尿が放射する赤外線を利用して、尿の温度を非接触で精度良く計測する場合において、排尿がボウル面に到達するまでの排尿軌跡を対象として温度を非接触で精度良く計測するには、前述したように、尿温計測手段に複雑な構成を必要とする。
そこで我々の行った予備実験により、被験者が***した尿は、ボウル面で衝突した後は衝突位置(以下、この尿が衝突したボウル面の位置を「尿流衝突位置」とも呼ぶ)の周りに膜状に広がる尿流領域(以下、この膜状に広がる尿流領域を「展開尿流領域」とも呼ぶ)が形成されるが、この展開尿流領域内でも尿流衝突位置により近い特定領域における尿は、放尿口から放出された直後の位置での尿の温度(以下、この温度を「尿温」とも呼ぶ)に可及的に近似した温度を維持していることが確認できた。
この特定領域では、それまでの尿流経路では内部にあって雰囲気による冷却を受けていない尿が衝突によって表面に次々と現れ、かつ、衝突直後のため便器への熱伝導による放冷等の影響も極少ないためと思われるが、領域全体として極く狭い温度分布を持った表面温度状態が形成されており、本発明における検温領域に比べても充分大きい広さを有している。以下、この尿温に極めて近い温度分布範囲を持ったこの特定領域を本発明における「検温尿流領域」と呼ぶ。
そこで、本発明に係る尿温測定装置においては、所定の広さを有する前記検温領域を、この所定の温度分布範囲を有する検温尿流領域内に設定するようにしているが、そのためには、少なくともこの検温尿流領域の位置や形状を知ることが必要となる。
そこで、この検温尿流領域が形成されるボウル面上の位置や形状について、大便器に着座して排尿する場合における、被験者の違いによる変化具合を別の予備実験で確認した。その結果、この検温尿流領域のボウル面上の位置と形状は、各被験者間では、検温領域の広さに対しては無視出来ない程度に異なるが、それぞれの位置での尿流衝突位置に対する検温尿流領域の位置と形状は各々ほぼ一定の対応関係にあることが判明した。
即ち、被験者の排尿時のボウル面上の尿流衝突位置が判れば、検温尿流領域のボウル面上の位置と形状が予め推定可能で、尿温計測手段の検温領域を検温尿流領域内に設定できることが確認された。
そして、我々の行なった予備確認によれば、複数の被験者による尿流衝突位置、即ち、放尿位置の分布は均一ではなく、被験者の、性別や年齢などの特徴によって特定の区分に層別分類できることが判った。具体的には、例えば、大人の男性と、大人の女性、子供の3つの区分に対応した分布となり、それぞれの分布の中央値は、最も便器先端に近いボウル面上、最も便器先端から遠いボウル面上、その中央のボウル面上となった。本発明では以下、放尿位置をこのように層別するために使用する被験者の特徴を放尿位置属性と呼ぶ。
そこで、本発明に係る尿温測定装置は、放尿位置属性取得手段を設けて、被験者の属する放尿位置属性を求めて、その放尿位置属性に基づいて尿温計測手段の検温領域の位置を設定することにより、尿温計測手段の検温領域を前記の放尿位置領域内に確実に位置させることが可能なことが実現できるようになった。
以上のことより、本発明に係る尿温測定装置は、被験者が***した尿を受けるボウル面が形成された洋式大便器と、排尿時における被験者の放尿位置の目標となる標的を光像で形成し、前記ボウル面上に表示する標的表示手段と、前記標的を表示する前記ボウル面上の所定位置である標的位置を設定する標的位置設定手段と、前記標的位置に基づいて前記ボウル面上に前記検温領域の位置を設定する検温領域位置設定手段と、前記放尿位置によって予め層別された複数の放尿位置属性の中から被験者の属する任意の前記放尿位置属性を選択し、選択した放尿位置属性に対応して予め決められているのを取得する放尿位置属性取得手段と、を備え、前記標的位置設定手段は、前記放尿位置属性取得手段によって取得された前記放尿位置属性に基づいて前記標的位置を設定するようにしている。
すなわち、放尿位置取得手段によって、複数の放尿位置属性の内の一の放尿位置属性が被験者の属する放尿位置属性として選択され、その放尿位置属性に対応する放尿位置が選択放尿位置として決定される。その後、その選択された選択放尿位置に基づいて標的位置が設定されるようになっている。
そして、その被験者の放尿位置属性の選択は、被験者の放尿位置に関係する個人情報を取得することによって、測定の都度、行なわれるようにしている。
その結果、被験者ごとに被験者に適した放尿位置をボール面上に標的で示すことが出来るため、体温に極めて近い尿温を高精度に測るという、高度な計測が実現できるようになった。
さらに、特に被験者が女性の場合には、使用する大便器の種類によっては放尿位置が大便器の溜水面側となるので、本発明の標的の設置が困難、言い換えれば本発明を適用した尿温測定が困難であるという問題もある。
したがって、溜水面を低下させて、ボール面上に直接尿が当たるようにすることによって本発明における検温尿流域を形成させる方法が考えられる。
そこで、本発明を好適に適用する以下に述べる本実施形態における尿温測定装置では、洋式便器の溜水面高さを制御する溜水面位置制御手段をさらに備えている。
以下、本実施形態における尿温測定装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
(尿温測定装置の全体構成について)
図1は、本実施形態に係る尿温測定装置の使用状態を示す側面視断面図であり、図2はその平面図である。以下これらの図を用いて、まず、本実施形態における尿温測定装置1の概要を説明する。
本実施形態における尿温測定装置1は、図1に示すように、洋式大便器に組み込まれて被験者Pの***する尿の温度を測定するように構成されている。
すなわち、本実施形態に係る尿温測定装置1は、図示するように、被験者Pが***した尿を受ける便器ボウル部17が形成された洋式大便器に組み込まれた装置本体部10と、装置本体部10が設置されたトイレブースの側壁面Kに取り付けられ、装置本体部10の操作を行うためのリモコン装置11とを有している。なお、このリモコン装置11は、洋式大便器が有する局部洗浄機能や便器洗浄機能などについても操作することができるリモコン操作部33と、液晶表示装置からなるリモコン表示部32とを備えている。
こうして、本実施形態における尿温測定装置1は、被験者Pが洋式大便器に着座した状態で***した尿の温度を測定し、測定した結果得られる尿温をリモコン表示部32に表示して、被験者Pに知らせることができる。また、リモコン装置11を操作することによって、洋式大便器としての機能、例えば***された***物の排出や***後の便器使用者の局部の洗浄や、局部の乾燥を行うこともできるようになっている。
また、この洋式大便器は、図1に示すように、使用者の***物を受けるための便器ボウル部17を有する便器本体部12と、便器本体部12の後部側の上面に設けられたケーシング14と、このケーシング14にそれぞれ回動自在に枢支した便座本体15a及び便蓋15bからなる便座15とを有している。
また、ケーシング14の内部には、***後の局部洗浄動作や便器洗浄動作を行う便器機能部19の他に、尿からの赤外線を受光する赤外線受光部44やボウル面Bに標的を投影する標的位置投影部50の各機構部と、尿温測定の全体を制御する測定制御部41とが収納されている。
便器本体部12には、被験者Pが***した***物を排出させると同時に便器を洗浄する機能を有する便器洗浄手段が備えられている。
便器機能部19は、被験者Pの局部の洗浄を行う衛生洗浄手段として局部洗浄水を局部へ向けて噴射する衛生洗浄水ノズル(図示せず)や、洗浄した局部の乾燥を行う局部乾燥手段として温風を局部に送風する温風発生器(図示せず)や、被験者Pが便座本体15aに着座した着座状態を検出する着座センサ(例えば図示しない重量センサなど)を備えている。
また、図1及び図2に示すように、この洋式大便器の便器ボウル部17には、通常は所定水位まで溜水が貯留され溜水面Wが形成されている。そして、本実施形態では、ボウル面Bのうち溜水面Wと便器ボウル部17の上端部との間に、この標的Hと赤外線受光部44の計測領域である検温領域Sとを設定している。
そして、被験者Pは図示するように、便座本体15aに着座してリモコン操作部33で測定を開始させた後、この標的Hを目がけて放尿する。そして、排尿口P−1から放出された尿はこの標的Hの近傍に排出され、その衝突位置P−2の周りのボウル面B上に展開して形成される展開尿流領域Tの所定の領域から放出される赤外線は、赤外線受光部44で受光される。
(尿温測定装置の全体的な構成について)
図3は、本実施形態に係る尿温測定装置1の全体構成を概念的に示すブロック図である。以下、各構成について説明する。
図3に示すように、本実施形態における尿温測定装置1は、被験者Pの***する尿の温度を測定する装置本体部10と、装置本体部10の各種の操作等を行うためのリモコン装置11とを有している。
(リモコン装置11の構成について)
リモコン装置11は、尿温測定装置1の制御内容や尿温測定結果を表示するためのリモコン表示部32と、尿温測定装置1を操作するための各種操作ボタンを備えたリモコン操作部33と、装置本体部10との間で各種制御信号や尿温測定結果情報を送受信するリモコン通信部34と、リモコン装置11全体の動作を統括制御するためのマイクロコンピュータなどからなるリモコン制御部31とを備えている。なお、これらの各部の詳細については後述する。
(装置本体部10の構成について)
装置本体部10は前述したように、便器本体部12、便器本体部12に戴置されたケーシング14、及びケーシング14に回動可能に連接された便座15を備えた洋式大便器に組み込まれている。
さらにケーシング14内には、リモコン装置11との間で各種制御信号や尿温測定結果情報を送受信する本体通信部42と、汚物を排出処理する便器洗浄動作や人体局部の洗浄等の衛生洗浄動作を行う便器機能部19と、尿温測定に必要な機能を備えた尿温測定部20とが納められている。
また、便器機能部19は、尿温測定装置1の赤外線受光部44が計測動作中である場合はリモコン装置11の衛生洗浄スイッチ54や局部乾燥スイッチ55が操作されてもその指示信号は無効として取り扱うようにしている。このことも、これらの動作が尿温測定に悪影響を及ぼすための防止策として配慮されたものである。
尿温測定部20は、被験者の***する尿から放射される赤外線を受光してその温度を非接触で計測するための各手段の機構部を構成する本体計測部40と、尿温測定に関する各種制御を行うための各手段の制御部を構成する測定制御部41とを備えている。
(本体計測部40の各構成について)
本体計測部40は、被験者から排出される尿の温度を測定する尿温計測手段の機構部を構成する赤外線受光部44と、被験者Pが排尿する際に、ボウル面Bのどの位置に放尿すればよいかの目安となる標的Hをボウル面B上に光像として投影する標的位置表示手段の機構部を構成する標的位置投影部50とを備えている。
この赤外線受光部44は、受光した赤外線の受光量に応じた電気的信号として出力する測温素子を備えた受光素子部69と、検温領域Sから放射される赤外光束を集光してこの測温素子上に検温領域Sの写像として結像させる光学部63と、受光素子部69からの電気的信号を温度情報として出力処理する温度信号処理部60と、検温領域Sの位置を移動させる検温領域移動手段の機構部を構成する検温領域移動部75と、を備えている。なお、赤外線受光部44の具体的構成については後に詳述する。
また、この標的位置投影部50は、標的として表示する光像の表示位置を移動させる標的位置移動手段の機構部を構成する標的位置移動部58を備えており、前述した標的位置設定部71によって設定される任意の標的位置P−3に標的Hを移動させる。なお、標的位置投影部50の具体的構成については後に詳述する。
(測定制御部41の各構成について)
測定制御部41は、CPU、ROM及びRAMなどを備えたマイクロコンピュータからなり、該ROMに各種のプログラムが格納されて、尿温測定装置1の各種手段の動作の制御や測定結果等の各種情報の記憶などを行うものである。
なお、本実施形態における測定制御部41は、着座センサが着座状態を検出している間のみ、動作開始指示手段として個人別尿温測定スイッチ51からの計測動作開始の指示を有効としている。すなわち、被験者Pが便座本体15aに着座していない状態では、尿温の測定を行なえないようにして、例えば正確な測定が行えない男子立位での測定を防止している。
以下では、測定制御部41の機能を、尿温算出手段を構成する尿温算出部47、標的位置設定手段を構成する標的位置設定部71、放尿位置取得手段を構成する放尿位置取得部72、及び検温領域位置設定手段を構成する検温領域位置設定部46の各機能別に分けて説明する。
標的位置設定部71は、被験者の放尿位置の目安となる標的のボウル面B上の位置である標的位置P−3を被験者の放尿位置に応じた所定位置に設定するものである。
放尿位置取得部72は、被験者の放尿位置を予め決められた基準によって層別した複数の区分である放尿位置属性群の中から被験者の属する放尿位置属性を選択し、選択された放尿位置属性に対応して決められている放尿位置を選択放尿位置P−4として取得するものである。
そのために放尿位置取得部72は、被験者の放尿位置に関係する個人情報を取得する個人情報取得部73と、前記個人情報と放尿位置属性との関係を記憶する放尿位置属性記憶部74とを有し、被験者の個人情報に基づいて、測定の都度、被験者の選択放尿位置P−4を取得するようにしている。
個人情報取得部73は、放尿位置属性を決定する個人別の放尿位置に関係する情報を取得する個人情報取得手段を構成する。被験者の放尿位置に関係する個人情報としては、性別情報としての男性又は女性や、身長に関係する情報としての大人又は子供、あるいは年齢などが採用できる。
放尿位置属性記憶部74は、装置本体部10内の回路基板上に配設されたRAM又はROMなどの記憶媒体であり、その記憶媒体に被験者別に割り当てられた記憶領域上に、放尿位置属性別に割り当てられた選択放尿位置P−4を放尿位置属性登録情報として記憶している。
検温領域位置設定部46は、赤外線受光部44が赤外線を受光して電気的出力を行うボウル面B上の受光範囲である検温領域Sの位置を設定するためのものであり、放尿位置取得手段で取得する個人別の選択放尿位置P−4に基づいて、予め決められた選択放尿位置P−4と検温領域位置との対応関係テーブルを使用して選択放尿位置P−4から所定位置を検温領域Sの位置として算出するものである。
また、検温領域位置設定部46は、検温領域移動部75としての図示しない電動モータなどのアクチュエータにより、検温領域Sの位置を変更・設定するようにしている。
尿温算出部47は、赤外線受光部44で得られた温度情報出力に基づいて尿温を算出するものであり、必要に応じて、この温度情報出力にさらに各種の影響要因を考慮した補正を行って尿温を算出するようにしても良い。
(本体計測部40の詳細について)
次に、本体計測部40を形成する前述した赤外線受光部44の詳細について説明する。
図4は赤外線受光部44の詳細構成を示す説明図であり、前述した検温領域移動部75は省略している。図5は受光素子部69と本発明の検温領域Sとの光学的関係を示す説明図である。
赤外線受光部44は、図4に示すように、物体の温度に応じて物体の表面から放射される赤外線を受光して電気的信号として出力する複数個の測温素子61が縦横に隣接配置されて形成された受光素子部69となる測温素子群62を有している。
本実施形態では、この測温素子群62として、赤外線を受光することによって生じる熱を起電力として出力する多数の熱電対を接続したサーモパイル素子をさらに複数個まとめて一体的にパッケージされたサーモパイル素子アレイを用いている。かかるサーモパイル素子アレイは、図4では簡略化して示しているが、シリコン基板(図示せず)に8行×8列のマトリクス状に64個のサーモパイル素子(測温素子61)が隣接配置され、外観視で略平板状をなすサーモパイル素子アレイを構成している。
赤外線受光部44は、また、温度信号処理部60として、測温素子群62に近接配置された温度較正用の基準温度素子64と、測定制御部41の制御に従って所定のタイミングで各測温素子61のアドレス信号を出力するアドレス信号出力手段65と、複数の測温素子61からの各検出信号をアドレス信号出力手段65から入力されるアドレス信号に基づいて選択するスキャン手段66と、スキャン手段66により選択された測温素子61からの検出信号や基準温度素子64からの検出信号を増幅する増幅手段67と、増幅手段67からの検出信号をデジタル信号に変換して測定制御部41に送信するA/D変換手段68と、を備えている。
また、光学部63は、図5に示すように、便器ボウル部17の表面であるボウル面B上に設定される検温領域Sから放射された赤外線の光束を、集光レンズなどで構成される光学系で検温領域Sの写像として略平面を形成する測温素子群62上に結像させる。
このように、本実施形態においては、検温領域Sからの赤外線光束は測温素子群62を構成する単位となる各測温素子61に分担される構成としている。従って、検温領域Sの中でこの複数個の測温素子61のうちの任意の一つが担当する領域を単位検温領域Sxとすると、検温領域Sは単位検温領域Sxを合わせたものとなることになる。
正確な温度計測は、これら複数の測温素子の少なくともいずれか一つの単位検温領域Sx全体が被計測物体内であれば可能となるため、本実施形態においては、単一の素子の温度分解能を維持してより広範囲の検温領域を得られることになる。
以上のような構成で、各測温素子61は受光した写像の担当する領域の赤外線エネルギーに応じた出力信号を発生させ、これをスキャン手段66によって順次取り出し、この測温素子群62自身の温度を測る基準温度素子64の出力信号とともに、A/D変換手段68を通して測定制御部41に入力する。そして、かかる信号を入力した測定制御部41を構成する前述した尿温算出部47において、基準温度や放射率による補正をした後、各測温素子の出力信号が温度情報に換算される。
なお、この得られる前記温度情報は、本実施形態においては測温素子として前記の測温素子群となったものを採用していることより、測温素子単位の複数の温度情報が得られる。
さらに、この複数の温度情報は、本実施形態においては検温領域S内からの赤外光を単に集光するのではなく写像としてこれらの測温素子群に結像させているため、検温領域S内の各測温素子の配置に対応した二次元的な温度情報となる。従って、検温領域S内の温度分布状況を知ることも、あるいは、更にそれを視覚的に表示することも可能である。
(標的位置投影部50の詳細について)
次に、同じく本体計測部40を形成する標的位置投影部50の具体的構成について説明する。
本実施形態における尿温測定装置1では、前記標的Hをボウル面B上の標的位置P−3に標的Hを表示する標的位置投影部50を備えている。この標的位置投影部50としては、半導体レーザなどの光像生成手段を用いて、所定の光像照射口からレーザ光を照射して光像を投射させるものが挙げられる。
そして、本発明における標的Hの標的位置P−3は、放尿位置取得部72によって取得された選択放尿位置P−4に基づいて標的位置設定部71によりボウル面上の所定位置に設定される。すなわち、標的位置投影部50は、例えば光学部63を移動させて標的位置投影部50の投光軸を変化させるなどして、便器ボウル面上の標的Hの投影位置を移動させることの出来る図示しない標的位置移動部58を備え、その標的位置移動部58によりボウル面B上の複数個所の所定箇所に設定可能としている。
なお、標的位置投影部50の装置本体部10における配設位置は限定されないが、本実施形態では、標的位置投影部50を、図1に示すように、ケーシング14の先端側に配設している。
また、図2に示すように、標的位置投影部50を、前記便器機能部19の衛生洗浄水ノズルの吐出口に対して右側に偏倚した位置に設けている。これにより、衛生洗浄水ノズルからの洗浄水の吐出を邪魔することがない。
このように、標的位置投影部50をケーシング14内の先端側の中心線に近い位置に配設することにより、標的位置投影部50から光像を便器ボウル部17の前側の放尿位置となる領域に向けてより垂直に近い角度で投影することができるため、歪みが少ない光像により標的Hを便器ボウル部17の前側のボウル面B上に見やすい状態で表示することができる。
また、ボウル面B上の標的Hとなる光像は、あくまでもイメージであって実体ではないため、汚れたりして不鮮明になることがなく、しかも、尿温測定装置1が組みつけられる各種の便器にも簡単にマーキングできる。
(リモコン装置の詳細について)
図6にリモコン装置11の外観斜視図を示す。リモコン装置11には、図示するように、装置本体部10において尿温測定を開始する際に被験者Pが操作する個人別尿温測定スイッチ51と、本体計測部40において尿温測定を終了する際に被験者Pが操作する測定終了スイッチ52と、排便後に便器本体部12の便器ボウル部17を洗浄する際に被験者Pが操作する便器洗浄スイッチ53と、衛生洗浄装置の動作を指示する衛生洗浄スイッチ54と、選択放尿位置P−4(標的位置P−3)の微調整を行うための変更スイッチ57と、測定結果や測定状況などの各種情報を表示するリモコン表示部32と、が設けられている。
ここで、本発明が測定対象とする尿温は、単なる一過性の身体情報としてだけでなく女性の生理周期の管理等の健康管理情報としても使用されるため、長期的な測定結果の個人単位での蓄積が重要となってくる。従って、複数の被験者が使用する形態の場合はこの複数の被験者を個人識別する機能が必要となる。
そのための個人識別手段としては、IDカード等の既存の方法を採用することも可能であるが、本実施形態においては複数個のスイッチを設けて、この各スイッチを特定の被験者に割り当てて、個人識別を行う構成としている。
即ち、個人別尿温測定スイッチ51は、本実施形態においては尿温測定を開始する測定開始手段としても機能させているが、図示するように個人家庭での使用を想定して4つのボタンを備えており、例えば家族を構成する各個人毎に割り当てて個人識別手段としても使用できるようにしている。
そして、これらの4つのボタンからなる個人別尿温測定スイッチ51は、各ボタン毎に専用の記憶領域が割り当てられており、得られた測定結果は選択されたボタンに割り当てられた被験者の測定結果としてこの専用の記憶領域に記憶される。即ち、例えば、「1」のボタンを押して尿温測定を行うと、得られた結果は「1」のボタン専用の記憶領域に格納される。
また、この記憶領域には、被験者の放尿位置属性によって選択した選択放尿位置P−4の情報を格納するようにしている。
こうして、被験者PAは、割り当てられた「1」のボタンを押下して尿温測定を行うようにすることで、「1」のボタンに割り当てられた前記記憶媒体の記憶領域から選択放尿位置P−4を取得すると共に、「1」のボタンに割り当てられた前記記憶媒体の記憶領域上には、被験者PAの尿温測定結果が蓄積されるようにすることができる。
さらに、個人別尿温測定スイッチ51の各ボタンを操作することにより、この専用の記憶領域に蓄積された個人別の尿温測定結果が読み出され、その履歴が図示するようにグラフ化されてリモコン表示部32に表示できるようにしている。
リモコン表示部32は、図6に示すように、検温の測定結果を表示する測定結果表示部37と、標的Hの現在の位置を表示する標的位置表示手段としての標的位置表示部38とを有している。
測定結果表示部37は、被験者の尿温による測定結果を表示するようにしている。また、過去の測定結果の履歴も現在の測定結果と共にグラフなどにより表示するようにしている。被験者は、この測定結果表示部37で表示される測定結果に基づいて、自分の体温を知ることができる。
リモコン表示部32は、測定結果の数値や履歴グラフを表示するだけでなく、図示のように、標的位置の変更可能レンジに対する現在の標的位置P−3を相対表示して、被験者に測定状況を知らせるようになっている。
標的位置表示部38は、ボウル面B上において、選択放尿位置P−4を基準として前後左右のどの位置に標的位置P−3が設定されているかを表示するようにしている。すなわち、ボウル面B上の位置を選択放尿位置P−4をX軸及びY軸の原点とする2次元表示で表示し、そのボウル面B上のどの位置に標的位置P−3があるのかを表示するようにしている。被験者は、その標的位置P−3の位置の表示内容を見て、ボウル面B上でどの位置に自分の標的Hがあるのか、言い換えればどの位置に放尿しているのかを確認することができる。
リモコン装置11に配設された十字形状を有する変更スイッチ57は、標的位置設定部71の標的位置微調整手段として機能するもので、その変更スイッチ57により前記ボウル面B上に表示する標的位置P−3を予め設定された位置から微調整するものである。そして、十字形状の変更スイッチ57の左右前後の操作により、前記リモコン装置の標的位置表示部38で標的Hの位置を確認しながら、標的位置P−3を微調整出来るようにしている。
なお、この個人別尿温測定スイッチ51の個人識別機能を利用して、本実施形態では単に測定結果の管理だけでなく、個人単位での管理が必要なその他の情報の管理にも使われている。
即ち、本実施形態では、被験者に標的位置P−3の目標となる光学的な標的Hをボウル面に表示する構成となっているが、この標的Hの表示位置は被験者毎にこの個人別尿温測定スイッチ51に割り付けられて前記記憶媒体に記憶されており、被験者Pが測定開始時に個人別尿温測定スイッチ51を選択押下げすることによって、そのスイッチに割り付けられた選択放尿位置P−4に基づいて設定される標的位置P−3に標的Hが表示されるようになっている。
具体的には、測定開始時に個人別尿温測定スイッチ51が操作されると、放尿位置取得部72は、個人別尿温測定スイッチ51に応じて割り付けられている個人情報をもとにして放尿位置属性記憶部74に記憶されている個人別の放尿位置属性と放尿位置との関係テーブルから選択放尿位置P−4を取得すると、標的位置設定部71はその個人の選択放尿位置P−4に標的位置P−3を設定し、標的位置移動部58は、図示しない電動モータなどのアクチュエータを駆動して標的Hを標的位置P−3に表示するようにしている。
尿温測定装置1においては、被験者Pがその測定に際して、割り付けられた個人別尿温測定スイッチ51を選択すると、登録された被験者Pの標的位置P−3に標的Hが表示されるようになっている。次に、この個人別尿温測定スイッチ51への初回使用時の標的位置の割付登録方法について具体的に説明する。
被験者Pがリモコン装置11の所定のスイッチ操作を行なうと標的位置の登録モードに設定される。次に任意の個人別尿温測定スイッチ51を登録スイッチとして選択すると、本実施形態における選択可能な放尿位置属性を決定する基準である女性・男性・子供の中から女性がリモコン表示部32に表示されるとともに、その放尿位置属性に対応する放尿位置に標的Hが表示される。被験者Pは変更スイッチ57を適宜操作して、自分の属する放尿位置属性を表示させた後、測定終了スイッチ52を押して放尿位置属性の選択を完了させる。このとき、標的Hは選択された放尿位置属性に属する被験者群の平均的なボウル面上の放尿位置、即ち、選択放尿位置P−4に表示されている。この位置は、あくまで平均的な位置であるため、必要に応じて、以下の被験者Pに固有の放尿位置に微調整を行なう。
即ち、放尿を開始して変更スイッチ57で微調整の操作をして標的Hの表示位置を選択放尿位置P−4から移動させて尿の衝突位置P−2に極力一致させる。その後、尿温測定を終了すると、そのときの位置が被験者Pの標的位置P−3として、選択されている個人別尿温測定スイッチ51に割り付けて記憶される。次回使用時からは個人別尿温測定スイッチ51を押し下げすると、その登録された標的位置P−3に標的Hがボウル面B上に表示される。
また変更スイッチ57は、本実施形態では、標的位置調節手段としての機能を担っている。即ち、以上のべた手順で登録された標的位置P−3は被験者自身が設定して記憶された位置であり、かつ、本実施形態では便座に着座して排尿する形態であるため、同じ被験者であればその標的位置P−3に合わせて放尿することは比較的簡単であるが、それでも便座に座る位置や姿勢によっては標的位置P−3からはずれた位置に尿流衝突位置がずれる場合が発生することが考えられる。
従って、被験者Pは、測定中に衝突位置P−2が標的位置P−3からずれた場合、この変更スイッチ57の移動させたい方向のボタン(図6参照)を選択して押し操作して、標的位置を尿流衝突位置に合致させるように変更する。このとき、その状態で一連の測定が終了すると標的位置設定部71は、そのときの位置を新たな標的位置P−3として個人データを更新する。
このように、被験者は、変更スイッチ57を利用して放尿位置属性を選択するだけで自分の属性に合った位置に標的Hを設定することが出来るので、検温尿流領域Uの確実な温度計測に必要な標的Hの位置を放尿位置に合致させて設定する被験者の手間を簡素化することが可能となるため、ひいては尿温(体温)の正確な測定が可能となる。
なお、本実施形態ではこの変更スイッチ57は図示するように、位置調節は前後のみに調節可能な形態としているが、標的位置移動部58と併せて前後左右に調節可能に構成しても良い。
また、個人別尿温測定スイッチ51を押下した際に、動作開始指示手段として機能させる場合や、尿温測定履歴を表示させる場合などに、パスワードを要求するように構成しても良い。このように構成することで、個人情報の漏洩を防止したり、プライバシーを保護したりすることが可能となる。なお、パスワードを入力させるには別途テンキースイッチを設けたり、あるいはリモコン表示部32にタッチパネルを設けたりしておくとよい。
(検温領域Sの具体的な設定方法について)
本実施形態における尿温測定装置1における検温領域Sの設定方法について説明する。
図7は便器本体部12のボウル面B上に形成される展開尿流領域と標的Hを示す平面図である。図8は、標的位置と本実施形態における各放尿位置属性(女性・男性・子供)に対応する選択放尿位置と検温領域との位置の関係を示す平面図である。
尿温測定装置1において、被験者が便座に着座してボウル面Bの標的位置P−3に投影された標的Hを目がけて排尿すると、その尿は、図1に示すように、放物線を描きながら標的H近傍に落下して衝突する。そして、ボウル面Bに衝突した尿は、図7に示すように、排尿される量に応じた広がりで、衝突位置P−2の周りに展開しながら溜水面Wに向けて流下していく。図中、Tはボウル面B上の衝突位置P−2の周りに形成される展開尿流領域を示す。
ここで、図7に示すように、展開尿流領域T内のUで示される特定領域は、前述したように、排尿直後の尿の温度即ち、本発明における尿温に極めて近い温度で一様な温度分布を示し、かつ、その位置と形状は衝突位置P−2と良好な相関関係があることが確かめられた(以下、この特定領域を検温尿流領域Uと呼ぶ)。
なお、本実施形態においては、前述したように、赤外線受光部に複数個の測温素子61からなる赤外線受光部44を採用して、検温領域Sはこれらの複数個の測温素子61に割り付けられた構成としているため、それらの複数個の検温領域のうち少なくとも一つがこの検温尿流領域Uに含まれていれば、正確な計測が可能となる。
そして、この検温尿流領域Uの大きさは、ある実験例では、温度分布が尿温測定に必要な±0.1℃以内の範囲とすると約50mm×70mmであり、本実施形態で採用する測温素子群62(8×8=64素子)の検温領域S(20mm×20mm)の一素子あたりの検温領域の大きさ(20/8mm×20/8mm)に対して、安定的に計測するために充分な広さであることが確かめられた。
従って、本実施形態における尿温測定装置1は、尿温を計測する検温領域Sを、衝突位置P−2に基づいて、ボウル面B上の前記検温尿流領域U内に設定している。
すなわち、予め、いろいろな尿流衝突位置を設定してその周りに形成される検温尿流領域U内の位置と形状を測定し、その関係を測定制御部41の記憶部に記憶しておく。そして測定時に、検温領域位置設定部46が検温領域Sの位置を、衝突位置P−2に基づいて予め決められた検温尿流領域U内の所定位置に設定している。
また、この検温尿流領域Uは多くの場合、排尿口P−1とボウル面Bとの位置関係から、図示されているように衝突位置P−2の下方側がより広い範囲に形成されていることも予備実験で判明した。
従って、本実施形態ではかかる検温領域Sを、図7に示すように、検温尿流領域U内であって、かつ衝突位置P−2より下方の位置に設定している。この位置の検温尿流領域Uは検温領域Sの広さに比べて充分広いため、被験者Pの排尿位置や排尿状態が排尿中に変化しても衝突位置P−2を基準として検温領域Sの位置を設定する限り、安定した検温尿流領域Uの温度計測が可能となる。
こうして、検温領域Sを衝突位置P−2より下方に設定することにより、高精度な尿温測定が安定して可能となる。
こうして、被験者が標的位置P−3に設定された標的Hを目がけて***した尿は、ボウル面Bで衝突した後は衝突位置P−2の周りに薄く広がって展開尿流領域T内に検温尿流領域Uを形成し、標的位置P−3を衝突位置P−2と見做して検温領域Sを設定することにより、簡素な構成で確実な尿温測定が可能となる。
本実施形態における尿温測定装置1は、前述のように被験者ごとに検温領域の位置を設定する検温領域位置設定部46を備えているが、設定された標的位置P−3を尿流衝突位置P−2とみなして検温領域の位置を設定している。そのため、被験者の何らかの過誤により、実際の尿流衝突位置P−2が標的位置P−3から外れた状態となっても被験者がきがつかないまま測定が行なわれる事態の発生が予想される。そのため、そのような事態を未然に防止する手段として、実際の尿流衝突状態を監視する構成とすることも可能である。以下に、その詳細を説明する。
図9は、本実施形態に係る尿温測定装置1の赤外線受光部44の変形例である赤外線受光部144の構成を説明するブロック図であり、図10は、赤外線受光部144における焦点距離変動機構145により焦点距離を変動させる場合の検温領域Sの設定を説明する説明図である。以下では、ここまで述べてきた本実施形態に係る尿温測定装置1における構成と同じ構成には同じ符号を付して、それらの説明は省略する。
赤外線受光部144は、図9に示すように、光学部63の焦点距離を変動させる焦点距離変動機構145を有している。即ち、焦点距離変動機構43は、図3に示すように、光学部63を構成するもので、光学部63を構成するレンズをスライドさせることにより光学部63の焦点距離を変更することにより、検温領域Sを広狭とするようにしている。
その動作は、まず、広い検温領域Sの温度分布計測結果の展開尿流領域の位置から被験者Pのおおよその尿の落下位置を推定する。次いで、推定されたこの尿の落下位置が標的位置P−3に基づいて決定される尿流衝突位置P−2から所定量以上ずれている場合は、検温領域移動部75にて、検温領域Sをこの尿の落下位置に基づいた新たな検温位置に移動させ、その後に検温領域Sを狭くして尿温測定を継続する。
すなわち、図10に示すように、まず、被験者Pの標的位置P−3を中心として検温領域Sを広くして検温領域(A)になるように設定する。そして、検温領域Sが広がった状態で、得られた温度分布により実際に被験者Pの尿流が当たった箇所を判断するようにしている。すなわち、広い検温領域での温度分布計測結果から、大よその尿の実際の落下位置を把握するようにしている。
図10は検温領域を変化させた場合に観測される温度分布状態を示したものであり、検温領域を広くした場合が検温領域(A)、狭くした場合が検温領域(B)で示されている。この場合では、検温領域(A)全体を見ると尿によって温度上昇している箇所が便器後端側が多い状態となっている。この分布状態より、実際の放尿位置が標的位置P−3に基づいて想定した尿流衝突位置P−2より便器後端側にずれていることが判る。この状態のままでは、より高精度の温度計測は困難なため、この推定された放尿位置を尿流衝突位置P−2として検温領域の位置を移動させるとともに、検温領域を狭くして検温領域(B)とする。
具体的には、検温領域移動部75(電動モータなどのアクチュエータ)により検温領域Sを移動させると共に、前記焦点距離変動機構43により、光学部63の焦点距離を長くすることにより、検温領域(B)のように狭くして、展開尿流領域T内の尿を集中的に検温するようにしている。
なお、このように実際の放尿位置のズレが検知された場合は、前述した検温領域位置等の修正だけでなく、その旨を、リモコン表示部32に表示して被験者に報知するようにしても良い。
このように、本実施形態における尿温測定装置1は、前記焦点距離変動機構43により光学機構の焦点距離を長短する機能を付加することにより、被験者の実際の放尿位置に合わせて検温領域Sを設定して測ることが可能となるため、高精度の計測が出来る。
(尿温測定装置による尿温測定の手順について)
次に、上述した構成からなる尿温測定装置1の尿温測定の手順を、図11及び図12に示す動作フローチャートを参照しながら以下に説明する。図11は動作全体を示すフローチャートであり、図12は図11のルーチン処理の詳細を示すフローチャートである。
まず、被験者Pが便座本体15aに着座した状態でリモコン装置11の予め自分に割り当てられた個人別尿温測定スイッチ51を適宜選択して押圧操作すると、リモコン装置11のリモコン制御部31は、尿温計測スイッチのON信号と選択されたスイッチ番号を検出する(ステップS11)。
このON信号を検出したリモコン制御部31は、本体計測部40による計測動作を開始させるための指示信号、すなわち、計測動作開始指示信号を生成し、リモコン通信部34を介して装置本体部10の測定制御部41に送信する(ステップS12)。なお、この計測動作開始指示信号にはスイッチ番号信号も被験者特定信号(この信号を含めて、被験者を特定するための情報を、以下では「被験者特定情報」とも呼ぶ)として含まれている。
次いで、測定制御部41の標的位置設定部71は、本体通信部42を介して計測動作開始指示信号を受信すると標的位置投影部50のアクチュエータを駆動して、標的を計測動作開始指示信号に含まれている被験者特定信号に応じて初回使用時に個人別尿温測定スイッチ51によって標的位置P−3として登録された位置に移動させる(ステップS13)。
そして、標的位置設定部71はここで設定された標的位置P−3を衝突位置P−2として記憶するとともに、検温領域位置設定部46は検温領域移動手段を駆動させて、この衝突位置P−2から予め決められた所定距離下方の位置に検温領域Sを設定する(ステップS14)。
この後、被験者Pは排尿を開始するが、必要に応じて変更スイッチ57を操作して、標的位置の微調整を行う。すると、位置移動信号がリモコン装置11から装置本体部10に送られ、標的位置設定部71(測定制御部41)は、変更スイッチ57の操作量に応じた位置信号を標的表示手段としての標的位置設定部71に送り、標的位置の微調整を行うと共に、この変更後の標的位置を被験者Pの標的位置P−3として更新記憶する(ステップS15)。
測定制御部41は、検温領域Sを設定完了すると、本体計測部40の制御を開始して、尿温測定処理を実行する(ステップS16)。なお、この尿温測定処理については尿温計測処理ルーチンとして、以下で図11を用いて詳細説明する。
尿温計測処理ルーチンは図11に示すように、先ず、測定制御部41の尿温算出部47は、サーモパイルの各素子の温度を取得する(ステップS21)。すなわち、赤外線受光部44において、検温領域Sから分担して受光される赤外線を基に、8×8構成の測温素子群62の各測温素子61における出力信号を走査して得られる一組の2次元温度情報を1フレーム情報として取得する動作を所定回数になるまで繰り返す。
次いで、尿温算出部47は、取得されたフレーム数が予め設定された回数に達したと判定すると(ステップS22:Yes)、測温素子群62における測温素子61毎の温度情報に対して平均化処理を行い、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度を算出する(ステップS23)。
本実施例においては、測温素子群62における全ての測温素子61について、50フレーム分の取得データに基づいて平均計測温度を算出する。このように、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度を算出することにより、一般に測温素子61毎に発生する検出信号のノイズによる計測値への影響量を軽減することができる。
規定回数に達しない場合(ステップS22:No)、ステップS21の処理に戻す。
次に、測定制御部41は、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度のうち、最大値を抽出し、これをその時点での尿温計測値として記憶媒体に記憶する(ステップS24)。
すなわち、測定制御部41は、赤外線を受光した複数の測温素子61の出力信号からそれぞれの素子毎に平均計測温度を算出し、それらの平均計測温度のうち最高値を、本体計測部40の尿温測定値とする処理を行うのである。通常の測定環境においては尿の温度はその周囲温度より高い状態にあるため、尿の温度は排尿直後の温度から放冷現象によって低下することはあっても、上昇することはないので、計測して得られた素子毎の複数個の温度の中の最高値を検温尿流領域U内の尿の温度の計測値とすることにより、尿温により近い計測値を得ることができる。
なお、本実施形態ではこのように、赤外線受光部として複数個の測温素子からなるものを使用して、得られる複数個の温度データの中から一つを選ぶ方法を採用しているため、前述した検温尿流領域U内に少なくとも一つの単位検温領域Sxが含まれていれば、検温尿流領域U内の尿の温度計測は正しく行われる。
次に、測定制御部41は、リモコン装置11のリモコン操作部33における測定終了スイッチ52が押圧操作されたか否かを判定する(ステップS25)。
その結果、測定終了スイッチが押圧操作されていないと判定すると(ステップS25:No)、測定制御部41は、処理をステップS22に戻す。
一方、測定終了スイッチが押圧操作されたと判定すると(ステップS25:Yes)、測定制御部41は、尿温測定スイッチが押圧操作されてから測定終了スイッチが押圧操作されるまでの間の各時点での尿温計測値として記憶媒体に記憶されている記録値のうちの最大値を抽出し、一回の排尿行為における尿温測定値として確定し、この尿温測定値を記憶されている被験者特定情報に対応付けて記憶媒体に記憶させて(ステップS26)、尿温測定処理を終了する。
尿温測定処理が終わると測定制御部41は、得られた尿温測定結果情報と被験者特定情報に対応する被験者の過去の測定情報とを基にして、リモコン装置11のリモコン表示部32に表示する測定結果表示データを作成する(ステップS17)。
次に、測定制御部41は、作成された測定結果表示データ含めた測定結果に関する情報(以下、この情報を「尿温測定結果情報」とも言う。)を、本体通信部42を介してリモコン装置11のリモコン制御部31に送信する(ステップS18)。
なお尿温測定結果情報の他の例として、例えば、ある測定において、尿流衝突位置が大幅にずれた場合や排尿が短時間で終わったりしたため尿温測定が正常に行われなかった場合には、尿温測定が正常に行われなかったことを示すアラーム情報がある。
リモコン通信部34を介して尿温測定結果情報を受信すると、リモコン制御部31は、リモコン表示部32に尿温測定結果を表示する(ステップS19)。
この際、尿温測定が行われなかったことを示す情報が含まれている場合には、例えば、「尿温測定は正常に行われませんでしたので、測定結果には誤差があります」等の表示をリモコン表示部32に行なって被験者に注意すべき旨を報知する。
その後、装置本体部10の測定制御部41、及びリモコン装置11のリモコン制御部31は、次回の尿温測定に必要な所定の測定準備動作を行い、一連の尿温測定を終了する。
また、本実施形態では、尿温測定に関する操作や表示を行うものとして、装置本体部10とは別に設けたリモコン装置11にリモコン表示部32やリモコン操作部33等を設置し、リモコン装置11と装置本体部10との間で通信を行なって尿温測定装置1として機能する構成としているが、リモコン装置11のリモコン表示部32やリモコン操作部33に代えて、装置本体部10に操作表示部などを設ける構成としてもよい。
ところで、上述してきた尿温測定装置1は、洋式大便器に予め尿温測定部20を一体的に組み込んだものとした。しかし、尿温測定部20を洋式大便器とは別体の筐体内に設けておき、既設の洋式大便器に後付け可能な構成とすることもできる。
また、本実施形態では赤外線受光部44が備える受光素子として複数の測温素子からなる測温素子群を使用した例として説明したが、単一の測温素子からなる受光素子としてもよい。
なお、本発明において用いる測温素子は、少なくとも検温領域の温度に応じた信号出力を行えるものであれば良いため、単一の素子で構成されるものであっても採用可能である。
(溜水面の制御について)
次に、溜水面Wの位置制御について説明する。図13は、本実施形態に係る尿温測定装置1の溜水面Wを低下させる必要のない場合を説明する側面図であり、図14は、本実施形態に係る尿温測定装置1の溜水面Wを低下させる必要のある場合を説明する側面図である。
本実施形態における尿温測定装置1には、溜水面Wを調節する溜水面位置制御手段が配設されている。その溜水面位置制御手段は、圧力センサ(図示せず)を備え、圧水センサは例えば便器機能部19のボウル面Bの底部に配設されている。そして、圧力センサは便器ボウル部17内の溜水の圧力を測定する。
測定制御部41には、前記圧力センサで測定した圧力により、便器ボウル部17内の溜水の量に換算すると共に、溜水面Wがボウル面Bにどの高さ位置にあるのかを検出するとともに、溜水面位置を所定の位置に低下させる制御を行なう溜水面位置制御部30を備えている。
溜水面位置制御部30は、また、前記トラップ管路18と排水接続管22の間に設けた排水路36と、排水路36の途中に排水弁35とを備え、排水弁35を開放させることにより、トラップ管路18にある水を、トラップ部を通さずに排水路36を通して、排水接続管に流す溜水排出手段を便器本体部12に備えている。
以上の構成で、溜水面位置制御部30は、前記溜水面Wの高さ位置を算出した後、その溜水面Wの高さ位置と被験者の選択放尿位置P−4とを比較することにより、標的位置P−3が溜水面Wより下方に位置する場合には、排水弁35を開放させて便器ボウル部17内の溜水を排出することによって、溜水面Wの高さ位置を調節するようにしている。
例えば、女性の場合には使用する大便器の種類によっては溜水面W側に標的位置P−3が設定されて測定不能となる場合も起こり得るので、溜水制御を行うことにより、溜水面Wを低下させることで尿温測定を行なえるようにすることができる。これにより、被験者ごとに異なる放尿位置に合わせて測ることが可能となるため、高精度の計測が出来る。
次に、このように構成した尿温測定装置1の溜水面Wの制御の手順を、図15に示す動作フローチャートにより以下に説明する。図15は、本実施形態に係る尿温測定装置の溜水面制御を含む動作手順を示すフローチャートである。図16は、本実施形態に係る溜水面制御の手順を示すフローチャートである。
まず、図15に示すように、被験者Pが便座15に着座した状態でリモコン装置11のリモコン操作部33における個人別尿温測定スイッチ51を押圧操作する(ステップS31)。この押圧操作に基づいて、リモコン装置11のリモコン制御部31は、本体計測部40による計測動作を開始させるための指示信号、すなわち、計測動作開始指示信号を、リモコン通信部34を介して尿温測定部20の測定制御部41に送信する。
次いで、測定制御部41は、前記計測動作開始指示信号を受信すると、選択された個人別尿温測定スイッチ51に割り付けられている個人別の標的位置P−3を取得すると共に、その選択した標的位置P−3に基づいて検温領域Sを移動させる(ステップS32)。すなわち、測定制御部41は、焦点距離変動機構43を駆動させて、焦点距離変動機構43により光学機構の焦点距離を長短することにより、検温領域Sを広狭とすると共に、標的位置移動部58を駆動させて、被験者の標的位置P−3に基づいた検温領域Sの位置の変更を行う。
また、被験者の操作により、標的位置設定部71の操作により標的位置P−3の微調整を行う。すなわち、標的位置設定部71はリモコン装置11上に配設された十字ボタンである変更スイッチ57であって、その変更スイッチ57を上下左右のスイッチ操作により被験者に応じた標的位置P−3の微調整を行う。
次いで、測定制御部41は、設定された標的位置P−3が、溜水面Wの高さ位置より下方にあるか否かを判定する(ステップS33)。
標的位置P−3が、溜水面Wの高さ位置より下方にある場合には、図16におけるS41〜S44までの溜水面Wの低下処理を行う。また、標的位置P−3が、溜水面Wの高さ位置より上方にある場合には、図12におけるステップS21〜S26までの前記尿温計測処理を行う(ステップS34)。
そして、溜水面Wの低下処理を行った後、前記図12におけるステップS21〜S26までの前記尿温計測処理を行う(ステップS35)。
最後に、リモコン装置11において尿温計測処理の結果表示を行い(ステップS36)、溜水面制御を含む尿温測定処理を終了させる。
次に、溜水面Wの具体的な制御について図16を参照して説明する。
まず、溜水面位置制御部30は、前記標的位置P−3とボウル部内の溜水の量を圧水センサにより測定された溜水面Wとの位置関係に基づいて、標的位置P−3が設定可能な位置まで溜水面Wを低下させる排水量を算出する(ステップS41)。
次いで、溜水面位置制御部30は、排水弁35を開放させることにより(ステップS42)、トラップ管路18にある水を、トラップ管路18を通さずに排水路36を通して、排水接続管に流すようにしている。(ステップS43)。
そして、溜水面位置制御部30は、所定量の溜水を流した後、排水弁35を閉鎖させて(ステップS44)、排水弁35の開放を停止させて溜水面Wの低下処理を終了させる。
例えば、女性の被験者がリモコン装置11の個人別尿温測定スイッチ51を押すと、その女性の標的位置P−3を取得すると共に、その標的位置P−3が溜水面W内に位置しているか否かを判定し、溜水面W内に位置している場合には、圧力センサにより溜水の水量を検出して、その女性の標的位置P−3と溜水面Wとの関係を算出して、溜水制御を行って尿温測定を行うようにしている。このようにして、女性の被験者であっても、通常の便器機能を保持したままでの正確な尿温測定が可能となる。
また、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんである。