特許文献1に記載された光コネクターのプラグの平面形状を図14に示し、その正面形状を図15に示す。複数本の光ファイバー20は、プラグ30のハウジング31に設けられた保持部32に整列状態で保持されており、この保持部32から突出する光ファイバー20の接続端部21の先端部21bは、被覆部21aの被覆層を除去することによって素線20aが露出状態となっている。図14,図15から理解できるように、光ファイバー20の接続端部21は、片持ち状態となっているため、その先端部21bがある程度自由に変位することが可能であり、保持部32での整列状態からばらけた状態となっているのが普通である。より具体的には、光ファイバー20の先端部21bはその整列方向(図15中、左右方向)に若干広がった状態となっている。また、整列方向に対して直交する縦方向(図15中、上下方向)についても、個々の光ファイバー20の先端部21bの位置に若干ばらつきがある。
このような状態にあるプラグ30の光ファイバー20の接続端部21の先端部21bと接続部材40の接続部41の接続孔42との関係を模式的に図16に示し、この接続部41の接続孔42の部分の正面形状を図17に示す。ここで、光ファイバー20の先端部21bが接続部材40の接続部41の接続孔42に挿入される直前の光ファイバー20の中心軸線20Cと、接続孔42の中心軸線42Cとの位置ずれ量をΔEで示す。また、光ファイバー20の整列方向(図17中、左右方向)に沿った横ずれの量をΔEX,整列方向に対して直交方向(図17中、上下方向)する縦ずれの量をΔEYで示す。
光ファイバー20の先端部21bの素線20aが接続孔42に挿入される際、位置ずれ量ΔEが許容範囲を超える場合、光ファイバー20が接続孔42に挿入できなくなる。プラグ30における全ての光ファイバー20の内、1本でも位置ずれ量が許容範囲を超えていれば、その光ファイバー20が接続孔42に挿入できず、プラグ30を接続部材40に装着することが不可能となり、他の光ファイバー20も挿入できなくなる。すなわち、光コネクターとしての接続動作が成立しなくなってしまう。ある光ファイバー20が挿入できない状態で、プラグ30を接続部材40に無理に押し込めば、挿入できない光ファイバー20は、高い確率で破損する。すなわち、光コネクターは故障状態となってしまう。例えば、被覆部21a、つまり被覆層の外径が250μm,素線20aの径が125μmの光ファイバー20を対象とし、先端部21bの面取りされた素線20aの接続端面22の外径Dtを70μm,接続孔42の開口端に形成された円錐状をなす案内部42aの径Dmを400μmとした場合、縦ずれの量ΔEXは165μm程度まで、横ずれの量ΔEYは90μm程度まで許容される。隣接する接続孔42の中心間距離は約250μmに設定されるので、案内部42aの径Dmを大きくしても、横ずれの量ΔEYの許容値を90μm程度よりも大きくすることはできない。
光ファイバー20が接続孔42に挿入される際に、これらの相対的な位置ずれが生じる原因は、主に以下の2つである。すなわち、一つは、プラグ30や接続部材40の製造上の寸法公差ならびにプラグ30と接続部材40とを嵌合した場合のはめ合い公差に起因する位置ずれ量ΔECである。もう一つは、片持ち状態となっているプラグ30のハウジング31に対する光ファイバー20の接続端部21の先端部21bの位置ずれ量ΔEPである。
前者の寸法公差および嵌め合わせ公差に起因する位置ずれ量ΔECに関しては、プラグ30および接続部材40の高い成形加工精度と15μm以下のすきま嵌め精度とを実現することにより、40μm以下にすることが可能となっている。
一方、片持ち支持に起因する後者の光ファイバー20の接続端部21の位置ずれ量ΔEPに関し、PC接続を実現するために接続端部21の長さを7mm程度確保する必要がある。また、高密度実装を実現するため、隣接する光ファイバー20の間隔を250μm程度まで狭める必要がある。このため、プラグ30に保持された光ファイバー20の接続端部21の先端部21bが図14,図15に示すようにばらけてしまうのは、避けられないものとなっており、これに起因する位置ずれ量ΔEPが50μmを超える場合がある。この結果、先の位置ずれ量ΔECと合わせて最終的な縦ずれの量ΔEYが90μmを超える可能性があり、光コネクターとして接続が成立しなくなってしまう。
このような不具合は、PC接続を行う一対のプラグ30のみならず、接続孔42の一端に半導体レーザーやフォトダイオードあるいは光導波路などの光部品が取り付けられた接続部材と、プラグ30とを接続してなる光コネクターにおいても同様に発生する。
本発明は、従来の多心光コネクターにおける上述した課題に鑑みてなされたものであり、片持ち状態に起因する光ファイバーの接続端部の先端部の位置のばら付きを矯正し得る光コネクターのプラグを提供することを目的とする。
本発明は、複数の接続孔が整列する接続部材に嵌合され、この接続部材とで光コネクターを構成するプラグであって、このプラグは、複数本の光ファイバーを整列状態で保持する保持部を有するハウジングを具え、このハウジングの前記保持部から突出する前記複数本の光ファイバーの接続端部は、これら光ファイバーの素線を被覆する被覆層を含む被覆部と、前記被覆層が除去された先端部とをそれぞれ有し、これら先端部は、前記接続部材に対するプラグの嵌合動作に伴い、前記接続部材の複数の接続孔に対してそれぞれ挿入されるプラグにおいて、前記複数本の光ファイバーの接続端部の前記被覆部に設けられてこれら複数本の光ファイバーの接続端部の先端部を整列状態に保持する整列部材をさらに具え、この整列部材は、前記保持部よりも前記複数本の光ファイバーの接続端部の先端部側に近づけて配されると共に前記ハウジングに対して非接触であることを特徴とするものである。
本発明においては、プラグの保持部から突出して片持ち状態にある光ファイバーの接続端部に整列部材が設けられており、この整列部材の存在によって先端部の素線が整列状態に矯正される。
なお、本発明において光ファイバーの接続端部とは、プラグの保持部から接続部材の接続孔側に突出する領域を指す。また、接続端部の先端部とは接続部材の複数の接続孔に挿入される領域であって、光ファイバーの被覆層が除去された領域を指す。従って、光ファイバーの先端部には素線が露出した状態となるが、本発明における素線は、一般的な被覆除去作業によっては除去されない金属薄膜層などの何らかのコーティング層が表面に残留しているものも包含する。また、被覆部とはこの先端部以外、つまり素線が被覆層で被覆された領域を指す。
光コネクターは、本発明によるプラグと接続部材との嵌合状態にて複数本の光ファイバーの接続端部が座屈する光コネクターであり、複数本の光ファイバーの接続端部の長手方向に沿った整列部材の長さが0.5mm以上かつ1.5mm以下であることが好ましい。
整列部材が複数本の光ファイバーの接続端部を囲む矩形の開口部を持った枠状をなしているか、または整列部材が整列状態にある複数本の光ファイバーの接続端部の断面形状に対応した開口部を持つ枠状をなしているものであってよい。何れの場合においても、開口部は、その一方の開口端に拡径部を有することが好ましい。
あるいは、整列部材が複数本の光ファイバーの接続端部に接合される接着剤であってよい。この場合、整列部材の弾性係数が10MPa以下であることが好ましい。
本発明によると、整列部材が複数本の光ファイバーの接続端部を整列状態に保持しているので、従来のプラグよりも光ファイバーの接続端部の先端部の素線の位置精度を高めることができる。この結果、光コネクターの接続部材に対してプラグを確実に接続することができ、その接続動作の信頼性を向上させることが可能である。また、この整列部材がハウジングに対して非接触となっているので、接続部材の接続孔に対して先端部を嵌合させる際の光ファイバーの接続端部の自由な変位を妨げない。この結果、接続時に光ファイバーの接続端部に有害な応力が発生せず、プラグを接続部材に対して円滑に接続することが可能となる。
光コネクターがプラグと接続部材との嵌合状態において複数本の光ファイバーの接続端部が座屈する光コネクターであり、光ファイバーの接続端部の長手方向に沿った整列部材の長さを0.5mm以上かつ1.5mm以下に設定した場合、プラグと共に光コネクターを構成する接続部材に対してプラグを嵌合させ、整列部材の存在によって、光ファイバーの接続端部の座屈による湾曲を阻害する程度を小さくすることができる。すなわち、整列部材が存在しない場合と同程度に円滑に光ファイバーの接続端面のPC状態を実現することができる。
本発明は、光ネットワークにおける光信号処理装置や、光インターコネクションを利用した高速データー伝送システムを持つ情報処理装置において、光ファイバーと光部品または他の光ファイバーとを接続する光コネクターに適用して好適なものである。本発明による光コネクターの一実施形態について、図1〜図13を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施形態に限らず、本発明の精神に帰属する任意の形態の光コネクターに適用させることが可能である。
第1の実施形態における光コネクターの平面形状を一部破断して図1に示し、そのII−II線に沿った矢視断面形状を図2に示し、そのIII−III線,IV−IV線に沿った矢視断面形状を図3,図4にそれぞれ示す。また、一方のプラグの正面形状を図5に示し、その整列部材の外観を一部破断して図6に示し、この光コネクターの接続状態の平面形状を図7に示し、そのVIII−VIII線に沿った矢視断面形状を図8に示す。
本実施形態における光コネクター10は、それぞれ複数本の光ファイバー20を保持する一対のプラグ30F,30Sと、これら一対のプラグ30F,30Sが取り外し可能に嵌合されるアダプター40とで主要部が構成される。光コネクター10は、この他に一対のプラグ30F,30Sとアダプター40との接続状態をばね力などによって維持するためのクランプ部材をさらに含むが、発明部分を明確にするためにクランプ部材を図示していないことに注意されたい。アダプター40を介して一対のプラグ30F,30Sを向き合わせることにより、一対のプラグ30F,30Sに保持された光ファイバー20の光接続が達成される。本実施形態における光コネクター10は、8心、すなわち8本の光ファイバー20をPC状態で相互に光接続するものである。
各プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sは、光ファイバー20の接続端部21を整列状態で保持するための保持部32をそれぞれ有する。ここで、整列状態とは、各光ファイバー20の接続端部21が予め設定した所定の間隔で、かつその中心軸線が相互に平行となるように配される状態を指す。本実施形態における保持部32は、ハウジング31F,31Sに形成されて所定間隔で平行に配列する複数の溝32aと、押さえ板32bと、一対のばねクリップ32cとを有する。個々の溝32aはV字形断面を有し、光ファイバー20の被覆部21a、つまり被覆層の外径と同じ250μmの間隔で相互に平行に配列する。押さえ板32bは、一対のばねクリップ32cのばね力によってハウジング31F,31Sの溝32aとの間に光ファイバー20を押し挾み、被覆部21aとの間に発生する摩擦を利用してこれを整列状態に保持する。
各プラグ30F,30Sに保持される光ファイバー20は石英系光ファイバーであるが、これに限定されない。接続端部21の先端部21bのみ被覆層が除去されて素線20a、つまりクラッドが露出した状態になっている。本実施形態における光ファイバー20の素線20aの外径は約125μmであり、被覆層の外径は約250μmである。約250μm間隔の光ファイバー20の配列間隔は、一般的なリボン(テープ)形多心光ファイバーにおける光ファイバーの配列間隔と同じである。後述するアダプター40の接続部41の接続孔42の配列間隔もこれと同一に設定される。光ファイバー20の接続端面22は、その中心軸線20Cに対して直交する平坦な鏡面に加工される。さらに、接続端面22の周縁は円錐状に加工されて面取り部22aが形成され、接続端面22の直径は125μmよりも小さく(例えば70μm)なる。接続時にPC状態とするため、一方のプラグ30F(図1中、左側)における光ファイバー20の先端は、ハウジング31Fの突合せ面31FEよりΔLだけ僅かに突出している。他方のプラグ30S(図1中、右側)における光ファイバー20の先端は、ハウジング31Sの突合せ面31SEとほぼ同一面に位置する。従って、プラグ30Fにおける光ファイバー20の接続端部21の長さは、プラグ30Sのそれよりも長く設定されている。
なお、本明細書にて定義される先端部21bは、被覆層を除去することによって残存する少なくとも光ファイバー20の素線20aを含んだ領域であると解釈される。従って、先端部21bに位置する素線20aが外部に対して完全に露出状態であっても、あるいは通常の被覆除去工程では除去されない何らかのコーティング層(例えば金属薄膜層)で被覆されているものであっても本発明に含まれることに注意されたい。
光ファイバー20の接続端部21を整列状態に保持する整列部材50は、プラグ30F,30Sに保持された光ファイバー20の先端部21bの相対位置を設計上の相対位置に整列するようにさせるためのものである。この光ファイバー20に対する整列部材50の取り付け位置は、光ファイバー20の先端部21bを除く接続端部21の被覆部21aであり、アダプター40に対してプラグ30F,30Sを装着した場合にアダプター40の接続部41に接触しない位置である。しかしながら、その整列効果を高めるために保持部32よりも接続端部21の先端部21b側に近づけて配する必要があり、できるだけ光ファイバー20の先端部21bに近接させることが望ましい。このような観点から、本実施形態では先端部21bと被覆部21aとの境界から保持部32側へおよそ1mm離れた位置に整列部材50を配している。
本実施形態における整列部材50は、ほぼ矩形の開口部51を有する枠状をなし、この開口部51に8本の光ファイバー20を貫通させた状態でこれら光ファイバー20に対して装着される。開口部51の寸法形状は、プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sの保持部32に保持された光ファイバー20の相対位置に対応している。すなわち、開口部51の横方向(図5中、左右方向)に沿った幅Wは、約2mm(250μm×8)であり、縦方向(図5中、上下方向)に沿った高さHは約250μmに設定される。なお、縦方向の高さHに関し、これを260μm程度に設定して光ファイバー20の接続端部21の被覆部21aに対してすきま嵌めの状態にすることも可能であるが、逆に245μm程度に設定してしまり嵌めの状態にすることも可能である。すなわち、この範囲のはめ合い精度であれば、光ファイバー20を接続孔42に円滑に挿入する場合に十分な光ファイバー20の先端部21bの整列精度を得ることができ、また整列部材50で囲まれた部分における光ファイバー20の長手方向に沿ったこれらの相対的な位置変位が許容されるからである。しまり嵌めの場合であっても光ファイバー20の長手方向の相対位置変位が許容されるのは、被覆部21aの被覆層を構成する材料が柔軟性を有しているためである。つまり、プラグ30F,30Sをアダプター40に嵌合させて接続を行う場合、被覆部21aが変形して光ファイバー20の長手方向の位置変位を可能にする。
通常、整列部材50は比較的軽量な樹脂から作られるため、しまり嵌めの場合には、光ファイバー20の接続端部21の被覆部21aとの摩擦によって光ファイバー20の所定の位置に保持する。一方、すきま嵌めの場合には、硬化後の弾性係数が比較的低いシーリング用のシリコーン系樹脂などを整列部材50の開口部51と光ファイバー20の接続端部21の被覆部21aとの間に画成される隙間の一部に充填し、整列部材50に対して光ファイバー20の接続端部21を適正な位置を保持する。
整列部材50は、プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sやアダプター40に対して接触しないように、つまり光ファイバー20の接続端部21の被覆部21aにのみ接するように、その外形寸法が規定される。整列部材50は、光ファイバー20の先端部21bの位置を矯正するけれども、光ファイバー20の接続端部21に支持された状態となっているため、光ファイバー20の接続端部21の変位に追従してこれと一体的に変位する。
整列部材50の開口部51の一方の開口端には、面取り拡径部51aが形成されている。これにより、整列部材50を光ファイバー20に装着する作業を容易にすることができる。この整列部材50を光ファイバー20の接続端部21の先端部21bから通し、この先端部21bに近接した接続端部21の被覆層21の部分に装着すると、8本の光ファイバー20の先端部21bは、開口部51の寸法形状に従ってほぼ250μm間隔で整列する。つまり、8本の光ファイバー20の接続端部21の先端部21bは、設計上の配列間隔にほぼ矯正された状態となる。この場合、整列部材50はプラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sには非接触状態となっているため、プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sに対する光ファイバー20の先端部21bの位置は、設計上の位置にあるとは限らない。換言すると、整列部材50は光ファイバー20の先端部21bの位置ずれ量をほぼ0にすることを保証するわけではない。しかしながら、この整列部材50によって個々の光ファイバー20の先端部21bの位置ずれ量のばらつきを小さくすることができ、結果としてアダプター40との接続時の信頼性を高めることができる。
光ファイバー20の先端部21bの横方向(図5中、左右方向)に沿った配列が整列部材50ごと多少傾斜することは許容されることに注意されたい。この状態では、ハウジング31F,31Sの保持部32に保持された光ファイバー20の横方向の配列状態と、整列部材50により囲まれる光ファイバー20の横方向の配列状態とが平行ではなくなる。しかしながら、光ファイバー20の先端部21bは整列部材50によって相互に平行状態に矯正されるため、設計上の相対位置からの全体的なずれの量のばらつきが整列部材50を持たない従来のものよりも抑制されることとなる。なお、光ファイバー20の被覆層21は外力によって変形し易いため、光ファイバー20の長手方向に沿った整列部材50の開口部51の長さが短いと、光ファイバー20に対する矯正効果が低くなる。整列部材50の開口部51の長さが長いほど光ファイバー20の先端部21bを平行に整列させる効果が大きくなる。
整列部材50をハウジング31F,31Sやアダプター40に接触させない理由は、第1に光ファイバー20の座屈に悪影響を与えないことである。これに加え、第2に接続時に光ファイバー20の接続端部21の自由度を確保し、接続孔42に対する光ファイバー20の先端部21bの挿入操作を容易にすることである。
例えば、図9に示すように整列部材50の長手方向両端50aをプラグ30のハウジング31に接触させるように構成した場合、以下のような不具合が発生する。すなわち、図9において、紙面に対して垂直な縦方向に沿った光ファイバー20の接続端部21の変位は、プラグ30のハウジング31に対する整列部材50の長手方向両端50aの摺接により可能となり、縦方向の座屈に関してほとんど悪影響は生じない。しかしながら、横方向の変位が整列部材50によって規制されているため、ハウジング31の保持部32と整列部材50との間に位置する光ファイバー20の接続端部21は撓むことができない。結果として、整列部材50から突出する光ファイバー20の接続端部21のみが変位可能となる。つまり、これらの構成部材の製造公差や嵌め合わせ公差に起因する光ファイバー20の中心軸線20Cと接続孔42の中心軸線42Cとの横方向のずれは、整列部材50から突出する光ファイバー20の接続端部21の変形によってのみ吸収される。特に、接続状態では接続孔42と整列部材50との間隔が近接するため、これらの間に介在する光ファイバー20の接続端部21に強い曲げ力が作用し、無視できない伝送損失の増大が起こる。そして、最悪の場合には光ファイバー20が破損する可能性がある。プラグ30のハウジング31やアダプター40に対して整列部材50を非接触状態に設定することにより、このような不具合を確実に回避することが可能となる。
整列部材50は、樹脂を用いて射出成形により製造することが好ましい。樹脂は金属などと比較すると一般的に比重が小さいため、整列部材50の重量による悪影響、すなわち光ファイバー20の先端部21bの僥み量の増大を抑えることができる。また、整列部材50を大量に製造する必要がある場合、射出成形法を採用することによって低コストにて製造が可能である。
整列部材50を光ファイバー20に装着した場合、この整列部材50は光ファイバー20の被覆層21との摩擦力により光ファイバー20に対して嵌合された状態となる。しかしながら、弾性係数が比較的小さな接着剤によって光ファイバー20に対して固定することも可能である。これは、整列部材50と光ファイバー20とがこの光ファイバー20の長手方向に沿って若干相対移動できるようにするためである。プラグ30F,30Sをアダプター40に装着していない状態において、プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sの突合せ面31FE,31SEからの光ファイバー20の先端部21bの突出長ΔLは、すべての光ファイバー20に関して完全に同じではない。このため、一対のプラグ30F,30Sに保持された複数本の光ファイバー20をPC状態にする場合、プラグ30F,30Sに保持された個々の光ファイバー20の長手方向に沿った若干の相対移動を許容させる必要がある。
本発明における接続部材としてのアダプター40は、プラグ30F,30Sに保持された光ファイバー20の先端部21bが抜き外し可能に差し込まれる8個の接続孔42が形成された接続部41をその中央部に有する。接続孔42は、相互に平行に250μm間隔で形成されており、各接続孔42は、開口端面に臨むように形成される円錐状の案内部42aと、これに続く被覆層挿入部42bと、光ファイバー20の先端部21bの素線20aが挿入される調心部42cとを有する。案内部42aおよび被覆保持部32は、接続孔42の長手方向両側に一対形成されている。案内部42aは、接続孔42の開口端側ほど径が大きくなるような円錐状をなす。被覆保持部32は、光ファイバー20の被覆層21の外径とほぼ等しい内径を有する。調心部42cは、素線20aの径に対して僅かに大きな内径を有する。この接続部41の構造は、MTコネクターのフェルールに似ているけれども、MTコネクターのような接続孔の位置精度が要求されないので、低コストにてアダプター40を製造することができる。
プラグ30F,30Sのハウジング31F,31Sおよびアダプター40は、樹脂を成形加工することによって得られる。アダプター40の接続部41は、セラミックスまたはガラスを成形加工し、これをアダプター40の成形時に一体化させることができる。
アダプター40を介して一対のプラグ30F,30Sを接続する場合、まず、プラグ30F,30Sの何れか一方、例えばプラグ30Fをアダプター40に差し込んで光ファイバー20の先端部21bを接続孔42に挿入させる。この時、光ファイバー20の中心軸線20Cと接続孔42の中心軸線42Cとが若干ずれていることが普通である。しかしながら、接続孔42の開口端の案内部42aに沿って光ファイバー20の先端部21bの面取り部22aは、接続孔42の中心側へと摺動するように光ファイバー20の接続端部2121が弾性的に変位する。結果として、光ファイバー20の先端部21bを接続孔42に円滑に誘導させることができる。また、整列部材50によって光ファイバー20の接続端部21の先端部21bの位置が矯正されているため、特に横のずれ量ΔExや縦のずれ量ΔEY(図17参照)のばらつきを小さくすることができる。しかも、アダプター40に対してプラグ30F,30Sの接続が不可能となる事態をなくすか、あるいは従来のものよりも大幅に少なくすることができる。つまり、接続孔42に対する光ファイバー20の挿入作業を円滑に行うことが可能である。具体的には、プラグ30Fをアダプター40に差し込む際に光ファイバー20の先端部21bが接続孔42に入り込む瞬間に挿入抵抗が増加するが、整列部材50の存在によってこの挿入抵抗を従来のものよりも低減させることができる。
同様にして残りのプラグ30Sをアダプター40に差し込んで光ファイバー20の先端部21bを接続孔42に挿入させる。そして、一方のプラグ30Fのハウジング31Fの突合せ面31FEに対して他方のプラグ30Sのハウジング31Sの突合せ面31SEが当接するまで一対のプラグ30F,30Sをアダプター40に差し込む。これにより、一対の光ファイバー20の接続端面22が相互にPC状態となる。結果として、接続端面22の間の空気ギャップが消滅し、ここを通過する伝搬光にはフレネル反射が殆ど生じなくなり、反射戻り光の発生が非常に小さくなる。すなわち、高い反射減衰量が実現される。光ファイバー20の接続端面22に面取り部22aを形成し、接続端面22の面積を小さくしているのは、PC状態をより確実に実現するためである。このように、本実施形態における光コネクター10は、アダプター40を用いて一対のプラグ30F,30SをPC状態で接続することができるため、安定した接続特性を維持することが可能である。この状態においては、一方のプラグ30Fの光ファイバー20の先端部21bは、突出量ΔLだけハウジング31Fの保持部32側に後退し、光ファイバー20の接続端部21が座屈して僥む。これに対し、他方のプラグ30Sは、光ファイバー20の接続端部21の長さが一方のプラグ30Fのそれよりも短いため、光ファイバー20は座屈しないことに注意されたい。
本実施形態における一方のプラグ30Fにおいて、プラグ30Fのハウジング31Fの保持部32から突出する光ファイバー20の接続端部21の長さは7mm程度に設定されている。光ファイバー20の長手方向に沿った整列部材50の長さが約1.5mmよりも長くなると、整列部材50に保持された光ファイバー20の部分では余り湾曲することができなくなる。従って、接続時において光ファイバー20の円滑な座屈変形が阻害され、PC状態を実現できなくなる可能性が高くなってしまう。逆に、この整列部材50の長さが約0.5mm未満の場合、これを光ファイバー20の接続端部21に装着する際の取り扱いが困難となる。しかも、強度的な問題からハウジング31Fやアダプター40に対して非接触状態に保ちつつ光ファイバー20を整列させるという効果が得られない。従って、整列部材50の長さはおよそ0.5mm以上かつおよそ1.5mm以下であることが好ましい。このように、整列部材50を装着したことによる光ファイバー20の撓みに関する悪影響は最小限に抑えられる。
なお、一対のプラグ30F,30Sの接続時にこれらの間で高い反射減衰量が不要な場合、つまりPC状態にする必要がない場合、一方のプラグ30Fとしてハウジング31Fの突合せ面31FEからの光ファイバー20の先端部21bの突出量がほぼ0に設定されたプラグ、例えば他方のプラグ30Sを使用することも可能である。この場合には、光ファイバー20の接続端部21を座屈させる必要がないので、その長さを5mm程度に短くすることが可能である。
本実施形態では、光コネクター10の接続心数を8心としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、16本の光ファイバー20を250μmピッチで保持するプラグ30F,30Sを用いた場合、高さHが250μmで幅Wが約4mm(250μm×16)の開口部51を持った整列部材50を採用すればよい。また、本実施形態における光コネクター10は、光ファイバー20の撓み変形に伴って発生する内部応力がそれほど大きくないため、数十心の光ファイバー20接続を実現することも可能である。本実施形態による光コネクター10は、フェルールを用いないため、その分、製造コストを抑えることができる。
上述した実施形態では、整列部材50の開口部51の輪郭形状を細長い矩形に設定したが、整列状態にある光ファイバー20の被覆層21の輪郭形状に沿った形状の開口部51とすることも可能である。
このような本発明による光コネクターのプラグ30の他の実施形態の正面形状を図10に示し、整列部材50の外観の一部を破断して図11に示すが、先の実施形態と同一機能の要素には、これと同一の符号を記すに止め、重複する説明を省略するものとする。すなわち、本実施形態の光コネクターの基本的な形状は、先の実施形態と同様であってよく、整列部材50のみが相違する。この整列部材50は、250μmの被覆層21の外径を持つ8本の光ファイバー20を250μmピッチで整列させた状態に対応した開口形状を有している。より具体的には、被覆層21に対してすきま嵌めとなるように、内径が250μmよりも多少大きな円形の開口を250μm間隔で形成しており、隣接する開口の一部が重なり合って全体として一つの開口部51を画成する。開口部51の長手方向一端には、光ファイバー20の接続端部21を挿通する際にその操作を容易にするための面取り拡径部51aが形成されている。本実施形態による整列部材50は、先の実施形態による整列部材50よりも光ファイバー20の被覆層21との接触面積が大きく、被覆層21の変形をより小さくすることができるため、光ファイバー20の整列作用をさらに高めることが可能である。
上述した開口部51の形状は、プラグ30F,30Sに保持される光ファイバー20の整列間隔に合致させる必要がある。例えば、被覆層21の径が250μmの上述した光ファイバー20を500μmの間隔で4本整列させた4心のプラグ30F,30Sを用いた場合、整列部材50に形成される開口部51は、それぞれ独立した4個の丸孔となる。また、これら4個の丸孔は500μm間隔で配列した状態となる。この場合、プラグ30に整列状態で保持される全ての光ファイバー20の配列間隔が同一であることや、光ファイバー20の被覆層21の径が250μmであることにも限定されないことに注意されたい。
なお、整列部材50として弾性係数が10MPa程度以下のゴム系の樹脂を採用することができるので、前述したような樹脂の成形品ではなく、接着剤などの樹脂を硬化させたものを採用することが可能である。
このような整列部材50の作成手順の一例を以下に説明する。まず、図6や図11に示したような整列部材50と同じ形状の整列治具を機械加工によって作成する。次に、これをプラグ30に保持された光ファイバー20の接続端部21の先端部21bに近接した被覆層21の部分に挿通させ、光ファイバー20の接続端部21を整列状態に保持する。しかる後、多少の流動性を持つ高粘度の樹脂を整列治具に近接する光ファイバー20の接続端部21の被覆層21の部分に塗布してこれを硬化させた後、整列治具を取り外す。硬化した樹脂が整列部材50として機能する。この整列部材50は、光ファイバー20の接続端部21と一体化するが、その粘弾性により光ファイバー20の撓みおよび座屈を許容する。この整列部材50は、先の実施形態での成形による整列部材50よりも光ファイバー20に装着するための手間が掛かる欠点を有する。しかしながら、このプラグ30が量産品でない場合や、光ファイバー20の整列形態が特殊であったり、寸法形状が規格外のものであるような場合、先の実施形態よりもコストの点で有利であると言える。
上述した実施形態では、複数本の光ファイバー20を一列に同一平面上に整列させたが、これを複数列に整列させることも可能である。
このような本発明による光コネクターのプラグ30の他の実施形態の正面形状を図12に示すが、先の実施形態と同一機能の要素には、これと同一の符号を記すに止め、重複する説明を省略するものとする。すなわち、本実施形態におけるプラグ30は図5に示した実施形態を変形したものであり、横方向に整列する光ファイバー20を縦方向に2段に配列させた16心形ものである。先の実施形態におけるアダプター40などの接続部材の接続部41の接続孔42も同様に、このプラグ30に保持された光ファイバー20の配列状態に対応するように2段に形成されている。整列部材50は、16本の光ファイバー20の設計上の配置に対応した寸法の開口部51を有し、より具体的には整列状態にある8本の光ファイバー20を挿通するための矩形の開口部51を上下に2つ有している。この整列部材50の存在により、光ファイバー20の先端部21bの位置ずれのばらつきが矯正される。整列部材50の開口部51を図10および図11に示した実施形態と同じ形状にすることも可能である。
上述した実施形態では、一対のプラグ30F,30Sに保持された光ファイバー20をPC状態で接続する光コネクター10について説明したが、光ファイバー以外の光部品が装着された接続部材と、プラグとを接続してなる光コネクターにも応用することができる。
このような本発明による光コネクターの別な実施形態の平面形状を図13に示すが、先の実施形態と同一機能の要素には、これと同一の符号を記すに止め、重複する説明を省略するものとする。すなわち、本実施形態における光コネクター10は、光送受信モジュールなどの光部品と複数本の光ファイバー20とを一括して接続するためのものであり、1つのプラグ30と、本発明における接続部材としてのレセプタクル60とで主要部が構成される。レセプタクル60の基本的な構成は、国際公開2008−096716号公報などに開示されているものと同じであってよい。また、本実施形態におけるプラグ30は、図1などで示した実施形態における他方のプラグ30Sと同じものであってよい。
レセプタクル60は接続部41を有し、この接続部41には、プラグ30に保持された光ファイバー20の先端部21bが抜き外し可能に挿入される接続孔42が光ファイバー20の整列間隔と同じ間隔で形成されている。光ファイバー20の抜き差し側と反対側の接続孔42の末端には、光部品61が接続孔42の中心軸線42Cに対して同軸となるように配されている。この光部品61としては、半導体レーザーやフォトダイオードの他、光導波路などを挙げることができる。
従って、レセプタクル60に対して抜き外し可能なプラグ30をレセプタクル60に嵌合させると、プラグ30に保持された光ファイバー20の接続端部21の先端部21bが接続部41の接続孔42に差し込まれる。この場合、レセプタクル60に対するプラグ30の前進端は、プラグ30のハウジング31の突合せ面31Eがレセプタクル60の位置合わせ面62に当接することにより規制され、光ファイバー20の先端部21bの接続端面22が光部品61と近接状態で対向する。この場合、光ファイバー20を座屈させて光部品61に対してPC状態にする必要がないので、先の実施形態における他方のプラグ30Sを用いることができ、しかも整列部材50を光ファイバー20の先端部21bにより近づけて配することができる。
以上には、プラグ30における光ファイバー20の本数や配置形態が異なる光コネクターの例を挙げたが、光ファイバー20が整列状態にあるということは、一般的に言えば、複数本の光ファイバー20の相対的位置および中心軸線の方向が設計上の相対的位置および中心軸線の方向と合致するように配されていることである。また、整列部材50の開口部51は、一般的に言えば、整列状態の光ファイバー20の配置に対応した形状に設計される。
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。