以下、本発明のモータを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明におけるモータは、永久磁石埋込型モータ(以下、「IPM(Interior Permanent Magnet)モータ」と称する)として説明する。
第1の実施形態であるIPMモータ10について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、第一実施形態のIPMモータ10の回転軸方向から見た部分平面図である。図2は、本発明に係るロータの斜視図であり、図3は、図1の一部を示す拡大図である。また図4は、図1の4−4断面図である。
IPMモータ10は、ステータ20と、ステータ20に対して円柱状のシャフト11の回転軸を中心とし回転自在に設けられるロータ30とを備える。ステータ20は、周方向に所定ピッチで複数のティース22が形成されたステータコア21を有する。ステータコア21は、電磁鋼板をロータ30の軸線方向に積層して形成されている。ステータ20は、各ティース22に巻装された巻線(図示しない)に電流を流すことにより、ステータ20の内部に磁界を形成している。
ロータ30は、ロータコア31と、ケース37と、永久磁石32と、シャフト11と、エンドプレート40とを有する。ロータ30は、ステータ20の内側にエアギャップを介在させ、ステータ20に対して回転自在に設けられている。ロータ30は、ステータ20の巻線に電流が流されることにより磁極となったステータコア21のティース22から磁力を受けて、シャフト11の回転軸を中心に回転する。これにより、IPMモータ10は、所定のトルクをシャフト11回転軸から出力する。
ロータコア31は、中央部に貫通孔を備える薄板の電磁鋼板であるコアプレート36が回転軸線方向に積層されて形成されている。ロータコア31は、磁石固定孔33と、中央部の貫通孔31aと、ロータコア本体38とを有する。貫通孔31aには貫通孔31a中心に向って突設されたキー部31bが、ロータコア31の両端面に亘って軸線と平行に2本対向して設けられている。そしてロータコア31とシャフト11とが、ロータコア31のキー部31bと、シャフト11の全長に亘って刻設された軸線と平行な2本の溝部11aとが係合されることによって嵌着され相対回転を規制されている。
磁石固定孔33は、ロータコア31の円周方向に所定ピッチで並列し軸線方向に複数貫設されており、本実施形態においては8個設けられている。磁石固定孔33は、図3に示すようにロータコア31における径方向の内方に配置される内面である磁極内面33aと、ロータコア31における径方向の外方に配置される内面である磁極内面33bと、停止部33cと、空隙部33fを形成する略楕円状に形成された両側内面33dと、停止部33cと両側内面33dとをつなぐ連結部33eとから形成されている。なお、磁石固定孔33において磁極内面33bと、連結部33eとの間は、スロット部31eとされ、後述するケース37の突起部37aが圧入される。
永久磁石32は、平板形状に形成され、厚み方向に磁化されている磁石であり、例えばネオジム磁石等によって形成される。そして隣合うロータコア31の磁石固定孔33には、極性が反転された永久磁石32が配置され固定される。
一般的に永久磁石は機械的な強度が低いため、大きな圧入荷重には耐えられない。そこで、本発明においては永久磁石32を均一な圧入面が形成されていない虞のあるロータコア31の磁石固定孔33には直接圧入しない。これは磁石固定孔33が薄板の電磁鋼板が積層されることによって形成されているためである。そしてまず縦弾性係数が比較的低く圧入のし易い例えばアルミ合金で形成されたケース37の挿入孔37cに圧入し固定する。こうすることにより永久磁石32はケース37に保護され取り扱いも容易になる。
そして永久磁石32がケース37に嵌着された状態で、ケース37を機械的に固定手段である圧入によって磁石固定孔33に固定している。このときケース37のロータコア31における径方向の内方では、ケース37の内面37fと磁石固定孔33の磁極内面33aとが圧接され、またロータコア31における径方向の外方では、ケース37の外面37gと磁石固定孔33の磁極内面33bとが圧接され固定されている。
ケース37は、ステータ20によって発生される磁束に影響を及ぼさないように非磁性金属製である上述した例えばアルミ合金(その他SUS、銅系金属等でもよい)によって形成されている。ケース37は、図3に示すように薄肉の周縁部37bと、挿入孔37cと、肉厚の突起部37aと、停止部37dと、からなる。
薄肉の周縁部37bは略均一な厚みをもち周囲を囲繞することによって挿入孔37cを形成している。なお、本実施形態において周縁部37bの厚みは永久磁石32の圧入のし易さを考慮して、永久磁石32の厚みの1/10以下とする。
挿入孔37cは永久磁石32が圧入によって嵌着されるための空間である。挿入孔37c入口部長方形の短辺の長さおよび永久磁石32の厚みはIPMモータ10の最高使用温度を例えば160℃とし、該最高使用温度においても挿入孔37cに圧入された永久磁石32と、ケース37との間で所定の保持力(または嵌合代)が確保されるよう設定される。また永久磁石32の熱膨張係数をαmとし、ケース37の熱膨張係数をαkとすると、αmとαkとの間の関係はαk>αmとなるよう構成されている。
肉厚の突起部37aは、磁石固定孔33のスロット部31eに圧入され、常温を上回る高温時におけるケース37とロータコア本体38との間の相対移動を規制し強固に固定する機能を持つ。突起部37aは、薄肉の周縁部37bの、ロータコア31の円周方向においての両側端面から所定量だけロータコア31の円周方向に延在され、ケース37の圧入方向全長に亘って形成されている。突起部37aのロータコア31における径方向の厚みは永久磁石32の厚みと略同等寸法で形成されている。
停止部37dは、ロータコア31においてケース37の円周方向の移動を規制する機能を持つ。停止部37dは、ロータコア31の円周方向において、ケース37の周縁部37bの両側端面の一部が兼用され、ロータコア本体38の磁石固定孔33に設けられた停止部33cに当接されて移動が規制されている。
ロータコア31において磁石固定孔33の径方向外方には厚肉部39が設けられている。厚肉部39は、磁石固定孔33に永久磁石32が固定されることにより磁極となる。ロータコア31周方向において、厚肉部39の両端部外方にはブリッジ35が形成されている。そしてブリッジ35は、磁石固定孔33を形成する両側内面33dのA点で最も肉厚が薄くなり、薄肉部35aを形成している。
このブリッジ35の薄肉部35aは、漏れ磁束を低減させるフラックスバリアとして機能するものである。漏れ磁束とは、磁石固定孔33に固定された永久磁石32による磁束のうち、隣の磁石固定孔33に固定された永久磁石32による磁束の一部と短絡する磁束のことである。漏れ磁束は、ロータ30の回転駆動に寄与しないため、漏れ磁束を低減させることにより磁気特性の向上を図ることができる。薄肉部35aの形状は、ロータコア31の直径や永久磁石32磁束密度による磁気回路を考慮して適宜設定される。
そして上記のように構成されたロータ30を構成する永久磁石32、ケース37及びロータコア31の熱膨張係数をそれぞれ、αm、αk及びαcとすると、各熱膨張係数αm、αk、αcはαk>αc>αmの関係となるよう構成されている。
エンドプレート40は、図4に示すように、ロータコア31の軸方向両端において、複数の磁石固定孔33を塞ぐように取り付けられる板状部材であり、第1の実施形態においては省略してもよい。
次に、本実施形態において、上述した構成からなるIPMモータ10の作用効果について説明する。IPMモータ10の実用状態では、まず、ステータ20の巻線に電流を流すことにより、ステータ20の内部に磁界が形成される。そして、ロータ30は、ステータ20の磁界と、ロータ30に収容された8個の永久磁石32との間の磁気力によりトルクを発生し、ステータ20に対して一定方向に回転駆動する。
そしてIPMモータ10が回転駆動を続けることによって発熱し温度が上昇し、使用最高使用温度である例えば160℃まで到達する場合がある。そこでまず常温(例えば25℃とする)を上回る、最高温度を例えば160℃とする高温側の永久磁石32の挙動について説明する。
本実施形態においては、永久磁石32とケース37とは、上述したように温度が160℃+ΔT℃の状態においてロータ30径方向の嵌合代が0になるように設定され圧入されている。このときΔT℃は任意の温度とする。またケース37は磁石固定孔33との間で、ロータ30径方向に若干の嵌合代が確保された状態で圧入されている。またケース37に設けられている突起部37aも、磁石固定孔33のスロット部31eに、ロータ30径方向に若干の嵌合代が確保された状態で圧入されている。そして永久磁石32の熱膨張係数αmと、ケース37の熱膨張係数αkと、ロータコア31の熱膨張係数αcとはαk>αc>αmの関係となるよう構成されている。
このように構成された第1の実施形態において、IPMモータ10が常温状態から温度上昇を開始すると、永久磁石32、ケース37、磁石固定孔33は、それぞれ各熱膨張係数αm、αk、αcに従って熱膨張を開始する。
このとき永久磁石32とケース37との間においては、温度が160℃+ΔT℃の状態においてロータ30径方向の嵌合代が0になるように設定され圧入されているので、160℃に到達しても所定の嵌合代が残留されている。よって160℃に到達するまでの間は、残留される所定の嵌合代により、ケース37から永久磁石32が脱落したり、永久磁石32との間で隙間が発生し、振動等によって永久磁石32の揺動が発生し摩損や破損が発生する虞はない。
次にケース37とケース37が圧入される磁石固定孔33との関係について説明する。まず熱によって膨張される伸び量をΔLとすると、伸び量ΔLは、ΔL=熱膨張係数α×常温時長さ(肉厚)L×常温からの温度変化量ΔTで計算できる。
これより永久磁石32は、図3に示すように、常温時の厚みをLmとすると、常温を上回る温度P℃においての厚みの伸び量ΔLmは、常温を例えば25℃とした場合、ΔLm=Lm×αm×(P℃−25℃)となる。
同様にケース37の薄肉の周縁部37bの常温時の厚みをL1kとすると、常温を上回る温度P℃における周縁部37bの片側の厚みの伸び量ΔL1kは、ΔL1k=L1k×αk×(P℃−25℃)となる。
これより高温時におけるケース37のトータルの伸び量ΔLkTは、ケース37の薄肉の周縁部37bの両側の伸び量ΔL1k×2と、ケース37の挿入孔37cに圧入された永久磁石32の伸び量ΔLmとの合計となるため、ΔLkT=ΔLm+ΔL1k×2となる。
次に磁石固定孔33は温度上昇に伴って磁石固定孔33を構成する各内面が膨張され孔形状が拡大される。このとき図3に示すように常温時の磁石固定孔33の磁極内面33aと磁極内面33bとの間の距離をLc3とすると、常温を上回る温度P℃におけるLc3の伸び量ΔLc3は、ΔLc3=Lc3×αc×(P℃−25℃)となる。
以上の結果から高温時におけるケース37と磁石固定孔33との嵌合の状態を求めるためには、(P℃−25℃)におけるケース37のトータル伸び量ΔLkT(=ΔLm+ΔL1k×2)と、(P℃−25℃)における磁石固定孔33の磁極内面33aと磁極内面33bとの間の伸び量ΔLc3(=Lc3×αc×(P℃−25℃))との比較をしてやればよい。
そこで例えば永久磁石32の熱膨張係数αm=6.3E−6/℃(ネオジム系磁石の熱膨張係数参照)、ケース37の熱膨張係数αk=23.6E−6/℃(アルミ合金の熱膨張係数参照)、及びロータコア31の熱膨張係数αc=11.7E−6/℃(鉄の熱膨張係数参照)とする。また前述の通りケース37の周縁部37bの厚みL1kは永久磁石32の厚みLmの1/10とする。そして永久磁石32の厚みLmに所定の値を代入し、また温度P℃にも所定の値を代入して計算することにより、ΔLkT>ΔLc3の関係が得られる。
これにより、IPMモータ10の温度上昇に伴ってケース37は磁石固定孔33を形成する磁極内面33aと磁極内面33bとを、ケース37外側の37f面および37g面で圧接して常時固定することになる。よって磁石固定孔33からケース37が脱落したり、ケース37との間で隙間が発生し、振動等によってケース37が揺動することによって、永久磁石32が摩損したり破損されることはない。ただし、上記において磁石固定孔33に圧入されるケース37の周縁部37bは薄肉である。よってΔLkT>ΔLc3においてΔLkTの値がΔLc3よりも極端に大きくなることはない。しかしケース37が磁石固定孔33に固定されるには十分な固定力であることが確認されている。
次に図3によってケース37に設けられた突起部37aと、突起部37aが圧入された磁石固定孔33のスロット部31eとの関係について説明する。
突起部37aは常温時において、永久磁石32の常温時の厚みLmと略同等寸法の厚みLkを備えている。そしてスロット部31eに突起部37aの側面が若干の嵌合寸法で圧入されている。また突起部37aはロータコア31の熱膨張係数αcよりも大きな熱膨張係数αkを持つ。よって常温を上回る高温P℃における突起部37aの伸び量ΔLkは、ΔLk=Lk×αk×(P℃−25℃)となる。
また、常温時のスロット部31eの幅をLc2とすると、高温P℃におけるLc2の伸び量ΔLc2は、ΔLc2=Lc2×αc×(P℃−25℃)となる。そして上述の通り、Lk≒Lc2とし、ΔLkとΔLc2とを比較すると、熱膨張係数αcとαkの違いによる分だけ、つまりαk/αc倍だけ突起部37aの厚みLkの伸び量がスロット部31eの幅Lc2の伸び量より大きいことがわかる。
これより、IPMモータ10の温度上昇に伴って、突起部37aはスロット部31eよりも(αk/αc)倍の速度で膨張し、突起部37aはスロット部31eに常時、圧接される。よって高温時において、ケース37と磁石固定孔33とは強固に確実に固定される。
次に常温を下回る低温Q℃の場合について説明する。IPMモータ10が常温状態よりも低温の環境に置かれた場合、永久磁石32、ケース37及び磁石固定孔33は、それぞれ各熱膨張係数αm、αk、αcに従って、上述した高温時における熱膨張とは逆方向に収縮する。なお、低温Q℃時においては、高温時の伸び量ΔL=L×α×ΔTの計算式に対し、温度変化量ΔTがΔtへと、変更になるだけであるので以下においては計算式を省略して説明する。
まず初めにケース37と、ケース37の内部に圧入された永久磁石32との関係について説明する。ケース37と、永久磁石32との間では、永久磁石32の熱膨張係数αmより大きい熱膨張係数αkを持つケース37が永久磁石32よりも速く収縮しようとする。しかしケース37は永久磁石32に阻まれ永久磁石32の収縮量ΔLmを大きく超えて収縮できない。よって低温Q℃時においては、永久磁石32はケース37によって常温時よりも強く締付けられる。これによりケース37から永久磁石32が脱落したり、永久磁石32との間で隙間が発生し、振動等によって永久磁石32の揺動が発生し摩損されたり破損されることはない。
次にケース37とケース37が圧入される磁石固定孔33との関係について説明する。常温を下回る低温Q℃時においては上述したようにケース37の収縮量ΔLkTは永久磁石32の収縮量ΔLmを大きく超えて収縮できず、ΔLmと略同量となる。しかしケース37が圧入される磁石固定孔33の熱膨張係数αcは、永久磁石32の熱膨張係数αmよりも大きい。よって磁石固定孔33の収縮量をΔLc3とすると、高温時と同様の計算式によって、ケース37の収縮量ΔLkT(≒ΔLm)<磁石固定孔33の収縮量ΔLc3の関係が得られる。
これにより磁石固定孔33の磁極内面33a及び磁極内面33bはケース37の各面37f、37gの収縮に追いつき圧接してケース37を強固に固定する。よって常温を下回る低温Q℃時においては、磁石固定孔33からケース37が脱落したり、ケース37との間で隙間が発生し、振動等によってケース37が揺動することによってケース37が摩損されたり破損されることはない。延いてはケース37に圧入される永久磁石32が摩損されたり破損されることはない。
次に図3によって、ケース37に設けられた突起部37aと、磁石固定孔33のスロット部31eとの関係について説明する。
高温時に説明したとおり突起部37aはロータコア本体38の熱膨張係数αcよりも大きな熱膨張係数αkを持つ。また突起部37aは、永久磁石32の常温時の厚みLmと略同等寸法の厚みLkを備えている。そして常温を下回る低温Q℃における突起部37aの収縮量をΔLkとする。また常温時のスロット部31eの幅をLc2とし、低温Q℃におけるスロット部31eの幅の収縮量をΔLkとする。
そしてLk≒Lc2とし、高温時と同様にΔLkとΔLc2とを比較すると、熱膨張係数αcとαkの違いによる分だけ、つまり(αk/αc)倍だけ突起部37aの収縮量が大きいことがわかる。これにより低温Q℃時においては、突起部37aは厚みLkがスロット部31eの幅Lc2よりも大きな速度で収縮し、スロット部31eの幅Lc2から離間していくので固定力は無くなる。
これにより常温を下回る低温Q℃時においては永久磁石32が内部に嵌着されたケース37が、磁石固定孔33に圧入され固定されている部分のみによってケース37はロータコア31に固定される。
これにより常温を下回る低温Q℃時においても磁石固定孔33からケース37が脱落したり、ケース37との間で隙間が発生し、振動等によってケース37が揺動してケース37が摩損されたり破損されることはない。延いてはケース37に圧入される永久磁石32が摩損されたり破損される虞はない。
なお、第1の実施形態においては、永久磁石32は非磁性体金属によって形成されたケース37内に圧入によって固定された。しかし永久磁石32は、圧入ではなく、ケース37を加熱し焼嵌めによってケース37内に固定してもよい。このときも常温時の永久磁石32とケース37との嵌合代は、圧入のときと同様の嵌合寸法になるように設定してやればよく、これによっても圧入時と同様の効果が期待できる。
また、第1の実施形態においては、ケース37には図3に示すような形状の厚肉の突起部37aが設けられた。しかし突起部37aは図5の変形例1に示す突起部37hのような形状でもよい。図5の変形例に示すものでは、突起部37hは、ケース37の両側端面の略中央部からロータコア31の円周方向に、所定量延在され、突起部37hのロータコア31径方向における外方及び内方の2箇所に停止部37j、37kが設けられている。これによっても第1の実施形態と同様の効果が得られる。
さらに、図6の変形例2、図7の変形例3に示すように、ケース37に突起部37a、37hを設けない形状としてもよい。この場合、高温時のケース37の固定は、ケース37に永久磁石32が圧入された部分のみで対応することになる。第1の実施形態において説明したように、磁石固定孔33に圧入されるケース37の周縁部37bは薄肉である。これよりケース37の伸び量ΔLkT>磁石固定孔33伸び量ΔLc3において、ΔLkTの値がΔLc3よりも極端に大きくなることはない。よって突起部37a、37hを設けた場合と比較し、ケース37を固定する力は減少するが、実用上十分な固定力が確保されることが確認されており、これらによっても効果は十分得られる。
上述から明らかなように、第1の実施形態においては破損されやすく固定しにくい永久磁石32が非磁性金属製のケース37に嵌着された後に、ロータコア31の磁石固定孔33に機械的に固定されている。これにより、従来に比して簡素な構造によって低コストで、永久磁石を保護しつつ、かつガタ無く強固に固定できる。
また、第1の実施形態においては、熱膨張係数が小さい永久磁石32が、熱膨張係数の大きいケース37の挿入孔37cに嵌合代が、高温時である例えば160℃においても十分残留されるように設定され圧入または焼嵌めされている。これにより、高温時においてはケース37の伸び量ΔL1kが、永久磁石32の伸び量ΔLmよりも大きくてもケース37と永久磁石32との間は離間することなく圧接され、永久磁石32は確実にケース37に固定され信頼性の向上が図られる。また低温時においては、熱膨張係数の大きいケース37が収縮し、熱膨張係数が小さい永久磁石32を締め付けるのでケース37の永久磁石32に対する保持力が大きくなる。また焼嵌めによって固定する場合には圧入が困難な弾性係数を有する材料にも適用できるので選択肢が広がり設計が有利になる。
また、第1の実施形態においては、ケース37の熱膨張係数αk>ロータコアの熱膨張係数αc>永久磁石の熱膨張係数αmの関係がある。よって低温時においては、ケース37が最も大きく収縮しようとするが、ケース37内に固定された熱膨張係数の小さい永久磁石32に阻まれケース37は永久磁石32と略同量しか収縮できない。そしてケース37の外側からは永久磁石32よりも熱膨張係数が大きい磁石固定孔33(ロータコア31)が収縮してくるため、ケース37はケース37内の永久磁石32と、外側の磁石固定孔33とに圧接され、ロータコア31とケース37と永久磁石32とは強固に固定される。これによってロータ30の回転や振動等によって発生する永久磁石の摩損や破損等が防止される。
さらに、第1の実施形態においては、ケース37から突出された肉厚の突起部37aが、ロータコア31の円周方向に突出されている。これによって常温を上回る高温P℃時においてはロータコア31の熱膨張係数αcより大きい熱膨張係数αkをもつケース37の突起部37aが膨張しようとする。しかし突起部37a外側にあるロータコア31のスロット部31eに阻まれ膨張できずロータコア31とケース37とはお互い圧接され強固に固定される。
次に第2の実施形態について図8に基づいて説明する。第2の実施形態は第1の実施形態に対し、ロータコア31の磁石固定孔33にケース37を固定する固定手段が、圧入ではなくカシメである点のみが異なる。第1の実施形態と同様の部品には同符号を付し説明は省略するとともに、同様の作用についても説明を省略し、変更点についてのみ説明する。
第2の実施形態においては図8に示すように、常温時において、ケース47の挿入孔47cに第1の実施形態と同様の嵌合代にて永久磁石32が圧入され嵌着されている。ケース47は非磁性金属製である例えばアルミ合金で形成されている。そして永久磁石32を嵌着されたケース47が磁石固定孔33に挿入された後、ケース47に形成されたカシメ部48がロータコア31の両端面に圧着するようにカシメられ、ケース47がロータコア31に強固に固定されている。
ケース47は、図8に示すように薄肉の周縁部47bと、挿入孔47cと、肉厚の突起部47aと、停止部47dと、カシメ部48とからなる。
薄肉の周縁部47bは略均一な厚みをもち周囲を囲繞することによって挿入孔47cを形成している。なお、本実施形態において周縁部47bの厚みは、永久磁石32の圧入のし易さを考慮して、永久磁石32の厚みの1/10以下とする。
挿入孔47cは永久磁石32が圧入によって嵌着されるための空間である。挿入孔47cの入口部長方形の短辺の長さおよび永久磁石32の厚みはIPMモータ10の最高使用温度を例えば160℃とし、該最高使用温度においても挿入孔37cに圧入された永久磁石32と、ケース47との間で所定の保持力(または嵌合代)が確保されるよう設定される。また永久磁石32の熱膨張係数をαmとし、ケース47の熱膨張係数をαkとすると、αmとαkとの間の関係はαk>αmとなるよう構成されている。
肉厚の突起部47aは、磁石固定孔33のスロット部31eに圧入され、常温を上回る高温時におけるケース47とロータコア本体38との間の相対移動を規制し強固に固定する機能を持つ。突起部47aは、薄肉の周縁部47bの、ロータコア31の円周方向においての両側端面から所定量だけロータコア31の円周方向に延在され、ケース47の圧入方向全長に亘って形成されている。突起部47aのロータコア31における径方向厚みは永久磁石32の厚みと略同等寸法で形成されている。
停止部47dは、ケース47のロータコア31において円周方向の移動を規制する機能を持つ。停止部47dは、ロータコア31の円周方向において、ケース47の周縁部47bの両側端面の一部が停止部47dとして兼用され、ロータコア本体38の磁石固定孔33に設けられた停止部33cに当接され移動が規制されている。
カシメ部48は、ロータコア31の磁石固定孔33に挿入されたケース47を強固に固定する機能を持つ。カシメ部48は、初期、薄肉の周縁部47bの長手部の略中央部から周縁部47bの一部が所定量立設され形成される。またカシメ部48は、ロータコア31の両端部でカシメられるために、ケース47の開口部両端部に設けられている。
そしてケース47は貫通された磁石固定孔33に挿入され、ロータコア31の両端面から突出されたカシメ部48が、図8に示すようにカシメられることにより、ケース47が磁石固定孔33に強固に固定される。つまりロータコア31の両端面のカシメ部48をカシメ部48の根元部から直角にロータコア31の端面方向に折り曲げることによってカシメ部48の平面部とロータコア31の両端面とが圧着される。そしてロータコア31の両端面をカシメ部48の平面部で挟持することによってケース47を磁石固定孔33に強固に固定する。
以上より、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の理由により低温時及び高温時において、ケース47と、ケース47に圧入される永久磁石32との間に隙間が発生される虞はない。またケース47と磁石固定孔33との間についても、ケース47はカシメによって強固に磁石固定孔33固定され移動が規制されている。これにより低温時及び高温時において、ケース47が脱落したり、ケース47と磁石固定孔33との間でガタが発生し、振動等によってケース47の揺動が発生しケース47が摩損したり破損されることはない。また、延いてはケース47に圧入される永久磁石32が摩損されたり破損されることはない。さらにはケース47を、磁石固定孔33に圧入するための、磁石固定孔33の各内面33a、33bへの精度の高い加工や厳重な寸法管理が不要となりコストの低減が図れる。
次に第3の実施形態について図9に基づいて説明する。第3の実施形態は、第1及び第2の実施形態に対し、ケース37に永久磁石32をさらに強固に固定するための永久磁石固定部であるカシメ部47eを追加した点のみが異なる。第1及び第2の実施形態と同様の部品には同符号を付し説明は省略するとともに、同様の作用についても説明を省略し、変更点についてのみ説明する。なお、説明には第2の実施形態を利用するが第1の実施形態についても同様に適用できるものである。
第3の実施形態においては図9に示すように、カシメ部47eは、ケース47の薄肉の周縁部47bの対向する2箇所の長手部の両端部から周縁部47bの一部が2箇所ずつ所定量立設され形成される。またカシメ部47eは、永久磁石32の上端面、及び下端面でカシメられるために、ケース47の開口部の両端部に同様に設けられている。
そして、常温時において、ケース47の挿入孔47cに第1、第2の実施形態と同様の嵌合代にて永久磁石32が圧入され嵌着される。永久磁石32が挿入孔47cに嵌着された後に、永久磁石32の上端面、及び下端面から突出されたケース47のカシメ部47eが、図9に示すように永久磁石32の上端面、及び下端面に圧着するようにカシメられ、永久磁石32がケース47に強固に固定される。
なお、上述した第3の実施形態において、カシメ部47eは、ケース47の薄肉の周縁部47bの対向する長手部両端部から2箇所ずつの合計4箇所が立設され形成された。しかしこれに限らず、立設された4箇所のカシメ部47eのうち1箇所以上が形成され、カシメされてもよく、これによっても十分な効果が得られる。
また、カシメ部47eは永久磁石32の上端面、及び下端面に圧着されて永久磁石32とケース47とを強固に固定している。しかしこれに限らず、カシメ部47eの平面部と、永久磁石32の上端面、及び下端面との間に隙間があるよう構成されてもよい。これによってもケース47から永久磁石32が抜け出ることを防止する効果は十分得られる。
上述の説明から明らかなように、第3の実施形態においては、第1、第2の実施形態と同様の効果が得られるのに加え、ケース47に圧入される永久磁石32がケース47から抜け出る虞がなく、信頼性の更なる向上が図られる。
なお、第1、第2及び第3の実施形態においては、ステータ20の内側にロータ30が配置されるインナーロータ型のモータ10について説明したが、これに限らずステータが中央に配置され、ステータの周りに回転されるロータが配置されるいわゆるアウタロータ型のモータにも適用できる。