以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
<燃料電池>
(実施の形態1)
図1は、本発明の燃料電池の構成の好ましい一例を模式的に示す断面図である。また、アノード集電体10のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。
本実施の形態の燃料電池100は、図1に示すように、燃料輸送用の空間(以下において「燃料流路11」とも称する)を有するアノード集電体10と、導電性透過抑制層12と、アノード導電性多孔質層13と、アノード触媒層14と、電解質膜15と、カソード触媒層16と、カソード集電体17と、カソード導電性多孔質層18とをこの順に含むことを特徴とする。そして、導電性透過抑制層12、アノード導電性多孔質層13、およびアノード触媒層14の端面には、封止材41が設けられている。
なお、本発明の燃料電池の各構成部材を積層する順序は、上記の積層順序に限られるものではなく、たとえばカソード集電体17とカソード導電性多孔質層18との積層順序を逆にしてもよい。本発明の燃料電池は、アノード導電性多孔質層13と、アノード触媒層14と、電解質膜15と、カソード触媒層16と、カソード集電体17と、カソード導電性多孔質層18とを含み、上記のアノード導電性多孔質層13の表裏のいずれか一方の面に隣接して配置される導電性透過抑制層12を備えるものであれば、本発明の範囲を逸脱するものではない。
従来の燃料電池に用いられる保持体は、燃料のクロスオーバーを抑制する効果はあるものの導電性を有していなかった。このため、燃料電池を層厚方向に接続することにより燃料電池スタックを構成しても、層厚方向の導通を図ることができず、保持体を迂回するように面方向に導通を図る必要があり、その結果、燃料電池の内部の電気抵抗が高いものとなるとともに、配線が複雑化するという問題があった。
しかしながら、本発明のようにアノード導電性多孔質層13の表裏のいずれか一方の面に導電性透過抑制層12を備えることにより、燃料のクロスオーバーを抑制しつつ、アノード集電体10とアノード触媒層14との層厚方向の導電性を保持することができる。これにより燃料電池100の内部の電気抵抗を抑制することができるとともに、燃料電池100を積層して燃料電池スタックとしたときの配線を容易にすることもできる。
また、本実施の形態の燃料電池のように、アノード導電性多孔質層13の表裏の面のうち、アノード触媒層14が形成される面側とは反対の面側に、アノード集電体10を備えることが好ましい。このようにアノード集電体10を備えることにより、アノード導電性多孔質層13と電子の授受を効率的に行なうことができる。
図1のアノード集電体10をA−A’面の面方向に切断した断面図では、燃料流路11はアノード集電体10の面方向に蛇型流路(以下においては、「サーペンタイン流路」とも称する)の形状で設けられるものを示しているが、このような燃料流路11の形状はあくまでも一例であり、燃料流路11の形状はこれに限られるものではない。
このようにサーペンタイン流路を設けることにより、ポンプを用いて燃料導入口19から容易に燃料供給を行なうことができるとともに、二酸化炭素等の生成ガスの排出も簡易に行なうことができることから、アクティブ型の燃料電池に好適に用いられる。
また、実施の形態1の燃料電池100は、アノード導電性多孔質層13の表裏の面のうち、アノード触媒層14と接する面とは反対側(すなわちアノード集電体10側)の面全体に導電性接着剤を塗布すればよく、導電性接着剤のパターニング等をしなくてもよい。このため導電性透過抑制層12を形成する工程が簡便なものとなる。
従来のように保持体を備える燃料電池では、燃料および水により保持体が膨張または溶解する他、生成ガスの内圧が上昇することにより保持体が変形することがあった。これにより燃料がアノード触媒層14に不均一に供給されるという問題、および燃料流路11からの燃料漏れが生じるという問題が生じていた。これらの各問題を防止するために、外部の燃料電池の筐体をボルトやナット等の締め付け部材を用いることにより保持体が変形しないように固定する必要があった。
しかしながら、本実施の形態の燃料電池100のように導電性透過抑制層12を備えることにより上記の諸問題を一掃することができる。すなわち導電性透過抑制層12を介して、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13とが一体化されることにより、導電性透過抑制層12が変形することを抑制し、アノード触媒層14に均一に燃料が供給されるとともに、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13との間での燃料漏れが生じることを防止することができる。これにより燃料電池に必要な締め付け部材を減らすことができ、小型化、軽量化、および低コスト化を達成することができる。
しかも、導電性透過抑制層12を設けることにより、燃料電池の取り扱いが容易になるとともに燃料電池の製造工程が簡略化されることにもなり、製造工程を低コスト化することもできる。また、導電性接着剤を用いてアノード導電性多孔質層13とアノード集電体10とを貼り合わせることにより、これらの位置ずれを防止することができ、燃料電池の信頼性を向上させることができる。
なお、このような燃料電池において、燃料は燃料流路11から導電性透過抑制層12を通ってアノード触媒層14に供給される。当該アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、導電性透過抑制層12の空隙を通り層厚方向(燃料流路11側)に排出される。これは、アノード導電性多孔質層13の端部に、液体および気体を通過させない封止材41を設けられていることにより、アノード導電性多孔質層13の端部から側面方向に生成ガスを排出することができないためである。
一方、空気は、大気中からカソード導電性多孔質層18を通じてカソード触媒層16に供給される。
また、カソード導電性多孔質層18の表裏のいずれか一方の面に隣接して配置されるカソード集電体17を備えることが好ましい。このようにカソード集電体17を備えることにより、カソード集電体17とカソード導電性多孔質層18との電子の授受を効率的に行なうことができる。
本実施の形態に示される燃料電池は、1つの燃料電池のままで用いてもよいが、電子機器に適した出力を得るという観点から、複数の燃料電池を積層することにより燃料電池スタックとして用いることが好ましい。
以下に、燃料電池を構成する各層を説明するにあたり、説明の便宜上、燃料としてメタノール水溶液、酸化剤として空気を用いた場合を説明する場合があるが、本発明はこれらの燃料および酸化剤を用いた場合のみに限定されるものではない。
<アノード触媒層>
本実施の形態の燃料電池100に含まれるアノード触媒層14は、燃料の酸化を促進するアノード触媒を少なくとも含み、さらにアノード担持体とアノード電解質とを含むことが好ましい。そして、当該アノード触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンおよび電子を生成する。なお、アノード触媒層14とは別にアノード集電体10側(電解質膜15とは反対側)に、アノード導電性多孔質層13を積層した構造である。
本実施の形態の燃料電池100において、アノード触媒層14と導電性透過抑制層12とを接着する場合、アノード触媒層14を親水性にすることにより、導電性接着剤がアノード触媒層14に染み込みやすくなり、アノード触媒層14と導電性透過抑制層12との導電性および接着性を良好なものとすることができる。
換言すれば、アノード触媒層14を親水性にすることにより、導電性接着剤とアノード触媒層14との親和性が増し、導電性接着剤とアノード触媒層14との接触表面積を増大させることを以って、アンカー効果および分子間力が増大することにより接着強度が向上する。これによりアノード触媒層14と導電性透過抑制層12との界面での電気抵抗を小さくすることができる。この効果は、導電性接着剤に含まれる接着剤として、エポキシ樹脂のような親水性のものを用いるときに特に顕著となる。
アノード触媒層14を親水性にする方法は、どのような方法を用いてもよいが、たとえばアノード触媒またはアノード担持体を気相酸化または液相酸化することを挙げることができる。ここで、上記の気相酸化に用いられる気体としては、酸素、空気、オゾン、硝酸ガス等を挙げることができ、液相酸化に用いられる液体としては、硝酸溶液、過マンガン酸カリウム溶液等を挙げることができる。
アノード触媒層14の厚みは、0.1μm以上0.5mm以下であることが好ましい。アノード触媒層14の厚みが0.1μm未満であると、燃料電池100の出力を向上させるだけの触媒量をアノード触媒層14に担持できない虞があり、0.5mmを超えるとプロトン伝導の抵抗および電子伝導の抵抗が大きくなったり、液体燃料(たとえばメタノール水溶液)または酸化剤(たとえば酸素)の拡散抵抗が増加したりする虞がある。
<カソード触媒層>
本実施の形態の燃料電池100のカソード触媒層16は、酸化剤の還元を促進する反応を促進するカソード触媒を少なくとも含み、さらにカソード担持体とカソード電解質とを含むことが好ましい。そして、当該カソード触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み、還元反応を起こすことにより水を生成する。カソード触媒層16は電解質膜15とは反対側にさらにカソード導電性多孔質層18を積層した構造である。
カソード触媒層16の厚みはそれぞれ、0.1μm以上0.5mm以下であることが好ましい。カソード触媒層16の厚みが0.1μm未満であると、燃料電池100の出力を向上させるだけの触媒量をカソード触媒層16に担持できない虞があり、0.5mmを超えるとプロトン伝導の抵抗および電子伝導の抵抗が大きくなったり、液体燃料(たとえばメタノール水溶液)または酸化剤(たとえば酸素)の拡散抵抗が増加したりする虞がある。
以下の(1)〜(3)には、アノード触媒層14およびカソード触媒層16に含まれるものを説明する。
(1)アノード触媒およびカソード触媒
アノード触媒層14に含まれるアノード触媒は、燃料としてメタノール水溶液を用いる場合、メタノールと水からプロトンと電子を生成するという燃料の酸化反応の反応速度を促進する機能を有するものである。一方、カソード触媒層16に含まれるカソード触媒は、酸素とプロトンと電子から水を生成するという還元反応の反応速度を促進する機能を有するものである。
このようなアノード触媒およびカソード触媒に用いられる材料としては、たとえばPt、Ru、Au、Ag、Rh、Pd、Os、Ir等の貴金属、Ni、V、Ti、Co、Mo、Fe、Cu、Zn、Sn、W、Zr等の卑金属、これらの貴金属または卑金属の酸化物、炭化物および炭窒化物、もしくはカーボンからなる群より選択された材料の1種または2種以上の組み合わせのものを用いることができる。なお、アノード触媒およびカソード触媒に用いられる触媒は、必ずしも同種類のものに限定されず、異なる種類の触媒を用いてもよい。
(2)アノード担持体およびカソード担持体
アノード触媒層14に含まれるアノード担持体は、アノード触媒層14で生成した電子をアノード集電体10またはアノード導電性多孔質層13へ導電する機能を有するものである。一方、カソード触媒層16に含まれるカソード担持体はカソード集電体17またはカソード導電性多孔質層18からカソード触媒層16に電子を導電する機能を有するものである。
アノード担持体およびカソード担持体は、電気伝導性を有する材料であればどのような材料を用いてもよいが、電気伝導性の高い炭素系材料を用いることが好ましく、電気伝導性の高い炭素系材料としては、たとえばアセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を挙げることができ、アセチレンブラック(商品名:Vulcan XC72(Cabot株式会社製)が特に好適に用いられる。また、アノード担持体およびカソード担持体に用いられる材料としては、これらの炭素系材料の他に、Pt、Ru、Au、Ag、Rh、Pd、Os、Ir等の貴金属、Ni、V、Ti、Co、Mo、Fe、Cu、Zn、Sn、W、Zr等の卑金属、これら貴金属または卑金属の酸化物、炭化物、窒化物および炭窒化物からなる群より選択された材料の1種または2種以上の組み合わせたものを用いることができる。
また、アノード担持体およびカソード担持体は、プロトン伝導性を付与した材料であってもよく、このようにプロトン伝導性を付与した材料としては、たとえば硫酸化ジルコニア、リン酸ジルコニウム等を挙げることができる。
なお、アノード触媒およびカソード触媒のいずれもに電子伝導性を有する材料のものを用いる場合、アノード触媒がアノード触媒層14で生成した電子をアノード導電性多孔質層13へ導電し、カソード触媒がカソード導電性多孔質層18からカソード触媒層16に電子を導電することから、アノード担持体およびカソード担持体を必ずしも設ける必要はない。
(3)アノード電解質およびカソード電解質
アノード触媒層14に含まれるアノード電解質は、アノード触媒層14で生成したプロトンを電解質膜15へ伝導する機能を有するものである。一方、カソード触媒層16に含まれるカソード電解質は、電解質膜15から透過したプロトンをカソード触媒層16近傍に伝導する機能を有するものである。
アノード電解質およびカソード電解質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されずいかなるものをも使用することができるが、メタノール等の燃料により溶解しない固体もしくはゲルであることが好ましい。このようなアノード電解質およびカソード電解質は、スルホン酸、リン酸基等の強酸基、および/またはカルボキシル基等の弱酸基を有する有機高分子であることが好ましく、たとえば含有パーフルオロカーボン(ナフィオン(デュポン株式会社製))、カルボキシル基含有パーフルオロカーボン(フレミオン(旭化成株式会社製))、ポリスチレンスルホン酸共重合体、ポリビニルスルホン酸共重合体、イオン性液体(常温溶融塩)、スルホン化イミド、AMPS等を挙げることができる。
なお、アノード担持体およびカソード担持体として、プロトン伝導性を有するものを用いる場合には、これらによりプロトンを伝導することができるため、別個にアノード電解質およびカソード電解質を設けなくてもよい。
<電解質膜>
本発明において、燃料電池100を構成する電解質膜15は、アノード触媒層14で発生したプロトンを伝導してカソード触媒層16に透過させるものであって、電気的絶縁性を有する材質のものであれば従来公知のいかなる材質のものを用いることもでき、たとえば高分子膜、無機膜、またはコンポジット膜により形成することができる。
電解質膜15に用いられる高分子膜としては、たとえばパーフルオロスルホン酸系電解質膜(商品名:ナフィオン(NAFION(登録商標)デュポン株式会社製)、ダウ膜(ダウ・ケミカル株式会社製)、アシプレックス(ACIPLEX(登録商標)旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子株式会社製)の他、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン等の炭化水素系電解質膜等を挙げることができる。
また、電解質膜15に用いられる無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウム等を挙げることができる。
また、電解質膜15に用いられるコンポジット膜としては、たとえばゴアセレクト膜(ゴアセレクト(登録商標):ジャパンゴアテックス株式会社製)を挙げることができる。
また、燃料電池が100℃付近もしくはそれ以上の温度にも対応するという観点から、低含水時でも高いイオン伝導性を有する電解質膜15を用いることが好ましく、このような電解質膜15の材料としては、たとえばスルホン化ポリイミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS:2-Acrylamido-2-MethylPropaneSulfonic acid)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、硫酸水素セシウム、ポリリン酸アンモニウム、イオン性液体(常温溶融塩)等を膜化して用いることが好ましい。
このような電解質膜15は、プロトン伝導率が10-5S/cm以上であることが好ましく、パーフルオロスルホン酸ポリマ、炭化水素系ポリマ等の高分子の電解質膜のようにプロトン伝導率が10-3S/cm以上のものを用いることがより好ましい。
<アノード導電性多孔質層>
本実施の形態の燃料電池に用いられるアノード導電性多孔質層13は、メタノールと水とをアノード触媒層14へ供給することを可能とする空隙を形成する層であり、アノード触媒層14からアノード集電体10へ電子を導電する機能を有するものである。アノード導電性多孔質層13に用いられる材料としては、カーボン材料、導電性高分子、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、ステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を用いることが好ましく、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、およびWからなる群より選ばれる1つ以上の元素を含むことがより好ましい。
また、アノード導電性多孔質層13に用いられる材料として、Cu、Ag、Zn等のように酸性雰囲気下で腐食しやすい金属を用いる場合、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングすることにより、アノード導電性多孔質層13の表面の腐食を防止することができ、これにより燃料電池の寿命を延ばすことができる。
アノード導電性多孔質層13に上記で挙げた元素を含むことにより、アノード導電性多孔質層13の比抵抗が小さくなるため、アノード導電性多孔質層13の抵抗による電圧低下を軽減することができ、より高い発電特性を得ることができる。
アノード導電性多孔質層13の形状は、アノード触媒層14に燃料を均一に供給するという観点、およびアノード触媒層14で生成した生成ガスの排出効率を良好にするという観点から、アノード導電性多孔質層13の層厚方向に貫通または連通した複数の孔を有することが好ましく、特に、生成ガスをアノード導電性多孔質層13の端面から排出する場合、アノード導電性多孔質層13の面方向への貫通または連通した複数の孔を有することが好ましい。ここで、貫通とは一方の面から反対側の面へ貫き抜けることを意味し、連通とは層厚方向に連続した空間が形成されていることを意味するものとする。
層厚方向に貫通した複数の孔を有するものとしては、たとえば板や箔に複数の穴を開けた形状またはメッシュ状またはエキスパンドメタル状の多孔質金属層を好ましく挙げることができる。一方、層厚方向に連通した複数の孔を有するものとしては、たとえば金属板、発泡金属、金属織物、金属焼結体、カーボンペーパー、およびカーボンクロスを好ましく挙げることができる。
アノード導電性多孔質層13の空隙率は、10%以上95%以下であることが好ましく、30%以上85%以下であることがより好ましい。アノード導電性多孔質層13の空隙率が10%未満であると、メタノールの拡散抵抗を十分に低減させることができず、95%を超えると電気抵抗を低減させることができない虞がある。
また、アノード導電性多孔質層13の厚みは、10μm以上1mm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましい。アノード導電性多孔質層13の厚みが10μm未満であると、メタノールを均一に供給できない虞があり、1mmを超えるとアノード導電性多孔質層13の積層方向へのメタノールの拡散抵抗を十分に低減させることができない虞がある。
本発明の燃料電池において、アノード導電性多孔質層13と導電性透過抑制層12とを接着する場合、これらの接着性および導電性を向上させるという観点から、アノード導電性多孔質層13を親水性にすることが好ましい。アノード導電性多孔質層13を親水性にする方法しては、アノード導電性多孔質層13が親水性となる方法であればどのような方法を用いてもよいが、たとえばアノード導電性多孔質層13を気相酸化または液相酸化すること等を挙げることができる。ここで、気相酸化に用いられる気体としては、酸素、空気、オゾン、硝酸ガス等を挙げることができ、液相酸化に用いられる液体としては、硝酸溶液、過マンガン酸カリウム溶液等を挙げることができる。
このようにアノード導電性多孔質層13を親水化処理することにより、導電性接着剤のアノード導電性多孔質層13への親和性を向上させることができ、導電性接着剤がアノード導電性多孔質層13に染み込みやすくなる。この効果は、導電性接着剤に含まれる接着剤として、エポキシ樹脂のような親水性のものを用いるときに特に顕著となる。
そして、このように導電性接着剤とアノード導電性多孔質層13との親和性が増すことにより、導電性接着剤とアノード導電性多孔質層13との接触表面積を増大させることを以って、これらの界面での電気抵抗を小さくすることができる。さらに、これらの界面でのアンカー効果および分子間力が強化されることにより接着強度を向上させることもできる。
また、本発明の燃料電池に液体燃料を用いる場合、このようにアノード導電性多孔質層13に親水化処理を行なうことにより、メタノールのアノード導電性多孔質層に対する接触角は小さくなるため、発電時においてアノード導電性多孔質層にメタノールを保持することができる。これにより外部雰囲気から空気が混入することを防止することができ、電池としての発電特性を向上させることができる。
また、メタノールのアノード導電性多孔質層に対する接触角は小さくなることから、アノード導電性多孔質層に生成ガスによる気泡が保持されにくく、生成ガスを端面から排出することができる。このような表面張力の差を利用することにより、メタノール水溶液等の液体燃料と二酸化炭素等の生成ガスとを分離することができ、液体燃料をアノード触媒層14の近傍に保持しつつ、生成ガスをアノード導電性多孔質層13の端部から排出することができる。このように生成ガスをアノード導電性多孔質層13の端部から排出する場合、封止材41を設けなくてもよい。
なお、一般的にアノード導電性多孔質層13の方が、アノード触媒層14よりも分厚いため、生成ガスは特にアノード導電性多孔質層13の端部から排出しやすい。
<カソード導電性多孔質層>
カソード導電性多孔質層18は、カソード触媒層16と電子の授受を行なう機能を有するものであって、燃料電池の外部とカソード触媒層16とを連通する孔を有するものである。一般的に燃料電池の発電時において、カソード導電性多孔質層18はアノード導電性多孔質層13よりも高い電位に保たれるため、カソード導電性多孔質層18の材質は、アノード導電性多孔質層13と同等かそれ以上に耐腐食性に優れていることが好ましい。
カソード導電性多孔質層18の材質は、アノード導電性多孔質層13と同様の材質のものを用いてもよいが、特にカーボン材料、導電性高分子、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Cr等の金属およびこれらの金属の窒化物、炭化物等、ステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Ptの合金等を用いることが好ましい。
また、カソード導電性多孔質層18に用いられる材質として、Cu、Ag、Zn、Ni等のように酸性雰囲気下で腐食しやすい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングすることにより、カソード導電性多孔質層18の表面の腐食を防止することができ、燃料電池の寿命を延ばすことができる。
カソード導電性多孔質層18の形状は、燃料電池の周囲の空気中の酸素をカソード触媒層16まで供給することが可能な連通孔を有していれば特に限定することなくいかなる形状のものをも用いることができるが、積層される燃料電池の層同士の接触部位に位置するカソード触媒層16まで酸素を供給させるという観点から、カソード導電性多孔質層18内部に、積層方向および積層方向に対して垂直方向に連通している孔を有していることが好ましく、このようなカソード導電性多孔質層18の材料としては発泡金属、金属織物、金属焼結体、カーボンペーパー、カーボンクロス等を挙げることができる。
カソード導電性多孔質層18の空隙率は、10%以上95%以下であることが好ましく、30%以上85%以下であることがより好ましい。カソード導電性多孔質層18の空隙率が10%未満であると、酸素の拡散抵抗を十分に低減させることができず、95%を超えると電気抵抗を低減させることができない虞がある。
また、カソード導電性多孔質層18の厚みは、10μm以上1mm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましい。カソード導電性多孔質層18の厚みが10μm未満であると、酸素を均一に供給できない虞があり、1mmを超えるとカソード導電性多孔質層18の積層方向への酸素の拡散抵抗を十分に低減させることができない虞がある。
<導電性透過抑制層>
本実施の形態の燃料電池は、図1に示されるようにアノード導電性多孔質層13の表裏の面のうちのいずれか一方の面に隣接して配置される導電性透過抑制層12を設けることを特徴とする。ここで、本発明において、導電性透過抑制層12は、導電性と接着性とを備える導電性接着剤から形成される多孔質層であることが好ましい。
図1においては、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13との間に導電性透過抑制層12を設けたものを示しているが、このような位置に導電性透過抑制層12を設ける形態のみに限られるものではなく、たとえばアノード導電性多孔質層13とアノード触媒層14との間に導電性透過抑制層12を設けてもよい。しかし、一般的にアノード導電性多孔質層13とアノード触媒層14との界面よりも、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13との界面の方が互いの接触点が少ないために、接着性が弱く電気抵抗が大きくなり易い。このため接着性向上、および燃料電池100内の電気抵抗低減の観点から、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13との間に導電性透過抑制層12が形成されることが好ましい。
本発明の燃料電池に用いられる導電性透過抑制層12が導電フィラーを含む場合、従来の保持体のように高分子膜の膨潤または溶解により燃料の透過を抑制するのではなく、導電フィラー同士が接触することにより空隙が生じ、当該空隙により燃料が透過する。このような構成にすることにより、従来の燃料電池に設けられる保持体のように、導電性透過抑制層12が膨潤または溶解して変形することはなく、アノード触媒層14に均一に燃料を供給することができる。
また、導電性透過抑制層12に形成される空隙を介して生成ガスを燃料流路11に排出することにより、燃料電池の内圧が上昇することを防止し、導電性透過抑制層12の変形を抑制することができる。このように導電性透過抑制層12に変形が生じないことにより、燃料流路11からアノード触媒層14に均一に燃料を供給し続けることができ、以って燃料電池の信頼性を高めることができる。
ここで、導電性透過抑制層12の形成方法をより具体的に説明すると、アノード導電性多孔質層13上に導電性接着剤を塗布した後に、導電性接着剤を介してアノード導電性多孔質層13とアノード集電体10とを固定する。そして、これらを固定したまま熱または紫外線照射により導電性接着剤を硬化させた後に、導電性接着剤を室温まで冷却することにより、アノード導電性多孔質層13とアノード集電体10との間に導電性透過抑制層12が形成される。
なお、導電性透過抑制層12は、アノード触媒層14上に導電性接着剤を塗布してから、当該導電性接着剤上にアノード導電性多孔質層13を当接することにより接着した後に、導電性透過抑制層12を形成してもよいし、アノード集電体10上に導電性接着剤を形成してから、当該導電性接着剤上にアノード導電性多孔質層13を当接することにより接着した後に、導電性透過抑制層12を形成してもよい。なお、上記の導電性接着剤に有機溶媒等を含む場合、熱または紫外線照射により有機溶剤等を蒸発させることが好ましい。
このような導電性接着剤を塗布する方法としては、均一に塗布することができる塗布方法であればいかなる方法であってもよいが、簡易であってしかも薄く均一に塗布することができるという観点から、スクリーン印刷法もしくはスプレー塗布法を用いることが好ましい。
また、本発明の燃料電池に含まれる導電性透過抑制層12の気孔率は、燃料透過抑制の観点から5%以上60%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは15%以上20%以下である。導電性透過抑制層12の気孔率が5%未満であると、導電性透過抑制層12中を十分に燃料が透過できずに燃料不足となる虞があり、60%を超えると、燃料の透過量が多すぎてクロスオーバーが生じる虞がある。触媒層の気孔率が60%以上であることから、気孔率60%を超えると導電性透過抑制層12の透過抑制の効果が得られない。
ここで、本発明における「気孔率」とは、導電性透過抑制層12の単位体積を占める空隙の体積を百分率で示した値のことを意味し、以下の1〜4の手法により測定した値を採用する。
1.導電性接着剤の塗布対象物(たとえばアノード導電性多孔質層13)の、導電性透過抑制層形成前の質量と、導電性透過抑制層形成後の質量との差から、導電性透過抑制層12に含まれる導電フィラーと接着剤と(以下においては「固形分」とも称する)の合計の質量の値を求める。
2.導電性接着剤に含まれる、導電フィラーと接着剤との質量比はあらかじめ測定した値を用い、さらに導電フィラーの比重、および接着剤の比重も既知の値を採用する。これらの質量比の値および比重の値から、固形分(導電フィラーと接着剤)の占める体積を算出する。ここで、本発明において、好適に用いられる導電フィラー(カーボン材料の場合)の比重は2.2g/cm3とし、接着剤(エポキシ樹脂)の比重は1.1g/cm3として空隙率を算出する。
3.塗布対象物の面積と導電性透過抑制層12の厚みとの積により、空隙を含んだ導電性透過抑制層12の体積を算出する。
4.2で算出した固形分の占める体積を、3で算出した空隙を含んだ導電性透過抑制層12の体積で除することにより、導電性透過抑制層12の空隙率の値を得る。
従来の燃料電池は、保持体を構成する高分子化合物の材料、および保持体の厚みを変えることにより、燃料の透過量を制御していたが、これらのパラメータを変更することは燃料電池を作製する上では困難であった。
しかしながら、本発明の燃料電池100に用いられる導電性透過抑制層12は、導電性接着剤に含まれる導電フィラーの体積含有率、形状、および粒径、または導電フィラーおよび接着剤の表面張力(たとえば材料の親水性および疎水性等)という比較的変更しやすいパラメーターを変更することにより、導電性透過抑制層12の燃料の透過量を制御することができる。すなわちたとえば、導電フィラーの体積含有率を大きくする、または導電フィラーとして、フットボール状のもの、または棒状のものを選択することにより球形状のものよりも燃料透過量を増やすことができる。
このような導電性透過抑制層12の厚みは、1μm以上80μm以下であることが好ましく、1μm以上60μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5μm以上40μm以下である。導電性透過抑制層12の厚みが1μm未満であると、燃料透過を抑制する効果を十分に得ることができない虞があり、80μmを超えると、導電性透過抑制層12の電気抵抗が大きくなり、燃料電池の発電効率が低下する虞がある。
<導電性接着剤>
本発明の燃料電池に備えられる導電性透過抑制層12は、導電性接着剤を硬化することにより形成される層であり、当該導電性接着剤は接着剤と導電フィラーとを含むことが好ましい。なお、導電性接着剤には、接着剤および導電フィラー以外にさらに他の成分を含んでいても本発明の範囲を逸脱するものではない。このような他の成分としては、たとえば導電性接着剤の粘度を調整するための有機溶剤を挙げることができる。
このように導電性接着剤が接着剤を有することにより、押し付け部材を設けなくても燃料電池を構成する各構成部材を一体化することができ、特にアノード集電体10とアノード導電性多孔質層13とを強固に接着することができる。このように本発明の燃料電池は、押し付け部材を設ける必要がないことから、従来の燃料電池のように平面積層構造のもののみに限られるものではなく、燃料電池の用途に合わせてフレキシブルに構造を設計することができ、たとえば燃料電池の構造を円柱状にすることもできる。
上記の導電性接着剤に含まれる接着剤は、紫外線硬化性接着剤、熱硬化性接着剤または熱可塑性接着剤のいずれかであることが好ましい。このような硬化性の接着剤を用いることによりアノード集電体10とアノード導電性多孔質層13とを強力に接着することができる。以下の(1)〜(3)においては導電性透過抑制層12に含まれる構成成分を説明する。
(1)導電フィラー
本発明において、導電性接着剤に含まれる導電フィラーの材料としては、導電性が良好なものであればどのようなものを用いてもよいが、導電性透過抑制層12内での電圧降下を抑制するという観点から、電気抵抗の低い材料を用いることが好ましい。このような導電フィラーの材料としては、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Cr等の金属およびこれらの金属の窒化物、炭化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金を挙げることができる。導電フィラーに用いられる材料として、Cu、Ag、Zn等のように酸性雰囲気下で腐食しやすい金属を用いる場合、耐腐食性を有する貴金属および金属材質により表面をコーティングすれば、導電フィラー表面の腐食を防止することができる。
上記のような導電フィラーの材料の中でも、コストを低減するという観点、および耐食性が優れているという観点から、カーボン材料を用いることがより好ましく、好適なカーボン材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を挙げることができ、導電性および燃料透過抑制の性能の面から、アセチレンブラック(商品名:Vulcan XC72(Cabot株式会社製)、およびケッチェンブラック(登録商標)を用いることがより好ましい。
ここで、本発明において、導電性接着剤に含まれる導電フィラーの形状としては、いかなる形状のものを用いることもできるが、粒形状のものを用いることが好ましい。このような粒形状のものとしては、球形状のもの、フットボール形状のもの、棒状のもの等を挙げることができる。ただし、導電性透過抑制層12の電気抵抗を下げるという観点から、互いのカーボン同士の接触面積を大きくすることができる球形状のものを用いることが好ましい。
また、導電フィラーを用いることにより、導電フィラー同士が接触して導電性透過抑制層12に空隙が形成され、当該空隙により導電性透過抑制層12の燃料透過の性能を発現させることができる。すなわち、燃料は、導電性透過抑制層12に設けられる空隙を透過することができ、導電性透過抑制層12における燃料の拡散抵抗が高いために、燃料の透過量が抑制される。このように燃料の透過量が抑制されることにより、高濃度の燃料を供給しても燃料のクロスオーバーが生じることを抑えることができ、これを以って燃料電池の出力密度の低下を抑制することができる。
図2は、本発明の燃料電池に備えられる導電性透過抑制層12の断面を拡大した模式図である。図2(A)と図2(B)とは、単位体積あたりの導電性透過抑制層12に含まれる導電フィラー21の含有量が異なるものであり、図2(A)と比べ、図2(B)に示される導電性透過抑制層12の方が導電フィラー21の含有量が多い。
導電性透過抑制層12における導電フィラー21の含有量を増やすにつれて、導電フィラー21同士の接触が多くなり、当該接触が増えることにより空隙24の体積が増え、導電性透過抑制層12における燃料の透過量を増大させることができる。この空隙24の体積は、導電フィラー21の含有率、形状、粒径等によっても異なるし、導電フィラー21および接着剤23の表面張力の違い(たとえば親水性または疎水性)によっても異なる。
本発明において、導電性透過抑制層12の燃料透過性能と電気抵抗性能とを高度に両立するためには、導電性接着剤に含まれる導電フィラー21の含有率を適切に調整することが肝要である。すなわちたとえば、燃料にメタノール水溶液を用いる場合、導電フィラーと接着剤との重量の合計に対し、導電フィラーの含有量が30重量%以上80重量%以下であることが好ましく、50重量%以上70重量%以下であることがより好ましい。
導電フィラーと接着剤との重量の合計に対し、導電フィラーの含有量が30重量%未満であると、導電性透過抑制層12に含まれる導電フィラー21の粒子同士の接触が少なくなり、導電性透過抑制層12の電気抵抗が高くなる虞がある。一方、導電フィラーと接着剤との重量の合計に対し、導電フィラーの含有量が80重量%を超えると、導電性透過抑制層12に含まれる接着剤23の含有率が少なくなるため、導電性接着剤の接着性能が低下する虞がある。
上記の導電フィラー21の含有量の範囲内で導電フィラー21の含有量を少なくすることにより、導電性透過抑制層12に形成される空隙24の体積が少なくなることを以って、導電性透過抑制層12の燃料透過量を抑制することができる。一方、上記の導電フィラー21の含有量の範囲内で導電フィラー21の含有量を多くすることにより、導電フィラー21の接触面積が増えることを以って導電性透過抑制層12の電気抵抗を低くすることができる。
また、導電性透過抑制層12は、その厚み方向の電気抵抗が100mΩcm2以下であることが好ましく、50mΩcm2以下であることがより好ましく、さらに好ましくは25mΩcm2以下である。導電性透過抑制層12の厚み方向の電気抵抗が100mΩcm2を超えると、導電性透過抑制層12内での電圧降下が生じることとなり、結果として燃料電池の内部抵抗が高くなる。
(2)接着剤
上述の接着剤に用いられる紫外線硬化性接着剤としては、たとえばアロニクス(東亞合成株式会社製)、カヤマー(日本化薬株式会社製)、エベクリル(ユーシービージャパン株式会社製)、アクティレン(アクロスケミカルズ社製)等の商標で市販される紫外線硬化性モノマーを挙げることができ、これと光重合開始剤とを混合して用いるものである。
また、上述の接着剤に用いられる熱硬化性接着剤としては、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびアルキド樹脂からなる群より選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができ、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系エラストマー(商品名:SIFEL(信越化学株式会社製))、エポキシ樹脂等を単独もしくは2種以上を混合して用いることが好ましい。ただし耐薬品性の点から、ポリオレフィン系樹脂(商品名:1152B(株式会社スリーボンド製)およびエポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
また、上述の接着剤に用いられる熱可塑性接着剤としては、ポリアミドやポリオレフィン系樹脂等のエンプラ、ポリイミド、ポリアミドイミド等を挙げることができる。
(3)有機溶剤
本発明において、導電性接着剤を塗布するときに、塗布に適した粘度になるようにさらに有機溶剤を含んでいてもよい。このような粘度調整に用いられる有機溶剤としては、たとえばアセトン、ジメチルアセトアミド(DMAc:DiMethylAcetamide)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:N-MethylPyrrolidone)を挙げることができる。
<アノード集電体>
アノード集電体10は、アノード触媒層14またはアノード導電性多孔質層13と電子の授受を行なう機能を有するものである。アノード集電体10の形状は、燃料を輸送するための空間(燃料流路)を備えるものを用いてもよいし、板や箔に複数の穴を開けた形状のものを用いてもよいし、メッシュ状やエキスパンドメタル状の多孔質のものを用いてもよい。
アノード集電体10は、導電性を示すものであればどのようなものを用いてもよいが、電気抵抗低減のために導電性のよい材料を用いることが好ましい。アノード集電体10は、アノード導電性多孔質層13およびカソード導電性多孔質層18のように必ずしも多孔質体である必要はないため、アノード集電体10は高い導電性を有するのが一般的である。アノード集電体10の材質は、電圧降下を抑制するため電子伝導抵抗の低いAu、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を用いることがより好ましい。Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる1以上の元素を含むことがさらに好ましい。アノード集電体10に用いられる材質として、Cu、Ag、Zn等のように酸性雰囲気下で腐食しやすい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングすることにより、アノード集電体10の表面の腐食を防止することができ、燃料電池の寿命を延ばすことができる。
本発明の燃料電池において、アノード集電体10と導電性透過抑制層12とを接着して用いる場合、これらの接着性および導電性を向上させるという観点から、アノード集電体10を親水化処理することが好ましい。アノード集電体10を親水化処理する方法しては、アノード集電体10が親水性となる方法であればどのような方法を用いてもよいが、たとえばアノード集電体10を気相酸化または液相酸化すること等を挙げることができる。ここで、上記の気相酸化に用いられる気体としては、酸素、空気、オゾン、硝酸ガス等を挙げることができ、液相酸化に用いられる液体としては、硝酸溶液、過マンガン酸カリウム溶液等を挙げることができる。
このようにアノード集電体10を親水化処理することにより、導電性接着剤がアノード集電体10に染み込みやすくなり、導電性接着剤のアノード集電体10への親和性を向上させることができる。この効果は、導電性接着剤に含まれる接着剤として、エポキシ樹脂のような親水性のものを用いるときに特に顕著となる。
そして、かかる親和性が増すことにより、導電性接着剤とアノード集電体10との接触表面積を増大させることができ、以ってこれらの界面での電気抵抗を小さくすることができる。さらに、これらの界面でのアンカー効果および分子間力が強化されることにより接着強度を向上させることもできる。
<カソード集電体>
カソード集電体17は、カソード導電性多孔質層18と電子の授受を行なう機能を有するものである。カソード集電体17には、電気抵抗低減のため導電性の高い材料を用いることが好ましい。カソード集電体17の形状は、板や箔に複数の穴を開けた形状、メッシュ状やエキスパンドメタル状の多孔質とするものを好ましく用いることができる。なお、カソード集電体17は、カソード導電性多孔質層18のように必ずしも多孔体である必要がない。このためカソード集電体17は、カソード導電性多孔質層18よりも導電性が高いのが一般的である。
カソード集電体17の材質は、導電性を有するものであればどのようなものでもよいが、電圧降下を抑制するため電子伝導抵抗の低い材料を用いることが好ましく、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を用いることが好ましく、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる1以上の元素を含むことがより好ましい。カソード集電体17に用いられる材質として、Cu、Ag、Zn等のように酸性雰囲気下で腐食しやすい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングすることにより、カソード集電体17の表面の腐食を防止することができる。
<封止材>
封止材41は、燃料電池の端部を封止することにより、空気が混入することを抑制するために設けられるものである。このように封止材41を設けることにより、アノード触媒層14、またはアノード導電性多孔質層13の端部から空気が混入することを防ぐことができるとともに、またアノード触媒層14での反応により生じる生成ガスをアノード触媒層14、またはアノード導電性多孔質層13の端部から排出させることなく燃料流路11側に戻すことができる。また、燃料電池の取り扱いを簡易にするという観点から、アノード触媒層14およびアノード導電性多孔質層13の端部を封止するのと同時に、カソード触媒層16およびカソード導電性多孔質層18の端部を封止してもよい。封止材41を形成する材料としては、燃料電池を構成する各層の端部を強固に接着固定するという観点から、熱硬化性の接着剤、または紫外線硬化性の接着剤を用いることが好ましい。
当該接着剤は硬化前はゲル状であり、塗布した後に硬化させることにより封止材41を形成することができる。封止材41を構成する熱硬化性の接着剤としては、オレフィン系の高分子、フッ素系エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびアルキド樹脂からなる群より選択される1種以上を混合したものを用いることができ、たとえばスリーボンド社製の1152Bポリオレフィン系の高分子やフッ素系エラストマー(商品名:SIFEL(登録商標)(信越化学工業株式会社製))、エポキシ樹脂を挙げることができ、これらを単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。ただし、耐薬品性の点から、ポリオレフィン系の高分子(商品名:1152B(株式会社スリーボンド製)およびエポキシ樹脂を用いることがより好ましい。紫外線硬化性の接着剤としては、たとえばアロニクス(東亞合成株式会社製)、カヤマー(日本化薬株式会社製)、エベクリル(ユーシービージャパン株式会社製)、アクティレン(アクロスケミカルズ社製)等の商標で市販される紫外線硬化性モノマーと光重合剤の混合物を挙げることができる。
本発明の燃料電池に用いられる燃料としては、電気分解により電力を得ることができるものであれば気体燃料および液体燃料を用いることができるが、いずれの燃料を用いる場合であっても分子式の中に水素元素をその組成に含む燃料を用いることが好ましい。このような気体燃料としては、水素、DME、メタン、ブタン、アンモニア等を挙げることができる。また、液体燃料としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメトキシメタン等のアセタール類、ギ酸等のカルボン酸類、ギ酸メチル等のエステル類等、およびヒドラジン、アスコルビン酸等の固体燃料を水に溶解させたもの等を挙げることができる。
なお、上述の液体燃料は、常温で液体である燃料を挙げているが、液体燃料を気化して気相供給してもよい。上述した気体燃料および液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよいが、体積あたりのエネルギー密度が高いという観点から、液体燃料の特にメタノール水溶液を用いることが好ましい。
一方、本発明の燃料電池に供給される酸化剤としては、酸素、過酸化水素、および硝酸を用いることが好ましいが、酸化剤のコストの観点から、空気中の酸素を用いることがより好ましい。
<燃料電池の製造方法>
本発明の燃料電池は、燃料電池を製造する際の取り扱いを容易にするという観点、および燃料電池を効率的に製造するという観点から、上述した各構成部材を重ね合わせた上で、これらを一体化することにより製造することが好ましい。各構成部材を一体化する方法としては、熱圧着(以下においては「ホットプレス」とも称する)する方法を用いることが好ましい。
また、図示はしないが、導電性透過抑制層12をアノード触媒層14とアノード導電性多孔質層13との間に形成する場合、アノード導電性多孔質層13、導電性透過抑制層12、アノード触媒層14、電解質膜15、カソード触媒層16、カソード集電体17、カソード導電性多孔質層18を層厚方向にこの順に並べた上で、ホットプレスすることにより、燃料電池を形成してもよい。
このようにホットプレスすることにより燃料電池の各構成部材の間でいわゆるアンカー効果と呼ばれる物理吸着が起こって接着され、各構成部材を一体化することができる。ホットプレスするときの具体的な条件としては、たとえば各構成部材を積層したものをステンレス板で挟んだ上で、厚み方向に130℃、10kgf/cm2の圧力で10分間圧着することにより行なうことができる。なお、このホットプレスの条件は、電解質膜の種類により異なるため、上述の値に限定されたものではなく、電解質膜の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
また、本発明においては、アノード集電体10と導電性接着剤とを接着する際には、従来から各構成部材を一体化するときに用いるホットプレスを用いずにこれらを接着することができる。これによりアノード集電体10に形成される燃料流路11がアノード導電性多孔質層13に埋まることなく、導電性透過抑制層12を介してアノード集電体10とアノード導電性多孔質層13とを接着することができる。
このように燃料流路11が埋まることがないことにより、燃料流路11の深さを維持することができ、燃料を送るポンプの必要圧力を小さくすることができることを以って、ポンプの消費電力を低減することができる。また、燃料流路11をより浅く形成することにより、アノード集電体10の層厚を薄くすることができ、以って燃料電池を小型化、および軽量化することができる。
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2の燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。また、アノード集電体のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。本実施の形態に示される燃料電池は、図3のアノード集電体10の断面図に示されるように、面内に多数の貫通孔42が設けられたアノード集電体10と、アノード導電性多孔質層13とが、導電性透過抑制層12を介して接着することを特徴とする。
図3に示されるように、アノード集電体10の表裏の面のうち、導電性透過抑制層12に対向する面とは反対側の面に、燃料を保持するための燃料室形成材32を備えている。このような構造の燃料電池100は、当該燃料室形成材32の内部の燃料室31に比較的多量の燃料を保持することができることから、燃料輸送のためのポンプ等が不要なパッシブ型の燃料電池に好適に用いられる。
また、本実施の形態の燃料電池のように導電性透過抑制層12を設けることにより、高濃度の燃料を用いてもクロスオーバーが生じることを抑制することを以って、発電効率の低下を抑制することができる。
なお、このような燃料電池において、燃料は燃料流路11から導電性透過抑制層12を通ってアノード触媒層14に供給される。当該アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、導電性透過抑制層12の空隙を通り層厚方向(燃料流路11側)に排出される。これは、アノード導電性多孔質層13の端部に、液体および気体を通過させない封止材41を設けられていることにより、アノード導電性多孔質層13の端部から側面方向に生成ガスを排出することができないためである。
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3の燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。また、アノード集電体のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。
本実施の形態に示される燃料電池は、実施の形態1および2の燃料電池のようにアノード導電性多孔質層13の全面を導電性透過抑制層12が覆うのではなく、図4に示されるように、アノード集電体10の面内に多数の貫通孔42が設けられ、当該貫通孔42中に導電性透過抑制層12が組み込まれていることを特徴とする。しかも、燃料流路11が形成されたアノード集電体を用いるのではなく、燃料流路11が形成された燃料流路形成材33を備えている。なお、図4には、アノード集電体に形成される貫通孔42は円状のものを示しているが、当該貫通孔42は円状のものに限られず、いかなる形状のものであってもよい。
このような構造にすることにより、アノード導電性多孔質層13とアノード集電体10とが直接接触するとともに、導電性透過抑制層12を介してアノード導電性多孔質層13とアノード集電体10とも電気的に接続しているため、燃料電池100の電気抵抗を小さくすることができる。
この際、アノード集電体10の面内に設けられた貫通孔42の面方向の断面積を大きくするよりも、貫通孔42の面方向の断面積を小さくしつつ、貫通孔42を多数設けることが好ましい。このように貫通孔42の断面積を小さくしつつ、貫通孔の数を増やすことにより、導電性透過抑制層と、アノード集電体との接触面積が増えることを以って燃料電池内の電気抵抗を小さくすることができ、さらには接着性も向上させることができる。
本実施の形態の燃料電池は、アノード集電体10と燃料流路形成材33とを一体化するときに、アノード集電体10の貫通孔42が形成されている箇所と、燃料流路形成材33の燃料流路11が形成されている箇所とが接するように一体化する必要がある。
なお、このような燃料電池において、燃料は燃料流路11から導電性透過抑制層12を通ってアノード触媒層14に供給される。当該アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、導電性透過抑制層12の空隙を通り層厚方向(燃料流路11側)に排出される。これは、アノード導電性多孔質層13の端部に、液体および気体を通過させない封止材41を設けられていることにより、アノード導電性多孔質層13の端部から側面方向に生成ガスを排出することができないためである。
本実施の形態の燃料電池100は、実施の形態1および2の燃料電池100と同様に、アノード集電体10と、アノード導電性多孔質層13とが導電性透過抑制層12により強力に接着されているため、生成ガスが発生して、その内圧が上昇することにより導電性透過抑制層12が剥離することは少ない。
(実施の形態4)
図5は、実施の形態4の燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。また、アノード集電体のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。
本実施の形態に示される燃料電池は、MEA(すなわち、アノード触媒層14、電解質膜15、およびカソード触媒層16)またはアノード導電性多孔質層13の面の中心部ほど導電性透過抑制層12が厚いことを特徴とする。このような構造にすることにより、MEAの面の中心部が温度上昇しても、クロスオーバーが生じることを抑制することができる。
すなわち、MEAの面の中心部ほど電気化学反応により生じる熱が外気に逃げにくいため、MEAの面の中心部ほど温度が上がりやすい。そして、電解質膜15の温度が上がるとともに電解質膜15の燃料透過量が増大し、面の中心部ほどクロスオーバーが起こりやすくなる。そこで、本実施の形態のように、MEAの面の中心部ほど導電性透過抑制層12を厚くすることにより、MEAの面の中心部ほど燃料の透過が抑制されることとなり、温度上昇によるクロスオーバーの増大を抑制することができる。
なお、MEAの面の中心部ほど導電性透過抑制層12が厚くなるよう塗布する方法としては、スプレー塗布法を用いることが好ましい。
また、本実施の形態のようにアノード導電性多孔質層13の面の中心部ほど導電性透過抑制層12の厚さを厚くすることにより、導電性透過抑制層12の透過量を制御する以外にも、導電性透過抑制層12の透過量を制御する方法として、アノード導電性多孔質層13の面の中心部ほど導電フィラーの含有量を下げ、導電性透過抑制層12内の空隙を少なくすることにより燃料の透過量を制御することもできる。
なお、このような燃料電池において、燃料は燃料流路11から導電性透過抑制層12を通ってアノード触媒層14に供給される。当該アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、導電性透過抑制層12の空隙を通り層厚方向(燃料流路11側)に排出される。これは、アノード導電性多孔質層13の端部に、液体および気体を通過させない封止材41を設けられていることにより、アノード導電性多孔質層13の端部から側面方向に生成ガスを排出することができないためである。
(実施の形態5)
図6は、実施の形態5の燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。また、アノード集電体のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。本実施の形態に示される燃料電池は、アノード集電体10に燃料流路11が設けられるとともに、二酸化炭素等の生成ガスを効率よく排出できるよう生成ガス排出路34が設けられていることを特徴とする。
燃料電池内で発生する生成ガスの種類および量は、燃料およびアノード触媒により異なるが、燃料としてメタノール水溶液を用いる場合、燃料が酸化することにより二酸化炭素が発生する。そして、封止材41を設けることでアノード導電性多孔質層13の端部より排出できないといった理由により、当該二酸化炭素が燃料電池外に効率よく排出されない場合、燃料電池の内圧が上昇することにより、燃料がアノード触媒層14に供給されにくくなる。
そこで、本実施の形態の燃料電池のように、生成ガス排出路34を設けることにより、生成ガスを効率よく排出することができるようになり、燃料供給を良好にすることができる。これは実施の形態1〜4の燃料電池においても同様であり、生成ガス排出路を設けることにより、導電性透過抑制層12中に形成される空隙から生成ガスを排出することに加えて、生成ガス排出路からも生成ガスを排出することができるようになり、燃料供給を良好にすることができる。
また、生成ガス排出路34を通じて燃料が排出されるのを防止するという観点から、アノード導電性多孔質層13を構成する材料には親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理することにより、アノード導電性多孔質層13内に燃料が保持されやすくなり、生成ガス排出路34から燃料が排出されるのを防止することができる。ここで、アノード導電性多孔質層13を親水化処理する方法としては、気相酸化および液相酸化のいずれを用いてもよく、気相酸化に用いる気体としては、酸素、オゾン、硝酸ガス等を挙げることができ、液相酸化に用いる液体としては、硝酸溶液、過マンガン酸カリウム溶液等を挙げることができる。
(実施の形態6)
図7は、実施の形態6の燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。本実施の形態の燃料電池は、燃料流路11を中心に燃料電池の各構成層が円柱状に形成されていることを特徴とする。
従来の燃料電池は、クロスオーバーを抑制するために燃料流路と電解質膜との間に高分子化合物からなる保持体を設けていたが、当該保持体を設けることにより燃料電池の構造が、燃料電池を構成する各層を積層したもののみに固定化されるため、各種用途に適した燃料電池の形状に柔軟に変形させることができなかった。
しかしながら、本発明の燃料電池に備えられる導電性透過抑制層12は、従来の保持体のように形状を固定化する必要がないため、燃料電池の構造をフレキシブルに設計することができ、本実施の形態の燃料電池のように、燃料が流れる方向に対する断面の形状を筒型にすることができる。しかも、本発明の燃料電池に備えられる導電性透過抑制層12は、塗布等により容易に形成することができることから、従来の燃料電池に用いられる保持体よりも容易に形成することもできる。
本実施の形態の燃料電池100のように、燃料が流れる方向に対する断面の形状を筒型にすることにより、アノード導電性多孔質層13とアノード集電体10とが導電性透過抑制層12を介して物理吸着等に比べて強力に接着されることから、締め付け部材等を用いなくてもアノード導電性多孔質層13とアノード集電体10との間に隙間が生じることを抑制することができる。これにより各層間の接触面積を高め、燃料電池内の電気抵抗を低くすることを以って、出力の高い燃料電池を提供することができる。
このような燃料電池100において、アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、導電性透過抑制層12の空隙を通り層厚方向(燃料流路11側)に排出される。
本実施の形態の燃料電池は、以下のようにして作製される。長尺状のアノード導電性多孔質層13、アノード触媒層14、電解質膜15、カソード触媒層16、カソード集電体17、カソード導電性多孔質層18を層厚方向にこの順に重ねあわせた後に、これらを熱圧着等により一体化して、燃料電池を構成する各層の積層体を作製する。
上記で得られた積層体の積層面の側面の一の面に絶縁接着剤(たとえばエポキシ樹脂の接着剤)を塗布するとともに、アノード導電性多孔質層13の表裏のうちのアノード触媒層14と対向する面とは反対側の面上に、スクリーン印刷により導電性接着剤を塗布する。
上記の積層体とは別に、円柱型で中空の金属焼結体からなるアノード集電体10を準備し、当該アノード集電体10の外面を覆うように上記の積層体の導電性接着剤を塗布した面を被せた後に熱を加えて固定し保持する。このとき、上記の積層体が図7に示されるように、アノード集電体10の外周を一周して、積層体の側面同士が絶縁接着剤層35を介して接着する。この状態で積層体に熱を加えることにより、絶縁接着剤層35が硬化し、本実施の形態のような構造の燃料電池100を作製することができる。
図7に示されるように、燃料電池内にアノード集電体10を配置する場合、アノード触媒層14に燃料を供給するために、アノード集電体10の厚さ方向に貫通もしくは連通した複数の穴が設けられることが好ましい。アノード集電体10の厚さ方向に貫通するものとしては、板や箔に複数の孔を開けた形状またはメッシュ状またはエキスパンドメタル状の多孔質金属層を挙げることができる。アノード集電体10の厚さ方向に連通するものとしては、金属板、発泡金属、金属織物、金属焼結体等を挙げることができる。
また、図7に示される積層体の両側面を貼り合わせるための絶縁接着剤層35は、必ずしも必要とされないが、絶縁接着剤層35を設けることにより燃料電池を容易に作製することができる。ここで、絶縁接着剤層35に用いられる材料としては、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、熱硬化性樹脂の中でも耐薬品性を有するという観点から、ポリオレフィン系樹脂(商品名:1152B(株式会社スリーボンド製))およびエポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
<燃料電池スタック>
1つの燃料電池では電子機器の駆動に対応する出力電圧を得るための十分な出力が得ることができない。このため、層厚方向に複数の燃料電池を重ね合わせて、各燃料電池を直列に繋ぐことにより燃料電池スタックを構成した上で、当該燃料電池スタックを電子機器に搭載することにより、電子機器の駆動に対応する出力電圧を得るのが一般的である。
図8は、本発明の燃料電池スタックと、従来の燃料電池スタックとの構造の相違を説明する図であり、図8(A)は、従来の燃料電池スタックの構造を示す断面図であり、図8(B)は、本発明の燃料電池スタックの構造を示す断面図である。なお、従来の燃料電池の構造と本発明の燃料電池の構造との相違を的確に把握するため、図8(A)および図8(B)は、いずれも2つの燃料電池を積層した燃料電池スタックを示している。
従来の燃料電池スタックは、図8(A)に示されるように、層厚方向に導電性がない保持体22を燃料電池に用いているため、アノード集電体10の面方向に集電した上で、保持体22を迂回するようにアノード集電体10とカソード集電体17とを接合することにより、各燃料電池を直列接続していた。
しかしながら、このようにアノード導電性多孔質層13およびアノード集電体10の面方向に集電するときの電子の移動距離は、その層厚方向に集電するときの電子の移動距離とを対比すると、電子の移動距離が圧倒的に長くなる。このように電子の移動距離が長いことにより、図8(A)に示される従来の燃料電池スタックは、電気抵抗が大きいものとなっていた。
また、保持体22が導電性を有しないことにより、アノード集電体10とアノード導電性多孔質層13との間に保持体22を配置することができず、図8(A)に示されるようにアノード集電体10とアノード触媒層14とが接するような構造にしなければならないという配置上の制約もあった。
しかしながら、この位置にアノード集電体10を配置することにより、アノード集電体10がアノード触媒層14に含まれるアノード電解質に近接するためアノード集電体10を強酸雰囲気下で使用することとなり、結果としてアノード集電体10の材料が溶出および劣化するという問題が生じる。このような溶出および劣化を抑制するために、アノード集電体10の材料として耐腐食性に優れた貴金属を用いることも考えられるが、アノード集電体10の材料に耐腐食性に優れた貴金属を用いることにより、コストが高くなるため好ましくない。
そこで、本発明の燃料電池は、絶縁性を有する保持体を設ける代わりに、図8(B)に示されるように、導電性を有する導電性透過抑制層12を設けることを特徴とする。このように導電性透過抑制層12を設けることにより、燃料電池100の層厚方向に導通を図ることができる。これにより従来の燃料電池100よりも容易に各燃料電池を直列接続することができ、各燃料電池を接続したときの燃料電池スタックの構成をシンプルにすることができる。しかも、このような燃料電池スタックは簡便に製造することができる。
また、従来の燃料電池のように、アノード触媒層14とアノード集電体10とが接するように配置しなくてもよいことから、たとえばアノード触媒層14とアノード集電体10との間にアノード導電性多孔質層13を配置することにより、アノード集電体10の溶出および劣化を防止することができる。
さらに、図8(A)に示される従来の燃料電池スタックは、アノード集電体10の他に燃料流路11を形成する部材(図8(A)の「燃料流路形成材33」)を設ける必要があった。しかしながら、本発明の燃料電池スタックは、図8(B)に示されるように、アノード集電体10が燃料流路形成材を兼ねていてもよい。このようなアノード集電体10を用いることにより、燃料電池の部材点数を削減することができる。
以下の実施の形態7および8は、本発明の燃料電池を備える燃料電池スタックを説明する。
(実施の形態7)
図9は、本発明の燃料電池スタックの層厚方向に垂直をなす面の断面図である。本実施の形態の燃料電池スタックは、実施の形態1の燃料電池の3つを層厚方向に組み合わせた燃料電池スタックである。図9の燃料電池スタックにおいて、燃料流路11と空気流路20とを備える集電体30は、アノード集電体とカソード集電体とを兼ねる役割を果たすものであり、このように燃料流路11と空気流路20とを一つに集約した集電体30を用いることにより、アノード集電体とカソード集電体との界面を無くすることができるため、燃料電池内の電気抵抗を低減するとともに、燃料電池の薄型化を図ることもできる。ここで、集電体30に用いられる材質としては、アノード集電体に用いられる材質と同様のものを用いることができる。
従来の燃料電池スタックに備えられる保持体は導電性を有しないため、燃料電池を積層したときに層厚方向に電子を導通することができないことにより、アノード集電体10およびカソード集電体17の面方向に電子を流さなければならないため、燃料電池内での電気抵抗が大きくなりすぎてしまう。
しかしながら、本実施の形態の燃料電池スタックでは、導電性を有する導電性透過抑制層12を備える燃料電池100を積層することから、燃料電池100の層厚方向にも電子を導通させることができ、燃料電池スタックとして用いた場合にも、燃料電池スタックの電気抵抗を小さく抑えることができ、以って燃料電池スタックの出力を高めることができる。
(実施の形態8)
図10(A)は、本実施の形態の燃料電池スタックの構成の例を模式的に示す燃料電池スタックの斜視図であり、図10(B)は、図10(A)の燃料電池スタックのA−A’面の断面図である。本実施の形態の燃料電池スタックは、5つの燃料電池100が間隔を設けて配置されるとともに、当該5つの燃料電池100上に5つのスペーサ40が間隔を設けて配置されることを特徴とする。ここで、燃料電池100とスペーサ40とは直交するように配置されている。
このように燃料電池100とスペーサ40とを配置することにより、ポンプおよびブロアーを用いることなく、カソード触媒層に十分量の空気を供給することができる。図10に示されるスペーサ40の上下にはそれぞれ燃料電池100が設けられており、当該スペーサ40はいずれも一方の燃料電池100のカソード集電体17と他方の燃料電池100のアノード集電体10とに接するように配置されている。
このようなスペーサ40に用いられる材料としては、燃料電池スタックを使用する温度において、燃料および水に溶解、収縮および膨張しない材料であることが好ましく、耐酸性の材料であることがより好ましい。スペーサ40の構造としては、カソード触媒層において生成する水の蒸散を助けるような多孔質体であることが好ましい。
スペーサに用いられる材料および形状としては、たとえば親水性多孔質体、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:PolyTetraFuluoroEthylene)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF:PolyVinyliDene Fluoride)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエポキシ系樹脂等によるフォトレジストに用いられる耐酸性の感光性樹脂、ポリ金属酸化物等を挙げることができ、間隔幅でスペーサ40を延伸するという観点から、耐酸性の感光性樹脂を用いることが好ましい。
このような構造の燃料電池スタックは、カソード触媒層に空気を供給するための補器類(ポンプ、ファン、ブロアー等)を備える必要がないことから、燃料電池スタックを備える燃料電池システムとしてみたときに、当該燃料電池システムを小型化するとともに軽量化することができる。さらに、燃料電池100には導電性透過抑制層12を設けることにより燃料の透過を抑制することができることを以って、燃料流路11に高濃度の燃料を流しても、燃料のクロスオーバーの発生を抑制することができる。
また、導電性透過抑制層12を設けることにより、高濃度の燃料を使用することができることから、ポンプ等の燃料供給のための補器を用いなくとも、燃料電池の反応に必要となる燃料を供給することができる。このように補器が不要となるため、補器の運転させるための電力を供給することが不要となる他、複雑な配線を回避することができる。
このような燃料電池スタックにおいて、アノード触媒層14での反応により生成する生成ガスは、アノード導電性多孔質層13の端部から面方向に排出するか、もしくは導電性透過抑制層12中の空隙を通り層厚方向に排出される。図10(B)は、アノード導電性多孔質層13の端部に封止材41を設けた燃料電池スタックの好ましい一例を示しており、液体及び気体が封止材41を通過できないため、生成ガスはアノード導電性多孔質層13の端部から排出されることはなく、導電性透過抑制層12中の空隙を通り層厚方向に排出される。
なお、実施の形態7および8で作製される燃料電池スタックを電子機器に用いたときに、出力電圧が不十分となる場合には、所定の出力電圧となるように燃料電池スタックを直列および/または並列接続してもよい。
<電子機器>
(実施の形態9)
図11は、本発明の燃料電池スタックを備える電子機器の一例を示す概略図である。
本発明の燃料電池スタック70は、小型であって軽量でありかつ高出力を得ることができることから、電子機器特にモバイル機器等の携帯用電子機器に好適に適用することができる。図11には、本発明の燃料電池スタック70が搭載された電子機器の一例として携帯電話50を示しているが、携帯電話に限られるものではなく、たとえば電子手帳、ポータブルゲーム機器、モバイルテレビ機器、ハンディーターミナル、PDA、モバイルDVDプレーヤ、ノートパソコン、ビデオ機器、カメラ機器、ユビキタス機器またはモバイル発電機等に適用することもできる。
図11に示される電子機器に用いられる燃料電池スタックは、取り出し電圧が1〜4V程度になるように、実施の形態1〜5で作製される燃料電池の複数個を電気的に直列接続したものを用いている。
図11の電子機器には示されていないが、電子機器の始動時の出力不足および最大出力時の出力不足をカバーするための補助電源として、Liイオン電池等のような二次電池を設けてもよい。当該二次電池および燃料電池スタックの電圧特性と、電子機器に適した電圧特性とが異なる場合、電子機器に適した電圧に変換するためのDC/DCコンバータ等のようなコンバータを設けた上で、電子機器と接続することが好ましい。
また、瞬時電力を補うための補助電源としてキャパシタを設けてもよい。当該キャパシタを設けることにより燃料電池スタック70とキャパシタとのハイブリッド化をすることができる。補助電源としてキャパシタを用いる場合、燃料電池スタックの電圧変化に対応してキャパシタの充放電がされるため、電圧調整のためのコンバータを設けなくてもよい。
図12は、実施例により作製された燃料電池の層厚方向に垂直をなす面の断面図である。また、アノード集電体10のA−A’面での面方向の断面図を上図に示している。
まず、燃料電池100を構成する電解質膜15として、幅26mm×長さ26mm、厚みが約175μmの電解質膜(商品名:Nafion(登録商標)117(デュポン株式会社製))を用意した。
次に、アノード触媒ペーストとしては、Pt担持量が32.5質量%でありRu担持量が16.9質量%であるPtおよびRuからなる粒子とカーボン粒子とからなる触媒担持カーボン粒子(商品名:TEC66E50(田中貴金属工業株式会社製))と、20質量%のNafion(登録商標)を含むアルコール溶液(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)と、イオン交換水と、イソプロパノールと、ジルコニアビーズとを所定の割合でPTFE製の容器に入れ、攪拌脱泡機を用いて50rpmで50分間の混合を行なった後に、ジルコニアビーズを除去したものを用いた。
また、カソード触媒ペーストとしては、Pt担持量が46.8質量%のPt粒子とカーボン粒子とからなる触媒担持カーボン粒子(商品名:TEC10E50E(田中貴金属工業株式会社製))を用いたこと以外はアノード触媒ペーストと同様の材料および方法により作製したものを用いた。
次に、アノード導電性多孔質層13として、幅23(L4)mm×長さ(L3)23mmの外形で、片面に撥水層であるマイクロポーラスレイヤー(MPL:Micro Porous Layer)が形成されているカーボンペーパー(商品名:GDL25BC(SGLカーボンジャパン株式会社製))を用いた。このアノード導電性多孔質層13のMPL全面に、上記で作製したアノード触媒ペーストをスクリーン印刷塗布した後に、アノード触媒ペーストに含有されるイオン交換水およびイソプロパノールを乾燥除去することにより、アノード触媒層14を形成した。
また、カソード導電性多孔質層18も上記のアノード導電性多孔質層13と同様のカーボンペーパーを用い、当該カソード導電性多孔質層18のMPL全面に、上記で作製したカソード触媒ペーストをスクリーン印刷塗布した後に、カソード触媒ペーストに含有されるイオン交換水およびイソプロパノールを乾燥させることによりカソード触媒層16を形成した。
カソード集電体17としては、幅(L4)23mm×長さ(L1)40mmの金メッシュを用いた。
次に、アノード導電性多孔質層13、アノード触媒層14、電解質膜15、カソード触媒層16、カソード集電体17、およびカソード導電性多孔質層18をこの順で重ね合わせたもの(以下においては単に「積層体」と称する)の周りに400μmの隙間ゲージを配置した上で、2枚のステンレス板(幅150mm×長さ150mm、厚み3mm)で挟んだ。このとき、電解質膜15はアノード触媒層14およびカソード触媒層16よりもサイズが大きいため、アノード触媒層14およびカソード触媒層16が電解質膜15の中心となるように配置し、かつアノード触媒層14が電解質膜15を介してカソード触媒層16と一致するように配置した。
このステンレス板を130℃に昇温して、ステンレス板の厚み方向に10kgf/cm2で2分間熱圧着することにより、上記の積層体の各構成部材の界面をアンカー効果、またはアノード触媒層14およびカソード触媒層16に含まれるNafion(登録商標)の粘着力により接合させ、上記の積層体を一体化した。
次に、導電性透過抑制層12を形成するための導電性接着剤を以下の手順により作製した。はじめに、接着剤として0.045gの熱硬化性のエポキシ樹脂を用いた。
次に、接着剤と導電フィラーとの重量の合計に対し、導電フィラーの含有量が70重量%となるように、カーボン材料からなるアセチレンブラック(商品名:Vulcan XC72(Cabot株式会社製)を0.105g混合した。
さらに、スプレー塗布に適した粘度に調整するという観点から、有機溶剤として30gのアセトンを用いて、接着剤と導電フィラーとの合計重量の20倍になるよう希釈した。これを超音波分散にかけることにより、接着剤と導電フィラーとをよく混合させて導電性接着剤を作製した。
上記導電性接着剤を8.0g測り採り、上記の積層体のアノード導電性多孔質層13のアノード触媒層14と対向する面とは反対側の面にスプレー塗布し、この導電性接着剤上に、金メッキしたSUS金属板に口径0.5mmφの複数の穴を開けたアノード集電体10(幅(L4)23mm×長さ(L2)40mm)を積層した。これを100℃で1時間保持することにより、導電性接着剤に含まれるアセトンを完全に気化させるとともに接着剤を熱硬化させて、導電性透過抑制層12を形成した。当該導電性透過抑制層12の厚みは約40μmであり、導電性透過抑制層12の気孔率は19.9%であった。
さらに、燃料を保持する空間を設けるために、アノード集電体10の導電性透過抑制層12と対向する面とは反対側の面に、接着剤(商品名:クイック5(コニシ株式会社製))を用いて燃料室形成材32を接着することにより固定した。燃料室形成材32の材質はアクリル樹脂であり、燃料導入のための燃料導入口19を備えた形状である。
アノード導電性多孔質層13およびアノード触媒層14は多孔質体であるため、燃料電池外部からアノード触媒層14に空気が混入する可能性がある。アノード触媒層14に空気が混入すると、アノード触媒上で燃料と空気の燃焼反応が起きることにより、燃料電池の出力特性が著しく低下する虞がある。このため、アノード導電性多孔質層13とアノード触媒層14の面方向の端面を封止材41により封止した。すなわち、当該封止剤41には、アノード集電体10と電解質膜15との間の端部に接着剤(商品名:クイック5(コニシ株式会社製))を塗り、60℃で1時間保持することにより接着剤を熱硬化した。以上の各工程により、本発明の燃料電池を作製した。
上記で得られた燃料電池の燃料導入口から7mol/dm3のメタノール水溶液を入れ、室温にて1ヶ月間の連続発電試験を行なった。図13は、燃料電池の単位面積あたりの電流に対する出力密度を示した図である。図13では、燃料電池の作製から3日後、14日後、および29日後の出力特性を示しており、これらの出力密度はいずれも35〜42mW/cm2であり出力特性の劣化は見られなかった。
また、1ヶ月連続して発電試験を行なった後も、導電性透過抑制層は一部も剥離することなく、一体化した積層体の形状を維持することができた。燃料電池の作製から3日後、14日後、および29日後のオーミック抵抗の変化を電気化学測定装置(商品名:Solartron(株式会社東陽テクニカ製))により測定した。その結果、燃料電池の作製から3日後の、インピーダンス測定による導電性透過抑制層12を含んだ燃料電池全体のオーミック抵抗は385mΩcm2、14日後のオーミック抵抗は360mΩcm2、29日後のオーミック抵抗は360mΩcm2であった。このことから、燃料電池作製から1ヶ月の間、燃料電池のオーミック抵抗の値は上昇しないことが明らかとなった。
このオーミック抵抗は各層の電気抵抗と、各層間の界面の電気抵抗と、触媒層内の電解質や電解質膜におけるイオン伝導抵抗とを含んだ抵抗を示している。このように燃料電池を作製してから3〜29日後の燃料電池のオーミック抵抗に大きな差は見られなかったことから、導電性透過抑制層12における層厚方向の電気抵抗、導電性透過抑制層12とアノード集電体10との界面の電気抵抗、および導電性透過抑制層12とアノード導電性多孔質層13との界面の電気抵抗はいずれも上昇していないものと考えられる。
一方、導電性透過抑制層12を設けていない燃料電池に対しても発電試験を行なったところ、1日目に燃料電池の出力が大幅に低下するとともに、燃料電池が異常に高温となったため、連続発電試験を中断した。これは、導電性透過抑制層12を設けなかったことにより、クロスオーバーが生じて、燃料電池内の温度が過剰に高められたことによるものと考えられる。
以上の結果から、燃料電池に導電性透過抑制層を設けることにより、燃料電池の出力を向上させることができるとともに、クロスオーバーの発生も抑制することができることが明らかとなった。また、導電性透過抑制層を設けることにより、燃料電池を長期間使用しても、燃料電池のオーミック抵抗の値が上昇しにくいことも明らかとなった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。