の置かれている環境により異なる。したがって、この数値は実験値より求め、入力値とする。
σt(t)は以下の式4で表される。
上式でωiは基準振動モードの周波数、β=1/kT(kはボルツマン定数、Tは温度を表す)である。Siは基準振動モード(i)(i=1〜3N−6:Nは分子を構成する原子数)のHuang−Rhys因子と呼ばれる量であり、以下の式5で示される。
ここで、hはプランク定数であり、νiは基準振動モード(i)の振動の波数を表す。また、
は励起状態と基底状態の基準振動座標のずれである。この式の意味を説明したものが図9である。
図9および式5から分かるように、Hunang−Rhys 因子Siは基準振動モード(i)の基底状態と励起状態のずれのエネルギーλνib,iをその基準振動モードのエネルギーで規格化したものである。従って、Hunang−Rhys因子Siは、その基準振動モード(i)における基底状態と励起状態の分子構造のずれの大きさを示すものである。ある基準振動モードにおけるHuang−Rhys因子が大きいということは、それによるスペクトル広がりが大きいことを意味する。先に述べたように、N個の原子からなる分子の場合、基準振動モードは3N−6個存在するため(直線分子の場合は3N−5個)、Huang−Rhys 因子も3N−6個存在し、基準振動モードによりその大きさが異なる。
ここで我々は発光スペクトルの広がりを数値化するために、式5で定義されるHuang−Rhys因子を用い、以下の式6で規定される値PF(Profile Factor、プロファイル因子)を定義する。
式6において、和の領域Rは分子由来である、特定の基準振動モードの領域であり、Nbasisは分子の特定の部位における原子数を表す。
また、振動エネルギーの範囲として以下のように分類されることが知られている。
C−H伸縮: 3000cm−1以上
C−C環伸縮: 1400cm−1以上1660cm−1以下C−H面内変角、環振動:1000cm−1以上1300cm−1以下C−H面外変角:1000cm−1以下
発光スペクトルの波形に対して、高振動のC−H伸縮と低振動のC−H面外変角はスペクトル広がりにあまり影響がない。C−C環伸縮の環伸縮が一番影響のある部分であるが、C−H面内変角、環振動の領域も影響する。そのため、基準振動モードとしては1300cm−1以上1680cm−1以下の領域(主としてC−C面内伸縮、変角のモード)とする。この値は1300cm−1以上1680cm−1以下が好ましいが、1200cm−1以上1700cm−1以下であれば整合性のある数値が得られる。
そこで、本発明における発光材料の場合、Rとしては1300cm−1以上1680cm−1以下の領域の基準振動モード(主としてC−C面内伸縮、変角のモード)、Nbasisは置換基および水素原子を除く、有機化合物の基本骨格の原子数と定義する。
PF値は上記定義領域の基準振動モードにおける分子の基底状態と励起状態における「ずれ」度合いを示し、したがってそのずれに起因する発光スペクトルの広がりを数値化した量に相当する値であると定義される。
また、PF値の算出においてNbasisは、励起状態における遷移軌道が主として分布する主骨格の原子の数とし、遷移軌道がほとんど存在しない置換基の原子については加味しない。なお励起状態とはここでは一重項第一励起状態S1を意味する。また遷移軌道は最高被占軌道:HOMOおよび最低空軌道:LUMOを意味する。
この算出法の正当性については、置換基に遷移軌道がほとんど分布しない有機化合物を例にとり、置換基を持つ場合と持たない場合について計算値と実測値を比較する事で検証を行った。
計算の手順は以下のとおりである。電子基底状態および電子励起状態の分子の構造と、分子の基準振動モードの計算には市販の電子状態計算ソフトウェアであるGaussian03Revision D.01およびTurbomole5.9.1を用いた。その際、量子化学計算法として、密度汎関数法(Density Functional Theory)を採用し、汎関数にはB3LYPを用いた。基底関数はGaussian 03,Revision D.01では6−31G(d)を、Turbomole5.9.1ではdef−SV(P)を用いた。Huang−Rhys 因子およびそれを用いた発光スペクトルおよびPF値の計算には、これらソフトウェアにより計算された電子基底状態および電子励起状態の分子の構造と、分子の基準振動モードのデータをを用いた。尚、その際、不均一広がりに起因するスペクトルの半値幅Δνinとしては実験のスペクトルを良く再現する値として600cm−1を用いた。
Gaussian 03 Revision D.01,
M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,
M.A.Robb,J.R.Cheeseman,J.A.Montgomery,Jr.,T.Vreven,
K.N.Kudin,J.C.Burant,J.M.Millam,S.S.Iyengar,J.Tomasi,
V.Barone,B.Mennucci,M.Cossi,G.Scalmani,N.Rega,
G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,
R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,
H.Nakai,M.Klene,X.Li,J.E.Knox,H.P.Hratchian,J.B.Cross,
V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,
O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,
P.Y.Ayala,K.Morokuma,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,
V.G.Zakrzewski,S.Dapprich,A.D.Daniels,M.C.Strain,
O.Farkas,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,
J.B.Foresman,J.V.Ortiz,Q.Cui,A.G.Baboul,S.Clifford,
J.Cioslowski,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,
I.Komaromi,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,
C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,
B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,C.Gonzalez,and J.A.Pople,
Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004.
また、第一の振動ピーク、第二の振動ピークの高さの比が変動する発光スペクトルが計算から得られて来る。光共振器構造を発光素子に用いる場合に、第一の振動ピーク、第二の振動ピークの高さの比によって、発光時に取り出されずに弱められてしまう部分の割合を大きく左右する。このため、第一の振動ピーク、第二の振動ピークの高さの比は、分子設計上重要である。
そこで、高さの比と第一の振動ピーク、第二の振動ピークの面積の比率を求めた。
図10乃至図13は第一の振動ピークと第2の振動ピークを有する発光スペクトルを示す図である。
図10が第一の振動ピークに対して第二の振動ピークの高さの比が0.9、図11が第一の振動ピークに対して第二の振動ピークの高さの比が0.8、図12が第一の振動ピークに対して第二の振動ピークの高さの比が0.7、図13が第一の振動ピークに対して第二の振動ピークの高さの比が0.6、となる。
各図10乃至13の面積比を求めたものが表2になる。
表2に各図のスペクトルの結果を上から順に示す。
この結果より、0.7より大きいと、第二の振動ピークの面積が半分以上となる。
第二の振動ピークが存在しない有機化合物の設計ができれば良いが、現実として有機化合物の炭素―炭素振動モードはどうしても存在する。そこで、少なくとも第一振動ピークの面積が、第二振動ピークの面積より大きいことが高効率発光素子には好ましい。その際に、第一の振動ピークに対して、第二の振動ピークの強度比が0.7以下になり、その比より与えられるPF値は、計算より0.02以下となった。また、この際、第一の振動ピークの半値幅も30nm以下となり、これらの値を満たす際に光共振器構造を有する有機発光素子として高い色純度をもつ、好ましいスペクトル形状を得られることが分かった。
本発明では、PF値が0.02以下の材料を設計すると、この材料は、計算上においても、実測においても、発光スペクトルの形状が少なくとも、第一の振動ピーク、第二の振動ピークを有することを見出した。加えてこのような材料は第一の振動ピークに対して第二の振動ピークの強度比が0.7以下であり、第一の振動ピークの半値幅の値が30nm以下の狭い値である材料であることを見出した。ただし、計算での発光スペクトルの各振動ピークの値は、実際の材料の各振動ピークと±5nm以上±10nm以下程度の誤差が生じることがあるが、発光スペクトル形状はほぼ同等である。
このように材料を分子設計する事で、必要な発光波長に対応した波長に、強い強度を有する最大発光波長を有した材料を作り出すことができる。
また、本発明に係る有機化合物は、量子効率が高く、半値幅が狭いため、材料そのものの発光が青の発光素子に適した色純度の良い発光を有する。そして、この材料は光共振器構造を利用した発光素子に用いることにより、弱めあう発光部分が少なくなり、高い取り出し外部量子効率を有した、色純度の高い発光素子を得ることができる。
次に本発明に係る有機発光素子を説明する。
本発明に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそしてそれらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する。有機発光素子は一対の電極の間に配置された有機化合物である発光材料が発光する素子である。
この有機化合物層のうち一層が発光層である場合、発光層は本発明に係る有機化合物のみから構成されていても良いし、あるいは本発明に係る有機化合物を一部有していても良い。
発光層が本発明に係る有機化合物を一部有しても良い場合とは、本発明に係る有機化合物が発光層の主成分であってもよく、あるいは副成分であってもよい。
ここで主成分と副成分とは、発光層を構成する全有機化合物を対象に例えば重量的あるいはモル数的に大きいものを主成分と呼び、小さいものを副成分と呼ぶ。
主成分である材料は、ホスト材料と呼ぶことも出来る。
副成分である材料は、ドーパント(ゲスト)材料、発光アシスト材料、電荷注入材料と呼ぶことが出来る。
なお、本発明にて設計される発光材料をゲスト材料として用いる場合、発光層全体に対するゲスト材料の濃度は0.01wt%以上20wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
また、上記の発光層は、キャリア輸送性のホスト材料とゲスト材料からなる場合、発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.発光層内での電子・ホールの輸送。
2.ホスト材料の励起子生成。
3.ホスト材料同士の分子間の励起エネルギー伝達。
4.ホスト材料からゲスト材料への励起エネルギー移動。
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や、発光はさまざまな失活過程と競争でおこる。
有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料(例えばゲスト材料)そのものの発光量子収率が大きいことは言うまでもない。しかしながら、ホスト材料とホスト材料間、あるいはホスト材料とゲスト材料間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな課題である。また、通電による発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのもの、または、その周辺分子による発光中心材料の環境変化に関連したものと想定される。
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された有機化合物層により少なくとも構成される有機発光素子において、本発明の有機化合物の少なくとも一種を含有する。
一対の電極の間には上記有機化合物層以外の有機化合物層を有していても良い。
一対の電極の間には有機化合物層を含む有機化合物層が2層以上設けられていても良い。このような場合を多層型の有機発光素子と呼ぶことにする。
以下に、多層型の有機発光素子の好ましい例として第一から第五までを示す。
第一の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/発光層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。ここで使用する有機発光素子は、それ自体でホール輸送能、電子輸送能及び発光性の性能を単一で有している場合や、それぞれの特性を有する有機化合物を混ぜて使う場合に有用である。
第二の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。この場合は、発光物質はホール輸送性かあるいは電子輸送性のいずれか、あるいは両方の機能を有している材料をそれぞれの層に用い、発光性の無い単なるホール輸送物質あるいは電子輸送物質と組み合わせて用いる場合に有用である。また、この場合、発光層は、ホール輸送層あるいは電子輸送層のいずれかから成る。
第三の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものである。そしてホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した有機化合物と適時組み合わせて用いることができる。そして極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の有機化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。
第四の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは陽極とホール輸送層の密着性改善あるいはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
第五の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これはホールあるいは励起子(エキシトン)が陰極側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層)を、発光層、電子輸送層間に挿入した構成である。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層として用いる事により、発光効率の向上に効果的な構成である。また、ホール・エキシトンブロッキング層を電子輸送層、電子輸送層を電子注入層とする構成もあり、この場合は、陰極と電子輸送層の密着性改善あるいは電子の注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
本発明の発光素子の発光領域とは、上記の発光層の領域を言う。
ただし、第一乃至第五の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る有機化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
また、これらの素子構成に関して、発光部分は発光層の中心、発光層内部でのホール輸送層との近傍、発光層内部での電子輸送層との近傍、などが考えられる。この発光中心に対して、発光層と、該発光層の両面もしくは片側に、例えば電極の様な、鏡面反射膜を配置する事で、微小光共振器が構成される。ここで共振された光は発光可能に構成され、共振波長に合わせた波長で強め合って発光することができる。
例えば、基板上に半透明反射層を作成し、その上に透明導電層を作成する。透明導電層上に先に述べたような、第一から第五の層構成が設けられている。前記半透明反射層は発光層からの発光を部分的に透明基体側に透過し、発光の残りの部分を発光層側に反射する為、前記半透明反射層は発光層背面の電極とで光共振器として作用する。
このときの膜厚の関係は
nd=(2N−1)λ/4
(nは屈折率、dは発光中心からの膜厚(nm)、λは発光の最大発光波長(nm)、Nは正の整数)
を満たすように設計する事が必要となる。
本発明に用いられる有機発光素子は、第一乃至第五例のいずれの形態でも使用することができる。また、屈折率の点を除いて、光共振器構造を実現する為に必要な材料の制限は特に無い。
ここで、本発明の有機発光素子には、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を先述の有機化合物、すなわち発光材料と一緒に使用することができる。
以下にこれらの化合物例を挙げる。
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
主にホスト材料としては、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で、注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
本発明の有機発光素子で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いることが出きる。
なお、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等で被覆し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
本発明の有機発光素子において、本発明の有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
本発明の有機発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。
表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。表示装置は例えばPCあるいはテレビジョン、あるいは広告媒体といった画像表示装置して用いられることが出来る。あるいは表示装置はデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像手段を有した撮像装置の、表示部に用いられてもよい。撮像された画像はこの表示部で表示される。
あるいは表示装置は電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の操作表示部に用いられても良い。
また、電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の感光体へ潜像を露光する際に用いる光源として用いることが出来る。独立にアドレスできる有機発光素子を複数アレイ状(例えば線状)に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、潜像を形成することができる。本発明の有機発光素子を用いることで、これまでは光源とポリコンミラーと各種光学レンズ等を配置するのに必要だった空間を減少させることができる。
照明装置やバックライトに関しては、本発明による省エネルギー効果が期待できる。また本発明の有機発光素子は平面光源として利用できる。
また、本発明に係る有機発光素子を支持する基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜などを設けて発色光をコントロールする事も可能である。また、基板に薄膜トランジスタ(TFT)を設け、それに有機発光素子を接続して発光非発光を制御することができる。また、複数の有機発光素子をマトリックス状に配置して、即ち面内方向に配置して照明装置として用いることも可能である。
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置について説明する。この表示装置は、本発明の有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段と、を具備することを特徴とするものである。以下、図面を参照して、アクティブマトリクス方式を例にとって、本発明の表示装置を詳細に説明する。
図14は、表示装置の一形態である、本発明の有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とを備えた表示装置の構成例を模式的に示す図である。
図15は、画素に接続される画素回路と画素回路に接続される信号線と電流供給線とを模式的に示す図である。
本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とは、図14において走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13及び図15において画素回路15のことを指す。
図14の表示装置1は、走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13が配置され、それぞれゲート選択線G、情報信号線I、電流供給線Cに接続される。ゲート選択線Gと情報信号線Iの交点には、画素回路15が配置される(図15)。本発明に係る有機発光素子からなる画素14はこの画素回路15ごとに対応して設けられる。画素14は有機発光素子である。従って、本図においては発光点として有機発光素子を示している。本図において有機発光素子の上部電極が他の有機発光素子の上部電極と共通していても良い。もちろん上部電極は各発光素子毎に個別に設けられていても良い。
走査信号ドライバー11は、ゲート選択線G1、G2、G3・・・Gnを順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー12から画像信号が情報信号線I1、I2、I3・・・Inのいずれかを介して画素回路15に印加される。
次に、画素の動作について説明する。図16は、図14の表示装置に配置されている1つの画素を構成する回路を示す回路図である。図16は第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23が有機発光素子24を発光させるための電流を制御している。図16の画素回路2においては、ゲート選択線Giに選択信号が印加されると、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21がONになり、コンデンサー(Cadd)22に画像信号Iiが供給され、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電圧を決定する。有機発光素子24には第二の薄膜トランジスタ(TFT2)(23)のゲート電圧に応じて電流供給線Ciより電流が供給される。ここで、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電位は、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21が次に走査選択されるまでコンデンサー(Cadd)22に保持される。このため、有機発光素子24には、次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間中常に有機発光素子24を発光させることが可能となる。
なお不図示ではあるが、有機発光素子24の電極間の電圧を薄膜トランジスタが制御する電圧書き込み方式の表示装置にも本発明に係る有機発光素子は用いられることが出来る。
表示装置はフルカラーで表現できる表示装置としても利用できる。フルカラー表示装置は複数の画素から構成され、各画素はフルカラーの発光が出来る。各画素は複数の副画素を有している。たとえば赤緑青のそれぞれを発光する3つの副画素から構成される。この副画素が有機発光素子である。
図17は、図14の表示装置で用いられるTFT基板の断面構造の一例を示した模式図である。TFT基板の製造工程の一例を示しながら、構造の詳細を以下に説明する。
図17の表示装置3を製造する際には、まずガラス等の基板31上に、上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32がコートされる。防湿膜32を構成する材料として、酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。次に、スパッタリングによりCr等の金属を製膜することで、所定の回路形状にパターニングしてゲート電極33を形成する。
続いて、酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜する。その後、パターニングしてゲート絶縁膜34を形成する。次に、プラズマCVD法等により(場合によっては290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を製膜し、回路形状に従ってパターニングすることで半導体層35を形成する。
さらに、この半導体膜35にドレイン電極36とソース電極37とを設けることでTFT素子38を作製し、図16に示すような回路を形成する。次に、このTFT素子38の上部に絶縁膜39を形成する。次に、コンタクトホール(スルーホール)310を、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続するように形成する。
この陽極311の上に、多層あるいは単層の有機層312と、陰極313とを順次積層することにより、表示装置3を得ることができる。このとき、有機発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層314や第二の保護層315を設けてもよい。本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
尚、上記の表示装置は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
上記ITO電極の上に多層あるいは単層の有機発光層/陰極層を順次積層し有機発光表示パネルを得ることができる。本発明の有機化合物を用いた表示パネルを駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
また、素子の光取り出し方向に関しては、光共振器構造を維持していれば良く、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)および、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(有機化合物の設計とPF値の計算)
<実施例1>
本実施例においては下記有機化合物1を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。このとき、下記式6
の計算においては、和をとる領域Rは主としてC−Cの面内伸縮のモード等にあたる波数領域(1300〜1670cm−1)を指定し、Nbasisには分子を構成するC原子の数を指定する。これを元にPFの値を算出した。
図18は計算されたHuang−Rhys因子、図19は計算から得られた発光スペクトルを表す。これらの図から明らかなように、スペクトルの第二振動ピークが第一振動ピークと比べ0.7以下に抑えられていることが分かる。
<実施例2>
本実施例においては下記有機化合物2を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例1と同様に行った。
図20は計算されたHuang−Rhys因子、図21は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<比較例1>
本比較例においては下記有機化合物3を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例1と同様に行った。
図22は計算されたHuang−Rhys因子、図23は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<比較例2>
本比較例においては下記有機化合物4を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例1と同様に行った。
図24は計算されたHuang−Rhys因子、図25は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<比較例3>
本比較例においては下記有機化合物5を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例1と同様に行った。
図26は計算されたHuang−Rhys因子、図27は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<比較例4>
本実施例においては下記有機化合物6を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例1と同様に行った。その結果PF=0.0521であった。
図28は計算されたHuang−Rhys因子、図29は計算から得られた発光スペクトルを表す。
実施例1,2と比較例1乃至4のPF値を表3にまとめて示す。
これより計算より求められる実施例の有機化合物のPF値は0.02以下、比較例の有機化合物は0.02より大きな値になる。また、PF値は0.02以下の有機化合物は第一の振動ピークの強度にたいして第ニの振動ピークの強度が0.7以下となっている。
これを元に実際にこれらの有機化合物の合成したりまたは市販品を入手した。これらの有機化合物の発光スペクトルを1×10−5mol/lに調整されたトルエン溶液を用いて、また日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長において測定した。
いくつかの化合物において合成例を示す。
<合成例1>
(有機化合物1の合成)
参考文献としてChem.Commun.,2005,21722174のP2172scheme1を参考にして下記化合物を合成した。
参考文献としてJ.Org.Chem.2003,68,883−887のP884 FIGURE 2.と同様の反応条件で実施例1に記した有機化合物1を合成した。
<合成例2>
(比較例3に記載の有機化合物5の合成)
参考文献としてJ.AM.CHEM.SOC.2004,126,15974−15975のscheme1とJ.Org.Chem.,1964,29 (10),3129を参考にして合成した。
<合成例3>
(実施例2に記載の有機化合物2の合成)
合成例1,2の反応を参考に合成した。
その結果を図30から図34に示す。
図30は実施例1に記載の有機化合物の構造とトルエン溶液中のその発光スペクトルを示す図である。
図31は実施例2に記載の有機化合物の構造とトルエン溶液中のその発光スペクトルを示す図である。
図32は比較例1に記載の有機化合物の構造とトルエン溶液中のその発光スペクトルを示す図である。
図33は比較例2に記載の有機化合物の構造とトルエン溶液中のその発光スペクトルを示す図である。
図34は比較例3に記載の有機化合物の構造とトルエン溶液中のその発光スペクトルを示す図である。
この結果より実施例1,2および比較例1乃至3に記載された有機化合物は、計算より求められる発光スペクトルと実測での発光スペクトルは近い波形を示す。これより、Huang−Rhys因子を元にした量子化学計算は波形の予測に有効である。
また、PF値が0.02以下の有機化合物は実測においても全て0−0の振動に由来する第一の振動ピークの強度にたいして第ニの振動ピークの強度が0.7以下である。また第一の振動ピークの半値幅は30nm以下であり、PF値が0.02以下である。したがって有機発光素子に最適な分子(有機化合物)の設計が可能である。
<実施例3>
本実施例においては下記式有機化合物6を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。このとき、下記式6
の計算においては、和をとる領域Rは主としてC−Cの面内伸縮のモード等にあたる波数領域(1300〜1670cm−1)を指定する。そしてNbasisには置換基はフェニル基であるのでフェニル基を除いた分子を構成するC原子の数を指定する(有機化合物6では34)。これを元にPFの値を算出する。
図35は計算されたHuang−Rhys因子、図36は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<実施例4>
本実施例においては下記式有機化合物7を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例3と同様に行った。
図37は計算されたHuang−Rhys因子、図38は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<実施例5>
本実施例においては下記有機化合物8を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例3と同様に行った。
図39は計算されたHuang−Rhys因子、図40は計算から得られた発光スペクトルを表す。
<実施例6>
本実施例においては下記有機化合物9を設計し、その有機化合物のスペクトルを計算した。PFの計算は実施例3と同様に行った。
図41は計算されたHuang−Rhys因子、図42は計算から得られた発光スペクトルを表す。
実施例1から6の有機化合物のPF値を表4に示す。
これより、無置換でのPF値が0.02以下の有機化合物では、置換基を導入してもPF値に大きな変動が起きず、0.02以下である。
また、この中の有機化合物から実施例3と実施例6の発光スペクトルを1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長において測定を行った。
そのスペクトルを図43、図44に示す。
実際の有機化合物も、置換基が投入されても大きなスペクトル形状の変化は無い。またPF値が0.02以下の有機化合物は0−0の振動に由来する第一の振動ピークの強度に対して第ニの振動ピークの強度が0.7以下であり、第一の振動ピークの半値幅は30nm以下であり、PF値が0.02以下である。
<比較例4乃至8>
以下の有機化合物についてPF値を求めた。その結果を表5に示す
これより、比較例4乃至8の有機化合物はPF値が0.02より大きくなる。
<実施例7、比較例9,10>
本実施例では、多層型有機発光素子の第五の例で示した素子(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極)とした。
光共振器構造を有する有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
支持体としてのガラス基板上に反射性陽極としてのアルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜する。さらに、透明性陽極としてITOをスパッタリング法にて80nmの膜厚で形成する。次に、この陽極周辺部にアクリル製の素子分離膜を厚さ1.5μmで形成し、半径3mmの開口部を設けた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥する。さらに、この基板表面に対してUV/オゾン洗浄を施す。
更に、以下の有機層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜した後に、陰極としてIZOをスパッタリング法にて成膜して膜厚30nmの透明性電極を形成する。形成した後に、窒素雰囲気中において、封止する。
以上により、有機発光素子を形成する。
ゲスト材料として
分子軌道計算を元に設計した下記有機化合物G−1
比較例としてPF値が0.41であり、振動構造を持たない下記有機化合物G−2
振動構造を有するが第二の振動ピークが第一の振動ピークの高さ比約0.9の下記有機化合物G−3を用いた。
ホール注入層(95nm) 下記H−1
ホール輸送層(10nm) 下記H−2
発光層(35nm) ホスト:下記H−3、
ゲスト:例示化合物(重量比2%)
電子輸送層(10nm) 下記H−4
電子注入層(70nm) 下記H−5(重量比 80%)、Li(重量比 20%)
これらG1乃至G3のそれぞれの、濃度1×10−5mol/lのトルエン溶液の発光スペクトル(フォトルミネッセンス)は、日立製F−4500を用いて、測定された。励起波長は350nmである。
化合物G1のフォトルミネッセンスのスペクトルを図45にしめし、有機発光素子の発光スペクトルを図46に示す。
化合物G2のフォトルミネッセンスのスペクトルを図47にしめし、有機発光素子の発光スペクトルを図48に示す。
化合物G3のフォトルミネッセンスのスペクトルを図49にしめし、有機発光素子の発光スペクトルを図50に示す。
<比較例11>
ホール注入層の膜厚を115nmにした以外は実施例7と同じ素子構成である。その発光素子の発光スペクトルを図51に示す。
実施例7、比較例9,10に用いられている材料の、本来の発光であるフォトルミネッセンスの発光(PL発光)と光学干渉構成を用いた素子(EL発光)との比較を行った。
表6の結果より光学干渉による光共振器構造を用いた発光素子はどれも色純度が向上する。しかし、発光スペクトルの半値幅が狭い方が、光学干渉を用いた発光素子に用いる場合に材料本来が持つ発光のロスを抑えることができる。
また図51より光学干渉距離を光共振器構造からずらすことで、大きく発光波形がずれ、本来必要とする色度より大幅に悪化した色度になり、本発明で設計した有機化合物は、共振器構造を用いることでその効果を発揮することができる。
<結果と考察>
量子化学計算より導き出されるPF値が0.02以下の有機化合物は、振動構造を持ち、尚且つ第1の振動ピークの半値幅30nm以下であり、第1の振動ピークと、第2の振動ピークの高さ比が0.7以下である。
本発明に係る有機発光素子は、このような有機化合物を有しており且つ光学膜厚ndが、
nd=(2N−1)λ/4
(nは屈折率、dは発光中心からの膜厚、λは最大発光波長、Nは正の整数)なる関係を満たす共振器構造を有している。その結果本発明に係る有機発光素子は、半値幅の広い有機化合物を用いた有機発光素子と比較して発光ロスを抑えた色純度の高い有機発光素子である。