JP5263572B2 - 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層(以下、TiC層という)、窒化物層(以下、TiN層という)、炭酸化物層(以下、TiCO層という)、および炭窒酸化物層(以下、TiCNO層という)のうちの1層以上からなり、かつ0.1〜5μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有する炭窒化チタン層(以下、改質TiCN層という)からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有するα型酸化アルミニウム層(以下、従来α型Al2O3層という)からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成し、かつ、
上記(a)の下部層における改質TiCN層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフ、を示し、さらに、
上記(b)の従来α型Al2O3層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフ、
を示す被覆工具が知られており、この被覆工具を、高硬度鋼の高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示すことが知られている。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件(従来条件という)で蒸着形成するが、
上記従来被覆工具における密着性Ti化合物層および改質TiCN層を下部層とし、この上に、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.5〜2%、CO2:0.1〜2%、HCl:0.1〜1%、H2S:0.15〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜980℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち、上記の従来条件に比して反応ガス組成では、AlCl3、CO2およびHClの含有割合を相対的に低く、H2Sの含有割合を相対的に高く、かつ、雰囲気温度を相対的に低くした条件(以下、初期形成条件という)で10〜60分間蒸着形成し、
次いで、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち上記の従来条件と同条件で上部層を蒸着形成すると、この結果形成したα型Al2O3層(以下、「改質α型Al2O3層」という)からなる上部層は、α型Al2O3層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、下部層である改質TiCN層あるいは密着性Ti化合物層との層間付着強度が一段と向上するため上部層と下部層間での層間剥離の発生を防止し得るようになり、その結果、すぐれた耐チッピング性を具備するようになること。
ところで、下部層の構成層の一つである改質TiCN層は、従来技術として示した特許文献1にも記載されているように、例えば、密着性Ti化合物層の上に、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%、CH3CN:0.05〜0.3%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で形成することができるが、この改質TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、図1(a),(b)に示される通り、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、Σ3の分布割合は60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示すこと。
そして、上記改質α型Al2O3層からなる上部層を上記改質TiCN層上に直接蒸着形成した場合、上記改質TiCN層について測定した上記(001)面および(011)面の法線の測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間で前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(下部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定し、
また、改質α型Al2O3層からなる上部層についても、上記と同様、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図4(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角(図4(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間で前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(上部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定した時、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する前記改質炭窒化チタン層の下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成している結晶粒界構造を有し(図5(a)参照)、上部層と下部層の層間付着強度が著しく向上すること。
また、上記改質α型Al2O3層からなる上部層を、上記改質TiCN層上に直接蒸着形成するのではなく、改質TiCN層上に、Tiの炭窒化物層(TiCN層)、炭酸化物層(TiCO層)および炭窒酸化物層(TiCNO層)のうちの少なくとも1層からなる薄層(好ましくは、0.1〜1μmの合計層厚)を通常の蒸着条件で蒸着形成した後、この層を介してこの上にさらに、改質α型Al2O3層からなる上部層を蒸着形成した場合には、改質TiCN層上に形成されるTiCN層、TiCO層およびTiCNO層のいずれもが、いわゆるエピタキシャル成長し、TiCN層、TiCO層、TiCNO層の結晶粒界構造は、改質TiCN層のそれと同様なものが形成される。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなり、かつ0.1〜2μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、前記密着性Ti化合物層との合計で3〜20μmの合計平均層厚を有する化学蒸着形成された改質炭窒化チタン層からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する改質α型酸化アルミニウム層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層のうちの、上部層に隣接して存在する密着性Ti化合物層あるいは改質炭窒化チタン層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(下部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層を構成する改質α型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(上部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する前記密着性Ti化合物層あるいは改質炭窒化チタン層の下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
下部層の密着性Ti化合物層:
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなる密着性Ti化合物層は、工具基体と上部層である改質α型Al2O3層、さらに下部層の構成層の一つである改質TiCN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.1μm未満では、所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方前記密着性は2μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.1〜2μmと定めた。
下部層の改質TiCN層:
上記の改質TiCN層は、通常の化学蒸着装置で、例えば、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%、CH3CN:0.05〜0.3%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で化学蒸着することによって形成することができる。
下部層Σ3対応粒界の分布割合については、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成することによって求めることができるが、この構成原子共有格子点分布グラフにおいて、改質TiCN層ではΣ3に最高ピークが存在し、しかも、Σ3の分布割合は60%以上のきわめて高い分布割合となっている。
また、上記Σ3の構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界のうち、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(下部層Σ3対応粒界)については、上記の測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義することにより、下部層Σ3対応粒界の数および位置を測定することができる。
前記密着性Ti化合物層と前記改質TiCN層から構成される下部層について、改質TiCN層に着目してより具体的に下部層構造を見た場合、下部層の表面層、即ち、上部層に隣接して存在する層、が改質TiCN層である場合には、上部層との界面に臨んで存在する改質炭窒化チタン層の、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることによって、上部層と下部層間には所定の高温強度、層間付着強度が確保される。
改質TiCN層は、従来のTiCN層のもつ高温硬さと高温強度に加えて、さらに一段とすぐれた高温強度を有するが、その平均層厚が2.5μm未満ではΣ3対応粒界を充分形成することができないため、所望のすぐれた高温強度向上効果を期待することはできず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
また、密着性Ti化合物層と改質炭窒化チタン層からなる下部層の合計平均層厚が3μm未満では、所定の耐摩耗性を確保することができず、一方、合計平均層が20μmを超えると、急激に耐チッピング性が低下することから、下部層の合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上部層の改質α型Al2O3層:
上部層の改質α型Al2O3層は、密着性Ti化合物層および改質TiCN層を下部層とし、この上に、
まず、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.5〜2%、CO2:0.1〜2%、HCl:0.1〜1%、H2S:0.15〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜980℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち、従来条件に比して反応ガス組成では、AlCl3、CO2、およびHClの含有割合を相対的に低く、H2Sの含有割合を相対的に高く、かつ、雰囲気温度を相対的に低くした条件(初期形成条件)で10〜60分間蒸着形成し、
次いで、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着することにより形成することができ、この改質α型Al2O3層は、α型Al2O3層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、層間付着強度が一段と向上し、その結果、すぐれた耐チッピング性を具備するようになる。
そして、電界放出型走査電子顕微鏡を用いた調査によれば、上部層と下部層間での層間付着強度の向上は、上部層(改質α型Al2O3層)と下部層(上部層に隣接して存在する改質TiCN層または密着性Ti化合物層)との界面で形成されるΣ3対応粒界の結晶粒界構造の連続性によってもたらされるものであることは明らかである。
例えば、改質TiCN層(下部層)が改質α型Al2O3層(上部層)に隣接して存在する場合、改質TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いた前記測定により、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(下部層Σ3対応粒界)の数と位置を特定する。
また、上記改質α型Al2O3層からなる上部層の平均層厚が1μm未満では、すぐれた高温硬さ、耐熱性とすぐれた層間付着強度を発揮することができず、一方、その平均層厚が15μmを越えると、高速重切削という厳しい切削条件下では、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
被削材:JIS・SS400の丸棒、
切削速度: 480 m/min、
切り込み: 5 mm、
送り: 0.9 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件A)での軟鋼の乾式高速連続高切込み・高送り切削試験(通常の切削速度、切り込みおよび送りは、それぞれ、300m/min、1.5mm、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SCr420Hの丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.8 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高速高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、280m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・FC250の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.8 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件C)での鋳鉄の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、230m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなり、かつ0.1〜2μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、前記密着性Ti化合物層との合計で3〜20μmの合計平均層厚を有する化学蒸着形成された改質炭窒化チタン層からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する改質α型酸化アルミニウム層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層のうちの、上部層に隣接して存在する密着性Ti化合物層あるいは改質炭窒化チタン層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、上部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(下部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層を構成する改質α型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(上部層Σ3対応粒界)の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する前記密着性Ti化合物層あるいは改質炭窒化チタン層の下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることを特徴とする表面被覆切削工具。
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JP2008024737A JP5263572B2 (ja) | 2008-02-05 | 2008-02-05 | 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 |
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