以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、あるいはいわゆる均等の範囲のものが含まれる。なお、本発明は、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速を実行する自動変速装置、及びこのような自動変速装置を搭載する車両に対して好適である。
(参考例)
参考例は、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速において、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフト要求が発生した場合には、自動変速装置が備える摩擦係合手段に対する油圧制御状態、自動変速装置へ入力される内燃機関のトルクに基づいて、自動変速装置の変速段を変更する点に特徴がある。次に、参考例に係る変速制御装置によって制御される車両の構成例を説明する。以下の説明において、ダウンシフトとは、自動変速装置の変速段を、現状よりも変速比の大きい変速段へ変更することをいう。また、アップシフトとは、自動変速装置の変速段を、現状よりも変速比が小さい変速段へ変更することをいう。また、変速制御は、自動変速装置の変速段を切り替える際の制御である。
図1は、参考例に係る変速制御装置を備える車両の構成を示す概念図である。車両1は、内燃機関2を動力発生手段としており、内燃機関2が発生した動力が、自動変速装置3を介して駆動輪である左側後輪9RL及び右側後輪9RRへ伝達されることにより走行する。この実施形態において、内燃機関2はガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式内燃機関であるが、内燃機関2はこれに限定されるものではない。内燃機関2は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式内燃機関であってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式内燃機関であってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。内燃機関2は、ECU(Electronic Control Unit)100が備える機関制御装置20によって機関回転数やトルク(出力)が制御される。
動力発生手段である内燃機関2は、車両1の進行方向(図1中の矢印Y方向)前方に搭載されて、自動変速装置3、プロペラシャフト7、デファレンシャルギヤ8を介して、左側後輪9RL及び右側後輪9RRを駆動する。左側前輪9FL及び右側前輪9FRは、車両1の操舵輪となる。このように、車両1は、いわゆるFR(Front engine Rear drive)の駆動形式を採用する。なお、参考例に係る変速制御は、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速を実行する自動変速装置を介して動力発生手段の動力が駆動輪へ伝達される車両であれば、駆動形式に関わらず適用できる。
図2は、参考例に係る車両が備える動力伝達系の構成を示す概略図である。図2に示すように、自動変速装置3は、トルクコンバータ4、油圧制御装置5及び変速装置6を含んで構成される。内燃機関2が発生する動力は、トルクコンバータ4を介して変速比可変手段である変速装置6に入力されて、ここで車両1の走行条件に応じて選択された変速比で回転数が変更される。
この実施形態において、変速装置6は複数の変速要素である遊星歯車装置G1、G2と、複数の摩擦係合手段(入力部クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、B2、B3)とを組み合わせて構成される多段式の変速装置である。ここで、ブレーキは、変速装置6の筐体に取り付けられる摩擦係合手段であり、クラッチは、変速装置6の筐体ではなく、回転軸に取り付けられる摩擦係合手段である。なお、変速装置6が備える変速要素や摩擦係合手段の数は、自動変速装置3の仕様に応じて適宜変更することができる。
油圧制御装置5は、それぞれの摩擦係合手段へ供給する制御油の油圧を調整する摩擦係合手段用油圧調整手段として、ソレノイドバルブSLを備えている。油圧制御装置5は、各摩擦係合手段を動作させるための油圧を発生し、所定の摩擦係合手段へ配分するとともに、摩擦係合手段に供給する制御油の油圧を調整する機能を有する。
内燃機関2の出力軸(機関出力軸)2Sは、トルクコンバータ4の入力側に接続されている。また、トルクコンバータ4の出力側には、変速装置6の入力軸(変速装置入力軸)6SIが接続されている。これによって、内燃機関2が発生する動力は、トルクコンバータ4を介して自動変速装置3の変速装置6へ入力される。
上述したように、変速装置入力軸6SIの一方はトルクコンバータ4の出力側に接続され、もう一方は、変速装置6が備える入力部クラッチC1に接続される。車両1の走行時には、入力部クラッチC1が係合して、トルクコンバータ4を介して入力される内燃機関2の動力を、変速装置6へ伝達する。また、変速レンジのニュートラルが選択された場合、入力部クラッチC1は解放され、内燃機関2の動力は変速装置6へ伝達されない。
入力部クラッチC1を介して変速装置6へ入力された内燃機関2の動力は、変速装置6の変速要素によって回転数及びトルクの大きさが変更されて、出力軸(変速装置出力軸)6SEから出力される。変速装置出力軸6SEは車両1(図1)のプロペラシャフト7に接続されており、変速装置6からの出力は、プロペラシャフト7を介して車両1の駆動輪(左側後輪9RL及び右側後輪9RR)へ伝達される。
この変速装置6は、変速要素である遊星歯車装置G1、G2の回転要素(キャリアやリングギヤ)を、摩擦係合手段であるブレーキB1、B2等によって停止させ、また、内燃機関2の動力を入力する変速要素の回転要素を摩擦係合手段であるクラッチC2によって切り替えることにより、変速比が変更できる。そして、停止させる回転要素の組み合わせを変更することにより、変速段を変更する。
自動変速装置3は、この実施形態に係る変速制御装置30によって変速段の変更動作が制御される。変速制御装置30は、ECU100に備えられる。ECU100には、内燃機関2の制御に用いる情報を取得するためのエアフローセンサ44や機関回転数センサ43、自動変速装置3の制御に用いる情報を取得するための変速装置入力軸回転数センサ40、変速装置出力軸回転数センサ41、アクセル開度センサ42が接続される。変速制御装置30は、上記センサ類から取得する情報に基づいて自動変速装置3の油圧制御装置5を動作させ、自動変速装置3の変速段を変更する。これによって、適切な変速比を選択して車両1を走行させることができる。
図2に示すように、この実施形態では、ECU100内に、内燃機関2を制御する機関制御装置20と、自動変速装置3を制御する変速制御装置30と備える。そして、機関制御装置20と変速制御装置30とは、互いに接続されており、両者間で相互に制御データをやり取りしたり、相互に制御指令を発信したりすることができる。これにより、機関制御装置20と変速制御装置30とは、それぞれの運転制御情報を取得し、制御に利用したり、一方の制御を他方の制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。また、機関制御装置20と変速制御装置30との間で協調制御を行うこともできる。なお、機関制御装置20と変速制御装置30とを別個に用意して、通信手段を介して両者を接続してもよい。
図3は、参考例に係るECUの構成を示す説明図である。ECU100が備える機関制御装置20及び変速制御装置30は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)で構成される。機関制御装置20と変速制御装置30とは、データバス101aによって接続されて、相互に通信できるようになっている。ECU100は、機関制御装置20及び変速制御装置30が制御に必要な情報を取得するために、入力ポート102及び入力インターフェース103を備える。また、機関制御装置20及び変速制御装置30が制御対象を動作させるため、出力ポート104及び出力インターフェース105を備える。機関制御装置20及び変速制御装置30と、入力ポート102とは、データバス101b、101cによって接続される。また、機関制御装置20及び変速制御装置30と、出力ポート104とは、データバス101d、101eによって接続される。
入力ポート102には、入力インターフェース103が接続されている。入力インターフェース103には、変速装置入力軸回転数センサ40、変速装置出力軸回転数センサ41、アクセル開度センサ42、機関回転数センサ43、エアフローセンサ44、車速センサ45その他の、内燃機関2の制御や自動変速装置3の制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。
これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース103内のA/Dコンバータ103aやディジタル入力バッファ103bにより、機関制御装置20及び変速制御装置30が利用できる信号に変換されて入力ポート102へ送られる。これにより、機関制御装置20及び変速制御装置30は、内燃機関2や自動変速装置3の制御や、この実施形態に係る変速制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート104には、出力インターフェース105が接続されている。出力インターフェース105には、自動変速装置が備える油圧制御装置5その他の制御対象が接続されている。出力インターフェース105は、制御回路105a、105b等を備えており、機関制御装置20及び変速制御装置30で演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。
図3に示すように、参考例に係る変速制御装置30は、変速段変更条件判定部31と、変速段変更実行部32と、記憶部33とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る変速制御を実行する部分となる。変速段変更条件判定部31は、自動変速装置の制御に必要な情報を取得するセンサ類から取得した情報に基づき、自動変速装置の変段を変更するタイミング、変更可否を決定する。変速段変更実行部32は、変速段変更条件判定部31の決定を受けて、自動変速装置の油圧制御装置5を作動させ、変速段の変更を実行する。ここで、変速段変更条件判定部31と変速段変更実行部32と記憶部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成されている。
記憶部33には、この実施形態に係る変速制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ等が格納されている。ここで、記憶部33は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。なお、上記コンピュータプログラムは、変速制御装置30が既に備えているコンピュータプログラムと組み合わせることによって、この実施形態に係る変速制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、変速段変更条件判定部31及び変速段変更実行部32の機能を実現するものであってもよい。次に、クラッチトゥクラッチ変速を説明する。
図4−1は、クラッチトゥクラッチ変速を実行する摩擦係合手段の説明図である。図4−2は、クラッチトゥクラッチ変速時における摩擦係合手段の油圧変化を示す概念図である。図4−3は、参考例に係る自動変速装置が備えるソレノイドバルブの出力油圧と制御電流との関係を示す説明図である。
クラッチトゥクラッチ変速は、変速段の変更前後における変速段を実現する摩擦係合手段の係合及び解放を行うことにより、変速段を変更する変速手法である。例えば、図4−1に示すクラッチC2(摩擦係合手段)を係合してブレーキB1(摩擦係合手段)を解放すると4段が選択でき、ブレーキB1を係合してクラッチC2を解放すると5段が選択できるとする。この場合、4段から5段への変速は、係合しているクラッチC2を解放し、解放しているブレーキB1を係合する。また、5段から4段への変速は、係合しているブレーキB1を解放し、解放しているクラッチC2を係合する。クラッチトゥクラッチ変速は、ワンウェイクラッチが不要になるため、自動変速装置の小型化、軽量化を実現できるという利点がある。
ポンプPuから油圧配管FLに吐出された制御油は、クラッチコントロールバルブCCV2を介してクラッチC2へ、またブレーキコントロールバルブBCV1を介してブレーキB1へ供給される。ECU100の変速制御装置30から発信される制御信号によって制御されるソレノイドバルブSL1、SL2の出力油圧により、CCV2、BCV1を制御して、クラッチC2及びブレーキB1の油圧をそれぞれ直接制御する。これによって、クラッチC2及びブレーキB1を係合、解放する。
ソレノイドバルブSL1、SL2は、自動変速装置3の油圧制御装置5(図2参照)に備えられており、ソレノイドバルブSL1、SL2の出力油圧は、それぞれトランスミッションソレノイドS1、S2で供給先のCCV、BCVを切り替えることができる。これによって、他の変速段に変速する場合には、ソレノイドバルブSL1、SL2の出力油圧の供給先を、変速しようとする変速段に対応する摩擦係合手段のコントロールバルブへ変更して、対応する摩擦係合手段を作動させる。変速制御装置30は、センサ類(変速装置入力軸回転数センサ40、変速装置出力軸回転数センサ41等、図2、図3参照)Sから取得した情報に基づき、ソレノイドバルブSL1、SL2及びトランスミッションソレノイドS1、S2を制御する。
なお、トランスミッションソレノイドS1、S2を用いず、それぞれの摩擦係合手段に対して個別にソレノイドバルブを接続して、一つの摩擦係合手段は一つのソレノイドバルブによって制御してもよい。このようにすれば、摩擦係合手段を変更する際に、トランスミッションソレノイドS1、S2による切り替えが不要になるので、変速の応答を向上させることができる。
図4−2は、クラッチC2を解放し、ブレーキB1を係合する場合、すなわち、4段から5段へアップシフトする場合の油圧変化、及び内燃機関2(図1、図2)の機関回転数NEの時間変化を示している。点線がクラッチC2の油圧変化を示し、実線がブレーキB1の油圧変化を示す。また、一点鎖線が機関回転数NEの変化を示す。図4−2に示すように、ダウンシフトの場合は、クラッチC2の油圧を徐々に低下させてクラッチC2を徐々に解放しつつ、ブレーキB1の油圧を徐々に上昇させてブレーキB1を徐々に係合する。これによって、4段から5段へのアップシフトが実現できる。
この実施形態では、摩擦係合手段用油圧調整手段として用いるソレノイドバルブSL1、SL2は、リニアソレノイドバルブである。すなわち、ソレノイドバルブSL1、SL2の出力油圧Peを変更することによって摩擦係合手段に供給される油圧を調整し、これによって、摩擦調整手段の係合力を調整する。したがって、前記出力油圧Peが分かれば、摩擦係合手段に供給される油圧を把握することができる。図4−3に示すように、リニアソレノイドバルブの出力油圧Peは、制御電流Isに対してほぼ比例する。このため、制御電流Isから前記出力油圧Peを求めることができるので、摩擦係合手段に供給される油圧を把握することができる。
この実施形態に係る変速制御では、摩擦係合手段に供給される油圧を制御パラメータとして用いるが、ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)SL1、SL2の制御電流Isから摩擦係合手段に供給される油圧を求める。なお、例えば圧力センサによって、摩擦係合手段に供給される油圧を直接測定してもよい。
ここで、複数(3段以上)の変速段でクラッチトゥクラッチ変速を実行できる自動変速装置においては、ダウンシフト時の解放側、係合側における摩擦係合手段や、アップシフト時の解放側、係合側における摩擦係合手段は、特定の摩擦係合装置を指すものではない。すなわち、ダウンシフト時の解放側、係合側における摩擦係合手段や、アップシフト時の解放側、係合側における摩擦係合手段は、変速段を変更する際における変速段間同士の関係に応じて変更される。次に、参考例に係る変速制御を説明する。なお、次の説明では、適宜図1〜図4−3を参照されたい。
図5は、参考例に係る変速制御の手順を示すフローチャートである。参考例に係る変速制御は、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速において、動力発生手段(内燃機関2)の出力増加によるダウンシフト(パワーオンダウンシフト)中に動力発生手段の出力低下によるアップシフト(パワーオフアップシフト)要求が発生した場合には、自動変速装置3の変速状態、自動変速装置3へ入力される内燃機関2のトルク、及び自動変速装置3への入力回転数(変速装置入力軸6SIの回転数)に基づいて、自動変速装置3の変速段を変更するものである。
参考例に係る変速制御は、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフト要求が発生した場合に実行される。例えば、車両1の走行中に車両1のアクセル42Pを踏み込み、内燃機関2の出力を増加させようとすると(パワーオン)、車両1に対する加速要求があると判断されて、自動変速装置3は変速比がより大きい変速段へ変更される(ダウンシフト)する。この変速段の変更を、パワーオンダウンシフトという。また、パワーオンダウンシフト中とは、変速制御装置30から自動変速装置3に対して変速指令を発信してから、変速が完了するまでの間をいう。したがって、自動変速装置3の摩擦係合手段が実際の係合動作や解放動作に入っていなくてもよい。
パワーオンダウンシフトの実行中にアクセル42Pを戻し、内燃機関2の出力を低下させようとすると(パワーオフ)、車両1に対する加速要求が解除されたと判断されて、自動変速装置3は変速比がより小さい変速段へ変更される(アップシフト)する。例えば、車両1の加速中、進行方向前方に障害物が現れたような場合には、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフト要求が発生する。ここで、パワーオフ時におけるアップシフトを、パワーオフアップシフトという。
参考例に係る変速制御を実行するにあたり、変速制御装置30の変速段変更条件判定部31は、自動変速装置3がパワーオンダウンシフト中であるか否かを判定する(ステップS101)。この判定は、アクセル開度センサ42から取得したアクセル42Pの開度情報や車速センサ45から取得した車両1の速度等に基づいて変速段変更条件判定部31が判定する。自動変速装置3がパワーオンダウンシフト中でない場合(ステップS101:No)、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。
自動変速装置3がパワーオンダウンシフト中である場合(ステップS101:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフトの要求があり、かつ、パワーオンかパワーオフかを判定する(ステップS102)。これは、変速段変更条件判定部31が、アクセル開度センサ42から取得したアクセル開度に基づいて判定する。例えば、自動変速装置3がパワーオンダウンシフトを実行している最中に、アクセル42Pが完全に戻された場合は、アップシフトの要求かつパワーオフであると判定される(パワーオフアップシフトの要求)。また、例えば、自動変速装置3がパワーオンダウンシフトを実行している最中に、アクセル42Pが戻されたものの、まだアクセル42Pの踏み込みが残っている場合には、アップシフトの要求かつパワーオンであると判定される(パワーオンアップシフトの要求)。
アップシフトの要求かつパワーオンである場合、すなわちパワーオンアップシフトの要求がある場合(ステップS102:Yes)、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。アップシフトの要求かつパワーオフである場合、すなわちパワーオフアップシフトの要求がある場合(ステップS102:No)、変速段変更条件判定部31は、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_D)と、設定した油圧制御モード(M_DS)とを比較する(ステップS103)。ダウンシフト解放側における摩擦係合手段は、例えば、図4−1で説明した例において、5段から4段にダウンシフトする場合のブレーキB1が相当する。ここで、ダウンシフトにおける摩擦係合手段の油圧制御モードを説明する。
図6−1、図6−2は、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードの一例を示す説明図である。図6−2中の数字は、図6−1の油圧制御モードを示す数字に対応する。また、図6−2の実線が摩擦係合手段の油圧を示し、一点鎖線が内燃機関2の機関回転数NEを示す。自動変速装置3のダウンシフト時(例えば、5速から4速へのダウンシフトや、7速から3速へのダウンシフト)においては、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段は、図6−1に示すような油圧制御モード1〜油圧制御モード5までの制御を経て、係合状態から解放状態へ移行する。
まず、油圧制御モード1はクイックドレンモードであり、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を解放し、低下させる。油圧制御モード2は第1定圧待機モードであり、低下させたダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を、一定の圧力で所定時間維持する。油圧制御モード3は第1スイープ制御モードであり、第1定圧待機モードで保持しているダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を、徐々に低下させる。油圧制御モード4はFB(フィードバック)制御モードであり、自動変速装置3へ入力される内燃機関2の機関回転数、すなわち自動変速装置3を構成する変速装置6の変速装置入力軸6SIへ入力される回転数をフィードバックしながら、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧が解放時の圧力になるように制御する。油圧制御モード5は終了制御モードであり、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を解放時の圧力として、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の係合を解除する。
この実施形態において、上記ステップS103において設定する油圧制御モードは、上述した油圧制御モード1〜油圧制御モード5のうち、油圧制御モード2とする。ステップS103において、変速段変更条件判定部31は、例えば、変速段変更実行部32が自動変速装置3の油圧制御装置5に対して発信する制御信号を取得して、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードを判定する。
このように、この実施形態においては、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードにより、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御状態を判定する。そして、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御状態に基づいて、アップシフトやダウンシフトを実行する。これによって、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速における変速ショックを抑制できる。
油圧制御モード2を判定基準とすることにより、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段が係合している状態で制御を開始するので、内燃機関2の吹け上がりを確実に抑制して、変速ショックを抑制し、滑らかな変速が実現できる。なお、判定基準とする油圧制御モードは、油圧制御モード2に限られるものではない。例えば、油圧制御モード3とすれば、それだけ判定時間が長くなるので、アップシフトを実行できる可能性が高くなる。パワーオフのときには、エンジンブレーキを低減するため、できるだけアップシフトをさせたいという要請があるが、判定基準を油圧制御モード3とすれば、これを実現できる可能性が高くなる。また、学習制御によって、判定基準とする油圧制御モードを変更してもよい。
ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_D)が、設定した油圧制御モード(M_DS)である油圧制御モード2(第1定圧待機モード)以前である場合(ステップS103:Yes)、変速段変更条件判定部31は、自動変速装置3に入力される内燃機関2のトルクTiが、予め定めた設定値Tic以下であるか否かを判定する(ステップS104)。ここで、自動変速装置3に入力される内燃機関2のトルクTiは、自動変速装置3を構成する変速装置6の変速装置入力軸6SIへ入力されるトルクである(以下同様)。内燃機関2のトルクTiは、例えば、エアフローセンサ44から取得した内燃機関2の吸入空気量から求めた内燃機関2の負荷(負荷率)、及び機関回転数センサ43から取得した機関回転数に基づいて算出する。また、内燃機関2の出力軸2Sから、トルクセンサ等によって実測することにより、内燃機関2のトルクTiを求めてもよい。
この後に実行しようとするパワーオフアップシフトでは、アップシフト解放側における摩擦係合手段を解放し、内燃機関2の機関回転数NEが低下してきたところでアップシフト係合側における摩擦係合手段を係合させる。このため、内燃機関2のトルクが大きいと、アップシフト解放側における摩擦係合手段を解放したときに、内燃機関2の機関回転数が急上昇し、違和感や変速ショックが発生するおそれがある。したがって、アップシフト解放側における摩擦係合手段を解放したときに、内燃機関2の機関回転数が急上昇しない程度まで内燃機関2のトルクが低下してから、アップシフトを実行する。
Ti>Ticである場合(ステップS104:No)、アップシフトさせるためには内燃機関2のトルクが大きい。このため、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。Ti≦Ticである場合(ステップS104:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフトが実行できると判定し(ステップS105)、変速段変更実行部32に対してアップシフト指令を発信する。
変速段変更実行部32はこのアップシフト指令を受けて、アップシフトしようとする変速段に対応する摩擦係合手段を係合及び解放する。変速段変更実行部32は、自動変速装置3の油圧制御装置5へ、アップシフト係合側の摩擦係合手段を係合させ、また、アップシフト解放側における摩擦係合手段を解放させる指令を発信する。これによって、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフトの要求があった場合には、アップシフト係合側及びアップシフト解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制された滑らかな変速が実現できる。次に、ステップS103に戻って説明する。
ダウンシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_D)が設定した油圧制御モード(M_DS)である油圧制御モード2(第1定圧待機モード)よりも後である場合(ステップS103:No)、変速段変更条件判定部31は、入力切替用摩擦係合手段が制御中であるか否かを判定する(ステップS106)。この実施形態に係る自動変速装置3は、内燃機関2からの入力部を2系統有しており、例えば、第1の入力部で1段から5段までを変速し、第2の入力部で6段以上を変速する。入力切替用摩擦係合手段は、内燃機関2からの入力を、第1の入力部又は第2の入力部のいずれか一方に変更するものである。
入力切替用摩擦係合手段が制御中である場合(ステップS106:Yes)、すなわち、パワーオンダウンシフト中に入力切替用摩擦係合手段が制御中である場合、変速段変更条件判定部31は、ダウンシフト後における変速段の同期差回転数ΔNdsが、予め定めた設定値ΔNdsc以上であるか否かを判定する(ステップS107)。これは、パワーオンダウンシフトの変速進行度を確認するためである。ここで、ダウンシフト後における変速段の同期差回転数ΔNdsは、式(1)で求めることができる。
ΔNds=|Nti−ρd×Nte|・・(1)
Ntiは、自動変速装置3を構成する変速装置6の変速装置入力軸6SI(図2参照)の回転数(変速装置入力軸回転数)であり、Nteは、変速装置出力軸6SE(図2参照)の回転数(変速装置出力軸回転数)である。また、ρdは、ダウンシフト後における変速段の変速比(当該変速段としたときの変速装置入力軸回転数/変速装置出力軸回転数)である。なお、変速装置入力軸回転数Ntiは、変速装置入力軸回転数センサ40で計測され、変速装置出力軸回転数Nteは、変速装置出力軸回転数センサ41で計測される(以下同様)。
ΔNds<ΔNdscである場合(ステップS107:No)、パワーオンダウンシフトの変速進行度は大きいので、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。ΔNds≧ΔNdscである場合(ステップS107:Yes)、変速段変更条件判定部31は、直結段(例えば、この実施形態では5段)との回転数差ΔNhsが、予め定めた設定値ΔNhsc以下であるか否かを判定する(ステップS108)。これは、直結段への強制ダウンシフトが可能か否かを判定するものである。ここで、直結段との回転数差ΔNhsは、式(2)で求めることができる。
ΔNhs=|Nti−ρh×Nte|・・(2)
Ntiは変速装置入力軸回転数であり、Nteは変速装置出力軸回転数である。また、ρhは、直結段の変速比(直結段としたときの変速装置入力軸回転数/変速装置出力軸回転数)であり、ρh=1である。したがって、ΔNhsは、変速装置入力軸回転数とNti−変速装置出力軸回転数Nteとの差である。
ΔNhs>ΔNhscである場合(ステップS108:No)、直結段への強制ダウンシフトはできないと判定され、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。ΔNhs≦ΔNhscである場合(ステップS108:Yes)、直結段への強制ダウンシフトが可能となる条件の一つを充足すると判定される。この場合、変速段変更条件判定部31は、自動変速装置3に入力される内燃機関2のトルクTiが、予め定めた設定値Tic以下であるか否かを判定する(ステップS109)。
Ti>Ticである場合(ステップS109:No)、この状態で直結段へダウンシフトすると変速ショックが過大になるため、直結段へのダウンシフトは実行しない。この場合、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。Ti≦Ticである場合(ステップS109:Yes)、変速段変更条件判定部31は、直結段へのダウンシフトが可能であると判定して(ステップS110)、変速段変更実行部32に対して直結段へのダウンシフト指令を発信する。
変速段変更実行部32はこのダウンシフト指令を受けて、直結段に対応する摩擦係合手段を係合及び解放する。変速段変更実行部32は、自動変速装置3の油圧制御装置5へ、直結段係合側における摩擦係合手段を係合させ、また、直結段解放側における摩擦係合手段を解放させる指令を発信する。このように、直結段に変速可能な場合には、直結段への変速を実行するので、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフトの要求があった場合において、変速ショックが抑制された滑らかな変速が実現できる。次に、ステップS106に戻って説明する。
入力切替用摩擦係合手段が制御中でない場合(ステップS106:No)、すなわち、パワーオンダウンシフト中に入力切替用摩擦係合手段が制御中でない場合は、変速段変更条件判定部31は、アップシフト(パワーオフアップシフト)後における変速段の同期差回転数ΔNusが、予め定めた設定値ΔNusc以上であるか否かを判定する(ステップS111)。これは、アップシフトが可能であるか否かを判定するためである。ここで、アップシフト後における変速段の同期差回転数ΔNusは、式(3)で求めることができる。なお、式(3)において、Ntiは変速装置入力軸回転数であり、Nteは変速装置出力軸回転数である。また、ρuは、アップシフト後における変速段の変速比(当該変速段としたときの変速装置入力軸回転数/変速装置出力軸回転数)である。
ΔNus=|Nti−ρu×Nte|・・(3)
ΔNus<ΔNuscである場合(ステップS111:No)、アップシフトはできないので、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。ΔNus≧ΔNuscである場合(ステップS111:Yes)、アップシフトが可能となる条件の一つを充足する。この場合、変速段変更条件判定部31は、自動変速装置3に入力される内燃機関2のトルクTiが、予め定めた設定値Tic以下であるか否かを判定する(ステップS112)。
Ti>Ticである場合(ステップS112:No)、この状態でアップシフトすると変速ショックが過大になるため、前記アップシフトは実行しない。この場合、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。Ti≦Ticである場合(ステップS112:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフトが可能であると判定し(ステップS113)、変速段変更実行部32に対してアップシフト指令を発信する。
変速段変更実行部32はこのアップシフト指令を受けて、アップシフトしようとする変速段に対応する摩擦係合手段を係合及び解放する。変速段変更実行部32は、自動変速装置3の油圧制御装置5へ、アップシフト係合側の摩擦係合手段を係合させ、また、アップシフト解放側における摩擦係合手段を解放させる指令を発信する。これによって、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフトの要求があった場合には、アップシフト係合側及びアップシフト解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制された滑らかな変速が実現できる。
以上、参考例では、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフトの要求があった場合には、自動変速装置が備える摩擦係合手段に対する油圧制御状態、自動変速装置へ入力される内燃機関のトルクに基づいて、自動変速装置の変速段を変更する。これによって、アップシフト係合側及び解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制された滑らかな変速が実現できる。
特に、変速段が多段化(例えば6段以上)している場合には、パワーオンダウンシフト中にパワーオフアップシフトの要求が発生するような多重変速要求が発生しやすい。変速段の多段化による多重変速の発生頻度が多くなった場合に、変速ショックを効果的に抑制できるので、特に好ましい。なお、参考例で開示した構成は、以下の実施形態でも適宜適用することができ、また、参考例で開示した構成を備えるものは、参考例と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態)
実施形態は、クラッチトゥクラッチ変速において、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフトの要求があった場合の変速制御である。なお、実施形態に係る変速制御は、参考例に係る変速制御装置30(図1、3参照)によって実行できる。次の説明においては、適宜図1〜図3を参照されたい。
図7は、実施形態に係る変速制御の手順を示すフローチャートである。実施形態に係る変速制御は、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速において、動力発生手段である内燃機関2の出力増加によるアップシフト(パワーオンアップシフト)中に動力発生手段の出力増加によるダウンシフト(パワーオンダウンシフト)要求が発生した場合には、自動変速装置3が備える摩擦係合手段に対する油圧制御状態、自動変速装置3が備える摩擦係合手段の油圧に基づいて、自動変速装置3の変速段を変更するものである。
実施形態に係る変速制御は、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフト要求が発生した場合に実行される。例えば、車両1の加速中、さらに加速するような場合にこのような要求が発生する。このような場合、パワーオンの状態のアクセル42Pがさらに踏み込まれることにより、車両1に対する更なる加速要求があると判断されて、自動変速装置3はダウンシフトする。
なお、パワーオンアップシフトは、車両1のアクセル42Pがある程度踏み込まれた状態で車両1が走行している場合に、自動変速装置3がアップシフトするものである。また、パワーオンアップシフト中とは、変速制御装置30から自動変速装置3に対して変速指令を発信してから、変速が完了するまでの間をいう。したがって、自動変速装置3の摩擦係合手段が実際の係合動作や解放動作に入っていなくてもよい。
実施形態に係る変速制御を実行するにあたり、変速制御装置30の変速段変更条件判定部31は、自動変速装置3がパワーオンアップシフト中であるか否かを判定する(ステップS201)。この判定は、アクセル開度センサ42から取得したアクセル42Pの開度情報や車速センサ45から取得した車両1の速度等に基づいて変速段変更条件判定部31が判定する。自動変速装置3がパワーオンアップシフト中でない場合(ステップS201:No)、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。
自動変速装置3がパワーオンアップシフト中である場合(ステップS201:Yes)、変速段変更条件判定部31は、ダウンシフトの要求があり、かつ、パワーオンかパワーオフかを判定する(ステップS202)。これは、変速段変更条件判定部31がアクセル開度センサ42から取得したアクセル開度に基づいて判定する。例えば、自動変速装置3がパワーオンアップシフトを実行している最中に、アクセル42Pが完全に戻された場合は、アップシフトの要求かつパワーオフであると判定される(パワーオフダウンシフトの要求)。また、例えば、自動変速装置3がパワーオンアップシフトを実行している最中に、アクセル42Pが戻されたものの、まだアクセル42Pの踏み込みが残っている場合には、ダウンシフトの要求かつパワーオンであると判定される(パワーオンダウンシフトの要求)。
ダウンシフトの要求かつパワーオフである場合、すなわちパワーオフダウンシフトの要求がある場合(ステップS202:No)、STARTに戻り、変速段変更条件判定部31は自動変速装置3の変速状態や車両1の走行状態の監視を継続する。ダウンシフトの要求かつパワーオンである場合、すなわちパワーオンダウンシフトの要求がある場合(ステップS202:Yes)、変速段変更条件判定部31は、イナーシャ開始前か否かを判定する(ステップS203)。イナーシャとは、変速装置入力軸回転数Nti(内燃機関2の機関回転数NEにほぼ等しい)が変化している状態をいい、変速段変更条件判定部31は、変速装置入力軸回転数センサ40から変速装置入力軸回転数Ntiを取得して、イナーシャ開始前か否かを判定する。
この実施形態では、イナーシャ開始前か否かによって、パワーオンアップシフト前における変速段からダウンシフトをするか、パワーオンアップシフト後における変速段からダウンシフトをするかを判定する。すなわち、変速装置入力軸回転数Ntiが変化し始める前は、アップシフト前における変速段からダウンシフトを実行し、変速装置入力軸回転数Ntiが変化し始めた場合には、アップシフト後における変速段からダウンシフトを実行する。これによって、変速装置入力軸回転数Ntiが変化し始めた場合には、アップシフトが進行しているとみなしてアップシフト後における変速段からダウンシフトを実行するので、変速ショックを抑制し、滑らかな変速が実現できる。
イナーシャ開始前である場合(ステップS203:Yes)、すなわち、変速装置入力軸回転数Ntiが変化する前である場合、変速段変更条件判定部31は、アップシフト前における変速段未満の変速段への変速であるか否かを判定する(ステップS204)。ここでは、例えば、アップシフト前変速段を4段とした場合、4段から5段への変速中における3段、又は2段、又は1段への変速が、アップシフト前変速段未満の変速段への変速である。また、4段から5段への変速中における4段への変速は、後戻り変速である。
アップシフト前変速段未満の変速段への変速である場合(ステップS204:Yes)、変速段変更条件判定部31は、ステップS201におけるパワーオンアップシフトの開始から現時点までにおいて、予め定めた所定の設定時間τ1以内であるか否かを判定する(ステップS205)。これによって、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルクを十分に保持できる状態で、アップシフト前における変速段からダウンシフトさせることができるので、変速ショックをより確実に抑制できる。
設定時間τ1以内である場合(ステップS205:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧Prが、予め定めた設定値Prc1以上であるか否かを判定する(ステップS206)。これは、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルクを十分に保持できるか否かを判定するものである。アップシフト解放側における摩擦係合手段で内燃機関2から入力されるトルクを保持できる場合には、パワーオンアップシフト前の変速段からダウンシフトさせることができるので、変速レスポンスの低下を抑制できる。
ここで、アップシフト解放側における摩擦係合手段は、例えば、図4−1で説明した例において、4段から5段にアップシフトする場合のクラッチC2が相当する。また、この実施形態において、摩擦係合手段の油圧Prは、摩擦係合手段に対する油圧の指令値であり、図4−1で示した例においては、クラッチC2の油圧を制御するソレノイドバルブSL1の制御電流Isの値(指令値)である。なお、実測によって取得した摩擦係合手段の油圧を用いてもよい。
Pr≧Prc1である場合(ステップS206:Yes)、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルクを十分に保持できる。この場合、アップシフト前における変速段(例えば4段)から、ダウンシフトさせることができる。変速段変更条件判定部31は、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードM_Uと設定した油圧制御モードM_USとを比較する(ステップS207)。ここで、アップシフトにおける摩擦係合手段の油圧制御モードを説明する。
図8−1、図8−2は、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードの一例を示す説明図である。図8−2中の数字は、図8−1の油圧制御モードを示す数字に対応する。また、図8−2の実線が摩擦係合手段の油圧を示し、一点鎖線が内燃機関2の機関回転数NEを示す。自動変速装置3のアップシフト時(例えば、4速から5速へのアップシフトや、3速から7速へのアップシフト)においては、アップシフト解放側における摩擦係合手段は、図8−1に示すような油圧制御モード1〜油圧制御モード6までの制御を経て係合状態から解放状態へ移行する。
まず、油圧制御モード1はクイックドレンモードであり、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を解放し、低下させる。油圧制御モード2は第1定圧待機モードであり、低下させたアップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を一定の圧力で所定時間維持する。油圧制御モード3は第1スイープ制御モードであり、第1定圧待機モードで保持しているアップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を、徐々に低下させる。第1スイープ制御モードは、アップシフト時の解放側における前記摩擦係合手段の油圧を解放した後、当該摩擦係合手段の油圧を最初に低下させる油圧制御モードである。
油圧制御モード4は第2定圧待機モードであり、第1スイープ制御モードで低下したアップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を、一定の圧力で所定時間維持する。油圧制御モード5は第2スイープ制御モードであり、第2定圧待機モードで保持しているアップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧を、さらに低下させる。第6油圧制御モードは終了時スイープ制御モードであり、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧徐々に解放時の圧力として、アップシフト解放側における摩擦係合手段の係合を解除する。
この実施形態において、上記ステップS207において設定する油圧制御モードは、上述した油圧制御モード1〜油圧制御モード6のうち、油圧制御モード3(第1スイープ制御モード)とする。ステップS207において、変速段変更条件判定部31は、例えば、自動変速装置3の油圧制御装置5に対して発信される制御信号を取得して、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードを判定する。
このように、この実施形態においては、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードにより、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御状態を判定する。そして、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御状態に基づいて、ダウンシフトを実行する。これによって、いわゆるクラッチトゥクラッチ変速における変速ショックを抑制でき、また、変速レスポンスの低下も抑制できる。
油圧制御モード3を判定基準とすることにより、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(自動変速装置3への入力トルク)を十分に保持できるか否かを、より確実に判定することができる。なお、判定基準とする油圧制御モードは、油圧制御モード3に限られるものではない。アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_U)が設定した油圧制御モード(M_US)である油圧制御モード3(第1スイープ制御モード)以前である場合(ステップS207:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフト前における変速段から、ダウンシフトさせることができると判定し(ステップS208)、変速段変更実行部32に対してアップシフト指令を発信する。例えば、アップシフト(パワーオンアップシフト)前における変速段が4段であり、かつ4段から5段へアップシフトしようとした場合には、4段からダウンシフトさせる。
変速段変更実行部32はこのダウンシフト指令を受けて、ダウンシフトしようとする目標の変速段に対応する摩擦係合手段を係合及び解放する。変速段変更実行部32は、自動変速装置3の油圧制御装置5へ、ダウンシフト係合側の摩擦係合手段を係合させ、またダウンシフト解放側における摩擦係合手段を解放させる指令を発信する。これによって、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフトの要求があった場合には、係合側及び解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制され、かつパワーオンアップシフト中のアップシフトを省略してパワーオンダウンシフトを実行できるので、変速レスポンスの遅れを抑制できる。
次に、ステップS203に戻って説明する。ステップS203において、イナーシャ開始後である場合(ステップS203:No)、すなわち、変速装置入力軸回転数Ntiが変化した後である場合、変速段変更条件判定部31は、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧Prが、予め定めた設定値Prc1未満であるか否かを判定する(ステップS210)。これは、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(入力トルク)を保持できるか否かを判定するものである。
Pr≧Prc1である場合(ステップS210:No)、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(入力トルク)を十分に保持できる。この場合、STARTに戻り、ダウンシフトが可能となるまで前記手順が繰り返される。Pr<Prc1である場合(ステップS210:Yes)、アップシフト解放側における摩擦係合手段では、内燃機関2から入力されるトルク(自動変速装置3への入力トルク)を保持できない。この場合には、アップシフト前における変速段(例えば4段)から、ダウンシフトさせることはできず、アップシフト後における変速段(例えば5段)からダウンシフトさせることになる。
次に、変速段変更条件判定部31は、アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_U)と設定した油圧制御モード(M_US)とを比較する(ステップS211)。アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードが設定した油圧制御モードである油圧制御モード3(第1スイープ制御モード)以後である場合(ステップS211:No)、STARTに戻り、ダウンシフトが可能となるまで前記手順が繰り返される。
アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モード(M_U)が設定した油圧制御モード(M_US)である油圧制御モード3(第1スイープ制御モード)以前である場合(ステップS211:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフト係合側の摩擦係合手段の油圧Psが、予め定めた設定値Psc1以上であるか否かを判定する(ステップS212)。これは、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(入力トルク)を十分に保持できるか否かを判定するためである。
ここで、アップシフト係合側における摩擦係合手段は、例えば、図4−1で説明した例において、4段から5段にアップシフトする場合のブレーキB1が相当する。また、この実施形態において、摩擦係合手段の油圧Pscは、摩擦係合手段に対する油圧の指令値であり、図4−1で示した例においては、ブレーキB1の油圧を制御するソレノイドバルブSL2の制御電流Isの値(指令値)である。なお、実測によって取得した摩擦係合手段の油圧を用いてもよい。
Ps<Psc1である場合(ステップS212:No)、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(入力トルク)を保持できないので、STARTに戻り、ダウンシフトが可能となるまで前記手順が繰り返される。なお、アップシフト係合側の摩擦係合手段の油圧Psは、時間が経過すれば、必ずPs≧Psc1となる。
Ps≧Psc1である場合(ステップS212:Yes)、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルク(自動変速装置3への入力トルク)を十分に保持できる。この場合、アップシフト後における変速段から、ダウンシフトさせることができる条件の一つを充足する。この場合、変速段変更条件判定部31は、ダウンシフト後における変速段の同期差回転数ΔNdsが、予め定めた設定値ΔNdsc以上であるか否かを判定する(ステップS213)。これは、ダウンシフト指令を発信した場合に、実際にダウンシフトが可能であるか否かを判定するためである。ここで、ダウンシフト後における変速段の同期差回転数ΔNdsは、参考例における式(1)で求めることができる。
ΔNds<ΔNdscである場合(ステップS213:No)、ダウンシフト指令を発信しても、実際にダウンシフトはできないおそれがあるので、STARTに戻り、ダウンシフトできる条件となるまで前記手順が繰り返される。ΔNds≧ΔNdscである場合(ステップS213:Yes)、変速段変更条件判定部31は、アップシフト(パワーオンアップシフト)後における変速段から、ダウンシフトさせることができると判定し(ステップS214)、変速段変更実行部32に対してアップシフト指令を発信する。例えば、アップシフト前における変速段が4段で、アップシフト後における変速段が5段であり、かつ4段から5段へアップシフトした場合には、5段からダウンシフトさせる。
変速段変更実行部32はこのダウンシフト指令を受けて、ダウンシフトしようとする目標の変速段に対応する摩擦係合手段を係合及び解放する。変速段変更実行部32は、自動変速装置3の油圧制御装置5へ、ダウンシフト係合側の摩擦係合手段を係合させ、また、ダウンシフト解放側における摩擦係合手段を解放させる指令を発信する。これによって、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフトの要求があった場合には、係合側及び解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制され、かつ変速レスポンスの遅れを抑制できる。
次に、ステップS204に戻って説明する。アップシフト前変速段以上の変速段への変速である場合(ステップS204:No)、変速段変更条件判定部31は、ステップS201におけるパワーオンアップシフトの開始から現時点までにおいて、予め定めた所定の設定時間τ2以内であるか否かを判定する(ステップS209)。これによって、アップシフト解放側における摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルクを十分に保持できる状態で、アップシフト前における変速段からダウンシフトさせることができるので、変速ショックをより確実に抑制できる。なお、ステップS209は、後戻り変速用の判定ステップである。後戻り変速については、上述した通りである。ここで、ステップS209における設定時間τ2は、ステップS205における設定時間τ1と同じ値としてもよいし、異なる値としてもよい。
設定時間τ2以内である場合(ステップS209:Yes)、後戻り変速ではなく、アップシフト前変速段未満の変速段への変速を実行する。この場合、上述したステップS206〜ステップS208が実行される。設定時間τ2が経過した場合(ステップS209:No)、上述したステップS210〜ステップS214を実行することにより、後戻り変速が実行される。次に、ステップS205に戻って説明する。ステップS205において、設定時間τ1が経過した場合(ステップS205:No)、上述したステップS210〜ステップS214を実行することにより、後戻り変速が実行される。
次に、ステップS206に戻って説明する。Pr<Prc1である場合(ステップS206:No)、アップシフト解放側における摩擦係合手段では、内燃機関2から自動変速装置3へ入力されるトルクを保持できない。この場合、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から自動変速装置3へ入力されるトルクを保持する。変速段変更条件判定部31は、アップシフト係合側の摩擦係合手段の油圧Psが、予め定めた設定値Psc1以上であるか否かを判定する(ステップS212)。これは、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から入力されるトルクを十分に保持できるか否かを判定するためである。
Ps≧Psc1である場合(ステップS212:Yes)、アップシフト係合側の摩擦係合手段で、内燃機関2から自動変速装置3へ入力されるトルクを十分に保持できる。この場合には、ステップS213、ステップS214を実行することにより、後戻り変速が実行される。また、Ps<Psc1である場合(ステップS212:No)、STARTに戻り、ダウンシフトできる条件となるまで前記手順が繰り返される。
次に、ステップS207に戻って説明する。アップシフト解放側における摩擦係合手段の油圧制御モードが設定した油圧制御モードである油圧制御モード2(第1スイープ制御モード)よりも後である場合(ステップS207:No)、アップシフト前における変速段から、ダウンシフトさせることはできない。この場合、ステップS212〜ステップS214を実行することにより、後戻り変速を実行させる。
以上、実施形態では、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフトの要求があった場合には、自動変速装置が備える摩擦係合手段に対する油圧制御状態、自動変速装置が備える摩擦係合手段の油圧に基づいて、自動変速装置の変速段を変更する。これによって、ダウンシフト係合側及び解放側における摩擦係合手段を適切なタイミングで制御できるので、変速ショックが抑制された滑らかな変速が実現できる。
また、摩擦係合手段の油圧の制御状態、及び摩擦係合手段の油圧状態に応じて、自動変速装置の変速段を変更するので、パワーオフアップシフト中パワーオンダウンシフトの指令が発生した場合、アップシフトを省略して迅速にダウンシフトを実行できる。これによって、変速レスポンスの遅れも抑制できるので、運転者の意図した加速が実現でき、ドライバビリティが向上する。
特に、変速段が多段化(例えば6段以上)している場合には、パワーオンアップシフト中にパワーオンダウンシフトの要求が発生するような多重変速要求が発生しやすい。この実施形態に係る変速制御は、変速段の多段化による多重変速の発生頻度が多くなった場合に、変速ショック及び変速レスポンスの遅れを効果的に抑制できるので、特に好ましい。なお、実施形態で開示した構成を備えるものは、実施形態と同様の作用、効果を奏する。