JP5557761B2 - 曲げ加工性及び耐応力緩和特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金 - Google Patents
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一方、電気電子部品の小型化に伴い、電気電子部品用銅合金板は高強度、高導電率はもちろんのこと、密着曲げあるいはノッチング後90°曲げなどに耐える優れた曲げ加工性が要求されることが多くなっている。さらに、電気電子部品の小型化に伴い、従来厳しい曲げ加工は圧延方向に直角の曲げ線で行われる(いわゆるG.W.)のが通例であったのが、圧延方向に平行の曲げ線で行われる(いわゆるB.W.)ケースも多くなっている。
従って、本発明が解決しようとする技術課題は、析出硬化によって高強度を得ることが可能であるCu−Ni−Si系銅合金において、優れた曲げ加工性及び耐応力緩和特性を兼備する電気電子部品用銅合金板を提供することである。
本発明に係わる曲げ加工性と耐応力緩和特性に優れる電気電子部品用銅合金板は、Niを1.5〜4.5mass%、Ni/Siの質量比が4.0〜5.0となるSi、及びSnを0.01〜1.3mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金板であり、圧延方向と板厚方向からなる断面において、圧延方向平行方向の平均結晶粒径が5〜20μm、最大結晶粒径が30μm以上、最小結晶粒径が5μm以下であることを特徴とする。
[Cu−Ni−Si系銅合金板の組成]
本発明に係るCu−Ni−Si系銅合金板の基本組成は、実質的に特許文献1に開示されている。Sn、Mg、Cr、Mn、Zn等の副成分、さらにB〜Pb、Be〜Au等のその他成分についても同様に開示されている。
Ni、SiはCu−Ni−Si系銅合金板においてNi2Siの析出物を生成し、合金の強度を向上させる元素である。Ni添加量は1.5〜4.5mass%、Si添加量はNi/Si質量比が4.0〜5.0となるようにNi添加量に対応した量を添加する。Ni添加量が1.5mass%より少ない場合は強度が不足する。Ni添加量が4.5mass%を超える場合は鋳造時にNi又はSiが晶出又は析出し熱間加工性が低下する。また、Ni/Si質量比が4.0未満及び5.0以上である場合、過剰となったNi又はSiが固溶することによって導電性が低下する。Ni添加量は望ましくは1.7〜3.9mass%である。
Snは組織中に固溶することによって強度特性及び耐応力緩和特性を向上させる。そのためには0.01mass%以上添加する必要がある。一方、1.3mass%を超えると導電率及び曲げ加工性が低下する。従って、Sn含有量は0.01〜1.3mass%とする。望ましくは0.01〜0.6mass%、さらに望ましくは0.01〜0.3mass%である。
Mgは組織中に固溶することによって強度特性を向上させる。そのためには0.005mass%以上の添加が必要である。一方、0.2mass%を超えると曲げ加工性及び導電率が低下する。従ってMgの含有量は0.005〜0.2mass%とする。望ましくは0.005〜0.15mass%、さらに望ましくは0.005〜0.05mass%である。
Crは熱間加工性を向上させる。そのためには0.001mass%以上の添加が必要である。一方、0.3mass%を超えると晶出物を生成して曲げ加工性が低下する。従ってCrの含有量は0.001〜0.3mass%とする。望ましくは0.001〜0.1mass%である。
・Mn
Mnは熱間加工性を向上させる。そのためには0.01mass%以上の添加が必要である。一方、0.5mass%を超えると導電率が低下する。従ってMnの含有量は0.01〜0.5mass%とする。望ましくは0.01〜0.3mass%である。
ZnはSnめっき剥離性を向上させる。そのためには0.01mass%以上の添加が必要である。一方、5mass%を超えると導電率が低下する。従ってMnの含有量は0.01〜5mass%とする。望ましくは0.01〜2mass%、さらに望ましくは0.01〜1.2mass%である。
・S
Sは他の固溶元素と化合物を形成することで曲げ加工性を低下させ、応力緩和特性も低下させる。そのためS含有量は0.005mass%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.002mass%以下とする。
B、C、P、Ca、V、Ga、Ge、Nb、Mo、Hf、Ta、Bi、Pbの各元素は、プレス打ち抜き性を向上させる作用を有する。これらの元素は0.0001mass%未満では効果が無く、0.1mass%を超えると熱間加工性が低下する。Be、Al、Ti、Fe、Co、Zr、Ag、Cd、In、Sb、Te、Auの各元素は、プレス打ち抜き性を向上させる作用を有する。また、Ni2Si析出物との共存により強度特性を向上させる。Ti、Zrについてはさらに熱間加工性を向上させる効果がある。これらの元素は0.001mass%未満では効果が無く、0.9mass%を超えると熱間及び冷間加工性が低下する。従って、上記元素を添加する場合はB、C、P、Ca、V、Ga、Ge、Nb、Mo、Hf、Ta、Bi、Pbについては各元素0.0001〜0.1mass%(2種以上添加する場合は合計で0.1mass%以下)、Be、Al、Ti、Fe、Co、Zr、Ag、Cd、In、Sb、Te、Auについては各元素0.001〜0.9mass%(2種以上添加する場合は合計で0.9mass%以下)、両方の合計で1mass%以下とする。
先に述べたとおり、端子用銅合金に要求される曲げ加工性は一般的に平均結晶粒径が小さいほど良好となる。これは、結晶粒径が大きくなるほど粒界面積が減少し、結晶粒界に固溶元素の偏析及び応力集中が生じやすくなるためである。一方、端子用銅合金に要求される耐応力緩和特性は一般的に結晶粒径が小さいほど低下する。これは結晶粒界が組織に存在する転位の消滅・移動を促進させるためと考えられている。
上記の曲げ加工性及び耐応力緩和特性を兼備させるためには、銅合金の粒界割れを抑制する微細な結晶粒を主とし、耐応力緩和特性を改善する粗大な結晶粒を部分的に存在させることが有効である。具体的には銅合金の圧延方向と板厚方向からなる断面の組織において、平均結晶粒径が5〜20μm、最大結晶粒径が30μm以上、最小結晶粒径が5μm以下とすれば良い。
また、粗大結晶粒と微細結晶粒を良好な混合状態とするために平均結晶粒径は5〜20μmとする。平均結晶粒径が高い時は曲げ加工性が低下し、低い時は応力緩和特性が低下する。好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは5〜10μmとする。
本発明組成のCu−Ni−Si系銅合金板において、従来の標準的な製造方法(例えば特許文献4参照)は、溶解・鋳造→均熱処理→熱間圧延→熱間圧延後の急冷→冷間圧延→溶体化を伴う再結晶処理→冷間圧延→析出処理である。また、溶体化を伴う再結晶処理後に析出処理→冷間圧延の順で行う工程も高強度化に有効である。さらに良好なばね性を得るために最後に低温焼鈍を実施する場合もある。
本発明に規定する結晶粒組織を有するCu−Ni−Si系銅合金板を得るために、熱間圧延と溶体化を伴う再結晶処理の間に転位を除去するための歪取り焼鈍を行い、さらに溶体化を伴う再結晶処理前の冷間加工の加工率を所定の値に制御する。つまり、溶解・鋳造→均熱処理→熱間圧延→熱間圧延後の急冷→冷間圧延→歪取り焼鈍→冷間圧延→溶体化を伴う再結晶処理→冷間圧延→析出処理である。
続いて各工程についてより詳細に説明する。
均熱処理は850℃以上で10分間以上保持する条件とし、続いて熱間圧延を行う。熱間圧延開始から700℃までの冷却速度は熱間圧延中を含めて20℃/分以上とする。700℃までの冷却速度がこれより遅いと、粗大化した析出粒子が生成して強化作用を有する微細な析出粒子の析出を阻害するためである。熱間圧延終了後は水冷などにより速やかに冷却を行い、析出粒子の発生を抑える。
・冷間圧延
熱間圧延後の冷間圧延は、最終板厚及び後の冷間加工率を勘案して適宜実施する。圧延加工率は任意である。
溶体化を伴う再結晶処理後の再結晶組織を適切な状態に制御するため歪取り焼鈍を行う。最適な歪取り焼鈍条件は銅合金中のNi、Si含有量に影響され、Ni、Si含有量が少ない場合はより低温に、Ni、Si含有量が多い場合はより高温となる。目安として歪取り焼鈍後の硬さが焼鈍前の硬さの75%以下となる条件を選択するとよい。具体的には焼鈍温度が500〜750℃、焼鈍時間が20〜20000秒の範囲で行う。焼鈍温度が低い又は焼鈍時間が短い場合、後の溶体化を伴う再結晶処理後に所望の再結晶組織を得ることができない。焼鈍温度が高い又は焼鈍時間が長い場合、消費エネルギーが過剰となり製造コストが高くなる。
溶体化を伴う再結晶処理前に銅合金板に一定の歪みを加えることで、溶体化を伴う再結晶処理後に所望の結晶組織を有する銅合金板が得られる。冷間加工率は5〜35%とする。冷間加工率が低い場合、高い場合ともに所望の再結晶組織を得ることができない。
溶体化を伴う再結晶処理の目的は、Ni−Siの時効硬化を行うためにNi及びSiを固溶させるとともに、曲げ加工性が良好となる再結晶組織を形成することである。最適な再結晶処理条件は銅合金中のNi、Si含有量に影響され、Ni、Si含有量が少ない場合はより低温に、Ni、Si含有量が多い場合はより高温となる。具体的には600〜950℃、望ましくは650〜900℃で3分以下の保持という条件から選択する。さらに具体的な熱処理条件については実施例に示す。再結晶処理条件がこれより低温又は短時間であるとNi及びSiの固溶量が少なくなり、強度特性が低下する。焼鈍条件がこれより高温又は長時間であると再結晶粒が粗大かつ均一化し、所望の再結晶組織を得ることができない。
溶体化を伴う再結晶処理後の冷間圧延を50%以下の加工率で行う。この冷間圧延の加工率が50%を超えると、特許文献1にも記載されているとおり、曲げ加工性が低下する。この冷間圧延により析出物の核生成サイトが導入される。
・析出処理
析出処理は350〜500℃で30分〜24時間の条件で行う。保持温度が350℃未満であるとNi2Siの析出が不十分となる。保持温度が500℃を超えると銅合金板の強度が低下し、必要な強度特性が得られない。また、保持時間が30分未満ではNi2Siの析出が不十分となり、24時間を超えると生産性が阻害される。
次に板の両面を1mmずつ面削した後冷間圧延を実施し、表2に示す条件で、歪取り焼鈍、冷間圧延、溶体化を伴う再結晶処理、及び最終冷間圧延を行い、板厚0.2mmの銅合金板を得た。続いて、450℃×2時間の析出処理を行った。
・引張試験
圧延方向を長手方向としたJIS5号試験片を用い、JIS Z2241に準拠した引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。本実施例では0.2%耐力が550N/mm2以上を合格とした。
圧延方向を長手とした幅10mm×長さ300mmの試験片を用い、JIS H0505に示された非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジ式電気抵抗測定装置により電気抵抗を測定し、平均断面積法により導電率を算出した。本実施例では導電率が35%IACS以上を合格とした。
・W曲げ試験
JCBA T307に示されたW曲げ試験に準拠し、L.D.(圧延方向に対して平行)およびT.D.(圧延方向に対して直角)の各方向を長手とする幅10mm×長さ30mmの試験片を用い、曲げ半径R=0.05mmとしてW曲げ試験を行った。W曲げ試験後、光学顕微鏡を用い50倍の倍率で曲げ外側の表面観察を行い、割れの有無を判定した。割れなしの場合は○(合格)、割れありの場合は×(不合格)とした。
冷間埋め込み樹脂を用いて圧延方向と板厚方向からなる断面(観察面)を得た後、2400番手の耐水研磨紙、1μmのダイヤモンドスプレーを塗布したバフにて仕上げ研磨を行った。さらにクロム酸および塩化第二鉄で結晶粒界を腐食させることによって観察試料を得た。組織観察は光学顕微鏡を用い400倍の倍率で組織写真を取得した。平均結晶粒径の測定は圧延方向に平行方向での切断法を用い、板厚中央部において切断長さの合計を1000μmに設定して測定を行った。また、同測定で切断間距離の最も長い部位を最大結晶粒径とし、切断間距離の最も短い部位を最小結晶粒径とした。
応力緩和測定は日本電子材料工業会標準規格EMAS01011に準拠した片持ち梁方式を用いた。試験片は圧延方向直角方向を長手とした幅10mm×長さ60mmの短冊状のものを用いた。試験片を用いて下記式(1)より負荷応力が0.2%耐力の80%となるようにスパン長さを設定し、試験片をジグに固定した。
d=τ×l2/(1.5×α×t)・・・(1)
ただし、d:初期たわみ変位[mm]、τ:負荷応力[N/mm2]、l:スパン長さ[mm]、α:たわみ係数[N/mm2]、t:板厚[mm]である。
試験片をジグに固定した状態でオーブンにより150℃×1000hrの加熱後、ジグから負荷応力を除荷し、除荷後のたわみ変位[mm]を測定し、下記式(2)より応力緩和率を測定した。
SRR=100×(δ/d)・・・(2)
ただし、SRR:応力緩和率[%]、δ:除荷後のたわみ変位[mm]である。
本実施例では応力緩和率15%以下を合格とした。
一方、表1〜3のNo.20〜27は組成が本発明の規定を外れる比較例である。
No.20はNi及びSi添加量が過剰な組成であり、熱間圧延時に割れが生じて試験材を作製することができなかった。
No.21はNi/Si比が高い組成であり、導電率が低い。また曲げ加工性も良好ではない。これはNi固溶量の増加によって加工硬化率が増加したためと推測される。
No.23はSnを添加していない組成であり、耐応力緩和特性が低い。
No.24はSnを過剰に添加した組成であり、導電率及び曲げ加工性が低い。
No.25はMgを過剰に添加した組成であり、導電率及び曲げ加工性が低い。
No.26はZnを過剰に添加した組成であり、導電率が低い。
No.27は成分内にSが多く存在している組成であり、曲げ加工性が低い。
No.28,29は歪取り焼鈍を行っていないため、最大結晶粒径又は最小結晶粒径が本発明の規定を満たさない。最大結晶粒径が小さいNo.28は良好な耐応力緩和特性が確保できず、最小結晶粒径が大きいNo.29は曲げ加工性が低い。
No.30〜32は最大結晶粒径が小さく、耐応力緩和特性が低い。
No.33は圧延組織が残留しており、強度特性、曲げ加工性及び耐応力緩和特性が低下している。
No.34は平均結晶粒径及び最小結晶粒径が大きく、曲げ加工性が低い。
No.35〜37は最大結晶粒径が小さく、耐応力緩和特性が低い。
図1に示すように、冷間圧延の加工率を0〜80%の範囲で変化させたとき、最大結晶粒径は、加工率が10,20,30%の実施例No.17〜19で大きく、本発明の規定を満たし、それに伴い応力緩和率が改善されている。なお、応力緩和率は値が小さいほど良好な特性である。
また、No.15,16(実施例)及びNo.31,32(比較例)も、溶体化を伴う再結晶処理前の冷間圧延の加工率以外は組成、製造工程ともに同じであるが、ここでも同様の傾向が表れている。
Claims (7)
- Niを1.5〜4.5mass%、Ni/Siの質量比が4.0〜5.0となるSi、Snを0.01〜1.3mass%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金板であり、圧延方向と板厚方向からなる断面において、圧延方向平行方向の平均結晶粒径が5〜20μm、最大結晶粒径が30μm以上、最小結晶粒径が5μm以下であることを特徴とする耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- さらにMgを0.005〜0.2mass%含むことを特徴とする請求項1に記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- さらにCrを0.001〜0.3mass%、又は/及びMnを0.01〜0.5mass%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- さらにZnを0.01〜5.0mass%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- Sの含有量が0.005mass%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- さらにB、C、P、Ca、V、Ga、Ge、Nb、Mo、Hf、Ta、Bi、Pbからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を、各元素:0.0001〜0.1mass%、2種以上の場合は合計で0.1mass%以下含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
- さらにBe、Al、Ti、Fe、Co、Zr、Ag、Cd、In、Sb、Te、Auからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を、各元素:0.001〜0.9mass%、2種以上の場合は合計で0.9mass%以下含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた電気電子部品用銅合金板。
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