本発明の軟水の製造方法は、モザイク荷電膜を用いて、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンとを含有する原水からカチオンを除去することによって、原水中よりもカチオン濃度が低い軟水を製造する方法であり、第1のモザイク荷電膜に前記原水の一部を透過させることにより、下記式(1)で表わされるカチオン比が原水のカチオン比より小さい透過水を取得する第1の透析工程と、第2のモザイク荷電膜に前記第1の透析工程で得られた透過水の一部を透過させ、第2のモザイク荷電膜を透過せずに第1の透過水側に残存し且つ透過水よりもカチオン濃度が低い軟水を取得する第2の透析工程とを有する。
本発明で用いられる原水は、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンとを含有する水であれば特に限定されない。このような原水として、具体的には、河川水、湖沼水、海水または地下水を用いることができる。
本発明における軟水は、上記原水よりもカチオン濃度が低いものを示すが、飲料水を始め、調理、洗濯、風呂、掃除等の生活用水、農業用水、工業用水として使用するためには、カチオン濃度は低いほど好ましい。具体的には、軟水中のカリウムイオン濃度とナトリウムイオン濃度の和が5,000ppm以下であることが好ましく、3,000ppm以下であることがより好ましい。また、軟水中のカルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の和が、炭酸カルシウムに換算した値(即ち総硬度)で120mg/L以下であることが好ましく、60mg/L以下であることがより好ましい。
本発明の軟水の製造方法では、原水の一部を透過させるための第1のモザイク荷電膜と、この第1のモザイク荷電膜を透過して得られる透過水の一部をさらに透過させるための第2のモザイク荷電膜とを用いる。これら第1および第2のモザイク荷電膜(以下、単に「モザイク荷電膜」と表記することがある)は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)およびカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするカチオン性ブロック共重合体(P)と、ビニルアルコール系重合体ブロック(C)およびアニオン性基を有する重合体ブロック(D)を構成成分とするアニオン性ブロック共重合体(Q)とを含有する。
即ち、本発明で用いるモザイク荷電膜は、ポリビニルアルコール系のカチオンブロック共重合体および、ポリビニルアルコール系のアニオンブロック共重合体をイオン交換層として有するものである。該カチオンブロック共重合体がアニオン交換樹脂として機能し、該アニオンブロック共重合体がカチオン交換樹脂として機能する。
本発明で用いられるポリビニルアルコール系のカチオンブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)およびカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするカチオン性ブロック共重合体(P)である。
ここで、カチオン性ブロック共重合体(P)における重合体ブロック(B)を構成する繰り返し単位は特に限定されないが、下記一般式(2)〜(7)で表される繰り返し単位が挙げられる。
(式中、R
1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよく、また、連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。Zは−O−またはNH−を表し、Y
2は複素原子を介していてもよい総炭素数1〜8の2価の連結基を表す。X
−は陰イオンを表す。)
(式中、R
5は水素原子またはメチル基を表わす。R
2、R
3、R
4、X
−は一般式(2)と同義である。)
(一般式(4)、(5)中のR
2、R
3、X
−は、一般式(2)と同義である。)
(一般式(6)、(7)中のnは0または1を表わし、R
2、R
3、R
4、X
−は一般式(2)と同義である。)
上述の一般式(1)で表されるカチオン性ブロック共重合体(P)の合成に用いる、カチオン性基を有する単量体としては、例えば、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−プロピル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−オクチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−(4−メチル)ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−フェニル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、N,N,N−トリエチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリエチル−N−2−(3−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムアセテートが、挙げられる。
また、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、など)や、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなど)のアルキルハライド(例えばメチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド若しくはエチルアイオダイド)による4級化物、または該4級化物のアニオンを置換したスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸塩若しくはアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
更に、例えば、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムブロマイド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムスルホネート、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムアセテート等を挙げることができる。その他、共重合可能なモノマーとして、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール等も挙げられる。
カチオン性ブロック共重合体(P)のカチオン性基の含有量は特に限定されないが、カチオン性単量体の含有量、すなわち、カチオン性ブロック共重合体(P)中の単量体単位の総数(モル数)に対するカチオン性基を有する単量体単位(カチオン性単量体単位)の数(モル数)の割合が、0.1モル%以上であることが好ましい。カチオン性単量体単位の含有量が0.1モル%未満だと、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。含有量が0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましい。また、カチオン性単量体含有量は50モル%以下であることが好ましい。含有量が50モル%を超えると、モザイク荷電膜の膨潤度が高くなり、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。含有量が30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系のカチオン性ブロック共重合体(P)が、カチオン性基を含有する重合体とカチオン性基を含有しない重合体との混合物である場合や、カチオン性基を含有する重合体の複数種の混合物である場合のカチオン性単量体含有量は、混合物中の単量体単位の総数に対するカチオン性単量体単位の数の割合をいう。
また、本発明で用いられるポリビニルアルコール系のアニオンブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(C)およびアニオン性基を有する重合体ブロック(D)を構成成分とするアニオン性ブロック共重合体(Q)である。
ここで、アニオン性ブロック共重合体(Q)における重合体ブロック(D)を構成する繰り返し単位は特に限定されないが、下記一般式(9)〜(10)で表わされる繰り返し単位が挙げられる。
(一般式(9)および(10)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、Xはメチル基で置換されていてもよいフェニレン基またはナフチレン基を表し、Yはスルホニルオキシ基(−SO
3−)、ホスホニルオキシ基(−PO
3H−)またはカルボニルオキシ基(−CO
2−)を表し、Mは水素原子、アンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンを表す。)
上記一般式(9)および(10)におけるYは、より高い荷電密度を与えるスルホニルオキシ基またはホスホニルオキシ基であることが好ましい。また、Mの定義におけるアルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
アニオン性ブロック共重合体(Q)の合成に用いられるアニオン性基を有する単量体のうち、上述の一般式(9)で表わされる繰り返し単位を構成する単量体としては、例えば、p−スチレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、p−スチレンホスホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、p−スチレンカルボン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンホスホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンカルボン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンホスホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンカルボン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
アニオン性ブロック共重合体(Q)の合成に用いられるアニオン性基を有する単量体のうち、上述の一般式(10)で表わされる繰り返し単位を構成する単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホンまたはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸またはそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
アニオン性ブロック共重合体(Q)のアニオン性基の含有量は特に限定されないが、アニオン性単量体含有量、すなわち、アニオン性ブロック共重合体(Q)中の単量体単位の総数(モル数)に対するアニオン性基を有する単量体単位の数(モル数)の割合が、0.1モル%以上であることが好ましい。アニオン性単量体含有量が0.1モル%未満だと、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。含有量が0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましい。また、アニオン性単量体含有量は50モル%以下であることが好ましい。含有量が50モル%を超えると、モザイク荷電膜の膨潤度が高くなり、モザイク荷電膜中の有効荷電密度が低下し、電解質選択透過性が低下するおそれがある。含有量が30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系のアニオンブロック共重合体が、アニオン性基を含有する重合体とアニオン性基を含有しない重合体との混合物である場合や、アニオン性基を含有する重合体の複数種の混合物である場合のアニオン性単量体含有量は、混合物中の単量体単位の総数に対するアニオン性を有する単量体単位の数の割合をいう。
本発明で用いるモザイク荷電膜の特徴は、ポリビニルアルコール系のカチオンブロック共重合体および、ポリビニルアルコール系のアニオンブロック共重合体をドメインとして含有することにある。モザイク荷電膜の重要な特性は、負の異常浸透現象である。負の異常浸透現象とは、カチオンおよびアニオン溶質に対して透過性を示し、水のような中性物質に対しては非常に小さな透過性しか示さない膜で溶液を隔てた場合に起こる現象である。具体的には、KCl水溶液と水を膜で隔てた場合に、KClが水和水と共に水側に移動する現象が起こる。これは、膜を介したカリウムイオンの透過流束が水の透過流束よりも大きい為に起こるが、この現象が起こる膜を用いて必要な圧力を加えることで脱塩膜として機能することができる。通常、溶質と溶媒の分離性は反発係数で表され、正の浸透現象の場合は、反発係数は正の値となる。一方、負の浸透現象の場合は、反発係数は負の値となる。この反発係数は、膜中の荷電密度やドメインサイズに影響される。また、反発係数の算出は煩雑なので、簡易的に浸透水試験を行って水の透過流束を測定することで正負の浸透は判断できる。ここで、荷電密度を高くするためには、膜中の荷電量を高めた状態で膨潤度を如何に抑制するかが重要である。
本発明で用いるモザイク荷電膜が含有するカチオン性ブロック共重合体(P)は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と、カチオン性基を有する重合体ブロック(B)とから構成される。また、同じく本発明で用いるモザイク荷電膜が含有するアニオン性ブロック共重合体(Q)は、ビニルアルコール系重合体ブロック(C)と、アニオン性基を有する重合体ブロック(D)とから構成される。結晶性高分子であるポリビニルアルコールブロック((A)および(C))が全体の膜強度、膜の膨潤度の抑制、形状保持を担う機能を発現し、陰イオンを透過できるカチオン性ブロック(B)と陽イオンを透過できるアニオン性ブロック(D)とを役割分担させることで、モザイク荷電膜の膨潤度や寸法安定性とを両立することに成功した。
本発明で用いるモザイク荷電膜が含有するカチオン性ブロック重合体(P)およびアニオン性ブロック重合体(Q)の製造方法は主に次の2つの方法に大別される。すなわち、(1)イオン交換性基を有する少なくとも1種の単量体と他の単量体を用いてブロック共重合体を製造する方法、および(2)ブロック共重合体を製造した後、イオン交換性基を導入させる方法である。このうち、(1)については、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体に、イオン交換性基を含有する少なくとも1種の単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を製造する方法が、工業的な容易さから好ましい。また、(2)については、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体に、1種または複数種の単量体をブロック共重合してブロック共重合体を得、次いでこのブロック共重合体中にイオン交換性基を導入してイオン交換性基を有するブロック共重合体を得る方法が挙げられる。特に、ビニルアルコール系重合体ブロックとイオン交換性基を有する重合体ブロックの各成分の種類や量を容易に制御できることから、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体にイオン交換性基を含有する少なくとも1種の単量体をラジカル重合させてブロック共重合体を製造する方法が好ましい。こうして得られるブロック共重合体には、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールが未反応のまま含まれていても構わない。
以下、本発明に好ましく用いられる、イオン交換性基を有する少なくとも1種の単量体と他の単量体を用いて所望のブロック共重合体を製造する方法について説明する。
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体は、例えば、特許文献6などに記載されている方法により得ることができる。すなわち、チオール酸の存在下にビニルエステル単量体、例えば酢酸ビニルを主体とするビニル系単量体をラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化する方法が挙げられる。
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体のけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満であると、ビニルアルコール系重合体ブロックの結晶性が低下し、イオン交換膜の強度が不足するおそれがある。けん化度が60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。また、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体のけん化度は、通常99.9モル%以下である。ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体の重合度は、100以上3500以下が好ましく、200以上3000以下がより好ましく、250以上2500以下がさらに好ましい。重合度が100に満たない場合には、最終的に得られるブロック共重合体を含有するモザイク荷電膜の膜強度が不足する可能性があり、重合度が3500を超える場合には、該ビニルアルコール系重合体に導入されるメルカプト基が不足し、効率的にブロック重合体を得ることができなくなる可能性がある。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
このようにして得られる末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体と、イオン交換性基を含有する単量体とを用いてブロック共重合体を得る方法としては、例えば、特許文献7などに記載された方法が挙げられる。
すなわち、例えば特許文献7に記載されているように、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体の存在下にイオン交換性基を有する単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を得ることができる。このラジカル重合は公知の方法、例えばバルク重合、溶液重合、パール重合、乳化重合などによって行うことができるが、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体を溶解し得る溶剤、例えば水やジメチルスルホキシドを主体とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
上記ラジカル重合は、通常のラジカル重合開始剤、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の中から重合系に適したものを使用して行うことができるが、水系での重合の場合、ビニルアルコール系重合体末端のメルカプト基と臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤によるレドックス反応によって重合を開始することも可能である。
末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体の存在下にイオン交換性基を有する単量体をラジカル重合させるに際し、重合系が酸性であることが望ましい。これはメルカプト基が、塩基性下においては、単量体の二重結合へイオン的に付加し消失する速度が大きく、重合効率が著しく低下するためである。また、水系の重合であれば、すべての重合操作をpH4以下で実施することが好ましい。
また、本発明で用いるモザイク荷電膜は、原水からカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンを選択的に除去するために、1価カチオンの透過性が高いほど好ましい。上述のカチオン性ブロック共重合体(P)およびアニオン性ブロック共重合体(Q)を合成するに際し、イオン交換性基を有する重合体ブロック((B)および(D))は、本発明で用いるモザイク荷電膜に高い1価カチオン透過性を付与するために、イオン交換性基を有する単量体単位のみから構成することが望ましいが、イオン交換性基を有さない単量体単位を含んでいてもよい。かかるイオン交換性基を有さない単量体単位を与える単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;アクリル酸もしくはその塩、またはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸もしくはその塩、またはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシル基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシル基含有α−オレフィン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。重合体ブロックにおけるイオン交換性基を有する単量体単位の割合は80モル%以上、特に90モル%以上であることが好ましい。
上記ラジカル重合の反応温度については特に制限はないが、通常0〜200℃が適当である。重合の経過は各種クロマトグラフィー、NMRスペクトル等による残存モノマーの定量で追跡して重合反応の停止を判断することで、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の比または重合体ブロック(C)と重合体ブロック(D)の比を所望の値に調整することができる。重合反応の停止は、公知の手法、例えば重合系の冷却により重合を停止する。
圧透析用のモザイク荷電膜として使用するのに十分なイオン透過性を発現するためには、各イオン交換層に用いられるカチオン性ブロック共重合体(P)からなる膜および、アニオン性ブロック共重合体(Q)からなる膜の荷電密度は0.3mol・dm−3以上であることが好ましく、0.5mol・dm−3以上であることがより好ましく、0.7mol・dm−3以上であることが更に好ましい。荷電密度が0.3mol・dm−3未満であると膜のイオン透過性が不足することがある。また、ブロック共重合体からなる膜の荷電密度の上限については、機械的強度等を考慮して3mol・dm−3以下であるのが好ましく、2.7mol・dm−3以下であることがより好ましく、2.5mol・dm−3以下であることが更に好ましい。荷電密度が3mol・dm−3以上となると、親水性が高まり膨潤度の抑制が困難となり、塩の透過性が劣ることがある。
ポリビニルアルコール系のカチオン性ブロック共重合体(P)の荷電密度(a)とポリビニルアルコール系のアニオン性ブロック共重合体(Q)の荷電密度(b)との比率(a)/(b)は、特に限定されないが、0.3〜2.5であることが好ましく、0.5〜2.0であることがより好ましく、0.8〜1.5であることがさらに好ましい。比率(a)/(b)が0.3未満であったり、2.5以上であったりするとモザイク荷電膜の荷電密度のバランスが偏るため、膜の陽イオン透過性と陰イオン透過性のバランスが悪く、水の透過流束、塩透過流束が小さくなるおそれがある。
ブロック共重合体を製造する方法としては、まず、上記ビニルアルコール系重合体ブロックとイオン交換性基が導入可能なブロックとを有するブロック共重合体を製造し、ついで該ブロックにイオン交換性基を導入する方法も好ましい。
カチオン性基が導入可能なブロック共重合体は、上述のメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体とイオン交換性基を有する単量体とを用いてカチオン性ブロック共重合体(P)を製造する方法において、イオン交換性基(即ち、カチオン性基)を有する単量体の代わりに、カチオン性基が導入可能な部位を有する単量体を用いる以外は同様の方法により製造することができる。カチオン性基が導入可能な部位を有する単量体としては、例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のビニルピリジン類、ビニルピリミジン類、ビニルキノリン類、ビニルカルバゾール類、ビニルイミダゾール類、o,m,p−ビニルフェニルアルキレンアルキルアミン類、ジアルキルアミノアルキルアクリレート類、ジアルキルアミノアルキルアクリレート類が挙げられる。
カチオン性基が導入可能な部位を有するブロック共重合体にカチオン性基を導入するには、該ブロック共重合体をアルキルハロゲン化合物の蒸気または溶液で処理して、その窒素原子を四級化すればよい。ここで、用いるアルキルハロゲン化合物は、CpH2p+1XあるいはX(CH2)qX(pは1〜12の整数、qは2から12の整数、Xは臭素または沃素原子)で表される化合物であればよい。ハロメチル基をもつブロック部分にカチオン性基を導入するには、それにトリアルキルアミンを作用させればよい。
本発明で用いるモザイク荷電膜は、圧透析用の膜として必要な性能、膜強度、ハンドリング性等を確保する観点から、その膜厚が1〜1000μm程度であることが好ましい。膜厚が1μm未満である場合には、膜の機械的強度が不充分となる傾向がある。逆に、膜厚が1000μmを超える場合には、膜抵抗が大きくなり、充分な1価カチオン透過性が発現しないため、軟水の製造効率が低くなる傾向となる。膜厚はより好ましくは5〜500μmであり、更に好ましくは7〜300μmである。
本発明で用いるモザイク荷電膜においては、熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことによって、ブロック成分のミクロ相分離が進み易く、イオン透過チャネルを形成しやすい。また、物理的な架橋が生じ、得られるモザイク荷電膜の機械的強度が増大する。熱処理の方法は特に限定されず、熱風乾燥機などが一般に用いられる。熱処理の温度は、特に限定されないが、100〜250℃であることが好ましい。熱処理の温度が100℃未満だと、得られるモザイク荷電膜の相分離構造が形成しにくく、機械的強度が不足するおそれがある。該温度が110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。熱処理の温度が250℃を超えると、結晶性重合体が融解するおそれがある。該温度が230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
本発明で用いるモザイク荷電膜においては、架橋処理を施すことが好ましい。架橋処理を施すことによって、得られる膜の機械的強度が増大する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学結合によって結合できる方法であればよく、特に限定されない。通常、架橋処理剤を含む溶液に浸漬する方法などが用いられる。該架橋処理剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキザールなどが例示される。該架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.001〜1体積%である。
本発明で用いるモザイク荷電膜を製造する際には、熱処理と架橋処理の両方を行ってもよいし、そのいずれかのみを行ってもよい。熱処理と架橋処理を両方行う場合、熱処理の後に架橋処理を行ってもよいし、架橋処理の後に熱処理を行ってもよいし、両者を同時に行ってもよい。熱処理の後に架橋処理を行うことが、得られるモザイク荷電膜の機械的強度の面から好ましい。
本発明で用いるモザイク荷電膜は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性の樹脂、無機フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。
本発明で用いるモザイク荷電膜は支持層と複合して複合膜としても良い。用いる支持層としては、従来公知の多孔性のシートがいずれも使用できる。多孔性の支持層としては、不織布、膜、織布、合成紙などが挙げられる。これらの支持層の中でも、特に不織布、膜、合成紙を支持層とすることが好ましい。また、支持層の素材としては、ポリビニルアルコール繊維集合体が特に好ましく用いられる。
また、本発明の製造方法においては、上述のカチオン性ブロック共重合体(P)およびアニオン性ブロック共重合体(Q)からなるモザイク荷電層と支持層とを有し、該モザイク荷電層が印刷によって支持体層上に形成されているモザイク荷電膜を用いることも好ましい。この場合、支持層としては上述のものを用いることができる。支持層の厚み(B)は、特に限定されないが、5〜1000μmであることが好ましい。支持層の厚み(B)が5μm未満だと、イオン交換膜の強度が不足するおそれがある。該厚みは10μm以上であることがより好ましい。支持層の厚み(B)が1000μmを超えると、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンの輸送が困難になるおそれがある。該厚みは800μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。
このときのモザイク荷電層の厚み(A)は特に限定されないが、膜抵抗を小さくすることができ、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンの透過流束が大きくなる観点から、0.1〜80μmであることが好ましい。モザイク荷電層の厚み(A)が0.1μm未満だと、モザイク荷電層の製造時に、膜の欠陥(ピンホール)が発生するおそれがある。また、モザイク荷電層の機械的強度が低下するおそれがある。該厚みは0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。モザイク荷電層の厚み(A)が80μmを超えると、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンの透過流束が小さくなるおそれがある。該厚みは50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
支持層上にイオン交換層を、カチオン性ブロック共重合体(P)を含有する溶液およびアニオン性ブロック共重合体(Q)を含有する溶液を用いて印刷することにより、支持層上に所望のパターンのモザイク荷電層を形成させることができる。このような方法を用いることによって、簡便な方法で、支持層上に所望のパターンのモザイク荷電層を形成させることができる。また、支持層上に厚みの小さいモザイク荷電層を形成することができ、透過流束の大きいモザイク荷電膜を得ることができる。さらに、カチオン性重合体およびアニオン性重合体の各ドメインのドメインサイズを小さくすることができ、電解質選択透過性に優れたモザイク荷電膜を得ることができる。上記のパターン形状は、特に限定されず、ストライプ状、市松状、格子状、水玉状などが例示される。印刷は、通常、印刷装置を用いて行われる。
本発明に用いられる印刷方法としては、従来公知の印刷方法がいずれも適用できる。具体的な印刷方法としては、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、転写印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法などが例示される。これらの中でも、印刷の簡易性の点から、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、転写印刷法、ディスペンサー印刷法が特に好ましい。
上記製造方法において、支持層上にモザイク荷電層を形成した後に、上述したような熱処理や架橋処理を施すことも好ましい。また、支持層上にイオン交換層を形成した後に、熱プレス処理を施すことも好ましい。熱プレス処理を施すことによって、印刷により設けられたイオン交換層が緻密となり、得られるイオン交換層の機械的強度が増大する。熱プレス処理の方法は特に限定されず、カレンダー設備などが一般に用いられる。熱プレス処理の温度は、特に限定されないが、ポリビニルアルコールの場合、80〜250℃であることが好ましい。熱プレス処理の温度が80℃未満だと、得られるイオン交換層の機械的強度が不足するおそれがある。該温度が100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。熱プレス処理の温度が250℃を超えると、ポリビニルアルコールが融解するおそれがある。該プレス温度が230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
前記製造方法においては、熱処理と熱プレス処理と架橋処理のすべてを行ってもよいし、そのうちの2つを行ってもよいし、そのいずれかのみを行ってもよい。行う処理の順番は特に限定されない。複数の処理を同時に行ってもよい。熱処理または熱プレス処理を施した後に、架橋処理を施すことが好ましい。熱処理または熱プレス処理を施すことにより架橋されにくい部位が生じ、その後、架橋処理、特に化学架橋処理を行うことで、架橋された部位と架橋されない部位が混在することによって、膜強度が高くなるからである。熱プレス処理、熱処理、架橋処理の順番で行うことが、得られるモザイク荷電膜の機械的強度の面から特に好ましい。
本発明で用いるモザイク荷電膜は、1価カチオンの透過性が2価カチオンの透過性より大きい。このため、1価カチオンおよび2価カチオンの両方を含有する溶液をモザイク荷電膜に透過させると、1価カチオンが選択的にモザイク荷電膜を透過し、2価カチオンが原液側に残存することとなる。即ち、1価カチオンであるカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンと2価カチオンであるカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンとを含有する原水を、本発明のモザイク荷電膜としての第1のモザイク荷電膜に透過させた場合、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンが選択的にモザイク荷電膜を透過し、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンがモザイク荷電膜を透過せずに原水側に残存する。従って、第1のモザイク荷電膜を透過した透過水は、上記式(1)で表わされるカチオン比が原水のカチオン比より小さくなる。よって、ここで得られた透過水は、原水からカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが選択的に除去されたものである。
カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを原水から可能な限り除去するためには、透過水のカチオン比は、原水のカチオン比より小さいほど好ましいが、具体的には透過水のカチオン比が原水のカチオン比の1/3以下になることが好ましく、1/5以下になることがより好ましい。
上記第1のモザイク荷電膜を透過してなる透過水は、上述したように2価カチオンが原水から選択的に除去されたものであり、1価カチオンであるカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンを多く含んでいる。本発明の製造方法では、さらにこの透過水の一部を本発明のモザイク荷電膜としての第2のモザイク荷電膜に透過させる。このとき、1価カチオンが選択的に第2のモザイク荷電膜を透過するため、第2のモザイク荷電膜を透過せずに第1のモザイク荷電膜側に残存した非透過水は、透過水よりもカチオン濃度が低いものとなる。このようにして、第2のモザイク荷電膜を透過せずに残存した非透過水は、1価カチオン濃度および2価カチオン濃度のいずれも原水より低くなっているので、これを軟水として取得することができる。
なお、本発明では、第1のモザイク荷電膜と第2のモザイク荷電膜は同じものであってもよいし、カチオン性ブロック共重合体(P)およびアニオン性ブロック共重合体(Q)の構成成分や、モザイク荷電膜の製造方法、モザイク荷電膜の膜厚等を適宜変更したものであってもよい。
本発明の製造方法は、第1のモザイク荷電膜に前記原水の一部を透過させることにより、下記式(1)で表わされるカチオン比が原水のカチオン比より小さい透過水を取得する第1の透析工程と、第2のモザイク荷電膜に前記第1の透析工程で得られた透過水の一部を透過させ、第2のモザイク荷電膜を透過せずに第1のモザイク荷電膜側に残存し且つ前記透過水よりもカチオン濃度が低い軟水を取得する第2の透析工程とを有するものである。
図1は、本発明の製造方法を好適に実施できる本発明の軟水製造装置の一例を示す概略フロー図である。以下、この図1を用いて説明する。本発明の軟水製造装置は、第1および第2のモザイク荷電膜52および55と、第1のモザイク荷電膜52に原水を透過させるために供給する第1の供給手段51と、第1のモザイク荷電膜52を透過した透過水を第2のモザイク荷電膜55に透過させるために供給する第2の供給手段53と、第2のモザイク荷電膜55を透過せずに第1のモザイク荷電膜52側に残存した非透過水を軟水として取得する取得手段57とを有する。また、図1に示す軟水製造装置は、第1のモザイク荷電膜52を透過せずに原水側に残存した非透過水を排出するための排出手段54と、第2のモザイク荷電膜55を透過した透過水を排出するための排出手段56とを、さらに有する。
供給手段51は、原水を第1のモザイク荷電膜52に供給するための流路51aと、該流路51aに必要に応じて設けられる加圧ポンプ51bとを有する。原水は、供給手段51によってモザイク荷電膜52に供給される。モザイク荷電膜52の形態としては、平膜、管状膜、中空糸膜、および平膜をスパイラル状に巻回したスパイラル型のものなど、任意のものを用いることができる。また、モザイク荷電膜による透析方法は拡散透析法および圧透析法のいずれも用いることができる。本発明で用いるモザイク荷電膜は高い膜強度を有しているため、圧透析も好適に用いることができる。
上述したように、本発明のモザイク荷電膜は1価カチオンの透過性が2価カチオンの透過性よりも大きいため、第1のモザイク荷電膜52に原水が供給されると、原水中のカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンが原水の一部と共にモザイク荷電膜52を透過し、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンは第1のモザイク荷電膜52を透過せずに原水側に残存する。このように、原水を第1のモザイク荷電膜52に透過させて、上記式(1)で表わされるカチオン比が原水のカチオン比より小さい透過水を得る工程を、本発明における「第1の透析工程」という。モザイク荷電膜52を透過してカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが除去された透過水は第2の供給手段53によって、第2のモザイク荷電膜55に供給される。一方、モザイク荷電膜52を透過せずに原水側に残存した非透過水は、排出手段54を介して装置外に排出される。
供給手段53は、上記第1の透析工程で得られた透過水を第2のモザイク荷電膜55に供給するための流路53aと、該流路53aに必要に応じて設けられる加圧ポンプ53bとを有する。上記透過水が供給される第2のモザイク荷電膜55の形態としては、第1のモザイク荷電膜と同様、平膜、管状膜、中空糸膜、および平膜をスパイラル状に巻回したスパイラル型のものなど、任意のものを用いることができる。また、モザイク荷電膜による透析方法は拡散透析法および圧透析法のいずれも用いることができる。
第2のモザイク荷電膜55に上記透過水が供給されると、原水中のカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンが原水の一部と共に第2のモザイク荷電膜55を透過する。このため、第2のモザイク荷電膜55を透過せずに原水側に残存した非透過水は、そのカチオン濃度が、第1の透析工程で得られた透過水のカチオン濃度より低くなる。このように、第1のモザイク荷電膜52を透過した透過水を第2のモザイク荷電膜55に透過させて、上記透過水よりもカチオン比が小さい非透過水を得る工程を、本発明における「第2の透析工程」という。この工程で非透過水は、カリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが原水から除去された軟水として、取得手段57により回収される。一方、第2のモザイク荷電膜55を透過した透過水は排出手段56を介して装置外に排出される。
なお、本発明の製造方法は、上記第1の透析工程および第2の透析工程を少なくとも1工程ずつ有するものであればよいが、これらの第1および/または第2の透析工程を複数有するものであってもよい。その場合、第1工程を続けて行った後に第2工程を続けて行うような形態であってもよいし、第1工程および第2工程を経た後に再度第1および第2の工程を行うような形態であってもよい。このような第1および第2工程の組み合わせは、原水中のカチオン濃度や必要とされる軟水のカチオン濃度に応じて適宜選択することができる。また、第2の透析工程で得られた非透過水を再度原水として使用することにより、カチオン濃度をさらに減少させた軟水を得るものであってもよい。さらに、本発明の軟水製造装置には、第1のモザイク荷電膜52の上流側に前処理手段としてカートリッジフィルターやpH調整装置などを設けてもよい。
本発明によれば、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)およびカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするカチオン性ブロック共重合体(P)と、ビニルアルコール系重合体ブロック(C)およびアニオン性基を有する重合体ブロック(D)を構成成分とするアニオン性ブロック共重合体(Q)とを含有するモザイク荷電膜を使用しているため、2価カチオンと比較して1価カチオンの透過流束が大きく、膜の耐有機汚染性が高く、更に高い膜強度を有している。このような1価カチオンの選択透過性を利用することにより、原水中のカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムを効率よく除去することができる。従って、このようなモザイク荷電膜を用いて透析を行う方法は、河川水、湖沼水、海水または地下水などからカチオンを除去して軟水を製造するのに適している。
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り「%」および「部」は重量基準である。
参考例
(分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体の合成)
特開昭59−187003号広報に記載された方法によって、表1に示す分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(PVA−1)を合成した。
実験例、比較実験例に示すモザイク荷電膜の特性は、以下の方法により測定した。
1)膜電位試験からの荷電密度の測定
膜電位試験は図2に示す測定セルを用いて、両セルの濃度比r=5に保持した状態で両セルのKCl(ナカライテスク(株))濃度を変化させて膜電位を測定した。試料膜3を介して隔てられた各測定セルに塩橋1を介して接続した各電極2の電位差を電位計4で測定した。このとき電位は高濃度側を基準とした。低濃度側のKCl水溶液と測定膜電位との関係は下記の式(I)に示すTeorell-Meyer and Sievers 理論式(TMS理論)を用いて解析することで膜荷電密度を算出した。25℃で測定を行った。
ここで、W=(ω
c−ω
a)/(ω
c+ω
a)
ΔΦ:膜電位[V]
Cx:膜荷電密度(荷電基の符号を含む)[mol・m
−3]
C
0:低濃度側セルの塩濃度[mol・m
−3]
ω
c:カチオンの移動度[mol・m
2・J
−1・s
−1]
ω
a:アニオンの移動度[mol・m
2・J
−1・s
−1]
F:ファラデー定数[C・mol
−1]
R:ガス定数[J・K
−1・mol
−1]
T:絶対温度[K]
2)浸透水試験からの水の透過流束の測定
浸透水試験は図3に示す浸透水測定セル9および目盛り付キャピラリ6からなる装置を用いて行った。試料膜5を自作セル間にセットし、左側セルに5.0×10−2ないしは
5.0×10−1(mol・dm−3)のKCl(7)溶液を約20ml、右側セルに脱イオン水(8)を約20mlを入れ、キャピラリ6をセットし測定を開始した。測定は25℃で行った。所定時間tにおけるキャピラリのメニスカスの位置の変化を計測し、これよりキャピラリ内の水の移動距離Lを計測することで、移動した水のモル数nを計算した。得られた時間tと移動した水のモル数nとの初期勾配の値をキャピラリの断面積で除することで、水の体積流量[m・s−1]を得た。この結果より、水の透過流束JW[mol・m−2・s−1]を以下に示す下記の式(II)より算出した。
JW=JV/18×106 (II)
JV:体積流量[m・s−1]
3)圧透析試験によるNaClの透過流束の測定
圧透析試験による塩透過流束を測定するため、実施例および比較例で得られたモザイク荷電膜を複合膜にして評価した。ビニロン合成紙(坪量:50±5g/m2、厚さ:160±25μm)とモザイク荷電膜を重ね合わせ、熱プレス機で温度150℃、圧力10Kg/cm2の条件で10分間熱プレスを行うことで、複合膜を得た。続いて、圧透析試験は図4に示す圧透析測定セルを用いて行った。フォルダに挟んだ複合膜を試料膜13として2つのセルの間に挟み、右側セル(加圧側)に濃度35000ppmのNaCl水溶液50mLを、左側セル(開放側)に濃度35000ppmのNaCl水溶液50mLを入れ、両セルをスターラー12で撹拌させながら、右側セルの圧力3MPa、25℃の一定温度下で、開放側のセルの導電率を導電率計14により1分毎に100分間測定した。次に、予め作成したNaCl−導電率検量線を用いて得られた導電率から開放側のNaCl濃度を決定した。この結果から、単位時間、単位面積あたりのNaClの透過流束(mol・m−2・s−1)を算出した。
まず、アニオン交換樹脂として機能するカチオン性ブロック共重合体(P):P−1〜P−5、P−7、P−9、P−10、カチオン性基を有するランダム共重合体:P−11と、カチオン交換樹脂として機能するアニオン性ブロック共重合体(Q):P−12〜P−16、アニオン性基を有するランダム共重合体:P−17、P−18を合成した。
(カチオン性ブロック共重合体P−1の合成)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた5L四つ口セパラブルフラスコに、水2350g、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体として表1に示すPVA−1を344g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール系重合体を溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。別に、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド183gを水300gに溶解し、これを先に調製した水溶液に攪拌下添加した後、水溶液中に窒素をバブリングしつつ、70℃まで加温し、さらに70℃で30分間窒素のバブリングを続けることで、窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウム(KPS)の2.5%水溶液121mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始、進行させた後、系内温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度15%のPVA−(b)−p−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドブロック共重合体であるカチオン性ブロック共重合体P−1の水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の変性量は10モル%であった。
(P−2〜P−6、P−8、P−10、P−12〜16の合成)
末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体の種類と量、カチオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量などの重合条件を表2,3に示すように変化させた以外はP−1と同様の方法によりブロック共重合体P−2〜P−6、P―8、P−10、P―12〜P−16を得た。得られたブロック共重合体の変性量と粘度を、表2、3に示す。
(P−7の合成:P−6の加水分解)
P−6の濃度15%水溶液に水酸化ナトリウムを0.08mol%添加して、110℃、1時間加熱することで加水分解させて、固形分濃度14%のPVA−(b)−ビニルアミンブロック共重合体であるカチオン性ブロック共重合体P−7の水溶液を得た(得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、ビニルアミン単位の変性量は10モル%であった)。また、B型粘度計で測定した4%水溶液粘度は16ミリPa・s(20℃)であった。
(P−9の合成:P−8の四級化)
P−8の水溶液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。こうして得られた皮膜を、ヨウ化メチルの蒸気中、室温下で10時間処理を行いビニルピリジン部分を四級化することで、PVA−(b)−四級化ビニルピリジンブロック共重合体であるカチオン性ブロック共重合体P−9からなるフィルムを得た(得られたフィルムを重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、四級化ビニルピリジン単位の変性量は10モル%であった)。また、濃度4%に調整した水溶液をB型粘度計で測定したところ、粘度は16ミリPa・s(20℃)であった。
(P−11の合成)
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル1960g、メタノール820g、およびメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを30質量%含有するメタノール溶液23gを仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.4g含有するメタノール20gを添加し、重合反応を開始した。重合開始時点よりメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを30質量%含有するメタノール溶液300gを系内に添加しながら、4時間重合反応を行った後、重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度、すなわち、重合反応スラリー全体に対する不揮発分の含有率は22.3質量%であった。ついで、系内にメタノール蒸気を導入することにより、未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液を得た。
このビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液に、該共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.025、ビニルエステル共重合体の固形分濃度が30質量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、ついで、ゲル化物が生成してから1時間が経過した時点で、この粉砕物に酢酸メチルを添加することにより中和を行い、膨潤状態の固形分を得た。この膨潤した固形分に対して質量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄した後、固形分を濾過により回収した後、65℃で16時間乾燥し、ポリ(ビニルアルコール−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)のカチオン性重合体であるP−11を得た。得られたP−11を重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の変性量は5モル%であった。また、重合度は1500、けん化度は98.5モル%であった。
(P−17〜P−18の合成)
酢酸ビニル(VAc)、メタノール(MeOH)、イオン基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量、イオン基を有する単量体の逐次添加条件などの重合条件、けん化反応の条件を表4に示すように変化させた以外はP−11と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体P−17〜P−18を得た。得られたビニルアルコール系重合体の物性を表4に示す。
実験例1
(モザイク荷電膜の作製)
アニオン交換樹脂層:P−1に脱イオン水を必要量加えて濃度10%に調整した。この溶液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、厚み100μmの皮膜を作製した。
カチオン交換樹脂層:P−12に脱イオン水を必要量加えて濃度10%に調整した。この溶液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、厚み100μmの皮膜を作製した。
得られたカチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とを、ポリビニルアルコール(PVA124、(株)クラレ製)水溶液を接着剤に用いて交互に貼り合わせることにより積層荷電ブロックを作製した。得られたブロックを積層面に対して垂直にラボカッター(MARUTO INSTRUMENT CO.,LTD製)で切断し薄膜を得た。こうして得られた皮膜を、170℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を生じさせた。ついで、皮膜を2mol・dm−3の硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.05体積%グルタルアルデヒド水溶液に皮膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行った。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、皮膜を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、皮膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、厚さ150μmの膜厚を有するモザイク荷電膜を作製した。
(モザイク荷電膜の評価)
このようにして作製したモザイク荷電膜を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法に従って、荷電密度および水の透過流束の測定を行った。また、得られたモザイク荷電膜を上述したように複合膜とした際の、圧透析試験による塩透過流束の測定を行った。得られた結果を表5に示す。
実験例2〜14
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の種類、アニオン交換樹脂(カチオン性ブロック共重合体(P))とカチオン交換樹脂(アニオン性ブロック共重合体(Q))の荷電密度の比(a)/(b)、および熱処理温度を表5に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にしてモザイク荷電膜を作製し、その膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
比較実験例1
アニオン交換樹脂層:200mL三角フラスコに、90mLの脱イオン水を入れ、ポリビニルアルコール(PVA117(重合度1700、けん化度98.5mol%)、(株)クラレ製)を15g加えてから、95℃のウオーターバスの中で加熱撹拌し溶解させた。その後、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ製:濃度20%、分子量40−50万)を19g混合した後、所望の脱イオン水を加えて固形分濃度10%の水溶液を調製した(PVA117/ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド=80/20固形分重量部比率)。このようにして調製した分散液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、厚み100μmの皮膜を作製した。
カチオン交換樹脂層:P−15を95℃の熱水中で2時間加熱溶解し、固形分濃度10%の水溶液を調製した。このようにして調製した分散液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、厚み100μmの皮膜を作製した。これらをポリビニルアルコール(PVA124、(株)クラレ製)水溶液を接着剤にもちいて交互に貼り合わせることにより積層荷電ブロックを作製した。
得られたブロックを積層面と垂直にラボカッター(MARUTO INSTRUMENT CO.,LTD製)で切断し薄膜を得た。こうして得られた皮膜を、170℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を生じさせた。ついで、皮膜を2mol/Lの硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.05体積%グルタルアルデヒド水溶液に皮膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行った。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、皮膜を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、皮膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、厚さ150μmの膜厚を有するモザイク荷電膜を作製した。得られたモザイク荷電膜について、実施例1と同様に膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
比較実験例2
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の種類を表5に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にしてモザイク荷電膜を作製し、その膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
比較実験例3
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の代わりに無変性のポリビニルアルコール(PVA117、(株)クラレ製)を用いた以外は、実施例1と同様にして膜を作製し、その膜特性を測定した。得られた測定結果を表5に示す。
表5の結果から、アニオン交換樹脂層としてポリビニルアルコール系のカチオンブロック共重合体を含有し、且つカチオン交換樹脂層としてポリビニルアルコール系のアニオンブロック共重合体を含有することを特徴とするモザイク荷電膜は、水の透過流束が負の値を示し、負の異常浸透を示すこと、および圧透析によるNaClの透過流束が大きいことが判る(実施例1〜14)。特に、アニオン交換樹脂層およびカチオン交換樹脂層のイオン変性量が0.5mol%以上であると、NaClの透過流束がより良好であることがわかる。これより、モザイク荷電膜において、カチオンブロック共重合体中のカチオン性単量体単位の含有量、およびアニオンブロック共重合体中のアニオン性単量体単位の含有量がそれぞれ0.5mol%以上であると、NaClの透過流束がより良好であることが分かる(実験例1〜9、11〜14)。更に、この場合においてカチオン性ブロック共重合体(P)の荷電密度(a)とアニオン性ブロック共重合体(Q)の荷電密度(b)との比率(a)/(b)を0.3〜2.5の範囲とすることも、NaClの透過流束が良好なモザイク荷電膜を得る上で好ましいことが分かる(実験例1〜9、11〜14)。また、熱処理温度が100℃以上であると、よりNaClの透過流束が良好であることがわかる(実験例1〜3、5〜14)。一方、アニオン交換樹脂層がカチオンポリマーとPVAとのブレンド樹脂からなり、カチオン交換樹脂層がランダム共重合によりアニオン性基を導入したPVA樹脂からなる場合は、NaClの透過流束が小さく脱塩性能に劣ることが判る(比較実験例1)。さらに、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層が、ランダム共重合によりアニオン性基およびカチオン性基を導入したPVA樹脂からなる場合も、塩の透過流束が小さく脱塩性能に劣ることが判る(比較実験例2)。また、無変性PVA膜をモザイク荷電膜に変えて試験した場合は、水の透過流束は正の値となり、塩を透過することができなかった(比較実験例3)。
実施例1
実験例6で用いたモザイク荷電膜を用いて透析試験を行った。ビニロン合成紙(坪量:50±5g/m2、厚さ:160±25μm)とモザイク荷電膜を重ね合わせ、熱プレス機で温度150℃、圧力10Kg/cm2の条件で10分間熱プレスを行って複合膜を得た。続いて、図5に示す透析測定セルを用いて測定を行った。フォルダに挟んだ複合膜を2つのセルの間に挟み、導電率電極(HORIBA 3552-10D)を挿入したセルIに脱イオン水100mL、セルIIに0.1mol・dm−3のKClおよび0.1mol・dm−3のスクロース水溶液400mLを入れ、両セルをスターラーで攪拌させた。この状態で導電率計(HORIBA ES-12)を用いて、セルIの溶液濃度の経時変化を測定した。セルIIに0.1mol・dm−3のCaCl2および0.1mol・dm−3のスクロース水溶液400mLを入れたものについても同様に測定した。
得られた結果を図6に示す。図6より、1価カチオンであるカリウムイオンの透過速度の方が、2価カチオンであるカルシウムイオンの透過速度よりも速いことが分かる。これより、本発明のモザイク荷電膜を用いることにより、1価カチオンと2価カチオンの透過速度が異なる現象を利用して、第1の透析工程において2価カチオンであるカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンと1価カチオンであるカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンを分離し、次いで第2の透析工程においてカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンをモザイク荷電膜に透過させることにより、非透過水を1価カチオンおよび2価カチオンが除去された軟水として得ることができることが分かる。