JP5411796B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、Ca(カルシウム)を含有する鋼からなる、ガスシールドアーク溶接用の溶接ソリッドワイヤに関するものである。
ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(以下、単に溶接ワイヤとも言う)には、通常では、多くの場合にCaが含まれる。
この溶接ソリッドワイヤの素材となる鋼材は、溶鋼をCa脱酸する製鋼の段階や、介在物形態制御などのためにCa系パウダーを添加する連続鋳造によるビレットの製造段階などで、Caが含まれやすい(混入しやすい)。更に、鋼線材の伸線加工中の割れの原因となるS(硫黄)をCaSとして生成させて固定し、耐割れ性や靭性を向上させるために、鋼に意図的にCaを含有させる場合もある。
また、溶接ソリッドワイヤの製造では、前記ビレットを熱間圧延により例えば5.5mmφ程度の鋼線材に加工した後、中間伸線として2.4mmφ程度の鋼線にまで冷間伸線され、焼鈍、酸洗、必要により銅メッキが施され、さらに溶接ソリッドワイヤの使用径の鋼線にまで仕上げ伸線される。これら中間伸線もしくは仕上げ伸線においては、潤滑剤として優れた伸線性を有するステアリン酸カルシウムなどのCaを含む潤滑剤を用いて伸線される場合が多いが、この場合、最終製品である溶接ソリッドワイヤ表面上などに、意図せずとも、Caが残留することになる。
炭酸ガスシールドアーク溶接あるいはマグ溶接に一般的に用いられるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤは、例えば、JIS Z 3312、Z 3315、Z 3317およびZ 3325等に、溶接性や溶接品質の保証のために、鋼成分が種々規定されている。
しかし、素材鋼の内部または溶接ワイヤの表面にCaが存在すると、前記ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいては、アーク溶接時にアークが不安定になり、スパッタが増加する(非特許文献1参照)。このようにスパッタが増加すると、ビード周辺のスパッタ付着による外観不良やノズル付着によるシールドガス不良などの問題を引き起こし、溶接作業性が極端に劣化する。したがって、溶接ワイヤへのCaの含有は溶接をする上で有害となる。
後述する特許文献5や非特許文献1などに記載されているように、溶接ワイヤ中にCaを含む場合の炭酸ガスシールドアーク溶接及びマグ溶接においては、溶融プール中にシールドガスにより酸化されたCa系の酸化物が存在することになる。このCaの酸化物は、仕事関数が低く、熱電子の放出が容易で、アーク発生が容易となり、アークは安定的に持続されるものの、アーク発生点そのものは、アークが溶融プール中のCa酸化物を追い求めるようにしてふらつくこととなる。このため、溶接ワイヤ中のCaの含有は溶滴の不安定をもたらす。このような現象は、溶滴の揺動や飛散を生じる結果、低スパッタと言える優れた作業性を得ることが不可能となる。
したがって、このような炭酸ガスシールドアーク溶接あるいはマグ溶接において、溶接時に発生するスパッタをできるだけ少なく抑制することは、溶接分野の最大の課題の一つである。また、近年では、溶接時の作業環境改善、工数削減などの観点からも、ガスシールドアーク溶接における低スパッタワイヤの開発の必要性は高い。
こうした背景から、例えば、特許文献1などに記載されているように、ソリッドワイヤ中のCaを、不純物として、できるだけ少量に抑制することが一般的である。
また、特許文献2には、Caを実質上含まないワイヤ材料を使用し、またワイヤ製造時にCaを含まない高級脂肪酸アルカリ塩(Na塩、K塩)により伸線し、Caを極力残存させない技術が開示されている。
ただ、一方では、ソリッドワイヤ中にCaを5〜30ppm添加し、溶接ワイヤのアークや生産性を安定させることも提案されている(特許文献3、4)。しかし、これにしても、ソリッドワイヤ中のCa含有量が増加すると、前記した通りスパッタ量が増加することに変わりは無く、Caが含有されると低スパッタを達成するのは困難であり、やはりスパッタの観点からは、溶接ワイヤのCaの含有が有害であることに変わりは無い。
しかし、前記した素材鋼の製造や伸線加工などでの溶接ワイヤ中へのCaの含有(混入)を防止したり、規制したりすると、前記製鋼や鋳造あるいは伸線でのCa系パウダーや潤滑剤などのCa系材料の使用が大きく制約される。このため、素材鋼や溶接ワイヤの品質を大きく低下させ、前記素材鋼の製造や前記伸線加工などの効率を低下させることにもつながる。したがって、前記した素材鋼を含めた溶接ワイヤの製造工程において、ソリッドワイヤ中へのある程度のCaの含有(混入)は不可避でもあり、ある程度のCaの含有を前提とした、溶接ワイヤのスパッタ改善が不可欠となる。
この点、Caの含有を前提とした溶接ワイヤのアーク安定化として、Ca含有溶接ワイヤに、他の元素を加えることによってアークを安定させる方法が、従来から提案されている。例えば、前記特許文献5では、K(カリウム)を添加して、溶接ワイヤによる溶接時の溶滴移行を安定化させ、極低なスパッタ発生量としている。
前記特許文献5によれば、Caの含有(添加)によりアークは安定して持続されている一方で、Kを添加すれば溶滴離脱促進効果が発揮できるとしている。すなわち、Kはアルカリ金属としてイオン化エネルギーが低いためイオン化しやすくアーク陽極点を広げる効果を有し、溶滴に働く電磁力が溶滴の離脱を妨げる方向に働くのを緩和する効果が得られる。例えば、炭酸ガスシールドアーク溶接のように大きな押し上げ力により溶滴が飛散してしまうような場合に、それを緩和し、溶滴を安定的に移行させる。また、マグ溶接ではスプレー移行化がより低い電流でも生じ、安定した移行となり、低スパッタ発生量となる。このようなKによる溶滴離脱促進効果により、前記したCaの溶滴への悪影響は緩和され、Caのアーク持続効果を十分活用でき、KとCaとの相乗効果により低スパッタが達成されると言う。また、再点弧時もスムーズにアークが発生し、溶融池を揺動させることなく安定した作業性が得られると言う。
特開平1−249291号公報 特開平2−80196号公報 特開平4−309489号公報 特開平5−23884号公報 特開平8−32280号公報
川崎製鉄技報:13.1.130−141頁(1981)
前記特許文献5によって、この特許文献が規定する30ppm以下のCaの含有量が比較的低い範囲では、スパッタを防止して、アークを安定させる効果が見込める。しかし、溶接ワイヤへの前記したCaの混入により、溶接ワイヤ中のCa含有量が30ppmを超えて多くなった場合には、前記特許文献5によってもスパッタの低減は図れない。
これは、特許文献5自身が記載する通り、Kは沸点が約760℃と低く、溶鋼段階での歩留りが著しく低いため、Kを素材鋼や溶接ワイヤ中に合金元素として予め含有させることは非常に困難であることによる。このため、特許文献5では、Kを含むクエン酸塩等を溶接ワイヤ表面に塗布し、焼鈍することで、溶接ワイヤ表面近傍の酸化物にKを存在させたり、Kを含んだ潤滑剤やKを含む送給用油を塗布したりして、溶接ワイヤ表面にKを存在させざるを得ない。
しかし、このような、溶接ワイヤ表面へのKの塗布自体も困難であり、Kの塗布工程の増加により、高効率な溶接ワイヤの製造工程の効率が大きく低下する。また、必然的に溶接ワイヤ表面へのKの塗布量にバラツキを生じやすく、特に、溶接ワイヤのCa含有量が前記した通りに多くなった場合には、このK塗布量の僅かな例えば数ppmの範囲での違いでも、アークを安定させてスパッタ発生を抑制できなくなるなどの問題がある。したがって、Caの含有量が多くなった場合には、前記特許文献5によっても、スパッタの低減は図れない。これは、特許文献5だけでなく、従来のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにも共通する課題である。
本発明はかかる問題に鑑みなされたものであって、ソリッドワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させて、スパッタ発生を抑制できるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供することを目的とする。
前記目的を達成するための、本発明ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの要旨は、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の一種または二種を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記NbまたはAlとの含有量が、前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30(ここでMはAl及び/またはNb)を満足することとする。
また、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Cu:0.50〜5.00%を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記Cu含有量が前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30を満足することとしても良い。
また、前記ソリッドワイヤが、更にCu:0.50〜5.00%を含有し、このCu含有量が前記Ca、Nb、Al含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足することとしても良い。
また、前記ソリッドワイヤが、更に、Ti:0.30%以下(0%を含まず)を含有しても良い。
また、ワイヤ表面にワイヤ全質量に対して被覆量が0.10〜0.30%のCuメッキ層を有しても良いが、この場合は、このCuメッキ層中のCu含有量と、前記ワイヤ中のCu含有量とを合わせたCu含有量が、前記Ca含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30あるいは前記Ca、Nb、Al含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満たすようにする。
本発明では、低炭素鋼ソリッドワイヤに、Nb、Alを新たに含有させて、スパッタの起点となりやすいCa酸化物を、NbやAlを含む複合酸化物として、前記スパッタの起点となりにくくする。これによって、溶接ワイヤのCaの含有量が0.0030%(30ppm)を超えて多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制する。
なお、本発明でも、スパッタの発生自体を無くすことはできず、あくまでCaの含有によるスパッタの増加(スパッタの発生)を低減、抑制するだけである。しかし、このように、Caの含有によるスパッタの増加を低減、抑制するだけでも、ガスシールドアーク溶接におけるその溶接効率向上の効果は大きい。すなわち、スパッタを低減するだけでも、ビード周辺のスパッタ付着による外観不良や、ノズル付着によるシールドガス不良などの問題が大きく改善でき、溶接作業性を向上できる効果は大きい。
Caの含有によるアーク不安定化は、溶融池上にCaO酸化物が浮上し、これがアーク陰極点として作用するためであると考えられる。CaO酸化物は仕事関数がひくいため、陰極側のアークは、このCaO酸化物にひっぱられ、アークが不安定になり、スパッタの発生が増加する。本発明では、このような陰極点となるCaO酸化物を、Nb、Alとの複合酸化物とすることで、アークの安定化を促進させ、スパッタの発生を抑制する。
また、本発明では、このNb、Alに代えて、あるいはこのNb、Alに加えて、Cuを含有させて、Cuの蒸気発生によるアーク面積の増大や液滴物性の変化によって、溶接ワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制する。Cuは、前記Kと同じ、溶滴離脱促進効果が発揮できる。すなわち、Cuはイオン化エネルギーが比較的低いためにイオン化しやすく、アーク陽極点を広げる効果を有し、溶滴に働く電磁力が溶滴の離脱を妨げる方向に働くのを緩和する効果を有する。
ここで、Nb、Alに加えてCuを含有させれば、前記Nb、Alの安定効果(陰極点介在物変化)と、このCuの安定効果(アーク安定化)を複合(併用)することにより、これらの相乗効果が発揮でき、さらにアーク安定化とスパッタ発生抑制とを図ることができる。
しかも、本発明のような、Nb、Alあるいは更にCuを少量含有させるアークの安定化方法は、溶接ワイヤの素材である低炭素鋼に、Nb、Alあるいは更にCuを少量添加するだけの、非常に簡便な方法である。したがって、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの製造工程や条件を大きく変更する必要が全く無い。
表1のスパッタ量抑制のAl含有効果を示す説明図である。 表2のスパッタ量抑制のNb含有効果を示す説明図である。 表3のスパッタ量抑制のCu含有効果を示す説明図である。 スパッタ量抑制のためのCaに対するM(Nb、Al)の含有量の関係を示す説明図である。 スパッタ量抑制のためのCaに対するCuの含有量の関係を示す説明図である。
以下に、本発明溶接ワイヤの化学成分組成の要件の意義限定理由について説明する。先ず、本発明溶接ワイヤの前提となる組成は、Caの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させて、スパッタ発生を抑制できる主目的の他、通常この種溶接金属や溶接継手に要求される引張強度(TS)や靱性などの品質(特性)を満足し、また溶接作業性を向上させるために、以下の組成とする。
すなわち、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の一種または二種を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼組成とする。また、この組成に、更に、Cu、Tiを含有しても良い。
そして、本発明では、更に、Caの含有量が多くなった場合でもアークを安定させてスパッタ発生を抑制する主目的のために、これら各元素のうち、前記NbまたはAlとの含有量と前記Ca含有量との関係、前記Cu含有量と前記Ca、Nb、Al含有量との関係、前記Cu含有量と前記Ca含有量との関係を各々規定する。以下に、各元素の限定意義を順に説明する。なお、本発明で記載する%は、請求項の記載も含めて、全てソリッドワイヤ全質量に対する質量%の意味である。
C(炭素):0.150%以下
溶接ワイヤ中や溶接金属中のCは、溶接中に発生するスパッタに影響する。スパッタに関しては含有量が少量であっても問題ないため下限は設定しないが、0.150%を超えて多量に含まれると、溶接中に酸素と結びつき、COガスとなって溶滴表面にバブルを発生させ、これがはじけて、スパッタを発生させる。このため、Cの含有量は0.150%以下と規定する。また、Cは溶接金属の強度にも影響し、強度の確保のため、好ましくは0.020%を下限とし、0.020〜0.150%の範囲とする。
Si(珪素):0.20〜1.10%
溶接ワイヤ中のSiは脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために必要な元素である。添加量が少量であると脱酸不足により、ブローホールが発生するため、0.20%以上を含有させる。ただ、1.10%を超えて多量に含まれると溶接中にスラグが大量発生して、溶接作業性を却って低下させる。このため、Siの含有量は0.20〜1.10%の範囲と規定する。
Mn(マンガン):0.40〜2.00%
溶接ワイヤ中のMnは、Siと同じく、脱酸剤あるいは硫黄捕捉剤としての効果を発揮し、溶接金属の強度や靱性を確保するために必要である。脱酸不足によるブローホールの発生防止のため0.40%以上を含有させる。ただ、2.0%を超えて多量に含まれると、溶接中にスラグが大量発生する。また、強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させる。このため、Mnの含有量は0.40〜2.00%の範囲と規定する。
Ti:0.30%以下
Tiは強脱酸元素であり、前記Si、Mn以上に、溶接金属の強度や靱性の向上が見込まれるので、選択的に含有され、含有させる場合は、0%を超える(0%を含まない)0.30%以下を含有させる。ただ、0.30%を超えて多量に含まれると、やはり強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させ、かつ溶接中にスラグが大量発生して、溶接作業性も低下させる。このため、Tiの含有量は0.30%以下(0%を含まない)の範囲と規定する。
P:0.030%以下(0%を含む)、S:0.030%以下(0%を含む)
S(硫黄)、P(リン)はともに不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。これらが各々0.030%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れが発生する。したがって、どちらも0.030%以下(0%を含む)に規制する。
この他の元素
この他の元素として、例えば、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、B(硼素)、REM、などは、溶接金属の靭性など、本発明の効果を阻害しない範囲で、常法による製鋼工程での経済的な処理範囲で、不可避的不純物として含むことを許容する。
次ぎに、以上の前提となる鋼組成に加えて含有させる、本発明溶接ワイヤの特徴的な組成(元素)につき、以下に説明する。この特徴的な組成(元素)はCa、Nb、Al、Cuである。これらの元素は、前記した前提となる鋼組成に加えて、溶接ソリッドワイヤの全質量に対する割合で、5〜60ppmのCaを不可避的(必須)とし、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の一種または二種および/またはCu:0.3〜5.0%を選択して、本発明溶接ワイヤに含有させる。
Ca:0.0005〜0.0060%(5〜60ppm)
前記した通り、溶接ワイヤ中には不可避的にCaが含有される。このCaが含有された溶接ワイヤでは、溶接中にアーク安定性が粗悪になり、粗大なスパッタが増加する。特に、素材となる鋼中のCa含有量が0.0005%(5ppm)以上になるとスパッタが増加し始め、Ca含有量に応じてスパッタ発生量が増加する。例えば、Ca含有量が0.0050%近くになると、そのスパッタ量は6倍以上にもなる。前記した特許文献3、4の手段に、このような高いCa含有量でのスパッタ抑制効果に限界があるのは、Caの添加量が0.0005〜0.0030%(5〜30ppm)の低い領域での、溶接ワイヤのアークや生産性を安定させる手段に過ぎないからである。すなわち、従来技術では、このようにスパッタ量が6倍以上にもなる高Ca含有量領域での低スパッタ化は困難である。
本発明では、このような高Ca含有量領域だけでなく、従来技術が対象とする低Ca含有量領域でも効果がある。この点で、Ca脱酸される製鋼の段階や、連続鋳造時のCa系パウダーの添加などで素材となる鋼中に、実際に不可避的に含まれ、かつスパッタ発生が問題となり(スパッタ発生増加が確認できる)、Nb,Al,Cu添加によるスパッタの低減効果が顕著にでるCaの最小の含有量は0.0005%(5ppm)以上である。また、より確実にスパッタ発生が問題となるのは0.0010%(10ppm)以上である。したがって、本発明で規定するCaの含有量は、溶接ワイヤに対する質量割合で、0.0005%以上、好ましくは0.0010%以上とする。また、スパッタが増大化し、スパッタの低減効果がより顕著にでるのは0.0030%(30ppm)以上であり、より好ましくは0.0030%以上とする。
ただ、一方で、Caの含有が0.0060%(60ppm)を超えると、下記記載の元素Al、Nb、Cuの含有範囲ではスパッタを低減したとしても、そのスパッタ量は標準のスパッタ量に対して多量となる。つまり、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/5)≦30、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/5)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足し難くなる。また、十分許容できるスパッタ量(2〜3.5g/min)を考慮すると、好ましくは0.0050%以下までである。したがって、Caの含有量は0.0005〜0.0060%の範囲、好ましくは0.0010〜0.0050%、より好ましくは0.0030〜0.0050%の範囲とする。
Nb、Alの一種または二種:
Nb、Alは、仕事関数が低く、陰極点となって、スパッタの起点となりやすいCaO酸化物を、NbやAlを含む複合酸化物として、スパッタの起点となりにくくする。これによって、溶接ワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制する。
この効果は、前記Ca含有量との関係で発揮されるため、Nb、Alの含有量は、前記Ca含有量との関係で決まる。したがって、まず、溶接ワイヤに対する質量%で、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の範囲と各々した上で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足するようにする。
Nb、Alの含有量が、各々の前記下限値(Nb: 0.10%、Al:0.03%)を満たさなければ、CaO酸化物のNbやAlとの複合酸化物化効果は不十分となり、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができない。
また、前記式は、Ca含有量に対するNb、Alの効果を保証するために必要なNb、Alの最低量(下限量)決定のための規定である。前記(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])が30以下を満たさない時も、前記Ca含有量との関係でNb、Alの含有量が少なすぎ、CaO酸化物のNbやAlとの複合酸化物化効果が不十分となり、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができない。
一方、Nbの多量添加は、溶接金属の液化割れを引き起こし、溶接欠陥に繋がり、また、溶接ワイヤへの伸線性も粗悪になるため、Nb含有量の上限は前記1.00%とする。また、Alの多量添加も、Alは強力な脱酸元素であることからスラグの発生が多量になるため、Al含有量の上限は前記1.00%とする。
Cu:0.50〜5.00%
前記Nb、Alに代えて、Cuを含有させることによって、Cuの蒸気発生によるアーク面積の増大や液滴物性の変化によって、溶接ワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。前記した通り、Cuは前記Kと同じく溶滴離脱促進効果が発揮できる。
また、前記Nb、Alに加えてCuを含有させれば、前記Nb、Alの安定効果(陰極点介在物変化)と、このCuの安定効果(アーク安定化)を複合(併用)することにより、これらの相乗効果が発揮でき、さらにアーク安定化とスパッタ発生抑制とを図ることができる。
この効果は、前記Ca含有量および前記Nb、Alの含有量との関係で発揮されるため、Cuの含有量は、これらCa含有量およびNb、Alの含有量との関係で決まる。したがって、まず、溶接ワイヤに対する質量%で、Cu:0.50〜5.00%の範囲とする。
Cuの含有量が下限値0.50%を満たさなければ、前記Cuの効果は不十分となり、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができない。一方、Cuの多量添加は、溶接ワイヤへの伸線性が粗悪になり伸線不可となるため、Cu含有量の上限は前記5.00%とする。
その上で、前記Ca含有量および前記Nb、Alの含有量との関係で、Nb、Alを含有せずに、Cuのみ含有する場合には、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30を満足するようにする。また、Nb、AlとともにCuを含有する場合には、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足するようにする。
これらの式は、Ca含有量に対するCu、またはCuとNb、Alとの複合添加の効果を保証するために必要なCu、Nb、Alとの最低量(下限量)決定のための規定である。これらの式が、各々30以下を満たさない時は、前記Ca含有量との関係で、Cu、Nb、Alのいずれかあるいは全部の含有量が少なすぎて、前記Cuの溶滴離脱促進効果あるいは前記Nb、Alの効果が不十分となり、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができなくなる。
Ca含有量およびAl,Nb,Cu含有量とスパッタの関係は図4、5に示されるように、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10) の値が30を超えると急激にスパッタ量が増加する。
Cuメッキ量:0.10〜0.30質量%
Cuメッキは通電性やワイヤの送給性の観点から、溶接ワイヤに必要に応じて施される。Cuメッキする場合は、ワイヤ表面に、ワイヤ全質量に対して被覆量が0.10〜0.30%となるように、Cuメッキ層を設ける。また、この際、このCuメッキ層中のCu含有量と、前記ワイヤ中のCu含有量とを合わせたCu含有量が、前記Ca含有量との関係あるいは前記Ca、Nb、Al含有量との関係を満たすようにする。全ワイヤ質量に対するCuメッキ被覆量(メッキ量)が0.10重量%未満であれば、メッキむらが生じて通電不安定になる。一方、全ワイヤ質量に対するCuメッキ被覆量(メッキ量)が0.30重量%を超えると、メッキ密着性が悪くなり、生産性が劣るようになる。このように、全ワイヤ質量に対して、0.20質量%程度のCuメッキ量が適量であり、一般的に適用されている。したがって、0.20質量%前後となる0.10〜0.30質量%の範囲を規定する。
溶接ワイヤの製造:
以上説明した、本発明に係る溶接ワイヤは前記した公知の製造工程によって製造される。このうち、上記成分組成の鋼線(鋼素線あるいは鋼原線)は、製品径(0.8〜1.6mmφの細径)の溶接用ソリッドワイヤまで、ローラダイスや孔ダイス線引き装置を用い、公知の伸線工程によって、伸線して製造される。また、必要に応じて、伸線後にCuのメッキを施して製造される。これら中間伸線もしくは仕上伸線において、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムなどのCaを含む潤滑剤を用いて伸線し、最終製品である溶接ソリッドワイヤ表面上にCaを残留させ、鋼中のCa含有量と合わせて、前記溶接ソリッドワイヤの全質量に対する前記Ca含有量としても良い。
このように製造された溶接ソリッドワイヤは、スプールに巻装、あるいはペールパックに装填された収納形態で搬送され、公知の送給態様にて、炭酸ガスシールドアーク溶接あるいはマグ溶接などの種々のガスシールドアーク溶接に供せられる。
以下に本発明の実施例を説明する。種々の鋼組成のワイヤ径1.2mmφのCa含有溶接ソリッドワイヤを、前記した常法にて製作して、ガスシールドアーク溶接に使用し、その際のスパッタ発生状態の測定を行って、スパッタ抑制効果の評価を行った。これらの結果を表1〜5に示す。
ガスシールドアーク溶接条件は各例とも共通して以下の通りとした。
電流−電圧:300A−34V、母材−チップ間距離:25mm、シールドガス:100%CO2、流量:25リットル/min、溶接速度:30cm/min。
(1)スパッタ量の測定
発生したスパッタの測定は、各例とも共通して、溶接部を囲む銅板で作成した箱の中で溶接を行い、発生したスパッタ全てを箱中(箱内)から採取し、集めたスパッタの全質量を測定し、単位溶接速度当たりの発生質量に換算して、スパッタ量(g/min)とした。後述する各図に示されるように、急激にスパッタが増加し始める境界である4.00g/min以上では、スパッタ量が過多であるとして、×と評価した。
(2)Ca添加によるスパッタ増大現象の緩和効果
上記緩和効果とは、BASEのCa添加材のスパッタ量に対してのスパッタ減少効果であって、BASE材の各Ca添加量のスパッタ量は、表1のNo.1〜7の値の2次の多項式近似から、[スパッタ量 = 3.31×10×(Ca[質量%])+2.15×10×Ca[質量%]+1.98×10 ]の式で求められる。この式での算出量に対して、各試作材のスパッタ量の減少率が20%以上であれば○、20%未満であれば×と評価した。例えば、表1のNo.9の場合 Ca含有量が0.0024質量%(24ppm)となるので、上記の近似式に代入すると、Ca含有量0.0024質量%のときの通常のCa添加材のスパッタ量は4.36g/minと算出できる。このとき、No.9のスパッタ測定量は1.82g/minとなり、4.36g/minに対して、約58%の低減効果が見られるため評価は○となる。
(3)標準ワイヤに対してのスパッタ低減性
CaFree(Ca無し)の標準状態(表1のNo.1)よりもスパッタ量が低減した場合に○とした。評価が○のときCa含有量とAl,Nb,Cuの添加量の関係がより好ましい条件となる。
(4)スラグ性の確認
溶接直後のビード表面をデジタルカメラ(機種は問わない)で撮影し、ビードに被覆しているスラグの面積を画像編集ソフト(Image−Pro Plus)から算出し、ビードの被覆率が20%を超えればスラグ性が×、それ以下であればスラグ性が○と評価した。
(5)割れの確認
溶接割れ試験はJIS Z3158に準拠したy型溶接割れ試験で行い、溶接部の表面割れの有無を目視で確認し、表面割れが無い場合を割れ性が○、表面割れが有る場合を割れ性が×と評価した。
(6)ブローホールの確認
割れ試験で得た溶接金属断面を観察し、ブローホールの有無を目視で確認した。
Ca含有溶接ソリッドワイヤの鋼組成を表1〜5に示す。表1〜5におけるCa含有量は、母材鋼に予め含まれたCa含有量であり、伸線の潤滑剤など、溶接ワイヤの伸線工程では溶接ワイヤの表面にCaが付着しないようにした。また、溶接ソリッドワイヤは潤滑剤や表面処理から、溶接ワイヤの表面に、請求項で規定した他の元素も付着しないように十分洗浄している。したがって、溶接ソリッドワイヤの全質量に対する割合(質量%)としての表1〜5における組成(各元素量)は、Ca含有量を含めて、母材鋼に予め含まれた含有量であり、溶接ワイヤの表面に付着した元素はメッキ、潤滑剤、表面処理からの由来するものを含めて無い(含んでいない)。
ここで、表1、2のNo.8〜50はAl添加またはNb添加時の実施例および比較例、表3のNo.51〜72はCu添加時の実施例および比較例、表4のNo.73〜84はCu及びAl、Nbの一種または2種を複合した場合の実施例および比較例、表5のNo.85〜90はソリッドワイヤ表面にCuメッキを施した場合の実施例および比較例となる。ただし、表1の実施例14、15、17、21、32は、本発明の範囲から外れた参考例である。
また、図1に表1、2のAlの効果を、図2に表1、2のNbの効果を、図3に表3のCuの効果を、縦軸にスパッタ量(g/min) 、横軸に溶接ワイヤのCa含有量の関係で、各々整理し直して示す。これら図1〜3において、右上がりの曲線で結ぶ黒四角の印は、共通して、表1のBASE(ベース)となる従来の(Nb、Al、Cuを含有しない)Ca含有溶接ワイヤ例となるNo.1〜7を示す。そして、この黒四角の印に対して、三角印や丸印が実施例となる。
これら表1〜4の通り、あるいは図1〜3の通り、本実施例では、従来のCa含有溶接ワイヤ例No.1〜7(黒四角印)に比して、Ca含有量が高くなっても、スパッタが低減されていることが分かる。ただ、前記した通り、本発明例では、スパッタの発生自体を無くすことはできず、スパッタを(スパッタの発生を)低減しているだけである。しかし、このように、Ca含有量が高くなっても、スパッタを低減するだけでも、前記した通り、ガスシールドアーク溶接におけるその溶接効率向上の効果は大きい。すなわち、スパッタを低減するだけで、ビード周辺のスパッタ付着による外観不良や、ノズル付着によるシールドガス不良などの問題が大きく改善でき、溶接作業性を向上できる効果は大きい。
図4にこの関係を改めて整理した結果を示す。図4は、縦軸にスパッタ量(g/min) 、横軸に溶接ワイヤのCaとM(MはAlおよび/またはNb)との含有量の関係式、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])をとっている。また、図5においては縦軸にスパッタ量(g/min) 、横軸に溶接ワイヤのCaとCuとの含有量の関係式、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)をとっている。この図4、5において、この式の値が30を超えると、Ca含有によるスパッタの増加量が右肩上がりに著しく大きくなっており、反対に、この式の値が30以下の場合は、Ca含有によるスパッタの増加量が著しく抑制されていることが分かることから、前記各式の上限値と設定する。
したがって、Ca含有量に対して、Nb、Al、あるいはCuなどのスパッタ抑制効果を確実に(再現性良く)発揮させるためには、前記各式である、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30、更には、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(これら各式においてMはAlおよび/またはNb)を満足する必要があることが分かる。
ここで、表1のNo.1は、Caを含有していないBASEとなる溶接ワイヤのスパッタ量レベルを示すための基準例であり、2.06g/minのスパッタ量レベルである。また、No.2〜7はBASEとなる従来の(Nb,Al,Cuを含有しない)Ca含有溶接ワイヤとなる。
表1のNo.8〜32がAlまたはNb含有時の実施例となり、本発明の要件である溶接ワイヤの組成、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30(MはAlおよび/またはNb)、標準Ca含有ワイヤのスパッタ量に対して20%以上の減少率を満足する例となる。これらのうちCa含有量0.0030質量%以下の場合はAl、Nbの適正量の添加により、No.9,10,15,17,23,24,27,29のように、Caを含有していないBASE材(No.1)のスパッタ量(2.06g/min)よりも低減する。ただし、表1の実施例14、15、17、21、32は、前記した通り、本発明の範囲から外れた参考例である。
また、溶接金属中の介在物をみると、前記BASE例がSi、Mn系の酸化物であるのに対して、Alを添加した前記実施例では、アルミの酸化物となっており、陰極点として作用する浮上酸化物の形態もなんらかの変化があったものと思われ、Nbを添加した前記実施例では、Si、Mn系の酸化物まわりにNb酸化物が生成しており、陰極点として作用する浮上酸化物の形態も、前記Al添加と同じメカニズムなんらかの変化があったものと思われる。
一方、表2のNo.33〜50は比較例となる。No.33〜36は(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])の値が30を超え、スパッタが多量に発生する。また、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])
が30以下であるものの、No.37、38はAlの過剰添加により、スラグが多量に発生し、No. 39はCa freeであるが、BASE材と比較してスパッタの減少率が20%未満となり、スパッタ減少効果が小さい。No.40,41はSi,Mn量が極めて低いため、脱酸不足となりブローホールが発生する。No.42はCの過剰添加によるスパッタの増大、Sの過剰添加による割れが発生する。No.43はTiの過剰添加によるスラグの多量発生、Sの過剰添加による割れが発生する。No.44はTiの過剰添加によって、スラグが多量発生し、No.45、46はNbの過剰添加により割れが発生する。No.47,48はAlまたはNbの添加量が微量であるため、スパッタの減少効果は小さい。No.49、50はSiまたはMnの過剰添加により、スラグが多量に発生する。
表3のNo.51〜66はCu含有時の実施例となり、本発明の要件である溶接ワイヤの組成、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30、標準Ca含有ワイヤのスパッタ量に対して20%以上の減少率を満足する例となる。これらのうち、No.51,52,54,56はCaを含有していないBASE材(No.1)のスパッタ量(2.06g/min)よりもスパッタが低減する。
このCuによるスパッタの抑制メカニズムはNb、Alとは異なり、陰極点(酸化物)に影響を与えるわけではなく、前記した通り、Cu蒸気発生によるアーク面積の拡大や溶滴物性の変化が、アーク安定性の向上につながるものと推考される
一方、表3のNo.67〜72はCu含有の比較例となる。No.67はCu含有量が少ないため、Ca含有におけるスパッタ減少効果が小さい。No.68はCaの含有量かつCu含有量が微量であるためCa含有におけるスパッタ減少効果が小さい。No.69〜71は(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30 を満たさず、スパッタが多量に発生する。No.72はCuの過剰添加のため伸線が不可となった。
また、表4から、Nb、AlとCuとの複合添加による、スパッタ抑制の相乗効果(アーク安定の相乗効果)も裏付けられる。すなわち、AlとNb、もしくはAlおよび/またはNbにCuを複合添加すると、同程度の添加量でNb、Al、Cuを単体(単独)で添加した場合よりも、さらにスパッタ低減効果があることが分かる。例えば、表1の実施例No.14のAl:0.5質量%、Ca:0.0042質量%に近い組成である、表4の実施例No.75では、Cuを添加することで、スパッタ量が2.96g/minから2.48g/minまで減少している。
表4のNo.73〜81は複合添加した場合の実施例となる。本発明の要件である溶接ワイヤの組成、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(これら各式においてMはAlおよび/またはNb)を満たし、標準Ca含有ワイヤのスパッタ量に対して20%以上の減少率を満足する例となる。これらのうち、No.73、76、77、80 はCaを含有していないBASE材(No.1)のスパッタ量(2.06g/min)よりもスパッタが低減する。
一方、表4のNo.82〜84は比較例であって、No.82はAl、Nbの含有量が微量で(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30 を満足していないため、スパッタが多量に発生する。No.83はAlの過剰添加による多量なスラグの発生、No84はAl、Nbの過剰添加により、多量なスラグの発生、割れが発生する。
また、表5はソリッドワイヤ表面に0.10〜0.30%のCuメッキ層を施した場合のCuの効果を示している。
表5のNo.85〜88はメッキCuを施した場合の実施例となり、No.85〜88は線材中のCuとメッキ層のCuが合わさることで、本発明の要件である溶接ワイヤの組成、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30、標準Ca含有ワイヤのスパッタ量に対して20%以上の減少率を満足する例となる。これらのうち、No.88はCaを含有していないBASE材(No.1)のスパッタ量(2.06g/min)よりもスパッタが低減する。
前記のとおり、線材中だけでなくメッキ層を含めた全体のCu含有量が本発明のCu含有範囲を満たすことによっても効果が発揮されるため、本発明のCu含有範囲であるならば、Cuメッキ層を施しても問題はない。
また、表1のNo.9、10、15、17、23、24、27、29、表3のNo.51、52、54、56、表4のNo.73、76、77、80、表5のNo.88のようにCaの含有量が0.0030%以下の場合、Al、Nb、Cuの含有量が適正値であるとCa Freeの標準量(No.1)よりもスパッタが低減し、より好ましい条件となる。
以上の実施例から、本発明で規定する要件の、スパッタの低減に対する臨界的な意義が実証される。
Figure 0005411796
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本発明によれば、Caの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させて、スパッタ発生を抑制できる溶接ワイヤを提供することができる。このため、ビード周辺のスパッタ付着による外観不良や、ノズル付着によるシールドガス不良などの問題が大きく改善でき、ガスシールドアーク溶接における溶接作業性を向上できる効果が大きい。したがって、低炭素鋼溶接ソリッドワイヤからなるガスシールドアーク溶接用のワイヤとして、広く用いることができる。

Claims (5)

  1. ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の一種または二種を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記NbまたはAlとの含有量が、前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30(ここでMはAl及び/またはNb)を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  2. ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Cu:0.50〜5.00%を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記Cu含有量が、前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  3. 前記ソリッドワイヤが、更にCu:0.50〜5.00%を含有し、このCu含有量が、前記Ca、Nb、Al含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足する請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  4. 前記ソリッドワイヤが、更に、Ti:0.30%以下(0%を含まず)を含有する請求項2または3に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  5. 前記ソリッドワイヤ表面にワイヤ全質量に対して被覆量が0.10〜0.30%のCuメッキ層を有し、このCuメッキ層中のCu含有量と、前記ワイヤ中のCu含有量とを合わせたCu含有量が、前記Ca含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30あるいは前記Ca、Nb、Al含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満たす請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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