JP5430813B2 - プロリン蓄積型形質転換酵母とその作成方法及び該酵母を用いた清酒の製造方法 - Google Patents

プロリン蓄積型形質転換酵母とその作成方法及び該酵母を用いた清酒の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、エタノールや冷凍、乾燥などのストレスに対して優れた耐性を有するプロリン蓄積型形質転換酵母とその作出方法、及び該酵母を用いた醸造食品あるいは発酵食品、特に清酒の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、遺伝子組換えにより、プロリンを細胞内に効果的に蓄積しその一部を細胞外に分泌するプロリンリッチな形質転換酵母及びその作出方法に関し、更には、該酵母を用いた味や風味が改善された清酒の製造方法に関する。
味噌、醤油、酒、パンなどの発酵食品・醸造食品は、いずれも酵母の発酵あるいは醸造作用を応用したものであり、いまや日常生活に欠かせないものである。
このうち発酵食品とは、カビ・酵母・細菌などの発酵微生物が有機化合物を分解してアルコール類・有機酸類・二酸化炭素などを生成する発酵反応を利用して作られた食品を意味し、醸造食品とは、発酵・熟成によって作られた食品、すなわち醸造によって作られた食品を意味するものである。
これら発酵食品・醸造食品は、みそ、醤油、酢などの調味料、清酒、ビール、焼酎、ウイスキーなどの酒類、漬物、納豆、パン、チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料など多岐にわたっている。同じ原材料を使っても、利用する発酵微生物が異なれば、別々の食品が製造される。米を原材料とする味噌や清酒の場合、麹カビを用いて麹を造るところまでは同じであるが、その後、乳酸菌の力を借りれば味噌となり、酵母を利用して醸造すれば清酒となる。さらにアルコ−ル発酵後に、酢酸菌を用いて醸造すれば酢になる。
近年、特に生活が豊かになるに伴い、多種多様な嗜好品が開発されている中で、味や香りの差別化、個性化が益々進みつつある。醸造品とりわけ酒類分野においてもこれは例外ではない。清酒においても嗜好品の生命でもある風味や香気の多様化を求める傾向が強くなってきた。清酒の味は多様な成分の相互作用により形成されているが、有機酸やアミノ酸の組成に大きく影響を受ける。一般に、清酒中のアミノ酸は、清酒の「雑味」の原因とされ、減らすべきであるとの考え方もあるが、醤油や味噌汁で明らかなように、アミノ酸自体に問題があるわけでなく、他の呈味成分、特に糖分や酸とのバランスにより、アミノ酸は「雑味」の原因にも「旨み」の成分にもなると考えられる。清酒中のアミノ酸は主として酵母によって合成されることから、清酒の味の多様化に応えるためには、清酒酵母のアルコール生成能を保ちながら,味に関与する有機酸組成のコントロールが可能な酵母や、アミノ酸の組成や生成量に特徴を持つ酵母の育種が重要である。
酵母は、およそ60属、500種に分類され、その分類体系は以下のとおりである。
1.有胞子酵母(33属、183種);
ビヒア(Picha)属;56種
ハンゼスラ属(Hansenula)属;30種
チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属;8種
サッカロミセス(Saccharomyces)属;7種
2.担子菌酵母(10属、36種)
3.不完全酵母(17属、281種)
カンジダ(Candeda);196種
これら酵母を使用、あるいは応用している「菌株」は、それぞれの食品ごとに全て異なっており、それがゆえに、醗酵・醸造食品は全て特有の風味を持っている。また、これら酵母は、例えば、「清酒酵母」、「アルコール酵母」、「ビール酵母」、「ブドウ酒酵母」、「パン酵母」などのように、その使用目的によって、それぞれの名前がつけられている。
これら酵母は、醸造あるいは発酵生産環境において低温、凍結、乾燥、酸化、高浸透圧、高アルコール濃度、偏栄養などのストレスを受けており、このようなストレスを長時間受けると、多くの酵母細胞内のタンパク質は変性し、酵母の有用な機能が制限されるという問題がある。例えば、清酒酵母では、エタノールによるストレスによりその生産能が低減してしまうという問題を抱えている。
このような問題を解決するために、本発明者らはすでに、プロリンが冷凍、乾燥、酸化などのストレスから酵母を保護する性質を有することに着目して、冷凍耐性を有する新規な酵母、特にパン酵母について特許出願をした(特許文献1参照)。この特許出願に係る発明は、菌体内に、プロリン、アルギニン、リジン、グルタミン酸から選ばれる1種以上のアミノ酸を蓄積する、冷凍耐性酵母及び該酵母を用いて冷凍パン生地、パンを製造する方法に関するものである。当該発明においては、特定アミノ酸を菌体内に蓄積する酵母を得るために、親株に変異誘導処理を行ったり、酵母生育のために必要な炭素源とは別に、特定アミノ酸の前駆体を培地に添加して、特定アミノ酸を菌体内に蓄積する方法が利用された。
また、本発明者らは、プロリンの毒性アナログであるアゼチジン-2-カルボン酸(AZC)に耐性を示す変異株の中から、細胞内にプロリンを蓄積し、親株よりも冷凍ストレス耐性を示す変異株(FH515株)を分離することに成功し、それについても報告を行った (非特許文献1参照)。通常の細胞ではプロリン合成系が厳密に調節されており、また分解系も存在するため、細胞内にプロリンは過剰に蓄積されることはない。したがって、酵母の野生株においてもプロリンの毒性アナログであるAZCを含む培地では生育できないが、細胞内のプロリン含量が増加した細胞では、相対的に細胞内に取り込まれたAZCが希釈され、AZC耐性になることがわかった。
さらに、本発明者らは、上記の文献で言及されている変異株ではγ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)をコードする遺伝子(PRO1)に変異が入り、Asp154がAsnに置換していること (非特許文献2参照)、γ-GKの安定化によってγ-GKとγ−グルタミルリン酸還元酵素(γ-GPR)の両酵素活性が上昇し、プロリンが過剰合成されることについても報告した(非特許文献3参照)。
本発明者らは、また、プロリン分解系の最初ステップに関与する酵素であるプロリンオキシダーゼの遺伝子(PUT1)を破壊すると、やはり細胞内プロリン含量が増加し、冷凍や乾燥ストレスに対する耐性が向上することを報告した(非特許文献4及び5参照)。
最近の遺伝子工学技術の進展には目覚しいものがあり、微生物の育種への応用として、遺伝子導入(組換え)による形質転換体の作出等が盛んに行われている。これは酒類などの醸造分野においても例外ではなく、変異株の場合と同様、作業の効率化、呈味性や香味といった酒質の改善のために醸造用酵母の遺伝子操作による形質転換の研究が盛んに行われている。しかしながら、その遺伝子組換え技術が酒類、ビール醸造に用いられる酵母に対して実用化された例はまだないのが現状である。ましてや、旨み、特に甘みの一因であるプロリンの細胞内蓄積量が向上し、かつその一部を細胞外に分泌し、しかもエタノール耐性及びエタノール産生能を向上させ得るような特性を有する酵母、特に清酒酵母は、未だ実用化されていないばかりか、その存在すら知られていなかった。
特開平9−234058号公報 H. Takagi, F. Iwamoto, and S. Nakamori, Appln. Microbiol., Biotecnol., 47, 405-411 (1977) Y. Morita, S. Nakamori, and H. Takagi, Appln. Environ. Microbiol., 69, 212-219 (2003) Y. Terao, S. Nakamori, and H. Takagi, Appln. Environ. Microbiol., 69, 6527-6532 (2003) H. Takagi, K. Sakai, K. Morida, and S. Nakamori, FEMS Microbiol. Lett., 184, 103-108 (2000) Y. Morita, S. Nakamori, and H. Takagi, J. Biosci. Bioeng., 94,390-394 (2002)
したがって、本発明の目的は、甘みの一因であるプロリンの細胞内蓄積量が向上し、かつその一部を細胞外に分泌し、しかも少なくともエタノール産生能を維持しつつ、エタノール耐性向上させ得るような特性を有する酵母、特に清酒酵母を提供することである。
より具体的には、本発明の目的は、酵母内プロリン代謝経路中、分解系の第1ステップに関与するプロリン分解酵素、すなわちプロリン酸化酵素(PO)をコードする遺伝子を破壊することによって、プロリンの分解系を抑制するとともに、他方で、合成系の第1ステップに関与するプロリン合成酵素であるγ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)をコードする遺伝子をプロリン多産生型の遺伝子で置換することにより、プロリンを細胞内に効果的に蓄積し、かつその一部を細胞外に放出する形質転換酵母及びその作出方法を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、このような形質転換酵母を用いて、旨みの向上した発酵あるいは醸造食品、特に多様な風味や香気を有する清酒を効率よく製造することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、酵母内プロリン代謝経路中、分解系の第1ステップに関与しているプロリン分解酵素をコードする遺伝子を破壊することによってプロリン分解系を抑制し、同時に、プロリン合成系の第1ステップに関与しているプロリン合成酵素をコードする遺伝子をプロリン多産生型遺伝子で置換することにより合成系を強化し、これによって、細胞内のプロリン含量がさらに増加され、かつ、その一部を細胞外に放出する新規な酵母を見出して本発明を完成した。また、これら形質転換酵母が、冷凍、乾燥、酸化、エタノールなどの各種ストレス、特にエタノールストレスに対して優れた耐性を有することを見出し、風味及び香気等の向上した清酒等の醸造あるいは醗酵食品の製造に有益であることを見出すことによって、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、冷凍や乾燥、エタノールなどのストレスに対して優れた耐性を有する、プロリン蓄積型形質転換酵母とその作出方法及びその用途に関するものであり、具体的には以下のとおりである。
1.下記工程を含んでなる、清酒酵母を用いた、細胞内に蓄積したプロリンの一部を醸造の際に細胞外へ分泌する能力を有するプロリン蓄積型形質転換酵母の作出方法。
a)酵母内プロリン代謝経路において、プロリン分解酵素であるプロリン酸化酵素の遺伝子を破壊することからなるプロリン分解系を抑制する工程、
b)酵母内プロリン代謝経路において、プロリン合成酵素であるγ−グルタミン酸リン酸化酵素をコードする遺伝子のAsp154をAsnで置換することからなるプロリン合成系を強化する工程、及び
c)細胞内にプロリンを蓄積する菌株を選別分離する工程。
2.上記1に記載の方法によって得られるプロリン蓄積型形質転換酵母XUDput1-MT(FERM P−20171)。
3.上記2に記載のプロリン蓄積型形質転換酵母を用いて醸造を行うことを特徴とする清酒の製造方法。
本発明によるプロリン蓄積型形質転換酵母は、菌体内外のプロリンが著しく増加しているばかりか、その一部を細胞外に分泌する作用を有するので、低温、凍結、乾燥、酸化、高浸透圧、偏栄養などのストレスに対する耐性を有するばかりでなく、高エタノール濃度における耐性にも非常に優れている。このことから、本発明酵母を使用することにより、風味や香味やの優れた清酒を効率よく製造することが出来る。
本発明で用いる酵母は、プロリン分解酵素としてのプロリン酸化酵素(PO)及びプロリン合成酵素としてのγ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)の両酵素をコードする遺伝子を有するものであれば特に制限はなく、これら遺伝子を破壊し、置換することによって所望の酵母を得ることができる。しかし、好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母である。より具体的には、清酒酵母(協会7号酵母、協会9号酵母、協会10号酵母等)、焼酎酵母、ワイン酵母、ビール酵母、パン酵母等の実用酵母を含めたサッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母であり、特に好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する清酒酵母である。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母のプロリン合成経路及びその分解経路は図1に示すとおりである。図中、( )内のイタリック文字は各酵素をコードする遺伝子名を示す。プロリン合成系は、原材料であるグルタミン酸が、γ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)の作用によってγ−グルタミルリン酸(γ-GP)となる第1工程、γ-GPがγ-GP還元酵素(GPR)の作用によってグルタミン酸−γ−セミアルデヒド、ピロリン-5-カルボン酸(P5C)となる第2工程、P5CがP5C−還元酵素の作用によってプロリンとなる第3工程からなる。一方、プロリン分解系は、プロリン酸化酵素(PO)によってプロリンがP5Cとなる第1工程と、該P5Cが脱水素酵素の作用によってグルタミン酸に変換される2工程からなる。
「プロリン酸化酵素遺伝子」とは、プロリンをP5Cに変換する酵素をコードする遺伝子であり、これを破壊(ノックアウト)することによってプロリンが分解されるのを抑制することができる。
「プロリン分解酵素遺伝子」とは、図1に示したプロリン分解系におけるプロリン酸化酵素をコードする遺伝子を意味するものである。
「野生型プロリン合成酵素遺伝子」とは、図1に示したプロリン合成系の第1ステップにおいて作用する野生型γ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)をコードする遺伝子を意味するものである。
「プロリン多産生型遺伝子」とは、具体的には野生型γ−グルタミン酸リン酸化酵素(γ-GK)をコードする遺伝子のAsp154部位をAsnで置換してなる遺伝子を意味するものである。
「プロリン蓄積型形質転換酵母」とは、酵母におけるプロリン分解系のプロリン酸化酵素をコードする遺伝子が破壊されて分解機能を失い、かつ、同合成系のγ-GK遺伝子をプロリン多産生型遺伝子で置き換えてなる遺伝子である。
「破壊」とは、その遺伝子機能を喪失・失活させるような遺伝子操作をいい、具体的には相同組換えの方法によって行なわれる。
次に、本発明に係るプロリンを蓄積する形質転換酵母の作出方法について具体的に説明する。
本発明のプロリン蓄積型形質転換酵母の作出工程は、図1に示した酵母内プロリン代謝経路において、a)分解系を抑制する工程、b)合成系を強化する工程及びにc)プロリン蓄積型形質転換酵母の選別分離工程に大きく分けられる。
a)分解系を抑制する工程
まず、分解系の抑制工程a)として、最初のプロリン分解酵素であるプロリンオキシダーゼ(プロリン酸化酵素)の遺伝子をコードしているPUT1を破壊する(図2)。
遺伝子破壊の方法は種々の方法が報告されているが、ある特定の遺伝子のみ破壊できるという点で、相同組換え法を用いるのが好ましい。相同組換えの中でも、自然復帰しない破壊株が取得でき、その結果、組換え体を取り扱う上で安全性が高い菌株が得られるという観点からすると、1段階染色体置換破壊法(one-step gene disruption)が好ましい。
PUT1の破壊は、プラスミド上にクローン化したPUT1のORFの大部分を欠失させ、そこに選択マーカー遺伝子(TRP1)を挿入した後、直鎖状のDNA断片を酵母に導入することにより、導入断片の両端を染色体上のPUT1との相同部分の間で2回の組換えを起こし、TRF1を挟み込んだDNA断片で置換する方法によって行なう。この方法によればは標的遺伝子の完全な欠失変異が得られ、しかも挿入断片の組換え脱落による復帰変異が起こらない利点がある。
TRP1の両端の相同性領域の長さは、40塩基以上あればよく、好ましくは100塩基以上、より好ましくは500塩基以上である。また、両端それぞれの相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
即ち、PUT1遺伝子の大部分を選択マーカー遺伝子に置換したDNA断片を清酒酵母の一倍体に導入した後、染色体上のPUT1との相同組換えにより形質転換体を取得する。このように得られた形質転換体のPUT1の破壊を確認する手段としては、プロリン資化能、PCR法(Polymer Chain Reaction, ポリメラーゼ連鎖反応法)、酵素活性測定及びプロリン含量の測定法などがある。
b)合成系の強化工程
次に、合成系の強化工程b)として、上記工程a)で得られたPUT1破壊株を用いて野生株PRO1を変異型PRO1に置換させる(図3)。URA3の選択マーカー遺伝子を使用し、変異型PRO1を組み込んだプラスミドを構築した後、PUT1破壊株に導入し、プラスミド上の変異型遺伝子PRO1と染色体上の野生型遺伝子PRO1との相同組換えにより、URA3を含むプラスミド全長が野生型PRO1座位に挿入された形質転換体を収得する。
c)プロリン蓄積型形質転換酵母の選別分離工程
最後に、上記工程b)で得られた形質転換酵母をYPD完全培地と5-フルオロオロト酸(5-FOA)培地で培養することにより、野生型PRO1を含む領域を脱落させ、変異型PRO1のみが染色体に残る、プロリン蓄積株(AZC耐性)を分離する(図3)。
即ち、野生型PRO1とURA3を含むプラスミドを脱落させ、URA3が存在すると毒性化合物ができることにより生育できなくなる5-FOA培地を使用し、URA3欠損株を選別する。得られた5-FOA耐性コロニーの中からさらにプロリンを蓄積することによりAZCに耐性を示す株(変異型PRO1)と感受性を示す株(野生型PRO1)を選別する。両菌株のPRO1の塩基配列はダイレクトシークエンシングによって確認する。
このようにして本発明者らは、プロリンを細胞内に蓄積する酵母の作製に成功し、このプロリン蓄積株(AZC耐性)をXUDput1-MTと命名し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20171として寄託した。
また、本発明のプロリン蓄積型形質転換酵母について、エタノール存在下での生育実験の行い、その形質転換酵母のエタノール耐性などの特性を検討した。さらに、本発明のプロリン蓄積型形質転換酵母を用いて、清酒の小仕込実験を行い、その醸造特定についても検討を行った。
本発明において、大腸菌からのプラスミド調製は、アルカリSDS法をベースにしたWizard Plus Minipreps DNA purification system(Promega社)を用いて行った。その他、大腸菌の形質転換、DNAの制限酵素による切断、連結などの遺伝子操作は「バイオマニュアルシリーズI 遺伝子工学の基本技術」(羊土社)および「バイオ実験イラストレイテッド」(秀潤社)に、また、酵母の取り扱いや遺伝子操作は「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子実験法」(羊土社)および「生物化学実験39 酵母分子遺伝子実験法」(学会出版センター)に準じて行った。
以下、酵母サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)を用いて本発明について具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例で用いた実験材料及び試験方法は以下のとおりである。
1.菌株とプラスミド
(1)酵母 Saccharomyces cerevisiae;
「MB 株」はΣ1278bとS288C株の交雑株であり、「MB329-17C(MATα ura3-52 trp1 put1-54 azcs )」は、Dr. Marjorie Brandriss (米国 UMDNJ-New Jersey Medical School)から分譲を受けた。
「FH515 (MATα ura3-52 trp1 put1-54 pro1D154N AZCr)」は、エチルメタンスルホン酸(EMS)処理によりMB329-17C 株から分離したプロリン蓄積型 AZC 耐性変異株であり、PRO1 変異(Asp154Asn)を有している。
「XUW-14(MATα ura3 trp1)」は、清酒酵母の一倍体であり、福井県食品加工研究所の久保義人氏より分譲を受けたものである。
(2)大腸菌 Escherichia coli;
・DH5α;
F- λ- φ80lacZ ΔM15 Δ(lacZYA argF)U169 deoR recA1 endA1 hsdR17(r- m +) supE44 thi-1 gyrA96
・JM109;
recA1 end1 gyr96 thi1 hsdR17 supE44 relA1 Δ(lac-proAB)/F’ [traD36 proAB+ laclq kacZΔM15]
(3)プラスミド;
「pBlue-PUT1」は、E. coliでの複製起点と選択マーカーのアンピシリン耐性遺伝子を含むpBluescriptIISK+(東洋紡社)のSalI-SacIサイトにPUT1断片を含む約2.6 kbの断片を組み込んでなるプラスミドである。
「pRS414」(Stratagene社)は、酵母のセントロメア型のプラスミド(YCp型)であり、酵母での選択マーカーTRP1、及びE. coliでの複製起点と選択マーカーのアンピシリン耐性遺伝子を含んでなるプラスミドである。
「pRS-D154NPRO1」は、上記pRS414のHindIII-SacIサイトに変異型 PRO1(pro1D154N)を含む約1.8 kbの断片を組み込んでなるプラスミドである。
「pRS406」(Stratagene社)は、染色体への組込み型のプラスミド(YIp型)であって、酵母での選択マーカーURA3、及びE. coliでの複製起点と選択マーカーのアンピシリン耐性遺伝子を含んでいる。酵母中では自律複製せず、相同組換えによる染色体への組込みによってのみ維持される。
「pUV2 (九州工業大学の仁川 純一先生より分譲)」は、酵母の2μmDNA 複製起点を持つ多コピープラスミド(YEp型)であって、酵母での選択マーカーURA3、およびE. coli での複製起点と選択マーカーのアンピシリン耐性遺伝子を含んでいる。
「pUV-PRO2」は、pUV2のBamHIサイトに野生型PRO2を含む約3.4 kbの断片を組み込んだプラスミドである。
2.培地
使用した培地は、以下のとおりである。
(1)YPD 培地 (酵母用完全培地);
グルコース 2%
ポリペプトン 2%
酵母エキス 1%
必要に応じて寒天(2%)を添加した。
(2)SD 培地 (酵母用最少培地);
グルコース 2%
Yeast nitrogen base w/o amino acids (Difco Laboratories 社) 0.67%
必要に応じて各菌株の要求物質(Uracil 16 mg/L、L-Leucine、L-Histidine-HCl、L-Tryptophan を各 40 mg/L)または寒天(2%)を添加した。
(3)SD(-N)培地(SDより硫安を除いた培地);
グルコース 2%
Yeast nitrogen base w/o (NH4)2SO4, amino acids(Difco Laboratories社)0.67%
必要に応じて窒素源を0.1%プロリンまたはグルタミン酸ナトリウムとし、寒天(2%)も添加した。
(4)SC培地 (酵母用合成完全培地);
グルコース 2%
Yeast nitrogen base w/o amino acids (Difco Laboratories社) 0.67%
Drop-out mixture 0.2%
上記「Drop-out mixture」 は、表1の物質から必要に応じて特定の物質を除き、残りをよく混合したものである。
Figure 0005430813
酵母の培養は、30℃で行い、液体培地ではアルミキャップを用いた試験管又はシリコ栓を用いた坂口フラスコを用いて培養した。
(5)LB培地(大腸菌用完全培地);
トリプトン 1%
酵母エキス 1%
NaCl 0.5%
必要に応じて アンピシリン (Amp)(50μg/ml)、寒天 ( 2% )を添加した。
(6)5-フルオロオロト酸(5-FOA)培地(500 ml分);
表2の通り。
Figure 0005430813
Agarと水をオートクレーブ後(121℃、15分)、冷却してから他の成分を添加する。
ここで「10×YNB」は、下記のとおりである。
Yeast nitrogen base w/o amino acids (Difco Laboratories 社) 1.5%
硫酸アンモニウム 5%
ここで「10×HC-7aa」は、表3のとおりである。
Figure 0005430813
3.DNAオリゴマー
本実験で用いたDNAオリゴマーの配列を表4に示す。各オリゴマーの合成は北海道システムサイエンス社に委託した。
Figure 0005430813
下線部は各制限酵素の認識部位を示す。
4.試験方法
(1)細胞内プロリン含量の測定
(1)-1.乾燥重量の測定
培養後の吸光度 (OD600) を測定し、x=y/978.45の式(x=5mlあたりの乾燥重量(g)、y=OD600)を用いて菌体の乾重量を算出した。
(1)-2.アミノ酸アナライザーによる定量
各菌株を5mlのSD 培地で30℃で48時間培養した後、遠心分離機(3,500回転/分)に10 分間かけて集菌し、さらに洗浄し、0.5mlの滅菌水で菌体を懸濁した後、100℃で10分間熱水処理した。遠心分離(12,000回転、5分)の後、上清を0.02NHClで5〜10倍に希釈し(ただし、清酒に関しては50倍希釈)、フィルターろ過後、アミノ酸アナライザー(日立社製:L-8500A 高圧アミノ酸分析計)に供した。スタンダードには1mlのアミノ酸混合標準液(各アミノ酸2nmol/20μl含有)を同じくフィルターろ過したものを用いた。
(2)エタノールストレス感受性テスト
各菌株を10mlのYPD培地で30℃、48hr振とう培養後(前培養)、SD(9ml)+前培養液(1ml)[エタノールfinal 0%(v/v)]、SD+10%エタノール(9ml)+前培養液(1ml)[エタノールfinal 9%(v/v)]、SD+20%エタノール(9ml)+前培養液(1ml)[エタノールfinal 18%(v/v)]を調製し、30℃に静置して本培養を行った。0、2、5及び8日後に各培養液を希釈し、YPDプレートに塗り広げ、30℃、2日間培養した。生じたコロニー数を数え、培養0日の生菌数を100%として生存率を算出した。また、5mlの前培養液を用いて細胞内プロリン含量を測定した。
(3)プロリンオキシダーゼ活性の測定
50mlのSD液体培地で30℃、48hr培養後、フィルター上に集菌し、液体窒素に10秒間浸した。
次に、氷冷した10mlのHEPES buffer(pH7.5)+3mM MgCl2が入ったアシストチューブにメンブレンフィルターを入れ氷上に置き、すべてのサンプルが揃ったら、ボルテックスミキサーの最大スピードで攪拌懸濁し、粗酵素液とした。
次に、マイクロチューブに0.5mlの粗酵素液を入れ、10%プロリンを0.4ml加え30℃で15minインキュベートした。その後、0.1mlのo-aminobenzaldehyde溶液(Sigma社)と0.5mlの10%TCAを加えボルテックスし、発色するまで30min静置した。遠心分離(12,000回転/分、5分)の後、上澄みの吸光度(OD443)を測定し、プロリンオキシダーゼ活性値とした。
なお、酵素活性は30℃、1minに1nmolのΔ1-pyrroline-5- carboxylate(P5C)-o-aminobenzaldehyde複合体(ε=2.71×103M-1・cm-1)を生成する酵素量を1unitとした。数1に算出式を示す。
Figure 0005430813
1.プロリン蓄積株の作製
プロリンを蓄積する清酒酵母の作製は、清酒酵母の一倍体であるXUW-14 (MATα ura3 trp1)をTRIP1でPUT1破壊して得られるXUDput1を変異型PRO1(pro1D154N)で置換することによってプロリン蓄積株XUDput1-MTを得た。以下、これについて具体的に順を追って説明する。
a)分解系の抑制工程:PUT1遺伝子の破壊
図2に示したように、プラスミドpBlue-PUT1を制限酵素Bal IとI Aat Iで切断し、電気泳動によりPUT1のORFの一部を除去した断片(3.9kb)を回収し、プラスミドpRS414(Stratagene社より購入)を制限酵素Nae IとSca Iで切断して得られたTRP1含有断片(2.6kb)をこれに連結した後、大腸菌JM109株に導入した。アンピシリン耐性を示す形質転換体からプラスミドを調製し、これをpBlue-Dput1-TRP1と命名した。
次に、上記のプラスミドpBlue-Dput1-TRP1を制限酵素BamH IとKpn Iで切断してTRP1含有断片(3.6kb)を回収し、この断片を用いて清酒酵母の一倍体XUW-14株のPUT1と相同組換えにより形質転換を行い、清酒酵母のPUT1破壊株(XUDput1)を得た。
PUT1の破壊の確認するために、上記プラスミドpBlue-Dput1-TRP1を制限酵素BamH IとKpn Iで切断して得られたTRP1を含む断片(3.6 kb)を回収し、この断片を用いてXUW14株のPUT1との相同組換えを利用した形質転換を行った後、SC-Trpプレートに塗り広げ、30℃で2〜3日間培養した。得られたTrpのコロニーをSD(-N)+0.1%グルタミン酸ナトリウム培地とSD(-N)+0.1%プロリン培地で培養し、グルタミン酸ナトリウム培地では生育するが、プロリン培地では生育できないクローンについて、コロニーPCRによってPUT1の破壊を確認した。
より詳しくは、PUT1の破壊の確認は、以下4つの方法によって確認された。
1)プロリン資化能;
一般に、酵母はグルタミン酸やプロリンを唯一のN源として生育できるが、PUT1破壊株はプロリンを資化できないことが知られている。そこで、本実験では、SD寒天培地でリフレッシュした各菌株を0.1%グルタミン酸ナトリウム(MSG)、またはプロリンを唯一の窒素源に用いた寒天培地(C源は2%グルコース)にそれぞれストリーク後、30℃で培養し、生育度を比較した。
その結果、野生株(XUW-TRP)はプロリンを唯一のN源として生育したが、プロリンオキシダーゼをコードするPUT1を破壊した菌株(XUWDput1)では生育できないことが確認された。
2)ゲノミックPCR;
先に述べた方法によって得られたTrp+コロニーから染色体DNAを調製し、各プライマーを用いたPCRによってPUT1の破壊を確認した。TRP1内部のプライマーを片側に用いると、XUW-TRP(野生株)では増幅は見られなかったが、XUDput1(PUT1破壊株)では特異的なバンドが増幅しており(レーン(3);2,750bp、レーン(5);1,930bp)、PUT1破壊が確認できた。
3)プロリンオキシダーゼ活性;
次に、各菌株から細胞抽出液を調製し、プロリンオキシダーゼ活性を測定した。測定結果を表5に示す。この測定結果をみると、野生株(XUW-TRP)はいずれの培地でもプロリンオキシダーゼ活性が検出できた。特に、プロリン添加培地では約3倍に活性値が上昇しており、プロリンによってPUT1の発現が誘導されていることが確認できた。一方、PUT1破壊株(XUDput1)では、活性はほとんど検出されなかった。
Figure 0005430813
4)細胞内プロリン含量;
最後に、各菌株を最少培地で2日間培養後、細胞内のプロリン含量を測定した。その測定結果を表6に示す。この測定結果をみると、通常のSD培地では両菌株ともプロリンはほとんど検出されなかったが、プロリンを添加した培地では、PUT1破壊株(XUDput1)はプロリンを分解できないため、細胞内にプロリンが蓄積していた(約0.7%乾燥重量)。
Figure 0005430813
以上の結果から、XUDput1株では染色体上のPUT1が破壊されていることが確認できた。
b)合成系の強化工程:変異株PRO1遺伝子(pro1D154N)への置換
プラスミドpRS-D154NPRO1を制限酵素Hind IIIとSac Iで切断し、電気泳動によりpro1D154N遺伝子を含む断片(1.8kb)を回収し、プラスミドpR406(Stratagene社より購入)を制限酵素Hind IIIとSac Iで切断して得られたURA3含有断片(4.3kb)と連結した後、大腸菌JM109株に導入した。アンピシリン耐性の形質転換体から変異型PRO1を組み込んだプラスミドを抽出し、PRO1内に一ヶ所存在するXba Iで切断した直鎖状断片を調製した後、上記a)で得られたXUDput1を形質転換し、SC-Uraプレートに塗り広げ、30℃で2〜3日間培養した。
この際、Ura+かつAZC耐性を示すコロニーは、プラスミド上の変異型PRO1がXUDput1株の染色体上の野生型PRO1と相同組換えを起こし、URA3を含むプラスミド全長(直鎖状断片)が野生型PRO1座位に挿入された形質転換体が得られる。
次に、野生型PRO1とURA3を含むプラスミドを脱落させる目的で、Ura+かつAZC耐性を示すコロニーを1mlのYPD培地で30℃、1日培養後、新しいYPD培地に5%シードし、さらに1日培養し、培養液を希釈せずに5-FOA含有プレートに塗り広げた。
c)細胞内にプロリンを蓄積する 菌株の選別分離工程
こうして得られた5-FOA耐性コロニーをAZC(100μg/ml)を含むSD培地にストリークし、AZC耐性コロニーを変異株PRO1遺伝子(pro1D154N)が染色体に残った菌株として選別し、XUDput1-MTとして命名し、この形質転換酵母(XUDput1-MT)はFERM P−20171として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。
一方、AZC感受性を示すコロニーは野生型PRO1が染色体上に残った菌株として選別し、XUDput1-WTと名づけた。さらに両菌株のPRO1断片をPCRによって調製し、ダイレクトシークエンシングによって目的の塩基配列であることを確認した。
本実施例では、変異型PRO1(pro1D154N)への置換と細胞内プロリン含量について検討した。
PUT1破壊株の染色体上のPRO1を変異型PRO1(pro1D154N)に置換した菌株(XUDput1-MT)と野生株(XUDput1-WT)のAZCに対する感受性を比較した。その結果、AZCを含むSD培地ではXUDput1-WTは生育することができず感受性を示したが、XUDput1-MTでは生育することができた。また、両菌株の細胞内プロリン含量を測定したところ、AZC培地での生育と関連して、XUDput1-MTではプロリンが多く蓄積していた(表7)。
Figure 0005430813
本実施例では、PRO2遺伝子の多コピー導入について検討を行った。
FH515株ではγ-GKのアミノ酸置換(D154N)によりγ-GKとγ-GPRの安定性が向上したため、両活性の見かけ上の比活性が上昇し、細胞内にプロリンを蓄積すると考えられた。そこで、実験室株(INVSc1)において両酵素の遺伝子を多コピーで発現させ、遺伝子増幅効果(gene dosage effect)によって酵素活性を増加させたところ、細胞内プロリン含量の増加に成功した。
清酒酵母においても同様の効果があるかどうか調べる目的で、プラスミドpTV-PRO2を制限酵素BamH Iで切断し、PRO2遺伝子を含む3.4 kbの断片をアガロースゲルから回収した後、プラスミドpUV2のBamH I切断部位に連結し、大腸菌DH5α株に導入した。Amp耐性を示す形質転換体コロニーからPRO2遺伝子が正しく組み込まれたプラスミド(pUV-PRO2)を調製した後、XUDput1-MT株に導入して、細胞内プロリン含量を測定した。その測定結果を表8に示す。この測定結果から、培地や培養方法を変えてプロリン含量への影響を調べてみたが、PRO2の多コピー導入は効果がなかった。
Figure 0005430813
本実施例では実験室酵母と本発明のプロリン蓄積型酵母に対してエタノール存在下での生育を調べ、エタノールストレス感受性を検討し、その測定結果を表9に示す。
実験室酵母(MB329-17C、FH515)では、γ-GKのアミノ酸置換(D154N)によってFH515ではプロリンを蓄積し、かつエタノール存在下での生存率も高いことが判明した。
エタノール存在下(9%、18%)では、プロリン蓄積株(XUDput1-MT(pUV-PRO2))の方が対(XUW-TRP(pUV2))よりも生存率が高い傾向にあった。また、全体的に各菌株は9%エタノール存在下ではエタノール無添加培地よりも生存率が高かった。
Figure 0005430813
本実施例では、プロリン蓄積株(XUDput1-MT(pUV-PRO2))と対照株(XUW-TRP(pUV2))を用いて清酒の小仕込み試験を行った(福井県食品加工研究所で実施)。仕込みに用いた米は表10に示すとおり。
小仕込み試験に用いた菌株は、野生型PRO1を変異型PRO1(pro1D154N)に置換した株にPRO2を多コピー導入した株(XUDput1-MT(pUV-PRO2))、およびコントロールとしてXUW-14株のtrp1をpRS414(TRP1)で、ura3をpUV2(URA3)でそれぞれ相補した株(XUW-TRP(pUV2))を用いた。
培養方法によって菌体内のプロリンの蓄積量に差が生じるため、両菌株をYPD培地(30ml、30℃、2日間)で振とうまたは静置の2種類の方法で前培養し、その後n=5(うち1本はサンプリング用)で総米200g、麹歩合20%、汲水歩合130%、発酵温度15℃一定の条件で仕込みを行った。
Figure 0005430813
小仕込み試験終了後、清酒中の各成分を分析し、醸造特性を比較した。その測定結果を表11に示す。
Figure 0005430813
表11から明らかなとおり、水に対する酒の比重を表わす日本酒度(SM値)については、プロリン蓄積株(XUDput1-MT(pUV-PRO2))の方が対照株(XUW-TRP(pUV2))よりも著しく低い値を示した。酒の比重は、糖分を中心とするエキス分が多いほど大きくなり(重くなり)、日本酒度はマイナス(−)に傾く。一方、エキス分が少ないほど小さくなり(軽くなり)、日本酒度はプラス(+)に傾く。一般に、発酵の進行に伴い糖分は減少し、エタノール量が増加するため比重は小さくなり、日本酒度は高くなる。しかしながら、プロリン蓄積株と対照株では発酵の指標となる炭酸ガス減量、エタノール生産量、グルコース消費量などの基本的な醸造特性に変化はなかった。
次に、清酒中のアミノ酸含量を測定した。その結果、プロリン蓄積株では菌体内のプロリン含量は予想通り増加しており(振とう:約2倍増加(0.13%→0.25%乾燥重量)、静置:約2倍増加(0.19%→0.31%乾燥重量)、清酒中のプロリン含量も著しく増加していた(振とう:4.7倍増加(196→920mg/L)、静置:5.2倍増加(171→883mg/L)。またプロリン蓄積株ではアスパラギン酸、スレオニン、ロイシンなどのアミノ酸も増加しており、その結果、総アミノ酸含量も約30%増加していた(約1g/L増加)。ただし、アラニンだけはプロリン蓄積株の方が減少していた。
また、有機酸含量を比較すると、プロリン蓄積株ではクエン酸、リンゴ酸(爽やかな酸味)、コハク酸(旨み)など清酒にとって好ましいとされる有機酸が増加しており、逆に少ない方が好ましいとされる酢酸は減少していた。全般的な有機酸含量は、プロリン蓄積株の方が増加する傾向にあった(約100-200mg/L増加)。
さらに、香気成分(高級アルコール、エステル、アルデヒドなど)についても測定したが、両菌株で顕著な差は見られなかった。また、両菌株から製造した清酒について簡易的な官能評価を行った。その結果、両者には風味や味に差が見られ、プロリン蓄積株の方が相対的に味や風味がソフトで(軽い)、飲みやすいという評価を得た。以上の結果から、プロリン蓄積株では清酒中および菌体内のプロリン含量が著しく増加しており、総アミノ酸や有機酸の含量も増加していた。
酵母は清酒製造環境において高濃度エタノール、低温などのストレスを受けており、これらストレスを長時間受けると、多くの細胞内タンパク質は変性をきたし、酵母の有用機能(エタノール産生能力)が制限される。ところが、本発明の酵母は、細胞内に多くのプロリンを蓄積しており、かつ、その一部を細胞外に放出する。ところで、前述のとおり、プロリンは甘いアミノ酸に属し、しかもエタノールから酵母を保護する作用を有し、また、本発明の酵母は、従来の酵母の醸造特性(グルコース消費量、エタノール生産量、炭酸ガス減量など)をそのまま維持しているので、プロリン含量の多い甘口の清酒を効率よく製造することができる。また、本発明のプロリン蓄積型形質転換酵母は、プロリンを多産することから、清酒に限らず、甘口の醗酵食品・醸造食品の製造にも有用である。
酵母(サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae))におけるプロリンの代謝経路に関する説明図である。 清酒酵母のPUT1破壊株の作製に関する説明図である。 変異型PRO1遺伝子(pro1D154N)への置換に関する説明図である。

Claims (3)

  1. 下記工程を含んでなる、清酒酵母を用いた、細胞内に蓄積したプロリンの一部を醸造の際に細胞外へ分泌する能力を有するプロリン蓄積型形質転換酵母の作出方法。
    a)酵母内プロリン代謝経路において、プロリン分解酵素であるプロリン酸化酵素の遺伝子を破壊することからなるプロリン分解系を抑制する工程、
    b)酵母内プロリン代謝経路において、プロリン合成酵素であるγ−グルタミン酸リン酸化酵素をコードする遺伝子のAsp154をAsnで置換することからなるプロリン合成系を強化する工程、及び
    c)細胞内にプロリンを蓄積する菌株を選別分離する工程。
  2. 請求項1に記載の方法によって得られるプロリン蓄積型形質転換酵母XUDput1-MT(FERM P−20171)。
  3. 請求項2に記載のプロリン蓄積型形質転換酵母を用いて醸造を行うことを特徴とする清酒の製造方法。
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