JP5484906B2 - 炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
本願は、2008年5月30日に、日本に出願された特願2008−142446号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
ポリアクリロニトリル系繊維は、一般的にアクリロニトリル系重合体を有機又は無機溶剤に溶解した紡糸原液を、湿式又は乾湿式紡糸して繊維状に賦型した後、延伸、洗浄、乾燥緻密化することにより製造される。
紡糸原液の溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤や、ジメチルスルホキシドなどが広く使用されている。
このような問題に対し、たとえば特許文献1では、アクリロニトリル系重合体を、ジメチルアミンの含有量が一定量以下のジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤に溶解し、溶液(紡糸原液)の安定性を向上する技術を開示している。かかる技術によれば、長時間の保存においてゲル化、着色を抑制できる。しかし、前記溶液においては、高温下において時間とともにジメチルアセトアミドの加水分解が生じ、これにより発生するジメチルアミンにより重合体の環化反応などが進行するなど、高温下での安定性(熱安定性)が充分ではない場合がある。
特許文献2では、ポリマー末端に硫酸基及び/又はスルホン酸基を所定量以上含有するアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解した溶液(紡糸原液)からポリアクリロニトリル系繊維を得ることを開示している。このようにして得られるポリアクリロニトリル系繊維は、緻密性に優れており、炭素繊維の製造に適している。しかし、前記と同様、溶液の熱安定性が充分ではない場合がある。
特許文献3では、硫酸基及び/又はスルホン酸基を所定量以上含有するアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシドなどのアミド結合を持たない溶剤に溶解することで、溶液(紡糸原液)の粘度変化が抑制されることを開示している。かかる溶液は、安定性の観点で好ましい。しかし、前記溶液を用いて得られるポリアクリロニトリル系繊維は、アミド系溶剤を用いた場合に比べて、緻密性に劣る問題がある。
前記アクリロニトリル系共重合体をアミド系溶剤に溶解してアクリロニトリル系共重合体溶液を得る工程と、
前記アクリロニトリル系共重合体溶液を紡糸原液として紡糸する工程とを有することを特徴とする。
本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法は、前記硫酸基の加水分解が、前記共重合により得られた共重合体を溶剤に溶解し、得られた共重合体溶液中で行われることが好ましい。
本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法は、前記アミド系溶剤が、ジメチルアセトアミド及び/又はジメチルホルムアミドであることが好ましい。
本発明において、「アクリロニトリル系共重合体」とは、アクリロニトリル単位と、アクリロニトリル以外の単量体に由来する単位とを有する共重合体である。
ここで、「単位」とは、重合体を構成する繰り返し単位を意味する。
「アクリロニトリル単位」は、アクリロニトリルのエチレン性二重結合が開裂して形成される単位を示す。
アクリロニトリル以外の単量体としては、たとえば、後述するビニル系単量体が挙げられる。
アクリロニトリル単位の割合の上限は、共重合体の溶剤への溶解性を考慮すると、99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましい。
本発明において、アクリロニトリル系共重合体中の前記スルホン酸基の含有量は1.0×10-5当量/g以上であり、1.2×10-5当量/g以上が好ましい。
前記スルホン酸基の含有量が1.0×10-5当量/g未満であると、当該アクリロニトリル系共重合体をアミド系溶剤に溶解した溶液の熱安定性が悪く、前記溶液を高温で長期間保持した後に紡糸して得られる繊維のマクロボイドが大幅に増加し、緻密性が低下するおそれがある。前記繊維の緻密性の低下は、最終的に得られる炭素繊維の性能が低下するため好ましくない。
なお、本発明において、アクリロニトリル系共重合体におけるスルホン酸基、硫酸基等の官能基の含有量は、当該共重合体1g当りの当該官能基のモル当量を意味する。
そのため、前記スルホン酸基の含有量としては、アクリロニトリル系共重合体における全強酸性基の含有量が、4.0×10-5当量/g未満となる量が好ましく、3.2×10-5当量/g未満となる量がより好ましい。
アクリロニトリル系共重合体における全強酸性基の含有量の下限は、当該アクリロニトリル系共重合体を用いて作製する繊維の緻密性を考慮すると、1.0×10-5当量/g以上が好ましく、1.2×10-5当量/g以上がより好ましい。
前記硫酸基の割合が多い場合にマクロボイドが大幅に増加する現象は、ポリマー末端の硫酸基が加水分解により減少することにより、紡糸における凝固時に水が糸内部へ拡散する拡散速度が増大するためではないかと推測される。このため、ポリマー末端の硫酸基の割合が少ないほど、溶液を高温で長期間保持した場合の経時安定性が向上すると推測される。
予め、当該アクリロニトリル系共重合体中のポリマー末端の全強酸性基の含有量(スルホン酸基及び硫酸基の合計量)(硫黄換算又は硫酸イオン換算)を、元素分析法又は強酸性基の滴定により測定する。
これとは別に、前記アクリロニトリル系共重合体を塩酸水溶液中で還流して硫酸末端を加水分解した後、液中に発生した硫酸イオン量をイオンクロマト法などにより測定し、ポリマー末端の硫酸基の含有量を算出する。
前記全強酸性基の含有量から硫酸基の含有量を減じることにより、ポリマー末端のスルホン酸基の含有量が求められる。
また、前記硫酸基の含有量を全強酸性基の含有量で除することにより、(前記硫酸基の含有量/全強酸性基の含有量)の値が求められる。
また、上記の方法以外にも、加水分解後のアクリロニトリル系共重合体を乾燥後に元素分析法などによりスルホン酸末端由来の硫黄量を測定し、計算することによりポリマー末端のスルホン酸基の含有量や(前記硫酸基の含有量/全強酸性基の含有量)を算出することも可能である。
前記元素分析法としては、試料を燃焼させて発生した硫黄の酸化物(ガス)を過酸化水素水などに吸収させ、吸収液のイオンクロマト測定を行って硫酸イオン換算の含有量を定量する方法などが挙げられる。試料を燃焼させる燃焼法としては、燃焼ボート法、燃焼フラスコ法等が挙げられる。定量法としてはイオンクロマト法、ICP発光分析等が挙げられる。
本発明においては、アクリロニトリル系共重合体のポリマー末端に重合開始剤由来の強酸性基(スルホン酸基、硫酸基)を導入する。
アクリロニトリル系共重合体のポリマー末端に重合開始剤由来の強酸性基を導入する方法としては、前記重合開始剤として、亜硫酸塩を含む還元剤と、過硫酸塩を含む酸化剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤を用いる方法が挙げられる。
前記過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが挙げられる。
前記亜硫酸塩としては、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
また、還元剤として、別途、硫酸第一鉄等のFe2+塩を添加してもよい。
また、pH調節等の目的で、硫酸を添加してもよい。
そのため、前記レドックス重合開始剤における過硫酸塩及び亜硫酸塩の組み合わせや割合を制御することにより、得られるアクリロニトリル系共重合体における前記スルホン酸基の含有量や、前記硫酸基の割合を比較的容易に調整することができる。たとえば前記硫酸基の割合を減らす場合は、添加する過硫酸塩の割合を減らして重合を実施すればよい。
また、硫酸基の割合を0にする場合には、前記過硫酸塩を使用せずに重合すればよい。
たとえば、過硫酸塩の代わりの酸化剤として塩素酸ナトリウムなどの塩素酸塩を還元剤の亜硫酸塩と組み合わせて使用することで硫酸基の割合が0の重合体を得ることができる。
また、共重合体中の硫酸基の割合を減らす方法として、亜硫酸塩を含む還元剤と、過硫酸塩を含む酸化剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤を用いてアクリロニトリル系共重合体を作製した後、硫酸基を加水分解する方法を用いても良い。共重合体中の硫酸基を加水分解する方法としては、共重合体を塩酸や硫酸などの酸の存在する水溶液中に分散させて加熱して加水分解する方法や、共重合体を溶剤に溶解した後、共重合体溶液を加熱下で長時間保持することで溶媒中に存在する水と反応させて硫酸基を分解する方法などが好ましく用いられる。
ただし、前記カルボン酸基は、焼成工程での耐炎化反応性を向上させる役割を果たす一方、炭素繊維の欠陥点となるおそれがあるため、アクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸基の含有量を調節することが好ましい。
具体的には、アクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸基の含有量の下限は、5.0×10-5当量/g以上が好ましく、5.5×10-5当量/g以上がより好ましい。カルボン酸基の含有量が5.0×10-5当量/g未満である場合は、焼成工程での耐炎化反応性が低く、さらに高温での処理を必要とする。高温で処理を行うと、暴走反応が起こりやすく、安定した焼成工程通過性を得ることが困難となる。逆に暴走反応を抑制するために、低速度での焼成を行う必要が生じ、経済的でないため好ましくない。
また、アクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸基の含有量の上限は、2.0×10-4当量/g以下が好ましく、1.8×10-4当量/g以下がより好ましい。カルボン酸基の含有量が2.0×10-4当量/gを超えると、ポリマーのニトリル基の閉環反応が迅速になるため繊維内部にまで酸化反応が進行せず、繊維表層近傍のみ耐炎化構造が進行するおそれがある。このような構造では、次のさらに高温の炭素化工程において、繊維中心部の耐炎化構造の未発達な部分の分解が抑制できないため、炭素繊維の性能、特に引張弾性率が著しく低下し、好ましくない。
アクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸基の含有量は、使用する全単量体中のカルボン酸基を含有するビニル系単量体の割合を調節することにより調節できる。
カルボン酸基を含有するビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。この中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリロニトリル系共重合体中のアクリルアミド単位の含有量は、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。
重合反応の条件は、アクリロニトリル系重合体の製造において通常用いられている条件を使用することができる。
たとえば重合温度は、20〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
また、pHは、用いる重合開始剤の酸化・還元反応の速度が向上する点から、4以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。
重合は、たとえば重合停止剤を添加することにより、停止させることができる。
重合後、重合反応により得られたアクリロニトリル系共重合体から、未反応の単量体や重合開始剤等の残査、その他の不純物類を極力のぞくことが、ポリマー末端の硫酸基の加水分解を抑制できるため、好ましい。
本発明のアクリロニトリル系共重合体溶液(以下、本発明の溶液ということがある。)は、前記アクリロニトリル系共重合体及びアミド系溶剤を含む。かかる溶液は、アミド系溶剤を溶媒に用いていても熱安定性が高く、長時間加熱保持した場合にも、溶液中のアクリロニトリル系共重合体の強酸性末端基含有量が一定以上あり、紡糸により緻密な繊維を得ることができる。そのため、ポリアクリロニトリル系繊維、特に炭素繊維用の前駆体繊維(プレカーサ)の製造に適している。
本発明において、アミド系溶剤としては、緻密性の高いアクリロニトリル系共重合体繊維を得ることが可能であることから、ジメチルアセトアミド及び/又はジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
本発明の溶液は、上記のアクリロニトリル系共重合体を、アミド系溶剤に溶解することにより製造できる。
アクリロニトリル系共重合体をアミド系溶剤に溶解する方法としては公知の任意の方法を用いることができる。
本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、前記前駆体繊維中のアクリロニトリル系共重合体が重合開始剤に由来するスルホン酸基を1.0×10-5当量/g以上含有し、(重合開始剤に由来する硫酸基の含有量/前記スルホン酸基および前記硫酸基の合計量)の値(当量比)が0.4以下であることが必要である。
上述のような特徴を持つため、凝固時のマクロボイドが非常に少なくなり、前記前駆体繊維は緻密な構造を有するため、焼成して得られた炭素繊維の欠陥が少なくなるため、特性に優れた炭素繊維が得られる。
前記前駆体繊維中のアクリロニトリル系共重合体中のスルホン酸基の含有量や(前記硫酸基の含有量/全強酸性基の含有量)の値を求める方法は、前述の通りであるが、必要に応じて事前に試料に付着している油剤等の物質を除去する操作を入れても良い。油剤を除去する方法としては、有機溶媒中で還流して抽出、除去する方法などが好ましく用いられる。また、必要に応じて前記前駆体繊維を溶剤に溶解して溶液とし、その溶液を水などの貧溶媒中に滴下して再沈、ろ過、乾燥することで形態を粉末にしてその後の測定を実施しても良い。
本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法は、前記アクリロニトリル系共重合体溶液を紡糸原液として紡糸する工程を有する。
紡糸方式としては、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法が採用でき、何れの方法に限定されるものではないが、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法が、紡糸の生産性の観点、炭素繊維の強度発現性の観点から好ましく用いられる。
紡糸ドラフトは、ポリマー濃度、延伸倍率に応じ、所望のデニール繊維が得られるように適切に設定する。
緻密で均質な前駆体繊維を得るには、この凝固糸の性状が極めて重要であり、前記前駆体繊維の繊維構造の緻密性あるいは均質性が不十分な場合、焼成時に欠陥点となり、炭素繊維の性能を損なうおそれがある。
前記凝固糸の性状として、重要なものとしては、マクロボイドの有無が挙げられる。ここで、マクロボイドとは、最大径が0.1〜数μmの大きさを有する球形、紡錘形、円筒形を有する空隙を総称したものである。マクロボイドが多く存在すると、凝固糸は失透して白濁するが、本発明において得られる凝固糸には、マクロボイドがほとんど存在しないため失透せず白濁しない。このようなマクロボイドがない凝固糸からは、緻密性、均一性等に優れた前駆体繊維を得ることができる。
本発明においては、凝固糸におけるマクロボイドの数が、凝固糸の繊維方向1mm長中に1個未満であることが好ましい。
マクロボイドの有無やその計数は、凝固糸を直接光学顕微鏡で観察するか、適切な方法(たとえば、カミソリの刃で切断する等)で切断して断面を光学顕微鏡で観察することで容易に判断することができる。
前記凝固浴の条件を調整することにより、凝固糸の性状を制御できる。たとえば、含まれる溶剤の濃度を調節することにより、凝固糸の空隙率が50%以下となるように設定できる。
凝固浴に含まれる溶剤の濃度は、使用する溶剤によって一般的に異なるが、例えばジメチルアセトアミドを使用する場合は、50〜80質量%が好ましく、60〜75質量%がより好ましい。
又、凝固浴の温度は低い方が好ましく、通常50℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。前記温度を低くするほど、より緻密な凝固糸を得ることができる。ただし、前記温度が低くなるほど、凝固糸の引取速度が低下し、生産性が低下するため、適切な範囲に設定することが望ましい。凝固浴の温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
前記炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を焼成することにより、炭素繊維を製造できる。焼成は、耐炎化、炭素化の処理を公知の方法により施すことにより実施できる。
実施例中の「AN」はアクリロニトリルを表し、「AAm」はアクリルアミドを表し、「MAA」はメタクリル酸を表す。
実施例で用いた測定方法及び評価方法を以下に示す。
共重合体の組成(各単量体単位の比率(質量比))は、1H−NMR法(日本電子社製、「GSZ−400型超伝導FT−NMR」)により、溶媒としてジメチルスルホキシド−d6溶媒を用い、積算回数40回、測定温度120℃の条件にて測定して、ケミカルシフトの積分比から求めた。
共重合体中のメタクリル酸単位の質量比からアクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸基の含有量(当量/g)を算出した。
(i)
共重合体の2質量%ジメチルホルムアミド溶液を陰陽混合イオン交換樹脂に通して電離性不純物を除去した後、陽イオン交換樹脂に通して強酸基イオンを酸型に転換した。その後、電位差滴定により、共重合体1g当たりに含まれるスルホン酸基及び硫酸基の合計の当量数(=ポリマー末端の全強酸性基の含有量(b))を求めた。
(ii)
共重合体2gを濃度0.1mol/lの塩酸水溶液20ml中に分散させ、80℃にて2時間還流することにより、ポリマー末端の硫酸基の加水分解を行った。
加水分解した液部をフィルターでろ過した後、イオンクロマト法により硫酸イオンの定量を行い、共重合体1g当たりの硫酸イオンの含有量(=ポリマー末端の硫酸基の含有量(a))を求めた。
(iii)
上記で求めた(b)及び(a)の値から、(b−a)の値(=ポリマー末端のスルホン酸基の含有量)、及び(a/b)の値(=硫酸基の含有量/全強酸性基の含有量)をそれぞれ算出した。
凝固浴から出た糸条を採取し、水洗した後、カミソリ刃を用いて繊維方向に垂直な面で切断し、その断面を、光学顕微鏡で観察した。
JIS R 7601に記載の方法に準じて測定した。
(1−1)
容量80リットルのタービン撹拌翼付き重合釜に、脱イオン交換水57.4kg、表1に示す組成比の単量体19.1kgをあらかじめ仕込んだ(水/モノマー=3.0(質量比))。
別途、前記単量体に対してレドックス重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.4質量%、亜硫酸水素アンモニウム0.6質量%、硫酸第一鉄(Fe2SO4・7H2O)0.3ppm、硫酸0.07質量%をそれぞれ脱イオン交換水に溶解して重合開始剤溶液を調製した。
前記重合開始剤溶液を上記重合釜中に連続的に供給して重合を行った。このとき、反応液のpHが3.0になるように硫酸供給量で調節し、重合反応液温度を50℃に保ち、充分な撹拌を行い、ポリマー水系分散液(重合スラリー)の平均滞在時間70分になるように、重合釜オーバーフロー口より連続的に重合スラリーを取り出した。取り出した重合スラリーには、シュウ酸ナトリウム0.5質量%、重炭酸ナトリウム1.5質量%を脱イオン交換水に溶解した重合停止剤水溶液を、重合スラリーのpHが5.5〜6.0になるように加えて重合を停止させた。
調製した重合スラリーを、オリバー型連続フィルターによって脱水処理した後、ポリマーに対して10倍量の70℃の脱イオン交換水中に分散させ、再び重合スラリー化した。この後、前記重合スラリーを再度オリバー型連続フィルターによって脱水処理し、ペレット成形して80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥した後、ハンマーミルで粉砕して粉体を得た。得られた粉体をジメチルアセトアミドに5質量%の溶液になるように添加して加熱溶解し、その溶液を、約20倍の脱イオン交換水中にゆっくりと滴下してミキサーで混合しながら再沈して、再度ろ過、脱水処理した後、ペレット成形して80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥後、ハンマーミルで粉砕することにより共重合体Aを得た。
前記共重合体Aの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表2に示す。
この共重合体Aを、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を、85℃で21日間保持した後、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して凝固糸を得た。この凝固糸は、透明で、マクロボイドのないものであった。前記凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図1に示す。前記写真から明らかなように、凝固糸の断面にはマクロボイドは見られなかった。
得られた凝固糸を、空気中で1.5倍、さらに温水中で3.4倍延伸しながら洗浄・脱溶剤した後、シリコン系油剤溶液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化した。引き続いて、180℃の熱板上で1.5倍延伸し、捲取速度100m/分にて1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を得た。
この前駆体繊維を空気中、230〜260℃の熱風循環式耐炎化炉にて、5%の伸張を付与しながら50分間処理し、耐炎化繊維となし、引き続き、この繊維を窒素雰囲気下、最高温度600℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに同雰囲気下で最高温度が1200℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理することにより炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は531kg/mm2、ストランド弾性率は26.1ton/mm2であった。
また、85℃で21日間保持した上記共重合体溶液を、ジメチルアセトアミドで4.2倍に希釈して5質量%の溶液とした後、前記溶液を、約20倍の脱イオン交換水中にゆっくりと滴下してミキサーで混合しながら再沈して、ろ過、脱水処理した。その後、ペレット成形して80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥し、ハンマーミルで粉砕して共重合体A’を得た。
前記共重合体A’(85℃21日間保持後の共重合体A)について、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
また、これらのうち、(a)について、保持前の(a)に対する減少率(%)[(保持前の(a)−保持後の(a))/保持前の(a)×100]を求めた。この(a)の減少は、硫酸基の加水分解により生じているものと推測される。
同様に、(b)についても、保持前の(b)に対する減少率(%)求めた。
これらの結果を表2に示す。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Bを得た。この共重合体Bの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表2に示す。
前記共重合体Bを用いた以外は実施例1の(1−2)と同様にして共重合体溶液(紡糸原液)を調製した。これを85℃で21日間保持した後、実施例1の(1−2)と同様にして凝固糸を作製した。前記凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図2に示す。前記写真から明らかなように、凝固糸の断面にはマクロボイドは見られなかった。
得られた凝固糸を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして、1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を作製した。得られた前駆体繊維を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維のストランド強度は501kg/mm2、ストランド弾性率は25.3ton/mm2であった。
また、85℃で21日間保持した上記共重合体溶液を用い、実施例1の(1−4)と同様にして再沈処理を行い、共重合体B’を得た。前記共重合体B’について、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
また、(a)、(b)について、実施例1と同様、保持前の(a)、(b)に対する減少率(%)を求めた。
これらの結果を表2に示す。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Cを得た。この共重合体Cの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表2に示す。
前記共重合体Cを用いた以外は実施例1の(1−2)と同様にして共重合体溶液(紡糸原液)を調製した。この紡糸原液を85℃で21日間保持した後、70℃とし、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出したが、凝固糸が白色になってしまい、マクロボイドが生成していることが推定された。前記凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図3に示す。前記写真から明らかなように、凝固糸の断面にはマクロボイドが多数見られた。
この凝固糸を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして、1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を作製した。得られた前駆体繊維を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維のストランド強度は380kg/mm2、ストランド弾性率は22.8ton/mm2であった。
また、85℃で21日間保持した上記共重合体溶液を用い、実施例1の(1−4)と同様にして再沈処理を行い、共重合体C’を得た。前記共重合体C’について、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
また、(a)、(b)について、実施例1と同様、保持前の(a)、(b)に対する減少率(%)を求めた。
これらの結果を表2に示す。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Dを得た。この共重合体Dの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表2に示す。
前記共重合体Dを用いた以外は実施例1の(1−2)と同様にして共重合体溶液(紡糸原液)を調製した。これを85℃で21日間保持した後、実施例1の(1−2)と同様にして凝固糸を作製した。凝固糸の断面にはマクロボイドは見られなかった。
得られた凝固糸を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして、1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を作製した。得られた前駆体繊維を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維のストランド強度は515kg/mm2、ストランド弾性率は25.8ton/mm2であった。
また、85℃で21日間保持した上記共重合体溶液を用い、実施例1の(1−4)と同様にして再沈処理を行い、共重合体D’を得た。前記共重合体D’について、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
また、(a)、(b)について、実施例1と同様、保持前の(a)、(b)に対する減少率(%)を求めた。
この前駆体繊維の油剤を、アセトン中で4時間還流して除去した後、5質量%ジメチルアセトアミド溶液とした。前記溶液を、約20倍の脱イオン交換水中にゆっくりと滴下してミキサーで混合しながら再沈して、ろ過、脱水処理した後、ペレット成形して80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥し、前駆体繊維中の共重合体の(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
これらの結果を表2に示す。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体E,Fを得た。この共重合体E,Fの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表2に示す。
前記共重合体E,Fをそれぞれ用いた以外は実施例1の(1−2)と同様にして共重合体溶液(紡糸原液)を調製した。この紡糸原液を85℃で21日間保持した後、70℃とし、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出したが、凝固糸が白色になってしまい、マクロボイドが生成していることが推定された。
この凝固糸を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして、1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を作製した。得られた前駆体繊維を用いて、実施例1の(1−3)と同様にして炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維のストランド強度、ストランド弾性率を表2に示す。
また、85℃で21日間保持した上記共重合体溶液を用い、実施例1の(1−4)と同様にして再沈処理を行い、それぞれ共重合体E’,F’を得た。前記共重合体について、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。また、(a)、(b)について、実施例1と同様、保持前の(a)、(b)に対する減少率(%)を求めた。
また、実施例3と同様に前駆体繊維中の共重合体の(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。
これらの結果を表2に示す。
実施例1で得た共重合体Aの粉体を10倍の重量の0.1mol/L塩酸水溶液中に分散させて分散液を作製し、それを約100℃で4時間、加熱還流させた。その後、分散液をろ過して回収した共重合体を約20倍の量の脱イオン交換水で洗浄し、ペレット成形した。80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥後、ハンマーミルで粉砕することにより共重合体A〃を得た。
前記共重合体A〃の組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
この共重合体A〃を、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して凝固糸を得た。この凝固糸は、透明で、マクロボイドのないものであった。
得られた凝固糸を用いて、実施例1と同様にして1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を得た。実施例3と同様に前駆体繊維中の共重合体の(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は525kg/mm2、ストランド弾性率は25.6ton/mm2であった。
共重合体Bを用いた以外は実施例4と同様にして共重合体B〃を得た。
前記共重合体B〃の組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
この共重合体B〃を用いて実施例3と同様にして、凝固糸を得た。この凝固糸は、透明で、マクロボイドのないものであった。
得られた凝固糸を用いて、実施例1と同様にして1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を得た。実施例3と同様に前駆体繊維中の共重合体の(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は490kg/mm2、ストランド弾性率は24.9ton/mm2であった。
共重合体Cを用いた以外は実施例4と同様にして共重合体C〃を得た。
前記共重合体C〃の組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
この共重合体C〃を用いて実施例3と同様にして、凝固糸を得たが、凝固糸が白色になってしまい、マクロボイドが生成していることが推定された。
得られた凝固糸を用いて、実施例1と同様にして、1.1デニールの円形断面を有する前駆体繊維を得た。実施例3と同様に前駆体繊維中の共重合体の(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表3に示す。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は360kg/mm2、ストランド弾性率は22.5ton/mm2であった。
実施例1で得た共重合体Aを、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を調製してすぐに、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して凝固糸を得た。この凝固糸は、透明で、マクロボイドのないものであった。前記凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図4に示す。前記写真から明らかなように、凝固糸の断面にはマクロボイドは見られなかった。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は550kg/mm2、ストランド弾性率は26.6ton/mm2であった。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Gを得た。この共重合体Gの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表4に示す。
共重合体Gを、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を調製してすぐに、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して凝固糸を得た。この凝固糸は、透明で、マクロボイドのないものであった。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は525kg/mm2、ストランド弾性率は25.8ton/mm2であった。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Hを得た。この共重合体Hの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表4に示す。
共重合体Hを、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を調製してすぐに、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出したが、凝固糸が白色になってしまい、マクロボイドが生成していることが推定された。前記凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図5に示す。前記写真から明らかなように、凝固糸の断面にはマクロボイドが多数見られた。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は400kg/mm2、ストランド弾性率は23.5ton/mm2であった。
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1の(1−1)と同様にして共重合体Iを得た。この共重合体Iの組成、(a)、(b)、(b−a)及び(a/b)を測定した。その結果を表4に示す。
共重合体Iを、21質量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体溶液を調製した。
前記共重合体溶液(紡糸原液)を調製してすぐに、70℃とし、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて、濃度66質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出したが、凝固糸が白色になってしまい、マクロボイドが生成していることが推定された。
また、この前駆体繊維を用いて実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のストランド強度は390kg/mm2、ストランド弾性率は23.0ton/mm2であった。
Claims (3)
- アクリロニトリルとビニル系単量体とを、
過硫酸塩及び亜硫酸塩を重合開始剤に用いて共重合した後、
共重合体中の硫酸基を加水分解することにより、ポリマー末端基として、スルホン酸基および硫酸基から選ばれる強酸性基を含有し、前記強酸性基として少なくともスルホン酸基を1.0×10−5当量/g以上含有し、(重合開始剤に由来する硫酸基の含有量/前記スルホン酸基および前記硫酸基の合計量)の値(当量比)が0.4以下であるアクリロニトリル系共重合体を得る工程と、
前記アクリロニトリル系共重合体をアミド系溶剤に溶解してアクリロニトリル系共重合体溶液を得る工程と、
前記アクリロニトリル系共重合体溶液を紡糸原液として紡糸する工程とを有する炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法。 - 前記硫酸基の加水分解が、前記共重合により得られた共重合体を溶剤に溶解し、得られた共重合体溶液中で行われる請求項1記載の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法。
- 前記アミド系溶剤が、ジメチルアセトアミド及び/又はジメチルホルムアミドである請求項1又は2記載の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法。
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