以下に、本発明の各種実施形態および実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの構成を、模式的に示したブロック図である。本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aは、いわゆる「ダイナミックフォーカス方式(またはボリュームフォーカス方式と称することもある)」により被測定材の状態を測定し、被測定材に存在する異常な不連続部を検出することができる。なお、この「異常な不連続部」を本発明においては「きず(表面きずおよび/または内部きず)」と称する。「きず」には、切欠、亀裂、気泡、介在物などが含まれる。
「ダイナミックフォーカス方式」の走査については、前記特許文献3に記載されていることから、以下簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
「ダイナミックフォーカス方式」は、配列形探触子に設けられる超音波振動子を励起させてそのエコーを記憶し、計算機上で任意の位置における超音波の位相合成を行う。これにより、任意の位置に焦点を合わせた超音波ビームを算出する。すなわち、一回の超音波の送受信で、測定対象領域の任意の位置にフォーカスを設定した複数の超音波ビームを算出する。これにより、一回の超音波の送受信で測定対象の広範囲にわたって配列形探触子の配列方向の走査を行うことができる。
図1に示すように、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aは、被測定材3(または補正用の被測定材2。これについては後述)の表面に対向するように配設される配列形探触子(アレイ探触子とも称する)11と、所定の数の信号処理部12と、任意焦点波形合成部13と、判定部14と、補正係数演算部15とを有する。
配列形探触子11は、それぞれ独立して動作可能な所定の数の超音波振動子111を備える。各超音波振動子111は超音波の送受信が可能な素子であり、たとえば水晶やセラミックスなどの公知の各種超音波振動子が適用できる。
そしてこれらの超音波振動子111は、被測定材3(または補正用の被測定材2)の表面に対向するように、直列的に配列される。
なお、前記配列形探触子11は、前記のように被測定材3(または補正用の被測定材2)に対向するように配設されていればよいが、特に、被測定材3(または補正用の被測定材2)の表面に沿うように配列されることが好ましい。
たとえば図1に示すように、被測定材3が断面略円形の円柱状の部材であり、配列形探触子11と被測定材3とを被測定材3の軸線方向に相対移動させて探傷する構成においては、配列形探触子は略円弧状または環状に形成されることが好ましい。超音波振動子111は、配列形探触子の形状にならって直列的に配列される。そして被測定材は、その断面中心が配列形探触子11の曲率または環の中心に一致するようにセッティングされる。
なお、図1に示すように、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aが円弧状の配列形探触子11を有する場合には、たとえば複数の円弧状の配列形探触子11が、被測定材3の軸線方向にずらして配設される構成が適用できる。そしてこのような構成とすることにより、全体として、配列形探触子11(すなわち超音波振動子111)が、被測定材3の全周を取り囲む構成となる。
また、各超音波振動子111と被測定材3との間には水などの液体の層191が形成されており、この液体の層191によって、各超音波振動子111と被測定材3または補正用の被測定材2とが音響結合する。なお、水以外としては、マシン油やグリセリンなどの油を接触触媒として用いることができる。
信号処理部12は、超音波パルス送受信タイミング設定手段121と、超音波パルス発生手段122と、超音波エコー受信手段123と、A/D変換手段124と、波形記憶手段125とを備える。本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aが有する信号処理部12の数は、超音波振動子111の数に等しく設定される。すなわち、一個の超音波振動子111につきそれに対応する一個の信号処理部12を有する。そして各信号処理部12は、互いに同期的におよび/または独立的に動作することができる。なお、図1においては一個の信号処理部のみを示し、他は省略してある。
超音波パルス送受信タイミング設定手段121は、配列形探触子11に設けられる各超音波振動子111を励振するタイミングを設定できるとともに、各超音波振動子111による超音波エコーの受信タイミングを設定できる。超音波パルス発生手段122は超音波パルス送受信タイミング設定手段121が設定するタイミングで超音波パルスを生成する。そして、配列形探触子11に設けられる各超音波振動子111を、それぞれ独立して励振することができる。励振された超音波振動子111は、外部(すなわち被測定材3または補正用の被測定材2)に向けて超音波を送信する。
また、配列形探触子11に設けられる各超音波振動子111は、超音波パルス送受信タイミング設定手段121が設定したタイミングで超音波エコーを受信することができる。超音波エコー受信手段123は、各超音波振動子111が受信した超音波エコーを増幅することができる。A/D変換手段124は、各超音波振動子111が受信し各超音波エコー受信手段123が増幅した超音波エコーの値を、アナログ値からディジタル値に変換することができる。波形記憶手段125は、A/D変換手段124がディジタル値に変換した超音波エコーの値を記憶することができる。
そして各信号処理部12は、上記動作を同時に行うことができる。また、各信号処理部12は、少なくとも超音波ビームを送信してから被測定材3の底面に反射した超音波エコーを受信するまでの間、所定の短いサイクルで前記動作を繰り返すことができる。各信号処理部12の波形記憶手段125には、少なくとも表面エコーの受信から底面エコーの受信までの間の超音波エコーを経時的に蓄積して記憶できる。
各信号処理部12の波形記憶手段125に記憶された超音波エコーは、任意焦点波形合成部13に送られる。任意焦点波形合成部13は、波形記憶手段125に記憶された超音波エコーに基づいて、測定対象領域(すなわち被測定材3の断面内)の任意の位置における超音波の位相合成を行うことができる。すなわち、被測定材3の断面内の任意の位置に焦点を合わせた超音波ビームとそのエコー高さを算出することができる。
判定部14は、信号補正手段141と、判定手段142と、出力手段143とを備える。信号補正手段141は、後述する補正係数演算手段152により算出された補正係数を用いて、任意焦点波形合成部13が算出したエコー高さを補正する。この詳細は後述する。判定手段142は、補正されたエコー高さに、所定の閾値を越える高さがあるか否かを判定する。出力手段143は、判定手段142の判定結果を出力する。
補正係数演算部15は、合成波形記憶手段151と、補正係数演算手段152と、補正係数記憶手段153とを有する。合成波形記憶手段151は、任意焦点合成部において算出されたエコー高さを記憶できる。補正係数演算手段152は、合成波形記憶手段151の内容を読み出して、補正係数を算出できる。補正係数記憶手段153は、補正係数演算手段152が算出した補正係数を蓄積的に記憶できる。
本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの感度補正方法において実行される処理は、次のとおりである。
まず、その概要について説明する。
本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの感度補正方法には、配列形探触子11に設けられる複数の超音波振動子111を、所定の数のグループに分け、グループごとに補正係数を算出する処理が含まれる(なお、超音波の送信はすべてのグループが一斉に行う)。算出された補正係数は、実際の被測定物3に対する測定(たとえば出荷前の製品に対する測定)において、任意焦点波形合成部13が算出したエコー高さの値に乗じる係数である。任意焦点波形合成部13が算出したエコー高さの値に補正係数を乗じることにより、エコー高さの値が補正され、超音波振動子111のグループ間で測定感度が等しくなる。
補正係数の算出は、測定対象物として、補正用の被測定材2を用いて算出したエコー高さに基づいて行われる。補正用の被測定材2は、実際に測定を行う被測定材3(たとえば出荷前の製品など)と、略同一の断面形状および寸法を有する部材である。そしてその断面内の所定の既知の位置に、所定の形状および寸法(いずれも既知)の人工きず21が形成される。
超音波振動子111のグループごとに人工きず21のエコー高さを算出する際に、超音波振動子111のグループと人工きず21との相対的な位置関係を等しくすると、得られるエコーは超音波振動子111のグループ間で差が生じないはずである。しかしながら実際には、得られる人工きず21のエコー高さが、超音波振動子111のグループごとに相違する(換言すると、超音波振動子111のグループ間で差が生じる)ことがある。そこで、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aは、感度を補正するために、各グループについて得られた人工きずのエコー高さに基づいて補正係数を算出し記憶する。
そして実際の測定(出荷する製品などに対する探傷)において、得られたエコー高さに、前記のようにして得られた補正係数を乗ずる。この補正係数を乗じたエコー高さに基づいて、被測定材3の内部状態を測定する。このようにすれば、各グループの補正後の受信感度は互いにほぼ等しくなるから、第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの測定の精度が向上する。
次に、図2および図3を参照して、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの感度補正方法、すなわち、補正係数を算出して記憶する際の超音波探傷装置1aの動作について、詳細に説明する。図2は、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの感度補正方法を示したフローチャートである。また、図3は、この感度補正方法の実施時における、配列形探触子11に設けられる超音波振動子111の各グループ112と、これら各グループ112にて合成される超音波ビームUと、補正用の被測定材2に形成される人工きず21との関係を、模式的に示した断面図である。
ステップS1においては、配列形探触子11に設けられる複数の超音波振動子111が、所定の数のグループ112にグループ分けされる。このグループ分けは、配列形探触子11に直列的に配列される超音波振動子111のうち、連続する同数ずつの超音波振動子111が一つのグループ112として設定される。
たとえば、配列形探触子11に直列的に配列される複数の超音波振動子111のうち、配列形探触子11の一端から1〜10番目の超音波振動子111を第一のグループ、11〜20番目の超音波振動子111を第二のグループ、21〜30番目の超音波振動子111を第三のグループ、31〜40番目の超音波振動子111を第四のグループ、・・・、などというようにグループ分けされる。
なお、超音波振動子111のグループ分けは、ある特定の一つの超音波振動子111が、ある特定の一つのグループ112に属するような方法に限定されるものではない。すなわち、ある一つの超音波振動子111が、複数のグループ112に属するようなグループ分けの方法であっても良い。
具体的にはたとえば、配列形探触子11に設けられる複数の超音波振動子111のうち、配列形探触子11の一端から1〜10番目の超音波振動子111を第一のグループ、6〜15番目の超音波振動子111を第二のグループ、11〜20番目の超音波振動子111を第三のグループ、16〜25番目を第四のグループ、・・・、などというようなグループ分けの方法を用いても良い。
なお、各グループ112に属する超音波振動子111の数は、互いに等しく設定されることが好ましい。ただし、具体的に一つのグループ112に属する超音波振動子111の数は限定されるものではない。同様に、グループ112の数も限定されるものではない(図3は、四組の超音波振動子111のグループを備える構成を示すが、この構成に限定されるものではない)。配列形探触子11に設けられる超音波振動子111の数などに応じて、適宜設定すればよい。
ステップS2においては、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの感度補正方法で用いられる補正用の被測定材2が、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aにセッティングされる。前記のとおり補正用の被測定材2は、実際に測定を行う被測定材3(たとえば出荷前の製品)と略同じ断面の形状および寸法を有する。そしてその断面内の所定の位置には、所定の形状および所定の寸法の人工きず21が形成される。この人工きず21としては、所定の径の丸穴などが適用できる。
なお、人工きず21の位置は、補正用の被測定材2の超音波ビームが送信される面からの深さと、配列形探触子11の超音波振動子111の配列方向(すなわち、超音波振動子111のグループ112の配列方向)とにより特定される。補正用の被測定材2が断面略円形である場合には、人工きず21の位置は、その表面からの深さ(または中心からの距離)と、円周方向位置とにより特定される。
本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aが円弧状または環状に形成される配列形探触子11を有し、円柱状の測定材3を測定するものであれば、補正用の被測定材2は、その断面中心が配列形探触子11の曲率の中心に略一致するようにセッティングされる。また、直線状に形成される配列形探触子11を有し、角柱状の被測定材3を測定するものであれば、補正用の被測定材2は、その配列形探触子11に対向する面が、前記配列形探触子11に略平行になるようにセッティングされる。
ステップS3においては、補正用の被測定材2の位置合わせが実行される。すなわち、このステップS3において補正係数を算出する超音波振動子111の特定の一つのグループ112と、補正用の被測定材2に形成される人工きず21とが、所定の位置関係となるように、補正用の被測定材2が移動および/または回転させられる。
たとえば、補正係数を算出する超音波振動子111の特定のグループ112にて合成される超音波ビームのうち、所定の位置に焦点が位置する超音波ビームU、ここでは、補正用の被測定材2の底面(超音波ビームが送信される側の面とは反対側の面)に焦点が位置する超音波ビームUの中心軸上に、補正用の被測定材2に形成される人工きず21が位置するように位置合わせが実行される(図3参照)。
具体的には次のとおりである。人工きず21のエコー高さは、人工きず21が補正係数を算出する超音波振動子111の特定のグループ112が発する超音波ビームUの中心軸上に位置するときに最も高くなり、その位置から外れるにしたがって小さくなると考えられる。
そこで、補正用の被測定材2が本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aにおおまかな位置決めでセッティングされた後(またはおおまかな位置決めをしなくともよい)、位置合わせ手段17が、補正用の被測定材2を移動および/または回転させる。そして、このステップS3において補正係数を算出する超音波振動子111の特定の一つのグループ112が受信する人工きず21のエコー高さが最も高くなる位置を見出す。
具体的には、補正用の被測定材2の移動および/または回転と、人工きず21のエコー高さの測定とを交互に繰り返すことによって、人工きず21のエコー高さが最も高くなる位置を見出す。人工きず21のエコー高さが最も高い位置において、補正用の被測定材2に形成される人工きず21が、補正係数を算出する超音波振動子111の特定のグループ112にて合成される超音波ビームUの中心軸上に位置するはずである。
なお、補正用の被測定材3を「回転」と記したが、実際には、一方向の回転ではなく、正逆双方向の回転を交互に繰り返すことによって、補正用の被測定材2の位置決めがなされる。また、「移動」についても同様であり、一方向の移動ではなく、双方向の移動を繰り返すことによって、補正用の被測定材2の位置決めがなされる。
本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの配列形探触子11が円弧状または環状に形成され、補正用の被測定材2の断面形状が略円形である場合には、補正用の被測定材2の位置合わせは、その断面中心を回転中心として回転させて、前記位置関係を充足するようにすればよい(図3参照。補正用の被測定材2を矢印の向きに回転させればよい)。
ステップ4からステップ7にかけては、超音波振動子111のグループ112ごとに、ダイナミックフォーカス方式による測定が実行される。
具体的には、ステップ4において、すべてのグループ112に属する超音波振動子111が超音波ビームを発し、そのエコーを受信する。次いでステップ5において、超音波振動子111が受信したエコーを超音波エコー受信手段123が増幅し、増幅されたエコーをA/D変換手段124がディジタル値に変換し、変換された値を波形記憶手段125が記憶する。
ステップ6において、任意焦点波形合成部13が、信号処理部12の波形記憶手段に記憶されるエコーの値を読み出す。そして補正係数を算出するグループ112の超音波振動子111について、補正用の被測定材2の底面(超音波振動子111に対向する面とは反対側の面)に焦点があるような波形データ(図3の超音波ビームUの形状を参照)を算出し、このような波形による超音波エコーを算出する。ステップ7において、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151は、任意焦点波形合成部13が算出したエコーを記憶する。
以上のステップ3からステップ7にかけての動作が、他のすべての超音波振動子111のグループ112についても実行される(ステップ8)。すなわち、すべてのグループ112による超音波ビームの送信と、補正用の被測定材2の位置合わせと、特定グループ112ごとに所定の位置に焦点が位置する超音波ビームとそのエコーを算出するステップとを繰り返す。
そして、グループ112ごとに任意焦点波形合成部13で算出されたエコーは、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151に蓄積的に記憶される。したがって、超音波振動子111のすべてのグループ112について、ステップ3からステップ7にかけての動作が完了すると、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、超音波振動子111のすべてのグループ112について、互いに同じ相対位置関係にある人工きず21のエコーが記憶されることになる。
なお、各グループ112の人工きずの位置合わせ(ステップ3)は、配列形探触子11の形状、および補正用の被測定材2の断面形状に応じて異なりうる。
たとえば、図3に示すように、配列形探触子11が円弧状または環状であり、補正用の被測定材2の断面形状が略円形である場合には、補正用の被測定材2を、その断面の中心を回転中心として、所定の角度だけ回転させることにより行うことができる(図中の矢印は、回転方向を示す)。一方、配列形探触子11が直線状に形成され、補正用の被測定材2の断面形状が略四辺形である場合には、補正用の被測定材2または/および配列形探触子11を、超音波振動子111のグループ112の配列方向に、所定の距離だけ相対的に移動させることにより行うことができる。
このほか、人工きず21が形成される位置が互いに異なる複数の補正用の被測定材2を用意し、超音波振動子111のグループ112ごとに交換して人工きず21のエコーを記憶する方法であっても良い。すなわち、人工きず21の形状、寸法および表面からの深さ位置が同じで、配列形探触子11に設けられる超音波振動子111の配列方向の位置が互いに異なる複数の補正用の被測定材2を用意しておく。
そして、超音波ビームを送信してエコーを記憶する際に、グループ112ごとに所定の補正用の被測定材2に交換する。このような方法においては、超音波振動子111のグループ112ごとに、ステップS2からステップS7の動作を行うことになる。すなわち図2中において、ステップS8で『No』であった場合には、実線ではなく破線のルートをたどりステップS2に戻る。
なお、配列形探触子11の形状が円弧状、環状または直線状以外で、補正用の被測定材2の断面形状が略円形または略四辺形以外の場合にも、前記方法が適用できる。すなわち、エコーを記憶する超音波振動子111のグループ112ごとに、異なる補正用の被測定材2を用意しておく。そして超音波振動子111のある特定のグループ112について、ステップ2からステップ7の動作を行う際に、ステップ2において所定の補正用の被測定材2に交換する、という方法が適用できる。
次いで、人工きず21の深さが異なる補正用の被測定材2を用い、異なる深さの人工きず21を有する補正用の被測定材2についても、超音波振動子111のグループ112ごとにエコーを算出する。そして算出したエコーは、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151に蓄積的に記憶される。すなわち、異なる深さ位置に人工きず21が形成される補正用の被測定材2についても、超音波振動子111のグループ112ごとにステップ2またはステップ3からステップ7の動作を実行する。
なお、人工きず21の表面からの深さの種類および数は限定されるものではない。ただし、多くの深さの種類についてエコーを算出することにより、精度の高い補正係数を算出することができるようになる。
深さが異なる人工きず21のエコーを算出するに際しては、人工きず21の表面からの深さが互いに異なる複数の補正用の被測定材2を用意しておき、適宜交換してエコーを算出する方法が適用できる。ただし、次のような方法を用いることにより、補正用の被測定材2の種類を増やすことなく、人工きず21の深さの種類を増やすことができる。
配列形探触子11が略円弧状または略環状に形成され、補正用の被測定材2の断面形状が略円形の場合には、補正用の被測定材2を180°回転させることによって、人工きず21の深さ位置を変更することができる。たとえば、補正用の被測定材2の半径がRであり、人工きず21の中心からの距離がrであるとすると、補正用の被測定材2を180°回転させることによって、表面から(R−r)の深さにある人工きず21と、表面から(R+r)の深さにある人工きず21について、エコーを算出することができる。
一方、配列形探触子11が略直線状に形成され、補正用の被測定材2の断面形状が略四辺形の場合には、まず一方表面に超音波ビームを送信して人工きず21のエコーを算出する。そしてその後、補正用の被測定材2の表裏を入れ替えて他方表面に超音波ビームを送受信して同じ人工きず21のエコーを算出する。たとえば補正用の被測定材2の厚さ寸法がHであり、人工きず21の一方表面からの深さ寸法がhである場合には、当該一個の補正用の被測定材2を用いることによって、表面からhの深さにある人工きず21と、表面から(H−h)の深さにある同じ人工きずのエコーを算出することができる。
そして、超音波振動子111のすべてのグループ112について、あらかじめ定めておいたすべての深さの人工きず21のエコーを算出し記憶する(ステップS9)。なお、人工きず21の深さを変更するに際し、補正用の被測定材2を変更(交換)する必要がある場合には、破線に示した経路をとおり、ステップS2に戻る。これにより、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、すべてのグループ112について、各深さに存在する人工きず21のエコーが蓄積的に記憶されることになる。
次いでステップS10において、補正係数演算部15の補正係数演算手段152が超音波振動子111の各グループ112の補正係数を算出する。ステップS11において、補正係数演算部15の補正係数記憶手段153が、算出された補正係数を記憶する。この動作(補正係数の演算と記憶)を、超音波振動子111のすべてのグループ112について行う(ステップS12)。
補正係数の具体的な算出方法は、次のとおりである。
まず、補正用の被測定材2の超音波ビームが送信される側の表面からの深さ、または超音波ビームを送信してからの時間と、算出された人工きず21のエコー高さとの関係を推定する。具体的にはたとえば、補正用の被測定材2の超音波ビームが送信される側の表面からの深さ、または超音波ビームを送信してからの時間を定義域(x軸)とし、算出された人工きず21のエコー高さを値域(y軸)とするグラフを作成する。
そして作成されたグラフから、前記深さまたは時間とエコー高さとの関係を示すような直線または曲線、すなわち関数y=Fi(x)を推定する。ここで、xは補正用の被測定材2の超音波ビームが送信される側の表面からの深さ、または超音波ビームを送信してからの時間であり、yは人工きず21のエコー高さである。なお、各関数の添字iは、超音波振動子111のグループを示す(すなわち、第i番目のグループについての関数であることを示す)。
この関数の推定方法は、得られたグラフのプロットに応じて適当な方法を選択すれば良く、特定の方法に限定されるものではない。たとえば最小二乗法など公知の各種方法が適用できる。また、推定される関数の種類も限定されるものではない。本発明では、このようにして推定された関数Fi(x)を「補正関数」と称する。これらの補正関数Fi(x)は、超音波振動子111のグループ112ごとに異なりうる。
次いで、この補正関数をFi(x)とした場合において、Gi(x)=a/Fi(x)という関数Gi(x)を定義する。係数aは、補正後のエコー高さを調整するための係数であり、その値は任意に設定される。ただし、通常は0を越え1未満の範囲に設定され、好ましくは0.7〜0.8の範囲に設定される。ここでは、この係数aを「感度係数」と称する。
そして、実際の被測定材3の表面から底面までの深さについて、所定の数値間隔でGi(x)の値を算出し、補正係数記憶手段153に保存する。算出されたGi(x)の具体的な値が、当該グループ112に属する超音波素子の当該深さxの感度の補正係数である。
このようにして算出された補正係数を、実際の測定において算出されたエコー高さに乗ずると、グループ112間の感度が略等しくなり、結果として高精度の探傷を行うことができるようになる。その理由は次のとおりである。
補正関数Fi(x)は、補正用の被測定材2の表面からの深さと所定の形状および寸法の人工きず21のエコー高さとの関係を表す関数である。したがって、補正用の被測定材2を用いて算出されたエコー高さに補正関数Fi(x)の値の逆数1/Fi(x)を乗ずると、超音波振動子111のグループ112および補正用の被測定材2の表面からの深さに関わりなく、その値はほぼ1となる。すなわち、エコー高さに1/Fi(x)を乗じることにより、グループ112間の感度の相違および表面からの深さの影響が除去される。
そしてさらに感度係数aを乗ずると、その値は超音波振動子111のグループ112および補正用の被測定材2の表面からの深さに関わりなく、人工きず21のエコー高さは、送信した超音波ビームのほぼ(a×100)%となる。
補正用の被測定材2に形成される人工きず21の形状および寸法は既知であるから、実際の被測定材3を用いて算出されたエコー高さに補正係数を乗じた値に基づいて、被測定材3に存するきずの大きさを推定することができる。少なくとも、実際の被測定材3に存在するきずが、補正用の被測定材2に形成される人工きず21よりも大きいか小さいかを判別することができる。すなわち、補正係数を乗じたエコー高さの値が(a×100)%より高ければ、当該きずは補正用の被測定材2の人工きず21より大きく、低ければ小さい。
このような方法によれば、きずの寸法形状が略等しければ、その位置(表面からの深さ)に関係なく、ほぼ一定のエコー高さを得ることができる。すなわち、感度を一定にできる。そしてすべてのグループ112についてこのような補正を行うと、グループ112間での感度差が無くなるかまたは小さくなり、測定対象範囲の全域について、精度の高い測定ができるようになる。
次に、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの探傷時の動作について説明する。被測定材3は柱状の部材であり、その軸線方向に移動させながら探傷が実行される。
図1を参照して説明する。まず、超音波パルス送受信タイミング設定手段121がパルス発信タイミング信号を生成し、超音波パルス発生手段122に送信する。超音波パルス発生手段122は、この信号を受け、配列形探触子11に設けられる超音波振動子111に同時にスパイクパルスを送る。これにより各超音波振動子111は同時に励振され、超音波が発せられる。各超音波振動子111から発せられる超音波の包絡線は、配列形探触子11における超音波振動子111の配列形状に略等しくなる。すなわち、超音波探触子11が円弧状または環状に形成される場合には、各超音波の包絡線は同心円状の円弧状または環状となる。配列形探触子11が略直線に形成される場合には、包絡線は略直線となり、超音波は疑似的な平面波となる。
発せられた超音波は、液体の層191を伝搬し、液体の層191と被測定材3との境界で一部が反射する。そして被測定材3の内部に伝搬した超音波は、被測定材3の内部に存在するきずなどの音響反射面に遭遇すると、一部がそこで反射する。さらに被測定材の反対側表面に達した超音波はそこで反射する。
そして、各超音波振動子111は表面エコー、音響反射面におけるエコー、底面エコーを受信する。超音波エコー受信手段123は受信した超音波エコーを増幅し、A/D変換手段124は、増幅された超音波エコーをアナログ値からディジタル値に変換する。波形記憶手段125はディジタル値に変換された超音波エコーを、被測定材3の深さ方向位置と超音波振動子111の配列方向位置とともに記憶する。または、被測定材3の深さ方向と超音波振動子111の配列方向に応じた所定のアドレスに記憶する。
任意焦点波形合成部13は、波形記憶手段125に記憶される超音波エコーを、被測定材3の深さ方向と超音波振動子111の配列方向について読み出しながら、ダイナミックフォーカス方式(ダイナミックフォーカス方式による走査方法の詳細は、前記特許文献3参照のこと)による走査が行われる。信号補正手段141は、ダイナミックフォーカス方式による走査結果の値に、前記のとおり算出した補正係数を乗ずる。これにより、被測定材3に存在するきずが同じ大きさのものであれば、配列形探触子11の超音波振動子111の配列方向によらず、略一定の感度で被測定材3の状態を測定できる。
判定手段142は、補正係数が乗じられた走査結果に基づいて、超音波エコーが欠陥であるか否かを判定する。すなわち、エコー高さが所定の値以上であれば、当該きずは欠陥であると判定する。出力手段143は、判定手段142による判定結果を出力する。
次に、本発明の第二実施形態について説明する。本発明の第二実施形態は、断面が略円形の被測定材の測定に特に好適な構成を有する。図4は、本発明の第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bの構成を模式的に示したブロック図である。なお、本発明の第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aと共通の構成については同一の符号を付して示し、説明は省略する。
本発明の第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bは、第一実施形態にかかる超音波探傷装置1aの構成に加えて、制御手段16と、補正用の被測定材2の位置合わせ手段とを有する。制御手段16は、補正用の被測定材2の位置合わせ手段17と、超音波パルス送受信タイミング設定手段121とを制御する。補正用の被測定材2の位置合わせ手段17は、制御手段16により制御される。このような構成によれば、補正係数の算出時において、第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bにセッティングされた補正用の被測定材2の人工きず21の位置合わせを、自動的に行うことができる。
図5は、補正用の被測定材2の位置合わせ手段17の構成第一の例を模式的に示した平面図である。図5(a),(b)は実際の被測定物3を測定している状態を示した超音波探傷装置1bの正面図と側面図、図5(c),(d)は、補正係数を算出している状態を示した超音波探傷装置1bの正面図と側面図である。図5に示すように、第一の例に係る位置合わせ手段17aは、シリンダ171と、このシリンダを往復動可能なピストン172と、ピストン172の先端近傍に設けられる回転ローラ173とを備える。
シリンダ171は、油圧シリンダなど、公知の各種シリンダが適用できる。ピストン172は、シリンダ171内の流体によって、シリンダ171の軸線方向に往復動できる。シリンダ171およびピストン172は、それらの軸線が、被測定材3の軸線方向に略直角に交差するように設けられる。回転ローラ173は、内部または外部に設けられる回転動力源(図略)によって回転可能に構成される。この回転ローラ173の回転軸は、被測定材3の軸線方向に略平行に設定される。そして、複数の位置合わせ手段17aが、被測定材3を取り囲むように配設される。図5においては、三組の位置合わせ手段17aが設けられる構成を示す。これらシリンダ171、ピストン172、回転ローラ173は、制御手段16によって、その動作が制御される。
このような位置合わせ手段17aの動作は次のとおりである。
図5(a),(b)に示すように、第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bが、実際の被測定材3(たとえば出荷前の製品)の探傷を行っている間は、回転ローラ173は被測定材3には接触していない状態に維持される。そして、被測定材3は、搬送ローラ192により搬送されながら測定がなされる。
図5(c),(d)に示すように、感度補正を行う際には、まず補正用の被測定材2が第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bにセッティングされる。そして制御手段16は、ピストン172を前進させて、回転ローラ173を補正用の被測定材2に当接させる。これにより補正用の被測定材2は、各回転ローラによって保持される状態となる。そして制御手段16は、人工きず21の位置合わせ(図2のステップS3参照)において、回転ローラを回転させ、人工きず21の位置合わせを自動的に行う。
図6は、補正用の被測定材2の位置合わせ手段の構成の第二の例を模式的に示した平面図である。図6に示すように、第二の例に係る位置合わせ手段17bは、回転動力源174と保持部175とを備える。回転動力源174は、補正用の被測定材2を回転させることができる。たとえば公知の各種電動モータ油圧モータなどが適用できる。この回転動力源174は、制御手段16により制御される。保持部175は、回転動力源174を超音波探傷装置1bに保持(たとえば固定)させるための部分であり、その構成は限定されるものではない。
このような位置合わせ手段17bの動作は次のとおりである。
第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bが、実際の被測定材3(たとえば出荷前の製品)の探傷を行っている間は、位置合わせ手段17bは超音波探傷装置1bから取りはずされた状態にある。そして感度補正を行う際には、まず補正用の被測定材2が第二実施形態にかかる超音波探傷装置1bにセッティングされる。具体的には、各保持部175が搬送ローラ192に保持される。また、回転動力源174が補正用の被測定材2に結合される。この結果、補正用の被測定材2は回転動力源174によって回転されられる。そして制御手段16は、人工きず21の位置合わせ(図2のステップS3参照)において、回転ローラを回転させ、人工きず21の位置合わせを自動的に行う。
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
前記第一および第二実施形態は、補正関数Fi(x)を推定した後、Gi(x)=a/Fi(x)を定義することにより、各グループ112間の感度を均一にする更正である。これに対して第三実施形態は、補正関数Fi(x)の値をそのまま判定手段142の閾値として用いることにより、実際の被測定材3に存在する「きず」が「欠陥」か否かを判定する構成である。
すなわち、補正用の被測定材2cの人工きずを、製品の「欠陥」と判定する際の最小の大きさに形成しておく。そして、このような補正用の被測定材2cを用いて補正関数Fi(x)を推測する。なお、補正関数Fi(x)の推測方法は、前記第一実施形態または第二実施形態と同じ方法が適用できる。したがって、説明は省略する。
そして、補正係数記憶手段153は、Gi(x)=a/Fi(x)の具体的な値に代えて(なお、Gi(x)=a/Fi(x)の具体的な値とともに記憶する構成であってもよい)、補正関数Fi(x)の具体的な値を記憶する。前記のとおり、補正用の被測定材2cの人工きずの形状および寸法は、製品の「欠陥」と判定する際の最小の大きさに形成されるから、第三実施形態における具体的な補正関数Fi(x)の数値は、被測定材に存在する「きず」が「欠陥」であるか否かの閾値となる。また、補正関数Fi(x)の値をa倍することで、補正用の被測定材2に形成される人工きず21の形状および寸法とは、異なるレベルで判定する構成としてもよい。
その後、実際の被測定材3の探傷を行う。そして各グループ112が受信し算出されたエコー高さが、当該グループ112についての補正関数Fi(x)の具体的な値より小さい場合には、検出された「きず」は「欠陥」とは判断されず、大きい場合には、「欠陥」と判断する。このような構成であっても、グループ112ごとに精度の高い探傷を行うことができ、例えば本来であれば「欠陥」と判定すべき「きず」を見逃すことを防止または抑制できる。
次いで、本発明の実施例について説明する。
本発明の実施例に係る超音波探傷装置は、断面が略円形の円柱状または円筒状の被測定材を測定することができる構成を有する。具体的には、被測定材3の表面に沿うように円弧状に形成される三組の配列形探触子11を有し、これら三組の配列形探触子11が、被測定材の全周を取り囲むように配設される。なお、各配列形探触子11は、被測定材3の軸線方向にずらして配設される。また、各配列形探触子11は、128個の超音波振動子111を備える。
本発明の実施例においては、第一の補正用の被測定材2aと、第二の補正用の被測定材2bとが用いられる。第一の補正用の被測定材2aは、材質がSCM435でφ46mmの円柱である。そして、その中心から半径の1/2の距離の位置に、φ0.3mmの穴が人工きず21として形成される。第二の補正用の被測定材2bは、材質がS25Cでφ46mmの円柱である。そしてその断面の略中心に、φ0.3mmの穴が人工きず21として形成される。
以下、図2などに基づいて、本発明の実施例に係る超音波探傷装置の補正方法の手順について説明する。
図2を参照して説明すると、ステップS1において、各配列形探触子11に設けられる超音波振動子111がグループ分けされる。本実施例においては、各配列形探触子11に直列的に配列される128個の超音波振動子111のうち、一端から1〜32番目を第一のグループ、17〜48番目の超音波振動子111を第二のグループ、33〜64番目の超音波振動子111を第三のグループ、49〜80番目の超音波振動子111を第四のグループ、65〜96番目の超音波振動子111を第五のグループ、81〜112番目の超音波振動子111を第六のグループ、97〜128番目の超音波振動子111を第7のグループとする。
ステップS2において、第一の補正用の被測定材2aが、本発明の実施例に係る超音波探傷装置にセッティングされ、ステップS3において位置合わせが実行される。具体的には、第一の補正用の被測定材2aに形成される人工きず21が、超音波振動子111の第二のグループにて合成される超音波ビームの中心線上であって、かつこれらの超音波振動子111に近い側に位置するように位置合わせが実施される。
ステップS4において、超音波振動子111のすべてのグループ112により、エコーデータを取得する。具体的には、超音波パルス送受信タイミング設定手段122が超音波パルスの送受信のタイミングを設定する。超音波パルス発生手段123は、設定されたタイミングですべてのグループ112の各超音波振動子111を励起する。励起された各超音波振動子111は、第一の補正用の被測定材2aに向けて超音波ビームを送信する。そして各超音波振動子111は、超音波パルス送受信タイミング設定手段122が設定したタイミングで超音波エコーを受信する。
ステップ5において、受信した超音波エコーは、超音波エコー受信手段123により増幅され、A/D変換手段124によりディジタル値に変換されたうえで、波形記憶手段125に記憶される。
ステップ6において、任意焦点波形合成部13は、波形記憶手段125に記憶されるエコーの値のうち、第一のグループが受信したエコーを読み出す。そして、第一のグループが受信した超音波ビームについて、第一の補正用の被測定材2aの底面(超音波振動子111に対向する面とは反対側の面)に焦点が位置するような超音波波形を合成し、合成された超音波波形のエコーを算出する。そして算出されたエコーは、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151に記憶される。
次に、ステップS7からステップS3に戻り、再び人工きず21の位置合わせを実行する。ここでは、第一の補正用の被測定材2aに形成される人工きず21が、超音波振動子111の第二のグループ(すなわち配列形探触子の一端から17〜48番目の超音波振動子)にて合成される超音波ビームの中心線上であって、かつこれらの超音波振動子111に近い側に位置するように位置合わせが実施される。この位置合わせは、第一のグループについてステップ3からステップ6の動作を完了した後、第一の補正用被測定材を所定の角度だけ回転させることにより行われる。
ステップS4において、超音波振動子111のすべてのグループ112により、エコーデータを取得する。具体的には、前記同様の動作であるから、説明は省略する。前記第一のグループにおける説明において、『超音波振動子111の第一のグループ』を『超音波振動子111の第二のグループ』に読み替えればよい。
ステップ5において、受信した超音波エコーは、超音波エコー受信手段123により増幅され、A/D変換手段124によりディジタル値に変換されたうえで、波形記憶手段125に蓄積的に記憶される。
以下、超音波振動子111の第三のグループ、第四のグループ、・・・、第七のグループの順に、ステップS3からステップS6の動作を繰り返す。これらの動作が完了すると、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、超音波振動子111のすべてのグループ112について、第一の補正用の被測定材2aに形成される人工きず21のエコーが蓄積的に記憶されることになる。なお、いずれのグループ112も、人工きず21との相対位置関係は同一である。すなわち人工きず21は、各超音波振動子111に対向する面からその半径の1/2の深さで、かつ各グループ112にて合成される超音波ビームの中心線上に位置する。
次に、第一の補正用の被測定材2aを用いて、超音波振動子111に対向する面から第一の補正用の被測定材2aの半径の3/2の深さにある人工きず21について、超音波振動子111のグループ112ごとにエコーを算出し記憶する。
具体的には次のとおりである。まず、ステップS3において、人工きず21の位置合わせを行う。すなわち、第一の補正用の被測定材2aを回転させ、それに形成される人工きず21が、超音波振動子111の第一のグループ112にて合成される超音波ビームの中心線上であって、かつこれらの超音波振動子111に遠い側に位置させる。
そしてステップS4からステップS6の動作を行う。この動作は前記のとおりであるので説明は省略する。超音波振動子111の第一のグループ112について、ステップS3からS6の動作が完了したら、ステップS7からステップS2に戻る。そして引きつづき超音波振動子111の第二のグループ112について、ステップS3からステップS6の動作を行う。この一連の動作も前記のとおりであるので、説明は省略する。
以下、超音波振動子111の第三のグループ、第四のグループ、・・・、第七のグループの順に、ステップS3からステップS6の動作を繰り返す。これらの動作が完了すると、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、超音波振動子111のすべてのグループ112について、表面から半径Rの1/2(すなわち0.5R)の深さにある人工きず21のエコーと、半径の3/2(すなわち1.5R)の深さにある人工きず21のエコーが、蓄積的に記憶される。
次に、本発明の実施例に係る超音波探傷装置から、第一の補正用の被測定材2aが取り外され、第二の補正用の被測定材2bがセッティングされる。第二の補正用の被測定材2bは、その断面の中心に人工きず21が形成されるから、被測定材2bを回転させなくとも、超音波振動子111の各グループ112と人工きず21との相対的な位置関係は、すべて同じである。具体的には、人工きず21は、超音波振動子111の各グループ112にて合成される超音波ビームの中心線上であって、超音波振動子111に対向する側の表面から、その半径と同じ深さに位置することになる。
そして、超音波振動子111のグループ112ごとに、ステップS4からステップS6の動作を繰り返す。前記のとおり、超音波振動子111の各グループ112と人工きず21の位置関係は同一であるから、超音波振動子111のグループ112ごとに人工きず21の位置合わせ(ステップS3)を行う必要はない。
超音波振動子111のすべてのグループ112について第二の補正用の被測定材2bを用いた前記動作が完了すると、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、第二の補正用の被測定材2bの超音波振動子111に対向する側の表面からその半径に等しい深さであって、超音波ビームの中心線上に位置する人工きず21のエコーがさらに蓄積される。
したがって、ここまでの動作が完了すると、補正係数演算部15の合成波形記憶手段151には、超音波振動子111のすべてのグループ112について、超音波振動子111に対向する側の表面から補正用の被測定材2aの半径の1/2の深さ、半径に等しい深さ、半径の3/2の深さに人工きず21が存在する場合におけるエコーが蓄積される。
次の表1は、各グループについて得られたエコー高さを示す。なお、Rは補正用の被測定材2の半径を表す。
また、図7は、人工きず21が1.0R深さのとき、グループ1のエコー高さが80%となる感度で探傷したときの、各グループ、各深さの人工きず21のエコー高さを示したグラフである。各グループ112の超音波振動子111の受信感度が等しければ、エコー高さは深さごとに均一になるはずである。しかしながら図7に示すように、実際にはグループ112間でエコー高さが相違する。具体的には、配列形探触子11の中心近傍に位置するグループ112は感度が高く、端部近傍に位置するグループ112は感度が低くなるという傾向が見出される。
次いで、超音波振動子111の各グループについて、補正用の被測定材2a,2bの表面からの距離、または超音波ビームを送信してからの時間と、人工きず21のエコー高さとの関係を示したグラフを作成する。これらのグラフは、定義域(横軸)を表面からの距離または超音波ビームを送信してからの時間とし、値域(縦軸)をエコー高さとするグラフとする。図8(a)は、第二のグループについて、表面からの距離とエコー高さの関係を示したグラフである。
そして、作成したグラフのプロットから、補正用の被測定材2a,2bの表面からの距離または超音波ビームを送信してからの時間と、エコー高さとの関係を表すような関数、すなわち補正関数を推定する。本実施例の各グループについては、各プロットを滑らかに結ぶと単純に上に凸の曲線となったことから、補正関数Fi(x)をαix2+βix+γiの二次多項式で表されるものと推定し、各係数および定数αi,βi,γiを求めた。なお、添字iは、超音波振動子111の第i番目のグループの関数、係数または定数であることを示す。
そして、次にGi(x)=a/Fi(x)を定義する。図8(b)は、第二のグループ(i=2)について、1/Fi(x)の値を示したグラフの例である。補正関数Fi(x)にその逆数1/Fi(x)を乗ずると、その値はxの値、すなわち表面からの距離または時間に関わりなく、ほぼ1となる。したがって、得られたエコー高さに1/Fi(x)を乗ずると、人工きず21の深さに関わりなく、人工きず21のエコー高さは100%となる。
次いで感度係数aの値を設定し、1/Fi(x)に乗ずる(すなわちGi(x)=a/Fi(x)を設定する)この感度係数aは、人工きずのエコー高さを調整する係数である。本実施例においては、感度係数aを0.8に設定した。すなわち、φ0.3mmの人工きずのエコー高さは、表面からの深さにかかわらず、送信した超音波ビームの80%となる。このように、得られたエコー高さにGi(x)の値を乗ずることにより、人工きず21の深さの影響が除かれる。
そして、このような計算を、すべてのグループについて行うことにより、各グループとも、人工きず21のエコーは深さ方向位置に関係なく80%の高さとなる。図9は、すべてのグループについて、前記計算を行った結果を示したグラフである。図9に示すように、すべてのグループについて、φ0.3mmの人工きず21のエコー高さは80%の高さとなる。すなわち、各グループ間の感度差が除去され、各グループの感度を略等しくすることができる。
図10は、本実施例に係る超音波探傷装置を用いて、内部にきずがある被測定材を測定した結果を示したグラフであり、所定の超音波振動子112のブロックの補正前のエコー高さと、前記のようにブロックごとに算出した補正係数と、補正後のエコー高さ(すなわち補正前のエコー高さに補正係数を乗じた値)示すグラフである。それぞれ図10(a)は一番目のブロック、(b)は四番目のブロック、(c)は七番目のブロックを示す。
図10(a),(b),(c)に示すように、いずれも測定は、きずが各ブロックから送信される超音波ビームの中心線上に位置する状態でおこなった。また、図10(a),(b)の一番目のブロックと二番目のブロックは、きずが超音波振動子111から遠い側に位置する測定結果を示し、図10(c)の七番目のブロックは、きずが超音波振動子111に近い側に位置する測定結果を示す。
補正前のエコー高さおよび補正後のエコー高さのグラフにおいて、左端のピークは表面エコー、右端のエコーは底面エコーであり、それらの間のピークがきずのエコーである。
前記のとおり、配列形探触子の中心近傍に位置する超音波振動子111のグループは感度が高く、両端に位置するグループは感度が低いという傾向がある。図10(a)と図10(b)とを比較すると、補正をしなくとも、本来であれば同じエコー高さが得られるはずである。しかしながら実際には前記傾向のため、補正前のエコー高さは、四番目のグループ(略中心に位置するグループ)が一番目のグループ(端部に位置するグループ)よりも高いという結果が生じる。また図10(b)と図10(c)を比較すると、本来であれば減衰などの影響により、表面より遠い位置のきずのエコーは小さくなるものと考えられるが、やはり前記傾向のため、エコー高さが逆転するという結果が得られている。
これに対して、補正係数を乗じたエコー高さは、図10(a),(b),(c)に示すように、超音波振動子111のグループの位置および傷の深さにかかわらず、同じ形状および寸法のきずであれば、同じエコー高さが得られる。このように、前記のように算出された補正係数を実際のエコー高さ(すなわち感度)に乗ずることにより、超音波振動子111の位置や傷の深さに関わりなく、精度の高い測定を行うことができるようになる。
なお、図10の各補正係数のグラフに示すように、補正係数は、超音波振動子111のグループごとに異なりうる。換言すると、前記方法によれば、超音波振動子111のグループに応じて最適な補正係数を算出することができ、グループ間で感度の差がないかまたは小さい精度の高い測定を行うことができるようになる。
また、本発明が適用できる被測定材の径は、前記実施例に示す径に限定されるものではない。図11は、各種の径の被測定材について超音波振動子111の各グループのエコー高さを示したグラフである。なお、被測定材の外径を除いては、測定条件は前記実施例と同じである。
図11に示すように、いずれの径においても、配列形探触子の中心付近に位置する超音波振動子111のグループは、測定されるエコー高さが高く、両端のグループはエコー高さが低くなるという傾向が見られる。この傾向は、前記実施例と同じ傾向である。したがって、被測定材の外径が異なっても、本発明が適用できるものと考えられる。