JP5411796B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents
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溶接ワイヤ中や溶接金属中のCは、溶接中に発生するスパッタに影響する。スパッタに関しては含有量が少量であっても問題ないため下限は設定しないが、0.150%を超えて多量に含まれると、溶接中に酸素と結びつき、COガスとなって溶滴表面にバブルを発生させ、これがはじけて、スパッタを発生させる。このため、Cの含有量は0.150%以下と規定する。また、Cは溶接金属の強度にも影響し、強度の確保のため、好ましくは0.020%を下限とし、0.020〜0.150%の範囲とする。
溶接ワイヤ中のSiは脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために必要な元素である。添加量が少量であると脱酸不足により、ブローホールが発生するため、0.20%以上を含有させる。ただ、1.10%を超えて多量に含まれると溶接中にスラグが大量発生して、溶接作業性を却って低下させる。このため、Siの含有量は0.20〜1.10%の範囲と規定する。
溶接ワイヤ中のMnは、Siと同じく、脱酸剤あるいは硫黄捕捉剤としての効果を発揮し、溶接金属の強度や靱性を確保するために必要である。脱酸不足によるブローホールの発生防止のため0.40%以上を含有させる。ただ、2.0%を超えて多量に含まれると、溶接中にスラグが大量発生する。また、強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させる。このため、Mnの含有量は0.40〜2.00%の範囲と規定する。
Tiは強脱酸元素であり、前記Si、Mn以上に、溶接金属の強度や靱性の向上が見込まれるので、選択的に含有され、含有させる場合は、0%を超える(0%を含まない)0.30%以下を含有させる。ただ、0.30%を超えて多量に含まれると、やはり強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させ、かつ溶接中にスラグが大量発生して、溶接作業性も低下させる。このため、Tiの含有量は0.30%以下(0%を含まない)の範囲と規定する。
S(硫黄)、P(リン)はともに不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。これらが各々0.030%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れが発生する。したがって、どちらも0.030%以下(0%を含む)に規制する。
この他の元素として、例えば、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、B(硼素)、REM、などは、溶接金属の靭性など、本発明の効果を阻害しない範囲で、常法による製鋼工程での経済的な処理範囲で、不可避的不純物として含むことを許容する。
前記した通り、溶接ワイヤ中には不可避的にCaが含有される。このCaが含有された溶接ワイヤでは、溶接中にアーク安定性が粗悪になり、粗大なスパッタが増加する。特に、素材となる鋼中のCa含有量が0.0005%(5ppm)以上になるとスパッタが増加し始め、Ca含有量に応じてスパッタ発生量が増加する。例えば、Ca含有量が0.0050%近くになると、そのスパッタ量は6倍以上にもなる。前記した特許文献3、4の手段に、このような高いCa含有量でのスパッタ抑制効果に限界があるのは、Caの添加量が0.0005〜0.0030%(5〜30ppm)の低い領域での、溶接ワイヤのアークや生産性を安定させる手段に過ぎないからである。すなわち、従来技術では、このようにスパッタ量が6倍以上にもなる高Ca含有量領域での低スパッタ化は困難である。
Nb、Alは、仕事関数が低く、陰極点となって、スパッタの起点となりやすいCaO酸化物を、NbやAlを含む複合酸化物として、スパッタの起点となりにくくする。これによって、溶接ワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制する。
前記Nb、Alに代えて、Cuを含有させることによって、Cuの蒸気発生によるアーク面積の増大や液滴物性の変化によって、溶接ワイヤのCaの含有量が多くなった場合でも、アークを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。前記した通り、Cuは前記Kと同じく溶滴離脱促進効果が発揮できる。
Cuメッキは通電性やワイヤの送給性の観点から、溶接ワイヤに必要に応じて施される。Cuメッキする場合は、ワイヤ表面に、ワイヤ全質量に対して被覆量が0.10〜0.30%となるように、Cuメッキ層を設ける。また、この際、このCuメッキ層中のCu含有量と、前記ワイヤ中のCu含有量とを合わせたCu含有量が、前記Ca含有量との関係あるいは前記Ca、Nb、Al含有量との関係を満たすようにする。全ワイヤ質量に対するCuメッキ被覆量(メッキ量)が0.10重量%未満であれば、メッキむらが生じて通電不安定になる。一方、全ワイヤ質量に対するCuメッキ被覆量(メッキ量)が0.30重量%を超えると、メッキ密着性が悪くなり、生産性が劣るようになる。このように、全ワイヤ質量に対して、0.20質量%程度のCuメッキ量が適量であり、一般的に適用されている。したがって、0.20質量%前後となる0.10〜0.30質量%の範囲を規定する。
以上説明した、本発明に係る溶接ワイヤは前記した公知の製造工程によって製造される。このうち、上記成分組成の鋼線(鋼素線あるいは鋼原線)は、製品径(0.8〜1.6mmφの細径)の溶接用ソリッドワイヤまで、ローラダイスや孔ダイス線引き装置を用い、公知の伸線工程によって、伸線して製造される。また、必要に応じて、伸線後にCuのメッキを施して製造される。これら中間伸線もしくは仕上伸線において、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムなどのCaを含む潤滑剤を用いて伸線し、最終製品である溶接ソリッドワイヤ表面上にCaを残留させ、鋼中のCa含有量と合わせて、前記溶接ソリッドワイヤの全質量に対する前記Ca含有量としても良い。
電流−電圧:300A−34V、母材−チップ間距離:25mm、シールドガス:100%CO2、流量:25リットル/min、溶接速度:30cm/min。
発生したスパッタの測定は、各例とも共通して、溶接部を囲む銅板で作成した箱の中で溶接を行い、発生したスパッタ全てを箱中(箱内)から採取し、集めたスパッタの全質量を測定し、単位溶接速度当たりの発生質量に換算して、スパッタ量(g/min)とした。後述する各図に示されるように、急激にスパッタが増加し始める境界である4.00g/min以上では、スパッタ量が過多であるとして、×と評価した。
上記緩和効果とは、BASEのCa添加材のスパッタ量に対してのスパッタ減少効果であって、BASE材の各Ca添加量のスパッタ量は、表1のNo.1〜7の値の2次の多項式近似から、[スパッタ量 = 3.31×105×(Ca[質量%])2+2.15×102×Ca[質量%]+1.98×104 ]の式で求められる。この式での算出量に対して、各試作材のスパッタ量の減少率が20%以上であれば○、20%未満であれば×と評価した。例えば、表1のNo.9の場合 Ca含有量が0.0024質量%(24ppm)となるので、上記の近似式に代入すると、Ca含有量0.0024質量%のときの通常のCa添加材のスパッタ量は4.36g/minと算出できる。このとき、No.9のスパッタ測定量は1.82g/minとなり、4.36g/minに対して、約58%の低減効果が見られるため評価は○となる。
CaFree(Ca無し)の標準状態(表1のNo.1)よりもスパッタ量が低減した場合に○とした。評価が○のときCa含有量とAl,Nb,Cuの添加量の関係がより好ましい条件となる。
溶接直後のビード表面をデジタルカメラ(機種は問わない)で撮影し、ビードに被覆しているスラグの面積を画像編集ソフト(Image−Pro Plus)から算出し、ビードの被覆率が20%を超えればスラグ性が×、それ以下であればスラグ性が○と評価した。
溶接割れ試験はJIS Z3158に準拠したy型溶接割れ試験で行い、溶接部の表面割れの有無を目視で確認し、表面割れが無い場合を割れ性が○、表面割れが有る場合を割れ性が×と評価した。
割れ試験で得た溶接金属断面を観察し、ブローホールの有無を目視で確認した。
が30以下であるものの、No.37、38はAlの過剰添加により、スラグが多量に発生し、No. 39はCa freeであるが、BASE材と比較してスパッタの減少率が20%未満となり、スパッタ減少効果が小さい。No.40,41はSi,Mn量が極めて低いため、脱酸不足となりブローホールが発生する。No.42はCの過剰添加によるスパッタの増大、Sの過剰添加による割れが発生する。No.43はTiの過剰添加によるスラグの多量発生、Sの過剰添加による割れが発生する。No.44はTiの過剰添加によって、スラグが多量発生し、No.45、46はNbの過剰添加により割れが発生する。No.47,48はAlまたはNbの添加量が微量であるため、スパッタの減少効果は小さい。No.49、50はSiまたはMnの過剰添加により、スラグが多量に発生する。
Claims (5)
- ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Nb: 0.10〜1.10%、Al:0.03〜1.00%の一種または二種を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記NbまたはAlとの含有量が、前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%])≦30(ここでMはAl及び/またはNb)を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.150%以下、Si:0.20〜1.10%、Mn:0.40〜2.00%、Ca:0.0005〜0.0060%を各々含有する他、Cu:0.50〜5.00%を含有し、更に、P:0.030%以下、S:0.030%以下に各々規制し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、前記Cu含有量が、前記Ca含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 前記ソリッドワイヤが、更にCu:0.50〜5.00%を含有し、このCu含有量が、前記Ca、Nb、Al含有量との関係で、(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満足する請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 前記ソリッドワイヤが、更に、Ti:0.30%以下(0%を含まず)を含有する請求項2または3に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 前記ソリッドワイヤ表面にワイヤ全質量に対して被覆量が0.10〜0.30%のCuメッキ層を有し、このCuメッキ層中のCu含有量と、前記ワイヤ中のCu含有量とを合わせたCu含有量が、前記Ca含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+Cu[質量%]/10)≦30あるいは前記Ca、Nb、Al含有量との関係(1+Ca[質量%]×104)/(1+M[質量%]+Cu[質量%]/10)≦30(ここでMはAlおよび/またはNb)を満たす請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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