初めに、実施例1に係る燃料噴射弁100の構成について説明する。図1は燃料噴射弁100を例示する断面図である。なお、図1は閉弁状態を図示している。
図1に示すように、燃料噴射弁100はEDU4を介してECU(Engine Control Unit)2と接続されている。燃料噴射弁100は、ノズルボディ8、ニードル10、ピエゾスタック12(アクチュエータ)、及び可動ストッパ46を備えている。
ノズルボディ8には、基端側から先端側に向けて順に、アクチュエータ室14、第1ピストン室16、油密室18、第2ピストン室20、バルブ室22、第3ピストン室23、第1リターン室24、制御室26、第2リターン室28、及び燃料溜り室30が設けられている。ノズルボディ8の先端部に設けられた燃料溜り室30には、噴孔6が形成されている。第3ピストン室23、制御室26及び燃料溜り室30に高圧燃料通路34(燃料通路)が接続され、燃料が導入されている。実施例1では、高圧燃料通路34及びリターン通路36は、ノズルボディ8内に形成されている。アクチュエータ室14、第1ピストン室16、第2ピストン室20、第1リターン室24及び第2リターン室28にリターン通路36が接続されている。バルブ室22と制御室26とは燃料通路21により接続されている。第1ピストン室16にはバネ16a、油密室18にはバネ18a、第1リターン室24にはバネ24a、第2リターン室28にはバネ28a及び28bが、各々設けられている。
アクチュエータ室14にはピエゾスタック12が配置されている。ピエゾスタック12の先端側に接続された第1ピストン38は第1ピストン室16に配置されている。第2ピストン室20には第2ピストン40が配置されている。第2ピストン40の先端側に接続されたバルブ42はバルブ室22に配置され、バルブ42の先端に接続された第3ピストン44は第3ピストン室23に配置されている。図1の状態においては、バルブ42がバルブ室22と第2ピストン室20との接続を遮断している。
ニードル10はノズルボディ8内に摺動自在に配置されている。ニードル10の先端部はテーパ形状となっている。ニードル10の基端部には鍔部10bが形成されている。また、ニードル10の先端部と基端部との間、すなわち中央部には鍔部10cが形成されている。ニードル10の先端部は燃料溜り室30に、基端側の鍔部10bは制御室26に、中央部の鍔部10cは第2リターン室28と燃料溜り室30とに、各々配置されている。
ニードル10の先端部はテーパ形状となっているため、燃料溜り室30内の燃料から、ニードル10をノズルボディ8の基端側に付勢する圧力を受ける。すなわち、燃料溜り室30にはニードル10をノズルボディ8の基端側に付勢する圧力を創出する燃料が導入される。ニードル10の基端側の面11は、制御室26内の燃料からニードル10をノズルボディ8の先端側に付勢する圧力を受ける。鍔部10cの基端側の面13は第2リターン室28に設けられたバネ28bから、ニードル10をノズルボディ8の先端側に付勢する力を受ける。つまり、ニードル10は、制御室26内の燃料及びバネ28bから閉弁方向の力を受け、燃料溜り室30内の燃料から開弁方向の力を受ける。
図1の状態では、閉弁方向の力(制御室26内の圧力に起因する力、及びバネ28bから加わる力)が開弁方向の力(燃料溜り室30内の圧力に起因する力)を上回っているため、ニードル10先端部のシート部10aはノズルボディ8の内壁に着座している。このため、噴孔6への燃料の供給が遮断される。すなわち、燃料噴射弁100は閉弁している。
可動ストッパ46はノズルボディ8内に位置している。また、可動ストッパ46の基端部は制御室26に位置している。可動ストッパ46はニードル10及びノズルボディ8に対して摺動自在である。すなわち、可動ストッパ46は、ニードル10の摺動方向に摺動自在に配置されている。可動ストッパ46の基端部には係止部46a、先端部には突出部46bが各々設けられている。可動ストッパ46は制御室26内の燃料から、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する圧力を受ける。すなわち、制御室26にはニードル10及び可動ストッパ46を先端側に付勢する圧力を創出する燃料が導入される。また、可動ストッパ46は第2リターン室28に設けられたバネ28aから、可動ストッパ46をノズルボディ8の基端側に付勢する力を受ける。すなわち、バネ28aは、可動ストッパ46をノズルボディ8の基端側に付勢する第1付勢手段として機能する。
次に、燃料噴射弁100の動作について説明する。ECU2が燃料噴射弁100を開弁する命令を発信すると、命令を受信したEDU4がピエゾスタック12に電圧を印加する。電圧を印加されたピエゾスタック12は、ノズルボディ8の先端側に伸長する。ピエゾスタック12が伸長すると、第1ピストン38はノズルボディ8の先端側に移動する。第1ピストン38の移動により、油密室18内の燃料の圧力が昇圧する。第2ピストン40は、油密室18内の燃料の圧力を受け、ノズルボディ8の先端側に移動する。さらに、第2ピストン40の先端側に接続されたバルブ42、及びバルブ42の先端側に接続された第3ピストン44が、ノズルボディ8の先端側に移動する。
バルブ42が移動すると、バルブ室22と第2ピストン室20とが接続される。さらに、バルブ室22とリターン通路36とが、第2ピストン室20を介して接続される。第2ピストン室には、燃料通路21を介して制御室26が接続されている。従って、バルブ42の移動に応じて、制御室26は、燃料通路21、バルブ室22及び第2ピストン室20を介して、リターン通路36に接続される。このとき、制御室26内の燃料がリターン通路36に流出するため、制御室26内の燃料の圧力(以下「制御室圧」)は低減する。つまり、バルブ室22及びバルブ42は、ピエゾスタック12の動作に応じて、制御室圧を低減する圧力低減手段として機能する。また、ピエゾスタック12は、圧力低減手段、すなわちバルブ室22及びバルブ42を作動させる。
制御室圧が低減すると、ニードル10に加わる閉弁方向の力が低減する。ニードル10に加わる開弁方向の力が、閉弁方向の力を上回ると、ニードル10はノズルボディ8の基端側にリフトする。つまり、ニードル10のシート部10aがノズルボディ8の内壁から離座する。このとき、燃料溜り室30内の燃料が噴孔6に供給され、噴孔6から噴射される。すなわち、燃料噴射弁100が開弁する。
次に、高圧燃料通路34内の燃料の圧力(レール圧)が所定の圧力より高い場合、及び低い場合、それぞれにおける燃料噴射弁100の動作について、さらに詳しく説明する。
まず、レール圧力が所定の圧力より高い場合について説明する。図2(a)から図2(f)は、燃料噴射弁100の動作を例示するタイムチャートである。
図2の横軸は時間を表す。縦軸は図2(a)から図2(f)の順に、ピエゾスタック12に印加される電圧、制御室圧に起因する力、バネ28aの力(バネ力)、可動ストッパ46に加わる力(ストッパ作用力)、可動ストッパのリフト量(可動ストッパリフト)、及びニードル10のリフト量(ニードルリフト)を表す。可動ストッパ46に加わる力、及びリフト量は、ノズルボディ8の基端側の方向を正として表す。
また、図3(a)から図4は燃料噴射弁100の動作を例示する断面図である。図3(a)から図4では、図1におけるニードル10、可動ストッパ46及びその周辺を拡大して図示している。図3(a)は図2中の時間0からt2、図3(b)は時間t3からt4、図4は時間t4からt5の各々における燃料噴射弁100を例示する断面図である。既述した構成と同様の構成については、説明を省略する。
図2(d)に示すように、時間0からt1、すなわちピエゾスタック12への電圧印加前は、制御室圧に起因する力はバネ力よりも高い。つまり、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する力が、基端側に付勢する力を上回っている。このとき、可動ストッパ46に加わるストッパ作用力は負、すなわち可動ストッパ46を先端側に付勢する力となる。
従って、図3(a)及び図2(e)に示すように、可動ストッパ46のリフト量はゼロであり、突出部46bがノズルボディ8の内壁に着座する。実施例1においては、このときの可動ストッパ46の位置を「第1の位置」とする。
また同様に、ニードル10をノズルボディの先端側に付勢する力が、基端側に付製する力を上回っている。言い換えれば、閉弁方向の力が開弁方向の力を上回っている。このため、図2(f)に示すように、ニードル10のリフト量もゼロとなる。すなわち、ニードル10のシート部10aが燃料溜り室30の内壁に着座している。言い換えれば、燃料噴射弁100は閉弁している。このとき、図3(a)に示すように、ニードル10の基端側の面11と、可動ストッパ46に設けられた係止部46aの下面との間の距離D1である。また、可動ストッパ46の基端側の面47とノズルボディ8の内壁との間の距離はD2である。
図2(a)及び図2(b)に示すように、時間t1においてピエゾスタック12への電圧の印加を開始すると、図1で説明した機構により制御室圧が低下し、制御室圧に起因する力も低下する。図2(f)に示すように、時間t2において、ニードル10はリフトを開始し、燃料噴射弁100が開弁する。つまり、制御室圧が、燃料噴射弁100が開弁し始める圧力である開弁圧に達する。
図3(b)及び図2(f)に示すように、時間t3において、ニードル10はノズルボディ8の基端側に距離D1だけリフトし、可動ストッパ46に接触する。より詳細には、基端側の面11が可動ストッパ46の係止部46aに接触する。言い換えれば、可動ストッパ46はニードル10のリフトを第1の位置において規制する。時間t3後も制御室圧は低下し続けるが、可動ストッパ46に加わるストッパ作用力は負であるため、可動ストッパ46はリフトせず、ニードル10は可動ストッパ46により規制される。
図2(d)に示すように、時間t4において、ストッパ作用力はゼロ、すなわち可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する力と、基端側に付勢する力とが均衡する。このとき、図2(e)に示すように、可動ストッパ46はリフトを開始する。また、ニードル10と可動ストッパ46とは一体となりリフトする。すなわち、図1に示したピエゾスタック12(アクチュエータ)、バネ28a(第1付勢手段)、バルブ室22及びバルブ42(圧力低減手段)は、可動ストッパ46を移動させる移動手段として機能する。
図4及び図2(e)に示すように、時間t5において可動ストッパ46はニードル10とともに基端側に距離D2だけリフトし、ノズルボディ8の内壁に接触する。より具体的には、可動ストッパ46の基端側の面47が制御室26の内壁に着座する。このときの可動ストッパ46の位置を「第2の位置」とする。このとき、ニードル10は図3(a)の状態からD1+D2だけ、リフトしている。つまり、可動ストッパ46は、第1の位置よりノズルボディ8の基端側の位置である第2の位置において、ニードル10のリフトを規制する。このように、可動ストッパ46は、移動手段の動作に応じて、第1の位置と第2の位置との間で摺動する。言い換えれば、可動ストッパ46は、ピエゾスタック12の動作に応じて、第1の位置と第2の位置との間で摺動する。
図2(a)及び図2(b)に示すように、時間t6において、ピエゾスタック12への電圧の印加を停止すると、制御室圧は上昇し始め、制御室圧に起因する力も上昇を開始する。言い換えれば、図2(d)に示すように、ノズルボディ8の基端側の方向を正としたストッパ作用力が低下し始める。
図2(d)に示すように、時間t7において、ストッパ作用力はゼロとなる。このとき、図2(e)及び図2(f)に示すように、ニードル10と可動ストッパ46とは一体となり、ノズルボディ8の先端側へ移動する。
図2(e)及び図2(f)に示すように、時間t8において、ニードル10及び可動ストッパ46は第1の位置まで戻る。すなわち、可動ストッパ46の突出部46bがノズルボディ8の内壁に着座し、図3(b)の状態となる。さらに時間t9において、ニードル10は可動ストッパ46と分離して、ノズルボディ8の先端側へ移動し続ける。
時間t10において、ニードル10のリフト量はゼロとなる。すなわち、図3(a)の状態となり、シート部10aが燃料溜り室30の内壁に着座し、燃料噴射弁100は閉弁する。
次に、レール圧が所定の圧力より低い場合について説明する。図5(a)から図5(f)は、燃料噴射弁100の動作を例示するタイムチャートである。図5(a)から図5(f)の縦軸及び横軸は、図2(a)から図2(f)の縦軸及び横軸と同じパラメータを表す。また、図6は燃料噴射弁100の動作を例示する断面図である。
図5(d)に示すように、時間に関らず、ストッパ作用力は常に正である。すなわち、図5(c)に示すバネ力が、図5(b)に示す制御室圧に起因する力よりも大きい。言い換えれば、可動ストッパ46を基端側に付勢する力が、先端側に付勢する力を上回っている。
図6及び図5(e)に示すように、時間に関らず、可動ストッパ46はD2だけリフトした、第2の位置にある。すなわち、ニードル10の面11と可動ストッパ46の係止部46aとの距離はD1+D2となる。
図5(a)、図5(b)及び図5(d)に示すように、時間t11においてピエゾスタック12への電圧の印加を開始すると、制御室圧に起因する力が低下し、ストッパ作用力が上昇する。
図5(f)に示すように、時間t12においてニードル10はリフトを開始する。つまり制御室圧が開弁圧に達し、燃料噴射弁100が開弁する。可動ストッパ46はリフトし、第2の位置にある。従って、図3(b)に示したように第1の位置で規制されることなく、ニードル10はリフトする。
時間t13において、ニードル10はD1+D2の距離をリフトし、可動ストッパ46に接触する。言い換えれば、可動ストッパ46はニードル10を第2の位置において規制する。
図5(a)、図5(b)及び図5(d)に示すように、時間t14において、ピエゾスタック12への電圧の印加を停止すると、制御室圧は上昇し始め、ストッパ作用力も低下を始める。
図5(f)に示すように、時間t15において、ニードル10は基端側に移動し始める。時間t16において、ニードル10のリフト量はゼロとなる。つまり、シート部10aが燃料溜り室30の内壁に着座し、燃料噴射弁100は閉弁する。
実施例1によれば、レール圧が所定の圧力より高い場合、可動ストッパ46は、第1の位置においてニードル10のリフトを規制する。また、レール圧が所定の圧力より低い場合、可動ストッパ46は、ニードル10のリフトを第1の位置より基端側の位置である第2の位置において規制し、第1の位置においては規制しない。規制位置による、噴霧のペネトレーションの変化について説明する。図7はペネトレーションを例示する図である。縦軸はペネトレーション、横軸は時間を各々表す。また、実線はニードル10のリフトが第1の位置において規制されている場合、点線は第2の位置において規制されている場合を表す。
図7に示すように、時間とともにペネトレーションは増大する。また、ニードル10のリフトが第1の位置において規制されている場合、第2の位置において規制されている場合よりも、ペネトレーションが低下する。この原因について、図3(b)及び図6を参照して説明する。
図6のようにニードル10のリフトが第2の位置において規制されている場合、燃料噴射弁100が噴射する燃料の噴射率は、可動ストッパ46が設けられていない場合と同等の噴射率となる。これに対し、図3(b)のようにニードル10のリフトが第1の位置において規制されている場合、ニードル10とノズルボディ8の内壁との間の距離が、ニードル10のリフトが第2の位置において規制されている場合よりも小さくなる。これにより燃料が噴孔6へ供給されにくくなる。従って、ニードル10のリフトが第1の位置において規制されている場合の燃料噴射弁100の噴射率は、ニードル10のリフトが第2の位置において規制されている場合の噴射率よりも低くなる。このため、図7に示すように、ニードル10のリフトが第1の位置において規制されている場合のペネトレーションは、ニードル10のリフトが第2の位置において規制されている場合のペネトレーションよりも低くなる。
実施例1によれば、高レール圧の状態では、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル10のリフトを規制することで、燃料噴射弁100の噴射率を低くすることができる。このことにより、燃料噴射量を減少させることなく、噴霧のペネトレーションを抑制することが可能となる。言い換えれば、燃料噴射量を増加させても、ペネトレーションの増大を抑制できる。
その一方で、低レール圧の状態では、可動ストッパ46がニードル10のリフトを第1の位置では規制せず、第2の位置において規制する。このため、可動ストッパ46が設けられていない場合と同等の噴射率を得ることができる。
図1に示すように、ニードル10と可動ストッパ46とには、ともに制御室26内の燃料から圧力が加わり、かつピエゾスタック12の動作に応じて作動する圧力低減手段により、制御室圧が低減する。つまり、ピエゾスタックの動作による圧力の変動が、ニードルと可動ストッパとで同じ経路により伝達される。このため、実施例1によれば、ニードルと可動ストッパとで、圧力の変動が異なる経路により伝達される特許文献1の技術より、燃料噴射弁の構成が簡単となる。
バネ28aを、レール圧が高い場合、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル10のリフトを規制し、レール圧が低い場合、第2の位置においてニードル10のリフトを規制するように調節することができる。これにより、従来の技術よりも簡単な構成で、ニードルのリフトを規制することができる。
実施例1に係る燃料噴射弁100が効果を発揮する例として、ポスト噴射について説明する。燃料の燃焼による排出ガスを通すフィルターを昇温させる触媒に燃料を供給するため、ポスト噴射が行われることがある。燃料噴射量が増加すると、効率的に触媒の昇温が可能となり、ポスト噴射の効果をより向上させることができる。しかし、従来は、燃料噴射量を増加させると、ペネトレーションも増大し、ボアフラッシング等の問題が生じていた。特に高レール圧では、ペネトレーションも増大しやすい。実施例1によれば、高レール圧の状態において、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル10のリフトを規制するため、ペネトレーションの増大を抑制し、かつ燃料噴射量を増加させることができる。このため、ペネトレーションの増大を抑制し、かつポスト噴射をより効果的に行うことができる。
バネ28aを調節することにより、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル10のリフトを規制するレール圧を、任意の圧力に設定することができる。すなわち「所定の圧力」を、任意の圧力に設定することができる。
次に実施例2について説明する。図8は実施例2に係る燃料噴射弁200を例示する断面図である。なお、図8は閉弁状態を図示しており、既述した構成と同様の構成については説明を省略する。
図8に示すように、燃料噴射弁200は、ノズルボディ8、ニードル50、ピエゾスタック12、可動ストッパ46及びストッパ48を備えている。ノズルボディ8に設けられた制御室26、及び燃料溜り室30には、バネ26a及びバネ30aが各々設けられている。
ニードル50はノズルボディ8内に摺動自在に配置されている。ニードル50には、基端側から順に、第1円柱部50b、第2円柱部50c、第3円柱部50d、及び鍔部50eが形成されている。第1円柱部50b、第2円柱部50c、第3円柱部50dの順に、円柱部の径は大きくなる。第1円柱部50bは制御室26に配置されている。
ニードル50の先端部はテーパ状となっているため、燃料溜り室30内の燃料から、ニードル50をノズルボディ8の基端側に付勢する圧力を受ける。ニードル50の基端側の面51は、制御室26内の燃料からニードル50をノズルボディ8の先端側に付勢する圧力を受ける。鍔部50eの基端側の面52は燃料溜り室30に設けられたバネ30aから、ニードル50をノズルボディ8の先端側に付勢する力を受ける。つまり、ニードル50は、制御室26内の燃料及びバネ30aから閉弁方向の力を受け、燃料溜り室30内の燃料から開弁方向の力を受ける。
図8の状態では、閉弁方向の力(制御室26内の圧力に起因する力、及びバネ30aから加わる力)が開弁方向の力(燃料溜り室30内の圧力に起因する力)を上回っているため、ニードル50先端部のシート部50aはノズルボディ8の内壁に着座している。このため、噴孔6への燃料の供給が遮断される。すなわち、燃料噴射弁200は閉弁している。
可動ストッパ46及びストッパ48は、ノズルボディ8内の燃料溜り室30に配置されている。可動ストッパ46はニードル50及びストッパ48に対して摺動自在である。すなわち、可動ストッパ46は、ニードル50の摺動方向に摺動自在に配置されている。可動ストッパ46には係止部46aが、ニードル50の第2円柱部50cよりもノズルボディ8の基端側に位置するように設けられている。また、ストッパ48には、可動ストッパ46よりも、ノズルボディ8の先端側に位置するように係止部48aが設けられている。可動ストッパ46は、制御室26内の燃料から、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する圧力を受ける。また、可動ストッパ46は、燃料溜り室30内の燃料から、可動ストッパ46をノズルボディ8の基端側に付勢する力を受ける。さらに、可動ストッパ46は、制御室26内に設けられたバネ26aから、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する力を受ける。すなわち、バネ26aは、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する第2付勢手段として機能する。
燃料噴射弁200の動作の原理については、既述した燃料噴射弁100と同様なので、説明を省略する。
次に、高圧燃料通路34内の燃料の圧力(レール圧)が所定の圧力より高い場合、及び低い場合、それぞれの場合における燃料噴射弁200の動作について説明する。
まず、レール圧力が所定の圧力より低い場合について説明する。図9(a)から図9(g)は、燃料噴射弁200の動作を例示するタイムチャートである。縦軸は図9(a)から図9(g)の順に、ピエゾスタック12に印加される電圧、制御室圧に起因する力、バネ26aの力(バネ力)、レール圧に起因する力、可動ストッパ46に加わる力(ストッパ作用力)、可動ストッパ46のリフト量、及びニードル50のリフト量を表す。図9(c)及び図9(d)に示すように、レール圧に起因する力はバネ力よりも大きい。
また、図10(a)から図11は燃料噴射弁200の動作を例示する断面図である。図10(a)は図9中の時間0からT2、図10(b)は時間T3からT4、図11は時間T4からT5の各々の状態における燃料噴射弁200を例示する断面図である。
図10(a)及び図9(e)に示すように、ピエゾスタック12への電圧印加前は、制御室圧に起因する力とバネ26aによる力(バネ力)との合力は、燃料溜り室30内の燃料の圧力(燃料溜り室圧)に起因する力より大きい。つまり、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する力が、基端側に付勢する力を上回っている。このとき、図9(f)に示すように、可動ストッパ46のリフト量はゼロとなる。すなわち、可動ストッパ46がストッパ48の係止部48aに着座している。実施例2では、このときの可動ストッパ46の位置を「第1の位置」とする。言い換えれば、ストッパ48は、第1の位置において可動ストッパ46を規制する。
また同様に、ニードル50をノズルボディ8の先端側に付勢する力が、基端側に付製する力を上回っている。このため、図10(g)に示すように、ニードル50のリフト量もゼロとなる。すなわち、ニードル50のシート部50aが燃料溜り室30の内壁に着座している。言い換えれば、燃料噴射弁200は閉弁している。このとき、図10(a)に示すように、第2円柱部50cの基端側の面53と、可動ストッパ46に設けられた係止部46aの下面との間の距離はD1である。また、可動ストッパ46の基端側の面47とノズルボディ8の内壁との間の距離はD2である。
図9(a)及び図9(b)に示すように、時間T1においてピエゾスタック12への電圧の印加を開始すると、制御室圧が低下し、制御室圧に起因する力も低下する。図9(g)に示すように、時間T2においてニードル50はリフトを開始し、燃料噴射弁200は開弁する。つまり、制御室圧が開弁圧に達する。
図10(b)及び図9(g)に示すように、時間T3において、ニードル50は、ノズルボディ8の基端側に距離D1だけリフトし、可動ストッパ46に接触する。より詳細には、第2円柱部50cの基端側の面53が、可動ストッパ46の係止部46aに接触する。言い換えれば、可動ストッパ46はニードル50のリフトを第1の位置において規制する。時間T2後も制御室圧は低下し続けるが、可動ストッパ46に加わるストッパ作用力は負であるため、可動ストッパ46はリフトせず、ニードル50のリフトは可動ストッパ46により規制される。
図9(e)に示すように、時間T4において、ストッパ作用力はゼロとなる。つまり、図9(f)に示すように、可動ストッパ46はリフトを開始する。このとき、ニードル50と可動ストッパ46とは一体となりリフトする。すなわち、図8に示したピエゾスタック12(アクチュエータ)、バネ26a(第2付勢手段)、バルブ室22及びバルブ42(圧力低減手段)は、可動ストッパ46を移動させる移動手段として機能する。
図11及び図9(f)に示すように、時間T5において、可動ストッパ46はニードル50とともに基端側に距離D2だけリフトし、ノズルボディ8の内壁に接触する。つまり、可動ストッパ46の基端側の面47が制御室26の内壁に着座する。つまり、可動ストッパ46は、第1の位置よりノズルボディ8の基端側の位置である第2の位置において、ニードル10のリフトを規制する。このように、可動ストッパ46は、移動手段の動作に応じて、第1の位置と第2の位置との間で摺動する。言い換えれば、可動ストッパ46は、ピエゾスタック12の動作に応じて、第1の位置と第2の位置との間で摺動する。
図9(a)及び図9(b)に示すように、時間T6において、ピエゾスタック12への電圧の印加を停止すると、制御室圧は上昇し始め、制御室圧に起因する力も上昇を開始する。このとき、図9(e)に示すように、基端側の方向を正としたストッパ作用力が低下し始める。
図9(e)に示すように、時間T7においてストッパ作用力はゼロとなる。このとき、ニードル50と可動ストッパ46とは一体となり、ノズルボディ8の先端側へ移動する。
図9(f)及び図9(g)に示すように、時間T8において、ニードル50及び可動ストッパ46は第1の位置まで戻る。つまり、図10(b)の状態となる。さらに制御室圧に起因する力は上昇し、時間T9において、可動ストッパ46はストッパ48の係止部48aに着座する。ニードル50は可動ストッパ46と分離して、ノズルボディ8の先端側へ移動し続ける。
時間T10において、ニードル50のリフト量はゼロとなる。すなわち、図10(a)の状態となり、ニードル50のリフト量はゼロとなる。つまり、シート部50aが燃料溜り室30の内壁に着座し、燃料噴射弁200は閉弁する。
次に、レール圧が所定の圧力より高い場合について説明する。図12(a)から図12(f)は、燃料噴射弁200の動作を例示するタイムチャートである。図12(a)から図12(f)の縦軸及び横軸は、図9(a)から図9(f)の縦軸及び横軸と同じパラメータを表す。また、図13は燃料噴射弁200の動作を例示する断面図である。
図12(e)に示すように、ストッパ作用力は負である。すなわち可動ストッパ46を先端側に付勢する力が、可動ストッパ46を基端側に付勢する力を上回っているため、図12(f)に示すように、可動ストッパ46のリフト量はゼロとなる。つまり、可動ストッパ46は、ストッパ48の係止部48aに接触する第1の位置にある。これは、図10(a)に示したものと同じ状態である。
図12(a)及び図12(b)に示すように、時間T11においてピエゾスタック12への電圧の印加を開始すると、制御室圧に起因する力が低下し始める。
図12(e)に示すように、時間T12において、ストッパ作用力は正となる。このため、図12(f)に示すように、時間T12において可動ストッパ46がリフトし始める。このとき、図12(g)に示すように、ニードル50はリフトしていない。すなわち、レール圧が所定の圧力より高い場合、可動ストッパ46はニードル50よりも先にリフトを開始する。レール圧が高い場合、可動ストッパ46をノズルボディ8の先端側に付勢する燃料溜り室圧も高くなる。このため、制御室圧がわずかに低下しただけで、可動ストッパ46を基端側に付勢する力が先端側に付勢する力を上回ることによる。
図12(g)に示すように、時間T13において、ニードル50もリフトを開始する。
図13及び図12(f)に示すように、時間T14において、可動ストッパ46は、距離D1+D2だけリフトし、第2で停止する。すなわち、可動ストッパ46の基端側の面47が制御室26の内壁に着座する。このように、可動ストッパ46はニードル50より先に第2の位置までリフトする。
図12(g)に示すように、時間T15において、ニードル50はD1+D2だけリフトし、可動ストッパ46に接触する。つまり、第2円柱部50cの基端側の面53が、可動ストッパ46の係止部46aに接触する。言い換えれば、可動ストッパ46は第2の位置においてニードル50のリフトを規制する。
図12(a)及び図12(b)に示すように、時間T16においてピエゾスタック12への電圧印加を停止すると、制御室圧は上昇し始める。すなわち、図12(e)に示すように、ストッパ作用力は低下し始める。
図12(f)及び図12(g)に示すように、時間T17において、ニードル50は可動ストッパ46と分離して、ノズルボディ8の先端側に移動し始める。図12(g)に示すように、時間T18において、ニードル50のリフト量はゼロとなる。つまり、燃料噴射弁200は閉弁する。
図12(e)に示すように、時間T19において、ストッパ作用力は負になる。このため、図12(f)に示すように、可動ストッパ46はノズルボディ8の先端側に移動し始める。
図12(f)に示すように、時間T20において、可動ストッパ46にリフト量はゼロとなる。つまり、可動ストッパ46がストッパ48の係止部48aに着座する。
実施例2によれば、レール圧が所定の圧力より低い場合、可動ストッパ46は、ニードル50のリフトを第1の位置において規制する。また、レール圧が所定の圧力より高い場合、可動ストッパ46は、ニードル50のリフトを第1の位置より基端側の位置である第2の位置において規制し、第1の位置においては規制しない。
このため、実施例2によれば、低レール圧の状態では、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル50のリフトを規制することで、燃料噴射弁200の噴射率を低くすることができる。このため、実施例1と同様に、燃料噴射量を減少させることなく、噴霧のペネトレーションを抑制することが可能となる(図7参照)。
その一方で、高レール圧の状態では、可動ストッパ46がニードル50のリフトを第1の位置では規制せず、第2の位置において規制する。このため、可動ストッパ46が設けられていない場合と同様の噴射率を得ることができる。
図8に示すように、ニードル50と可動ストッパ46とには、ともに制御室26内の燃料、及び燃料溜り室30内の燃料から圧力が加わる。また、ピエゾスタック12の動作に応じて作動する圧力低減手段により、制御室圧が低減する。ここで、バネ26aを、レール圧が低い場合、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル50のリフトを規制し、レール圧が高い場合、第2の位置においてニードル50のリフトを規制するように調節することができる。これにより、実施例2によっても実施例1と同様に、従来の技術より簡単な構成で、ニードルのリフトを規制することができる。
実施例2に係る燃料噴射弁200が効果を発揮する例として、小ボアエンジンや冷間軽負荷状態について説明する。小ボアエンジンや高地低水温等の冷間軽負荷の状態では、燃料の壁面付着によるHC(炭化水素)増大や燃焼不安定等の問題が生じることがある。これらは、特に低レール圧時に問題となる。燃料の壁面付着を抑制し、燃焼を安定化するためには、低ペネトレーションが要求される。実施例2によれば、低レール圧において低ペネトレーションが実現できる。従って、小ボアエンジンや高知低水温等の冷間軽負荷の状態においても、燃料の壁面付着によるHC(炭化水素)増大や燃焼不安定等の問題が生じることを抑制できる。
バネ26aを調節することにより、可動ストッパ46が第1の位置においてニードル50のリフトを規制するレール圧を、任意の圧力に設定することができる。すなわち「所定の圧力」を、任意の圧力に設定することができる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。