図1は、本発明の実施例1に係るフルカラー画像形成装置(以下、単にプリンタという)の内部構成を説明する断面図である。図1に示すプリンタ1は、電子写真式で二次転写方式のタンデム型のカラー画像形成装置であり、画像形成部2、中間転写ベルトユニット3、給紙部4、及び両面印刷用搬送ユニット5で構成されている。
上記画像形成部2は、同図の右から左へ4個の画像形成ユニット6(6M、6C、6Y、6K)を多段式に並設した構成からなる。
上記4個の画像形成ユニット6のうち上流側(図の右側)の3個の画像形成ユニット6M、6C及び6Yは、それぞれ減法混色の三原色であるマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)の色トナーによるモノカラー画像を形成し、画像形成ユニット6Kは、主として文字や画像の暗黒部分等に用いられるブラック(K)トナーによるモノクロ画像を形成する。
上記の各画像形成ユニット6は、トナー容器(トナーカートリッジ)に収納されたトナーの色を除き全て同じ構成である。したがって、以下ブラック(K)用の画像形成ユニット6Kを例にしてその構成を説明する。
画像形成ユニット6は、最下部に感光体ドラム7を備えている。この感光体ドラム7は、その周面が例えば有機光導電性材料で構成されている。この感光体ドラム7の周面近傍を取り巻いて、クリーナ8、帯電ローラ9、光書込ヘッド11、及び現像器12の現像ローラ13が配置されている。
現像器12は、上部のトナー容器に同図にはM、C、Y、Kで示すようにマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のいずれかの現像剤(トナー)を収容し、中間部には下部へのトナー補給機構を備えている。
また、現像器12の下部には側面開口部に上述した現像ローラ13を備え、内部にはトナー撹拌部材、現像ローラ13にトナーを供給するトナー供給ローラ、現像ローラ13上のトナー層を一定の層厚に規制するドクターブレード等を備えている。
中間転写ベルトユニット3は、本体装置のほぼ中央で図の左右のほぼ端から端まで扁平なループ状になって延在する無端状の中間転写ベルト14と、この中間転写ベルト14を掛け渡されて中間転写ベルト14を図の反時計回り方向に循環移動させるベルト駆動ローラ15と従動ローラ16を備えている。
上記の中間転写ベルト14は、トナー像を直接ベルト面に転写(一次転写)されて、そのトナー像を更に記録媒体(以下、用紙ともいう)に転写(二次転写)すべく用紙への転写位置まで搬送するので、ここではユニット全体を中間転写ベルトユニットといっている。
この中間転写ベルトユニット3は、上記扁平なループ状の中間転写ベルト14のループ内にベルト位置制御機構17を備えている。ベルト位置制御機構17は、中間転写ベルト14を介して感光体ドラム7の下部周面に押圧する導電性発泡スポンジから成る一次転写ローラ18を備えている。
ベルト位置制御機構17は、マゼンタ(M)、シアン(C)及びイエロー(Y)の3個の画像形成ユニット6M、6C及び6Yに対応する3個の一次転写ローラ18を鉤型の支持軸を中心に同一周期で回転移動させる。
そして、ベルト位置制御機構17は、ブラック(K)の画像形成ユニット6Kに対応する1個の一次転写ローラ18を上記3個の一次転写ローラ18の周期と異なる回転移動周期で回転移動させて中間転写ベルト14を感光体ドラム7から離接させる。
すなわち、ベルト位置制御機構17は、中間転写ベルトユニット3の中間転写ベルト14の位置を、フルカラーモード(4個全部の一次転写ローラ18が中間転写ベルト14に当接)、モノクロモード(画像形成ユニット6Kに対応する一次転写ローラ18のみが中間転写ベルト14に当接)、及び全非転写モード(4個全部の一次転写ローラ18が中間転写ベルト14から離れる)に切換える。
上記の中間転写ベルトユニット3には、上面部のベルト移動方向最上流側の画像形成ユニット6Mの更に上流側に、ベルトクリーニング部34が配置され、ベルト下面部には、ほぼ全面に沿い付けるように平らで薄型の廃トナー回収容器19が着脱自在に配置されている。
給紙部4は、上下2段に配置された2個の給紙カセット21を備え、2個の給紙カセット21の給紙口(図の右方)近傍には、それぞれ用紙取出ローラ22、給送ローラ23、捌きローラ24、待機搬送ローラ対25が配置されている。
待機搬送ローラ対25の用紙搬送方向(図の鉛直上方向)には、中間転写ベルト14を介して従動ローラ16に圧接する二次転写ローラ26が配設されて、用紙への二次転写部を形成している。
この二次転写部の下流(図では上方)側にはベルト式定着装置27が配置されている。ベルト式定着装置27の更に下流側には、定着後の用紙をベルト式定着装置27から搬出する搬出ローラ対28、及びその搬出される用紙を装置上面に形成されている排紙トレー29に排紙する排紙ローラ対31が配設されている。
両面印刷用搬送ユニット5は、上記搬出ローラ対28と排紙ローラ対31との中間部の搬送路から図の右横方向に分岐した開始返送路32a、それから下方に曲がる中間返送路32b、更に上記とは反対の左横方向に曲がって最終的に返送用紙を反転させる終端返送路32c、及びこれらの返送路の途中に配置された4組の返送ローラ対33a、33b、33c、33dを備えている。
上記終端返送路32cの出口は、給紙部4の下方の給紙カセット21に対応する待機搬送ローラ対25への搬送路に連絡している。また、本例において中間転写ベルトユニット3の上面部には、前述したベルトクリーニング部34が配置されている。そして、ベルト下面部には、平らで薄型の廃トナー回収容器20が着脱自在に配置されている。
ベルトクリーニング部34は、中間転写ベルト14の上面に当接して廃トナーを擦り取って除去して、図示を省略したベルトクリーナユニットの一時貯留部に溜め込み、その溜め込まれた廃トナーを搬送スクリューにより落下筒内を上部まで搬送し、落下筒を介して廃トナー回収容器20に送り込んでいる。
図1に示すように、このプリンタ1は、用紙に直接トナー像を転写する方式ではなく、待機搬送ローラ対25により二次転写部まで鉛直方向に搬送される用紙に中間転写ベルト14を介してトナー像を転写する方式となっている。
図2は、画像形成ユニット6を示す断面図である。尚、図2には、図1と同一の構成部分には図1と同一の番号を付与して示している。また、画像形成ユニット6が本体装置に装着されたときに係合する光書込ヘッド11と中間転写ベルト14と一次転写ローラ18を二点鎖線の仮想線で示している。
図2に示すように、画像形成ユニット6は、トナーカートリッジ47と外装フレーム48を備えた現像部49とからなる現像器12と、外装フレーム48に組み付けられて現像器12と一体になったドラムユニット50とで構成されている。
ドラムユニット50には、図1に示した感光体ドラム7、クリーナ8、帯電ローラ9等が組み込まれており、現像器12の現像部49には、図1に示した供給ローラ19や現像ローラ13の他に、ドクターブレード51、攪拌器52等が配設されている。
一方のドラムユニット50は、クリーナ8のクリーニングブレードでクリーニングされ、帯電ローラ9で一様に初期化帯電された感光体ドラム7の周面上に、光書込ヘッド11により制御部からの画像信号にしたがった露光が行われて、初期化帯電の高電圧部と露光により減衰した低電圧部からなる静電潜像が形成される。
この静電潜像は、感光体ドラム7の矢印で示す反時計回り方向への回転に伴われて、感光体ドラム7と現像ローラ13との対向部で形成される現像位置へと移動する。
他方の現像部49には、上部のトナーカートリッジ47から供給されるトナーが常に収容されている。攪拌器52はトナーが凝固しないように攪拌し、供給ローラ19は、矢印で示すように現像ローラ13と同一方向に回転しながらトナーを現像ローラ13の周面に供給する。
現像ローラ13の周面に供給されたトナーは、現像ローラ13の搬送方向(回転方向)の下流側に配置されているドクターブレード51によって、一定の厚さに規制され、現像位置へと回転搬送される。
現像位置へと回転搬送されたトナーは、現像ローラ13と感光体ドラム7の周面の電位差により静電潜像の低電位部に転移し、これにより静電潜像の低電位部がトナーによって顕像化され、感光体ドラム7の周面に画像が現像される。
感光体ドラム7の周面に現像されたトナー画像は、中間転写ベルト14を介して一次転写ローラ18と感光体ドラム7とが対向する転写部へと回転搬送され、一次転写ローラ18から中間転写ベルト14に印加される静電潜像の低電位部とは逆極性の電荷により、中間転写ベルト14に転写される。
尚、クリーナ8は、トナー画像が中間転写ベルト14に転写された後に感光体ドラム7の周面に残留するトナーを、クリーニングブレードによって感光体ドラム7の周面から掻きとって、初期化帯電される前の感光体ドラム7の周面を一様に清掃する役目を持っている。
中間転写ベルト14に転写されたトナー画像は、図1に示した従動ローラ16と二次転写ローラ26とが対向配置されている二次転写部に搬送されて、給紙部4の給紙カセット21から二次転写部に給紙されてくる転写材(用紙)に転写される。
そして、転写されたトナー画像は、ベルト式定着装置27で用紙の紙面に定着され、トナー画像を定着された用紙は、搬出ローラ対28、排紙ローラ対31によって、排紙トレー29上に排出される。
ところで、線画像をベルト搬送方向に対して平行に印字されたものを1次転写する際に、往々にして線画像の中央部のみが転写されずに残る「文字抜け」と一般に称される不具合が発生することは前述した。
図3(a),(b),(c) は上記の文字抜け発生の原因を考察する図である。図3(a) は、一次転写時における感光体ドラム7と一次転写ローラ18との対向部において中間転写ベルト14上に転写されるトナー像53の状態を側面図で模式的に示している。
尚、図3(a) には図2と同一の構成部分には図2と同一の番号を付与して示している。また、図3(b) は図3(a) を矢印a方向から見た図であり、図3(c) は図3(b) の丸bで囲んで示す部分の拡大図である。
一般に、一次転写にローラを採用する場合、転写性の向上のため、感光体ドラム7と一次転写ローラ18との対向部における転写ニップ幅をある程度確保するためと、中間転写ベルト14に対する従動性を持たせるために、発泡体やゴム等の弾性体が用いられることが多い。
つまり、一次転写ローラ18は、それ自体で駆動機構は持たず、図3(b) に示すように回転軸の両端部18a及び18bを不図示の支持部材に支持され、図3(a),(b) に矢印c、d、及びeで示すように、中間転写ベルト14を介して感光体ドラム7方向に付勢されているだけである。
これにより、一次転写ローラ18は、感光体ドラム7との対向部で挟持する中間転写ベルト14に突き当てられて、図3(a) の矢印b方向に循環移動する中間転写ベルト14に従動するように構成されている。
この一次転写において、図3(b) に示すように、感光体ドラム7の回転方向(中間転写ベルト14の走行方向)に対して平行な線となるトナー像53を感光体ドラム7に現像して、中間転写ベルト14に一次転写する。
そうすると、図3(c) に示すように、感光体ドラム7上に中央部が山形の線画像を形成しているトナー像53が、感光体ドラム7と中間転写ベルト14間に挟まれて、図3(a),(b) に示すように、一次転写ローラ18により中間転写ベルト14側から感光体ドラム7へと押圧される。
この押圧力は、中央部が山形の線画像を形成しているトナー像53に対し、図3(c) に3本の矢印54で示すよう、山形の外側から中央部へと感光体ドラム7に向けて働く。すなわち、トナー像53の山形の底部(感光体ドラム7の面に密着している面)は、中央部が最も強く感光体ドラム7の面に押圧されることになる。
このように、トナー像53の中央部に圧が集中することにより、トナー像53の内部において圧縮によるトナーの凝集が発生し、像の端部と中央部において著しい形態変動を生じる。
図4(a) は、トナー像の端部と中央部において著しい形態変動を生じる態様を模式的に示す図であり、図4(b) は図4(a) の結果として文字抜けが生じる状態を模式的に示す図である。
図4(a) に示すように、激しい圧の集中した中央部のトナー塊53aは静電気的な力から解放され、図4(b) に示すように、感光体ドラム7に凝集したまま転写されず残存し、端部のトナー塊53bのみが中間転写ベルト14に転写される。このようにして、線画像の両側端部のみが転写され、あたかも2重線のような文字抜け画像が発生する。
従来、感光体ドラムの表面性と中間転写ベルトの表面性が、これらの表面の組成上の特性から、極めて類似していることが知られている。そこで、本願の発明者は、感光体ドラムの表面性を変更することは出来ないので、中間転写ベルトの表面性を変更することに着目した。
そして、中間転写ベルトの表面の粗さと、トナー像に対する圧の掛りかた及びトナー像の凝集との関係を調べることにした。先ず、表面の粗さが異なるがやや近似する4種類の中間転写ベルトを第1のグループとし、それよりも表面の粗さが大きく異なる4種類の第2のグループ、更に表面の粗さが大きく異なる4種類の第3のグループの合計12種類の中間転写ベルトを用意した。
図5(a),(b),(c) は、3グループの各グループの中から各一枚を代表的に取り出して、その表面粗さを、レーザー顕微鏡で測定した状態を示す図である。
図5(a) に示す表面の粗さが最も小さな第1のグループの中間転写ベルトを、以下「ベルトA」とし、次に表面の粗さが大きい第2のグループの中間転写ベルトを、以下「ベルトB」とし、最も表面の粗さが大きい第3のグループの中間転写ベルトを、以下「ベルトC」とする。
図6(a) は、ベルトA(A1、A2、A3、A4)、ベルトB(B1、B2、B3、B4)、ベルトC(C1、C2、C3、C4)の表面粗さを測定したデータである。この測定は、キーエンスVK8550レーザー顕微鏡を用い、Ra、Ry、Rz、及びRMSで表される表面粗さを測定したものである。レンズ倍率は×100、単位はμm、測定面積は12000μm^2である。
図6(b) は、粗さを表す値Ra、Ry、Rz、及びRMSに対するベルトA1、A2、A3及びA4の測定平均値をベルトAの平均値、ベルトB1、B2、B3及びB4の測定平均値をベルトBの平均値、ベルトC1、C2、C3及びC4の測定平均値をベルトCの平均値として表し、それぞれのグループにおける文字抜けの評価を示したものである。
図6(b) に示すように、ベルトAでは全て文字抜けが発生し、評価は「×」であった。また、ベルトBでは文字抜けは発生するもののベルトAほど明瞭な文字抜けではなく、評価は「△」であった。そして、ベルトCでは文字抜けは全く発生せず、評価は「○」であった。
この評価表が示すように、中間転写ベルトの表面性と文字抜けの状態との関係では、ベルトAからベルトCにかけて表面粗さを粗くしていくと文字抜けの状態が改善されていくことが実証された。
図7(a) は、ベルトA、ベルトB、及びベルトCの表面粗さ指数を表す図であり、図7(b),(c) は、文字抜けの状態が改善される理由を説明する図である。尚、図7(a) は横にベルトA、ベルトB、及びベルトCを順に示し、左縦軸に粗さ指数Ry及びRzを示し、右縦軸に粗さ指数Ra及びRMSを示している。
ベルトCによる文字抜けの状態の改善の理由は、図3(c) に示したように中間転写ベルトと感光体ドラムとの押圧によって、まさにトナーの凝集が発生しようとするときに、図7(b) に示すように、ベルト表面の凹凸の凸部がトナー塊の中に入り込み、トナーの凝集作用を阻害して、図7(c) に示すように、文字抜けを防止しているものと考えられる。
ここで、トナーの凝集を阻害するに十分な表面粗さ(凹凸量)として、図6(b) に示す評価が「△」であったベルトBと評価が「○」であったベルトAの中間値を図7(a) に示す表面粗さ指数の表から求めると、Ra=0.08μm、Ry=1.1、Rz=0.8μm、及びRMS=0.11が得られる。
これにより、中間転写ベルトの文字抜け発生を防止可能な表面粗さ指数は、少なくともRa=0.08μm以上、Ry=1.1以上、Rz=0.8μm以上、及びRMS=0.11以上が望ましいことが判明する。
このように、特にRa=0.08μm以上、Rz=0.8μm以上で示されるマット状の方向性の無い微少な凹凸状態の粗面を中間転写ベルトの表面に形成できれば、ベルト表面の粗面の方向性に関係なく安定した一次転写のトナー画像を形成できることが実証された。
このように、上述した実施例1の中間転写ベルトによれば、ベルト表面粗さを少なくともRa=0.08μm以上かつRz=0.8μm以上に規定するだけで、文字抜けを発生させないという効果が得られ、また、構造的にも汎用性が高くかつ廉価な中間転写ベルトが実現する。
尚、実施例1の中間転写ベルトは、クリーニングブレードが使用可能な一般的なコンベンショナルトナーにおいても文字抜けの発生を防止して均一性のある良好な一次転写画像を得ることができることが実験の結果判明している。
ところで、一般に、物の表面に後加工によって表面粗さを付与する場合は、表面に規定の表面粗さを持った回転体を被加工物の表面に一定圧であてがって、回転体と被加工物を相対的に一定方向に移動させることによって粗面加工が行われる。したがって、結果としてその被加工物の加工上がりの表面は、一定の粗さを持つようになるが、筋状の方向性(筋目)を持ったものになる。
中間転写ベルトは一般的に一次転写前にクリーニング工程を経てから一次転写を行うように設定されている。このクリーニング工程でのクリーニングは、中間転写ベルトの走行を利用し、ブレードを用いてクリーニングを行うことが非常に一般的で且つ廉価な方法である。
そこで、筋目のある表面粗さを持った中間転写ベルトの表面に対してブレードを用いたクリーニングを行うことを考えると、筋目が中間転写ベルトの搬送方向に対して平行な場合は、筋目を形成している筋状の突起は常にブレードの先端の同一箇所に当たる状態になってブレードが受ける部分的負荷が大きくなる。このブレードが受ける部分的負荷の増大を回避するには、筋目の方向に、ある程度の乱雑性を持たせる必要があると考えられる。
図8(a) は、表面粗さの筋目が中間転写ベルトの走行方向に対して平行な場合を示す図であり、図8(b) はその筋目に対する線粗さの測定角度を示す図、図8(c) はその測定結果を示す図表、図8(d) は図8(c) の値をグラフ化した図である。
図8(a) に示す中間転写ベルトの試料片56には、中間転写ベルトの走行方向に平行する表面粗さの筋目57が形成されている。この試料片56に対して、図8(b) に示すように筋目に対する測定角度を90°、45°、36.85°、22.55°、及び0°として線粗さを測定した。
この測定で得られた線粗さの角度と粗さ指標との対応値は、図8(c) に示す通りである。図8(d) は、その線粗さの角度と粗さ指標との対応値をグラフ化したものである。この図8(d) は横軸に測定角度(°)を示し、縦軸に粗さ(μm)を示している。
図8(d) には、図8(c) に示した図表の値のうち、Ra、Ry、Rzを取り出し、Raを白四角「□」のプロットで示し、Ryを白菱形「◇」のプロットで示し、Rzを白三角「△」のプロットで示している。
図8(d) を見ると、筋状粗さ(試料片56の中間転写ベルトの走行方向に平行する表面粗さの筋目57)に対する図8(b) に示す線粗さの測定角度が、0°〜40°未満では数値の変動が大きいが、40°を超えると90°まで数値は略一定で安定している。
これを各粗さ指標別に見ると、白四角「□」のプロットで示すRaは0.1μm以上の値で安定し、図6(b) に示した評価「○」のベルトCのRaの値に匹敵する。また、白三角「△」のプロットで示すRzは0.55μm以上の値で安定し、図6(b) に示した評価「△」のベルトBのRzの値を大きく超えている。そして、白菱形「◇」のプロットで示すRyは0.75μm以上の値で安定し、これも図6(b) に示した評価「△」のベルトBのRyの値を大きく超えている。
これらの観察から、方向性の一定しない筋目であっても、上記に示すように中間転写ベルトの走行方向に対してなす角度が40°〜90°(マイナス方向の回転も含めて40°〜140°)以内になっていれば、文字抜けを発生させないための粗さ成分を損なうことなく、良好な一次転写画像を形成できることが判明する。
また、筋目の角度が40°〜140°以内の角度であると、筋目によるブレードへの接触点が絶えず移動して変化するため、ブレードを傷めず、ブレードを長期にわたって良好な状態に維持することができる。
図9(a),(b),(c),(d) は、それぞれ矢印fで示す中間転写ベルトの走行方向に対してなす角度が0°、90°、40°、140°の筋目の態様を参考のため具体的に示す模式図である。図9(a) の角度0°の筋目は最も文字抜け不良を起こす筋目である。
図9(c) の角度40°から図9(d) の140°までの範囲の筋目が文字抜けの起きない筋目である。図9(b) の角度90°の筋目は、図9(c) から図9(d) まで順次変化していった場合の中間の筋目となる。
これを元に、たとえば乱雑な筋目(方向性の異なる複数の混在した筋目)を入れると、表面の状態がより通常のマット状に近づきながらも筋目による方向性からくる文字抜けの弊害を克服することが可能は中間転写ベルトを実現することができる。
図10(a) は、矢印fで示す中間転写ベルトの走行方向に対して、40°から140°までの角度の範囲を示す図であり、図10(b) は、この40°〜140°の範囲内の角度において、角度が異なる筋目が複数混在して形成されている粗さを有するベルト表面の態様を模式的に示す図である。このようにしても、文字抜け防止に対して有効に作用することは勿論である。
例えば、図5(a),(b),(c) に示した微細な凹凸からなる粗面、いわゆるマット状の粗面構成とするための表面に粗さを付与する方法は、手数の掛る技術を要するが、角度が異なる筋目が複数混在して形成されている粗さを有するベルト表面の加工については、表面に規定の表面粗さを持った回転体により被加工物の表面との接触面の線角度を変えて複数回の加工を施すだけで実現できる。
表面に規定の表面粗さを持った回転体により被加工物の表面を粗面加工する方法は、微細な凹凸からなるマット状の粗面加工よりも安価で汎用性の高い方法である。
通常、筋目状の粗さは、方向性が生じるため文字抜けが発生する要素と発生しない要素との調整が困難であると従来は考えられていたが、本例のように、中間転写ベルトの走行方向に対して角度40°〜140°の範囲内に筋目の方向を角度設定することによって、文字抜けの無い安定性の高い良好な画像を得ることが出来る。また、クリーニング性も安定し且つ量産性の高い中間転写ベルトを提供することができる。
尚、上述した実施例2の中間転写ベルトにおいても、クリーニングブレードが使用可能な一般的なコンベンショナルトナーにおいて文字抜けの発生を防ぎ、均一性のある良好な一次転写画像を得ることができることが実験の結果判明している。
ところで、上述した実施例1及び実施例2においては、いずれも転写ローラがベルトを挟んで感光体ドラムに一定圧で接触する方式である(以下、この方式を直圧式と言う)。直圧式は、ローラの硬度と、ベルトとの接触を確保するための押圧とが、トナーにかかる圧を決定するが、実施例1及び実施例2においては、トナーにかかる圧を特に意識せずに文字抜けの良好な回避方法を確保することができた。
そこで、この実施例3では、上述した1次転写の際に発生する画像の劣化を考慮して、更に2次転写画像に対する画像劣化を回避する方法を見出そうとするものである。尚、以下の実験においては、1次転写方式として直圧式とシフト式の2方法を採用した。
図11(a) は直圧式の1次転写方式の構成を示す図であり、図11(b) はシフト式の1次転写方式の構成を示す図である。図11(a) の直圧式の構成は図1ないし図3に示した通りのものであり、ニップ幅aが狭く且つ転写圧bが大きい。
これに対して図11(b) に示すシフト式の構成は、ニップ幅cが広く且つ転写圧dが小さい。なお、図11(b) の感光体ドラム7の下面と一次転写ローラ18の上面との段差eは、転写効率等を他の面から調べる際の或る種の計算式の「巻き付け量」と呼ばれる係数を構成する値である。
また、同じく図11(b) に示す感光体ドラム7の下面と一次転写ローラ18の上面との位置ずれ(シフト)量fも、同様の計算式中の係数となるものである。また、この位置関係がシフトしている形態から、この構成が「シフト式」と呼ばれている理由である。
図12(a),(b),(c) は、本例における実験において用いられた表面粗さの異なる3種類の中間転写ベルトを示す図である。尚、同図(a),(b),(c) は、その表面粗さを、レーザー顕微鏡で測定した状態を示す図である。
また、図12(b) の矢印はベルトの表面粗さの筋目に対して45度をなす方向を示している。ここで、図12(a) に示す表面の粗さが最も小さな中間転写ベルトを以下「ベルトD」とし、図12(b) に示す次に表面の粗さが大きい中間転写ベルトを以下「ベルトE」とし、図12(c) に示す最も表面の粗さが大きい中間転写ベルトを以下「ベルトF」とする。
図13(a) は、表面粗さを表す値Ra、Ry、Rz、及びRMSに対する上記3種類のベルトD、E及びFの測定値を示す図表、図13(b) は直圧式による一次転写の文字抜けの程度を評価した結果を示す図、図13(c) はシフト式による一次転写の文字抜けの程度を評価した結果を示す図である。
ここで、文字抜けの程度を評価する場合のパラメータを、感光体ドラムの周面線速度と中間転写ベルトの移動速度との差(±%)とし、その範囲を「−0.8%〜+0.8%」として、これを横軸にとった。そして、文字抜けの程度をそれぞれ目視により評価することとし、これを縦軸にとった。
図13(b) は上記の条件で直圧式による一次転写の転写状態に対する目視の評価結果をプロットしたグラフであり、図13(c) は上記の条件でシフト式による一次転写の転写状態に対する目視の評価結果をプロットしたグラフである。
図13(b) に示す結果からみると、直圧式においては、実施例1で示した中間転写ベルトの試作品で、文字抜けを発生させないためのベルト表面粗さ(Ra=0.08μm以上かつRz=0.8μm以上)として規定する条件に満たないベルトD及びEの文字抜けの程度は、感光体ドラムとの相対的な線速度差がどのような場合でも、実施例1の場合と同様に文字抜けが発生する傾向のあることがわかる。
そして、この直圧式では、ベルト表面粗さが「Ra=0.08μm以上かつRz=0.8μm以上」の条件を満たしているベルトFのみが、感光体ドラムとの相対的な線速度差が「−0.2〜0.0(%)」のときに、字抜けの無い良好な状態となることを示していることが分かる。
一方、シフト式においては、図13(c) に示す結果からみると、ベルトDが感光体ドラムとの相対的な線速度差がどのような場合でも文字抜けが発生する傾向のあることがわかる。
そして、このシフト式においては、ベルトE及びベルトFが共に、感光体ドラムとの相対的な線速度差が「−0.2〜0.0(%)」のときに、字抜けの無い良好な状態となることを示していることが分かる。
このような直圧式とシフト式とで文字抜けの傾向に差が出る要因を調べるべく、中間転写ベルトと感光体ドラム間のニップ圧を、直圧式のときとシフト式のときのそれぞれについて実測することにした。
図14は、直圧式のときとシフト式のときの中間転写ベルトと感光体ドラム間のニップ圧を実測した結果を示す図である。図14に示すように、直圧式のニップ圧は122gf/cm^2であり、シフト式のニップ圧は43gf/cm^2である。
図14に示す測定結果により、シフト式のニップ圧が、直圧式のニップ圧に比較して約3分の1ほどに低減していることが確認できる。一般にニップ圧を低減することによって文字抜けを回避できることは知られているが、それでも図12(a),(b),(c) 及び図13(a) に示した粗さ設定条件、図13(b),(c) に示した結果を考慮すると、表面粗さは一定以上の値が必要になっていることが確認できる。
図15は、直圧式とシフト式において、それぞれ被転写材を国内紙(XEROX社、P紙)と海外紙(ボイスカスケード、ボンド紙、16ポンド)とにより画像を形成し、そのベタ印字部分の評価の結果を示す図である。
図15に示すように、国内紙と海外紙では、直圧式におけるベタ印字画像においてベタ印字画像部分の転写性に著しい差が生じている。但し、このベタ印字部分の転写画像に違いが出るのは2次転写で発生した現象である。
その原因は、1次転写時の転写圧が原因している(図3(a),(b),(c) 及び図4(a),(b) 参照)。マット状の広い面積のトナー像を転写する場合でも、転写ニップ内においてトナー層の一部が凝集する傾向は文字抜けの場合と同様である。
しかし、文字画像と違いマット状の画像は全体のトナー層に圧が分散されることと、トナー層全体に引っ張られてベルト上に転写が行われることで、目視上の評価に大きな違いは見られない。
ところが、2度目の転写(2次転写)においては、表面性の悪い海外紙では中間転写ベルトとの密着性が著しく損なわれ、トナー層内の凝集した部分の転写が欠落する。そのため、表面性の良好な国内紙では問題なく転写されても、海外紙では紙の表面性に応じて転写抜けが発生する。
すなわち、ベルト表面粗さ自体が圧に対しても影響を及ぼすことから、ベルトの表面粗さと、転写時のニップ圧と、感光体ドラムとの相対的速度差というそれぞれ3つのパラメータを合致させることによってのみ良好な画像を得ることができるといえる。
尚、これら上記実験においては、平均粒径6μmの粉砕トナーを用いた。一般に粒径が均一でなく微粉を含む粉砕トナーの場合、凝集性が高く扱いにくい性質を持つが、このトナーにおいて上記設定を行うことによって用紙の状態に関わらず文字もベタ部分も安定した良好な画像を形成することが実現できた。
このように本発明の実施例1〜3によれば、粒径6μm以下の粉砕トナーを用いても文字抜けが無く、粗悪な紙においても安定した画像を形成することができ、常に良好な画像を形成する中間転写ベルトを備えた画像形成装置を提供することができる。
尚、上記実施例3における実験に際しては、1次転写方式の他の方式の参考として、シート式についても実験をしている。そして、シート式については、シフト式と同等以上の良い結果が得られている。しかし、シート式については実用化の例が近年では殆ど見られなくなったため実験の経過およびその結果の図示及び説明は省略している。