燃料電池システムの運転方法の一実施形態が適用可能な燃料電池システムを図1に示す。この燃料電池システムは、アノードガスが供給側から排出側へと一方向に流通されるアノードガス非循環型システムである。
燃料電池システムは、複数の(単位)燃料電池セルFCを積層して構成された燃料電池スタックFSを備えている。また、燃料電池スタックFSには、カソードガス(酸化剤ガス[oxidant gas]:空気)供給路31及び排出路32、アノードガス(燃料ガス[fuel gas]:水素ガス)供給路33及び排出路34、並びに、冷却流体[coolant]循環路35が接続されている。
燃料電池セルFCは、図2及び図3に示されるように、フレーム1を周囲に有する膜電極構造体[membrane electrode structure]2と、フレーム1及び膜電極構造体2を挟持する二枚のセパレータ3とを備えている。
フレーム1は、樹脂成形(例えば射出成形)によって膜電極構造体2と一体化されており、本実施形態では、膜電極構造体2が中央に配された長方形状を有している。また、フレーム1の両端には、三つのマニホールド孔[manifold holes]H1〜H6がそれぞれ形成されている。マニホールド孔と膜電極構造体2との間の領域が、後述するディフューザ部[diffuser section]Dである。
膜電極構造体2は、一般に、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれ、例えば、固体高分子[solid polymer]からなる電解質層[electrolyte layer]が燃料極層[fuel electrode layer](アノード)及び空気極層[oxidant electrode layer](カソード)で挟まれた構造を有している。
各セパレータ3は、フレーム1とほぼ同等の縦横寸法を有する長方形状を有しており、フレーム1及び膜電極構造体2との間に、カソードガス流路及びアノードガス流路を形成する。セパレータ3はステンレス等の金属板をプレス成形して形成されており、膜電極構造体2に対応するその中央部分は短辺方向断面において波状に形成されている。この波形状は長辺方向にそって連続形成されており、その内面凸部が膜電極構造体2と接触し、かつ、その内面凹部がガス流路を形成する。
また、各セパレータ3の両端にも、フレーム1のマニホールド孔H1〜H6と同等のマニホールド孔H1〜H6はそれぞれ形成されている。マニホールド孔と断面波形状部との間の領域が、後述するディフューザ部Dである。
フレーム1及び膜電極構造体2と一対のセパレータ3とが重ね合わられて燃料電池セルFCが構成される。燃料電池セルFCは、図3に示されるように、その中央に膜電極構造体2の領域である発電部[power section]Gを備えている。発電部Gの両側のそれぞれには、反応ガス[reactant gas]の供給又は排出を行うマニホールド部[manifold section]M、及び、マニホールド部Mと発電部Gとの間のディフューザ部Dが設けられている。
複数の燃料電池セルFCが積層されると、マニホールド孔H1〜H6はそれぞれ積層方向に流路を形成する。図3中左側の一方のマニホールド部Mにおいては、マニホールド孔H1はカソードガス供給流路を形成し、マニホールド孔H2は冷却流体供給流路を形成し、マニホールド孔H3はアノードガス供給流路を形成する。また、図3中の右側の他方のマニホールド部Mにおいては、マニホールド孔H4はアノードガス排出流路を形成し、マニホールド孔H4は冷却流体排出流路を形成し、マニホールド孔H6はカソードガス排出流路を形成する。なお、供給流路及び排出流路の一部又は全部は、逆の位置関係で配置されても良い。
複数の上述した燃料電池セルFCは、図1に示されるように積層されて両側にエンドプレートEが取り付けられて、燃料電池スタックFSを構成する。このとき、燃料電池スタックFSでは、一方のエンドプレートEに装着された弾性体によって積層された燃料電池セルFCを積層方向に加圧することで各燃料電池セルFCに所定の接触面圧を作用させて、ガスシール性や導電性等を良好に維持する。
上述した燃料電池スタックFSを備える燃料電池システムにおいて、カソードガス供給路31上には、コンプレッサ等の空気供給器[air supply unit]36と、空気供給器36からの給気を加湿する加湿器[humidifier]37とが設けられている。また、カソードガス排出路32は、燃料電池スタックFSから排出されたカソードガス(カソードオフガス[cathode off-gas])中に含まれる水蒸気を加湿器37に供給し、加湿器37の下流で背圧調整弁[back pressure regulation valve]38を介してカソードオフガスを大気に開放する。
アノードガス供給路33は、水素タンク39から燃料電池スタックFSまで設けられており、その途中に水素調整弁40及び水素圧力センサ41が設けられている。ここでは、水素タンク39、アノードガス供給路33、水素調整弁40及び水素圧力センサ41が、燃料電池スタックFSにアノードガス(水素ガス)を供給するアノードガス供給器として機能している。また、アノードガス排出路34は、燃料電池スタックFSからバッファタンク42まで設けられている。燃料電池スタックFSから排出されたアノードガス(アノードオフガス[anode off-gas])には窒素ガスや水蒸気などの不純物ガスが含まれているので、アノードオフガスはアノードガス排出路34を通してバッファタンク42に排出される。
バッファタンク42は、その内部に貯留された水の量を検出するためのレベルセンサ43と、水を外部に排出するための排水弁[drain valve]44と、窒素ガスを大気に開放する窒素パージ弁45とを備えている。
冷却流体循環路35は、ラジエーター46で冷却される冷却流体を循環させる。冷却流体循環路35上には、循環ポンプ47と、三方弁49とが設けられている。冷却流体循環路35には、ラジエーター46をバイパスするバイパス路48が接続されており、三方弁49は、バイパス路48の上流端と循環路35との接続点に配設されている。また、燃料電池スタックFSには、その内部温度(スタック温度)を検出するためのスタック温度検出器[stack temperature detector](温度センサ[temperature sensor])50が設けられている。
さらに、燃料電池システムは、空気供給器36、水素調整弁40、排水弁44、窒素パージ弁45、循環ポンプ47、及び、三方弁49などを制御するためのコントローラ51を備えている。
コントローラ51には各種機器の制御プログラムが記憶されており、コントローラ51は、本実施形態の運転方法を実行するための起動制御部52と、システム停止時間を計測するタイマ53とを備えている。また、コントローラ51には、水素圧力センサ41、レベルセンサ43及びスタック温度検出器50からの検出信号、燃料電池スタックFSの電流値、及び、各燃料電池セルFCの電流値などが入力される。
起動制御部52には、スタック温度と不純物ガスの発生量との関係を示すデータ、及び、アノードガス用の供給圧力マップなどが記憶されている。供給圧力マップは、燃料電池スタックFSの温度や負荷に応じてアノードガスの供給圧力を適切に設定する基準マップである。
ここで、燃料電池スタックFSの運転温度(約80℃)と氷点下の環境で停止状態での長時間放置とを考慮して、燃料電池スタックFSの動作温度範囲は−20〜80℃と想定されている。窒素ガス濃度は、スタック温度に基づいて推定されることで検出可能である。また、大気温度やシステム停止時間などに基づいて、起動時のスタック温度や窒素ガス濃度を間接的に推定可能である。
コントローラ51の起動制御部52は、燃料電池スタックFSやバッファタンク42の内部の窒素ガス濃度を推定によって検出する機能を有しており、不純物ガス濃度検出部として機能する。つまり、起動制御部52は、予め記憶された各種データを利用して、窒素ガス濃度を推定して検出する。
本実施形態の燃料電池システムの運転方法では、起動制御部52の窒素ガス濃度の検出機能を用いることで、起動制御が行われる。起動制御では、アノードガスの脈動圧力ΔP及び脈動周期ΔTの少なくとも一方がスタック温度に基づいて変化される。
ここで、脈動圧力ΔPとは、脈動の上限圧力と下限圧力との差である(図9(a)参照)。したがって、脈動圧力ΔPの設定とは、上限圧力及び下限圧力を設定することでもある。また、脈動周期ΔTは、上限圧力を維持する時間(図10(a)参照)でも良いし、上限圧力及び下限圧力から成る1ピッチ分の時間でも良い。
具体的には、スタック温度検出器50によって検出されたスタック温度が所定温度Ts未満である場合には、脈動圧力ΔPを通常脈動制御よりも小さくする起動制御及び/又は脈動周期ΔTを通常脈動制御よりも長くする起動制御が行われる。
さらに、上記制御に加えて、タイマ53によって計測された停止時間が所定時間ts以上である場合には、脈動圧力ΔPを通常脈動制御よりも小さくする起動制御及び/又は脈動周期ΔTを通常脈動制御よりも長くする起動制御が行なわれる。なお、脈動圧力ΔP及び脈動周期ΔTの両方を制御することも当然可能である。
図4に示されるフローチャートを参照しつつ、本実施形態の燃料電池システムの運転方法を説明する。本実施形態は、燃料電池スタックFS内部の不純物ガス残留量が多い状態での起動時の不具合に好適に対処できる。即ち、本実施形態は、低温環境での長時間停止後の起動時における、アノードガスの供給圧力の脈動による不純物ガスの逆流に好適に対処できる。従って、本実施形態では、停止時間の判定がまず行われる。
システムが起動されると、タイマ53で計測された停止時間が所定時間以上であるか否かが判定される(ステップS1)。ここで、所定時間は、起動制御部52に記憶されている上述のデータに基づいて設定される。
停止時間が所定時間未満である場合(ステップS1でNo)には、燃料電池スタックFS内の不純物ガス残留量は少ないとみなして、アノードガスの供給圧力を脈動させる通常脈動制御が行われる(ステップS5)。燃料電池スタックFSにアノードガスが供給され、燃料電池スタックFS内の不純物ガス(窒素ガス)がバッファタンク42に排出される。起動時の燃料電池スタックFS内の窒素ガス残留量が少ないので、バッファタンク42に排出される窒素ガス量も少なく、通常脈動制御が行われてもバッファタンク42から燃料電池スタックFSへの逆流は生じない。
一方、停止時間が所定時間以上である場合(ステップS1でYes)には、燃料電池スタックFS内の窒素ガス残留量は多いとみなして、上述したアノードガスの脈動圧力ΔPや脈動周期ΔTを変化させる起動制御が行われる。
なお、図5に示されるように、燃料電池スタックFS(アノード流路)内の窒素ガス濃度は、システム停止後徐々に増加するが、システム停止後所定時間tsまでは窒素ガス濃度は低い。したがって、システムが所定時間ts内に再起動された場合は、通常脈動制御を行っても窒素ガス残留量は少なく、発電に影響を与えない。このため、上述したようにステップS1おいて停止時間を判定している。ここで、アノード流路とは、燃料電池セルFC、燃料電池スタックFS及び配管系を含む全てのアノード側のガス流通域を意味する。
ステップS1が肯定された場合、バッファタンク42からの窒素ガスの逆流を抑制するための起動制御を行うべく、アノードガスの脈動圧力ΔPや脈動周期ΔTが設定される(ステップS2)。具体的には、図6に示されるスタック温度とアノードガス供給圧力との関係を示すマップから、スタック温度に応じて脈動上限圧力及び脈動下限圧力の値が取得される。この際、燃料電池スタックFSの負荷(電流値)に応じて取得された脈動上限圧力及び脈動下限圧力の値を補正する必要があり、図7に示されるマップから求められる圧力補正係数を用いて補正される。また、図8に示されるマップから脈動周期ΔTが求められる。このように、燃料電池スタックFSの温度に応じてアノードガスの脈動圧力ΔPや脈動周期ΔTを設定する理由は次の通りである。
バッファタンク42内の窒素ガス濃度が高い状態での起動では、アノードガスの脈動とパージとを行いながら発電を継続することで、バッファタンク42内の窒素ガス濃度が低下すると共に発電によって燃料電池スタックFSの温度が上昇する。従って、起動時を想定した場合、バッファタンク42内の窒素ガス濃度を燃料電池スタックFSの温度で代用することができる。燃料電池スタックFSの温度が高くなるほどバッファタンク42内の窒素ガス濃度は薄くなるので、窒素ガスの逆流が生じにくくなり、脈動圧力ΔPを起動初期よりも大きくできる。
また、燃料電池スタックFSの温度が高くなればカソード側からの窒素ガスの透過量が大きくなる。このため、起動初期の小さな脈動圧力ΔPのままではカソード側から透過する窒素ガス(カソードオフガス)をバッファタンク42内に十分に排出させることができない。この場合、発電領域の水素分圧を確保できない可能性がある。そこで、燃料電池スタックFSの温度を窒素ガス濃度(透過度)の代用値とし、燃料電池スタックFSの温度が高いほど脈動圧力ΔPを大きく設定する。このようにすれば、カソード側から透過する窒素ガス(カソードオフガス)量が増加しても発電領域の水素分圧を確保できる。
このように、図6及び図7のマップから、燃料電池スタックFSの温度に応じて、バッファタンク42内の窒素ガス濃度とカソード側からの窒素ガスの透過量とを考慮した最適な脈動圧力ΔPを設定できる。
より具体的には、脈動圧力ΔPは、図9(a)に示されるように、通常脈動制御時よりも小さくなるように設定される。脈動周期ΔTは、図10(a)に示されるように、通常脈動制御時よりも長くなるように設定される。ステップS2の後、設定された脈動圧力ΔP及び/又は脈動周期ΔTに基づいて起動制御が実行される(ステップS3)。
起動制御の間、スタック温度検出器50で検出されたスタック温度が所定温度Ts以上であるか否かが判定される(ステップS4)。スタック温度が所定温度Ts以上である場合(ステップS4でYes)には、燃料電池スタックFS(燃料電池セルFC)内の窒素ガス濃度が十分に低下したとみなして、通常脈動制御に移行する(ステップS5)。
一方、スタック温度が所定温度Ts未満である場合(ステップS4でNo)には、窒素ガスの透過量が少なく、かつ、バッファタンク42内の窒素ガス濃度がまだ十分に低下していないとみなして、引き続き脈動圧力ΔP及び/又は脈動周期ΔTを用いた起動制御が継続される(ステップS3)。このようにして、アノードガスの脈動条件を補正するために、スタック温度に応じて起動制御か通常脈動制御かを切り替えて、アノードガスの脈動条件を起動時に適した条件に補正している。
図9(a)に示されるように脈動圧力ΔPを小さくして燃料電池システムを起動すると、図9(b)に示されるように燃料電池スタックFSの発電によりスタック温度が上昇し、図9(c)に示されるようにバッファタンク42内の窒素ガス濃度が減少する。バッファタンク42内の窒素ガス濃度減少は、供給されたアノードガスによって燃料電池スタックFS内の窒素ガスがバッファタンク42に排出され、さらに、アノードオフガスによってバッファタンク42内の窒素ガスが窒素パージ弁45を通して外部に排出されるためである。
また、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は、図9(d)に示されるように、起動直後のアノードガス供給圧力の増加に伴って急速に減少した後、起動制御中の小さな脈動圧力ΔPの圧力脈動によってごく少量の窒素ガスがバッファタンク42から逆流して微小変動する。しかし、脈動圧力ΔPが小さいので逆流量はごく少なく、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は低く維持され、窒素ガス濃度が発電に影響を及ぼすことはない。そして、通常脈動制御移行後は大きな脈動圧力ΔPによる十分な排出によって燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度はほぼゼロとなる。なお、通常脈動制御に移行したときには、バッファタンク42内の窒素ガス濃度は低く、脈動圧力ΔPを大きくしてもバッファタンク42から窒素ガスは逆流しない。
図10(a)に示されるように脈動周期ΔTを長くして燃料電池システムを起動すると、図10(b)に示されるように燃料電池スタックFSの発電によりスタック温度が上昇し、図10(c)に示されるようにバッファタンク42内の窒素ガス濃度が減少する(理由は上述した)。また、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は、図10(d)にされるように、起動直後のアノードガス供給圧力の増加に伴って急速に減少した後、起動制御中の長い脈動周期ΔTの圧力脈動によってごく少量の窒素ガスがバッファタンク42から逆流して長周期変動する。しかし、脈動周期ΔTが長いので逆流量はごく少く(逆流頻度が少なく)、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は低く維持され、窒素ガス濃度が発電に影響を及ぼすことはない。そして、通常脈動制御移行後は短い脈動周期ΔTによる十分な排出によって燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度はほぼゼロとなる。なお、通常脈動制御に移行したときには、バッファタンク42内の窒素ガス濃度は低く、脈動周期ΔTを短くしてもバッファタンク42から窒素ガスは逆流しない。
本実施形態の燃料電池システムの運転方法では、バッファタンク42内の不純物ガス(主に窒素ガス)の濃度を検出して、アノードガスの脈動圧力ΔP及び/又は脈動周期ΔTを通常脈動制御とは異ならせた起動制御が行われる。従って、長時間停止後の起動時において、バッファタンク42からの不純物ガスの逆流量を低減して、燃料電池スタックFS内の水素ガス濃度を充分に確保しつつ不純物ガスを除去できる。また、上述した不純物ガス濃度の検出方法によれば、最小限のセンサ類による制御が可能であり、システムの簡略化等も可能となる。
なお、多数の燃料電池セルFCで構成された燃料電池スタックFSの内部に不純物ガスが多く残留する環境では、各燃料電池セルFCのアノード側で凝縮した残留水量に差が生じる。このような状況でアノードガス供給圧力の脈動によって不純物ガスの逆流が生じると、残留水量が多い燃料電池セルFCではアノードガス出口側での水素分圧不足がより顕著になる。
本実施形態の燃料電池システムの運転方法では、各燃料電池セルFCの残留水量に差が生じていても、バッファタンク42からの不純物ガスの逆流量が少ないので、各燃料電池セルFCにおける水素分圧不足が解消され、燃料電池セルFCの電圧低下や劣化を防止できる。
また、スタック温度に基づいてアノードガス供給圧力を制御することで、起動時の燃料電池スタックFSの状況に応じて、より高精度な制御を行うことができる。さらに、システムの停止時間に基づいてアノードガス供給圧力を制御することでも、起動時の燃料電池スタックFSの状況に応じて、より高精度な制御を行うことができる。
なお、本実施形態では、起動制御中にスタック温度が所定温度Ts以上になったところ(ステップS4でYes)で、通常脈動制御に移行する(ステップS5)。しかし、起動から所定時間の経過後に、起動制御から通常脈動制御に移行するようにしても良い。
また、スタック温度検出器50によって検出されたスタック温度の上昇に伴って、脈動圧力ΔPを徐々に大きくする起動制御及び脈動周期ΔTを徐々に短くする起動制御の少なくとも一方を行うこともできる。なお、脈動圧力ΔP及び脈動周期ΔTの両方を制御することも当然可能である。
具体的には、図11(a)に示されるように、スタック温度上昇に伴って起動制御中の脈動圧力ΔPが次第に増大される。図11(b)に示されるようにスタック温度は燃料電池スタックFSの発電により上昇し、図11(c)に示されるようにバッファタンク42内の窒素ガス濃度が減少する(理由は上述した)。
また、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は、図11(d)に示されるように、起動直後のアノードガス供給圧力の増加に伴って急速に減少した後、起動直後は小さな脈動圧力ΔPの圧力脈動によってごく少量の窒素ガスがバッファタンク42から逆流して微小変動する。しかし、脈動圧力ΔPが小さいので逆流量はごく少なく、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は低く維持され、窒素ガス濃度が発電に影響を及ぼすことはない。その後、バッファタンク42内の窒素ガス濃度の低下に合わせて、脈動圧力ΔPが徐々に大きくされる。しかし、脈動圧力ΔPの増大によってバッファタンク42からのガス逆流量が増えたとしても、バッファタンク42内の窒素ガス濃度が低下しているので窒素ガスの逆流量は増えない。従って、より早期に、脈動による不純物の燃料電池セルFC内へ蓄積解消効果が十分に発揮される。
図12(a)に示されるように、スタック温度上昇に伴って起動制御中の脈動周期ΔTが次第に短くされる。これにより、図12(b)に示されるように燃料電池スタックFSの発電によりスタック温度が上昇し、図12(c)に示されるようにバッファタンク42内の窒素ガス濃度が減少する(理由は上述した)。
また、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は、図12(d)に示されるように、起動直後のアノードガス供給圧力の増加に伴って急速に減少した後、起動直後は長い脈動周期ΔTの圧力脈動によってごく少量の窒素ガスがバッファタンク42から逆流して長周期変動する。しかし、脈動周期ΔTが長いので逆流量はごく少なく(逆流頻度が少なく)、燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度は低く維持され、窒素ガス濃度が発電に影響を及ぼすことはない。その後、バッファタンク42内の窒素ガス濃度の低下に合わせて、脈動周期ΔTが徐々に短くされる(逆流頻度が増える)。しかし、脈動周期ΔTの短縮(逆流頻度が増加)によってバッファタンク42からのガス逆流量が増えたとしても、バッファタンク42内の窒素ガス濃度が低下しているので窒素ガスの逆流量は増えない。従って、より早期に、脈動による不純物の燃料電池セルFC内へ蓄積解消効果が十分に発揮される。
なお、図9に示される脈動圧力制御は、図10又は図12の脈動圧力制御と同時に行うことが可能である。同様に、図11に示される脈動圧力制御も、図10又は図12の脈動圧力制御と同時に行うことが可能である。
また、上述した燃料電池システムでは、燃料電池スタックFSのアノード流路に生成水が発生した場合、アノードガスの脈動圧力ΔPや脈動周期ΔTを一定に維持する通常脈動制御を行うことができる。生成水の発生は、生成水検出機能(生成水検出器)を用いて推定される。
この場合、生成水は発電に伴って増加し、また、燃料電池セルFCあたりの発生生成水量も予め分かっている。このため、燃料電池スタックFSや配管系を含むアノード流路全体での生成水量を推定することができる。コントローラ51の起動制御部52は、アノード流路での生成水の発生を推定によって検出する生成水推定器として機能する。
具体的には、図13(d)に示されるようにアノード流路での生成水発生が検出される。上述した起動制御(図9〜図12に示される制御、及び、それらの組み合わせ制御)が行なわれてから、通常脈動制御に移行する。そして、通常脈動制御では、生成水の発生が検出された場合、脈動圧力ΔP及び/又は脈動周期ΔTが一定に維持される。
このとき、図13(b)に示されるように燃料電池スタックFSの発電によりスタック温度が上昇し、図13(c)に示されるように発電に伴って燃料電池セルFC内の生成水量が増加するが、通常脈動制御によって生成水が燃料電池スタックFSから排出される。
上述した実施形態によれば、長時間停止後の起動時に、バッファタンク42からの不純物ガスの逆流を防止して、燃料電池スタックFS内の水素ガス濃度を充分に確保しつつ不純物ガスを除去することができる。
燃料電池システムの運転方法は上記実施形態に限定されない。例えば、起動制御部52の不純物ガス濃度推定機能に代えて、図1中に点線で示されるように、バッファタンク42内の窒素ガス濃度を検出する窒素ガス検出器54を設けてもよい。窒素ガス検出器54として、窒素ガスセンサが用いられる。この場合、起動制御部52によって推定された不純物ガス濃度に代えて、窒素ガス検出器54によって検出された窒素ガス濃度が制御に用いられる。
また、図1中に点線で示すように、燃料電池スタックFSのアノード側の窒素ガス濃度を検出する窒素ガス検出器55を設けてもよい。窒素ガス検出器55として、窒素ガスセンサが用いられる。この場合、推定された窒素ガス濃度ではなく、窒素ガス検出器55によって検出された窒素ガス濃度が制御に用いられる。
窒素ガス検出器54や窒素ガス検出器55によってバッファタンク42内や燃料電池スタックFS内の窒素ガス濃度を実測するので、起動時の燃料電池システムの状況に対応した高精度な制御を行うことができる。
なお、アノードガスの濃度は、『水素濃度≒100−窒素濃度−水蒸気濃度』である。水蒸気濃度は、燃料電池の運転状態からある程度推定することができる。つまり、窒素濃度が分かれば水素濃度が分かるので、水素濃度センサを使用して窒素ガス濃度を推定することも可能である。したがって、窒素ガス検出器54や窒素ガス検出器55に代えて、水素ガス検出器を用いることもできる。
日本国特許出願第2010−202267号(2010年9月9日出願)の全ての内容は、ここに参照されることで本明細書に援用される。本発明の実施形態を参照することで上述のように本発明が説明されたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、請求の範囲に照らして決定される。