以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、表面処理シミュレーション装置について主に説明するが、表面処理シミュレーションによって得られる結果を用いて表面処理プロセスを制御できるので、その内容はそのまま表面処理装置用制御装置に適用できる。また、表面処理装置と、表面処理装置用制御装置を含んで表面処理システムとして構成することもできる。
また、以下では、表面処理装置の例として、シリコン単結晶のエピタキシャル成長装置を説明するが、これは例示である。ここでは、適当な反応ガス等の原料流体を基板上に供給して、基板上に半導体層や絶縁膜、導電体層等を形成し、あるいは、基板の表面をエッチングし、あるいはクリーニング処理し、あるいはコーティング材料を形成する表面処理装置であってもよい。
また、以下では、シリコン単結晶成長のために、表面処理用の原料流体として、SiHCl3+H2の混合物としての反応ガスを説明するが、これは表面処理装置の例示の都合上このようになったものであって、表面処理の内容に応じ、他の種類の反応ガスであってもよい。また、他の液体等の原料流体であってもよい。例えば、噴霧状のエッチング液、レジスト液等であってもよい。また、以下では、基板を加熱してシリコン単結晶成長させることを説明するが、これは表面処理の一例であって、基板の加熱、非加熱にかかわらず、回転する基板に表面処理用原料流体を供給して、基板上に膜を生成する表面処理であればよい。
なお、以下で説明する材料、寸法、形状、温度、流量等は説明のための例示であって、表面処理の内容に応じ、適宜変更が可能である。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
最初に、本発明の基礎となるポンプ効果について、上記の非特許文献1に従って説明し、その後、本発明の実施の形態の表面シミュレーション装置の構成と作用等について説明する。
上記のように、非特許文献1は、境界層理論の教科書であって、その第5章に、ナビエ・ストークス方程式の厳密解の例がいくつか述べられ、その中に、回転する円板の周囲の流れについて以下のように説明されている。
すなわち、流体中で、平板面に垂直な軸の周りに一定角速度ωで回転する円板の周囲の流れについて、円板近傍の流れは摩擦を介して運ばれ、遠心力で外周側に流される3次元流れである。3次元としては、円板のr方向を径方向、円板の外周の接線方向であるφ方向を周方向、円板の平板面に垂直方向であるz方向を軸方向とし、それぞれの方向の速度をu,v,wとする。
そして、最初に、無限の大きさの回転平面を考えることで、円板の有限の直径D=2Rの端部効果を無視でき、円板の対称性から、ナビエ・ストークス式は、式(1)で与えられる。
ここで、pは圧力、ρは流体の密度、νは流体の動粘性係数である。なお、流体の静粘性係数をμとして、μ=ρνの関係がある。
図1に、一定角速度ωで回転する円板50についてのr,φ,z,u,v,wの方向と、流体の流れを模式的に示す。ここで、ポンプ効果とは、円板50が回転することで流体が円板50から軸方向に吸い上げられることであるので、特に軸方向であるz軸52に符号が付されている。
図1の状態で、壁にすべりがないとして、式(1)に関する境界条件は式(2)で与えられる。
ここで、回転する円板50によって運ばれる流体の層の厚さδを見積もる。この厚さδは、円板50の表面において表面処理に寄与する境界層の厚さと考えることができる。例えば、半径rのところの要素における遠心力と剪断力とのバランスを考えることで、δは式(3)で近似できる。
そこで、式(4)のように、円板50からのz軸52に沿った距離zをこのδで無次元化することができる。
つまり、式(5)で示される無次元数で円板50から垂直方向の距離を示すことにする。
この無次元数を用いて速度u,v,wと圧力pを書き直すと式(6)のようにできる。
これらの式を式(1)に適用して、速度u,v,wと圧力pに対応する項を無次元化した関数F,G,H,Pで書き直すと、4つの連立常微分方程式(7)となる。
式(7)の最初の近似解は、数値積分によって得ることができる。その結果が図2に示される。図2の横軸は式(5)で示されるように、δを単位とする無次元距離ζで、縦軸は、F,G,Hである。ここで、F,G,Hは、それぞれ円板50の径方向、周方向、軸方向のζについての速度分布を示すことになる。すなわち、図2は、ζについての径方向速度分布、周方向速度分布、軸方向速度分布を示す図である。
図2の結果から、ポンプ効果による流体の軸方向速度wを示すHは、軸方向に沿った距離zが円板50に近づくにつれ小さくなって円板50の表面でゼロになることが分かる。換言すれば、流体は軸方向に沿って円板50の表面に吸い込まれるように流れる。この現象がいわゆるポンプ効果と呼ばれるものに相当することになる。
このことから、上記の理論計算通りのδを形成するには、zが∞のときの流体の軸方向速度wを計算値通りとすればよいことが分かる。つまり、zが∞のときの流体の軸方向速度w(∞)に見合うように、流体の流量を設定することで、円板50の表面にδの厚さで流体が流れることができる。したがって、ポンプ効果の理論通りの流れとするには、図2で示されるw(∞)の速度に、流路に垂直な面の面積Aを乗じた流量Q=Aw(∞)を回転する円板50の真上から供給してやればよいことが分かる。
また、図2の結果で、ポンプ効果による流体の径方向速度uを示すFは、円板50の表面でゼロであるが、軸方向に沿った距離zが円板50から離れるに従って次第に増大し、さらに円板50から遠くなると再びゼロに戻るような最大速度u(max)を有する速度分布を有することが示されている。つまり、円板50の外周から径方向に流体が流れ出しているが、その軸方向の範囲は、図2の例では、無次元距離ζで4程度であることが分かる。
このことから、上記の理論計算通りのδを形成するには、円板50の外周側の流出口の形状が、この円板50の外周から径方向に流体が流れ出す軸方向の範囲と干渉しないようにすることが必要であることが分かる。干渉すると、理論通りの流体流出流れとならず、理論計算通りの境界層流れが確保できなくなる。また、円板50の外周側の流出口の形状の径方向についても、u(max)を確保できる余裕が必要であることが分かる。径方向に流出口の寸法が狭いと、径方向に流れ出す流体の障害となって理論計算通りの流体流れとならず、理論計算通りの境界層流れが確保できなくなる。
このように、非特許文献1に述べられるポンプ効果の理論計算から、縦型回転式表面処理装置における最適流量を求める道筋が分かり、その装置形状、特に流路形状に対する影響の程度を求める道筋が分かる。
図3は、ポンプ効果の理論計算の結果を利用して、縦型回転式表面処理装置10の最適流量を求める表面処理シミュレーション装置20の構成を説明する図である。
ここで、縦型回転式表面処理装置10は、シリコンエピタキシャル成長装置であり、円筒状の周囲壁を形成する筐体部12の内部に円板状の試料保持台14が設けられる構成を有する装置である。円板状の試料保持台14の上には、図示されていない試料保持機構によってシリコン単結晶を成長させる基板16としてのシリコンウェファを保持することができる。
また、円板状の試料保持台14は図示されていない加熱機構によって所定の温度に加熱することができる。さらに、円板状の試料保持台14は、図示されていないモータ等の回転機構によって円板平面に垂直な回転軸回りに角速度ωで回転することができる。円板平面に垂直な回転軸は、円筒状の筐体部12の中心軸でもある。
基板16に対し、エピタキシャル成長を行わせるための原料流体18としての反応ガスは、この中心軸の方向に沿って、図示されていないガス供給機構によって、基板16の上方から下方に向かって供給される。ここでは、反応ガスは、SiHCl3+H2の混合ガスを用いることができる。
表面処理シミュレーション装置20は、シミュレーションの演算処理を実行するCPU30と、シミュレーションのためのパラメータ等を入力する入力部32と、シミュレーションの結果を出力する出力部34と、ポンプ効果モデルを用いて原料流体18の速度分布を算出するモデル算出プログラム36を記憶する記憶部38とを含んで構成され、これらの要素は、内部バスで相互に接続される。かかる表面処理シミュレーション装置20は、数値演算に適したコンピュータで構成することができる。
なお、内部バスに通信制御部40を備えることで、CPU30と縦型回転式表面処理装置10と通信回線等で接続する構成をとることができる。その場合には、通信制御部40を介して縦型回転式表面処理装置10の装置パラメータ、原料流体パラメータ等をCPU30が取得し、CPU30の最適流量設定値等の計算結果を縦型回転式表面処理装置10に伝達することができる。すなわち、表面処理シミュレーション装置20の基本構成のまま、これを縦型回転式表面処理装置10の表面処理装置用制御装置21として構成することができる。
記憶部38は、上記のようにポンプ効果モデルを用いて原料流体18の速度分布を算出するモデル算出プログラム36が格納されるが、このモデル算出プログラム36は、図1、図2で説明した基本モデルを縦型回転式表面処理装置10に適合するように改良された内容を有している。
すなわち、図1、図2の基本モデルでは等温条件の流れを仮定しているが縦型回転式表面処理装置10では、基板16を高温に加熱し、均一な結晶成長を行わせている。そこで、基板16が加熱されることによる境界層内の温度分布を考慮し、非等温条件の流れとして、図1、図2の基本モデルを拡張した改良モデルに基づくモデル算出プログラム36が用いられる。
具体的には、式(1)を拡張した連立方程式(9)を用い、式(2)に代わる式(10)を境界条件としたモデル算出プログラムが格納される。
ここで、半径方向、周方向、軸方向の速度u,v,w及び圧力pは式(5)の無次元距離ζで無次元化され、温度TはΦで無次元化されている。
また、λを熱伝導率、cを熱容量として、fは原料流体18の流入時のときの値に対する原料流体18の具体的な局所の位置における値の比を示し、f ρ は流入時と局所の密度比、f λ は流入時と局所の熱伝導率比、fcは流入時と局所の熱容量比をそれぞれ示す。また、Prはプラントル数で、定圧比熱をcPとして、Pr=ν/{λ/(ρ×c P )}で表される量である。また、添え字の∞は、原料流体18の流入状態を示し、添え字のwは、シリコンウェハである基板16の表面での状態を示している。
このように、モデル算出プログラム36は、図1、図2の基本モデルについて、温度分布を考慮した非等温流れの局部的特性を示すように拡張した改良モデルに基づいて、ポンプ効果による各速度分布を求めることができるプログラムである。
なお、このモデル算出プログラム36に基づいて算出されるF,G,Hは、基本的に図2で説明したものと定性的に同様な特性を示す。すなわち、ポンプ効果による流体の軸方向速度wを示すHは、軸方向に沿った距離zが基板16に近づくにつれ小さくなって基板16の表面でゼロになる。また、ポンプ効果による流体の径方向速度uを示すFは、基板16の表面でゼロであるが、軸方向に沿った距離zが基板16から離れるに従って次第に増大し、さらに基板16から遠くなると再びゼロに戻るような最大速度u(max)を有する速度分布を有する。
図3に戻り、CPU30は、表面処理パラメータを入力する取得するパラメータ取得処理部42と、取得された表面処理パラメータを、モデル算出プログラム36に適用して、加熱されている基板16に対する原料流体18の速度分布を算出するモデル算出処理部44と、加熱されている基板16に対する原料流体18の軸方向速度分布の算出データと装置パラメータとに基づいて、加熱されている基板16上に生成される表面処理の均一性のために最適な原料流体流量を算出する最適流量算出処理部46と、加熱されている基板16に対する原料流体18の径方向速度分布の算出データと装置パラメータとに基づいて、最適流量を補正する流量補正処理部48を含んで構成される。
これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、表面処理シミュレーションプログラムを実行することで実現できる。必要に応じ、これらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
かかる構成の作用、特にCPU30の各機能について、以下に図4から図13を用いて詳細に説明する。図4は、縦型回転式表面処理装置10について最適流量を設定する手順を示すフローチャートである。図5から図9は、図4において対応する手順の内容を説明するための図である。図10から図12は、流量設定が適切な場合と不適切な場合についての流れの様子を説明する図である。図13は、流量設定が適切な場合と不適切な場合について、表面処理である結晶成長処理の均一性との関係を説明する図である。
図4は、上記のように、最適流量を設定する手順を示すフローチャートである。表面処理シミュレーションプログラムを立ち上げ初期化が行われた後、まず、入力部32から表面処理パラメータを入力して、これを取得することが行われる(S10)。この工程は、CPU30のパラメータ取得処理部42の機能によって実行される。
表面処理パラメータとしては、表面処理装置の形状に関する装置パラメータと、原料流体18の特性に関する原料流体パラメータとが含まれる。前者は、縦型回転式表面処理装置10の形状、寸法等に関するパラメータである。特に、原料流体18の流れる流入口、流出口について、ポンプ効果の軸方向速度分布、径方向速度分布に影響を与える部分の形状、寸法等に関するものが含まれる。後者は、原料流体18であるSiHCl3+H2の混合ガスの特性パラメータで、μ、ρ、ν、λ、cP等が含まれる。また、操作パラメータとして、温度T、角速度ω等も取得される。
なお、図3で説明したように、通信制御部40を介して表面処理シミュレーション装置20あるいは表面処理装置用制御装置21が縦型回転式表面処理装置10と接続されるときは、これらの表面処理パラメータは、縦型回転式表面処理装置10の表面処理の進行と共にリアルタイムで取得するものとできる。
次に、記憶部38に格納されているモデル算出プログラム36が読み出される。そして、S12で取得された表面処理パラメータを、このモデル算出プログラム36に適用してポンプ効果モデルの算出が行われる(S12)。この工程は、CPU30のモデル算出処理部44の機能によって実行される。具体的には、5元連立方程式である式(9)を式(10)の境界条件の下で解き、図2で説明したような速度分布を算出することが行われる。
なお、fρ,fλ,fc等は、予め先行実験あるいは文献等の値を参考にして設定することができる。また、添え字∞が付されているパラメータについては、基板16から十分離れた流入口における値が用いられる。
このようにして原料流体18について加熱された基板16の周辺における速度分布がポンプ効果モデルに基づいて求められると、これに基づいてポンプ効果流量の算出が行われる(S46)。この工程は、CPU30の最適流量算出処理部46の機能によって算出される。
ここでは、図2と同様な特性として算出されるH特性において、無次元距離ζ=∞、すなわち、z=∞とした値を求め、これを軸方向速度w(∞)として算出する。このようにして算出されたw(∞)は、ポンプ効果モデルの理論計算によるδの厚さで原料流体18を流すときの流入口における速度に対応するものである。
この軸方向速度z(∞)に、流路に垂直な面の面積Aを乗じることで、理論計算のポンプ効果通りのδが形成される流量が求められる。この流量は、流路に垂直な面の面積に着目したときの最適流量で、後述する流出口形状による補正を行う前の最適流量に相当する。図5と図6に、縦型回転式表面処理装置10の流入口の流路形状に応じてどのように流路に垂直な面の面積Aを設定すれば理論計算のポンプ効果通りのδが形成される流量となるか、の例を示す。
図5、図6では、試料保持台14、基板16、原料流体18の流入口をいずれも円形とし、試料保持台14の直径をD、原料流体18の流入口の直径をdとしてある。これは説明の一例であって、表面処理が行われる表面の面積A1と原料流体18の流入口の断面積A2との大小関係が大事であるので、以下の説明では、これらの形状に関わらず、A1とA2の関係を用いて説明する。
図5は、密閉式と呼ばれる縦型流路形状の場合で、試料保持台14の表面積A1=πD2/4に比べて、原料流体の流入口の断面積A2=πd2/4が小さい場合である。このときには、軸方向速度z(∞)にA1を乗じて得られる流量Q=A1×w(∞)を、原料流体の供給流量として最適なものとして設定する。仮に、軸方向速度z(∞)にA2を乗じて得られる流量を設定すると、基板16の表面でポンプ効果通りの速度分布が得られないことになる。
図6は、開放式と呼ばれる縦型流路形状の場合で、試料保持台14の表面積A1=πD2/4に比べて、原料流体の流入口の断面積A2=πd2/4が大きい場合である。このときには、軸方向速度z(∞)にA2を乗じて得られる流量Q=A2×w(∞)を、原料流体の供給流量として最適なものとして設定する。仮に、軸方向速度z(∞)にA1を乗じて得られる流量を設定すると、基板16の表面でポンプ効果通りの速度分布が得られないことになる。
このように、流路に垂直な面の面積に着目したときに、ポンプ効果通りの流れを実現するための最適流量としては、軸方向速度w(∞)に、加熱された基板16の表面積A1または表面処理装置における原料流体の流入口の断面積A2のいずれか大きい方の面積Aを乗じた値であるQ=A×w(∞)を用いることが必要である。
図7は、非等温条件の流れについてのポンプ効果モデルに基づいて算出されたQ=A×w(∞)の様子を温度と角速度を変化させて示す図である。横軸はウェハ表面における温度Tw、縦軸は任意単位で示されるQ=A×w(∞)で、パラメータは角速度ωに対応する毎分当りの回転数である。ここで示されるように、流路に垂直な面の面積に着目した最適流量は、角速度ωが大となるほど大流量となり、ウェハ表面の温度が高温となるほど小流量となる。
再び図4に戻り、S14によって流路に垂直な面の面積に着目して最適流量が算出されると、次に、流路形状補正を行った最適流量算出が行われる(S16)。この工程は、CPU30の流量補正処理部48の機能によって実行される。実際には、原料流体の流出側の流路形状に応じて、S14で算出された最適流量の増減補正が行われる。
図8は、密閉式の筐体部12における流出側の流路形状の例を説明する図である。縦型回転式表面処理装置10においては、原料流体18が回転する基板16の上方からその表面に向かって供給され、遠心力によって基板16の表面に沿って流れて、その外周端部から径方向に流出流体19として流出する。したがって、縦型回転式表面処理装置10の流出口の流路形状としては、図8に示すように、試料保持台14の表面から軸方向に沿ってhだけ隙間を開け、試料保持台14の外周端から径方向に沿ってS(edge)だけ隙間を開けたものが用いられる。
ここで、h、S(edge)について試料保持台14を基準としているが、図5、図6に関連して説明したように、ポンプ効果を発揮させるべき基板16の直径と試料保持台14の直径に大差がなく、また、基板16の厚さはhに比べほとんど無視できる位薄いので、基板16の形状に代えて、縦型回転式表面処理装置10に固有の形状である試料保持台14の形状で代表させたものである。したがって、h、S(edge)をそれぞれ、基板16の表面からの距離、基板16の外周端からの距離としてもよい。
このhとS(edge)が不適切であると、ポンプ効果モデルによって算出される径方向速度分布に影響を与えることがある。図9は、試料保持台14または基板16の外周端における径方向速度であるuについて、軸方向にどのような分布を有するかを示す図である。図2に関連して説明したように、径方向の速度uに対応するFの分布特性は、基板16の表面でゼロであるが、zが基板16から離れるに従って次第に増大し、さらに基板16から遠くなると再びゼロに戻るような最大速度u(max)を有する。
したがって、適当な閾値速度を設定すると、閾値速度を超える流れは、軸方向にある幅を有することになる。換言すれば、軸方向に沿ってある高さの幅の範囲で、閾値速度を超える流れが、基板16の外周端から径方向に流出して流出流体19となる。この流出流体19の最大速度はu(max)である。図9では、この径方向に流出する流れの軸方向に沿った高さの幅の範囲をh0として示されている。
図8と図9とを参照することで、縦型回転式表面処理装置10の流出側の流路形状は次のようにすることが好ましいことが分かる。すなわち、hは、h0と同じが好ましい。仮に、hがh0よりも大きいと、流出口の断面積が過大であるので、流出流体19が逆流する恐れがある。したがって、このような場合は、逆流を防止できるように、S14で算出された最適流量を補正して、余分に流量を増やすことが好ましい。
また、S(edge)は、径方向に流出する流出流体19が筐体部12の内壁に突き当たる距離であるので、u(max)に応じた寸法であることが好ましい。すなわち、u(max)が大きいときはS(edge)を大きくすることが好ましい。u(max)の大きさに比べてS(edge)が小さすぎて流出流体19が筐体部12の内壁に激しく突き当たると、流出した流出流体19が逆流する恐れがある。したがって、このような場合は、逆流を防止できるように、S14で算出された最適流量を補正して、余分に流量を増やすことが好ましい。逆流が生じるようなu(max)とS(edge)の関係は、流れ場のシミュレーションを別途事前に行うことで求めることができる。
このようにして、縦型回転式表面処理装置10の流出側の流路形状に応じ、S14で流路に垂直な面の面積に着目して算出された最適流量Q=Aw(∞)が補正される。補正された結果は、流路に垂直な面の面積と流出口形状を考慮した上で、ポンプ効果モデルに見合った流量となるので、これを、実際の表面処理における補正済み最適流量として設定する(S18)。
図10から図12は、別途構築した流れシミュレーションプログラムを用いて、縦型回転式表面処理装置10の基板16の外周端と流出口周辺の原料流体18の流れ場を解析した様子を示す図である。図10は、設定流量が最適条件に比べ過少の場合、図11は、設定流量が最適条件の場合、図12は、設定流量が最適条件に比べ過大の場合である。ここで最適条件とは、図4で説明した各手順に従って、流路に垂直な面の面積と流出口形状について補正済みの最適流量とした条件である。
図10に示されるように、設定流量が最適条件に比べ2/3と過少の場合には、基板16の外周端から一旦流出した流出流体19が逆流し、基板16の外周部で流れが乱れて、ポンプ効果通りの流れとなっていないことが分かる。この状態から設定流量を増加させて最適条件とすると、図11に示されるように、基板16の表面の流れが均一化され、ポンプ効果通りの流れとなっている。
さらに設定流量を増加させ、最適条件の1.5倍とすると、図12に示されるように、流出部の入口付近に流出流体19の余分な部分が集中して流れの詰まり現象が生じ、基板16の外周部で流れが部分的に不均一となり、ポンプ効果通りの流れとならなくなる。
図13は、縦型回転式表面処理装置10において、実際にエピタキシャル成長処理を行い、その結晶成長速度のウェハ上の分布を解析した結果を示す図である。ここでは、設定流量を最適条件に対し、50%と75%の場合を比較例として示されている。図13に示されるように、設定流量が最適条件より過少であると、ウェハ外周側で結晶成長速度が小さくなる。これは、図10で説明したように、流出流体19の逆流が生じ、既反応ガスが排出されずにウェハ外周側に戻され、その結果、ウェハ外周側で結晶成長のために供給されるべき原料流体18の濃度が低下するためと考えられる。
図14は、縦型回転式表面処理システム100の構成を説明する図である。縦型回転式表面処理システム100は、縦型回転式表面処理装置10と表面処理装置用制御装置21とを備える。ここで縦型回転式表面処理装置10は、回転する基板16にほぼ垂直方向に表面処理用の原料流体18を供給して、その後基板16の表面に沿って流体を流して基板16に対し表面処理を行うものである。具体的には、縦型回転式表面処理装置10は、半導体ウェハあるいは絶縁体ウェハ等の基板に、半導体層をエピタキシャル成長させるエピタキシャル装置である。
縦型回転式表面処理装置10は、円筒状の周囲壁を形成する筐体部12の内部に円板状の試料保持台14が設けられる構成を有する装置である。なお、図14には、縦型回転式表面処理装置10の構成要素ではないが、表面処理としてのシリコン単結晶エピタキシャル成長処理の対象としての基板16が図示されている。基板16は、シリコンウェハを用いることができる。
筐体部12は、試料保持台14の上の試料である基板16を外部から隔離しながら、表面処理用の原料流体18である原料ガスを基板16に供給し、使用済み流体である流出流体19を外部に導き出す機能を有する反応容器である。
筐体部12において試料保持台14の上方側に設けられる円筒状部分102は、試料保持台14の上の試料である基板16に対し原料流体18を供給する原料流体供給流路部である。
筐体部12において試料保持台14の側方に設けられ、円筒状部分102から見ると末広がりとなっている流路部は、流出流路部104である。流出流路部104は、試料保持台14の上方から試料である基板16に向かって縦型流として供給される原料流体18が基板16の表面に沿って流れながら基板16に対し表面処理を行った後に使用済み流体である流出流体19として試料保持台14の側方の流出口を経由して流出させる機能を有する流路である。流出流路部104の形状等の詳細については後述する。
筐体部12の円筒状部分102に接続される供給部110は、シリコン単結晶エピタキシャル成長処理のための原料流体18としての反応ガスを、一定の圧力と一定の流量で供給する機能を有するガス供給装置である。反応ガスとしては、SiHCl3+H2の混合ガスを用いることができる。
筐体部12の流出流路部104に接続される排出部112は、流出流路部104から導かれる流出流体19を適当な排出無害化処理を施して外部に排出する機能を有する排出処理装置である。排出部112には、使用済みガスを外部に導きやすくするための排出ポンプ等を含むことができる。排出無害化処理としては、希釈処理を用いることができ、また、流出流体19に含まれる有害成分を沈殿反応等によって取り除く除去処理等を用いることができる。
試料保持台14は、表面処理対象の試料である基板16を保持し、これを加熱しながら回転する機能を有する回転体である。試料保持台16は上面を平坦としてその平坦面の上に基板16が配置される。あるいは、試料保持台16の上面に基板16を位置決めするくぼみを設け、そのくぼみの中に基板16を配置するものとしてもよい。試料保持台14は、下方側に凹部を有する天井付き円筒状の部材で、上面側に、基板16をしっかりと保持するための試料保持機構を有し、下方側の凹部の中にヒータ106が収納される。試料保持機構としては、ウェハ外形に合わせたくぼみを設けるものを用いることができ、そのほかに、機械的にウェハ外周等を固定する機構、真空でウェハを吸引して固定する機構等を用いることもできる。なお、試料保持機能は試料保持台14と共に回転するが、ヒータ106は回転しない。
回転部114は、試料保持台14を回転中心軸の周りに予め設定された角速度ωで回転駆動する機能を有する回転機構である。回転中心軸は、試料保持台14の表面に垂直で、天井付き円筒形状の中心軸とすることができる。また、回転中心軸は、筐体部12の円筒状部分102の中心軸とできるだけ同軸となるようにすることが好ましい。かかる回転部114としては、電動機と、試料保持台14の天井付き円筒形状の外周と電動機とを接続するための動力伝達機構を用いることができる。動力伝達機構としては、歯車機構、ベルト機構等を用いることができる。
加熱部116は、試料保持台14の内部に収容されて保持されるヒータ106を通電制御して、基板16を予め定めた反応温度とするための加熱制御装置である。加熱制御には、ヒータ106の温度を検出する温度センサのデータに基づいて行うことができる。
試料保持台14の外周に設けられる保護リング108は、試料保持台14が回転する際の外周の保護等の機能を有する外側配置部材である。
表面処理装置用制御装置21は、縦型回転式表面処理装置10の動作について、主として図3で既に説明した内容の制御を行う装置である。具体的には、供給部110におけるガス供給装置の動作を制御して流量等を設定し、排出部112における排出処理装置の動作を制御して流出流体19を排出させ、回転部114における回転機構の動作を制御して、角速度ωで試料保持台14を回転させ、加熱部116におけるヒータ106の通電制御によって試料保持台を所定の温度に維持する機能を有する。
そして、図3に関連して説明したように、表面処理装置用制御装置21は、演算処理を行うCPU30と、演算処理のためのパラメータ等を入力する入力部32と、演算処理の結果を出力する出力部34と、縦型回転式表面処理装置10とネットワークあるいは適当な通信線で接続するための通信制御部40と、ポンプ効果モデルを用いて原料流体18の速度分布を算出するモデル算出プログラム36を記憶する記憶部38とを含んで構成される。ここで、記憶部38の流量−ばらつき関係56と、流量−逆流侵入長関係58と、ばらつき−逆流侵入長関係59は、図3に関連して説明した内容に追加されるファイルである。これらの要素は、内部バスで相互に接続される。かかる表面処理装置用制御装置21は、数値演算に適したコンピュータで構成することができる。
そして、図3に関連して説明したように、CPU30は、表面処理パラメータを入力する取得するパラメータ取得処理部42と、取得された表面処理パラメータを、モデル算出プログラム36に適用して、加熱されている基板16に対する原料流体18の速度分布を算出するモデル算出処理部44と、加熱されている基板16に対する原料流体18の軸方向速度分布の算出データと装置パラメータとに基づいて、加熱されている基板16上に生成される表面処理の均一性のために最適な原料流体流量を算出する最適流量算出処理部46と、加熱されている基板16に対する原料流体18の径方向速度分布の算出データと装置パラメータとに基づいて、最適流量を補正する流量補正処理部48を含んで構成される。また、最適流量より少ない流量であって、逆流の影響等を考慮しつつ生産性の観点から許容できる生産性流量設定処理部54を含む。この生産性流量設定処理部54は、記憶部38の流量−ばらつき関係56と流量−逆流侵入長関係58とばらつき−逆流侵入長関係59とに基いて、生産性の観点から許容できる生産性流量設定を行う機能を有し、図3に関連して説明した内容に追加される機能である。
そして、これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、表面処理シミュレーションプログラムを実行することで実現できる。必要に応じ、これらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
図3等で説明したように、表面処理装置用制御装置21のパラメータ取得処理部42、モデル算出処理部44、最適流量算出処理部46、流量補正処理部48の機能によって、最適流量を設定し、あるいは流量補正処理をすることができる。そして、これらの機能によって、図13で説明したように、縦型回転式表面処理装置10において、ばらつきがほとんどない表面処理を行うことができる。図14の表面処理システム10の制御装置21は、これらの機能以外に、最適流量より少ない流量であっても、逆流の影響等を考慮しつつ生産性の観点から許容できる生産性流量を設定できる機能を有する。以下では、その内容について詳細に説明する。
設定流量が最適流量、あるいは最適流量から流量補正を行った補正後の流量よりも少ないと、逆流等が生じる。そして、その影響で、ウェハ内での結晶成長速度等がばらつく。その様子を模式的に図15、図16に示す。図15は、流量が最適流量に設定されたときの流れの様子で、基板16の全領域に渡って滑らかな流れとなっている。図16は最適流量よりも少ない流量に設定したときの様子で、基板16の端部において流れの逆流60が生じている。これによって、基板16の端部で表面処理のばらつきが生じることになる。
基板16において逆流60が生じる範囲が広いほど、基板16における表面処理のばらつきが大きくなることが予想される。そこで、基板16において生じる逆流60の程度を評価するために、逆流侵入長さhr *を以下のように定義する。すなわち逆流侵入長hr *=(hr−s)/(dw/2)である。
ここで、hrは、逆流60ではない流線の中で、最も外側の流線のX方向位置が最小となる位置を示すもので、図16に示すように、円筒状部分102の内壁から中心軸に向かって測った長さである。換言すれば、表面処理装置10の円筒状部分102における流出部端から流れ出す流線のX方向位置が最小となる位置の円筒状部分10の内壁からの距離がhrである。X方向は、図16に示すように、表面処理装置10の中心軸から外周側に向かう方向で、いわゆる径方向に相当する。表面処理装置10において円筒状部分102から供給された原料流体18が流出流体19として流出流路部104から排出部112に向かって流れ出すときの流線は、逆流60のX方向の位置の最小となる位置、つまり逆流60の内縁の外側を通る。したがって、この流線の中で、最も外側の流線のX方向位置が最小となる位置が逆流60の内縁を示すものとして扱うことができる。そして、この逆流60の内縁の位置を円筒状部分102の内壁から中心軸に向かって測ったhrによって、円筒状部分102の直径dに対する逆流60の範囲の大きさを評価することができる。
基板16における逆流60の侵入長さを評価するには、基板16の外周端からどの程度逆流60が侵入しているかを測ることが好ましい。sは、円筒状部分102の半径d/2と、基板16の半径dw/2の差である。したがって、(hr−s)は、基板16の外周端から逆流60が侵入した範囲を示している。逆流侵入長hd *は、この(hr−s)の大きさを、基板16の半径dw/2で規格化したもので、無次元数である。例えば、hr *=0.1とは、基板16の外周からその半径の10%の部分に当る範囲に逆流60が侵入していることを示す。
逆流侵入長hr *は、表面処理装置10の形状に関する装置パラメータと、原料流体の特性に関する原料流体パラメータを含む表面処理パラメータが与えられれば、シミュレーション計算によって求めることができる。図17には、シミュレーション計算によって求められた流量と逆流侵入長hr *との関係の一例が示されている。図17の横軸は、供給部110から円筒状部分102に流入された流入流量Qであり、流量Q0は、最適流量算出処理部46の機能によって求められた最適流量である。図17に示されるように、最適流量Q0においては、逆流侵入長hr *は0であるが、最適流量Q0より僅かに流量が少なくなっても逆流侵入長hr *は急増し、その後ほぼ一定値となった後、さらに流量が増加するに応じて逆流侵入長hr *が増加する。
図13で説明したように、流量が最適流量Q0から少なくなるに応じて、表面処理のばらつきが大きくなる。図13の場合では、結晶成長速度のばらつきが生じ、成長した膜厚にばらつきが生じる。流量と表面処理ばらつきの関係は、表面処理装置10を用いた実験等で求めることができる。図17には、その一例が、シミュレーション計算で求めた流量−逆流侵入長hr *の関係と関連付けて示されている。図17に示すように、流入流量Qが少なくなるほど、表面処理ばらつきである膜厚ばらつきΔtが大きくなる。
ところで、表面処理のばらつきがある程度許容できるならば、流量を最適流量Q0から少なくすることができることになる。例えば、図13において、仮に、結晶成長速度のばらつきが5%以内であることが実用上問題がないとすると、流量は、最適流量Q0よりも25%削減できる。実際にどの程度まで表面処理のばらつきが許容できるかは、表面処理の仕様によって異なるが、ばらつきの許容度を考慮することで、流量を最適流量Q0から少なくし、生産性を向上させることが可能となる。
図14に戻り、表面処理装置用制御装置21のCPU30は、生産性流量設定処理部54を備えている。上記のように、この生産性流量設定処理部54は、記憶部38の流量−ばらつき関係56と流量−逆流侵入長関係58とばらつき−逆流侵入長関係59とに基いて生産性の観点から許容できる生産性流量設定を行う機能を有する。
記憶部38は、上記のように、この生産性流量設定処理部54のために、流量−ばらつき関係56と、流量−逆流侵入長関係58とばらつき−逆流侵入長関係59とを記憶する。流量−ばらつき関係56は、図17に関連して説明したように、最適流量Q0よりも少ない任意の流量と表面処理の均一性に対するばらつき量との関係である流量−ばらつき関係のデータであり、予め実験等で求めておくことができる。また、流量−逆流侵入長関係58は、図17に関連して説明したように、最適流量Q0よりも少ない任意の流量と、基板16の上に生じる逆流の程度を示す逆流侵入長との関係である流量−逆流侵入長関係のデータであり、予めシミュレーション計算で求めておくことができる。
さらに、ばらつき−逆流侵入長関係59は、流量−ばらつき関係56と、流量−逆流侵入長関係58を用いて求められる関係データである。すなわち、図17に示すように、膜厚ばらつきΔtを与えたときに、これに対応する流量Qを介して、対応する逆流侵入長hr*を求める。このようにして膜厚ばらつきΔtと逆流侵入長hr *との関係を求めたものがばらつき−逆流侵入長関係59である。図18には、図17のデータに基いて計算されたばらつき−逆流侵入長関係のグラフが示されている。
このようにして、流量−ばらつき関係56と、流量−逆流侵入長関係58とばらつき−逆流侵入長関係59とが予め求められると、これらは、上記のようにそれぞれ記憶部38に記憶される。
図17、図18を用いて、生産性の観点から膜厚ばらつきΔtを許容範囲に維持しながら最適流量Q0よりも少ない流量で表面処理を行えることを説明できる。例えば、図17において、膜厚ばらつきΔtについて、生産性の観点から許容できる膜厚ばらつきである閾値ばらつきを(Δt)thとすると、流量−ばらつき関係から、閾値ばらつき(Δt)thに対応する流量が求められる。この流量を閾値流量Qthとすると、流入流量QがQth以上でQ0までの値であれば、膜厚ばらつき(Δt)は、生産性の観点から許容できる膜厚ばらつきである閾値ばらつき以下にできる。これを逆流侵入長hr *で見ると、閾値流量Qthに対応する逆流侵入長hr *を閾値逆流侵入長(hr *)thとして、逆流侵入長hr *が閾値逆流侵入長(hr *)th以下であれば、膜厚ばらつき(Δt)は、生産性の観点から許容できる膜厚ばらつきである閾値ばらつき以下にできる。つまり、膜厚ばらつきが実用的仕様に対し差し支えない場合には、閾値流量Qthを生産性流量Q1として設定することで、流入流量Qを最適流量Q0から閾値流量Qthまで削減でき、生産性が向上し、コストも低減できる。
図19は、生産性流量設定の手順を示すフローチャートである。これらの手順のうち、S20,S22,S24は、上記で説明したように、表面処理装置10の形状に関する装置パラメータと、原料流体の特性に関する原料流体パラメータを含む表面処理パラメータを与えて、表面処理装置10で実験を行い、あるいはシミュレーション計算を行い、その結果を記憶部38に記憶しておく手順である。S26,S30,S32,S34は、この記憶部38に記憶された結果を用いて、制御装置21の生産性流量設定処理部54の機能によって実行される手順に相当する。
最初に、実験により、流量−膜厚ばらつきの関係を導出する(S20)。膜厚ばらつきは、表面処理のばらつきの一例であるので、表面処理システムの目的に応じて適宜設定することができる。流量−膜厚ばらつき関係の一例は、上記の図17で説明したような関係図である。導出された流量−膜厚ばらつき関係は、流量−ばらつき関係56として、装置パラメータと原料流体パラメータをつけて、マップ、数式、ルップアップテーブル等の形式で記憶部38に記憶される。
S20と平行して、あるいはS20に前後して、シミュレーション計算により、流量−逆流侵入長の関係を導出する(S22)。逆流侵入長は、図17に関連して定義されたhr *を用いることができる。もっとも、図17で説明した逆流侵入長hr *=(hr−s)/(dw/2)は、基板16の上に生じる逆流の程度を示す値の一例であるので、これ以外の内容の逆流侵入長を定義しても構わない。例えば、無次元値とせずに、(hr−s)を逆流侵入長として定義してもよい。流量−逆流侵入長関係の一例は、上記の図17で説明したような関係図である。導出された流量−逆流侵入長関係58は、装置パラメータと原料流体パラメータをつけて、マップ、数式、ルップアップテーブル等の形式で記憶部38に記憶される。
このようにして、流量−ばらつき関係56のデータと、流量−逆流侵入長関係58が得られると、図17、図18に関連して説明したように、これらのデータから、ばらつき−逆流侵入長関係59が導出される(S24)。導出されたばらつき−逆流侵入長関係59は、マップ、数式、ルップアップテーブル等の形式で記憶部38に記憶される。
次に、生産性の観点から許容できる膜厚ばらつきである閾値ばらつき(Δt)thを定め、ばらつき−逆流侵入長関係59を記憶部38から読み出して、閾値ばらつき(Δt)thに対応する閾値逆流侵入長(hr *)thを算出する(S26)。閾値ばらつき(Δt)thは、生産性、つまり表面処理に期待される性能と、経済的な歩留まり等とを考慮して決定される。例えば、歩留まりが90%程度が経済的に必要で、その歩留まりに対応する膜厚ばらつきが±5%であり、その膜厚ばらつきであれば、表面処理に期待される性能が満たされるとして、それ以上の歩留まりを求めるとそれに対応する膜厚ばらつきでは性能が満足しないときには、閾値ばらつき(Δt)thが±5%とされる。そして、例えば、図18に示す関係図を用いることで、閾値逆流侵入長(hr *)thが算出される。
次に制御装置21は、最適流量算出処理部46の機能により、新たな運転条件のもとでの最適流量Q0を算出する(S30)。また、必要に応じ、流量補正処理部48の機能によって、流量補正を行う。これらの処理手順の内容は、図4で説明したものである。
そして、最適流量Q0の条件における逆流侵入長はゼロであるので、閾値逆流侵入長よりも短い。したがって、生産性の観点から定めることができる閾値逆流侵入長のもとでは、流量をこれより少なくすることができることが分かる。そこで、流量を最適流量Q0より少ない任意の値として、その値に対応する逆流侵入長をシミュレーションによって算出する(S32)。そして、算出される逆流侵入長が閾値逆流侵入長になるまで下げた流量を、生産性流量Q1として設定する(S34)。このようにして設定された生産性流量Q1は、図17で説明した閾値流量Qthと同じ値となる。このような手順によって、最適流量Q0のもとでは生じない逆流60について、生産性の観点から許容できる逆流侵入長を設定し、その逆流侵入長になるまで、流量を減少させることが可能となる。
図20は、生産性流量設定を行うことができる流量の範囲を説明する図である。図20の上方に示す関係図は、図17で説明した流量についての膜厚ばらつきΔtと逆流侵入長hr *の関係を示す図で、横軸が流量である。図20には、4つの流量について、それぞれ、基板16の上の流れの様子が示されている。流量が最適流量Q0に設定されるときは、基板16の上に逆流60は発生しない。これに対し、流量が最適流量Q0より少なくなると、逆流60が基板16の上に発生してくる。流量が生産性流量Q1よりも少ないと、逆流60は基板16の上にかなり侵入してきて、膜厚ばらつきΔtが大きくなる。流量が最適流量Q0より少ないが、生産性流量Q1より小さいときは、基板16の上に逆流60が発生するが、その逆流進入長は、生産性の観点から定められる閾値逆流侵入長より小さい。したがって、その範囲であれば、生じた逆流60は生産性の観点から許容できることになり、流量を最適流量Q0よりも少ない生産性流量Q1で実生産を行ってもよいことになる。
図20の4つの場合をそれぞれ(a),(b),(c),(d)とすると、流量が最適流量Q0である(a)の場合は、原料流体はスムーズに流出される。流量が最適流量Q0より大幅に少ない(b)の場合は、逆流60が基板16の上に到達し、基板16の外周部の原料流体の供給が不足し、これによって膜厚ばらつきが増大する。流量が生産性流量以下のときは、許容できる膜厚ばらつきを超えることとなる。
一方で、基板16の長手方向の長さは、試料保持台14の長手方向の長さ、筐体12の円筒状部分12の内径寸法よりも一般的に小さいので、円筒状部分12における流れの外周側で生じた逆流60が基板16にそのまま影響を与えるわけではない。流量が最適流量Q0から少なくても、その差が大きくないうちは、(c)に示されるように、逆流60の発生の規模が小さくて基板16に到達しないか、あるいは(d)に示されるように、逆流60が基板16に到達しても、膜厚ばらつきに与える影響が生産性の観点から許容できる範囲にとどまる程度となる。したがって、図20(c),(d)のように、流量が生産性流量Q1より多ければ、膜厚ばらつきが生産性の観点から許容できるので、流量を最適流量Q0から生産性流量Q1まで低減することができる。
なお、上記では、表面処理として結晶成長の場合を説明し、表面処理ばらつきを膜厚ばらつきとしたが、他の表面処理の例としてはエッチング処理がある。また、エッチング処理でなくても、薄膜・結晶成長の表面処理においても、表面反応による副生成物にエッチング効果を有する成分を含む場合がある。このように、エッチング効果を有する成分が逆流60となる場合でも、閾値逆流侵入長までは許容できるので、図19(d)のように逆流60が基板16の外周部分に到達することが許容され、これによって、基板16と試料保持台14との間の貼り付きを防止、あるいは貼り付きの問題を改善するものとできる。
このようにして、最適流量設定よりもさらに発展させて、生産性に適した生産性流量を設定することができる。場合によっては、ばらつきのほとんどない高品質表面処理と、生産性のよい生産性表面処理とを1つの縦型回転式表面処理装置10において使い分けることができる。