JP5489146B2 - 肥満の遺伝的リスク検出法 - Google Patents
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Description
このように、肥満に関与する遺伝要因については、未だ十分に解明されているとは言えない状況にある。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記9個には限られず、これら9個の多型のうちの任意の1個〜8個、或いは本明細書中で示される上記9個の他の多型を含む10個以上で実施することもできる。
研究対象
研究対象は、3906名(男性2286名、女性1620名)の日本人であった。彼らは、研究参加施設(岐阜県立岐阜病院、岐阜県立多治見病院、岐阜県立下呂温泉病院、弘前大学病院、黎明郷リハビリテーション病院)に、2002年10月から2005年3月までに来院した者であった。肥満の定義は、日本人及びアジア人の肥満指数(Body Mass Index:BMI)に関する基準(非特許文献9)に基づき、BMIが25kg/m2以上とした。この基準により、3906名のうち、1196名(男性677名、女性519名)が肥満者であると診断された。
公開データベースの使用および本発明者の鋭意検討により、124個の候補遺伝子を選択した。これらの遺伝子は、血圧及び内分泌機能の制御、血管に関する生物学、単球・マクロファージに関する生物学、リンパ球及び白血球に関する生物学、凝固及び線溶系、並びに血小板機能に加えて、脂質及び脂肪組織代謝、インスリン及び糖代謝、その他の代謝因子に関与すると言われているものであった。本発明者は、これら124個の遺伝子について、147個の多型を選択した。これらの多型の多くは、プロモーター領域、エクソン、イントロンのスプライシングの供与部位或いは受容部位に多く位置しており、多型の結果として、コードされたタンパク質の機能または発現に変化を与える可能性があるものであった。これら147個の多型は、下記表1〜表5に示した。なお、表中においては、左欄から順に、座位(Locus)、遺伝子名(Gene)、簡易記載(Symbol)、多型(Polymorphism)、多型データベース登録番号(dbSNP)を示している。なお、多型データベース登録番号が無い場合には、NCBI遺伝子バンクに登録されている番号を示した。
7mLの静脈血を50mmol/L EDTA(ジナトリウム塩)を含むチューブに採取し、ゲノムDNAをキット(ゲノミックス社製)によって分離した。147個の多型の遺伝子型は、PCRと配列特異的オリゴヌクレオチドプローブをサスペンジョン・アレイ・テクノロジー(SAT:Luminex 100)と組み合わせて使用する方法によって決定した(G&Gサイエンス株式会社)。プライマー、プローブ、その他の条件は、下表6に示した。表6は左から順に、遺伝子表記(Gene Symbol)、多型(Polymorphism)、センスプライマー(Sense primer)、アンチセンスプライマー(Antisense primer)、プローブ1(Probe 1)、プローブ2(Probe 2)、アニーリング温度(Annealing)、およびサイクル数(Cycles)を示した。また、詳細な方法については、既報のもの(非特許文献10)を基本として、適宜に増幅条件を変えて行った。なお、肥満との関連が認められなかった多型を検出するための条件については記載を省略した。
方法の詳細については、非特許文献10に記載の通りである。以下には、この方法の概要について説明する。
図1には、Luminex100フローサイトメトリーで検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示した。マイクロビーズ(図中の符号(A))は、直径が約5.5μm程度であり、ポリスチレン製である。ビーズ表面には、特異的な塩基配列を認識するプローブが結合されている。各ビーズには、一種類のプローブが結合されている。このマイクロビーズには、赤色色素と赤外色素との割合を変化させることにより、図中の符号(B)に示すように、最大で100種類のものを混合した状態で、各ビーズの同定が行えるようになっている。複数種類のプローブを備えたマイクロビーズ(但し、各マイクロビーズには一種類のプローブのみ)を適当な割合で混合し、100ビーズ/μLとなるようにしたビーズミックスを調製した(図中の符号(C))。
<増幅反応(Amplification)>
目的とするDNAを増幅するPCR反応には、5’末端をビオチンでラベルしたプライマーを用いた。1.5mM塩化マグネシウムを含む1xPCR溶液(50mM KCl、10mM Tris−HCl、pH8.3)、2%DMSO、0.2mM dNTPs、及び0.1μM〜10μMプライマーセットを混合し、Taq DNAポリメラーゼ(50U/mL)と50ng〜100ngのゲノムDNAを加えて25μLとした。PCR反応は、95℃で10分間処理の後、94℃で20秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。
増幅したDNAを変性した後、ビーズミックスとハイブリダイズさせた。96ウエルプレートの各ウエルに、5μLの増幅反応後のPCR増幅液、5μLのビーズミックス、及び40μLのハイブリダイズ用緩衝液(3.75M TMAC、62.5mM TB(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.125% N−ラウロイルザルコシン)を添加し、全量50μLとした。この混合液を添加した96ウエルプレートについて、95℃で2分間の変性、及び52℃で30分間のハイブリダイゼーションを行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、増幅したDNAを認識するプローブを有するビーズ(1)のみが、DNAと結合する様子が示されている。
次に、上記ビーズミックス−DNAをSA−PEと反応させた。ハイブリダイゼーション反応の後、各ウエルに100μLのPBS−Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去ることで、マイクロビーズを洗浄した。各ウエルに残ったマイクロビーズに、それぞれ70μLのSA−PE溶液(PBS−Tweenにより、市販品(G&Gサイエンス株式会社製)を100倍希釈したもの)を添加し混合した後、52℃で15分間の反応を行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、ビーズ(1)のプローブにのみビオチン化DNAが結合しているので、そのビオチンにSA−PEが結合する様子が示されている。
次に、反応後のサンプルはLuminex100を用いて、ビーズ種類の同定と、そのビーズにPEが結合しているか否かを判定した。測定は2種類のレーザを使用して行い、ビーズの種類は635nmレーザにより同定し、PE蛍光は532nmレーザを用いて定量した。オリゴビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。
図2中には、各ビーズ(1)〜(3)が同定され、かつビーズ(1)にのみPEが測定されたことから、ビーズ(1)に結合させたプローブが認識するDNAが増幅された様子が示されている。
臨床データは、肥満者群(Obesity)とコントロール群(Controls)との間で、対応のないスチューデントt検定により比較した。質的データは、カイ二乗検定によって比較した。対立遺伝子頻度は遺伝子カウント法によって概算し、ハーディ・ワインベルク平衡にあてはまるかどうかを判断するためにカイ二乗検定を使った。各常染色体上の遺伝子多型における遺伝子型分布は、肥満者群とコントロール群との間でカイ二乗検定(3x2)によって比較した。X染色体上にある遺伝子多型については、対立遺伝子頻度をカイ二乗検定(2x2)によって比較した。
3906名の研究対象に関する背景データを表7に示した。表には、左欄より順に、特徴(Characteristics)、肥満者(Obesity)、およびコントロール者(Controls)を示している。また、特徴欄は、上より順に、者数(No. of subjects)、年齢(Age)、性別(男性/女性)(Sex(male/female))、肥満指数(Body mass index)、現在または過去の喫煙率(Current or former smoker)、高血圧(Hypertenshion)、収縮期血圧(Systolic blood pressure)、拡張期血圧(Diastolic blood pressure)、高コレステロール血症(Hypercholesterolemia)、総コレステロール(Total cholesterol)、HDL−コレステロール(HDL-cholesterol)、中性脂肪(Triglycerides)、糖尿病(Diabetes mellitus)、空腹時血糖(Fasting plasma glucose)、及びヘモグロビンAlc(Glycosylated hemoglobin)を示している。
次に、肥満のリスク診断を行うために必要な因子を抽出するため、遺伝子多型および年齢・性別・喫煙について、ステップワイズ変数増加法による解析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、肥満に関するリスク診断を行えることが分かった。
表8には、肥満のリスク診断システムに関する詳細を示した。表には、左欄より順に、因子(Variable)、P値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子(Conventional risk factors)と、今回の研究で見出された遺伝因子(Genetic risk factors)のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
実際に本研究において、リスク値の分布は、リスクが高い群では肥満者群が8.4%でコントロール群が3.1%、リスクがやや高い群では肥満者群が20.3%でコントロール群が12.9%、平均的リスクの群では肥満者群が64.0%でコントロール群が68.1%、リスクがやや低い群では肥満者群が7.2%でコントロール群が15.1%、リスクが低い群では肥満者群が0.1%でコントロール群が0.8%であった。他の方法として、コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。実際に本研究における肥満者群の分布は、リスクが高い群は11.4%(コントロール群は5.0%)、リスクがやや高い群は28.8%(コントロール群は20.0%)、平均的リスクの群は46.4%(コントロール群は50.0%)、リスクがやや低い群は11.9%(コントロール群は20.0%)、リスクが低い群は1.6%(コントロール群は5.0%)であった。
なお、本研究では有意な関連が認められなかったが、一般的に性別・喫煙・飲酒も肥満に影響すると考えられるのでこれらを含めることもできる。
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、10個の遺伝子多型が肥満との関連を示した(P<0.06)。詳細を表9示した。表においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、多型(Polymorphism)、および危険率(P)を示している。
最後に、肥満の遺伝的リスクを評価するために、3個の多型(ACEの−240A→T、GCKの−30G→A、及びESR1の−1989T→G)の組み合わせ遺伝子型について、オッズ比、95%信頼区間、およびP値を計算した。結果を表12に示した。表中においては、左より順に、ACEの−240A→Tの遺伝子型、GCKの−30G→Aの遺伝子型、ESR1の−1989T→Gの遺伝子型、各組み合わせ遺伝子型における肥満者数/コントロール者数、オッズ比(95%信頼区間)、およびP値を示した。
本発明者は、肥満との関連が疑われる124個の候補遺伝子について、147カ所の多型を調べた。3906人の被験者について大規模研究を行ったところ、ACEの−240A→T多型、GCKの−30G→A多型、ESR1の−1989T→G多型が、日本人の肥満と有意に関係していた。3個の多型(ACEの−240A→T、GCKの−30G→A、及びESR1の−1989T→G)の組み合わせ遺伝子型について解析を行ったところ、最小オッズ比の0.45が得られた。
Claims (1)
- ACEの−240A→T、GCKの−30G→A、ESR1の−1989T→G、APOC3の−482C→T、IRS1の3931G→A、GCLCの−129C→T、及びADRB1の1165G→Cの遺伝子多型を検出することを特徴とする肥満の遺伝的リスク検出法。
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