ここで、燃焼噴射弁を同一の態様で開弁駆動した場合における燃料噴射量は、燃料噴射弁に供給される燃料の圧力に応じて変化することに加えて、内燃機関の気筒内の圧力によっても変化する。そして気筒内圧力は、内燃機関の運転に際して、その圧縮行程における吸入空気の圧縮や燃焼行程における燃料の燃焼に伴って間欠的に急上昇するなどして常に変動している。そのため燃料噴射量を精度良く調節するためには、そうした気筒内圧力の変化を正確に把握し、その把握した気筒内圧力に見合うように燃料噴射弁の駆動制御を実行することが望ましい。
そうした燃料噴射弁の駆動制御は、気筒内圧力を直接検出するための筒内圧センサを新たに設けることによって実現することが可能である。しかしながら、新たなセンサを設けることは燃料噴射装置の構成の複雑化を招くために好ましくない。また現状では、筒内圧センサはその信頼性が低く且つ高価であるため、同センサを内燃機関に設けることは困難である。
なお、こうした実情は、ディーゼル機関に限らず、ガソリン機関や天然ガス機関などといった他の内燃機関にあっても概ね共通している。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、気筒内圧力を直接検出するセンサを設けることなく、気筒内圧力の変化を精度良く推定することのできる内燃機関の燃料噴射装置を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、昇圧された状態の燃料が燃料噴射弁の内部に供給されてなり、同燃料噴射弁の開弁駆動を通じて内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射して供給する内燃機関の燃料噴射装置にあって、前記燃料噴射弁の開弁時における同燃料噴射弁内部の実燃料圧力の変化に伴い変化する燃料圧力を検出する燃圧検出手段、および前記燃料噴射弁の開弁時における同燃料噴射弁の内部の燃料圧力であり且つ予め定められた所定状態での燃料圧力であるベース圧力と前記内燃機関の実際の運転時に前記燃圧検出手段により検出される燃料圧力との関係を示す値を算出する値算出手段を備え、前記燃圧検出手段により検出した前記燃料噴射弁の開弁前における燃料圧力と前記値算出手段により算出した前記関係を示す値とに基づいて、前記気筒内の推定筒内圧を算出することをその要旨とする。
通常、燃料噴射弁が開弁されると、燃料の噴出に伴って同燃料噴射弁の内部の燃料の圧力が一時的に低下するようになる。そして燃料噴射弁を同一態様で開弁駆動した場合であっても、単位時間あたりに噴出する燃料の量は同燃料噴射弁の内部の燃料圧力と内燃機関の気筒内の圧力との差に応じて異なる。このことから、燃料噴射弁の開弁開始直後における同燃料噴射弁の内部の燃料圧力の低下速度は、そのときどきの気筒内圧力に応じた値になると云える。したがって、予め定められた所定状態での燃料噴射弁の内部の燃料圧力を基準圧力とし、この基準圧力と実際の燃料圧力とを比較することにより、気筒内圧力の変化を推測することが可能になる。
上記構成によれば、そうした基準圧力(ベース圧力)と実際の燃料圧力(詳しくは、燃料噴射弁の内部の燃料圧力の変化に伴い変化する燃料圧力)との関係を示す値が算出されるために、同値をもとに、内燃機関の気筒内の圧力を直接検出するセンサを設けることなく、気筒内の圧力の変化を精度良く推定することができるようになる。
なお前記関係を示す値としては、ベース圧力と前記燃圧検出手段により検出される燃料圧力との差や比を採用することができる。また、予め定められた所定状態は、気筒内に噴射された燃料が完全燃焼した状態や同燃料が内燃機関の燃費性能が最も良くなる状態で燃焼した状態、気筒内に噴射された燃料が燃焼しない状態を含む。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記所定状態は、前記気筒内に噴射された燃料が燃焼しない状態であることをその要旨とする。
上記構成によれば、値算出手段により算出された値が示す関係、すなわち実際の燃料圧力とベース圧力との関係をもとに、内燃機関の気筒内における燃料の燃焼に伴う気筒内圧力の変化を精度良く推定することができるようになる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記関係を示す値に基づいて前記気筒内における燃料の着火を検出する着火検出手段を更に備えることをその要旨とする。
また請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記着火検出手段は、前記気筒内における燃料の着火時期を検出するものであることをその要旨とする。
内燃機関の気筒内において燃料が着火して燃焼すると、気筒内の圧力が急上昇するために、気筒内において燃料が燃焼しない場合と比較して燃料噴射弁から噴出する燃料の量が少なくなって同燃料噴射弁の内部の燃料圧力の低下速度が低くなり、同燃料圧力とベース圧力との差が大きくなる。
請求項3に記載の発明の構成によれば、値算出手段により算出された前記値が燃料圧力とベース圧力との差が大きくなったことを示す値であることにより、内燃機関の気筒内において燃料が着火したことを正確に検出することができる。
また請求項4に記載の発明の構成によれば、値算出手段により算出された前記値に基づいて燃料圧力とベース圧力との差が大きくなり始める時期を求めることにより、その求めた時期を内燃機関の気筒内において燃料が着火した時期として精度良く検出することができる。
なお、前記ベース圧力として予め定められた所定の値を用いることの他、請求項5によるように、前記内燃機関の運転状態に基づいてベース圧力を算出し、該算出したベース圧力を前記値の算出に用いることができる。
同構成によれば、内燃機関の気筒内に吸入される空気の量(吸入空気量)が機関運転状態に応じて異なる装置にあって、同吸入空気量に応じたかたちでベース圧力を精度良く算出することができ、同ベース圧力に基づいて気筒内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記燃圧検出手段により検出した前記燃料噴射弁の開弁開始時における燃料圧力と同燃圧検出手段により検出した燃料圧力に基づき算出した同燃料噴射弁の開弁開始直後における燃料圧力の低下速度とに基づいて前記燃料噴射弁の開弁開始時における前記気筒内の圧力を算出する開始時圧力算出手段を更に備え、前記値算出手段は、前記開始時圧力算出手段により算出した圧力に基づいてベース圧力を算出し、該算出したベース圧力を前記値の算出に用いるものであることをその要旨とする。
内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射するタイプの燃料噴射弁が設けられた装置では、燃料噴射弁の開弁開始時における気筒内圧力と同燃料噴射弁の内部の燃料圧力とにより、燃料噴射弁の開弁開始直後における同燃料圧力の低下速度が定まる。
上記構成によれば、そうした関係をもとに、開弁開始時における燃料噴射弁の内部の燃料圧力と燃料噴射弁の開弁開始直後における同燃料圧力の低下速度とに基づいて、燃料噴射弁の開弁開始時における気筒内圧力を精度良く推定することができる。しかも、そのように推定した気筒内圧力に基づいてベース圧力を精度良く算出することができ、同ベース圧力に基づいて気筒内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
なお前記低下速度の算出は、請求項7によるように、前記燃圧検出手段により検出した燃料圧力の微分値の推移から燃料噴射弁の駆動開始直後において同微分値が最小になる特定時期を求めるとともに、燃圧検出手段により検出した燃料圧力の時間波形についての特定時期における接線の傾きを求め、同傾きを前記低下速度として算出する、といったように行うことができる。
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記値算出手段により算出した前記関係を示す値と前記燃圧検出手段により検出した前記燃料噴射弁の開弁開始時における燃料圧力と前記開始時圧力算出手段により算出した前記気筒内の圧力とに基づいて、前記燃料噴射弁の開弁時における前記気筒内の圧力を算出する開弁時圧力算出手段を更に備えることをその要旨とする。
上記構成によれば、燃料噴射弁の開弁開始時における気筒内圧力に基づいて、予め定められた所定状態での気筒内圧力を精度良く把握することができる。しかも、上述した構成(請求項6に記載の発明の構成)のように燃料噴射弁の開弁開始時における気筒内圧力に基づき算出した前記関係を示す値と燃料噴射弁の開弁開始時における燃料圧力とにより、上記所定状態での気筒内圧力に対する実際の気筒内圧力の変化分を精度良く把握することができる。したがって、そのようにして把握される上記所定状態での気筒内圧力と同圧力に対する実際の気筒内圧力の変化分とに基づいて、燃料噴射弁の開弁時における気筒内圧力を精度良く算出することができる。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記値算出手段により算出した前記関係を示す値と前記燃圧検出手段により検出した前記燃料噴射弁の開弁開始時における燃料圧力とに基づいて前記燃料噴射弁の開弁時における前記気筒内の圧力を算出する開弁時圧力算出手段を更に備えることをその要旨とする。
開弁開始時における燃料噴射弁の内部の燃料圧力が一定の条件下では、開弁開始直後の同燃料圧力の低下態様は内燃機関の気筒内の圧力によって定まる。そのため、燃料噴射弁の開弁時において、その開弁開始時における燃料圧力と開弁開始後における燃料圧力の低下態様とを把握することにより、それらに基づき燃料噴射弁の開弁時における内燃機関の気筒内の圧力を精度良く推定することが可能になると云える。そして、燃料噴射弁の開弁開始後における燃料圧力の低下態様は前記関係を示す値に基づいて把握することが可能である。
上記構成によれば、そうした燃料噴射弁の開弁開始時における燃料圧力と前記関係を示す値とに基づいて、燃料噴射弁の開弁時における気筒内圧力を精度良く算出することができる。
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記燃圧検出手段は、前記燃料噴射弁に取り付けられた圧力センサであることをその要旨とする。
上記構成によれば、燃料噴射弁から離れた位置において燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁の噴射孔に近い部位の燃料圧力を検出することができる。そのため、燃料噴射弁の開弁に伴う同燃料噴射弁の内部の燃料圧力の低下を精度良く検出することができ、そのように検出した燃料圧力をもとに気筒内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記内燃機関は、複数の気筒を有してなるとともに、前記燃料噴射弁に燃料を供給する燃料供給通路の途中に前記昇圧された状態の燃料を蓄える蓄圧容器を有してなり、前記燃料噴射弁は、前記内燃機関の気筒毎に設けられて前記蓄圧容器に各別に接続されてなり、前記燃圧検出手段は、前記内燃機関の気筒毎に設けられて、前記燃料供給通路内における前記蓄圧容器と前記燃料噴射弁の噴射孔との間の部位の燃料圧力を検出するものであることをその要旨とする。
上記構成によれば、気筒内の圧力の変化態様が気筒毎に異なる多気筒の内燃機関において、各気筒内の圧力の変化をそれぞれ、気筒毎に設けられた専用の燃圧検出手段により検出される燃料圧力に基づいて精度良く推定することができる。
以下、本発明を具体化した一実施の形態にかかる内燃機関の燃料噴射装置について説明する。
図1に、本実施の形態にかかる内燃機関の燃料噴射装置の概略構成を示す。
同図1に示すように、内燃機関10の気筒11には吸気通路12が接続されている。内燃機関10の気筒11内には吸気通路12を介して空気が吸入される。なお、この内燃機関10としては複数(本実施の形態では四つ[♯1〜♯4])の気筒11を有するディーゼル機関が採用されている。内燃機関10には、気筒11毎に、同気筒11内に燃料を直接噴射する直噴タイプの燃料噴射弁20が取り付けられている。この燃料噴射弁20の開弁駆動によって噴射された燃料は内燃機関10の気筒11内において圧縮加熱された吸入空気に触れて着火および燃焼する。そして内燃機関10では、気筒11内における燃料の燃焼に伴い発生するエネルギによってピストン13が押し下げられてクランクシャフト14が強制回転されるようになる。内燃機関10の気筒11において燃焼した燃焼ガスは排気として内燃機関10の排気通路15に排出される。
各燃料噴射弁20は分岐通路31aを介してコモンレール34に各別に接続されており、同コモンレール34は供給通路31bを介して燃料タンク32に接続されている。この供給通路31bには、燃料を圧送する燃料ポンプ33が設けられている。本実施の形態では、燃料ポンプ33による圧送によって昇圧された燃料がコモンレール34に蓄えられるとともに各燃料噴射弁20の内部に供給される。なお本実施の形態では、分岐通路31aおよび供給通路31bが燃料供給通路として機能し、コモンレール34が燃料供給通路の途中に設けられる蓄圧容器として機能する。
また、各燃料噴射弁20にはリターン通路35が接続されており、同リターン通路35はそれぞれ燃料タンク32に接続されている。このリターン通路35を介して燃料噴射弁20の内部の燃料の一部が燃料タンク32に戻される。
内燃機関10には、その周辺機器として、運転状態を検出するための各種センサが設けられている。それらセンサとしては、例えば吸気通路12を通過する空気の量(通路空気量GA)を検出するための吸気量センサ41や、クランクシャフト14の回転位相(クランク角CA)および回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ42が設けられている。また、燃料噴射弁20の内部の燃料の圧力(燃料圧力PQ)を検出するための圧力センサ43や、アクセル操作部材(例えばアクセルペダル)の操作量(アクセル操作量ACC)を検出するためのアクセルセンサ44なども設けられている。なお、圧力センサ43は内燃機関10の気筒11毎に(詳しくは、各燃料噴射弁20に一つずつ)設けられている。
また内燃機関10の周辺機器としては、例えばマイクロコンピュータを備えて構成された電子制御ユニット40なども設けられている。この電子制御ユニット40は各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算を行い、その演算結果に応じて燃料噴射弁20の駆動制御(燃料噴射制御)などの内燃機関10の運転にかかる各種制御を実行する。
上記燃料噴射制御は基本的には次のように実行される。すなわち先ず、通路空気量GAや機関回転速度NE、燃料圧力PQ、アクセル操作量ACCなどの機関運転状態に基づいて、噴射パターンが選択されるとともに同噴射パターンの各噴射についての各種制御目標値が算出される。そして、それら制御目標値に応じたかたちで各燃料噴射弁20が各別に開弁駆動される。これにより、そのときどきの機関運転状態に適した噴射パターンで同機関運転状態に見合う量の燃料が各燃料噴射弁20から噴射されて内燃機関10の各気筒11内に供給されるようになる。
なお本実施の形態では、メイン噴射やパイロット噴射、プレ噴射、アフター噴射、ポスト噴射などを組み合わせた複数の噴射パターンが予め設定されて電子制御ユニット40に記憶されており、燃料噴射制御の実行に際してはそれら噴射パターンのうちの一つが選択される。また各種の制御目標値としては、メイン噴射やパイロット噴射、アフター噴射などといった各噴射の燃料噴射量についての制御目標値、メイン噴射の噴射時期やパイロットインターバルなどといった各種噴射の燃料噴射時期についての制御目標値が算出される。
以下、燃料噴射弁20の内部構造および圧力センサ43の取り付け構造について説明する。
上記燃料噴射弁20としては電磁駆動式のものであり、非通電時において閉弁される、いわゆるノーマリークローズ型のものが採用されている。
図2に、燃料噴射弁20の断面構造を示す。
同図2に示すように、燃料噴射弁20のハウジング21の内部にはニードル弁22が設けられている。このニードル弁22はハウジング21内において往復移動(同図の上下方向に移動)することの可能な状態で設けられている。ハウジング21の内部には上記ニードル弁22を噴射孔23側(同図の下方側)に常時付勢するスプリング24が設けられている。またハウジング21の内部には、上記ニードル弁22を間に挟んで一方側(同図の下方側)の位置に燃料室25が形成されており、他方側(同図の上方側)の位置に圧力室26が形成されている。それら燃料室25および圧力室26には導入通路27を介して上記分岐通路31a(コモンレール34)から高圧の燃料が供給されている。また、燃料室25にはその内部とハウジング21の外部とを連通する噴射孔23が形成されており、圧力室26は制御弁28を介して前記リターン通路35に接続されている。制御弁28は、ソレノイドコイル28aと、同ソレノイドコイル28aへの駆動信号の入力によって移動する弁体28bとを備えている。
この燃料噴射弁20では、ソレノイドコイル28aに駆動信号が入力されていないときには上記制御弁28が閉弁されて、燃料室25と圧力室26との圧力差がごく小さくなる。そのためニードル弁22はスプリング24の付勢力によって噴射孔23を塞ぐ位置に移動し、このとき燃料噴射弁20が閉弁されて同燃料噴射弁20から燃料が噴射されない。
一方、ソレノイドコイル28aに駆動信号が入力されて弁体28bが移動して上記制御弁28が開弁されると、圧力室26内の燃料の一部がリターン通路35を介して燃料タンク32に戻される。そのため圧力室26内の燃料の圧力が低下して同圧力室26と燃料室25との圧力差が大きくなり、この圧力差によってニードル弁22がスプリング24の付勢力に抗して移動して噴射孔23から離れる。このとき燃料噴射弁20が開弁されて、同燃料噴射弁20から燃料が噴射される。
前記圧力センサ43は、上記導入通路27の内部の燃料圧力に応じた信号を出力するように、燃料噴射弁20に一体に取り付けられている。そのため、例えばコモンレール34(図1参照)内の燃料圧力などの燃料噴射弁20から離れた位置の燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁20の噴射孔23に近い部位の燃料圧力を検出することができ、燃料噴射弁20の開弁に伴う同燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の変化を精度良く検出することができる。
さて、本実施の形態では、内燃機関10の運転に際して各気筒11(♯1〜♯4)内の圧力の変化態様をそれぞれ推定するようにしている。具体的には、燃料噴射弁20の開弁時において同燃料噴射弁20に取り付けられた圧力センサ43により検出される燃料圧力PQに基づいて該燃料噴射弁20に対応する気筒11内の圧力を推定するとの処理(後述する圧力状態推定処理)が各気筒11についてそれぞれ実行される。これにより、内燃機関10の気筒11内の圧力を直接検出するセンサを設けることなく、各気筒11内の圧力の変化をそれぞれ精度良く推定することができるようになる。
以下、その理由について説明する。
通常、燃料噴射弁20が開弁されると、燃料の噴出に伴って同燃料噴射弁20の内部(詳しくは燃料室25[図2参照]内)の燃料の圧力が一時的に低下するようになる。また、単位時間あたりに燃料噴射弁20から噴射される燃料の量は、図3に示すように、燃料噴射弁20を同一態様で開弁駆動した場合であっても、同燃料噴射弁20の内部(詳しくは、燃料室25内)の燃料圧力と内燃機関10の気筒11内の圧力との差(圧力差)に応じて異なる。そのため図4に示すように、燃料噴射弁20の開弁開始直後における同燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の低下速度は、そのときどきの内燃機関10の気筒11内の圧力に応じた値になると云える。なお図4は、燃料噴射が開始されたタイミングと燃料噴射の開始時における燃料噴射弁20の内部の燃料圧力とが同一の状況下での燃料噴射弁20の内部の燃料圧力と内燃機関10の気筒11内の圧力との関係の一例を示している。
こうしたことから、内燃機関10の気筒11内において予め定められた所定状態での燃料噴射弁20の内部の燃料圧力(基準圧力P1)を基準として、実際の燃料圧力P2の変化を監視することにより、内燃機関10の気筒11内の圧力の変化を推測することが可能になる。すなわち、基準圧力P1と実際の燃料圧力P2との関係を示す値(例えば、それらの差[P2−P1]や比[P2/P1])が上記所定状態での内燃機関10の気筒11の圧力と実際の気筒11内の圧力とのずれと高い相関を有する値になるために、そうした値を算出してこれを監視することにより、内燃機関10の気筒11内の圧力の変化を推測することが可能になる。
この点をふまえて本実施の形態では、燃料噴射弁20の開弁時において同燃料噴射弁20に取り付けられた圧力センサ43により燃料圧力PQを検出するとともに、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないと仮定した場合における燃料圧力PQに相当する値(ベース圧力PQB)を算出し、それらの差(圧力差ΔP[=PQ−PQB])を算出するようにしている。これにより上述した理由から、上記圧力差ΔPをもとに、内燃機関10の気筒11内の圧力を直接検出するセンサを設けることなく、気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができるようになる。なお本実施の形態では、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しない状態が、予め定められた所定状態に相当する。
また本実施の形態では、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないと仮定した場合における燃料圧力PQに相当する値がベース圧力PQBとして算出されるために、上記圧力差ΔPとして、燃料が燃焼しない場合における内燃機関10の気筒11の圧力と実際の気筒11内の圧力とのずれと高い相関を有する値が算出されるようになる。そのため、この圧力差ΔPをもとに、内燃機関10の気筒11内における燃料の燃焼に伴う気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができるようになる。
なお内燃機関にあっては、その気筒内の圧力を複数回にわたり検出した結果を図5に示すように、そのときどきの機関運転状態や吸気系部品の個体差あるいは劣化などの影響によって、気筒内の圧力にばらつきが生じることが避けられない。本実施の形態にかかる装置では、そうした種々の影響によることなく、内燃機関10の気筒11内の圧力を精度良く推定することができるようになる。
以下、そのようにして内燃機関10の気筒11内の圧力状態を推定するための処理(圧力状態推定処理)の実行手順について、図6に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
なお、このフローチャートに示す一連の処理は、上記圧力状態推定処理の具体的な実行手順を概念的に示したものであり、実際の処理は所定周期毎の割り込み処理として電子制御ユニット40により実行される。また、上記圧力状態推定処理は、例えば内燃機関10の気筒11[♯1]に設けられた圧力センサ43の検出信号に基づき同気筒11[♯1]内の圧力を推定したり、内燃機関10の気筒11[♯2]に設けられた圧力センサ43の検出信号に基づき同気筒11[♯2]内の圧力を推定したりするといったように、内燃機関10の気筒11(♯1〜♯4)毎にそれぞれ対応する圧力センサ43の出力信号に基づき実行される。
図6に示すように、この処理では先ず、燃料噴射弁20が開弁される前の燃料圧力(噴射前燃料圧力PQi)が検出される(ステップS101)。具体的には、燃料噴射弁20に駆動信号が出力された前後(実際には燃料噴射弁20が開弁されていない期間)において数回検出された燃料圧力PQの平均値が算出されて、その平均値が噴射前燃料圧力PQiとして記憶される。
その後、燃料噴射弁20の開弁開始直後における燃料圧力PQの低下速度VPが検出される(ステップS102)。具体的には、図7に一例を示すように、燃料圧力PQの時間波形(同図[a])が形成されて記憶されるとともに、燃料圧力PQの微分値(同図[b])が算出される。そして、燃料噴射弁20の開弁開始直後において上記微分値が最小になる時期(特定時期T1)が求められるとともに、この特定時期T1における上記燃料圧力PQの時間波形の接線Lの傾きΔPQが算出される。この傾きΔPQが上記低下速度VPとして記憶される。
次に、噴射前燃料圧力PQi(図6)と低下速度VPとに基づいて、燃料噴射弁20の開弁開始時における内燃機関10の気筒11内の圧力(開始時筒内圧PSi)が算出される(ステップS103)。なお先の図4から明らかなように、開弁前における燃料噴射弁20の内部の燃料圧力(本実施の形態では、噴射前燃料圧力PQi)と開弁開始直後における燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の低下速度(本実施の形態では、低下速度VP)と内燃機関10の気筒11内の圧力(本実施の形態では、開始時筒内圧PSi)との関係は正確に把握することができる。この点をふまえて本実施の形態では、噴射前燃料圧力PQiと低下速度VPと開始時筒内圧PSiとの関係が実験やシミュレーションの結果などに基づき予め求められて電子制御ユニット40に記憶されている。そして図6のステップS103の処理では、この関係をもとに上記噴射前燃料圧力PQiと低下速度VPとに基づいて開始時筒内圧PSiが算出される。なお、この開始時筒内圧PSiは、燃料噴射弁20の開弁開始時における内燃機関10の気筒11内の圧力を示す値として用いることの他、燃料噴射弁20から噴射された燃料が内燃機関10の気筒11内において燃焼しない場合における同気筒11内の圧力の指標値として用いることもできる。本実施の形態では、ステップS103の処理が開始時圧力算出手段として機能する。
その後、通路空気量GAおよび機関回転速度NEに基づいて、燃料噴射弁20から内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しない場合における燃料圧力PQに相当する値(ベース圧力PQB)の時間波形が算出される(ステップS104)。本実施の形態では、通路空気量GAおよび機関回転速度NEにより定まる機関運転領域と上記ベース圧力PQBとの関係が実験やシミュレーションの結果などに基づき予め求められて電子制御ユニット40に記憶されている。そしてステップS104の処理では、この関係(例えば、演算マップや演算式)をもとに通路空気量GAおよび機関回転速度NEに基づいてベース圧力PQBが算出される。ここで内燃機関10にあっては、その運転状態に応じて気筒11内に吸入される空気の量(吸入空気量)が異なり、圧縮行程や燃焼行程における気筒11内の圧力も異なる。本実施の形態では、内燃機関10の運転状態に応じてベース圧力PQBが算出されるために、吸入空気量に応じたかたちでベース圧力PQBを精度良く算出することができ、同ベース圧力PQBに基づいて気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
このようにベース圧力PQBの時間波形が算出された後、同ベース圧力PQBと燃料圧力PQとの差分(前記圧力差ΔP)の時間波形が算出される(ステップS105)。図8に、ベース圧力PQB(同図[a]の実線)と燃料圧力PQ(同図[a]の一点鎖線)と圧力差ΔP(同図[b])との関係の一例を示す。本実施の形態では、このステップS105の処理が前記関係を示す値を算出する算出手段として機能する。
その後、圧力差ΔPの時間波形をもとに、同圧力差ΔPが大きくなり始めた時期T2が求められ、同時期T2が内燃機関10の気筒11内において燃料が着火した時期(着火時期)として記憶される(図6のステップS106)。なお上記時期T2(図8)は、圧力差ΔPが大きいことや圧力差ΔPの増加速度が高いこと等といった予め定められた条件が成立する時期に基づいて求められる。本実施の形態では、ステップS106の処理が着火検出手段として機能する。
ここで内燃機関10の気筒11内において燃料が着火して燃焼すると、気筒11内の圧力が急上昇するために、気筒11内において燃料が燃焼しない場合と比較して燃料噴射弁20から噴出する燃料の量が少なくなって燃料圧力PQの低下速度が低くなり、同燃料圧力PQとベース圧力PQBとの差が大きくなる。そのため本実施の形態のように、圧力差ΔPが大きくなり始めた時期T2を求めることにより、同時期T2を内燃機関10の気筒11内における燃料の着火時期として精度良く検出することができる。なお、上記圧力差ΔPが所定の判定値以上になったときには燃料が着火したと判定する一方、圧力差ΔPが所定の判定値以上にならなかったときには燃料が正常に着火しなかったと判定するなどといったように、上記圧力差ΔPに基づいて内燃機関10の気筒11内における燃料の着火状態を正確に判定することもできる。
この着火時期は、燃料噴射弁20による燃料噴射が開始されてから内燃機関10の気筒11内において燃料が着火するまでの時間(いわゆる着火遅れ時間)の算出に用いることができる。また、内燃機関10の気筒11における圧縮比が変化すると気筒11における燃料の着火時期も変化することから、上記着火時期を基準とする時期との差に基づいて圧縮比を推定することができる。
このように着火時期が検出された後、前記噴射前燃料圧力PQi(図6)と圧力差ΔPとに基づいて、以下のようにして内燃機関10の気筒11内の圧力(推定筒内圧VPS)が算出される(ステップS107)。本実施の形態では、ステップS107の処理が開弁時圧力算出手段として機能する。
先の図4から明らかなように、燃料噴射弁20の開弁開始時における燃料噴射弁20の内部の燃料圧力が一定の条件下では、その後の同燃料圧力の低下態様は内燃機関10の気筒11内の圧力によって定まる。そのため、燃料噴射弁20の開弁開始時における燃料圧力(本実施の形態では、噴射前燃料圧力PQi)と開弁開始直後における燃料圧力の低下態様(本実施の形態では、圧力差ΔPの時間波形)とを把握することにより、それらに基づき燃料噴射弁20の開弁時における内燃機関10の気筒11内の圧力(噴射時筒内圧PSON)を精度良く推定することが可能になると云える。
本実施の形態では、そうした噴射前燃料圧力PQiと圧力差ΔPの時間波形と噴射時筒内圧PSONの時間波形との関係が実験やシミュレーションの結果などから予め求められて電子制御ユニット40に記憶されている。そして、噴射前燃料圧力PQiと圧力差ΔPとに基づいて上記関係から噴射時筒内圧PSONの時間波形が算出される。
また、噴射時筒内圧PSONの時間波形を精度良く把握することにより、同波形をもとに、その前後(詳しくは、燃料噴射弁20の開弁開始直前および閉弁直後)における内燃機関10の気筒11内の圧力の推移を精度良く推定することができる。
本実施の形態では、そうした噴射時筒内圧PSONの時間波形と燃料噴射弁20の開弁開始直前における内燃機関10の気筒11内の圧力(噴射前筒内圧PSB)の時間波形との関係や、噴射時筒内圧PSONの時間波形と燃料噴射弁20の閉弁直後における内燃機関10の気筒11内の圧力(噴射後筒内圧PSA)の時間波形との関係が実験やシミュレーションの結果などから予め求められて電子制御ユニット40に記憶されている。そして、噴射時筒内圧PSONの時間波形に基づいてそれら関係から、噴射前筒内圧PSBの時間波形と噴射後筒内圧PSAの時間波形とがそれぞれ算出される。そして、噴射前筒内圧PSBの時間波形、噴射時筒内圧PSONの時間波形、および噴射後筒内圧PSAの時間波形を組み合わせた時間波形が推定筒内圧VPSの時間波形として算出される。
なお、この推定筒内圧VPSは、内燃機関10の圧縮行程や燃焼行程における気筒11内の圧力として用いることの他、実際に気筒11内に噴射された燃料の量や気筒11内において燃焼した燃料の量などの推定に用いることもできる。
本実施の形態にかかる装置では、上述した圧力状態推定処理により算出した各値(開始時筒内圧PSi、着火時期、推定筒内圧VPS)に基づいて内燃機関10の気筒11内の圧力状態が精度良く把握される。また上記圧力状態推定処理が内燃機関10の気筒11毎に実行されるために、それら気筒11毎に異なる気筒11内の圧力状態がそれぞれ、気筒11毎に設けられた専用の圧力センサ43により検出される燃料圧力PQに基づいて精度良く推定されて把握される。
また、本実施の形態にかかる装置では、そのようして把握された内燃機関10の各気筒11の圧力状態に応じたかたちで燃料噴射制御が実行される。具体的には、上記各値をもとに把握した圧力状態(あるいは上記各値そのもの)に応じたかたちで、各噴射(メイン噴射、パイロット噴射、アフター噴射)の各種制御目標値についての補正値がそれぞれ算出される。なお本実施の形態では、気筒11内の圧力状態と同圧力状態に適した各補正値との関係が実験やシミュレーションの結果などに基づき予め求められて電子制御ユニット40に記憶されており、この関係から上記圧力状態に基づいて上記補正値は算出される。また上記補正値の算出は、内燃機関10の各気筒11について各別に行われる。
そして、上記補正値によって各種制御目標値を補正するとともに補正後の各種制御目標値に応じて同補正項に対応する燃料噴射弁20の開弁駆動を実行するといった処理が内燃機関10の気筒11毎に実行される。これにより、実際の内燃機関10の運転状態に見合うように各気筒11内の実際の圧力状態に応じたかたちで各燃料噴射弁20の開弁駆動をそれぞれ適正に実行することができるようになる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)燃料噴射弁20の開弁時における燃料圧力PQとベース圧力PQBとの差を圧力差ΔPとして算出するようにしたために、同圧力差ΔPをもとに、内燃機関10の気筒11内の圧力を直接検出するセンサを設けることなく、気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
(2)内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないと仮定した場合における燃料圧力PQに相当する値をベース圧力PQBとして算出したために、同ベース圧力PQBに基づき算出される圧力差ΔPをもとに、内燃機関10の気筒11内における燃料の燃焼に伴う気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
(3)圧力差ΔPに基づいて内燃機関10の気筒11内において燃料が着火したことを正確に検出することができる。
(4)圧力差ΔPに基づいて内燃機関10の気筒11内における燃料の着火時期を精度良く検出することができる。
(5)内燃機関10の運転状態に基づいてベース圧力PQBを算出したために、同ベース圧力PQBを内燃機関10の吸入空気量に応じたかたちで精度良く算出することができる。そして、そうしたベース圧力PQBに基づいて圧力差ΔPが算出されるために、同圧力差ΔPをもとに内燃機関10の気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
(6)燃料噴射弁20の開弁開始直後において燃料圧力PQの微分値が最小になる特定時期T1を求めるとともに、この特定時期T1における燃料圧力PQの時間波形の接線Lの傾きΔPQを算出して同傾きΔPQを前記低下速度VPとして記憶するといったように、低下速度VPの算出を行うことができる。
(7)噴射前燃料圧力PQiと圧力差ΔPとに基づいて噴射時筒内圧PSONを精度良く算出することができる。
(8)燃料噴射弁20に一体に取り付けられた圧力センサ43によって燃料圧力PQを検出するようにした。そのため、燃料噴射弁20から離れた位置において燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁20の噴射孔23に近い部位の燃料圧力を検出することができる。したがって、燃料噴射弁20の開弁駆動に伴う同燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の低下を精度良く検出することができ、そのように検出した燃料圧力をもとに内燃機関10の気筒11内の圧力の変化を精度良く推定することができる。
(9)内燃機関10の気筒11毎に異なる気筒11内の圧力状態をそれぞれ、気筒11毎に設けられた専用の圧力センサ43により検出される燃料圧力PQに基づいて精度良く推定することができる。
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・燃料噴射弁20の開弁開始直後における燃料圧力PQの低下速度VPを検出する方法は適宜変更することができる。例えば燃料圧力PQの低下速度として、燃料噴射弁20の開弁開始直後の所定期間における燃料圧力PQの低下量を検出するといった方法などを採用することができる。
・圧力差ΔPに基づいて着火時期を求める方法は任意に変更することができる。例えば、圧力差ΔPが所定の判定値より大きくなった時期を着火時期としたり、圧力差ΔPの増加速度が所定の判定値より大きくなった時期を着火時期としたりしてもよい。
・内燃機関10が運転されている状況であり、且つ燃料噴射弁20から噴射された燃料が内燃機関10の気筒11内で燃焼しない状況において同燃料噴射弁20からの燃料噴射を実行するとともに、そのときの内燃機関10の気筒11内の圧力と相関の高い値(筒内圧力相関値)および燃料圧力PQをそれぞれ検出し、それら筒内圧力相関値および燃料圧力PQに基づいてベース圧力PQBの算出に用いられる関係を学習更新するようにしてもよい。具体的には、燃料噴射弁20からの燃料噴射を実行するタイミングとして内燃機関10の吸気行程を採用することができ、この場合における筒内圧力相関値としては吸気通路12内の圧力(例えば過給圧など)を採用することができる。その他、燃料噴射弁20からの燃料噴射を実行するタイミングとしては内燃機関10の排気行程を採用することもでき、その場合における筒内圧力相関値としては、通路空気量GA、機関回転速度NE、および排気通路15内の排気温度を採用することができる。
上述した関係の学習・更新は、例えば次のように実行することができる。すなわち先ず、上記筒内圧相関値および燃料圧力PQに基づいて燃料噴射弁20から噴射された燃料が内燃機関10の気筒11内で燃焼しない場合における燃料噴射弁20内部の燃料圧力に相当する値(ベース圧力相当値)を算出する。そして、このベース圧力相当値が前記関係に記憶されている特定の機関運転領域のベース圧力PQBより低いときには、同関係に記憶されている全てのベース圧力PQBから所定値を減算する。その一方で、上記ベース圧力相当値が上記特定の機関運転領域のベース圧力PQB以上のときには、上記関係に記憶されている全てのベース圧力PQBに所定値を加算する。
ここで、例えば内燃機関10の吸気ポートや吸気バルブ並びに燃料噴射弁20の噴射孔23へのデポジットの付着、ピストンリングの摩耗などといった内燃機関10の経時変化が生じた場合に、そうした経時変化が生じない場合と比較して、燃料噴射弁20から内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないときの燃料圧力PQが変化することがある。この場合には、通路空気量GAおよび機関回転速度NEにより定まる機関運転領域と燃料噴射弁20からの燃料噴射がなされない場合における燃料圧力PQとの関係も変化するため、単に電子制御ユニット40に記憶されている関係をもとにベース圧力PQBを算出すると、同ベース圧力PQBの算出誤差が大きくなるおそれがある。
この点、上記構成によれば、上述のように検出した筒内圧力相関値および燃料圧力PQに基づいて、燃料噴射弁20から噴射された燃料が内燃機関10の気筒11内で燃焼しない状況で同燃料噴射弁20からの燃料噴射が実行された場合における燃料噴射弁20内部の実際の燃料圧力を把握することができる。そして、その把握した実際の燃料圧力に基づいてベース圧力PQBの算出に用いる関係を学習・更新することができる。これにより、上述した内燃機関10の経時変化に合わせてベース圧力PQBの算出態様を変更することができ、その経時変化に起因する誤差を小さくすることができる。
・ベース圧力PQBの算出パラメータとして開始時筒内圧PSiを用いるようにしてもよい。こうした構成によれば、開始時筒内圧PSi、すなわち燃料噴射弁20の開弁開始時における内燃機関10の気筒11内の圧力に応じたかたちでベース圧力PQBを精度良く算出することができるようになり、同ベース圧力PQBに基づいて気筒11内の圧力の変化をより精度良く推定することができるようになる。
なお、こうした構成を採用する場合には、噴射時筒内圧PSONの算出パラメータとしても開始時筒内圧PSiを用いることが望ましい。こうした構成によれば、開始時筒内圧PSiに基づいて、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないと仮定した場合における気筒11内の圧力を精度良く把握することができる。しかも、上述のように開始時筒内圧PSiに基づき算出した圧力差ΔPと噴射前燃料圧力PQiとにより、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が燃焼しないと仮定した場合における気筒11内の圧力に対する実際の気筒11内の圧力の変化分を精度良く把握することができる。したがって、そのようにして把握される気筒11内の圧力と同圧力に対する実際の気筒11内の圧力の変化分とに基づいて噴射時筒内圧PSONを精度良く算出することができる。
・推定筒内圧VPSとして、噴射前筒内圧PSBの時間波形と噴射時筒内圧PSONの時間波形とを組み合わせた時間波形や、噴射時筒内圧PSONの時間波形と噴射後筒内圧PSAの時間波形とを組み合わせた時間波形、あるいは噴射時筒内圧PSONの時間波形のみを算出するようにしてもよい。
・圧力状態推定処理(図6)において、開始時筒内圧PSiを算出するための処理(ステップS102,S103)、着火時期を検出する処理(ステップS106)、および推定筒内圧VPSを算出する処理(ステップS107)のいずれか一つ、あるいはいずれか二つを省略してもよい。
・燃料噴射弁20の内部(詳しくは、燃料室25内)の燃料圧力の指標となる圧力、言い換えれば同燃料圧力の変化に伴って変化する燃料圧力を適正に検出することができるのであれば、圧力センサ43を燃料噴射弁20に直接取り付けることに限らず、同圧力センサ43の取り付け態様は任意に変更することができる。具体的には、圧力センサ43を燃料供給通路におけるコモンレール34と燃料噴射弁20との間の部位(分岐通路31a)に取り付けたり、コモンレール34に取り付けたりしてもよい。
・ベース圧力PQBとして、内燃機関10の気筒11内に噴射された燃料が完全燃焼したと仮定した場合における燃料圧力PQに相当する値や、同燃料が内燃機関10の燃費性能が最も良くなる状態で燃焼したと仮定した場合における燃料圧力PQに相当する値などを算出するようにしてもよい。要は、予め定められた所定状態での燃料圧力PQに相当する値をベース圧力PQBとして算出すればよい。こうした構成によっても、圧力差ΔPが上記所定状態における内燃機関10の気筒11の圧力と実際の気筒11内の圧力とのずれと高い相関を有する値になるために、そうした値を算出してこれを監視することにより、内燃機関10の気筒11内の圧力の変化を推測することができる。
・ベース圧力PQBとして、内燃機関10の運転状態によることなく、予め定められた所定の値を設定するようにしてもよい。
・圧力差ΔP(=PQ−PQB)を算出することに限らず、ベース圧力PQBと燃料圧力PQとの関係を示す値、言い換えればベース圧力PQBと燃料圧力PQとの関係を的確に把握することのできる値であれば、任意の値を算出することができる。具体的には、圧力差(PQB−PQ)や、ベース圧力PQBと燃料圧力PQとの比([PQB/PQ]あるいは[PQ/PQB])などを算出してもよい。
・ソレノイドコイル28aにより駆動されるタイプの燃料噴射弁20に代えて、ソレノイドコイル28a以外のもの(例えばピエゾ素子)によって駆動されるタイプの燃料噴射弁を採用することもできる。
・四つの気筒を有する内燃機関に限らず、単気筒の内燃機関や、二つの気筒を有する内燃機関、三つの気筒を有する内燃機関、あるいは五つ以上の気筒を有する内燃機関にも、本発明は適用することができる。
・本発明は、ディーゼル機関に限らず、ガソリン燃料を用いるガソリン機関や天然ガス燃料を用いる天然ガス機関にも適用することができる。