JP5493446B2 - 光学異方膜の製造方法、及びラビング処理方法 - Google Patents
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Description
前記光学異方膜は、例えば、リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液を基材上に塗工し(溶液流延法)、この塗膜を硬化させる方法により得ることができる。
方法1:塗工液に加わる剪断力によって、リオトロピック液晶性化合物を配向させる(特許文献1)。
方法2:基材から塗膜を剥離した後、前記塗膜を延伸することにより、リオトロピック液晶性化合物を配向させる(特許文献2)。
方法3:基材に光活性分子層(光配向膜)を形成し、この光配向膜の表面にリオトロピック液晶性化合物を塗工することにより、リオトロピック液晶性化合物を配向させる(特許文献3)。
方法4:基材にラビング処理を行うことにより、配向規制力を有する表面を形成し、この基材表面に塗工液を塗工することにより、リオトロピック液晶性化合物を配向させる(特許文献4)。
一方、ラビング処理(方法4)は、比較的簡便に実施できることから、従来から多用されている。
前記基材表面に配向規制力が付与される原理は、明確ではないが、一般には、下記(1)〜(3)のように考えられている。
(1)ラビング処理によって基材表面に物理的な溝が形成される。(2)ラビング処理によって基材表面の分子が延伸されて配向する。(3)ラビング処理によって基材表面に静電気(電気的な異方性)が生じる。
(a)ラビング処理後の基材表面に、異物(例えば製造ライン中の搬送ローラ)が接触する。(b)ラビング処理後の長尺状の基材を、一旦ロールにしてこれを運搬又は保管する。(c)ラビング処理後の長尺状の基材の裏面に、保護フィルムを貼り合わせる。
上記(a)〜(c)などの諸点に起因して、一度ラビング処理された基材表面の配向規制力が、その表面の一部又は全部において減少又は消失することがある(以下、「減少又は消失」を「減衰」という)。配向規制力が減衰した基材表面に、前記塗工液を塗工しても、リオトロピック液晶性化合物が良好に配向しない。
本発明の第2の目的は、基材表面に十分な配向規制力を付与できるラビング処理方法を提供することである。
好ましくは、前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う、又は、加熱処理を行った基材表面を室温にまで冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う。
加熱処理した基材表面にラビング処理を行うと、基材表面に十分な配向規制力を付与できる原理は、明確ではないが、本発明者らは、次のように推定している。
ラビング処理は、ラビング布を用いて、基材表面を所定方向に擦る処理である。この処理時には、ラビング布と基材表面の間に摩擦が生じる。この摩擦によってラビング布の撚れ及び/又はラビング布の繊維の脱落などが発生する。このため、基材表面にラビング処理を単に行うだけでは、基材表面に配向規制力を十分に付与できない。一方、本発明のように加熱処理を行うと、前記摩擦を低減でき、ラビング布の撚れ及びラビング布の繊維の脱落などを抑制できる。よって、本発明によれば、十分な配向規制力を有する基材を形成できる。
また、好ましい製造方法のように、加熱処理が行われた後、冷ました基材表面にラビング処理を行うと、基材表面に十分な配向規制力を付与できる。十分な配向規制力を有する基材表面にリオトロピック液晶性化合物を含む塗工液を塗工することにより、リオトロピック液晶性化合物が良好に配向した光学異方膜を得ることができる。
本発明の他の好ましい製造方法は、前記ラビング工程におけるラビング処理が、親水性材料を含むラビング布を用いて前記基材表面を擦る処理である。
本発明の他の好ましい製造方法は、前記ラビング工程の後、塗工工程の前に、基材表面に親水化処理を行う親水化工程をさらに有する。
本発明の他の好ましい製造方法は、前記リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液が、リオトロピック液晶性化合物が溶解された水溶液である。
本発明のラビング処理方法は、基材表面にラビング処理を行うプレ−ラビング工程と、
前記プレ−ラビング後の基材表面に加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱処理を行った基材表面にラビング処理を行うラビング工程と、を有する。
好ましくは、前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う、又は、加熱処理を行った基材表面を室温にまで冷ました後、基材表面にラビング処理を行う。
本発明のラビング処理方法は、少なくとも下記加熱工程及びラビング工程を有する。
加熱工程:前記基材表面に加熱処理を行う工程。
ラビング工程:前記加熱処理を行った前記基材表面にラビング処理を行う工程。
親水化工程:前記ラビング処理された基材表面に親水化処理を行う工程。
塗工工程:前記親水化処理を行った基材表面にリオトロピック液晶性化合物を含む塗工液を塗工する工程。
乾燥工程:前記塗工工程によって形成された塗膜を乾燥し、光学異方膜を得る工程。
本工程は、必要に応じて行われる。本発明の光学異方膜の製造方法及びラビング処理方法は、ラビング工程を行うことによって基材表面に十分な配向規制力を付与できる。このため、本工程(プレ−ラビング工程)を行ってもよいし、或いは、これを行わなくてもよい。
プレ−ラビング工程は、後述するラビング工程と同様な方法で行ってもよいし、或いは、後述するラビング工程とは異なっていてもよい。
基材は、塗工液を略均一に展開でき且つこの塗工液の支持体となり得るものであれば、特に限定されない。基材は、透明性に優れているものが好ましい。
例えば、基材としては、ポリマーフィルムなどのフィルム、ガラス板などが挙げられる。ロールツーロールによって連続的にラビング処理できることから、基材は、フィルムであることが好ましい。
基材がフィルムである場合、その表面が親水性であるフィルム(全体が親水性材料で形成されたフィルム及び表面に親水化処理が施されているフィルムを含む)でもよいし、疎水性のフィルム(全体が疎水性材料で形成されたフィルム及び表面に疎水化処理が施されているフィルムを含む)でもよい。なお、親水性及び疎水性の意味については、後述する。プレ−ラビング処理を良好に行えることから、表面が疎水性であるフィルムを用いることが好ましい。
前記基材の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系;ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系;などが挙げられる。プレ−ラビング処理を良好に行えることから、基材は、オレフィン系フィルムが好ましい。前記オレフィン系フィルムとしては、例えば、日本ゼオン(株)製の「ゼオノア[登録商標]」、JSR(株)製の「アートン[登録商標]」などを用いることが好ましい。
基材の厚みは、その材質等に応じて適宜に設計される。基材がポリマーフィルムである場合、その厚みは、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
尚、前記長尺状の基材とは、縦寸法が横寸法よりも十分に長いフィルムを意味する。前記長尺状の基材の長さは、例えば、100m以上であり、好ましくは300m以上であり、より好ましくは1000m以上である。前記長尺状の基材は、ロール状に巻かれていてもよい。
本工程は、基材表面に加熱処理を行う工程である。
プレ−ラビング工程が行われる場合には、プレ−ラビング処理された基材の表面に加熱処理を行う。
プレ−ラビング工程が行われない場合には、上記[プレ−ラビング工程]の欄で例示した基材を適宜選択し、その基材表面に加熱処理を行う。
図1に示すように、長尺状の基材1が巻かれたロール10を、処理ラインの端部にセットする。前記ロール10から基材1を引き出し、搬送ローラ(図示せず)を介して搬送し、前記基材1をラインの途中に設けられた加熱装置2に通過させる。加熱装置2を通過している間に、基材表面1aが加熱される。
加熱処理の手段(加熱装置)は、特に限定されず、熱風が装置内を循環し得る熱風循環式乾燥機、遠赤外線などを利用したヒーター、加熱されたローラ、ヒートパイプローラなどが挙げられる。基材の表面全体を略均一に加熱できることから、熱風循環式乾燥機を用いることが好ましい。
前記加熱処理の時間は、特に限定されないが、好ましくは1分〜10分であり、より好ましくは2分〜5分である。加熱処理の時間が1分未満である場合、加熱処理を行った効果を十分に奏しない。一方、加熱処理の時間が10分を超える場合、基材が収縮などするおそれがある。
前記疎水性及び親水性の違いは、例えば、基材表面の水の接触角によって区別できる。
例えば、前記加熱処理によって基材表面は、その水の接触角が加熱処理前に比して、10%以上上昇し、好ましくは15%〜80%上昇し、より好ましくは20%〜60%上昇する。
ただし、この上昇割合(%)は、式:{(加熱処理後の基材表面の接触角−加熱処理前の基材表面の接触角)/加熱処理後の基材表面の接触角}×100により求められる。
また、前記接触角は、固液界面解析装置(協和界面科学(株)製、製品名:Drop Master300)を用いて測定できる(測定条件:液滴0.5μl。滴下後5秒間経過後における静的接触角測定。温度23℃)。
本工程は、加熱処理後の基材表面にラビング処理を行う工程である。
前記ラビング処理は、加熱処理によって高温状態となっている基材表面に対して行ってもよいし、或いは、加熱処理後、室温まで冷めた状態の基材表面に対して行ってもよい。
図1において、加熱処理後の基材1を、搬送ローラ(図示せず)を介して、加熱装置2の後方側に設けられたラビング装置3に導く。前記基材1がラビング装置3を通過している間に、その表面1aがラビング処理される。
前記ラビング装置3は、一対の駆動ローラ31,32と、前記駆動ローラ31,32の間に架設された無限軌道の搬送ベルト33と、前記搬送ベルト33の上方において上下方向に昇降可能に設けられたラビングローラ34と、前記搬送ベルト33の下面を支持し且つラビングローラに対向配置された複数のバックアップローラ35と、を有する。
なお、ラビング装置3の前後には、必要に応じて、静電気除去装置や除塵装置などが設置されていてもよい。
前記ラビング布としては、例えば起毛布を用いることができる。
前記ラビング布としては、親水性材料(例えば、親水性繊維)を含む布を用いることが好ましく、さらに、親水性材料(例えば、親水性繊維)を含む起毛布を用いることがより好ましい。前記親水性材料としては、分子中に極性基(例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基等)を有する化合物が挙げられる。前記親水性材料の具体例としては、例えば、レーヨン、コットン、アセテート、ナイロン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
前記プレ−ラビング工程が行われる場合、前記ラビング工程におけるラビングローラの軸角度は、プレ−ラビング工程におけるラビングローラの軸角度と略同じに設定することが好ましい。
ラビング強度を800mm以上に設定することにより、仮に、基材にブロッキングが生じていても、基材表面に略均一な配向規制力を付与できる。
ただし、前記ラビング強度は、下記式で定義される。
式:RS=N・M(1+2πr・nr/v)
前記RSは、ラビング強度を表す。前記Nは、ラビング回数(ラビングローラの個数に相当する。図1に示す例では、ラビング回数は1である)を表す。前記Mは、ラビングローラの基材表面に対する押し込み量(mm)を表す。前記πは、円周率を表す。前記rは、ラビングローラ(ラビング布を含む)の半径(mm)を表す。前記nrは、ラビングローラの回転数(rpm)を表す。前記vは、基材の搬送速度(mm/sec)を表す。
前記プレ−ラビング工程が行われない場合、基材表面に十分な配向規制力を新たに付与できる。
ラビング処理は、ラビング布を用いて、基材表面を所定方向に擦る処理である。この処理時には、ラビング布と基材表面の間に摩擦が生じる。この摩擦によってラビング布の撚れ及び/又はラビング布の繊維の脱落などが発生する。特に、親水性材料を含むラビング布を用いて、親水性の基材表面を擦った場合、ラビング布の撚れや繊維の脱落が生じ易い。しかし、基材表面に加熱処理を行うと、ラビング布と基材表面の間の摩擦を低減できる。この摩擦の低減は、加熱処理によって基材表面が疎水化されること又はその他の要因による結果と推定している。
従来のように基材表面にラビング処理を単に行うだけでは、基材表面に配向規制力を十分に付与できない。本発明のようにラビング処理に先立って加熱処理を行うと、摩擦の低減によってラビング布の撚れや繊維の脱落を抑制でき、基材表面の所定方向に十分な配向規制力を付与できる。基材表面への十分な配向規制力の付与は、この基材上に塗工される塗工液中のリオトロピック液晶性化合物を良好に配向させることを可能にする。
リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液を基材上に塗工して光学異方膜を製造する方法においては、十分な配向規制力を有する基材の使用が特に重要である。
本工程は、必要に応じて行われる。
特に、リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液が水溶液である場合、親水化処理を行うことが好ましい。前記加熱工程によって基材表面が疎水化されているため、親水化処理を行うことにより、前記基材表面を親水性に変えることができる。基材表面を親水化することにより、リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液(水溶液)が基材表面から弾かれることがなく、前記塗工液を基材表面に良好に塗工できる。
図2に示すように、ラビング処理後に巻き取られた基材1のロール11を、塗工ラインの端部にセットする。前記ロール11から基材1を引き出し、搬送ローラ(図示せず)を介して搬送し、親水化処理装置4に通過させる。親水化処理装置4を通過している間に、基材表面1aが親水化される。
なお、水の接触角の測定方法は、上述と同様である。
前記親水化処理としては、任意の適切な方法が採用され得る。親水化処理としては、例えば、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、及びグロー放電処理などの放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理および電子線処理などの電離活性線処理などが挙げられる。湿式処理としては、例えば、水やアセトンなどの溶媒を用いた超音波処理、アルカリ処理、アンカーコート処理などが挙げられる。これらの処理は、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合せて用いてもよい。好ましくは、前記親水化処理は、コロナ処理、プラズマ処理、アルカリ処理、又はアンカーコート処理である。
本工程は、前記ラビング工程後(又は必要に応じて行われる親水化工程後)の基材表面に、塗工液を塗工する工程である。前記塗工液は、リオトロピック液晶性化合物が溶媒に溶解された液である。
図2において、基材1の表面1aの上に、塗工液5を載せ、コータ装置6(例えば、バーコータ)を移動させながら、塗膜7を形成する。
リオトロピック液晶性化合物とは、溶媒に溶解させた溶液状態で、溶液の温度や濃度などを変化させることにより、等方相−液晶相の相転移を起こす性質(リオトロピック液晶性)を有する化合物を意味する。また、等方相とは、巨視的な光学的性質が方向により異ならない(光学的異方性を示さない)状態の相を意味する。
前記リオトロピック液晶性化合物は、溶液状態で液晶相を示し、超分子を形成する性質を有する。前記超分子の構造は、特に限定されず、球状構造、柱状構造、管状構造のようなミセル構造;ラメラ構造;などが挙げられる。前記リオトロピック液晶性化合物の液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
リオトロピック液晶性化合物としては、円盤状構造を有する化合物が好ましく、柱状構造の超分子を形成し得る化合物がより好ましい。
また、リオトロピック液晶性化合物は、可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収を示すものであってもよいし、示さないものであってもよい。可視光領域で吸収を示すリオトロピック液晶性化合物を用いて形成される光学異方膜は、偏光フィルムとして利用できる。また、可視光領域で吸収を示さないリオトロピック液晶性化合物を用いて形成される光学異方膜は、位相差フィルムとして利用できる。
尚、偏光フィルムとは、自然光または偏光から特定の直線偏光を透過する機能を有する光学フィルムである。また、位相差フィルムとは、その面内及び/又は厚み方向に複屈折(屈折率の異方性)を示す光学フィルムである。かかる位相差フィルムは、例えば、波長590nmにおける面内及び/又は厚み方向の複屈折率が、1×10−4以上であるものを含む。
位相差フィルムを形成するリオトロピック液晶性化合物は、好ましくはキノキサリン系化合物である。
キノキサリン系化合物は、その分子構造中にキノキサリン誘導体単位を含むリオトロピック液晶性化合物である。前記キノキサリン系化合物は、より好ましくは、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み、特に好ましくは、−SO3M基及び−COOM基の少なくとも何れか一方を有するアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含む。
リオトロピック液晶性化合物の溶解に用いられる溶媒は、特に制限はない。
一般的な溶媒は、疎水性溶媒と親水性溶媒に大別することができる。
疎水性溶媒としては、ジエチルエーテルなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサンなどの環式炭化水素類;テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;ケトン類;炭素数が6以上の高級アルコール類等を例示できる。
親水性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの第1級アルコール類;イソプロパノール、イソブタノールなどの第2級アルコール類;tert−ブタノールなどの第3級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどのジオール類;ポリエチレングリコールなどのポリオール類;ピリジン、イミダゾールなどの環状アミン類;テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン等を例示できる。
これら溶媒は、1種単独で、または2種以上混合して使用してもよい。
特に好ましくは、水単独、又は、水と水以外の上記親水性溶媒との混合溶媒が用いられる。また、水を用いる場合、その水は、好ましくはその電気伝導率が20μS/cm以下であり、より好ましくは0.001μS/cm〜10μS/cmである。電気伝導率が前記範囲の水を用いることによって、厚みバラツキが小さく、基材上に略均一に広がった塗膜を形成できる。
塗工液は、前記リオトロピック液晶性化合物を前記溶媒に溶解させることによって調製できる。
塗工液中のリオトロピック液晶性化合物の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。前記濃度が1質量%未満であると、所定の光学特性を有する光学異方膜を得るために、塗工液を非常に厚く塗工しなければならなくなる。このため、塗工液の塗工時、液流れや塗工斑などを生じるおそれがある。前記濃度が50質量%を超えると、塗工液の粘度が高くなり、塗工液を基材表面に略均一に塗工できないおそれがある。尚、前記濃度は、1種類のリオトロピック液晶性化合物を用いた場合はその単体の濃度を意味し、2種類以上のリオトロピック液晶性化合物を用いた場合は各化合物の合計の濃度を意味する。
また、塗工液の粘度は、好ましくは、0.1mPa・s〜30mPa・sであり、より好ましくは、0.5mPa・s〜3mPa・sである。ただし、粘度は、レオメーター(Haake社製、製品名「レオストレス600」、測定条件:ダブルコーンセンサー shear rate 1000(1/s))で測定した値である。
上記塗工液のpHは、好ましくは4〜10、より好ましくは6〜8である。
添加剤の添加量は、好ましくは、塗工液100質量部に対し、0を超え10質量部以下である。
好ましくは、塗工液は、長尺状の基材の搬送方向に流延させながら塗工される。
また、塗工液の流延速度は、特に限定されないが、100mm/min以上であり、好ましくは500mm/min〜8000mm/minである。前記流延速度であれば、厚みバラツキの小さい塗膜を形成できる。
塗工後、リオトロピック液晶性化合物は、基材表面の配向規制力によって所定方向に配向する。
本工程は、塗工工程で形成された塗膜を乾燥する工程である。
塗膜は、通常、多量の溶媒を含んでいるため、このままでは光学異方膜として用いることができない。このため、これを乾燥してリオトロピック液晶性化合物の配向を固定することによって、適切な光学異方膜を得ることができる。
前記乾燥方法は、自然乾燥でもよいし、強制的な乾燥でもよい。強制的な乾燥には、乾燥装置が用いられる。自然乾燥の場合には、乾燥装置を用いず、基材を搬送している間に塗膜が乾燥する。好ましくは、乾燥方法は自然乾燥である。自然乾燥であれば、特に厚みバラツキのない光学異方膜を得ることができる。
前記乾燥温度は、前記塗膜中のリオトロピック液晶性化合物の液晶相が移相しない範囲内であれば特に制限はない。前記乾燥温度は、例えば10℃〜80℃であり、好ましくは20℃〜60℃である。
前記塗膜の乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって適宜選択される。前記乾燥時間は、例えば、1秒〜120分であり、好ましくは10秒〜5分である。
乾燥後の塗膜(光学異方膜)の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1nm〜500nmであり、より好ましくは10nm〜400nmである。
本発明の製造方法は、上記のようにして得られた光学異方膜に、耐水化処理を行う工程を有していてもよい。
具体的には、光学異方膜の表面(基材表面に接する面とは反対側の面)に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる。前記溶液を接触させることにより、前記光学異方膜の表面に、前記化合物塩の層が形成される。このような化合物塩の層を形成することにより、光学異方膜の表面を水に対して不溶化又は難溶化させることができる。
本発明の製造方法は、上述の耐水化工程や保護フィルムの積層工程以外に、他の工程を有していてもよい。
本発明の製造方法によって得られる光学異方膜は、前記リオトロピック液晶性化合物の種類などに応じて異なるものの、代表的には、偏光フィルム又は位相差フィルムの性質を有する。
前記偏光度及び単体透過率は、下記実施例に記載の測定方法によって求めることができる。
前記位相差値の測定装置としては、例えば、王子計測機器株式会社製の製品名「KOBRA−WPR」などが挙げられる。
本発明の製造方法によって得られる光学異方膜の用途は、特に限定されない。
本発明の光学異方膜が偏光フィルムの性質を有する場合、これに位相差フィルムを積層することにより、偏光板を構成できる。前記位相差フィルムは、本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムを用いてもよいし、従来公知の位相差フィルムを用いてもよい。
また、本発明の光学異方膜が位相差フィルムの性質を有する場合、これに偏光フィルムを積層することにより、偏光板を構成できる。前記偏光フィルムは、本発明の製造方法によって得られる偏光フィルムを用いてもよいし、従来公知の偏光フィルムを用いてもよい。また、前記各偏光板は、任意の保護フィルムが積層されていてもよい。
本発明の光学異方膜は、通常、基材から剥離せず、基材上に積層された状態で使用される。もっとも、前記光学異方膜は、前記基材から剥離して使用することもできる。前記基材は、光学異方膜を保護する機能を有するので、基材を剥離しない場合には、前記基材を光学異方膜の保護フィルムとして利用できる。
(1)光学異方膜の厚みの測定:
走査型電子顕微鏡(JEOL社製、製品名「JSM−7500F」)を用いて、光学異方膜の断面の観察を行い、その厚みを測定した。
(2)単体透過率及び偏光度の測定方法:
分光光度計[日本分光(株)製、製品名「V7100」]を用いて、測定対象の光学異方膜の表面を、プリズムから出る偏光に対して垂直にセットし、23℃下で、透過率k2を測定した。また、前記光学異方膜を90°回転させた後、同様に、透過率k1を測定した。得られたk1及びk2を下記式1及び式2に代入することにより、透過率及び偏光度を求めた。
式1:単体透過率(%)=(k1+k2)/2
式2:偏光度(%)=(k1−k2)/(k1+k2)×100
なお、k1は、最大透過率方向の直線偏光の透過率を表し、k2は、最大透過率方向に直交する方向の直線偏光の透過率を表す。
(3)配向の乱れの観察
白色光源上に市販の偏光板を載せ、その上に光学異方膜を置き、この光学異方膜を左右周りに回転させながら、光学異方膜の吸収軸のずれ(つまり、光漏れ)を目視で観察した。吸収軸のずれが大きい場合には、配向の乱れがあると評価し、それが小さい場合には、配向の乱れなしと評価した。
ロール状に巻かれた厚み100μm、長さ1000mのシクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン(株)製、商品名「ゼオノア[登録商標]」)を引き出し、図1に示すようなラビング装置を用いて、前記フィルムの表面にラビング処理を連続的に行った。ラビング処理後のフィルムの表面にコロナ処理を行った後、再びロール状に巻き取った(以下、このプレ−ラビング処理済みのフィルムを「基材(1)」と記す)。なお、ラビング装置の構成及びラビング条件は次の通りである。
(ラビング装置の構成及びラビング条件)
フィルムの搬送速度:1m/min。
各バックアップローラの回転軸の軸角度:フィルムの搬送方向に対して90°。
ラビング布の材質:コットン布(吉川化工(株)製、商品名「YA−25−C」)。
ラビングローラの回転軸の軸角度:フィルムの搬送方向に対して0°。
ラビングローラの回転速度:1000rpm。
ラビングローラの押し込み量:20mm。
ラビング強度:1000mm。
前記シクロオレフィン系フィルムに代えて、厚み80μm、長さ1000mのケン化処理済みトリアセチルセルロース系フィルム(コニカミノルタオプト(株)製、商品名「TACフィルム」)を用いたこと、及び、コロナ処理を行わなかったこと以外は、前記プレ−ラビング処理1と同様にして、ラビング処理を行い、このフィルムを、再びロール状に巻き取った(以下、このプレ−ラビング処理済みのフィルムを「基材(2)」と記す)。
p−メトキシアニリンを、常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技法堂発行、135ページ〜152ページに記載の方法)に従い、ジアゾ化し、これと1−アミノ−7−ナフタレンスルホン酸とを、カップリング反応させてモノアゾ化合物を得た。さらに、これをジアゾ化し、3−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸とカップリング反応させて粗生成物を得た。これを塩化リチウムで塩析することによって、下記式(II)のアゾ化合物を得た。
得られたアゾ化合物をイオン交換水に溶解させることにより、濃度5質量%の塗工液を調製した。
ロール状に巻かれた上記基材(1)を引き出し、熱風循環式乾燥機を用いて、前記基材(1)の表面を70℃に加熱する処理を1時間行った。加熱処理後の表面が室温まで冷めた後、この基材(1)の表面に、前記プレ−ラビング処理1のラビング装置及びラビング条件と同様にして、ラビング処理を行った。ラビング処理後の基材(1)の表面に、親水化処理としてコロナ処理を行った。コロナ処理後の基材(1)の表面に、ワイヤーバー(#4)を用いて、前記塗工液を塗工し、10分間放置して自然乾燥することにより、基材上に光学異方膜を形成した。得られた光学異方膜は、偏光フィルムの性質を有していた。この光学異方膜の厚みは、350nmであった。
基材(1)に代えて、基材(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、光学異方膜を形成した。得られた光学異方膜は、偏光フィルムの性質を有していた。この光学異方膜の厚みは、340nmであった。
実施例2の光学異方膜の透過率などの結果を表1に示す。
ロール状に巻かれた上記基材(1)を引き出し、その表面に、ワイヤーバー(#4)を用いて、塗工液を塗工し、10分間放置して自然乾燥することにより、光学異方膜を形成した。得られた光学異方膜は、偏光フィルムの性質を有していた。この光学異方膜の厚みは、350nmであった。なお、前記塗工液としては、実施例1と同じ水溶液を用いた。
比較例1の光学異方膜の透過率などの結果を表1に示す。
ロール状に巻かれた上記基材(1)を引き出し、その表面に、前記プレ−ラビング処理1のラビング装置及びラビング条件と同様にして、ラビング処理を行った。ラビング処理後の基材(1)の表面に、ワイヤーバー(#4)を用いて、塗工液を塗工し、10分間放置して自然乾燥することにより、基材上に光学異方膜を形成した。得られた光学異方膜は、偏光フィルムの性質を有していた。この光学異方膜の厚みは、350nmであった。なお、前記塗工液としては、実施例1と同じ水溶液を用いた。
比較例2の光学異方膜の透過率などの結果を表1に示す。
ラビング処理前に加熱処理を行った実施例1及び2は、液晶性化合物が極めて良好に配向していることがわかる。
一方、ラビング処理を行わなかった比較例1は、偏光度が低く、液晶性化合物が良好に配向していないことがわかる。
また、ラビング処理前に加熱処理を行わなかった比較例2も偏光度が低い。実施例1と比較例2の対比から、ラビング処理前に加熱処理を行うと、基材表面に十分な配向規制力を付与できる。
本発明のラビング処理方法は、十分な配向規制力を有する基材の製造に好ましく利用できる。
Claims (10)
- リオトロピック液晶性化合物を含む光学異方膜を基材上に形成する光学異方膜の製造方法であって、
基材表面にラビング処理を行うプレ−ラビング工程、
前記プレ−ラビング後の基材表面に加熱処理を行う加熱工程、
前記加熱処理を行った基材表面にラビング処理を行うラビング工程、
前記ラビング処理を行った基材表面にリオトロピック液晶性化合物を含む塗工液を塗工する塗工工程、
を有する光学異方膜の製造方法。 - 前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う請求項1に記載の光学異方膜の製造方法。
- 前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を室温にまで冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う請求項1に記載の光学異方膜の製造方法。
- 前記加熱処理が、前記基材表面の温度を50℃〜90℃にする処理である請求項1〜3のいずれかに記載の光学異方膜の製造方法。
- 前記ラビング工程におけるラビング処理が、親水性材料を含むラビング布を用いて前記基材表面を擦る処理である請求項1〜4のいずれかに記載の光学異方膜の製造方法。
- 前記ラビング工程の後、塗工工程の前に、基材表面に親水化処理を行う親水化工程をさらに有する請求項1〜5のいずれかに記載の光学異方膜の製造方法。
- 前記リオトロピック液晶性化合物を含む塗工液が、リオトロピック液晶性化合物が溶解された水溶液である請求項6に記載の光学異方膜の製造方法。
- 基材表面にラビング処理を行うプレ−ラビング工程、
前記プレ−ラビング後の基材表面に加熱処理を行う加熱工程、
前記加熱処理を行った基材表面にラビング処理を行うラビング工程、を有するラビング処理方法。 - 前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う請求項8に記載のラビング処理方法。
- 前記ラビング工程において、加熱処理を行った基材表面を室温にまで冷ました後、その冷めた基材表面にラビング処理を行う請求項8に記載のラビング処理方法。
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