JP5282506B2 - 耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レールおよびその製造方法 - Google Patents
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すなわち本発明は、C:0.73〜0.85質量%,Si:0.5〜0.75質量%,Mn:0.3〜1.0質量%,P:0.035質量%以下,S:0.0005〜0.012質量%,Cr:0.5質量%超え1.3質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、Mn含有量を[%Mn]としCr含有量を[%Cr]として[%Mn]/[%Cr]値が0.3以上1.0未満であり、レール頭部における析出Cr量が0.20質量%超え0.50質量%以下であり、レール頭部の表層から少なくとも25mm深さの範囲におけるビッカース硬さで定義されるレール頭部の内部硬さがHv395以上Hv480未満である耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レールである。
DI=(0.548[%C]1/2 )×(1+0.64[%Si])×(1+4.1[%Mn])
×(1+2.83[%P])×(1−0.62[%S])×(1+2.23[%Cr]) ・・・(1)
Ceq=[%C]+([%Si]/11)+([%Mn]/7)+([%Cr]/5.8) ・・・(2)
また、前記した組成のSi含有量を[%Si],Mn含有量を[%Mn],Cr含有量を[%Cr]として、[%Si]+[%Mn]+[%Cr]値が1.55〜2.50質量%の範囲内を満足することが好ましい。さらに、前記した組成に加えて、V:0.001〜0.30質量%,Cu:1.0質量%以下,Ni:1.0質量%以下,Nb:0.001〜0.05質量%およびMo:0.5質量%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
また本発明は、上記した組成を有する鋼材を、圧延仕上温度が850〜950℃となるようにレール形状に熱間圧延し、引き続きレール頭部をパーライト変態開始温度以上の温度から2.5〜5℃/秒の冷却速度で400〜550℃まで加速冷却を行ない、その後、20℃以上復熱させる耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レールの製造方法である。
C:0.73〜0.85質量%
Cはパーライト組織においてセメンタイトを形成し、耐摩耗性を確保するための必須元素であり、含有量の増加に伴い耐摩耗性が向上する。しかし、0.73質量%未満では従来の熱処理型パーライト鋼レールと比較して優れた耐摩耗性を得ることが難しい。また、0.85質量%を超えると熱間圧延後の変態時に初析セメンタイトがオーステナイト粒界に生成し、耐疲労損傷性が著しく低下する。したがって、C量は0.73〜0.85質量%とする。好ましくは0.75〜0.85質量%である。
Siは脱酸素剤及びパーライト組織の強化元素として0.5質量%以上必要であるが、0.75質量%を超えるとSiの有する高い酸素との結合力のため、溶接性が劣化する。さらにSiの高い焼入れ性のため、内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイト組織が生成し易くなる。したがってSi量は0.5〜0.75質量%とする。好ましくは0.5〜0.70質量%である。
Mnはパーライト変態温度を低下させてラメラー間隔を細かくすることにより、内部高硬度型レールの高強度化および高延性化に寄与するが、過剰な添加はパーライトの平衡変態温度を低下させ、その結果、過冷度が小さくなりラメラー間隔が粗大化する元素である。0.3質量%未満では十分な効果が得られず、1.0質量%を超えるとマルテンサイト組織を生じ易く、熱処理時及び溶接時に硬化や脆化を生じ材質が劣化し易い。またパーライト組織となっても平衡変態温度が低下するため、ラメラー間隔の粗大化を招く。したがって、Mn量は0.3〜1.0質量%とする。好ましくは0.3〜0.8質量%である。
0.035%を超えるPの含有は延性を劣化する。したがって、P量は0.035質量%以下とする。好ましくは0.020質量%以下である。
S:0.0005〜0.012質量%
Sは主にA系介在物の形態で鋼材中に存在するが、0.012質量%を超えるとこの介在物量が著しく増加し、同時に粗大な介在物を生成するため、鋼材の清浄性が悪化する。また、0.0005質量%未満にすると、製鋼コストの増加を招く。したがって、S量は0.0005〜0.012質量%とする。好ましくは0.0005〜0.010質量%である。より好ましくは0.0005〜0.008質量%である。
Crはパーライト平衡変態温度を上昇させ、ラメラー間隔の微細化に寄与すると同時に、固溶強化によりさらなる高強度化をもたらす元素である。しかし、0.5質量%以下では十分な内部硬度が得られず、一方、1.3質量%を超えて添加すると焼入れ性が高くなり、マルテンサイトが生成し易くなる。また、マルテンサイトが生成しない条件で製造した場合、旧オーステナイト粒界に初析セメンタイトが生成する。そのため、耐摩耗性および耐疲労損傷性が低下する。したがって、Cr量は0.5質量%超え1.3質量%以下とする。好ましくは0.6〜1.2質量%である。
Crは、パーライトラメラー内のセメンタイトやフェライトに固溶し強化するだけでなく、パーライトラメラー中のフェライト相やセメンタイト相に析出して強化することにより、レールの硬さを上昇させる効果がある。発明者らは、表1に示す組成を有する鋼材について、表2に示す条件で圧延,冷却を行なって、パーライト鋼レールを製造した。冷却はレール頭部のみに行ない、冷却停止後は放冷した。このパーライト鋼レールについて、ビッカース硬さと析出Cr量を調査した。その結果を表3に示す。表2中の圧延仕上温度は、最終圧延ミル入側のレール頭部側面表層の温度を放射温度計で測定した値を圧延仕上温度として示している。冷却停止温度は、冷却停止出側のレール頭部側面表層の温度を放射温度計で測定した値を冷却停止温度として示している。冷却速度は、冷却開始から冷却停止までの間の温度の時間変化を冷却速度とした。復熱温度は、冷却床入側でのレール頭部側面の表層の温度を放射温度計で測定し、その測定値と冷却停止温度との差とした。表3から明らかなように、レール頭部における析出Cr量が0.20質量%以下になると、レール頭部の表層から少なくとも25mm深さの範囲における硬さがHv395〜480の範囲を満たさない。一方、0.50質量%を超えると、Crの添加量が増大するので、パーライト鋼レールの焼入れ性が上昇し、マルテンサイトが生成する。したがって、レール頭部における析出Cr量は0.20質量%超え0.50質量%以下とする。好ましくは0.20質量%超え0.45質量%以下である。
MnおよびCrは内部高硬度型パーライト鋼レールの硬さを上昇させるために添加する元素である。ただし、Mn含有量[%Mn]とCr含有量[%Cr]のバランスが適正でないと、内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイトが生成するようになる。なお[%Mn]と[%Cr]の単位は、いずれも質量%である。[%Mn]/[%Cr]の値が0.3未満であると、Crの添加量が多くなり、Crの高い焼入性のため、内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイトが生成しやすくなる。また、マルテンサイトが生成しない条件で製造した場合、旧オーステナイト粒界に初析セメンタイトが生成する。そのため、耐疲労損傷性が低下する。一方、[%Mn]/[%Cr]の値が1.0以上になると、Mnの添加量が多くなり、Mnの高い焼入性のため、同様に内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイトが生成し易くなる。また、Crの添加量も減少するので、セメンタイトのCrの析出強化が期待できない。Mn,Crの含有量をそれぞれ上記した範囲とした上で、[%Mn]/[%Cr]の値を0.3以上1.0未満とすることで、表層へのマルテンサイトの生成を防止しつつ、レール頭部の内部硬さ(内部高硬度型パーライト鋼レールの頭部表層から少なくとも25mm深さの範囲における硬さ)を後述する範囲に制御できるようになる。したがって、[%Mn]/[%Cr]の値は、0.3以上1.0未満とする。好ましくは0.3以上0.9以下である。
DI値は、C含有量を[%C],Si含有量を[%Si],Mn含有量を[%Mn],P含有量を[%P],S含有量を[%S],Cr含有量を[%Cr]として下記の(1)式で算出される値である。なお[%C],[%Si],[%Mn],[%P],[%S],[%Cr]の単位は、いずれも質量%である。
DI=(0.548[%C]1/2 )×(1+0.64[%Si])×(1+4.1[%Mn])
×(1+2.83[%P])×(1−0.62[%S])×(1+2.23[%Cr]) ・・・(1)
このDI値は焼入れ性を表わすものであり、焼入れ性の良否を判定する指標として活用されるが、本発明では、内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイトが生成するのを抑制するとともにレール頭部の内部硬さの目標値を達成するための指標として使用し、好適な範囲に維持することが好ましい。DI値が5.6未満であると、所望の内部硬さは得られるが目標の硬さ範囲の下限に近くなるので、一層の耐摩耗性,耐疲労損傷性の向上が期待できない。また、DI値が8.6を超えると、内部高硬度型パーライト鋼レールの焼入れ性が上昇し、レール頭部の表層にマルテンサイトが生成し易くなる。したがって、DI値は5.6〜8.6とすることが好ましい。より好ましくは5.6〜8.2である。
Ceq値は、C含有量を[%C],Si含有量を[%Si],Mn含有量を[%Mn],Cr含有量を[%Cr]として下記の(2)式で算出される値である。なお[%C],[%Si],[%Mn],[%Cr]の単位は、いずれも質量%である。
Ceq=[%C]+([%Si]/11)+([%Mn]/7)+([%Cr]/5.8) ・・・(2)
このCeq値は合金成分の配合比率から、得られる最大硬度と溶接性を見積もるために活用されるが、本発明では、内部高硬度型パーライト鋼レールの表層にマルテンサイトが生成するのを抑制するとともにレール頭部の内部硬さの目標値を達成するための指標として使用し、好適な範囲に維持することが好ましい。Ceq値が1.04未満であると、所望の内部硬さは得られるが目標の硬さ範囲の下限に近くなるので、一層の耐摩耗性,耐疲労損傷性の向上が期待できない。また、Ceq値が1.27を超えると、内部高硬度型パーライト鋼レールの焼入れ性が上昇し、レール頭部の表層にマルテンサイトが生成し易くなる。したがって、Ceq値は1.04〜1.27とすることが好ましい。より好ましくは1.04〜1.20である。
レール頭部の内部硬さがHv395未満になると鋼の耐摩耗性が低下し、内部高硬度型パーライト鋼レールの使用寿命が低下する。一方、Hv480以上になるとマルテンサイトが生成し、鋼の耐疲労損傷性が低下する。よって、レール頭部の内部硬さはHv395以上Hv480未満とする。好ましくはHv400以上Hv480未満である。また、レール頭部の内部硬さの定義域を内部高硬度型パーライト鋼レールの頭部表層から少なくとも25mm深さの範囲としたのは、この範囲に深さ25mm未満をも含めてしまうと、レール頭部の表層から内部に入るにつれて内部高硬度型パーライト鋼レールの耐摩耗性が低下し、使用寿命が低下するからである。
Si含有量[%Si]とMn含有量[%Mn]とCr含有量[%Cr]の合計(=[%Si]+[%Mn]+[%Cr])の値が1.55質量%未満であると、レール頭部の内部硬さがHv395以上Hv480未満を満足し難い。また2.50質量%を超えると、Si,Mn,Crの高い焼入れ性のため、マルテンサイト組織が生成し、延性および靭性が低下しがちとなる。したがって、[%Si]+[%Mn]+[%Cr]値は1.55〜2.50質量%とすることが好ましい。より好ましくは1.55〜2.30質量%である。
V:0.001〜0.30質量%
Vは炭窒化物を形成し、基地中へ分散析出し、耐摩耗性を向上するが、0.001質量%未満ではその効果が少なく、一方、0.30質量%を超えると、加工性が劣化し、製造コストが増加する。また、合金コストが増加するため、内部高硬度型パーライト鋼レールのコストが増加する。したがってVを添加する場合は、V量は0.001〜0.30質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.001〜0.15質量%である。
CuはCrと同様に固溶強化により更なる高強度化を図るための元素である。ただし、1.0質量%を超えるとCu割れが生じ易くなる。したがってCuを添加する場合は、Cu量は1.0質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.5質量%である。
Ni:1.0質量%以下
Niは延性を劣化することなく高強度化を図るための元素である。また、Cuと複合添加することによりCu割れを抑制するため、Cuを添加した場合にはNiも添加することが望ましい。ただし、1.0質量%を超える添加により焼入れ性が上昇し、マルテンサイトが生成するようになり、耐摩耗性と耐疲労損傷性が低下しがちとなる。したがってNiを添加する場合は、Ni量は1.0質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.5質量%である。
Nbは鋼中のCと結び付いて圧延中および圧延後に炭化物として析出し、パーライトコロニーサイズの微細化に有効に作用する。その結果、耐摩耗性,耐疲労損傷性,延性を大きく向上させ、内部高硬度型パーライト鋼レールの長寿命化に大きく寄与する。ただし、Nb量が0.001質量%未満では十分な効果が得られにくい。また0.05質量%超えて添加しても、耐摩耗性,耐疲労損傷性の向上効果が飽和し、添加量に見合う効果が得られない。したがって、Nbを添加する場合は、Nb量は0.001〜0.05質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03質量%である。
Moは固溶強化によりさらなる高強度化を図るための元素である。ただし、0.5質量%を超えるとベイナイト組織が生じ易くなり、耐摩耗性が低下しがちとなる。したがって、Moを添加する場合は、Mo量は0.5質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.3質量%である。
パーライト層のラメラー間隔については、微細なほど、内部高硬度型パーライト鋼レールの硬さが上昇し、耐摩耗性および耐疲労損傷性の向上の観点から有利となるが、0.15μm超では、これらの特性の向上が不十分となるので、0.15μm以下とすることが好ましい。また、ラメラー間隔を0.04μm未満にしようとすると、焼入性を向上させて、より微細化する手法を用いることとなり、この場合、表層にマルテンサイトが生成しやすくなり耐疲労損傷性に悪影響を及ぼす。よって、0.04μm以上とすることが好ましい。
圧延仕上温度が850℃より低い場合は、オーステナイト低温域まで圧延を行なうことになり、オーステナイト結晶粒に加工歪が導入されるだけでなく、オーステナイト結晶粒の伸長度合いも顕著となる。転位の導入かつオーステナイト粒界面積の増加により、パーライト核生成サイトが増加し、パーライトコロニーサイズは微細化するものの、パーライト核生成サイトの増加により、パーライト変態開始温度が上昇し、パーライト層のラメラー間隔が粗大化するため、耐摩耗性が著しく低下する。一方、圧延仕上温度が950℃を超える場合は、オーステナイト結晶粒が粗大になるため、最終的に得られるパーライトコロニーサイズが粗くなり、耐疲労損傷性が低下する。したがって、圧延仕上温度は850〜950℃とするのがよい。
冷却速度が2.5℃/秒未満の場合、レール頭部の表層と内部の温度差が小さくなり、冷却停止後の復熱が小さくなるため、Crの析出量が低下し、レール頭部の内部硬さが低下する。一方、冷却速度が5℃/秒を超える場合は、マルテンサイト組織が生成し、内部高硬度型パーライト鋼レールの使用寿命が低下する。したがって、冷却速度は2.5〜5℃/秒の範囲とするのがよい。好ましくは2.5〜4.6℃/秒である。パーライト変態開始温度は冷却速度によっても変化するが、本発明では平衡変態温度のことを言うものとし、本発明の成分範囲では720℃以上からこの範囲の冷却速度を採用すればよい。
冷却停止温度が400℃未満になると、低温域での冷却時間が増大するので、生産性が低下し、内部高硬度型パーライト鋼レールのコストアップにつながる。一方、550℃を超えると、レール頭部の内部の温度がパーライト変態の開始前あるいはパーライト変態の進行中に冷却停止になるので、フェライトやセメンタイトに固溶するCrが多くなり、目標とする析出量が得られない。したがって、冷却停止温度は400〜550℃とするのがよい。好ましくは450〜550℃である。
発明者らは、表4に示す組成を有する鋼材について、表5に示す条件で圧延,冷却を行なって、パーライト鋼レールを製造した。冷却はレール頭部のみに行ない、冷却停止後は放冷した。このパーライト鋼レールについて、復熱と析出Cr量を調査した。その結果を表6に示す。表5中の圧延仕上温度とは、最終圧延ミル入側のレール頭部側面表層の温度を放射温度計で測定した値を圧延仕上温度として示している。冷却停止温度は、冷却停止出側のレール頭部側面表層の温度を放射温度計で測定した値を冷却停止温度として示している。冷却速度は、冷却開始から冷却停止までの間の温度の時間変化を冷却速度とした。復熱温度は、冷却床入側でのレール頭部側面の表層の温度を放射温度計で測定し、その測定値と冷却停止温度との差とした。表6から明らかなように、復熱温度が20℃未満では、Crの析出量が少なくなり、レール頭部の内部まで高強度化が図れない。また、復熱温度を20℃未満にするためには、高温で冷却を停止する必要があり、冷却床での待機時間が増加して、内部高硬度型パーライト鋼レールの生産性が低下した。したがって、復熱温度は20℃以上とする。一方、復熱温度を100℃超えとしても、その効果が飽和し、析出Cr量のさらなる増加は認められなかった。よって、復熱温度は20〜100℃が好ましい。
(耐摩耗性)
耐摩耗性に関しては、内部高硬度型パーライト鋼レールを実際に敷設して評価するのが最も望ましいが、それでは試験に長時間を要する。そこで、本発明では、短時間で耐摩耗性を評価することができる西原式摩耗試験機を用いて実際の内部高硬度型パーライト鋼レールと車輪の接触条件をシミュレートした比較試験により評価する。外径30mmの西原式摩耗試験片1をレール頭部から採取し、図1に示すようにタイヤ試験片2と接触させて回転させて試験を行なう。図1中の矢印は、それぞれ西原式摩耗試験片1とタイヤ試験片2の回転方向を示す。タイヤ試験片は、JIS規格E1101に記載の普通レールの頭部から直径32mmの丸棒を採取し、ビッカース硬さ(荷重98N)がHv390であり、組織が焼戻しマルテンサイト組織となるように熱処理を行ない、その後、図1に示す形状に加工を施し、タイヤ試験片とした。なお、西原式摩耗試験片1は図2に示すようにレール頭部3の2ケ所から採取する。レール頭部3の表層から採取するものを西原式摩耗試験片1aとし、内部から採取するものを西原式摩耗試験片1bとする。レール頭部3の内部から採取する西原式摩耗試験片1bの長手方向の中心は、レール頭部3の上面から24〜26mm(平均値25mm)の深さに位置する。試験環境条件は乾燥状態とし、接触圧力:1.4Gpa,滑り率:−10%,回転速度:675回/分(タイヤ試験片は750回/分)の条件で10万回転後の摩耗量を測定する。摩耗量の大小を比較する際に基準となる鋼材として熱処理型パーライト鋼レールを採用し、この基準鋼材よりも10%以上摩耗量が少ない場合に耐摩耗性が向上したと判定する。耐摩耗性向上代は、{(基準材の摩耗量−試験材の摩耗量)/(基準材の摩耗量)}×100で算出した。
耐疲労損傷性に関しては、接触面を曲率半径15mmの曲面として直径30mmの西原式摩耗試験片1をレール頭部から採取し、図3に示すようにタイヤ試験片2と接触させて回転させて試験を行なう。図3中の矢印は、それぞれ西原式摩耗試験片1とタイヤ試験片2の回転方向を示す。なお、西原式摩耗試験片1は図2に示すようにレール頭部3の2ケ所から採取する。西原式摩耗試験片1を採取する位置およびタイヤ試験片を採取する位置は上記と同じであるから説明を省略する。試験環境は油潤滑条件とし、接触圧力:2.2Gpa,滑り率:−20%,回転速度:600回/分(タイヤ試験片は750回/分)で、2万5千回毎に試験片表面を観察し、0.5mm以上の亀裂が発生した時点での回転数をもって、疲労損傷寿命とする。疲労損傷寿命の大小を比較する際に基準となる鋼材とした熱処理型パーライト鋼レールを採用し、この基準鋼材よりも10%以上疲労損傷時間が長い場合に耐疲労損傷性が向上したと判定する。耐疲労損傷性向上代は、{(試験材の疲労損傷発生までの回転数−基準材の疲労損傷発生までの回転数)/(基準材の疲労損傷発生までの回転数)}×100で算出した。
レール頭部の表層から深さ25mmまでの範囲をHv98N,1mmピッチで測定する。そして、すべての硬さのうち、最小の値をレール頭部の内部硬さとした。
(ラメラー間隔)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてレール頭部の表層近傍(深さ1mm程度)と深さ25mmの位置それぞれについて、視野内のラメラー間隔の一番細かい部分を倍率:20000倍で5視野観察し、視野内のラメラー間隔の測定を行なう。ラメラー間隔は、5視野のラメラー間隔測定値の平均値で評価する。
図4に示すようにレール頭部から採取した試験片(10mm×10mm×100mm)を用いてCr析出量を測定した。金属元素の析出量は、10質量%アセチルアセトン−メタノール電解抽出を行ない、試験片から残渣を抽出し、その残渣を用いてICP発光分析法で定量した値を抽出金属量とした。
比較例の3−Rのように、Tiを添加した場合は、耐疲労損傷性が低下することが分かる。
1a レール頭部の表層部から採取した西原式摩耗試験片
1b レール頭部の内部から採取した西原式摩耗試験片
2 タイヤ試験片
3 レール頭部
4 析出Cr分析試験片
Claims (6)
- C:0.73〜0.85質量%、Si:0.5〜0.75質量%、Mn:0.3〜1.0質量%、P:0.035質量%以下、S:0.0005〜0.012質量%、Cr:0.5質量%超え1.3質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、Mn含有量を[%Mn]としCr含有量を[%Cr]として[%Mn]/[%Cr]値が0.3以上1.0未満であり、レール頭部における析出Cr量が0.20質量%超え0.50質量%以下であり、レール頭部の表層から少なくとも25mm深さの範囲におけるビッカース硬さで定義されるレール頭部の内部硬さがHv395以上Hv480未満であることを特徴とする耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レール。
- 前記組成のC含有量を[%C]、Si含有量を[%Si]、Mn含有量を[%Mn]、P含有量を[%P]、S含有量を[%S]、Cr含有量を[%Cr]として、下記の(1)式で算出されるDI値が5.6〜8.6であり、かつ下記の(2)式で算出されるCeq値が1.04〜1.27であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レール。
DI=(0.548[%C]1/2 )×(1+0.64[%Si])×(1+4.1[%Mn])
×(1+2.83[%P])×(1−0.62[%S])×(1+2.23[%Cr]) ・・・(1)
Ceq=[%C]+([%Si]/11)+([%Mn]/7)+([%Cr]/5.8) ・・・(2) - 前記組成のSi含有量を[%Si]、Mn含有量を[%Mn]、Cr含有量を[%Cr]として、[%Si]+[%Mn]+[%Cr]値が1.55〜2.50質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レール。
- 前記組成に加えて、V:0.001〜0.30質量%、Cu:1.0質量%以下、Ni:1.0質量%以下、Nb:0.001〜0.05質量%およびMo:0.5質量%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レール。
- 前記レール頭部の表層から少なくとも25mm深さの範囲におけるパーライト層のラメラー間隔が0.04〜0.15μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レール。
- 請求項1〜4のいずれかに記載される組成を有する鋼材を、圧延仕上温度が850〜950℃となるようにレール形状に熱間圧延し、引き続きレール頭表部をパーライト変態開始温度以上の温度から2.5〜5℃/秒の冷却速度で400〜550℃まで加速冷却を行ない、その後、20℃以上復熱させることを特徴とする耐摩耗性と耐疲労損傷性に優れた内部高硬度型パーライト鋼レールの製造方法。
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