以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
(第1実施形態)
最初に、第1実施形態のMRI装置の全体概要を図1に示したブロック図に基づいて説明する。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るものである。図1に示すように、MRI装置は、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、操作部25とを備えて構成される。
静磁場発生系2は、被検体1の周りに配置された静磁場発生源を含み、被検体1の周りの空間に均一な静磁場を発生させる。静磁場の方向は、水平磁場方式であれば体軸方向に、垂直磁場方式であれば体軸と直交する方向に設定する。静磁場発生源は、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式のいずれであっても構わない。
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1に高周波(RF)パルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとを備えている。変調器12は、高周波発振器11から出力された高周波パルスを受け取って、シーケンサ4からの指令によるタイミングにより振幅変調して高周波増幅器13に出力する。高周波増幅器13は、高周波パルスを増幅した後、被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給する。これにより、高周波コイル14aからRFパルスが被検体1に照射され、被検体1の生体組織の原子核スピンに核磁気共鳴が生じ、核磁気共鳴信号(NMR信号)が発生する。
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向にそれぞれ巻かれた複数のコイルを含む傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とを備えて構成されている。傾斜磁場電源10は、後述のシーケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルに電流を供給することにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、NMR信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
受信系6は、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とを備える。被検体1からのNMR信号は、被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
シーケンサ4は、信号処理系7のディジタル信号処理装置8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。これにより、被検体1には、RFパルスと傾斜磁場パルスが所定のパルスシーケンスで繰り返し印加され、NMR信号として例えばエコー信号を取得する。
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18、ROM21、RAM22等の記憶装置と、CRT等のディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータは、ディジタル信号処理装置8に入力され、ディジタル信号処理装置8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
また、ディジタル信号処理装置8は、図1に示すようにエコー信号推定処理装置301を含んでいる。エコー信号推定処理装置301は、k空間上のエコー信号を取得していない領域についてのデータを推定する処理を行う。エコー信号推定処理装置301の構成については、後で詳しく説明する。
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を操作者が入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24を備えている。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御することができる。
図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を撮像することができる。
第1実施形態のMRI装置の全体動作を説明する。特に、エコー信号推定処理装置301の構成と動作について詳しく説明する。
本実施形態では、ラディアルサンプリング法によりフラクショナルエコー信号を計測する。ラディアルサンプリング法は、k空間の原点を中心として回転角の異なる複数のエコー信号が放射状に並ぶように配置する方法である。図2(a),(b)のデータ201、202は、本実施形態で取得するフラクショナルエコー信号データをk空間に配置した例である。図2(a)のデータ201は、ラディアルスキャンによるk空間データの一例であり、位相エンコードを付加しない1つのエコー信号(Blade)が回転角毎に配置されている。図2(b)のデータ202はハイブリッドラディアルスキャンによるk空間データの一例であり、位相エンコードを付加したエコー信号群(Blade)が回転角毎に配置されている。データ201,202ともに、ky<0の領域では、一部のみエコー信号が配置されている。Blade数をN、Blade番号をnとしたとき、各Bladeのk空間配置角度 [rad]は、例えば下記式(2)に従って設定される。
各Bladeのk空間配置角度 [rad]が上式(2)で設定される図2(a)のデータ201または図2(b)のデータ202を実現するための、パルスシーケンスの一例を図3に示す。図3のパルスシーケンスは、グラディエントエコー法によるラディアルサンプリング法の例である。図3の横軸は全て時間軸[s]であり、縦軸はRFパルス(RF)の振幅、傾斜磁場パルス(Gs、Gp、Gf)については傾斜磁場強度[T/m]であり、エコー信号(Echo)については受信エコーの電圧振幅[V]である。図3のパルスシーケンスからわかるように、ラディアルサンプリング法ではRFパルス2101を照射した後、位相エンコード傾斜磁場2103 および周波数エンコード傾斜磁場パルス2104を同時に印加しながらエコー信号を受信する。この時、パルスシーケンスの各繰り返し時間2106毎にGp、Gr軸に印加する傾斜磁場強度IGp、IGfを変えることで、k空間配置角度を変更する。具体的には、傾斜磁場強度IGp、IGfを次式(3−1)〜(3−2)に従って設定する。
ここで、nはBlade番号、BladeAngle(n)は式(2)により設定される角度[rad]、IGはBandWidth[Hz]とFOV(注目視野サイズ)[m]から公知の計算方法により計算される傾斜磁場強度である。
このように、図3のパルスシーケンスをシーケンサ4が実行することにより、図2(a)または図2(b)のk空間データ201、202が取得される。
本実施形態では、取得されたk空間データのうち、データが取得されていない領域のデータをエコー信号推定処理装置301により推定する。
図4を用いてエコー信号推定処理装置301の構成を説明する。エコー信号推定処理装置301は、図1中のディジタル信号処理装置8内に配置されている。図4に示すように、エコー信号推定処理装置301は、k空間配置処理系302、周波数成分分離処理系304、2次元フーリエ変換処理系305、位相補正処理系306、複素共役処理系307、及び合成処理系308を有する。エコー信号推定処理装置301は、例えば、演算装置と、予めプログラムが格納されたメモリにより構成することが可能であり、演算装置がプログラムを読み込んで実行することにより、k空間配置処理系302、周波数成分分離処理系304、2次元フーリエ変換処理系305、位相補正処理系306、複素共役処理系307、及び合成処理系308として機能する。
図4のエコー信号推定処理装置301の各部の処理動作について図5のフローチャートを参照しながら説明する。受信系6のA/D変換器17から出力されるエコー信号は複素信号F(kr,θ)であり、ラディアルサンプリング法を用いているために極座標系で表される。k空間配置処理系302は、極座標系データF(kr,θ)を、位相エンコード・周波数エンコードに応じて直交座標系データF(kx,ky)へと変換してRAM22に配置し、k空間を形成する(ステップ51)。RAM22には、任意の個数の複素信号F(kr,θ)から構成されたk空間データF(kx,ky)が記憶される。
周波数成分分離処理系304は、RAM22に記憶されたk空間データF(kx,ky)を読み出して、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)に分離して2次元フーリエ変換処理系305に出力する(ステップ52、53)。このとき、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)と、後のステップで位相補正後に高周波成分データの位相共役をとることにより求める推定データの3つに、k空間上で重なり合う領域(周波数成分)が生じないように、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)に分離する。また、低周波数成分データは、k空間において、k空間の原点を中心とする点対称形状とすることが望ましい。
2次元フーリエ変換処理系305は、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)をそれぞれ逆フーリエ変換することにより高周波成分データf_HF(x,y)と低周波成分データf_LF(x,y)を得て、位相補正処理系306及び合成処理系308に出力する(ステップ54,55)。
位相補正処理系306は、高周波成分データf_HF(x,y)の位相値から、対応するx、y位置の低周波成分データf_LF(x,y)の位相値(位相マップ)を減算することにより、位相補正後の高周波成分データf_HF'(x,y)を得て、複素共役処理系307に出力する(ステップ56)。このとき、低周波数成分データF_LF(kx,ky)の範囲をk空間原点に対して点対称の範囲に設定しているため、位相マップがk空間上において点対称になり、画像空間上で位相歪が生じないため、精度よく位相補正を行うことができる。しかも、本実施形態では、k空間の原点周辺の計測点の密度が高い、ラディアルサンプリング法でデータ取得を行っているため、低周波成分データF_LF(kx,ky)のSN比が高く、そのため位相マップの精度が高くなり、より精度良い位相補正を行うことができる。
複素共役処理系307は、位相補正後の高周波成分データf_HF'(x,y)の複素共役データCC(f_HF'(x,y))を算出し、合成処理系308に出力する(ステップ57)。なお、CC( )は、括弧( )内の複素共役データであることを表す。複素共役データCC(f_HF'(x,y))が推定データである。
合成処理系308は、入力された推定データCC(f_HF'(x,y))と高周波成分データf_HF(x,y)と低周波成分データf_LF(x,y)とを加算処理することにより再構成画像データf_composition(x,y)を得る(ステップ58)。得られた再構成画像データf_composition(x,y)は、磁気ディスク18、光ディスク19、及びディスプレイ20に出力し、格納および表示する。低周波成分データと高周波成分データと推定データがk空間上で重なり合わないように、低周波成分データと高周波成分データとが分離されているため、画像空間上で加算されたときに、強調/抑制される成分(周波数成分)が生じない。よって、合成処理系308では、逆フーリエ変換後のデータを画像空間(逆フーリエ変換後のデータ空間)において加算するだけの簡単な処理で位相補正された画像を得ることができる。
周波数成分分離処理系304の構成及び処理動作についてさらに説明する。図6は、周波数成分分離処理系304の構成図である。図6に示すように、周波数成分分離処理系304は、RAM22に格納された低域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部401、乗算処理系402、及び減算処理系403を有する。低域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部401の低域通過型フィルタの振幅伝達特性L(kx,ky)は、下記式(4−1)〜(4−2)により表わされる。
上式(4−1)、(4−2)において、kx、kyはk空間中心を原点としたときの座標である。また、式(4−2)のFilterPointsは、図7に示すようにエコー信号のrが負の部分502の長さであり、k空間中心から手前側サンプル点数である。式(4−1)、(4−2)により、k空間原点を中心とした点対称な領域を選択するフィルタL(kx、ky)が設定される。また、このフィルタL(kx、ky)は、式(4−1)、(4−2)から明らかなように、FilterPointsに近づくにつれ選択されるデータの割合が徐々に減少するように設定されている。
周波数成分分離処理系304において、振幅伝達特性L(kx,ky)とk空間データF(kx,ky)を乗算処理系402で乗算することにより、k空間の中心からの距離が、部分502の長さ(FilterPoints)よりも小さいサンプル点のデータのみが選択され、低周波成分データF_LF(kx,ky)が得られる。
上記式(5)により得られた低周波成分データF_LF(kx,ky)に対してステップ54で逆フーリエ変換を施すことで得られる低周波成分データf_LF(x,y)は、位相補正処理系306で位相補正処理を行う際に用いる位相マップとなる。
次に、k空間データF(kx,ky)から低周波成分データF_LF(kx,ky)を減算処理系403で減算することにより、高周波成分データF_HF(kx,ky)が得られる。
式(6)においては、後の式(11)で行われる合成処理で合成される、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)と推定データ(複素共役データ)CC(f_HF'(x,y))の3つに、k空間上で重なり合う領域(周波数成分)が生じないように、高周波成分データF_HF(kx,ky)を決定している。具体的には、後述の式(10)の処理で得られる推定データが配置されるk空間上の領域(ここではky≦0の領域)には、0を割り当てている。これにより、低周波成分データと高周波成分データとが、重なりあわず、かつ、後の処理で求められる推定データが加算された時に強調/抑制される成分がないように、分離することができる。ただし、式(6)は、図2(a)、(b)に示したようにky<0の領域の一部に計測していない領域が存在するk空間データを対象とする場合の式である。エコー信号のk空間配置方向などが変われば式(6)中の分岐条件も変わることは言うまでもない。
なお、本実施形態において、「重なり合わない」という意味は、k空間データの一部を強調/抑制しないという意味であり、k空間上の座標位置が重複しないという意味に限定されない。例えば、領域の座標が重なりあっていても、式(4−1)、(4−2)のフィルタL(kx,ky)で設定される低周波成分データF_LF(kx,ky)のように、選択されるデータの割合が徐々に変化するようにフィルタリング(選択)されている場合には、高周波成分データF_HF(kx,ky)と座標としては重なりあっていても、領域のk空間データは強調/抑制されないので、本発明の「重なり合わない」に含まれる。以下、本明細書において同様の意味を意図して「重なり合わない」、「重ならない」もしくは「重なり合う領域が生じない」という表現を用いる。
また、式(6)より、低周波数成分データF_LF(kx,ky)の範囲をk空間原点に対して点対称の範囲に設定しているため、位相マップがk空間上において点対称になり、画像空間上で位相歪が生じないため、後の工程で行う位相補正を精度よく行うことができる。しかも、本実施形態では、k空間の原点周辺の計測点の密度が高い、ラディアルサンプリング法でデータ取得を行っているため、低周波数成分データF_LF(kx,ky)のSN比が高く、そのため位相マップの精度が高く、より精度良い位相補正を行うことができる。
ここでは、低域通過型フィルタ振幅伝達特性L(kx,ky)を用いているため、分離後の低周波成分データと高周波成分データを逆フーリエ変換したデータに生じるリンギングを抑制することができる。リンギングが強く生じていた場合、位相マップに歪みを引き起こし、適切な位相補正ができなくなるが、式(4−1)、(4−2)に示す低域通過型フィルタ振幅伝達特性L(kx,ky)の振幅伝達特性を用いることにより、リンギングを抑制することができる。ただし、低域通過型フィルタ振幅伝達特性L(kx,ky)の関数は、式(4−1)、(4−2)に限らず、逆フーリエ変換後のデータのリンギングを抑えることができる関数であればよく、他の関数を用いることも可能である。例えば、ハニング関数やガウス関数、カイザ・ベッセル関数などを好適に用いることができる。
上記の処理で得られたk空間データF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)との関係は、式(7)に示すようになる。
すなわち、ky>0の領域では、低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)の和がk空間データF(kx,ky)に等しく、ky≦0の領域では、低周波成分データF_LF(kx,ky)をフィルタ振幅伝達特性L(kx,ky)で除したものがk空間データF(kx,ky)に等しい、という関係である。低周波成分データと高周波成分データとが、重なりあわず、かつ、後の処理で求められる推定データが加算された時に強調/抑制される成分がないように、分離されていることがわかる。
式(7)のように低周波成分データと高周波成分データとが重なりあわず、かつ、後の処理で求められる推定データとも重なり合わないように分離されている関係にあるため、合成処理系308では、逆フーリエ変換後のデータを画像空間(逆フーリエ変換後のデータ空間)において加算するだけの簡単な処理で位相補正された画像を得ることができる。もし、低周波成分データと高周波成分データが式(7)の関係にない場合に、画像空間において加算処理を行うと、特定の周波数成分が強調された、もしくは抑制された画像となる。そのため、式(6)の関係が成り立たない場合には、合成処理系308において複素共役データCC(f_HF'(x,y))、高周波成分データf_HF(x,y)、低周波成分データf_LF(x,y)をそれぞれ一旦フーリエ変換してk空間に戻した後に合成処理を行い、高周波成分データと低周波成分データが重なりあう領域のデータ値を補正し、再度逆フーリエ変換を行う必要があり、処理が複雑になる。
ただし、式(7)は、式(6)と同様に、図2(a)、(b)に示したようにky<0の領域の一部に計測していない領域が存在するk空間データにおいて、低周波成分データと高周波成分データとが、重なりあわず、かつ、推定データとも重なりあうことなく分離されている場合の式である。エコー信号のk空間配置方向などが変われば式(7)中の分岐条件も変わることは言うまでもない。
次に、図4の2次元フーリエ変換処理系305の処理動作について詳しく説明する。2次元フーリエ変換処理系305は、入力された低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)をそれぞれ次式に従って、逆フーリエ変換を施し、逆フーリエ変換後の低周波成分データf_LF(x,y)と高周波成分データf_HF(x,y)を得る。
ここで、IDFT[ ]は、括弧[ ]内を逆フーリエ変換処理することを示している。
次に、位相補正処理系306、複素共役処理系307、合成処理系308のについて詳しく説明する。位相補正処理系306は、入力された逆フーリエ変換後の低周波成分データf_LF(x,y)の位相値(位相マップ)を求め、逆フーリエ変換後の高周波成分データf_HF(x,y)の対応するx、y位置の位相値から減算する。これにより、高周波成分データの位相補正を行う。具体的には次式(9)に従い、位相補正後の高周波成分データf_HF'(x,y)を得る。
ここで、θ_HF(x,y)は、高周波成分データf_HF(x,y)の位相値であり、θ_LF(x,y)は、低周波成分データf_LF(x,y)の位相値である。
式(9)の処理により、逆フーリエ変換後のデータに対して位相補正を行うため、最終的な再構成画像データが複素数である場合でも位相補正および複素共役によるデータ推定が可能である。
複素共役処理系307は、式(9)により算出されたf_HF'(x,y)を入力値として次式(10)の計算を行うことにより、位相補正後の高周波成分データf_HF'(x,y)の複素共役データCC(f_HF'(x,y))を算出する。
ここで、θ_HF'(x,y)は、位相補正後の高周波成分データf_HF'(x,y)の位相値である。式(10)から、k空間上の欠落した領域の推定データCC(f_HF'(x,y))が算出される。この推定データをフーリエ変換してk空間上に戻した場合、フーリエ変換後の推定データはk空間上で低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)と重なり合わない。
合成処理系308は、算出された推定データCC(f_HF'(x,y))と、逆フーリエ変換後の低周波成分データf_LF(x,y)及び逆フーリエ変換後の高周波成分データf_HF(x,y)を次式(11)に従って合成する。
式(11)により算出したf_composition(x,y)が、最終的な再構成画像データとなる。
図8は、式(11)を概念的に図説したものである。図8に示すように、推定データCC(f_HF'(x,y))と高周波成分データf_HF(x,y)と低周波成分データf_LF(x,y)とが加算処理されることで、元々のk空間データF(kx,ky)が有していたデータの欠落領域が補われ、f_composition(x,y)は、完全なk空間データとして形成されていることがわかる。
上述してきたように、本実施形態では、逆フーリエ変換後の低周波成分データf_LF(x,y)から位相値を求め、逆フーリエ変換後の高周波成分データの位相値を式(9)のように補正し、補正後の高周波成分データから複素共役データを求めている。これにより、計測データと推定データの間に位相の相違を生じさせず良好な再構成画像データを得ることができる。よって従来の非特許文献2に記載の複素共役の性質を利用した推定処理のように、再構成画像データが複素数となる場合の推定結果が画質劣化する現象を回避できる。また、推定データCC(f_HF'(x,y))をフーリエ変換してk空間上に戻した場合、フーリエ変換後の推定データは、k空間上で、低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)と重なり合わないため、画像空間上で強調/抑制される周波数成分は生じない。
また、位相補正に用いる低周波成分データは、ラディアルサンプリング法により形成されたk空間データの中央領域の全体を用いている。ラディアルサンプリング法により形成されたk空間データの中央領域は、複数のBladeデータが重なりあって形成された領域であるため、k空間データの中で最もSN比が高い領域である。従って、複数のBladeデータが加算されたk空間データの中央領域全体の低周波領域データを用いて位相マップを作成することにより、従来の一つのBladeデータを用いて位相補正する特許文献2に記載の技術よりも、磁場歪みやノイズ等による誤差の少ない、高精度な位相マップを得ることができる。故に、高精度な位相マップを用いてk空間上の欠落領域を推定する本実施形態では、従来法に比べて精度の高い推定データを得ることができ、これを用いて高精度な再構成画像が得られる。
さらに、本実施形態では、簡素な処理により推定処理を行うことができるため、実用的な処理速度を実現することができる。具体的には、k空間データを式(7)の関係性を保つように高周波成分データと低周波成分データとに分離しているため、合成処理系308における合成処理を画像空間における単純加算処理にすることが可能となり、合成処理時の処理時間を大幅に短縮することが可能である。これに対し、従来技術の特許文献3に記載の画像形成方法は、処理量の増加による実用性の低下が懸念される。
なお、第1の実施形態では、図5のステップ56において高周波成分データを位相補正した後、ステップ57において複素共役を求めて推定データを得ている。しかしながら、本発明はこの方法に限らず、ステップ56とステップ57とを入れ替え、高周波成分データの複素共役を求めた後、位相補正を行って推定データを得る構成にすることも可能である。この場合、複素共役データの位相に位相マップの位相を加算して位相補正を行う。
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、図2(a),(b)に示したように、k空間の一部(例えばky<0)の領域でエコー信号データが欠落しているk空間データ201、202に対して、推定処理を行い、再構成画像を得たが、第2実施形態では、図9(a)、(b)に示すように、フラクショナルエコーのデータ欠落部分が、2つのエコー信号の間に挟まれるように分散配置されているk空間データ601、602に対して推定処理を行い再構成画像を得る。図9(a),(b)のk空間データ601,602は、エコー信号データの欠落部分が、図2(a),(b)と比較してk空間全体に分散しているため、第1実施形態のように欠落部分が特定の領域(たとえばky<0)にまとまっているk空間データと比較して、再構成画像のアーチファクトが目立ちにくいという利点がある。
図9(a)のデータ601は、ラディアルスキャンによるk空間データの一例であり、図9(b)のデータ602はハイブリッドラディアルスキャンによるk空間データの一例であり、Blade数をN、Blade番号をnとしたとき、各Bladeのk空間配置角度BladeAngle [rad]を、例えば下記式(12)に従って設定することにより、取得できる。
すなわち、式(12)に従うことにより、計測される全てのBladeデータをk空間の原点を中心として点対称にならないように配置できる。点対称にならないように配置することで、推定処理により得られる推定データが、計測されたエコー信号と重ならないため、推定処理後のk空間データの信号密度が推定処理前に比べて密になり、エイリアシングなどのアーチファクトの低減が可能となる。すなわち、式(12)により、推定データと計測されたエコー信号のk空間上の位置が重ならないように配置することを意図してk空間配置角度を設定することができる。
具体的なパルスシーケンスは、第1実施形態の図3のパルスシーケンスと同様であるが、図3に示す傾斜磁場強度 IGp、IGfの値を、式(12)で決定されるBladeAngle[rad]の値と、式(3−1)および式(3−2)とを用いて決定することにより実現できる。
このようにして決定されたパルスシーケンスを実行して図9(a),(b)に示すk空間データ601,602が得られたならば、本実施形態ではエコー信号推定処理装置701により、データ欠落部分のエコー信号を推定し、画像再構成を行う。エコー信号推定処理装置701は、第1実施形態のエコー信号推定処理装置301同様に図1の構成のMRI装置のディジタル信号処理装置8内に配置されている。他の装置構成は、第1実施形態と同様であるので、他の構成についてはここでは説明を省略する。
図10を用いて、エコー信号推定処理装置701の構成について説明する。図10に示すように、エコー信号推定処理装置701は、k空間配置処理系702、周波数成分分離処理系704、2次元フーリエ変換処理系705、位相補正処理系706、複素共役処理系707、及び合成処理系708を有する。
本実施形態の処理の動作について図10を用いて説明する。k空間配置処理系702は、A/D変換器17から受信する複素信号F(kr,θ)を、式(12)及び位相エンコード・周波数エンコードに応じて直交座標系データへと変換してRAM22に配置し、k空間データを形成する。このとき第2実施形態では、k空間配置処理系702が、図11(a)に示す低周波成分用データ(F_LFpre(kx,ky))803と高周波成分用データ(F_HFpre(kx,ky))804の2種類の直交座標系k空間データを作成する。よって、RAM22には、2つのk空間データ803,804が記憶される。周波数成分分離処理系704は、RAM22に記憶された低周波成分用データ(F_LFpre(kx,ky))803と高周波成分用データ(F_HFpre(kx,ky))804を読み出して、低域通過型フィルタと高域通過型フィルタの振幅伝達特性をそれぞれ掛け合わせることにより、低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)を算出し、2次元フーリエ変換処理系705に出力する。
2次元フーリエ変換処理系705は、高周波成分データF_HF(kx,ky)と低周波成分データF_LF(kx,ky)をそれぞれ逆フーリエ変換した高周波成分データf_HF(kx,ky)と低周波成分データf_LF(kx,ky)を算出し、位相補正処理系706及び合成処理系708に出力する。位相補正処理系706は、高周波成分データf_HF(kx,ky)から低周波成分データf_LF(kx,ky)の位相値を減算しすることにより位相補正し、得られた位相補正データf_HF'(kx,ky)を複素共役処理系707に出力する。複素共役処理系707は、位相補正データf_HF'(kx,ky)の複素共役データCC(f_HF'(kx,ky))を算出し、合成処理系708に出力する。複素共役データCC(f_HF'(kx,ky))は、図9(a),(b)のデータ欠落部の推定データである。
合成処理系708は、推定データである複素共役データCC(f_HF'(kx,ky))と高周波成分データf_HF(kx,ky)と低周波成分データf_LF(kx,ky)とを加算処理することで再構成画像データf_composition(x,y)を得て、磁気ディスク18、光ディスク19、及びディスプレイ20に出力し、格納および表示させる。
k空間配置処理系702の構成及び処理動作について図12を用いてさらに詳細に説明する。図12に示すように、k空間配置処理系702は、低周波成分用データ作成処理系801と高周波成分用データ作成処理系802を有する。本実施形態では、k空間配置処理の段階で低周波成分と高周波成分のデータを分離する。そのためにk空間領域を2つ用意して配置処理を行う。低周波成分用データ作成処理系801は、図7に示したフラクショナルエコー信号から部分503の範囲の信号のみを取り出し、RAM22上の領域に配置することにより、低周波成分用データによるk空間データ(F_LFpre(kx,ky))803を形成する。高周波成分用データ作成処理系802は、図7に示すフラクショナルエコー信号から部分504の範囲の信号のみを取り出し、RAM22上の領域に配置することにより、高周波成分用データによるk空間データ(F_HFpre(kx,ky))804を形成する。図11は、ハイブリッドラディアルスキャン時の低周波成分用データによるk空間803とハイブリッドラディアルスキャン時の高周波成分用データによるk空間804の一例である。これらk空間形成処理は、具体的には式(13−1)〜(13−2)に従う。
ただし、kx=kr×cos(θ)、ky=kr×sin(θ)である。
また、式(13−1)においてSymmetricRangeは、図7中の部分502の長さを表す。
本実施形態で、k空間データとして、高周波成分用データと低周波成分データの2種類用意する目的は、この後の処理で、周波数帯域を重複していない推定データと計測データを得るためである。推定データと計測データの周波数帯域を重複させないことにより、合成処理系708において、推定データと計測データを単純加算することが可能となる。
次に、周波数成分分離処理系704の処理動作について図13を用いて詳しく説明する。図13に示すように、周波数成分分離処理系704は、RAM22に格納された、低域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部1001および高域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部1002と、二つの乗算処理系1003とを有する。k空間配置処理系702によって、低周波成分用データ(F_LFpre(kx,ky))803と高周波成分用データ(F_HFpre(kx,ky))804の2種類のデータが用意されているため、周波数成分分離処理系704では、それら2種類のデータにフィルタの振幅伝達特性を掛け合わせる処理を行う。低域通過型フィルタの振幅伝達特性L(kx,ky)は、第1実施形態の式(4−1)〜(4−2)によって設定する。高域通過型フィルタの振幅伝達特性H(kx,ky)は、下記式(14)によって設定する。
低域通過型フィルタの振幅伝達特性L(kx,ky)と低域成分用データ(F_LFpre(kx,ky))803を、式(15)のように掛け合わせることにより、低周波成分データF_LF(kx,ky)を得る。
ここで得られた低周波成分データF_LF(kx,ky)に逆フーリエ変換を施すことにより、位相補正処理系306で位相補正処理を行う際の位相マップとなるf_LF(kx,ky)が得られる。
次いで、高域通過型フィルタの振幅伝達特性H(kx,ky)と高周波成分用データ(F_HFpre(kx,ky))804を式(16)のように掛け合わせることにより、高周波成分データF_HF(kx,ky)を得る。
第2実施形態においても低周波成分データF_LF(kx,ky)と高周波成分データF_HF(kx,ky)とは、第1実施形態の式(7)と同様の関係式が成り立つ。具体的には、低周波成分データと高周波成分データとが、重なりあわず、かつ、推定データとも重なりあうことなく分離されている。直交座標系では分岐条件が複雑になるため、極座標系で関係式を表すと式(17)のように示される。
式(17)が成り立つことにより、低周波成分データと高周波成分データとが重なりあわず、かつ、後の処理で求められる推定データが加算されたときに強調/抑制される成分(周波数成分)が生じないように分離されている関係にあるため、合成処理系308では、逆フーリエ変換後のデータを画像空間(逆フーリエ変換後のデータ空間)において加算するだけの簡単な処理で位相補正された画像を得ることができる。
2次元フーリエ変換処理系705、位相補正処理系706、複素共役処理系707、合成処理系708の動作は、上述した通りである。すなわち、2次元フーリエ変換処理後の高周波成分データf_HF(x,y)から低周波成分データf_LF(x,y)の位相値を減算しすることにより位相補正し、得られた位相補正データf_HF'(x,y)の複素共役データCC(f_HF'(x,y))を算出する。合成処理系708は、推定データである複素共役データCC(f_HF'(x,y))と高周波成分データf_HF(x,y)と低周波成分データf_LF(x,y)とを加算処理することで再構成画像データf_composition(x,y)を得ることができる。
上述してきたように、第2実施形態では、フラクショナルエコーのデータ欠落部分が、2つのエコー信号の間に挟まれるように分散配置されているk空間データを図2(a),(b)のように取得し、欠落部分の推定データを算出して、再構成画像を得ることができる。エコー信号データの欠落部分が、図2(a),(b)と比較してk空間全体に分散しているため、第1実施形態のように欠落部分が特定の領域(たとえばky<0)にまとまっているk空間データと比較して、再構成画像のアーチファクトを抑制できる。
また、第2実施形態では、上述の式(12)を満たすようにエコー信号のk空間配置角度を設定しているため、計測される全てのBladeのエコー信号データがk空間の原点を中心として点対称にならず、推定処理により得られる推定データが、計測されたエコー信号と重ならない。これにより、推定処理後のk空間データの信号密度が推定処理前に比べて密になり、エイリアシングなどのアーチファクトの低減できる。
また、第2実施形態では、エコー信号のデータ欠落部分が2つのエコー信号の間に挟まれるように分散配置されている複雑なパターンのk空間データ(図9(a),(b))でありながら、図11のように周波数成分を区別して、k空間配置を行うことにより、逆フーリエ変換後の空間上での推定処理及び合成処理が可能となる。
また、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、逆フーリエ変換後に位相補正を行い、複素共役データを求めるため、再構成画像が複素画像である場合も精度よく推定データを得られる。また、位相補正に用いるデータは、k空間中心の複数のBladeデータが加算されて形成された領域であるためSN比が高く、精度の良い補正を行うことができる。
なお、処理量に関しては、第1実施形態と比較して、k空間データを低域成分用と高域成分用の2種類を用意する分だけ処理量は増えるが、最も処理時間を要する逆フーリエ変換処理は第1実施形態と同様であるため、処理量全体の増加率は大きくなく、実用化可能である。
(第3実施形態)
第3実施形態のMRI装置は、超短TE撮像(UTE撮像)と呼ばれているパルスシーケンスにより、エコー信号データを取得し、データ欠落部分について推定データを得て、再構成画像を生成する。装置構成については第1実施形態と同様である。
UTE撮像方法は、公知の撮像方法であり、例えば、米国特許5025216号公報、米国特許5150053号公報に開示されている。本実施形態では、図14のパルスシーケンスによってエコー信号の取得を行う。図14において、横軸は全て時間軸[s]であり、縦軸は、RFパルスについては振幅、傾斜磁場Gs、Gp、Gfについては傾斜磁場強度[T/m]であり、エコー信号(Echo)については受信エコーの電圧振幅[V]である。このパルスシーケンスは、対称関数(例えばsinc関数)をエンベロープとするRFパルスの、前半の波形のハーフRFパルス2201をスライス選択傾斜磁場Gsと同時に照射してスピンを励起し、ディフェイズ傾斜磁場を用いずに、傾斜磁場Gs、Gfの立ち上がりからエコー信号を計測する。これにより、スピン励起から極めて短時間(TE)で信号を計測できる。TEを短縮することにより、皮層骨、アキレス腱、靭帯等の横緩和時間T2の短い組織を画像化することができる。
ハーフRFパルス2201による励起で得られるエコー信号2205は、k空間のスライス軸を考えた時に、その原点に対して片側からの計測データである。エコー信号2205は、図14のように、k空間において、図7の部分502で示す区間のサンプル点数がゼロである。このため、超短TE撮像では、図14のようにハーフRFパルスとともに印加するスライス選択傾斜磁場Gsの極性を異ならせた2回の計測を行い、2回の計測で得られたエコー信号を複素加算することにより、フルRFパルスを用いた時と等価な信号を得る。本実施形態ではラディアルサンプリング法を用いるため、繰り返し2206毎に、傾斜磁場Gp2203と傾斜磁場パルス2204の傾斜磁場強度 IGp、IGfを変えることで、k空間配置角度を変更する。具体的には、第2実施形態の式(12)で決定されるBladeAngle[rad]と、第1実施形態の式(3−1)〜(3−2)に基づき傾斜磁場強度 IGp、IGfを設定することにより、図15(a)または(b)の配置のk空間データ1101、1102を得る。
本実施形態のMRI装置のディジタル信号処理装置8には、図1の構成と同様にエコー信号推定処理装置301を含んでおり、図15(a)、(b)のk空間データ1101、1102のエコー信号を取得していない領域についてのデータを推定し、画像再構成を行う。処理の動作は、第1実施形態とほぼ同様であるが、第1実施形態と異なる点は、図6のRAM22に格納された低域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部401の処理動作である。これを説明するため、第1実施形態で示した式(4−1)と式(4−3)を再掲する。
第1実施形態では、上式(4−2)のFilterpointsを図7の部分502に示す長さと定義していたが、第3実施形態では、エコー信号に部分502のサンプル点数がゼロであるため、Filterpointsの長さを任意の長さに指定して処理を実施することが可能である。例えば一例として、次式(18)のように定義する。
ここで、Δkはk空間のサンプルピッチであり、NはBlade数である。すなわち式(18)は、k空間上に配置される各Bladeデータ間のデータ点間隔がk空間のサンプルピッチ以下になる範囲をFilterpointsで指定する式である。式(18)に従って設定することにより、逆フーリエ変換後の低周波成分データf_LF(x、y)にエイリアシングを発生させず、適切な位相マップを得ることができる。
このように本実施形態では、任意にFilterpointsを定めることができるため、ラディアルサンプリング法を適用した超短TE撮像法のように、エコー信号の図7中の部分502で示す区間の点数がゼロの場合でも推定処理を行うことができる。カーテシアンサンプリング法では、図7中の502で示す区間の点数がゼロの場合には位相マップのもつ周波数帯域に偏りが生じ、適切な推定結果を得ることができないが、本実施形態のようにラディアルサンプリング法と式(10)に示すBlade配置方法を用いることで、周波数帯域に大きな偏りの生じない位相マップが得られ、推定処理を実施することが可能となる。
(第4実施形態)
上述した第1実施形態〜第3実施形態のMRI装置は、フラクショナルエコー計測時のエコー信号推定処理を行う構成であったが、本実施形態のMRI装置は、フラクショナルスキャン計測時のエコー信号推定処理を行う。本実施形態では、形成されるk空間データの中央部分に信号密度の偏りが生じないようにBlade内の一部のエコー信号を欠落させる。これにより、中央領域のデータを用いて、精度よく推定処理を行うことができる。
本実施形態では、図16(a)にk空間データ1201を示すように、ハイブリッドラディアルスキャンの各Blade内のエコー信号数を低減するフラクショナルスキャン計測を行う。図17を用いてパルスシーケンスを説明する。図17のパルスシーケンスは、グラディエントエコー法によるラディアルサンプリング法の例である。図17の横軸は全て時間軸[s]であり、縦軸は、RFパルスについては振幅、傾斜磁場パルスGs、Gp、Gfについては傾斜磁場強度[T/m]であり、エコー信号(Echo)については受信エコーの電圧振幅[V]である。図17に示すように、ハイブリッドラディアルスキャンではRFパルス2301を照射した後、Gs軸とGp軸に位相エンコーディングのための傾斜磁場2307及び2308、もしくは、傾斜磁場2309及び2310を印加する。傾斜磁場2307及び2308と、傾斜磁場2309及び2310は、それぞれ傾斜磁場強度の符号を反転させたものであり、図18に示すように各Bladeの位相エンコードパターン1301、1302内の位相エンコードを実現するために印加される。その後、位相エンコード傾斜磁場2303、周波数エンコード傾斜磁場パルス2304を印加してエコー信号2305を得る。
パルスシーケンスの各繰り返し2306及び2311毎に傾斜磁場パルス2303,2304(Gp 、Gr)の傾斜磁場強度 IGp、IGfを変えることで、k空間配置角度を変更する。具体的には、第1実施形態の式(2)に従ってBladeデータのk空間配置角度BladeAngleを設定し、式(3−1)〜(3−2)に従って傾斜磁場強度 IGp、IGfを設定することにより、図16のようにk空間データに配置されるエコー信号を取得することができる。
図16のk空間データ1201は、図18(a),(b)に示す2種類の位相エンコードパターン1301、1302をk空間配置角度ごとに交互に配置した構成となっている。図18(a),(b)中の実線矢印1303は計測するエコー信号であり、点線矢印1304は推定処理により算出するエコー信号を表す。図13の位相エンコードパターン1301は、計測するエコー信号がマイナス側の位相エンコードに偏ったパターンであり、位相エンコードパターン1302は、計測するエコー信号がプラス側の位相エンコードに偏ったパターンである。本実施形態では、位相エンコードパターン1301と1302をk空間配置角度BladeAngle毎に交互に実施して計測を行う。結果として図16(a)のk空間データ1201を実現できる。
このように、プラスおよびマイナス側にそれぞれ偏った位相エンコードパターン1301,1302をk空間配置角度ごとに交互に配置するkとにより、形成されるk空間データ1201の中央部分は、原点を取り囲むようにエコー信号が並ぶ形状になるため、信号密度の偏りが生じない。これにより、推定処理で用いる位相マップとなるk空間データの中央部分に、信号密度の偏り、すなわち歪みが生じない。
MRI装置の装置構成については第1実施形態と同様であるが、第1実施形態と異なるのは、図1のディジタル信号処理装置8の内部に、図19に示す推定エコー信号推定処理装置1401が配置されている点である。図19に示すように、エコー信号推定処理装置1401は、k空間配置処理系1402、周波数成分分離処理系1404、2次元フーリエ変換処理系1405、位相補正処理系1406、複素共役処理系1407、及び合成処理系1408を有する。
図19の各部の動作について、図20のフローを用いて説明する。k空間配置処理系1402は、A/D変換器17から受信する複素信号F(kr,θ)を、上述の式(12)及び位相エンコード・周波数エンコードに応じて直交座標系データへと変換してRAM22に配置することにより、k空間を形成する。このとき直交座標系データとして、図16(a)の全周波成分用データF_OF(kx,ky)1201と、図16(b)の高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202の2種類を作成する(ステップ71、72)。高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202は、位相エンコードパターン1301,1302において、位相エンコード量0を中心として対称な位相エンコード量のエコー信号が存在しないエコー信号(高域非対象領域のエコー信号)1305を、計測したBladeごとにエコー信号から選択することにより作成する。この処理については後で詳しく説明する。
周波数成分分離処理系1404は、RAM22に記憶された全周波成分用データF_OF(kx,ky)1201と高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202を読み出して、図16(c)の低周波成分データF_LF(kx,ky)1203と、図16(d)の高周波成分データF_HF(kx,ky)1204とを算出して2次元フーリエ変換処理系1405に出力する(ステップ73,74)。算出方法については、後で詳しく述する。同時に、周波数成分分離処理系1404は、全周波成分データF_OF(kx,ky)1201をそのまま2次元フーリエ変換処理系1405へ出力する。
2次元フーリエ変換処理系1405は、全周波成分データF_OF(kx,ky)1201と、高周波成分データF_HF(kx,ky)1204と、低周波成分データF_LF(kx,ky)1203とをそれぞれ逆フーリエ変換し、全周波成分データf_OF(x,y)と、高周波成分データf_HF(x,y)と、低周波成分データf_LF(x,y)を算出する(ステップ75,76,77)。
逆フーリエ変換後の全周波成分データf_OF(x,y)は、合成処理系1408に入力され、高周波成分データf_HF(x,y)と低周波成分データf_LF(x,y)は、位相補正処理系1406に入力される。位相補正処理系1406は、高周波成分データf_HF(x,y)から低周波成分データf_LF(x,y)の位相値を減算することにより位相補正後のデータf_HF'(x,y)を得て、複素共役処理系1407に出力する(ステップ78)。複素共役処理系1407は、f_HF'(x,y)の複素共役データCC(f_HF'(x,y))を算出し、合成処理系1408に出力する(ステップ79)。このCC(f_HF'(x,y))が推定データとなる。合成処理系1408は、入力された推定データCC(f_HF'(x,y))と全周波成分データf_OF(x,y)を加算処理することで再構成画像データf_composition(x,y)を得て、磁気ディスク18、光ディスク19、及びディスプレイ20に出力する(ステップ80)。
ここで、k空間配置処理系1402の処理動作についてさらに詳しく説明する。図21は、k空間配置処理系1402の構成図である。図21に示すように、k空間配置処理系1402は、全周波成分用データ作成処理系1501と高周波成分用データ作成処理系1502を有する。本実施形態では、k空間配置処理の段階で全周波成分と高周波成分のデータを分離するために、RAM22に2つのk空間領域1503,1504を用意して配置処理を行う。
全周波成分用データ作成処理系1501は、図18に示す各Bladeの位相エンコードパターン1301,1302で取得したフラクショナルスキャン信号全て(図18のエコー信号1305と1306)を取り出し、RAM22上のk空間領域1503に配置することにより全周波成分用データF_OF(kx,ky)1201を形成する(上述のステップ71)。
高周波成分用データ作成処理系1502は、図18に示す各Bladeの位相エンコードパターン1301,1302のエコー信号の内、高域非対称領域のエコー信号1305の信号のみを取り出し、RAM22上のk空間領域1504に配置し、高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202を形成する(上述のステップ72)。高域非対称領域は、位相エンコード量0を中心として対称な位相エンコード量のエコー信号が存在しない領域である。この高域非対称領域のエコー信号1305の複素共役を算出することにより、エコー信号1305に対して対称な未計測のエコー信号1304を推定により取得することができる。そのため、ここでは、高域非対称領域のエコー信号1305の信号のみを取り出し、高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202を形成する。
なお、エコー信号1306は、位相エンコード量0を中心として対称な位相エンコード量のエコー信号が存在する領域のエコー信号である。
このように、k空間データを2種類用意する目的は、ステップ79で得る推定データと計測データの周波数帯域を重複させないことである。推定データと計測データの周波数帯域を重複させないことにより、第1実施形態で示した式(7)において説明したように、合成処理系1408において、推定データと計測データを単純加算することが可能となる。
次に、周波数成分分離処理系1404の構成と処理動作を図22を用いてさらに詳しく説明する。周波数成分分離処理系1404は、RAM22に格納された低域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部1601、高域通過型フィルタ振幅伝達特性記憶部1602、及び乗算処理系1603を有する。低域通過型フィルタの振幅伝達特性L(kx,ky)は、例えば第1実施形態の式(4−1)〜(4−2)及び式(18)により設定する。すなわち、第4実施形態においては、Filterpoints として任意の長さを設定できる。
次式(19)により、低域通過型フィルタの振幅伝達特性L(kx,ky)と全周波成分データF_OF(kx,ky)1201とを掛け合わせ、低周波成分データF_LF(kx,ky)を得る(上述のステップ73)。低周波成分データF_LF(kx,ky)の一例を図16(c)に示す。
ここで得られた低周波成分データF_LF(kx,ky)は、ステップ76で逆フーリエ変換を施され、位相マップとなる。位相マップは、位相補正処理系1406で位相補正処理を行う際に用いられる。
一方、高域通過型フィルタの振幅伝達特性H(kx,ky)は、例えば次式(20)により設定する。
PhaseLengthは、図18におけるk空間上の位相エンコード方向の距離(Blade幅)1307である。式(20)は、後に合成される推定データと計測データの周波数帯域を重複させないことを意図している。
尚、第4実施形態に関しては、低周波成分データF_LF(kx,ky)は、図20から明らかなようにステップ80において合成処理系1408で他のデータと加算されない。このため、本実施形態では、第2実施形態の式(14)とは異なり、L(kx,ky)とH(kx,ky)で重複しない関係を成り立たせる必要は無い。すなわち、L(kx,ky)とH(kx,ky)は、個別に任意に設定できる。
次に、高域通過型フィルタの振幅伝達特性H(kx,ky)と高周波成分用データF_HFpre(kx,ky)1202を次式(21)に従って掛け合わせ、高周波成分データF_HF(kx,ky)を抜き出す(上記ステップ74)。
高周波成分データF_HF(kx,ky)の一例が、図16(d)のデータ1204である。
2次元フーリエ変換処理系1405、位相補正処理系1406、複素共役処理系1407の動作は、前述した通りである。合成処理系1408は、推定データである複素共役データCC(f_HF'(x,y))と、逆フーリエ変換後の全周波成分データf_OF(x,y)を次式(22)に従って合成する。
式(22)により算出したf_composition(x,y)が、最終的な再構成画像データとなる。図23は、式(22)を概念的に図説したものである。図23に示すように、複素共役データCC(f_HF'(x,y))と、逆フーリエ変換後の全周波成分データf_OF(x,y)とが加算されることで、元々のk空間データF(kx,ky)のデータの欠落領域が補われ、完全なk空間データが形成されることがわかる。
第4実施形態のように、ラディアルサンプリング法にフラクショナルスキャンを適用する場合であっても、逆フーリエ変換後の位相補正および複素共役処理により推定データを得ることができる。また、第4の実施形態では、フラクショナルスキャンの際にk空間データの中央部分に信号密度の偏りが生じないようにBlade内の一部のエコー信号を欠落させることにより、中央領域のデータを用いて、精度よく推定データを得ることができる。これにより、アーチファクトの少ない再構成画像を得ることができる。
第4実施形態では、図16(a)および図18(a),(b)のようにブレードごとに複数のエコー信号を取得しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ブレードごとに1本のエコー信号を取得する構成であってもよい。その場合、取得するエコー信号がk空間の原点を通らないように位相エンコード量を図18(a),(b)において設定する。
なお、本発明は、上述した第1〜第4実施形態に限定されない。例えば、フラクショナルエコー計測とフラクショナルスキャン計測を組み合わせた計測にも同様の手順でエコー信号の推定を実現することもできる。
また、上記実施形態では、式(7)や式(17)の関係を満たすようにすることにより、周波数成分の重なりを生じない推定データと取得データとを画像データとして加算することが可能であり、簡単な画像加算処理でデータを合成することができる。ただし、本発明はこの構成に限定されるものではなく、式(7)や式(17)の関係性をあえて満たさないように設定し、特定の周波数成分を強調もしくは抑制した画像として出力するように設計することもできる。
各実施形態では上記のような処理動作を行っているが、一部の処理を省略することも可能である。
また、本発明は2次元画像に限定されるものではなく、3次元画像に対しても適用可能である。また、次元ごとに異なる推定方法を実施することも可能である。