JP5342076B1 - 生化学的評価方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、細胞増殖因子の関与する生化学的反応に効果を及ぼす物質を、迅速、効率的、かつ、的確に評価できる手法を提供すること、前記手法を応用した、細胞増殖因子の関与する生化学的反応に効果を及ぼす物質のスクリーニング方法を提供すること、ならびに前記スクリーニング方法により見出された物質の有効な用途を確立することを目的とする。本発明に係る生化学的評価方法は、特定条件で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる毛乳頭細胞の細胞増殖度およびアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値を測定し、特定の評価基準に従って、毛乳頭細胞(A)に関連する生化学的作用に対する評価物質の生化学的作用を評価することを特徴とする。

Description

本発明は、Wnt/β−カテニン経路が活性化した毛乳頭細胞に対する細胞増殖因子の影響を評価する方法、該細胞増殖因子の作用に対する被験物質の影響を評価する方法、該方法を応用した細胞増殖因子の生化学的作用に影響を及ぼす物質のスクリーニング方法、該スクリーニング方法によって見出された生化学的に活性な物質および該物質の用途などに関する。
細胞増殖因子とは、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。細胞増殖因子としては、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)等が知られている。細胞増殖因子は、動物における発生、分化、成長、機能制御、生体補修等、幅広く生体内反応に関わっていることが知られている。
例えば、創傷治癒の過程において、肉芽組織形成期には繊維芽細胞、筋繊維芽細胞、新生血管の生成が見られ、瘢痕期には増生したコラーゲンが皮面に平行に再配列するとともに新生血管の減少と再構築が見られるが、この際、各種細胞増殖因子が、繊維芽細胞、筋繊維芽細胞、血管内皮細胞などで産生され、これらが創傷治癒に重要な作用を及ぼしていると考えられている。これら知見に基づき、上皮増殖因子(EGF)や線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)が治療に使用され始めている。またVEGFなどは虚血等により障害された心筋を灌流する新生血管を増生するべく、またHGFなどは肺障害、肝障害、腎障害などを治療するべく、医療用薬剤としての応用が試みられている。しかしながら、上記細胞増殖因子を医療用薬剤として応用するに当って、遺伝子工学的手法を用いた組換え体を開発して利用しようとすると、製造コストがかかる上に、製剤の安定性にも注意せねばならない。それ故、遺伝子工学的手法を用いた組換え体の開発が抱える問題を有さない、上記細胞増殖因子のアゴニスト(作動薬)のニーズは大きい。
以下、上記細胞増殖因子のうち、線維芽細胞増殖因子(FGF)を例に挙げてより詳細に説明する。
FGFファミリーおよびそれらのシグナル伝達受容体は、虫からヒトまでの生物の成長および形態の維持のために鍵となるプロセス(発達、新脈管形成、代謝)を管理する複数の生物学的活性(増殖、生存、アポトーシス、分化、運動性)に関連する。FGFファミリーとして、22種のFGFが同定されており、これらは全て、アミノ酸配列が保存された120アミノ酸コア領域を、15〜65%の配列同一性で共有する。FGFは、受容体チロシンキナーゼ(FGFRと略す。FGFR1〜FGFR4の4種類がある)のいずれかに結合して、それらを活性化することにより細胞応答を仲介する。より詳細には、FGFRは、個々に複数のアイソフォームがオルターナティブスプライシングにより形成され、多様な機能に対応していると考えられている。FGFRは、FGF分子と結合した後、二量体化して活性化され、FGFR分子の自己リン酸化部位のリン酸化が生じ、引続いて、細胞内シグナル伝達経路の活性化が生じる。さらに細胞動員が生じる場合もある。
FGF/FGFR経路の生物学的役割は、マウスモデルにおける、特定の発達系や発現パターンの分析および遺伝子標的化アプローチによる分析によって調査されてきた。これらの調査に基く研究により、新脈管形成、創傷治癒、発達および代謝等を含む多くの生物学的機能におけるFGF/FGFR経路の関与が実証されてきた。例えば、頭蓋および指の骨格の発達に重度の障害をもたらす骨格形成異常は、FGFR1、FGFR2およびFGFR3における特定の機能的変異に関連付けられている。
生物学的機能におけるFGF/FGFR経路が関与する例としては、その他にも、遺伝学的研究により明らかとなった、ヒト癌におけるFGF/FGFR経路の遺伝子の異常発現やそれによって引き起こされる現象が報告されている。例えば、FGFR1遺伝子の転座および他遺伝子との融合による骨髄増殖性障害への関与、多発性骨髄腫におけるFGFR3の無秩序な過剰発現、乳癌におけるFGFR1、FGFR2およびFGFR4の遺伝子増幅およびタンパク質過剰発現、胃癌および子宮内膜癌におけるFGFR2変異による癌細胞の活性化、膀胱癌におけるFGF非結合時でのFGFR3キナーゼ活性化およびFGFR3タンパク質の過剰発現等である。従って、FGFRの活性を阻害できる化合物は、無秩序なFGFRシグナル伝達を伴うヒト癌の治療薬の候補となり易い。例えば、FGFRのシグナル伝達を阻害する、低分子量阻害剤の利用はすでに知られている。
上記のような疾病治療の重要性が増すと共に、高齢化と多ストレスの社会を反映して薄毛・脱毛に対する治療、あるいはケアに対する発毛・育毛剤の需要も高まっている。特に、近年は女性向けの発毛・育毛剤の需要が高まっており、中でも、普遍的に効果を発揮する発毛・育毛剤のニーズは恒常的に高い。現在も、発毛・育毛剤を開発する目的で、新規の発毛・育毛効果を有する物質の探索が精力的になされているが、真に実効性のある新規物質を見出すことは容易ではない。その原因の1つとして、発毛・育毛剤成分の候補物質をスクリーニングする際の評価方法が、発毛・育毛剤としての効能を評価する上で、必ずしも適切でないことが指摘されている。
毛成長の制御には、複数のFGFが関与している。現在まで知られている22種類のFGF分子のうち、FGF−1、FGF−2、FGF−5、FGF−7、FGF−13、FGF−18およびFGF−22が皮膚および毛包の上皮で発現していることが知られている。これら7種のFGFが、標的となる細胞表面のFGFR1〜FGFR4のいずれかに結合することで、細胞内にシグナルが伝達して毛周期が制御されるものと考えられる。そこでFGF分子そのもの(遺伝子組み換えFGFを含む)を配合した成分、あるいは、FGFの産生を促進する成分を配合した育毛剤が提案されている。例えば、EGFと同様に、皮膚系の細胞がFGF−1(酸性FGFとも称する)、FGF−2(塩基性FGFとも称する)に良く反応して増殖することから、これら2種のFGFを配合する育毛剤が開発されている(特許文献1)。その他にも、FGF−7に関する機構は、外的刺激を受けた毛乳頭細胞がFGF−7を産生し、髪の元となる毛母細胞がそのFGF−7に応答して増殖すると説明されており、FGF−7分子およびその作動薬が育毛剤の配合成分として期待されている。他のFGF分子種についても、その応答する細胞の増殖度による毛成長が説明されており、やはりFGF−7分子およびその作動薬が育毛剤の配合成分として期待されている。
その一方で、FGF−5は、毛成長に対して抑制的に働き、前記FGF分子種とはその作用が明らかに異なる。すなわち、FGF−5は、毛包の毛周期における成長期を退行期に誘導する。換言すると、FGF−5は、毛包の成長期後期に限定的に発現することにより毛包の成長期を終了させ、毛成長を停止へと導く。加えて、FGF−5のmRNAは毛包内の外毛根鞘において特異的に発現することが示されている(非特許文献1)。さらに、単離した毛乳頭細胞がFGF−5分子に応答して増殖することが知られており、従ってFGF−5は外毛根鞘において産生され毛乳頭に作用すると考えられている(非特許文献2)。
上記知見を発毛・育毛効果を有する物質の探索に活かすべく、FGF−5の作用を阻害することで、毛周期における成長期を終了させないで毛成長を維持あるいは促進する育毛機構が提案され、それに基づく発毛・育毛効果を有する物質のスクリーニング法も提案されている。具体的には、毛周期を強制同調させたマウスにFGF−5を投与した脱毛症モデルを作成し、脱毛症を回復する効果を有する物質を探索するためのイン・ビボスクリーニング法が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、一般的にイン・ビボスクリーニング法では、多個体のマウスの毛周期を同調させて試験を行うことが容易とはいい難い。すなわち、体毛の成長期を一斉に開始させるために休止期にある毛を抜くあるいは剃る処理を施すが、皮膚への刺激を一定に揃えることに相当な熟練を要する点で改善の余地がある。加えて、特許文献2の方法では、FGF−5注射時の炎症反応が測定評価の障害となることがある点で改善の余地がある。また、育毛剤候補物質のスクリーニングの段階でイン・ビボ試験を実施することに関し、動物愛護の観点から改善の余地がある。
その一方で、FGF−5を阻害する物質を探索するためのイン・ビトロスクリーニング法は特許文献3に開示されている。すなわち、細胞表面にFGF受容体を発現する細胞の培養液を複数用意し、FGF−5およびインターロイキン−3(IL−3)を別々の培養液に添加して、上記細胞をそれぞれFGF−5特異的およびIL−3特異的に活性化する。この二通りに活性化された細胞を含む培養液のそれぞれに被験物質を添加して細胞培養後、該細胞の増殖の程度を測定、比較することにより該被験物質のFGF−5に対する特異的な阻害作用、ひいては、発毛・育毛作用を評価する。該方法により発毛・育毛作用を有すると評価された植物抽出液のうち、地楡(ジユ)の名で知られるワレモコウエキス(Sanguisorba officinalisの根茎部抽出物)については、臨床的にも抜け毛を減少する、成長期の毛の比率を増加させる等の育毛効果を奏することが実証されている(非特許文献3)。しかしながら、当該法で使用される細胞は、FGF−5およびIL3により活性化された免疫系由来細胞であり、別途、毛成長に関与する細胞試験、器官試験、動物試験等をイン・ビボあるいはイン・ビトロ法により行うことで、被験物質の育毛効果を追試、再確認する必要があるという点で改善の余地がある。
例えば、毛乳頭細胞を用いて上述の追試、再確認を行うことが考えられる。さらに毛乳頭細胞を用いた、より直接的なスクリーニング方法が考えられる。毛乳頭細胞は、毛の成長器官である毛包を形成する重要器官である。また、形態学的には、毛乳頭の周囲を毛母細胞が取り囲み、盛んに***、増殖しながら毛幹(通常毛と呼ぶもの)を形成していく。従って、毛乳頭細胞の活性化は、直接、毛成長に関与するものと考えられている。実際のところ、毛乳頭細胞をイン・ビトロスクリーニング試験に用いることは既に報告されている(特許文献4)。この試験方法は、動物あるいはヒトの正常細胞および不老死化した毛乳頭細胞を使用し、育毛候補物質を該毛乳頭細胞に添加して、毛乳頭細胞の増殖度をDNA合成能あるいはミトコンドリア活性をホルマザン反応で測定し、毛乳頭細胞の増殖度を指標として、育毛候補物質の育毛効果を評価するものである。しかしながら、毛乳頭細胞の増殖能力は、本来、毛乳頭細胞自身の維持、増加に関わる指標であり、必ずしも、毛髪の形成能力を約束するものではない。
毛乳頭細胞の活性化に関連すると考えられる因子としては、他には、毛乳頭細胞内のアルカリフォスファターゼ(ALP)活性が知られている。毛周期における成長期において毛乳頭細胞内でALP活性が高まること、換言すれば、ALP活性が高いことは毛乳頭細胞が毛周期の成長期にあることを示すマーカー分子であることは広く受け入れられている(非特許文献4)。また、細胞内の重要シグナル伝達経路であるWnt/β―カテニン経路が、上記成長期において活性化されていることも知られている(非特許文献5)。さらに、毛乳頭細胞に、Wnt/β―カテニン経路の活性化剤の一種であるGSK―3 Inhibitor IXを添加することによって、毛乳頭細胞の細胞当りのALP活性が上昇することが報告されており(非特許文献6)、この報告から、Wnt/β―カテニン経路とALP活性は一連のシグナル経路上にあることが示唆される。しかし、該シグナル経路の活性化におけるFGF−5の影響については報告の事例がない。また、FGF−5添加による該シグナル経路が活性化された毛乳頭細胞のALP活性の変化についても知られていない。
特開平05−186314号公報 特開2001−343383号公報 再表2005/034894号公報 特開平10−229978号公報
Cell(1994)78:1017−1025 Dev.Dyn.(1996)Apr;205(4):379−86 西日本皮膚科(2007)69(1):81−86 Develop.Growth Differ.(2007)49:185−195 Mech.Dev.(2001)Dec;109(2):173−81 Arch.Dermatol.Res.(2009)Jun;301(5):357−65
本発明の目的は、細胞増殖因子(C)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤による毛乳頭細胞内のWnt/β−カテニン経路活性化に与える影響を評価できる生化学的評価方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、医薬あるいは化粧品等の分野で非常にニーズの大きい細胞増殖因子の関与する生化学的反応に効果を及ぼす物質、例えば、悪性新生物の治療薬、創傷治癒薬、発毛・育毛剤の有効成分として候補となる物質を、迅速、効率的、かつ、的確に評価できる手法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、必要に応じて、前記手法において、動物試験をできるだけ省略できる手法を確立することにある。
また、本発明の別の目的は、前記手法を応用した、細胞増殖因子の関与する生化学的反応に効果を及ぼす物質のスクリーニング方法を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、前記スクリーニング方法により見出された物質の有効な用途を提供することにある。
そして、本発明の別の目的は、Wnt3aおよびリチウム塩から選択される少なくとも1種のWnt/β−カテニン経路活性化剤により毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路を活性化する方法を提供することにある。
上記課題を解決する本発明は、以下の構成を有する。
(1)(Y1)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)の存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる細胞増殖因子評価用毛乳頭細胞と、(Y2)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下かつ細胞増殖因子(C)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる細胞増殖因子評価対照用毛乳頭細胞とを調製して、
細胞増殖因子評価用毛乳頭細胞(Y1)および細胞増殖因子評価対照用毛乳頭細胞(Y2)のそれぞれについて、「細胞増殖度および/またはアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値」を測定し(但し、上記評価対照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、上記細胞増殖因子評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値」に対応する)、
上記評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と、上記対照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」とを比較することで、
細胞増殖因子(C)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路活性化に与える影響を評価することを特徴とする生化学的評価方法。
(2)(Z1)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)および被験物質(D)の存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価用毛乳頭細胞と、
(Z2)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)の存在下かつ被験物質(D)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価基準用毛乳頭細胞と、
(Z3)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および被験物質(D)の存在下かつ細胞増殖因子(C)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価対照用毛乳頭細胞と、
(Z4)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下かつ細胞増殖因子(C)および被験物質(D)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価対照基準用毛乳頭細胞とを調製し、
被験物質評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、被験物質評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、被験物質評価対照用毛乳頭細胞(Z3)および対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定し(但し、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、ならびに、上記被験物質評価対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、いずれも、上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対応する)、
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と、
上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」とを比較することで、
被験物質(D)が、細胞増殖因子(C)の作用に対して与える影響を評価することを特徴とする生化学的評価方法。
(3)上記被験物質(D)の量を変えて、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)および対照用毛乳頭細胞(Z3)をそれぞれ少なくとも2種調製し、
各上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、各上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定し(但し、上記各評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」はいずれも共通であり、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、各上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、ならびに、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、いずれも、上記各評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対応する)、
被験物質(D)の量の変化に依存した、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」の変化と、
被験物質(D)の量の変化に依存した、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」の変化とを
比較することを特徴とする請求項(2)に記載の生化学的評価方法。
(4)ヒト由来の正常毛乳頭細胞を使用することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の生化学的評価方法。
(5)Wnt/β―カテニン経路の活性化剤が、GSK3 Inhibitor、Wnt3aおよびリチウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の生化学的評価方法。
(6)培地中にヘパリンを添加することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の生化学的評価方法。
(7)細胞増殖因子(C)が、線維芽細胞増殖因子(FGF)であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の生化学的評価方法。
(8)細胞増殖因子(C)が、FGF−5であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の生化学的評価方法。
(9)(2)〜(8)のいずれかの生化学的評価方法による試験を実施し、前記細胞増殖因子(C)の作用に影響を及ぼす薬剤を見出すことを特徴とするスクリーニング方法。
(10)(8)の生化学的評価方法による試験を実施し、毛乳頭細胞(A)の成長期の延長または退行期への移行遅延の効果を有する育毛活性物質を見出すことを特徴とするスクリーニング方法。
(11)フィチン酸、ピーカンナッツ抽出液、ヒバマタ抽出液および2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体のうち少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする細胞増殖因子阻害剤(ただし、フィチン酸のみを有効成分とする、FGF−1阻害剤およびFGF−2阻害剤を除く)。
(12)フィチン酸、ピーカンナッツ抽出液および2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体のうち少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする育毛活性剤。
(13)(12)に記載の育毛活性剤を含むことを特徴とする育毛活性組成物。
(14)Wnt3aおよびリチウム塩から選択される少なくとも1種のWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下で毛乳頭細胞(A)を培養することを特徴とする毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路を活性化する方法。
本発明の生化学的評価方法によれば、細胞増殖因子がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路活性化に与える影響や、該細胞増殖因子の作用に対する被験物質の影響を評価できる。
本発明の生化学的評価方法によれば、Wnt/β−カテニン経路を活性化した毛乳頭細胞に対する細胞増殖因子の生化学的作用、該細胞増殖因子の生化学的作用に対する被験物質の生化学的作用を評価できる。さらに、本発明の生化学的評価方法を利用したスクリーニング方法によれば、細胞増殖因子の生化学的作用に影響を及ぼす薬剤、例えば、悪性新生物の治療薬、創傷治癒薬、発毛・育毛剤の有効成分として候補となる物質を、迅速、効率的、かつ、的確に見出すことが可能となる。本発明の評価法によれば細胞増殖因子の作用の抑制のみならず促進も評価することができるので、該評価方法を利用したスクリーニング方法により、増殖因子に対する阻害剤に加えて作動薬の候補となる物質をスクリーニングすることが可能であり、阻害剤に加えて作動薬の開発も可能となる。例えば、毛成長を促進する増殖因子の作動薬に加えて、毛成長を終了へと導く増殖因子の阻害剤の開発が可能となる。さらに、本発明の評価方法やスクリーニング方法では、イン・ビトロ法で上記評価やスクリーニングを行うので、初期スクリーニング手段としての動物試験を必要に応じて省略することができる。本発明のスクリーニング方法により見出された、増殖因子の作動薬あるいは阻害剤は、医薬・化粧料等の用途に幅広く利用可能である。
また、本発明によれば、新規細胞増殖因子阻害剤および新規育毛活性剤が提供される。
また、本発明によれば、Wnt3aおよびリチウム塩から選択される少なくとも1種のWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により毛乳頭細胞内のWnt/β活性化経路を活性化する方法が提供される。
毛周期のサイクル、毛乳頭細胞の活性化、FGF−5およびFGF−5阻害物質の関係図である。 第一の生化学的評価方法の概念図である。 第二の生化学的評価方法の概念図である。 第三の生化学的評価方法の概念図である。 第一の生化学的評価方法のフローチャートの一例を示す図である。 第二の生化学的評価方法のフローチャートの一例を示す図である。 第三の生化学的評価方法のフローチャートの一例を示す図である。 Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)を添加することで、毛乳頭細胞(A)の細胞当りのALP活性値が上昇することを示したグラフ図である。なお、横軸に記載されているのは、ウェル名である。 毛乳頭細胞(A)の細胞当りの相対ALP活性が、細胞増殖因子(C)であるFGF−5添加により抑制されること、および、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)であるヘパリン添加により該抑制が顕著になることを示したグラフ図である。なお、横軸に記載されているのは、ウェル名である。 発毛・育毛効果の有無が既知である被験物質(D)を添加した際の毛乳頭細胞(A)の細胞当りの相対ALP活性の変化に関し、細胞増殖因子(C)であるFGF−5を添加する条件下とFGF−5を添加しない条件下とを比較した結果を示したグラフ図である。なお、グラフ中の各点に付されているアルファベットと数字は、ウェル名である。 発毛・育毛効果が未知である被験物質(D)を添加した際の毛乳頭細胞(A)の細胞当りのALP活性の変化に関し、細胞増殖因子(C)であるFGF−5を添加する条件下とFGF−5を添加しない条件下とを比較した結果を示したグラフ図である。なお、グラフ中の各点に付されているアルファベットと数字は、ウェル名である。
以下、本発明の最良の形態について、詳細に説明する。
なお、本明細書においては、特に断りがない限り、圧力条件は、通常、0.1〜0.12MPa程度の範囲、好ましくは常圧(約0.1024MPa)とする。
1.生化学的評価方法
本発明の生化学的評価方法は、Wnt/β−カテニン経路が活性化した毛乳頭細胞を試験材料にして、細胞増殖度およびアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を指標として、毛乳頭細胞の生化学的変化、例えば、毛乳頭細胞の活性化による生化学的変化、さらには細胞増殖因子の添加による生化学的変化を評価すべく検討する中で見出された。
本発明の生化学的評価方法によれば、毛乳頭細胞細胞(A)が関わる生化学的反応に、ある物質(評価物質)がどのように作用するかを生化学的に評価することができる。
図1に示す毛周期を例に挙げれば、次の通りである。
成長期では、毛乳頭細胞内でWnt/β−カテニン経路が活性化して、毛乳頭細胞が増殖したり、毛乳頭細胞のALP活性が発現したりする。その結果、毛が成長したり維持されたりしている。しかし、細胞増殖因子であるFGF−5が発現すると上記毛乳頭細胞のALP活性が抑制されて成長期から退行期へと移行し、毛が細くなったり抜け落ちたりするようになる。
本発明の生化学的評価方法は、Wnt/β−カテニン経路が活性化した毛乳頭細胞を用い、該活性に対する細胞増殖因子の作用を「細胞増殖度および/またはアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値」を指標として評価するものであるので(後述の第二の生化学的評価方法)、毛周期の成長期から退行期への移行に関する生化学的現象のモデルとすることができる。さらには、上記モデルを利用して、例えば、上記FGF−5の作用を抑制して成長期から退行期への移行を阻害するような物質を発見することで(後述の第三の生化学的評価方法)、育毛活性剤を見出したりすることができる。
ここで、『「細胞増殖度および/またはアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値」を指標として評価する』とは、「細胞増殖度を指標として評価する」、「ALP活性値を指標として評価する」、「細胞増殖度およびALP活性値を指標として評価する」ことを示すが、細胞増殖度およびALP活性値とで評価する場合は、細胞増殖度およびALP活性値をそのまま用いるよりも、ALP活性値を細胞増殖度で除した「細胞当りのALP活性値」を求めてこれを評価しようとして用いることが、細胞培養後の増殖細胞数を考慮できる点から好ましい。
本発明によれば、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路に対するWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の生化学的作用を評価することができる(以下、「第一の生化学的評価方法」もいう)。
本発明によれば、上記Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の生化学的作用に対する細胞増殖因子(C)の影響を評価することができる(以下、「第二の生化学的評価方法」ともいう)。
本発明によれば、上記細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の影響を評価することができる(以下、「第三の生化学的評価方法」ともいう)。
以下、本発明の第一〜第三の生化学的評価方法(以下、包括的に、「本発明の生化学的評価方法」ともいう)を、より具体的に説明する。
1−1.毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路の活性化
Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下、毛乳頭細胞(A)を培養することで、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路が活性化される。
本発明の生化学的評価方法では、毛乳頭細胞(A)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の他に必要な成分を共存させて毛乳頭細胞(A)を培養し、活性化毛乳頭細胞(A)の活性化に関する作用への影響を評価する方法である。
毛乳頭細胞を活性化させるための細胞培養は、後述の生化学的評価方法の項目に記載した培養条件に準じて行えばよい。
なお、上記方法によれば、従来毛乳頭細胞(A)のWnt/β−カテニン経路活性化剤としては知られていないWnt3aやリチウム塩を用いても、毛乳頭細胞(A)を活性化できる。
1−2.生化学的評価方法
1−2−1.第一の生化学的評価方法の概要
本発明の第一の生化学的評価方法では、毛乳頭細胞(A)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によって活性化されたか否かを評価できる(図2参照)。
本発明の第一の生化学的評価方法では、まず、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られるWnt/β−カテニン経路活性化剤評価用毛乳頭細胞(X1)と、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の不存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られるWnt/β−カテニン経路活性化剤評価対照用毛乳頭細胞(X2)とを調製する。
毛乳頭細胞(A)の量は、上記評価用毛乳頭細胞(X1)を得るための細胞培養および上記対照用毛乳頭細胞(X2)を得るための細胞培養において同じであることが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
毛乳頭細胞(A)およびWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)以外の成分が存在するときは、それら成分の配合種および配合量は、上記評価用毛乳頭細胞(X1)および対照用毛乳頭細胞(X2)の調製において同じであることが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
上記評価用毛乳頭細胞(X1)を得るための細胞培養および上記対照用毛乳頭細胞(X2)を得るための細胞培養において、β−カテニン経路活性化剤(B)以外に毛乳頭細胞(A)の活性化に影響を与える物質(ALP活性を低下させるFGFや、その他、例えば、BMP(bone morphogenetic protein)、SOX(SRY-type HMG box)、TGF(transforming growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)等)を用いないことが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
次いで、上記評価用毛乳頭細胞(X1)および対照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定し、例えば後述の評価基準に従って、該「細胞増殖度および/またはALP活性値」より、毛乳頭細胞(A)がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によって活性化されたか否かを評価する。
但し、上記対照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対応するものとする。例えば、上記評価用毛乳頭細胞(X1)において細胞増殖度を評価指標として用いる場合は、上記対照用毛乳頭細胞(X2)においても同じく細胞増殖度を評価指標として用いる。
本発明の第一の生化学的評価方法では、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により活性化されるとともに、毛乳頭細胞(A)のALP活性が上昇する(以下、この状態の毛乳頭細胞(A)を「活性化毛乳頭細胞(A)」ともいう)ことを利用する。活性化毛乳頭細胞(A)は、ALP活性が上昇している毛周期の成長期の毛乳頭細胞を反映していると考えられる。第一の生化学的評価では、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)がこのような状態の毛乳頭細胞を調製できるか否かを評価できる。Wnt/β−カテニン経路と細胞増殖に関する経路は直接関連していないので、活性化剤によっては増殖を促進するものもあれば、抑制するもの、あるいは、ほとんど効果のないものもある。しかし、正確に評価する為の「細胞あたりのALP活性」を算出するためにも、細胞増殖度の測定は重要である。
1−2−2.第二の生化学的評価方法の概要
第二の生化学的評価方法では、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化に対する細胞増殖因子(C)の作用を評価することができる(図3参照)。
第二の生化学的評価方法では、まず、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)の存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる細胞増殖因子評価用毛乳頭細胞(Y1)と、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下かつ上記細胞増殖因子(C)の不存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる細胞増殖因子評価対照用毛乳頭細胞(Y2)とを調製する。
毛乳頭細胞(A)およびWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の量は、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)を得るための細胞培養および上記対照用毛乳頭細胞(Y2)を得るための細胞培養において同じであることが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
毛乳頭細胞(A)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)以外の成分が存在するときは、それら成分の配合種および配合量は、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)を得るための細胞培養および上記対照用毛乳頭細胞(Y2)を得るための細胞培養において同じであることが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
さらに、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)を得るための細胞培養および上記対照用毛乳頭細胞(Y2)を得るための細胞培養において、β−カテニン経路活性化剤(B)以外に毛乳頭細胞(A)の活性化に対する細胞増殖因子(C)の作用に影響を与える物質(ALP活性を低下させるFGFや、その他、例えば、BMP、SOX、TGF、HGF等)を用いないことが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
次いで、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)および対照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定し、例えば後述の評価基準に従って、該「細胞増殖度および/またはALP活性値」より、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路が活性化されるという生化学的作用に対する細胞増殖因子(C)の生化学的作用を評価する。
但し、上記対照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対応するものとする。例えば、上記評価用毛乳頭細胞(Y1)において細胞増殖度を用いる場合は、上記対照用毛乳頭細胞(Y2)においても細胞増殖度を用いる。
本発明の第二の生化学的評価方法では、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により活性化されるとともに、毛乳頭細胞(A)のALP活性が上昇することを利用する。活性化毛乳頭細胞(A)は、ALP活性が上昇している毛周期の成長期の毛乳頭細胞を反映していると考えられる。そして、この活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性に対して細胞増殖因子(C)がどのように働くかを評価することで、例えば、細胞増殖因子(C)の毛周期への影響を評価できる。すなわち、細胞増殖因子(C)により活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性が低下するのであれば、細胞増殖因子(C)は、例えば、毛乳頭細胞(A)の毛周期の成長期を退行期に導くよう作用すると評価できる。逆に、細胞増殖因子(C)により活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性が上昇するのであれば、細胞増殖因子(C)は、例えば、毛乳頭細胞(A)の毛周期の成長期を延長するように作用すると評価できる。特に、細胞増殖因子(C)を添加すると、多くの場合、細胞増殖度が大幅に向上する。その結果、見かけの(無処理の)ALP活性値が増加したり、変わらないように観察される場合が出てくるので、細胞あたりのALP活性値を算出して評価することが重要になる。
1−2−3.第三の生化学的評価方法の概要
第三の生化学的評価方法では、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化に対する細胞増殖因子(C)の作用に対する被験物質(D)の作用を評価することができる(図4参照)。
第三の生化学的評価方法では、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)および被験物質(D)の存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる被験物質評価用毛乳頭細胞(Z1)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および被験物質(D)の存在下、かつ、細胞増殖因子(C)の不存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる被験物質評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)の存在下、かつ、被験物質(D)の不存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる被験物質評価対照用毛乳頭細胞(Z3)、ならびに、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の存在下、かつ、細胞増殖因子(C)および被験物質(D)の不存在下で毛乳頭細胞(A)を培養して得られる被験物質評価対照基準用毛乳頭細胞(Z4)を調製する。
毛乳頭細胞(A)およびWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の量は、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)を得るための細胞培養、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)を得るための細胞培養、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)を得るための細胞培養および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)を得るための細胞培養において同じであることが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
被験物質(D)の量は、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)を得るための細胞培養および上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)を得るための細胞培養において共通であることが、評価の正確性を維持する観点から好ましい。
毛乳頭細胞(A)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)および細胞増殖因子(C)以外の成分が存在するときは、それら成分の配合種および配合量は、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)を得るための細胞培養、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)を得るための細胞培養、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)を得るための細胞培養および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)を得るための細胞培養において同じとするであることが、評価の正確性を維持する観点から好ましい。
評価用毛乳頭細胞(Z1)を得るための細胞培養、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)を得るための細胞培養、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)を得るための細胞培養および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)を得るための細胞培養において、上記活性化に対する細胞増殖因子(C)の作用に対する被験物質(D)の作用に影響を与える物質(ALP活性を低下させるFGFや、その他、例えば、BMP、SOX、TGF、HGF等)を用いないことが評価の正確性を維持する観点から好ましい。
次いで、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の細胞増殖度および/またはアルカリフォスファターゼ(ALP)活性値を測定し、例えば後述の評価基準に従って、該細胞増殖度および/またはALP活性値より、上記細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用を評価する。
但し、上記対照用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対応するものとする。例えば、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)において細胞増殖度を評価指標として用いる場合は、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)においても同じく細胞増殖度を評価指標として用いる。
第三の生化学的評価方法では、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により活性化されるとともに、毛乳頭細胞(A)のALP活性が上昇し、活性化毛乳頭細胞(A)は、ALP活性が上昇している毛周期の成長期の毛乳頭細胞を反映していると考えられる。上記第二の生化学的評価方法により、この活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性に対して細胞増殖因子(C)がどのように働くかを評価しておけば、上記細胞増殖度および/またはALP活性値を測定することで、図4に示す関係から被験物質(D)が細胞増殖因子(C)の活性化毛乳頭細胞(A)に対する生化学的作用に対してどのように影響しているかを評価できる。例えば、細胞増殖因子(C)が活性化毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度やALP活性を低下させる作用を有する場合、被験物質(D)により活性化毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度やALP活性をさらに低下するように作用するのであれば、被験物質(D)は細胞増殖因子(C)の生化学的作用を促進すると評価できる。逆に、被験物質(D)により活性化毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度やALP活性が上昇するのであれば、被験物質(D)は細胞増殖因子(C)の生化学的作用を抑制あるいは阻害すると評価できる。
以下、本発明の生化学的評価方法において用いられる細胞培養、細胞増殖度およびALP活性値の測定、該測定結果を用いた生化学的評価について、順を追って説明する。
1−3.評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞、参照基準用毛乳頭細胞の調製
第一〜第三の生化学的評価方法においては、いずれの場合も、上記毛乳頭細胞(A)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)、被験物質(D)のうちの必要な成分と、その他に、培地、および必要に応じて、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)、細胞増殖因子(C)として用いた増殖因子以外の増殖因子(F)、細胞培養用に通常使用される培地成分、抗生物質等とを混合して得られる混合物(以下、「アッセイ用細胞培養混合物」ともいう)を用いて、上記各評価用毛乳頭細胞、上記各参照用毛乳頭細胞、上記評価基準用毛乳頭細胞および上記対照基準用毛乳頭細胞のうち必要なものを調製するための細胞培養を行う(以下、ここでの細胞培養を「アッセイ用細胞培養」ともいう。また、便宜的に、Wnt/β−カテニン経路活性化剤評価用毛乳頭細胞(X1)、細胞増殖因子評価用毛乳頭細胞(Y1)および被験物質評価用毛乳頭細胞(Z1)を評価用毛乳頭細胞と総称し、Wnt/β−カテニン経路活性化剤評価対照用毛乳頭細胞(X2)、細胞増殖因子評価対照用毛乳頭細胞(Y2)および被験物質評価対照用毛乳頭細胞(Z2)を評価対照用毛乳頭細胞と総称し、被験物質評価基準用毛乳頭細胞(Z3)および上記被験物質評価対照基準用毛乳頭細胞(Z4)を単に評価基準用毛乳頭細胞および上記参照基準用毛乳頭細胞ともいう)。
なお、本発明の生化学的評価方法は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を利用する方法であるので、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)以外の毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化に影響を及ぼす物質は複数種用いないことが、上記生化学的評価をより正確に評価する観点から好ましい。
上記成分は、本発明の目的を損なわない限り、一括で混合しても、適宜の順番で混合してもよい(但し、細胞培養は、通常、必要な成分がすべて存在する条件下で行う)。
上記アッセイ用細胞培養用混合物を調製は、該混合物の調製ミスを削減できる、各主成分をより均一に配合できる、該混合物の調製をより手際よくできるという観点から、以下の手順で行うことが好ましい。
まず、毛乳頭細胞(A)、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)および被験物質(D)以外の成分のうち、必要な成分、例えば、血清などの培地成分や抗生物質などを培地と混合して、細胞培養用培地(以下、「アッセイ用細胞培養用培地」ともいう)を調製する。次いで、アッセイ用細胞培養用培地にWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)を溶解または懸濁させた活性化剤溶液(または懸濁液)、アッセイ用細胞培養用培地に細胞増殖因子(C)を溶解または懸濁させた細胞増殖因子溶液(または懸濁液)、アッセイ用細胞培養用培地に被験物質(D)を溶解または懸濁させた被験物質溶液(または懸濁液)、アッセイ用細胞培養用培地に毛乳頭細胞(A)を懸濁させると共にその他必要な成分を溶解または懸濁させた細胞懸濁液のうち必要なものを別途調製する。次いで、アッセイ用細胞培養用培地のみ、活性化剤溶液(または懸濁液)、被験物質溶液(または懸濁液)、および細胞懸濁液のうち各生化学的評価方法を実施する際に必要なものを、この順番で細胞培養用容器に添加する。この際の各主成分の配合量は、後に述べる各種成分の配合量の条件を満たすように、適宜調整すればよい。
このような手順でアッセイ用細胞培養用混合物を調製することで、上記第一〜第三の生化学的評価方法による各種評価をより正確におこなうができる。
活性化剤溶液(または懸濁液)および細胞懸濁液は、各種成分を、通常20〜25℃で30〜120分程度、例えばピペットマン、電動ピペットマン、8連の電動ピペットなどを用いて混合することで得られる。
ここで、培地は、固形でも液状でもよいが、液体状で用いることが作業性の観点から好ましく、培地が固形である場合は、適宜加熱するなどして液体状にすることが好ましい。
上記アッセイ用細胞培養は、上記のように各種成分を細胞培養用容器に仕込み、次いで、該細胞培養用容器を、通常、常圧付近(通常1気圧)、33〜38℃、2〜8%CO2雰囲気下で処理すること行われる。
細胞培養時間は、培養する毛乳頭細胞の増殖速度との兼ね合いの観点より、1〜7日であることが好ましい。
上記アッセイ用細胞培養は、例えば、静置条件下で行っても、振盪条件下で行なってもよいが、毛乳頭細胞を細胞培養用容器に接着させるという観点から、静置条件下が好ましい。
上記アッセイ用細胞培養は、細菌、カビ等が増えると細胞に栄養が行き届かなくなることや、異生物の混入により実験結果が乱れることなどの観点から、無菌条件下で行うことが好ましい。無菌化条件は、例えば、抗生物質を添加した培地を用いて細胞培養を行うなどすることで実現できる。
細胞培養用容器としては、例えば、細胞培養用プレート(例えば、コラーゲンタイプIコートディッシュ(商品名)、ベクトン・ディッキンソン社製)や各種サイズの細胞培養皿(例えば、35mmディッシュの細胞培養皿)が挙げられる。生化学的変化を行うための毛乳頭細胞(A)の培養では、成分構成の異なる多数の細胞培養用細胞混合物を一度に毛乳頭細胞の培養に供すことができ、また、細胞培養用細胞混合物の使用量が比較的少量で済むという観点から、細胞培養用プレートを用いることが好ましい。
上記のようにして、細胞培養により毛乳頭細胞(A)を維持および増殖させて、細胞培養後に得られる混合物中の評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞を後述の毛乳頭細胞の「細胞増殖度および/またはALP活性値」の測定に供する(以下、ここでの細胞培養後に得られる混合物を「アッセイ用細胞培養後の混合物」ともいう)。
[アッセイ用培養に用いる各種成分]
上記のアッセイ用細胞培養に用いる各種成分は、次の通りである。
<毛乳頭細胞(A)>
毛乳頭細胞(A)は、動物の毛より得られる毛乳頭を細胞培養に供することで調製する。
本発明において使用される毛乳頭細胞(A)とは、毛の成長器官である毛包の一部分である毛乳頭を構成する細胞である。
毛乳頭細胞(A)の由来とする動物種は、体毛を有し、かつ、その体毛が毛周期で制御されている動物種であれば特に制限されないが、知見の蓄積度、材料の入手しやすさ、および、臨床的応用時の考察の容易さ等の点から、マウス、ラット、ベニガオザル、および、ヒトが好ましく、特にマウス、ヒトが好ましい。
上記動物種の体のどの部位の体毛を用いるかは、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、毛髪、ひげ、背中皮膚の体毛、頬髭、眉毛、腋毛、すね毛などが挙げられるが、毛乳頭細胞が大きいほど単離しやすい観点から、毛髪、頬髭が好ましく、ヒトの毛髪、マウスの頬髭がより好ましい。
毛乳頭細胞(A)の性状に関しては、正常細胞、及び、不老死化細胞を用いることができるが、生体内の挙動を反映しており、継代培養を重ねるとアルカリフォスファターゼの活性を失うという点から正常細胞が好ましい。よって、ヒト由来の正常毛乳頭細胞を使用することが特に好ましく、ヒトの毛髪由来の正常毛乳頭細胞が最も好ましい。
ここで、正常細胞とは、継代数を重ねると***できなくなり、継代数が限られている細胞をいう。毛乳頭細胞(A)の場合は、さらに、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)を添加することでアルカリフォスファターゼが活性化される細胞をいう。不老死化細胞とは、継代数を重ねても増え続ける細胞をいう。毛乳頭細胞(A)の場合は、さらに、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)を添加しても、多くの場合、アルカリフォスファターゼの活性が完全にみられない毛乳頭細胞をいう。
毛乳頭は、通常、上記動物種の毛より分離して採取したものを用いる。通常、毛乳頭は動物の皮膚内に存在する。動物の皮膚内から組織を傷めないように毛を引き抜いた時には、毛乳頭は引き抜かれた毛の先端に存在することが確認できる。毛乳頭を採取する方法としては、(必要に応じてピンセットなどを用いて)毛を引き抜く抜毛法、毛のついた皮膚ごと切り出し、単離する方法などが挙げられるが、動物愛護を実現したり、不要な苦痛や傷などの付与を回避したりするなどの観点から、抜毛法が好ましい。
抜毛法を例に具体的に説明すれば、次の通りである。
毛乳頭細胞を採取するために、必要に応じてピンセットを用いて、毛をつかみ、毛を対象動物から引き抜く。この際、強く引き抜くことによって、通常、毛乳頭付き毛包の付着した毛髪をおおよそ100本に1本くらいの割合で採取することができる。
次いで、例えばピンセットを用いて毛髪から毛乳頭付の毛包を分離して、生理食塩水等の媒体中に移し、ピンセットやメスなどを用いた顕微鏡下での毛包から毛乳頭のみを単離する処理に供する。
単離した毛乳頭は細胞培養用容器に移動して、培地に後述の培地成分、抗生物質、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)、ならびに、増殖因子以外の増殖因子(F)などを必要に応じて添加した細胞培養用培地(以下、ここでの細胞培養用培地を「原料用細胞培養用培地」ともいう)を該細胞培養容器に加え、次いで毛乳頭細胞を培養する(ここでの毛乳頭細胞に原料用細胞培養用培地を混合したものを「原料用細胞培養用混合物」ともいう)。
ここで、毛乳頭細胞(A)を維持および増殖させる効果のあるFGF−1およびFGF−2から選択されるいずれか1種以上を添加することが望ましい。但し、ここで用いたFGF−1およびFGF−2は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)の活性化に対する細胞増殖因子(C)の生化学的作用や該細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用をより正確に評価するという観点から、通常は、後述するように、原料用細胞培養用培地を細胞培養用容器から除去し、次いで生理食塩水で該細胞培養用容器中の毛乳頭細胞(A)を洗浄するなどして、評価用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞、対照用毛乳頭細胞および対照基準用毛乳頭細胞を調製するアッセイ用細胞培養の前に、毛乳頭細胞(A)から除去される。
ここでは、一度に多量の細胞を培養できる観点から、細胞培養皿(例えば、35mmディッシュの細胞培養皿)を用いることが好ましい。
温度、時間などに関する細胞培養条件は、アッセイ用細胞培養の条件に準じればよい。
また、配合成分についても、使用する物質や配合量は、後述の通りにすればよい(アッセイ用細胞培養と同様にすればよい)。
上記第一の生化学的評価方法実施時に用いる毛乳頭細胞(A)は、初代培養で得られたものでも継代培養で得られたものでもよいが、毎時調製するのが困難であるという観点より継代培養で得られたものが好ましい。
初代培養では、毛乳頭から細胞(毛乳頭細胞)が広がり、毛乳頭細胞(A)が増殖する。初代培養では、通常、毛乳頭細胞(A)が細胞培養用容器の面積の約4割程度まで増加するので、その程度まで細胞が増殖したところで(通常2〜5日程度)、次の操作を行う。
まず、初代培養を行ったディッシュから一度培養液を取り除き、生理性食塩水などを合計0.5〜2mL程度用いて毛乳頭細胞(A)を1〜2回程度洗浄する。次いで、0.1%トリプシン、コラゲナーゼ、パパインなどの酵素、0.02%エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、ポリ燐酸などのキレート化剤、必要に応じてアンホテリシンなどの抗生物質などを加えて、35〜38℃で、3〜5分間程度放置する。これら酵素、キレート化剤、抗生物質などは、それぞれ、一種単独または二種以上混合したものであってもよい。
次いで、細胞培養用容器から解離した毛乳頭細胞(A)を回収して、回収した毛乳頭細胞(A)を新たな細胞培養用容器に播種して、上記初代培養と同様の手順で再度細胞培養を行うことで継代培養を行う(但し、継代培養時は、毛乳頭細胞が細胞培養用容器の面積の約7〜8割程度まで増加するので、その程度まで細胞が増殖したところで(通常2〜5日程度)、次の操作を行う)。このときに、細胞増殖因子(F)(前述のFGF−1、FGF−2など)を添加することが望ましい。なお、(FGF−1、FGF−2について述べた際に触れたように)細胞増殖因子(F)は実験条件の厳密性の観点から、通常、アッセイ用毛乳頭細胞を調製する際の細胞培養の前に上記洗浄などを行って毛乳頭細胞(A)から除去される。
このような継代培養を繰り返すことで、本発明の第一〜第三の生化学的評価や、後述のスクリーニング方法に必要な数の毛乳頭細胞(A)を得ることができる。
毛乳頭細胞(A)は、細胞の数が上記アッセイ用細胞培養用混合物および原料用細胞培養用混合物のいずれにおいても(以下、特に断りがない限り、アッセイ用細胞培養用混合物および原料用細胞培養用混合物を「細胞培養用混合物」と総称する)、1mlあたり、通常、1×105〜1×106cellsとなる量で用いられる。
<Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)>
Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)は、上述の通り、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路を活性化する目的で使用される。
毛乳頭細胞(A)を活性化する方法はいくつか知られているが、本発明では、評価指標であるALP活性を再現性よくかつ高感度で測定するという観点より、Wnt/β―カテニン経路を活性化することを特徴とする。Wnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)としては、Wntタンパクファミリー、Wntアゴニスト(例えばBML−284)、Wntの制御に関わるプロテオグリカン類、GSK(グリコーゲン合成酵素)−3阻害剤、および、リチウム塩(塩化リチウム、炭酸リチウムなど)が挙げられるが、Wnt3a、GSK3阻害剤、リチウム塩が、細胞当りのALP活性の上昇度が大きい点から好ましい。これらWnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。Wnt/β―カテニン経路活性化剤(B)の使用量は、使用するWnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)の種類によって異なるが、毛乳頭細胞(A)内のWnt/β―カテニン経路が活性化するような量に適宜調製すればよい。例えば、Wnt3aは、通常、毛乳頭細胞5×103cells当たり1ng〜50ngとなるような量で用いられ、上記細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、10ng/ml〜500ng/mlである。GSK3阻害剤は、通常、毛乳頭細胞5×103cells当り10ng〜100ngとなるような量で用いられ、上記細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、100ng/ml〜1μg/mlである。リチウム塩は、通常、毛乳頭細胞5×103cells当り4μg〜200μgとなるような量で用いられ、上記細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、1mM〜50mMである。
<細胞増殖因子(C)>
細胞増殖因子(C)は、特定の受容体に結合させて、特定の生化学的変化を起こさせる目的で使用される。
細胞増殖因子(C)は、毛乳頭細胞(A)に応答するものであればどのような細胞増殖因子でもよい。FGFを選択した場合、その分子種としては、毛乳頭細胞表面上のFGFRに親和性のあるものであればよく、例示的にはFGF−1、FGF−2、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−9が挙げられる。
FGF−1は、運動ニューロン中に多く発現しており、神経保護作用を発揮する。また、FGF−1は、神経栄養因子として知られている他、筋芽細胞では筋組織への分化を促す。また、FGF−1は、皮膚繊維芽細胞の増殖に関わり、腫瘍細胞の増殖促進にも関与する。よって、この生化学的変化を評価することで、神経成長、筋肉形成、皮膚新生、およびFGF−1の関与する腫瘍細胞へのFGF−1の影響を評価できる。またFGF−1は毛髪の成長にも関与している。
FGF−2は、創傷治癒、四肢の発生、血管形成、ニューロンの分化に関与している。FGF−2は、繊維芽細胞の増殖、腫瘍細胞の増殖促進にも関与する。よって、この生化学的変化を評価することで、創傷治癒や血管形成、神経成長、四肢形成およびFGF−2の関与する腫瘍細胞へのFGF−2の影響を評価できる。またFGF−2は毛髪の成長にも関与している。
FGF−4は、毛乳頭細胞と反応したり、胚発生初期に発現し様々な細胞の分化や増殖、形態形成に関わったりする。FGF−4は、大脳海馬領域、小脳プルキニエ細胞、小腸上皮細胞および精巣で発現している。よって、この生化学的変化を評価することで、大脳、小脳および精巣での異状、特に、FGF−4の関与する該当部位の腫瘍へのFGF−4の影響を評価できる。
FGF−5は、毛乳頭細胞と反応したり、毛乳頭細胞の毛周期の成長期を退行期に導くという生化学的変化を生じさせたりするものである。よって、FGF−5は、この生化学的変化を評価することで、FGF−5の毛成長への影響を評価できる。
FGF−6は、毛乳頭細胞と反応したり、筋組織、脳内で発現、また交感神経への分化誘導能、軟骨へ分化誘導に関わったりする。よって、この生化学的変化を評価することで、筋肉形成、軟骨形成におけるFGF−6の影響、および脳神経・交感神経での異状、特に、FGF−6の関与する該当部位の腫瘍への影響を評価できる。
FGF−9は、毛乳頭細胞と反応したり、軟骨形成、末梢神経系の発達、および、前立腺がんの進展に関与したりする。よって、この生化学的変化を評価することで、軟骨形成時の異状に関するFGF−9の影響、および、前立腺癌へのFGF−9の影響を評価できる。
これら細胞増殖因子(C)の中でも、FGF−5が、入手の容易さや医学生化学的知見の蓄積度などの観点より好ましく用いられる。
これら細胞増殖因子(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で、断片化されていたり、遺伝子配列が組み替えられていたり、糖鎖により修飾されていない糖鎖未修飾体であったりしてもよい。
これら細胞増殖因子(C)は、動物生体または動物細胞から単離したり、あるいは、遺伝子組み換え法により動物・昆虫・微生物等の培養細胞に合成させたものを精製、単離するなどして調製することができる。また、例えば、ペプロテック社、R&Dシステムズ社などから市販品を入手することもできる。
これら細胞増殖因子(C)は、目的の応じて、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよいが、評価対象となる細胞増殖因子(C)の生化学的評価をより正確に行うという観点から、一種単独で用いることが好ましい。
細胞増殖因子(C)は、通常、毛乳頭細胞(A)5×103cells当り1ng〜10ngとなる量で用いられる。
細胞増殖因子(C)の細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、10ng/ml〜100ng/mlである。
<被験物質(D)>
被験物質(D)は、上記細胞増殖因子(C)などに影響を与えるかどうかを評価するために用いる物質である。
被験物質(D)は、特に限定されるものではないが、産業的かつ実用的見地から植物抽出物もしくは植物抽出液の完全な或いは部分的な精製物であることが好ましい。植物抽出液は市販されているものが利用できるが自家調製してもよい。いずれの場合も、抽出溶媒として細胞毒性が低く、水が主要構成分である培養液と相溶性の良いものを選択すべきである。
ここで「植物抽出物」とは、植物を生のまま、または乾燥して、必要ならさらに粉砕、加熱処理などの必要な加工処理した後に、水または後述の溶媒にて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、またはその乾燥末を意味する。
これら植物抽出液は、生のまま抽出工程に供してもよいが、抽出効率を考慮すると、細切、乾燥、粉砕などの処理を行った後に抽出を行うことが望ましい。抽出は、抽出溶媒に浸漬して行う。効率を上げるために、連続的または間歇的な攪拌をするか、或いは抽出溶媒中でホモジナイズしてもよい。抽出温度は、通常5℃から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は、抽出減退の性状、抽出溶媒の種類、抽出温度などによっても異なるが、一般に1〜14日程度とするのが適当である。抽出操作は、ソックスレー抽出器などの抽出器具を使用して連続抽出してもよい。
その抽出方法は、特に限定されず、通常の方法、例えば加熱抽出したものであってもよいし、常温抽出であってもよい。さらに常圧下の他に、加圧下で抽出を行ってもよい。
抽出に使用する溶媒として、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール系溶媒、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール系溶媒、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などの極性有機溶媒を用いることができる。特に、物質の溶解度に優れ、かつ凝固点および沸点が比較的低い溶媒が好ましく用いられる。特に、水、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、DMSO、および、これらの混液が好ましく、水、エタノール、および、これらの混液がさらに好ましい。抽出する植物の種類、部位、性状などに応じて、抽出溶媒を適宜選択すればよい。例えば、皮膚炎を起こすシュウ酸カルシウムなどが多く含まれる植物の場合には、水と上記有機溶媒とを組合せた複数溶剤の交互の使用による抽出により、あらいは混合溶媒を用いる分配による抽出により、不適切な成分を選択的に除去した抽出物を得ることもできる。
或いは、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などを用いることもできる。必要ならば、例えば特開昭62−172096号公報に開示されている二酸化炭素の超臨界状態の流体による方法を採用してもよい。
このようにして得られた粗抽出物は、そのままでも本発明の生化学的評価方法に供することが可能であるがさらに減圧濃縮、希釈、ろ過などの処理を適宜行って用いてもよい。或いは、抽出した溶液を、濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行なって乾燥物としてもよい。
濃縮、乾燥、または水もしくは極性溶媒への再溶解といった操作、或いはこれからの生理作用を損なわない範囲で、公知の方法により脱色、脱臭、脱塩などの精製処理、カラムクロマトグラフィーなどによる分画処理による精製をさらに行なってもよい。
本発明で使用できる上記植物の抽出物とは、例えば、ピーカンナッツ(学名:Carya illinoinensis)では、葉、茎、樹皮、果実、種子、種子殻、根などの植物体の一部、全草または樹液などから抽出されるものである。好ましくは、種子殻を水または含水溶剤にて抽出されるもの、特に好ましくは、種子殻を熱水抽出して得られるものである。ヒバマタ(英名:bladder wrack、学術名:Fucus vesiculosis)では、海藻と呼ばれる植物体の全藻から抽出されるものである。好ましくは、30〜60重量%のエタノールを含む水で抽出されるものである。ワレモコウ(学術名:Sanguisorba officinalis)では、茎、花、実、根茎部などの植物体の一部、または、全草から水、エタノール、または含エタノール水溶剤にて抽出されるもの、好ましくは、根茎部から20〜55重量%のエタノールを含む水で抽出されるもの、特に好ましくは、根茎部から30〜55重量%のエタノールを含む水で抽出されるものである。ツバキ(学名:Camellia japonica)では、葉、茎、花、果実、種子、雄しべなどの植物体の一部、全草または樹液などから抽出されるものである。好ましくは、葉、花、果実、または種子から1,3−ブチレングリコール水溶液で抽出されるもの、特に好ましくは、種子から45〜50重量%の1,3−ブチレングリコールの水溶液で抽出されるものである。
これら被験物質(D)は、目的の応じて、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
被験物質(D)の培養液中の最終濃度は、通常、0.02%〜1.5%である。
<Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)>
上記細胞培養用混合物には、必要に応じて、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)が配合されていてもよい。Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)は、上記Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の補助剤として用いられる。Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)によりWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)の毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路の活性化作用が増強されて毛乳頭細胞(A)のALP活性が上昇するため、毛乳頭細胞(A)のALP活性値の変動が大きくなり、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)を添加しなかった場合には、ALP活性の変動差が小さく、評価が難しい場合にも、Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)を添加することでALP活性の変動差が拡大して評価が可能になるなど、測定評価をするにあたって、好ましい影響を与える。
Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)としては、ヘパリン、ヘパラン硫酸などがあげられる。これらWnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)の中でも、細胞増殖因子(C)およびその受容体との結合性に優れる観点から、ヘパリンが好ましい。
これらWnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)は、目的の応じて、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)は、通常、毛乳頭細胞(A)5×103cells当り100ng〜1μgとなる量で用いられる。
Wnt/β−カテニン経路活性化補助剤(E)の細胞培養用混合液中の最終濃度は、通常、1μg/ml〜10μ/mlである。
<細胞増殖因子(C)として用いた増殖因子以外の増殖因子(F)>
細胞増殖因子(C)として用いた細胞増殖因子以外の細胞増殖因子(F)としては、例えば、FGF−1、FGF−2、インスリンなどが挙げられ、細胞増殖の維持の観点から、FGF−1、FGF−2が好ましい。なお、念のため補足説明すれば、FGF−1やFGF−2は、細胞増殖因子(C)にも、細胞増殖因子以外の細胞増殖因子(F)にも分類されうるが、FGF−1やFGF−2が細胞増殖因子(C)として用いられた場合は、FGF−1やFGF−2は細胞増殖因子(F)には分類されない。その逆も然りである。これら細胞増殖因子(F)は一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよいが、FGF−1あるいはFGF−2を単独で用いることが、試験条件の明確化の観点から好ましい。これら細胞増殖因子(F)は、毛乳頭細胞5×105cellsあたり10ng〜200ngとなる量で用いられ、細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、1ng/ml〜20ng/mlである。
ただし、細胞増殖因子(C)の生化学的作用をより正確に評価する観点から、細胞増殖因子(C)の生化学的作用を評価する際の細胞培養時、すなわち、アッセイ用細胞培養用混合物には、細胞増殖因子(F)は配合しないことが好ましい。
<培地>
培地としては、例えば、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM培地)、PCGM培地、MEM培地、RPMI1640培地、Ham's F−12培地などが挙げられる。
これら培地は、目的の応じて、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
従来の知見の蓄積が大きいという観点より、DMEM培地およびPCGM培地が好ましく、DMEM培地がより好ましい。
培地は、通常、毛乳頭細胞(A)5×103cells当り25μl〜100μlとなる量で用いられる。
<培地成分>
上記培地に添加する培地成分としては、血清、ビタミン、各種アミノ酸、タンパクなどが挙げられる。
血清としては、例えば、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清などが挙げられ、手に入りやすく、安価であり、細菌ウイルス等に対して安全であるなどの観点から、10%ウシ胎児血清、ウマ血清が好ましく、ウシ胎児血清がより好ましい。これら血清の濃度は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限されない。これら血清は一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これら血清は通常、毛乳頭細胞5×103cells当り5mg〜15mgとなる量で用いられる。これら血清の細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、5%〜15%である。このような条件で血清を用いると、毛乳頭細胞の増殖が促進される観点より好ましい。
ビタミン、各種アミノ酸、タンパクなども、それぞれにおいて、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
上記培地成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
これら培地成分は、通常、合計で毛乳頭細胞5×103cells当り0.1ng〜10μgとなる量で用いられ、細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、1ng/ml〜100μg/mlである。
<抗生物質>
上記抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン溶液、ペニシリン−ストレプトマイシン混合物(混液)、ゲンタマイシン、アンフォテリシンなどが挙げられ、実験に影響が少なく、安価で手に入りやすいという観点から、ペニシリン−ストレプトマイシン混液が好ましい。これら抗生物質は一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これら抗生物質は通常、毛乳頭細胞5×103cellsあたり0.01units〜1unit/mLとなる量で用いられる。これら抗生物質は細胞培養用混合物中の最終濃度は、通常、0.1units/mL〜10units/mLである。このような量で抗生物質を用いると、培養液を無菌状態に保てる観点より好ましい。
上記各成分は、目的に応じて適宜組合せることができる。
1−4.細胞増殖度およびALP活性値の測定と評価
上記の通りアッセイ用細胞培養を行って得られた評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞の「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定する。
毛乳頭細胞の基本的な変化指標は細胞増殖度であり、細胞増殖度は測定時の細胞数を反映するものであるが、後述するように、ALP活性値による評価の方が信頼度は高い。
第一〜第三の生化学的評価方法においては、細胞増殖度および/またはALP活性値に基づいて、下記の通り各種生化学的作用を評価することができる(図5〜7も参照)。
1−4−1.細胞増殖度の測定方法
細胞増殖度の測定方法としては、染色していない細胞、あるいは、色素(例えば、トリパンブルー、AlamarBlue、スルホローダミンB等)で染色した細胞を計測する直接計測法、チミジンの取り込み法によるDNA合成能評価法、あるいは、ホルマザン生成反応を応用したミトコンドリア活性評価法、前述の染色細胞のバイオマス定量法が挙げられるが、作業効率および試験費用削減などの観点からミトコンドリア活性評価法が好ましい。
以下、ミトコンドリア活性評価法を例に挙げて、より詳しく説明する。
ミトコンドリア活性評価法は、例えば、Cell Count Kit 8(商品名、同仁化学研究所製)を用いて行うことができる。
Cell Count Kit 8は、高感度水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウム塩WST-8を発色基質として採用しており、WST-8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。このホルマザンの450nmの吸光度を直接測定することにより、生細胞数を計測することができる。
具体的には、まず、上述のように毛乳頭細胞(A)の培養を行うことで、評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞のうち必要なものを、細胞培養用プレートを用いて、それぞれ別途のウェルで調製する。ただし、それぞれの毛乳頭細胞を調製するにあたり、対数増殖期にある毛乳頭細胞(A)を目的の細胞数になるように計数し、例えば細胞培養用プレートのウェルにウェル当たりの細胞数が1×103〜1×104cellsとなるように播種することが好ましい。細胞培養用プレートのウェル当たりの毛乳頭細胞(A)の数がこのような範囲であると、上記各種生化学的作用を容易に検出でき、毛乳頭細胞(A)が生着しないという不都合を避けることができる。次いで、各ウェルにCell Count Kit 8を原液の状態で添加し、通常、1〜4時間呈色反応を行なう(例えば96穴マイクロプレートを用いた場合は、細胞培養用懸濁液は通常ウェル当たり約100μL、Cell Count Kit 8はウェル当たり通常約10μmである)。この呈色反応は、細胞の通常の生育条件で活性を測定することによりデータの信頼性が向上するという観点から、炭酸ガスインキュベータ内で行うことが好ましい。呈色反応は、濃度が0.1mol/LのHCl、あるいは、濃度が1 w/v%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を、Cell Count Kit 8 10μLに対して約10μL添加することで、停止することができる。呈色反応後、マイクロプレートリーダー(例えば、マイクロプレートリーダー−680(商品名)、バイオラッド社製)を用いて、ウェル内の混合物の450nmの吸光度を測定する。必要に応じて、参照波長である600nm(試薬の吸収がない波長)の吸光度を測定して、該600nmの吸光度の測定値を450nmの吸光度の測定値から差し引くことで、試料の濁りの影響を取り除いてもよい。
このようにして、上記評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞を調製する際に得られた各種アッセイ用細胞培養後の混合物の吸光度(450nm)をそれぞれ測定する(以下、吸光度(波長)と記したときは、カッコ内は吸光度の測定波長を示す)。
また、バックグラウンド用混合物の吸光度(450nm)を上記手法に従って測定し、バックグラウンドの吸光度とする。
バックグラウンド用混合物は、アッセイ用細胞培養用混合物から、毛乳頭細胞(A)、Wnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)、被験物質(D)、およびWnt/β−カテニン経路活性化補助剤(D)の純分を除外した以外は同一の組成の混合物とする。
そして、各種アッセイ用細胞培養後の混合物の吸光度からバックグラウンドの吸光度を減じた吸光度を、評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞の吸光度とし、これを評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞の細胞数とする。
1−4−2.ALP活性値の測定方法
ALP活性値の測定は次の通り行う。
アルカリフォスファターゼ(ALP)は、脂肪族・芳香族のリン酸エステルに作用して、該リン酸エステルを加水分解し、リン酸を遊離させる酵素であり、酵素活性の至適pHがアルカリ域にある。したがって、ALPによるリン酸エステルの加水分解反応はアルカリ域で起こる。毛乳頭細胞のALP活性は毛乳頭細胞の成長期に特異的にみられることから、培養細胞においてもALP活性を上げることで毛乳頭細胞の成長期の細胞状態を反映していると考えられる。ALP活性の測定は、上記ALPによるリン酸エステルの加水分解反応の基質に基いた測定法が確立されており、例えば、p−ニトロフェニルリン酸法、フェニルリン酸法、グリセロリン酸法、NADサイクリング法が知られている。これらの中でも、p−ニトロフェニルリン酸法、あるいはNADサイクリング法が、便宜性および試験コストの観点から好ましい。
なお、アッセイ用細胞培養後の評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞は、上記細胞増殖度の測定と評価およびALP活性値の測定と評価のうち、いずれかあるいは両方行ってもよい。
上記細胞増殖度の測定と評価およびALP活性値の測定と評価のうちいずれか一方のみ行う場合、あるいは、両方行うがそれぞれ別途の細胞培養後の混合物で行う場合は、細胞培養後の混合物をそのまま測定に供すればよいが、一つの細胞培養後の混合物でまずいずれか一方の測定と評価を行い、次いで、もう一方の測定と評価を行う場合は、一度測定した後の細胞を洗浄処理などすることが好ましい。
p−ニトロフェニルリン酸法で、細胞増殖度の測定と評価を行った後に、同じ細胞培養後の混合物をALP活性値の測定と評価に供する場合を例にとれば以下の通りである。
上記細胞増殖度の測定を経た細胞などをALP活性測定に供する場合は、細胞を生理食塩水により洗浄し(通常、室温、1回当たり100μm、2〜3回程度)、−70〜−80℃の温度で5〜10分間凍結後、20〜25℃で5〜10分間かけて融解する操作を少なくとも二度行って、細胞を破砕することが好ましい。
必要に応じて上記処理を行った後、ALP活性値の測定と評価を行う。
p−ニトロフェニルリン酸法を例にあげて、以下に説明する。
例えば、細胞培養用プレートを用いて、ウェル内のALP活性の測定対象となる細胞に、ジエタノールアミン緩衝液、トリス緩衝液などを用いて調製したp−ニトロフェニルリン酸(シグマ社製)の溶液を加えて35〜38℃で30〜60分間反応させる。上記反応終了後に、使用した細胞培養用プレートをマイクロプレートリーダーにてウェル内容物の波長490nmにおける吸光度を測定する。
このようにして、測定・評価用の細胞培養後の混合物の吸光度を測定する。
上記測定・評価用の細胞培養後の混合物の吸光度とは別に、対照(ブランク)として、Wnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)を配合しない以外は、アッセイ用細胞培養用混合物と同じように調製した細胞培養用混合液を、アッセイ用細胞培養用混合物と同様に細胞培養して得られた混合物の吸光度(490nm)を上記手法に従って測定する。
また、バックグラウンド用混合物の吸光度(490nm)を上記手法に従って測定し、バックグラウンドの吸光度とする。
バックグラウンド用混合物は、アッセイ用細胞培養用混合物から、毛乳頭細胞(A)、Wnt/β―カテニン経路の活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)、被験物質(D)、およびWnt/β−カテニン経路活性化補助剤(D)の純分を除外した以外は同一の組成の混合物とする。
そして、アッセイ用細胞培養後の混合物の吸光度からバックグラウンドの吸光度を減じた吸光度を評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞の吸光度とし、これを評価用毛乳頭細胞、参照用毛乳頭細胞、評価基準用毛乳頭細胞および参照基準用毛乳頭細胞のALP活性値とする。
1−4−3.第一の生化学的評価方法における評価基準
第一の生化学的評価方法では、上記のように求めた評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」を比較して、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路の活性化を評価する。
上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも大きければ、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路は活性化されると評価される。数値が大きいほど、上記活性化の度合いは大きいと評価する。
上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と同じであれば、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)により毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路は活性化されないと評価される。
上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」より小さい場合は、活性化剤の添加濃度等の原因により、細胞毒性あるいは細胞活性の抑制が生じたと判断される。
上記評価を行うに当たり、上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と上記参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」との比較は、絶対値評価(減法)で行っても相対評価(除法)で行ってもよい。
また、毛乳頭細胞のALP活性は測定数値自体での評価も可能であるが、細胞培養後の増殖細胞数を考慮して、細胞当りのALP活性値に換算することが好ましい。
細胞当りのALP活性値は、ALP活性値を細胞増殖度で除することで求められる。
これら、絶対比較、相対比較、細胞当りのALP活性値に関する議論は、第二、第三の生化学的評価でも同様である。
1−4−4.第二の生化学的評価方法
第一の生化学的評価方法では、上記のように求めた評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と参照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」を比較して、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β−カテニン経路の活性化に対する細胞増殖因子(C)の生化学的作用を評価する。
上記評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも大きければ、細胞増殖因子(C)は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を促進すると評価する。また、数値が大きいほど、上記活性化の促進度は大きいと評価する。
上記評価用毛乳頭細胞(X1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(X2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と同じであれば、細胞増殖因子(C)は、上記活性化に影響しないと評価する。
上記評価用毛乳頭細胞(Y1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記参照用毛乳頭細胞(Y2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも小さければ、細胞増殖因子(C)は、上記活性化を抑制すると評価する。また、数値が小さいほど、上記活性化の抑制度は大きいと評価する。
1−4−5.第三の生化学的評価方法
第三の生化学的評価方法では、上記のように求めた評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と、対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」とを比較して、上記細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用を下記評価基準に従って評価する。
細胞増殖因子(C)がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を促進する場合は、次の通りである。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」より大きい場合は、被験物質(D)は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用を促進すると評価する。また、数値が大きいほど、被験物質(D)による上記活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用を促進する度合いは大きいと評価する。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と同じ場合は、被験物質(D)は、前記活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用に影響しないと評価する。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」より小さい場合は、被験物質(D)は、前記活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用を抑制すると評価する。また、数値が小さいほど、被験物質(D)による上記活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用を抑制する度合いは大きいと評価する。
細胞増殖因子(C)がWnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を抑制する場合は次の通りである。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」より大きい場合は、被験物質(D)は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)による毛乳頭細胞(A)内のWnt/β活性化経路の活性化を抑制する細胞増殖因子(C)の作用を抑制すると評価する。また、数値が大きいほど、被験物質(D)による上記活性化を促進する細胞増殖因子(C)の作用を抑制する度合いは大きいと評価する。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」と同じ場合は、被験物質(D)は、前記活性化を抑制する細胞増殖因子(C)の作用に影響しないと評価する。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」より小さい場合は、被験物質(D)は、前記活性化を抑制する細胞増殖因子(C)の作用を促進すると評価する。また、数値が大きいほど、被験物質(D)による上記活性化を抑制する細胞増殖因子(C)の作用を促進する度合いは大きいと評価する。
なお、被験物質(D)の使用量により評価が変わることもあるので、次のように、被験物質(D)の量の変化に依存した「細胞増殖度および/またはALP活性値」を評価することが好ましい。
・上記被験物質(D)の量を変えて、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)および対照用毛乳頭細胞(Z3)をそれぞれ少なくとも2種調製する。
・各上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、各上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、「細胞増殖度および/またはALP活性値」を測定する。但し、上記2種以上の評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」はいずれも同じ評価指標を用い、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、上記2種以上の対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」、ならびに、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」は、いずれも、上記各評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の細胞増殖度および/またはALP活性値に対応する(同じ)評価指標を用いる。
・被験物質(D)の量の変化に依存した、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」の変化と、被験物質(D)の量の変化に依存した、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」の変化とを比較する。
後述の実施例3、4には、細胞増殖因子(C)が前記活性化を抑制する場合の、該細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用を評価する態様における、上記評価方法の具体例が示されている。後述の実施例3、4で述べる議論は、図7の関係を考慮すれば、細胞増殖因子(C)が前記活性化を促進する場合の、該細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用を評価する態様についても、同様に適用できる。
このように、上記評価方法により、細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する被験物質(D)の生化学的作用を被験物質(D)の量による影響も含めて総合的かつ詳細に評価することができる。被験物質(D)の量は、上記被験物質(D)の項目で述べた量の範囲内で変化させればよいが、上記評価をより正確に行うという観点より、被験物質(D)の量の変化は、変化幅(一番薄い濃度から一番濃い濃度までの濃度幅)が50倍以上となるように、少なくとも3点以上の複数の量を設定して行うことが好ましい。
1−4−6.各種評価について
上記第一〜第二の評価方法においては、評価対照ALP活性値と評価対照ALP活性値の相違が、「評価対照ALP活性値/評価対照ALP活性値」で表した時に±0.1以内であるときは、通常誤差範囲であるとして、評価対照ALP活性値と評価対照ALP活性値とが同じ場合に準じて扱う。上記第三の評価方法においては、評価基準ALP活性値に対する評価対照ALP活性値と、評価対照基準ALP活性値に対する評価対照ALP活性値との相違が、「{(評価対照ALP活性値/評価対照ALP活性値)/(評価対照ALP活性値/評価基準ALP活性値)}×100(%)」で表した時に±10%以内であるときは、通常誤差範囲であるとして、評価基準ALP活性値に対する評価対照ALP活性値と、評価対照基準ALP活性値に対する評価対照ALP活性値とが同じ場合に準じて扱う。また、上記第一〜第三の評価方法のいずれにおいても、統計学的手法により例えば、t検定によって、有意差を求めることが好ましい。
なお、例えば、FGF−5を用いた場合に、上記毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度の評価では、毛乳頭細胞(A)へのFGF−5の影響は、細胞増殖を促し活性化していると評価できるように推察されても、ALP活性値の評価によると、逆に、毛乳頭細胞(A)へのFGF−5の影響は、ALP活性を下げ、毛髪成長能力を低下させ、成長期を終了させるものと評価できるように判断できる場合がある。
これは、細胞増殖度による評価とALP活性値による評価とでは着目する細胞内シグナル経路が異なるものと考えられる。生物学の世界では、異なるシグナル経路が異なる事象を誘導することは一般的なことであり、また、FGFおよびその受容体からのシグナルには2つの異なる経路を有することが知られている。本発明では、細胞増殖度が毛成長の司令塔である毛乳頭細胞(自分は毛にならない)の「増殖」する事象を、ALP活性値は、毛乳頭細胞が何らかの指令を毛母細胞(毛になるために増殖、成長する)出して、毛母細胞の成長を調整する事象を観察しているために、一見、評価に差が生じるものと考えられる。
このような場合は、通常、ALP活性の評価の方が、毛髪の成長に関してより直接的に関与する指標であるので、信頼度が高いという点で好ましい。
さらに、前述のように、細胞培養後の増殖細胞数を考慮して、細胞当りのALP活性に換算することが好ましいことを鑑みると、上記評価の信頼度は、いずれの生化学的評価方法においても、細胞当りのALP活性値>ALP活性値>細胞増殖度である。
2.スクリーニング方法
上記第二の生化学的評価方法は、細胞増殖因子(C)の関与する生化学反応に対して、被験物質(D)がどのようなに作用するかあるいはしないかを評価できるため、当該評価方法の結果を利用して、細胞増殖因子の関与する生化学反応に対して活性である物質をスクリーニングすることが可能である。
すなわち、本発明の一態様によれば、細胞増殖因子(C)の関与する生化学反応に効果を及ぼす活性を有する物質のスクリーニング方法が提供される。
なお、細胞増殖因子に関与する一連の生化学的反応は、細胞増殖因子の標的となる細胞に存在する特異的な受容体と該細胞増殖因子が結合することにより開始され、その後の該細胞増殖因子と該受容体によるシグナル伝達が進んでいく。したがって、上記第二の生化学的評価方法を利用したスクリーニング方法によって見出されることが想定される物質は、上述のあらゆる事象における特定の反応に作用を及ぼす物質であることが想定されており、細胞増殖因子単独、受容体単独あるいは双方の複合体へ作用するいずれの物質も包含される。そして、本発明における「物質」とは、単に単一化合物を指すのではなく、生体抽出物、特に植物抽出物、あるいは、該抽出物を部分的に精製して得られる物等、スクリーニング評価が可能な被験物を幅広く包含するものである。
当該スクリーニング方法は、上記第三の生化学的評価方法を実施して、毛乳頭細胞の細胞増殖度および/またはALP活性変化に対する被験物質(D)の作用を評価し、細胞増殖因子の関与する生化学的反応に作用する物質を見出すことを目的としている。本スクリーニング方法で用いられる被験物質(D)は、上記生化学的評価方法の項目で説明した被験物質(D)に準ずる。
本発明のスクリーニング方法は、上記第三の生化学的評価方法を応用したものであるので、細胞増殖因子(C)の阻害薬及び作動薬のいずれも検出できる。即ち、上記第三の生化学的評価方法を実施し、毛乳頭細胞(A)の「細胞増殖度および/またはALP活性」の測定値に基いた上述の各種評価を行うことで、細胞増殖因子(C)の生化学的作用(毛周期における成長期から退行期への誘導)に対する被験物質(D)の抑制効果および促進効果を評価し、この評価結果に基づいて、上記阻害薬(上記抑制効果を有する物質)および作動薬(上記促進効果を有する物質)を見出すことができる。
被験物質(D)の細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する作用の評価は、毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度のみ、あるいはALP活性のみの評価結果に基いて評価することもできるが、細胞増殖度およびALP活性の双方の評価結果を複合的に評価することで、被験物質(D)の細胞増殖因子(C)の生化学的作用に対する作用をより詳細に評価できる。すなわち上述したように細胞増殖因子がその受容体と結合して、その後の細胞内シグナル伝達経路が複数存在する。FGFとその受容体の場合、現在までに2経路のシグナル経路が知られており、一方は細胞の「増殖」に関連し、もう一方は細胞の「運動性(遊走化)」に関連する。一方、毛乳頭培養細胞は、細胞培養条件によって三次元的な細胞のかたまり(集塊あるいはsphere)を形成することが知られているが、集塊形成時にALP活性が出現し、二次元的にバラバラで集塊していない状態(細胞が遊走化している時)にALP活性が消失することが知られている。細胞の遊走化は悪性新生物の転移を引き起こし症状の重篤化をもたらす。従って、「増殖」を抑制するだけでなく、「遊走化」を抑制する物質を評価できる方法は有用である。特に「増殖」を抑制する効果は、時として正常細胞の増殖も抑制しかねないので、さまざまなタイプの治療薬が選抜できることは重要である。
本発明のスクリーニング方法は、上記第三の生化学的評価方法と一種または二種以上の公知の生化学的評価方法試験と組み合わせて行うこともできる。
本発明のスクリーニング方法では、被験物質(D)として、生化学的作用が公知のものを用いてもよいし未知のものを用いてもよい。
被験物質(D)として生化学的作用が公知のものを用いる場合は、例えば、従来報告されている該生化学的作用をより詳細に評価したり、その評価結果に基づいて、より優れた生化学的作用を奏する物質を検索したりすることができる。
被験物質(D)として生化学的作用が未知のものを用いる場合は、例えば、目的に応じた生化学的作用を奏する物質を検索することができたり、そのようにして見出された物質を適宜の用途に供したりすることができる。
本発明のスクリーニング方法では、例えば、次のような細胞増殖因子促進剤や細胞増殖因子阻害剤を見出すことができる。
上記第三の生化学的評価方法により、次のように評価される細胞増殖因子阻害剤。
・細胞増殖因子(C)が活性化されたWnt/β−カテニン経路に抑制的に作用し、かつ、被験物質(D)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によりWnt/β−カテニン経路を活性化された毛乳頭細胞(A)における細胞増殖因子(C)の作用を阻害する場合は、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性」よりも大きいと評価される。
このような細胞増殖剤阻害剤は、誤差範囲の結果を除くことや、細胞への毒性の考慮等の観点から、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対して、約1.2倍以上であることが好ましく、約1.4倍以上であることがさらに好ましい。
・細胞増殖因子(C)が活性化されたWnt/β−カテニン経路に促進的に作用し、かつ、被験物質(D)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によりWnt/β−カテニン経路を活性化された毛乳頭細胞(A)における細胞増殖因子(C)の作用を阻害する場合は、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも小さいと評価される。
このような細胞増殖剤阻害剤は、誤差範囲の結果を除くことや、細胞への毒性の考慮等の観点から、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対して、約0.85倍以下であることが好ましく、約0.75倍以下であることがさらに好ましい。
上記第三の生化学的評価方法により、次のように評価される細胞増殖因子作動薬。
・細胞増殖因子(C)が活性化されたWnt/β−カテニン経路に促進的に作用し、かつ、被験物質(D)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によりWnt/β−カテニン経路を活性化された毛乳頭細胞(A)における細胞増殖因子(C)の作用を促進する場合は、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも大きいと評価される。
このような細胞増殖剤作動薬は、誤差範囲の結果を除くことや、細胞への毒性の考慮等の観点から、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対して、約1.2倍以上であることが好ましく、約1.4倍以上であることがさらに好ましい。
・細胞増殖因子(C)が活性化されたWnt/β−カテニン経路に抑制的に作用し、かつ、被験物質(D)が、Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)によりWnt/β−カテニン経路を活性化された毛乳頭細胞(A)における細胞増殖因子(C)の作用を促進する場合は、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも小さいと評価されることを特徴とする細胞増殖因子作動薬。
このような細胞増殖因子作動薬は、誤差範囲の結果を除くことや、細胞への毒性の考慮等の観点から、上記評価方法において、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対して、約0.85倍以下であることが好ましく、約0.75倍以下であることがさらに好ましい。
以下、本発明のスクリーニング方法の具体例を説明する。
[治療薬のスクリーニング]
FGFのうち、FGF−1、FGF−2およびFGF−5は、毛乳頭細胞の細胞増殖度を上昇させるように作用する。
そして、FGF−1、FGF−2およびFGF−5の毛乳頭細胞の細胞増殖度を上昇させる作用を抑制する物質は、FGF−1、FGF−2およびFGF−5に対するFGF阻害剤として機能する。従って、本発明のスクリーニング方法において、細胞増殖因子(C)としてのFGF−1、FGF−2およびFGF−5を用い、細胞増殖度を評価して、該細胞増殖度を低下させる作用を有する被験物質(D)をスクリーニングすれば、例えば、FGF−1、FGF−2およびFGF−5を原因として発生する悪性新生物の治療薬を好適にスクリーニングできる。また、上述したように、細胞増殖度とALP活性を組み合わせることにより、他に、「増殖」と「転移」の両方を抑制する物質、あるいは、「増殖」は抑えないが「転移」は抑えるタイプの治療薬が好適にスクリーニングできる。それとは反対に、FGF−1、FGF−2およびFGF−5の毛乳頭細胞の細胞増殖度を上昇させる作用を促進させる作用する物質を同様にスクリーニングすれば、例えば、細胞増殖を促進させることで創傷の治癒効果を高めるなどの効能を有する創傷治癒薬を好適にスクリーニングでき、本発明のスクリーニング方法は、治療薬などの医薬品などの開発に好適である。
[育毛剤・養毛剤のスクリーニング]
本発明のスクリーニング方法によれば、毛包の毛周期における成長期の延長(換言すれば退行期への移行遅延)する効果を奏する育毛活性物質を、公知のものの中からより効率的に絞り込んだり、新規のものを見出したりすることができる。
上述のFGFのうち、FGF−1およびFGF−2は、上述の通り、毛乳頭細胞の細胞増殖度を上昇させるように作用する上、FGF−1およびFGF−2は、皮膚あるいは毛包を構成する皮膚線維芽細胞および上皮系細胞を増殖、活性化させるように作用するのでFGF−1およびFGF−2の毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度を上昇させる作用を促進させる作用する物質をスクリーニングすれば、育毛作用、養毛作用あるいは発毛促進作用を奏する物質を好適にスクリーニングでき、本発明のスクリーニング方法は、育毛剤、養毛剤あるいは発毛促進剤などの開発に好適である。
また、FGF−5については、FGF−1およびFGF−2は同様、毛乳頭細胞(A)の細胞増殖度を評価の指標としてスクリーニングすることができる。その一方で、上述の通り、本発明者らにより、FGF−5を活性化毛乳頭細胞(A)に添加することで、FGF−5を活性化毛乳頭細胞(A)に添加しない場合に比較して、明らかに毛乳頭細胞のALP活性を低下させることができるという、活性化毛乳頭細胞(A)へのFGF−5添加による新たな効果が見出されている。さらには、本発明者らにより、ALP活性は毛乳頭細胞(A)における成長期のマーカー酵素であることから、FGF−5が毛乳頭細胞(A)に作用してALP活性を低下させ、毛包の成長期を終了させる(退行期へ導く)ことが裏付けられている。よって、本発明者らによって発見されたこの新規事象を応用することで発毛・育毛効果を評価できる。即ち、本発明の第二の生化学的評価方法を利用した本スクリーニング方法を実施するにあたり、FGF−5により低下した活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性の回復度に注目して、活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性を回復する作用を奏する物質を探索することでも、育毛活性物質をスクリーニングできる。
例えば、FGF−5により低下した活性化毛乳頭細胞(A)のALP活性が回復(上記第二の生化学的評価方法において、活性化毛乳頭細胞(A)の細胞当たりのALP活性値が上昇したり、被験物質(D)の濃度の上昇に対する細胞当たりのALP活性率の低下度が低い)場合には、その被験物質(D)は、FGF−5の毛乳頭細胞(A)のALP活性を低下させるという作用を抑制あるいは阻害していると考えられ、育毛活性物質として有用であると評価できる。
本発明のスクリーニング方法では、例えば、次のような育毛活性物質を見出すことができる。
上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」が、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性値」よりも大きいと評価される育毛活性剤。
このような育毛活性剤は、誤差範囲の結果を除くことや、細胞への毒性の考慮等の観点から、上記評価方法において、前記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記評価用毛乳頭細胞(Z1)の「細胞増殖度および/またはALP活性」が、前記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対する前記対照用毛乳頭細胞(Z3)の「細胞増殖度および/またはALP活性」に対して、約1.2倍以上であることが好ましく、約1.4倍以上で倍であることがさらに好ましい。
[スクリーニングにより見出される物質とその用途]
上記細胞増殖因子促進剤や細胞増殖因子阻害剤の具体例として、FGF阻害剤および育毛活性物質を以下に説明する。
[活性物質の用途]
FGF阻害剤としては、フィチン酸、ピーカンナッツ抽出液、ヒバマタ抽出液、及び、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体が見出された。
これら物質は、本発明のスクリーニング方法により、FGF阻害作用が認められた物質であるので、これら物質をFGF阻害剤の用途に供することに応用することが考えられ、具体的にはFGFまたはFGFRの機能異常を原因とする癌に対する抗癌剤の用途に供することが考えられる。
さらに、これら物質は、後述の実施例に示すように、FGF−5による毛乳頭細胞(A)のALP活性の低下を抑制することが本発明のスクリーニング方法を行う過程で確認されたものである。これら物質が細胞増殖因子に対して阻害剤として働くことや細胞増殖因子阻害剤として用いることができることは従来知られていない(ただし、フィチン酸のみを有効成分とするFGF−1、FGF−2阻害剤を除く)。この例は、本発明のスクリーニング方法により、新規細胞増殖因子阻害剤が見出された一例である。
また、当該4物質は、FGF−5阻害作用が見出されていることから、育毛活性物質としても有効であるので、これら4物質は、有効成分として育毛剤或いは化粧料組成物の用途に供することができる。これら4物質のうち、少なくとも、ピーカンナッツ抽出液、ヒバマタ抽出液、及び、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体については、従来育毛剤の用途に供することができることは知られていない。
育毛剤の剤形としては、例示的にクリーム、ローション(アルコールベース)、ローション(水系ベース)、エマルジョン、オイル、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)製剤、注射用製剤、経皮吸収用製剤等が挙げられる。また、化粧料組成物はシャンプー、リンス、コンディショナー、頭皮ケア用エッセンス、ヘアカラー、ヘアマニキュア、ヘアカラートリートメント、ヘアミスト、ヘアオイル等が挙げられる。
なお、上記4物質の詳細については、次の通りである。
フィチン酸は、イノシトール(myo−イノシトール)の6個の水酸基が全てリン酸エステル化した構造を有するのでイノシトール(myo−イノシトールでも良い)−1,2,3,4,5,6−六リン酸、イノシトール六リン酸、InsP6またはIP6ともいう。フィチン酸は築野食品工業株式会社から市販されている他、金属塩のものが知られており、ナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩がシグマ社から市販されている。このうち、水あるいは溶剤に溶解するものが好ましく、即ち、フィチン酸、フィチンナトリウム塩およびフィチンカリウム塩が好ましい。
ピーカンナッツ抽出液は、クルミ科ペカン(学術名:Carya illinoinensis)の種子殻から水または含水溶剤で抽出することで製造され、商品としてはピーカンナッツエキスBG(日油株式会社製)がある。また、ピーカンナッツエキスPW(日油株式会社)のような抽出粉末を水または含水溶剤に溶解して調製してもよい。
ヒバマタ抽出液は、褐藻類ヒバマタ科ブラダーラック(英名:bladder wrack、学術名:Fucus vesiculosis)の全藻から水または含水溶剤で抽出することで製造され、商品としてはカイソウ抽出液、カイソウ抽出液BG―Jおよびカイソウ抽出液LA―J(丸善製薬株式会社製)等がある。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体は、カチオン性の強い両イオン性ポリマーであり、その水溶液品としてリピジュア―C(日油株式会社製)がある。
また、育毛剤、化粧料組成物について具体的に説明すれば次の通りである。
本発明の育毛剤は、上記4物質のうちの少なくとも1種を有効成分として含有する。同様に、本発明の化粧料は、上記4物質のうちの少なくとも1種を有効成分として含有する。本発明の育毛剤および化粧料組成物は、上記有効成分と共に、下記成分を所定量、常法に従って混合などの操作を施すことにより製造することができる。
本発明の育毛剤および化粧料には、上記必須成分の他に上記抽出物の作用を損なわない範囲で、油性成分、ヒアルロン酸、セラミドなどの保湿剤、α−トコフェロール、アスコルビン酸誘導体などの抗酸化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、局所刺激剤、毛包賦活剤、香料、色素、防菌防黴剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤、清涼剤などの一般的な育毛剤用添加物を任意に組合せて適宜、含有させることができる。さらにキレート化剤などの安定化剤、経皮吸収促進剤なども加えてよい。
本発明の育毛剤における、育毛剤全量に対する上記有効成分の添加量は、用いる有効成分の種類、形状、抽出処理の有無、抽出溶媒および抽出条件、抽出後の処理などにより異なるが、上記商品を特に処理せずにそのまま有効成分として用いる場合は、育毛剤全量に対して有効成分の最終濃度が通常0. 1〜10%となる量で配合する。
また、頭皮状態の正常化に有効とされる他の育毛促進成分を併用することにより、育毛・養毛効果の相乗作用を図ることもできる。この目的には、常用の血行促進剤、抗脂漏剤、角質溶解剤などがある。
本発明の育毛剤は、症状や体質に関わらず育毛を促進し、著しい抜毛の改善、治療、種々の脱毛症にも顕効を発揮する。また適用の主な対象は、ヒトの頭髪であるが、イヌ、ネコ、カナリヤ、インコといった愛玩動物の毛並み改善などにも使用できる。さらに毛を採取するか、毛皮を利用するメンヨウ、カシミヤ山羊、アルパカ、アンゴラウサギ、ミンク、キツネなどの動物にも適用して発育毛を促進し毛の色つやを良くすることで、毛または毛皮製品の品質を高める一助となる。
本発明の化粧料組成物における、化粧料全量に対する上記有効成分の添加量は、用いる有効成分の種類、形状、抽出処理の有無、抽出溶媒および抽出条件、抽出後の処理などにより異なるが、上記商品を特に処理せずにそのまま有効成分として用いる場合は、育毛剤全量に対して有効成分の最終濃度が通常0.001〜5%となる量で配合する。
本発明の化粧料組成物は、特に、頭髪および体毛の維持・伸長を目的とする化粧料に適する。
以下、本発明について実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこのような実施例にのみに限定されるものではない。
なお、特に断りがない限り、圧力条件は常圧(約0.1024MPa)とする。また、常温とは約25℃とする。
以下において、細胞培養用プレートのウェル内に添加した成分の構成に応じて、各ウェルを評価区ウェル、対照区ウェル、評価基準区ウェル、対照基準区ウェル、参考評価区ウェル、参考対照区ウェルおよびバックグラウンド測定区ウェルという用語を用いて表す。評価区ウェルとは、上記評価用毛乳頭細胞を得る細胞培養を行うウェルである。対照区ウェルとは、上記対照用毛乳頭細胞を得る細胞培養を行うウェルである。評価基準区ウェルとは、上記評価基準用毛乳頭細胞を得る細胞培養を行うウェルである。対照基準区ウェルとは、上記対照基準用毛乳頭細胞を得る細胞培養を行うウェルである。参考評価区ウェル、参考対照区ウェルは参考用のウェルである。バックグラウンド測定区ウェルとは、評価区ウェル、対照区ウェル、評価基準区ウェル、対照基準区ウェル、参考評価区ウェル、参考対照区ウェル内のアッセイ用細胞培養後の毛乳頭細胞の吸光度を求めるために、それらウェルの吸光度からバックグラウンドを差し引くために使用するウェルである。
また、下記実施例で用いた成分の詳細は、下記の通りである。
・DMEM培地:商品名 D-MEM High Glucose。和光純薬工業株式会社製。
・10%ウシ胎児血清:商品名 Certified Foetal Bovine Serum。Biological Industries社製。
・抗生物質:ペニシリン−ストレプトマイシン混液。和光純薬工業株式会社製。
・Wnt3a:商品名 Wnt3a murine recombinant。ペプロテック社製。
・GSK−3 Inhibitor IX:カルビオケム社製。
・塩化リチウム:シグマ社製。
・Cell Count Kit 8(商品名):株式会社同仁化学研究所製。
・ジエタノールアミン緩衝液:商品名 DEA Buffer Concentrate (10X)。和光純薬工業株式会社製。原液を精製水で10倍に希釈して使用した。
・p−ニトロフェニルリン酸:シグマ社製。
・ワレモコウエキス:ジユ抽出液-R。Sanguisorba officinalisの根茎部の50%エタノール水溶液抽出物。丸善製薬株式会社製。後述の表3に記載の最終濃度となるように、原液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・ツバキ種子エキスBG(商品名):Camellia japonica種子の50% 1,3-ブチレングリコール水溶液抽出物。日油株式会社製。後述の表3に記載の最終濃度となるように、原液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・β−グリチルレチン酸:丸善製薬株式会社製。100%エタノールを用いて濃度10mg/mlのストック溶液を作製し、後述の表3に記載の最終濃度となるように、ストック溶液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・ピーカンナッツエキスBG(商品名):Carya illinoensis種子殻の熱水成分固形分(熱水抽出して得られた抽出物中の固形分)を30% 1,3-ブチレングリコール水溶液に溶解したもの。日油株式会社製。後述の表4に記載の最終濃度となるように、原液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・ヒバマタ抽出液:商品名 カイソウ抽出液。Fucus vesiculosus全藻の50%エタノール水溶液抽出物。丸善製薬株式会社製。後述の表4に記載の最終濃度となるように、原液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・フィチン酸ナトリウム:シグマ社製。精製水を用いて濃度100mg/mlのストック溶液を作製し、後述の表4に記載の最終濃度となるように、ストック溶液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体:商品名 リピジュア−C。日油株式会社製。後述の表4に記載の最終濃度となるように、原液を後述のアッセイ用細胞培養用培地で適宜希釈して使用した。
・エタノール:小堺製薬株式会社製。濃度99.5%。
・オリーブスクワラン(商品名):スクワラン、高級アルコール工業株式会社製。
・オレイン酸オクチルドデシル:進栄化学株式会社製。
・トリオレイン酸ソルビタン:日油株式会社製。
・ベヘニルアルコール:東邦化学工業株式会社製。
・パラフィンワックス:日興リカ株式会社製。
・1,3−ブタンジオール:ダイセル化学工業株式会社製。
・防腐剤:メチルパラベン、みどり化学株式会社製。
・ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン塩:日油株式会社製。
・ラウリン酸ジエタノールアミド:日油株式会社製。
・ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:日油株式会社製。
・エチレングリコールジステアレート:日油株式会社製。
・ヒバマタ抽出液:商品名 カイソウ抽出液。丸善製薬株式会社製。
・カチオン化セルロース:商品名 カチナールHC-100。東邦化学工業株式会社製。
・安息香酸ナトリウム:DSP五協フード&ケミカル株式会社製。
・0.1%トリプシン:製造元:和光純薬工業株式会社。
・0.2%エチレンジアミン四酢酸:製造元:和光純薬工業株式会社。
[実施例1]毛乳頭細胞に対するWnt系活性化物質の反応
毛乳頭を採取するために、脱毛症ではない通常の毛髪成長を示す健常人(男性、32歳)の毛髪をピンセットを用いてつかみ、頭皮から引き抜いた。これにより、おおよそ100本に1本の割合で毛乳頭付の毛包が付着した毛髪を得ることができた。ピンセットを用いて毛乳頭付の毛包を該毛髪から分離して生理食塩水内に移し、顕微鏡下に移動した。顕微鏡下で、ピンセットとメスを用いて、毛包から毛乳頭のみを単離した。さらに、単離した毛乳頭2000cells/ウェルを35mmディッシュ(細胞培養皿)へ移動し、培地成分などを添加した原料用細胞培養用培地1〜2mlを加えて、細胞培養を開始した。該原料細胞培養用培地は、DMEM培地(該原料細胞培養用培地の約90%)、10%ウシ胎児血清(最終濃度:10%)、FGF2(最終濃度:10ng/ml)、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(最終濃度:1μg/ml)から構成されるものであり、ウェル内の合計容量は2mlであった。細胞培養は、37℃で14日間以上行った。初代培養では、毛乳頭からヒト毛乳頭細胞が広がり、該ヒト毛乳頭細胞が増殖した。ヒト毛乳頭細胞が35mmディッシュの面積の4割を占めるまで増殖したところで、次の継代培養を行った。継代培養は、一度細胞培養用培地を35mmディッシュから取り除き、35mmディッシュ内のヒト毛乳頭細胞を生理食塩水(室温保管時の温度)2mlで一度洗浄してから、該35mmディッシュ内に0.1%トリプシン、0.02%EDTA混合溶液1mlを加えて37℃で4分間放置し、該35mmディッシュから解離したヒト毛乳頭細胞を回収し、新たな100mmディッシュへ回収したヒト毛乳頭細胞を播種して、上記初代培養と同様の細胞培養条件で毛乳頭細胞の培養を繰り返し行った(但し、ヒト毛乳頭細胞が100mmディッシュの面積の7〜8割を占めるまで増殖したところで、次の継代培養を行った)。継代培養を繰り返すことでスクリーニングに対応できる細胞数のヒト毛乳頭細胞を得ることができた。以降の操作には、最後の継代培養後、上記のように生理食塩水で洗浄して100mmディッシュから解離して得たヒト毛乳頭細胞を使用した。
次いで、DMEM培地445mlに10%ウシ胎児血清50mlおよび抗生物質5mlを添加して得られたアッセイ用細胞培養用培地500mlに、上記の通り調製したヒト毛乳頭細胞5×105cellsを懸濁して、細胞懸濁液を得た。
次いで、96穴(ウェル)の細胞培養用プレート(ベクトン・ディッキンソン社製。以下同じ。)を用意し、ウェル内の成分構成が下記表1に示した成分構成となるように、各ウェルに細胞懸濁液およびWnt/β−カテニン経路活性化剤を添加し、評価区ウェルX1−1〜1−3および対照区ウェルX2を作成した。但し、評価区ウェルX1−1〜1−3への各成分の添加は、上記細胞培養用培地、Wnt/β−カテニン経路活性化剤を上記細胞培養用培地に溶かした活性化剤溶液、上記細胞懸濁液を、この順番で加えることで行った。対照区ウェルX2の場合は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤の添加を省略した以外は試験区と同様に行った。また、DMEM培地0.1mLのみを添加したバックグラウンド測定区ウェルも別途作成した。
このような細胞培養用プレートを用いて、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間、細胞培養を行った。
細胞培養終了後、各ウェルにCell Count Kit 8を10μl添加して、1時間発色反応を行なった。発色反応終了後の細胞培養用プレートを、マイクロプレートリーダー(商品名 マイクロプレートリーダー−680。バイオラッド社製。以下同じ。)に供して、評価区ウェルX1−1〜1−3、対照区ウェルX2およびバックグラウンド測定区ウェルの波長450nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。次いで、試験区ウェルの吸光度からバックグラウンド測定区の吸光度を減じた値を求めて評価区ウェルX1−1〜1−3のヒト毛乳頭細胞の吸光度(評価用毛乳頭細胞(X1)の細胞数)とし、対照区ウェルの吸光度からバックグラウンド測定区の吸光度を減じた値を求めて対照区ウェルX2のヒト毛乳頭細胞の吸光度(対照用毛乳頭細胞(X2)の細胞数)とした。そして、評価区ウェルX1−1〜1−3のヒト毛乳頭細胞の吸光度を、対照区ウェルX2のヒト毛乳頭細胞の吸光度を1とした時の相対値でそれぞれ表して、評価区ウェルX1−1〜1−3の細胞増殖度を評価した。
式で表せば、次の通りである.
細胞増殖度(a.u.)=(評価区ウェルの吸光度(450nm)−バックグラウンド測定区の吸光度(450nm))/(対照区ウェルの吸光度(450nm)−バックグラウンド測定区の吸光度(450nm))
次いで、96穴の細胞培養用プレート内の評価用毛乳頭細胞(X1)および対照用毛乳頭細胞(X2)を、生理食塩水(室温保管時の温度)100mLを用いて2回に分けて洗浄した後、洗浄後の評価用毛乳頭細胞(X1)および対照用毛乳頭細胞(X2)を−80℃で5分間凍結後、常温で約5分間かけて自然融解する操作を各ウェル内で3度繰り返した。次いで、各ウェル内に、1Mジエタノールアミン緩衝液を用いて調製したp−ニトロフェニルリン酸の溶液(濃度:1mg/ml)を100μl加えて、37℃で30分間反応を行った。反応終了後の細胞培養用プレートをマイクロプレートリーダーに供して、波長490nmにおける吸光度をウェル毎に測定した。細胞の含まれていない点のみ異なる成分構成のバックグラウンド測定区ウェルについても同様に、洗浄、融解、反応を行って、波長490nmにおける吸光度を測定した。次いで、評価区ウェルX1−1〜1−3の吸光度からバックグラウンド測定区の吸光度を減じた値を求めて評価区ウェルX1−1〜1−3のヒト毛乳頭細胞の吸光度とし、対照区ウェルX2の吸光度からバックグラウンド測定区の吸光度を減じた値を求めて対照区ウェルX2のヒト毛乳頭細胞の吸光度とした。そして、評価区ウェルX1−1〜1−3のヒト毛乳頭細胞の吸光度を、対照区ウェルX2のヒト毛乳頭細胞の吸光度を1とした時の相対値でそれぞれ表して、評価区ウェルX1−1〜1−3のALP活性を評価した。
式で表せば、次の通りである。
ALP活性値(a.u.)=(評価区ウェルの吸光度(490nm)−バックグラウンド測定区の吸光度(490nm))/(対照区ウェルの吸光度(490nm)−バックグラウンド測定区の吸光度(490nm))
また、上記評価区ウェルX1−1〜1−3および対照区ウェルX2のそれぞれについて、ALP活性値を上記細胞増殖度で除することで得られた細胞当りのALP活性値を求め、細胞当りのALP活性値を求めた。そして、評価区ウェルX1−1〜1−3の細胞当りのALP活性値を、上記対照区ウェルX2の細胞当りのALP活性値を1とした場合の相対値で表した値を用いて、ヒト毛乳頭細胞のALP活性に対するWnt/β−カテニン経路活性化剤の作用を評価した。
式で表せば、次の通りである。
細胞当たりのALP活性値(a.u./a.u.)=(評価区ウェルのALP活性値/評価区ウェルの細胞増殖度)/(対照区ウェルのALP活性値/対照区ウェルの細胞増殖度)
結果を下記表1および図1(a)〜(c)に示す。
Figure 0005342076
図8(a)〜(c)に示すように、Wnt系活性化物質であるWnt3a、GSK−3 Inhibitor IX、あるいは、塩化リチウムを添加した評価区ウェルX1−1〜1−3では、細胞当りのALP活性が、対照区ウェルX2の細胞当りのALP活性に比べて、2倍〜5倍高かった。
[実施例2]活性型毛乳頭細胞に対するFGF−5の反応
実施例1において、細胞懸濁液、Wnt/β−カテニン経路活性化剤に加えて、FGF−5、へパリンを用い、下記表2−1〜2−3に記載の通りにウェルの構成と各ウェル内の成分構成を変更した以外は、実施例1と同様の方法で細胞培養用プレートを作成し、評価区ウェルY1−1〜1−5、対照区ウェルY2−1〜2−3、参考評価区ウェル1、参考対照区ウェル1、およびバックグラウンド測定区ウェルが作成された細胞培養用プレートを得た。但し、評価区ウェルへの各成分の添加は、上記細胞培養用培地、Wnt/β−カテニン経路活性化剤を上記細胞培養用培地に溶かした活性化剤溶液、FGF−5・へパリン剤を上記細胞培養用培地に溶かした溶液、上記細胞懸濁液を、この順番で加えることで行った。参考評価区ウェル1の場合は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤の添加を省略した以外は評価区と同様に行い、参考対照区ウェル1の場合は、Wnt/β−カテニン経路活性化剤およびヘパリンの添加を省略した以外は評価区と同様に行った。また、上記各評価区Y1−1〜1−5、対照ウェルY2−1〜2−3、参考試験区1および参考対照区ウェル1の比較対照関係は、表2−1〜2−3の注釈に示した通りである。
次いで、得られた細胞培養用プレートを用いて、実施例1と同様の方法で、細胞培養、発色反応を行い、波長450nmにおける吸光度を上記ウェル毎に測定し、細胞増殖度を求め、評価区ウェルY1−1〜1−5、対照区ウェルY2−1〜2−3、参考評価区ウェル1、参考対照区ウェル1の細胞増殖度を評価した。
次いで、細胞増殖度を求めた後の細胞培養用プレートを用いて、実施例1と同様の方法で、ウェル内の細胞の洗浄、凍結、融解および反応を行った後、波長490nmにおける吸光度をウェル毎に測定し、評価区ウェルY1−1〜1−5、対照区ウェルY2−1〜2−3、参考評価区ウェル1、参考対照区ウェル1のALP活性値および細胞当りのALP活性値を求め、評価区ウェルY1−1〜1−5、対照区ウェルY2−1〜2−3、参考評価区ウェル1、参考対照区ウェル1のALP活性を評価した。
なお、参考評価区ウェル1および参考対照区ウェル1の細胞増殖度、ALP活性値および細胞当りのALP活性値は、実施例1の評価試験区ウェルの細胞増殖度、ALP活性値および細胞当りのALP活性値を求め方において、評価区ウェルを参考評価区ウェル1あるいは参考対照区ウェルに読み替えて行った。
結果を下記表2−1〜2−3および図9(a)〜(e)に示す。
Figure 0005342076
Figure 0005342076
Figure 0005342076
図9(a)〜(e)に示すように、FGF−5による細胞当りのALP活性の低下が全評価区で確認された。その中でも、Wnt系活性化物質である、Wnt3a、GSK−3 Inhibitor IX、または、塩化リチウムが添加された評価区Y1−1〜1−5では、FGF−5による細胞当りのALP活性がより顕著に低下していた。さらに、FGF−5と同時にへパリンを加えた評価区では、FGF−5による細胞当りのALP活性が大幅に低下していた(評価区Y1−4v.s.評価区Y1−5)。
[実施例3]活性型毛乳頭細胞およびFGF−5を併用したALP活性評価法のスクリーニング有効性の評価
実施例1において、細胞懸濁液、Wnt/β−カテニン経路活性化剤に加えて、FGF−5、へパリン、被験物質を用い、ウェルの構成と各ウェル内の成分構成を変更した以外は、ウェルの構成と各ウェル内の成分構成を下記表3に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で、評価区ウェルZ1−1〜1−25、評価基準区ウェルZ2−1〜2−5、対照区ウェルZ3−1〜3−25および対照基準区ウェルZ4−1〜4−5が作成された細胞培養用プレートを得た。但し、評価区ウェルへの各成分の添加は、被験物質を上記細胞培養用培地に溶かした溶液、Wnt/β−カテニン経路活性化剤を上記細胞培養用培地に溶かした活性化剤溶液、FGF−5・へパリン剤を上記細胞培養用培地に溶かした溶液、上記細胞懸濁液を、この順番で加えることで行った(被懸物質を用いない場合は被懸物質を省略した)。対照区ウェルの場合は、FGF−5の添加を省略した以外は評価区と同様に行った。
次いで、得られた細胞培養用プレートを用いて、実施例1と同様の方法で、細胞培養、発色反応を行い、波長450nmにおける吸光度をウェル毎に測定し、細胞増殖度を求め、試験区ウェルの細胞増殖度を評価した。
次いで、細胞増殖度を求めた後の細胞培養用プレートを用いて、実施例1と同様の方法で、ウェル内の細胞の洗浄、凍結、融解および反応を行った後、波長490nmにおける吸光度をウェル毎に測定し、各評価区ウェル、評価基準区ウェル、対照区ウェルおよび対照基準区のALP活性値および細胞当りのALP活性値を求めた。
さらに、試験区ウェル及び対照区ウェルにおいて、被験物質を添加した態様の細胞当りのALP活性値を、被験物質を添加していないウェル(評価基準区ウェルおよび対照基準区)の細胞当りのALP活性値を100%とした場合の相対値を求めた(便宜上百分率で表すが、細胞当りのALP活性値を1とした場合の相対値で表しても同じ評価結果である)。
式で表せば、次の通りである。
細胞当りのALP活性率(%)=(被験物質を添加した態様の細胞当りのALP活性値)/(被験物質を添加していない態様の細胞当りのALP活性値)
そして、試験区ウェルの被験物質の添加量に対する細胞当たりのALP活性率の変化と対照区ウェルの被験物質の添加量に対する細胞当たりのALP活性率の変化とを比較することにより、被験物質のFGF−5に対する作用(阻害効果や促進効果)を評価した。結果を下記表3−1〜3−4および図10(a)〜(d)に示す。
Figure 0005342076
Figure 0005342076
Figure 0005342076
Figure 0005342076
上記評価の結果、評価区ウェル(FGF−5添加)の細胞当たりのALP活性率と対照区ウェル(FGF−5不添加)の細胞当たりのALP活性率とが同様に変化している場合は、細胞当たりのALP活性率の変化にFGF−5の有無は関与せず、ALP活性率は被験物質の添加量に応じて変化していると考えられる。
評価区ウェル(FGF−5添加)の細胞当たりのALP活性率が対照区ウェル(FGF−5不添加)の細胞当たりのALP活性率を下回る場合は、被験物質の添加量以外にも、細胞当たりのALP活性率を低下させる因子が存在することを示していると考えられる。評価区ウェルと対照区ウェルの相違はFGF−5の有無であるので、評価区ウェルの細胞当たりのALP活性率が対照区ウェルの細胞当たりのALP活性率に比べて低下するのは、被験物質がFGF−5の細胞当たりのALP活性を低下させる作用を促進しているためと考えられる。
評価区ウェル(FGF−5添加)の細胞当たりのALP活性率が対照区ウェル(FGF−5不添加)の細胞当たりのALP活性率を上回る場合は、被験物質の添加量以外にも、細胞当たりのALP活性率の低下を抑制する因子が存在することを示していると考えられる。評価区ウェルと対照区ウェルの相違はFGF−5の有無であるので、評価区ウェルの細胞当たりのALP活性率の低下が対照区ウェルの細胞当たりのALP活性率の低下に比べて抑制されるのは、被験物質が細胞当たりのFGF−5のALP活性率の低下を抑制しているためと考えられる。
図3に示すように、一般に育毛剤成分の溶剤として用いられるエタノールでは、FGF−5を添加した評価区ウェルの細胞当たりのALP活性率は、FGF−5を添加していない対照区ウェルの細胞当たりのALP活性率に対して、有意な変化はみられなかった。即ち、エタノールはFGF−5による毛乳頭細胞のALP活性の低下に対して影響を与えていない(FGF−5を阻害していない)ことが示された。
また、発毛・育毛効果が従来認められていないツバキ種子エキスでは、FGF−5を添加した評価区ウェルの細胞当たりのALP活性値は、FGF−5を添加していない対照区ウェルの細胞当たりのALP活性率に対して、ほとんど差が無いか、または、FGF−5を添加していない評価区ウェルの細胞当たりのALP活性率よりも低下する傾向があった。即ち、ツバキ種子エキスは、FGF−5による毛乳頭細胞のALP活性の低下に対して影響を与えていない(FGF−5を阻害しない)か、または、FGF−5による毛乳頭細胞のALP活性の低下を促進する(FGF−5の補助剤として作用する)という傾向にあることが示された。
さらに、育毛剤にはよく配合されるが育毛や発毛効果のない抗炎症剤であるβ−グリチルレチン酸についても、FGF−5を添加した評価区ウェルのALP活性値は、FGF−5を添加していない対照区ウェルのALP活性率に対して、変化に差がなかった。即ち、β−グリチルレチン酸では、FGF−5によるALP活性の低下に対する育毛や発毛効果(FGF−5阻害効果)は見出されなかった。
これに対して、育毛効果を有する成分として知られるワレモコウエキスでは、FGF−5を添加した評価区ウェルのALP活性値は、FGF−5を添加していない陰性対照区ウェルのALP活性率に対して、明らかに高かった。即ち、FGF−5によるALP活性の低下を緩和する(FGF−5の阻害剤として働く)ことが示された。
以上より、本発明の第三の生化学的評価法を利用したスクリーニング方法により、細胞増殖因子の生化学的作用に影響を及ぼす物質をスクリーニングできることが実証された。
[実施例4]活性型毛乳頭細胞およびFGF−5を併用したALP活性評価法のスクリーニング有効性の評価
実施例3において、被験物質を下記表4に記載の通り変更した以外は、実施例3と同様の方法で、各種評価を行った。結果を下記表4−1〜4−4および図11(a)〜(d)に示す。
Figure 0005342076
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Figure 0005342076
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図11に示すように、ピーカンナッツエキスBG、カイソウ抽出液、フィチン酸ナトリウム、及び、リピジュア―Cは、いずれも、FGF−5を添加した評価区ウェルのALP活性率が、FGF−5を添加していない対照区ウェルのALP活性率に対して明らかに高かった。即ち、これら4被験物質はFGF−5によるALP活性の低下を緩和する(FGF−5の阻害剤として働く)ことが示された。
上記4被験物質は、FGF−5の生化学的作用に対する影響が知られていない物質であるが、本発明の第三の生化学的評価法を利用したスクリーニング方法により、FGF−5の生化学的作用に影響を及ぼす物質として確認・検出することができた。
[実施例5]育毛料
まず、下記に示したA相とB相の各配合成分を、A相、B相毎に別々の撹拌槽に仕込んで、A相は65℃で20分間、B相は40℃で10分間の条件でそれぞれ攪拌して、各配合成分を溶解し、A相とB相を調製した。
得られたA相、B相を45℃に温度調節し、A相全量、B相全量をホモディスパーを用いて45℃で30分間撹拌しながら混合して乳化させた。続いて、室温で30分間上記混合物を攪拌後、C相を添加してさらに5分間撹拌してクリーム状の養毛料を得た。
(A相):
配合成分と配合量(重量%。但し、最終的に得られるクリーム状の養毛料の量を100重量%とする。):
オリーブスクワラン 10.0、オレイン酸オクチルドデシル 7.0、トリオレイン酸ソルビタン 3.0、ベヘニルアルコール 3.0、パラフィンワックス 3.0。
(B相):
配合成分と配合量(重量%。但し、最終的に得られるクリーム状の養毛料の量を100重量%とする。):
1,3−ブタンジオール 5.0、フィチン酸ナトリウム 1.0、防腐剤 0.5、精製水67。
(C相):
配合成分と配合量(重量%。但し、最終的に得られるクリーム状の養毛料の量を100重量%とする。):
香料 0.5。
[実施例6]育毛シャンプー
配合成分 配合量(重量%。但し、最終的に得られる育毛シャンプーを100重量%とする。):
ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン塩 10.0、ラウリン酸ジエタノールアミド 5.0、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン 5.0、エチレングリコールジステアレート 3.0、1,3−ブタンジオール 2.0、ヒバマタ抽出液 1.0、ピーカンナッツ抽出液 1.0、カチオン化セルロース 0.5、安息香酸ナトリウム 0.5、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの共重合体 0.3、香料0.5、精製水 残量。
上記配合成分を撹拌槽に仕込み、65℃で30分間混合し、その後、さらに30分間室温で撹拌しながら放冷し、パール感のある育毛シャンプーを得た。
本発明によれば、医薬・化粧料等の用途で幅広く利用されている細胞増殖因子の作動薬あるいは阻害剤の開発が円滑になる。特に、発毛促進剤、育毛剤、あるいは各細胞増殖因子が原因として発生する悪性新生物の治療薬や創傷治癒薬の開発に好適である。さらに本発明で見出された活性物質を有効成分とするFGF阻害薬、あるいは、髪の成長期を延長させる育毛剤を効率的に製造することが可能となる。

Claims (5)

  1. (Z1)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)、細胞増殖因子(C)被験物質(D)およびヘパリンの存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価用毛乳頭細胞と、
    (Z2)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)細胞増殖因子(C)およびヘパリンの存在下かつ被験物質(D)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価基準用毛乳頭細胞と、
    (Z3)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)被験物質(D)およびヘパリンの存在下かつ細胞増殖因子(C)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価対照用毛乳頭細胞と、
    (Z4)Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)およびヘパリンの存在下かつ細胞増殖因子(C)および被験物質(D)の非存在下で毛乳頭細胞(A)を細胞培養して得られる被験物質評価対照基準用毛乳頭細胞とを調製し、
    被験物質評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、被験物質評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、被験物質評価対照用毛乳頭細胞(Z3)および対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、ALP活性値を測定し、
    上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)のALP活性値に対する評価用毛乳頭細胞(Z1)のALP活性値と、
    上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のALP活性値に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)のALP活性値とを比較することで、
    被験物質(D)が、細胞増殖因子(C)の作用に対して与える影響を評価する生化学的評価方法であって、
    上記Wnt/β−カテニン経路活性化剤(B)は、GSK3 InhibitorおよびWnt3aからなる群より選択される少なくとも1種であり、
    上記細胞増殖因子(C)はFGF−5であることを特徴とする生化学的評価方法。
  2. 上記被験物質(D)の量を変えて、上記評価用毛乳頭細胞(Z1)および対照用毛乳頭細胞(Z3)をそれぞれ少なくとも2種調製し、
    各上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、各上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、ALP活性値を測定し、
    被験物質(D)の量の変化に依存した、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)のALP活性値に対する上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)のALP活性値の変化と、
    被験物質(D)の量の変化に依存した、上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のALP活性値に対する上記対照用毛乳頭細胞(Z3)のALP活性値の変化とを
    比較することを特徴とする請求項に記載の生化学的評価方法。
  3. 上記評価用活性化毛乳頭細胞(Z1)、上記評価基準用毛乳頭細胞(Z2)、上記対照用毛乳頭細胞(Z3)および上記対照基準用毛乳頭細胞(Z4)のそれぞれについて、ALP活性値とともに細胞増殖度を測定し、上記比較におけるALP活性値を、ALP活性値を細胞増殖度で除することにより求められる細胞当たりのALP活性値に換算することを特徴とする請求項1または2に記載の生化学的評価方法。
  4. ヒト由来の正常毛乳頭細胞を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生化学的評価方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の生化学的評価方法による試験を実施し、毛乳頭細胞(A)の成長期の延長または退行期への移行遅延の効果を有する育毛活性物質を見出すことを特徴とするスクリーニング方法。
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