以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
(1)ハニカム構造体成形用口金
本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態について説明する。図1は、本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施の形態を模式的に示し、スリットが形成された第2の板状部材側から見た斜視図であり、図2は、本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施の形態を模式的に示し、裏孔が形成された第1の板状部材側から見た平面図である。また、図3は、図1に示すハニカム構造体成形用口金の、第2の板状部材側の表面の一部を示す拡大平面図である。また、図4は、図3に示すハニカム構造体成形用口金のA−A’断面を示す模式図である。
図1〜図4に示すように、本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、少なくとも一方の面4側に開口した厚さ方向に延びる複数の裏孔11が形成された第1の板状部材2と、「第1の板状部材2の他方の面5側に配設された、セラミック原料をハニカム形状に成形するためのスリット12が格子状に形成された第2の板状部材3」と、を備え、第1の板状部材2の、第2の板状部材3に接合される面(他方の面5)側に、第2の板状部材3に形成されたスリット12に重なるように格子状に形成されると共に複数の裏孔11と連通するスリット状の溝部13が形成され、第1の板状部材2の一方の面4における裏孔11が形成される領域(裏孔形成領域14)が、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」であり、且つ、裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差するものである。
このように、第1の板状部材2の一方の面4における裏孔11が形成される領域(裏孔形成領域14)が、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」であり、且つ、裏孔11が形成される領域(裏孔形成領域14)の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差するものであるため、第1の板状部材2と第2の板状部材3とをホットプレスにより接合し、その後冷却したときに、第1の板状部材2の歪みが小さくなり、第1の板状部材2に形成された格子状の溝部13の格子形状の変形を抑制することが可能である。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1においては、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」(裏孔形成領域14)は、図2に示すように、第1の板状部材2が円板状であるため、正方形の4つの角部(頂点部分)が、第1の板状部材2の一方の面4の外周形状である円形によって、切り取られた形状の領域である。従って、正方形の角部が円弧状に切り取られた、直線状の4つの辺(裏孔形成領域14の外周における、正方形の各辺に相当する部分14a)と4つの円弧とが交互に並ぶ、八角形に近い形状(擬似八角形)である。また、本実施形態のハニカム構造体成形用口金1においては、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」における「正方形」は、対角線が円板状の第1の板状部材2の一方の面4の直径より長く、且つ、一辺の長さが第1の板状部材2の直径より短いものである。
また、「裏孔11が形成される領域(裏孔形成領域14)の外周における正方形の各辺に相当する部分14a」とは、裏孔形成領域14の形状において、角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られる前の「正方形」を想定したときの、当該正方形の各辺に相当する部分のことである。
また、「裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差する」とは、図2に示すように、本実施形態のハニカム構造体成形用口金1を、第1の板状部材2の一方の面4側から、スリット12を透視するように見たときに、「正方形の各辺に相当する部分14a」とスリット12とにより形成される、小さい側の角度である。そして、「裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差する」というときは、「裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aと、第2の板状部材3に形成されたスリット12とにより形成される角度θが、40〜50°である」ことを意味する。
また、「溝部13が、スリット12に重なるように形成されている」とは、ハニカム構造体成形用口金を、スリットが形成された表面に直交する方向から見たときに、溝部13とスリット12とが重なった状態であることを意味する。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1を用いて押出成形されるセラミックハニカム構造体は、流体の流通方向に延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたセラミックハニカム構造体である。本実施形態のハニカム構造体成形用口金1を用いてセラミックハニカム構造体を製造する際に用いるセラミック原料は、セラミック粉末に水、バインダー、造孔剤等が混合された原料である。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aと、第2の板状部材3に形成されたスリット12とにより形成される角度θは、40〜50°であり、42〜48°が更に好ましく、45°が特に好ましい。40°より小さい角度で交差する場合、及び50°より大きい角度で交差する場合には、第1の板状部材の歪みを低減し難くなる。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、裏孔11が形成される領域(裏孔形成領域14)の中心と、第1の板状部材2の一方の面4の中心とが同じ位置であることが好ましい。それぞれの中心を同じ位置にすることにより、より効果的に、第1の板状部材2の溝部13の格子形状の変形を抑制することが可能になる。本実施形態のハニカム構造体成形用口金1においては、裏孔形成領域14の中心は、裏孔形成領域の重心に相当する位置である。また、第1の板状部材2の一方の面4の中心は、第1の板状部材2の外周形状である円形の中心である。また、裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)の面積は、第1の板状部材2の一方の面4の面積に対して55〜97%であることが好ましく、60〜80%であることが更に好ましい。55%より小さいと、溝部の格子形状の変形が生じやすくなることがある。97%より大きいと、溝部の変形を補正する効果が低減することがある。また、裏孔形成領域14の外周を構成する平行な2辺(正方形の平行な2辺に相当)間の距離は、第1の板状部材2の外径(直径)の65〜95%であることが好ましい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、図4に示すように、裏孔11が、第1の板状部材2の一方の面4から他方の面5まで貫通するとともに、溝部13が裏孔11に連通するように形成されている。
裏孔11は、成形原料(セラミック原料)を導入するための貫通孔を形成している。裏孔11の形状については、導入された成形原料をスリット12に導くことができるような形状であれば特に制限はない。図1〜図4に示すハニカム構造体成形用口金1においては、裏孔11は、スリット12の交点(交差点)と重なる位置に形成されている。「裏孔11が、スリットの交点と重なる位置に形成される」とは、ハニカム構造体成形用口金を、スリットが形成された表面に直交する方向から見たときに、裏孔とスリットの交点とが重なった状態であることを意味する。このように構成することによって、本実施の形態のハニカム構造体成形用口金1を用いて押出成形を行う際に、裏孔11に導入した成形原料をスリット12全体に均一に広げることができ、高い成形性を実現することができる。裏孔11の中心がスリット12の交点に重なることが更に好ましい。図1〜図4に示すハニカム構造体成形用口金1の場合のように、裏孔11が、スリット12(又は溝部13)の交点のなかの、一つおきの交点と重なるように形成されていることが好ましいが、全ての交点と重なるように形成されていることも好ましい態様である。
裏孔11の開口径の大きさ等については、ハニカム構造体成形用口金1の大きさや、押出成形するハニカム構造体の形状等によって適宜決定することができる。例えば、裏孔11の開口径の大きさは、0.1〜10mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが更に好ましい。このような裏孔11は、例えば、電界加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等の方法によって形成することができるが、これらの中でも、効率的に、精度良く裏孔を形成することが可能であることより、電界加工(ECM加工)が好ましい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、図1〜図4に示すように、第1の板状部材2の、第2の板状部材3に接合される面側(他方の面5側)に、スリット12の格子形状と同じ格子形状であってスリット12に重なる、スリット状の溝部13が形成されている。スリット12を形成するときに、溝部13の格子形状に沿ってスリット12を格子状に形成することにより、スリット12と溝部13とが重なるように形成される。また、裏孔11は、溝部13の交差点に位置するように形成されている。溝部及びスリットの形成領域は、得られたハニカム構造体成形用口金によって押出成形される成形体の構造等によって適宜決定される。
また、第1の板状部材2に形成された溝部13は、貫通裏孔11aから導入した成形原料を第2のスリット12に導くための緩衝部分(バッファ)としても機能するため、ハニカム構造体の押出成形を行う際に、裏孔11から導入した成形原料を支障なく滑らかに移動させることができ、高精度にハニカム構造体を成形することができる。
また、本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、第1の板状部材2の、第2の板状部材3に接合される面側(他方の面5側)に、溝部13と裏孔11(貫通裏孔11a)とにより囲まれて(区画されて)形成された柱状部15が形成されている。そのため、柱状部15を介して第1の板状部材2と第2の板状部材3とが接合される構造になっている。つまり、本実施形態のハニカム構造体成形用口金1は、第1の板状部材2の柱状部15と、第2の板状部材3とが接合された構造であり、図4に示すように、柱状部15によってセルブロック16を支える構造である。ここで、セルブロック16は、スリット12が形成された第1の板状部材2において、スリット12によって区画形成された柱状の部分である。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1において、第1の板状部材2の溝部13の深さ(柱状部15の高さ)Lは、0.1〜3.0mmが好ましく、0.3〜1.5mmが更に好ましい。0.1mmより小さいと、高い成形性を実現できないことがあり、3.0mmより大きいと、セルブロック16が倒れ易くなることがある。また、溝部13の幅は、0.1〜1.0mmが好ましい。0.1mmより小さいと、高い成形性を実現できないことがあり、1.0mmより大きいと、加工に時間がかかることがある。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1においては、第1の板状部材2の材質は、特に限定されないが、ステンレス鋼であることが好ましい。また、第1の板状部材2が円板状である場合、円板の直径(一方の面及び他方の面の直径)は、100〜550mmが好ましい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金1において、第2の板状部材3は、第1の板状部材2の他方の面5側に配設された、セラミック原料をハニカム形状に成形するためのスリット12が格子状に形成されたものである。スリット12は、スリット状の溝部13の格子形状と同じ格子形状であってスリット12に重なるように形成されている。ここで、スリット12が「格子形状(格子状)である」とは、スリット12が、一の方向に延びる複数本のスリットと、当該一の方向に直交する方向に延びる複数本のスリットとにより形成されていることを意味する。そして、溝部13が「格子形状(格子状)である」とは、溝部13が、一の方向に延びる複数本の溝(溝部)と、当該一の方向に直交する方向に延びる複数本の溝(溝部)とにより形成されていることを意味する。スリット12の幅は、製造するハニカム構造体の隔壁厚さに合わせて適宜決定することができるが、溝部13の幅より小さい幅であることが好ましい。例えば、一般的な排ガスフィルター用又は触媒担体用のセラミックハニカム構造体を押出成形するための、ハニカム構造体成形用口金を製造するためには、スリットの幅が5〜5000μmであることが好ましく、10〜500μmであることが更に好ましい。そして、溝部13の幅は、スリットの幅より、50〜500μm大きいことが好ましい。第2の板状部材3の材質は、特に限定されないが、炭化タングステン基超硬合金であることが好ましい。炭化タングステン基超硬合金とすることにより、耐摩耗性を向上でき、型寿命を向上させることができる。また、第2の板状部材3が円板状である場合、円板の直径は、90〜550mmが好ましい。第1の板状部材2及び第2の板状部材3が円板状である場合、第2の板状部材3の直径は、第1の板状部材2の直径の90〜100%が好ましい。
第1の板状部材2の厚さ及び第2の板状部材3の厚さについては、特に制限はなく、例えば、スリット12と裏孔11との形状を考慮して適宜決定することができる。例えば、隔壁厚さ25〜500μm、セル密度20〜200セル/cm2の円筒形のハニカム構造体を成形するためのハニカム構造体成形用口金を製造する場合には、第2の板状部材3の厚みが、第1の板状部材2の厚みの0.1〜200倍であることが好ましく、1〜50倍であることが更に好ましく、1〜20倍であることが特に好ましい。
また、本実施の形態のハニカム構造体成形用口金1においては、第1の板状部材2と第2の板状部材3との間に接合材(ろう材)が配置され、第1の板状部材2と第2の板状部材3とが接合されたものであることが好ましい。
接合材の材質としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも一つを含む金属又は合金であることが好ましく、第1の板状部材2と第2の板状部材3の少なくとも一方の内部に浸透するものであることが好ましい。このように構成することによって、第1の板状部材2と第2の板状部材3との接合を良好なものとすることができる。
また、このような接合材は、例えば、パラジウム(Pd)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、コバルト(Co)、リン(P)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)等の添加剤を更に含んだものであってもよい。このような添加剤を更に含んだものは、接合温度を下げることができ、信頼性を向上させることができる。
本発明のハニカム構造体成形用口金の他の実施形態は、図5に示すような、上記本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態において、第1の板状部材2の一方の面4における裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)が、正方形の領域であり、且つ、裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)の外周における正方形の各辺に相当する部分が、第2の板状部材に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差するものである。ここで、「裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)の外周における正方形の各辺に相当する部分」とは、正方形の裏孔形成領域14の各辺のことである。図5は、本発明のハニカム構造体成形用口金の他の実施形態を模式的に示し、第1の板状部材側からみた平面図である。尚、図5においては、裏孔を省略して裏孔形成領域14を描いた。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金21は、このように、第1の板状部材2の一方の面4における裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)が、正方形の領域であり、且つ、裏孔が形成される領域(裏孔形成領域14)の外周における正方形の各辺に相当する部分が、第2の板状部材に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差する(裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分と、第2の板状部材に形成されたスリット12とにより形成される角度θが40〜50°の範囲である)ものであるため、第1の板状部材2と第2の板状部材とをホットプレスにより接合し、その後冷却したときに、第1の板状部材2の歪みが小さくなり、第1の板状部材2に形成された格子状の溝部の格子形状の変形を抑制することが可能である。本実施形態のハニカム構造体成形用口金21においても、角度θは、40〜50°が好ましく、42〜48°が更に好ましく、45°が特に好ましい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金は、上記本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態において、裏孔形成領域14を正方形にしたものであり、他の構成要素、特徴については、上記本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態と同様である。
(2)ハニカム構造体成形用口金の製造方法
次に、図1〜図4に示される本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態(ハニカム構造体成形用口金1)を製造する方法について説明する。
本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、まず、ステンレス鋼により形成された円板状の第1の板状部材の他方の面5(図4参照)に、格子状の溝部を形成する(工程(1))。第1の板状部材の材質は、ステンレス鋼が好ましいが、特に限定されない。
溝部を形成する方法としては、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
また、本実施形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、第1の板状部材の他方の面5(図4参照)に溝部を形成する前に裏孔を形成してもよいし、溝部を形成した後に、第1の板状部材の一方の面4(図4参照)から溝部へと連通する裏孔を形成してもよい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、裏孔形成領域14が、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」であり、且つ、裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差するように、裏孔を形成する。これにより、第1の板状部材2と第2の板状部材3とをホットプレスにより接合し、その後冷却したときに、第1の板状部材2の歪みが小さくなり、第1の板状部材2に形成された格子状の溝部13の格子形状の変形を抑制することが可能である。
裏孔を形成する方法については特に制限はないが、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等の方法を好適に用いることができる。これらのなかでも、電解加工(ECM加工)を用いることが好ましい。電解加工(ECM加工)を用いることにより、効率的に寸法精度の高い裏孔を形成することができる。
次に、第1の板状部材の溝部を形成した側の表面に、炭化タングステン基超硬合金(超硬合金)により形成された第2の板状部材を積層し、第1の板状部材と第2の板状部材とを接合する(工程(2))。第1の板状部材の材質は、超硬合金が好ましいが、特に限定されない。
また、本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、第1の板状部材と第2の板状部材とを積層する際に、第1の板状部材と第2の板状部材との間に接合材を配し、第1の板状部材と第2の板状部材とを接合してもよい。このような接合材としては、本発明のハニカム構造体成形用口金の一の実施形態において説明した接合材を好適に用いることができる。
第1の板状部材と第2の板状部材とを積層して接合する際には、第1の板状部材と第2板状部材とを、ホットプレスにより、900〜1200℃に加熱して接合することが好ましく、1000〜1150℃に加熱して接合することが好ましい。このような温度で加熱することにより、第1の板状部材と第2板状部材とを良好に接合するとともに、第2の板状部材の強度低下を防止することができる。また、加熱時間は、1分〜1時間が好ましく、10〜45分が更に好ましい。1分より短いと、第1の板状部材と第2板状部材とを、強い接合強度で接合できないことがあり、1時間より長いと、第1および第2の板状部材に母材劣化相が生じやすくなる。ホットプレスを行う装置としては、例えば、富士電波工業株式会社製、FVHP−R等を使用することができる。また、ホットプレスを行う際の圧力は、それぞれの試験片の形状、大きさ等によって適宜決定することができるが、0.01〜100MPaが好ましく、0.1〜10MPaが更に好ましい。
本実施形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、接合させた第1の板状部材と第2の板状部材とを、上記加熱時間の経過後、0.1〜100℃/分の降温速度にて、少なくとも500℃まで、冷却することが好ましい。また、このようにして得られた接合体に対し、「0.1〜100℃/分の速度で、オーステナイト変態を起こす温度」以下の温度領域で、昇温又は冷却する再熱処理を、さらに行うことが好ましい。
次に、第2の板状部材の、第1の板状部材との接合面とは反対側の表面から、上記溝部の形状(形成パターン)に対応し、溝部13と連通する格子状のスリットを形成してハニカム構造体成形用口金1を得る(図1〜図4参照)(工程(3))。本実施形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、裏孔形成領域14が、「正方形の4つの角部が第1の板状部材2の外周2aで切り取られた形状の領域」であり、且つ、裏孔形成領域14の外周における正方形の各辺に相当する部分14aが、第2の板状部材3に形成されたスリット12に対して40〜50°の角度で交差するように、裏孔を形成したため、第1の板状部材と第2の板状部材との接合後の第1の板状部材の歪みが小さくなり、第1の板状部材に形成された格子状の溝部の格子形状の変形を抑制することが可能である。これにより、第2の板状部材にスリットを形成するときに、スリット形成用の刃(砥石)が第1の板状部材に接触することを防止できる。
第2の板状部材の表面にスリットを形成する方法については特に制限はないが、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、図1に示すハニカム構造体成形用口金1は、スリット12により形成されるセルブロック16の断面形状(第2の板状部材の厚さ方向に直交する断面の形状)が四角形である。
また、第2の板状部材に形成するスリットの幅については、成形するハニカム構造体の形状によって適宜決定することができる。例えば、一般的な排ガスフィルター用又は触媒担体用のセラミックハニカム構造体を押出成形するためのハニカム構造体成形用口金を製造するためには、スリットの幅が5〜5000μmであることが好ましく、10〜500μmであることが更に好ましい。そして、溝部の幅は、スリットの幅より、50〜500μm大きいことが好ましい。
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
一方の面側に開口する複数の裏孔が形成されるとともに、他方の面側に複数の裏孔の全てと連通する格子状の溝部が形成された第1の板状部材と、第1の板状部材の他方の面側に配設された、上記溝部と重なるように格子状にスリットが形成された第2の板状部材とを備えた、図1〜図4に示すような構造のハニカム構造体成形用口金を製造した。
第1の板状部材の材質は、ステンレス鋼(SUS630)とし、第2の板状部材の材質は、コバルトの含有率が16質量%の炭化タングステン基超硬合金とした。また、第1の板状部材は、その面(一方の面及び他方の面)の大きさが直径160mmの円板形状で、厚みが15mmであり、第2の板状部材は、その面の大きさが直径156mmの円板形状で、厚みが2.5mmであった。
まず、第1の板状部材の一方の面側に、他方の端面側まで貫通する開口径1.4mmの裏孔を電解加工(EDM加工)によって形成した。裏孔を形成した領域(裏孔形成領域)は、第1の板状部材の中心を中心とした、正方形の4つの角部が第1の板状部材の外周で切り取られた形状の領域であり、当該裏孔形成領域の外周を構成する平行な2辺(正方形の平行な2辺に相当)間の距離が130mmの領域とした。裏孔のピッチは1.35mmとした。そして、深さ1.0mmの格子状の溝部を、裏孔が形成される領域(裏孔形成領域)の外周における正方形の各辺に相当する部分が、溝部に対して45°の角度で交差するように形成した。格子状の溝部は、精密グラインダーで形成した。また、格子状の溝部13の交点のなかの、一つおきの交点と、裏孔とが重なるように、溝部を形成した。なお、溝部の幅は0.3mmとした。
次に、第1の板状部材と第2の板状部材とを、その間に、ろう材(接合材)を配して積層した後に、1100℃で0.75時間加熱して、第1の板状部材と第2の板状部材とを接合させ、その後470℃で1時間加熱する再熱処理をさらに実施した。この様にして得られた第1の板状部材と第2の板状部材とを接合させたものを、常温まで降温した後に、第2の板状部材にスリットを形成してハニカム構造体成形用口金を得た。スリットは、ダイヤモンド砥石によって、溝部に重なるように格子状に形成した。スリットの幅は0.15mm、スリットのピッチは1.35mmとした。これにより、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分が、第2の板状部材に形成されたスリットに対して40°の角度(角度θ)で交差するものとなった。
このようにして得られたハニカム構造体成形用口金について、以下の方法で、溝部の曲がり状態を測定した。結果を表1に示す。表1において、「最大曲がり量」は、「溝部の曲がり状態の測定」における、「曲がり量」の最大値である。「曲がり量」の最大値は、小さいほど好ましい。また、表1において、「角度θ」は、裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分と、第2の板状部材に形成されたスリットとにより形成される角度のうち、小さい方の角度を示す。
(溝部の曲がり状態の測定)
第2の板上部材に対するスリット加工を形成する前の、口金基体(第1の板状部材と第2の板状部材とを接合させたもの)の溝部形状を、超音波探傷映像装置(日立建機ファインテック株式会社製、FineSAT)を用いて、第2の板上部材表面から計測し、曲がり量を算出した。
(実施例2〜5)
裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分と、第2の板状部材に形成されたスリットと、により形成される角度θを、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体成形用口金を作製した。得られたハニカム構造体成形用口金について、実施例1と同様に溝部の曲がり状態を測定した。結果を表1に示す。
(比較例1〜6)
裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分と、第2の板状部材に形成されたスリットと、により形成される角度θを、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体成形用口金を作製した。得られたハニカム構造体成形用口金について、実施例1と同様に溝部の曲がり状態を測定した。結果を表1に示す。
表1より、裏孔が形成される領域の外周における正方形の各辺に相当する部分と、第2の板状部材に形成されたスリットと、により形成される角度θが40〜50°の場合に、溝部の曲がり量が小さく、当該角度θが40°より小さくなった場合及び当該角度θが50°より大きくなった場合に、溝部の曲がり量が大きくなることがわかる。そして、当該角度θが45°付近(42〜48°)のときに溝部の曲がり量が特に小さくなり、45°のときに最も溝部の曲がり量が小さくなることがわかる。