図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図、図2は図1に示す入力軸からの駆動力の伝達を示す説明図である。
以下説明すると、符号Tは自動変速機を示す。自動変速機Tは車両(図示せず)に搭載されてなり、前進7速および後進1速の変速段を有すると共に、デュアル・クラッチ・トランスミッション(Dual Clutch Transmission)型からなる。
自動変速機Tは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続される駆動軸10にロックアップクラッチLCを有するトルクコンバータ(流体継手)12を介して接続された主入力軸(メインシャフトMS)16を備える。主入力軸16の外周には、第1副入力軸20と第2副入力軸22が同軸かつ相対回転自在に配置される。
主入力軸16と第1副入力軸20は第1クラッチCL1を介して接続されると共に、主入力軸16と第2副入力軸22も第2クラッチCL2を介してされる。第1、第2クラッチCL1,CL2は共に、湿式多板クラッチからなる。
図2に良く示す如く、主入力軸16および第1、第2副入力軸20,22と平行して第1出力軸(カウンタシャフト)24と第2出力軸(カウンタシャフト)26が配置される。
第1副入力軸20には1速ドライブギヤ30と、3速−5速ドライブギヤ32と、7速ドライブギヤ34が固定されると共に、第2副入力軸22には2速−RVS(後進)ドライブギヤ36と4速−6速ドライブギヤ40が固定される。
他方、第1出力軸24には1速ドライブギヤ30に噛合する1速ドリブンギヤ42と、3速−5速ドライブギヤ32に噛合する3速ドリブンギヤ44と、4速−6速ドライブギヤ40と噛合する4速ドリブンギヤ46と、RVSドリブンギヤ50が回転自在に支持される。
1速ドリブンギヤ42と3速ドリブンギヤ44は1速−3速シンクロ装置S1を介して第1出力軸24に選択的に結合可能とされ、4速ドリブンギヤ46とRVSドリブンギヤ50は4速−RVSシンクロ装置S2を介して第1出力軸24に選択的に結合可能とされる。
第2出力軸26には3速−5速ドライブギヤ32に噛合する5速ドリブンギヤ52と、7速ドライブギヤ34に噛合する7速ドリブンギヤ54と、2速−RVSドライブギヤ36とRVSドリブンギヤ50に噛合する2速ドリブンギヤ56と、4速−6速ドライブギヤ40に噛合する6速ドリブンギヤ60が回転自在に支持される。
5速ドリブンギヤ52と7速ドリブンギヤ54は5速−7速シンクロ装置S3を介して第2出力軸26に選択的に結合可能とされ、2速ドリブンギヤ56と6速ドリブンギヤ60は2速−6速シンクロ装置S4を介して第2出力軸26に選択的に結合可能とされる。
第1出力軸24に固定された第1ファイナルドライブギヤ62と第2出力軸26に固定された第2ファイナルドライブギヤ64はディファレンシャル機構Diffのファイナルドリブンギヤ66に噛合する。ディファレンシャル機構Diffには両側にドライブシャフト70が連結されると共に、その先端には車輪Wが接続される。
図2に良く示す如く、主入力軸16の周囲に同軸に配置される第1、第2副入力軸20,22は第1、第2出力軸24,26と連結し、第1、第2出力軸24,26はディファレンシャル機構Diffと連結、より具体的には第1、第2出力軸24,26のファイナルドライブギヤ62,64がディファレンシャル機構Diffのファイナルドリブンギヤ66と噛合するように構成される。
このように、自動変速機Tは、エンジンEの駆動軸10と第1、第2副入力軸20,22の間にそれぞれ配置されて駆動軸10と第1、第2副入力軸20,22を断接(開放・係合)する第1、第2クラッチCL1,CL2と、第1、第2副入力軸20,22と第1、第2出力軸24,26の間に配置される7速までの変速段ギヤのいずれかを第1、第2出力軸24,26のいずれかに結合可能なシンクロ装置S1からS4とで構成される第1、第2の駆動力伝達経路DP1,DP2を備える。
第1の駆動力伝達経路DP1は第1クラッチCL1と奇数変速段とシンクロ装置S1,S3で構成され、第2の駆動力伝達経路DP2は第2クラッチCL2と偶数変速段とシンクロ装置S2,S4で構成される。
シンクロ装置S1からS4が前記したギヤ選択機構に相当する。自動変速機Tには、ロックアップクラッチLCとクラッチCLnとシンクロ装置Snに油圧(流体圧)を供給可能な油圧供給機構74が設けられる。尚、この明細書でシンクロ装置S1からS4などの複数個の部材を総称するとき、nを用いて例えばSnなどという。
シンクロ装置S1からS4は、第1、第2出力軸24,26にスプライン結合されて固定されたスリーブドグクラッチ(図示せず)を備える。スリーブドグクラッチは軸方向にニュートラル位置(初期位置)から移動可能に構成され、油圧供給機構74から油圧を供給されると移動して隣接するドリブンギヤのドグクラッチと係合し、ドリブンギヤを出力軸24あるいは26に結合する。
上記において、第1クラッチCL1が係合されると、エンジンEの駆動軸10から出力される駆動力はトルクコンバータ12、主入力軸16、第1クラッチCL1を介して第1副入力軸20に伝達され、第2クラッチCL2が係合されると、エンジンEから出力される駆動力はトルクコンバータ12、主入力軸16、第2クラッチCL2を介して第2副入力軸22に伝達される。
即ち、1速−3速シンクロ装置S1に油圧を供給して図1で右動させて1速ドリブンギヤ42を第1出力軸24に結合した状態で、第1クラッチCL1に油圧を供給して係合させると、1速変速段が確立される。
同様に、2速−6速シンクロ装置S4を右動させて2速ドリブンギヤ56を第2出力軸26に結合した状態で、第2クラッチCL2を係合させると、2速変速段が確立される。
また、1速−3速シンクロ装置S1を左動させて3速ドリブンギヤ44を第1出力軸24に結合した状態で、第1クラッチCL1を係合させると、3速変速段が確立される。
また、4速−RVSシンクロ装置S2を左動させて4速ドリブンギヤ46を第1出力軸24に結合した状態で、第2クラッチCL2を係合させると、4速変速段が確立される。
また、5速−7速シンクロ装置S3を左動させて5速ドリブンギヤ52を第2出力軸26に結合した状態で、第1クラッチCL1を係合させると、5速変速段が確立される。
また、2速−6速シンクロ装置S4を左動させて6速ドリブンギヤ60を第2出力軸26に結合した状態で、第2クラッチCL2を係合させると、6速変速段が確立される。
また、5速−7速シンクロ装置S3を右動させて7速ドリブンギヤ54を第2出力軸26に結合した状態で、第1クラッチCL1を係合させると、7速変速段が確立される。
また、4速−RVSシンクロ装置S2を右動させてRVSドリブンギヤ50を第1出力軸24に結合した状態で、第2クラッチCL2を係合させると、RVS変速段が確立される。
図3に第1、第2クラッチCL1,CL2などの動作パターンを示す。図中、丸印はクラッチが係合したことを示す。
以上のように、1速から7速の間のシフトアップ変速では、第1動力伝達経路DP1の第1クラッチCL1に油圧が供給されて1速変速段が確立されている間に、2速変速段が配置される側の第2動力伝達経路DP2の2速−6速シンクロ装置S4に油圧を供給して右動させて2速ドリブンギヤ56を第2出力軸26に結合させておく。
次いで第1クラッチCL1から油圧を排出させて駆動軸10との接続を絶ち(開放し)、第2クラッチCL2に油圧を供給して駆動軸10と接続(係合)することで2速変速段を確立させ、1速ドリブンギヤ42を第1出力軸24からアウトギヤ(解放)させることで2速変速段への変速を完了する。
また、第2動力伝達経路DP2の第2クラッチCL2に油圧が供給されて2速変速段が確立されている間に、次の3速変速段が配置される側の第1動力伝達経路DP1の1速−3速シンクロ装置S1に油圧を供給して左動させて3速ドリブンギヤ44を第1出力軸24に結合させておく。
次いで第2クラッチCL2から油圧を排出させて駆動軸10との接続を絶ち、第1クラッチCL1に油圧を供給して駆動軸10と接続することで3速変速段を確立させ、2速ドリブンギヤ56を第2出力軸26からアウトギヤ(解放)させることで3速変速段への変速を完了する。以降、これを繰り返してシフトアップ変速する。
また、7速から1速の間のシフトダウン変速では、第1動力伝達経路DP1の第1クラッチCL1に油圧が供給されて7速変速段が確立されている間に、6速変速段が配置される側の第2動力伝達経路DP2の2速−6速シンクロ装置S4に油圧を供給して左動させて6速ドリブンギヤ60を第2出力軸26に結合させておく。
次いで第1クラッチCL1から油圧を排出させて駆動軸10との接続を絶ち、第2クラッチCL2に油圧を供給して駆動軸10と接続することで6速変速段を確立させ、7速ドリブンギヤ54を第1出力軸24からアウトギヤ(解放)させることで6速変速段への変速を完了する。
また、第2動力伝達経路DP1の第2クラッチCL2に油圧が供給されて6速変速段が確立されている間に、次の5速変速段が配置される側の第1動力伝達経路DP1の5速−7速シンクロ装置S3に油圧を供給して左動させて5速ドリブンギヤ52を第1出力軸24に結合させておく。
次いで第2クラッチCL2から油圧を排出させて駆動軸10との接続を絶ち、第1クラッチCL1に油圧を供給して駆動軸10と接続することで5速変速段を確立させる。以降、これを繰り返してシフトダウン変速する。
以上の処理により、駆動力の途切れのない、即ち、引き摺りトルクのない、換言すればショックのないシフトアップ変速およびシフトダウン変速が可能となる。尚、前記したような次の変速段(目標変速段)のドリブンギヤに対応するシンクロ装置Snに油圧を供給して当該のドリブンギヤを相応する第1出力軸24(または第2出力軸26)に結合する動作を、以降「プリシフト」という。
次いで、図4を参照して油圧供給機構74によるシンクロ装置Snなどへの油圧供給を説明する。
図示の如く、シンクロ装置S1からS4には、それらに対応して1速−3速油圧アクチュエータA1と、4速−RVS油圧アクチュエータA2と、5速−7速油圧アクチュエータA3と、2速−6速油圧アクチュエータA4が設けられる。
1速−3速アクチュエータA1は対向配置された1速ピストンPS1と3速ピストンPS3を、4速−RVS油圧アクチュエータA2は対向配置された4速ピストンPS4とRVSピストンPSRを、5速−7速油圧アクチュエータA3は対向配置された5速ピストンPS5と7速ピストンPS7を、2速−6速油圧アクチュエータA4は対向配置された2速ピストンPS2と6速ピストンPS6を備える。
このように、油圧アクチュエータAnもそれぞれ、ピストンPSn(1速ピストンPS1などのピストンを総称するとき、こう呼ぶ)からなる油圧アクチュエータを備える。
それらの油圧アクチュエータAnにおいてピストンPS1などにはシフトフォークSF1からSF4が一体的に設けられ、シフトフォークSFnを介してシンクロ装置Snのスリーブドグクラッチに接続される。
油圧供給機構74において、リザーバ76からストレーナ80を介してオイルポンプ(油圧ポンプ)82によって汲み上げられた作動油ATFは、リニアソレノイドバルブ84で制御されるレギュレータバルブ86によりライン圧に調圧される。ライン圧の低下時の補償用にアキュムレータ90が接続される。
ライン圧はリニアソレノイドバルブLS1,LS2によって調圧され、第3AシフトバルブVA3Aと,第3BシフトバルブVA3Bと、第4シフトバルブVA4と、第5シフトバルブVA5と第6シフトバルブVA6を介して第1から第4油圧アクチュエータAnに供給され、対応するシンクロ装置Snのスリーブドグクラッチをニュートラル位置(初期位置)から左右の係合位置に移動(右動あるいは左動)させる。
シフトフォーク上には、ニュートラル位置と左右の係合位置に対応する位置にディテント(図示せず)が設けられる。シンクロ装置Snはニュートラル位置と左右の係合位置にあるときはディテントで保持され、油圧供給が不要とされるように構成される。
また、第1シフトバルブVA1から出るクラッチ制御用の油路はマニュアルバルブ92を通過して第1クラッチCL1に接続されると共に、第2シフトバルブVA2から出るクラッチ制御用の油路は同様にマニュアルバルブ92を介して第2クラッチCL2に接続される。
マニュアルバルブ92は車両運転席のフロア付近に配置されたシフトレバー(図示せず)に接続され、運転者の操作によって選択されたP,R,N,D,Lレンジに対応してスプールが移動する。
具体的にはD,L,Rレンジが選択されるとき、第1、第2クラッチCL1,CL2は油圧を供給されてエンジンEの駆動軸10を第1、第2副入力軸20,22に接続し、エンジンEの駆動力を第1、第2駆動力伝達経路DP1,DP2に伝達する。
他方、P,Nレンジが選択されるとき、第1、第2クラッチCL1,CL2には油圧が供給されず、エンジンEの駆動軸10と第1、第2副入力軸20,22との接続が断たれ、エンジンEの駆動力を第1、第2駆動力伝達経路DP1,DP2に伝達しない。
ロックアップクラッチLCについて説明すると、ライン圧はLCソレノイドバルブSHLCで作動するLCシフトバルブ94と、リニアソレノイドバルブ96で制御されるLC制御バルブ100を介してトルクコンバータ12のロックアップクラッチLCの背圧室LCa(あるいは背圧室LCaと内圧室LCb)に供給される。
ここで、リニアソレノイドバルブ96とLCソレノイドバルブSHLCが共に励磁されると、油圧はLCシフトバルブ94から油路102,104を介してロックアップクラッチLCの背圧室LCaと内圧室LCbに流れ、ロックアップクラッチLCを係合させる。
また、リニアソレノイドバルブ96とLCソレノイドバルブSHLCが共に消磁されると、油圧はLCシフトバルブ94から油路102を介してロックアップクラッチLCの背圧室LCaに流れ、ロックアップクラッチLCを開放させる。
ロックアップクラッチLCの係合度、即ち、係合と開放の間の度合い、換言すればトルクコンバータ12の滑り率は、リニアソレノイドバルブ96の励磁をデューティ制御することによって調節される、背圧室LCaに供給される油圧の大きさによって決定される。
このように、図4に示す油圧供給機構74において、リニアソレノイドバルブ96と、LCソレノイドバルブSHLCと、リニアソレノイドバルブLS1,LS2と、シフトバルブVAnに対応して設けられるシフトソレノイドバルブSH1,SH2,SH3A,SH4Aを励磁・消磁することで、ロックアップクラッチLCの係合・開放と、第1、第2クラッチCL1,2の動作(断接)と、シンクロ装置Snの動作が制御される。
図1の説明に戻ると、自動変速機Tはシフトコントローラ110を備える。シフトコントローラ110はマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(ECU)として構成される。
また、エンジンEは例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなり、その動作を制御するために同様にマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットから構成されるエンジンコントローラ112が設けられる。
エンジンEにあってはアクセルペダルとスロットルバルブの機械的な連結が断たれ、DBW(Drive By Wire)機構が設けられる。エンジンコントローラ112はアクセル開度(AP開度)とエンジン回転数NEからエンジンEで要求される要求トルクPMCMDを算出し、算出された要求トルクPMCMDとエンジン回転数NEから燃料噴射量と点火時期を制御する。
シフトコントローラ110はエンジンコントローラ112と通信自在に構成され、エンジンコントローラ112からエンジン回転数NE、AP開度、要求トルクPMCMDなどの情報を取得する。
さらに、主入力軸16の付近には第1の回転数センサ114が配置され、自動変速機Tの入力回転数NMを示す信号を出力すると共に、第1、第2副入力軸20,22と第1出力軸24にはそれぞれ第2、第3、第4の回転数センサ116,120,122が配置され、それらの回転数を示す信号を出力する。
さらに、ファイナルドリブンギヤ66の付近には第5の回転数センサ124が配置され、ファイナルドリブンギヤ66の回転数、換言すれば車速Vを示す信号を出力する。
また油圧供給機構74のリザーバ76の内部には温度センサ126が配置され、作動油ATFの温度(油温)TATFを示す信号を出力すると共に、アクチュエータA1からA4にはそれぞれ対向配置されたピストンの付近には磁電変換素子などからなるストロークセンサ(変位センサ)SE1からSE4が配置され、ピストンのストローク(変位)を示す信号を出力する。
また、シフトレバーの付近にはマニュアルシフトSW(スイッチ)130が配置され、運転者に操作されたとき、シフトアップあるいはシフトダウンを示す変速信号を出力する。
これらセンサの出力もシフトコントローラ110に入力される。シフトコントローラ110は、それらセンサの出力とエンジンコントローラ112からの情報に基づき、以下に述べる処理を行って上記したリニアソレノイドバルブ96などを励磁・消磁して油圧供給機構74の動作を制御する。
図5はそのシフトコントローラ110の動作、即ち、この実施例に係る自動変速機Tの制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
以下説明すると、S10において指令値を算出して出力する。即ち、第5の回転数センサ124の出力から検出された車速Vとエンジンコントローラ112から取得されたスロットル開度THからシフトマップを検索して目標変速段を決定すると共に、変位センサSEnの出力から現在変速段を検出し、変速する必要があるときは、目標変速段にプリシフトする。
より具体的には現在変速段のギヤが配置される側の第1、第2の動力伝達経路DP1,DP2の一方のクラッチCLnに油圧が供給されて現在変速段が確立されている間に、目標変速段が配置される側の他方の動力伝達経路のシンクロ装置Snの油圧アクチュエータAnの目標変速段に対応するピストン(油圧アクチュエータ)PSnに該当する前記シフトソレノイドを励磁・消磁することで目標油圧を供給し、シンクロ装置Snのスリーブドグクラッチを変位させて目標変速段のドリブンギヤのドグクラッチに係合する係合(インギヤ)させ、目標変速段のドリブンギヤを対応する第1出力軸24あるいは第2出力軸26に結合させる処理を行う。
S10の処理において指令値はそのときの目標変速段に対応するピストン(油圧アクチュエータ)PSnに供給すべき目標油圧の指令値を意味し、それを図4で説明したシフトソレノイドへの通電量として算出して出力する。
図6は目標油圧とシンクロ装置(のスリーブドグクラッチ)のストローク(変位)を示すタイム・チャート、図7は変位センサの故障判定を加えたときの同様のタイム・チャートである。
図示の如く、この実施例においては、目標油圧を所定の高さまで速やかに立ち上げてスリーブドグクラッチを変位させ、目標変速段のドリブンギヤのドグクラッチに係合させた後、減少するように指令値を算出して出力する。
即ち、スリーブドグクラッチは係合位置でディテントに係止されてその位置に保持されることから、係合させた後、油圧の供給を停止するように指令値を算出する。
尚、図示は省略するが、油圧アクチュエータAnにおいて目標変速段のピストンに対向するピストン(例えば目標変速段が1速とするとき、3速ピストンPS3)には油圧が供給され、それに伴ってスリーブドグクラッチはニュートラル位置に向けて復帰させられる。
スリーブドグクラッチが変位して目標変速段のドリブンギヤのドグクラッチと係合している間、より正確にはニュートラル位置(初期位置)に向けて復帰し始めるものの、その変位量が所定値Xoutを超えるまでを「インギヤ」といい、その領域を「インギヤ領域」という。
次いでスリーブドグクラッチが所定値Xoutを超えて変位し、変位量が初期位置近傍に設定された規定値Xnを超えるまでの非係合(解放)状態を「アウトギヤ」といい、その領域を「アウトギヤ領域」いう。
さらにスリーブドグクラッチが規定値Xnを超えた後を「ニュートラル」と示し、その領域を「ニュートラル領域」という。
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、アウトギヤ判定を行う。
即ち、ピストン(油圧アクチュエータ)PSnが油圧を供給されてシンクロ装置Snのスリーブドグクラッチが変位して目標変速段のドリブンギヤのドグクラッチに係合した後、対向するピストンへの油圧供給によって復帰してアウトギヤ(非係合状態)になったか否かを、変位センサSEnの出力Xが第1の所定値Xout未満か否か判断することで判定する。
S12で肯定されるときはS14に進み、指令値を減算、即ち、目標油圧を徐々に減少させて初期位置に向けて復帰させるように、指令値を算出して出力する。
次いでS16に進み、ニュートラル判定を行う。これは、当該ピストンPSnへの目標油圧の減少と対向ピストンへの油圧供給によって復帰するときの変位センサSEnの出力Xが規定値Xn未満となるか否か判定することで、ニュートラル領域に入ったか否か判定する。
S16で否定される度にS14に戻り、図7に破線で示す如く、指令値を減算し続ける一方、S16で肯定されるときはS18に進み、指令値を零にして当該ピストン(油圧アクチュエータ)PSnへの油圧の供給を終了する。上記は変位センサSEnが故障(フェール)していない場合である。
他方、S12で否定されるときはS20に進み、第2のアウトギヤ判定を行う。
即ち、先ず第1、第2副入力軸20,22のうち、目標変速段のドライブギヤが配置される側の(第2あるいは第3の回転数センサ116,120で検出された)入力軸の回転数と、第1、第2出力軸24,26のうち目標変速段のドリブンギヤが配置される側の(第4の回転数センサ122で検出された)出力軸との間の差回転dNを算出し、(変位センサSEnの出力Xが第1の所定値Xout未満となる前に)算出された差回転dNが第2の所定値dNoutを超えるか否か判断する。
S20で否定されるときはS10に戻って上記の処理を繰り返す一方、肯定されるときはS22に進み、当該の変位センサSEnが故障した、例えば断線、ATF中の異物の付着による検出不良などの故障が生じたと判定する。
即ち、図7に示す如く、アウトギヤ時(ギヤドグクラッチとスリーブドグクラッチが非係合となった時点)からドライブギヤとスリーブドグクラッチの回転の間に差回転が生じて変位しているはずであることから、差回転が生じた(差回転dNが第2の所定値dNoutを超えた)にも関わらず、当該の変位センサSEnの出力Xが同図上部に実線で示すように第1の所定値Xn未満とならないのは、当該の変位センサSEnに断線などの故障が生じて出力が異常となっていると考えられるからである。
尚、S22で当該変位センサSEnが故障したと判定されるまでは変位センサSEnの出力からドリブンギヤのインギヤとアウトギヤを判定し、それに基づいて油圧アクチュエータAnの動作を制御するが、S22で当該変位センサSEnが故障したと判定されるとき、以降、当該変位センサSEnの出力に代え、第1、第2の回転数センサ116,120の出力を用いて油圧アクチュエータAnあるいはピストン(油圧アクチュエータ)PSnの動作を制御することとする。
次いでS24に進み、S14の処理と同様、指令値を減算して出力する。
次いでS26に進み、S16の処理と同様、ニュートラル判定を行い、否定される度にS24に戻り、上記した処理を繰り返す一方、S26で肯定されて算出された差回転dNが第3の所定値dNnを超える判定されたときはS18に進み、指令値を零にする、換言すれば当該ピストンPSnへの油圧の供給を終了する。
尚、S26で否定されてS24に戻って指令値を減算するとき、図7に実線で示す如く、S14の場合に比して指令値が短時間で減少するように算出する。これは、差回転からアウトギヤと判定した場合、既にある程度変位した状態であり、S14の場合と同程度の減少速度にすると、ニュートラル判定が遅れる恐れがあるからである。
この実施例にあっては上記した如く、車両に搭載されたエンジンEの駆動軸10に接続されて前記エンジンの駆動力を入力する入力軸(第1副入力軸20、第2副入力軸22)と、出力軸(第1出力軸24、第2出力軸26)と、前記入力軸に配置される複数個のドライブギヤ(30,32,・・・)と、前記出力軸に配置されると共に、前記ドライブギヤと噛合する複数個のドリブンギヤ(42,44・・・)と、前記入力軸または出力軸において前記複数個のドライブギヤまたは前記複数個のドリブンギヤの間に軸方向に初期位置(ニュートラル位置)から変位可能に配置され、変位するとき、前記複数個のドライブギヤのいずれかまたは前記複数個のドリブンギヤのいずれかと係合して前記入力軸から入力される駆動力を前記出力軸に伝達するシンクロ装置Snと、流体圧(油圧)を供給されるとき、前記シンクロ装置を変位可能な流体圧アクチュエータ(ピストン)PSnと、前記入力軸の回転数を示す信号を出力する第1の回転数センサ(第2の回転数センサ116,第3の回転数センサ120)と、前記出力軸の回転数を示す信号を出力する第2の回転数センサ(第4の回転数センサ122)と、前記シンクロ装置の変位を示す信号を出力する変位センサSEnと、少なくとも前記変位センサの出力を用いて前記流体圧の供給を調整して前記流体圧アクチュエータの動作を制御する制御手段(シフトコントローラ110)とを備えた自動変速機Tの制御装置において、前記制御手段は、前記第1、第2の回転数センサの出力に基づいて前記入力軸と出力軸の差回転dNを算出する差回転算出手段(S20)を備え、前記流体圧アクチュエータに流体圧を供給したときの前記変位センサの出力Xと前記算出された差回転dNに基づいて前記変位センサの故障を判定する(S10からS26)と共に、前記油圧アクチュエータ(ピストン)PSnに流体圧(油圧)を供給して前記シンクロ装置Sn、より具体的にはそのスリーブドグクラッチを前記ドライブギヤまたはドリブンギヤ、より具体的にはドリブンギヤのドグクラッチと係合させた後、前記初期位置(ニュートラル位置)に向けて復帰、より具体的には対向する油圧アクチュエータ(ピストン)PSnに油圧を供給して初期位置(ニュートラル位置)に向けて復帰させるときの変位センサSEnの出力Xが第1の所定値Xout未満となるか否か判定し(S12)、前記変位センサの出力Xが前記第1の所定値未満となる前に前記算出された差回転dNが第2の所定値dNoutを超えるとき、前記変位センサが故障したと判定する(S20,S22)如く構成したので、自動変速機Tにおいて変位センサSEnに断線などの故障(フェール)が生じたときも、それを速やかに判定(検知)することができる。さらに、変位センサSEnの出力と通常設置される第2、第3回転数センサ116,120の出力から変位センサSEnの故障を判定するようにしたので、他に検出用のセンサを設置する必要がなく、構成が簡易となる。
また、前記制御手段は、前記変位センサSEnが故障したと判定するとき、前記変位センサの出力に代え、少なくとも前記第1、第2の回転数センサ(116,120)の出力を用いて前記流体圧アクチュエータ(ピストン)PSnの動作を制御する(S22)如く構成したので、上記した効果に加え、変位センサSEnが故障したときも、流体圧アクチュエータPSnの動作の制御を続行することができる。
また、前記制御手段は、前記算出された差回転dNが第3の所定値dNnを超えたとき、前記油圧アクチュエータ(ピストン)PSnへの流体圧の供給を終了する(S26,S18)如く構成したので、上記した効果に加え、供給すべき油圧を必要最小限に止めることができると共に、シンクロ装置Sn、より具体的にはそのスリーブドグクラッチが両側のドリブンギヤの他方、より具体的にはそのドグクラッチに誤って係合するなどの不都合が生じることがない。
尚、上記において、この発明をデュアル・クラッチ・トランスミッション型の自動変速機を例にとって説明したが、それに止まるものではなく、この発明は変速によってインギヤした際に湿式クラッチやシンクロ装置などの断接機構の差回転によってフリクションが生じ、アウトギヤ時にそのフリクションによって差回転が連れ回りで同期するような構成を備える自動変速機であれば、妥当する。
また、変位センサSEnのいずれかが故障したと判定されるとき、以降、その変位センサSEnに関しては、その出力に代えて第1、第2の回転数センサ116,120の出力を用いて油圧アクチュエータAnの動作を制御するように構成したが、いずれかのセンサが故障したと判定された時点で全てのセンサの出力に変えて回転数センサの出力を用いて制御するようにしても良い。