JP5524992B2 - フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 - Google Patents

フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 Download PDF

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Description

本発明は、フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材に関し、特に、腐食性の強いハロゲンガスやハロゲンが存在する環境下においてプラズマエッチング加工が施される半導体加工装置用部材などの表面に、炭化物サーメットのアンダーコート層を介して耐食性や耐プラズマエッチング特性に優れたフッ化物溶射皮膜を形成する方法と、この方法の実施によって得られるフッ化物溶射皮膜被覆部材について提案する。
上記の半導体加工装置類に多く採用されている耐食性表面処理皮膜の代表的適用例が溶射皮膜被覆部材である。この部材が、ハロゲンやハロゲン化合物が存在する環境下でプラズマ処理されたり、プラズマ処理によって発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要となる半導体加工装置の分野において使用される場合、さらに、以下のような表面処理の検討が必要であり、そのための従来技術についても幾つかの提案がある。
即ち、半導体加工プロセスや液晶製造プロセスに使用されるドライエッチヤー、CVD、PVDなどの装置類は、シリコンやガラスなどの基板に形成する回路の高集積化に伴う微細加工の精度を向上させる必要性から、加工環境については一段と高い清浄性が求められている。その一方で、微細加工用の各種プロセスにおいては、フッ化物、塩化物をはじめとする腐食性の強いガスあるいは水溶液が用いられるため、これらのプロセス装置に配設されている部材類の腐食損耗が速く、その結果として、腐食生成物による二次的な環境汚染も無視できない状況になっている。
半導体ディバイスの製造・加工工程は、SiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものを用いて、真空中もしくは減圧環境の中で処理されるいわゆるドライプロセスに属している。このようなドライプロセスで用いられる装置・部材としては、酸化炉、CVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品がある。しかも、これらの装置類は、BF、PF、PF、NF、WF、HFなどのフッ化物、BCl、PCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、TiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、CHFなど腐食性の強い薬剤およびガスを用いることで知られている。
また、ハロゲン化物を用いる前記ドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度を向上させるため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境中では、各種のハロゲン化物は、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮するが、その一方で、プラズマ処理(特に、プラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削り取られた微細なSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルが処理環境中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着してその品質を著しく低下させるという問題があった。
これらの問題に対する対策の一つとして、従来、半導体製造・加工装置用部材の表面をアルミニウム陽極酸化物(アルマイト)によって表面処理する方法がある。その他、Al、Al・Ti、Yなどの酸化物をはじめ、周期律表IIIa族金属の酸化物を溶射法や蒸着法(CVD法、PVD法)などによって、該部材の表面を被覆したり、また、これらを焼結体として利用する技術がある(特許文献1〜5)。
さらに最近では、Y、Y−A1溶射皮膜の表面をレーザービームや電子ビームを照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も出現している(特許文献6〜9)。
また、高性能半導体加工分野では、その加工環境の清浄化を図る手段として、Y溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性能を凌駕する材料として、YF(フッ化イットリウム)を成膜状態で使用する方法の提案がある。例えば、YAGなどの焼結体をはじめ周期律表IIIa族元素の酸化物の表面に、YF膜を被覆したり(特許文献10〜11)、YやYb、YFなどの混合物を成膜材料とする方法(特許文献12〜13)、あるいはYFそのものを成膜材料として溶射法によって被覆形成する方法(特許文献14〜15)などの提案がそれである。
特開平6−36583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2007−107100号公報 特開2005−256093号公報 特開2005−256098号公報 特開2006−118053号公報 特開2007−217779号公報 特開2002−293630号公報 特開2002−252209号公報 特開2008−98660号公報 特開2005−243988号公報 特開2004−197181号公報 特開2002―037683号公報 特開2007−115973号公報 特開2007−138288号公報 特開2007−308794号公報
フッ化物溶射皮膜というのは、耐ハロゲン性には優れているものの、基材との密着性が悪いという欠点がある。即ち、発明者らの経験によると、基材表面に被覆されたフッ化物溶射皮膜は、延性に乏しいうえ、表面エネルギーが小さいため、クラックが発生したり、局部的に剥離するという現象がよく見られる。しかし、上掲のいずれの文献にも、この欠点を克服するための対策について言及したものは見当らない。その原因としては、フッ化物(YF、AlFなど)は、溶射加工技術の基盤となる日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)による溶射材料に適合するものとしては考えられていなかったことから、フッ化物溶射皮膜用の作業標準方法は規定されておらず、もっぱら、金属(合金)やセラミック、サーメット材料などの作業と同じ規準に従って溶射施工されてきたことが考えられる。
一般に、溶射作業では、この作業の前にまず基材表面を粗面化することが一般的である。前記日本工業規格(JIS)には、成膜材料種ごとに、下記のようなブラスト粗面化処理方法が規定されている。
(1)金属皮膜系:JIS H8300「亜鉛、アルミニウムおよびそれらの合金溶射−溶射作業標準」には、鉄鋼基材を対象とし、まず酸化物(スケール)除去用としてJIS Z0312に規定されている高炉スラグ、製鋼スラグなどによって酸化物を除去した後、さらにその除去面に対して、JIS Z0311に規定する鋳鋼製グリットまたはJIS Z0312に規定する溶融アルミナ(Al)グリットを使って、粗面化の処理を行なうこととしている。
(2)セラミック皮膜:JIS H9302「セラミック溶射作業標準」では、前記酸化物除去用ブラスト処理を行なった後、その表面に対して、JIS R6111の人造研削材(Al、SiC)によって粗面化処理を行なうこととしている。
(3)サーメット皮膜系:JIS H8306「サーメット溶射」では、JIS G5903に準拠して製造された鋳鉄グリッド、若しくはJIS R6111に準拠して製造された人造研削材を用いて粗面化することが規定されている。
このように、溶射の分野では、基材表面へのブラスト粗面化処理に使用するブラストおよび粗面化状態については、成膜材料ごとに厳格に規定されているのである。
一方で、フッ化物溶射皮膜に関する前記各特許文献に記載されている基材粗面化処理については、条件および粗面化の程度については全く言及されていないか、また、開示されていたとしてもブラスト材のみであって、フッ化物溶射皮膜の密着性を向上させる意図のものではない(特許文献14、16)。特許文献17、18では、コランダム(Al)による粗面化のみが開示されている。要するに、これらの特許文献をはじめ、フッ化物溶射皮膜に関する既知の文献類は、皮膜の密着性向上対策としての粗面化処理およびアンダーコート層の形成については言及しておらず、表面粗さについての開示もない。
さらに、これらの特許文献には、基材の表面にフッ化物溶射皮膜を直接、形成するプロセスを採用しており、フッ化物溶射皮膜の施工に先立ってアンダーコート層を施工する例がないことも含めて、フッ化物溶射皮膜の密着性についての工夫がないことが、実用環境下において皮膜の剥離が頻発する原因であると考えられる。
そこで、本発明の目的は、基材の表面に炭化物サーメットのアンダーコート層を介してフッ化物の溶射皮膜を強固に密着させてなるフッ化物溶射皮膜被覆部材を提供すること、及びその皮膜を強固に密着させるための皮膜形成方法とを提案することにある。
本発明は、従来技術が抱えている上述した課題を克服することができると同時に前記目的を確実に実現するための方法について鋭意研究した。その結果、次のような視点に立った新しい溶射皮膜の形成方法の採用が有利であることを知見し、本発明に想到した。
(1)フッ化物溶射皮膜の密着性を向上させるためには、基材(被処理体)の表面に対し、新しい発想に基づく粗面化(皮膜密着性を向上させる構造)技術を確立すること、特に炭化物サーメットのアンダーコート層を形成することによって、炭化物の主成分の炭素(C)との相性の良いフッ素含有トップコート、即ち、フッ化物溶射皮膜を形成していくことが有利である。
(2)基材の表面に炭化物サーメットのアンダーコート層を形成する場合、該基材表面上にまず炭化物サーメット粒子の一部を突き刺して疎らに林立させた状態(植毛構造)になるようにした上で吹き付けを重ねて順次に成膜して、その後、形成されたそのアンダーコート層の上にフッ化物の溶射皮膜を形成することが有利である。なお、このアンダーコート層は、一部の粒子が基材中に埋没した状態とすることによって、全体として“炭化物サーメット粒子の植毛構造部を含む基材との密着性の高いアンダーコート層とすることが好ましい。
(3)フッ化物溶射皮膜の溶射に先立って、基材を80℃〜700℃の温度に予熱することが有利である。
(4)基材の表面は、アンダーコート層の形成に先立ってJIS H9302に規定されているセラミック溶射皮膜作業標準に準拠した、A1やSiCなどの粒子を用いた粗面化処理を行なうことが有利である。
上述した視点に立って開発した本発明は、表面粗さをRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmに調整した基材表面に、炭化物サーメット粒子を溶射ガンにて飛行速度150〜600m/sの速度で吹き付けることにより、炭化物サーメット粒子の一部を基材中に埋没させると共に該粒子の他の一部を疎らかつその先端部が該基材表面に喰い込んだ状態に植設して得られる植毛構造とすることによって、基材に圧縮残留応力を発生させかつ剛体化した炭化物サーメットのアンダーコート層を形成し、その後、該アンダーコート層の上にフッ化物粒子を溶射することにより、成膜することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法である。
また、本発明は、表面粗さをRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmに調整した基材と、その基材表面に被覆形成された炭化物サーメットのアンダーコートと、さらにその上に形成されトップコートとしてのフッ化物溶射皮膜とからなり、その炭化物サーメットのアンダーコート層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40mass%のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属・合金とからなる粒径5〜80μmの炭化物サーメット粒子を、溶射ガンを使って飛行速度150〜600m/sの速度で吹き付けることにより、炭化物サーメット粒子の一部を前記基材中に埋没させると共に、他の一部を疎らかつその先端部が該基材表面に喰い込んだ状態である植毛構造とすることによって、基材に圧縮残留応力を発生させかつ剛体化した層であることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材を提案する。
なお、本発明において、
(1)基材表面に形成される炭化物サーメットのアンダーコート層は、基材表面側において、炭化物サーメット粒子の一部は基材中に埋没し、他の一部は疎らに突き刺さって林立した状態である植毛構造を経由して肥厚化した層であること、
(2)炭化物サーメットの前記アンダーコート層は、10μm〜150μmの層厚を有すること、
(3)炭化物サーメットのアンダーコート層は、高速フレーム溶射法または低温溶射法のいずれかの溶射法を適用して施工すること、
(4)フッ化物粒子の溶射に先立ち、基材を80〜700℃に予熱すること、
(5)前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素鋼、ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体、プラスチックのいずれかを用いること、
(6)前記フッ化物溶射皮膜は、周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族Y、原子番号57〜71のランタノイド系金属であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのフッ化物から選ばれる1種以上の、粒径が5μm〜80μmのフッ化物粒子を溶射し、20μm〜500μmの膜厚に成膜されたものであること、
が、より有利な解決手段となる。
前記のような構成を有する本発明によれば、つぎのような効果が期待できる。
(1)基材の表面に、硬質の炭化物サーメット粒子を高速度で吹き付けると、初期の部分は炭化物サーメット粒子の一部が基材中に埋没すると同時に基材表面に突き刺さった状態で林立した状態となる部分が生じるが次第に肥厚化してアンダーコート層が得られる。このようなアンダーコート層の上にフッ化物粒子を溶射すると、該炭化物サーメットアンダーコート層にフッ化物粒子が高い密着力をもって被着する。
(2)特に、フッ化物は、金属(アルミニウム、チタン、鋼鉄など)とは化学的に濡れ難く接合性に乏しいが、炭化物(主成分は炭素)サーメットとは、化学的親和力が大きく、炭化物サーメット粒子の堆積層を主成分とするアンダーコートの表面では、物理的作用に化学的親和力が重畳して密着性のよいフッ化物溶射皮膜が形成される。
(3)前記炭化物サーメットアンダーコート層は粒子の一部が基材表面に突き刺さったり埋没した状態となってから成膜されているから、このような基材では強い圧縮の残留応力を発生しているので、基材が変形や歪に対して強い抵抗力を発揮するので、使用環境中におけるフッ化物皮膜を被覆した部材の機械的な負荷や振動などが原因するフッ化物溶射皮膜の剥離が抑制される効果がある。
(4)このような炭化物サーメットアンダーコート層がもつ作用効果に加え、基材全体を予熱した状態でフッ化物溶射皮膜を形成することによって、各皮膜が互いに強い密着力を有する部材が得られる。
(5)即ち、本発明方法の適用によって形成されたフッ化物溶射皮膜被覆部材は、基材とフッ化物溶射皮膜とが高い密着力を有することから、該フッ化物溶射皮膜本体の優れた耐食性(耐ハロゲンガス性)、耐ハロゲンガスプラズマエロージョン性を発揮し、半導体加工用部材などに適用した場合に長期間にわたる使用に耐えられるものを得ることができる。
(6)基材表面に高速フレーム溶射法などによって、WC−Ni−Cr、Cr−Ni−Crなどの硬質の炭化物サーメット粒子を強く吹き付けて粒子の一部を基材中に埋没させ、他の一部を疎らに林立させてなる植毛構造プロセスを経由してアンダーコート層が形成されているので、アンダーコートは基材と高度に結合すると共に、フッ化物溶射皮膜とも一段と強い密着力を有するものになる。
(7)なお、フッ化物はそもそも、表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力や基材との密着性が低く、しばしば剥離するという性質がある。この点、本発明によれば、フッ化物と炭化物サーメット(主成分は炭素)とは、相性がよく互いの化学的親和力が強くかつよく濡れ合う特性があるため、前記炭化物サーメットのアンダーコート層を介してフッ化物粒子の物理的付着機構だけでなく、その化学的親和力を利用して皮膜密着力の向上を図ることができる。
(8)さらに、前記の成膜プロセスによって基材表面に形成された炭化物サーメットのアンダーコートは、緻密(気孔率0.1〜0.6%)であるうえ、硬質の炭化物サーメット(WC−12mass%CoのHv=1000〜1250)が剛体としての挙動を示すため、基材の歪、変形を強く抑制する作用がある。このため、基材の変形や振動によって剥離しやすいフッ化物溶射皮膜の剥離現象を基材の機械的性質の改善によって防止する特徴も発揮する効果がある。
(9)以上の結果、本発明に係る技術によって形成されたフッ化物溶射皮膜は、実用環境において、繰り返される急激な温度変化による熱衝撃をはじめ、微振動、曲げ応力の付加などの物理的条件の変動にもよく耐え、長期間にわたってフッ化物溶射皮膜本来の優れた化学的性質をも発揮させることができる。
本発明方法を実施するための工程の流れを示した図である。 高速フレーム溶射法によって、WC−12mass%Coサーメット粒子を疎らな状態に吹き付けた基材表面の初層(植毛構造部)と、同部分の断面SEM像を示したものである。(a)は、前記炭化物サーメット粒子を疎らに吹き付けた表面、(b)は、同上の拡大写真、(c)は、炭化物サーメット粒子を吹き付けたアンダーコート層に成長する前の状態の基材の断面
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、この工程順に従って本発明を説明する。
(1)基材
本発明で使用することができる基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などである。その他、酸化物や窒化物、炭化物、珪化物などのセラミック焼結体、焼結炭素材料あるいはプラスチックなどの有機高分子材料であってもよい。
(2)前処理
基材表面は、JIS H9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して前処理することが好ましい。例えば、基材表面の錆や油脂類などを除去した後、Al、SiCなどの研削粒子を吹き付けて脱スケール等を行なうと同時に、好ましくは粗面化する。なお、粗面化後の粗さは、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μm程度にする。
(3)炭化物サーメットによるアンダーコート層の形成
好ましくは粗面化処理した後の基材表面に、高速フレーム溶射法または低温溶射法によって、粒径5〜80μmの炭化物サーメット粒子溶射ガンを使って吹き付け、少なくともその一部粒子の先端が基材表面に喰い込んで埋没したような状態(植毛構造)にすると共に、他の一部については基材表面に付着・堆積した状態し、これを次第に成長させることで、該炭化物サーメットのアンダーコート層を形成する。このようなアンダーコート層は、炭化物サーメット粒子を、150〜600m/Sの飛行速度で基材表面に衝突させることによって可能となる。粒子の飛行速度が150μm未満では粒子の基材表面への突き刺さりの程度が弱くなる。一方、600m/S超では効果が飽和する。
図2は、本発明の炭化物サーメットのアンダーコート層を施工する際の初期段階、即ち、炭化物サーメット粒子(WC−12mass%Co)を高速フレーム溶射法によって吹き付けた直後(初層)の基材(SUS310)表面(外観)とその部分の断面の形態を示したものである。
図2(a)は、吹き付けられた直後のWC−Coサーメット粒子の一部が基材表面に、それぞれ減り込むように付着している一方、他のWC−Coサーメット粒子は基材への衝突エネルギーによって、一部が破砕された状態で分散して付着している。また、図2(b)は、基材表層部に吹き付けられたWC−Coサーメット粒子の分布状況を断面状態で観察したものである。この写真から明らかなように、WC−Coサーメット粒子は、基材表面に打ち込まれて小さな杭が疎らに林立した状態の植毛構造を呈していると共に、他の一部は、単に付着するか埋没した状態となり、更に溶射を続けて膜厚:10〜150μmのアンダーコート層が形成される。
この点、Ni−Cr、Ni−Alなどの金属質のアンダーコート層では金属粒子が溶射熱源中で溶融状態となるため、基材中に埋没する図2に示すような粒子は認められない。これに対し、本発明に従って、炭化物サーメット粒子を吹き付けると、該炭化物アンダーコート層/基材との密着性が高まると同時に、アンダーコート層/トップコートであるフッ化物溶射皮膜とが、密着性のよいアンダーコート層の存在に併せて、炭素とフッ化物の化学的親和力との両方の作用によって、該フッ化物溶射皮膜の密着性をも向上させるのである。
このように、基材表面に突き刺さって埋没された状態にある一部の炭化物サーメット粒子は、基材と強固に結合すると共に該基材表面に大きな圧縮歪を与え、該基材の機械的な変形に対して、大きな抵抗力を確保するだけでなく、炭化物サーメットアンダーコート層と基材との密着力を向上させ、さらにその上に被覆されるフッ化物溶射皮膜との密着力をも向上させる。
なお、かかる炭化物サーメットのアンダーコート層は、軟質で使用環境中の負荷で変形や歪を受け易いAlおよびその合金、Tiおよびその合金、軟鋼、各種ステンレス鋼をどの基材に対して、特に有効であり、基材質の種類に関係なく、常に安定した高い密着力を有するフッ化物溶射皮膜の形成を保障するものである。
即ち、本発明によれば、フッ化物の皮膜はもともと延性に乏しく、表面エネルギーが小さくて金属系の基材に接合しにくく、僅かな基材の変形や歪の発生によっても容易に皮膜剥離が起こるところ、炭化物サーメット粒子によるアンダーコート層のうちの下層部分が基材表面の変形を抑制すると共に、該アンダーコート層を構成している炭化物サーメット粒子の突き刺さり効果とによって、安定した密着性の高いアンダーコート層が存在することになり、トップコートのフッ化物溶射皮膜が受ける外部応力や歪の抑制に対して極めて効果的に作用するようになる。
基材の表面に形成される前記炭化物サーメットのアンダーコート層の膜厚は10〜150μm程度とすることが好ましい。この炭化物サーメットのアンダーコート層の表面もまたRa:0.5〜1.5μm、Rz:0.7〜3.0μm程度の粗面を形成するものが多いので、フッ化物溶射皮膜と良好な接合を果す。なお、アンダーコート層の形成は、ブラスト粗面化処理前の基材に対しても施工することができる。
前記炭化物サーメット材料としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから選ばれる炭化物を用いることができ、また、この炭化物に添加する金属・合金成分としては、Co、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる耐食性、耐熱性に優れるものを質量で5〜40%の割合で、サーメット化した粉末を用いることができる。また、前記炭化物と金属成分の添加、混合の方法としては、両成分をビニールなどの粘結剤で造粒したり、造粒後、高温で加熱焼結したものでもよい。使用に際しては、サーメット粒子の大きさを粒径で5〜80μmに調整したものを用いることが好ましい。
その理由は、この炭化物サーメットの粒径が5μmより小さいと、溶射ガンへの粒子の搬送が困難になる他、基材表面に衝突した際に、さらに小さな粒子に粉砕されて、前述した植毛構造の作用効果を消失する傾向がある。一方、この炭化物サーメット粒子が80μmより大きくなっても、その効果に向上が飽和するからである。
炭化物サーメット粒子に占める金属成分の量が、5mass%未満では、炭化物粒子の相互結合力が弱く、皮膜形成時のおける結合力の低下を招いて、アンダーコート層としての機能が十分でないからである。また、金属成分が40mass%超含むサーメット粒子では、皮膜全体としての硬さが低下するとともに、フッ化物溶射皮膜との結合力が低下する。
前記基材の表面に炭化物サーメットを吹き付けて、アンダーコート層を形成するための溶射法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、低温溶射法(例えば、特開2002−309364号公報)などの方法を採用することがよく、特に、高速フレーム溶射法のように、炭化物サーメット粒子の加熱とともに粒子の飛行速度を高めて、大きな運動エネルギーを付加できる溶射法が好適である。
次に、本発明の方法に係る炭化物サーメット粒子の吹き付けによる基材表面における凹凸形状の付与、および炭化物サーメットアンダーコート層へのフッ化物溶射皮膜の密着性向上機構について説明する。
一般に、溶射法によって形成される金属質や酸化物(セラミック)などの皮膜の基材への密着機構は、投錨効果(anchoring effect)によるものとされている。即ち、溶射粒子によって加熱、溶融されたり、軟化した溶射粒子が基材表面に吹き付けられた際、「溶射粒子が基材の粗面に機械的にかみ合うことによって、皮膜と基材との密着度を向上する働き」によるとされている(JIS H8200 溶射用語)。このように溶射粒子は、たとえ溶融状態のままで基材表面に衝突しても、溶融粒子が小さく、熱容量も少ないため瞬時に固化し、亜鉛、アルミニウムのような合金化しやすい金属でも基材と合金をつくらず、衝突時の変形と冷却時における収縮作用時に発生する応力によって、基材表面と機械的に接合するものである。
しかし、フッ化物の場合、金属やセラミックに比較すると、表面エネルギーが非常に小さいため、基材との濡れ性は殆ど期待できないだけでなく、溶射熱源中では分解したり、酸化反応によるF成分の離脱現象などが発生するなど、物性も明らかでない溶射材料である。このため従来の合金、セラミックおよびサーメット溶射皮膜の形成方法として規格化されている基材のブラスト粗面化処理を適用しても、高い密着性を確保することはできない。
そこで、本発明では、フッ化物の主成分としてのフッ素(F)と化学反応性の大きな炭素(C)を主成分とする炭化物を選んで、両成分の化学的濡れ性を利用すると共に、一方で炭化物サーメットアンダーコート層の表面が、ブラスト粗面化面以上に粗いという特性を活用し、さらにその粗面を構成する凸部が硬く、強固な炭化物粒子から構成されているため、溶射粒子が大きな運動エネルギーで衝突しても粗面状態を変化させることなくフッ化物粒子を拘束できる強度をも利用するものである。
(3)基材の予熱
炭化物サーメットのアンダーコート層を形成してなる基材については、フッ化物の溶射に先立って、予熱を行うことが好ましい。予熱温度は、基材質によって管理するのがよく、下記の温度が推奨できる。
a.Al、Tiおよびそれらの合金:80℃〜250℃
b.鋼鉄(低合金鋼):80℃〜250℃
c.各種ステンレス鋼:80℃〜250℃
d.酸化物・炭化物などの焼結体:120℃〜500℃
e.焼結炭素:200℃〜700℃
前記予熱は、大気中、真空中、不活性ガス中、いずれも適用できるが、基材質が予熱によって酸化され、表面に酸化膜が生成するような雰囲気は避ける必要がある。
(5)フッ化物溶射皮膜(トップコート)の形成
a.フッ化物溶射材料
本発明において用いられるフッ化物溶射材料としては、元素の周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族のY、原子番号57〜71に属するランタノイド系金属のフッ化物である。原子番号57〜71の金属元素名は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の15種である。
そして、溶射材料としては、前記金属フッ化物粒子を5〜80μmの粒径に調整したものを使用する。それは、溶射材料が5μm以下の細粒では、基材表面に衝突した際、成膜するより飛散するものが多くなる欠点があり、また80μmより大きい粒子では、溶射ガンへの送給速度を均一化しにくくなる一方、成膜された溶射皮膜の気孔が大きくなる傾向が顕著となるからである。
前記粗面化処理後の、もしくは炭化物サーメットのアンダーコート層の形成、さらには予熱後の基材表面に形成されるフッ化物粒子による溶射皮膜は、30〜500μmの厚さにするのがよく、特に、80〜200μmの範囲が好適である。それは、30μmより薄い膜では、均等な膜厚が得られず、また、500μmより厚く形成することも可能であるが、厚く成膜するほどフッ化物溶射皮膜の形成時における残留応力が大きくなって、基材との密着力の低下を招いて剥離しやすくなるからである。
(b)成膜方法
フッ化物溶射皮膜の形成方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法および低温溶射法などが好適に用いられる。
(c)フッ化物溶射皮膜の特徴
フッ化物自体の物理化学的性質としては、次の点を指摘することができる。即ち、フッ化物の膜は、金属皮膜やセラミック皮膜と比較して、ハロゲン系ガスに対する化学的安定性を有するものの、表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力及び基材の密着強さが弱い点が挙げられる。また、成膜時に大きな残留応力を発生しやすいため、基材が成膜後の僅かな変形によって、容易に皮膜の剥離が起こることが多い。加えて、フッ化物は延性に乏しい性質を示すために皮膜が容易に“ひび割れ”し、前記成膜時に発生する気孔部とともに、酸やアルカリ洗浄液などの内部浸入によって、基材の腐食原因となるなど、フッ化物そのものの耐食性は良好であっても、その性質を防食膜としては利用できないという問題点もある。
この点、上述した本発明を適用すれば、溶射皮膜自体を構成している粒子どうしの相互結合力が向上し、特に、基材表面に炭化物サーメットのアンダーコート層を設けているので、皮膜の密着性がより一層向上して、フッ化物が抱えている上述した問題点を解消することができる。即ち、皮膜の剥離やひび割れの防止、それに伴う洗浄液の侵入を阻止して基材の腐食を防ぐという効果が発生するのである。
なお、本発明に適合して形成されたフッ化物溶射皮膜は、成膜状態のままでも使用できるが、成膜後、必要に応じて250℃〜500℃の熱処理を行って、残留応力を開放したり、アモルファス状のものを結晶化(斜方晶系)することも容易であるので、本発明では、これらの処理の実施について、特に制限するものではない。この熱処理の温度を上記の範囲に限定する理由は、250℃以下では皮膜の残留応力の解放に長時間を要するだけでなく結晶化も不十分で、500℃以上の高温ではフッ化物溶射皮膜の物理化学的性質の変化を助長させる可能性があるからである。
(実施例1)
この実施例では、フッ化物溶射皮膜の密着性に及ぼす基材表面の前処理の影響について評価した。
(1)前処理の種類
基材としてAl3003合金(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の片面に、次のような前処理を行なった。
(i)脱脂した後、ワイヤーブラシで軽く研磨する。
(ii)脱脂後、Ni−20mass%Crを大気プラズマ溶射法によって、50μmの厚さに形成(金属アンダーコート層)
(iii)脱脂後、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって疎らな状態で吹き付け(プライマー)
(iv)脱脂後、Cr−18mass%Ni−7mass%Crを高速フレーム溶射法によって30μmの厚さに形成(炭化物サーメットのアンダーコート層)
(v)脱脂後、Al研削材を用いて、ブラスト粗面化処理を実施
(vi)同上のブラスト粗面化処理後、大気プラズマ溶射法によって、Ni−20mass%Cr膜を50μmの厚さに形成(金属アンダーコート層)
(vii)同上のブラスト粗面化処理後、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって疎らな状態に吹き付け(プライマー)
(viii)同上のブラスト粗面化処理後、Cr−18mass%Ni−7mass%Crを高速フレーム溶射法によって30μmの厚さに形成(炭化物サーメットのアンダーコート層)
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
前記前処理後の基材表面に対して、大気プラズマ溶射法によって、YFを100μmの厚さに形成した。
(3)皮膜の密着性試験方法
皮膜の密着性は、JIS H8666セラミック溶射試験方法に規定されている密着強さ試験方法によって測定した。
(4)試験結果
試験結果を表1に示した。この結果から明らかなように、基材表面を脱脂のみの処理後、フッ化物溶射皮膜を形成した試験片(No.1)では、密着力が殆どなく、0.5〜1.2MPaで皮膜が剥離した。また、金属アンダーコート層の上に形成した皮膜(No.2)は、4〜5MPa程度の密着力を示したものの、基材表面をブラスト粗面化処理をしていないため、金属アンダーコート層と基材との境界から剥離する試験片も見られた。これに対し、炭化物サーメット粒子を吹き付けてプライマー処理したもの(No.3)、アンダーコート化した皮膜(No.4)では、高い密着力を発揮し、ブラスト粗面化処理を省略しても、実用化に必要な密着力が得られることが確認された。
次いで、基材表面をブラスト粗面化処理した面に形成した皮膜(No.5)は、4〜6MPaの密着力を示し、No.1の皮膜に比較して高い接合力を有しており、フッ化物溶射皮膜の形成には、ブラスト粗面化処理が必須の工程であることが判断できる。
ブラスト粗面化処理後、さらにその上に炭化物サーメット粒子を吹き付けたてプライマー処理したもの(No.7)、アンダーコート層を形成した後、フッ化物溶射皮膜を形成(Mo.8)したものの密着力は、一段と高くなっており、フッ化物溶射皮膜を形成するための前処理法として適していることが確認された。
(実施例2)
この実施例では、基材をSS400鋼とし、YF皮膜を減圧プラズマ溶射法によって、100μmの厚さに形成した際の皮膜の密着性を調査した。
(1)前処理の種類
実施例1と同じ種類の前処理法を実施した。
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
YFをArガス100〜200hPaの減圧環境でプラズマ溶射法(減圧プラスマ溶射法)によって、100μmの厚さに形成した。
(3)皮膜の密着性試験方法
実施例1と同じ方法で実施した。
(4)試験結果
試験結果を表2に示した。この結果から明らかなように、基材表面に直接皮膜を形成した場合(No.1)に比較して、ブラスト処理後の形成皮膜の密着力は高くなっており、実施例1のAl合金基材より良好な密着力を得ることができる。しかし、SS400鋼基材であっても、炭化物サーメット粒子を吹き付けてプライマー処理したもの(No.3、7)、アンダーコート層を形成したもの(No.4、8)では、さらに高い密着力を発揮している。即ち、炭化物サーメットによってアンダーコートを施工する前処理法は、基材の種類に影響されることなく、常に高い密着力を有する皮膜の形成が可能であることがうかがえる。
(実施例3)
この実施例では、基材としてSS400鋼を用い、高速フレーム溶射法によって形成したYF皮膜の密着性を調査した。
(1)前処理の種類
実施例1と同じ種類の前処理法を実施した。
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
YFを高速フレーム溶射法によって100μmの厚さに形成した。
(3)皮膜の密着性試験方法
実施例1と同じ方法で実施した。
(4)試験結果
試験結果を表3に示した。この結果から明らかなように、実施例1および2の結果と同じように、本発明に係る炭化物サーメットのアンダーコート層を形成したもの(No.4、8)では、基材のブラスト粗面化の有無に依存することなく、常に高い密着力を有するフッ化物溶射皮膜の形成が可能であることが確認された。
(実施例4)
この実施例では、基材としてSUS304鋼とし、大気プラズマ溶射法によって形成した3種類のフッ化物溶射皮膜の密着性を調査した。
(1)前処理の種類
基材をSiC研削材でブラスト粗面化した後、その粗面化面に(i)WC−12mass%Co−5mass%Crを吹き付け処理、(ii)Cr−17mass%Ni−7mass%Crを80μmの厚さに形成したものを準備した。
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
大気プラズマ溶射法によって、CeF、DyF、EuFをそれぞれ120μmの厚さに施工。
(3)皮膜の密着性試験方法
実施例1と同じ方法で実施した。
(4)試験結果
試験結果を表4に示した。この結果から明らかなように、CeF、DyF、EuFのようなフッ化物溶射皮膜に対しても、炭化物サーメットのアンダーコート層を形成した皮膜は、密着性の向上に効果のあることが確認された。
本発明に係る技術は、高度な耐ハロゲン腐食性と耐プラズマエロージョン性が要求されている半導体の精密加工装置用部材の表面処理に適用することができる。例えば、ハロゲンおよびその化合物を含む処理ガスを用いて、プラズマ処理される装置に配設されているデポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレ一夕リング、シールドリング、ベローズカバー、電極などに加え、類似のガス雰囲気の化学プラント装置部材などの耐食性皮膜として利用できる。また、本発明に係る基材の炭化物サーメットアンダーコート層の形成技術は、金属(合金)皮膜、酸化物系セラミック、プラスチックなどのトップコート用処理技術としても応用が可能である。

Claims (11)

  1. 表面粗さをRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmに調整した基材表面に、炭化物サーメット粒子を溶射ガンにて飛行速度150〜600m/sの速度で吹き付けることにより、炭化物サーメット粒子の一部を基材中に埋没させると共に該粒子の他の一部を疎らかつその先端部が該基材表面に喰い込んだ状態に植設して得られる植毛構造とすることによって、基材に圧縮残留応力を発生させかつ剛体化した炭化物サーメットのアンダーコート層を形成し、その後、該アンダーコート層の上にフッ化物粒子を溶射することにより、成膜することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  2. 基材表面に形成される炭化物サーメットのアンダーコート層は、基材表面側において、炭化物サーメット粒子の一部は基材中に埋没し、他の一部は疎らに突き刺さって林立した状態である植毛構造肥厚化しかつ剛体化した層であることを特徴とする請求項1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  3. 炭化物サーメットの前記アンダーコート層は、10μm〜150μmの層厚を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  4. 炭化物サーメットのアンダーコート層は、高速フレーム溶射法または低温溶射法のいずれかの溶射法を適用して施工することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  5. フッ化物粒子の溶射に先立ち、基材を80〜700℃に予熱することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  6. 前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素鋼、ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体、プラスチックのいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  7. 前記フッ化物溶射皮膜は、周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族Y、原子番号57〜71のランタノイド系金属であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのフッ化物から選ばれる1種以上の、粒径が5μm〜80μmのフッ化物粒子を溶射し、20μm〜500μmの膜厚に成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  8. 表面粗さをRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmに調整した基材と、その基材表面に被覆形成された炭化物サーメットのアンダーコートと、さらにその上に形成されトップコートとしてのフッ化物溶射皮膜とからなり、その炭化物サーメットのアンダーコート層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、WおよびSiから選ばれる1種以上の金属炭化物と、質量で5〜40mass%のCo、Ni、Cr、AlおよびMoから選ばれる1種以上の金属・合金とからなる粒径5〜80μmの炭化物サーメット粒子を、溶射ガンを使って飛行速度150〜600m/sの速度で吹き付けることにより、炭化物サーメット粒子の一部を前記基材中に埋没させると共に、他の一部を疎らかつその先端部が該基材表面に喰い込んだ状態である植毛構造とすることによって、基材に圧縮残留応力を発生させかつ剛体化した層であることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  9. 基材表面に形成される炭化物サーメットのアンダーコート層は、基材表面側において、炭化物サーメット粒子の一部は基材中に埋没し、他の一部は疎らに突き刺さって林立した状態である植毛構造肥厚化することによって、基材に圧縮残留応力を発生させ、かつ剛体化した層であることを特徴とする請求項8に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  10. 前記基材は、Al、SiCなどの研削材を吹き付ける粗面化処理によって、表面粗さをRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmに調整したAlおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素鋼、ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体、プラスチックのいずれかを用いることを特徴とする請求項8または9に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  11. 基材の表面に形成される炭化物サーメットのアンダーコート層は、10〜150μmの厚さを有し、その上に形成されたトップコートのフッ化物溶射皮膜は30〜500μmの厚さを有することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
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