上記目的を達成するため、本発明の特徴は、平板環状に形成された芯金の表面に複数の摩擦材および同複数の摩擦材相互間の隙間によって芯金の内周側から外周側に亘って形成された複数の油溝を有するクラッチ摩擦板において、油溝は、摩擦材における芯金の周方向の幅より短い幅の複数の小溝からなる小溝群と、小溝群に対して芯金の周方向に隣接して配置され、芯金の内周側から外周側に向かって幅広に形成された扇状溝とを備え、小溝群は、小溝における芯金の内周側の端部が互いに隣接する小溝間で芯金の径方向における互いに異なる位置に形成されており、かつ同小溝における芯金の外周側の端部が互いに隣接する小溝間で芯金の径方向における互いに同一円周上の位置に形成されていることにある。
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ摩擦板、クラッチプレートおよびクラッチオイルを備えたクラッチ装置に用いられる前記クラッチ摩擦板は、クラッチ摩擦板における平板環状の芯金の表面に、同芯金の周方向の幅より短い幅の複数の小溝からなる小溝群と、この小溝群に対して芯金の周方向に隣接して配置されて芯金の内周側から外周側に向かって幅広に形成された扇状溝とを有している。そして、このクラッチ装置は、クラッチ摩擦板の回転時に、芯金の内周側に存するクラッチオイルを前記小溝群および扇状溝を介して芯金の内周側から外周側に導いている。これにより、本発明者らによる実験によれば、従来技術、すなわち、クラッチ摩擦板の表面に設けられる小片状の摩擦材の外周側の角部にR(曲線)加工または面取り加工したクラッチ摩擦板に比べて更に引き摺りトルクの低減が可能であることを確認した。
また、このように構成した本発明の特徴によれば、小溝群は、同小溝群を構成する小溝における芯金の内側の端部が、互いに隣接する小溝間で芯金の径方向における互いに異なる位置に形成されている。これにより、本発明者らによる実験によれば、小溝群を構成する小溝における芯金の内側の端部を互いに隣接する小溝間で芯金の径方向位置を揃えた場合に比べてより引き摺りトルクの低減が可能であることを確認した。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ摩擦板において、小溝群および扇状溝は、芯金の周方向に沿って5個以上ないし10個以下の数でそれぞれ形成されていることにある。この場合、前記クラッチ摩擦板において、小溝群および扇状溝は、芯金の周方向に沿って8個または10個の数でそれぞれ形成されているとよい。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ摩擦板における芯金表面に小溝群および扇状溝を5個以上ないし10個以下の数でそれぞれ形成している。これにより、本発明者らによる実験によれば、クラッチ摩擦板における芯金表面に小溝群および扇状溝を4個以下または11個以上設ける場合に比べてより引き摺りトルクの低減が可能であることを確認した。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ摩擦板において、小溝群は、小溝が2個以上かつ8個以下であることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、小溝群は、同小溝群を構成する小溝が2個以上かつ8個以下で構成されている。これにより、本発明者らによる実験によれば、2個の小溝を有するクラッチ摩擦板および8個の小溝を有するクラッチ摩擦板においてそれぞれ約−20%程度の引き摺りトルクの低減可能であるとともに、6個の小溝を有するクラッチ摩擦板においては約‐30%程度の引き摺りトルクの低減可能である。そして、4個の小溝を有するクラッチ摩擦板においては約‐40%程度の引き摺りトルクの低減可能である。また、本発明者らによる実験によれば、小溝群を構成する小溝を4個以上かつ6個以上設けた場合においては、3本以下、または7本以上で構成する場合に比べてより引き摺りトルクの低減が可能であることも確認した。
また、本発明は、クラッチ摩擦板の発明として実施できるばかりでなく、同クラッチ摩擦板を備えたクラッチ装置および同クラッチ装置の引き摺りトルク低減方法の発明としても実施できるものである。
例えば、クラッチ装置においては、請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したクラッチ摩擦板と、クラッチ摩擦板における摩擦材との間で押し当てまたは離隔される平板環状のクラッチプレートと、クラッチ摩擦板とクラッチプレートとの間に供給されるクラッチオイルとを備えて構成することができる。
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成を示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達または遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、アルミニウム合金製のハウジング101を備えている。ハウジング101は、有底円筒状に形成されており、クラッチ装置100の筐体の一部を構成する部材である。このハウジング101における図示左側側面には、入力ギア102がトルクダンパ102aを介してリベット102bによって固着されている。入力ギア102は、エンジンの駆動により回転駆動する図示しない駆動ギアと噛合って回転駆動する。ハウジング101における内周面には、複数枚(本実施形態においては8枚)のクラッチプレート103がハウジング101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同ハウジング101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。
クラッチプレート103は、後述するクラッチ摩擦板110に押し当てられる平板環状の部座であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのクラッチプレート103における各両側面(表裏面)には、後述するクラッチオイルを保持するための深さ数μm〜数十μmの図示しない油溝が形成されている。また、クラッチプレート103における油溝が形成された各両側面(表裏面)には、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。なお、この表面硬化処理については本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。
ハウジング101の内部には、略円筒状に形成された摩擦板ホルダ104がハウジング101と同心で配置されている。この摩擦板ホルダ104の内周面には、摩擦板ホルダ104の軸線方向に沿って多数のスプライン溝が形成されており、同スプライン溝にシャフト105がスプライン勘合している。シャフト105は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示右側)の端部側がニードルベアリング105aを介して入力ギア102およびハウジング101を回転自在に支持するとともに、前記スプライン勘合する摩擦板ホルダ104をナット105bを介して固定的に支持する。すなわち、摩擦板ホルダ104は、シャフト105とともに一体的に回転する。一方、シャフト105における他方(図示左側)の端部は、二輪自動車における図示しない変速機に連結されている。
シャフト105の中空部には、軸状のプッシュロッド106がシャフト105における前記一方(図示右側)の端部から突出した状態で貫通して配置されている。プッシュロッド106は、シャフト105における一方(図示右側)の端部から突出した端部の反対側(図示左側)が二輪自動車における図示しないクラッチ操作レバーに連結されており、同クラッチ操作レバーの操作によってシャフト105の中空部内をシャフト105の軸線方向に沿って摺動する。
摩擦板ホルダ104の外周面には、複数枚(本実施形態においては7枚)のクラッチ摩擦板110が前記クラッチプレート103を挟んだ状態で、摩擦板ホルダ104の軸線方向に沿って変位可能、かつ同摩擦板ホルダ104と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。
クラッチ摩擦板110は、詳しくは図2に示すように、平板環状の芯金111上に摩擦材112aおよび油溝115を備えて構成されている。芯金111は、クラッチ摩擦板110の基部となる部材であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を略環状に打ち抜いて成形されている。このクラッチ摩擦板110における前記クラッチプレート103に対向する側面、すなわち、芯金111におけるクラッチプレート103に対向する側面には、複数の小片状の摩擦材112aの集合で構成された摩擦材群112と、同複数の摩擦材112aによって形成される油溝115とがそれぞれ設けられている。なお、図においては、摩擦材112aにハッチングを施して示している(他の図においても同様)。
摩擦材112aは、前記クラッチプレート103に対する摩擦力を向上させるものであり、紙材を芯金111における環状部の径方向の幅に対応する長さの長辺からなる略長方形状に形成して構成されている。この摩擦材112aは、芯金111の内周側から外周側に亘って延びる方向に5つの摩擦材112aが所定の隙間を介して互いに平行に配置されて1つの摩擦材群112を構成している。また、互いに平行配置された摩擦材112a相互間の隙間は、摩擦材112aにおける芯金111の周方向の幅より短い幅に設定されており、これら互いに隣り合う摩擦材112aによって1つの小溝113aが形成されている。すなわち、1つの摩擦材群112内には、5つの摩擦材112aによって4つの小溝113aからなる1つの小溝群113が形成されている。
この摩擦材群112は、芯金111の周方向に沿って8つの摩擦材群112が所定の間隔を介してそれぞれ等間隔に配置されている。これにより、芯金111の表面には、摩擦材群112が略放射状に配置され形成されるとともに、互いに隣り合う摩擦材群112によって芯金111の内側から外側に向かって広がる8つの扇状溝114がそれぞれ形成される。この場合、互いに隣り合う摩擦材群112における芯金111の最も内側部分での隙間、換言すれば、扇状溝114の最内周側の幅は、摩擦材群112を構成する摩擦材112a相互間の隙間(換言すれば、小溝113aの幅)と同程度である。これら小溝群113および扇状溝114によって油溝115が形成されている。
また、芯金111の内周部には、摩擦板ホルダ104とスプライン勘合させるための内歯状のスプライン116が形成されている。なお、これらの各摩擦材112aは、接着剤によって芯金111上にそれぞれ貼り付けられている。また、摩擦材112aは、クラッチ摩擦板110とクラッチプレート103との摩擦力を向上させることができる素材で構成されていれば、紙材以外の素材、例えば、コルク材、ゴム材またはガラス材などを用いることもできる。
また、摩擦板ホルダ104の内部には、所定量のクラッチオイル(図示しない)が充填されているとともに、3つの筒状支持柱104aがそれぞれ形成されている(図においては1つのみ示す)。クラッチオイルは、クラッチ摩擦板110とクラッチプレート103との間に供給されてこれらのクラッチ摩擦板110とクラッチプレート103との間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材112aの摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ装置100は、所謂湿式多板摩擦クラッチ装置である。また、3つの筒状支持柱104aは、摩擦板ホルダ104の軸線方向外側(図示右側)に向って突出した状態でそれぞれ形成されており、摩擦板ホルダ104と同心の位置に配置された押圧カバー107がボルト108a,受け板108bおよびコイルバネ108cを介してそれぞれ組み付けられている。押圧カバー107は、クラッチ摩擦板110の外径と略同じ大きさの外径の略円板状に形成されており、前記コイルバネ108cによって摩擦板ホルダ104側に押圧されている。また、押圧カバー107の内側中心部には、プッシュロッド106における図示右側先端部に対向する位置にリレーズベアリング107aが設けられている。
(クラッチ装置100の作動)
次に上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものである。そして、車両の操作者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断が行われる。
すなわち、車両の操作者がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作してプッシュロッド106を後退(図示左側に変位)させた場合には、プッシュロッド106の先端部がリレーズベアリング107aを押圧しない状態となり、押圧カバー107がコイルバネ108cの弾性力によってクラッチプレート103を押圧する。これにより、クラッチプレート103およびクラッチ摩擦板110は、摩擦板ホルダ104の外周面にフランジ状に形成された受け部104b側に変位しつつ互いに押し当てられて摩擦連結された状態となる。この結果、入力ギア102に伝達されたエンジンの駆動力がクラッチプレート103、クラッチ摩擦板110、摩擦板ホルダ104およびシャフト105を介して変速機に伝達される。
一方、車両の操作者がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作してプッシュロッド106を前進(図示右側に変位)させた場合には、プッシュロッド106の先端部がリレーズベアリング107aを押圧する状態となり、押圧カバー107がコイルバネ108cの弾性力に抗しながら図示右側に変位して押圧カバー107とクラッチプレート103とが離隔する。これにより、クラッチプレート103およびクラッチ摩擦板110は、押圧カバー107側に変位しつつ互いに押し当てられて連結された状態が解除されて互いに離隔する。この結果、クラッチプレート103からクラッチ摩擦板110への駆動力の伝達が行われなくなり、入力ギア102に伝達されたエンジンの駆動力の変速機への伝達が遮断される。
このようなクラッチ摩擦板110とクラッチプレート103との押し当て状態または離隔状態におけるクラッチ摩擦板110の回転時においては、クラッチ摩擦板110の内周側に存するクラッチオイルはクラッチ摩擦板110の回転による遠心力の大きさに応じてクラッチ摩擦板110の外周側に変位する。この場合、クラッチ摩擦板110の内周側に存するクラッチオイルは、クラッチ摩擦板110における小溝113aおよび扇状溝113bを介してクラッチ摩擦板110の外周側に導かれる。これにより、本発明者らによる実験によれば、従来技術におけるクラッチ摩擦板に比べて引き摺りトルクが低減されることを確認した。
図3は、本発明者らによる実験結果を示しており、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、従来技術に係るクラッチ摩擦板210,220および本発明に係るクラッチ摩擦板110における各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。ここで、クラッチ摩擦板200は、図4に示すように、芯金201上に4つの長方形状の摩擦材202を油溝203aを介して互いに平行配置するとともに同4つの摩擦材202に隣接して略三角形状の摩擦材204を油溝203bを介して配置して構成した摩擦材群205を芯金201の周方向に沿って8組配置して構成したものである。
また、クラッチ摩擦板210は、図5に示すように、芯金211上に環状の摩擦材212を油溝を介することなく全面に設けて構成したものである。また、クラッチ摩擦板220は、図6に示すように、芯金221上に略長方形状の摩擦材における芯金221の外周側の2角を面取りした略5角形状の摩擦材222を芯金221の周方向に沿って放射状に油溝223を介して30個設けて構成したものである。
図3に示す実験結果によれば、本発明に係るクラッチ摩擦板110は、基準となるクラッチ摩擦板200に対して約−40%程度の引き摺りトルクの低減が可能である。このクラッチ摩擦板110の引き摺りトルクの低減率は、面取りを施した摩擦板222を備えるクラッチ摩擦板220の引き摺りトルクの低減率である約−12%に比べても極めて大きな低減率である。
また、一般に、クラッチ摩擦板とクラッチプレートとの間生じる引き摺りトルクの大きさは、クラッチ摩擦板に設けられた摩擦材の総面積に依存することが知られている。すなわち、クラッチ摩擦板に設けられた摩擦材の総面積の減少とともに引き摺りトルクも減少する。そして、前記図3に示す実験においては、クラッチ摩擦板200の摩擦材202の総面積を「1」とした場合、クラッチ摩擦板220の摩擦材222の総面積は「0.95」であり、クラッチ摩擦板110の摩擦材112aの総面積は「0.85」である。
すなわち、図3に示す実験結果によれば、引き摺りトルクの大きさは、クラッチ摩擦板に設けられる摩擦材の総面積に加えて、同摩擦材の配置位置や形状および同摩擦材の配置位置や形状によって規定される油溝の配置位置や形状にも依存すると言える。そして、本発明に係るクラッチ摩擦板110は、従来のクラッチ摩擦板200,220に対する面積減少量に対応する引き摺りトルクの減少量以上の大幅な引き摺りトルクの減少を、摩擦材112aの配置位置や形状および摩擦材112aの配置位置や形状によって規定される油溝113の配置位置や形状の工夫によって実現したものである。
また、図7は、本発明者らによる実験結果を示しており、クラッチ摩擦板110において小溝群112を設ける効果を確認するために、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、小溝112を備えないクラッチ摩擦板230と小溝112を備えるクラッチ摩擦板110とにおける各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。ここで、クラッチ摩擦板230は、図8に示すように、芯金231上に同芯金231の周方向に延びる略長方形状の摩擦材232を芯金231の周方向に沿って放射状に扇状溝233を介して8個設けて構成したものである。この場合、クラッチ摩擦板230における摩擦材232の大きさは、本発明に係るクラッチ摩擦板110における摩擦材112aと小溝113aとをすべて摩擦材112aで構成した大きさに等しい。また、クラッチ摩擦板230における油溝233の大きさは、本発明に係るクラッチ摩擦板110における扇状溝114の大きさに等しい。
図7に示す実験結果によれば、基準となるクラッチ摩擦板200に対して本発明に係るクラッチ摩擦板110は、引き摺りトルクが約−40%程度低減している一方で、小溝112aを設けないクラッチ摩擦板230の引き摺りトルクはクラッチ摩擦板200の引き摺りトルクに対して約5%上昇している。すなわち、本発明に係るクラッチ摩擦板110は、油溝115が小溝群113および扇状溝114で構成されることによる相乗効果によって引き摺りトルクの低減を実現していると言える。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ摩擦板110、クラッチプレート103およびクラッチオイルを備えたクラッチ装置100は、クラッチ摩擦板110における平板環状の芯金111の表面に、同芯金111の周方向の幅より短い幅の複数の小溝113aからなる小溝群113と、この小溝群113に対して芯金111の周方向に隣接して配置されて同芯金111の内周側から外周側に向かって幅広に形成された扇状溝114とを有している。そして、このクラッチ装置100は、クラッチ摩擦板110の回転時に、芯金111の内周側に存するクラッチオイルを小溝群113および扇状溝114を介して芯金111の内周側から外周側に導いている。これにより、上記したように、本発明者らによる実験によれば、従来技術、すなわち、クラッチ摩擦板の表面に設けられる小片状の摩擦材の外周側の角部にR(曲線)加工または面取り加工したクラッチ摩擦板(クラッチ摩擦板220)に比べて更に引き摺りトルクを低減することが可能である。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態におけるクラッチ摩擦板110と同様の構成部分にはクラッチ摩擦板110に付した符号に対応する符号を付して、その説明は省略する。
例えば、上記実施形態においては、クラッチ摩擦板110において油溝115を構成する扇状溝114は、芯金111の最内周側から外周側に向かって幅広になるように形成した。しかし、本発明者らによる実験によれば、扇状溝114は、芯金111の最内周部から外周部に向かって延びるとともに、最内周部と最外周部との略中間位置から最内周部までの範囲内の位置から外周部に向かって幅広に形成されていれば引き摺りトルクの実質的な低減が可能である。例えば、図9には、芯金111の最内周部から外周部に向かって延びるとともに、最内周部と最外周部との略中間位置から外周部に向かって幅広に形成した扇状溝124を有するクラッチ摩擦板120を示している。この図9に示したクラッチ摩擦板120においては、本発明者らによる実験によれば、上記基準となるクラッチ摩擦板200の引き摺りトルクに対して約‐20%の引き摺りトルクの低減が可能である。この実験結果によれば、扇状溝114は、芯金111の最内周側から外周側に向かって幅広に形成する程、引き摺りトルクの低減効果が大きいものと考えられる。
また、上記実施形態においては、芯金111の周方向に沿って8個の摩擦材群112を略均等に放射状に配置することにより、同芯金111上にそれぞれ8個ずつの小溝群113および扇状溝114を配置した。しかし、小溝群113および扇状溝114の数は、上記実施形態に限定されるものではなく、7個以下または9個以上配置することもできる。この場合、本発明者らによる実験によれば、小溝群113および扇状溝114の数は、5個以上ないし10個以下が好適であると考えられる。
図10は、本発明者らによる実験結果を示しており、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、それぞれ4個、8個および10個の小溝群133,123,143および扇状溝134,124,144を備えたクラッチ摩擦板130,120,140における各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。この場合、クラッチ摩擦板130は、図11に示すように、小溝群133および扇状溝134をそれぞれ4個ずつ備えて構成されている。また、クラッチ摩擦板140は、図12に示すように、小溝群143および扇状溝144をそれぞれ10個ずつ備えて構成されている。なお、各扇状溝134,124,144は、各芯金131,121,141の最内周部から外周部に向かって延びるとともに、最内周部と最外周部との略中間位置から外周部に向かって幅広に形成されている。
図10に示す実験結果によれば、基準となる従来のクラッチ摩擦板200の引き摺りトルクに対して、クラッチ摩擦板130の引き摺りトルクは若干の低減効果が認められる一方で、クラッチ摩擦板120,140における引き摺りトルクはそれぞれ約‐20%程度および約‐10%程度引き摺りトルクが低減している。これらの結果から、芯金111上に配置する小溝群113および扇状溝114の数は、好ましくは5個以上ないし10個以下、より好ましくは8個が好適であると考えられる。
また、上記実施形態においては、小溝群113を5個の摩擦材112aによって4個の小溝113aで構成した。しかし、小溝群113を構成する小溝113aの数は、上記実施形態に限定されるものではなく、3個以下または5個以上であってもよい。この場合、本発明者らによる実験によれば、小溝群113を構成する小溝113aの数は、4個ないし5個が好適であると考えられる。
図13は、本発明者らによる実験結果を示しており、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、それぞれ2個、4個,6個,8個の各小溝153a,113a,163a,173aで構成される小溝群153,113,163,173を備えたクラッチ摩擦板150,110,160,170における各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。この場合、クラッチ摩擦板150は、図14に示すように、2個の小溝153aで構成された小溝群153を備えて構成されている。また、クラッチ摩擦板160は、図15に示すように、6本の小溝163aで構成された小溝群163を備えて構成されている。また、クラッチ摩擦板170は、図17に示すように、8本の小溝173aで構成された小溝群173を備えて構成されている。
図13に示す実験結果によれば、2個の小溝153aを有するクラッチ摩擦板150および8本の小溝173aを有するクラッチ摩擦板170においてそれぞれ約−20%程度の引き摺りトルクの低減可能であるとともに、6個の小溝163aを有するクラッチ摩擦板160においては約‐30%程度の引き摺りトルクの低減可能である。そして、4個の小溝113aを有するクラッチ摩擦板110においては約‐40%程度の引き摺りトルクの低減可能である。これらの結果から、小溝群113を構成する小溝113aの数は、好ましくは2個以上かつ8個以下、より好ましくは4個以上かつ6個以下が好適であると考えられる。
なお、図17は、クラッチ摩擦板210,230,150,110,160,170における各引き摺りトルクの増減率(丸印)と摩擦材212,232,152a,112a,162a,172aの総面積(四角印)とをグラフ化したものである。図17によれば、クラッチ摩擦板150,110,160,170において摩擦材152a,112a,162a,172aが略同じであるにも関わらず、引き摺りトルクの増減率には大きな差異認められる。このことからも、前記した通り、引き摺りトルクの大きさは、クラッチ摩擦板に設けられる摩擦材の総面積に加えて、同摩擦材の配置位置や形状および同摩擦材の配置位置や形状によって規定される油溝の配置位置や形状にも依存すると言える。
また、上記実施形態においては、小溝群113を構成する各小溝113aにおける芯金111の内周側端部は、互いに同一円周上に位置するように揃えて配置した。しかし、本発明者らによる実験によれば、小溝群113を構成する各小溝113aにおける芯金111の内周側端部を、互いに隣接する小溝113a間で芯金111の径方向における互いに異なる位置に形成することにより、更に、引き摺りトルクの低減効果が可能であることを見出した。
図18は、本発明者らによる実験結果を示しており、従来技術に係るクラッチ摩擦板200を基準として、上記実施形態に係るクラッチ摩擦板110およびクラッチ摩擦板180における各引き摺りトルク(Nm)の増減率をグラフ化したものである。この場合、クラッチ摩擦板180は、図19に示すように、クラッチ摩擦板180における小溝群183を構成する4つの小溝183aにおける芯金181の内周側端部を芯金111の周方向に沿って千鳥状に配置することにより、互いに隣接する小溝183a間で芯金181の径方向における互いに異なる位置に形成して構成されている。
図18に示す実験結果によれば、基準となるクラッチ摩擦板200の引き摺りトルクに対して上記実施形態におけるクラッチ摩擦板110の引き摺りトルクの低減率を上回る約−50%近い引き摺りトルクの低減が可能であることを確認した。
また、上記実施形態においては、クラッチ装置100は、複数のクラッチプレート103およびクラッチ摩擦板110を備えて構成されている。しかし、クラッチ装置100は、少なくとも1枚ずつのクラッチプレート103およびクラッチ摩擦板110を備えていればよく、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。