以下、本発明のエンジン始動装置およびエンジン始動方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下では、本発明によるエンジン始動装置を三気筒エンジンに適用した場合を例に説明する。
実施の形態1.
1.用語の説明
まず始めに、本発明で用いられる用語について説明する。
係るエンジン始動装置における「エンジン」とは、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなど、気筒内の燃焼室で燃料を爆発・燃焼させ、その力でピストンなどを作動させるものである。一般的に、自動車等のエンジンでは、このピストンの往復運動を、クランク軸等を介して回転運動に変換する構成を有している。なお、本発明に係るエンジン始動装置を、このようなエンジンに対して使用する場合、燃料の種類、気筒の数量、または容積、サイクル数等は、無論限定されない。
係るエンジン始動装置における「スタータ」とは、エンジンのリングギヤと噛合うピニオンギヤを有し、始動時にのみピニオンギヤを移動させエンジンリングギヤとピニオンギヤとを噛合わせてモータの回転力をエンジンに伝達し、エンジンが始動したらピニオンギヤとエンジンリングギヤとの噛合いを解除する構成を有する。
エンジンを始動させる際には、例えば、このスタータをバッテリーの電力等によって駆動し、ピニオンギヤをエンジンリングギヤに噛合わせ、モータを駆動して、その回転力をピニオンギヤからエンジンのリングギヤを介してエンジンのクランク軸に伝達し、エンジンを機械的に始動回転させる。
この回転中に、エンジン制御装置において、クランク信号ならびにカム信号からクランク位置および気筒を判別して、エンジンは燃料の吸入、圧縮、爆発、排気の工程が開始され、以降、エンジンは、スタータ装置を必要とせずに、自発的にこれら工程を繰り返しながら、停止命令が発生するまで回転を続ける。
さらに、係るエンジン始動装置において、「エンジンが逆回転している場合」とは、エンジンが、本発明に係るスタータによって得られる回転方向(正回転)とは異なる向きに回転している場合を指す。通常、エンジンが自発的な回転を行っている場合には、このような逆回転は発生しないが、エンジン停止過程、特にエンジンを停止した直後には、物理的にエンジンは両方向に回転可能であるから、このような逆回転が発生する。
2.本実施の形態に係るエンジン始動装置の全体構成
図1は、本発明の実施の形態1におけるエンジン始動装置の概略構成を示すブロック図である。また、図2は、本発明の実施の形態1におけるエンジン始動装置の構成要素であるスタータの断面図である。
本実施の形態に係るエンジン始動装置20は、エンジン制御手段10(ECU10)、カム信号発生手段11、リングギヤ12、クランク信号発生手段13、電磁スイッチ14、プランジャ15、ワンウェイクラッチ16、ピニオンギヤ17、およびモータ18を備えて構成されている。
エンジン制御手段10は、電磁スイッチ14への通電を制御する。電磁スイッチ14のコイル14aへの通電により、プランジャ15が吸引され、プランジャ15に係合されたレバー19を介してピニオンギヤ17を移動させ、ピニオンギヤ17をリングギヤ12と噛み合わせる。
また、プランジャ15の移動により電磁スイッチ14の内部に構成された接点14bが閉じ、モータ18へと通電され、ピニオンギヤ17を回転させ、モータ18の駆動力をエンジンに伝達する。ワンウェイクラッチ16は、出力軸9に連結され、リングギヤ12からトルクが入力された場合には空転する。
3.クランク信号の検出について
図3は、本発明の実施の形態1におけるクランク角検出装置の模式図であり、カム信号発生手段11と、クランク信号発生手段13の具体的な構成を示している。内燃機関(図示せず)は、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸(図示せず)、燃焼室に設けられた吸気弁(図示せず)、ならびに排気弁(図示せず)を開閉するカムが設けられたカム軸(図示せず)、クランク軸の回転をカム軸に伝達する伝達手段(図示せず)、燃料を供給するインジェクタ(図示せず)、および点火プラグ等(図示せず)から構成される。なお、カム軸は、クランク軸の角速度の1/2角速度で伝達手段にて減速され、クランク軸と同期して回転する。
そして、本実施の形態1における内燃機関は、吸気行程→圧縮行程→爆発行程→排気行程の順で、各行程を繰り返す4サイクル方式である。また、各気筒は、クランク軸の回転角に換算して、240度間隔で等間隔に爆発する。
クランク信号発生手段13は、クランク軸(図示せず)と同一の角速度で同期して回転する歯車状の回転体23、および回転体23の外周部に形成された多数個の歯部23Aを検出して矩形波等の信号を出力するピックアップ24等から構成されている。
図4は、本発明の実施の形態1におけるクランク信号およびカム信号のタイミングを示すチャートである。ピックアップ24は、ピックアップ24に歯部23Aが最も近接した時にON信号を出力し、歯部23Aがピックアップ24から離れた時にOFF信号を出力することにより矩形波状の信号(パルス列信号に相当)を出力し、この信号は、エンジン制御手段10に入力される。
また、回転体23の外周部には、ほぼ全域にわたって等間隔で歯部23Aが設けられているが、一部に歯部が設けられていない欠け歯部23B、23C(以降、クランク信号の欠け歯部をクランクの基準位置と称する)が設けられている。本実施の形態1では、回転体23の外周部を36等分して、32個の歯部23Aと1歯分の欠け歯部23Bを2カ所と、2歯分の欠け歯部23Cを1カ所とを設けている。
このため、等間隔で歯部23Aが設けられた領域においては、ON信号またはOFF信号が所定の回転角毎(本実施の形態1では、10度毎の角度となる。以降、この角度を基準ステップ角と称す)に出力されるのに対して、欠け歯部23B、23Cでは、ON信号またはOFF信号が出力される時間が基準ステップ角の2倍あるいは3倍分相当の時間となる。なお、エンジンの停止過程の逆転は、各気筒の圧縮上死点前のクランク位置で発生する。このため、上死点前のクランク信号の欠け歯位置は、欠け歯間の歯数と同じ位置でないように配設され、さらに、エンジンの逆転が発生する位置をクランク信号の基準ステップ角を発生する欠け歯間の位置(上死点に欠け歯が来ないよう配設している)で必ず起こるようにしている。
また、回転体23が回転する間の欠け歯間で出力されるON信号またはOFF信号の個数は、既知である。従って、エンジン制御手段10は、信号がOFF信号からON信号に変化した時またはON信号からOFF信号に変化した時点で計数するとともに、その計数を実行したタイミングで、回転体23の回転方向を考慮して、基準ステップ角を積算する処理を行うことで、クランク軸の位置を検出することができる。
より具体的には、計数した時に回転体23(クランク軸)が正転していると判断されている場合には、現在のクランク位置に基準ステップ角を加算する。一方、回転体23(クランク軸)が逆転していると判断されている場合には、現在のクランク位置から基準ステップ角を減算する。このような処理により、エンジン制御手段10は、クランク軸の位置を検出することができる。
また、エンジン制御手段10は、クランク信号のタイミングの時間間隔(パルス列間隔に相当)からクランク信号の周期(欠け歯部23B、23Cにより特定されるクランク軸の位置の周期に相当)を演算できるので、エンジンの回転数についても判断することが可能である。
なお、エンジン制御手段10は、クランク信号の周期の変化率に基づいて、クランク信号間のエンジン回転数を演算することにより、より精度よくエンジン回転数を得ることも可能である。
さらに、エンジン制御手段10は、クランク信号の時間間隔からエンジン回転数を演算する場合と、クランク信号の周期の変化率に基づいてクランク信号間のエンジン回転数を演算する場合とを、クランクの位置により切り替えることで、エンジン回転数を求めてもよい。このようにすると、エンジン回転数の変曲点付近の回転数の演算誤差を減少させることが可能となる。
4.クランク信号基準位置検出処理について
次に、クランク信号基準位置検出処理について、図面を用いて説明する。図5は、本発明の実施の形態1におけるクランク軸回転信号(欠け歯を含む)に関係する信号列を拡大した図であり、この信号列は、エンジン制御手段10がクランク基準位置を検出するために、クランク信号発生手段13から取り込む信号間隔に相当する。
記号t1、t2、t3、t4は、クランク信号がON信号からOFF信号に変化した時刻を示しており、記号T1、T2、T3は、クランク信号がON信号からOFF信号に変化したエッジ間の時間間隔を示している。
エンジン制御手段10は、クランク信号が、ON信号からOFF信号に変化した時刻t1、t2、t3、t4より、クランク信号がON信号からOFF信号に変化したエッジ間の時間間隔T1、T2、T3を、下式(1)、(2)、(3)にて算出する。
T1=t1−t2 (1)
T2=t2−t3 (2)
T3=t3−t4 (3)
次に、クランク信号が、ON信号からOFF信号に変化したエッジ間の時間間隔T1、T2、T3から、下式(4)により、クランク信号の3区間の周期比Kを求める。
K=(T2/T1+T2/T3)/2 (4)
エンジン制御手段10は、上式(4)から演算される周期比Kを、所定値(jgV1、jgV2)と比較することにより、クランク信号の基準位置としての欠け歯の種別を判断する。例えば、一定回転でクランク軸が回転している場合、1歯欠けの23Bのカ所では、T1、T3が「1」、T2が「2」となるので、K=2となる。また、2歯欠けの23Cのカ所では、T1、T3が「1」、T2が「3」となるので、K=3となる。
そして、所定値を(jgV1=1.5、jgV2=2.5)とすると、エンジン制御手段10は、Kの値により、jgV1≦K<jgV2であれば1歯欠けの基準位置信号、jgV2≦Kであれば2歯欠けの基準位置信号と特定でき、これ以外の場合は、通常のクランク信号であると判断できることとなる。
5.気筒判別について
本実施の形態1の内燃機関において、燃料を噴射するタイミングは、圧縮行程から爆発行程に移る時のピストン上死点を基準に決定される。4サイクル方式の内燃機関では、吸気行程→圧縮行程→爆発行程→排気行程の順で、各行程がクランク位置の角度に換算して180度単位で繰り返される。従って、クランク位置のみでは、各気筒のピストンが圧縮行程時であるのか排気行程時であるのかが判別できない。
そこで、エンジン制御手段10は、気筒判別用として、カム信号発生手段11からの信号を利用する。図3に示したように、このカム信号発生手段11は、カム軸と同一の角速度でカム軸の回転と同期して回転する歯車状の第2の回転体21、第2の回転体21の外周部に形成された複数の歯部21A、21B、および複数の歯部21A、21Bを検出して矩形波状の信号を出力するピックアップ22備えて構成されている。
そして、エンジン制御手段10は、クランク信号発生手段13から出力される信号とともに、カム信号発生手段11から出力される信号を読み込んで解析することより、いずれの気筒が圧縮行程時であるのかを判別する。具体的な判別方法を、図4のタイミングチャートを用いて説明する。
エンジン制御手段10は、クランク信号基準位置である1歯欠け、1歯欠けの区間で、カム信号を2回検出した場合には、1歯欠けのクランク位置が1番気筒のATDC(上死点後)165度と特定できる。また、エンジン制御手段10は、この欠け歯間でカム信号が検出されなかった場合には、1歯欠けのクランク位置が1番気筒のATDC(上死点後)525度と特定できる。
また、エンジン制御手段10は、クランク信号基準位置である1歯欠け、2歯欠け間の区間で、カム信号が検出されない場合には、2歯欠けの位置が1番気筒のATDC(上死点後)285度と特定できる。また、エンジン制御手段10は、この欠け歯区間でカム信号が1回検出された場合には、2歯欠けの位置が1番気筒のATDC(上死点後)645度と特定できる。
また、エンジン制御手段10は、クランク信号基準位置である2歯欠け、1歯欠けの区間で、カム信号が1回検出された場合には、1歯欠けの位置が1番気筒のATDC(上死点後)405度と特定できる。さらに、エンジン制御手段10は、この欠け歯区間でカム信号が検出されなかった場合には、1歯欠けの位置が1番気筒のATDC(上死点後)45度と特定できる。
以上のように、エンジン制御手段10は、クランク信号とカム信号からエンジンの気筒を判別するとともに、クランク位置を把握し、この情報を基に燃料を供給し、燃料に点火して燃焼させエンジンを適正に運転する。
6.回転方向判別処理(エンジン制御手段10において、クランク信号基準位置検出処理による検出結果を用いて正転および逆転の判断を行う方法)
<正転および逆転の判断制御の概要>
クランク信号発生手段13からは、前述したように、ピックアップ24に最も歯部23Aが近接したときにON信号が出力され、歯部23Aがピックアップ24から離間したときにOFF信号が出力される。従って、その出力信号は、先の図4に示すように、矩形波状の信号となる。
そこで、本実施の形態1におけるエンジン制御手段10は、クランク信号がON信号からOFF信号に変化した回数を計数するとともに、隣接する3つの信号列の周期比Kを逐次算出することで、クランクの基準位置か否かを判断する。
ここで、アイドルストップ時のエンジン停止過程の状態から逆転をどのように判定するかについて、図面を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態1において、エンジンが停止し逆転をきたしている部分を含む各信号のタイムチャートである。なお、この時点では、エンジンが始動しており、気筒判別ならびにクランク位置は、すでにエンジン制御手段10で判定されている状態である。
通常、エンジンが正転時には、回転体23に配置されている欠け歯23B、23C間の歯部23Aの歯数は、既知である。従って、図6中に示すように、基準位置検出[1]と基準位置検出[2]の間のクランク信号の計数が、回転体23の欠け歯23B、23C間の歯部23Aの数(10歯)に一致している。また、基準位置検出[2]と基準位置検出[3]の間のクランク信号の計数が、回転体23の欠け歯23C、23B間の歯部23Aの数(11歯)に一致している。
そして、次第にエンジン回転が低下していくと、クランク角信号の周期が間延びしていき、エンジン制御手段10のクランク信号基準位置検出処理によって、図6中の「基準位置と判断された位置A」に示すように、基準位置と判断される信号が発生する。この位置での基準信号間のクランク信号の計数値(7歯)が、回転体23に設けられた歯部23Aの歯数とは異なっているので、エンジン制御手段10は、エンジンが逆転していると判断することが可能となる。
次に、エンジン制御手段10は、「基準位置と判定された位置B」を検出する。そして、エンジン制御手段10は、基準位置検出[3]から「基準位置と判断された位置A」までのクランク信号の計数値と、「基準位置と判断された位置A」から「基準位置と判断された位置B」までの計数値を比較することで、基準位置検出[3]の欠け歯がきたことが判明するので、まだエンジンは逆転中であると判断できる。
さらに時間が経過すると、エンジン制御手段10は、次には、「基準位置と判断された位置C」を検出する。そして、エンジン制御手段10は、基準位置検出[3]に相当する「基準位置と判断された位置B」から「基準位置と判断された位置C」までの計数値と、回転体23の欠け歯間の歯部の数とを比較することで、この「基準位置と判断された位置C」の検出時点で、正転に戻ったことを判断できる。
このように、エンジン制御手段10は、クランク信号の信号列から逐次算出した周期比Kの値から、クランク信号の基準位置に相当する位置を判断し、判断した基準位置間の計数値から、エンジンが正転しているか逆転しているかを判断することができる。
そこで、次に、正転/逆転が絡む場合における、エンジン制御手段10によるクランク位置の基準ステップ角の積算方法について、図7〜図10を用いて説明する。図7は、本発明の実施の形態1において、2つの歯部23A間でエンジンの逆転が発生した状態を表す図である。また、図8は、本発明の実施の形態1における図7の状態での、クランク信号、周期比K、およびクランク位置を時間軸で表したグラフである。
図8において、基準位置検出[1]と基準位置検出[2]間のクランク信号数(クランク信号の計数値)は、回転体に配設されている歯部23Aの数と同じ(図8の場合は「11」)であるので、エンジン制御手段10は、逆転が発生したとは判断しない。そして、次第にエンジン回転が低下していくことで、エンジン制御手段10は、周期比Kの算出結果から、「基準位置と判断された位置A」が発生したと判断する。
このとき、エンジン制御手段10は、基準位置検出[2]と「基準位置と判断された位置A」の間の信号数の計数(図8の例では「7」)が、基準位置間の歯数23Aの数と比較して異なることから、「基準位置と判断された位置A」で逆転が発生したと判断する。
そして、エンジン制御手段10は、この「基準位置と判断された位置A」の位置までは、正転と判断し、クランク信号がON信号からOFF信号に変化した時に、現在のクランク位置に基準ステップ角を加算し、クランク位置を算定しておく。
ここで、エンジン制御手段10のクランク信号基準位置検出処理により基準位置と判断されるタイミングは、図5に示したT2区間の欠け歯(23B、または23C)から、クランク信号がON信号からOFF信号に変化する信号が2回発生した後であり、このタイミングで、エンジン制御手段10は、周期比Kを算出した結果として、基準位置と判断することになる。
従って、「基準位置と判断された位置A」の時点で、エンジン制御手段10が逆転と判断したタイミングでは、実際の逆転位置から、すでにクランク信号がON信号からOFF信号に変化する信号が2回発生した後ということになる。このため、エンジン制御手段10は、この「基準位置と判断された位置A」の位置までに、すでに正転として加算した2信号分も含めて、合計で4信号分、現在のクランク位置から基準ステップ角を減算することによって、「基準位置と判断された位置A」以降の逆転中のクランク位置を算定する。
さらに時間が経過していくと、エンジン制御手段10は、「基準位置と判断された位置B」の発生を検知する。ここで、エンジン制御手段10は、基準位置検出[2]から「基準位置と判断された位置A」までのクランク信号の計数(図8の例では「7」)と、「基準位置と判断された位置A」から「基準位置と判断された位置B」までのクランク信号の計数(図8の例では「7」)が同じであると判断できる。
そこで、この場合には、エンジン制御手段10は、「基準位置と判断された位置B」において、クランク位置を特段補正しなくても、正確なクランク位置が算定できる(図8中、☆印のタイミングが、同じ歯部の位置を表している)。
また、クランク軸の逆転から正転に変化するタイミングでは、エンジン制御手段10は、上記で説明した正転から逆転に変化するタイミングと同じようにして、クランク位置を算定することが可能である。ただし、逆転から正転と判断されたタイミングでは、エンジン制御手段10は、正転から逆転の時とは逆に、減算分も含めて4信号分、現在のクランク位置から基準ステップ角を加算することによって、クランク位置を算定することができる。
次に、図9は、本発明の実施の形態1において、1つの歯部23A上でエンジンの逆転が発生した状態を表す図である。また、図10は、本発明の実施の形態1における図9の状態での、クランク信号、周期比K、およびクランク位置を時間軸で表したグラフである。
図10において、基準位置検出[1]と基準位置検出[2]間のクランク信号数(クランク信号の計数値)は、回転体に配設されている歯部23Aの数と同じ(図10の場合は「10」)であるので、エンジン制御手段10は、逆転が発生したとは判断しない。そして、次第にエンジン回転が低下していくことで、エンジン制御手段10は、周期比Kの算出結果から、「基準位置と判断された位置A」が発生したと判断する。
このとき、エンジン制御手段10は、基準位置検出[2]と「基準位置と判断された位置A」の間の信号数の計数(図10の例では「4」)が、基準位置間の歯数23Aの数と比較して異なることから、「基準位置と判断された位置A」で逆転が発生したと判断する。
そして、エンジン制御手段10は、この「基準位置と判断された位置A」の位置までは、正転と判断し、クランク信号がON信号からOFF信号に変化した時に、現在のクランク位置に基準ステップ角を加算し、クランク位置を算定しておく。
ここで、エンジン制御手段10のクランク信号基準位置検出処理により基準位置と判断されるタイミングは、図5に示したT2区間の欠け歯(23B、または23C)から、クランク信号がON信号からOFF信号に変化する信号が2回発生した後であり、このタイミングで、エンジン制御手段10は、周期比Kを算出した結果として、基準位置と判断することになる。
従って、「基準位置と判断された位置A」の時点で、エンジン制御手段10が逆転と判断したタイミングでは、実際の逆転位置から、すでにクランク信号がON信号からOFF信号に変化する信号が2回発生した後ということになる。このため、エンジン制御手段10は、この「基準位置と判断された位置A」の位置までに、すでに正転として加算した2信号分も含めて、合計で4信号分、現在のクランク位置から基準ステップ角を減算することによって、「基準位置と判断された位置A」以降の逆転中のクランク位置を算定する。
さらに時間が経過していくと、エンジン制御手段10は、「基準位置と判断された位置B」の発生を検知する。ここで、エンジン制御手段10は、基準位置検出[2]から「基準位置と判断された位置A」までのクランク信号の計数(この計数値をX1とすると、図10の例では「X1=4」)が、「基準位置と判断された位置A」から「基準位置と判断された位置B」までのクランク信号の計数(この計数値をX2とすると、図10の例では「X2=3」)に対して1信号分少なくなっていると判断できる。
そこで、この場合には、エンジン制御手段10は、歯部23A上で逆転したために、計数X1に対して計数X2が、1信号分少なくなったと判断できる。
そこで、エンジン制御手段10は、このようにして歯部23A上で逆転が発生したと判断した場合には、「基準位置と判断された位置B」において、クランク位置を1歯分補正(逆転中は基準ステップ角減算する)することによって、正確なクランク位置を算定することができる(図10中、☆印のタイミングが同じ歯部の位置を表している)。
なお、図10中のクランク位置のグラフにおいて、「基準位置と判断された位置B」の時点以降のクランク位置として一点鎖線で示した部分が、「基準位置と判断された位置B」のタイミングで補正されたクランク位置を表している。
また、クランク軸の逆転から正転に変化するタイミングでは、エンジン制御手段10は、上記で説明した正転から逆転に変化するタイミングと同じようにして、クランク位置を算定することが可能である。ただし、逆転から正転と判断されたタイミングでは、エンジン制御手段10は、正転から逆転の時とは逆に、減算分も含めて4信号分、現在のクランク位置から基準ステップ角を加算することによって、クランク位置を算定することができる。
以上説明したようにして、エンジン制御手段10は、クランク信号が発生しなくなるまでクランク位置を把握することが可能となる。このため、エンジン制御手段10は、エンジンが完全に停止した状態のクランク位置、ならびに気筒位置を記憶部(図1には図示せず)に記憶させておくことで、次の再始動時には、エンジン始動時に、即時、燃料噴射制御を開始することが可能となり、迅速なエンジン始動が可能となる。
なお、上記では、エンジン制御手段10は、エンジンが正転中には、クランク信号がON信号からOFF信号に変化したタイミングで演算処理や正逆転の判定を行っており、エンジンが逆転中には、正転時の判定タイミングとは逆に、クランク信号がOFF信号からON信号に変化したタイミングで演算処理や正逆転の判定を行うこととなる。ただし、回転体23の歯部23Aの立上・立下位置をクランク軸の位置と関連を持たせて配設しておくことで、逆転時の位置を補正することが可能となる。
7.アイドルストップ
7−1.アイドルストップの概要
本実施の形態1に係るアイドルストップ機構は、無駄な燃料の消費を抑制すべく、信号待ち等の車両が短期的に停止しているときに、エンジンを自動的に停止させるとともに、走行開始指令がされたとき(例えば、アクセルペダルが踏み込まれた場合やブレーキが解除された場合)に、エンジンを自動的に再始動する。
そして、アイドルストップ機構では、エンジンへの燃料供給を停止した後に、クランク軸の回転が停止した時のクランク軸の停止位置を記憶し、再始動時には、その記憶していた停止位置に基づいて、燃料を噴射するタイミングを制御する。これにより、気筒判別を実行することなく、燃料噴射制御を開始することができる。また、エンジンの停止過程(エンジンの逆転時を含めて)において、走行開始指令がされたときに、エンジンの気筒判別を実行することなく、燃料噴射制御を開始することができる。
このため、アイドルストップ機構の制御として、「燃料供給を停止した後、クランク軸の回転が完全に停止するまでのクランク軸の位置を検出するための制御」、および「再始動時制御」を必要とする。そこで、これらの制御の詳細を、以下に説明する。
7−2.クランク位置検出制御
7−2−1.「燃料供給を停止した後、クランク軸の回転が完全に停止するまでのクランク軸の位置を検出するための制御」の概要
エンジンが始動して運転されている状態では、クランク信号とカム信号の関係から、すでにエンジンクランク軸の位置は、判明している。
そして、本実施の形態1では、アイドルストップ制御にてエンジンを自動停止させる時、エンジン制御手段10におけるクランク信号の基準位置検出処理によって検出された基準位置信号間のクランク信号の計数値を、クランク信号発生手段13の回転体23に配設された歯23Aの数と比較することで、クランク軸の回転方向を判断する。そして、エンジン制御手段10は、基準位置信号間のクランク信号の計数がクランク信号発生手段13の回転体23に配設された歯23Aの数と異なっている場合には、回転が反転したと判断し、計数に基づいて算出したクランク位置についても補正を実施する。
7−2−2.「燃料供給を停止した後、クランク軸の回転が完全に停止するまでのクランク軸の位置を検出するための制御」の詳細
<クランク位置検出制御>
まず始めに、本実施の形態1におけるクランク位置検出制御について、フローチャートを用いて説明する。図11は、本発明の実施の形態1におけるクランク軸の位置を検出するための一連の制御を示すフローチャートである。
この図11に示すクランク位置検出制御は、アイドルストップ条件が成立して、エンジンを自動停止する指令が発せられた時に起動され、再始動時制御が起動されたときに停止する。なお、クランク位置検出制御を実施するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されており、起動時にROMからRAMに読み込まれて、エンジン制御手段10(ECU10)にて実行される。
クランク位置検出制御が起動されると、エンジン制御手段10は、クランク信号を検出したか否かを判定し(ステップS1101)、クランク信号が検出されなかったと判断した場合(ステップS1101:NO)には、再びステップS1101を実行する。
一方、クランク信号が検出されたと判断した場合には(ステップS1101:YES)、エンジン制御手段10は、クランク信号基準位置検出処理(ステップ1200)を実行する。このクランク信号基準位置検出処理の詳細は、図12を用いて後述するが、処理結果としては、例えば、基準信号判定フラグBPSに1歯欠けの基準信号であれば値1、2歯欠けの基準信号であれば値2、基準信号でなければ値0を設定する。
次に、エンジン制御手段10は、ステップ1200が実行された後、基準信号判定フラグBPSの値から、クランク信号が基準信号か否かを判定(ステップS1102)する。ここで、クランク信号が基準信号でなかった場合(ステップS1102:NO)には、クランク位置を認識するためのクランク位置判定処理を実行(ステップS1400)する。
一方、エンジン制御手段10は、基準信号が検出されたと判断した場合には(ステップS1102:YES)、回転方向判別処理を実行(ステップS1300)した後、クランク位置判定処理を実行(ステップS1400)する。
なお、ステップS1300における回転方向判別処理の詳細は、図13を用いて後述し、ステップS1400におけるクランク位置判定処理の詳細は、図14を用いて後述する。
<クランク信号基準位置検出処理>
図12は、本発明の実施の形態1におけるクランク信号の基準信号を検出するための一連の制御を示すフローチャートである。なお、このクランク信号基準位置検出処理を実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されており、起動時にROMからRAMに読み込まれて、エンジン制御手段10にて実行される。
クランク信号基準位置検出処理が起動されると、エンジン制御手段10は、先の図5に示したような、クランク信号のエッジ間の時間間隔T1、T2、T3を、上述した式(1)〜式(3)を用いて演算する(ステップS1201)。
次に、エンジン制御手段10は、ステップS1201での演算結果を用いて、上述した式(4)を用いて、クランク信号の3区間周期比Kを演算する(ステップS1202)。
その後、エンジン制御手段10は、信号のエッジ間の時間間隔の値の古い値を破棄して記憶し直し、次回の処理に備える(ステップS1203)。具体的には、T3、T2について、以式(5)、(6)のような置き換えを行う。
T3=T2 (5)
T2=T1 (6)
また、エンジン制御手段10は、同じステップS1203において、BPS≠0の場合、前々回の基準信号の値を破棄して記憶し直し、後の処理に備える。具体的には、以式(7)、(8)のような置き換えを行う。
BPS2=BPS1 (7)
BPS1=BPS (8)
なお、上式(7)、(8)において、BPS2は前々回の基準信号の値、BPS1は前回の基準信号の値、BPSは今回の基準位置の値であり、これらBPS2、PBS1、PBSは、時系列的な基準信号の値である。
そして、次に、エンジン制御手段10は、先のステップS1202で算出した3区間周期比Kの値が、判定条件である、第1の所定値jgV1と第2の所定値jgV2の範囲内の値であるか否かを、下式(9)に基づいて判定する(ステップS1204)。
jgV1≦K<jgV2 (9)
そして、エンジン制御手段10は、Kの値が、上式(9)の判定条件を満足すると判定した場合(ステップS1204:YES)には、1歯欠けの基準信号であると判断し、ステップS1205に進む。一方、エンジン制御手段10は、Kの値が、上式(9)の判定条件を満足していないと判定した場合(ステップS1204:NO)には、1歯欠けの基準信号ではないと判断し、次のステップS1206に進む。
1歯欠けの基準信号であると判断してステップS1205に進んだ場合には、エンジン制御手段10は、1歯欠けの基準信号を表す値1を、今回の基準位置の値としてBPSに記憶し(ステップS1205)、クランク信号基準位置検出処理を終了する。
また、1歯欠けの基準信号でないと判断してステップS1206に進んだ場合には、エンジン制御手段10は、先のステップS1202で算出した3区間周期比Kの値が、第2の所定値jgV2以上の値であるか否かを、下式(10)に基づいて判定する(ステップS1206)。
jgV2≦K (10)
そして、エンジン制御手段10は、Kの値が、上式(10)の判定条件を満足すると判定した場合(ステップS1206:YES)には、2歯欠けの基準信号であると判断し、ステップS1207に進む。一方、エンジン制御手段10は、Kの値が、上式(10)の判定条件を満足していないと判定した場合(ステップS1206:NO)には、2歯欠けの基準信号でもないと判断し、次のステップS1208に進む。
2歯欠けの基準信号であると判断してステップS1207に進んだ場合には、エンジン制御手段10は、2歯欠けの基準信号を表す値2を、今回の基準位置の値としてBPSに記憶し、クランク信号基準位置検出処理を終了する。
また、2歯欠けの基準信号でもないと判断してステップS1208に進んだ場合には、エンジン制御手段10は、クランク信号が基準信号でなかったことを表す値0を、今回の基準位置の値としてBPSに記憶し、クランク信号基準位置検出処理を終了する。
このような一連処理により、エンジン制御手段10は、「4.クランク信号基準位置検出処理について」で述べたように、クランク信号が基準信号である場合に、どの欠け歯の基準信号であるかを検出することができる。
<回転方向判別処理>
図13は、本発明の実施の形態1における回転方向を判別するための一連の制御を示すフローチャートである。なお、この回転方向判別処理を実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されており、起動時にROMからRAMに読み込まれてエンジン制御手段10にて実行される。
回転方向判別処理が起動されると、エンジン制御手段10は、基準信号の発生順序が順序どおりであるか否かを判定して、基準信号の発生順序を判定した結果を保持するフラグFBPSに値を設定し、基準信号がどの区間の基準信号であるか判定しておく(ステップS1301)。具体的には、エンジン制御手段10は、時系列的な基準信号の値であるBPS2、PBS1、PBSの発生順序に基づいて、順番どおりである場合にはFBPS=1とし、順番どおりでない場合にはFBPS=0とする。
次に、エンジン制御手段10は、基準信号間のクランク信号の計数値NumPSと、先のステップS1301で判明した基準信号区間においてクランク信号発生手段13の回転体23に形成されている欠け歯部23B、23Cの間に配設されている歯部23Aの歯数とを比較する(ステップS1302)。具体的には、エンジン制御手段10は、下式(11)が成立しているか否かを判断する。
クランク信号の計数値NumPS=基準信号間の回転体の歯数 (11)
そして、エンジン制御手段10は、上式(11)が成立している場合(ステップS1302:YES)には、ステップS1303に進む。そして、ステップS1303において、エンジン制御手段10は、基準信号の発生順序判定フラグがFBPS=0(発生順序が違う)の場合には、回転が低下したと判断し、BPSの値を修正して保持するとともに、回転方向の変化はないので、回転方向判定フラグFREVを変化がないとして設定する。
具体的には、エンジン制御手段10は、例えば、BPS2=1、BPS1=2、BPS=2で、時系列的な基準信号が1歯欠け、2歯欠け、2歯欠けとなっていた場合には、エンジン回転が低下していきBPSの値が2と設定されたと判断して、BPSの値を1に修正する。さらに、エンジン制御手段10は、回転方向判定フラグFREVを、変化がないとして、下式(12)、(13)のように、前回の回転方向判別フラグFREV1をそのままFREVに設定し、回転方向判別処理を終了する。
FREV=FREV1(逆転)なら FREV=1 (12)
FREV=FREV0(正転)なら FREV=0 (13)
一方、エンジン制御手段10は、先のステップS1302で、上式(11)の判定条件が成立していないと判断した場合(ステップS1302:NO)には、ステップS1304に進み、回転方向フラグの値が等しいかを、下式(14)により判定する。
FREV1=FREV (14)
そして、エンジン制御手段10は、上式(14)により、回転方向が変化していないと判定した場合(ステップS1304:YES)には、ステップS1305に進む。ステップS1305では、「6.回転方向判別処理」で説明したように、回転方向が反転したと判断して、下式(15)、(16)に従って回転方向判別フラグの値を記憶するとともに、下式(17)に従って逆転時計数値NumRevにクランク信号の計数値NumPSを記憶し、回転方向判別処理を終了する。
正転→逆転なら、FREV1=0、FREV=1 (15)
逆転→正転なら、FREV1=1、FREV=0 (16)
NumRev=NumPS (17)
一方、エンジン制御手段10は、先のステップS1304で、上式(14)に基づいて回転方向が変化していたと判定した場合(ステップS1304:NO)には、ステップS1306に進み、クランク信号の計数値NumPSと逆転時計数値NumRevとを、下式(18)、(19)を用いて比較する。
NumRev=NumPS (18)
NumRev=NumPS+1 (19)
そして、エンジン制御手段10は、上式(18)、(19)のいずれかの条件が成立していたと判定した場合(ステップS1306:YES)には、ステップS1307に進む。そして、エンジン制御手段10は、反転時に欠け歯部分が戻ってきた(すなわち、反転した状態が維持されている)と判断して、下式(20)、(21)に従って回転方向フラグの値を設定する。
FREV=1の場合(逆転時) FREV1=1、FREV=1 (20)
FREV=0の場合(正転時) FREV1=0、FREV=0 (21)
さらに、エンジン制御手段10は、先のステップS1306にて、上式(19)のNumRev=NumPS+1であると判定した場合には、下式(22)に従って、反転がクランク信号の回転体23の歯部23Aの山(図9の状態)で発生したか、谷(図7の状態)で発生したかを区別するフラグBPRevに、山で発生したことを示す値「1」を設定し、回転方向判別処理を終了する。
NumRev=NumPS+1が成立の場合 BPRev=1 (22)
一方、エンジン制御手段10は、ステップS1306の条件が不成立(ステップS1306:NO)の場合には、ステップS1305に進み、前述した処理を実行して回転方向判別処理を終了する。
<クランク位置判定処理>
図14は、本発明の実施の形態1におけるクランク位置を判定するための一連の制御を示すフローチャートである。なお、このクランク位置判定処理を実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されており、起動時にROMからRAMに読み込まれてエンジン制御手段10にて実行される。
クランク位置判定処理が起動されると、エンジン制御手段10は、基準信号か否かを、下式(23)により判断する。
BPS≠0 (23)
そして、エンジン制御手段10は、上式(23)が成立し、基準信号と判断した場合(ステップS1401:YES)には、ステップS1402に進む。そして、ステップS1402において、エンジン制御手段10は、下式(24)に従って、回転方向フラグの値から反転か否かを判断する。
FREV1≠FREV (24)
そして、エンジン制御手段10は、上式(24)が成立し、反転と判断した場合(ステップS1401:YES)には、ステップS1404に進み、下式(25)に従って、クランク位置補正係数gを設定し、ステップS1405に進む。
g=4 (25)
一方、エンジン制御手段10は、先のステップS1401で、上式(23)が成立せず、基準信号ではないと判断した場合(ステップS1401:NO)には、ステップS1403に進み、下式(26)に従って、クランク位置補正係数gを設定し、ステップS1405に進む。
g=1 (26)
また、エンジン制御手段10は、先のステップS1402で、上式(24)が成立せず、回転方向が反転していないと判断した場合も、ステップS1403に進み、クランク位置補正係数を、上式(26)に従って、g=1に設定し、ステップS1405に進む。
次に、エンジン制御手段10は、ステップS1405において、反転位置を区別するフラグBPRevの値が1の場合(クランク信号の山のカ所で反転した場合に相当)には、下式(27)に従って、クランク位置補正係数を補正し、次のステップS1406に進む。
g=g+1 (27)
そして、エンジン制御手段10は、ステップS1406において、下式(28)に従って、回転方向を判別する。
FREV=0 (28)
そして、エンジン制御手段10は、上式(28)が成立し、正転方向(ステップS1406:YES)と判別した場合には、ステップS1407に進み、逆転方向(ステップS1406:NO)と判別した場合には、ステップS1408に進む。
そして、エンジン制御手段10は、ステップS1407に進んだ場合には、回転方向が正転方向であるので、下式(29)に従って、クランク位置(CrankAng)にクランク位置補正係数gで補正した基準ステップ角(BaseAng)を加算することで、クランク位置を算定し、ステップS1409に進む。
CrankAng=CrankAng+g*BaseAng (29)
一方、エンジン制御手段10は、ステップS1408に進んだ場合には、回転方向が逆転方向であるので、下式(30)に従って、クランク位置(CrankAng)にクランク位置補正係数gで補正した基準ステップ角(BaseAng)を減算することで、クランク位置を算定し、ステップS1409に進む。
CrankAng=CrankAng−g*BaseAng (30)
なお、エンジンが正転時のクランク信号の判定タイミングは、クランク信号がON信号からOFF信号に変化したタイミングであるが、エンジンが逆転中のクランク信号の判定タイミングは、正転時のクランク信号の判定タイミングとは逆に、クランク信号がOFF信号からON信号に変化したタイミングとなる。そこで、回転体23の歯部23Aの立上・立下位置の分、逆転時の位置を補正することとなる。
次に、エンジン制御手段10は、ステップS1409において、下式(31)、(32)に従って、クランク信号の計数値の演算を行うとともに、下式(33)に従って、反転位置を区別するフラグBPRevを設定し、クランク位置判定処理を終了する。
BPS≠0なら NumPS=0 (31)
BPS=0なら NumPS=NumPS+1 (32)
BPRev=0 (33)
(7−3)再始動時制御
「7−1.アイドルストップの概要」で説明したように、本実施の形態1に係るアイドルストップ装置では、再始動時には、その記憶していた停止位置に基づいて燃料を噴射するタイミングを制御することにより、気筒判別を実行することなく、燃料噴射制御を開始することを特徴としている。
図15は、本発明の実施の形態1における再始動時の制御を示すフローチャートである。なお、この再始動時制御を実施するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されており、再始動指令がECU13よりされた時にROMからRAMに読み込まれてCPU(ECU10)にて実行される。
再始動時制御が起動されると、エンジン制御手段10は、記憶しているクランク位置に基づいて、クランク軸位置の計数を開始する(ステップS1501)。次に、エンジン制御手段10は、ステップS1502にて、クランク信号が検出されたか否かを検出し、クランク信号が検出されなかった場合(ステップS1502:NO)には、ステップS1502に戻る。
一方、エンジン制御手段10は、クランク信号が検出された場合(ステップS1502:YES)には、ステップS1200に進み、前述したように、クランク信号基準位置検出処理を実行し、基準信号か否かを判別し、ステップS1400に進む。
次に、エンジン制御手段10は、ステップS1400において、クランク位置判定処理を実行して、クランク位置を判別し、次のステップS1503に進む。そして、エンジン制御手段10は、クランク信号が基準信号ではなかったと判定した場合(ステップS1503:NO)には、ステップS1502に戻り、クランク信号の検出を実行する。
一方、エンジン制御手段10は、クランク信号が基準信号であると判定した場合(ステップS1503:YES)には、ステップS1504に進む。そして、エンジン制御手段10は、クランク位置判定処理で確定されたクランク位置と、基準信号のクランク位置が同じか否かを判断する。
そして、エンジン制御手段10は、クランク位置判定処理で確定されたクランク位置と、基準信号のクランク位置が同じである(ステップS1504:YES)と判断した場合には、即、燃料噴射制御を開始(ステップS1505)して、エンジンを再始動し、再始動時制御を終了する。
一方、エンジン制御手段10は、クランク位置判定処理で確定されたクランク位置と、基準信号のクランク位置が異なっている(ステップS1504:NO)と判断した場合には、ステップS1506に進み、通常のエンジン始動と同じように、気筒判別処理後、燃料噴射制御を開始し、エンジンを再始動して再始動時制御を終了する。
以上説明した制御により、エンジンの逆転状態においても、クランク位置ならびにエンジンの回転数を把握できることとなる。
この情報に基づいて、アイドルストップ過程で走行開始指令がされた時点から、スタータに駆動信号が印加され、ピニオン17がリングギヤ12に当接するまでに必要な時間をΔtとし、この時間Δt経過時のエンジンの回転変化をΔnとして、走行開始指令がされた時点のエンジン回転Neからエンジンの回転変化Δnを差し引いた回転数がスタータ駆動可否の閾値範囲内となったらスタータを駆動するようにすることで、スタータのピニオンがリングギヤと噛合えない範囲でのスタータの動作を防止することが可能となる。
さらに、図16は、本発明の実施の形態1におけるクランク角毎のエンジン停止時の回転変化を表す図である。この図16では、スタータに駆動信号が印加され、ピニオン17がリングギヤ12に当接するまでに必要な時間をΔtとし、この時間Δt経過時のエンジンのクランク角毎の回転変化をΔn1として表している。この図16からわかるように、エンジンの回転変化Δn1の大きさは、クランク角毎に異なっている。
このため、エンジン制御手段10は、アイドルストップ過程で走行開始指令がされた時点のエンジン回転Neを、クランク角度毎の所定時間経過時の回転数変化Δn1で、クランク角毎に補正(走行開始指令がされた時点のエンジン回転Neからクランク角度毎の所定時間経過時の回転数変化Δn1を差し引く)し、この補正した回転数がスタータ駆動可否の許可範囲内となった場合に、スタータを駆動するようにすることで、より詳細にスタータのピニオンがリングギヤと噛合えない範囲でのスタータの動作を防止することが可能となる。
また、エンジンを再始動するときには、スタータ駆動時に電源の電圧降下をきたし、車両搭載機器の瞬停が発生することがある。これを防止するために、アイドルストップ車両では、瞬停抑制のための機器(例えば、DC−DC、起動抵抗リレー等)を搭載する。
通常、瞬停抑制機器の駆動時間は、条件が最も悪い状態でも瞬停が起こらない時間として一定にされている。このため、不必要に長い時間、瞬停抑制機器を駆動させ、エネルギロスや始動時間の遅れを招いていた。
より具体的には、例えば、起動抵抗リレー等においては、エンジン逆転時に、エンジンを始動させようとする場合は、エンジンの逆回転分の慣性が始動時にスタータに必要となり、通常始動時よりも大きなエネルギが必要となる。そこで、電圧降下を抑制するためには、長い時間、起動抵抗を介した通電をしなくてはならない。しかしながら、エンジンが正転からの始動では、エンジンが正転方向に回っているので、エンジンの正転分の慣性は、スタータには不必要となるので、電圧降下を抑制するためには、前記状態よりも短い時間、起動抵抗を介した通電を行うことで済むが、最悪の場合を考えて、エンジンが逆転時の通電時間で起動抵抗リレーの駆動時間を決定していた。
しかし、本発明では、エンジン回転状態を把握できるので、エンジンの回転の情報に基づいて電圧降下抑制機器の駆動時間を適切に制御することができ、不必要なエネルギロスや始動時間の遅れを防止することが可能となる。
さらには、エンジンの再始動要求がエンジン逆回転時に発生した場合に、逆回転時の回転数、およびエンジンの角加速度から始動に必要となるスタータの消費電力を推定、またはあらかじめ制御手段にマップなどに持たせることによって、電圧降下を抑制できなくなることを判断して、スタータの駆動を禁止し、電圧降下を抑制できる回転数となるまで待機することも可能となる。
8.本実施の形態1に係るエンジン始動装置の特徴
本実施の形態1では、回転方向判別処理は、エンジンのクランク信号発生手段13において、逆転を検知するようなピックアップ24を用いることなく、エンジンのクランク信号発生手段13から出力されるパルス信号の出力タイミングに基づいて、基準信号検出処理を実行し、基準信号間のクランク信号の計数値と、クランク信号発生手段13に物理的に設けられた信号の歯数とを比較して、クランク軸の回転方向を検出する。
また、基準信号検出処理において、クランク信号の周期比を検出しているので、内燃機関毎の個体差や経年変化(摩耗等)による変化を吸収できる。従って、本実施の形態1における回転方向検出は、パルス間隔値と閾値とを比較することによりクランク軸の回転方向を検出する逆転検出手法に比べて、正確に逆転現象を検出することができる。
そして、クランク位置検出制御では、クランク信号基準位置検出処理、回転方向判別処理ならびにクランク位置判定処理を行うことで、クランク軸の位置を算出、補正することが可能である。この結果、本実施の形態1では、逆転現象も含めて、正確にクランク軸の位置を把握することができる。
また、本実施の形態1では、クランク軸の基準位置が検出されるタイミングを、クランク信号発生手段13に設けられた順序で発生しているか否かで判定しており、クランク位置の補正が、周期的に実行されることとなる。したがって、経年変化によりエンジンの停止状態が変化しても、長期間に亘って安定的にクランク位置を判定把握することができる。
<その他の実施の形態について>
なお、クランク信号発生手段13の構成、欠け歯位置ならびに、歯数(歯数が多いほど検出精度が向上する)や、基準信号検出処理、クランク軸の回転方向判別処理、並びにクランク位置判定処理を用いたクランク軸の回転方向の検出処理は、上述の実施の形態に示された手法に限定されるものではない。
また、上述の実施の形態1では、ガソリンエンジン(オットーサイクルを用いた内燃機関)式内燃機関に本発明を適用したが、本発明の適用は、これに限定されるものではなく、ディーゼル等にも適用できる。
また、上述の実施の形態1では、クランク信号の周期比(T1、T2、T3)を用いて基準信号を判別していたが、本発明は、これに限定されるものではなく、信号の周期値として、(クランク信号の立上り−立上りの間隔)、および(クランク信号の立下り−立上りの間隔)を用いてもよくこれらと異なる定義によるパルス間隔値を用いてもよい。
以上のように、実施の形態1によれば、クランク信号発生手段から出力される信号列に基づいて、クランク位置の特定、回転数および回転方向の推定を行い、これらの特定結果、推定結果に基づいて、自動アイドルストップシステムにおけるエンジンの惰性回転中の再始動を行っている。これにより、ピニオンギヤとリングギヤとの噛合わせを始動装置の噛合可能範囲内で速やかに行うことができる。さらに、制御が複雑になることなく、ピニオンギヤとリングギヤとの噛合い時の衝撃ならびに騒音を抑制し、長寿命化を達成することが可能となる。また、クランク軸の位置を把握補正することが可能となるので、エンジンを早期に始動することができる。
より具体的には、本発明は、エンジンへの停止条件が成立してエンジンを停止させる過程の以前に、すでにクランク信号発生手段とカム信号発生手段の両信号によって気筒判別ならびにクランク軸の位置も算出されている状態にある。そして、この状態からエンジン停止過程においては、クランク信号発生手段から出力された信号から基準位置と判断された基準位置検出間の信号の計数が、クランク信号発生手段にあらかじめ形成した信号数と異なった場合に、エンジンが逆転したと判断することができる。
さらに、エンジンが逆転したと判断した後に、クランクの基準位置からエンジン逆転判断までの信号の計数値[1]と、逆転判断から次にクランクの基準位置と判断された位置までのクランク信号の計数値[2]とを比較することにより、エンジンが逆転中か否かを判断することができ、クランク軸の位置を補正把握することが可能となる。
さらに、エンジンの再始動要求が発生した時点から、エンジン回転数を所定時間経過時の回転数変化で補正することにより、ピニオンギヤを押し出してからピニオンギヤとリングギヤとが噛合可能な範囲となるか否かを判断することができる。
さらに、エンジンの再始動要求が発生した時点から、エンジン回転数をクランク位置毎の所定時間経過時の回転数変化で補正することにより、ピニオンギヤを押し出してからピニオンギヤとリングギヤとが噛合可能な範囲となるか否かを、より詳細に判断することが可能となる。
さらに、エンジンの再始動要求発生時の回転数を、逆転を含めて把握することができるので、電源の電圧降下を抑制する手段の動作時間を再始動要求時の状態から判断して制御することができ、安定して電圧降下を抑制することが可能となる。
さらに、エンジンの再始動要求がエンジン逆回転時に発生した場合には、逆回転時の回転数により電源の電圧降下を抑制できない場合を判断することができるので、スタータの駆動を禁止して電圧降下の抑制ができない場合を回避することができる。
さらに、エンジン逆回転時のスタータ駆動可否を判断する所定の回転数を、モータの消費電力およびエンジンの角加速度から決めることによって、無駄なエネルギ消費を抑制して再始動を行うことができる。