JP5447761B2 - キチン・キトサンを分解する新種の微生物及びその利用方法 - Google Patents

キチン・キトサンを分解する新種の微生物及びその利用方法 Download PDF

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Description

本発明は、パエニバチルス(Paenibacillus)属細菌及びその変異体、キチン分解活性を有するポリペプチド、並びにそれらの利用方法などを提供する。
N−アセチルグルコサミンを構成単位とする天然高分子多糖であるキチンは、主としてカニ・エビなどの甲殻類や昆虫の外皮、菌類の細胞壁に多く含まれている。一方、グルコサミンを構成単位とするキトサンは、接合菌類の細胞壁等に含有されている。特に、キチンは地球上での年間生産量がセルロースに次ぐ生物資源(バイオマス)であり、種々の生理活性を有することから注目されている。しかしながら、キチンは強固な結晶構造を有し不溶性であることから有効利用が難しく、そのほとんどが脱アセチル化処理により、より加工しやすいキトサンに変換され、利用されている。
近年、グルコサミンやN−アセチルグルコサミンには、変形性関節症の症状改善や軟骨の保護作用、抗炎症作用などの生理活性が確認され注目を集めている。また、これらのオリゴ糖には免疫賦活活性や抗腫瘍活性、抗菌活性なども報告されている。グルコサミンに関しては、すでに欧米では医薬品としても使われており、日本でも食品素材としてN−アセチルグルコサミンと共に需要が急激に増加している。
現在、キチンオリゴ糖や、単糖であるN−アセチルグルコサミン及びグルコサミンをキチン・キトサンから製造する方法として、濃塩酸(強酸)による加水分解が利用されている。従来法では、強酸による加水分解に続いて苛性ソーダ(強アルカリ)による中和工程が必要であり、この処理により大量の食塩(塩化ナトリウム)が生成するため、環境に対する負荷が大きく問題となっている。したがって、強酸を使うことなく、キチンオリゴ糖及びN−アセチルグルコサミン、グルコサミンをキチン・キトサンから効率よく製造する方法の開発が求められている。
N−アセチルグルコサミン、グルコサミンをキチン・キトサンから製造する方法としては、微生物を利用した発酵法が知られている。例えば、特許文献1には、キチン原料に、海洋低温細菌ビブリオ(Vibrio)属に属するキチナーゼ生産菌の培養液を加えて培養を行い、その培養液中よりN−アセチルグルコサミンを回収することによりN−アセチルグルコサミンを製造する方法が開示されている。この細菌は、強酸を使用することなくキチン原料から1段階でN−アセチルグルコサミンを製造することができる。しかしながら、この細菌のキチン分解能力は、安定で強固な結晶構造を有するカニ殻由来のキチン(αキチン)では非常に低い。一方、準安定構造を有するイカ由来のキチン(βキチン)を用いた場合、その培養上清中のN−アセチルグルコサミン濃度は0.3mg/mlであることが記載されている。
特開2004−041035号公報
これまで、強酸を利用することなく、安定で強固な結晶構造を有するαキチンを微生物で分解することは極めて困難であり、微生物を利用した発酵法によるキチンの分解は、現在でも実用化に至っていない。産業上必要な量を、環境に優しくかつ安価に供給するためには、さらなる技術開発が求められている。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、安定で強固な結晶構造を有するαキチンを実用に耐え得るレベルで効率良く分解し得る新種の細菌を単離することに成功した。併せて、本発明者らは、この細菌からキチン分解活性を有する新規ポリペプチドの同定に成功し、以って本願発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである:
〔1〕受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌又はその変異体。
〔2〕受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌又はその変異体あるいはその培養上清を用いて、多糖又は多糖含有物からその分解物を生成することを含む、多糖又は多糖含有物の分解物の製造方法。
〔3〕多糖又は多糖含有物が、キチン及びキトサンからなる群より選ばれる1以上の多糖又はその含有物である、上記〔2〕の方法。
〔4〕多糖含有物がカニ殻又はエビ殻である、上記〔2〕又は〔3〕の方法。
〔5〕該分解物がN−アセチルグルコサミンである、上記〔2〕〜〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕上記〔1〕のパエニバチルス属細菌又はその変異体由来の、キチン分解活性を有するポリペプチド。
〔7〕 以下の(a)、(b)又は(c)のポリペプチド:
(a)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチン分解活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチン分解活性を有するポリペプチド。
〔8〕上記〔7〕のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
〔9〕上記〔8〕のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
〔10〕上記〔9〕の発現ベクターを含む、形質転換体。
〔11〕上記〔6〕又は〔7〕のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からその分解物を生成することを含む、キチン又はキチン含有物の分解物の製造方法。
〔12〕キチン含有物がカニ殻又はエビ殻である、上記〔11〕の方法。
〔13〕以下の(a’)、(b’)又は(c’)のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からキチンオリゴ糖を生成することを含む、キチンオリゴ糖の製造方法:
(a’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド;又は
(c’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド。
〔14〕以下の(a’’)、(b’’)又は(c’’)のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からN−アセチルグルコサミンを生成することを含む、N−アセチルグルコサミンの製造方法:
(a’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
(c’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド。
〔15〕受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌を改変処理して、その変異体を得ることを含む、該パエニバチルス属細菌の変異体の作製方法。
本願発明の細菌は、従来の細菌に比し、安定で強固な結晶構造を有する多糖(例、カニ、エビ等の甲殻類に含まれるキチン)を効率良く分解し得る。この特性により、本願発明の細菌は、強酸による事前処理及び引き続く強アルカリによる中和処理を要することなく、安定で強固な結晶構造を有する多糖を実用に耐え得るレベルで分解し得る。従って、本願発明は、キチン等の多糖からオリゴ糖又は単糖を製造する際、i)強酸及び強アルカリを用いる必要がないため環境負荷を軽減し得るのみならず製造コストも抑えることができる、ii)本願発明の細菌を利用すれば温和な条件でキチンを分解し得るためキチンの脱アセチル化等の副反応が少なく高純度のN−アセチルグルコサミンを製造できる、iii)強酸による処理工程及び中和工程を省略し得るためより簡便な方法で多糖を分解できる等の利点を有する。
本願発明の細菌はまた、従来の細菌に比し、多糖(例、キチン)の単糖(例、N−アセチルグルコサミン)への分解能に優れる。
本願発明はさらに、生物資源(例、カニ、エビ等の甲殻類の殻)の有効利用を促進する点で優れる。日本は甲殻類の消費量が多いことから、本願発明において利用可能な生物資源を安価・大量に入手できるというさらなるメリットを有する。
本発明は、多糖及び多糖含有物の分解能を有するパエニバチルス属細菌又はその変異体を提供する。
本発明の細菌又はその変異体は、多糖として、例えば、キチン(N−アセチルグルコサミンから構成される多糖)又はキトサン(グルコサミンから構成される多糖)を分解し得る。本発明の細菌又はその変異体はまた、キチン分解酵素(キチナーゼ、N−アセチルグルコサミニダーゼ)、キトサン分解酵素(キトサナーゼ)等の上記多糖の分解酵素を菌体内にて産生し、その一部が菌体外に放出され得る。好ましくは、本発明の細菌は、受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌又はその変異体である。
受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌は、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている(寄託日:2007年2月2日)。
本発明の変異体は、本発明の細菌に由来する菌株である限り特に限定されない。例えば、本発明の変異体は、その16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列が本発明の細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列と同一(即ち、100%一致)であるか、あるいは実質的に同一(例、後述したような、変異原性物質等の存在下での培養により作製した場合)であり得る。本発明の変異体はまた、本発明の細菌と同様の形態的、生理学的特徴(例、後述の2.2.参照)を示し得る。
本明細書中で用いられる場合、「本発明の細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に同一」のヌクレオチド配列とは、比較されるヌクレオチド配列が少なくとも98%以上、好ましくは約99%以上、より好ましくは約99.5%以上のヌクレオチド配列同一性を有することをいう。ヌクレオチド配列同一性は自体公知の方法により決定できる。例えば、ヌクレオチド配列同一性(%)は、当該分野で慣用のプログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することもできる。別の局面では、同一性(%)は、当該分野で公知の任意のアルゴリズム、例えば、Needlemanら(1970) (J. Mol. Biol. 48: 444-453)、Myers及びMiller (CABIOS, 1988, 4: 11-17)のアルゴリズム等を使用して決定することができる。Needlemanらのアルゴリズムは、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれており、同一性(%)は、例えば、BLOSUM 62 matrix又はPAM250 matrix、並びにgap weight: 16、14、12、10、8、6若しくは4、及びlength weight: 1、2、3、4、5若しくは6のいずれかを使用することによって決定することができる。また、Myers及びMillerのアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラムに組み込まれている。ヌクレオチド配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、例えば、PAM120 weight residue table、gap length penalty 12、gap penalty 4を用いることができる。ヌクレオチド配列同一性の算出については、上記の方法のなかで最も低い値を示す方法を採用してもよい。
本発明の変異体は、例えば、本発明の細菌を改変処理することにより作製できる。このような改変処理としては、例えば、変異原性物質等の存在下での培養、本発明の細菌の有用性を高め得る遺伝子(例、上記多糖の分解酵素及び/又は上記多糖以外の多糖の分解酵素をコードする遺伝子)の導入、及び本発明の細菌が保有する遺伝子の破壊、並びにこれらの操作の組合せなどが挙げられる。本発明はまた、このような作製方法を提供する。
本発明の細菌又はその変異体は、自体公知の方法により維持・増殖培養できる。本発明の細菌又はその変異体は、当該分野で用いられる栄養培地中で培養でき、このような培地の組成は、例えば、0.5% Beef extract(BD)、0.5% Bacto Soytone(BD)、0.5% NaCl、又は、1.0% Bacto Soytone、0.5% NaClであり得る。その他の培養条件としては、pH6.5〜8.0(好ましくはpH7.2〜7.5)、好気性条件下、20〜45℃での培養条件が挙げられる。
本発明はまた、多糖又は多糖含有物の分解物の製造方法を提供する。本発明の製造方法は、本発明の細菌又はその変異体あるいはそれらの培養上清を用いて、多糖又は多糖含有物からその分解物(例、単糖、オリゴ糖)を生成することを含み得る。
多糖又は多糖含有物は、本発明のパエニバチルス属細菌又はその変異体によって分解可能な多糖又は多糖含有物である限り特に限定されないが、例えば、キチン及びキトサンからなる群より選ばれる1以上の多糖又はその含有物が挙げられる。より詳細には、多糖含有物としては、例えば、甲殻類の殻、キノコ(例、マンネンタケ、マイタケ、ヒメマツタケ(アガリクスともいう);例えば、Bull. Agr. Shizuoka Univ., No.38, p29-35 (1988) 参照)、昆虫(例、ハエ、バッタ)、イカ由来成分(イカの中心にみられる硬い骨のような透き通った白い組織)、カビ(例、コウジカビ(Aspergillus)、ユミケカビ(Absidia))の細胞壁成分が挙げられる。甲殻類としては、例えば、カニ、エビが挙げられる。カニとしては、例えば、ズワイガニ(例、越前ガニ、松葉ガニ)、タラバガニが挙げられる。
本発明の製造方法は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、本発明の製造方法は、畑等の土壌又は発酵槽等の培地中で、本発明の細菌又はその変異体あるいはそれらの培養上清と多糖又は多糖含有物とを共存させることにより行われ得る。本発明の細菌又はその変異体の培養上清は、キチナーゼ及びキトサナーゼを含むので、上述のような多糖又は多糖含有物を分解することができる。本発明の細菌又はその変異体の培養上清は、例えば、上述の栄養培地を用いた培養により入手することができる。本発明の細菌は土壌より単離されたものであるため、本発明の細菌又はその変異体は、畑等の土壌中でもその機能を発揮し得ると考えられる。本発明の細菌又はその変異体の多糖含有物への接触が発酵槽等の培地中で行われる場合、上述したような培地及び培養条件下で行われることもまた好ましい。
本発明の方法により製造される、多糖又は多糖含有物の分解物としては、例えば、単糖(例、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン)、オリゴ糖(例、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖)が挙げられる。N−アセチルグルコサミンは、ムコ多糖類生合成の促進による変形性関節症の改善や美肌効果、炎症抑制作用、ビフィズス菌増殖促進作用(整腸機能)、肌の色素沈着を減少させる美白効果等を有することが知られている。グルコサミンは、ムコ多糖類生合成の促進作用による変形性関節症の改善や美容効果、炎症抑制作用、腫瘍細胞の増殖抑制作用等を有することが知られている。キチンオリゴ糖は、免疫賦活効果、ビフィズス菌増殖促進作用(整腸機能)、ヒアルロン酸量増加作用、植物生体防御機構活性化作用(エリシター活性)等を有することが知られている。キトサンオリゴ糖は、抗菌作用、植物生体防御機構活性化作用(エリシター活性)、抗腫瘍活性、肝機能改善作用、等を有することが知られている。本発明の細菌又はその変異体は、多糖又は多糖含有物を分解して、これらの単糖及びオリゴ糖を産生し得るが、本発明の細菌又はその変異体は単糖への分解能に優れることから、多糖又は多糖含有物の分解物としては単糖が好ましい。
本発明はまた、本発明の細菌又はその変異体に由来する、キチン分解活性を有する新規ポリペプチド、すなわちキチン分解酵素を提供する。本発明のキチン分解酵素は、安定で強固な結晶構造を有するαキチンを実用に耐え得るレベルで効率良く分解し得る。例えば、キチン分解酵素としては、キチン鎖の内部点でランダムにキチン鎖を切断する反応を触媒するキチナーゼ、又はキチンの末端からそれぞれアセチルキトビオース若しくはN−アセチルグルコサミンを段階的に遊離する反応を触媒する、キトビオシダーゼ及びN−アセチルグルコサミニダーゼを挙げることができる。
本発明のキチン分解酵素としては、具体的には以下のポリペプチドを挙げることができる:
(a)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチン分解活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号3、5、7若しくは9で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチン分解活性を有するポリペプチド。
一実施形態では、本発明のキチン分解酵素は、キチナーゼである。キチナーゼは、N−アセチルグルコサミンのポリマーであるキチン鎖を、その内部点において加水分解によりランダムに分解する酵素(この酵素活性を「キチナーゼ活性」という)であり、分解産物としては主にオリゴ糖が遊離する。キチナーゼは糖質加水分解酵素の一種であり、糖質加水分解酵素は、活性ドメインのアミノ酸配列の類似性に基づきいくつかのファミリーに分類されている(Henrissat, B, and Bairoch, A. (1966) Biochem J. 316, 695-696、 2004年現在で91ファミリーに分類)。ファミリーの中で、現在までにキチナーゼ活性が見出されているのはファミリー18およびファミリー19であり、本発明のキチナーゼとしては、特にファミリー18キチナーゼが好ましい。
本発明のキチナーゼとしては、具体的には以下のポリペプチドを挙げることが出来る:
(a’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド;又は
(c’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド。
(b’)のポリペプチドにおいて、欠失、置換、挿入、若しくは付加されるアミノ酸の数は、キチナーゼ活性が消失しない限り特に限定されないが、例えば1〜約100個、好ましくは1〜約50個、より好ましくは1〜約30個、さらにより好ましくは1〜約20個、最も好ましくは1〜約10個、1〜約5個、3個、2個又は1個であり得る。
(c’)のポリペプチドにおいて、アミノ酸配列同一性の程度は、70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上、最も好ましくは約97%以上、約98%以上又は約99%以上であり得る。アミノ酸配列同一性は自体公知の方法により決定できる。例えば、アミノ酸配列同一性(%)は、上述したヌクレオチド配列同一性(%)と同様の方法により決定できる。
ここで、(b’)及び(c’)のポリペプチドは、好ましくは配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同質のキチナーゼ活性を有する。「実質的に同質」とは、それらの性質が定性的に (例: 生理学的に、又は薬理学的に)同質であることを意味する。したがって、キチナーゼ活性の程度といった量的要素については同等であることが好ましいが、許容し得る範囲(例えば約0.1〜約5倍、好ましくは約0.5〜約2倍)で異なっていてもよい。
キチナーゼ活性は公知の方法を用いて測定できるが、例えばSchales変法によって測定することができる。Schales変法では、例えば、基質溶液(コロイダルキチン又はグリコールキチンのフェリシアン化カリウム溶液(フェリシアン化カリウム0.5gを0.5M炭酸ナトリウム1リットルに溶かす))を用いて、コロイダルキチン又はグリコールキチンの分解によって生成する還元糖を用いて定量し、キチナーゼ活性を測定する(キチン、キトサン実験マニュアル、キチン、キトサン研究会編、技報堂出版、p112-113、1991参照、実施例において詳述)。
別の実施形態では、本発明のキチン分解酵素は、N−アセチルグルコサミニダーゼである。N−アセチルグルコサミニダーゼは、キチンのような糖鎖の末端からN−アセチルグルコサミンを加水分解により遊離させる酵素(この酵素活性を「N−アセチルグルコサミニダーゼ活性」という)である。
本発明のN−アセチルグルコサミニダーゼとしては、具体的には以下のポリペプチドを挙げることが出来る:
(a’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
(c’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド。
(b’’)のポリペプチドにおいて、欠失、置換、挿入、若しくは付加されるアミノ酸の数は、N−アセチルグルコサミニダーゼ活性が消失しない限り特に限定されないが、例えば1〜約100個、好ましくは1〜約50個、より好ましくは1〜約30個、さらにより好ましくは1〜約20個、最も好ましくは1〜約10個、1〜約5個、3個、2個又は1個であり得る。
(c’’)のポリペプチドにおいて、アミノ酸配列同一性の程度は、70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上、最も好ましくは約97%以上、約98%以上又は約99%以上であり得る。アミノ酸配列同一性は自体公知の方法により決定できる。例えば、アミノ酸配列同一性(%)は、上述したヌクレオチド配列同一性(%)と同様の方法により決定できる。
ここで、(b’’)及び(c’’)のポリペプチドは、好ましくは配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同質のN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有する。「実質的に同質」とは、それらの性質が定性的に (例: 生理学的に、又は薬理学的に)同質であることを意味する。したがって、N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の程度といった量的要素については同等であることが好ましいが、許容し得る範囲(例えば約0.1〜約5倍、好ましくは約0.5〜約2倍)で異なっていてもよい。
N−アセチルグルコサミニダーゼの活性測定法としては、例えば合成発色基質(4-nitrophenyl N-acetyl-β-D-glucosaminide、文献:Biosci Biotechnol Biochem. 2004 May;68(5):1082-90.)や合成蛍光基質(4-methylumbelliferyl N-acetyl-β-D-glucosaminide、文献:Appl Microbiol Biotechnol. 2002 Dec;60(4):420-7.)を基質として簡便に測定することができる。例えば、合成基質溶液(4(p)-nitrophenyl (pNP) N-acetyl-β-D-glucosaminide又は4-methylumbelliferyl(4MU) N-acetyl-β-D-glucosaminideの水溶液)を用いて、N−アセチルグルコサミニダーゼ活性により遊離するpNP又は4MUの生成量を指標に酵素活性を測定することができる。
本発明のキチン分解酵素は自体公知の方法により作製できる。例えば、下に詳述する本発明のポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込み、得られた組換えベクターを適切な宿主細胞に導入して形質転換体を得た後、形質転換体を培養し、本発明のキチン分解酵素を産生させ、次いで培養物(培養した形質転換体・培養上清)から回収すればよい。あるいは、本発明の細菌若しくはその変異体自体又はそれらの培養上清から回収してもよい。
さらに、本発明のキチン分解酵素は、無細胞系にて合成可能である。無細胞系による本発明のポリペプチドの合成では、例えば、大腸菌、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽からの抽出液などを使用できる。また、本発明のポリペプチドは、固相合成法、液相合成法等の自体公知の有機化学的方法によっても作製できる。
本発明はさらに、本発明のキチン分解酵素をコードするポリヌクレオチド(本発明のキチン分解酵素をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド)を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、例えば配列番号2、4、6若しくは8の塩基配列と同一(即ち、100%一致)又は実質的に同一の塩基配列を含むポリヌクレオチドであり得る。本発明のポリヌクレオチドは、例えば本発明のポリペプチドの作製に有用であり得る。
配列番号2、4、6若しくは8の塩基配列と実質的に同一の塩基配列とは、当該塩基配列において、1以上のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列をいう。欠失、置換、挿入、又は付加されるヌクレオチドの数は、当該塩基配列がコードするポリペプチドのキチン分解活性が消失しない限り特に限定されないが、例えば1〜約300個、好ましくは1〜約150個、より好ましくは1〜約100個、さらにより好ましくは1〜約50個、最も好ましくは1〜約30個、1〜約20個、1〜約10個、1〜約5個、3個、2個又は1個であり得る。
別の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2、4、6若しくは8の塩基配列と70%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであり得る。ヌクレオチド配列同一性の程度は、例えば約70%、好ましくは約80%、より好ましくは約90%、さらにより好ましくは約95%、最も好ましくは約97%、約98%又は約99%以上であり得る。ヌクレオチド配列同一性の決定方法は上述の通りである。
さらに別の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2、4、6若しくは8の塩基配列の相補配列に対してハイストリンジェント条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を含むポリヌクレオチドであり得る。ハイストリンジェント条件下でのハイブリダイゼーションの条件は、既報の条件を参考に設定することができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999)。例えば、ハイストリンジェント条件下でのハイブリダイゼーションの条件としては、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、自体公知の方法により作製できる。例えば、配列番号2、4、6若しくは8で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドは、本発明の細菌又はその変異株から総RNAを抽出し、mRNAからcDNAを調製した後、適切なプライマーを用いてPCRを行うことによりクローニングできる。また、配列番号2、4、6若しくは8で表されるヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドは、上記の通りクローニングしたポリヌクレオチドに変異を導入することにより作製できる。変異導入法としては、例えば、合成オリゴヌクレオチド指定突然変異導入法(gapped duplex)法、ランダムに点突然変異を導入する方法(例えば、亜硝酸若しくは亜硫酸での処理)、カセット変異法、リンカースキャニング法、ミスマッチプライマー法などの方法が挙げられる。
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び当該発現ベクターが導入された形質転換体を提供する。発現ベクターとしては、任意の宿主細胞中で本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を発現し、これらのポリペプチドを産生できるものであれば特に制限されない。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等を挙げることができる。
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現ベクターは少なくともプロモーター−オペレーター領域、開始コドン、本発明のポリヌクレオチド、終止コドン、ターミネーター領域および複製可能単位から構成されることが好ましい。
細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーター−オペレーター領域は、プロモーター、オペレーター及びShine-Dalgarno(SD)配列(例えば、AAGGなど)を含むものである。例えば宿主が大腸菌の場合、好適にはTrpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーター、cspAプロモーターなどを含むものが例示される。ターミネーター領域、複製可能単位については、自体公知のものを用いることができる。
本発明の形質転換体は、上述の発現ベクターを宿主細胞に導入することにより調製することができる。形質転換体の作製に用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換され得るものであれば特に限定されないが、例として、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された組換細胞など種々の細胞(例えば、大腸菌、バチルス属菌、放線菌等の細菌、酵母などの真核生物細胞)が挙げられる。
形質転換体の培養は自体公知の方法により行われる。培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいれば特に限定されない。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが挙げられる。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類)を含んでいてもよい。
形質転換体の培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、本発明のポリペプチドが大量に生産されるように適宜選択される。例えば、宿主が細菌である場合、上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地等が例示される。かかる場合、培養は、例えば、通気、撹拌しながら、約30〜40℃にて約5〜30時間行うことができる。宿主がバチルス属菌の場合、例えば、通気、撹拌をしながら、約30〜40℃にて約15〜100時間行うことができる。このように培養された本発明の形質転換体から、本発明のキチン分解酵素を回収、好ましくは単離、精製することができる。
単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
また、タグ(例えば、ヒスチジンタグ、Flagタグ)などを付加したポリペプチドを形質転換体に産生させ、当該タグに親和性を有する物質(例えば、Ni2+レジン、タグに特異的な抗体)を用いることにより、より簡便に、本発明のキチン分解酵素を単離、精製することもできる。
本発明はまた、本発明のキチン分解酵素を用いて、キチン又はキチン含有物からその分解物を生成することを含む、キチン又はキチン含有物の分解物の製造方法(本発明の製造方法II)を提供する。キチン又はキチン含有物としては、例えば上述のパエニバチルス属細菌又はその変異体によって分解可能なキチン又はキチン含有物と同様のものが挙げられる。本発明の製造方法IIは、上述のパエニバチルス属細菌又はその変異体自体を用いる多糖又は多糖含有物の分解物の製造方法に対して、細菌による分解物(例、N−アセチルグルコサミン)の代謝が防げるため、より高い分解物の収率を得られ得る点で好ましい。
本発明の製造方法IIは、例えば、適切な緩衝液中で、本発明のキチン分解酵素とキチン又はキチン含有物とを共存させ、混合物をインキュベートした後に、反応混合物からキチン又はキチン含有物の分解物を単離又は精製することにより行われ得る。緩衝液のpHは、好ましくは5〜9、さらに好ましくは中性(6〜8)である。反応温度は、好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは30〜50℃である。本発明の製造方法IIにより製造されるキチン又はキチン含有物の分解物としては、N−アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖等を挙げることができる。例えば、キチン分解酵素としてキチナーゼを用いた場合、キチンは部分分解されキチンオリゴ糖が得られるが、さらに単糖であるN−アセチルグルコサミンを得るためには、例えばN−アセチルグルコサミニダーゼのような他のキチン分解酵素と混合して用いることが望ましい。したがって、本発明の製造方法IIにおいて用いられるキチン分解酵素は、1種類であっても、2種類以上(例、2種類、3種類、4種類、5種類以上)の組み合わせであってもよく、好ましい例としてキチナーゼとN−アセチルグルコサミニダーゼの組み合わせが挙げられる。
ここで、キチン分解酵素として本発明のキチナーゼを用いた場合には、キチン又はキチン含有物の分解物として、キチンオリゴ糖を得ることが出来る。また、キチン分解酵素として本発明のN−アセチルグルコサミニダーゼを用いた場合には、キチン又はキチン含有物の分解物としてN−アセチルグルコサミンを得ることが出来る。
本発明のポリペプチド用いた、多糖又は多糖含有物の分解物の製造は、例えば、公知のキチナーゼによるキチンオリゴ糖の製造と同様の自体公知の方法により行われ得る(例えば、相羽誠一,高分子加工, 46, 328(1997);Usui T et al., Biochim Biophys Acta, 923, 302(1987)参照)。また、上述のキチナーゼの活性測定法に準じてキチンオリゴ糖を製造することも可能である。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
実施例1:新規パニエバチルス属細菌の単離
福井県内の土壌をリン酸緩衝液(PBS(−))に懸濁し、その懸濁液をカニ殻由来粉末状キチンを含む一次スクリーニング培地に添加し、室温で集積培養を行った。
次いで、キチンが減少したサンプルをカニ殻由来粉末状キチンを含む二次スクリーニング培地に塗沫した。カニ殻由来の粉末状キチン(αキチン)を直接分解して大きなハローを形成した菌(FPU−7)を単離した。
実施例2:新規パニエバチルス属細菌の解析
2.1.形態的、培地上の特徴
本菌株を、nutrient agarプレート上で30℃、24時間培養したところ、本菌株はグラム染色陰性の桿菌(1.0×2.0〜4.0μm)で、運動性があり、胞子を形成した。そのコロニーの形は円形であり、***状態はレンズ状、周縁は全縁、表面の形状はスムーズ、透明度は不透明、そして粘稠度はバター様であった。
2.2.形態的、生理学的特徴等
実施例1で単離した細菌の表現形質を解析した。以下に、その結果を示す(+:陽性、−:陰性を示す)。
培養温度37℃での増殖:+
培養温度45℃での増殖:+
培養温度55℃での増殖:−
カタラーゼ反応:+
オキシダーゼ反応:+
グルコースからの酸/ガス産生:−/−
O/Fテスト(酸化性/発酵性):−/−
キチナーゼ(キチンの加水分解):+(強いキチン分解活性を有した)
キトサナーゼ(キトサンの加水分解):+
プロテアーゼ(カゼインの加水分解):+
ゼラチナーゼ(ゼラチンの加水分解):+
β−ガラクトシダーゼ:−
アルギニンジヒドロラーゼ:−
リシンデカルボキシラーゼ:−
オルニチンデカルボキシラーゼ:−
クエン酸の利用性:−
S産生:−
ウレアーゼ:−
トリプトファンデアミナーゼ:−
インドール産生:−
アセトイン産生:−
硝酸塩還元:−
グリセロール(発酵性試験):−
エリスリトール(発酵性試験):−
D−アラビノース(発酵性試験):−
L−アラビノース(発酵性試験):−
リボース(発酵性試験):−
D−キシロース(発酵性試験):−
L−キシロース(発酵性試験):−
アドニトール(発酵性試験):−
β-メチル−D−キシロシド(発酵性試験):−
ガラクトース(発酵性試験):−
グルコース(発酵性試験):+
フラクトース(発酵性試験):−
マンノース(発酵性試験):−
ソルボース(発酵性試験):−
ラムノース(発酵性試験):−
ズルシトール(発酵性試験):−
イノシトール(発酵性試験):−
マンニトール(発酵性試験):−
ソルビトール(発酵性試験):−
α−メチル−D−マンノシド(発酵性試験):−
α−メチル−D−グルコシド(発酵性試験):+
N−アセチルグルコサミン(発酵性試験):+
アミグダリン(発酵性試験):−
アルブチン(発酵性試験):−
エスクリン(発酵性試験):−
サリシン(発酵性試験):−
セロビオース(発酵性試験):−
マルトース(発酵性試験):+
乳糖(発酵性試験):−
メリビオース(発酵性試験):−
白糖(発酵性試験):+
トレハロース(発酵性試験):+
イヌリン(発酵性試験):−
メレチトース(発酵性試験):−
ラフィノース(発酵性試験):−
澱粉(発酵性試験):+
グリコーゲン(発酵性試験):+
キシリトール(発酵性試験):−
ゲンチオビオース(発酵性試験):−
D−ツラノース(発酵性試験):+
D−リキソース(発酵性試験):−
D−タガトース(発酵性試験):−
D−フコース(発酵性試験):−
L−フコース(発酵性試験):−
D−アラビトール(発酵性試験):−
L−アラビトール(発酵性試験):−
グルコネート(発酵性試験):−
2−ケトグルコン酸(発酵性試験):−
5−ケトグルコン酸(発酵性試験):−
本菌株は好気条件で生育し、運動性を有するグラム陰性桿菌で、芽胞形成を示し、芽胞の位置は準端立であり、芽胞により菌体の膨張が認められた。また、カタラーゼ反応及びオキシダーゼ反応共に陽性を示し、これらの性状は、パエニバチルス(Paenibacillus)属の一般性状と一致する。しかしながら、上記の形態的、生理学的特徴等を調べたところ、これらの性状に一致するパエニバチルス属既知種は確認されなかった。また、分子系統解析の情報に基づき、最も近縁と考えられるP.validusの性状と比較した結果、グルコース、マルトース及びサッカロース等を酸化し、ズルシトール、ソルビトール及びイヌリン等を酸化せず、β−ガラクトシダーゼ、アルギニンジヒドロラーゼ等を加水分解しないことなどはP.validusと一致したが、グリセロール、リボース及びキシロースを酸化しない点やゼラチンを加水分解する点などはP.validusの性状と異なった。
なお、本菌株は、固体培地と液体培地のいずれでも培養可能であったが、キチン及びキトサンの分解効率と分解産物の精製効率を考慮した結果、液体培地が望ましかった。また、培地の炭素源としては、グルコース、N−アセチルグルコサミン、α−メチル−D−グルコシド、マルトース、トレハロース、グリコーゲン、D−ツラノースなどが利用可能であった。培地の窒素源としては、肉エキス、カツオエキス、酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、トリプトン、ソイトン、カゼイン消化物(水解物)、アミノ酸類、硫酸アンモニウム、塩酸アンモニウムなどが使用できた。無機塩類は、一般の細菌培養用に使われているものが使用可能であった。
2.3.16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいた分子系統解析
本菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析し、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)による細菌基準株データベースに対する相同性検索を行った。その結果、本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、パエニバチルス属細菌由来の16S rDNAに対し高い相同性を示し、P.chinjuensis WN9株の16S rDNAに対し相同率96.8%と最も高い相同性を示した。GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索においても同様の結果が得られたことから、本菌株はパエニバチルス属に帰属する可能性が高いと考えられた。そこで、本菌株に比較的高い相同性を示し、2004年に新種として登録されたP.elgiiの論文(Paenibacillus elgii sp. nov., with broad antimicrobial activity. Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2004, 54, 2031-2035.)を参考にパエニバチルスに帰属する種の基準株由来16S rRNA遺伝子の塩基配列を利用して分子系統樹を作成して分子系統解析を行った。
分子系統解析の結果、本菌株の16S rDNAはパエニバチルスの16S rDNAが形成するクラスター内に含まれ、P.validusの16S rDNAと系統枝を形成した(図1)。本菌株の系統枝(分岐)の信頼性を示すブートストラップ値は56%とやや低いものの、周囲に形成される各種の系統枝は比較的高いブートストラップ値を示していることから、系統樹の安定性は高いと考えられた。このことから、本菌株は既知種ではP.validusに最も近縁であるが、その系統枝と周囲に形成されるパエニバチルス各種の系統枝を比較すると、検体とP.validusが同種になる可能性は極めて低いと推察された。また、一般に16S rDNAの塩基配列をもちいた解析では、基準株に対し相同率が97%以上を示す場合、その検体は基準株と同種である可能性を考慮する必要があるが、今回の解析では本菌株の16S rDNAと相同率97%以上の相同性を示す基準株由来の16S rDNAは検索されなかった。これは、現時点では本菌株に近縁となる分類群の報告が存在しない、あるいは既知の種であっても本菌株に近縁となる基準株の16S rDNA塩基配列が塩基配列データベース上に登録されていないためと考えられ、本菌株の種レベルでの帰属分類群の推定は不可能であった。一方、本菌株の16S rDNAはパエニバチルス属の16S rDNAが形成するクラスター内に含まれることから、属レベルではパエニバチルスに含まれると考えられた。
2.4.分類・同定の結果
分子系統分類学的解析及び形態的、生理学的性質などの表現形質を、文献(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 2, Williams & Wilkins, Baltimore (1984) 及びBergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th ed.) , J. G. Holt, N. R. Krieg, P. H. A. Sneath, J. T. Staley, S. T. Williams (ed), Williams & Wilkins, Baltimore (1994) を参考) から総合的に判断し、本菌株をパエニバチルス属の新種を形成するPaenibacillus sp.と結論した(図1)。
実施例3.単離された新種の細菌によるカニ殻由来キチンの分解
以下の試薬を水酸化ナトリウムでpH7.0〜7.5に調整してオートクレーブ後、本菌株を植菌して30℃で振盪培養した:
カニ殻由来キチン 5.0%
ポリペプトン 1.0%
NaCl 0.5%
その結果、本菌株は、カニ殻由来キチン(5g/100ml=5%)を約5日間で分解した(図2)。なお、本発明の細菌を植菌しないでカニ殻入りの培地だけを振盪培養しても、キチンは低分子化しないことを確認している。
以上より、本発明の細菌は、安定で強固な結晶構造を有するカニ殻キチン(αキチン)を効率良く分解し得ることが示された。
実施例4.単離された新種の細菌におけるキチン・キトサン分解活性等の測定
実施例3で得られた培養上清中のキチン分解活性(キチン分解酵素の活性)とキトサン分解活性(キトサナーゼ活性)を、以下(1)及び(2)に記載される方法により測定した。また、実施例3で得られた培養上清中のN−アセチルグルコサミン濃度も測定した。
(1)キチン分解酵素の活性の測定
キチン分解酵素による酵素反応によってエチレングリコールキチンが加水分解され、糖の還元末端が増加する。この還元力の増加をSchales変法で測定することにより、本菌株におけるキチン分解酵素の活性を定量した(キチン・キトサン実験マニュアル、キチン・キトサン研究会編、技報堂出版(1991)参照)。
<試薬>
・基質溶液(1%溶液):エチレングリコールキチン(生化学工業、400681−1)0.25gに25mlのPBSを加え、一晩振盪して完全に溶解させた(小分けして冷凍保存)。
・フェリシアン化カリウム溶液(糖呈色溶液):フェリシアン化カリウム0.1g(1.5mM)と炭酸ナトリウム10.6g(500mM)を200mlの蒸留水に溶解した。
<測定法>
・氷上で1.5mlチューブに350μlの基質溶液と50μlの酵素液(1% BSA−PBSで適当に希釈)を加え、よく混合した。
・37℃で正確に15〜120分間反応させた。コントロールとして50μlの1% BSA−PBSを用いた。
・反応後、直ちに氷上へ移し、800μlの糖呈色溶液を加えてよく混合し、15分間沸騰水浴中で加熱した。
・冷水に移して冷却後、微量遠心機により14,000回転で3分間遠心分離して、上清の420nmの吸光度を測定した(吸光プレートリーダーを使用する場合は、試料を300μl/wellで測定した)。
・1分間当たり1μmolのN−アセチルグルコサミンに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位と定義した。
<検量線の作成>
・1.5mlチューブに既知濃度のN−アセチルグルコサミン水溶液(PBSに溶解)を400μl加えて同様に発色させた。使用するN−アセチルグルコサミン濃度は、1mg/mlから順に1/2希釈を行い、1/32まで希釈した(1.0〜0.03mg/ml)。この値からN−アセチルグルコサミンの検量線を作成した。ブランクにはPBSを使用した。
(2)キトサナーゼ活性の測定
グリコールキトサンはpH6.0以上でも可溶性であるため、至適pHが中性付近にあるキトサナーゼの基質として便利である。Ehrlich試薬によるアミノ糖の定量方法によって、生成したオリゴ糖やグルコサミンを定量することにより、本菌株におけるキトサナーゼ活性を算出した(キチン・キトサン実験マニュアル、キチン・キトサン研究会編、技報堂出版(1991)参照)。
<試薬>
・基質溶液(1%溶液):グリコールキトサン(和光純薬、072−01581)0.25gに25mlのPBSを加え、一晩振盪して完全に溶解させた(長期は冷凍保存)。
・アセチルアセトン試薬:アセチルアセトン(和光純薬、017−00496)1mlを50mlの0.5N炭酸ナトリウム(1.3g/50ml)に加えた。溶液は不安定であるので、使用直前に調製し1時間以内に使用した。
・Ehrlich試薬:p−ジメチルアミノベンズアルデヒド(和光純薬、047−18042)0.8gをエタノール30mlに溶解し、濃塩酸30mlを加えた(冷蔵保存)。
<測定法>
・ガラス製の小試験管に0.4mlの基質溶液と0.1mlの酵素液(1% BSA−PBSで適当に希釈)を加え、37℃で正確に10〜60分間反応させた。コントロールとして0.1mlの1% BSA−PBSも反応させた。
・反応後、直ちに氷上へ移し、0.5mlの純水と0.5mlのアセチルアセトン試薬を加えてよく混合し、20分間沸騰水浴中で加熱した。
・加熱後、水冷してからエタノール3mlとEhrlich試薬0.5mlを加えてよく混合した。そのまま室温で30分間放置して発色を完了させた。
・発色後、未分解の基質を遠心分離で除き、530nmの吸光度を測定した(吸光プレートリーダーを使用する場合は、試料を300μl/wellで測定した)。
・1分間当たり1μmolのグルコサミンに相当するアミノ糖を生成する酵素量を1単位と定義した。
<検量線の作成>
・ガラス製の小試験管に既知濃度のグルコサミン水溶液(PBSに溶解)を0.5ml加えて同様に発色させた。使用したグルコサミン濃度は、1mg/mlから順に1/2希釈を行い、1/32まで希釈した(1.0〜0.03mg/ml)。この値からグルコサミンの検量線を作成した。ブランクにはPBSを使用した。
(3)N−アセチルグルコサミンの定量
N−アセチルグルコサミンを、Schales変法で測定した(Imoto, T., K. Yamashita; Agri. Biol. Chem. 35, 1154 (1971))。
本菌株の培養上清中のキチン分解活性(キチン分解酵素の活性)とキトサン分解活性(キトサナーゼ活性)を測定したところ、両活性を検出した。また、ポリアクリルアミドゲル中にキチン又はキトサンを含有させたSDS−PAGEによる活性染色(ザイモグラム)でも両活性を検出し、キチン分解酵素及びキトサナーゼを検出した。この結果から、本菌はキチン分解酵素を少なくとも3種類以上、キトサナーゼは1種類以上、菌体外に分泌していることが明らかになった(データ示さず)。また、培養上清中のN−アセチルグルコサミン濃度を確認したところ、13mg/mlという高濃度を達成した。
以上より、本発明の細菌は、キチン及びキトサン分解活性を有し得ること、キチン分解酵素及びキトサナーゼを分泌し得ること、及びキチンをN−アセチルグルコサミンに効率良く分解し得ることが示された。
実施例5.既知の細菌に対する本発明の細菌の比較実験
次いで、本発明の細菌によるキチン分解能を、既知の細菌(パエニバチルス・フクイネンシス、受託番号FERM P−20620、茨城県つくば市東1−1−1中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所に寄託、寄託日:平成17年8月17日)と比較した。キチンとしては、非晶質キチンであるコロイダルキチン及び強固な結晶構造を有する粉末状キチン(αキチン)(和光純薬工業社製、コード番号:038−13635)を用いた。コロイダルキチンは、以下の通り調製した。先ず、粉末状キチン30gを10N塩酸1lに加えて室温で溶解し、蒸留水を2l加えて30分間攪拌した後、氷冷した10N水酸化ナトリウム水溶液を1l加えて中和した。次いで、中和により生じた塩を脱塩するため、静置によりキチンを沈殿させ、上清をデカンテーションして廃棄した。最後に、蒸留水を約2l加え、同様にデカンテーションを4〜5回繰り返すことにより、コロイダルキチンを得た。
その結果、非晶質キチンであるコロイダルキチンを基質に用いた場合は両細菌とも低分子化が可能であったが、本発明の細菌による分解能は既知の細菌よりも優れていた。一方、強固な結晶構造を有する粉末状キチン(αキチン)を用いた場合は、本発明の細菌だけが分解能を示した。
以上より、本発明の細菌が、強固な結晶構造を有するαキチンの分解能に優れることが示された。
実施例6.新規キチン分解酵素遺伝子のクローニング
実施例4で検出されたキチン分解酵素をさらに詳細に解析するために、ショットガンクローニングによって、キチン分解酵素遺伝子のクローニングを行った。
(1)形質転換体の調製
・本菌株(FPU−7)のゲノムDNAを、常法によってSau3AIで制限酵素処理し、ゲノムDNA断片を得た。
・得られたゲノムDNA断片を挿入DNAとして、別途調製したpBluescriptII(SK+)ベクターとライゲーションさせた後、大腸菌DH5αのコンピテントセルに導入し、形質転換体を得た。
(2)キチナーゼ遺伝子のスクリーニング
・800mlのLB培地(pH7.2)に寒天15gを加えてオートクレーブし、Amp(200mg/ml)0.5ml及びコロイダルキチン(実施例5に準ずる)200mlを加え、20%(v/v)コロイダルキチンプレートを作製した。
・上記(1)の形質転換体をコロイダルキチンプレートに播き、37℃にて一晩培養した。
・プレートを室温に移し、数日間培養し、キチンを溶かしているコロニーをスクリーニングした。
(3)N−アセチルグルコサミニダーゼ遺伝子のスクリーニング
・1lのLB培地(pH7.5)に寒天15gを加えてオートクレーブし、Amp(200mg/ml)0.5ml及び4MU−GlcNAc(4-Methylumbelliferyl N-acetyl-β-D-glucosaminide、SIGMA製)(DMSO中150mM)3.5ml(最終濃度0.5mM)を加え、4MU−GlcNAcプレートを作製した。
・上記(1)の形質転換体を4MU−GlcNAcプレートに播き、37℃にて一晩培養した。
・360nmの紫外線を照射し、蛍光を発するコロニーをスクリーニングした。
(4)遺伝子の塩基配列解析
・上記(2)及び(3)で得られたコロニーをそれぞれ培養し、常法によってプラスミドを抽出した。
・得られたプラスミドにクローニングされている遺伝子の塩基配列を解析した。
得られた遺伝子に関して、BLASTによる相同性検索を行った結果、3種類のキチナーゼ遺伝子及び1種類のN−アセチルグルコサミニダーゼ遺伝子と類推される塩基配列を得た。キチナーゼ遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号2、4、6に、そのアミノ酸配列を配列番号3、5、7に示す。また、N−アセチルグルコサミニダーゼ遺伝子の塩基配列を配列番号8に、そのアミノ酸配列を配列番号9に示す。
得られたキチナーゼ及びN−アセチルグルコサミニダーゼ遺伝子に関して、それぞれの酵素活性を測定した。各酵素を大腸菌でヒスチジンタグ融合タンパク質として発現させ、定法にしたがってニッケルキレートカラムに結合させた後、カラムを十分洗浄してからイミダゾールで溶出することにより精製した。酵素の溶出に使用したイミダゾールは透析により除去した。
実施例4の方法に準じてその活性を測定したところ、それぞれの活性が確認された。なお、用いた酵素液は培養上清を硫酸アンモニウムにより塩析して濃縮後、PBS(-)に溶解・透析した粗酵素液であった(本菌が産生するキチン分解系酵素群はいずれもキチン又はキトサンを炭素源として加えた場合に強く誘導されることが確認されている)。本粗酵素液とキチンを長時間反応させた場合、キチンはN−アセチルグルコサミンにまでほぼ完全分解した(収率95%以上)。キチン分解酵素群の遺伝子解析(SignalP 3.0 Server:http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)の結果、すべてのキチナーゼには酵素を細胞外へ分泌させるためのシグナルペプチド配列が存在していたことから、いずれも分泌酵素であると考えられた。一方、N−アセチルグルコサミニダーゼにはシグナルペプチド配列は確認できなかったことから、菌体内酵素と考えられた。N−アセチルグルコサミニダーゼが細胞内酵素であるのに培養上清中に活性を検出できる理由については、培養初期では酵素活性が検出されないことから長時間培養による溶菌により培養液中に滲出しているものと推測された。
以上より、本菌によるキチン代謝機構は、キチンの添加によりキチン分解系酵素群が誘導され積極的なキチン分解がスタートする。すなわち、キチンは菌体外でキチナーゼによりオリゴ糖にまで消化されてから細胞内に取り込まれ、細胞内でキチンオリゴ糖がN−アセチルグルコサミンにまで完全分解されて代謝されることが示唆された。さらに本菌はN−アセチルグルコサミンを細胞内に取り込むためのトランスポーターを複数有していることも明らかにしている。
以上の結果から、発酵によるN−アセチルグルコサミンの生産で重要なことは、(1)キチンオリゴ糖の取り込み経路の遺伝子破壊、(2)N−アセチルグルコサミンの取り込み経路の遺伝子破壊、(3)自己消化によるN−アセチルグルコサミニダーゼの細胞外滲出などが考えられる。
本発明の細菌又はその変異株及びキチナーゼは、例えば、多糖又は多糖含有物(例、カニ殻又はエビ殻)からの単糖及びオリゴ糖の製造に有用である。また、本発明の製造方法は、上述のような種々の有用性を有する多糖分解物の製造、ならびに該多糖分解物を含む医薬、農薬、健康食品などの開発に有用である。
16S rDNAを用いた分子系統樹を表す図である。枝の分岐付近の数字はブートストラップ値を示し、左下の線はスケールバーを示す。枝名の末尾のTは、その種の基準株(Type strain)であることを示す。 本発明の細菌による、カニ殻由来キチン(粉末状キチン)の分解を示す図である(右)。コントロールとして、培養前のカニ殻入りの培地を示す(左)。

Claims (13)

  1. 受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌又はキチン若しくはキトサンの分解能を有するその変異体。
  2. 受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌又はキチン若しくはキトサンの分解能を有するその変異体あるいはその培養上清を用いて、多糖又は多糖含有物からその分解物を生成することを含む、多糖又は多糖含有物の分解物の製造方法であって、多糖又は多糖含有物が、キチン及びキトサンからなる群より選ばれる1以上の多糖又はその含有物である製造方法
  3. 多糖含有物がカニ殻又はエビ殻である、請求項記載の方法。
  4. 該分解物がN−アセチルグルコサミンである、請求項2又は3記載の方法。
  5. 以下の(a’)(b’)、(c’)、(a’’)、(b’’)又は(c’’)のポリペプチド:
    (a’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
    (b’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド;
    (c’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド;
    (a’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
    (b’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
    (c’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド
  6. 請求項記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
  7. 請求項記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
  8. 請求項記載の発現ベクターを含む、形質転換体。
  9. 請求項記載のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からその分解物を生成することを含む、キチン又はキチン含有物の分解物の製造方法。
  10. キチン含有物がカニ殻又はエビ殻である、請求項記載の方法。
  11. 以下の(a’)、(b’)又は(c’)のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からキチンオリゴ糖を生成することを含む、キチンオリゴ糖の製造方法:
    (a’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
    (b’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド;又は
    (c’)配列番号3、5若しくは7で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつキチナーゼ活性を有するポリペプチド。
  12. 以下の(a’’)、(b’’)又は(c’’)のポリペプチドを用いて、キチン又はキチン含有物からN−アセチルグルコサミンを生成することを含む、N−アセチルグルコサミンの製造方法:
    (a’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;
    (b’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列において1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
    (c’’)配列番号9で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつN−アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するポリペプチド。
  13. 受託番号NITE P−310で表されるパエニバチルス属細菌を改変処理して、その変異体を得ることを含む、該パエニバチルス属細菌の変異体の作製方法。
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